October 02, 2018

MLBにおけるロスターは25人しかいない。

先発が最低5人、ブルペン7人程度、クローザー1人。野手が8人、場合によってDH。控えが、キャッチャー、内野、外野、ユーティリティと、4人程度。その25人が、「他のスポーツに類を見ない、多くのゲーム数」をこなす。

年間試合数の多さは、高額年俸をはじめとする選手の待遇の良さ、スタッフの充実、立派な専用スタジアムの維持など、スポーツとしての豪華さを維持可能にしている。また、その豪華さは、才能ある選手を世界中からMLBに集約する原動力にもなっている。

いいかえれば、プロのスポーツとしての野球は「限られた人数で多くのゲームを戦うチーム運営技術の優劣を競っている」という見方もできる。



野球に限らず、企業や自治体のような組織においても、「限られた人数、最低限の人数を前提に、組織運営の効率を上げていく」には、「プレーヤーの多くがマルチタスクであること」が非常に重要だ。専門性なんてものに高い給料を払っているばかりでは、その組織のコスト体質はいつまで立っても改善されず、少ない人数で回せるようにはならない。





もし例えば野球チームに「肘の痛くない大谷翔平が5人いる」としたら、どうだろう。
先発5人全員が「マルチタスク」になるわけだから、典型的なチーム構成にあと5人の選手を追加できることになる。別の見方をすれば、ロスターがたったの「20人」で回せる、といってもいい。

逆に、投手12人以外が、すべて「守備のほとんどできないDH」だったらどうか。
高得点が期待できると思うかもしれないが、守備時間が膨大に長くなるから、疲れきって、たぶん攻撃どころではない。
素人以下の守備しかできない集団は、大量失点を繰り返す。難しい内野ゴロは、ほとんどヒット。ダブルプレーなんて完成するわけがない。外野フライのかなりの数が長打やホームランになる。素人キャッチャーはプロの投手の球が捕れないで、変化球の多くを後逸する。盗塁はもちろん、やられ放題。
これではいつまでたってもチェンジにならない。当然ながら、投手は膨大な球数を投げさせられ、投手がすぐに足りなくなる。

これではプロではない。
というか、野球ですらない。


こうした例示でもわかるように、そもそも野球というスポーツは「マルチタスクなプレーヤーのスポーツ」として出発しているのである。


かつてエンゼルス全盛期のマイク・ソーシアは、足の速いスイッチヒッターをズラリと並べる独特の打線で地区優勝をかっさらい続けた。ソーシア流スイッチヒッター打線では、相手投手が左だろうと右だろうと、打線も守備の布陣も組み直す必要がない。

対して、最近あまりに多すぎる「左右病監督」や、オークランドに代表されるプラトーンシステムでは、相手投手によって左打者と右打者を使い分ける。そのためポジションそれぞれに2人ずつ選手を用意し、毎試合のように打線を組み直す。下位打線の選手は、続けて出場できないからどうしてもコンディショニングが難しくなる。

どちらがマルチタスクかは明らかだ。マイク・ソーシアこそ、野球本来の「マルチタスク」のオーソリティだ。


話をもう少し拡張していこう。

「HRばかり狙って、低打率で、守備のできないバッター」は、シングルタスクだ。
そうした選手を何人も打線に並べる打線は、当然三振も多くなるし、タイムリーなど期待できない。また守備のための交代要員も必要になる。

参考記事:2017年2月1日、41本ホームラン打ったクリス・カーターに再契約オファーがなかったことからわかる、「ホームランバッターは三振が多くて当たり前」という話の真っ赤な嘘。 | Damejima's HARDBALL



こういうことを書くと、必ず「2人か3人の打者が連続でヒットを打って得点することより、たった1人で得点できるホームランのほうが、はるかに『マルチタスクだ」などと、わけのわからないことを言い出す人間が必ずいることだろう(笑)

そういう根本的にアタマの悪い人間が出現する原因は簡単だ。ホームランの「出現頻度の少なさ」や「出現確率の低さ」をまるで考慮しないからそうなる。


かつてデタラメ指標のOPSでは、「ホームランでベースが4つ回れるから、その価値はシングルヒットの4倍だ」などと、単細胞きわまりない奇怪な思考方法(笑)から、ホームランに過大な価値を認めていた。(実際には計算式のトリックを加え、4倍以上もの過大評価をしていた)

出現頻度の低さをきちんと考慮すれば、「まぐれ当たり的なホームランしか打てない、スカウティングされやすい、低打率の打撃専門野手」の価値なんてものは、打って走って守れる5ツールの選手の、5分の1どころか、それ以下の価値しかないことは言うまでもないことだが、OPS信仰時代には、そんな簡単なことすら誰もが忘れていた。


OPS全盛時のセイバーメトリクスなんてものは、片方でアウトカウントを増やすのは悪だなどと決めつけつつ、他方で、効率の非常に悪いホームランバッターに異常な過大評価を与え、シングルタスク・プレーヤーのネガティブな面を考慮しないまま、野球を「間違った価値観」で覆い尽くした。

そうしたデタラメ指標の影響は、今でも無くなってなどいない。フライボール革命などと称してホームランを称揚した挙げ句、2010年代のMLBは未曾有の「三振激増時代」に突入したのも、間違ったデータ主義が遠因になっている。



だが、現実の野球は、まったく違う。

例えばクリス・カーターのような「非効率なシングルタスクのバッター」の打撃の中身の無さを見ればわかる。
全打席のほんの数%をホームランする程度の能力しかないにもかかわらず、大半の打席で凡退して数多くのチャンスを潰し、打席の30%以上にもあたる200以上の打席で三振して、アウトカウントを増大させ、ランナーを釘付けにする。
その効率の悪さは、3割打者の多くがマルチタスクであり、打席の30%以上をヒットにしてランナーを進め、打席の35%以上で出塁する一方で、盗塁や犠打、守備などをこなせるのと、まるで対照的だ。


wOBAのような、よりリアルな指標において、ホームラン1本の得点寄与能力がシングルヒット1本のせいぜい2倍ちょっと程度に過ぎないとみなされることでもわかるように、「シングルヒットの得点生産能力」は、ホームランと比べ、けして低くなく、デタラメなOPSが言っていたような「ホームランの4分の1」ではない。
「得点圏にランナーがいて、シングルヒットが出れば得点が生まれる可能性がある場面の数」、「シングルヒットによる打点が実際に発生する可能性」は、ホームランのそれに比べ、はるかに出現頻度が高く、同時に、ずっと高い確率で実現する。



シングルタスクの権化といえば、ホームランにばかり頼ってタイムリーが出ず、いつまでたっても地区優勝に縁がないヤンキースだが(笑)、マイク・ソーシアがエンゼルスで目指した野球が、そうしたヒエラルキー主義のシングルタスク野球ではなく、マルチタスクだったことは明らかだ。(ソーシアがベンチからサインをやたら出しまくるのも、ヒエラルキーそのものではあるが 苦笑)
彼が大谷翔平を気にいっていた理由もたぶん、大谷が投打に才能があるからだけでなく、大谷の二刀流が「ソーシアが大好きなマルチタスクそのもの」だったからに違いない。


いまもMLBには「マルチタスク主義」と「シングルタスク主義」、2つの流れがある。

ワールドシリーズを制覇したときのロイヤルズ、優勝争いの常連になった近年のアストロズなど、成功しているチームがやっているのは野球本来の「マルチタスク」だ。

参考記事:2015年4月14日、昨年のワールドシリーズ進出がフロックでなかったことを証明し、ア・リーグ中地区首位を快走するカンザスシティ・ロイヤルズの「ヒット中心主義」。 | Damejima's HARDBALL

参考記事:2017年11月14日、ヒューストン・レボリューション2017。 「四球偏重時代」の終焉。 | Damejima's HARDBALL

参考記事:2018年4月11日、意図的に「ホームランの世紀」をつくりだそうとした2010年代MLB。実際に起きたのは、「三振とホームランの世紀にさからったチーム」によるワールドシリーズ制覇。 | Damejima's HARDBALL


だが、MLB全体でみると、近年横行しているのは、年間1300三振するチームの激増でもわかるとおり、シングルタスク主義であり、選手単位でみても単純なタスクしか実行できない不器用な選手が激増している。


エンゼルスも、マイク・トラウト、大谷と、才能あるマルチタスクのビッグネームを抱えている一方で、かつてソーシアがエンゼルス全盛期にやったような「攻守走すべてがこなせるスイッチヒッターを、ズラリと打線に並べたマルチタスク打線」なんて徹底した芸当は、「シングルタスクのプレーヤーばかり増えてしまった現状」からいうと、人材不足で実現しにくくなっている。

ソーシアが長いエンゼルスでのキャリアでやろうとしてきた彼独特の野球は、いまや実現不可能になりつつあるかもしれないから、彼がアナハイムを去るのは、いたしかたないかもしれない。



しかしながら「ソーシア流のマルチタスク」を受け入れて、チームを根本から変えるべき「方針の間違っているチーム」、「方針が見えないチーム」は、今のような時代だからこそ、むしろ、たくさんある。

長年にわたって雑な野球ばかりやってきたボルチモア。本来ならマルチタスクをもっと徹底させ継続すべきだったカンザスシティ。ワールドシリーズ優勝が実現しないまま賞味期限切れしたデトロイト。投資金額はデカイが総合力がたいして上がってない成金ドジャース。無能なGMがチームを低迷させたテキサス。いつまでたっても何がやりたいのかわからないサンディエゴ。チーム本来のいやらしい強さがなくなったセントルイス。常勝チームの賞味期限切れが近いナッツ。他にもある。


ソーシアをこのまま引退させるのは、もったいない。

監督でなくても、いまのこの「三振の王国に退化しつつあるシングルタスクのMLB」を質的に改造する大仕事を、どこか他のチームでやってもらいたい。

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