April 07, 2018

糖質制限」という言葉、近年本当によく聞く言葉のひとつだ。

要するに、肥満とか現代病の主な原因は「糖質」にあるので、可能な範囲で止めよう、ということらしい。
この話の真偽を論じること自体は、このブログの主旨ではないので置いておく。ブログ主が「共感できない。アホか」と感じるのは、この手の話によく出てくる「人間とチンパンジーの遺伝子は99%同じ。だからチンパンジーの健康な食生活を真似ましょう」とかいう「奇怪なロジック」と、そこから導きだされる健康法だ。(以下、「人間とチンパンジーの遺伝子は99%同じ」という説を、「99%共通説」と略す)



まず最初に、以下の例文を読んでもらおう。
人間とチンパンジーのDNAは99%一致するというのは本当なのか? - GIGAZINE
記事によると、「99%共通説」は、人間のゲノム25%とチンパンジーのゲノム18%の間に存在する「DNAの大きな違い」を故意に無視し、残りのDNA、つまり「似ていると最初からわかっているDNA」だけ比較して出された「まやかしの数字」であるといい、(この話が本当なら)「99%共通説」そのものが眉唾なデタラメということらしい。


次に、以下のサイトを読んでもらおう。
遺伝子の99%が同じでも、人間とチンパンジーの消化器官の構造は違う
長い話を簡単にまとめると、「消化器官の構造が、人間とチンパンジーとで大きく異なる」ということだ。
もう少し詳しく書くと、草食中心で生きていく動物には、食物を長い時間腸内にとどめておくための「長くて大きい腸」、または「体内で発酵を行う器官」が必要になる。
チンパンジーは消化器官の「50%程度」が大腸で、草食に適している。だが人間の大腸は消化器官の「20%程度」にすぎず、構造として「草食動物とライオンのような肉食動物の中間」あたりにあたる。つまり人間の消化器官は、チンパンジーよりはるかに「肉食寄り」にできているのである。


次に、「脳の進化と食物の関係性」に触れてみる。
脳の栄養 〜ブドウ糖(砂糖)とトリプトファンを中心として〜|農畜産業振興機構
簡単にまとめると、脳の発達度合いは、人間とチンパンジーとで大きく異なっていて、チンパンジーの脳は約400グラムで、摂取カロリーの10%しか消費しないが、人間の脳は約1250グラムで、チンパンジーの3倍の重さであり、摂取カロリーの約25%、酸素とブドウ糖の摂取量の約24%を消費している。
脳はブドウ糖など多くのエネルギーを必要とする臓器であるが、ことに脳が巨大に進化したホモ・サピエンスの場合には、「大食漢な臓器」である脳を健全な状態に維持するためには、それ相応の量の、カロリー、酸素、ブドウ糖が必要不可欠なのである。


3つの話を勝手にまとめてみる。
草食動物は、食物である草の分解に長時間をかけるため、消化器官が独特の構造をしている。ホモ・サピエンスの消化器官の場合は、「草食動物よりずっと短時間で食物を分解する構造」になっており、「草食・肉食の併用に向いた形態」といえる。
また、人類の脳はチンパンジーよりはるかに巨大であり、常に「一定量のカロリーとブドウ糖」を必要としている。
トータルにいえば、人類とチンパンジーとは、異なる進化経験してきたために、身体の構造や生活習慣に異なった部分が数多くある。人間とチンパンジーは「食生活も異なるのが自然だ」といえる。


人類は進化の過程で、消化器官の変化や脳の巨大化など、身体の変化を経験してきたが、それにともなって「草食から狩猟への移行」によって「食生活を変化させること」を選択したようだ。
ホモ・サピエンス独特の身体のしくみである「脳」が、食生活によって摂取するエネルギーやブドウ糖のかなりのパーセンテージを消費する「大食漢」であることを考えると、この「草食から狩猟への移行」には合理性がある。
つまり、人間の暮らしにおいて「脳の発達による巨大化と、食生活が草食から遠ざかる方向に進んだことは、平行して起きた」のである。



さらに話をすすめる。

ジャレ・ド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』でも触れられているが、人類は、数十万前とか数百万年前に「草食から狩猟への移行」を経験したあと、1万数千年だか前に、こんどはさらに「農耕生活への移行」を経験した。

脳と穀物栽培のどちらが卵でどちらがニワトリかといえば、人間の脳の発達は1万年前どころではなく、何十万年、何百万年とかいう話だから、「穀物を食べるようになったから、脳が発達した」のではない。
むしろ、「巨大な脳が要求する多大なエネルギー需要を満たすためもあって、人類は必死に狩りに明け暮れる暮らしをおくっていたが、あるとき、農耕という『安楽なエネルギー獲得方法』を発見し、そちらに移行した」と考えるほうが、理にかなっている。

皮肉なことに、この「狩猟から農耕への移行」によって、人類の脳は「人間の進化史上、初めて縮小を経験した」ようだ。というのも、「2万数千年前まで存在したネアンデルタール人の脳容量は、現代人より10%程度大きい」ようなのだ。
と、いうことは、農耕への移行で穀物を豊富に食べられるようになって、人間は、縮小ではないにしても、少なくとも「脳をもっともっと巨大化させるという進化を選択しなくなった」ということになる。(今ではスマホやコンピューターの出現で、もっと「縮小」するかもしれない 笑)


おおまかにまとめると、以下のようになる。
・人間の食生活は、草食寄りのチンパンジーと違って、「草食と肉食の中間形態」にあって、草食だけで生きていけるようにはできていない
・巨大化していく脳をかかえながら、人類は必死に「狩猟による肉食」などを発達させ生き延びてきた
・1万数千年前あたりに「農耕」という新しいエネルギー獲得法を発見した(そのことはジャレ・ド・ダイアモンドによれば世界の地域格差が生じた原因である)
・農耕の開始によって、人間の脳の巨大化はむしろ止まった
・農耕という新しいエネルギー源の発見は、他方で人間にガンなどの成人病、肥満や虫歯など、あらゆる現代病をもたらした
・だが、だからといって現在でも人類のカラダは「草食オンリーでも生きていける」ようには、まったくできていない


農耕の開始以降の糖質の摂りすぎが人類の食生活がかかえる大問題なのは確かだとしても、だからといって人間のカラダの仕組みがたった1万年やそこらで変わるわけではない。
消化器官が草食動物と異なる人類は、草だけ食べる生活はできない。脳がデカすぎる人類は、ブドウ糖の大好きな脳に十分な栄養が来なくなって、メンタルがやられることもあるから、糖質の摂取を全面的にやめるわけにもいかない。肉食を敵視する考えの人もいるらしいが、人類のカラダが肉食向きというのも事実で、それをすぐに変えることはできない。


こうして人類の食生活の変化の歴史をざっと並べてみると、ヴィーガンとかヴェジタリアンとかいう話をする以前の問題として、現代の人間の食生活に異論をとなえるだけでなく、極端すぎる健康感を他人におしつけたがる人たちのメンタルには、どこか「強烈な自己嫌悪」、とりわけ「自分の身体に対する嫌悪感」が充満していて、それが自分の容姿や食生活への強い否定につながっているように思えてならないのだが、どうだろう。

はっきり言わせてもらって、ブログ主は個人の自己嫌悪が人間の文化を発展させ、進化させるとは、まったく思わない。食生活を改善する以前に、自分のメンタルを健康にしたほうがいいと思う。


人間はうまいものをうまく食う。
そのためにこそ、必死に脳を使う。
本来そういう動物なのだ。


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