October 08, 2018

2000年以降のMLBとDETの観客動員数の相関
赤:MLB 青:DET

2000年以降のMLBで「観客動員数が激減したシーズン」が、2002、2009、2018年と、3シーズンあり、そのいずれのシーズンにおいてもデトロイトの観客動員が激減していること、デトロイトの観客動員数そのものがMLB全体の観客動員の動向と連動する傾向にあることを示した。
2018年10月4日、2004年以降ではじめて観客動員数が7000万人を割り込んだMLB。観客動員数の動向を如実に反映する「マーカー球団」を発見。 | Damejima's HARDBALL


近年の「激減局面」において、「デトロイトの観客動員数が、MLBの観客動員数と連動している」ことは、理由はまだ判然としないものの、ほぼ疑いない。


では、「急増局面」では、どうだろう。

2000年以降、観客動員数が前年に比べて急増したシーズンは、なんといっても「2004年〜2007年」が筆頭で、あとは2012年に小さく上昇した程度だ。以下に2004年〜2007年に「年間40万人以上、観客動員数が増加した球団」とその年の地区順位を列挙してみる。

2004
PHI(2位) SDP(3位) HOU(2位 NLCS進出) DET(4位) FLA(3位 前年WS制覇) TEX(3位)

2005
WSN(5位) NYM(3位) STL(優勝 NLCS進出) CHW(優勝 WS制覇)

2006
CHW(3位 前年WS制覇) DET(2位、WS進出) NYM(優勝 NLCS進出)

2007
MIL(2位) NYM(2位) DET(2位) PHI(優勝 NLDS進出)

かなりの数の地区順位「2位」があるのが、ちょっと面白い。スポーツファンが優勝に興奮するのは当然の話だが、ある意味「ドラマチックな2位」にこそ「人を興奮させる要素がぎっしり詰まっている」のかもしれない(笑)


「急増」リストに複数回出現するチームは4つ(DET、NYM、CHW、PHI)あるが、3回以上出現するチームは、DETNYMの、2つだけしかない。
結局、「激減」「急増」の両面みて、そのほとんどに登場するチームは、30球団のうち「デトロイト・タイガースだけに限定される」。
デトロイト・タイガースが、MLBの観客動員の増減に非常に「鋭敏に」連動する球団、「マーカー」であることは、もはや疑いようがない。



さて、2000年以降の観客数の激減と急増、両局面を見たことで、もうひとつわかることがある。

デトロイトのような「激減と急増を繰り返す球団」はむしろ「例外」で、ほとんどのケースでは、「激減をたびたび経験した球団」と、「急増をたびたび経験した球団」とが異なっていることだ。

減少 PIT、CLE、TEX、MIA(FLA)、BAL
増加 NYM、CHW、PHI


「観客動員が急激に増減する要因」は、大小いろいろ考えられる。
ネガティブ面では、チーム低迷、人気選手の移籍や引退、ファイヤーセールなど。ポジティブ面では、前年のワールドシリーズ制覇で翌年への期待が高まったことや、地区での好成績、ポストシーズン進出などが考えられる。


では、「チーム成績がすべて」なのか。

たぶん、そうではない。
もしそうなら、大半のチームがデトロイトと同じように「チーム低迷時の激減」と「好調時の急増」を繰り返していなくては、辻褄があわない。チーム好調時の観客急増はよくある話だが、低迷時の観客激減をすべてのチームが経験するわけではないのだ。


リスト全体を何度となく眺めていて、単なる直感ではあるが、こんなふうに思えた。

メインの仮説

MLB球団の観客動員の「特性」は、実はチームごとに異なっており
以下の4種類くらいに大別される

熱しやすく、冷めやすい 例 DET
熱しにくく、冷めやすい 例 PIT CLE TEX MIA BAL
----------------------------------
熱しやすく、冷めにくい 例 NYM CHW PHI
良くも悪くも大きな変化はしない 大都市の人気球団

おしなべていえば、中小都市にあるチームのファンは「冷めやすい」。対して、シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルスなど、大都市マーケットのチームはおおむね「冷めにくい」。


もし、この「仮説」が正しいとしたら、
次に、以下のようなことが連想される。

メイン仮説からの敷衍

中小マーケットのチームは「冷めやすい」。したがって、一度観客を手離してしまうと、再び観客を取り戻すのに時間がかかり、容易ではない
対して、大都市マーケットのチームの観客動員は、固定観客が多数いるために、「冷えにくい」。したがって、チーム成績のアップダウンによる集客への影響は常に小さくおさまる。




ここにきてようやく、「2018年の観客動員が7000万人をひさしぶりに割り込んだ理由」に「仮説」を立てられそうだ。

2018年のMLBマーケットが縮小した理由

ただでさえ「冷えやすい」中小マーケットの多くが、チーム低迷と、チームの核の人気選手の大都市チームへの放出などによって、「急激に冷やされた」ことによると、推定される。


2018年の大都市チームの概況

2018年はドジャース、ボストン、ヤンキース、カブスなど、「大都市チーム」が同時にポストシーズン進出し、チーム補強のために過度ともいえる「選手狩り」を行った。(例 マッカチェン、マチャド、スタントン、JDマルチネス、ハップ、ハメルズ、ランス・リン、キンズラーなど多数)

だが、大都市チームの集客力は「常に上限にある」ことを忘れてはいけない。単年のポストシーズン進出や、有名選手の集結程度で、大都市チームの観客動員が激増することはないのである。

2018年の中小マーケットの概況

他方、シーズン100敗チームが続出する中、かなりの数のチームが一斉に低迷を迎えてしまい、中小マーケットは一斉に冷えこんだ。

「中小マーケットの人気選手」はもともと限られた数しかいないわけだが、これが一斉に大都市チームに移動し、中小マーケットはより冷却されることになった。


このブログでは、マイアミGMに就任したデレク・ジーターがチームを無意味に解体したことをたびたび批判してきたわけだが、その判断にはやはり間違っていなかった。マイアミに本当に足りなかったのは、無駄な再建ではなく、「先発投手陣を買い集める資金」だ。


大規模なリビルドやファイヤーセールがファン心理に与える影響が、大都市マーケットと、冷えやすい中小マーケットとで、まるで違うインパクトをもつことを、多くの人が忘れすぎている。

大都市のチームは「リビルド速度」が早い。
それは、豊富な資金力によって、チームに「強い回復力」が備わっているからだ。ファンのマインドも、選手の回転に慣れているから、リビルドの影響は小さい。

だが、資金に限度がある中小マーケットでは、有力選手を簡単には買い戻せない。そのため若手を育てる戦略をとるわけだが、それには一定の時間がかかる。また、地元で育った選手への「愛着」も強い。
中小マーケットでは、大規模なリビルドやファイヤーセールで一度マーケットを「冷却」してしまうと、チーム再建に時間がかかるだけでなく、ファンのマインドを再び温めなおしてボールパークに呼び戻すのにも、かなりの時間がかかるのである。


上に書いたような「規模の違いによるビヘイビアの違い」はなにも今年に限ったことではなく、昔からあったことだが、問題なのは、MLBマーケット全体の拡大のキーポイントが、飽和状態にある大都市マーケットにあるのではなく、むしろ「中小マーケットを過度に冷却しすぎないこと」にあることを忘れて、大都市マーケットにばかり熱中したがる視野の狭い人間たちが今のMLBやマスメディアを主導している点だ。

ロブ・マンフレッドは、大都市に選手が集結して、バットをやたらと振り回して三振とホームランを繰り返すような「雑なマーケティング」を誘導して、中小マーケットを冷やしたことを、心から反省すべきだ。


Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です

Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
Categories
ブログ内検索 by Google
ブログ内検索 by livedoor
記事検索
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month