April 03, 2020

シリーズ3回目となるこの記事では、「感染者数グラフの正しい書き方」について論じる。

「正しい」などという言葉は、正しさ自体が混迷したいまの時代には、たしかに「きわどい言葉」である。だが「ウイルス感染のグラフ」では「正しい書き方」というものがあるのである。

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いま武漢肺炎感染のさなかにあって世界中の国々が苦しんでいる。だが、その惨状の渦中にあって、たったひとつだけ、光明といえる事実がある。

それは、他のウイルス感染と同様に、このウイルスの感染爆発においても、、どんな国にも共通の『拡大から終息に向かう決まったパターン』があるらしい」ということだ。その「パターン」はどうやら、たとえ生活文化や医療制度が違う国であっても「共通」らしいのである。

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なぜパターンが「存在する」といえるのか。

世界の国での感染の「規模」と「かかった日数」を、「横並びに比較してみること」で、感染拡大から終息までの経過に『共通性』『パターン』があることが判明したからである。

別の言い方をすると、人々は「自分の国がいま、そのパターン上の、どの地点にあるのか」を知ることで、自分たちの環境が今後どうなっていくのか、多少はわかるようになったのである。

それは、対数グラフ化することでパターンを「可視化」したおかげである。

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ただ、やみくもにデータをグラフ化しても、何も見えてこない。
可視化には「有効なやり方」もあれば、「まったく無駄なやりかた」もあるからである。

ウイルス感染の「パターン」を探り当てるには、グラフを「正しく」書かなくてはならない。「『感染の拡大終息のパターン』をみつけだすのに有効なグラフの書き方」の一部を以下で論じてみる。

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さて、具体例をあげる。

最初は、あるメディアの「失敗例」である。例によって、横軸は「絶対表示的な日付」、縦軸は「対数軸による感染者数」である。

このグラフは「3月4日時点」で、まだ「欧米全体での本格的オーバーシュート」は始まっていない。当時はまだダイヤモンド・プリンセス号事件が世界の注目を集め、「日本の感染者が世界的に見て多い」などと間違った批判を受けていた時期のグラフである。

図13月4日付の対数グラフ

3月4日時点の感染者数をみると、感染者数トップは中国が独走、その後ろを、第二グループの「韓国、イタリア、イラン」が追い、そのまた後ろには、第3グループの「ダイヤモンド・プリンセス号、ドイツ、フランス、日本、スペイン、アメリカ、スイス、イギリス、シンガポール、オランダ」が「団子状態」で続いている。

余談ではあるが、上のグラフだけからいうと、「3月4日時点」でのダイヤモンド・プリンセス号の感染者数は、堂々世界第5位を占めている。このグラフがそうであるように、「日々の感染者数」しか見ない、知性に欠けたマスメディアは、「ダイヤモンド・プリンセス号事件が、世紀の大事件に見えた」のだろう。だから必死になって日本の悪評を書いたのである。

だが、その後の1ヶ月で、どの国、どのタイミング、どんな規模でオーバーシュートが起こったか、思い出すべきだ。欧米を中心に、あっという間に世界中で、何十万という感染者、何万もの死者が出現するに至ってようやく人々は、「ダイヤモンド・プリンセス号での感染がいかに、規模の小さい、世界が注目するほどでもない、ささいな出来事だったか」を思い知ることになったのである。

当時日本を批判した人々は、武漢肺炎の感染が一般的にどう推移するか、まったく知りもせず、単に「3月4日時点での、世界第5位という感染者数」という「数字」だけ見てモノを言っていたにすぎない。


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さて、
この「感染者数を、日付順にただ並べただけの、平凡きわまりないグラフ」から、なにか「法則性」読み取ることができるだろうか。

申し訳ないが、自分にはとても無理だ。

「日付順に感染者数をただ並べただけ」では、感染者数の増加がたどる「世界共通のパターン」を探り当てることなど、できない。「日付順に感染者数をただ並べただけ」のつまらない作業から読み取れるのは、ただ単に「それぞれの国で感染者数が、それぞれに増えた」という、なんともつまらない事実のみでしかない。

この3月末のグラフから、その後1ヶ月で、グラフにあるいくつかの国はド派手にオーバーシュートし、いくつかの国の感染が終息に向かうことが4月初頭の今の時点ではわかっているわけだが、このグラフのデータから「その後1ヶ月に起きることの兆し」はまったく見えてこない。

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結論を先に言うと、
このグラフの欠陥は、
日付を絶対表示にしているから
だ。
これでは何の収穫も得られない。


以下において、日時における「絶対表示」とは、例えば「2020年3月4日」というような「リアルな日付」という意味であり、「相対表示」とは、例えば「感染発生から10日目」というような「相対的な日付」という意味だ。

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2つ目の例として、いつもとりあげているUCLのグラフを挙げる。こちらのグラフには、「日付を相対表示する」という違いがある。

ソース:CoVID 19 Growth Rate
CoVID 19 Growth Rate 2020-04-05

「日付の相対表示」について、このグラフの作者(ロンドン・カレッジ・ユニバーシティの研究者)のサイトでのコメントによると、作者は「その国の感染者数が10人を越えた時点」を、その国のグラフの「始点」にしていると発言しているのを見た記憶がある。

だが、上のグラフを仔細に眺めると、「それぞれの国のグラフの始点における感染者数は、国によって微妙に異なっていて、必ずしも『10人』ではなく、『100人前後』から始めて」いる。
それはおそらく「グラフの差異を越えた『共通性の発見』を強調するために、細部では多少妥協しているのだろう。
たとえそうであったとしても、このグラフはたいへんに貴重な情報を提供してくれる。

それが、
世界共通の拡大パターン」の発見である。

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この作者のグラフはどれも、横軸の日付は「3月4日、5日、6日」というような絶対表示ではなく、す「感染開始から何日目」という相対表示であることに特徴がある。
横軸の目盛りはすべて「感染が始まってからの経過日数になっている」のである。


そうすることで初めて、
各国のグラフに「ピッタリと重なりあう部分がある」
ことがわかってくる。

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その「重なり」をもう少し詳しく書くと、以下のようになる。
グラフの始点を「感染の開始」とすると、「感染者数が4000人〜5000人という、1000単位のレンジに達するまで」は、どの国でもグラフは「共通の傾きを」もった「右上がりの直線」になっている。また、「傾きが同じ」であるからには、その特定レンジに達するのにかかる日数も、世界でほとんど「共通」している。

「感染の開始」から「感染者数が4000人から5000人というレンジを超える」と、グラフはそれぞれの国によって異なる展開をみせはじめる。

いずれにしても、「感染の開始」から「感染者数が万単位のレンジに入ってくる」と、グラフは「寝て」くる傾向にある。

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たかだか「日付」を「絶対表示から相対表示にした」だけじゃないかと思う人がいるかもしれないが、雲泥の差とはまさにこのことであって、2つの表現に存在する差はあまりにも大きい。「絶対表示の日付と、絶対表示の感染者数しか見ない」ような馬鹿なマスメディアが日本にも欧米にも数多くいるからこそ、日本を批判したりする馬鹿が続出するのである。

(つづく)


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