October 2012

October 11, 2012


MLB.com Must C | Must C Crafty: Ichiro avoids tag with slick slide - Video | MLB.com: Multimedia






2012ディヴィジョン・シリーズは、どのカードでも劇的なシーンが続出している。
今年のポストシーズンをずっと観戦してツイートしているらしいドジャースのシェイン・ビクトリーノなどは、特にディフェンシブな面で、劇的なファインプレーが続出していることに感心してツイートしている。


ゲームを観るのに忙しすぎて、とてもブログにまとめている暇がない(笑) だが、資料として残しておくべき、という意味では、一部のデータや、思ったことを記録に残しておかないと、そのとき言いたかったことや、事実と事実のつながりが、記憶から消えてしまう。


ALDS Game 2でイチローがみせた神業スライディングについては、某巨大掲示板で誰かが、「これでイチローのMLBでのスーパープレーは、スローイングの『レーザービーム』(2001年)、キャッチングの『スパイダーマンキャッチ』(2005年。スパイダーキャッチと表記する人もいる)、そして、今回のベースランニングと、3つが揃ったわけだな」という意味のことを言っているのを見て、「なるほど。うまいこと言うもんだな」と感心した。
いってみれば「イチロー 三種の神器」というわけだ。1950年代の「白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫」、1960年代の「車・クーラー・カラーテレビ」みたいなもんだ(笑)


だが困ったことに、このスライディング、まだネーミングが定着してない。こういうのは困る。どんなネーミングに定着しようと、カッコ良くて覚えやすければ別に気にしないが、定まってないのは困る。決まった言い方、それも、日米で同じネーミングが存在するほうが、色々な意味で便利だ。


プレー直後

レーザービーム』、『スパイダーマン・キャッチ』がメディアとファンの両方でネーミングとして定着しているのと同様に、この神業スライディングのネーミングも、メディアとファンの間でひとつに定着して欲しいものだとは思うが、それには多少時間がかかるかもしれない。

というのも、プレー発生直後、ファンとメディアのネーミングが "Ninja" と "Matrix"、二手に分かれたからである。


プレー直後、アメリカのファンのツイートや掲示板への書き込みは、もうとにかく"Ninja"の連呼、連呼だった(笑) どうしてアメリカ人たちはあんなに "Ninja!" という単語を使うのが好きなんだろう(笑) ショー・コスギかよ(笑)
ヤンキース公式サイト掲示板 New York Yankees > General > Ichiro is a Ninja

一方、メディア関係者のツイートはというと、キアヌ・リーヴス主演の大ヒット映画 "Matrix"にたとえる人々が主流だった。
"Matrix"という言葉をすぐに使ったライターは、例えば、ESPNのAndrew Marchand、NYデイリー・ニューズのMark FeinsandAnthony McCarron
そして、ヤンキース公式ツイッター、MLB公式(Gregor Chisholm)も、すぐに「マトリクス」という単語のバリエーションで追随し、この神業スライディングに対する驚きと賞賛ぶりを伝えた。

NY Daily News
VIDEO: Ichiro Suzuki's 'Matrix' slide into home plate gives Yankees early lead against Baltimore Orioles in Game 2 of ALDS - NY Daily News
MLB公式
Ichiro makes like 'The Matrix,' deftly avoids tag | MLB.com: News
USA Today
Ichiro Suzuki's matrix move at home plate
ESPN
Ichiro with the slide of the century - Yankees Blog - ESPN New York
メディアでの表現は他に、 "dance"、"Twister champion"(野球コラムニストJeff Bradley)、"Tangoing" (ボルチモアのビートライターBrittany Ghiroli)と、「踊り」や「ダンス」というイメージに結びつけたツイートもみられたが、主流はやはり "Matrix" だった。


ちなみに、このゲームをリアルタイムで観ていたMLBプレーヤー、マット・ケンプシェイン・ビクトリーノも、速攻でツイートし、この神業プレーを絶賛した。





Matrix !!!!

個人的にはこのネーミング、『マトリクス・スライド』としたいところだ。(そうでなければ、『マトリクス・ムーブ』)


英語ネイティブでない日本のファンの間では「マトリクス・スライディング」とing形で表現したい人もそれなりの数いるとは思う。だが、このプレーに関するアメリカの野球メディアを参照してもらうとわかると思うが、このプレーについて、「スライディング」というing形での表記はされていない。
あくまで、ing形でない「slide」、なのである。


しかしながら、『マトリクス・スライド』とネーミングすることについては、ちょっとした事情がないでもない。
というのも、2011年にアメリカの高校生が記録したトリッキーなスライディングが、既に "Matrix Slide" とネーミングされ、ネット上に存在しているからだ。(もちろん、イチローのスライディングのほうが、はるかにレベルが高くて天才的なのはいうまでもない)
記事と動画:High school kid’s ‘Matrix Slide’ greatest slide ever? (video) | Off the Bench


ちなみに、『マトリクス・ムーブ』というネーミングで記事を書いたメディアも多数ある。
例:USA Today
Ichiro Suzuki's matrix move at home plate
いまの時点での検索結果では、『マトリクス・ムーブ』という言葉が野球のプレーに対して命名されたことは前例が無いようだ。"move" という言いまわしには英語としてのカッコよさがあるし、意味のわかりやすさもある。

ただ、日本のファンが今後このプレーを語るときの使いやすさを考えると、"move" という英語っぽい言い回しは、日本人には馴染みが少ないかもしれない。せめて、日本人の耳に慣れた「スライディング」という単語に少しでも近い『スライド』という単語を使ったほうが、より耳と記憶に残りやすいのではないだろうか、と思う。


うーん。困ったね。

『マトリクス・スライド』
『マトリクス・ムーブ』
『センチュリー・スライド』
『イチロー・マトリクス』

どういうネーミングになっていくのが、この神業にふさわしいか、よくわからない。


そんなこんなで、結局このブログとしては、『マトリクス・スライド』というネーミングが最もふさわしい、という意見にしておくことにした。
『マトリクス・スライド』というネーミングには、かろうじて「スライディング」に近い言葉が入っていて、日米のファンとメディアが同時に理解できるのがいいし、そもそも和製英語じゃないのが、とてもいい。(野球用語にせよ、日常会話にせよ、わけのわからない和製英語は少しでも減らしていきたい)

ただ、まぁ、いくら英語表現の正確さにこだわったとしても、時間がたつにつれて日本では『マトリクス・スライド』が、いつのまにか『マトリックス・スライディング』とか、和製英語風のing形に定着していってしまうかもしれないのは、想定済みだ(笑) それはそれで、しかたがない。時間の流れにはさからえない。


全体の位置関係

さて、ネーミングはともあれ、このプレーが神業であることに変わりはない。野球に詳しくない方もおられることだろうし、「なぜ、この世紀の神業スライディングが生まれたのか?」について少し補足しておきたい。

ヤンキースがボルチモアでオリオールズと対戦した2012 ALDS Game 2の1回表、2死1塁で、走者はイチロー。ここで、4番ロビンソン・カノーが、ライト線にツーベースを打った。

フェアとわかったイチローは、セカンドベースを蹴り、サードに全力疾走してくる。

ここで、ヤンキースのサードコーチャーが、腕をぐるぐると回して、イチローに「ホーム突入」を指示した。これが、神業スライディングが生まれた直接の発端だ。


写真を見てもらいたい。

2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 位置解説

イチローは、図中Bの位置。イチローは、ロビンソン・カノーが打ったライト線のライナーが、フェア、そして長打になるのを確認しつつ、ファーストからセカンドに全力疾走し、さらにはセカンドを蹴ってサードに向かっている。
この段階までの判断は、ランナーのイチロー自身が行う。というのは、セカンドに向かう間、ランナーのイチローからライト線の打球が見えるからだ。セカンドを蹴る前ならば、「ライト線に飛んだライナーがヒットになるかどうか」、さらには「長打になるかどうか」について、ランナーは自分自身で判断できる。

だが、イチローが、セカンドを蹴ってサードに向かった後は、「情報収集」と「判断」の手法はまったく変わる。

このケース、もし打球がフェアなら、明らかに長打になる。だから1塁ランナーがサードまで進塁することには、何の問題もない。問題は、「サードを蹴って、ホームに突入すべきか、どうか」だ。
足の速いイチローが、選択肢1)サードで止まるか、それとも、選択肢2)ホームにまで突入するかは、打球が速いだけに、外野手の肩の強さよりも、図中Aの位置で打球処理を行っているボルチモアの右翼手クリス・デービスが、「どのくらい上手に打球処理できるか」で決まってくる。
もしクリス・デービスの処理がモタついた場合は、イチローは生還できるが、打球が速いライナーであるだけに、打球処理がスムーズなら、いくら俊足のイチローでもホーム突入にはかなりのリスクが生じる。

問題は、右翼手デービスのプレーは「ランナーからみて背中方向」であるために、イチローにはまったく見えないことだ。
だから、サードに向かって疾走するイチローが、スピードを落としてサードに止まるのか、または、スピードを維持したままサードも蹴ってホーム突入を敢行するのか、という判断は、ランナーであるイチロー自身が行うのではなく、図の中のCの位置からクリス・デービスのプレーを注視している「サードコーチャーの指示」によってのみ決まる

このケース、サードコーチャーは、写真で見ればわかる通り、腕を大きく回して、「ホーム突入を指示」している。


だが、足の速いイチローがホームプレート付近に到達するより数メートルも手前で、ボールがボルチモアのキャッチャー、マット・ウィータースのミットに返球されていることから明らかなように、この「サードコーチャーのホーム突入指示」は、「明らかなミス」、ボーンヘッドなのだ。
この判断のミスの程度は、あまりにも酷い。普通ならクロスプレーにすらならない。

だが、イチローは、ホームプレートの手前であえてスピードを落とすことで、キャッチャー、マット・ウィータースのタグ、日本語でいえば「タッチ」を、2度までもかいくぐってみせた。

まさに神業

そしてこれは他のプレーヤーの凡ミスを取り返してみせるプレーでもある。これ以上の「チームプレー」はありえない。


1回目のエスケープ

2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』1回目のタグ


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』1回目のタグ(2)



2回目のエスケープ
動画をコマ送りして見てみればわかるが、イチローは、ボルチモアのキャッチャー、マット・ウィータースのミットを、すんでのところで紙一重かわしている。

2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(1)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(2)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(6)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(3)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(4)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(5)



three-foot rule

なお、こうしたベース周辺でのプレーに関して、いわゆる「3フィートルール」は適用されない。

野球のランナーの「走路」は通常、塁と塁を結んだ直線の左右両側に3フィートずつ、合計6フィート分の幅であり、ランナーが野手のタッチを避けるために「走路」を越えて走る、つまり、オーバーランすることはできない。
だが、「3フィートルール」は塁間での走塁に適用されるルールであり、「各塁と本塁ベース周辺では、この3フィートルールは適用にならない」。この点については、平林岳氏の指摘を待つまでもなく、聡明な野球ファン数名がプレー直後から既に指摘していた。


ああ。言い忘れたが、
ブログ主は、映画『マトリクス』の熱狂的なファンだ。当然、DVDは全て持っているし、キアヌ・リーヴスが手のひらをクイクイっとやるモノマネだって、できる(笑)
ちなみにキアヌ・リーヴスは、イチローがMLBデビューした2001年に、リトルリーグを舞台にした野球映画 "Hardball" に出演している。
このブログの『Marrix』に関する記事
Damejima's HARDBALL:2012年6月11日、「見えない敵と戦う」のが当り前の、ネット社会。

Matrix image


October 08, 2012

自分にとって大事な「ひらめき」だから、忘れないうちに急いでイメージを残しておきたい。

具体的には、以下のツイートをしたときに「見えていたビジョン」を、この10月のジョシュ・ハミルトンミゲル・カブレラのバッティング内容の差異によって裏付けつつ、より鮮明な形にして残しておきたいのだ。まぁ、「イメージの冷凍保存」みたいなものだ。
(けしてハミルトンが凡庸なバッターだとは言わないが、天才だとは思わない。ともあれ、三冠王カブレラよりは確実に平凡だから(笑)、悪いけれど比較対象にさせてもらうことにする)

平凡と非凡を分けるのは、「ホームランの数の差」ではない。
打った3割の中身ではなく、打たなかった7割に差異がある。







「苦手な球にでも手を出してしまうバッター」としての
ジョシュ・ハミルトン

サンプル/2012年10月5日 ワイルドカード BAL×TEX


ジョシュ・ハミルトンが、「アウトコース低め」、もっと正確にいうと、「アウトコース低めで横方向に大きくスライドする球」、もっともっと具体的にいうと、「特に左投手のアウトコース低めのカーブ」を、まるで打てない」ことを「発見」したのが、一体いつのことだったか、まったく覚えていない。
まぁ、馬鹿のひとつ覚えで毎日のように野球ばかり観ていると、誰に教えられるわけでもなく自然とわかってくることが山のように沢山あるわけで、これもそうした「自然にわかること」のひとつ、とは思う。

「発見」などと、あえて自賛するのはなぜかというと、不思議なことに、一般的なレベルの野球データサイトがネット上で公開している「ジョシュ・ハミルトンのホットゾーン」(=打者ごとのコース別の得意不得意を図示したグラフ) には、「ハミルトンがアウトコース低めを苦手にしている」 というデータが出てこないからである。

2012年10月5日 ワイルドカード ハミルトン第1打席2012年10月5日
ワイルドカード BAL×TEX
ハミルトン第1打席

アウトコース低め
カーブ
セカンドゴロ
ダブルプレー


2012年10月5日 ワイルドカード ハミルトン第2打席2012年10月5日
ワイルドカード BAL×TEX
ハミルトン第2打席

アウトコース低め
2シーム
3球三振


2012年10月5日 ワイルドカード ハミルトン第3打席2012年10月5日
ワイルドカード BAL×TEX
ハミルトン第3打席

真ん中
カーブ
ピッチャーゴロ

これはたぶん「アウトコース低めを狙ったカーブ」がコントロールミスで真ん中に入ったのだと思う



3つの異なるサイトにみる
ジョシュ・ハミルトンのHot Zone


注意(必読)
以下に挙げた3つのサイトのデータは、最初の2つと、3番目とでは、視点が異なる
最初の2つは、「アンパイアから投手を見る方向」でデータが書かれている。したがって、「右がファースト側、左がサード側」になる。
それに対して3番目のデータは、投手からホームプレート側を見る視点でデータが描画されている。そのため、1番目、2番目とはデータが左右異なっており、「右がサード側、左がファースト側」になる。


FOX Sports

FOXのサイトにおけるジョシュ・ハミルトンのホットゾーン
データ出典:Josh Hamilton Hot Zone | Texas Rangers | Player Hot Zone | MLB Baseball | FOX Sports on MSN

このサイトによると、ハミルトンの苦手コースは「アウトコース高め」と「インコース低め」ということになる。先走って言うと、この判定結果は、ブログ主がハミルトンのゲームを見てきた経験値とは異なる。

加えて、このデータには致命的といえる欠点がある。
それは、「ボールゾーンの打率が表示されていない」ことだ。だから例えば、ハミルトンが特定のコースのボール球を、どれだけ空振り三振したり、凡退を繰り返しているか、FOXのデータからは何も判断できないのである。

バッターというものは、ストライクゾーンの球ばかり振って凡退しているわけではないのだから、ボールゾーンの打撃傾向もわからないと、そのバッターの本当の得意不得意は、わかりっこない。

参考記事:Sports Analytics and Application Development - Latest MLB Analytics News for TruMedia - ESPN: Josh Hamilton's Hot Zone


Gmaeday

Gamedayにおけるジョシュ・ハミルトンのホットゾーン
データ出典:Baltimore Orioles at Texas Rangers - October 5, 2012 | MLB.com Gameday

MLB公式サイトが運営する優れたネット上のファンサービスのひとつ、Gamedayには、日本のMLB愛好者の大半がお世話になっているわけだが、全てのバッターのホットゾーンを表示する機能が備わっている。
それによると、ハミルトンの「ストライクゾーン内」の苦手コースは、「アウトコース高め」と「インコースのハーフハイト」となっている。
ブログ主は、経験上、ハミルトンが最もホームランを打てる得意コースは「インコースの、ハーフハイトから高めにかけてのゾーンに限られる」と確信しているので、Gamedayが示すハミルトンのホットゾーンを必ずしも信用しない。
ただ、Gamedayのホットゾーンを評価したい点がある。それは、「ボールゾーンの打撃傾向が示されている」ことだ。この機能はFOXのホットゾーンには無い。
Gamedayのボールゾーンにおけるホットゾーンには、「ハミルトンが、アウトコース系のボール球で繰り返し凡退していること」が、弱い形ではあるが、示されている。
これはブログ主の経験値と合致するので、少しは信用できる。


Baseball Analystic

Baseball Analysticによるハミルトンのホットゾーンハミルトンの得意コースが「インコース」であることは明らか

データ出典Home Run Recap: Josh Hamilton - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

5人の寄稿者で運営しているらしい、このサイトは、イチローに関する記事を検索していて偶然に記事をみつけて読み、内容のレベルの高さに感心させられたことが何度かある。
ここのホットゾーンデータは、文字通り一級品、いや、最高級品だと思う。
(ブログ注:このサイトのホットゾーンデータが、果たしてサイトオリジナルなのか、それとも、野球シンクタンクかどこかの元データを引用しているのか、今のところわからない。同じデザインのホットゾーンがESPNでも大量に引用されているのだが、出典が記載されていない。ESPNのデータである可能性もある)

なにより、ここのホットゾーンを信頼するのは、「ハミルトンは、アウトコース低めを打てない」という、ブログ主の経験値と完全に一致するからだ。

また、このサイトは、その程度の「気づき」をはるかに越えた鋭い判断力に裏打ちされた分析記事にも溢れている。
さきほど、この記事を書くために、このブログ内を検索していて気づいたのだが、このサイトは2011年3月20日付で、「ジョシュ・ハミルトンの三振のさせ方」なる記事まで既に掲載し、「ハミルトンを三振させるなら、アウトコースのスライダーかカーブ」とハッキリ明言している。
この判断スピードの速さには、ハミルトンがアウトコースにウィークポイントがあることに今年になってやっと気づいたブログ主程度では、到底追いつけない。
How to strike out Josh Hamilton - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
さらにこのサイトがちょっと信じられないほど素晴らしいのは、2011年8月13日付で、ハミルトンが「MLBでオフ・スピードの球を打つのが上手い3本指のバッターに入る」ことも記事にしていることだ。
つまり、この分析専門ブログのライターは、「ハミルトンが、スライダーのようなオフ・スピードの球を打つことについて、MLBで3本指に入る優れたバッターである」ことをデータ上できちんと把握した上で、それでも、「アウトコース一杯のスライダー(あるいはカーブ)なら、ハミルトンから確実に三振がとれる」と断言しているわけだ。
この判断力は凄い。観察眼の鋭さに加えて、よほどの決断力がなければ、到底こんなことをパブリックな場所に書くことはできない。脱帽するほかない。
Best Offspeed Hitters - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics


何事につけても自己中心的(笑)なブログ主は、自分の判断に合致するBaseball Analysticの分析とホットゾーンを信頼することにする。


FoxやGamedayなど、大衆的な野球データサイトが公開しているハミルトンの「ホットゾーン」では、「ハミルトンがアウトコース低めの変化球を苦手にしている」というデータが出てこないのには、どんな原因が考えられるだろう? 可能性をいくつか挙げてみた。

1)データのアップデートが頻繁に行われていないために、データが古い
2)ストライクゾーンのデータのみを収集し、「ボール球を振って凡退した」というデータが積極的に収集されていない。そのため、結果的に、「ストライクゾーンにおける打率」が、高めに表示されてしまう
3)ストライクゾーンを分割するマトリクスが大きすぎる。そのため、データの精度が低い
4)データ収集期間が長すぎる(または短すぎる)ため、データにリアリティが無い
5)左投手、右投手との対戦を区別してデータ収集されていないために、左右の投手別の打撃傾向がハッキリ把握できない。例えば「右投手の投げるアウトコースのカーブは得意でも、左投手の投げるアウトコースのカーブはまるで打てない」場合、単純なホットゾーンデータからはそうした事実を読み取ることができない

データが不正確になるいくつかの可能性を考えてはみたものの、アップデートの頻度、マトリクスの大きさ、データ収集期間の長さ、どれをとっても、FOXやGamedayのホットゾーンが正確さに欠けていることの言い訳にできるとは思わない。
いくら予算不足などの現実的な理由から、十分な頻度でアップデートできないとか、マトリクスを十分に細分化できないとか、データ収集に制約が生じているとしても、それを理由に「ホットゾーンデータが間違っても、しかたがない」とは、ブログ主は全く思わない。(たぶん、もっと他の根本的かつ幼稚な原因があるに違いない)

間違ったデータの提供は、いろいろな意味でファンの楽しみを損なう行為だということを、データサイトは十分に認識しつつサービスを提供すべきだと思う。

ちなみに、「左投手と右投手でホットゾーンを区別して評価すること」については、打者の傾向分析として重要な意味があると思うし、そういう現実的で有用なデータが無料で情報としてファンに提供されるなら、ファンサービスとして理想的な形だとは思う。
だが、労力として、一般的なデータサイトにはおそらく負担がかかりすぎるだろう。また、左投手と右投手のデータを混ぜたことが、不正確なホットゾーンが提供されてしまっていることへの言い訳にできるわけではない。

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話がいつのまにか「どこのサイトのホットゾーンが最も信用できるか」に流れてしまっているが、ご容赦願いたい(笑)

なぜこんな確認作業に手間をかけるか、といえば、どこのサイトのホットゾーンデータが「本当に信用できるのか」を、あらかじめ限定しておかないと、話が前に進まないからだ。

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「苦手な球に手を出さず、四球を選べるバッター」
三冠王 ミゲル・カブレラ


サンプル/2012年10月6日 ALDS
オークランド対デトロイト Game 1
打者:ミゲル・カブレラ 第2打席
投手:ジャロッド・パーカー

パーカーは、三冠王カブレラの数少ない苦手コースのひとつである「インハイ」を、果敢かつ徹底的に攻めたが、カブレラはまったく応じず、1球もスイングしなかった。
そこで、インハイ攻めで根負けしたパーカーは、カウント3-1の5球目、「インハイ」以上にカブレラの苦手コースである「アウトロー」に、ボールになるスライダーを投げてスイングさせようとしたのだが、ここでまたもやカブレラに見切られてしまい、結局、四球で歩かせることになってしまう。
Oakland Athletics at Detroit Tigers - October 6, 2012 | MLB.com Gameday

2012年10月6日 ALDS Game1 OAKvsDET カブレラ第2打席 

「インハイ」と「アウトロー」が、カブレラの苦手コースであることの真偽は、いまのところ最も信頼できるホットゾーンデータを提供していると思われるBaseball Analysticの、以下のデータで確認してもらいたい。(上に挙げたGamedayデータとでは、左右が逆になっていることに注意)
Pitching to Cabrera - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

ミゲル・カブレラ ホットゾーン


オークランド先発パーカーが、カブレラの苦手なインハイをきわどい球で攻めることは、まったく間違っていないし、逃げでもない。
それどころか、Baseball AnalysticPitching to Cabreraという記事で書いているように、ミゲル・カブレラへのインハイ攻めは、非常に積極的な「三冠王カブレラへの挑戦」なのだ。(オークランドのミゲル・カブレラに対するスカウティングの正確さは、2012レギュラーシーズン終盤にテキサスを冷静に分析することで、ハミルトンをはじめ、強打のテキサス打線を完全に封じ込めた彼らの分析力の高さを示してもいる)


だが、これだけ弱点を突かれても、
それでもカブレラは四球を選べてしまう。

それは、なぜか?

テキサスのジョシュ・ハミルトンが「苦手なはずのアウトローのカーブにさえ手を出して、空振り三振や併殺打に倒れてしまう」のと対称的に、ミゲル・カブレラが「苦手なインハイ」も、「苦手なアウトロー」も、まったく無駄なスイングをしない、からである。

このことが、最初に挙げた2つのツイートの意味だ。
あらためて、自分のためだけの金言として、もう一度まとめなおして書いておこう。


たとえ三冠王ミゲル・カブレラであろうと「苦手な球種や、苦手なコース」が存在するように、天才にも「苦手な球種や、苦手なコース」は存在する。

いいかえると

「苦手な球種やコースが存在すること」 は、
「平凡なバッターの証し」ではない。


平凡なバッターが「平凡」なのは
「苦手な球種やコースなのに、手を出してしまう」
からだ。

「苦手な球であるにもかかわらず、手を出して凡退してしまうのが、平凡なバッター」だとしたら、三冠王カブレラが本当の意味で優れたバッターなのは、彼が、「苦手な球を、振らずに済ますことのできるクレバーなバッター」だからである。


October 05, 2012

いまだにハンバーガーという食い物を、「食事」ではなく、「おやつ」だと思って食べる人も、いるとは思う。


ちょっと考えてみてもらいたいが
「食事だと思ってハンバーガーを食えること」は、「アメリカ」らしいか?

答え。
それはそうだ。
だが、「まずいハンバーガーを食いながら、酷い悪態をつけること」のほうがよほどアメリカらしいし、さらに大事なことは、ハンバーガー以外でもっと「アメリカ」らしいことが他にあることは明らかだ、ということだ。ハンバーガーは根源ではない。


では、「肌の色」は「アメリカらしさ」か?
答え。「まったくそう思わない」。

「野球」は?
"Absolutely YES!" 非常に「アメリカ」らしい。

「肌の色が違うこと」と「野球」とでは、
どちらが「アメリカ」か?
いうまでもない。「野球」のほうが、はるかに「アメリカ」だ。バットの芯と同じ。アメリカの芯により近いのは、肌の色ではなく、「野球」だ。


さらに聞こう。
「野球よりも、アメリカらしいこと」は何だ?

野球よりほかに興味を引かれないからかもしれないが、
思いつかない。


じゃあ、「ハンバーガー」と「野球」とでは、どちらが「アメリカ」だ?
答えは簡単だ。ハンバーガー食いながら野球を観ればいい。それだけだ。何の問題もない。

両立できることなのに、それらをあえて分割する思考は無意味だ。同じように、「肌の色」と「野球」は両立できる。それだけで十分だ。



非常に長い時間をかけて考えた。
少なくとも言えるのは、「野球」は「アメリカらしさ」そのものだが、「肌の色」は「アメリカらしさ」そのものではない、ということだ。

差別がよくないことだから、道徳的な観点で言っているのではない。

数字に「素数」というものがあるように、「アメリカ」を無限の数列におきかえたとき、「野球」は、これ以上分割することのできない「アメリカの素数」なのだ。素数である野球を分割して考えても、そこに意味など、生まれない。


いま野球は大事か?
YESだ。

なぜって、「らしさ」とは、「日本らしさ」がそうであるように、「大切な何か」だからだ。


自分は安いハンバーガーで食事を済ますこともある「どこにでもいる野球好き」のひとりだが、「自分がこれ以上分割しようがないほど日本人らしいこと」に高すぎるほどの誇りを持っている。
これからも、日本人の素数のひとりとして、常識にとらわれて誰も語らない「素数としての野球」を、言葉に置き換えて語っていくつもりだ。

(このシリーズ、まだ続く)


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