October 2010

October 31, 2010

前の記事で、2001年以降、MLBのストライクゾーンが、ステロイド時代の「横長の」ストライクゾーンから、「ルールブック通りの、縦長のストライクゾーン」に、あくまで「タテマエ的」にだが、改められることになり、アンパイアがメジャーのキャンプ地を巡回して説明に歩いた、という話をした。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (1)「ステロイド時代のストライクゾーン」と、「イチロー時代のストライクゾーン」の違い。

では、
2001年以降、本当に「ストライクゾーンは変わった」
のだろうか?



次に挙げるのは、2007年に書かれたHardball Timesの記事に添付された秀逸すぎるグラフである。
元記事:Hardball Times:The eye of the umpire

この非常に優れた記事とグラフは、膨大な数の実戦でのアンパイアの判定結果をグラフ上にマッピングすることで、「ルールブックのストライクゾーンと、アンパイアが実際のゲームでコールしている現実のストライクゾーンとの違い」を、誰にも有無を言わせない形でハッキリ明示している。

こういう素晴らしい記事を作れるHardball Timesに敬意を払わずにはいられないし、こんなブログ程度では彼らの足元にすらたどり着けないが、前置きはそのくらいにして、この記事が主張する結論と、それについてのブログからの注釈から先に言っておくことにする。


この記事の主張する結論
2007年のこの記事の調査範囲においては、MLBのアンパイアのストライクゾーンは、あいかわらず「2001年以前の横長の古いストライクゾーンのまま」である。MLBが2001年以降ストライクゾーンをルールブック通りにする、と言った割には、現実にはそうなっていない。
ブログからの注釈
この記事の調査は、必ずしも2001年以降、記事が書かれた2007年までの全ての投球、全てのアンパイアの判定を調査したものではない。
だから、この記事だけから即座に「MLBのストライクゾーンは、2001年以降もステロイド時代の古いストライクゾーンのまま、まるで変わっていない」と、単純に結論づけることはできない。
実際に、他の調査などでは、アンパイアごとの判定の個人差が大きいことがわかっている。(これについては次回の記事で書く)
だから、現在のMLBのストライクゾーンをめぐる状況について、当ブログでは次のように考える。
1)MLB全体としてのゾーン修正傾向
MLBのストライクゾーンは2001年に、それ以前のステロイド時代の「横長の」ストライクゾーンと決別して、「ルールブックに近い判定」をすることを宣言したが、何事でもそうだが、何もかもが即時に修正されるわけではない。いまだに「古いストライクゾーン」に決別できていないアンパイアも多いのは確かだが、今後の経過を見守る必要がある。

2)個人差
新旧のストライクゾーンが混在する現状があり、2001年以降のストライクゾーンの修正に沿って、ルールブックに近い「縦長のストライクゾーン」で判定を下しているアンパイアもいれば、2001年以前の古いステロイド時代の「横長の」ストライクゾーンに固執し続けているアンパイアもいることがわかっている。
現在ではアンパイアごとの個人差が顕著、と考えておくのが無難



グラフの見方
このグラフはアンパイア(キャッチャー)視線で見たもの。
だから、向かって
左がレフト側
右がライト側

赤い線が、ルールブック上の「ストライクゾーン」
緑の線が、実際の判定結果のマッピングから計測された「ストライクゾーン」

横並びの2つのグラフのうち
左にあるのが、RHB(右打者)のグラフ
右にあるのが、LHB(左打者)

ルールブックのストライクゾーンと実際に計測されたゾーンの差
(グラフはクリックすると拡大できます)

グラフからわかること

(1)左打者・右打者共通の特徴
ルールブック上のストライクゾーンは「縦長」だが、
実際のストライクゾーンは「横長」だ。高低はルールブックより狭く、内外はルールブックより広い。

高めのストライクゾーン」は、2001年以降「ルールブックに沿ったストライクゾーンにすることになった」「はず」だが
実際のゲームでの「アンパイアのストライクゾーン」では、高めのゾーンはけして広くない。

低めのストライクゾーン」も、1996年の改正で、「膝頭の上まで」だったのが、「膝頭の下まで」に変更されたことで、「ボール1個分くらい」低くなったはず」だし、また、2001年以降の修正で「ルールブック通りに判定する」ように修正された「はず」である。
1996 - The Strike Zone is expanded on the lower end, moving from the top of the knees to the bottom of the knees.
Umpires: Strike Zone | MLB.com: Official info

だが、実際には、低めのストライクゾーンを十分に拡張していないアンパイアがたくさんいる。

「現実のアンパイアの判定では、低めのストライクゾーンがルールブックより狭いことが、多々ある」ことがわかると、たとえば、NLCSのロイ・ハラデイの登板ゲームで球審をつとめた、例のJeff Nelsonの判定の偏りの意味がわかってくる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。

Jeff Nelsonは日本のサイトなどで「投手有利な判定をするアンパイア」であるかのような説明がなされているが、彼はメジャーでは「アウトコースのストライクゾーンが異様に広いことで有名なアンパイア(資料:Hardball Times A zone of their own)」であり、あのゲームでJeff Nelsonはロイ・ハラデイの低めいっぱいのストライクを、ピンチの場面ではことごとく「ボール」判定している。
これはつまり、Jeff Nelsonが「古い『横長の』ストライクゾーンで判定を行う典型的なアンパイア」であるために起きる、ただそれだけの現象といえる。
彼のような「古い横長ゾーン」のアンパイアは、「アウトコースのストライクはとりたがるが、高め、低めのストライクをとりたがらない傾向」がある。そのため、ロイ・ハラデイのような「コントロールが非常に良く、2001年以降のストライクゾーンの修正に沿って、ルールブック通りのストライクゾーンの、低めいっぱいに変化球を決めてきた投手」にしてみれば、イザとなると低めのストライクをとらなくなる「古い横長のストライクゾーンで判定するJeff Nelspn」は、「投手有利な判定をするアンパイア」とはまったく言えないことになるのである。


(2)左打者だけにあてはまるストライクゾーンの特徴
ルールブックに比べて、実際のストライクゾーンは、
アウトコース側が「極端に」広い。
インコースは、ルールブック通り。

このことからメジャーの左打者は、非常に広いアウトコースのストライクゾーンに対応するためには、どうしても「打席のできるだけ内側、プレート寄りギリギリの位置」にスタンスをとらざるをえない。(もちろん、イチローの打席での立ち位置を見てもわかるように、全員が打席ギリギリに立つわけではない)


(3)右打者のストライクゾーンの特徴
ルールブックに比べて、実際のストライクゾーンは、インコース、アウトコースともに、広い
ただ、左打者のアウトコースのような「極端に広いストライクゾーン」ではない。


ちなみにこれはメジャーでの話ではないのだが、とある日本のブログで、2010年9月18日ロッテvs楽天戦におけるロッテ先発・成瀬投手のピッチングについて、こんな記述があるのを確認できた。
左打者には外角中心の配球、右打者にはストライクゾーンの内角と外角、両サイドに満遍なく投げ分けていたのが記録上からも確認できる。」
日本のプロ野球のアンパイアの判定が、どの程度メジャーのストライクゾーンに準じたものになっているか不明なのだが、もし成瀬投手が、左打者と右打者で、それぞれに対して使うストライクゾーンを分けているとすれば、それは「左打者と右打者のストライクゾーンの違い」を重視した非常にクレバーな投球術、ということになる。






October 30, 2010

new zone and old zoneこれはフロリダのSt. Petersburg Timesの「2001年以降の新しいストライクゾーン」についての記事(Sports: Baseball adapts to a new zone)に添付されているイラスト。元記事では、点線で示されているのが、2000年までの「古いストライクゾーン」赤い太線で示されているのが、「新しいストライクゾーン」、と説明されている。

「説明されている」と、ちょっと曖昧な、奥歯にモノがはさまった言い方をしたのには理由があって、このイラストだけ見た人は、「最近のMLBのストライクゾーンは、アウトコースが狭くなって、高目を広くした」だけで、「低めのストライクゾーンは、近年、まったく変更が加えられていないと、誤解する」のではないかと感じるからだ。

「低めは変更なし?」
そんな馬鹿な。
「低め」だって「ボール1個分」広くなっている
1996 - The Strike Zone is expanded on the lower end, moving from the top of the knees to the bottom of the knees.
Umpires: Strike Zone | MLB.com: Official info


元記事は各チームがフロリダでスプリング・トレーニングをしている最中の2001年2月27日に書かれた。
セント・ピーターズバーグはもちろんフロリダのタンパベイ・レイズの本拠地だが、春先には暖かいフロリダでたくさんのチームがキャンプする。
2001年にMLBのストライクゾーンが大きく変更されるにあたっては、キャンプ中の各チームをアンパイアが手分けして訪問し、この「新しいストライクゾーン」について確認して回った。

非常に偶然だが、この記事には、2010年NLCSでさんざんアンパイアの低めのコールに文句をつけて問題を起こしてばかりいるパット・バレルが登場する。どうもフィラデルフィアの新人時代のバレルが、2001年2月にアンパイアJim McKeanからこの「新しいゾーン」について懇切丁寧に指導を受けたのが、偶然記事になっているらしい。
なにやら非常にむかつく。
パット・バレル、おまえはそもそも「ルールブック通りの新しいストライクゾーン」しか知らないはずの選手のクセに、どういう了見で低めに文句つけるんだ?と、言いたくなる。


こういう「低めも広くなった(はずの)新ゾーンしか知らないはずの選手が、低めのストライクにいちいち文句をつける」なんていう、おかしな現象が起こるのも、実は、MLBのアンパイアの中に、「この『2001年以降、新しいストライクゾーン』を徹底していこうとせず、むしろ故意にか何か知らないが『2001年以前の古いストライクゾーン』のままコールしようとしているとしか思えないアンパイア」が現実に存在しているからだと、ブログ主は思っている。(2010NLCSでアンパイアをつとめたJeff Nelsonもそのひとり。どういうわけか、サンフランシスコのゲームにはこういう「ステロイド時代風のコール」をしたがるアンパイアが多い)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。


2001年以降にストライクゾーンが大きく変更になったのは、MLBのステロイド規制に重い腰を上げたコミッショナー、バド・セリグ氏の意向によるもの。
これまでもイチローのメジャーデビューが、いかにステロイド禁止以降のMLBを象徴しているかという点については、何度も繰り返し記事にしてきた(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:MLB史におけるイチローの意義、ケン・バーンズ)。
「ステロイド時代には、アウトコースが意図的に非常に広くされ、高目はとらなかったが、イチロー時代以降、ルールブック通りのストライクゾーンに変更された」という点も、「イチロー時代のクリーンさ」をよく象徴している。


「ステロイド時代のストライクゾーン」と「イチロー時代のストライクゾーン」は、そもそも時代背景からして、まったく違う。
ステロイド時代のMLBは、ステロイド打者に「飛ぶボール」を与えるなどして、ホームランの多発を演出し、集客を高めるかわりに、投手には「投手有利な、広いストライクゾーン」を与えて、帳尻を合わせた、といわれている。
つまり、打者に有利すぎるステロイド時代には、ストライクゾーンを「横長」に拡張して、例えばアウトコースに数インチもはずれているボール球でも「ストライク」と投手有利に判定することで、「投手のストライクのとりやすさと、打者のパワーの帳尻をあわせた」わけだ。

これに対して、イチロー以降の「ステロイド禁止。飛ばないボール。スピード重視」のMLBは、ストライクゾーンを「ルールブック通りの、縦に長いストライクゾーン」に戻そうとしている

もちろん、ケン・バーンズが「イチローはクリーン」という言葉で表わそうとしている2001年以降のベースボールは、ルールブックどおりのストライクゾーンの、揺るぎないベースボールである。
(まぁ、だからこそ、ランナーが出るとアウトコース低めのサインばかり出しているダメ捕手城島は、ステロイド時代的なストライクゾーンに毒されたキャッチャーであって、2001年以降のMLBには絶対に来るべきではなかった典型的なキャッチャーという言い方ができるわけだ)


だが、残念なことに、
ストライクゾーンの揺らぎ」は、2001年で全て解消したわけでもなんでもない。むしろ2010年になっても、アンパイアのコールには、いまだに「古いゾーン」と「新しいゾーン」が混在している。
頑固に「古いゾーン」を使い続けているアンパイアもいれば、素直にMLBの指導方針の変更に沿って「新しいゾーン」にのりかえたアンパイアもいる、という混乱した状況では、「判定の個人差」はかえって広がってしまう

だとすれば、かえってアンパイアの判定は、かつてないほど「個人差」に強く左右されてしまっている現状もあるだろうと、ブログ主は考える。

新ゾーンの講習を受けるデトロイト監督フィル・ガーナー(2001年)これは、最初に挙げた2001年の記事に添付されている、別の写真。アンパイアのJerry Layneが、当時のデトロイトの監督フィル・ガーナーをわざわざ打席に立たせて、「膝元のストライク」について講習をしている。

つまり、1996年の変更で「ボール1個分、低くなったはず」の、「低めのストライク」は、この記事が書かれた2001年のスプリング・トレーニングの時点でも、わざわざこうしてスプリング・トレーニングで忙しい監督を捕まえて講習をしてみせないといけないほど、十分に周知徹底されてはいなかった、ということ。もちろん、実際のゲームでもきちんと運用されていたとは言えない。

続きは次回。






October 29, 2010

同じ失敗を何度も繰り返している人間を見るのが、
他のどんなことより嫌いだ。


2010ワールドシリーズワールドシリーズGame 2は、ALCS(=ア・リーグのリーグチャンピオンシップ)Game 1、CJウェイルソンが投げて楽勝のはずが、ゲームの最後にヤンキースに大逆転負けしたゲームと、まるで同じ展開。非常に気分が悪い。
Texas Rangers at San Francisco Giants - October 28, 2010 | MLB.com Gameday

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月15日、まさしく監督の経験の差が出たテキサスのリーグ・チャンピオンシップ第1戦。ロン・ワシントンの「乱心」。

ALCS Game 1の継投パターンは、今日とまったく同じ。
CJウィルソンが好投し、終盤にランナーを出してしまったところで、ロン・ワシントンは、よせばいいのにダレン・オリバーを出した。オリバーは打者に初球インコースの球ばかり、投げては打たれ、投げては打たれ、あれよあれよという間にテキサスは逆転負けしてしまった。


今日のWS Game2もまったく同じ。

先頭打者を四球で出してしまった後、どうも指のマメがつぶれて出血でもしたらしいCJウィルソンが突然降板。嫌な予感がしたのだが、案の定、監督ロン・ワシントンダレン・オリバーを出してきた。

オリバーは、ハフウリーベレンテリアと、3人の打者に、またしてもインコースばかり投げ、ウリーベにこのゲームを決定するタイムリーを打たれた。(もっといえば、Game 1のウリーベの3ランもインコース。テキサスのキャッチャーはいい加減、インコースの勝負どころを考えるべき)
この日ソロ・ホームランを打っているレンテリアにしても、昨日のゲームを実質決めた3ランを打っているウリーベにしても、サンフランシスコの下位打線のフリースインガーたちがゲーム中盤以降に狙っているのは、常に「0-0、1-0を含むFastball countsにインコースを振り回すこと、特にインコースのストレート」しかないと思うのだが、なぜまた、その待っているインコースにばかり投げたりするのか。(他のサンフランシスコの打者も、ほとんどがFastball Countsではストレート系を振ってくる)
タイムリーを打ったウリーベへの配球より、むしろ、レンテリアへの配球が酷い。よくあれで2本目のホームランを打たれなかったものだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月24日、メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート(11) なぜライアン・ハワードは9回裏フルカウントでスイングできなかったのか? フィリーズ打線に対する"Fastball Count"スカウティング。

CJウィルソンの後にいつもまずダレン・オリバーを投げさせることもよくわからないが、さらにそのダレン・オリバーが、マット・トレーナー相手に投げると、いつもこういう「インコース一辺倒な単調な攻め」をして、痛すぎる失点をし、CJの作った投手戦をぶち壊して、貴重なゲームを失っているのが、本当によくわからない。
そしてロン・ワシントンは決定的な失点をしておいてから、さらになんだかんだ失敗を積み重ねておいてから、結局ホランド。

まるでALCS Game 1の二の舞だ。


挙句の果てには、9点差の完封負け寸前の場面なのに、
スターターのハンターに投球練習までさせた。

馬鹿か。ロン・ワシントン。






October 27, 2010



ブログ注:この動画の出典はESPNなわけだが、どうも元の動画は削除されたらしい。http://espn.go.com/video/clip?id=5728888


2010ワールドシリーズキューバ出身のHOF(ホール・オブ・フェイマー)、Tony Perezの息子、Eduardo Perezは、2006年にシアトルでプレーした後、引退して、同年からBaseball Tonightのアナリストをしているが、2010ワールドシリーズを前に、クリフ・リーと、ヤンキースのマーク・テシェイラアレックス・ロドリゲスとのポストシーズンでの対戦場面を引き合いに出しながら、クリフ・リーの投球フォームと、彼のボールの打ちにくさを関連づけて解説している。
Eduardo Perez Statistics and History - Baseball-Reference.com


Eduardo Perezの言いたいことを簡単にまとめると、クリフ・リーの手からボールが離れる瞬間になっても、打者たちは体重移動のきっかけをうまく作れないままスイングに入って、空振りしたり、あるいは見逃したりしている、ということになる。
たしかに打者が構えるタイミングがまったくあっていない。


ブログ主が思うに、クリフ・リーの投球フォームは、「右足を踏み込んでから、ボールをリリースするまでの一連の動作」が無駄がなく、それだけに、とても早い
ちなみに、クリフ・リーだけが早いのではなくて、メジャーの投手は日本の投手と比べて、「構えて、投げるまで」が早い

このクリフ・リーの「動作の無駄の無さ」は、右足をホームプレートに向けて踏み込んでいく時点での、「ボールを持つ位置の高さ」を見ると、ひと目でわかる。


以下に、クリフ・リーの「踏み込み脚が着地する寸前の画像」を、フィラデルフィア、シアトル、テキサス、3チーム分、集めてみた。クリフ・リーのボールを握っている左手が、踏み込み脚の右足が着地するだいぶ前に、すでに「肩の高さ」まで上がり終えていることがおわかりいただけると思う。
それにしても、まぁ、いつの時代を見ても、まるで同じフォームにしか見えない。驚かされる。
体全体を動かすシステム、メカニクスがきっちりと、しかも無駄なく決まっているために、「どう足を着いたか」とか「どれだけ膝を曲げたり、伸ばしたりしたか」というような雑多な要素でコントロールが不安定にならないことが、よくわかる。

フィラデルフィア時代のクリフ・リーの投球フォームフィラデルフィア時代

シアトル時代のクリフ・リーの投球フォームシアトル時代

テキサスでのクリフ・リーの投球フォームテキサス移籍後



日本人投手のフォームとの違いを見るために、試しにボストンの松坂大輔投手と比べてみる。

松坂投手のフォーム(足をショート側に向ける瞬間)松坂投手は、左足を、ホームプレート方向に踏み出す前に、一度、自分の斜め後ろにあたる三遊間方向に向かって伸ばしている(左写真)
クリフ・リーにはこの動作が全くない

さらに松坂は、この伸ばした左足を、ブルース・リーの旋風脚のように、自分の体の前で円を描くように、つま先をホームプレート方向に向け直していき、そこからやっとホームプレート方向に踏み出すみ動作が始まる。なんというか、いうなれば「脚で一度タメている」のである。


ボストン松坂大輔投手のフォーム次に、ホームプレートに向かって踏み出した瞬間の、「ボールを握った右手の位置」を見てみる。

踏み出した左脚が着地寸前だが、右手はまだ腰より低い位置にある。(左写真)
いってみれば利き手を腰の後ろに長時間とどめておく松坂投手は「手で二度目のタメをつくっている」。

2つの画像での説明でわかるとおり、松坂投手の「予備動作の多さ」が、クリフ・リーのピッチングフォームのシンプルさとの大きな違いだ

松坂投手は、踏み込む左足の足裏がもう着地しそうになっている段階でも、まだ背中が丸まっていて、胸を張れてないし、ボールはまだ「腰のあたりにタメている」
だから、この「腰ダメの段階」からですら、すぐにはボールをリリースできない。ただでさえたくさんの予備動作をこなしてきたのに、さらにここからいくつかの予備動作がまだ必要になる
やっとボールがリリースできる段階にたどり着くのは、胸を張り、左足を踏みしめて、両肩を回しつつ、ボールを持った右腕を振り上げ、とか、やらなければならない沢山の動作をこなしてからだ。

こうなると、悪くすると、テニスで言えば「ラケットを引く予備動作の処理が遅いために、相手の球を打ち返しそこねる」ような状態になる。

というのも、こなさなければならない予備動作の多い松坂投手の場合、予備動作をこなしている間に、うっかりすると、まだリリースのタイミングに至ってないのに「踏み込み脚が完全着地しきってしまう」からだ。そうなると、せっかくの体重移動は少なからず無駄になる。
たとえ話でいうと、「上半身と下半身が別々に旅行に出発して、目的地で同時に着く待ち合わせをしたはずが、下半身だけがずいぶんと先に目的地に到着してしまい、スウェイバックしたままの上半身が、いつまで待っても目的地に到着しないので、先に目的地で待っていた下半身が待ちくたびれた状態になる」わけだ。(実際、松坂のキャッチボールでのフォームは、上半身が異様にスウェイバックしている)

また、コントロールにも問題が生じる。
松坂投手はボールをリリースするまでに、こなさなければならない予備動作が多い。たくさんの交通手段を使う旅行のようなものだ。
もし経由する動作がうまくいかなくて、動作に「誤差」や「ブレ」が生じれば、それは必ずコントロールへ影響してくる。
例えば、踏み込んだ脚を着地させてからリリースするまで、いくつかある予備動作のどこか、例えば、腰の低い位置でタメていた腕を振り上げていく軌道が毎回違っているとか、軸足を曲げる量が毎回変わるとか、両肩の回し方、ショート方向に向けていた脚をホームプレートに踏み込んでいくときの足を伸ばす幅、これらのどれでもいいのだが、「ボールをリリースするたびに正確に行われるはずの数多くある予備動作のどこかに「誤差」や「ズレ」が生じると、それがどんなズレであろうと、コントロールに影響が出る
そうなると、なんというか、形容矛盾のようだが、松坂投手のフォームは「体全体を使った、手投げ」になってしまう。



それに対して、クリフ・リーの投球動作はだいぶ違う。

投球モーションに入って、踏み込み脚の右足を胸に引き上げた後、その右足は、そのままホームプレートに向かっていく

クリフ・リーの「胸に大きく引き上げた足を、そのままホームプレートに向かって踏み下ろしていく動作」では、松坂にあるような予備動作のいくつかが省かれている。第一に、ホームプレートに向かって足を踏み込む前に、自分の斜め後ろ方向(左投手のクリフ・リーなら、1,2塁間の方向)に向ける動作。第二に、後ろに向けた足を「一度、完全に伸ばす動作」。第三に、「一度後ろに向かって伸ばした足を、ホームプレート方向に向け直していく動作」。これらの松阪投手の動作の全てが、クリフ・リーにはない。

そして、上の3つのチームでの投球画像で見てわかる通り、踏み込み脚が着地する直前には、もう既に「胸を張って」、「ボールを肩くらいまで上げ」、「リリースのための予備動作」は終了しているから、いつでもボールを安定してリリースできる段階になっている

投球動作の早い段階で腕が上がっているから、クリフ・リーのリリースポイントは、足の着地位置から逆算した「常に同じ高さ」に決まる。(この高さが決まってリリースポイントが安定することを指して、stay tallと言っているのではないかと思うのだが、どうだろう)だから、クリフ・リーのフォームでは、腕の振りさえ安定していれば、常に安定したコントロールが得られる。
クリフ・リーのリリース・ポイント(2007、2008年)
Cliff Lee Pitch F/X 2008 « Mop Up Duty | Baseball News Sabermetric | Baseball History Bio

総じて言えば、クリフ・リーの投球動作はシンプルだ。
「脚を上げて」、「左右に体を開きながら踏み込み」、そして「投げる」。これだけ。いかにもメジャーの投手らしい。
日本の投手のように、「脚を上げてからボールを投げる前に、いくつか加えているタメをつくる動作」の大半が省略されていて、非常に無駄なく組み立てられている。
加えて、踏み込んで全体重が踏み込み脚に乗った瞬間にボールがリリースされるようにできているために、体重移動のパワーが無駄にならない。


書きだすとキリがないが、クリフ・リーと松坂の投球フォームの違いは、単に2人の個人差だけからきているのではなくて、日本とメジャーの野球文化の差異でもある。

MLBファンの大半がわかっていることだと思うが、メジャーの投手のフォームは日本と違って「構えてから投げるまでが、とても早い」。(もちろん、それは「クイックで投げている」という意味ではない)

日本で野球をしているなら、打者は、モーションの大きな、投球に時間のかかる投手が円を描くような大きなテイクバックでタメをつくっている間に、打席内で大きく体重移動しておいてボールが打席まで来るのを待つことができる。だから、ドアスイングのような大袈裟なスイングの打者であっても、投手のボールのリリースを見てからでも、体の前のポイントで差し込まれずにスイングすることができる。

だが、メジャーでは、そんな悠長なことをしていては、とても打てない。

天才イチローですら日本での打撃フォームをメジャー用に改造したくらいだ。イチ、ニの、サンで振ればヒットやホームランになるようには、メジャーのベースボールは出来てない。

ノーラン・ライアンの投球フォーム現役時代のノーラン・ライアン

ノーラン・ライアンは、クリフ・リー同様に、ホームプレート方向に踏み込む動作のかなり早い段階で、ボールを握った手を「高い位置」に上げ、リリースに備えている。こうした予備動作の開始タイミングの早さが、構えてから投げるまでの動作の早さに繋がるのだと思う。






October 26, 2010

2010WS ESPN ファンの優勝予想

2010ワールドシリーズいまESPNのサイトでは、2010ワールドシリーズの結果予想の投票を行っているのだが、その経過を見ると、これが見事に「東西を2分する結果」になっているのが面白い。
東海岸で、テキサスの優勝を予想していないのは、ディヴィジョンシリーズでテキサスに圧倒されてあっけなく敗れ去ったヤンキースの本拠地ニューヨーク州だというのも、ちょっと苦笑いさせられた(笑)
2010 World Series: Texas Rangers vs. San Francisco Giants - MLB Playoffs - ESPN



20世紀初頭のニューヨークにあった、あのポロ・グラウンズを本拠地にしていたジャイアンツが、グラウンドを貸していた店子(たなこ)のヤンキースに、フランチャイズのニューヨークを奪われるような形で西海岸に移転することになったいきさつについては、一度ちらっと書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月25日、セーフコ、カムデンヤーズと、ヤンキースタジアムを比較して、1920年代のポロ・グラウンズとベーブ・ルースに始まり、新旧2つのヤンキースタジアムにも継承された「ポール際のホームランの伝統」を考える。

一方で、レンジャーズは、もともとワシントンD.C.にあった(ワシントン・セネタース)。
だからこんどのワールドシリーズは、もともと東海岸にあった2チームの対戦になった。ブログ主としてはクリフ・リーのいるテキサスを応援している。と、いうのも、なんとなくフィラデルフィアとサンフランシスコのNLCSのときの、ジャイアンツの選手たちの印象がよくなかった。

2000年代以前のストライクゾーンに近いアウトコースのコールをすることで知られるJeff Nelsonが審判団に加わっていたせいか、きわどい球に対するアンパイアの判定が不安定すぎることに端を発して、両チームの間はいつになく不穏な雰囲気が漂ったままのNLCSだった。
パット・バレルが温厚なロイ・ハラデイに怒鳴り散らした事件は、当然ながら、今でもあれは退場にすべきだったと思っているし、またチェイス・アトリーが出塁したときにもジャイアンツ側のプレーヤーがイチャモンをつけたことで、両チームが揉めかけるなど、あちらこちらから選手を寄せ集めてきた今のジャイアンツにあまりいい印象を持てなかった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。

October 25, 2010

NLCS Game 6
9回裏、2死1、2塁。フルカウント。
ライアン・ハワードはなぜ、
あの、きわどいブレーキングボールを振らなかったのか?

ESPNJorge Arangure Jr.の興味深い記事によると、ハワード本人いわく、「ここでブレーキングボールが来ることはわかっていた。でも『ボール』だと思ったから振らなかった」のだそうだ。
So realistically, Howard knew that Wilson likely would throw a breaking ball. When it came, Howard was not surprised. He simply didn't think it was a strike. So he didn't swing.
MLB Playoffs: Philadelphia Phillies' run as National League champions comes to an end - ESPN


NLCSでフィラデルフィアは、得点圏にランナーを送る得点チャンスが45回もありながら、得点できたのは、わずか8回。またライアン・ハワードはNLCSの22打席で、12打席も三振した。
これらのデータは、2010年のポストシーズンでフィラデルフィアがいかに「打撃面で失敗してしまっていたか」を示していると同時に、ナ・リーグ各チームが、今年のレギュラーシーズンにおいて、いかにフィラデルフィア打線のスカウンティングに成功していたかも意味すると、ESPNのJorge Arangure Jr.は考える。

ライアン・ハワードが、ここで自分が凡退したらNLCSは終わりという、あの緊迫した場面で、「変化球が来るのがわかっていた」と自分で言うわりには、思い切りのいいバッティングができなかった。
このことの背景についてESPNの記事は「フィラデルフィア打線の『ストレート狙い封じ』のスカウティングが効を奏した」としている。

詳しいことは、後で説明するとして、もしハワードが「変化球が来るのがわかっていた」とまでいうなら、ボールを見極めて押し出しのフォアボールを選ぼうとするような「消極的バッティング」をせずに、なぜ、むしろ積極的にきわどい球をスイングして、タイムリーでヒーローになろうとしなかったのか、または、カットしなかったのか、誰しも疑問に思ったはず。
それに、すでに記事にしたように、今年のNLCSの審判団は必ずしもフィラデルフィア有利な判定をしてはくれないことはわかっていなければならなかった。
「変化球がくるとわかっていた」「ボールだと思った」は、残念ながら、単なる言い訳に聞こえてしまう。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。



fastball counts


ESPNの記事は、フィラデルフィアの打者がNLCSで「精彩のないバッティングに終始した原因」を、こんな風に分析している。
All year, teams had stopped throwing the Phillies fastballs in fastball counts, a result of enhanced scouting -- and the byproduct of years of offensive success.
「スカウティングが進んだ結果、シーズン通じて、対戦相手のチームがフィリーズに fastball countsで、ストレートを投げてこなくなった。これはフィラデルフィアが打撃面において成し遂げ続けてきた成功の副産物だ。」


この記事のいう「fastball counts」というのは、もちろん3-0などの「投手がストレートを投げてきやすいカウント」を意味するわけだが、その背景にはやはり日米の配球の考え方の差異があり、それを踏まえてから読まないと、意味がわからなくなる。

メジャーの場合、カウント2-0、3-0のような「ボール先行カウント」は、イコール「投手がストライクゾーン内に確実に投げやすい球種であるストレートを投げて、カウントを改善すべき場面」を意味する。だからほぼ「ボール先行カウント」が、ほぼfastball countsであることになる。

だが日本では、かつて紹介した阪神・ブラゼルのコメントや(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い)、ファンの野球観戦経験からもわかるとおり、日本では、「カウント3-0、2-0でも変化球を投げる野球文化」が発達しているために、「ボール先行カウント」がfastball countsには、ならない。


ただ、メジャーでいうfastball countsには、いくつか違う説明パターンがあることには注意しなければならない。

1)3-1、3-0の2つ。いわゆる「ボール先行カウント」のうち、3ボールになっている場合のみを指す。
例:fastball count - Wiktionary

2)2-0、2-1、3-0、3-1の4つ程度。いわゆる「ボール先行カウント」のうち、3ボールの場合だけでなく、2ボールのケースも含む。
例:Be A Better Hitter -- The Pitch Count

3)ブログによる補足項目:
アメリカでの定義としては上の2項目が正しいだろうが、さらに0-0、1-0を加え、打者側からみた「ストレートを強振していいカウント。ストレートを狙い打つのが効率のいい打撃につながるカウント」と、広く考えてみたい。具体的には、0-0、1-0、2-0、2-1、3-0、3-1。平たい日本語でいなら「ヒッティングカウント」。 資料例:Hitting by Count

fastball countsの定義として正しいのは上の2項目だろう。
しかし、この2つの定義だけだと、ESPNの記事がいう「ストレート狙いのフィリーズ打線に対するスカウティングが厳しくなって、fastball countsでストレートが来なくなっている」という話に完全にフィットしているようには思えない。
2-0や3-0などの、いわゆる「ボール先行カウント」限定でストレートを投げるのを止めるだけで、フィラデルフィア打線を湿らせることができると思えないからだ。
むしろ、「カウント0-0、1-0も含めたヒッティングカウントの多くで、ストレートが来なくなった」と考えるほうが、より記事の主旨に合う感じがする。

そこで、いちおう補足項目3も付け加えておくことにした。3では、ほぼfastball counts=ヒッティングカウントという意味でとらえている。
早くストライクをとって早く打者を追い込みたいメジャーの場合、0-0や1-0のような「早いカウント」も、ストレートが配球されやすいカウントであり、それは、打者側からすると「ストレートを狙い打ちすることで、ヒットを稼ぎやすいカウント」ということになる。


さて、fastball countsで、ストレートが来なくなる」と、打者の打席でのパフォーマンス、そしてゲームの流れは、どう変わってくるのだろう?

damejimaノート風にいうと、こんな風に解釈できる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート

「1人の打者に投げる球数」が多くなる
●フルカウントや2-2のようなカウントが多発する
●結果、ゲーム時間がだらだらと長くなる

と考える。


何度となく書いてきたように、メジャーの典型的な配球の思考方法というと、「ストレートで入って、カウントを作り、変化球で決める。典型的な決め球をひとつだけ挙げるとすると、ホームプレートの真上に落ちる変化球」ということになる。
また、2-0、3-0といった「ボール先行カウント」では、メジャーの投手は必ずストレートでストライクをとりにくる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(3)「低め」とかいう迷信 あるいは 決め球にまつわる文化的差異

比較:日本の配球文化
日本野球では最も典型的な決め球は、アウトコースの低め一杯に決まるストレート(またはスライダーやフォーク)。アウトローで勝負するのが安全であり、理想的という考え方が根強くあり、メジャーとはまるで逆。また日本では、2-0、3-0というボール先行カウントでも、投手は変化球を投げる。これもメジャーとは逆。


さて、ESPNの記事に戻ると、2009年までフィラデルフィアの打撃が劇的にうまくいっていた理由は「fastball countsで、投手のストレートを打ちこなしていたこと」にあることになる。
Fangraphのデータで確かめてみると、たしかに2008年、2009年のフィリーズは、ナ・リーグで最もストレートに強いチームだった。どうやら、2010年にスカウティングされ対策されるまでのフィラデルフィアの打者が「ストレートを打ちまくって、荒稼ぎしていた」のは、どうも確かなことのようだ。
だが、2010年になって事態が変わり、ストレートへの対応力は急激に下がっている


2008年のPitch Value
National League Teams » 2008 » Batters » 7 | FanGraphs Baseball
2009年のPitch Value
National League Teams » 2009 » Batters » 7 | FanGraphs Baseball
2010年のPitch Value
National League Teams » 2010 » Batters » 7 | FanGraphs Baseball

2009年までのフィラデルフィアの打者たちは、ストレートを狙い打ちして、ヒットを荒稼ぎしてきた。だが、2010年に突如として「ストレートが来るのを期待できなくなった」ということは、フィラデルフィアの打者にとって、どういう意味があっただろう?

メジャーのfastbal countsは、ほぼ「ボール先行カウント」と重なるわけだが、さらに細かいことを言えば、「早いカウント」や「インコース」などにも、「投手がストレートを投げてきやすいカウントやコース」は点々と存在している。
例えば、早いカウントで狙い打ってヒットを稼がせてくれた「ストライクになるストレート」が来ない。インコースを変化球でえぐられる。1-0、2-0、3-0などの「ボール先行カウント」ですら、いくら待ってもストレートが来ない。そういう投手の巧妙な攻めにばかり遭遇するシーンが、フィラデルフィアの2010年レギュラーシーズンに多々あったのかもしれない。

予想されるシチュエーション
●早いカウントから変化球のオン・パレード
●投手は、勝負どころでのストレート勝負を避けてくる。また、早いカウントでも、ストレートは投げない。ストレートで早め早めに打者を追い込もうともしない(特にランナーズ・オンの場面)


変化球のボール・ストライクの見きわめを要求される中で、じっくり待球型のバッティングをすることは、四球が多いことで有名なボビー・アブレイユばりに、たくさんの変化球の中から「自分の打てる球」を探りあてられる能力が求められる。また、フルカウントや、2-2などのカウントでも、きわどい変化球に対応できる柔軟性を求められる。

そういう能力は急には身につかない。

変化球に苦戦し続けているうちに、いつのまにかフィラデルフィアの打者から「かつての勢い」が消えていくのが、なんとなく想像できる。
たしかに、もし「いかにもストレートが来そうなカウントで、突然、ばったりとストレートが来なくなった」なら、打者としては非常に苦しい。
2010年シーズンのフィラデルフィアの打者は、要所要所で遭遇する数多くの変化球への対策を見つけられないまま、ポストシーズンを迎えたのかもしれない。


9回裏2死1、2塁。ライアン・ハワードの打席に戻ってみる。

ここまで書いてくると、NLCSの最終戦、Game 6の最終回の様相が、簡単ではないことがわかってくる。
San Francisco Giants at Philadelphia Phillies - October 23, 2010 | MLB.com Wrap

2010年10月23日 NLCS Game 6 9回裏 ハワード 三振

初球ストレートの空振り
前の打者、チェイス・アトリーは四球で歩いて、1塁走者を得点圏に押し上げることに成功した。
それだけに「四球直後の初球を狙え」というセオリーどおりに言えば、ハワードにとって、初球の、四球直後にストライクを取りにきた真ん中高めのストレートこそ、まさにfastball countsだったはず。
だがハワードは、その、まんまとやってきた「真ん中高めのおいしいストレート」を空振りしてしまっている。これは大失態といっていい。

4球目、2-1からの「スライダー」の見逃し
この打席で投球された7球のプロセスで、上に書いたfastball countsの定義に最もあてはまるシチュエーションは、カウント2-1からの4球目だ。ここでストレートが来てもおかしくない。
だが、このfastball countsでサンフランシスコのクローザー、ブライアン・ウィルソンが投げたのは、アウトコースいっぱいのスライダーであり、ストレートではなかった。
ハワードは、この4球目、fastball countsの定石どおり、ストレートを待っていたのだろうか? そこまではさすがにわからないが、ともかくライアン・ハワードは4球目のスライダーを見逃し、カウント2-2と追い込まれてしまった。

7球目、フルカウントからの「スライダー」の見逃し
そして、7球目。6球目のインコースのストレートをファウルしていたハワードは、7球目の真ん中低めいっぱいのスライダーに手が出ない。三振。ゲームセット。


終わってみると、ブライアン・ウィルソンの配球全体の流れそのものは「ストレートから入って、変化球で決める」という、典型的なメジャー的配球をした。大きな視点でみた場合、ウィルソンの配球はメジャーの典型的パターンで、とくに変わった点はない。
では細かい点で、とくに変わった点はあるだろうか。探せば、やはり4球目のfastball countsに目がいく。この「ストレートを投げることが多いボール先行カウント」で、「ストレート」ではなく「スライダー」を投げた4球目だけが、風変わりといえば風変わりであることに気づく。
そしてライアン・ハワードは、2009年までのフィラデルフィアの打者がそうだったように、ストレートは基本的に振り、変化球は基本的に見逃した。人間、習慣はなかなか変えられないものなのだ。


なるほど。
そういうことか。と、思う。

この「要所でフィラデルフィア打線にストレートを投げない戦略が、いかにフィラデルフィアの打者たちの狙いを迷わせたか」という視点で、このNLCS全体を見直してみたくなった。
2010 Postseason | MLB.com: Schedule






October 22, 2010

今日のフィラデルフィアとサンフランシスコのゲームは、なんともテンポが悪い、重いゲーム。正直、とてもとてもリンスカムロイ・ハラデイという好投手同士の小気味のいい投げ合い、という感じではなかった。
もちろん、チームが「勝利」を期待する投手だし、投高打低のポストシーズンなだけに、2人とも本当に大変な疲労感があるに違いない。2人には、心からお疲れ様といいたい。
Philadelphia Phillies at San Francisco Giants - October 21, 2010 | MLB.com Gameday


特に、気になったのは、ロイ・ハラデイだ。
なにかこう、ダルそうな、腕の振れてない感じのピッチングフォーム
が心配になった。

もともとスリー・クオーターというより、下手をすると、スリー・クオーターとサイドスローの中間くらいな感じでスローするピッチャーではあるが、それにしたって今日は、いくらなんでもちょっと肘が下がってしまっているように思えてならなかった。
もちろんレギュラーシーズン21勝して、今年のサイ・ヤング賞間違いなしの大投手とはいえ、10敗した中には打ち込まれたゲームも何ゲームもあり、そういう調子の悪いの登板の大半は見てないからなんとも言えないが、それでも、これほどダルそうな感覚で投げて、しかも8回どころか、6回で降板していく疲れたハラデイを見ると、いつも8回くらい平気で投げぬくタフな人だけに、肘でも痛いのかと、ちょっと心配になる。
(ハラデイ、1977年5月生まれの30代のオジサン。かたやリンスカム、1984年6月生まれ。7歳違うんだから、しかたがないといえば、しかたがないか 苦笑 ちなみに1977年生まれは、他に、野手ではアンドリュー・ジョーンズカルロス・ベルトランブランドン・インジアレックス・ゴンザレス、投手ではフィリーズの同僚のロイ・オズワルトAJバーネットヴィンセント・ペディーヤなどなど 1977 Major League Baseball Born this Year - Baseball-Reference.com

今シーズンのロイ・ハラデイのゲームログ
Roy Halladay Game Log | phillies.com: Stats



それと、もうひとつ気になるのは、
ハラデイの低めのカットボールに対する
アンパイアのコールの辛さ


NLCS(=ナ・リーグのチャンピオンシップ・シリーズ)になってからのハラデイは、打者を追い込んでから投げる「ベース上、低めいっぱいに決まる決め球のカットボール」を、かなりの数、「ボール」判定されて苦しんでいる。
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool
どうもゲーム中盤、しかもサンフランシスコのクリンアップの打席になると、決まって判定が辛くなるような気がするのは、気のせいなんだろうか。


実は、この6回の球審Jeff Nelsonの判定の辛さについては
かなりややこしい背景がある。



10月16日 Game 1
6回表のカットボール(3球目)の「ボール」判定


San Francisco Giants at Philadelphia Phillies - October 16, 2010 | MLB.com Gameday
球審は、サンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズが755本目のホームランを打ったときに球審をしていたDerryl Cousins(→NYデイリー・ニューズで検索したDerryl Cousinsのこれまでの記事はこちら Derryl Cousins)。10月21日の球審をつとめるJeff Nelson(2001年にシアトルに在籍していたブルペン投手ジェフ・ネルソンとは別人)は、このゲームではレフトの線審。

6回表2アウト1塁。バッターは5番パット・バレル。0-2と追い込んでからの3球目、決めにいった低めいっぱいのカットボールが、「ボール」判定。ロイ・ハラデイはこのあと2本のタイムリーを浴びた。
「試合の流れを決めた判定」だけに、MLBの公式サイトの動画にも、わざわざHalladay has a close call on a 0-2 pitch(「ハラデイ、カウント2ナッシングからきわどい判定に泣く」)というタイトルまでつけられた動画がアップロードされているくらいだ。実際、きわどい。
そもそも中立的な立場のMLBの公式サイトの動画で、アンパイアの判定の微妙さが動画になって残ること自体、そう滅多にあることじゃないと思う。
この件について、ハラデイ自身は記者の質問に、こんなコメントを残した。
Halladay had thrown an 0-2 fastball with two outs that looked like it could be strike three to slugger Pat Burrell, until umpire Derryl Cousins deemed it low. Did Halladay figure the inning-ending strikeout was his?
"Yeah, I did," he said. "But that's part of it. There are obviously calls that (the Giants) wanted too. That's part of the game. (後略)"
出典: Roy Halladay, Jimmy Rollins Among Phillies to Show Cracks in Game 1 -- MLB FanHouse

問題の場面の動画
Baseball Video Highlights & Clips | NLCS Gm 1: Halladay has a close call on a 0-2 pitch - Video | MLB.com: Multimedia

2010年10月16日NLCS第1戦6回表バレル3球目 投手ハラデイ2010年10月16日
NLCS Game 1
6回表 2アウト1塁
カウント0-2
ジャイアンツ5番打者
パット・バレルへの
非常にきわどい3球目


3球目の低めのカットボールを「ボール」と判定され、次の4球目、タイムリー・ツーベースを打たれ、3点目を失う。



10月21日 Game 5
6回裏のカットボール(6球目、7球目)の
「2球連続ボール」判定


Philadelphia Phillies at San Francisco Giants - October 21, 2010 | MLB.com Gameday
今日のゲームの球審は10月16日のGame 1では線審だったJeff Nelson。10月16日Game 1で球審をつとめていたDerryl Cousinsは、このゲームではセカンド塁審。

Jeff Nelsonは、Hardballtimesによれば
ルールブックに沿ったゾーン、理論的なストライクゾーンと最もかけはなれた、自分勝手なストライクゾーンを主張するMLBアンパイア」の代表格。
Jeff Nelsonのストライクゾーンは「2000年代以降にストライクゾーンが、ルールブックどおりに近い現在のゾーンに修正される前までの、ステロイダーによるホームラン量産時代の典型的ゾーン」に近く、「異常にアウトコースのストライクゾーンが広い」。
Hardballtimesは、この「古いストライクゾーン」をいまだに使っているJeff Nelsonのコールを、the classic “Glavine” call、つまり、「トム・グラビン的ストライクゾーンによる古典的なコール」と呼んでいる。特にJeff Nelsonの「右打者から見て外角のストライクゾーン」が異常に広いことは、データ的に明らか、らしい。

Jeff Nelsonは、今年2010年8月10日のボルチモアとテキサスのゲームでは、ボルチモアに不利な判定をし続けた上に、これまでメジャーのキャリアで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスの打席で、わけのわからない判定で三振させて、温厚なマーケイキスがさすがにキレたのを、マーケイキスにとってキャリア初となる退場処分にし、さらに9回には、名監督バック・ショーウォルターまで、このゲーム2人目となる退場処分にした、いわくつきのアンパイア
この「マーケイキス退場事件」が起きたのも、やはり10月16日、10月21日の両事件と同じ、「6回」。

Jeff Nelsonによって
退場になるニック・マーケイキス(動画)

Baseball Video Highlights & Clips | TEX@BAL: Markakis is ejected arguing the strike zone - Video | orioles.com: Multimedia
Jeff Nelsonによって
退場になるバック・ショーウォルター(動画と記事)

Baltimore frustrated, ejected against Wilson | orioles.com: News
2010年8月10日のデータサンプル:明らかに「ボール」
cascreamindude: Ejections: Jeff Nelson (3, 4) 
NYデイリー・ニューズで検索したJeff Nelsonのこれまでの記事:Jeff Nelson (Umpire)

HardballtimesのJeff Nelsonに関する批評
タイトルがA zone of their own(「身勝手なストライクゾーン」)という、辛辣な記事。「メジャーで、最も実際の理論的なストライクゾーンとかけはなれた、自分勝手なストライクゾーンを主張するアンパイアは誰なのか?」を、豊富なデータから解き明かす優れた記事。
Jeff Nelsonの短評は、north and south、つまり高低は正確だが、内外については古典的グラビン・コールをするアンパイア」
Jeff Nelson: The most pitcher-friendly umpire in 2007. He calls the vertical strike zone much closer to the rulebook definition. He also is willing to give the outside corner against right-handed hitters, the classic “Glavine” call a couple inches off the plate.
A zone of their own



さて今日のゲームの話に戻ろう。

6回の先頭打者として、このポスト・シーズンの活躍で一気に名を上げた感じの4番バスター・ポージーが打席に入った。
ハラデイはポージーをカウント2-2と追い込んで、6球目、7球目に「低めいっぱいのカットボール」を投げたが、いずれも「ボール」と判定され、結局、四球。ノーアウトのランナーになった。
ハラデイは、なんとかこの後、2死1、2塁を無失点に抑えるが、このイニングで降板。いつものように長いイニングを投げることはできなかった。

マーケイキスも物静かな男だが、ロイ・ハラデイも負けず劣らず冷静な男だ。だが、さすがに今日は、テレビ画面からもロイ・ハラデイの憤怒が伝わってくるほど、彼の表情は険しくなり、感情を露わにしていた。

この6回の「疑惑の2球連続ボール」判定の伏線には、初回に起きた「5番バレル怒鳴り散らし事件」がある。

2010年10月21日NLCS第5戦6回裏ポージー6・7球目 投手ハラデイ2010年10月21日
NLCS Game 5
6回裏 ノーアウト
ジャイアンツ先頭打者
4番バスター・ポージーへの
6球目、7球目




10月21日 Game 5
初回の「ストライク判定」にまつわる
サンフランシスコ5番打者バレルの「怒鳴り散らし事件」


あまり書いていて気持ちのいい話ではないのだが、6回の「2球連続ボール判定」の前に、実は、既にこのゲームの初回、例の10月16日に「ボール」判定が問題になった件の当事者であるパット・バレルが、大きな問題をひき起こしている。

5番バレルは、初回に5人目の打者として登場したが、Gamedayのグリッドで見るかぎり、明らかにストライクの「インローいっぱいに決まるカットボール」でロイ・ハラデイに三振させられた。
だがバレルは、その際、たぶん「ストライク判定」が不服だったのだろう、例のマーケイキスとショーウォルターを退場させた球審Jeff Nelsonに、大声を出して文句をつけている。
だがバレルは、球審の判定に声を張り上げて文句を言うだけで(それだけで、既に退場ものだが)済まさずに、ベンチに引き上げていくロイ・ハラデイに対して、何か大声で怒鳴り散らした
ブログ主は、ひとの唇の動きを読めるような達人ではない。だが、動画によれば、なんとなくフォー・レター・ワーズを使っているようにも見える。もしこのとき、いわゆる「フォー・レター・ワーズ」を使っているとしたら、球審は、なんらかの処分、というより、バレルを即時退場にすべきだ。
だが、球審Jeff Nelsonは、8月にマーケイキスは退場処分にしたクセに、このときは、動画を見ればわかるように、ただバレルの行動をいさめただけで、退場にしなかった

球審に文句をつけるパット・バレルの動画
YouTube - 100_0088[1].MP4

2010年10月21日NLCS第5戦1回裏バレル4球目 投手ハラデイ2010年10月21日
NLCS Game 5
1回裏 2アウト1、2塁
ジャイアンツ5番
パット・バレルへの4球目

低めいっぱいのカットボール。Gamedayのグリッドで見るかぎり、あきらかに「ストライク」。それなのにバット・バレルは球審とロイ・ハラデイに怒鳴り散らした。
球審Jeff Nelsonはバレルを即刻退場にすべきだった。

この初回の「バレル怒鳴り散らし事件」については、このゲームを取材していた沢山のメディアも気がついており、ニューヨーク・デイリーニューズ電子版などは、通常の野球記事のように、この日のゲーム内容を記事にするだけでなく、「バレル怒鳴り散らし事件」を含めて記事にしている。
ニューヨーク・デイリーニューズは、ロイ・ハラデイ自身に、ベンチに引き上げていくときの事情について質問さえしていて、さらにはハラデイからの回答も記事にしている。記事によればロイ・ハラデイは、
There are a lot of emotions at this point in the season.
「この件はシーズン中からいろいろと紆余曲折があるんだ。」
と、数々のいきさつや感情が複雑に折り重なった、やっかいな問題が存在することを認めつつ、
I thought it was a pretty good pitch.
「僕が投げたボール(初回バレルに投げたカットボール)は非常にいい球だったと思っているよ。」
と、「投球が明らかにストライクだった」と確信していることを、明確に示した。
Roy Halladay pulls groin but bests Giants 4-2, as Phillies send NLCS back to Philadelphia down 3-2

このGame 5の初回と6回の出来事をならべるとわかることだが、これは言いたくもないが、6回のポージーの打席で「低めいっぱいに入っているカットボール」を、それも「2球連続してボール判定」したのは、球審Jeff Nelsonが「初回のバレルの打席のストライク判定と帳尻をあわせた」可能性があるのである。
だが、ここが肝心な点だが、ボール自体は、動画やGamedayのグリッドで見るかぎり、10月16日Game 1の6回表バレルの打席で「ボール」判定されたカットボールも、Game 5の1回裏にバレルが三振した「ストライク」判定のカットボールも、6回ポージーへの2-2からの「2球連続ボール判定」されたカットボールも、どれもこれも「ストライク」といってさしつかえないと、ブログ主は判断している。

球審がストライクコールをしているのに、球審にも、相手投手にも汚い言葉で怒鳴るなど、もってのほかだ。そして球審は、そういう選手をこそ退場にしないで、誰を退場にするというのだ。
10月16日の「ボール」判定では、ロイ・ハラデイだってよほど腹がたったかもしれないが、彼は判定に不服などつけたりはしなかった。
それに、そもそも10月16日の「ボール」判定においては、パット・バレル側は「得」をしている側であり、ゲームにも勝っているわけであって、この初回の「ストライク」を「ストライク」と判定したことに、顔を真っ赤にして、青筋たてて怒る筋合いは全くない


もし仮に、プレーヤーに恫喝されて、球審が判定を後で「帳尻させている」と邪推されかねない行為があるとすれば、そのアンパイアには非常に問題がある。責任をとって、このポストシーズンのアンパイアを自主的に辞退したほうがいいと思う。

そもそも、この「バレルとロイ・ハラデイの間の遺恨」が発生してしまった原因は、ここまで書いてきたことでわかるように、10月16日のバレルでの打席で「ストライク」のカットボールを「ボールと判定ミスしたこと」にあることを忘れてはならない。
あきらかな「ボール」を「ストライク」とコールされて怒ったマーケイキスは退場にさせたクセに、あきらかな「ストライク」を「ストライク」とコールされただけなのに、逆ギレして怒鳴り散らしたパット・バレルは退場にしない。また、どれもこれも「ストライク」である「低めいっぱいのカットボール」を、「ボール」といってみたり、「ストライク」といってみたり、挙句の果てに「2球連続ボール」とコールしてみたり。この審判団は判定に一貫性がなく、グラグラと揺らいでばかりいる。だから、こういう不愉快な事件が続発することになる。






まぁ、こんなに早く答えが出るプレーヤーというのも、モノ哀しい。あまりにも予想どおりすぎて、かえってつまらない。
いちおう資料として残すために、ダメ捕手城島の帰国1年目の通知表をいくつか記事にしておくつもりだが、手間ばかりかかるし、結論も、もう誰でもわかっているしで、書いていて、ただただ疲れるのみだ。

以下、巨人の主軸打者4人(小笠原、ラミレス、阿部、高橋由)のクライマックスシリーズ4ゲーム分の打撃成績である。

城島マスクの2ゲーム
10月16日 阪神vs.巨人 14打数5安打2打点 打率.357
10月17日 阪神vs.巨人 19打数9安打6打点 打率.474
          合計 33打数14安打 8打点 打率.424


比較対象の2ゲーム 非・城島(つまり谷繁)
10月20日 中日vs.巨人 16打数2安打 打率.125
10月21日 中日vs.巨人 16打数1安打 打率.063
       合計 32打数 3安打 打点なし .打率.094


なぜこの4人を選んだかは、以下の2つの記事を参照してもらえばわかる。
中日戦では、巨人の1番打者・坂本は腰痛で欠場したために、比較できない。また日本の2番打者は頻繁にバントしたりしなければならないために、打席ごと、シチュエーションごとに、果たすべき役割が大きく変わる。だから2番打者の打撃内容を追跡比較しても、意味がない。
さらに、下記の記事でも書いたように、巨人のリードオフマン坂本と、3番から6番の主軸4人では「打席での狙い球」が異なり、出塁に対する方法論が異なる。主軸4人は、以下の4ゲームに共通して出場していて、打順も変わらず、彼らの打席にチームが期待する役割もほぼ変わらない。

10月17日の8回表、9回表に関する記事 1
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月17日、イニングに入る前から「そのイニングの全打者に対する配球をあらかじめ『ひとつ』に決めきって」、結果、ボコボコに打たれて逆転負け、ポストシーズン敗退というダメ捕手城島の想像をはるかに越えたダメリード。(1)「結論と原則」編
10月17日の8回表、9回表に関する記事 2
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月17日、イニングに入る前から「そのイニングの全打者に対する配球をあらかじめ『ひとつ』に決めきって」、結果、ボコボコに打たれて逆転負け、ポストシーズン敗退というダメ捕手城島の想像をはるかに越えたダメリード。(2)実戦編


14安打8打点 打率.424
草野球?(笑)


すべてビジター
巨人のバッターにとっては、これらのゲームが行われた甲子園、ナゴヤドームは、いずれも「ビジター」の球場であり、これらのゲームにホームゲームとしての有利不利はまったく関係していない。
移動の影響なし
2つのカードの間には、レギュラーシーズンより長い「丸2日間」という長い移動時間が確保されており、レギュラーシーズンでの移動のせわしなさを考えれば、十分すぎる移動と休養の時間がある。そのため、移動による疲労は、数値には関係ない。
試合勘はむしろ巨人有利の中日戦
むしろ、巨人の4人のバッターは、実戦を2ゲーム消化して、打撃好調の状態で次の中日戦に臨んでいるのであって、ウオーミングアップは十分すぎるほどであり、その間の「調子落ち」などありえない。
その他
細かいことを言えば、4人の打順も、まったく変わってない。

本来なら上の数字に、阪神と中日のチーム防御率の差(この差自体、ダメ捕手城島の自業自得であって、本来補正に加えるべきではない)、投手の違い、パークファクターなどで、多少なりとも脳内補正をしそうなところだが、ここで下される結論にとっては、全く必要ない。
なぜなら、阪神戦2試合と中日戦2試合の数値があまりにも大差がつきすぎていて、その程度の細かい補正などなんの意味ももたないからだ。そんな細かいことをしなくても、結果も、結論も、まったく変わらない。

結論。
ダメなものは、やはりダメ。
メジャーでダメ。日本でもダメ。
それだけ。


以上。


なお、10月21日の、この4人への配球球種を以下にあげておく。
打席同士を比較してみるとわかるが、まったく同じ、なんていう打席を発見することはできない。すべての打席は、お互いに少しずつ異なっている
もし、ひとつのイニングで、この4人全員に同じ配球をする、なんていう馬鹿なキャッチャーがどこかのチームにいたら、ぜひお目にかかりたいものだ(笑)

(以下、ストレート=スト、スライダー=スラ、フォーク=F 例えば、シュートと表記されている球が実際にはシンカーや2シームだったり、ストレートと表記されている球が実際には4シームや2シームが入り混じっている可能性はあるので、あくまで目安として考えてもらいたい。資料はYahoo Japan)

小笠原
スト スラ F
スト
F スト スラ F
スト F スト F

ラミレス
シュート、シュート
F F スラ
スト F スト F
F スト F F

阿部
F スト スト
F F 
スト スラ スラ F
F スト スト

高橋由
スト シュート スト F
スラ
F スト F シュート 二塁打

この4人に対する10月17日8回表の配球の話は、下記の記事参照。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月17日、イニングに入る前から「そのイニングの全打者に対する配球をあらかじめ『ひとつ』に決めきって」、結果、ボコボコに打たれて逆転負け、ポストシーズン敗退というダメ捕手城島の想像をはるかに越えたダメリード。(2)実戦編






October 20, 2010

2002年から元クリーブランドの監督をしていたEric Wedgeが、ワカマツに代わるシアトルの新監督に決まったらしいが、あまり関心はない。監督が誰になろうと、シアトルのチーム体質の弱さを決めている要因は「全く野球と関係ないところ」に存在しているからだ。


それにしても、
Eric Wedgeが「どういう人物か」を安易に話題にしたがる人に限って、やれ彼がかつてミルトン・ブラッドリーと揉めたことがあるだの、なんだの、そういう、どうでもいいことばかり気にしている。ほんと、ブラッドリーとの関係など、どうでもいい。


そんな、どうでもいいことより、むしろブログ主が非常に気になっているのは、2002年からクリーブランドの監督になって、最優秀監督賞まで貰ったことのある、このEric Wedgeの「本当の手腕」はどの程度のものなのか?ということと、Eric Wedgeと、2007年5月にクリーブランドのフロントに入ったアナリストのKeith Woolnerとの関係である。


その話をするためには、ちょっと最初に
クリーブランドの歴史を振り返ってみないといけない。

中地区5連覇、ワールドシリーズ進出2回に輝いた90年代のクリーブランド黄金時代の監督は、元シアトル監督でもあったマイク・ハーグローブだが、この90年代のクリーブランド黄金期は、このチームの順位を順にさかのぼるだけでわかることだが、2000年にハーグローブの後を引き継いだ「赤鬼」チャーリー・マニエルが監督を辞めた2002年に、まるで巨大なマーリン(カジキマグロ)が針にかかって張りつめていた釣り糸が、突如ブチ切られるように、まったく突然に終わっている。ここがまず問題だ。


Eric Wedgeがクリーブランドの監督に就任したのは、マニエルの後の2002年10月だが、チームはしばらく低迷が続いた。低迷の理由はしばしば「かつての主軸打者マニー・ラミレスや、ジム・トーミが移籍していなくなったから」と説明されている。
こういう、日本の出来損ないのウィキみたいな説明ぶりでクリーブランドの低迷を説明するやり方が、どうにも納得がいかない。
主軸の強打者が3人いれば馬鹿みたいに勝てるが、彼らが抜けると、昨日までの強さが嘘のように、突然弱くなるのが当たりまえ」みたいなアホらしいモノ言いが、非常に気にいらない。


じゃあ、何か。

クリーブランドは、アル中のアルバート・ベルジム・トーミマニー・ラミレスの「バットだけで勝てた」、とでもいうのか。

90年代から2001年にかけてのクリーブランドには、彼らのような強打のクリンアップ以外に、常に複数のゴールドグラバーがいて、チームを支えていた。そのことを忘れてもらっては困る。
ベネズエラ出身メジャーリーガーの英雄といえば、ルイス・アパリシオだ。アパリシオはフェリックス・ヘルナンデスが受賞したルイス・アパリシオ賞の元になったベネズエラ伝説のショートストップである。(資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年11月18日、フェリックス・ヘルナンデス、ルイス・アパリシオ賞受賞。
そのアパリシオが絶賛し、アパリシオがもっていたいくつかの記録を塗り替えたのが、かつてクリーブランドの黄金時代を支えたベネズエラのもうひとりの名遊撃手オマール・ビスケール(クリーブランド在籍1994-2004)。そして、ビスケールの相棒が、名二塁手ロベルト・アロマー(1999-2001)。さらに、90年代に5年連続盗塁王になったケニー・ロフトン(1992-96、98-2001)がクリーブランドにいた。
彼らゴールドグラバーの堅い守備もあったからこそのクリーブランド黄金時代であることも、忘れてもらっては困る。
守備は強いチームの野球の、非常に大事な要素である。
(ちなみに、最初シアトルの選手だったビスケールは、グリフィー・ジュニアと同じゲームでメジャーデビューしている。だがシアトルが、ドラフトで全米1位だったアレックス・ロドリゲス(当時はもちろん三塁手ではなくショート)を指名したことで、ビスケールはクリーブランドに移籍することになった)


ちょっと興奮して話が脱線した(笑)
問題は大きくは、3つある。


第一の問題;
Eric Wedgeが、才能ある若手選手に恵まれて優勝した、ラッキーなだけの監督」である可能性


最初に問題にしたいのは、Eric Wedgeが2002年10月にクリーブランドの監督に就任して、しばらくは低迷が続いて、何年かしてからようやく実現した「一時的なクリーブランドの復興(2005年の中地区2位、2007年の中地区優勝)が、本当にEric Wedgeの手腕のおかげだったのかどうか?」だ

2000年代前半のクリーブランドには、投手に、CCサバシアクリフ・リーファウスト・カーモナ、野手にグレイディ・サイズモアトラヴィス・ハフナービクター・マルチネスと、有望選手が揃っていて、彼らはみな「開花寸前の名花」だった。
まだあまり調べてないのだが、サバシアやクリフ・リーがまだ若手だったあの当時Eric Wedgeは「主軸打者の抜けてしまったクリーブランドで、若手育成を成功させ、チームを復興させた名監督」とでも絶賛されていたのかもしれないが、彼らの多くが結果的にメジャーの看板選手として大成した現在から振り返れるなら、意味は変わってくる、と思う。
Eric Wedgeは単に、「ありあまるほどの才能をもった多数の若手選手に恵まれただけの、ラッキーなだけの監督」だった可能性も、十分すぎるくらいある

むしろ、当時これだけの有望選手がズラリと揃っていたのに、たった1回しかポストシーズンに進出できなかった、1回しか地区優勝できなかった、そういう監督だ、という言い方だって、できなくはない。例えば2008年なども、サイ・ヤング賞投手とシルバースラッガー賞の打者がいるというのに、チームは81勝81敗の地区3位に甘んじているのである。
どうも「ラッキーな監督」という話で説明できてしまいそうな気がしてならないのが、ちょっと怖い。なんせ、来シーズンはこの人がイチローのいるチームの指揮をとるのである。


第二の問題;
「サイバーメトリストによる現実の野球チームにおける『野球実験』」の諸問題


Keith Woolnerは、VORP(Value Over Replacement Player)の考案者であり、知っている人も多いだろう。MIT(マサチューセッツ工科大学)出身で、2007年5月に野球のシンクタンクBP(Baseball Prospectus)からクリーブランドのフロント入りして、以降、得意分野である分析や予測を担当しているらしい。
Eric Wedge - Wikipedia, the free encyclopedia

で、ここから、
いろいろと考えなければならないことがある。

まずKeith Woolnerがフロントに加わったことが、「2008年クリーブランドの迷走」にどの程度影響しているのか、あるいは、してないのか。それが知りたい。

クリーブランドは、クリフ・リーがモノになってきた2007年に、2001年以来の中地区優勝を果たした。
だが翌2008年には、クリフ・リーがついにサイ・ヤング賞投手になり、グレイディ・サイズモアがシルバー・スラッガー賞とゴールドグラブを同時受賞しているにもかかわらず、周囲から「謎の不振」といわれる、原因のよくわからない低迷、というか、チーム運営の大失敗を犯して、81勝81敗の3位に低迷している。その結果が、クリフ・リー、ビクター・マルティネス放出に繋がった。
それ以降も、クリーブランドの低迷は、近年の中地区でのミネソタ独走状態を見てもわかるように、けして修正されているわけではない。
List of Cleveland Indians seasons - Wikipedia, the free encyclopedia

この自滅現象、最近どこかで見たような気にならないだろうか?

ブログ主はこの「2008年クリーブランドの迷走」に、Keith Woolnerがどう関わっているのかが妙に気になる

この2010シーズンのシアトルにおいて、GMズレンシックが犯した歴史的大失敗は、「超守備的野球チーム編成という『野球実験』の大失敗」であり、また「机上理論そのままに、野球チームを編成してみる、という『チーム編成実験』の大失敗例」でもある。
この「2010年ズレンシックの『野球実験』の歴史的大失敗」を見てもわかることだが、例えばプロの球団がアナリスト(それがサイバーメトリストであれ、シンクタンクであれ、何であれ)の知恵を借りるとして、「アナリストの考え方や助言を、野球の現場の運営や判断に役立てること」と、「アナリストの考え方そのものでできたチームを作ってみること」あるいは「アナリスト自身がチーム運営にあたること」とは、大きく意味が異なる

だから、もしかすると突然起こった「2008年クリーブランドの迷走」においても、「2010年ズレンシックの野球実験の歴史的大失敗」と同じような背景や事件があったりはしなかったのか?と、疑念を多少抱くわけだ。

もし仮にだが、「2008年クリーブランドの迷走」の裏で、なにか2010年シアトルの野球実験の歴史的大失敗と似た「なにかしらのアナリスト主導の野球実験」が行われていた、もしくは、「ベースボールの現場指導者と、現場に机上の理論を持ち込もうとするアナリストの激しい衝突」が存在していたとしたら、あれほど有望選手を抱えていたクリーブランドが2008年に突然歯車が狂いはじめた理由が、すこしは説明できそうな気がしてくるのである。

こうした仮説が該当する事実の片鱗でも見えてくれば、2007年春にクリーブランドのフロントに加わったアナリストKeith Woolnerの影響がわかってくるのだが、今のところはまだ、ただの仮説でしかない。
(「2010シアトルの野球実験」の失敗の教訓は、本来、関係者が十分わきまえて来年に向かわなければならないわけだが、ズレンシックと球団首脳は自分たちの失敗を、まるで認めていない。むしろ「俺たちは正しい」くらいに思っているように見える)


第三の問題;
Eric Wedgeは、理論的に野球をすることや、野球実験の意味を認めているのか?拒絶感はないのか?」という問題


2002年から監督をやっているEric Wedgeと、2007年にフロントに入ったKeith Woolnerの関係については、まだよく調べていない。可能性は無限にあって、2人の関係は非常にうまくいっていたかもしれないし、うまくいってなかったかもしれない。
いまのところ、例としては、こんな記事がある。
Statman Begins: Keith Woolner and the Indians | '64 and Counting: Scene's Sports Blog
だいぶ長いし、どうにも読みづらい記事だが、ひとことで言って、監督のEric WedgeとフロントのKeith Woolnerがうまく折り合っていたとは到底思えない記事だとは思う。
もちろん、人間関係というものは、記事ひとつで全て推測できるほど簡単なものではないので、記事ひとつみつけたくらいで結論は出さない。

いまのところ気になるのは、チームの専属アナリストKeith Woolnerとの軋轢やストレス(ストレスはうまくいっている人間同士の間にもあるものだ。珍しくない)の中で「Eric Wedgeが、「分析重視の野球をやる」というチーム運営方針に、どういう感想を抱くに至ったか、それにどのくらい賛意をもっているか」という点だ。

もし仮にだが、Eric Wedgeが「アナリストの野球には、もうウンザリだ。あいつらの言うことなんか聞きたくない。アナリストは野球のボールにも触ったことがないクセに」とでも思っているとしたら、今後も野球実験をするつもりでいるように見えるズレンシック、そしてシアトルのフロントオフィスの監督選びは、そもそも、出発点からして根本的に間違った人選をしていることになるのであるが、来シーズン、いったいどうなるか。


もし来シーズンが、歴史的大失敗の今シーズン以上の破滅的シーズンになるとしたら、いくらアナリストの分析や理論を押し付けようとしても、この「かなり個性的で、熱血な監督」のコントロールはきかなくなる。
当然の話だ。






たぶんロン・ワシントン自身、打たれるのがわかっているトミー・ハンター先発のGame 4を楽勝できるとは思っていなかっただろう。
Texas Rangers at New York Yankees - October 19, 2010 | MLB.com Gameday


ALCSのGame 1で、(ALCS=ア・リーグのリーグ・チャンピオンシップ。ナ・リーグのチャンピオンシップはNLCSと略す)、テキサスが逆転負けした原因は、終盤にちょっとヤンキース打線に打たれたくらいで動揺した監督ロン・ワシントンの弱気にあった。
あのとき彼が投入しまくったブルペン投手はことごとく打たれていったが、たった一人だけ動揺してない投手がいた。

それがデレク・ホランド
今日のGame 4でも、実にいい感じ。

あれからロン・ワシントンは、ダレン・オリバーを勝ちゲームの最重要な場面で使わなくなった。また、Game 1でスタメンマスクだったキャッチャーのマット・トレイナーを使っていない。ロン・ワシントンは、Game 1の失敗ですぐに「頭を切り替えた」わけだ。


シアトルというチームをブログ主が嫌いなのは、「チームに何か致命傷になる欠陥が見えたとしても、シーズンが実質終わるまで、まるで対策しない」からだ。
たとえば、2010年の「打線の問題」がそうだ。バッティングに致命的な問題があることくらい、春にはわかっていたが、シアトルは何も手を打たなかった。
そして100敗しておいて、何かするのかと思えば、無能なGMが「どうだ、この俺がマイナーを充実させたんだぜ。すごいだろ。へへっ。」とか、馬鹿なことを言い出す始末。
まるで何をやらせても動きのニブい、太り過ぎのド田舎の公務員みたいなチームだ。


そんなどうでもいいことより
デレク・ホランドだ。

いつも彼にしてやられているシアトルファンはよくわかっているわけだが、ホランドは「クール」な印象がある。どこかクリフ・リーに通じる雰囲気がある。表情がとにかく変わらないのがいい。
Game 1の記事で、好投していたCJウィルソンの終盤のピンチで、投げさせるべきセットアッパーは、どうみてもダレン・オリバーダレン・オデイではなくて、ホランドだ」と言ったわけだが、それはデレク・ホランドの「クールさ」が理由だ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月15日、まさしく監督の経験の差が出たテキサスのリーグ・チャンピオンシップ第1戦。ロン・ワシントンの「乱心」。

クールなホランドなら、Game 1の、あの酷く追い詰められた場面でも、それほど動揺はしないと予想できた。
今日のGame 4でも、ホランドはアテにできないのが最初からわかっている先発のトミー・ハンターをロングリリーフ(3回2/3)して、ヤンキース打線を見事に沈黙させた。十分すぎる仕事だ。テキサスの今日の勝ちは、デレク・ホランドのおかげである


デレク・ホランド
ア・リーグ西地区のゲームを見るとき、ちょっと名前を覚えておいてほしい投手のひとりである。






October 19, 2010

心をへし折られたら、すぐさま相手の心を折り返せ!
まさに、そんなゲーム。

真打ちクリフ・リー、ア・リーグ・チャンピオンシップ(ALCS)初登場で、圧巻の13三振
13奪三振の動画(MLB公式)
2010 ALCS: Game 3 | ALCS Gm 3: Lee strikes out 13, earns the win - Video | MLB.com: Multimedia

13奪三振は彼のキャリア・ハイ・タイ。これまでに彼が13奪三振を記録したゲームは、クリフ・リーがテキサスに移籍して4ゲーム目の試合にあたる、今年2010年7月27日のオークランド戦がある。(Oakland Athletics at Texas Rangers - July 27, 2010 | MLB.com Gameday

クローザー、ネフタリ・フェリースも2三振を加え、2投手合計でなんと15三振。27アウトのうち、15三振だから、実に9分の5、半分以上のヤンキースのアウトが三振であることになる。(スタメンで三振しなかったのは、ロビンソン・カノーのみ
生馬アイザック風に言えば、まさに、これぞ「クリフ・リー・タイム」。ポストシーズンのチーム打率3割だったヤンキースを、それもヒッターズパークのヤンキースタジアムで、まさに「ねじふせた」。

クリフ・リーがタンバベイ相手に2回登板した関係で登板できなかったALCS Game 1でテキサスがかなり酷い逆転負けを喫したときには、どうなることやらと思ったが、いやはや、Game 2といい、テキサス、強い
ロン・ワシントンは、見事にALCS2勝目をモノにして、対戦成績を逆転した。
ちなみにMLB公式によると、ALCSが7試合制になった1985年以降、2勝1敗になった20チームのうち、15チームがALCSを制しているらしい。(2勝1敗になりながら負けた5チームの中の1チームが、1995年のマリナーズ)
今日のALCS Game 3
Texas Rangers at New York Yankees - October 18, 2010 | MLB.com Gameday


この勝利で、クリフ・リーはポスト・シーズン通算7勝で、まったく負けていない。(フィラデルフィア4勝、テキサス3勝)。また、リーグ・チャンピオンシップでも、2勝0敗(NLCS 1勝、ALCS 1勝)で、ERA 0.00。まだ1点も自責点がない。
加えて、この日の13三振でクリフ・リーは、タンパベイとのディヴィジョン・シリーズでの2登板21奪三振を含め、同年度のポストシーズンゲームで3試合連続の2ケタ奪三振。これはポストシーズン史上初
またポストシーズンERAは、前の登板までで1.44だったが、今日の8イニングで1.26にまで上昇。歴代1位のサンディ・コーファクス(0.95)、2位のクリスティ・マシューソン(1.06)、2人の殿堂入り投手のポストシーズンERA記録がいよいよ射程圏内に入ってきた。

ALCS Game 1の記事
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月15日、まさしく監督の経験の差が出たテキサスのリーグ・チャンピオンシップ第1戦。ロン・ワシントンの「乱心」。
クリフ・リーの前の登板
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月12日、クリフ・リー、無四球完投!「アウトコース高めいっぱいのカーブ」を決め球に、11奪三振。テキサスがヤンキースとのリーグ・チャンピオンシップに進出。
クリフ・リーの2010シーズン全登板記録
Cliff Lee Game Log | texasrangers.com: Stats


今日のクリフ・リーのストライク率は、67.2%(122球82ストライク)。フェリックス・ヘルナンデスを含め、普通の投手にしてみれば十分高いストライク率だが、前の登板で75%もの超絶のストライク率をたたきだしているクリフ・リーにしてみれば、ストライクが少なかったゲームではある。だが、それでも四球はひとつしか出さず、13奪三振。たいした投手だ。
試合後のインタビューによれば、クリフ・リー自身は「良かったのはカットボール」と言っている。たしかにカーブは前のゲームよりもコントロールとキレがよくなかった。また、アンパイアも、前のゲームの素晴らしいアンパイアJeff Kelloggほど、きわどいコースを見極められる人ではなかった。
"I was just throwing strikes," Lee said. "The cutter was a really good pitch for me today."
Lee K's way into record books | MLB.com: News


8月に「今シーズンのサイ・ヤング賞に最もふさわしいのはクリフ・リーだ」と書いたが、やはり間違ってなかった。サイ・ヤング賞の投票自体はポストシーズン前に終わっているのだが、そんなこと、別にどうだっていい。
サイ・ヤング賞をとれようが、とれまいが、彼クリフ・リーこそ、
今年のア・リーグ最高の先発投手である。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月19日、CCサバシアには申し訳ないが、今シーズンのア・リーグのサイ・ヤング賞にふさわしいのは、さまざまなメジャー記録を更新しそうなクリフ・リーだと思う。
こんな素晴らしい大投手を、シアトルは、モノになるかどうかもわからないプロスペクト数人程度で交換してくれたのだから、テキサスは同地区のチームとして、さぞかし喜んでくれていることだろう。
ズレンシックが無能」なのは、とっくにこのブログでは遥か昔に「決定事項」だが、テキサスとのトレードをいまだにwin-winなどといっているシアトルファンと関連メディアは、馬鹿そのものとしか言いようがない。
クリフ・リー、そしてフェリックス・ヘルナンデス、2人のサイ・ヤング賞候補クラスの先発投手がいて、どこを、どうするとシーズン100敗できるのか。ズレンシックは、「マイナーが充実したから、俺は仕事した」とか小学生の作文より酷いレターを公開して言い訳してないで、一刻も早く辞任すべきだ
Hamilton, Lee honored as AL's best in June | MLB.com: News


それにしても、クリフ・リーも凄かったが、クローザーのネフタリ・フェリースも凄かった。8点リードしていても手抜きなどせず、100マイルの超スピードボールを、ジーターマーク・テシェイラに1球ずつお見舞いして、2人とも揃って三振に仕留め、綺麗に圧勝劇を締めくくった。
ちなみに、元テキサスのマーク・テシェイラは、ここまで無安打。古巣テキサスの投手にパーフェクトに抑えられている。「絶対にテシェにだけは打たせるものか」という、テキサスサイドの強い意志が感じられる。

フェリースがどのくらい凄かったかって?
こう言えばわかるだろう。

テキサスのキャッチャー、ベンジー・モリーナは、フェリースのストレートを受けるたびに、ボールをピッチャーに返した後で毎回毎回ミットのほうの手をブラブラと振って、手の激痛をこらえなければならなかった。つまり、ミットが意味をなさなくなるくらい、フェリースの豪速球はモリーナの左手を酷く痛めつけ続けたのである。
メジャーのバッターなども、デッドボールや、自打球が当たった場合でもあまり痛がるそぶりを見せないことはよく知られているが、キャッチャーがあれほどあからさまにミットの中の手の痛みを、しかもイニング中ずっと表現し続けるのはかなり珍しい。






October 18, 2010

阪神対巨人のクライマックスシリーズ第2戦、キャッチャー城島は、8回表の打者6人全員に「ストレート、フォーク、フォーク、フォークという配球」、9回表の打者6人全員に「フォークで入って、ストレートで決める配球」をして、結果的に大逆転負けして、チームをポストシーズン敗退に導いた

前記事の(1)で結論は書いたから、この(2)では、もうちょっと詳細な部分を書いてみる。

資料:Yahoo!プロ野球 - 2010年10月17日 阪神vs.巨人 一球速報


8回表、9回表のデータを見る上で、最初に知っておかなければならない「ゲーム全体の流れ」がある。ゲーム当初からの巨人の打者の狙い、阪神バッテリーの狙い、である。このくらいのことは頭に入れてから見ないと、まるで面白くもなんともない。

巨人側・打者の狙い球
1)1番坂本、7番長野の2人は、基本的に「変化球狙い
2)小笠原ラミレス高橋由阿部の主軸4人は
  基本的に「ストレート狙い(特に高橋由)」
  ただ「フォークも振ってくるが、空振りが多い。
  ストレートしかバットに当たらいない(ラミレス)」
  ことも多少ある

阪神バッテリー側・配球上の狙い
1)先発・久保の段階から「フォーク」は決め球に使っていた
2)2番亀井は、阪神バッテリーが
  「ここで打線のつながりを断ち切る」と決めているバッター
  他のバッターとは攻め方を変えている
3)3番・小笠原には「インコース攻め」を徹底
4)6番・阿部に対する決め球は「フォーク」


攻守両チームの狙いを突きあわせるとわかると思うが、両チームの「狙い」は、いくつかの部分で「最初から勝ち負けが決してしまって」いて、さらに戦略勝負では基本的に最初から巨人側が勝っている。
なぜなら巨人打線においては、主軸バッターは「ストレート狙い」、下位の長野から1番・坂本までの打者は「変化球狙い」と、メリハリをつけていることについて、阪神バッテリーはゲームが終わってしまうまで、ほとんど気づいていないか、十分な対策をしていないからだ。
たとえば、ストレートの狙いの高橋由の2ランだが、打った球はデータ上は「スライダー」と記録されているが、コースからみて、たぶん実際には投手・久保田のスライダーが高めに抜けた球だろう。だから、打った高橋由にしてみれば「棒球のストレートを打った」という感覚だろうと思う。つまり、スライダーを狙い打ったというより、「ストレート狙いのタイミングが効を奏した」というほうが正しい。
また、試合序盤にインコースをファウルか空振りばかりして、簡単にストライクをとらせてくれた小笠原に対する「インコース攻め配球」を、ピッチャーが久保田、藤川に変わったとたん、城島は「アウトコース低めの変化球で決める配球」に変えてしまって、アウトコースを痛打されまくっている。
この2つの例などはダメ捕手城島が、打者の狙いを感じとって配球をその場で発想、変更するのではなくて、「あらかじめ考えてあった安易な配球パターンを、相手の出方も見ずに、ただただ実行しているだけ」という動かぬ証拠である。

両軍の「狙い」の細かい勝ち負け勘定
1)坂本の「変化球狙い」は、坂本の勝ち
2)亀井を徹底して抑えて打線を分断する狙いは、
  阪神側の狙い通り。
  ところが8回の四球だけは、亀井の勝ち
  出塁への執念が、2点タイムリーを呼び込んだ。
3)小笠原へのインコース攻めは序盤だけは効を奏した。
  だが投手交代後に
  変化球でアウトローをつく配球に変えてしまい、
  そのアウトローを打ちまくられた

4)ラミレスに、3球続けてフォークを投げたことで、
  適応力の高い打者であるラミレスの目が慣れて
  逆転の2点タイムリーを浴びた

5)一貫してストレート狙いの高橋由の2ランは、
  おそらく阪神・久保田のスライダーが抜けた失投
6)阿部へのフォーク攻めは、一貫して阪神側の勝ち


さて、前提が出揃ったところで、各イニングを詳しく見てみる。
(以下、画像はクリックすると別窓で拡大)

まずは、8回表


先頭打者 脇谷
4球目フォークをピッチャーゴロ

2010年10月17日 阪神vs.巨人 8回表 先頭打者脇谷ストレート2球のあと、フォーク、フォークで凡退。初球・高めのストレートはファウルしたが、3球目・真ん中の甘いフォークは見逃している。おそらく、8回から打席に入った交代選手なだけに、打撃の照準をピタリと合わせるまでに至らなかったのだろう。


2人目の打者 坂本
狙いのはずのフォークで三振

2010年10月17日 阪神vs.巨人 8回表 2人目打者 坂本脇谷と違って、最初の打席から一貫して変化球に対応している。第1打席、第2打席の連続ヒットは、いずれもフォーク。
それだけに、8回に阪神の投手が、持ち球の種類が少なくフォークのある藤川に代わったことで、坂本の「フォーク狙い」がピタリとハマるはずだった。
だが、フォーク狙いがはまったことが、かえって災いして、外のボールになるフォークを我慢できずに、三振した。やはり野球は簡単ではない。


3人目の打者 亀井
粘り勝ちの四球

2010年10月17日 阪神vs.巨人 8回表 3人目打者 亀井阿部と並んで、このゲーム、最大の安全牌のはずの打者。
だが、よく調べるとわかるのだが、この日の亀井がここまでことごとく凡退しているのは、どの打席でも「他の打者には使わない配球ばかり」されているからだ。
例えばこのイニングでも、「初球からフォークという配球をされたのは、亀井だけ」。1番・好調の坂本と中軸打者の繋がりを切断することで大量失点を防ぎたい阪神バッテリーにしてみると、この2番亀井だけは「どうしても打たせるわけにいかなかった」はず。
実際、もしこのゲームの序盤で亀井が打線を繋いでさえいれば、間違いなく14安打5四球の巨人のワンサイドゲームになっていた。
その「阪神側が絶対に凡退させなければならない、安全牌のはずの亀井」が「2アウトから選んだ四球」だからこそ、この四球には非常に大きな価値があった


4人目の打者 小笠原
初球ストレートを二塁打

2010年10月17日 阪神vs.巨人 8回表 4人目打者 小笠原「甲子園球場では打てない」と言われ続けてきた打者だけに、小笠原のバット復活は、巨人がクライマックス・シリーズ最初の関門を突破できた大きな要因に挙げていいだろう。
それでも、このゲームの序盤、小笠原は阪神バッテリーの執拗なインコース攻めに苦しんでいた
バットを長く使い、長い竿を力まかせに振り回して唸らせるように「ブンッ!」と振り回す特殊なスイングのプルヒッターなだけに、バッテリーがインコースを執拗に攻めたくなること自体は、よくわかる。(小笠原がインコースを打つのが下手だ、という意味ではない)
インコースを打つ場合、ベース際に立って、腕を小さく折りたたんでバットヘッドを自分の腹の内側に抜くように打つ打者も多いが、小笠原はベースから離れて立って、踏み込んで、なりふり構わずフルスイングしてくる。
逆にいうと、バットヘッドが遠回りしてくるような感じのスイングなだけに、フルスイングでスイングスピードを上げないと、インコースの速球には振り遅れが発生しやすくなりそうだ。
だからこそ、個性的なスイングスタイルをもつ小笠原は、インコースを窮屈なフルスイングで振り抜くよりも、腕を長く使って大きく振り回せるアウトコースのほうが、かえって打球をライトに引っ張りやすい気がする。
ゲーム序盤に「しつこいインコース攻め」で小笠原を凡退させ続けていた阪神バッテリーだったが、ゲーム中盤以降はその「インコース攻め」をパタリとやめてしまった。これは、投手が藤川に代わった8回に配球を変え、「ストレートを1球だけ見せておき、その後は、ひたすらアウトコース低めにフォークを連投し続ける」という、アウトコース主体の配球に固定されたためだろうと確信する。(もちろん「ランナーが出ると城島は必ずアウトローを突いてくる」という典型的パターンでもある)
安易に配球戦略を変えたために、小笠原にアウトコース低めをライトに引っ張られてしまい、阪神バッテリーは二塁打を許した。


5人目の打者 ラミレス
合っていなかったフォークを、逆転の2点タイムリー

2010年10月17日 阪神vs.巨人 8回表 5人目打者 ラミレス2点タイムリーはアウトコース低めのボールっぽいフォークだが、2打席目を見ると、そのフォークで三振してもいる。
だから、明らかにストレート狙いに徹していたように見える高橋由などと違って、ラミレスはストレートだけを狙っているというより、単に、試合序盤、久保のフォークに合わせきれてなかっただけだろう、と考える。
試合後のラミレスは8回の打席について「ホームランはいらない。なんとかヒットを打とうと思った」と発言している。これなど聞いても、彼はシチュエーションに対応できる柔軟性の高いバッターであり、ストレートだけを狙うとは思えない。
他のインタビューでは「もし(打った藤川のフォークが)ワンバウンドだったら空振りしていただろう。だけど、そうではなかったから、ついていけた」なんてことを、正直に言っている。だからどうみてもラミレスには「フォークが来るのはわかっているのだが、ついていけてない」という感覚があったことになる。
もし、阪神バッテリーが3球も続けてフォークを投げたことで、ラミレスの目が「アウトコース低めのフォークの軌道に慣れて」いなければ、この逆転タイムリーは生まれていない、ということだ。


6人目の打者 阿部
2球目フォークをセカンドゴロ

2010年10月17日 阪神vs.巨人 8回表 6人目打者 阿部ブログ主が「ダメ捕手城島がこのイニングの配球をイニング開始前から決めていた」と確信する大きな根拠のひとつは、この日は合っていなかったフォークを執念で打ち崩したラミレスの2点タイムリーより、むしろ、このゴロアウトになった阿部の打席だ。
負ければ終わりのこの大事なゲーム、たとえ逆転の2点タイムリーを浴びた直後とはいえ、いくらなんでも、まだ1点差だ。普通、ラミレスと阿部、まるっきり同じ配球はしないだろう、と、誰しも考える
ところが、だ。
阿部に対して、初球ストレート、2球目フォークで、セカンドゴロ。藤川球児はストレートが早いだけに、球速で「投げようとした球種」がわかる。ストレートなのか、それとも、フォークのすっぽ抜けなのか、間違えようがない。明らかに阿部への配球は、ラミレスへの配球をそのまま踏襲している。
だからこそ。2人さかのぼって、小笠原が二塁打をかました「初球のストレート」も、明らかに「2球目以降(あるは決め球として)アウトコース低めにフォークを連投していく配球をするための伏線」と、言い切ることができるのである。




9回表

だいぶ書いていて疲れてきた。画像を処理するのがめんどくさくなってきたので、記号だけで済まさせていただく。下記は、9回の打者と、それぞれに使われた球種。Fがフォーク、Sがストレート
ダメ捕手城島の9回表の配球が、8回表同様に、いかに単純で馬鹿馬鹿しいものだったかを知るには、これを見るだけで十分だ。
このイニングでは初球、2球目にフォーク、3球目以降がストレートと、8回と全く逆の配球を使っている

高橋由  フライアウト FFS
長野   四球 SFSSSSS
(送りバント)
脇谷   四球 FFSS
坂本   四球 FFSSS
亀井   フライアウト SSS

前回の記事の記述で、「もし亀井が打線を繋いでいたら、このゲームは巨人のワンサイドゲームになっていた。阪神バッテリーは、亀井に、先頭の坂本と主軸打者を繋ぐ役割をさせないために、亀井に対してだけ特別な配球をして、それを防いだ」と書いた。

8回表の阪神バッテリーは「初球にストレートをみせておいて、その後はアウトコース低めのフォークを連投する」という配球をみせていたが、亀井に対してだけは「初球にフォーク」を投げた
9回表の阪神バッテリーは「フォークを2球みせておいて、その後はストレート連投」と、8回の配球とまったく逆の配球を見せて巨人打線をかわそうとしたが、この9回も、亀井に対してだけ「初球からストレートで押して」うちとって、2死満塁という大量失点のピンチを防いだ。


上のほうで書いたように、
8回表に、阪神バッテリーが主として対戦したのは「ストレート狙いをしてくる主軸打者」だったわけだが、ダメ捕手城島が「初球にストレートをみせておいて、その後はアウトコース低めのフォークをひたすら連投する」という配球を「8回のすべての打者に続ける」という馬鹿すぎるリードをしたせいで、ゲーム序盤のインコース攻めに手こずっていた小笠原の2塁打を生み、必ずしもフォークにあっていなかったラミレスの目をフォークに慣れさせる結果になって、逆転の2点タイムリーに繋がった。

次に、9回表、阪神バッテリーが対戦したのは、「変化球狙い」の長野、坂本など、下位から先頭にかけての打者たちだったわけだが、このイニングの阪神バッテリーは「フォークを2球ほどみせておいて、その後はストレート連投」と、8回とはまったく逆の配球をみせた
この回の藤川球児は既に投げ過ぎの状態にあるだけでなく、8回のフォークの投げ過ぎで、おそらく握力もなくなってきていたことだろう。巨人打線の徹底した待球によって満塁のピンチを招いた。






長い文章を読む根気の無い人のために、「結論」を先に書いておく。

こんな、誰でもわかって当たり前、起きて当たり前の「人災」など、時間をかけて書いても疲れるだけだが、こんなブログを始めた行きがかり上、しょうがない。
こんなわかりきった話より、ロイ・ハラデイリンスカムの投げ合いとか、ロン・ワシントンがGame 1の逆転負けから自分らしさを取り戻してヤンキースを叩いたGame 2の話、フィラデルフィアのGame 2、9回のラウル・イバニェスの見事なダイビング・キャッチの話でもしていたいものだ。
城島のような捕手がメジャーでまったく通用しなかった理由くらい、こういう逆転負けでCS敗退が決まった最悪のゲーム(またはレギュラーシーズンの優勝の可能性が無くなった横浜・村田の逆転3ランとか)を見れば、誰でも理解できるのが当たり前であって、議論などまったく必要ない。
横浜・村田の逆転3ランについてのブログ記事
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月30日、逆転3ランを打った村田が「なぜ、あれほど勝負のかかった場面で、高めのクソボールを強振できるのか?」についてさえ、何も書かない日本のプロ野球メディア、野球ファンの低レベルぶり。

セ・リーグのポストシーズンの最初の行方を決したゲームだが、次の(2)実戦編で詳しく書くが、イニングに入る前からダメ捕手城島の配球パターンは決まっていた
昔なら腹を抱えて笑うところだが、今は、ただ冷ややかに笑うだけだ。まるでオセロの駒か座布団でも裏返すように、8回と9回で、単にパターンを裏返しただけの「お好み焼き配球」(笑)。キャッチャーがこんなボーンヘッドをしでかしているのに、「打たれるのは投手のせい」とか言い続けている人がいたら、それはただの印象操作か、ただの馬鹿だ。


まず8回の配球はこうだ。
まず、ストレートを1球だけ見せておく。で、2球目以降、ひたすら、アウトコース低めのフォーク、フォーク、フォーク(笑)」たったこれだけ(笑)

ラミレスに対する配球「だけ」がコレだと思っている人だらけだが、巷の野球ファンは見る目がないねぇ(笑)
甘い、甘い(笑)この配球は、このイニングの先頭打者脇谷、2人目の坂本から始まって、挙句の果てに、ラミレスに逆転タイムリーを浴びたにもかかわらず、すぐ次の打者阿部に至るまで、「このイニングの6人の打者全員にまるで同じ配球」をしてる(爆笑)
この話、信じられない人は、一度この合計6人分の配球を「自分の目」でデータを確かめてくるといい。5分もかからずに、このブログの言ってることがわかるし、また、いかに「自分がいかにゲームを見てないか」もわかる。

9回は、8回と逆。
まずフォークを2球ほどみせておく。それからストレート、ストレート、ストレート」(笑)
いや、もうね(笑)何も言う言葉がみつからない。


チリの落盤事故から生還した人たちの歓喜の歌は、「チ!チ!チ! レ!レ!レ!」だったが、城島のは「フォーク!フォーク!フォーク!(8回)、ストレート!ストレート!ストレート!(9回)」だ(失笑)

ゲームログ
Yahoo!プロ野球 - 2010年10月17日 阪神vs.巨人 一球速報


仮に、あなたが野球で金を稼ぐプロの打者だとする。

もし、大事なゲームの、あるイニングで、相手チームのキャッチャーが「そのイニングの打者全員に、まったく同じ配球をしてくる」とわかっているとしたら、あなたなら、どうする。
まして、それが、ポストシーズンのあるステージの勝ち負けを決定するゲームの、それもゲーム終盤の8回、9回だとしたら?

ブログ主なら、絶対にスタンドにホームランを放り込んで、ヒーローになる。野球がメシの種なのだ。当然である。わかっている球が打てないくらいなら、野球など辞めたほうがいい。



このゲームの細かい点は(2)実戦編にゆずるとして、その前に、2つ、頭にいれておくべきことがある。
1)阪神のポストシーズンのチーム打率が、レギュラーシーズンより大きく降下したこと。一方で、巨人のチーム打率が上がったこと
2)阪神・藤川球児の持ち球は、ストレートとフォークしかないこと

1)の事態が予想された理由は、関連する現、関連する現象(セ・リーグの上位球団と下位球団の格差)なども含め、このブログで既に何度も書いている。
阪神のレギュラーシーズンの異常に高すぎるチーム打率が「ロクにスカウティングしない下位球団」を打ちこんだだけのものなので(打者によって得意とする下位球団は多少違う。城島、ブラゼルなら横浜、マートンならヤクルトだ)、強豪同士の対戦になるポストシーズンになれば阪神の打撃は急激に低迷することは簡単に予測できる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月3日、格差社会そのもののセ・リーグの球団格差と、まやかしの打力を生み出す、遅れた日本のスカウティング・システム。

また、巨人というチームは、プロ野球セ・リーグで阪神・ブラゼルの弱点の洗い出しに最初に成功したチームであり、ポストシーズンでの対阪神戦でも、巨人のスカウティング能力の高さ(と、いっても「日本のチームにしては高い」という程度のレベルだが)をいかんなく発揮して、阪神打線を沈黙させる、という予測もできた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月30日、逆転3ランを打った村田が「なぜ、あれほど勝負のかかった場面で、高めのクソボールを強振できるのか?」についてさえ、何も書かない日本のプロ野球メディア、野球ファンの低レベルぶり。


また、2)の藤川球児の持ち球についてだが、ボストン・レッドソックスの優秀なクローザー、ジョナサン・パペルボンの最近の権威の失墜ぶりと非常によく似た現象が、藤川球児にもあると考えている。

メジャーのゲームを見ない人にはわからないかもしれないが、ジョナサン・パペルボンは最近ストレートを狙い打ちされ、長打されるようになってきて、スプリット(日本でいうフォーク)を多投するようになりはじめた。
パペルボンは、いわゆる「打者、特に弱いチームの打者を見下ろす(みおろす)ような雰囲気で自慢の速球を投げこんでくるタイプ」の強気なクローザーだったが、よくよく見ると、今までも速球のコントロールは別にそれほど良いわけでもなかった。
だが、ボストンの強力打線にバカスカ打たれまくって、守備ばかりさせられて心の折れかかった負けチームの最終回の打者は、どうしても投げやりなフリースインガーだらけになりがちだ。彼らは、パペルボンの速球にまるで目が追いついていってないクセに、ボール球でもなんでも、やたらと強振してくれる。
だから、ちょっと前のパペルボンは、面白いように三振をとれた。

それが、どういうものか最近、事情が違ってきた。各チームの打者がパペルボンのボールになる速球を見切れるようになりはじめ、また、ストレートを打ち返せる打者が増えてきた

きっかけを作ったのがどのゲームか、ハッキリ思い出せないのだが、ボストンを大の苦手にしてきたボルチモアがバック・ショーウォルターを新しい監督にしたばかりの頃、9回にパペルボンを打ち崩して逆転勝ちしたゲームがきかっけだったように思う。あのゲームを境に、「パペルボン神話」というか、彼のクローザーとしてのカリスマ感は失墜していった

こうなると、変化球の持ち球の種類が少ないパペルボンは追い込まれていく。
最近のパペルボンは「打者にストレートを狙われている。投げる球がない」と感じると、スプリットを投げてくるようになった。ああなっては、やはり「クローザーとしての権威」は何ランクも落ちる。

最近のパペルボンの弱気さは、ヤンキースのマリアーノ・リベラと比べると、よくわかる。
リベラは、たとえイチローにサヨナラ2ランを浴びようが何をしようが、結局は、平然と自分の得意球カットボールをインコースに投げこんでくる。(ただ、もっと詳しいことをつけ加えておくと、最近のリベラは「ここは絶対カットボールだろう」という場面で、わざと4シームを投げたりするようにはなっている。けして昔と同じように自信満々たっぷりで投げているわけではない)
クローザーは「打者に舐められだしたらオシマイ」。そのことをパペルボン以上によくわかっているのが、リベラだ。


もし、パペルボンが、キャッチャーから、「あっさりポストシーズン敗退する阪神の正捕手さん」のような「全部の打者に、まったく同じ配球をするように要求」されたら、どうなるだろうか。


まず打者は、いくらピッチャーがパペルボンでも、バカスカ打つ。それがいくら弱小球団の下位打線の打率2割しかないような打者であっても、打つ。それがメジャーという場所の、日本のプロ野球にない怖さ、レベルの高さだからだ。
また、パペルボンはパペルボンで、「おまえ、クローザーの俺を舐めてるのか?」と怒りまくるだろう。クローザーはセットアッパーとは違う。
クローザーは抑えて大金をとっている。「どう考えてもプロのバッターを抑えられっこない、酷い配球」をしつこく要求してくるキャッチャーなど、あきらかにクローザーにとっては営業妨害だ。「全部の打者に同じ配球をするような手抜きキャッチャー」は、「クローザーの邪魔なだけ」だ。
もしそんなキャッチャーと組まされ続ければ、パペルボンも、フェリックス・ヘルナンデスや、エリック・ベダードや、ジャロッド・ウオッシュバーンのように、「自分の営業を邪魔しないキャッチャー。手助けてくれるキャッチャー」を指名するようになるかもしれない。


と。いうか、だ。

ひとつのイニングで、
6人も7人もの打者にまったく同じ配球?

そういう馬鹿馬鹿しすぎる話題について
「ありえる」とか、「ありえない」とか、
そういう議論自体、ありえない。



「ありえなさすぎる」レベルの馬鹿。
まさに地球サイズ
まさにプライスレス人災だ。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月17日、イニングに入る前から「そのイニングの全打者に対する配球をあらかじめ『ひとつ』に決めきって」、結果、ボコボコに打たれて逆転負け、ポストシーズン敗退というダメ捕手城島の想像をはるかに越えたダメリード。(2)実戦編 に続く。






October 16, 2010

楽勝と思われたゲームを、監督のロン・ワシントンみずからが壊してしまい、テキサスが負けた。
特にテキサスのファンというわけではない自分ですら、あまりにも酷すぎる負け方を見て、気分が悪くなった。関係者なら、なおのこと心が折れるゲームだったに違いない。次のゲームに間違いなく影響が出るだろう。
勇気をもってチームを統率すべき監督の「小心さ」が、これほど露わになってしまっては、ゲームにならない。
こんなこと書きたくはないが、昨年7月にコカインの使用がバレた(レンジャーズ監督からコカイン陽性反応 - MLBニュース : nikkansports.com)この監督は、やはりそういうことでもやらないかぎり、大胆な采配をし、ベンチにドッカリと腰を据えていることのできない小心男かもしれない。
5-1と4点もリードして迎えた8回表に、ガードナーに内野安打、ジーターにタイムリーを打たれ、「失点したのに無死2塁のランナーがまだ残っている」と考えただけで、ロン・ワシントンは負ける恐怖に完全に我(われ)を見失った。
ブルペンでは自分の出番だろうと肩をつくりかけていたクローザーのフェリースが脱力したように椅子に座っていた。
New York Yankees at Texas Rangers - October 15, 2010 | MLB.com Gameday


いま見たばかりの酷い出来事を、
忘れないうちに要点だけ書きとめておくことにする。


1)監督の精神的パニックによる
  投手交代ミスの連続と、ブルペン投手の浪費

昨日の記事で、ボビー・コックスのアトランタを例に挙げて、こんなことを書いた。
選手層が薄いチームほど、やたらと選手交代する
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月13日、今年のポスト・シーズンに有名投手がズラリと揃った理由。多発する「曖昧なプレー状態」。
今日のロン・ワシントンは、まさに敗退したアトランタとそっくり同じミスを犯した。前の記事でも書いたが、監督がこれだけブルペンを無駄に注ぎ込んで負けたら、健康なブルペン投手がいなくなり、ブルペン全体に疲労が蓄積されて、これからゲーム終盤の逆転負けが多発する可能性が出てくる

そもそも先発で好投していたCJ・ウィルソンを、2点目を失点したくらいで代えるべきだったかどうか怪しいし、ウィルソンを続投させるか、あそこはダレン・オリバーではなく、クローザーのフェリースを投げさせるべきだと思った人も多いだろう。
また、レギュラーシーズンでホランドと対戦し、彼に苦もなくひねられ続けているシアトルファンにしてみれば、「代えるにしても、なぜダレン・オリバーではなく、ホランドを出さない?」と疑問に思った人もいると思う。(実際、今日のブルペン投手ではホランドが一番ヤンキースを「怖がらずに」「戦えて」いた)
要は、ロン・ワシントンはポストシーズンのチーム打率3割のヤンキースを舐めてかかって、ブルペン投手を節約しようとして打たれ、そしてパニくって、かえってブルペン投手を浪費した。

だが、まぁ、交代は交代でよしとしよう。
だがロン・ワシントンは8回表に、それまで好投していたウィルソンを代えたはいいが、ノーアウト満塁になって自分の首が絞まるまで、打者から逃げたくてしかたがないダレン・オリバーが無駄にボール球を投げ続けるのを、必死にヤセ我慢した。(というか、足がすくんで、投手の交代時期にベンチを出て行けなかった)
そのクセ、直後には「継投した直後の、初球のインコースをタイムリーされて、即、投手交代」というヘマを、なんと、2人も続けてやった。
この巨大な継投ミスでロン・ワシントンは、楽勝するつもりで元大統領とおしゃべりばかりしていたノーラン・ライアンの目の前で、せっかく選手がつくった好ゲームを、監督みずからの手で完全にぶち壊してしまった。

2−1)得点圏にランナーがいるのに、
    初球インコースのストライクから入り続けて
    打たれ続けるテキサスバッテリー

8回のテキサスのバッテリーの捕手は、マット・トレーナーだ。
サインをベンチが出したかどうかは定かではないが、プルヒッターだらけのヤンキースを相手にしているにもかかわらず、バッテリーは「四球直後も、投手交代直後も「初球にインコースを投げ続けた」わけだが、ちょっとこれ、ありえない配球ミスだと思う
彼らは、インコースを引っ張ろうと常に待ち構えている。センター方向に打ち返せる技術のあるバッターは、ロビンソン・カノーとか、だいたい決まっている。
その後マット・トレーナーに代打が出て、キャッチャーがベンジー・モリーナに変わってからは、初球はアウトコースになって、打者を比較的簡単に料理できたことを見ても、8回表の混乱ぶりはわかる。

2−2)「初球をタイムリーされ続ける」のは
    大量失点が起こる基本パターン

「四球直後の初球はストライクを取りにくるから、打て」は、セオリーだし、「投手交代直後の初球は非常に狙い目。特にランナーが貯まっているケースでは、打て」と考える人もいると思う。
いずれにしても「クロスゲームで四球をだすのが怖い」とか、「ここでストライクがどうしても欲しい」とか、失敗を怖れて視野が狭まったバッテリーが安易にストライクを欲しがって、あさはかな配球をしてくることが既に相手打者に予想され、バレているシチュエーションというのは、必ずあるものだ。
そうした「人間の無意識な怖れの感情が、自分の思考とプレーを束縛して、その結果、安易な配球がつくりだされるメカニズムの存在」に気がつかないキャッチャーは、馬鹿だ。

ホームランを打たれたわけでもないのに大量失点するイニングには、「発生の基本パターン、基本メカニズム」がある。そのひとつが「初球打ちタイムリーを、連続で打たれるパターン」だ。
かつてダメ捕手城島在籍時のシアトルでは、こういう大量失点が、それこそ、嫌というほど起きたものだ。

このシーズンオフには「カウント論」に再び手をつけようと思っているわけだが、打者が、打率が一番よく、ヒットの実数も多いのは、たいてい「0-1」「1-0」といった「早いカウント」であって、ボールを見極めながらヒットの実数が増える打者など、ほぼいない。
(四球が多いことで有名なボビー・アブレイユだって、追い込まれれば打率は下がっていく。また、「フルカウントからでも通算打率で3割打てるイチロー」など、例外中の例外。「カウントと無関係に打てる打者」など、普通は世の中に存在してない)


3)8回無死1塁での「意味不明なヒッティング」と、
  9回無死1塁での「意味不明なバスター」

せっかくの4点のリードをひっくり返されてしまったすぐ裏、テキサスは8回裏、9回裏と、2イニング続けてノーアウトの走者を出したのに、ロン・ワシントンは2度とも致命的なミスを犯した。

8回裏は、1点差の無死1塁で、打者マーフィーにバントさせなかった。この理由がまったくもってわからない。(結果は、ランナーのイアン・キンズラーがハンパにスタートを切ってしまい、牽制で挟殺)
9回裏も無死1塁となって、さすがにワシントンは次打者アンドラスの初球にバントのサインを出したわけだが、これもかえってわからない。
9回になればマリアーノ・リベラが出てくるのはわかっているのだから、その前に1点もぎとっておく必要がある。9回裏に気持ちが追い詰められてから必死にスリーバントするくらいなら、なぜ8回裏にバントさせて、まだ精神的にゆとりがあるうちに1点を獲りにいかないのか。意味がわからない。

それだけではない。
9回裏無死1塁、ロン・ワシントンは次打者アンドラスの初球にバントのサインを出したはいいが(結果は、バントしてファウル)、こんどは2球目にどうも「バスターさせようとした」らしく(もしかしたら、アンドラスのサイン見落としか、見違いかもしれないが)、アンドラスはバットを引いて打ちにいった。(結果は、見逃しストライク。この場面、真ん中近辺のストライクを見逃すこと自体がわけがわからない)
2球目に見逃した球がストライクになってしまったことで、アンドラスのカウントは追い込まれてしまい、結局ロン・ワシントンは、アンドラスにスリーバントというギャンブルをさせた(結果はスリーバント成功)
ギャンブルが成功したからいいようなものの、8回にはバントせず、追い詰められた9回には、バント、バスター、スリーバントという、苦しまぎれの展開。どれもこれも、わけがわからない。

そもそも、こんな大事な場面でスリーバントなんかさせることになった原因は、ロン・ワシントンの「迷い」にある。
監督が、走者をバントで送るのか、それとも意表をつく強打で行くのか、それすらハッキリと意思表示することもできないまま、ようやくスリーバントでランナーを得点圏に送った後では、いくらマイケル・ヤングが好打者でタイムリーを期待されて打席に入っても、打てるはずもない。なんというか、流れが悪すぎる。
マリアーノ・リベラの変化球に必死にくらいつきながらも、初球、2球目と打てる球を打ち損じて、結局は、外のボール球のストレートを振らされて三振したマイケル・ヤングが、なんとも言えず、哀れに映った。
あんな酷い流れの中で、「主軸なんだから打て」と言われても、そりゃ無理というものだ。

4)8回表、内外野の守備ミス連発
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月13日、今年のポスト・シーズンに有名投手がズラリと揃った理由。多発する「曖昧なプレー状態」。
この記事で、投高打低のポストシーズンだから、守備は大事。投手の守備も例外ではない、と書いたわけだが、8回表のテキサスの守備のうろたえぶりは、それはそれは酷かった。
・ファーストゴロで、投手のカバーが遅れる
・サード真正面の強襲ゴロが、レフト前タイムリー
・レフト前タイムリーのゴロを、レフトが捕り損ねる
・センター前ヒットをお手玉。無理なホーム突入ランナーが生還


このゲーム、どこがどう気持ちが悪かったか、なんとか多少はまとめてみた。見ていた人には当たり前のことばかりだが、こうでもしないことには、どうにも気分が優れない。
それほど今日のテキサスは「悪い気の迷い」に満ちていた。

迷っている人間のプレーほど、見ていて気持ちの悪いものはない。ほんとうに痛感した。スタジアムの5万人も同感だろう。






October 15, 2010

2010ポストシーズンも既に4チームだけが残っているわけだが、選手層が薄いのに、ただ打つだけ、ただ投げるだけの放任主義の野球しかできないチームは敗退し、「やれることは、なんでもする」アグレッシブなチームだけが生き残った、という気がしている。

ケン・バーンズがなぜ"The Tenth Inning"で、「ポスト・ステロイド時代」といえる2001年以降のMLBにおいて、打って、守って、走れるイチローの存在意義を重要視して描いたかを、痛いほど痛感するシーンが非常に目立つ。



このポストシーズンでは、打てないチームが多い。
と、いうのも、今年のポストシーズンは「真の意味での好投手」が揃っていて、レギュラーシーズン以上の激しい「投高打低」になったからだ。

「有名ピッチャーがポストシーズンにズラリと顔を揃えられるようになった」のにはハッキリした理由がある。
かつてトロントにいたロイ・ハラデイや、クリーブランドにいたクリフ・リーC.C.サバシアのような「地区優勝できそうもない下位チームで頑張っていた真の意味で2000年代を代表する名投手たち」が、続々と「常に優勝争いするチーム」に移籍して、いまや常勝チームの投手陣の大黒柱となったからだ。
もし将来、今年のポストシーズンに進出していないチームに属する有力投手、例えばフェリックス・ヘルナンデスウバルド・ヒメネスザック・グレインキーなどが将来、毎年優勝争いできるチームに移籍することがあれば、こうしたポストシーズンの投高打低傾向はさらに高まるだろう。
また、有力チームの若手ピッチャーの急成長も、投高打低に拍車をかけた。タンパベイのメジャー3年目デビッド・プライス、ヤンキースのフィル・ヒューズ、他にも(ポストシーズンには進出できなかったが)ボストンのバックホルツレスターなどもリーグの顔になりつつある。
もう、いつまでもステロイダーのロジャー・クレメンスのようなプレーヤーがポストシーズンの主役を張る時代ではない。


そんなわけで2010ポストシーズンのチーム打率は非常に低い。(ヤンキースを除く)
化け物的なチーム打率(.314)のヤンキースと、まあまあなテキサス(.254)を除けば、残り6チームの打率は軒並み.220以下で、アトランタなどは.175で、ハラデイにノーヒット・ノーランを食らったシンシナティにいたっては、たった.124しか打率を残せなかった。
出塁率にしても、ヤンキース(.354)と、フィラデルフィア(.301)が3割を越しているだけで、他のチームは軒並み2割台後半。出塁率でもアトランタは.214、シンシナティにいたっては,160しかなく、これでは勝てるわけがなかった。

レギュラーシーズンは、ぶっちゃけ、強豪チームは弱小チームとの対戦で楽勝を続けられることも多い。

だが、有名投手がズラリと揃うようになったポストシーズンでは、打者はもう好きに打たせてはもらえない。言い方をかえれば、ポスト・ステロイド時代で、有名投手が揃い踏みする投高打低のポストシーズンにおいては、もはやバッティングは、ある意味「水物」であり、「運」でしかない


だからポストシーズンを勝ち抜こうと思ったら、(ヤンキースのようなチームは除いて)もうバットに頼るだけでは足りない。必要なら、エンドラン、盗塁、四球、バント、やれることはなんでもやらないと勝てないと思うし、また逆に、相手チームの「なんでもあり攻撃」を封じ込めるフィールディング(守備)の重要性も非常に高いことが、このポストシーズンで浮き彫りになりつつある、と思う。

例1)
「走塁」「盗塁」の重要性

足を使って勝ったテキサスのロン・ワシントン監督はゲーム後に
"Baserunning. It's always been important to us. That's our style of baseball."と、「走塁を重視するのがレンジャーズの野球スタイル」と語ったが、対戦相手の監督ジョン・マドン
"That's three runs right there that's typically the kind of runs we score,"
「あの3失点は、まさにウチがやってきた典型的得点スタイル」と、タンパベイもテキサス同様に、走塁で得点を増やして勝ってきたチームであることを語っている。

例2)
「失われつつある芸術」、外野手の強肩

先取点が重い意味をもつ投高打低のポストシーズンの割には、ランナーがセカンドにいるときの外野フライで、外野手が雑なバックホームをして、あっさり犠牲フライにしてしまうシーンをよく見かける。
(たしかテキサスのセンター、ハミルトンだったかと思うが)バックホームを大暴投したゲームがあったが、ああいうのこそ、アウトにしていたらファンも大喜びなのに、本当にもったいない。「これがイチローなら・・・」と、つい思わずにいられない。

イチローの強肩については、デンバー・ポスト紙のジム・アームストロングがこんなことを言っている。
「(外野手の強肩は)もはや失われた芸術だ。だがシアトルのイチローにはそれがある
強肩でコントロールもいい優秀な外野手が減ったことで、バックホームでセカンドランナーを刺せる時代は本当にもう終わってしまうのだろうか。それはともかく、「金のとれるスローイング」のできる強肩外野手の存在が、ポストシーズン進出チームにとって、ひとつの武器になることには変わりない。

例3)
投手の守備力

どのゲームか、ちょっと忘れたが、打たれた直後の投手がボーっと突っ立ったままでいて、バックホームのカバーリングが遅れて失点するシーンがあった。
極端な投高打低のポストシーズンでは、守備側は、送りバントの成功阻止、内野安打の阻止、きわどいダブルプレーの完成など、攻撃側の「足を生かした進塁や得点」をできるだけ封じこめる必要がある。
だからインフィールドでのゴロの処理やカバーリングは非常に大事であり、その意味では、投手の守備責任もけして軽くない。

例4)
監督の選手起用の無駄

選手起用で、ひとつ気になったことがある。それは「選手層が薄いチームほど『やたらと選手交代すること』」だ。
例えばボビー・コックスのアトランタなどは、DHのないナ・リーグのチームだから、代走、代打、投手交代、選手を数多く代えていくわけだが、どうも見ていて「選手を代えたことで得られる効果」が低く見えてしかたなかった。
この現象は敗退チームに共通してみられる特徴のような気がした。

うまく説明できる「たとえ」が見つからないのだが、例えば、ゲーム終盤に、3打席凡退している打率2割ちょっとの下位のバッターに、ほとんど同じ打率の打者を代打に出す、とする。だが、その代打は、だいたい凡退に終わる。
ブログ主の発想としては、ただでさえ緊張するポストシーズンのゲーム終盤で起用され、さらに勝ちゲームに登板するブルペン投手といきなり対戦させられて、ポンとヒットが打てる控え選手など元々ベンチにいるはずもない、と考える。むしろスタメンで出ていた選手のほうが、それまで3打席凡退していても、4打席目にようやくヒットを打つか、四球を選んでくれる可能性があるかもしれない。
また、ブルペンの選手層が薄いチームが、防御率のたいして変わらないブルペン投手を、それこそ片っ端から投入するシーンも見たが、むしろブルペンの層が薄いチームこそ、もっと疲労の蓄積を考慮して投手を起用していかないと、登板過多で「ブルペン投手全体の疲労蓄積」は、あっという間に起こり、ゲーム終盤に逆転負けするパターンから抜け出せなくなる。



テキサスを見て、「これは強い」と感じた。
彼らは、必要だと思えば初回から平気でバントをする。盗塁もできる。走塁も抜け目ない。必要ならホームランも打てる。守備がいい。つまり、打撃、守備、走塁、どれをとっても、そのとき、そのときのシチュエーションに応じて、必要なプレーを自分で考え選択できる判断力や、イレギュラーな事態に即座に対応できる柔軟性があって、なおかつ難易度の高いプレーを実行できる高い技術も兼ね備えた選手がたくさんいる。

負けるチームは往々にして、狙い球も特に決めず、ただ漫然とスタメン打者に自由にバットを振り回させて、四球も選ばず、無得点イニングをダラダラ、ダラダラと積み重ねる。そして、あれよあれよという間にゲームは終盤になる。そこではじめて焦った監督、代打、代走、代打、代走。選手をやたらと代える。気がつくと、ベンチは空っぽ。最終回のフィールドに立っているのは控え選手ばかり。そういう雑な戦略では、この「投高打低のポストシーズン時代」を勝ち抜けるわけがない。


もう一度言うと、このポストシーズンが象徴するのは、なんといえばいいか、「ただ打つだけ」「ただ投げるだけ」の時代は終わった、ということだ。

「やれることはなんでもやらなければ勝てないゲーム」の中では、「明らかなヒット」、「明らかなアウト」だけが発生するわけではない。バント、エンドラン、盗塁、けん制、カバーリング、挟殺プレー、バックホーム、タッチアップ、とにかくなんでもありなのだから、目の前に来たゴロやフライを捕って送球していれば済まされる、そんな単純なゲーム展開ではない。、
むしろ「ヒットかアウトか、どちらとも決まらない曖昧な打球」、「アウトかセーフか、やってみなければわからない曖昧なプレー」など、「中間的で、曖昧なインプレー状態」が多発する。
こうした「曖昧なプレー状態」においては、守備側が好プレーをすれば「アウト」に、攻撃側が良いプレーをすれば「ヒット(または進塁や得点)」になる

どちらに結果が転ぶかは、プレー次第なのだ。

こうした「曖昧なプレー状態」は当然、プレーヤーの小さなミスを誘発するわけだから、「中間的なプレー状態」は、さらにその枝葉として、さまざまな予測もつかないイレギュラーなプレーを発生させてくる。


こうした「『曖昧なプレー状態』が多発し、プレーの結果がどう出るか予測しにくい、なんでもありゲーム」でプレーする選手は、監督の指示どおり動くだけでは足りない。
その場、その場での「自主的判断」によって、「ひとつでも多くの塁を奪い、ひとつでも多くのアウトを相手から取る」必要がある。
だから、イチローのような、自分の頭で判断できて、打てて、守れて、走れるプレーヤーが必要になるわけだが、そういうことのできる選手は、実際にはそう多くは育っていないのが今のMLBだということは、今年のポストシーズンを見ていると、嫌というほどよくわかる。






October 13, 2010

クリフ・リーの惚れ惚れする無四球完投。
これでポストシーズン登板、6勝0敗。防御率も、あのサンディ・コーファックス、そしてクリスティ・マシューソン、殿堂入りしている伝説の2人の投手に続く、歴代3位。

歴代ポストシーズンERA
1位 サンディ・コーファクス  0.95
2位 クリスティ・マシューソン 1.06
3位 クリフ・リー       1.44

" When we scored that second run, you could see the look in his eye change."
「(テキサスの)2点目が入ったとき、クリフ・リーの目つきが変わったのがわかったろ?」(クリフ・リーが投げたら1点のリードで十分だったと語るマイケル・ヤングCompleteLee! Road to LCS for Texas: 5th gear | MLB.com: News

こんな素晴らしい投手を、しかもよりによって同地区のライバルチームに出して戦力強化に貢献してしまうシアトルのGMは、当然ながら、馬鹿だ。
(もっとも、クリフ・リーの能力は、再建すらままならならず、次の監督すら決まらないシアトルではポストシーズン進出がありえない以上、宝の持ち腐れにはなる。まぁ、あのトレードをwin-winだなんて恥ずかしいことを公然と言ってのける馬鹿だらけなのが、シアトルという底辺チームの、ファンもメディアも含めたレベルの低さなので、何を言っても無駄だろう。ESPNにあれほどフィギンズをクソミソにこきおろされても、まだ無能なズレンシックにしがみついている。やれやれ。)
Texas Rangers at Tampa Bay Rays - October 12, 2010 | MLB.com Gameday

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月3日、かつて2008年に城島が選ばれた「ESPN上半期LVP」と「年間LVP」をほぼ同時受賞したといえるショーン・フィギンズ。そして、「シーズン最悪の非貢献者」と名指しされたも同然のズレンシック。


クリフ・リーの今日の120球のうち、ストライクは90球。4球投げれば3球がストライクで、ストライク率は、驚異の「75%」。アトランタ・ブレーブスは四球とエラーで逆転負けし続けて敗退していったが、クリフ・リーはやはりポストシーズンに強い。(ポストシーズン防御率歴代3位。6勝0敗)ポストシーズン進出がわかっていたテキサスにとって、クリフ・リーは最上の買い物になった。
最初の登板でも104球中76ストライクで、ストライク率73.1%と破格の高率だったわけで、クリフ・リーは2回の登板、ほぼ同じペースでストライクをとり続けたことになる。結果、最初の登板で10三振、2回目が11三振、合計21三振。(その結果、テキサスがディヴィジョンシリーズで奪った三振は55となって、これは歴代1位)タンパベイ唯一の3割打者クロフォードはじめ、タンパベイ打線を完璧に抑え込んだ。

タンパベイ先発のデビッド・プライスが104球68ストライクで、65.4%だから、クリフ・リーのほうが10%もストライク率は高い。
プライスもけして悪い出来ではなかったが、いかんせん名投手クリフ・リーと投げ合うと、ピッチングの組み立てが、力まかせで、あまりにも工夫がないのがよくわかる。あれでは、まだ若い。ゲレーロのような強振タイプは速球で抑えられるが、イアン・キンズラーのようなタイプにはどうしても捕まってしまう。


ただ3回までのクリフ・リーには、ハラハラする場面もあった。
以前の記事で書いたことだが、やはりクリフ・リーは、明らかにキャッチャーのベンジー・モリーナと息があっていない。1点とられた3回だったか、クリフ・リーがモリーナのサインに首を振り続けて、4つ目か5つ目のサインで、ようやく投げるボールが決まる、なんていうシーンがあったように、サインがなかなか決まらず、クリフ・リーがピッチングにおいて重視する「投球テンポ」が遅かった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月12日、、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(3)典型的な「パターン配球」で打ちこまれたミネソタ戦、「パターンの例外」を数多く混ぜて抑えたヤンキース戦の比較と、クリフ・リーがキャッチャー選びにこだわる理由。

クリフ・リーが安定しだしたのは、やはり、「カーブを決め球に使い出した4回以降」だ。
これも何度も書いてきたことだが、クリフ・リーのシアトル移籍が決まるずっと前、日本のシアトルファンがクリフ・リーの名前すら知らない頃から注目してきたブログ主としては、カーブで決めてくるクリフ・リーが、ホンモノのクリフ・リーだと確信している。今日の序盤の横に動くカット・ボールも悪くはなかったが、4回以降にタンパベイ打線を沈黙させたのは、やはり「カーブ」だ。
テキサスの次の相手はヤンキースだが、あの打線はカットボールに非常に慣れているので、カットボールだけでは通用しない。

今日のクリフ・リーの「カーブ」は際立った特徴があった。「高めいっぱいに決まるカーブ」を決め球として多投して、数多くの三振を奪ったのである。
日本にはあいかわらず「低めの球さえ投げていれば、投手はなんとかなるものだ」という迷信がある。「高めいっぱいに決まるカーブ」を決め球に素晴らしいピッチングを披露した今日のクリフ・リーを見て、もうちょっと高めの球を使う研究をするべきだと思う。もちろん、そのためには目のいいアンパイアを育てないと話にならない。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(9)クリフ・リーのプレイオフ快刀乱麻からの研究例:「カーブとチェンジアップ、軌道をオーバーラップさせ、ド真ん中を見逃しさせるスーパーテクニック」


クリフ・リーのコントロールが冴えたこともさることながら、今日のホームプレートアンパイアJeff Kelloggが実に目のいいアンパイアで、コールの正確さには感心した。ほんのちょっとでもはずれているとボール、ギリギリ入っているのはストライクと、きわどいコースの判定が非常に正確だった。
先日ミネソタのガーデンハイアーを退場させたHunter Wendelstedtは、ポストシーズンもロクに経験してないクセに態度だけはデカい、最悪のアンパイアだったが、Jeff Kelloggはこれまでに、97年のオールスター、4回のナ・リーグのディヴィジョンシリーズ(1998, 2000, 2003, 2007), 5回のリーグチャンピオンシップ(1999, 2001, 2002, 2004, 2006)、3回のワールドシリーズ(2000, 2003, 2008)でアンパイアをつとめてきたヴェテランである。
クリフ・リーとデビッド・プライスの投げあい、なんていう好ゲームをきちんとファンに楽しんでもらおうと思うなら、Jeff Kelloggのような、ポストシーズンにふさわしいアンパイアを連れてきてもらわないと困る。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月7日、ディヴィジョン・シリーズ第2戦で退場させられたミネソタの監督ロン・ガーデンハイアーと、球審Hunter Wendelstedtとの間にかねてからあった軋轢。


それにしても、今日のテキサスの勝利の立役者は、守りではクリフ・リーだが、攻撃面で、ロン・ワシントン監督の思い切った盗塁指示と、テキサスのランナーたちの走塁の素晴らしさを挙げないわけにはいかないだろう。
タンパベイのキャッチャーは、奇しくも、クリフ・リーがクリーブランド時代に指名していたケリー・ショパックだったが、タンパベイの内野手たちの気の緩みを見逃さないテキサスの大胆かつ的確な走塁で、ショパックは試合途中でゲーム・コントロールを失っていた。

ショパックがそもそもクリーブランドからタンパベイに来たのは、タンパベイの正捕手ナバーロの不振からだ。
たぶん今日のゲームだけしか見ないアホウには、ショパックがただの経験不足のキャッチャーにしか見えないだろうが、レギュラーシーズンのチーム打率が.247と、まったく打てないタンパベイがレギュラーシーズンを優勝で終わることができたのは、先発・ブルペンともに防御率が良かったからであって、その意味でレギュラーシーズンでのショパックの働きは十分なものがあった。
ただ、まぁ、ショパックはいかんせんクリーブランド時代はポストシーズンとはまるで縁がなかったキャッチャーだけに、テンションの高い大舞台での経験不足が露呈した形になった。今後のためにはいい経験になったことだろう。






October 12, 2010

ケン・バーンズの"The Tenth Inning"が2010年9月28日・29日にPBSで放映された(Baseball The Tenth Inning: Home | PBS)が、イチローが登場する29日放映の後編のコンセプトは

2001年という年と、それからの10年が
 アメリカと、メジャーリーグベースボールにとって、
 どれほど大きな意味があったか、を描く」

という点にある。


もう少し詳しく説明しておかないとわかりにくいだろう。

"The Tenth Inning"後編は、イチローを 「バリー・ボンズの対極に位置する究極的プレーヤー」としてとらえている。
つまり、ボンズを、90年代末までのステロイドによるホームラン量産時代の象徴、イチローを、ボンズ時代とは対極にある2001年以降の「ポスト・ステロイド時代」のベースボールの象徴としてとらえ、「イチロー」の代表する「クリーンなベースボール」に対してアメリカ野球史における非常に重い位置付けを与えている。(ただしボンズを完全否定して番組構成しているわけではない)そのため、29日の後編では、"Ichiro"という独立したチャプターがイチローに与えられている。

また"The Tenth Inning"後編は、2001年の同時多発テロで大きなダメージを受けた「アメリカの傷」にとってベースボールが果たした「癒し」の意味を、バリー・ボンズとイチローを対極的な存在として象徴的に扱う構図の中で描きだしている点にも、大きな特徴がある。
バリー・ボンズがアメリカにもたらしたものが「劇薬の痛み止めによる熱狂」だとすれば、イチローがもたらしたのは「ベースボールの歴史の本流への回帰による癒し」ということになる。
まぁ、劇薬による痛み止めと、自然やスローライフによる癒しとの違いとでも思っておけばいいと思う。
(ちなみに日本には、第二次大戦で荒廃していた人と人との繋がりを復活させたキャッチボールの素晴らしさについて故・寺山修司氏が書かれた名文がある。野球とボクシングの好きだった寺山氏は1983年没で、イチローは1973年生まれ。)



2001年9月11日の同時多発テロで、MLBのゲームは1週間中止されたが、再開された直後、テロで傷ついた心を抱えたアメリカは、バリー・ボンズによるマーク・マグワイアのホームラン記録70本の更新に熱狂した。
("The Tenth Inning"にはもちろんジョー・トーリがニューヨークの消防のキャップをかぶっているシーンも収録されている)
だがその後、90年代末以降の「ベースボール」が、ボンズやマグワイアのホームラン量産を含めてステロイドまみれであることがわかり、2007年のミッチェル・レポートは多数のプレーヤーの不正を告発した。
1998年にはナ・リーグでマクガイヤとサミー・ソーサがホームラン王争いを演じ、ア・リーグでは1998年から2000年までの3年間、後にステロイド問題を起こすロジャー・クレメンスアンディ・ペティットのいたヤンキースが3年連続ワールドチャンピオンを独占したが、2001年以降はワールドシリーズの優勝チームは毎年入れ替わるようになり、ホームラン王の打つホームラン数は一気に下がった。(こうした現象の背景には、球団間の戦力格差是正や収益再分配のためにMLBコミッショナーのセリグ氏がとった改善策の効果もある)


"The Tenth Inning"が主張するのは、
テロで傷を負ったアメリカが、心を癒すために帰るべきホーム・スイート・ホーム、幸福な家族の時間は、実は、ボンズ、マグワイア、サミー・ソーサなどがホームランを争った90年代末のアメリカ野球ではなかったはずだ、ということだと思う。
アメリカを本当の意味で癒すのは、そういう「ステロイドまみれの劇場」に熱狂することではなく、アラスカのキングサーモンがやがては故郷に帰るように、ベースボールという大きな歴史を創造してきた本流に帰ることだ、というのが、"The Tenth Inning"が主張する「9・11同時多発テロ以降のアメリカ野球」だろう。
(だからこそケン・バーンズはイチローの特徴を「クリーンさ」だと言っている。ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月20日、シアトル・タイムズのスティーブ・ケリーが、"The Tenth Innning"のケン・バーンズと共同監督のリン・ノビックが行った「イチローインタビュー」について当人に取材して書いた記事の、なんとも哀れすぎる中身とタイトル。

イチローのチャプターでは、ウィリー・キーラージョージ・シスラータイ・カッブなど、ベースボール創世期の名プレーヤーの名前が出されて、イチローの業績の意味が説明されている。

"The Tenth Inning"によるイチローの評価は、ボンズがマグワイアの記録を破ったような「他のプレーヤーの記録の更新」にあるのではない。
そうではなくて、大事なのは、
この10年イチローが持続し続けてきたプレースタイルによって
ファンの誰もが忘れていた、100年前のアメリカでベースボールが出来た頃のフィーリングやスピード感」を、まるで何かの魔法のように現代アメリカの地表に掘り起こして、「ほら、これが90年代末に皆さんが忘れていたベースボールの原型であり、ここが皆さんの還る源流なんですよ」と示してみせたこと
にある。



ベースボールという大河の源流はどこだろう。
それはケン・バーンズの前作"Baseball"を見れば、
よくわかる。

"Baseball"という作品はただの歴史年表とは違う。
この作品が教えてくれるのは、アメリカとアメリカの歴史にとって「ベースボール」は、まるで「自分と自分の大切な家族とのかかわりを語る長い長い物語」のような、ノスタルジックでベーシックな関係だということだ。
ケン・バーンズの長い物語では、タイ・カッブやベーブ・ルースをはじめ、たくさんの名プレーヤーが登場するが、彼らのプレーや記録はベースボールとアメリカの歴史の背骨であるにしても、名プレーヤーもファンも、歴史という大きな存在の一部にすぎないことには変わりがない、という立場が貫かれている。
だから、両親と子供の野球観戦の場面ひとつとっても、普通の家庭で、まるで遺伝子が親から子に伝わるように、ベースボールの楽しみが両親から子供に大切に伝えられてきた「家族の文化」であることが描かれる一方で、MLB関係者たちや過去の名プレーヤーも、普通の親子とまったく同じように、「子供の頃、両親にボールパークに連れていってもらったり、一緒に野球をやった思い出の素晴らしさ」を目を輝かせて語るのである。
プレーヤーも、彼らのプレーを楽しみつつ大人になり、さまざまな形でアメリカの歴史を支えた人々も、全くかわりなく、同じアメリカの一部であって、両者の間になんの優劣も本来存在していないことを、ケン・バーンズはそれぞれの時代の音楽と映像の積み重ねで描いている。


だから、うまく言えないが、"Baseball"が語る「アメリカとベースボールの100年」は、野球という競技の100年の歴史的概説などというつまらないものではなくて、"Baseball"の国に生まれ、育ち、家族をもうけて、やがて死んでいった人たちが、平凡に、しかし素晴らしく積み重ねた歳月の考古学なのだと思う。

"Baseball"の国には、他のどの国とも変わらない一時的な熱狂があり、戦争、事故、自然災害、さまざまな不幸もある。ここには他のどの国とも変わらない多くの間違いもあるが、他のどの国にも負けないほど多くの正しさもある。
けれど、結局はいつの時代も、どの国でも、生まれ、育ち、家族をもうけて、死んでいく人間の営みの幸せは変わらない。


川で生まれて大洋に出ていき、やがては生まれた川に帰るサーモンの一生と、われわれ人間の一生、どこが違うのか?

答えは簡単だ。
人間には「ベースボール」があり、サーモンにはない。
それ以外は、何も変わりない。
(こんなことを言うとジェラルド・アーリーならたぶん、「サーモンには、ベースボールもないが、ジャズもないだろ!」とか不満を言うだろう(笑)ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月20日、ケン・バーンズの"The Theth Inning"の放映を来週に控えて、ちょっと彼の作品”Basebali"第1回冒頭のジェラルド・アーリーの有名な言葉を見直してみる。


サーモンは帰る川をわかっているが、人間は、もしどこに帰ればいいかわからなくて困ったら、どうすればいいか。
「ベースボール」という大河の源流に帰れればいい。
簡単にいえば、そういうことを、イチローの2001年以降の10年という歳月とプレーが教えてくれた、と、今回の"The Tenth Inning"は語っているのである。






October 10, 2010

最近の記事で、アメリカ東海岸は、西海岸よりずっと湿った気候だということを書いた。

では、なぜ東海岸のほうが、西海岸より湿っているのか。
これについては、ちょっと北米大陸のcontinental shelf「大陸棚」について知る必要がある。


本棚のことを、bookshelf(ブックシェルフ)というように、shelfとは、「棚」という意味。
大陸の周辺の海底は、いきなり急激に深くなっている場合もあるが、図のように、遠浅(とおあさ)の傾斜のゆるい部分が長く続く海底もある。
これがcontinental shelf、「大陸棚」だ。文字どおり「棚」の状態になっている

大陸棚とは(continental shelf/画像更新版)
大陸棚


北米大陸の大陸棚の場合、
下の図で、ピンク色の部分が北米大陸の場合のcontinental shelf「大陸棚」だが、東部の海岸や、Gulf Coast(日本でいう「メキシコ湾岸」)周辺に広大なcontinental shelf、「大陸棚」が広がっていることがわかる。

大陸棚は浅いから、冷たく深い海より温まりやすく、たくさんの水分が蒸発する。だから、東海岸の巨大な大陸棚が、アメリカ東部の沿岸に湿気の多い気候をもたらすのである。
(東部の寒暖の大きな差は、主に北米の大陸側からの偏西風による。西海岸でも同じように偏西風があるが、西海岸の偏西風は大陸からではなく、太平洋という海洋から吹くため、寒暖の差が少ない)

アメリカの大陸棚(更新画像)


continental shelfは、いま世界のニュースの「主役」といってもいいかもしれない。というのも、大陸棚には多くの有望な資源が眠っているからだ。
ついこのあいだまで大騒ぎしていたGulf Coastの原油流出事故(=日本でいう「メキシコ湾原油流出事故」)も、日本と中国の間で揉めている尖閣諸島の問題も、元をただせば大陸棚に眠る資源を巡る騒動だ。


どうでもいいことではあるが、あの油田事故のことを日本のサイトでは「メキシコ湾原油流出事故」などと呼んでいる。
だがアメリカでは、Gulf Coastと言えば、イコール「メキシコ湾岸部」の意味になるから、この事件を呼ぶとき、必ずしも「メキシコ」という単語をいれてはいない。
だから、例の油田事故の呼び名のバリエーションは、例えばGulf Coast Spillとか、Gulf Coast Oil Spillとか、Gulf Coast Oil Disasterとか、そういう感じになることが多い。そのことを頭にいれないで「メキシコ」という単語で検索していると、いつまでたっても目的のニュースに辿り着けない。

また、Gulf Coastという言葉は、「アメリカ南部のメキシコ湾に面した州」という意味でもある。テキサス、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、フロリダの5つが、このGulf Coastに属する州で、"Gulf States"と呼ばれる。
Gulf Coast of the United States - Wikipedia, the free encyclopedia
2005年の、あのHurricane Katrina(ハリケーン・カトリーナ)で絶大な被害が出たのはもちろん、ルイジアナを中心にしたこれらの"Gulf States"だった。ハリケーン・カトリーナではGulf Coastの油田が生産中断に追い込まれ、原油価格上昇を招いた。
油田事故といい、ハリケーンといい、Gulf Coastの広大な大陸棚が大国アメリカに与える影響力が、近年ますます大きくなりつつあることがよくわかる。


そういえば、いつぞやケン・グリフィー・ジュニアが引退をチームに電話で伝えてきたとき、彼が自宅のあるフロリダに向かうハイウェイから電話してきたという話にかこつけて、アメリカ南部のロックミュージックであるサザン・ロックや、サザン・ロックの代表的バンドのひとつレイナード・スキナードの話を書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:センチメンタルなフロリダ・ドライブのための音楽。

レイナード・スキナードの代表曲のひとつがSweet Home Alabama(1974)だが、この曲で歌われているアラバマはもちろん、"Gulf States"のひとつである。

Gulf Coastがもたらす「湿気」は、アメリカ南部に独特の文化をもたらしたように、日頃は忘れているが、「気候」というのは、音楽や野球などの文化にしても、経済や産業にしても、実は相当影響力の強い存在なのだ。


アムトラック シルバーサービスアメリカ東海岸らしさを感じる
アムトラックの路線のひとつ
Silver Service

ニューヨークから東海岸を南部フロリダまでひた走る路線。途中、ニューヨークではヤンキース、メッツ、フィラデルフィアではフィリーズ、ボルチモアではオリオールズ、ワシントンではナショナルズ、セントピーターズバーグではレイズ、マイアミではマーリンズが、熱心な野球ファンの訪問と観戦を待っている。
Amtrak - Routes - Northeast - Silver Service / Palmetto







October 09, 2010

これまでにも何度か「地域(東地区、中地区、西地区)によって、メジャーの投手がピッチングを構成する球種に違いがあること」を書いてきた。
だいたいの主旨はこうだ。
東海岸ではカットボールを多用したピッチングを構成する。中地区、西海岸では、また違う。シアトルは特殊で、メジャーの他のどの球団より、ストレート(たぶん4シーム)を投げさせたがる

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月29日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(1)2010年の「ア・リーグ東地区風カットボール多用配球スタイル」が東地区チームとの対戦に災いしているのか?


MLBで、地域によってピッチングの構成球種が異なることについては、これまでほとんど着目されてこなかった点だと自負しているが、今回、ドジャースとの3年契約を終えた黒田投手が、下記のようなコメントをしてくれたおかげで、これまで書いてきた記事への確信と、「新たな発見」があった。
「新たな発見」というのは、北米大陸の東海岸と西海岸との「気候の大きな違い」が、メジャーの投手の使う球種に大きな影響があるのではないか?という着眼だ。

まず、黒田投手の話をもう一度読んでみる。

ツーシームは球場の湿気の違いや、東海岸と西海岸で違ったりするけど、それも自分の中で把握できつつある。汚いボールでも抑えた投手が凄い。きれいなフォーシームでいつも空振りが取れるなら苦労しないけど限界がある。それよりは動くボールで投球の幅を広げたほうがいい」
「日本では横にスライドする詰まらせるボールでした。しかし、メジャーの打者は詰まっても内野の頭を越えるどころか、外野の頭を越えることもある。それよりも安全なのはバットの下に当てさせるか、空振りさせること。だから今は角度をつけて落とすイメージ。シュートよりシンカー(沈む球)と口で言ったほうが、投げていてもイメージがつきやすい」
悩める黒田 残りたい理由と戻りたい理由とは…(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース

「きれいなフォーシームでいつも空振りが取れるなら苦労しないけど限界がある。それよりは動くボールで投球の幅を広げたほうがいい」などというコメントは、シアトルが馬鹿のひとつおぼえで揃えた速球派投手たちがなぜすぐに通用しなくなるかという、当たり前の現象を簡潔に説明している。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:「ストレート王国の病」


それはともかく。
東海岸と西海岸の気候はどう違うか、という基本的な話を説明しよう。


野球は春から秋のスポーツだが、夏だけ比べると、東海岸の夏は(日本ほどではないが)蒸し暑い。それに比べると、西海岸の夏はずっと湿度が低い。
月ごとの差、地域差、球場の形状の差など、細かい差異は言い出せばキリがないほどあるだろうが、おおまかに「東海岸は、西海岸より湿度がずっと高い」と覚えておけばいいだろう。

例えばドジャース、エンゼルスなどのあるロサンゼルスは、ケッペンの気候区分ではCs(地中海性気候。ダウンタウンや太平洋岸でなく、内陸となれば別の気候区分)。1年のうち約300日が晴れていて、年間平均気温は約18度、冬でも平均気温約15度。夏冬の寒暖の差があまりない。東京の年間降水量は約1500ミリだが、ロスではその5分の1程度しか雨が降らず、非常に乾燥している

一方、ヤンキース、メッツのあるニューヨークは、ケッペンの気候区分でいうCfa(温暖湿潤気候。Cは温帯、fは湿潤、aは夏の気温が高いことを示す)ニューヨークはロサンゼルスと比べ、寒暖の差が非常に大きい。夏は遥かに暑く、冬は比較にならないくらい寒い。初夏の梅雨や秋の台風の影響を非常に強く受けて降水量が季節によって激変する東京と比べると、ニューヨークの降水量は少なく、月別変動も無いに等しいが、西海岸よりはるかに雨が多い


気候、たとえば、気圧、風、湿度、温度と、野球との関係について書かれた記事は誰でも目にしたことがあるだろう。

気圧は主に『ボールがどのくらい飛ぶか」に大きく影響すると考えられている。海抜1600メートルの高地にあるコロラド・ロッキーズの打撃成績が眉唾だと思われているのは、そのためだ。
また温度は、高いほどボールは飛びやすい。なんでも、温度75F(摂氏23.8度くらい)で400フィート(約122メートル)の飛距離が、温度95F(摂氏35度くらい)になると、408フィート(約124.3メートル)と、約2メートルも飛距離が伸びるらしい。
Baseball Betting Article: How weather affects baseball betting
気温の高い夏のほうがボールが飛ぶ、というわけだから、「暑さの厳しいアメリカ東海岸の夏のほうが、西海岸よりホームランが若干でやすい」とか、「テキサスのような暑い地域のほうが、北西部のシアトルよりホームランがでやすい」とか、「暑くて湿度も高い日本のほうがアメリカよりホームランがでやすい」とか、言えるのかもしれない。


そして問題の湿度


これに関しては、誰でもが覚えておくべき「非常に重要な誤解」が、ひとつある。それは「湿度が高いと、空気は重くなる。だからボールは飛ばない」という「大きな誤解」だ
事実は逆。打球の飛距離への影響が有意なほど大きいかどうかはともかくとして、物理的には「空気は、湿度が高いほど、軽くなる」のであって、重くはならない。
理由は簡単だ。「比較的重い元素である窒素を含む空気の粒のほうが、水素と酸素だけで出来ている水蒸気よりも重い」からだ。だから「湿度が高ければ高いほど、空気の密度は小さくなり、空気は軽くなる」のである。
だから、仮に「空気の密度が大きいと、ホームランがでにくい」と仮定すると、ホームランがでやすいのは、カラッと湿度の低い西海岸ではなくて、湿った東海岸なのである。空気が乾燥するとボールが軽くなってよく飛ぶような気がする、というのは、単なる誤解だ。(また乾燥したボールと湿ったボール、どちらが飛ぶかという反発力などの問題は、別の問題)
WHY IS MOIST AIR LESS DENSE THAN DRY AIR AT SAME TEMPERATURE
Air Density and Performance - 空気密度と航空機の性能


余談があまりにも多くなりすぎた(苦笑)


投手のピッチングにとって、湿度はどう影響してくるのだろう。そして、湿度は、東海岸と西海岸では大きな差があるのだが、その地域差はピッチングに影響しているのだろうか。

湿度の問題を下記の2つくらいに絞ってみた。
・ボールの変化の大きさに対する湿度の影響
・ボールへの「指のかかり」
この話はあまりにも面白いので今後とも書こうと思っているので、ここではまず、「湿度がボールの変化にどう影響するか」に関してだけ、最初の考察のきっかけを書いてみる。


既に説明したように、「湿度が大きいほど、空気の密度は軽くなる」。(ここを間違えてはいけない)だから、湿度の高い東海岸と、湿度の低い西海岸での変化球の違いを、机上の空論で、最初の仮説を立ててみる。

まず西海岸。

乾燥した西海岸では、湿った東海岸より空気密度が相対的に高く、空気抵抗が大きいと考えられる。
だから、西海岸では、回転の少ないボールに対する空気抵抗を利用することで、ボールに変化をつけやすい


次に東海岸。

これも机上の空論だが、
湿った東海岸では、乾燥した西海岸より空気密度が相対的に低く、空気抵抗が小さいと考えられる。だから、ボールに急激な変化をつけたいなら、ボールに対する空気抵抗を利用するより、むしろ、ボールに対してスピンをかけ、スピンで曲がるような変化のさせかたのほうが適している


どうだろう。
例えば、スプリットのように、ボールに回転をわざと与えずに空気抵抗でボールが落ちやすくする投手は、空気の密度の濃い西地区のチーム、ボールに強いスピンを与える変化球が得意な投手は、空気の密度が低い東地区が向いている、という簡単な図式が出来上がったわけだ。

もちろん、こんな単純な話で、黒田投手の話が説明できるとも思っていないし、球場の形状や気圧、風、チームの方針など、配球に対する影響要因は他にもたくさんある。
だが、少なくとも、北米では東海岸と西海岸はロッキー山脈を挟んでまるで気候が違い、その気候の大きな違いによって「湿度」が大きく変化すること。また「湿度」などの環境の差によって、デリケートなプロの投手の変化球の変化が違ってくることは確実なのだから、気候のせいで、東海岸の投手と西海岸の投手で、使う球種に違いが出て、そのために配球にも影響があることはほぼ確実だろうと(今のところ)考えている。


フォークボールを武器にした野茂投手の最初の所属先が、東海岸ではなくて、ロサンゼルスだった理由、東海岸ではあまりパッとした活躍ができなかった理由を、気候や湿度の面から考えたりするのも、面白い。
また夏に湿気の多い東のクリーブランドやフィラデルフィアで「カーブ」を投げていたクリフ・リーが、乾燥した西海岸シアトルで投げるにあたって「なぜ、カットボールを増やそう」と思ったのか、さらにシアトルより暑い南西部テキサスに移籍して、その「カットボール」がなぜ通用しなくなったのかを、気候から考えるのも面白い。(クリフ・リーの場合は、気候の差にあえて反する持ち球の選択をすることによって、その地区で際立った個性を演出しているような気もする。つまり「東地区にありがちなカットボール投手にはならず、カーブを多用」「西地区ではあまり多用されないカットボールを多用する」など)






気候が大きく異なる東海岸と西海岸とでは、ピッチャーの使う球種にも違いがあるかもしれない、という話を書いているところだが、ミネソタのターゲット・フィールドで行われた東地区ヤンキースと中地区ツインズのディビジョン・シリーズで、ヤンキースのアンディ・ペティットが、第2戦でこんな配球を多用していた。

まずストレートを投げる。続けて、まったく同じコースに、カットボールを投げる

要は、「同じコースに、同じフォーム、同じ球筋で、ストレートと、ちょっとだけ変化する球(ペティットの場合は、少しだけ沈める)を続けて投げて、打者にカットボールのほうを打ち損じさせる」という、典型的なカットボール配球なのだが、これがまた、ミネソタ打線が面白いようにひっかかってしまっているのが、見ていて、とてもモノ哀しい気持ちにさせられた。

ブログ主は別にミネソタの熱烈なファンというわけではないが、好きな選手もいないこともない。(自分でも理由がわからないが、モーノーがなぜか好きになれない。むしろドナルド・スパンとかジョナサン・クベルとかの無骨さがミネソタらしくていい。もちろんヤンキースにも、マーク・テシェイラなど、好きな選手はいる)

わかりきっている「東地区のチーム特有の配球」に引っかかり続ける、という不器用さ、対応力の無さが、どうにも見ていてイライラするのである。(実際、何度かゲームを見るのをやめた(笑)だが、試合結果が気になって、また見始める、を繰り返した)


かつて書いた記事で、「東地区の投手はカットボールを多用してくる」という特徴があることを書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ)

ミネソタは、このところディビジョンシリーズに毎年のように出られるようになったのはいいが、ヤンキースにばかりやられ続けているのだから、ちょっとは東地区の投手の典型的配球くらい研究すればいいのに、と思わずにいられない。
監督のガーデンハイアーは、出来損ないのアンパイアに退場させられたのは気の毒に思うし、「あのアンパイアこそ、退場!」と思うが、こういうチームの操縦について柔軟性が無さ過ぎる点は、どうにかしないと、と思う。



上に挙げた記事でも書いたのだが、ミネソタというチームは、けっこう投手の配球も、頑固かつ特殊なところがある。

スライダー」という球種は、投手に負担がかかるという理由から、メジャーではあまり数多く投げさせないという常識があると思っているのだが、どういうものか、ミネソタでだけは、たしか配球の「20数%」もの「スライダー」を投げさせている。(資料はたぶんFangraph)
こんなことを続けていては投手が壊れてしまう。

これまでのミネソタのホームは、いまではメジャーでも数が少なくなったクッキーカッター・スタジアムであるメトロドームだったが、ようやく今年から、近代的なボールパークであるターゲット・フィールドになった。
クッキーカッター・スタジアムの
歴史的経緯についての説明記事

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月21日、ボルチモアのカムデンヤーズは、セーフコのお手本になった「新古典主義建築のボールパーク」。80年代のクッキーカッター・スタジアムさながらの問題を抱える「日本のスタジアム」。


メトロドームは、日本の東京ドームがお手本にした球場で、屋根を気圧で押し上げる特殊な方式の球場だった。(東京ドームの屋根も同じ方式)

メトロドームメトロドーム
左中間、右中間が狭い、という意味ではヤンキースタジアムとも共通点がある。

Clem's Baseball ~ Metrodome

それだけに、おそらくメトロドームには、この手のドーム球場の特殊な球場内部環境にしかない「気圧」、「湿度」、「風」などのメリット・デメリットの問題が必ずあったはずで、それが投手の配球にも影響が絶対にあったはずだ、と思っている。
湿度など気候が配球に与える影響に関する記事
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月8日、2010年10月5日、ブログ過去記事を参照しながら味わうドジャース黒田の興味深いコメント (2)西海岸と東海岸、気候の違いと「配球文化」の差。または「湿度が高いとボールが飛ばない」という誤解。


もしドーム球場特有の配球、なんてものが存在するのなら、せっかくメトロドームからターゲット・フィールドになった元年なのだから、ガーデンハイアーも今年以降は投手の配球に多少は配慮してスライダーの数を減らすなり、なんなり、野球スタイルに多少の変化をつけてくれているといいのだが、今年のミネソタのレギュラーシーズンの配球傾向がどうなっているか、心配だ(笑)
頑固なガーデンハイアーのことだから、やっぱり例年通りスライダーばっかり投げさせているような気もする(笑)

せっかくホームパークが変わったのだから、カットボール主体の東地区風の投手を数人つくればいいのにと思わないでもないが。どうだろう。






October 08, 2010

いやー。これはちょっと酷い。

今日のディヴィジョンシリーズ、ヤンキース対ツインズの第2戦の7回表、ヤンキース先頭ポザダが四球で歩いて、そこからミネソタが2失点したのだが、フルカウントからのボール判定をめぐって、ミネソタ監督ロン・ガーデンハイアーが退場させられた。

見ていた人はわかると思うが、ガーデンハイアーが怒りに燃えたのは、なにもフルカウントからの1球だけではなく、左打者ポサダの打席でインコースいっぱいに決まった球がことごとく「ボール」判定されていたからだ。

後述するYahoo.comの記事(Twins’ misgivings about umpire were justified - MLB - Yahoo! Sports)を読みながら比較するとわかるが、今日のゲームでは、基本的に「一塁側の球(特に左打者のインコースのストライク)をボール、三塁側の球(特に左打者のアウトコースのボール)をストライクとコールする判定傾向」があった。

さらに言えば、このゲームでは、そもそもミネソタとヤンキースのストライクゾーンが明らかに違っている。「ミネソタの投手が左打者に投げるときのストライクゾーンのズレ」が特に酷くて、ストライクゾーン自体が三塁側にボール1個分以上ズレている
ガーデンハイアーはミネソタの投手がヤンキースの左打者に投げるインコースいっぱいの「ストライク」だけが、多数「ボール」と判定され続けていることに怒ったのである

それに、なにも7回のガーデンハイアーは長時間の抗議を行ったわけではなく、ごく短時間抗議してダグアウトに引き上げようとしていた。だが、ガーデンハイアーが諦めてベンチに帰ろうとしているのに、球審は彼の退場をコールしたのである。(もちろん擦れ違うときにでも、ガーデンハイアーが短く何か言い、その言葉が球審の耳に入ったのだろうが、面と向かって言われたわけじゃあるまいし、その程度のことで大事なポストシーズンのゲームを壊す権利は、球審にはないと思う)

ガーデンハイアーが退場させられた7回のポサダの打席以外にも、右打者デレク・ジーターへのド真ん中、明らかに「ストライク」のカットボールが「ボール」判定されるなど、今日の球審は、10をはるかに越えるストライクを誤判定して「ボール」にしている。

ヤンキース対ミネソタ第2戦 7回表 ポサダ 四球2球目のアウトコースにはずれているように見えるシンカーを、球審は「ストライク」とコールしている。そのことからも、そもそも球審のストライクゾーンが三塁側に大きくズレていることがわかる。ゲームの重要なポイントで、ストライクゾーン自体をボール1個半も動かされたんじゃ、ゲームにならない。

3球目のインコースのストレート、6球目のインコースのシンカー、共に、ミネソタの投手の投げたインコースの球が「ボール」判定されていることに着目してもらいたい



アメリカのヤフーcomのJeff Passanは、とてもゲームが終わったばかりとは思えないスピードで、このゲームの「判定の酷さ」について、詳細なデータ画像入りの批判記事を出し、球審Hunter Wendelstedtのアンパイアの判定の酷さを批判した。
Twins’ misgivings about umpire were justified - MLB - Yahoo! Sports

この記事の詳細なデータによると、やはり今日の球審のコール傾向には「大きな歪み」があった。

「ストライクゾーンが、2つのチームで著しく違っている」
「左打者のインコースのストライクの数多くを
 ボールとコールした」
「三塁側寄りにはずれるボール球のかなりの数を
 ストライクとコールした。
 とりわけミネソタの投手の投げた球の場合に顕著」



Yahoo.comのライターJeff Passanはこんな風に書いている。
the width is not some subjective determination. Home plate is home plate. It doesn’t move.
つまり、高低はともかく、ストライクゾーンの幅は、ホームプレートの幅が一定である以上、常に不変なのであって、そこがコロコロ変わるなどということは、「アンパイアの恥」であるはずなのである。

ダメなアンパイアに大事なポストシーズンのゲームを壊されれば、そりゃ怒りたくもなる。いくらインコースの判定が辛いメジャーとはいえ、ディヴィジョン・シリーズ第1戦を負けているミネソタからしたら、取り返しがつかないアンパイアのミスだ。去年もミネソタはポストシーズンでヤンキースに3連敗してポストシーズンを敗退しているだけに、なおさら怒りがおさまらないということもあるだろう。

ゲームを中継しているキャスターも、ガーデンハイアーに同調して、「エクセレント・ピッチ」とミネソタ先発のパヴァーノの球を褒めつつ、フルカウントからの左打者ポサダへのインコースの球を何度もスロー再生してみせた。
そのボールの軌道は、明らかに「ゾーンいっぱいに決まるストライク」。スローで違う角度の映像も見たが、明らかにストライクだった。
今日の球審が「いわくつきのアンパイア」なだけに、対戦相手のヤンキースから今シーズンはミネソタに移籍して17勝を挙げて大活躍だった先発パヴァーノと、ガーデンハイアーが気の毒になった。
New York Yankees at Minnesota Twins - October 7, 2010 | MLB.com Gameday


今日の球審の名は、Hunter Wendelstedt
実はこの人、父親も、1960年代から90年代にかけてナ・リーグのアンパイアで、親子2代にわたってのアンパイア。
そもそもHunter Wendelstedtは、ポストシーズンの経験が豊富なアンパイアではない。2009年10月1日のアリゾナとサンフランシスコ・ジャイアンツのゲームでは、こともあろうに、アリゾナの監督A. J. Hinch(史上最年少34歳でメジャーの監督になった)と、投手コーチのメル・ストットルマイアー・ジュニアの両方を同時に退場させる、などという「禍根の経歴」がある。
ちなみに退場させられたアリゾナの投手コーチメル・ストットルマイアー・ジュニアは、元ヤンキースの投手コーチで、2008年にシアトルの投手コーチも務めた、あのメル・ストットルマイアー・シニアの息子だ。


下記のブログによれば、Hunter Wendelstedtはこのシリーズが始まる前に、既にガーデンハイアーを合計4度も退場処分にしているらしい。
Gardenhire-Wendelstedt: A little history - Rivalry Central | Red Sox -- Yankees

親子でメジャーのアンパイアだから「なにかにつけて上から目線で判定を下す、居丈高なアンパイア」と決め付けるのは良くないかもしれない。だが、ガーデンハイアーは、かねてからトラブル続きの彼について、
Twins manager Ron Gardenhire last season said Wendelstedt believes “he’s God as umpires go,”(あいつはアンパイアが神様かなんかだと信じ込んでやがる)てな事を言っている。
Twins’ misgivings about umpire were justified - MLB - Yahoo! Sports


Yahoo.comで使われているデータの元ネタはBrooks Baseball · Home of the PitchFX Toolというサイトのデータである。元データから抜粋するときの細かいズレも多少あるように見えるが、記事の論調や結論に影響はあるほどではない。
Yahoo.comのグラフは、元データのうち、左バッター、右バッターのデータが混在したものから抜粋し作成されているが、元データでは、左バッターと右バッターで分けたグラフも挙げられており、「左打者と右打者でのストライクゾーンの違い」もわかるようになっている。
元データによれば「右バッターの場合のストライクゾーンは、ミネソタもヤンキースも変わらず、球審の判定の精度も高い。だが、なぜか左バッターになると、突然大きな差ができること」、あるいは「ミネソタの投手が投げた球に限って、左打者のアウトコースのボール球をストライク判定していること」「左打者のインコースのストライクの多くがボール判定されていること」などがわかるようになっている。

下記のYahoo.comのグラフが元資料にした元データ
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool

ヤンキースVSミネソタ第2戦 ストライクとコールされたボール今日のゲームの
called strike

これは「コールド・ストライク」、つまり打者が見逃したストライクだけを図表にしたもの。スイング・ストライク、つまり、空振りは含まれない

2つのチームのストライクゾーンが明らかに違う。ミネソタの投手が投げる場合に限って、三塁側寄りにはずれたボール球の数多くが「ストライク」と判定されている。これでは、ミネソタ側に「ヤンキースとミネソタで、ストライクゾーンがズレている」と思われてもしかたがないし、また、両チームでゾーンが違っていることに気がつくのが遅れれば、守備と攻撃でちぐはぐさが出て大きなハンディになるのは当たり前。


ヤンキースVSミネソタ 第2戦 ボールとコールされた球「ボール」と誤判定されたストライクゾーン内の球だけを集めた図
左打者に対するインコースの球が大半を占める。

7回表の左打者ポサダの打席では、アウトコースにはずれるシンカーをストライク判定し、逆にインコースをことごとくボール判定していることから、あきらかにゲーム終盤、ミネソタの投手が投げるときのストライクゾーンだけが、ボール1個半以上、三塁側にズレていることがわかる。






October 07, 2010

フィラデルフィアに移籍したロイ・ハラデイが104球でノーヒット・ノーラン達成なら、テキサスに移籍したクリフ・リーはまったく同じ104球で、タンパベイを10三振と翻弄し、幸先の良いポストシーズンのスタートを切った。
Texas Rangers at Tampa Bay Rays - October 6, 2010 | MLB.com Gameday

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月19日、CCサバシアには申し訳ないが、今シーズンのア・リーグのサイ・ヤング賞にふさわしいのは、さまざまなメジャー記録を更新しそうなクリフ・リーだと思う。


2人の名投手がまったく同じ104球でポストシーズン初日を終えたわけだが、ロイ・ハラデイが9回を完投したのに対し、クリフ・リーの投球回数が7回なのは、ハラデイとクリフ・リーのピッチングスタイルの違いだ。
ロイ・ハラデイは「驚異的に少ない投球数で打者を抑え、今の時代には珍しく、平気で8回9回と投げて完投してしまう」のに対して、クリフ・リーは、シアトル時代がそうだったように、「多少はシングルヒットを打たれランナーを出すが、四球は少なく、ランナーが出ても後続には絶対に打たせず、7回くらいのイニングをピシャリと締めるタイプ」だ。


だが、今日この2人に共通していたのは、ストライクの驚異的な高さ
ロイ・ハラデイが104球中79ストライクなら、クリフ・リーも、104球中76ストライク。2人のストライク率は73から75%、つまり、2人とも4球のうち3球をストライクを投げ込んでいる
これは驚異的なストライク率だ。

前にフェリックス・ヘルナンデスのストライク率とピッチングの安定感の関係を記事にしたことがあるが、もし、この70%を遥かに越える高いストライク率でフェリックス・ヘルナンデスが投げ込んだ場合、ここまでの安定感を発揮できるとは、ブログ主は思わない。
もちろんフェリックスもだいぶ進化しつつあるが、それは主に「それぞれの持ち球の、球のキレや安定感が上がったこと」を意味していており、無駄な四球などが無くなったわけでもない。ヘルナンデスのピッチングにおける投球術は、クリフ・リーや、ましてロイ・ハラデイには、まだまだ及ばない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月5日、ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を解き明かす。(ヘルナンデスの2009ストライク率グラフつき)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「バランスの鬼」ヘルナンデス、8回2/3を2失点に抑え4勝目。輝きを取り戻しはじめたヘルナンデスの個性を、クリフ・リーとの「ストライク率の違い」から考える。ロブ・ジョンソン3安打。(2010年ヘルナンデス ストライク率表つき)






これはもう、野球というより芸術だ。

なんと形容すればいいか、言葉が追いつかない。
なんという素晴らしいドラマ。MLBは本当に素晴らしい。
104球。79のストライク、8三振。1四球。


12シーズン所属したトロントを今年離れ、フィラデルフィアに移籍した"Doc"こと、ロイ・ハラデイ。いきなりレギュラーシーズンで250イニング登板して21勝を挙げ、完全試合も達成。2003年のア・リーグに続いて両リーグ受賞となるナ・リーグのサイ・ヤング賞は間違いない。(両リーグでサイ・ヤング賞投手になったのは、スピットボールで有名なゲイロード・ペリー、先日PBSの"The Tenth Inning"でも取り上げられていたペドロ・マルチネス、元シアトルのランディ・ジョンソン、ステロイダーのロジャー・クレメンス

そして今日10月6日は念願だったポスト・シーズンでの初登板だったが、なんと、いきなりシンシナティをノーヒット・ノーラン(というか、準完全試合)にしとめた。
ポストシーズンでのノーヒットノーランは、1956年ワールドシリーズで、ヤンキースのドン・ラーセンがドジャース相手に完全試合を達成して以来、54年ぶり2度目。

今年ナ・リーグのサイ・ヤング賞投票で彼、大投手ロイ・ハラデイの名前を書かない記者など、ありえない。
間違いなく、いま、MLB最高の投手は、彼だ。
おめでとう、ドク。
Roy Halladay Postseason Statistics | phillies.com: Stats

Cincinnati Reds at Philadelphia Phillies - October 6, 2010 | MLB.com Gameday

27個のアウト全部が見られる動画
Doctober! No-no for Halladay in playoff debut | MLB.com: News

試合直後のインタビュー
試合直後のインタビューでロイ・ハラデイは、Dream comes true.とポストシーズンで初めて登板できた嬉しさを淡々と語ったほか、キャッチャーの Carlos Ruizの名前を挙げて、今日の偉業にとって、キャッチャーの強力なサポートが不可欠だったと褒めたたえた。Carlos Ruizは、1979年生まれで、フィリー生え抜きの5年目。今年初めて3割を打っている。
Baseball Video Highlights & Clips | CIN@PHI Gm 1: Halladay talks on-field about his no-no - Video | MLB.com: Multimedia


上に挙げた動画で、27のアウト全部、正確にいうと、27個のアウトと、たった1個のフォアボールを、5分間にわたって見ることができる。MLBの動画サービスはいつも素晴らしいが、全部のアウトを編集している動画は珍しい。
いかにロイ・ハラデイが「落ちる変化球で打者をしとめているか」が、非常によくわかる。メジャーの決め球は「アウトコース低め一杯のストレート」などではなく、「変化球」なのである。

この動画、注意して見ると、それぞれの打者に投げた配球を表す小さい画面が、全部の打者の分、映っている。「ひとりの打者を、ほんとうに少ない球数でしとめる」ロイ・ハラデイの特徴が、非常によくわかる。三振も、三球三振が少なくない。

いつぞや、トロント時代の2009年にボストンのオルティーズを三球三振にしとめた配球の素晴らしさを紹介したことがあった(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い)が、あのときと同じようにハーフハイトの球を使った美しい三球三振を、また今日も見られたのには感激した。

2009年9月30日 7回 ハラデイ、オルティスを3球三振2009年9月30日
トロント時代にオルティーズを三球三振にとった配球
2球目に変化球を低めに決めるのがポイント。

チェンジアップ
カットボール
カーブ

2010年10月6日 ロイ・ハラデイ ノーヒット・ノーラン時の配球2010年10月6日
ハーフハイトの球を使った
あまりにも美しい三球三振

ストレート
チェンジアップ
カットボール






October 06, 2010

3年目に自己最多の11勝を挙げてドジャースでの3年契約を満了した元・広島の黒田のコメントが、かなり面白い。配球マニアでなくても、必見だろう。
悩める黒田 残りたい理由と戻りたい理由とは…(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース
このブログで過去に書いたことの数多くの話とも、かなり響きあうので、ちょっといくつか記事を書いてみることにした。


ただ、この黒田のコメントを読む上では、まず最初に注意を促しておかなければならないことがある。それは球種の呼び名だ。

球種の呼び方、特に変化球の呼称は、ときに日米間で大差がある場合もある。また投手ごとにも、多少違いがある。
日米間で特に呼び方の差が激しいと思う球種はシンカーやツーシームのような、いわゆる「動くボール」の類(たぐい)だと思う。日米で「シンカー」と呼ばれている球は、実際には両国で大きな違いがある。

またメディア間、選手間で「こう握って、こう変化すると、シンキング・ファーストボール」とか、「こう握って、こう変化すると、スクリューボール」とか、絶対的定義が取り決められているわけでもない。
アメリカでは、なんでもキッチリしたがる律儀すぎる日本人からしてみればルーズだと叱られそうな話だが(笑)、場合によっては「なんだかわからないものは全部『チェンジアップ』と呼んで済ましておこう。それでいいじゃん。そうだ、そうしよう」などという場合も多々ある(笑)

投手にしてみれば「いま投げたのはサークル・チェンジです。次の球はスクリューボールです。」と、記者の質問にいちいち答えるわけでもなんでもない。
だから、映像で試合を実況するスポーツキャスターが、スローVTRの再生動画をチラッと見て、握りがなんとなく「サークルチェンジ風」だから「サークルチェンジ」と呼んだとしても、当の投手本人に言わせれば「あれはシンカーだよ?何いってんの」とか、違うことを思っていることだって、よくある。


また日本のプロ野球でプレーしているのにアメリカ風の球種分類に沿って話のできる日本人投手やコメンテイターもいれば、逆に、せっかくアメリカでプレーしているのに、いつまでたっても日本風の球種分類でしかコメントできない日本人捕手(笑)・日本人投手も、いる。
例えば中日ドラゴンズの山本昌のことを「スクリューボール投手」などと紹介するサイトは数多くあるわけだが、山本昌本人は「自分の投げるシンカー系の球を、全部スクリューだと言っている」わけではない。(また本人は自分を「速球派」といっているのは有名)

実際、ある実際のゲーム後、山本昌は「打者Aにはスクリュー、打者Bにはシンカーを投げた」と、きちんとスクリューとシンカーを区別したコメントをしている
相手打者が右か左かによってボールをどちら側に曲げるかを決め、何種類かのシンカー系の球種を、しかも高低にコントロールして投げ分ける山本昌独特のピッチングスタイルは、むしろ非常にアメリカっぽい。彼のコメントのシンカーとスクリューボールの分類も、きちんとアメリカ的な分類に沿っていて、彼はコメントにおいても、この2つの球種が混同されることもない。
これはたぶん、山本昌が若い頃にドジャースのキャンプを経験していて、オマリー家の墓地で眠る故・アイク生原さんなどに変化球をたたき込まれたことが大きく影響しているに違いない。
山本昌はメジャーでの登板経験こそ投げないが、ピッチングスタイルにおいて非常にアメリカ的な部分があって、引き出しも多いヴェテランだけに、たぶんドジャース経験後の黒田と山本昌には通じ合う部分が多いに違いない。


黒田は、スカウンティングの発達により、すぐに研究されてしまうアメリカ野球を生き抜くために、たくさんの大投手たちに教えを請い、ピッチングのコツを教えてもらってきたようだ。投手王国・名門ドジャースならではの人脈も、彼に幸いしたのだろう。

黒田「メジャーはスカウティングシステムが発達していてすぐに研究されてしまう。だから常に進化していかないと、やられてしまう(中略)(だから、グレッグ・マダックスクリス・カーペンターに直接指導してもらうなどして)いろんな勉強をして引き出しをたくさんつくった。(中略)
日本では小さい頃からきれいなフォーシームを投げる練習をするけど、こっちはスタートから違う。もちろんフォーシームで結果を残す投手はたくさんいるけど、合わない投手もいる。僕が動くボールを見せることで違う方向に行けば、違った結果が出る可能性もあると気づいてもらえればいい
悩める黒田 残りたい理由と戻りたい理由とは…(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース


黒田と山本昌、引き出しの多い職人気質のヴェテラン投手2人のピッチング談義があったら、ぜひじっくり見てみたいと思う。彼らのようなスタイルのヴェテランの話にこそ「メジャーでも通用する日本人投手の新しいピッチングスタイル」「日本野球のレベルを一段引き上げる日本の投手の新しいスタイル」が見えてくるかもしれないと思うからだ。



余談だが、この10年の長きにわたって、シアトルが投手の育成やトレード、バッテリーワークの構築において犯し続けてきた根本的な間違いも、たぶんこういうところにある。
シアトルが育ててきたのは、「4シームがちょっとばかり速いだけで、後は何もない投手」だが、彼らは、黒田投手の言葉を借りれば、『引き出しのまったく無い投手』ばかり」であって、スカウンティングが発達し、打者の対応技術も高いアメリカでは、そんな投手たちはすぐに何の役にも立たなくなる。

なのにシアトルは、誰が陰でこのチームを指揮してきたのか知らないが、「ストレートの速い投手ばかり並べて、日本人キャッチャーが決め球のストレートをアウトコースの低め一杯に決めさせる」なんていう思い込みひとつで、大金をかけてチームをがむしゃらに作り上げてきた。
そのセンスの、まぁ、老人臭いこと、カビ臭いこと。野球の世界にまだ球種自体が少なくて、速球投手全盛だった村山江夏の時代の日本野球じゃあるまいし。
誰がこのチームにクチを挟み続けてきたのか知らないが、この西海岸のチームだけは、広いメジャーの片隅で、こっそりと、そういうカビ臭い懐古趣味の実験を、10年もの間、続けてきたのだ

勝てるわけがない。






October 04, 2010

9月26日の記事で、
「日本のプロ野球セ・リーグではいま、ちょっとやそっとの補強では埋められないほど、チーム別スタッツに大差がついている。」と書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月26日、ソフトバンク優勝でハッキリした「城島獲得を渋ったかつての投手王国ソフトバンクと、高額ダメ物件・城島に手を出した阪神」との大差。

城島が3割バッターをズラリと並べながら横浜・村田に9回逆転3ランを浴びて無様に優勝を逃した頃、ほぼ同時に「横浜が身売り」「阪神マートン・シーズン安打記録更新」「有力な選手多数のメジャー移籍」などのニュースが日本の野球界を賑わせているが、それらのニュースにはすべて同じ底流が流れていると思う。
それは「拡大と固定の一途を辿るチーム間格差」だ。

ちょっとセ・リーグ某球団の3人のバッターの対戦球団別スタッツを眺めてみる。(日本時間2010年10月4日現在(たぶん(笑))。A〜Eは対戦相手で、全てセ・リーグ)
誰でもわかる際立った特徴があるから、3人のプレーヤーの名前と所属球団を特定するのは、数字に慣れている人ならまったく難しくない

打者A
  打率 打数 安打 HR 打点 三振 四球 死球
A .236  89  21  4  11  5  3  4
B .276  87  24  3   9   8  5  4
C .295  88  26  7  21  8  5  2
D .278  97  27  8  20  9  1  5
E .382  89  34  3  15  10  5  0
チームEを除いて再計算すると、リーグ内シーズン打率は.271
交流戦パ・リーグ上位2チームに対する打率は.250、.267

打者B
  打率 打数 安打 HR 打点 三振 四球 死球
A .239  92  22  6   8  27  4  1
B .228  92  21  5  19  35  3  0
C .315  89  28  5  21  19  5  2
D .327  101  33  7  19  25  4  1
E .402  87  35 14  31  19  5  0
チームEを除いて再計算すると、リーグ内シーズン打率は.278
交流戦パ・リーグ上位2チームに対する打率は.067、.273

打者C
  打率  打数 安打 HR 打点 三振 四球 死球
A .292   96  28  2  10   8   9  0
B .302  106  32  6  18  11  4  1
C .455  101  46  4  22  13  5  0
D .356  101  36  4  24  11  11  2
E .370   92  34  0   6   7   9  0
チームA、Bのみ対象に再計算すると、シーズン打率は.297
交流戦パ・リーグ上位2チームに対する打率は.412、.250
「無安打が27試合ある一方、猛打賞23試合と固め打ちが目立つ」(某国内メディア)のも当然。特定チーム相手に安打数を稼いだ

ついでに、打者Aが打ったホームランのうち、7月中旬以降にホームランを打った相手球団をアルファベットで並べてみる。C、D、Eばかりなのがわかる。

E C C A D D D D C C E B D D


もちろん、わかる人は既におわかりのように、上に挙げた3人の打者の所属球団は「阪神」であり、また打者Aは「ダメ捕手城島」である。
彼らは下位球団との対戦でのみ「4割前後もの超高打率」を残し、打者Bなどは「単一チーム相手に14本ものホームラン」を記録し、打者Cは「単一チーム相手に46本ものヒット」を記録している。
セ・リーグ下位球団が、上位球団の一部バッターに、どれほど異常な高打率 (あるいは多数のホームラン) を供給し続けているか」、説明しなくてもわかると思う。


こうした異常事態は、既に何人かのプロ野球ファンが気づいてブログ等で記事にしている。
こんな単純なデータが頭に入っているだけで、ダメ捕手城島が「お客さん」であるはずの横浜に逆転3ランを供給したことの惨めさや、その後の「お得意さま」広島戦で無駄に城島が「想定内ホームラン」を打つことの無意味さは、子供でもわかるのである。(メジャー時代にも城島は同地区の弱小チーム、オークランド戦などでばかり打っていた)

だから、メジャーから逃げ帰ったヘボ打者が下位球団だけを相手に達成するかもしれない「まやかしの3割30本」などより、いま日本のプロ野球にとって大きな問題だと思うのは、9月30日の記事でも書いた「なぜ日本のスカウティングがこれほどまでに遅いのか。十分に機能していないのか」という点のような気がする。
どうも、データを見るかぎり、下位球団に限って、苦手な打者にいいように打たれまくっているのを「放置」しているのではないか、という気がしてしょうがないからだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月30日、逆転3ランを打った村田が「なぜ、あれほど勝負のかかった場面で、高めのクソボールを強振できるのか?」についてさえ、何も書かない日本のプロ野球メディア、野球ファンの低レベルぶり。


プロ野球ファンの人たちは現状をどう感じているのだろう。

例えば「有力選手多数のメジャー流出」という話だが、もしブログ主が「リーグ下位球団に所属する数少ない主戦投手」だとしたら、チームにさっさと見切りをつけて「メジャー移籍」に走る。
理由は、「リーグの上位球団に有力プレーヤーがますます集まる現状があって、どう戦っても勝てそうにないから」というのではなくて、むしろ「自分の所属する下位チームが、きちんと対戦相手を研究せず、また研究結果をできるだけ早くゲームに生かそう、苦手な対戦相手をなんとか負かそうという姿勢にあまりにも欠けていて、無為無策に負け続ける」からだ。

野球選手には「優勝できる球団でなければやりたくない」という選手ばかりがいるわけではない。「自分の置かれた限定された境遇に負けずになんとか頑張って、好成績を残したい。チームに貢献して上位にしたい。優勝したい」と考える男気のある選手も少なくない。
しかし、それにしたって、2010シーズン終盤に快進撃したボルチモアのように、ボストンのクローザー、パペルボンすら打ち崩して自信を取り戻し「有名選手が集まっていなくたって勝てるんだ!」と気概に燃えていればともかく、現役時代の秋山が入団する前のソフトバンクのように練習はロクにしないわ、シアトルの無能なベンチコーチロジャー・ハンセンのように練習の狙いそのものがあまりにも的外れだわ、セ・リーグ下位球団のように、打たれまくっている打者がわかっているのに何度でも打たれ続け、負け続ける、なんて事態が長く続けば、誰だって嫌になる。
嫌にならないわけがない。


どうもブログ主には「日本、特に下位球団では、相手チームのスカウティングをあまりに怠っているか、たとえしていても、対策速度があまりにも遅すぎる」という問題が、結果的に「下位球団(特にセ・リーグ)の異常な弱体化」を招いているような気がしてならない。(以下にオリックスの例を挙げた。対戦チームが同じリーグだけみても5チームあるのに、どうすると4人でデータが満足に収集できるというのか)

例:上位チームと下位チーム スコアラーの人数格差
セ・リーグ優勝の中日 10人
オリックス        4人
4人じゃ勝てない オリックス データ収集から見直す(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース

原因は何だろう。下位球団に金がなくて、分析スタッフを雇ったりデータを買う予算がないのか。データ自体を軽視して、昔ながらの勘だけで古臭い野球をやっているのか。データに金をかけるくらいなら選手に金をかけたほうがいいとでも思っているのか。それとも、いい捕手を育てるための素材や育成スタッフに恵まれないのか。それとも、野球はいくら打たれても、自分も打てばなんとかなる、とでも思っているのか。
詳しいことはよくわからないが、まぁ、何億もかけて見かけ倒しのキャッチャーを買ってくるより、数千万円程度でデータを買って既存の給料の安いキャッチャーに覚えてもらうほうが、よほど大金を使わずに済ませられると思うのだが、どういうものか、「同じ打者に、何度でも、何十回でも、果てしなく打たれ続ける球団」は無くなりそうにない。

よく、いい選手には打たれてもしょうがない、と言うが、この場合どうだろう。
上の3人の打者のデータで、Eというチーム(横浜だが)の死球数を見てもらうとわかるが、チームEは3人の打者にただのひとつも死球を与えていない。もちろん打者にぶつけろなどと言っているのではない。そうではなくて、要は、「きわどいところにズバンと決めにいくような厳しい攻めをしてないのではないか」と言いたいのである。

もちろんメジャーには来たい選手はどんどん来ればいい。誰だっていつか世界最高峰の舞台でプレーしたいと願うのが当然だ。
だが、もし、こういう下位球団の抱える問題が放置されて招いたデメリットとして、「せっかく下位球団で頑張ってきた主力選手の『我慢の糸が切れた』ためのメジャー流出」や、「勝てない下位球団の赤字による身売り」が発生しているのだとしたら、そういうネガティブな方向で達成されるメジャー移籍やフランチャイズ分散はちょっといただけない事態だと思う。
メジャー移籍やフランチャイズ分散はもっとポジティブな意味で実現されるべきだし、これでは日本野球の体質改善が進みっこない。


だからこそ、飛ばない国際球(あるいはメジャーのボール)への対応を進めるどころか、かえって「飛ぶボール」を採用し、打てる打者をズラリと揃えて、スカウティングが弱体で投手力も弱い下位球団だけを打ちまくった挙句に、やがてスカウティングの遅い下位球団にすら研究されはじめると途端に打てなくなって得点力が急降下していき、最後の最後に、お得意さんのはずの球団から劇的な9回逆転3ランを食らって優勝を逃す球団の正捕手が「どれだけ恥ずかしい」か。

この恥は野球史に残るレベル、と言うのは、そういうことだ。






かつて2008年にダメ捕手城島が選ばれた名誉ある(笑)賞のひとつに、ESPNの有名記者Jason Starkが選定するLVP (Least Valuable Player)という賞がある。
日本語でいうなら、彼が選定する「ワーストプレーヤー」だが、毎年、オールスター前までの上半期と、フルシーズンの2つが、野手、投手、監督について発表されている。

2008年の城島はこのLVP(Least Valuable Player)を、上半期とシーズンの両方を同時獲得(笑)していて、まさに誰も文句のつけられない、押しも押されぬピカピカのLVP様だった(笑)(Jason StarkがMLBに携わる記者の中でどれだけ影響力の大きい人物かは、過去記事参照)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2008年7月12日、城島はESPNのMLB専門記者Jason Starkの選ぶ上半期ワーストプレーヤーに選ばれた。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2008年9月28日、ESPNのJason Starkは城島をア・リーグ年間ワーストプレーヤー、「LVP」に選んだ。



そのJason Stark、今年2010年の上半期LVPに選んだのは、我らが「使えないチビ」こと、ショーン・フィギンズだった。
Please don't go back and read all the stuff we wrote this past winter when the Mariners signed Chone Figgins.
Jason Starkは、前年の冬にフィギンズ移籍について書かれたESPNの記事のフィギンズに対する期待感の全てを取り消して、その上で「チームオフェンスの醜い終焉を招いた」と、かなり口汚い言葉を使って、フィギンズの酷さをこきおろした。もちろん、それが当然の行為、当然の成績である。
ちなみに、彼がア・リーグの投手から上半期のMVPに選んでいるのはクリフ・リーで、これも異存のないところ。上半期、自軍のブルペン投手の酷さに手を焼いたロブ・ジョンソンの苦労も多少報いられることだろう。
MLB: Joey Votto, Cliff Lee and Carlos Zambrano among the midseason award winners - ESPN


さて、10月2日になってJason StarkはさらにシーズンLVPを発表した。

年間LVPに選ばれたのは、なんと個人のプレーヤーではなく、「イチローを除くマリナーズの打者全員」(笑)Jason Starkがこういう選択の仕方をしたのは初めて見た(笑)彼は選択理由のコメントの中でこんな意味のことをガッツリ書いている。

「そりゃ、まぁ、上半期LVPはショーン・フィギンズをワーストプレーヤーに選んだわさ。でも、な。よくよく考えてみるとだな、近代以降のア・リーグのありとあらゆる打線の中で、なんのためらいもなく「最低最悪」と言い切れる2010年マリナーズ打線(イチローを除く)にあってだ。フィギンズだけをLVPに選ぶのは、フェアじゃないわな」
Back at the All-Star break, I handed out the prestigious LVP of the Half-Year non-trophy to Chone Figgins. But upon further reflection, I concluded it just wasn't fair to single out one hitter in what we can now safely proclaim as The Worst American League Lineup of Modern Times.
Honoring 2010's most valuable and least valuable players, Cy Youngs and Yuks, rookies and managers - ESPN

とか、なんとか、言いながら、Jason Starkは、ア・リーグ年間LVPの次点筆頭に、しっかりと「ショーン・フィギンズ」の個人名を記している(笑)(こういう慇懃無礼さは、欧米にはよくある)Starkがフィギンズの年間成績を批判してない、なんてことは、まったくない。(また、フィギンズの次にはミルトン・ブラッドリーの名前もある。)
いうなれば、2008年の城島に続いて、2010年のショーン・フィギンズは、上半期と年間LVPをほぼ受賞したに等しい。まぁ、当然の判断だ。

というか、
(イチローを除いて)近代以降のア・リーグ最悪と言い切れる打線を編成した責任は、それこそ「誰がどうみたって」GMズレンシックにあるのだから、Jason StarkとESPNの指摘する2010年の年間LVP、というか、2010シーズン最悪の非貢献者は、誰がどうみたって「マリナーズの無能GMズレンシック」ということになる。

それはそうだ。
この打線を組んだのは他の誰でもない。当然だ。
近代以降ア・リーグで最も失敗したGMのひとりになれて、おめでとう、ズレンシック。







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