April 2012

April 30, 2012

今シーズンのボルチモアがどう変わったのかについて書いた前記事に続き、こんどは、コロラドでは「防御率4点台後半の、パッとしない先発ピッチャー」でしかなかったジェイソン・ハメルが、ボルチモアでどう変わったのかについて、キャッチャーのマット・ウィータースと、ピッチングコーチのリック・アデア、そしてハメル本人の具体的なコメントを見てみる。


ポイントは3つ。

● かつて投げていたが、やめていた2シームを
  移籍後のスプリングトレーニングでモノにできた
● グラウンドボール・ピッチャーへの変身
● コーチ、投手、キャッチャーの意思疎通


以下は、ジェイソン・ハメルが4月初旬に8回までノーヒッターを続けたゲーム後のインタビューだ。
Steve Melewski: Matt Wieters and Rick Adair talk about Jason Hammel
まず、キャッチャーのマット・ウィータースのコメント。
(原文より関係個所を抜粋。以下同様)
"In spring training, you could tell he had good stuff, but you are always constantly working on things. He did a great job of pitching to his strengths and getting a lot of groundballs. "
「スプリングトレーニングで、彼にいい持ち球があることはわかってたといっていいと思うけど、彼は絶えず努力もしてた。今日は彼の強みをより生かすピッチングができてたから、たくさんのゴロを打たせることができた。」


次に、ピッチングコーチのリック・アデア
Steve Melewski: Matt Wieters and Rick Adair talk about Jason Hammel
Did you think the two-seamer would be a big factor for him when the club acquired him after the trade?
"Never thought about it because he threw some four-seamers that actually had two-seam action. With some other things he's done, he's got the ability to get on top of the ball a little easier now. Just going to the two-seamer, it worked out and he's pretty excited about it."
彼をトレードで獲得したとき、2シームが彼の活躍の大きなカギになると思いましたか?
「まるっきり思わなかった。彼は既に2シーム的な動きをする4シームも投げてたわけでね。彼にはもともと楽に2シームを使いこなせるだけの能力が備わってたんだ。だから2シーム使いになろうと決めるだけで、それを実現できたことに、彼はとても興奮してたね。」

What did you see that led you to think you could tweak some things with Hammel to improve his two-seamer?
"Probably the first thing I thought about is he reminded me a lot of Doug Fister. And some things that were done with Doug (when he was his pitching coach in Seattle in 2009-10). It's worked out pretty well with Fister until he pulled his oblique yesterday. But, yeah, they reminded me a lot of each other."
なんらかの調整によってハメルの2シームを改善できると思ったきっかけは何でしたか?
「たしか最初に思ったことというと、ハメルを見てダグ・フィスターを思い出したってことじゃなかったかな。(シアトルのピッチングコーチ時代の2009年から2010年にかけて)ダグとやってたことと似てるんだ。昨日フィスターは筋肉を傷めちゃったけど、彼の場合、かなりいい結果がでてるわけだしね。ハメルとフィスターには強い共通点を感じるよ。



で、これらのことについて、当のジェイソン・ハメルがどう言っているか。
Steve Melewski: Jason Hammel talks about his no-hit bid against Minnesota
"Two-seamer is something I just started using again in spring training. "
「2シームは、(移籍後の)スプリング・トレーニングからまた使い始めた球種なんだ。」
Battled through a couple of control problems for a little bit but the two-seamer helped me out a lot getting sinker, ground ball and quick outs. "
「(今日のピッチングは)コンロトールに若干問題があって苦労もしたけど、2シームが僕を助けてくれたから、低めに球を集めて、ゴロと早いカウントでうちとっていくピッチングができた」
"That is definitely the most of my career," Hammel said of the 16 ground outs."
16個のゴロアウトについて、「間違いなくキャリア最多だろうね」とハメルは言う。
"Just small, small adjustments I made with Rick in my windup and delivery. He said 'I bet you can throw a two-seamer now.' I told him I had pretty much put it in my back pocket in Colorado.
「ワインドアップと投球フォームについて僕が(投手コーチの)リックとやったことは、ちょっとした、そう、ほんのちょっとした調整にすぎなかった。リックが言うには『(こんな、ほんのちょっとの調整で)君は2シームをすぐに投げられるよ。保証する』って言うんだ。だから僕は彼に『(トレードされる前に所属していた)コロラドでは(2シームを)お尻のポケットにすっかりしまいこんでた、それだけさ』って言ったのさ」


上のコメントで特に印象深いのは、2つ。
ひとつは、ピッチングコーチのリック・アデアが、ジェイソン・ハメルのプライドを傷つけないように、むしろ、彼のプライドをくすぐるように配慮しながら、結果的には、ジェイソン・ハメルが自分で「あれは微調整だ」と思っている以上に、彼のピッチングスタイルを大きく改善・変更することに成功していること。
そして、かつて在籍していたシアトルでコーチしたダグ・フィスターの名前を挙げつつ、ジェイソン・ハメルのスプリングトレーニングでの成果について、「かつてダグ・フィスター(との間で成し遂げた成果)を、大いに思い起こさせるものがあった」と述べていることだ。


フィスターの大成がリック・アデアの功績だったかどうかについては、本人の努力や、クリフ・リーという「教師」の存在、デトロイトのコーチの貢献をさしおいて、「移籍先のデトロイトでのダグ・フィスターの活躍は、元はといえば、オレがシアトルで彼を育て上げていたからだ」といわんばかりの自慢話には、多少の違和感というか、我田引水的な贔屓の引き倒しを感じないでもないが、事実、シアトル時代にストレート一辺倒だったブランドン・モローのピッチングを改善しようと、モローにカーブをもっと投げさせようと提案したのは、ほかならぬリック・アデアだったことは、過去のシアトル地元記事からも事実だ。
だから、人によってリック・アデアの評価に差はあっても、ダグ・フィスターのピッチングの幅を広げるにあたってのリック・アデアの貢献を多少なりとも認めるとすれば、ジェイソン・ハメルとのコミュニケーションにおいても、リック・アデアらしいソフトなコミュニケーション能力が生きた、ということが言える。(だからといって、リック・アデアをコーチングの天才と崇めたいわけではない)


要は、普通に対策をして、普通に物事を改善していけば、中にはビックリするほど良化、開花できる素材がある、ということだ。シアトルのように単調な指導ばかりしていれば、どんな好素材も、いずれ役立たずになる。

これまでこのブログで最も多くの記事を書いたシアトルとイチロー以外のチームや選手というと、たぶん、ロイ・ハラデイクリフ・リーが筆頭で、それ以外では、テキサスデレク・ホランドボルチモアバック・ショーウォルターあたりだろうと思う。


まだ4月で、そのうち息切れするとはいえ、ボルチモアが開幕ダッシュを決め、ア・リーグ東地区首位に立つとは誰も予想してなかっただろう(笑)

これまでのボルチモアといえば、早いカウントでの無造作で大振りなバッティング、エラーの多発する守備、ホームランを打たれてばかりの先発投手に象徴されるような、「大いに勢いはあるものの、結局のところ、どこまで行っても雑すぎる野球」だった。

だが、2010年にバック・ショーウォルターを監督に迎え、さらに翌2011年末には、元ボストンGMのダン・デュケットを3年契約でGMに迎えるなど、ボルチモアは着々とこれまでの大雑把過ぎたチーム体質の改善に着手してきた。
その効果は、ついにここにきて目に見える形として現れ始めており、ボルチモアは長年の課題だった投手陣再建にメドをつけつつある。


ボルチモアがチーム改革のために手をつけたポイントは多い。逆にいうと、ここまできちんと手を打たないと投手陣、ひいてはチームなんてものは生き返らないということでもある。

● GMと監督のテコ入れ
● 的確な選手評価のできるスカウト確保
● ピッチングコーチのテコ入れ
● トレードによる先発投手の入れ替え
● 投手の再教育による防御率改善
● キャッチャー、マット・ウィータースの成長
● 配球や持ち球の見直し コミュニケーションの改善
● グラウンドボールピッチャーの育成



GM ダン・デュケット
2011年11月〜
元ボストンGM。ボストンが2004年ワールドシリーズ制覇したチームの人材のほとんどが、このダン・デュケットの手がけた選手たちで、去年までボストンGMだったテオ・エプスタインの手腕など、ほとんど関係ないこと、そして「マネーボール」という映画のくだらなさ(笑)については、既に詳しく書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年11月8日、ボストンの2004年ワールドシリーズ制覇におけるダン・デュケットの業績を振り返りつつ、テオ・エプスタイン、ビル・ジェームス、マネーボールの「過大評価」を下方修正する。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:「デュケット」を含む記事


監督 バック・ショーウォルター
2010年7月〜
以下の記事参照。これまで何度も書いてきたので省略。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:「バック・ショーウォルター」に関する記事


ピッチングコーチ
リック・アデア Rick Adair
2011年6月就任。
言うまでもなく、2008年から2010年までドン・ワカマツ監督時代の元シアトル・マリナーズのピッチング・コーチをつとめ、ダグ・フィスターブランドン・モロージェイソン・バルガスなどの育成に関わった。2011年以降はボルチモアでブルペンコーチをしていたが、前任者辞任のため昇格。
(ちなみに前任者Mark Connorは、2008年8月にテキサスのピッチングコーチをクビになり、その後就任したボルチモアのピッチングコーチも2011年6月辞任)
Mark Connor Resigns | Orioles pitching coach Mark Connor resigns - Baltimore Sun


talent evaluator
ダニー・ハース Danny Haas
2011年にボルチモアのGMになったダン・デュケットが、就任直後の12月に古巣ボストンから引き抜いてきた。元アトランタのファーム監督だった父親Eddie Haasも、talent evaluator。
この人材がその後のローテ投手のトレード成功にどの程度生きているのかは不明だが、少なくとも、今シーズンのボルチモアのローテーション・ピッチャーがこれまでとはひと味違うのは確か。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年12月20日、テオ・エプスタイン一派の「談合的人事」をバド・セリグが拒絶。それを尻目に、ボストンからスタッフを引き抜いた元ボストンGMダン・デュケットの抜け目なさ。


右腕 ジェイソン・ハメル
3勝0敗 ERA1.73
GO/AO 2.06
2012年2月にコロラド・ロッキーズからトレードで獲得。
放出したのは、2007年から2011年までボルチモアに在籍し、いちおうエース格だった「被ホームラン王」ジェレミー・ガスリー。ハメルの活躍を見るかぎり、コロラドのピッチングコーチはもしかすると無能なのかもしれない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月2日、3回という早いイニングで敬遠したバック・ショーウォルターの慎重な「イチロー対策」。ジェレミー・ガスリーの被ホームランの多さ。
ボルチモア移籍後のハメルは、.194の驚異的な被打率。前年2011年のWHIPが1.427と酷いのに対して、2012年のWHIPは、なんと1.000(4月28日現在)。この変身ぶりにはちょっと驚かされる。コロラド時代、QS%が60%を超えたことは一度もないが、ボルチモア移籍後はなんと75%。
この背景にあるのは、2シームを覚えたことによるグラウンドボール・ピッチャーへの転身
Jason Hammel Pitching Statistics and History - Baseball-Reference.com


左腕 チェン・ウェイン
2勝0敗 ERA2.22
GO/AO 0.50
日本の中日ドラゴンズからFA移籍。現状フライボール・ピッチャーなのが気になるし、1.315というWHIPも、ほめられた数字ではないが、それでも、ERA2.22にまとめてくるあたりが、かつて投手王国中日ドラゴンズの主力投手だった経験の豊かさを感じさせる。
もし故障で絶望の和田毅が、MLBで多少なりとも使えるピッチャーだったとしたら、今シーズンのボルチモアの先発投手陣は凄いことになっていたかもしれない。
Wei-Yin Chen Statistics and History - Baseball-Reference.com


正捕手 マット・ウィータース
打率.274 13打点 6ホームラン
2007年のドラフト1位。有望な素質に恵まれ、ベースボール・アメリカのマイナーリーグ年間最優秀選手賞を受賞。2009年5月29日にメジャー昇格したが、期待されたほどの活躍をしたとはいえなかった。
しかし、バック・ショーウォルター監督就任後の2011年は、守備面の大幅な改善、あるいは投手とのコミュニケーションの大きな改善がみられ、セイバー系のうるさ型が選ぶFielding Bible賞を、この賞常連のヤディア・モリーナを抑えて受賞。2012年は、もともと期待され続けてきた打撃面の開花も、可能性が見え始めている。


ここに挙げたボルチモア投手陣再建ポイントのうち、最も大きいと思うのは、「チーム全体のシステムが整ったこと」
もっと具体的にいえば

やたらとホームランを打たれまくり、ア・リーグの被ホームラン王ベスト3に入っていたジェレミー・ガスリーに見切りをつけたこと。

ガスリーとのトレードで誰を獲得するかについて、きちんとした目付け、発掘ができていること。

コロラドから獲得してきたWHIPもERAもけしてよくなかったジェイソン・ハメルを、きちんと再教育し、持ち球や配球を改善したこと。キャッチャーのマット・ウィータースも再教育して、投手とキャッチャーとの間の良いコミュニケーションをキープさせたこと。



こういう作業は、言葉で言うのは簡単だが、ボルチモアがそれを実現するためには、ここまで書いてきたように、目標の見直しと、かなりの数の人材の入れ替えと、再教育が必要。
ボルチモアがやっているのは、「大金かけて良い選手を獲得してくること」でも、「明らかな成績を残した若い選手を放出し、かわりに、欲しい選手を交換してくるような、わかりきったトレード」でもない。
そんなこと、誰でもできて当たり前だ。

「超守備的」だの「育成」だのと称して、貴重な先発投手を放出しまくるのだけが大好きな無能なGMが既に大失敗しているのにもかかわらず、それをクビにもせず、無能な腰ぎんちゃくの監督が、自分の連れてきたピッチングコーチと馴れ合った中途半端なゲームで、スカウティングもできないゲームばかりやって、ホームランを打たれまくり、1番打者が適任のレジェンドには3番を打たせる意味不明の起用を押し付けて3000本安打の大記録さえ故意に遠ざけるような異常なチームとは、ボルチモアは根本的に違う。

何を目的にしているのか、ボルチモアの「テコ入れ」には、周囲からも目指すものがわかりやすく見えている。
(この記事の続編で、リック・アデアやマット・ウィータースの証言から、「ジェイソン・ハメルが、コロラド時代とはどう変わったのか」を具体的に書く予定)

April 29, 2012

無能GMズレンシックがブランドン・リーグとトレードし、その後トロントの主力先発投手に成長したブランドン・モローとの今シーズン初対戦は、シアトルがトロントに完封負け。
ブランドン・モローはこれで今シーズン2勝目。珍しく打線が下降していたデトロイトをスイープして天狗になっていたシアトルの鼻を、ローテ投手として風格の出てきたモローが見事にへし折った。
Seattle Mariners at Toronto Blue Jays - April 28, 2012 | MLB.com Classic

Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool

シアトル時代、ストレートばかりで押しては打たれまくっていたモローも、トロントで先発に定着して以降は、要所要所でスプリット、カーブ、スライダーを交え、またゲーム序盤とゲーム中盤で中心球種をかえるような配慮のできる懐の深いピッチャーになってきた。

それもそのはず、数字が裏付けている。
シアトル戦の前まで、今シーズンのモローは、「わずか50数%」しかストレートを投げていない。かつてのモローを知っているファンには驚きの数字だろう。(資料:Brandon Morrow » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball
シアトル時代のモローは、配球の70%以上をストレートばかり投げては狙い打たれたが、トロントに移籍してからのモローの配球、特に今シーズンの配球は、まったく「別モノ」なのであって、シアトル打線はかつてのモローとは別のピッチャーと考えて対戦すべきだった。(実際、ゲーム中盤にヒットを打てたイチローシーガーの打ったのは、いずれも変化球。特にイチローの2本目のヒットは、低めのスプリットを読み切っていた)

だが、いつものように、たいしてスカウティングもせずにゲームに臨み、自分の好きな球だけを好きなように打つだけなのが常のシアトルは、無策に変化球をひっかけて凡退を繰り返して完封負けを食らった。(代表例はブランダン・ライアン。全打席、変化球で凡退)
当然の結果だ。


ちなみに、シアトル時代のモローがストレート一辺倒の配球だったのは、彼自身の意志ではない。当時モローとバッテリーを組んでいたダメ捕手城島が、モローに単調な配球を押し付けていたためだ。(というか、他の投手全員にもアウトローのストレート、スライダーばかり連投させるようなたぐいの単調な配球を押し付けていた。このことは、現在の阪神ファンも、嫌というほどわかる話だろう)
これは、日本のシアトルファンにも、シアトル地元のメディアでも有名な事実で、当事者の証言も記事化されている話だが、当時あまりにストレートばかり投げるモローが狙い打たれるので、業を煮やした当時の投手コーチ リック・アデアがバッテリー・ミーティングを行って、コーチ側から「モローの配球にもっとカーブを多用する」との指示が出されていたにもかかわらず、なんとダメ捕手城島がその指示を全く無視して、モローにカーブのサインを一切出さなかったなどという、あり得ない事実があったのである。

だからシアトルの硬直した環境では、ブランドン・モローも実力の発揮のしようもなかったのは当然の話だ。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年12月22日、「投手コーチ・アデアとの打ち合わせを無視し、モローにカーブのサインを一切出さなかった城島」に関する記録。投手たち自身の「維新」による城島追放劇の舞台裏。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月19日、意味なくダメ捕手城島が阻害していた「カーブ」を自由に使えるようになってピッチングの幅を広げ始めたブランドン・モロー。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月8日、トロントに移籍したブランドン・モロー、東地区2位のタンパベイ相手に9回2アウトまでノーヒット・ノーラン。17三振を奪う。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月8日、ブランドン・リーグとの交換でトロントに移籍したブランドン・モローのここまでの好成績と、ダメ捕手城島のモローに対する配球の無能ぶりをあらためて振り返る。



それにしても、岩隈が満塁で、(そのサインが岩隈主導か、キャッチャーのミゲル・オリーボ主導かは不明)逆球であるにしても、初球アウトコース低めいっぱいの4シームを、右バッターエドウィン・エンカルナシオンに狙い打たれた満塁ホームランはとんでもなく不用意な配球だった。


なぜって、簡単。
エンカルナシオンは、「アウトコース、特に低めが滅茶苦茶に得意なバッター」だからだ。
(逆にいうと、彼の不得意コースは、このブログで何度も書いてきたロブ・ジョンソン風の「インロー、アウトハイ」である)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート


以下は、エドウィン・エンカルナシオンの今シーズンのホットゾーン、いわゆる得意コースだ。アウトコース低めが1.000、つまり「10割」なのがわかる(笑)

Edwin Encarnacion Hot Zone | Toronto Blue Jays | Player Hot Zone | MLB Baseball | FOX Sports on MSN

エドウィン・エンカルナシオンのホットゾーン 2012/04/28

今シーズンのエンカルナシオンのホームランは、これで6本目だが、今日の満塁ホームランを含め、その半数は「アウトコース一杯の球」である。
シアトルは前日のゲームでも、2回に先発ベバンが同じエンカルナシオンに、同じアウトコースをソロホームランされているクセして、なぜ、こんな簡単なことを、満塁策を指示するベンチ、指示されたバッテリーが、頭に入れて勝負に臨まないのか。

馬鹿としか言いようがない。

2012年4月15日のエンカルナシオンのホームラン2012年4月15日
ボルチモア戦
3号ホームラン


2012年4月27日のエンカルナシオンのホームラン2012年4月27日
シアトル戦
5号ホームラン


2012年4月28日 マリナーズ戦のエンカルナシオンの満塁ホームラン2012年4月28日
シアトル戦
エンカルナシオンの
6号満塁ホームラン

追記:4月29日にもやっぱりアウトコースの球をホームランされた。これで3戦連発。わけがわからん。ちっとは用心すりゃいいのに。

2012年4月29日 マリナーズ戦のエンカルナシオンのホームラン2012年4月29日
シアトル戦
7号ホームラン
Seattle Mariners at Toronto Blue Jays - April 29, 2012 | MLB.com Classic



岩隈が満塁ホームランを浴びたのは、打てもしないジャスティン・スモークという「置き物」を4番に据え続ける左右病の無能監督エリック・ウェッジが、3点リードされた無死1、3塁で満塁策をとり、前日にホームランを浴びているエンカルナシオンとの勝負を選んだからでもあるが、アウトコース低めが死ぬほど大好きなエンカルナシオンとの勝負というのに、満塁だからどうしても初球にストライクが欲しいとはいえ、アウトコース低めいっぱいの球なら、安全にストライクがとれると何の根拠もデータもなく思いこんでしまう単調な配球センスでストライクを取りにいってしまう「ダメ捕手城島的な、古臭い配球センス」は、完全に間違っている。

中には、エンカルナシオンのように、「アウトコース低めいっぱいが死ぬほど得意」というバッターもいるのである。相手にあわせて配球しないで、どうやって厳しいMLBで生き残っていくというのだ。甘いにも程がある。

わざわざ満塁にしてホームランバッターと勝負にいくのだから、せめて、相手の得意コースや得意球種くらい、頭に入れて勝負できないのか。
ベンチもバッテリーも、不勉強すぎる。



ダメ捕手城島について、数限りない回数指摘してきたことだが、もういちど書いておこう。
「アウトコース低めなら安全」という安易な発想は、日本の野球の一部にはびこる、単なる迷信に過ぎない。


いつになったら、この迷信を止めるのだろう。

April 28, 2012

名曲「野球小僧」を歌った灰田勝彦さん(以下敬称略)の持ち歌に、『真赤な封筒』という曲がある。

この歌の原曲というのは、インディアナポリス出身のAlbert Von Tilzer (1878-1956) の作った「Oh By Jingo!」という歌らしい。(資料:NAKACO'S CRAFT'S WEBLOG

Albert Von Tilzerという人物は、なんと、あの"Take Me Out to the Ball Game" (邦題『私を野球に連れてって』)を作曲した人物。ラプソディ・イン・ブルーなどで知られるジョージ・ガーシュウィンなどと同様、19世紀末のニューヨークのいわゆるティン・パン・アレーTin Pan Alley)で、シアター産業に供給する音楽が量産されていた時代の作曲家のひとりだ。

つくづく、灰田勝彦さんという人は野球に縁があるらしい。


1950年代の日本では『歌う野球小僧』などのミュージカル映画が非常に数多く生産されているのだが、そのルーツはアメリカのミュージカル(舞台や映画)に行きつく。
(このへんの詳しい事情についてはもちろん、小林信彦さんの一連の著作を読んで、フレッド・アステアの『イースター・パレード』(1948)とか『バンドワゴン』(1953)、ジュディ・ガーランドの『The Wizard of Oz(オズの魔法使い)』(1939)などの名作映画を観るなりしたほうが間違いがない)


灰田勝彦さんが育ったハワイのミュージシャン、IZ (Israel Kamakawiwoʻole 1970-1997)バージョンの
"Over the Rainbow"


かつて野球と、映画や音楽との関わりは、非常に親密なものだった。

日本の映画産業は1950年代にたいへんな繁栄期を迎えていたが、その時代は同時に、プロ野球が黎明期を終わって、英語でいうnational passtime、国民的娯楽になりつつあった時代でもあった。
つまり、野球が国民的娯楽になってきた時代は、同時に映画産業の最初の興隆期でもあるのであって、50年代に日本の大映松竹東映など、当時の景気がよかった大手映画会社がこぞってプロ野球チームを持ち、さらに野球映画も数多く製作しているのには、ちゃんと理由がある。
「ミュージカル」は、「ベースボール」や「ジャズ」と並んで、アメリカで発明された最もアメリカらしい文化のひとつだが、日本で野球をテーマにしたミュージカル映画が作られたことは、当時として自然な流れだった。


さて、"Take Me Out to the Ball Game"の作詞をてがけたのは、Jack Norworth (1879-1959)である。


この曲の歌詞が出来た経緯については、「1908年に彼がニューヨークの地下鉄に乗っていて、あるポスターを見て、この歌詞を思いついた」というのは非常に有名な話だ。(だが、どういうわけか知らないが、日本のWikiにはこの部分に関する記述が欠けている)

そのポスターは「野球の試合の告知ポスター」で、
こう書かかれていた。
"Baseball Today ― Polo Grounds"

もちろん Polo Grounds というのは、1958年にサンフランシスコに移転する前までニューヨークにあったジャイアンツの本拠地球場のことだ。
参考記事:カテゴリー:『1958年の西海岸』 特別な年、特別な場所。 1/12ページ目 │ Damejima's HARDBALL


非常に興味深いのは、作詞者 Jack Norworthがニューヨークの地下鉄の車内で見た野球の試合のポスター」というのが、いったい、「何月何日の、どんなカードのゲームだったのか?という点だ。


以前、一度書いたように、ニューヨーク時代のジャイアンツは、本拠地ポロ・グラウンズを他球団に貸し出していた
2010年8月25日、セーフコ、カムデンヤーズと、ヤンキースタジアムを比較して、1920年代のポロ・グラウンズとベーブ・ルースに始まり、新旧2つのヤンキースタジアムにも継承された「ポール際のホームランの伝統」を考える。 | Damejima's HARDBALL

2012年3月21日、1958年ドジャース、ジャイアンツ西海岸移転に始まる「ボールパーク・ドミノ」  (1)エベッツ・フィールド、ポロ・グラウンズの閉場 | Damejima's HARDBALL


だが、ポロ・グラウンズが、例えばヤンキースの前身であるニューヨーク・ハイランダーズのような他球団、あるいはフットボールの試合のために「貸し出された」のは、「1913年以降」の話だ。

したがって、「1908年にニューヨークの地下鉄の中で、Jack Norworthが見た『ポロ・グラウンズで開催される野球の試合』の告知ポスター」とは、「ポロ・グラウンズを借用していたチーム」のゲームではなく、明らかに、1908年当時にポロ・グラウンズを本拠地にしていた唯一の球団である、ニューヨーク・ジャイアンツのホームゲームを告知するポスターであることが確定できる。


アメリカ野球に関する優秀なリサーチサイトBaseball Researcherの調査によると、"Take Me Out to the Ball Game" が楽曲として著作権事務所に申請された日付が「1908年の5月2日」であることがわかっている。
On May 2, 1908, "Take Me Out to the Ball Game" was submitted to the United States Copyright Office.

Baseball Researcher: Take Me Out to the Ball Game Polo Grounds

ならば「Jack Norworthが見た試合告知ポスター」の「日付」をさらに絞りこむことが可能になる。


1908年当時のゲームログを、Baseball Referenceで調べてみると、"Take Me Out to the Ball Game" が著作権事務所に申請された5月2日までのニューヨーク・ジャイアンツのホームゲームの日程と対戦相手は、以下の通りであることがわかる。

4月22日〜25日 ブルックリン・ドジャース戦
5月2日〜4日 フィラデルフィア・フィリーズ戦

1908 New York Giants Schedule, Box Scores and Splits - Baseball-Reference.com


もし、「Jack Norworthが、ポスターを見て詞を書いて、その直後に著作権事務所に行った」と仮定すると、可能性があるのは、5月3日、5月4日の試合会場はポロ・グラウンズではないことから、「4月22日から25日えまでの対ブルックリン・ドジャース4連戦」か、もしくは「5月2日フィリーズ戦」の「2つの可能性」しかない。

著作権事務所に出すための書類や楽譜などをそろえるための手間などを考えると、常識的に考えてJack Norworthが見たポスターは、どうみても「4月末のポロ・グラウンズで行われたドジャース4連戦を告知するポスター」だっただろう、ということにはなるが、「5月2日フィリーズ戦」である可能性も、けしてゼロではない。(もちろん、詞と曲が揃っていたか、という問題はある)


ここでちょっと、Jack Norworthの書いた"Take Me Out to the Ball Game"のオリジナル原稿を見てほしい。5か所の単語が入れ替られていることを除けば、「ほぼ修正されていない」。
出典:Larry Stone | "Take Me Out to the Ball Game" turns 100 years old | Seattle Times Newspaper


"Take Me Out to the Ball Gameのオリジナル原稿"
(クーパーズタウンのMLB野球殿堂所蔵)

オリジナル原稿で見ると、たった5つ程度の単語の入れ替えを除けば、大きな修正はほとんど無く、この詞が最初からほとんど完成レベルにあったことがわかる。
このことからして、"Take Me Out to the Ball Game"の詞は、地下鉄車内でほぼ完全な形に書き上げられていた可能性が高い
、と見ることができる。


事実、2009年4月8日のTimeの記事(ライター:Frances Romero)にによれば、「Jack Norworthは、ポロ・グラウンズでの野球の試合告知ポスターにインスピレーションを得て、地下鉄車内で、持っていた封筒の裏に15分以内に書きとめた」とある。
One day while riding a New York subway, Norworth saw a sign that read "Baseball Today ― Polo Grounds." And in 15 minutes, he had scribbled the words of his fun-time anthem on the back of an envelope
'Take Me Out to the Ball Game' - TIME

「語句の修正の少なさ」、そして、「地下鉄に乗ったとき、たまたま持っていた封筒の裏に書きつけるような慌ただしさ」から推察して、この詞が「非常に短時間で完成レベルに達した」ことは、資料的にも裏付けられている。


これだけ完成度の高いレベル作品、ほぼ瞬時に書き切ることのできた作詞者Jack Norworthが、ただ著作権を出願する、それだけのために、1週間から10日間も手元に置いておくとは、当時のティン・パン・アレーの状況からして、到底思えない
むしろ、「書いたその日のうちに著作権事務所に向かう」ということだって十分ありえるのが、当時のティン・パン・アレーという場所独特の「スピード感」なのだ。


楽譜出版社や演奏者のエージェントが集まったティン・パン・アレーはとにかくスピードが命の町で、この忙しい街に「ティン・パン・アレー」という「鍋や釜」を意味する名前がつけられたのも、ラジオもテレビもまだなく、また、レコード自体がまだ高価だった時代に、楽譜を買いにくる客のために目の前でその曲をピアノで弾いてみせて楽譜を買ってもらう商売のやり方が流行し、また、楽譜出版社が曲の宣伝の為にピアニストに試演させたりもしたため、町中がなにか「鍋や釜を叩いているような賑やかさ」に満ちていただったからだ。(ブルックリン生まれのジョージ・ガーシュインも、元はそうした試演ピアニストのひとりだった)

音楽を大量に作って、即座に売り、ヒットしそうならすぐに舞台や映画にもする、そういうスピード感で生きていた作詞家が生みだしたのが、この "Take Me Out to the Ball Game"なのだ。


だから、Jack Norworthにインスピレーションを与えた告知ポスターが示していた「試合の日付」は、「1908年4月22日〜25日のポロ・グラウンズにおけるニューヨーク・ジャイアンツ対ブルックリン・ドジャース戦」である可能性が高いが、「同年5月2日ポロ・グラウンズのニューヨーク・ジャイアンツ対フィリーズ戦」のポスターを見て、たった15分で詞を書きあげ、その日のうちに曲がついて著作権事務所で登録したという可能性も完全には否定できないのである。

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Take me out to the ballgame,
Take me out with the crowd.
Buy me some peanuts and Cracker Jack,
I don't care if I ever get back, 'cause it's root, root, root for the home team,
if they don't win it's a shame.
For it's one , two, three strikes you're out,
at the old ballgame.


Tin Pan Alley
Tin Pan Alley

灰田勝彦さん(以下 敬称略)が「日本版Take Me To The Ball Game」ともいうべき「野球小僧」を歌ったのは、別当薫はじめ当時の毎日オリオンズの選手が大挙出演したという1951年大映のミュージカル映画 『歌う野球小僧』だ。

当時の大映社長といえば、もちろんサンフランシスコに移転したジャイアンツの新しい本拠地キャンドルスティック・パークを模して東京スタジアム(1962-1977)を作った永田雅一だが、『歌う野球小僧』が出来た1951年の時点では、まだ大映スターズと毎日オリオンズは合併していない。(大毎オリオンズが出来るのは、1951年の『歌う野球小僧』から7年後、ブルックリン・ドジャースとニューヨーク・ジャイアンツが西海岸に移転する1958年)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年11月25日、「名山」、西本幸雄。指導者を育てた指導者。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年3月23日、1958年ドジャース、ジャイアンツ西海岸移転に始まる「ボールパーク・ドミノ」  (4)夢の東京スタジアムの誕生


ちなみに、この映画に関して、ウェブ上の資料だけでは、どうもよくわからない点がある。

それは、灰田勝彦(1911年生まれ)と、同じ立教出身で、毎日オリオンズ主将、大毎オリオンズ監督を務めた西本幸雄さん(1920年生まれ 以下敬称略)とのかかわりだ。
ネット上に、この2人の立教出身者のかかわりを示す資料が皆無といっていいほど存在しない理由が、どうもよくわからない。


1951年の「歌う野球小僧」というミュージカル映画は、立教在学時代から野球好きで知られ、新東宝の社会人野球に所属していた記録さえ残されている(資料:2010年10月 : 野球史探求)灰田勝彦が、「この映画は立教出身者で固めよう」と最初から意図して自らプロデュースしたと、Wikiにある。
現に、この映画に珍しく悪役として出演している上原謙も、立教出身者だ。

(上原謙は、大映のライバル会社のひとつ、松竹の看板俳優。大映が1951年に『歌う野球小僧』を製作した当時は、大映スターズという野球チームを持っていたのに対して、松竹も松竹ロビンスという野球チームを抱えていただけに、どうして上原謙が「映画と野球、2つの垣根」を越えて、大映の、それも野球映画に出演できたのかはよくわからない。
想像だが、『歌う野球小僧』は、1953年に、日活の引き抜きを阻止すべく大映社長永田雅一の主導で、いわゆる「五社協定」が結ばれ、各映画会社専属の監督や俳優の引き抜きや貸し出しが禁止され、映画会社と映画会社の間に「垣根」ができる前にできた映画だから、こういう他社の俳優が出演するようなことがギリギリ可能だったのだろう。
ちなみに灰田勝彦は、「五社協定」成立後の「何事にも垣根のできた時代」においても、南海ホークスの歌を歌い、別所毅彦など巨人のプレーヤーとの親交、広島東洋カープを優勝させる会結成など、ある意味「球団の垣根の無い」稀有な人物だった。野球映画への出演についても、1951年の大映『歌う野球小僧』出演に前後して、『ホームラン狂時代』(1949年東横映画=東映の前身のひとつ)、『栄冠涙あり』 (1952年東映=1951年設立)と、大映以外の映画にも出演している)

灰田勝彦が立教大学予科に進学したのが1930年、西本幸雄が旧制立教大学に進学したのが1938年。
西本幸雄は、当時監督のいなかった立教野球部で監督役を務めた後、第二次大戦を挟み、1950年に毎日オリオンズに入団し、ここでも1952年に主将を務めている。
当然ながら、動乱の時代とはいえ、それになりに近い世界に住んでいた2人が、互いの存在を知らないはずはない。

もちろん、オリオンズ入団時の西本幸雄は既に30歳という年齢で、また、その性格からしても、もし仮に先輩・灰田勝彦から後輩・西本幸雄に映画『歌う野球小僧』への出演依頼があったとしても、とてもとても西本が快諾するとは思えない。(とはいえ気難しそうな榎本喜八だって映画に複数回出演しているのだから、西本幸雄が映画に出ていても、おかしくはない)
だが、それにしたって、西本幸雄は灰田勝彦と同じ立教出身であり、立教でもオリオンズでもキャプテンに選ばれるような中心選手のひとりで、毎日オリオンズでは選手としてパ・リーグ優勝、日本一に貢献しているのだから、立教出身者と毎日オリオンズの選手で固めた灰田勝彦の野球映画への関わりが少しくらいあってもおかしくないように思える。

だが現実には、ネット上の資料には、西本幸雄と『歌う野球小僧』、あるいは、西本幸雄と灰田勝彦とのかかわりを書いた資料は、なぜかほとんど皆無に等しいのだ。


もちろん、こうした摩訶不思議なことが起きる遠因のひとつには、1958年の大毎オリオンズの日本シリーズ敗退の一件で西本幸雄さんが大毎オリオンズ監督を辞任させられたことが原因で、阪急ブレーブスや近鉄バッファローズの歴史には西本さんの名前が華々しく刻まれているのに比べると、オリオンズの歴史からはむしろ西本さんの足跡が、削除というか、遠ざけられている感すらある歴史的経緯が影響しているのかもしれない。
(現代のWikiの「オリオンズ」の項目ですら、西本さんに関する記述が不足しているようにしか見えないのだから、たとえ灰田勝彦と西本幸雄の間になんらかの関わりがあったとしても、野球メディア、映画メディアによって記録に残されてこなかったとしても不思議ではない、という意味)


だが、もう半世紀が過ぎたのだ。
そろそろオリオンズの歴史における西本幸雄さんの位置を、本来あってしかるべき位置に戻すべきだろうと思う。

April 26, 2012

似ている人(イチローと忌野清志郎)

久しぶりにイチローと、同じ2001年MLBデビューで仲のいいアルバート・プーホールズの2人がゲーム中におしゃべりしている動画を見てたら、ふと「なんか、このときのイチロー、誰かに似てる。誰だろう・・・?」と思って考えたら、なんのことはない、ステージメイクをしてない、素顔のときの忌野清志郎にソックリなのだった。

永遠の野球小僧イチローと、音楽小僧(というか、R&B小僧)忌野清志郎の2人の顔が似る瞬間があることに、ずっとこの2人のファンをやってきているクセして、なぜ今まで気がつかなかったんだろう。



(ちなみに上の動画のイチローとプーホールズの会話は、2010年6月16日セントルイスのブッシュ・スタジアムで行われたシアトル対セントルイス戦の8回表に、イチローがこの2本目のヒットを打ち、ピッチャーがワンポイントで使われた左腕デニス・レイエスから、右のジェイソン・モットに変わるまでの、ごく短い時間に行われた。
Seattle Mariners at St. Louis Cardinals - June 16, 2010 | MLB.com Gameday



「破顔」という言葉がある。
「普段の固い表情を崩し、ほころんだ笑顔を見せる」とでもいう意味だ。

第2回WBC決勝で2点タイムリーを打った直後の2塁ベース上の表情などもそうだが、普段のイチローは厳しい顔をしていることが多く、「破顔する」ことはあまりない。また、ステージ上の忌野清志郎も派手にメイクアップして尖がっている。

舞台上(グラウンド、ステージ)で見せる彼らの尖った表情は、アメリカの文化(ベースボール、オーティス・レディング)の影響を出発点に、なりふり構わず自分の道を突進し続けた猛犬か猪のような自分、そして、アメリカ文化の影響を突き抜けた場所に見出した自分固有のスタイルで「一球一音」に自分の存在感と命を賭し続けるギリギリの自分だ。

だが、破顔した彼らの顔は、日頃は奥にしまいこまれている、もうひとりの穏やかな「小僧の顔」に戻っている。だから似るのだろうと思う。


野球小僧

作詞:佐伯孝夫
作曲:佐々木俊一
歌:灰田勝彦

野球小僧に 逢ったかい
男らしくて 純情で
燃えるあこがれ グランドで
じっと見てたよ 背番号
僕のようだね 君のよう
オオ マイ・ボーイ
ほがらかな ほがらかな
野球小僧

野球小僧は 腕自慢
すごいピッチャーで バッターで
街の空地じゃ 売れた顔
運がよければ ルーキーに
僕のようだね 君のよう
オオ マイ・ボーイ
ほがらかな ほがらかな
野球小僧

野球小僧が なぜくさる
泣くな野球の 神様も
たまにゃ三振 エラーもする
ゲームすてるな がんばろう
僕のようだね 君のよう
オオ マイ・ボーイ
ほがらかな ほがらかな
野球小僧

動画:http://youtu.be/9durJiqeWLAなど




April 25, 2012

デトロイト対シアトル初戦、ジェイソン・バルガスがまたもアンパイアの誤審に泣かされながらも、粘って3勝目。デトロイト先発は今シーズン始まって以来ずっと打たれまくりのERA8点台マックス・シャーザーだから、シアトルがある程度得点できることは予測できた。
Seattle Mariners at Detroit Tigers - April 24, 2012 | MLB.com Classic

それにしても、
4回裏フィルダーのシアトル先発バルガスを強襲した打球は、結果的に言えば安打になった(その直後2ランホームラン被弾)わけだが、バルガスのファースト送球は、スローで見ると余裕で間に合っている。
そりゃそうだ。送球がファーストミットに収まったとき、フィルダーはまだベースを踏んですらいなかったんだから。クロスプレーですらない。

一塁塁審は、ガララーガの完全試合をフイにした、
あのJim Joyce
懲りないアンパイアだ。
Top 10 Worst Calls In Baseball History | Top 10 Lists | TopTenz.net

詳しくはまた後で書く。


ついでに言えば、メジャー経験の浅い球審James Hoyeの判定もかなり酷い。
データ画像を作るのがめんどくさいので、今日は自分で勝手に見てもらいたいが、(Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool 2012/04/24 DETvsSEA)、左バッターのアウトコース判定に何の基準も見えないわ、右バッターと左バッターでストライクゾーンがまるで違うわ、こんな「バッターから見て、何の基準も見えない球審」じゃ、ゲームがやりにくくてしかたないに違いない。


どこかにフィルダーの内野安打の動画か静止画が落ちてないかな?

April 23, 2012

2012年4月22日 ホワイトソックス戦9回裏判定 Marvin Hudsonアウトコース高めに注目。ボールの3球目より、ストライクの5球目のほうが外にある。(以下、画像をクリックすると、別窓で拡大画像)
Chicago White Sox at Seattle Mariners - April 22, 2012 | MLB.com Gameday


ホワイトソックス3連戦の最終戦で球審を務めたMarvin Hudsonは、2010年6月2日に当時デトロイトの先発投手だった右腕アーマンド・ガララーガの完全試合が、1塁塁審ジム・ジョイスの明らかな誤審によってフイにされたあのゲームで球審を務めていたアンパイアだ。
アーマンド・ガララーガの幻の完全試合 - Wikipedia
9回裏1死1塁でイチローに対する5球目をMarvin Hudsonはストライク判定したが、そのいい加減さに呆れかえっている。そして、ロクにデータを見る習慣も無いクセに、イチローの三振について、あーだこーだと批判するアホウにも、つける薬がない。

ちなみに、この打席でのピッチャーの投球は、
1球目 4シーム ボール
2球目 2シーム ファウル
3球目 4シーム ボール
4球目 4シーム ファウル
5球目 2シーム ストライク 見逃し三振


この判定は、以下の3つの観点から、
その判定はおかしい」と断言する。

何度も書いてきたように、そのことの是非はともかくとして、MLBの球審の判定は「ルールブック上のストライクゾーン」に従ってなど、いない。
むしろ、アンパイアごとに、当たり前のように、そのアンパイア固有のストライクゾーンがあり、彼らはゲームをある意味で「作って」もいる。そして、アンパイア間の個人差は、かなり酷いレベルにある。
MLBでプレーするバッターは、ゲームに出る以上、良くも悪くも、ルールブック上のストライクゾーンに従ってのみプレーするのではなくて、「その球審の判定傾向に沿ってプレーすること」を強いられることも、常に頭に入れておかなければならないし、MLBのストライクゾーンにはアンパイアごとの非常に大きな個人差が存在することを、誰でも知っておかなければならない。

ブログ主は、球審は絶対にルールブックに沿って判定すべきなどとは思わないが、むしろ球審が「自分のストライクゾーン、あるいは、今日のストライクゾーンが、どういう形か」という判定ルールをゲームの流れの中で暗黙のうちに示さなかったり、また、「自分が一度示していたルールを、ゲームの特定場面のみに関して恣意的に変更する」ことは許されない、と考えている。
これは、単純に「人間だから判定を間違うこともあるさ」なんていう、ジジイのカビくさい説教で説明できる話ではないし、また、「3球目は変化しない4シーム、5球目は変化する2シームだから、3球目がボールで、よりアウトコースに行った5球目がストライクなのはしょうがない」という程度の常套句で説明できる誤差でもない。


1)過去のMarvin Hudsonは、むしろ
 「アウトコースの非常に狭い球審」


Marvin Hudsonの過去のストライクゾーン
赤色の線は、「ルールブック上のストライクゾーン」、
青色の線が、Marvin Hudsonの過去の判定傾向だ。
(資料:Hardball Times: A zone of their own 2007年)
過去のMarvin Hudsonの判定傾向はこうなる。
1)3塁側(左バッターでいうアウトコース)が狭い
2)高めが広い

Marvin Hudsonは本来、左バッターのアウトコースのストライクゾーンが非常に広いMLBにあって、真逆の「左バッターのアウトコースのゾーンが非常に狭い特殊なアンパイア」であり、9回裏の問題判定は、この球審の「過去の判定傾向」に、まったくそぐわない。


2)この日だけに限ったMarvin Hudsonの判定傾向は、
 「低めが狭く、あとはルールブックどおり」であり、
 しかも、一貫している


以下の2つの図は、2012年4月22日のシアトル対ホワイトソックス戦だけに限った球審Marvin Hudsonの判定傾向だ。(上の図が左バッター、下が右バッター) 特徴は、2つある。
1)右バッターは、アウトコースもインコースも、標準的なMLBのゾーンより、かなり狭い
2)左バッターは、インコースは狭く、アウトコースはやや狭め
3)左バッターのアウトコースは、高めに関してはとらない
4)左右共通して、低めが狭く、ほとんどとらない

4月22日限定の左バッターへの判定
アウトコースの高めはほとんどとっていない。
2012年4月22日 Marvin Hudsonの判定の全体傾向

4月22日限定の右バッターへの判定
インコース、アウトコースのきわどい球を全くとっていない。
2012年4月22日 Marvin Hudsonの判定の全体傾向(右バッター)

総じていえば、この日のMarvin Hudsonの判定は、低めのゾーンが狭いことを除けば、標準的なMLBのゾーンではなく、「ほぼルールブックどおりのゾーン」がルールになっている。
MLBのアンパイアの標準的ストライクゾーンといえば、もちろん「左バッターはアウトコースだけがボール2個分くらい広く、右バッターはインコース・アウトコースともに1個分くらいずつ広い」わけで、このルールブックより広い標準的ストライクゾーンで判定するアンパイアは少なからずいるわけだが、この日のMarvin Hudsonのゾーンは、そのMLB標準ゾーンよりもずっと全体的に狭い。
これは、この元来「アウトコースは狭いが、低めはほぼルールーブックどおり、高めはかなり広くとるアンパイア」にしては、非常に珍しい判定傾向だ。

そして問題なのは、この日、Marvin Hudsonの「ホワイトソックス投手がシアトルの左バッターに投げた球に関する判定」において、ストライク判定された見逃しストライクは、9回裏のイチローへの5球目、この、たった1球だけしか記録されていないことだ。
この1球の判定だけが、明らかに、「この日限定の判定傾向」の流れに沿っていない。

出典:Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool


3)9回裏イチローの打席は、3球目の4シームをこの日の判定傾向どおりボール判定しておいて、3球目より外に行ったの5球目の2シームをストライク判定する「トラップ判定」

以上の話を、ひとつの図にまとめてみた。

赤い線が、ルールブック上のストライクゾーン。
青い線が、過去のMarvin Hudsonのストライクゾーン。
緑の線が、22日のMarvin Hudsonのストライクゾーン。
アルファベットのAで示した緑色の三角形が、9回裏イチロー3球目の4シーム。アルファベットのBで示した赤色の三角形が、同じく5球目の2シームである。
2012年4月22日のMarvin Hudsonのストライクゾーン


上の図のアルファベットのAB(=9回裏のイチローへの3球目と5球目)を、BrooksBaseball.netのStrikezone Maps上にマッピングし、ズームしてみると、以下のようになる。(黒い太線が、ルールブック上のストライクゾーン、黒い破線が、左バッターに対するMLBの標準的なストライクゾーン)
2012年4月22日 Marvin Hudsonの9回裏判定 ズームアップ


上で一度書いたように、球審Marvin Hudsonの「ホワイトソックス投手の左バッターに対する判定」において、ストライク判定されているアウトコースの見逃しストライクは、9回裏のイチローへの5球目、このたった1球だけしか記録されていない

そして、さらにタチが悪いのは、
3球目のアウトコース高めの4シームを、「この日の判定傾向」どおりにボール判定して、「やっぱりアウトコース高めはとらない」と思わせておいて、5球目のほぼ同じコースの2シームを、彼の「過去の判定傾向」とも、また、「この日の判定傾向」とも無関係に、ストライク判定していることだ。


まさに 「トラップ」だ。ありえない。
こんなあくどい判定に対応できるわけがない。


もし、このゲームでの球審の左バッターに対する判定が、ごく標準的なMLBのストライクゾーン、つまり、左バッターのアウトコースについてボール2個分くらいは広い標準的ゾーンに基づいてコールされていたら、ブログ主も5球目の判定に文句をつけるつもりにはならない。

なぜこの判定が「異常だ」と断言するかといえば、この判定が、「Marvin Hudsonの過去の判定傾向」とも、「この日の判定傾向」ともまるで異なるうえ、さらに悪質なことに、3球目をあらかじめボール判定しておいて、あたかも「今日のオレ様の判定は、外をとらないんだぜ」と思わせておいて、5球目をストライク判定してみせた「トラップ判定」だから、である。


バッターは9回ともなれば、自分のそれまでの打席から得た経験と、他のバッターやスコアラーから得た情報などから、その日の球審の判定傾向を頭に入れてバッターボックスに立っているものだ。
もしアウトコースのストライクゾーンが可変、つまり「コロコロ変わる」というのなら、それはそれで構わないのであって、「この球審のアウトコースのストライクゾーンは、けっこう変わる」とあらかじめ頭にいれて打席に入ればいいだけのことで、イチロークラスの技術のあるバッターなら、アウトコースのくさい球をカットしに行く心の準備ができる。

だが、
「もともとアウトコースの狭いアンパイア」が、その日の傾向として「ほぼルールブックに沿った、標準ゾーンより狭いストライクコール」をしていて、「左バッターのアウトコース高めには、辛い判定をしている」とわかっているゲームで、しかも、3球目の「左バッターのアウトコースがかなり広い標準的ストライクソーンからすればストライクと判定するはずの球を、ボール判定した」その直後に、3球目よりもさらにアウトコースに来た球をストライク判定するなどと、誰も思うわけがない。


イチローは選球眼がいいから、よけいに、見極めができてしまう。3球目がボールなら、2シーム程度の曲がりなら、この日の判定傾向のアウトコース高めのゾーンの狭さからして5球目はボールと判断するのは当然だ。

こんな経緯の球をカットに行けるわけがない。
だから、こんな判定は「異常」と断言できるのである。

April 20, 2012

説明するまでもない。
シアトルのライトに強肩イチローがいることくらい、元チームメイトのジャック・ハナハンが一番よく知ってる。

ライトフライじゃ、多少のフライでも、サードランナーは帰れない。
右中間のフライも、普通のチームならセンターに守備の優先権があるが、シアトルではライトのイチローが横どりして捕球し、ホームプレートにレーザービームしてくる。(これは過去に何度もあった)
つまり、ライトから右中間にかけてのフライじゃ、同点にならず、ただ2アウトになるだけになる。もちろん、ライト前ヒットのケースでも、同点にはできるが、イチローの返球を考えればセカンドランナーまでは帰れないから、逆転まではいかない。


一方、クリーブランドのドミニカ人監督Manny Actaは代走をサードランナーにではなく、セカンドランナーにだした。これは、「同点どころか、逆転まで視野にいれているぜ」、という意味。


だから、トータルに言えば、クリーブランド側にライト方向の打球(外野フライ、シングルヒット)でまずは同点、なんて発想は、最初からゼロ。クリーブランドの監督にしてみたら、ハナハンがライト方向に犠牲フライを打つのを期待する発想なんて、ゼロどころか、むしろ、それだけはやめてくれ、という話。

ならば。
ハナハンはライトには打ってこない。
それくらい、アタマ使えよ。死ぬまでにな。


頭使うってことが、わかってなさすぎる。

なのに、押し出しへの恐怖で頭が一杯のリーグオリーボのバッテリーは、わざわざ初球から左バッターのハナハンがレフトに流し打ちしやすいアウトコースに2シーム系で攻めて、三遊間抜かれて逆転負けしてりゃ、世話ねぇわ(笑)

おまけに、狙われてるレフトの肩の弱いフィギンズに守備固めしない。馬鹿ですか? と言われてもしょうがないのが、この無能監督エリック・ウェッジ


去年、イチローの捕る外野フライの数がものすごく減ったことが、単なる偶然だ、とでも思ってるんだろな。

馬鹿だねぇ。
みんな、「ものすごく考えて野球やってる」のが、MLBなんだぜ?
イチローのいないところに打つ」。これがシアトルと戦うチームの原則になってる。だからライトに打球がいかない。


追伸:
以下のコメントは、さっきみつけた。こういうコメントがあるだろうと想定して探してたら、やっぱりあった。クリーブランドの地元メディアではなく、マイアミのメディアにあるんだから、見つけにくかった。
やっぱりハナハンは「初球から狙ってた」んだねぇ。やっぱ彼は、シアトルのことをよくわかってるし、周りがよく見えてる。

一方、1点差で満塁の場面で押し出しにだけはしたくないから、シアトルバッテリーは「初球からストライクが欲しくてたまらない」わけだ。

ただ、打つ側からすると、ゲームのゆくえが決まる1点差満塁のチャンスで初球から強振していく行為には、かなりの勇気が必要。
それでもハナハンは、ブランドン・リーグの球質からして、「勝負は速いカウントにかかってくる」と考え、「ここは、初球から振っていくべき打席なんだ」ということを、とてもよくわかった上でスイングしたことになる。

これって、なかなかできることじゃない。

たとえ頭でわかってても、チビってスイングできない臆病なバッターがどれだけ多いことか。また、クローザーのピッチングスタイル、持ち球、追い込みかたによっては、初球から強行するわけにはいかない投手もいる。あらかじめ頭を使っておかないと、初球から振っていいかどうかは、わからない。

ハナハンが、重要な条件の大半をきちんと考慮に入れて打席に入れているってことが、とても素晴らしい。

"It's not the type of guy you want to go deep in the counts with, with that split-finger fastball and he's throwing 97 (mph)," Hannahan said.
「(シアトルのクローザー、ブランドン・リーグは) スプリットも、97マイルのスピードボールも持ってるピッチャーなんだから、カウントを追い込まれたくないタイプの投手なんだ」 (決勝2点タイムリーで、初球から狙ったことについて、ジャック・ハナハン)
League coughs up lead, Indians beat Mariners 2-1 - Baseball Wires - MiamiHerald.com




ジェイソン・バルガスは、シアトルに移籍してくる前のメッツ在籍時代、2007年10月に肘のbone spur(=骨棘 こつきょく)、そして2008年5月には股関節のtorn labrum(関節唇)を続けて手術している。長期休養後、球速は戻らず、その結果、大学時代から自慢だった4シームストレートを捨てざるをえなくなった。


関節唇というのは、肩と股関節にだけある。
人間の骨格は、重力にあらがって両手を自由に使える直立二足歩行をする独特の身体システムに進化したために、動物とは全く違う複雑な身体メカニズムをもつ。肩に故障が起きやすく、また、上半身の重みを支える股関節にどうしても大きな負荷がかかるのも、進化の副産物だ。
上半身の重量に耐えるために、股関節の形状は、球形になった大腿骨の端を窪みにはめこむだけでなく、股関節唇が包み込むことで、関節としての安定性を高めている。
ただ、股関節唇は柔らかいため、野球のスライディングなどで股関節が瞬間的に大きく広げられると、亀裂が生じる。そのままプレーを続けていると、股関節唇の亀裂は大きくなるばかりでなく、裂けた軟骨が関節の中に入り込んでスムーズな動きが妨げられるようになったり、入り込んだ軟骨が股関節表面に傷を付けるようになり、やがて手術が必要な状態になるほど深刻化していく。
関節唇の損傷で長期休養を強いられるMLBプレーヤーは近年急増しており (アレックス・ロドリゲスダレン・オデイチェイス・アトリーカルロス・デルガドブレット・マイヤーズエリック・ベダードグレッグ・ゾーン、ソフトバンクのクローザー馬原など)、特にピッチャーにとっての関節唇損傷の影響はトミー・ジョン手術より深刻だといわれてきた。
Baseball's most fearsome injury. - Slate Magazine

Torn Labrum(股関節唇損傷)Torn Labrum - International Hip Dysplasia Institute (IHDI)


torn labrumの起きるメカニズム




肘と股関節の手術後のジェイソン・バルガスのピッチングは、どう変わったのかを見てみよう。
数字を見れば明らかなように、故障手術後のバルガスは、配球の中心だった自慢の4シームを「捨てていく」ことで投手成績を向上させてきた
名門ルイジアナ州立大学、そしてカリフォルニア大学ロングビーチ校で速球をビシビシ投げてMLB入りし、20代なかばでローテーションピッチャーだった投手がスピードボールを捨てるのだ。さぞかし最初は無念だったことだろう。

年度  FA  CH  FT
2009 63.7 16.4 8.4
2010 26.5 29.3 35.6
2011 24.2 29.9 25.4
2012 17.0 19.7 39.1
FA:ファストボール CH:チェンジアップ FT:2シーム
Jason Vargas » PitchFx » Overview | FanGraphs Baseball

ジェイソン・バルガスの年度別FIP
ジェイソン・バルガスの年度別FIPJason Vargas » Graphs » Comparison » All Season » Pitching | FanGraphs Baseball


バルガスのトレードマークは昔も今も「チェンジアップ」で、近年、投げる率こそ下がってきてはいるものの、いまでもそれなりのパーセンテージのチェンジアップを投げている。
シアトルに移籍してきた当初、バルガスの投手成績が伸び悩んだのは、手術でスピードボールを捨てざるをえなくなり、活路を求めた彼が編み出した独特のチェンジアップ中心配球にまったく理解のない城島、キロス、ジメネスなどの無能なダメ捕手とばかりバッテリーを組まされたからだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:ジェイソン・バルガス

大学時代のバルガスは、カリフォルニア大学ロングビーチ校時代のチームメイトであるLAAのローテ投手ジェレッド・ウィーバーによれば、「94から95マイルを投げるほどの、バリバリの速球派」だった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月18日、ジェイソン・バルガス、大学時代の元チームメイト対決で既に6勝のジェレッド・ウィーバーに投げ勝ち、9奪三振の快投で素晴らしい3勝目。エンゼルスを制圧!

かつて速球派だったバルガスの近年の持ち球の大きな変化は、なんといっても手術で球速の落ちた4シームを諦め、配球の中心を2シームやチェンジアップに切り替えたことだ。
だが、自慢の4シームを「捨てる」といっても、それをバルガスがすぐにできたわけではない。彼は手術後の2009年ですら、63.7%もの4シームを投げ、その結果打たれまくって、投手成績を大幅に悪化させている。
彼が、場合によっては引退を覚悟しなければならないほどの故障を手術した直後でさえ、あくまで自分を速球投手であると思いこみたかった切ない気持ちが、よく伝わってくる。投手はロボットじゃない。人間なのだ。
だが、彼は2010年にようやく速球に別れを告げて、カットボールを習得した。(それは自慢のカーブだけではやっていけないと感じたクリフ・リーがカットボールを習得したのと似ている)
その後、苦心して編み出したチェンジアップ中心の配球を相手チームに読まれて打たれ出したが、その対策として今年からナックルカーブを習得し、相手チームのスカウティングによって配球を読まれるのを防ごうとしている。

こうした努力の結果、これまでのジェイソン・バルガスはフライボールピッチャーだったが、今シーズンのバルガスは、キャリアで初めてゴロアウトがフライアウトを上回っている。これが大きい。
もちろん、ゴロアウトの増加には、多投している2シームやチェンジアップ、ナックルカーブなど、縦の変化が効いているのだろう。4月18日クリーブランド戦6回の二死満塁のピンチでも、2シームでかつての同僚ホセ・ロペスをゴロアウトにうちとっている。
Cleveland Indians at Seattle Mariners - April 18, 2012 | MLB.com Classic
ジェイソン・バルガスのフライアウトとゴロアウトの割合
初めてゴロアウトがフライアウトを上回った2012年のバルガス


ジェイソン・バルガスが例年、オールスター明け以降に調子を落とすことが多いのは当然承知しているが、その原因はスタミナ不足ばかりではなく、むしろ相手チームのスカウティングによって、そのシーズンのためにジェイソン・バルガスが編み出す配球や苦労して覚えた新しい持ち球が研究され尽くしてしまうからではないか、と思っている。

数々の故障を越え、毎年シーズンオフに新しい球種を覚え、毎年のように配球パターンを変え、2012年もまた新しいピッチングスタイルに辿り着いてマウンドに登り続ける、勇気あるジェイソン・バルガスに、あらためて心からの拍手を贈りたい。

April 18, 2012

GMズレンシックのトレードの下手さを批判する以外の目的で、ブレンダン・ライアンというプレーヤーを、このブログで取り上げたことはない。もともとこのプレーヤーに興味がなかったから、当然だ。(あの程度の守備とバッティング、別に他の誰かでいいし、さらには以前も書いたように「怪我の多さ」という重大欠陥が、ブレンダン・ライアンにはある。まともに1シーズンとおしてプレーできた試しがない)

今日のゲームの4回裏に、「満塁の鬼」イチローの2点タイムリー含め、打者11人で6点もぎとった後で、苦手のクリーブランドに大量失点を許したきっかけは、5回表ノーアウト1、3塁で、1番打者ブラントリーを簡単にダブルプレーをとれるショートゴロに仕留めたにもかかわらず、ブレンダン・ライアンがジャッグルしたせいで、アウトをひとつもとれず、クリーンアップにつながってしまい、大量失点を招いたことだ。
ただでさえ不安定な先発ケビン・ミルウッドは、気落ちしたのだろう、その後投げ急いでズルズルと崩れ、あれよあれよという間に同点、さらに継投にも失敗して逆点されてしまった。


ブレンダン・ライアンの「守備」は、「うまい」ことになっている。しかし、彼は同時に、「非常に雑なプレーをするショート」、でもある。



「ブレンダン・ライアンはうまい。たまにはミスもするさ。」
と、思う人もいるかもしれない。そうではない。

うまさ、と、雑さ、は両立する
たまにはファインプレーくらいできるが、同時に、大事な場面で何度も何度も雑なプレーで決定的なミスをやらかすプレーヤーなど、MLBには(そして日本の野球にも社会にも)掃いて捨てるほどいる。



見た目の派手なファインプレーの2つや3つ、減ってもかまわない。士気を下げる、くだらなさすぎる緩慢プレーをゼロにして、気持ちよくゲームに勝ってもらいたいものだ。

このショートの雑すぎるプレーのおかげで、せっかくの気分のいいゲームが壊されるのを見るのは、今年だけで、もう2試合目だ。ウロ覚えだが、たしか前のミスも、ダブルプレーで1塁へのなんでもない送球をミスって、その結果ゲームを落とした気がする。(もちろん今年だけでなく、去年も相当な数のミスがあった)


本当に締まった守備のできるシュアな選手なら、在籍チームは優秀なショートを手放すことなどしない。球団から球団を彷徨う、なんてことになるからには、やはり何か、「この選手、やっぱりいなくもていいや」と思わせる、なにか決定的な欠陥があるものだ。そういう欠陥は、「俺は上手い」と思い込んでいる本人にはわかりにくい。


このプレーヤーの持っている独特の「雑さ」が、嫌いだ。

ダブルプレーでミスを犯した後の打席にしても、追いつかれた後のノーアウト1,2塁のような重要な打席で、明らかにボールの釣り球を無策に振り回して責任感に欠けた三振をするのも、このプレーヤー独特の「雑さ」だ。


ブレンダン・ライアンは、なまじ上手いプレーもできると、多くの人に思われているだけに、単に下手なだけのショートより、なおさらタチが悪いが、なに、迷うことなど、ない。スッパリ言い切っておけばいい。


ブレンダン・ライアンの守備は、下手だ。

April 14, 2012

セーフコ開幕戦の球審は、アンパイアとしては若いTim Timmons (1967年生まれ 44歳)。

今日の彼の判定は、左バッターのアウトコースのゾーンがかなり広いイメージで、好機に見逃し三振をくらってヘルメットを投げたマイケル・ソーンダースなど、判定に不服そうな左バッターが続出した。たしかに、テレビ画面で見るとかなりアウトコースの判定が広い印象を受けるかもしれない。
Oakland Athletics at Seattle Mariners - April 13, 2012 | MLB.com Classic


球審Tim Timmonsの過去の判定傾向は以下の図の通り(2007 by Jonathan Hale: the Hardball Times)。メジャーで「高めをまったくとらないアンパイア」として3本指に入るアンパイアだ。(赤い線がルールブックのストライクゾーン。青い線が、Tim Timmonsのゾーン  。ただ、今日の判定は高さはごく普通の判定だった)

Tim Timmonsのストライクゾーン


高めのゾーンの狭いアンパイア ベスト10

Chuck Meriwether -8.53
Ed Rapuano -7.05
Tim Timmons -7.02
Jerry Layne -6.79
Larry Vanover -6.35
Brian Runge -5.68
Marty Foster -5.21
Chad Fairchild -5.04
Ed Montague -4.53
Mark Carlson -4.52
資料:The Hardball Times: A zone of their own



さて、今日のTim Timmonsの実際の判定ぶりは、データ上ではどうだったのだろう。いつものように、優れたアンパイアの判定データを提供しているBrooksBaseball.netStrikezone Mapを見てみる。
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool: 2012_04_13_oak_sea

2012年4月13日 シアトル対オークランド戦 Tim Timmonsの判定


2つあるグラフのうち、上が左バッターに対する判定。下が右バッターに対する判定。黒い実線は「ルールブック上のストライクゾーン」、破線は「実際のMLBのアンパイアが判定するストライクゾーン」で、何度も書いてきたように、実際のMLBの球審の判定においては、左バッターと右バッターでは、まったくストライクゾーンが異なることに注意してもらいたい。
簡単にいうと、左バッターについては、インコースはルールブックどおりだが、アウトコースはボール2個くらいは平気で外に広い。右バッターについては、外も内も、ボール1個分くらい広い。(球審によって、もっと広い人、狭い人がいる)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。


かつてはBrooksBaseball.netStrikezone Mapも、この左右のバッターでのストライクゾーンの違いを、きちんと反映はしていたが、図中には書き込んではいなかった時代があったが、去年からだったか、グラフの中に左バッターと右バッターのゾーンをハッキリ書くように仕様が変わった。


今日のオークランド先発バートロ・コロンの持ち球は、若い頃はカーブを投げた時代もあったが、今ではまったく投げないし、またチェンジアップ系の割合もそれほど若い頃から増えてはいない。
彼の持ち球の特徴は、他のヴェテラン投手のように緩急にあまり頼ることがない点で、近年ではむしろ2シームを多投することで、ストレート系への依存率がかえって高まっている気さえする。
今日の彼の配球は、内・外への2シームが基本で、スライダーと、ときおり投げるチェンジアップがスパイスになっていた。
Bartolo Colon » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball

コロンの持ち球といえば、アメリカのスカウティングサイトなどでも日本でも語られるのは、左バッターに対するfrontdoor 2-seam、つまり左バッターのインコースで、ボールゾーンからシュートしながらストライクになる2シームが特徴のひとつだったわけだが、今日のコロンは、球審のアウトコースのゾーンが広いことに早々と気がついて、左バッターのインコースではなく、「アウトコースで、ストライクゾーンから入ってボールゾーンに抜けて逃げていく2シーム」を多投して、左打者しかヒットを打てないシアトル打線を牛耳った。
こういう抜け目のなさ、対応の早さが、ヴェテランの味だ。
資料:60ft6in – Pitcher Scouting Reports - Is This Really Happening?: Bartolo Colon


この「左バッターのアウトコースにシュートしてストライクになる、右投手の2シーム」は、実際にバッターボックスに立っているプロのバッターですら判定に迷うくらいだから、テレビを見ている観客に、それがストライクかボールかを判定するのは難しい。

(ちなみに「backdoor, バックドア」の変化球は、「アウトコースの球で、ボールゾーンである外側から曲がってきて、最終的にストライクになる球」のこと。
MLBの投手がよく使う「バックドアの変化球」としてよく知られている変化球には、例えばbackdoor sliderがある。右投手が左バッターのアウトコースに(下の図のA)、あるいは、左投手が右バッターのアウトコースに(下の図のB)投げる。
この試合で右腕バートロ・コロンが左バッターのアウトコースに投げた2シームは、さらにひとつ下の図のCで、バックドアではない。)
front door と back door

左バッターのアウトコースをかすめる2シームの軌道



Tim Timmonsはもともとアウトコースのストライクゾーンの広い球審なだけに、左バッターに対するコロンの外の2シームをストライクと判定しやすい試合環境だった。
だが、データ上からみると、たしかに明らかなボールをストライクコールした例もいくつかはあったが、大半の見逃しについては、MLBの左打者に対するアウトコースの広さで説明のつくストライクだった。


左バッターのアウトコースに投げる、ストライク判定される2シーム」は、いま、右投手の左バッター対策として、非常に効果を挙げつつある。実際、どの試合を見ても、必ずといっていいほど多投されている感がある。

問題は、シアトルが、この「2シーム時代」にきちんとアップデートできているか? ということだ。

主に4シームしか投げられないようなブルペンピッチャー、2シームを打ち崩すバッティングを研究してないバッター、投手の投げる2シームを受け損なって失点につなげてしまうキャッチャー、2シームの判定に迷うバッター。

様々な意味で、現状のシアトルは「2シーム時代」についていけてないことが、今日ハッキリした。



だが、逆にいえば、チームとしての課題がこれほどハッキリ見えるゲームなんて、そうそうあるものじゃない。日々進歩することが今のシアトルの仕事だとしたら、ある意味、克服すべき課題、進歩すべき方向がこれだけハッキリ見えたことは、むしろラッキーとさえいえる。

そして、これだけはハッキリしている。
こういう「いい経験」をしても、進歩できない選手がいれば、その選手は変化する能力のない負け犬だし、チームが選手の技術の修正を指導できなければ、そのチームは、かたくななだけの負け犬になる。














去年の貧打ぶりを知っていれば、4月12日時点で、ア・リーグで最もヒット数の多いチームがシアトルである、と言われても、誰もピンとはこないだろう。(以下、数値は全て4月12日時点)
だが実際、ヒット数に関してだけ言えば、今シーズン圧倒的な戦力を擁しているデトロイト、テキサスより、シアトルののほうが多いのだから、事実は小説よりも奇なりだ(笑)
かといって、シアトルのチーム打率が高いわけでもないのだから、世界の7不思議といってもいい(笑)
(というか、単に特定の左バッターだけがヒットを打っているだけのことだ。ヒット数の多い順にいえば、イチロー、アックリー、左打席のフィギンズ、シーガー、モンテーロ)

SEA ヒット数 71 チーム打率.252
DET 63 .304
TEX 58 .257
LAA 56 .272
NYY 54 .249
2012 American League PH/HR/Situ Hitting - Baseball-Reference.com


だが、これをwOBAで見てみると、話は全然違ってくる。
ベスト5からシアトルが消え、かわりにボルチモアとタンパベイ、要するに、東地区のチームの名前が上がってくる。この理由はもちろん、シアトルのヒット数に占める長打の割合が低いから。
他方デトロイトは、何度も書いているように、もともとチーム打率の高いチームで、しかも今年から長打力向上のためにプリンス・フィルダーを獲り、他の打者も好調。今年のデトロイトは、ヒット数も長打力も東地区のチームを圧倒しており、ア・リーグ断トツの打撃力を誇るチームといえば、デトロイトだ。

DET .360
NYY .334
BAL .333
TEX .330
TBR .329
American League Team Stats » 2012 » Batters » Dashboard | FanGraphs Baseball


こういうことを書くと、すぐに「やっぱり野球は長打だよな」なんて馬鹿なことを言いたがる人間がいるものだ(笑)。
まぁ、論より証拠、ア・リーグ各チームの得点数を見てもらおう。長打をバカスカ打って得点しまくっている「はず」の東地区のチームの名前が、再び消え失せる。東地区の野球が、いかに「塁打数がムダに多いが、実は得点に結びつかない、大味な野球」になっているかが、よくわかる。

DET 40
TEX 31
SEA 31
LAA 30
NYY 29


あの極限的貧打だったシアトルの得点数が、今の時点だけならア・リーグトップクラスというのにも驚かされるが、もっと驚かされるのは、その得点の多さがチーム勝率にほとんど反映されない点だ(笑) (まぁ、まだホームでゲームしてないという点は差し引いてもいいが)
野球というものは、常識的なチーム運営をやっているだけなら、投手力と打撃力が両立することはない。予算というものは無限ではないのであって、よほど一方的に勝つトレードでもできない限り、オフェンスに注力すればディフェンスが低下する、またはその逆の現象が起きるだけのこと。
シアトルが先発投手を犠牲にしてバッティングの充実を図るような偏った補強ばかりしていれば、あの素晴らしかった投手力が急降下して打撃にチームカラーがシフトするくらいのことは想定内。しかも、その内容は効率的なものではない。


今シーズンのア・リーグで、そのバッターが打席に入ったときにいたランナーの人数の合計(Baserunners, BR)、ランナーが得点した点数(Baserunners who Scored, BRS)、ランナーの人数に対する得点の割合(BRS%)を見てみる。(ランナーといっても、ここでは「得点圏走者」という意味ではないし、BRS=RBIとは限らない。それにしても、「ランナーを多く背負う打順」というのが、チームにもよるが、実は4番より、3番や5番6番だったりするデータなのが面白い)

打席でランナーの多いバッター ベスト20
Nick Swisher     31人 4点 13%
Derek Jeter      24 2 8%
Justin Smoak   22 1 5%
Brennan Boesch   21 5 24%
Ben Zobrist      21 3 14%
イチロー        21 3 14%
Torii Hunter      21 3 14%
Jose Bautista     21 1 5%
Robinson Cano    21 0 0%
Michael Young    20 6 30%
Adrian Gonzalez   20 5 25%
Mark Teixeira     20 1 5%
Jeff Keppinger    20 0 0%
Carlos Pena      19 6 32%
Edwin Encarnacion 19 5 26%
Nelson Cruz      19 4 21%
Kurt Suzuki       19 3 16%
Matthew Joyce    19 3 16%
Vernon Wells      19 2 11%
Michael Saunders 19 1 5%

打席でランナーがいるシチュエーションの多いバッターのランキングには、ヤンキースはじめ、東地区のバッターの名前がやたらゾロゾロ挙がってくるわけだが、彼らの「ランナーをホームに帰す率」が総じて低い。いくら長打があるとはいえ、彼らの得点効率(ひいては、彼らの高額なサラリー対する得点効率)は、けして良くはないことがわかる。もし彼らがホームランを打てなければ、いくら長打が打てても無駄が多いバッターが多いだけに、チームの得点力は急激に下降線になる。

またシアトルは、たとえ長打は少ないにしても、ヒット数は多いのだから、得点につながる野球ができているか、というと、そんなことはない。いくらランナーを数多く出そうと、例えば4番スモークにランナーを帰すバッティングができないのだから、得点には天井が決まってしまう。
(というか、今年のローテ投手の防御率悪化は目に見えているのだから、投手を犠牲にして獲得した打者たちがチームの得点数を大きく伸ばす日でも来ない限り、得失点差は永遠に改善されず、得失点差に影響される勝率は改善されない
シアトルで、ヒット数が多い割に得点につながらないのには、ちゃんと理由があって、それはよくいわれるような「長打が無いから、得点できない」わけではない。スモークを4番に使わなければならない理由は、今のところ、どこにもない

ランナーの多さが得点につながらないバッター ベスト5
Robinson Cano (NYY) 21人 0点 0%
Jeff Keppinger (TBR 6番打者) 20 0 0%
Justin Smoak (SEA) 22 1 5%
Jose Bautista (TOR) 21 1 5%
Mark Teixeira (NYY) 20 1 5%
Michael Saunders (SEA) 19 1 5%

逆に、ランナーをムダにしないバッターのランキングをみると、東地区のバッターの名前が消え、デトロイトのバッターが浮上する。これが今年のデトロイトの強さ。
3番ミゲル・カブレラは、ランナーを背負って打席に立っている打者ベスト20に入っていないが、それでも44%のランナーをホームに帰してしまうというのだから、驚異的。誰だって、そんなバッターと勝負したくはない。

ミゲル・カブレラの打席にランナーが思ったほど多くない理由は、2番バッター、ブレナン・ボーシュの打点の多さを見れば、なんとなく理由が想像できる。
デトロイトと対戦する投手にしてみれば、3番ミゲル・カブレラと勝負するくらいなら、2番ボーシュとの勝負を選ぶわけだが、実は打率こそ低いものの勝負には強いボーシュにタイムリーを打たれて涙目、なんていうケースが増えつつある。(3番に座ったイチローの前の、2番バッターに打点が増えつつあるのにも、似たような理由がある。かつては1番イチローの前の9番ベタンコートにもそういう打点恩恵があった)
デトロイトのリードオフマンといえば、かつてはカーティス・グランダーソンだったが、グランダーソンのサラリーが高騰する前にヤンキースにトレードして、かわりに獲得した1番・センターオースティン・ジャクソンが絶好調で、グランダーソンの穴を完全に埋めて余りある活躍をみせつつあるのも大きい。
グランダーソンに払うはずだった高いサラリーを考えると、グランダーソンが毎年ホームランを40本打ち続けるとはとても思えない以上、オースティン・ジャクソンとダグ・フィスターの2人は、「給料は安く、戦力は高い選手」を獲得できた、理想的な勝ちトレードだ。こういう選手獲得によってペイロールを節約しながら戦力補強できるからこそ、デトロイトはプリンス・フィルダーに食指を伸ばせた。

ランナーが得点につながるバッター ベスト5
(Miguel Cabrera 16人 7点 44%)
Michael Young 20 6 30%
Carlos Pena 19 6 32%
Edwin Encarnacion 19 5 26%
Adrian Gonzalez 20 5 25%
Brennan Boesch 21 5 24%


ちなみに、Ptn%(Percentage of PA with the platoon advantage)というデータで見ると、シアトルが72%で、ア・リーグトップ。(2位はOAK71%、3位CLE65%。最下位はTEXの45%。デトロイトは53%。強力打線のチームは打線をそれほどいじっていない)
この数値は、相手ピッチャーが左なら右打者を並べ、右なら左バッターを多くぶつけるという風に、「相手投手の左右に対して、打者の左右が逆になっているパーセンテージ」のこと。
シアトルは、上位打線にフィギンズ、スモークと、2人のスイッチヒッターがいるわけだから、もともと相手投手の左右にあわせやすい打線ではあるが、この2人だけでPtn%が「72%」もの高さになるわけがないわけで、あくまで高いPtn%の元凶は、監督エリック・ウェッジが相手投手に合わせて打線をいじりたおす「深刻な左右病」にある。

だが、以下の数値を見なくとも、シアトルのゲームを常に見ていればわかるように、ヒットにしても、ホームランや長打にしても、シアトル打線のヒットの大半は「投手の左右を気にしない左バッターの活躍」によるものであり、ウェッジが相手投手によって打線をコロコロ入れ替える戦略が、ヒット数の多さにつながっているわけではない。
事実、ブレンダン・ライアン、ミゲル・オリーボ、キャスパー・ウェルズなどと、休養しているグティエレスも含めて、シアトルの右バッターの大半はまるで機能を果たしていない。また、スイッチヒッター、スモークの右打席も機能していないし、ヘスス・モンテーロのスイングは明らかにスラッガーのスイングではない。
エリック・ウェッジの「左右病」がシアトル打線の好調さにつながっているわけではないのだから、本来なら、好調な打者をどんどん上位に移して、不調のスモークをさっさと4番からはずすべきだ。
だが、シアトルというチームは、いつもそうだが、「どうせそのうち、そうせざるを得なくなること」を、すぐには実行せず、しばらく様子を見て症状を重くして失敗する。
弱いチームの「弱さ」とは、一瞬のチャンスをモノにできない「引きの弱さ」であり、また、予想できるピンチを回避できない「逃げ足の遅さ」である
長くは続かないチャンスをモノにしないうちに、左バッターの好調期間が終わってしまえば、また元の貧打に戻るのは目に見えている。

vs RHP as RHB 打率.230 ヒット数14
vs RHP as LHB .260 45
vs LHP as RHB .156 5
vs LHP as LHB .438 7
RHP=右投手、LHP=左投手
RHB=右バッター LHB=左バッター
2012 Seattle Mariners Batting Splits - Baseball-Reference.com

April 10, 2012

 
2012年4月9日 デビュー登板のダルビッシュのフォーム

これは、メジャー初登板時のダルビッシュのピッチングフォーム。初回に2番アックリーを三振に仕留めた場面。
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@TEX: Darvish records his first career strikeout - Video | MLB.com: Multimedia(MLB公式動画)

左から2番目の写真
明らかに、このブログでいう「蹴り出し動作」をやっている。

一番右の写真
ホームプレートに踏み出した左足が「まっすぐホームプレート方向を向くのではなく、サード側に向いたまま」、「横向きに踏み出し」ている。これは「横ステップ」であって、2011年のフォームである「ビッシュ・ツイスト」の特徴のひとつである「前ステップ」ではない。上半身のひねりの効果が薄い。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。


MLBのレジェンドとして新人に格の違いを見せつけた
イチローの3安打

http://wapc.mlb.com/play?content_id=20494261



今年3月半ばに、ダルビッシュの渡米以降の投球フォームが「ビッシュ・ツイスト」しないフォームであることを指摘したが、あの段階からフォームがほとんど変化していない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年3月16日、上半身と下半身の動きが揃ってしまい、「ビッシュ・ツイスト」しないクリーブランド戦のダルビッシュのフォーム。
松坂投手そっくりの、左足のサード側への「蹴り出し動作」が、ハッキリと見てとれるが、蹴り出し動作の際に、不自然に爪先を曲げているのが、なんとも不恰好だ。
フォームもピッチング内容も、四球を連発してランナーを貯めては、タイムリーを打たれる松坂投手の悪いときにそっくり。これではいけないと思う。


より細かいことで言えば、左バッターへの配球が単調すぎる。アウトコースよりの2シームが来ることは、ほとんどの左バッターがわかって狙っていたはず。
また、ストレート系が得意なカイル・シーガーに2シームをタイムリーされた次の打席でも2シームを打たれるようなことも、いただけない。

ツイッターでも言ったことだが、投手が配球の主導権を握るMLBでは、投手に学習能力や打者のスカウティング能力がないと生き残れない。

せっかく2011年に、日本のプロ野球に在籍していながらメジャー仕様(=「ビッシュツイスト」)に改造することに成功していたダルビッシュの投球フォームは、テキサスに移籍したとたん、なぜか逆に、「MLB仕様に改造する前の、プロ野球風の日本式フォーム」に回帰してしまっている。これでは、逆戻りだ。
なぜこういう「先祖帰り」が起きるのか、理解に苦しむ。まるで、「外国に憧れて海外旅行に行ったにもかかわらず、海外に行ったら、どういうわけか日本食ばかり食べている気弱な旅行者」みたいな感じだ。


日本での蹴り出し動作「あり」のダルビッシュ(下)と、
蹴り出し動作「なし」のダルビッシュ(上)


ダルビッシュ分解写真(改)


松坂投手のフォーム(足をショート側に向ける瞬間)松坂投手の特徴のひとつである
「サード側への蹴り出し動作」


ダルビッシュが日ハム在籍時にメジャー仕様フォームとして開拓したと思われる「ビッシュ・ツイスト」においては、上半身は打者に背番号が向くほどひねっている状態なのに、下半身はホームプレートにまっすぐ「前ステップ」できていた。
以下、一番上の日本ハム時代のMLBスタイルの「ビッシュ・ツイスト」と、残り3枚の写真をよく見比べてもらいたい。今のダルビッシュが、いかに力感とまとまりがないか、わかると思う。


日本ハム時代の「ビッシュ・ツイスト
踏み出した左足のつま先が、綺麗にホームプレート方向を向いている。だが、上半身は後ろにわずかに体重を残しつつ、ひねったままを維持しているため、ここから腕を思い切り振ってボールを投げると、非常に大きなパワーが生み出される。

日本ハム時代の「ビッシュ・ツイスト」


渡米直後のブルペン

「ビッシュ・ツイスト」してないダルビッシュ(ブルペン)


3月13日 スプリング・トレーニング インディアンス戦

「ビッシュ・ツイスト」してないダルビッシュ(インディアンス戦)


4月9日 MLBデビュー登板 シアトル戦 in アーリントン

2012年4月9日 MLBデビュー登板のダルビッシュ


April 09, 2012

たまにウェブを検索していると、特にセイバー系とか自称する、数字で野球を語るウェブサイトやブログで、次のような「相関係数を使ったと自称する笑い話」に出くわす。こういう「鼻高々に間違えたことを発言しているサイト」は案外多い(笑)

チームの四球数と得点数の相関係数を調べると
両者にはかなり強い相関関係がある。四球は重要。

四球とシングルヒットとで、得点との相関係数を調べると、四球の相関係数のほうがよりが大きい。だから、四球のほうが、より得点力への関連が強い。


(このネタ、さまざまなバリエーションがある。比較対象をシングルヒットではなく「打率」にするパターンもあれば、総得点を使う人、平均得点を使う人もあるようだ。まぁ、話のくだらなさに差はない。だいいち、彼らの主張する「得点と四球の相関」の相関係数は0.7以下程度しかないのだから、決定係数は0.5以下しかない。つまり事象の半分以下しか説明できないわけで、こんな低い相関関係の、どこをどう間違うと、「四球は野球の戦略上、重要」だの言い切れるのか、気がしれない)

得点総数と四球総数を照らし合わせた程度のくだらない作業、それも低い数値の相関から、何か真実が見えてくる、わけがない。


例えばこんな計算をしてみる。

チーム総得点と総RBIの相関(2011ア・リーグ)

これ、何かというと、
2011年ア・リーグ全チームの、総得点数と、総RBI(打点)数を、グラフ化したものだ。

相関係数(r)=0.996851
決定係数(r2 つまり相関係数の2乗)=0.9937


相関係数と決定係数が、ほぼ「」である。
これが何を意味するか。わかる人には、わかるだろう。
チームの得点数とRBIは、
 ほぼ完全な相関関係にある
ということだ。得点とRBIの相関関係が決定的なのがわかれば、当然のことながら、次の結論は間違いなく正しい。
チームの得点力というものは、RBI、
 つまり打点にほぼ完全に依存して決まる


相関係数で得点相関をうんぬんしたいなら、
打点こそ王道であり、打点こそ正義である。


と、まぁ、とりあえず書いてみる(笑)
すると、どうなるか。
もちろん興味の無いほとんどの人はこんな計算など無視する。それはいいとして、中には、相関係数とかいう手法の「ものものしさ」に負け、よく考えてみもせずに鵜呑みにしてしまう気弱な人もいれば、逆に、自分の先入観にまみれたまま、何も考えもせず反対してくるアタマの悪い人もいる。


「得点とRBIのほぼ完全な相関関係に、どういう意味があるか」という議論それ自体は、実は無意味ではない。それどころか、かなり面白い議論ではあるのだが、それはそれとして、上のグラフの目的は、そこではない。
単に「相関係数を使って、どれだけ、あたかも自分の出す結論が正しいように見せかけることができるか」を、「やってみせている」だけの話。まぁ、一種の「手品の種明かし」みたいなものだ。


例えば、いくら得点とRBIの相関係数が、たとえ「完全な相関」を意味する「1」に近いとしても、「野球というスポーツにおいては、RBIだけが重要」なんて子供じみた単純な結論にはならないのが、野球という現象の複雑さであり、統計とかいうやつ本来のややこしさだ。
AとB、2つの事象の相関係数が十二分に高かったからといっても、AとBの相関関係がすぐに判明するわけではない。相関係数の判定の難しさについては、Wikiにも書いてある。

AとB、2つの事象の相関関係には、少なくとも以下の3パターンある。
「A が B を発生させる」
「B が A を発生させる」
「第3の変数C が A と B を発生させる」


たとえ「得点と打点の相関係数」が「カンペキな相関関係」を意味する数値を叩きだしたとしても、例えばだが、「得点でもない、打点でもない、『第3の要素』が、得点と打点を同時に変化させている可能性」についても、きちんと検証を終えることができないかぎり、得点と打点の相関関係をパーフェクトだと言い切るわけにはいかない、のである。

まして、決定係数0.5以下という、全体の半分の事象すら説明できないような数値に無理矢理ヘリクツをつけて、得点と四球の相関が野球というスポーツの法則ででもあるかのようなことを語っているようでは、まるでお話にならない。冷笑にも値しない。


別の例をみてみる。
ここに1シーズンで、同じ四球数、同じ得点数を稼いだ2つの野球チーム、AとB、があるとする。
Aでは、四球の20%が得点にからんだ。
Bでは、四球の80%が得点にからんだ。

こういうことは、十分ありえる。
たとえ見た目の総得点数と四球数が同じでも、四球数のどの程度の割合が得点にからむか、なんてことは、そのチームの攻撃スタイルや、打線の構成によって左右される。
(もちろん、日本野球における四球に対する感覚が、そのままMLBで通用するはずもない。四球のランナーを送りバントで得点につなげようとする日本と、MLBとの間にある根本的な野球文化の違いも、大いに考慮してモノを言うべきだ)

まとめれば、得点にからむ四球もあれば、全く無関係な四球もある。そのパーセンテージは、相関係数からは、まったくわからない、ということだ。 当然の話だ。

以下に挙げる例も含めていうと、
総得点が多い(あるいは少ない)こと、
総四球数が多い(あるいは少ない)こと、
この2つの数値の数学的関係を、相関係数を使って語る(もしくは騙る)行為そのものに、実は、意味が無い
のである。

(よく考えればわかることだが、「数値と数値の間に一定の相関係数を見出す」ために必要な「2つの数値」というのは、実は全く無関係な数値同士でも全くかまわない。例えば右肩上がりの2つの数値、例えば「マグロの消費量と、リンゴの価格」をもってくれば、両者の時系列変化が右肩上がりで似ているという、たったそれだけの理由から、両者に一定の相関係数がはじき出せてしまう可能性があり、その結果、「マグロの消費にはリンゴの価格が大いに関係している」と結論づけることくらい、まったく難しくない。
言い換えると、「相関係数」は、2つの数値系列の配列パターンが相互にどれだけ「似ているか」をパーセンテージとして示しているだけで、実は「結論の正しさをまったく保証などしていない」ということだ)

また、こういうこともありえる。
1シーズンに500個の四球を挙げた2つのチーム、AとBがあるとする。
Aの総得点が500点
Bの総得点は700点

1シーズンに850得点を挙げた2つのチーム、AとBがあるとする。
Aの四球数が600個
Bの四球数は450個


実際、2011年のア・リーグにおいて、こういう対照的な2チームが存在した。
ヤンキース 867得点 627四球(リーグ1位)
テキサス  855得点 475四球(平均以下)


こういう実例を示しても、「それはヤンキースとテキサスのようなコンテンダーが、統計上の例外にあたるだけで、得点と四球の強い相関関係に『例外』は寄与しないのだから、特殊な2チームの成績など、検討する価値はない」とか、なんとか、わけのわからない反論をしてくる根っからの数字馬鹿が必ず現れるだろう(笑)
いや。ぜひ現れて、積極的に笑いモノになってもらいたい(笑)

そういう、数字だけで野球を語れると勘違いする発想こそ、スポーツを体感したことのない、ホンモノの「数字馬鹿」だ。



実際の野球の最前線は、0.5以下の弱い決定係数が想定する偏差の範囲、数値レンジなど越えた領域に、本来の価値がある。相関係数など飛び越えられるチームでなければ、優勝などできないのである。

リーグ優勝であれ、ホームラン王や首位打者などのタイトルであれ、「飛びぬけた成績を納めることで、スポーツのトップに君臨する」ことを実現するのは、まさに「積極的に『例外』を目指す、つまり、人のしてないことを実現する行為」そのものだ。
「平均的、統計的に行動する」という生ぬるい思考方法から、トップに君臨できる選手やチームなど生まれない。
「他の追随を許さない独自のチームコンセプト」や、「常識はずれの多額の予算」、「飛びぬけた天才プレーヤーの集結」、「無敵の先発ローテーション」、「飛びぬけたトレード戦略」、そういった「特別さ」をしっかりとキープできもしないチームが、「数学的平均」とやらに沿った行動様式を採用していて、他チームを置き去りになど、できるわけがない。
統計上の偏差の中に納まる生ぬるいプレイを重視すれば、得点が伸びて、順位が上がる、などという馬鹿げた発想は、ただの数字遊びであり、もはやスポーツですらない。


だが、世間によくいる「相関係数の単純な計算結果を提示することで、四球の重要性を持ち上げたつもりになっている輩」というのは、「相関係数さえ計算しておけば、四球の得点に対する影響力が全て計算し尽された」ように思いこんで世間に発表したりしているわけだから、本当に始末が悪い(笑)
古くからあるOPS信仰と同じで、これは本来「野球をネタにした、デキの悪い笑い話」のひとつで、こんなのは、ただの「薄っぺらな数字ごっこ」だ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:指標のデタラメさ(OPS、SLG、パークファクターなど)

書いたご当人は、大真面目にこういうおかしなを信じて書いているのだとは思うが、いまだにああいう誰でも薄っぺらさが理解できるギミックを信じて野球を見ている輩がたくさんいると思うと、このブログもまったくもって安泰だ。なんの心配もいらない。好きなことだけ書いていれば、永遠に揺るぎない(笑)
こういう子供じみた数字遊びがいまだに堂々とまかり通っているのを見ると、「やっぱり『自分のアタマを使って考えることのできる人』は、実はほとんどいないのだな」と、いつも思う。



2011年にワールドシリーズに進出したテキサス・レンジャーズは、得点数はア・リーグNo.1レベルだが、そのことが特徴的なのではなくて、「ワールドシリーズ常連だったア・リーグ東地区のコンテンダーになかった、『ほとんど四球に頼らない得点パターン』を追求して、成功をおさめ、彼らからワールドシリーズ常連の座を奪い去ったこと」、ここに特徴がある。
それは、ホームランと四球の両立を追求したが、実際には得点力を大きく低下させてしまい、投手力でなんとか持ちこたえただけのタンパベイ・レイズとも、低打率ではあったがホームラン攻勢で得点数をなんとか維持できたヤンキースとも、待球を強く指示して四球と狭い球場を生かした2塁打で例年得点を伸ばすワンパターンなレッドソックスとも違った、四球大好きな東地区にない、ユニークなチーム・コンセプトだ。
(また、ヤンキースのようなチームにありがちな高い得点力と四球の多さの相関にしても、「四球が原因で、得点が結果」と、一義的に言い切れるわけではない。逆に「得点が原因で、四球が生まれる」、例えばホームランへを警戒しすぎて四球が増えるだけで、実際には、ヤンキースの得点に対する四球の本当の寄与度は、実は他チームと変わらないか、低い可能性だって無いわけではない。「事象A が 事象B を発生させている」のか、逆に「B が A を発生させている」のかは、相関係数だけで判明するわけではない)

むしろ、ユニークな攻撃パターンをとって勝ち進んだテキサスの855得点の全パターンを調べ、どの得点に、どう四球がからんだか、また、それぞれの得点において四球が果たした役割を積み上げる形で具体化することでもしないかぎり、もともと相関があるかどうかさえハッキリしない四球総数と得点総数の関係を、子供のままごとのように並べて相関係数を計算する程度の簡単なデスクワークで、「相関係数、高いでちゅね」だの、「打率より四球のほうが得点相関が高い」だのなんだの、寝言を言ってもらっては困る。


ちなみに、出塁率の高低にしても、チームごとの格差をもたらしているファクターは、四球数ではない。この点については、既に一度指摘した。もう一度書いておこう。
四球と打率とで、出塁率とより強い相関関係にあるのは、四球ではない。「打率」である

「一方で出塁率が大事だといい、他方では四球が大事だという、都合のいいデタラメな論理」は、とっくの昔に破綻していることがわかっている。もし「出塁率を向上させることが大事だ」とか言い張り続けたいのなら、打率を重視すべきと発言するのでなければ、スジが通らない。

2011ア・リーグ 打率と出塁率の比例関係(ホーム)
2011ア・リーグ 打率と出塁率の比例関係(ホーム)

2011ア・リーグ 打率と出塁率の比例関係(ビジター)
2011ア・リーグ 打率と出塁率の比例関係(ビジター)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年9月3日、チームというマクロ的視点から見たとき、「出塁率」を決定している唯一のファクターは「打率」であり、四球率は無関係、という仮説。


あと、蛇足としていうなら、
得点の重み、必要度というものは、チームによって異なる。得点パターンも、目標とする点数も、チーム事情によって違う。いいかえると、チームによっては、無限に得点が必要なわけじゃなく、必要なだけ得点があれば十分というチームもある

例えば、先発投手に大きなウエイトを置くチームAでは、得失点1点の重みが重く、1試合あたり3点程度挙げておけば、先発投手が毎回完投してくれて、それなりの勝率が挙げられるかもしれない。
また、投手にあまりウエイトを置かず、毎日のように打撃戦を戦っているようなチームBでは、1点の重みは軽く、細かい野球など必要ないから、四球とホームランだけを狙っていく戦略が通用するかもしれない。
もちろんテキサスのように、チームによっては、四球などなくても大量点が入れられるチームもある。(だからこそ、テキサスはユニークで、ユニークだったからこそチャンピオンなのだ。マネーボールも、ボストンも、テオ・エプスタインも、もはやユニークでもなんでもない)
スラッガーを並べて四球と長打だけを狙い、大量点獲得を目指す打撃優先チームもあるかもしれないし、四球や盗塁を元に必要十分なだけの得点を狙う投手優先チームもあるかもしれない。また、四球のランナーに盗塁させるチームもあれば、そうでないチームもある。


四球の生かし方なんてものは、チーム事情によって異なる。


同地区のライバルのチームコンセプトと比較して、どう戦うとより勝ち星が増えるかも考えなくてはならないし、結局、問題なのは、非常に複雑な選択肢の中から、どれをどう選択すると最大の効果が得られるか、だ。平均的、統計的にやっていれば勝てるなんていう、なまぬるいやり方など、通用しない。
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チーム総得点と総ヒット数の決定係数
(2011ア・リーグ)

チーム総得点と総ヒット数の相関(2011ア・リーグ)

チーム総得点数と総ホームラン数の決定係数
(2011ア・リーグ)

チーム総得点数と総ホームラン数の決定係数(2011ア・リーグ)

April 06, 2012

ESPNによると、2012年の開幕をアクティブ・ロスターとして迎えたMLBプレーヤー856人のうち、243人が、いわゆる「メインランド」以外出身(=「アメリカのハワイを除いた50州」以外、という意味。元記事の表記は born outside the 50 states)の選手であり、これを割合でいうと28.4%で、2011年の27.7%から「増加」したらしい。(故障者等を含む)
Percentage of foreign Major League Baseball players rises - ESPN
記事によれば、この「28.4%」という数字は、2005年の29.2、2007年の29.0に次ぐ高い数字。
おおよそ、MLBのロスターの3.5人にひとりが、メインランド以外の選手という計算になる。これは1チームのアクティブ・ロスター25人、平均7人前後のメインランド以外の選手がいる、という勘定だ。

(よくこういう記事で、「アメリカ以外の選手」というふうに訳出してしまうサイトがあるわけだが、元記事の表記はあくまで、born outside the 50 statesであり、「アメリカ以外」とは言っていない。もちろんそれは、プエルトリコはアメリカ領であり、またハワイはれっきとしたアメリカの51番目の州だから、である。だから例えば、ハワイのマウイ島出身のカート・スズキは、もちろんれっきとしたアメリカ人だが、メインランド出身ではないので、ESPNの記事ではplayer born outside the 50 statesにカウントされてしまうことになる)

また、マイナーにいる選手7,278人に占める「50州以外のプレーヤー率」は46.47%で、これは昨年の47.41%からややダウン。それにしても、MLBのマイナーで、いかにたくさんのメインランド出身でない選手が夢のメジャー昇格をうかがっているかがわかる。


国別メジャーロスター人数
ドミニカ 95人
ベネズエラ 68人
カナダ 15人
日本 13人
キューバ 11人
プエルトリコ 11人
メキシコ 9
パナマ 7 (マリアーノ・リベラなど)
キュラソー 4
オーストラリア 4
ニカラグア 3
台湾 2
コロンビア 1
イタリア 1 (アレックス・リディ
韓国 1
参考:Player Place of Birth and Death - Baseball-Reference.com (Baseball Referenceの州別・出身国別リスト)

別資料:Major League Baseball Players by Birthplace

チーム別外国人ロスター数
カンザスシティ 13人
コロラド 12人
ニューヨーク 12人
(ヤンキースは2011年に16人で、2000年以来11年ぶりにトップだったが、今年は4人減少。ロスターのイメージが入れ替わりつつある)


メジャーのロスターの人数が少ないからといって、その国の野球が弱いとは限らない。だが、こういう数字を見せられると、マイナー契約だった川崎宗則がアクティブ・ロスターを獲得したことが、いかに凄いことかわかる。

また、先日ドラフトに関してのツイートで、「好投手をアメリカ国内から調達することはこれからますます難しくなると思う。」と書いたのは、細かく説明しなくても、国別のロスター人数を見てもらえばわかると思う。
人数の多いドミニカベネズエラにはもちろん、まだまだ多くの未だ見ぬ好素材が眠っているだろうし、また、カナダ日本キューバなどの有力国の場合も、たとえ見た目のメジャーのロスター人数が少なくても、少数精鋭がメジャーで有力レギュラーとして活躍しているわけだから、それぞれの国にまだまだ粒選りの才能ある選手が眠っている可能性が高い。

だから、「投手の時代」を迎えてますます需要が高まる「本当に質のいいローテ投手」を発見したいと思えば、供給源として、玉石混合のアメリカのメインランド出身ピッチャーだけを見ていては、本当のダイヤモンドは見つからないと思うのだ。



ちなみに、メインランドではどんな州でもメジャーリーガーが多い、というわけではない。
元記事にはないデータだが、アメリカの出身州別メジャーリーガー数ランキングを挙げておこう。このリストと、カレッジ・ワールドシリーズの優勝校リストを並べてみると、西部のカリフォルニア、東部のニューヨーク周辺、五大湖周辺、南部のテキサス、フロリダなど、特定の野球が盛んな州、野球の強い州というのがあることがわかると思う。

California (2,012)
Pennsylvania (1,379)
New York (1,165)
Illinois (1,021)
Ohio (1,002)
Texas (812)
Massachusetts (649)
Missouri (585)
Florida (420)
New Jersey (415)

Player Place of Birth and Death - Baseball-Reference.com(2012年4月5日現在)





April 02, 2012

Spring Training in Florida今シーズンのダグ・フィスターは登板するたびに2、3、4と、少しずつイニング数を増やしてきたのだが、4月1日STヒューストン戦で6イニングを投げ、4安打(1ホームラン)で、1失点。
初めて先発投手らしいイニング数を投げたわけだが、ピンチはあっても失点はしないフィスターらしい内容で、いつでも本格的なシーズンインができる状態に近づきつつあるようだ。ちょっと四球が多かったのが気にはなるが、ST通算被打率.192なのだから、内容は十分すぎる。
デトロイトの先発ローテーションは、不動のエース・バーランダーはともかく、去年180イニングちょっと投げたが、ERA4.75と、優勝チームのローテ投手とは思えない数字(苦笑)に終わってしまったリック・ポーセロが、このSTでは17イニング投げてERA1.59と好調な滑り出しなために、バーランダー、フィスター、ポーセロの3本柱で今年はかなり行けそうな感じ。
ただ・・、マックス・シャーザーは、今年もちょっとダメかも(苦笑)
Houston Astros at Detroit Tigers - April 1, 2012 | MLB.com Classic

Major League Baseball Stats | tigers.com: Stats


それにしても、デトロイトはよく打っている。

今日はアストロズ、メッツとの変則ダブルヘッダーで、STだから当然チームの主力を2チームに分けてゲームしているわけだが、それでも11安打、13安打と、2試合で24安打。
打率はもともと高いチームだが、ホームランが出やすくなってきたことがスプリング・トレーニングでの得点力を上げている。大怪我をしてしまった去年の打線の功労者ビクター・マルチネスを欠いているというのに、これだから、これは相当打てる。


ただデトロイトは、本来は、地区優勝するためには投打のバランスが必要なチームだと思う。

2011年デトロイトのチーム打率.277は、ア・リーグ3位。ア・リーグ屈指の「ヒットの打てるチーム」のひとつなわけだが、ホームランは169本で、リーグ平均の162本とほぼ変わらない。
デトロイトより打率が高い2チームは、テキサス、ボストンだが、デトロイトのホームラン数は、この打率トップ2と比べ、30〜40本少ない。二塁打数はボストンがずば抜けている。
テキサス、ボストンの本拠地の狭さを考えると、打率上位3チームの打撃力に、実は、大差はない。(実際、パークファクターで補正したOPS+でみると、ホームランの少ないデトロイトが、ホームランでデトロイトを引き離したテキサス、ヤンキースより上位)
打率上位3チームの打撃スタッツの「見た目の差」は、パークファクターの差が現れたにすぎない。
2011 American League Season Summary - Baseball-Reference.com

だが、野球において、チームの立場で最終的に争うのは、「グロス」であって、「得点の数」や「勝ち負け」だ。
OPSのようなデタラメな数値を、やはり欠陥のあるパークファクターで補正することでOPS+に変換して、いくら「デトロイトには、テキサスやボストンと同程度の得点力が備わっていること」がわかったとしても、ワールドシリーズ優勝を目指すコンテンダーの立場としては、試合に負けてしまっては、それは数字いじりに過ぎず、何の意味もない。
前に書いたように「チームの視点」と「プレーヤーの視点」は大きく異なるわけだが、「チームの視点」から見たとき、「補正」という行為に、実はあまり根本的な価値はない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:指標のデタラメさ(OPS、SLG、パークファクターなど)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年9月3日、チームというマクロ的視点から見たとき、「出塁率」を決定している唯一のファクターは「打率」であり、四球率は無関係、という仮説。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年11月10日、「パークファクター」という数字の、ある種の「デタラメさ」。


ホームラン数の違いは、どうしてもチームの「見かけの得点数」には影響する。
2011年の得点数上位3チームは、打率が高く長打も多いボストン、打率はリーグ平均以下だがホームランの多さで得点力を補ったヤンキース、ア・リーグ最高打率と長打も豊富な逸材溢れるテキサスで、これら3チームが揃ってシーズン850点以上を叩きだしたが、打率は高いのにホームランは平均レベルの4位デトロイトは787点で、上位3チームと比べると、デトロイトの得点は1段階落ちる。(リーグ平均は723点)
この「見た目の得点数」の差が生じる原因は、繰り返しになるが、チームの打力の本質的な差ではなくて、主として「本拠地の違い」でしかない。


では、デトロイトは、「テキサスやボストンとの、見た目の得点数の差」にどう対処しようとしているのか。今シーズンのデトロイトは、「得点をさらに増やしたい」のか、それとも「失点を減らしたい」のか。
もしデトロイトが得点力をあと10%くらい上げることで、ボストン、テキサスに匹敵する得点数を得ようと思うと、本拠地がヒッターズ・パークではない以上、多少予算に無理してでも、他のコンテンダーを上回る多額の投資が必要になる。つまり、単純化して言うと、他のコンテンダーの主軸打者よりも良い数字を残せるスラッガーへの投資が必要になるわけだ。
まぁ、だからこそデトロイトはプリンス・フィルダーに大金を投じてラインアップに加えたわけだが、これはこれでひとつの選択ではある。
(いちおう断っておくと、ブログ主は、フィルダーのいなかった去年でも結構打てていたデトロイトは、なにより先に、あのふがいないブルペンにもう少し手を加えておかないとダメだと思っている)


あくまでデトロイトは「投打のバランス」を見ていかなければならないチームだ。
本拠地のコメリカパークを大改装して、フェンウェイやアーリントン並みの狭いボールパークにでもしないかぎり、デトロイトは「多少相手に打たれて失点しようとも、長打を打ちまくれる打線を作って、相手よりも多く得点を挙げ、打ち勝てる野球」を目指すわけにはいかない。
投打のバランスの必要なデトロイトは、「打率が低く、しかもホームランも20本前後しか打てないハンパなスラッガー」を大金かけて揃えてズラリと並べるような、雑な野球を目指すことはできないと思う。
(これは他の大半のチームも同じだ。だからこそ、守備もできない低打率のハンパなスラッガーの需要が激減、消滅しつつあることに、日本のメディアは気づいていない。ハンパなスラッガーが、下位チームに徐々に移籍し続けて大金を稼ぎ続けられる安易な時代は、事実終わったし、終わって当然だ)

もし、フィルダーがセンターのだだっ広いコメリカパークで思ったほどホームランを打てず(というか、ソロホームランが20本程度増えようが、チームは思ったほど勝てるようになどならない)、フィスターやポーセロの勝ち星が伸び悩むような事態だと、デトロイトの今シーズンのチームデザインは本来の投打のバランスを欠いて、大コケすることになる。
だからこそ、給料の安いダグ・フィスターが先発に加わって、安いコストでチーム防御率が下げられることの意味は、はかり知れないくらい大きい
(勘違いしてはいけないのは、球場が広いことが、投手有利を意味するとは限らないことだ。広いボールパークなら長打は出にくくなるとは限らない。例えばセンターが広いコメリカパークでは、三塁打が非常にでやすい。だからこそ、コメリカパークで、フライを打たせないグラウンドボール・ピッチャー、ダグ・フィスターが投げることに価値が出てくる。)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月31日、「広い球場は、投手有利」というのは、ただの固定観念にすぎない。だからこそ、せっかくグラウンドボール・ピッチャーに変身を遂げたダグ・フィスターを売り払ってまでして外野手を補強してしまうシアトルは、どうしようもない馬鹿である。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年8月1日、「ダグ・フィスターはやたらとランナーを出していた」というのはウソ。最もランナーを出さず、ホームランと四球も出さないア・リーグ屈指のピッチャーが、ダグ・フィスター。



かつての「クッキーカッター・スタジアム時代」なら、どこのボールパークも、たいして変わらない形状だった。だから、ホーム、ビジター、どこのボールパークに行っても、バッターは同じように能力が発揮できたために、チームごとにデザインをカスタマイズする必要度は、今とは比べようがないくらい、格段に低かった。極端な言い方をすれば、どこのチームにいてもGMは常識的にさえやっていればそれなりに成功できた。
リンク:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:「クッキーカッター」という単語を含む記事
だが、今の時代、ボールパークはチームによって特性が大きく異なる。
それだけに、クッキーカッター・スタジアム時代が終焉して以降の野球には、それぞれの本拠地の特性に合ったチームデザインが要求されているわけで、本拠地の形状や、ひいては地元ファンの要求する野球の方向性をも考慮したチームづくりくらい、やって当たり前のはずだが、しかし現実を見れば、MLBのチーム全てがそれを忠実にやってのけているかというと、そんなことはない。
中には、数字に強いフリ、投資手法に通じているフリをして、実際には、そのチームにそぐわない、思いつきみたいな机上のチームデザインを平気でやろうとして、何シーズンにもわたって大失敗し続け、言い訳し続けた挙句に、チームを破壊して首になるジェネラル・マネージャーだって、後を絶たない
セーフコのような広めのボールパークを本拠地にしたチームが「守備だけしかできないプレーヤーに大金を払って、攻撃力をまったく犠牲にしてしまい、大失敗する」だの、その反動でこんどは「たとえチームの基本財産となる投手力が大きく下がるのを黙認してでも、先発投手を放出してバッターを集めまくり、何年もかかる長打増加に必死になる」なんていう、バランスを欠いたチームデザインが、どれほど馬鹿げているか。あえて言葉にするまでもない。


広いボールパークを本拠地にするチームが(または平均的なボールパークでもいいが)ワールドシリーズに勝てるチームデザインを、誰かがきちんと発明・確立しないかぎり、狭いボールパーク優位な時代が続いていくのは、野球ファンとして悲しむべきことだと思うから、デトロイトには頑張ってもらいたい。
(そういう意味では、日本のプロ野球で、本拠地がだだっ広いにもかかわらず2連覇を達成できた中日ドラゴンズのチームデザイン手法の持つ価値は、きちんと論ずべき価値があるが、残念なことに、いつも元監督にして天才打者の落合博満氏に対する個人的な好き嫌いだけに話が矮小化されてしまい、きちんと論じられた試しがない)

April 01, 2012

2011カレッジ・ワールドシリーズ ロゴ

今年も、6月恒例のカレッジ・ワールドシリーズ(=全米大学野球選手権)の季節が近づいてきた。

去年はジャスティン・スモークの母校サウスカロライナ大学が決勝でフロリダ大学を下し、2連覇を達成したわけだが、サウスカロライナを優勝に導いたエースMichael Rothの個性的な投球フォームを準決勝くらいに見て、すっかり気に入ってしまった。
去年は、彼のオヤジさんが「仕事を休んで息子の晴れ姿を応援したい」と勤め先に申し出たところ、会社は父上を即刻クビにしてしまい、たくさんの抗議電話が会社に殺到した、なんていう、ほのぼのした事件があったわけだが、父さんの仕事はその後どうなったのだろう?(笑)(この事件はもちろんMichael RothのWikiにもちゃんと載っている)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月21日、今月末に決まる2011カレッジ・ワールドシリーズの行方と、近年のカレッジ・ベースボールの勢力地図の「大西洋岸シフト」。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月24日、体調の悪いダニー・ハルツェンを3イニングしか使えなかったヴァージニアが敗れ、CWS決勝カードはフロリダ対サウスカロライナに。ちょっとユニークなピッチング・スタイルのMichael Rothと、彼の父親との絆。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月28日、サウスカロライナ大学、カレッジ・ワールドシリーズ2連覇。先発Michael Roth、父親の応援に報いる。

Michael Roth (South Carolina)
Michael Rothは、去年31巡目(全体938番目)でクリーブランド・インディアンスに指名されたが、サインしなかった。そりゃ、カレッジ・ワールドシリーズ優勝投手としては、そんな順位でサインするわけにはいかない。
31st Round of the 2011 MLB June Amateur Draft - Baseball-Reference.com
今年版のランキングでみると、彼の評価は全米4位と、うなぎ上り。今秋のMLBドラフトでは、去年とは全く違って、かなり上位での指名を受けることになるだろう。(ただ、こういうランキングはどうせコロコロ変わるから、いま細かい順位を気にしても意味がない)
Top 100 Countdown: 4. Michael Roth (South Carolina)

collegebaseballdaily.comによる
2012 Top 100 College Baseball Players

2012 Top 100 College Baseball Players
1. Mark Appel (Stanford)
2. Mike Zunino (Florida)
3. Deven Marrero (Arizona State)
4. Michael Roth (South Carolina)
5. Victor Roache (Georgia Southern)
6. Marcus Stroman (Duke)
7. Stephen Piscotty (Stanford)
8. Peter O’Brien (Miami, Fl)
9. Hudson Randall (Florida)
10. Kurt Heyer (Arizona)


チーム別にみると、今年の優勝候補は、長打が魅力のキャッチャーMike Zuninoを擁する優勝常連校フロリダ、全米ドラフト全体1位指名候補と言われているピッチャーMark Appelを擁するスタンフォード、アーカンサス、フロリダ州立、ダスティン・アックリーの母校ノースカロライナなどとなっていて、いずれも例年優勝候補に名前が挙がる学校ばかりだ。(エースダニー・ハルツェンの抜けたヴァージニアはガクンとチーム力が落ちてしまい、圏外。今年のカレッジ・ワールドシリーズに顔を出すのは難しい)
今年は、判官贔屓の意味で、カレッジ・ワールドシリーズに一度も出たことがないケンタッキーに頑張って初出場を達成してもらいたいものだ。

2012年3月25日付 カレッジ・ベースボールランキング
by USA TODAY/ESPN

NCAA College Rankings and Polls - ESPN
USA TODAY/ESPN 2012カレッジ・ベースボール ランキング


順当にいくと、今年の全米ドラフトで全体1位指名権をもつヒューストン・アストロズが指名するのは、スタンフォードのMark Appel投手ということになる可能性があるが、なんでも、NFLドラフトでも、全体1位候補は同じスタンフォードのエース・クオーターバック、Andrew Luckという選手らしい。
もしこの2選手がMLBとNFLで同時に全体1位指名されると、同じ学校からのMLB、NFLドラフト全体1位指名は、史上初の出来事になるらしい。
ちなみに、ブログ主の感想では、Mark Appelがそれほどいいピッチャーとも思えない。なんと言ったらいいか、キレがない。よほどMichael Rothのほうがいい。
【MLB】スタンフォード大学からMLBとNFL両方でドラフト全体1位指名なるか? | 野球新聞


サウスカロライナを率いるのは、今年もレイ・タナーだが、今年の戦績は、あまり芳しくない。Michael Rothだけの頑張りで優勝できるほど、カレッジ・ワールドシリーズは甘くないわけだが、それでもまぁ、今年のドラフトに向けて彼も必死だろうから、頑張ってもらいたいものだ。
2-time College World Series winner South Carolina opens Southeastern Conference play 1-5 - The Washington Post


第38回 日米大学野球選手権大会
最初のゲームで先発したMark Appel
(2011年7月3日 ノースカロライナ州ダーラム)



今年2月のプレシーズンマッチでの
Mike Zuninoのホームラン



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  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
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