August 2013
August 31, 2013
Baltimore Orioles at New York Yankees - August 30, 2013 | MLB.com Classic
動画:Video: BAL@NYY: Ichiro tattoos a two-run shot to right field | MLB.com
今日のホームランをリアルタイムで見ることができなかった不幸な野球ファンは、まずは、上の動画を見て、ヤンキースファンの歓声の大きさを耳にすべきだ。4000安打もファンとチームメイトの喝采を受けたわけだが、プレーの価値を決めるのは、ホームランでいうところの本数でも飛距離でもない。「歓声の大きさ」だ。
王貞治氏のファンであるにしても、それでも、ホームランだけが凄いなんて思ったことは、一度もない。どういう経過でとろうと、1点は1点だ。魚を獲って稼いだ1万円も、夜中に道路を掘り返して稼いだ1万円も、デイトレで画面眺めて稼いだ1万円も、かわりない。
今日のイチローの逆転2ランに価値があると思うのは、それがホームランだからではない。スタンドにいる何万という数のヤンキースファンの大半が思わず両コブシを突き上げてしまうような、そういうプレーだったからだ。いざとなったら、打球の飛距離も弾道も、そんなもの、関係ない。それが野球における「9月」という特別な季節だ。
ファンが思わず拳を握りしめるプレーが生まれる場所は、スタンドにボールが消えていく瞬間だけとは限らない。投手の糸を引く豪球、目を疑うようなミラクルな守備、信じられない神走塁。どれでもかまわない。
去年9月にも、こういうホームランが、イチローに、そしてラウル・イバニェスに生まれ、そうしたプレーが、ボルチモアの追い上げで手の内からこぼれかかった地区優勝を再びたぐり寄せた。
資料:Damejima's HARDBALL:2012イチロー・ミラクル・セプテンバー全記録
スタンドの野球好きのファンは、今日のホームランの意味をよく知っている。
このホームランが価値があるのは、直前の負け越してはいけなかったトロントとのシリーズで、不甲斐ない負けを喫してしまったヤンキースが、いまポストシーズン争いをしている直接のライバル、ボルチモアに逆転を許してしまい、スタンドが冷えかかった、その直後のイニングに生まれた逆転ホームランであり、「イヤな流れ」を一瞬で断ち切って勝利を引き寄せ、ポストシーズン進出への希望を繋ぐ、そういう「一撃」だからだ。
ヤンキースのポストシーズン進出にいま必要なのは、人並み程度にはホームランが打てるようになった「勝率5割ちょいの、平均的な、昔どおりのヤンキース」ではない。
ハッキリ言わせてもらって、ヤンキースが3ゲームのシリーズで、3試合に1度くらいの確率で起こるホームラン攻勢で勝ったとしても、残りの2試合を守備の凡ミスと貧打と先発投手のミスで負けて、結局、勝率5割ちょっとをウロウロしたとしても、面白くもクソもない。
結局のところ、そんな勝率ではポストシーズン進出は果たせないし、ポストシーズンに進出できないほど弱体化したヤンキースなら、キャリアに限りのあるイチローが在籍する意味もない。
結局のところ、イチローが「熱く」ならないと、2012年9月ミラクル・セプテンバーの再現はできないと思うし、ヤンキースが本当の意味で熱くならないと思うのである。去年も書いたことだが、イチローのニックネームが "Wizard" なのは、ダテではない。
彼、イチローが "Wizard" と呼ばれるのは、NBAの名選手のひとりで、非常に優れたプレーメーカーとして知られ、今年 ブルックリン・ネッツのヘッドコーチに就任したジェイソン・キッドがかつて指摘したように、イチローに「ゲーム支配能力」があるからだ。
Damejima's HARDBALL:2011年6月12日、NBAで初優勝したダラス・マーヴェリックスのジェイソン・キッドが言う『イチローの支配力』という言葉の面白さ。「ランナーとして1塁に立つだけで、ゲームを支配できる」、そういうプレーヤー。
「好調な打者を、いじくり倒しては、冷やしてばかりいるジョー・ジラルディ」の目に、今日のホームランがどう映ったのか知らないが、イチローにまかせるべき仕事は、無能なエリック・ウェッジとシアトル・マリナーズがやったような、「イチローに3番という打順と打点を強制する」ような不合理かつ悪質な行為ではなく、イチローを、彼本来の「魔法」を使える「位置」に置くこと、つまり、「ゲームの流れを支配するタクトを振らせること」だ。
その「ゲームを支配する」という「魔法」は、なにもホームランでなくて構わない。守備での目を見張るファインプレー、相手チームを浮足立たせる攻撃的な走塁、相手を惑わせるトリックプレー、なんでもいいのだ。(例えば今日のイチローの2本目のヒットで、ファーストランナー、マーク・レイノルズがサードまで行こうとした(タッチアウト)が、走塁のいいボルチモアへの対抗心が生まれたのは、イチローの逆転2ランの生んだ「これで、いける」という雰囲気による一種の「触発」という魔法だ)
打ったのは、初球の4シーム。イチローのホームランが、往々にして「初球のストレートをフルスイングすること」から生まれることは、イチローファンにとっては「常識」。
August 22, 2013
ゲーム後のフィールド内でのインタビュー:Video: TOR@NYY: Ichiro talks about getting 4,000th hit | MLB.com
チームメイトへのインタビュー:Video: TOR@NYY: Yanks discuss Ichiro's 4,000th hit milestone | MLB.com
3球目
ナックルボール
投手:R.A.Dickey
Toronto Blue Jays at New York Yankees - August 21, 2013 | MLB.com Classic
イチローは、2013年8月21日ヤンキースタジアムで行われたトロント・ブルージェイズ戦の第1打席で、2012年サイ・ヤング賞投手、R.A.ディッキーの投じた3球目ナックルボールをレフト前にヒットを放ち、MLB通算安打数を2722本とし、ルー・ゲーリッグのキャリア通算安打数を越えると同時に、日米通算4000安打を達成した。
(記事の最初にある2つの動画は、1番目がヒットの場面のみ、2番目がイチローのキャリア全体をレビューしたもの)
イチローのユニホームが殿堂へ=日米4000安打で―米大リーグ (時事通信) - Yahoo!ニュース
4000安打達成により、次の超えるべきハードルは、いよいよあと278本に迫ったMLB通算3000安打、となるが、これもまたマイルストーンのひとつに過ぎない。
(5000安打の可能性に関して聞かれたイチロー)
「年齢に対する偏った見方がなければ、
可能性はゼロではない」
MLB hits ages 27-39: Ichiro 2,722. Pete Rose 2,658. Ty Cobb 2,300. Derek Jeter 2,300. Stan Musial 2,229. Hank Aaron 2,200.
— Buster Olney (@Buster_ESPN) August 21, 2013
For those saying Ichiro's hit total is empty, some more from his MLB career: 10 Gold Gloves; top 10 in AL WAR 7 times; 1,252 runs; 470 SB.
— Buster Olney (@Buster_ESPN) August 22, 2013
MLB公式サイト・ヤンキース公式サイト
Ichiro Suzuki joins select group with 4,000th hit | MLB.com: News
ESPN
Ichiro Suzuki to reach remarkable 4,000-hit milestone - ESPN
Ichiro Suzuki of New York Yankees gets 4,000th professional hit - ESPN New York
Ichiro joins the 4,000 hit club - Stats & Info Blog - ESPN
SI.com
Watch: Ichiro collects his 4,000th hit | The Strike Zone - SI.com
FOX Sports
Ich-i-ro! Ich-i-ro! | FOX Sports on MSN
YES Network
Ichiro 4K: Suzuki reflects on his mixed milestone
Joe Posnanski
Joe Blogs: Ichiro and Moon and Amazing Stories
New York Times
Suzuki Reaches 4,000 Hits as Yankees Gain in Playoff Race - NYTimes.com
USA Today
Ichiro Suzuki gets 4,000th hit between MLB and Japan
Washington Times
Ichiro Suzuki gets 4,000th career hit between MLB and Japan - Washington Times
Bloomberg
Yankees’ Ichiro Suzuki Joins Rose, Cobb With 4,000th Career Hit - Bloomberg
Guardian
After 4,000 hits in the US and Japan, Ichiro Suzuki is a star in his own right | David Lengel | Sport | theguardian.com
New York Daily News
Ichiro Suzuki reaches 4,000-hit milestone as Alfonso Soriano slugs Yankees to win over Blue Jays - NY Daily News
New York Post
Ichiro reaches 4,000; Soriano blast lifts Yankees to victory - NYPOST.com
Newsday
Ichiro Suzuki gets 4,000th combined career hit in Yanks' win
CBS Sports
Eye On Baseball - CBSSports.com WATCH: Ichiro collects 4,000th hit
SportingNews
Ichiro Suzuki notches 4,000th career hit in first at-bat vs. Blue Jays - MLB - Sporting News
Yahoo CANADA
Mr. 4,000: Ichiro reaches career milestone with classic base hit | Big League Stew - Yahoo! Sports
Tront Star
Ichiro Suzuki joins 4,000-hit club as Yankees down Blue Jays: Griffin | Toronto Star
Chicago Tribune
Ichiro Suzuki 4000 hits - chicagotribune.com
Bleacer Report
Yankees' Ichiro Suzuki Records 4,000th Hit in Pro Career | Bleacher Report
Comparing Ichiro Suzuki to MLB's All-Time Hit Leaders | Bleacher Report
How Many Hits Would Ichiro Have Had If His Entire Career Were in MLB? | Bleacher Report
「もしイチローがMLBでデビューしていても、スタン・ミュージアルのヒット数を越えていただろう」という記事。ただし、この記事、NPBとMLBの試合数の差を考慮にいれてない。
SB Nation
Ichiro records hit No. 4,000 in Japan and U.S. - SBNation.com
Business Insider
CHART: Why Ichiro's 4,000 Hits Compare Very Well With Pete Rose And Ty Cobb - Business Insider
NPBとMLBの試合数の差が考慮されたこの記事では、イチローの4000本は十二分にタイ・カッブ、ピート・ローズの記録と比較しうる、という結論が出されている。
ドミニカの記事
Panorama Diario: Liga Americana: Ichiro Suzuki arriba a 4,000 hits entre GL y Jap���n
スペイン語の記事
Ichiro lleg��� a cuatro mil jits | Cubadebate
Yankees derrotan a Toronto en noche hist���rica (Video) - eldiariony.com
El samur���i de las 4 mil muertes
August 20, 2013
北海道で第1回全日本車椅子ソフトボール選手権大会が行われた。
「野球も車椅子ソフトボールも同じで、予測することが勝敗を決める。うちの守りは、ピッチャーが投げる前から守備位置を移動できていた」
Major League Baseball Teams of the National Wheelchair Softball Association
「野球も車椅子ソフトボールも同じで、予測することが勝敗を決める。うちの守りは、ピッチャーが投げる前から守備位置を移動できていた」
Major League Baseball Teams of the National Wheelchair Softball Association
damejima at 17:27
August 15, 2013
デビュー後13シーズンにおける
MLB通算出場試合数ランキング
data generated via Batting Split Finder - Baseball-Reference.com
2013年8月14日エンゼルス第3戦で先発出場予定のイチローは、「デビュー13シーズンでのMLB通算2023試合出場」を達成する。
これは、「デビュー後13シーズンにおける出場試合数」において、これまで長らく1位だったピート・ローズが1975年に達成した「2022試合」を、38年ぶりに塗り替え、MLB歴代1位を達成したもの。
この記録は、言うまでもなく、イチローのこれまでのキャリアが安定し、怪我のない健康なキャリアだったかを示している。(もちろん、ドーピングによる長期の出場停止などもありえない)
ちなみに、今年7月14日のミネソタ戦で、1番センターで出場して達成した「デビュー後13シーズンでのMLB通算2000試合出場」は、MLB史上、イチローとピート・ローズの2人しか達成していない記録である。
Damejima's HARDBALL:2013年7月14日、イチロー・スーパーカウントダウン(8) イチロー、MLB通算2000試合出場達成! MLB史上ピート・ローズだけしか達成していなかった「デビュー後13シーズンでの2000試合出場」の2人目の達成者となる
MLB通算出場試合数ランキング
data generated via Batting Split Finder - Baseball-Reference.com
2013年8月14日エンゼルス第3戦で先発出場予定のイチローは、「デビュー13シーズンでのMLB通算2023試合出場」を達成する。
これは、「デビュー後13シーズンにおける出場試合数」において、これまで長らく1位だったピート・ローズが1975年に達成した「2022試合」を、38年ぶりに塗り替え、MLB歴代1位を達成したもの。
この記録は、言うまでもなく、イチローのこれまでのキャリアが安定し、怪我のない健康なキャリアだったかを示している。(もちろん、ドーピングによる長期の出場停止などもありえない)
ちなみに、今年7月14日のミネソタ戦で、1番センターで出場して達成した「デビュー後13シーズンでのMLB通算2000試合出場」は、MLB史上、イチローとピート・ローズの2人しか達成していない記録である。
Damejima's HARDBALL:2013年7月14日、イチロー・スーパーカウントダウン(8) イチロー、MLB通算2000試合出場達成! MLB史上ピート・ローズだけしか達成していなかった「デビュー後13シーズンでの2000試合出場」の2人目の達成者となる
August 14, 2013
today's project: securing tickets for @ichimeterlady as she travels to NY from SEA to track Ichiro's 4k Hit. #FansHelpingFans
— vinny milano (@baldvinny) August 13, 2013
日米通算4000本まであと「6本」と迫ったイチローだが、日本で「イチメーターさん」として知られているAmy Franzさんが、イチローの日米通算4000本安打達成を東海岸で応援しようと、ニューヨークにかけつけるにあたって、どうもチケット入手に手こずっているらしいことはツイートを垣間見てわかっていたのだが、どうやら、ヤンキースタジアムの外野席からゲーム開始時にBleacher CreaturesのRoll Callをやっている"Bald" Vinnyこと、Vinny Milanoさんが、彼女のヘルプをかってでて、チケット入手に奔走しているらしい。
漢気ですな。
鳥肌たったわ。
Born Awesome, you. @baldvinny #FansHelpingFans
Bald Vinny インタビュー:Talking Baseball With Die-Hard Yankee Fan & Bleacher Creature Bald Vinny | Bleacher Report
エイミーさんがいつニューヨークで観戦する予定なのかは知らないけども、ヤンキースのスケジュールは、エンゼルス4連戦はホーム、その後のボストン3連戦はビジター、そのあとのトロント4連戦はホーム。
シアトル時代のイチローはけっこう色んな記録をビジターで達成してた気もするけども(苦笑)、できればここはひとつ、ヤンキースタジアムでの記録達成でファンに気持ちよくオベーションされてほしいものだ(笑)
もちろん、イチローは今はシアトルではなくヤンキースのプレーヤーなのだから、エイミーさんとの交流よりも、まず第一義としては、ヤンキースファン全体と、ヤンキースのために日頃からいろいろと世話を焼いてくれているBleacher Creaturesとその団長である "Bald" Vinny への感謝を忘れずにパフォーマンスしてくれたら、それこそclassy、最高だと思う。(もちろん彼は義理堅い男なのだし、そんなことを外から言うまでもないが)
なにせ、カウベルがトレードマークだったBleacher Creature創立者Ali Ramirez(左の写真)の代からヤンキースを見守ってきたBleacher Creaturesとの関係を深めるいい機会なのだ。これを逃がす手はない。
イチローの先日のグリフィーへのビデオレターは非常に多くのMLBファンから広く賞賛を集めた。プレーヤーは、成績を積み重ねたら、あとはclassyでタイムリーな行為を積み重ねることで、ひとつひとつレジェンドへの階段を上がっていくべきだ、と思う。また、そうした振る舞いは、ひとつの「古き良きヤンキースらしさ」でもある。
ヤンキース移籍後、ヤンキースタジアムで初めて受けた「ロールコール」に脱帽して応えるイチロー。(2012年7月27日ボストン戦 8番ライト 4打数1安打2得点)
""bleacher"
元の意味では、左のイラストのごとく単なる「外野席」という意味だ。だが、こと「ヤンキースタジアムの外野席」でいう "Bleacher Creature" は、直訳すると「外野席の生物」、もっと正確に書く「ヤンキースの試合を価格の安い外野席からしか観戦できないような階層の人たち」という社会のクラスターを示す意味が含まれており、話は単純にはいかない。
MLBにおいて「外野席」が「どういった経緯で誕生した」かという経緯は、以下の記事に既に書いたことでもあるが、とても短くまとめられる話ではない。
2014年3月29日、『父親とベースボール』 (11)「外野席の発明」 〜20世紀初頭の「新参の白人移民の急増」と「ホームラン賞賛時代」の始まり。 | Damejima's HARDBALL
「外野席の誕生」は、移民の国アメリカの歴史の構造そのものにまつわる話でもあり、少なくとも、ヤンキースタジアムの "Bleacher Creature" は、そうした「約100年前のボールパークで起きたこと」を現代に引き継いでいるのである。
August 13, 2013
MLBのアンパイアの「ストライクゾーンにまつわる判定の是非」を後から議論するにあたっては、必ず理解していなくてはならないことが、いくつかある。
何度も書いてきたことだが、MLBのストライクゾーンは、「ルールブック上のストライクゾーン」ではなく、不文律としての「MLBにおける基本的なストライクゾーン」があって、さらには、「右バッターと左バッター、それぞれに異なる慣例的ストライクゾーンがある」のだ。
そして、困ったことに、最終判定に決定的な影響を及ぼすのは、ルールブックでも、バッターの左右で異なるMLBの基本ゾーンでもなくて、「球審ごとに存在する個人差」、つまり、「その球審だけに特有のストライクゾーン」だ。(そして、さらにやっかいなことに、同じ球審でもゲームごとに判定傾向が異なることは往々にしてある)
ダルビッシュが登板し、ノーヒットノーランかと騒がれた今日のテキサス対ヒューストン戦の6回裏、ジョナサン・ヴィラーの打席の判定で、球審Ron Kulpaのボール判定を不服として抗議したキャッチャーのピアジンスキーが退場処分になったが、このRon Kulpaの判定を、「事後判定」してみることにする。
GameDay
Texas Rangers at Houston Astros - August 12, 2013 | MLB.com Classic
ピアジンスキーが問題にしたのは、4球目の「アウトコースのストレート」と、5球目の「真ん中低めのスライダー」だろう。2球続けて、きわどいコースではある。
これら2つの投球は、以下に挙げたPitch f/xデータで見る限り、「ボール」である。
その意味は2つある。「ルールブック上のストライクゾーンからみると、論議の余地の全くないボール」であり、また、「アウトコースが非常に広い、というMLBの慣例的な左バッターのストライクゾーンからみても、きわどいが、疑いなくボール」なのである。
BrooksBaseball Pitchf/x
BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool
6回裏 Jonattan Villarへの「4球目」
BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps
破線は、「MLBでの慣例的な左バッターのアウトコースのストライクゾーン」だが、4球目は、わずかにアウトコースに外れている。
とはいえ、MLBでのストライク判定を決めるのは、最後は球審の「個人差」だ。
もし、球審Ron Kulpaが「左バッターのアウトコースが通常では考えられないほど広い球審」であるなら、問題の4球目が「ストライク判定」になっていた可能性はある。だから彼のこれまでの判定傾向を確かめないと、何もいえない。
ちなみに、左バッターのアウトコースにあたる「レフト側」が広い球審、というと、過去のデータ上、Derryl Cousins、Tim Timmons、Laz Diaz、Ed Hickox、Bill Miller、Bill Werke、Lance Barksdale、Doug Eddingsなどがいる。ただ、今回問題になった「4球目」をストライク判定するほどレフト側が広い球審は、そのうちでも半分足らず、3人か4人しかいない。
このゲームで球審をつとめたRon Kulpaの判定傾向はどうかというと、彼の過去の判定傾向によると、彼のレフト側のゾーンは確かに「広め」ではあるが、かといって、問題の4球目をストライク判定するほど、広くはない。
また、この試合を通しての判定傾向は、左バッターのアウトコースを極端に広くとっていたわけではないし、また、6回裏のジョナサン・ヴィラーの打席に限って判定傾向が大きく変わった、とはいえない。
そして、彼はもともと判定の正確なアンパイアのひとりである。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2011年6月2日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(1)
球審Ron Kulpaの例年の判定傾向
(元資料:Hardball Times)
赤い線:「ルールブック上のストライクゾーン」
青い線:「Ron Kulpaの判定傾向」
ここまでの検証によって、今回の「Ron Kulpaの判定」に対する事後検定というか、二次的な判定は、「4球目」、「5球目」、いずれも、「ボール判定」でさしつかえない」、となる。ジョナサン・ヴィラーの4球目、5球目は、いずれも「ボール」だ。
ちなみに、スポーツにおける退場処分を専門に扱うユニークなサイト、Close Call Sportsがこの判定をどう判断したのか、確かめてみると、彼らはこのRon Kulpaの判定に関してcorrect、つまり、球審Ron Kulpaの判断が「正しい」と断定している。
Close Call Sportsによる判断
MLB Ejection 129: Ron Kulpa (1; AJ Pierzynski) | Close Call Sports and the Umpire Ejection Fantasy League
何度も書いてきたことだが、MLBのストライクゾーンは、「ルールブック上のストライクゾーン」ではなく、不文律としての「MLBにおける基本的なストライクゾーン」があって、さらには、「右バッターと左バッター、それぞれに異なる慣例的ストライクゾーンがある」のだ。
そして、困ったことに、最終判定に決定的な影響を及ぼすのは、ルールブックでも、バッターの左右で異なるMLBの基本ゾーンでもなくて、「球審ごとに存在する個人差」、つまり、「その球審だけに特有のストライクゾーン」だ。(そして、さらにやっかいなことに、同じ球審でもゲームごとに判定傾向が異なることは往々にしてある)
1)MLBにおける左打者、右打者それぞれの
基本的なストライクゾーン
2)その球審特有のストライクゾーンのパターン
3)その日だけのストライクゾーンの傾向
ダルビッシュが登板し、ノーヒットノーランかと騒がれた今日のテキサス対ヒューストン戦の6回裏、ジョナサン・ヴィラーの打席の判定で、球審Ron Kulpaのボール判定を不服として抗議したキャッチャーのピアジンスキーが退場処分になったが、このRon Kulpaの判定を、「事後判定」してみることにする。
GameDay
Texas Rangers at Houston Astros - August 12, 2013 | MLB.com Classic
ピアジンスキーが問題にしたのは、4球目の「アウトコースのストレート」と、5球目の「真ん中低めのスライダー」だろう。2球続けて、きわどいコースではある。
これら2つの投球は、以下に挙げたPitch f/xデータで見る限り、「ボール」である。
その意味は2つある。「ルールブック上のストライクゾーンからみると、論議の余地の全くないボール」であり、また、「アウトコースが非常に広い、というMLBの慣例的な左バッターのストライクゾーンからみても、きわどいが、疑いなくボール」なのである。
BrooksBaseball Pitchf/x
BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool
6回裏 Jonattan Villarへの「4球目」
BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps
破線は、「MLBでの慣例的な左バッターのアウトコースのストライクゾーン」だが、4球目は、わずかにアウトコースに外れている。
とはいえ、MLBでのストライク判定を決めるのは、最後は球審の「個人差」だ。
もし、球審Ron Kulpaが「左バッターのアウトコースが通常では考えられないほど広い球審」であるなら、問題の4球目が「ストライク判定」になっていた可能性はある。だから彼のこれまでの判定傾向を確かめないと、何もいえない。
ちなみに、左バッターのアウトコースにあたる「レフト側」が広い球審、というと、過去のデータ上、Derryl Cousins、Tim Timmons、Laz Diaz、Ed Hickox、Bill Miller、Bill Werke、Lance Barksdale、Doug Eddingsなどがいる。ただ、今回問題になった「4球目」をストライク判定するほどレフト側が広い球審は、そのうちでも半分足らず、3人か4人しかいない。
このゲームで球審をつとめたRon Kulpaの判定傾向はどうかというと、彼の過去の判定傾向によると、彼のレフト側のゾーンは確かに「広め」ではあるが、かといって、問題の4球目をストライク判定するほど、広くはない。
また、この試合を通しての判定傾向は、左バッターのアウトコースを極端に広くとっていたわけではないし、また、6回裏のジョナサン・ヴィラーの打席に限って判定傾向が大きく変わった、とはいえない。
そして、彼はもともと判定の正確なアンパイアのひとりである。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2011年6月2日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(1)
球審Ron Kulpaの例年の判定傾向
(元資料:Hardball Times)
赤い線:「ルールブック上のストライクゾーン」
青い線:「Ron Kulpaの判定傾向」
ここまでの検証によって、今回の「Ron Kulpaの判定」に対する事後検定というか、二次的な判定は、「4球目」、「5球目」、いずれも、「ボール判定」でさしつかえない」、となる。ジョナサン・ヴィラーの4球目、5球目は、いずれも「ボール」だ。
ちなみに、スポーツにおける退場処分を専門に扱うユニークなサイト、Close Call Sportsがこの判定をどう判断したのか、確かめてみると、彼らはこのRon Kulpaの判定に関してcorrect、つまり、球審Ron Kulpaの判断が「正しい」と断定している。
Close Call Sportsによる判断
MLB Ejection 129: Ron Kulpa (1; AJ Pierzynski) | Close Call Sports and the Umpire Ejection Fantasy League
August 12, 2013
弁護士を立ててまで抗戦しておきながら、ドーピングを認めた卑怯者ライアン・ブラウンを含む10数人のステロイダーが一斉に出場停止処分になった「バイオジェネシス事件」だが、アレックス・ロドリゲスだけは異議申し立てを行い、それどころかDLから戻って早々、8月9日デトロイト戦にスタメン出場した。
いくら法的に問題がなくても、ファンが長年育ててきたスポーツとしての倫理観には完全に反している。どういう判断をもとに、このステロイダーをスタメンに復帰させたのか、ヤンキースの倫理感の無さには、さぞかしバド・セリグも呆れていることだろう。
そのロドリゲスのバッティングが、どのくらい酷いか、
まぁ、以下の2つのデータを見てもらえばわかる。
Detroit Tigers at New York Yankees - August 9, 2013 | MLB.com Classic
第1打席
三振
第2打席
三振
とても2つの打席とは思えない。
文字通り、まったく同じパターンの配球で三振している。
こんなワンパターンな三振は、去年秋のジョシュ・ハミルトンの「アウトローのスライダーによるワンパターンな三振」すら超えている。
ヤンキースのゲームを見ている人ならわかると思うが、このアレックス・ロドリゲスの「インローの三振パターン」は、去年秋にさんざん見せられたものと、まったく同じなのだ。
そもそも彼がスタメン落ちさせられたのは、ハッキリ、この「インローの三振パターンが、ほとんどの対戦チームに知れ渡ったこと」が原因なのだ。
今のところ真偽は定かでないが、ニューヨーク・デイリーニューズ紙の指摘によれば、去年のポストシーズンで、スタメン落ちを避けるためにアレックス・ロドリゲスがとった行動というのが、デトロイトとの間で行われていたALCSの真っ最中に、バイオジェネシス社のアンソニー・ボッシュをわざわざデトロイトまで呼び出して、「おい。俺、スタメン落ちしそうなんだ。なんとかしてくれ」と頼んだ、というのだから、(もしそれが本当ならば、だが)空いた口がふさがらない。
もし、ロクに練習しもしないまま、薬にたよってスタメン確保しようとしたのが本当なら、冗談でいうのではなく、問答無用で「永久追放」でいいと思う。
いくら法的に問題がなくても、ファンが長年育ててきたスポーツとしての倫理観には完全に反している。どういう判断をもとに、このステロイダーをスタメンに復帰させたのか、ヤンキースの倫理感の無さには、さぞかしバド・セリグも呆れていることだろう。
そのロドリゲスのバッティングが、どのくらい酷いか、
まぁ、以下の2つのデータを見てもらえばわかる。
Detroit Tigers at New York Yankees - August 9, 2013 | MLB.com Classic
第1打席
三振
第2打席
三振
とても2つの打席とは思えない。
文字通り、まったく同じパターンの配球で三振している。
こんなワンパターンな三振は、去年秋のジョシュ・ハミルトンの「アウトローのスライダーによるワンパターンな三振」すら超えている。
ヤンキースのゲームを見ている人ならわかると思うが、このアレックス・ロドリゲスの「インローの三振パターン」は、去年秋にさんざん見せられたものと、まったく同じなのだ。
そもそも彼がスタメン落ちさせられたのは、ハッキリ、この「インローの三振パターンが、ほとんどの対戦チームに知れ渡ったこと」が原因なのだ。
今のところ真偽は定かでないが、ニューヨーク・デイリーニューズ紙の指摘によれば、去年のポストシーズンで、スタメン落ちを避けるためにアレックス・ロドリゲスがとった行動というのが、デトロイトとの間で行われていたALCSの真っ最中に、バイオジェネシス社のアンソニー・ボッシュをわざわざデトロイトまで呼び出して、「おい。俺、スタメン落ちしそうなんだ。なんとかしてくれ」と頼んだ、というのだから、(もしそれが本当ならば、だが)空いた口がふさがらない。
According to a former business associate of Bosch, Rodriguez, mired in a slump that had seen him lose his starting job in the series against the Tigers, summoned Bosch to Detroit to help him.
ボッシュの元ビジネスパートナーによれば、スランプにはまりこんだロドリゲスは、タイガースとのALCSでスタメン落ちしそうになって、ボッシュをデトロイトに呼び出し、助けを求めた。
出典:Alex Rodriguez called Anthony Bosch while Yankees faced Tigers in 2012 ALCS: report - NY Daily News
もし、ロクに練習しもしないまま、薬にたよってスタメン確保しようとしたのが本当なら、冗談でいうのではなく、問答無用で「永久追放」でいいと思う。
August 10, 2013
SB Nationに掲載されたJon Roegeleという人の「三振をとる配球」についての記事が、なかなか面白い。
Strikeout pitch sequences, by location - Beyond the Box Score
ただ、最初にことわっておきたいと思うのは、この記事がちょっとした見どころがあるのは確かだが、だからといって「必ず三振をとれる配球を発見した」などというようなシロモノではないことだ。
この程度の数のサンプルで「野球の法則性の発見」と思い込むのは馬鹿げている。頭の片隅にでも置いておいて、何か類似した研究結果なりが出てきたとき思い出せれば、それでいい。
この記事は、「三振」という現象が起きたときに、どういう配球プロセスで起きていたかを、初球から3球目の「コース」を集中的に調べて、図に起こす、という手法で書かれているのだが、調査手法が大雑把過ぎて、狙いとする「三振をとるための配球エッセンス」がうまく記事として表現されていないのが、ちょっともったいない。
サンプル数の少なさより、はるかに決定的ミスだと思うのは、この記事が「左投手と右投手を分けて考えていないこと。左と右を分けて図示することを忘れていること」だ。
こうしたミスが起きる根本理由は、おそらくMLBのストライクゾーンが左バッターと右バッターでかなり異なっていることを、そもそも考慮に入れてないことにある。
これまで数かぎりなく書いてきたように、MLBのストライクゾーンは、左バッターと右バッターとでは全く違っている。基本的に、左バッターのゾーンは、「アウトコースのみが非常に広く、インコースは狭い」。他方、右バッターは、「内外のゾーンが均等の広さ」で判定されることが多い。
だから、「三振」という現象がどういうシチュエーションで起きたのか考えるにあたっては、最低でも、「左投手と右投手で分けて考える」必要があると思うし、さらに、できることなら「左バッターと右バッター」で分けてデータ化したほうが、ずっとエキサイティングな記事になただろうと思う。
例えばだが、左投手の場合、「持ち球」によってストライクの取り方はまるっきり変わる。
クロスファイヤーの得意なサイドスロー気味の左投手なら、左バッターのアウトコースのさらに外に「ボールになるスライダー」を投げて空振りさせたいだろうし、カットボールの得意な左投手なら、左バッターのインコースに「腰が引けるような球」を投げて、見逃しストライクをとりたいだろう。また、カーブやチェンジアップのコントロールに自信のある左投手なら、右バッターのインコース低めに「打者の目がついていけないブレーキングボール」を落として空振りさせる。
さらに言えば、投手の「性格」によって、安全なアウトコースで「安全な三振」をとりたがる性格の投手もいれば、逆にインコースに不意打ちを食らわすのが得意という強気な性格の投手だっている。
ストライクをとる方法は、「投手が左か右か」、投手の「持ち球」や「フォーム」、対戦するのが「右打者か左打者か」など、さまざまな条件によって大きく違ってくるわけだが、そうした各種の条件の中でも、投手が左か右かはやはり基本条件として、分けて考えるべきだと思う。
結局のところ、この記事は「それぞれの三振には、それぞれ固有の理由とプロセスがある」ことを考慮にいれてない。
だから、この記事を読んだだけで、「ダルビッシュがやっているように、初球、2球目と、アウトコース低めに投げるのが、最も効率的な三振の取りだ」などと決めつけられても困る。「そんな決めつけ、何の意味もない」としか言いようがない。(彼がアウトコース低めの変化球を使いたがることは、ある部分で日本の野球文化の悪影響だと思う)
前置きはさておき、この記事が発見したことで、一番面白いと感じたのは、「三振を数多くとっている投手が、特に2球目にボール球を投げている」ことだ。
ちょっと前に、ヤンキースのフィル・ヒューズが、「ア・リーグで最も初球にストライクを投げている投手」であること、また彼が「初球にストライクを多投する投手であり、打者を2ストライクに追い込むことにも成功しているにもかかわらず、追い込んでから打者をうちとれない典型的なピッチャー」であることを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年6月15日、本当に「初球はストライクがいい」のか。打者を追い込むだけで決めきれないフィル・ヒューズの例で知る「初球ストライク率が高いからといって、 必ずしも防御率は下がらず、好投手にはなれない」という事実。
また別の記事で、マリアーノ・リベラが「典型的なボール球を振らせるタイプのピッチャー」であり、クリフ・リーが「徹底的にストライクで押すタイプのピッチャー」であること、ヒューズとフェルプスのようなヤンキースの若手ピッチャーの投げる「ボール球」が、「打者が手を出してくれないボール球」であることを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年7月8日、グラフひとつでわかる「ボール球を振らせる投球哲学」と、「ストライクにこだわりぬく投球哲学」 常識に縛られることなく投球術の両極を目指すマリアーノ・リベラと、クリフ・リー。
「三振をとる」という仕事にとって、クリフ・リー(あるいは最近のマックス・シャーザー)のような特別な才能のあるピッチャーででもない限り、「バッターが手を出してくれるボール球を持つ」ことは、好投手であり続けるための必須条件であるのは確かだ。
だが残念なことに、フィル・ヒューズは、いわば「初球も2球目もストライクを投げたがるピッチャー」ではあっても、困ったことに、追い込んだ後に投げる球がない。だから、しかたなく「アウトコース低めに、誰の目にも明らかにボールとわかるスライダー」ばかり投げて、カウントを自ら悪くしてしまう。(こういう知恵の無いピッチングスタイルがどれだけピッチャーをダメにするかは、『城島問題』でも明らかだ)
ヒューズに奪三振王になれ、などとは思わないが、彼やフェルプスが本当にピッチャーとして開花したいと思うなら、「変化球を磨きなおすことに加えて、根本的に配球方針を変えないとダメなんだぜ」と言ってやりたいと、この記事を読んで思ったりしたのだ。
そういう意味でも、これからのヤンキースには、いい投手の指導者が必要だ。
Strikeout pitch sequences, by location - Beyond the Box Score
ただ、最初にことわっておきたいと思うのは、この記事がちょっとした見どころがあるのは確かだが、だからといって「必ず三振をとれる配球を発見した」などというようなシロモノではないことだ。
この程度の数のサンプルで「野球の法則性の発見」と思い込むのは馬鹿げている。頭の片隅にでも置いておいて、何か類似した研究結果なりが出てきたとき思い出せれば、それでいい。
この記事は、「三振」という現象が起きたときに、どういう配球プロセスで起きていたかを、初球から3球目の「コース」を集中的に調べて、図に起こす、という手法で書かれているのだが、調査手法が大雑把過ぎて、狙いとする「三振をとるための配球エッセンス」がうまく記事として表現されていないのが、ちょっともったいない。
サンプル数の少なさより、はるかに決定的ミスだと思うのは、この記事が「左投手と右投手を分けて考えていないこと。左と右を分けて図示することを忘れていること」だ。
こうしたミスが起きる根本理由は、おそらくMLBのストライクゾーンが左バッターと右バッターでかなり異なっていることを、そもそも考慮に入れてないことにある。
これまで数かぎりなく書いてきたように、MLBのストライクゾーンは、左バッターと右バッターとでは全く違っている。基本的に、左バッターのゾーンは、「アウトコースのみが非常に広く、インコースは狭い」。他方、右バッターは、「内外のゾーンが均等の広さ」で判定されることが多い。
だから、「三振」という現象がどういうシチュエーションで起きたのか考えるにあたっては、最低でも、「左投手と右投手で分けて考える」必要があると思うし、さらに、できることなら「左バッターと右バッター」で分けてデータ化したほうが、ずっとエキサイティングな記事になただろうと思う。
例えばだが、左投手の場合、「持ち球」によってストライクの取り方はまるっきり変わる。
クロスファイヤーの得意なサイドスロー気味の左投手なら、左バッターのアウトコースのさらに外に「ボールになるスライダー」を投げて空振りさせたいだろうし、カットボールの得意な左投手なら、左バッターのインコースに「腰が引けるような球」を投げて、見逃しストライクをとりたいだろう。また、カーブやチェンジアップのコントロールに自信のある左投手なら、右バッターのインコース低めに「打者の目がついていけないブレーキングボール」を落として空振りさせる。
さらに言えば、投手の「性格」によって、安全なアウトコースで「安全な三振」をとりたがる性格の投手もいれば、逆にインコースに不意打ちを食らわすのが得意という強気な性格の投手だっている。
ストライクをとる方法は、「投手が左か右か」、投手の「持ち球」や「フォーム」、対戦するのが「右打者か左打者か」など、さまざまな条件によって大きく違ってくるわけだが、そうした各種の条件の中でも、投手が左か右かはやはり基本条件として、分けて考えるべきだと思う。
結局のところ、この記事は「それぞれの三振には、それぞれ固有の理由とプロセスがある」ことを考慮にいれてない。
だから、この記事を読んだだけで、「ダルビッシュがやっているように、初球、2球目と、アウトコース低めに投げるのが、最も効率的な三振の取りだ」などと決めつけられても困る。「そんな決めつけ、何の意味もない」としか言いようがない。(彼がアウトコース低めの変化球を使いたがることは、ある部分で日本の野球文化の悪影響だと思う)
前置きはさておき、この記事が発見したことで、一番面白いと感じたのは、「三振を数多くとっている投手が、特に2球目にボール球を投げている」ことだ。
ちょっと前に、ヤンキースのフィル・ヒューズが、「ア・リーグで最も初球にストライクを投げている投手」であること、また彼が「初球にストライクを多投する投手であり、打者を2ストライクに追い込むことにも成功しているにもかかわらず、追い込んでから打者をうちとれない典型的なピッチャー」であることを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年6月15日、本当に「初球はストライクがいい」のか。打者を追い込むだけで決めきれないフィル・ヒューズの例で知る「初球ストライク率が高いからといって、 必ずしも防御率は下がらず、好投手にはなれない」という事実。
また別の記事で、マリアーノ・リベラが「典型的なボール球を振らせるタイプのピッチャー」であり、クリフ・リーが「徹底的にストライクで押すタイプのピッチャー」であること、ヒューズとフェルプスのようなヤンキースの若手ピッチャーの投げる「ボール球」が、「打者が手を出してくれないボール球」であることを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年7月8日、グラフひとつでわかる「ボール球を振らせる投球哲学」と、「ストライクにこだわりぬく投球哲学」 常識に縛られることなく投球術の両極を目指すマリアーノ・リベラと、クリフ・リー。
「三振をとる」という仕事にとって、クリフ・リー(あるいは最近のマックス・シャーザー)のような特別な才能のあるピッチャーででもない限り、「バッターが手を出してくれるボール球を持つ」ことは、好投手であり続けるための必須条件であるのは確かだ。
だが残念なことに、フィル・ヒューズは、いわば「初球も2球目もストライクを投げたがるピッチャー」ではあっても、困ったことに、追い込んだ後に投げる球がない。だから、しかたなく「アウトコース低めに、誰の目にも明らかにボールとわかるスライダー」ばかり投げて、カウントを自ら悪くしてしまう。(こういう知恵の無いピッチングスタイルがどれだけピッチャーをダメにするかは、『城島問題』でも明らかだ)
ヒューズに奪三振王になれ、などとは思わないが、彼やフェルプスが本当にピッチャーとして開花したいと思うなら、「変化球を磨きなおすことに加えて、根本的に配球方針を変えないとダメなんだぜ」と言ってやりたいと、この記事を読んで思ったりしたのだ。
そういう意味でも、これからのヤンキースには、いい投手の指導者が必要だ。
August 09, 2013
前の記事で書いたことだが、ヤンキースというチームがこの30年間にやってきたことは、つまりこういうことだ。
Damejima's HARDBALL:2013年8月5日、「生え抜きの成長、黄金期、ステロイド、そして衰退」 正しいヤンキース30年史。
アレックス・ロドリゲスのステロイド問題は、直近のヤンキース30年史という「ちょっと高い位置」から眺めると、バーニー・ウイリアムスの全盛期が終わるのと並行して90年代末の「黄金期」が終了したあとも、ヤンキースは、まるで医師が重篤な状態にある患者に対して延命措置を施すかのように、ひたすら黄金期を「延命」し続けようと、もがき続けてきた中で生まれてきた問題だ。
かつて若手だったリベラがいまや引退を目前にしているわけだが、ヤンキースは「リベラ、ジーターの次の世代をどう開拓するのか」という長年の課題に明確な手を打てないまま、ゆっくりと下り坂を下っていく。これは、いってしまえば、社会の高齢化に明確な手を打たないまま高齢化社会時代を迎えてしまった日本の年金制度のような話だ。
バイオジェネシス事件には、アレックス・ロドリゲスの弟分で、かつてヤンキースに2005年から2009年まで在籍し、期待の若手のひとりと言われ続けて結局芽が出なかった、かつてのセンター、メルキー・カブレラも深くからんでいる。
これはなにも「一部選手のステロイド使用を、ヤンキースがチームとして公認していた」とか、「黙認していた」とかいう意味で言うのでは全くないと明確に断っておいてから言うのだが、もしファンやメディアも含めた意味の「ニューヨーク・ヤンキース」が「アレックス・ロドリゲスがやってきたような何か」をこれまで一切認めてこなかったなら、そもそも2000年代中期の「下降を続けていくヤンキース」自体が存在せず、むしろ、2000年代前半のどこかでヤンキースは一度バッタリと停止して、もっと違う道(例えば新しいチームづくりへの道)を歩んでいたかもしれない。
だから、ヤンキースにとって、いま起きている「アレックス・ロドリゲス問題」をどう処理するか、という問題は、実は意味的には、単なる「スポーツ選手のドーピングについての道徳的な善悪判断」なのではなくて、むしろある種の「清算」といったほうがいい部分がある。
たとえば長く愛し合ってきた男女が関係を「清算」するとする。その行為は、法律や道徳からみた善悪の判断には必ずしも沿わない。当事者は、いいことも悪いこともひっくるめて色々と脳裏に思い出しながら、「これでひとつの時代が終わるんだな・・・・」と感傷にとらわれながら、どこにあるのかわからない終着駅をアテもなく探しながら、右往左往することになる。
外から、「あなたがたはもう、長い時間を清算するときだ」と冷静に言い放たれたとしても、酔っ払いが長居しすぎた店で飲み代を払ってタクシーで家に帰るように、簡単にはいかないのである。
珍しくこんなことを考えたのも、この記事を読んだからだ。
The Greedy Pinstripes: It Is Time To Sell: Brett Gardner
この記事の内容については触れてもしょうがない。記事の意味、記事の価値は、自分で読んで、自分で判断してもらいたい。
読む人それぞれが、それぞれの立場から読むしかない。どんな思い入れをもってゲームを眺めているかは、人によってまるっきり異なる。
ひとことだけ言うと、
この記事の書き出しは、とてもいい。
ヤンキースという「構造材の耐用年限が到来した、古いビルディング」には、遅かれ早かれ、再建の必要なときが来る。
ブレット・ガードナーは、ヴェテランの多いヤンキースにしては唯一の若いスタメンといえる選手だ。
その彼に、「近未来のヤンキースにおいて、どういう役割を期待するのか」を考えること、そして「未来の彼に、何が期待できるのか」を判断し、想定しておくことは、「先発ローテーションをどう再建するのか」という最も重要な課題に次いで、「これからのヤンキース」を考える上の不可欠な要検討事項であるのは確かだ。
だが、たいていの人は漫然としかモノを考えない。若い頃のジーターの打撃成績やキャプテンシーと、今のガードナーとでは、あらゆる点で比べものにならない「差」があることすら考慮しないまま、「そりゃ、これから若手を使う時代になったら、生え抜きの中では唯一スタメン張ってるガードナーがリーダーになるにきまってるだろ?」などと、型にはまった紋切型の意見しか持たない。そして、型にはまった思考がこのチームを硬直化させてきたことに疑問すら持たないくせに、昔からのヤンキースファンを自称したがる。
人をいなす能力にだけは長けているニューヨークのメディアだが、彼らにしても、バーニー・ウイリアムスの引退以降、これまで有り余るほど長い時間があったにもかかわらず、ヤンキースがここまで老朽化するまで、この問題についてのきちんとした議論の場を用意してこなかった。
だが、この記事を書いたDaniel Burchは、違う。
たぶん彼は、この問題、つまり「これからヤンキースはどう再生すべきか」について、嫌になるほど考え抜いてみたのだろう。そして、考える上で、あらゆる前提条件を一度とっぱらって考えてみたはずだ。
結果、彼は「自分でも考えもしなかった、ある地点」にまで、うっかりたどりついてしまう。それは、「ガードナーは放出すべき」という「自分でも思ってみなかった結論」だ。
それは、彼自身が記事の冒頭でいっているように、「ヤンキースファンであると同時に、ガードナーファンでもある自分自身を酷く傷つける」結果になった。
でも、彼は勇気をふりしぼって書いた。
It Is Time To Sell: Brett Gardner
「ブレット・ガードナーは、今こそ売り時だ」と。
この記事の主張の中身が的を得ているか、そうでないかは、この際判断しない。そんなどうでもいいことより、この「書きづらい記事」をいまのタイミングで書くことの「辛さをともなった、真摯さ」に敬意を表して、Daniel BurchとGreedy Pinstripesに、心からの敬意をこめた拍手を贈りたいと思う。
例えばイチローにしても、ヤンキース移籍を前にして考え抜いた結果、「自分は『これからのシアトル・マリナーズ』に必要ない」と自分自身について結論づけた行為も、やはり彼自身を傷つけたことだろう。
ヤンキースとの再契約を選んだ2年契約については、ブログ主には賛成しかねる部分もあるにはあるが、それを外野から声高に言うより前に、決めづらいことを決める一瞬一瞬の決断に対して敬意を忘れないようにしなければと、この記事を読んで、あらためて考えさせられた。
いまのジョー・ジラルディにしても、言いたいことは山のようにある。だが、Daniel Burchの「真摯さ」には、とても学ばされるものがあったことだし、ジラルディ・ヤンキースのゲーム手法の稚拙さを全く批判をしないわけにもいかないのだが、なにもかもを否定するのはもう少しだけ我慢してみることにしたいと思う。
Damejima's HARDBALL:2013年8月5日、「生え抜きの成長、黄金期、ステロイド、そして衰退」 正しいヤンキース30年史。
低迷し続けた80年代が過ぎ、ヤンキースは90年代中頃、ようやく若い選手を育てる手法に転じることにした。勝率はみるみる上昇。90年代末には黄金期を迎えた。だが、2003年以降になると、チームはステロイド系スラッガーを抱えこみながら、ゆるゆると下降し続け、やがて「次の時代をどうするか」難しい選択を迫られた。
アレックス・ロドリゲスのステロイド問題は、直近のヤンキース30年史という「ちょっと高い位置」から眺めると、バーニー・ウイリアムスの全盛期が終わるのと並行して90年代末の「黄金期」が終了したあとも、ヤンキースは、まるで医師が重篤な状態にある患者に対して延命措置を施すかのように、ひたすら黄金期を「延命」し続けようと、もがき続けてきた中で生まれてきた問題だ。
かつて若手だったリベラがいまや引退を目前にしているわけだが、ヤンキースは「リベラ、ジーターの次の世代をどう開拓するのか」という長年の課題に明確な手を打てないまま、ゆっくりと下り坂を下っていく。これは、いってしまえば、社会の高齢化に明確な手を打たないまま高齢化社会時代を迎えてしまった日本の年金制度のような話だ。
バイオジェネシス事件には、アレックス・ロドリゲスの弟分で、かつてヤンキースに2005年から2009年まで在籍し、期待の若手のひとりと言われ続けて結局芽が出なかった、かつてのセンター、メルキー・カブレラも深くからんでいる。
これはなにも「一部選手のステロイド使用を、ヤンキースがチームとして公認していた」とか、「黙認していた」とかいう意味で言うのでは全くないと明確に断っておいてから言うのだが、もしファンやメディアも含めた意味の「ニューヨーク・ヤンキース」が「アレックス・ロドリゲスがやってきたような何か」をこれまで一切認めてこなかったなら、そもそも2000年代中期の「下降を続けていくヤンキース」自体が存在せず、むしろ、2000年代前半のどこかでヤンキースは一度バッタリと停止して、もっと違う道(例えば新しいチームづくりへの道)を歩んでいたかもしれない。
だから、ヤンキースにとって、いま起きている「アレックス・ロドリゲス問題」をどう処理するか、という問題は、実は意味的には、単なる「スポーツ選手のドーピングについての道徳的な善悪判断」なのではなくて、むしろある種の「清算」といったほうがいい部分がある。
たとえば長く愛し合ってきた男女が関係を「清算」するとする。その行為は、法律や道徳からみた善悪の判断には必ずしも沿わない。当事者は、いいことも悪いこともひっくるめて色々と脳裏に思い出しながら、「これでひとつの時代が終わるんだな・・・・」と感傷にとらわれながら、どこにあるのかわからない終着駅をアテもなく探しながら、右往左往することになる。
外から、「あなたがたはもう、長い時間を清算するときだ」と冷静に言い放たれたとしても、酔っ払いが長居しすぎた店で飲み代を払ってタクシーで家に帰るように、簡単にはいかないのである。
珍しくこんなことを考えたのも、この記事を読んだからだ。
The Greedy Pinstripes: It Is Time To Sell: Brett Gardner
この記事の内容については触れてもしょうがない。記事の意味、記事の価値は、自分で読んで、自分で判断してもらいたい。
読む人それぞれが、それぞれの立場から読むしかない。どんな思い入れをもってゲームを眺めているかは、人によってまるっきり異なる。
ひとことだけ言うと、
この記事の書き出しは、とてもいい。
Writing this article really hurts me as a fan of not only the Yankees but of Brett Gardner as well.
この記事を書くことは、ヤンキースファンであるだけでなく、ブレット・ガードナー・ファンでもある自分自身をひどく傷つけることになった。
ヤンキースという「構造材の耐用年限が到来した、古いビルディング」には、遅かれ早かれ、再建の必要なときが来る。
ブレット・ガードナーは、ヴェテランの多いヤンキースにしては唯一の若いスタメンといえる選手だ。
その彼に、「近未来のヤンキースにおいて、どういう役割を期待するのか」を考えること、そして「未来の彼に、何が期待できるのか」を判断し、想定しておくことは、「先発ローテーションをどう再建するのか」という最も重要な課題に次いで、「これからのヤンキース」を考える上の不可欠な要検討事項であるのは確かだ。
だが、たいていの人は漫然としかモノを考えない。若い頃のジーターの打撃成績やキャプテンシーと、今のガードナーとでは、あらゆる点で比べものにならない「差」があることすら考慮しないまま、「そりゃ、これから若手を使う時代になったら、生え抜きの中では唯一スタメン張ってるガードナーがリーダーになるにきまってるだろ?」などと、型にはまった紋切型の意見しか持たない。そして、型にはまった思考がこのチームを硬直化させてきたことに疑問すら持たないくせに、昔からのヤンキースファンを自称したがる。
人をいなす能力にだけは長けているニューヨークのメディアだが、彼らにしても、バーニー・ウイリアムスの引退以降、これまで有り余るほど長い時間があったにもかかわらず、ヤンキースがここまで老朽化するまで、この問題についてのきちんとした議論の場を用意してこなかった。
だが、この記事を書いたDaniel Burchは、違う。
たぶん彼は、この問題、つまり「これからヤンキースはどう再生すべきか」について、嫌になるほど考え抜いてみたのだろう。そして、考える上で、あらゆる前提条件を一度とっぱらって考えてみたはずだ。
結果、彼は「自分でも考えもしなかった、ある地点」にまで、うっかりたどりついてしまう。それは、「ガードナーは放出すべき」という「自分でも思ってみなかった結論」だ。
それは、彼自身が記事の冒頭でいっているように、「ヤンキースファンであると同時に、ガードナーファンでもある自分自身を酷く傷つける」結果になった。
でも、彼は勇気をふりしぼって書いた。
It Is Time To Sell: Brett Gardner
「ブレット・ガードナーは、今こそ売り時だ」と。
この記事の主張の中身が的を得ているか、そうでないかは、この際判断しない。そんなどうでもいいことより、この「書きづらい記事」をいまのタイミングで書くことの「辛さをともなった、真摯さ」に敬意を表して、Daniel BurchとGreedy Pinstripesに、心からの敬意をこめた拍手を贈りたいと思う。
例えばイチローにしても、ヤンキース移籍を前にして考え抜いた結果、「自分は『これからのシアトル・マリナーズ』に必要ない」と自分自身について結論づけた行為も、やはり彼自身を傷つけたことだろう。
ヤンキースとの再契約を選んだ2年契約については、ブログ主には賛成しかねる部分もあるにはあるが、それを外野から声高に言うより前に、決めづらいことを決める一瞬一瞬の決断に対して敬意を忘れないようにしなければと、この記事を読んで、あらためて考えさせられた。
いまのジョー・ジラルディにしても、言いたいことは山のようにある。だが、Daniel Burchの「真摯さ」には、とても学ばされるものがあったことだし、ジラルディ・ヤンキースのゲーム手法の稚拙さを全く批判をしないわけにもいかないのだが、なにもかもを否定するのはもう少しだけ我慢してみることにしたいと思う。
August 06, 2013
ヤンキース、というと、すぐに「常勝」だのなんだのという単語を連想したがる奇妙な人が日米問わず多いようだ(笑)まぁ、たぶん日本でいうなら、セ・リーグ某球団ばかり見てきたか、MLBをよく知らない人たちの慣習なのだろうが、そんなもの、どうでもいい(笑)
MLBを見てきた人なら誰でもわかっている。ボストン・レッドソックスがかつてお荷物球団だった時代があるのと同様、この30年のヤンキースの歴史は、けしてこのチームがずっと常勝だったわけではなく、むしろ「他のあらゆるプロスポーツ同様に、容赦ない栄枯盛衰のリズムに従ってきた」ことを物語っている。
そんなことくらい誰でもわかりそうなものだが、歴史に目をつぶって間違った自説を信じたままでいたい人もたくさんいるようだ。そんな人間に何を言っても馬耳東風。放っておいて遠くから冷笑するに限る(笑)
New York Yankees Team History & Encyclopedia - Baseball-Reference.com
何度も書いてきたように、ヤンキースという「ビルディング」が、80年代から90年代初頭にかけての長い低迷期を90年代中期に抜け出し、ある意味の「建て替え」に成功できた根本理由は、1990年代中期に、この30年間でたった一度だけ、ヤンキースのファームが本来の「育てる」という機能を最大限に(それも奇跡的なくらいに)発揮したからだ。
だから、その後のヤンキースの繁栄は、90年代に一度だけ成功した若手育成によって組み上げられた「太い鉄骨」、つまり「構造材」の強靭さによってもたらされただけの果実なのだ。
バーニー・ウイリアムスの全盛期の終焉は、彼を中心としたヤンキース黄金期の終焉を意味していて、2003年以降の「黄金期後のヤンキース」は単に、ステロイド・ホームランを量産するバッターをカネでひたすら買い集めながら、「ビルの骨組みである『太い鉄骨』が錆び朽ちるまでの強度」によって「ビルディング全体をなんとかもたせてきた」に過ぎない。
「ヤンキースの構造材となった選手」は、具体的にはもちろんジーターやリベラなどだが、彼らが役割を終わろうとしつつある今、若い世代の「跡継ぎ」を育ててこなかったヤンキースの屋台骨が根本から揺らぐのは当然の結果であって、驚くことでもなんでもない。
1981年
80年代唯一のワールドシリーズ進出と、後の選手育成
Gene Michaelの功績
この30年間、選手以外で「最もヤンキースに貢献したといえる人物」が誰かといえば、選手を「買う」ことしが眼中になかったヤンキースのファーム・システムをたった一度だけ復活させ、ヤンキース黄金期を支える「構造材」を大量生産することに成功したGene Michaelのような人物だといっていい。近年のヤンキースのステロイド・ホームランバッターの名前を挙げられる人はいくらでもいるだろうが、そんなことはどうでもいい。
Gene Michaelは1990年ヤンキースGMになり、92年にバック・ショーウォルターを監督に据え、彼とともに若い人材を育て上げた人物だが、同時に、1981年に「ヤンキースの80年代における唯一のワールドシリーズ進出」を果たしたヤンキース監督でもある。また、黄金期のキープレーヤー、バーニー・ウイリアムスがトレードされそうになったとき、ショーウォルターとともに阻止した人物でもある。
「ヤンキース史」とか「ヤンキース年表」と自称するもののうちで、Gene Michaelの仕事の重みを軽視しているものは全て無視していいと思う。
1982年〜1993年
ポストシーズンに一度も進出できない長い低迷期
監督時代のGene Michaelによる80年代唯一のワールドシリーズ進出の後、1982年から1993年までの12シーズン、ヤンキースは一度もポストシーズンに進出していない。この間、ビリー・マーチン、ヨギ・ベラ、ルー・ピネラなど、数々の名監督がヤンキースを蘇生させようとしたが、誰も悪い流れを変えられなかった。
1992年〜1995年
ジーン・マイケル、バックショーウォルター体制の登場
誰も流れを変えられなかったヤンキースを「変える」ことに成功したのが、1990年にGMに就任したGene Michaelだ。彼はヤンキースの選手編成の手法そのものを根本的に見直して、カネで選手を買ってくるのではなく、ファームで生え抜きの若い選手をゼロから育てた。
例えば、バーニー・ウイリアムスは、1992年にヤンキースのマイナーであるColumbus Clippersのゲームに、マイナーでの経歴としては最多の「95試合」に出場している。同じくジーターも1995年にColumbus Clippersで最多の「123試合」に出場しているし、リベラがメジャーデビューしたのも同じ1995年だ。(ちなみに若い時代のリベラのトレードを思い留まったのも、このGene Michael)
Gene MichaelがGMに就任した1990年、ヤンキースのスタメンに誰ひとりとして3割を打っているバッターはおらず、先発ピッチャーは全員がERA4点台という、2013年よりずっと酷いチームだった。
だが、Gene Michaelは就任の4年後、94年には、ヤンキースを地区優勝できるチームに仕上げている。これは、それまで東西2地区制だったア・リーグが、中地区を設けて「3地区制」になったため、東地区の強豪が他地区に分散したことが寄与したのも確かだが、それよりなにより、バーニー・ウイリアムス、ジーター、ペティット、ポサダ、リベラ、カノーなど、ファーム育ちの生え抜き選手が成長したことによる。
1996年〜2002年
バーニー・ウイリアムスの全盛期とダブる、
「ヤンキース黄金期」
ヤンキースに復活をもたらしたGene Michaelとバック・ショーウォルターのコンビは1995年で退き、翌96年からはGMがBob Watson、監督がジョー・トーリという新コンビにガラリと変わる。これはせっかく収穫を迎えた麦を他人に収穫させるようなもので、よくこんなことをしたものだと思う。
後にBob Watsonは、1997年にワールドシリーズ連続出場を逃した責任をとらされて1998年2月退任しているが、今にして思えば、あまりにもハードルが高すぎる。もしその条件を、Bob Watsonの後任として1998年2月にヤンキースGMに就任したブライアン・キャッシュマンにあてはめるなら、彼はもう何回も辞任していなくてはならない。しかし、彼は一度も辞めてない。
言うまでもないことだが、「キャッシュマン、トーリ体制」は、「ジーン・マイケル、バック・ショーウォルター体制」が生産した「ヤンキースというビルディングの骨組み」をそのまま受け継いだに過ぎない。
それは、ボストン・レッドソックスで1994年から2002年までGMだったダン・デュケット(現ボルチモア・オリオールズ編成責任者)が集めた人材を、後任GMであるテオ・エプスタイン(現カブスGM)が踏襲しただけなのに、あたかも2000年代のボストンの強さがエプスタインの手腕の成果ででもあるかのように誤解され続けてきたのと、まったく変わらない間違いだ。
2003年〜
ステロイド・ヤンキース
MLBでは、地区最下位になるような弱小球団は、翌シーズンのドラフトで才能あるドラフト上位選手の指名権を得ることでチーム再建への一歩を踏み出すことができる仕組みになっている。若い選手はサラリーが安いわけだから、こうしたドラフトによる再建方法は、育成に時間がかかりはするものの、コスト面では安上がりで済む。
だが、90年代末ヤンキースのように、毎年のように優勝する状態が続くと、ドラフトによる有望新人の指名権獲得は期待できなくなっていき、同時に、選手獲得コストがうなぎ登りに上昇していくことになる。そうなると、自軍の若い有望選手をキープしたまま選手レベルを維持しようとすると、他チームから高額なサラリーのFA選手を買うか、ドラフト外でラテンアメリカやアジアから選手をかき集めるくらいしか方法がなくなる。
実際、2000年代中期ヤンキースのスタメンには、2004年入団のAロッドはじめ、メルキー・カブレラ、シェフィールド、ジオンビーなどなど、ステロイド系スラッガーが多く名前を並べている。その背景には、ヤンキースが「ジーン・マイケル、バック・ショーウォルター体制」で作ったせっかくの若手育成機能をみずから放棄し、再び1980年代のような「カネで選手を買い集めるシステム」に戻ってしまい、なおかつ悪いことに、そこに「ステロイドの蔓延」も加わってしまった、ということがある。
いま多くの人がイメージする「ホームランの多い常勝ヤンキース」とは、2000年代に作られた人工的な「偶像」でしかない。
2006年にヤンキースが、1997年から28年間も傘下に置いてきたAAAのColumbus Clippersを手放してしまったのだが、その背景には、ヤンキースが「若い選手を育てる」のを止め、「FA選手を買う」という選手編成方針の転換があった。
例えばNeil Allenは、2003年、2004年、2006年にColumbus Clippersの投手コーチをつとめているように、長くヤンキースのさまざまなマイナーチームで投手育成の要職をこなしてきた人だが、彼は、ヤンキースが2006年にColumbus Clippersを手放すと、ついにヤンキースを離れてしまい、翌2007年からはタンパベイ・レイズのマイナーであるDurham Bullsの投手コーチに就任して、とうとう長年続いてきたヤンキースとの絆を断つことになった。
これは、ヤンキースのファームシステムが再び80年代のような弱体化傾向にあることを示す事例のひとつであり、マイナーのコーチ流出はヤンキースの若い選手の才能がなかなか開花しない原因のひとつにもなっていると思われる。
2012年〜
ノン・ステロイド・ヤンキース
2000年代中期に「若い選手を育てる」路線を自ら捨て、「FA選手を買う」路線に戻ってしまったヤンキースだが、買ってきた高額サラリーの選手たちの度重なる怪我、ステロイドによる出場停止、贅沢税問題など、さまざまなトラブルを抱えていて、その結果、予算はとてつもなく「硬直化」している。つまり、足りない選手を補強しようにも、自由に予算を使うことができないのである。
そして、おまけに悪いことに、予算の自由度がまるで無い中で、GMブライアン・キャッシュマンは、内野手やピッチャーのような「絶対的に不足しているポジション」の選手ではなく、外野手のような「既にダブついているポジションの選手」ばかり買ってくるのだから、まったくもって始末が悪い。
ステロイドのせいもあって、ホームランを量産する選手への風当たりは、いうまでもなく、きつくなり続けている。
最近のアンチ・ドーピングの流れを受けて、MLBでも大規模かつ執拗なドーピング検査が行われるようになったこともあるし、また、近年のデータ活用の発達で、打者の傾向が簡単にスカウティングされるようになってきたこともある。ヤンキースに限らずだが、ホームランを量産するスラッガーや主力先発投手など、長期高額契約選手のプレーに対するマークは、年々きつくなっていくばかりだ。
言うまでもないことだが、これまでステロイドを使って長打を量産してこれた選手が、近年の規制強化でステロイドが使えなくなったことで成績がガタ落ちした、ということもあるだろう。おおっぴらにならないだけだ。
こうした中、ジーター、リベラといった長年ヤンキースの骨組みとなってきた「構造材」には耐用年数の限界が見えてきている。
2012年は、Aロッド、グランダーソンなど高額サラリーの主軸打者の長期のスランプ、主力投手サバシアのストレートの球威低下、Aロッドのステロイド問題、あらゆる問題が表面化しかけたが、それでもヤンキースは、イバニェス、イチロー、カノーなど、一部選手の頑張りによって、かろうじて地区首位を拾った。
だが、翌2013年は、前のシーズン終盤で活躍をみせたイバニェスと再契約せず、またイチローを重用しないという、ピント外れのままのスタートとなり、さらに重い怪我でDL入りする主力選手が続出。また、補強ポイントを間違ったピント外れの選手補強が連綿と続くことで、2013年ヤンキースは結果的に「内野手は常に不足し、逆に、外野手は常にあり余っている状態」、「打力は足りないので補強が必要だが、かといって、投手力も補強されない、投打が両方壊滅する状態」、「補強した野手のポジションがあまりにもかぶり過ぎていて、どれだけ野手を補強しても同時には出場させられない」などという、アンバランスな状態になった。
せっかく好調期を迎える野手が出てきたとしても、好調期→起用法の変更→調子落ち→好調期→起用法の変更→調子落ち、という「ムダな繰り返し」の連続では、チームの得点力なんてものが安定するわけはない。
こうした「的確でない選手獲得を原因とする、度重なる起用法の変更」と「ジラルディの不安定な選手起用」は、2013ヤンキースにおけるひとつの「連続したワンセットの自己崩壊現象」であり、ヤンキース野手陣を常に不安定な状態におとしめる大きな原因のひとつになっている。
ベテランの多いチームにとって「意味のわからない不安定さ」はプラス要因にはならない。ヤンキースが2013年にやっている頻繁な起用法変更は、ベテランの競争意識を煽って成績を向上させるような代物では、さらさらない。
2014年〜
不透明なヤンキース
怪我をしてゲームに出られない主力選手、ピークを過ぎた選手と結んだ5年を超えるような長期契約に多くの予算が裂かれているバランスを欠いた予算配分により、来年以降もヤンキースのチーム予算の硬直化は避けられない。今後ヤンキースがとるべき対策が、どの程度の「深さ」なのか、誰もまだ測定していない。
MLBを見てきた人なら誰でもわかっている。ボストン・レッドソックスがかつてお荷物球団だった時代があるのと同様、この30年のヤンキースの歴史は、けしてこのチームがずっと常勝だったわけではなく、むしろ「他のあらゆるプロスポーツ同様に、容赦ない栄枯盛衰のリズムに従ってきた」ことを物語っている。
そんなことくらい誰でもわかりそうなものだが、歴史に目をつぶって間違った自説を信じたままでいたい人もたくさんいるようだ。そんな人間に何を言っても馬耳東風。放っておいて遠くから冷笑するに限る(笑)
New York Yankees Team History & Encyclopedia - Baseball-Reference.com
何度も書いてきたように、ヤンキースという「ビルディング」が、80年代から90年代初頭にかけての長い低迷期を90年代中期に抜け出し、ある意味の「建て替え」に成功できた根本理由は、1990年代中期に、この30年間でたった一度だけ、ヤンキースのファームが本来の「育てる」という機能を最大限に(それも奇跡的なくらいに)発揮したからだ。
だから、その後のヤンキースの繁栄は、90年代に一度だけ成功した若手育成によって組み上げられた「太い鉄骨」、つまり「構造材」の強靭さによってもたらされただけの果実なのだ。
バーニー・ウイリアムスの全盛期の終焉は、彼を中心としたヤンキース黄金期の終焉を意味していて、2003年以降の「黄金期後のヤンキース」は単に、ステロイド・ホームランを量産するバッターをカネでひたすら買い集めながら、「ビルの骨組みである『太い鉄骨』が錆び朽ちるまでの強度」によって「ビルディング全体をなんとかもたせてきた」に過ぎない。
「ヤンキースの構造材となった選手」は、具体的にはもちろんジーターやリベラなどだが、彼らが役割を終わろうとしつつある今、若い世代の「跡継ぎ」を育ててこなかったヤンキースの屋台骨が根本から揺らぐのは当然の結果であって、驚くことでもなんでもない。
1981年
80年代唯一のワールドシリーズ進出と、後の選手育成
Gene Michaelの功績
この30年間、選手以外で「最もヤンキースに貢献したといえる人物」が誰かといえば、選手を「買う」ことしが眼中になかったヤンキースのファーム・システムをたった一度だけ復活させ、ヤンキース黄金期を支える「構造材」を大量生産することに成功したGene Michaelのような人物だといっていい。近年のヤンキースのステロイド・ホームランバッターの名前を挙げられる人はいくらでもいるだろうが、そんなことはどうでもいい。
Gene Michaelは1990年ヤンキースGMになり、92年にバック・ショーウォルターを監督に据え、彼とともに若い人材を育て上げた人物だが、同時に、1981年に「ヤンキースの80年代における唯一のワールドシリーズ進出」を果たしたヤンキース監督でもある。また、黄金期のキープレーヤー、バーニー・ウイリアムスがトレードされそうになったとき、ショーウォルターとともに阻止した人物でもある。
「ヤンキース史」とか「ヤンキース年表」と自称するもののうちで、Gene Michaelの仕事の重みを軽視しているものは全て無視していいと思う。
1982年〜1993年
ポストシーズンに一度も進出できない長い低迷期
監督時代のGene Michaelによる80年代唯一のワールドシリーズ進出の後、1982年から1993年までの12シーズン、ヤンキースは一度もポストシーズンに進出していない。この間、ビリー・マーチン、ヨギ・ベラ、ルー・ピネラなど、数々の名監督がヤンキースを蘇生させようとしたが、誰も悪い流れを変えられなかった。
1992年〜1995年
ジーン・マイケル、バックショーウォルター体制の登場
誰も流れを変えられなかったヤンキースを「変える」ことに成功したのが、1990年にGMに就任したGene Michaelだ。彼はヤンキースの選手編成の手法そのものを根本的に見直して、カネで選手を買ってくるのではなく、ファームで生え抜きの若い選手をゼロから育てた。
例えば、バーニー・ウイリアムスは、1992年にヤンキースのマイナーであるColumbus Clippersのゲームに、マイナーでの経歴としては最多の「95試合」に出場している。同じくジーターも1995年にColumbus Clippersで最多の「123試合」に出場しているし、リベラがメジャーデビューしたのも同じ1995年だ。(ちなみに若い時代のリベラのトレードを思い留まったのも、このGene Michael)
Gene MichaelがGMに就任した1990年、ヤンキースのスタメンに誰ひとりとして3割を打っているバッターはおらず、先発ピッチャーは全員がERA4点台という、2013年よりずっと酷いチームだった。
だが、Gene Michaelは就任の4年後、94年には、ヤンキースを地区優勝できるチームに仕上げている。これは、それまで東西2地区制だったア・リーグが、中地区を設けて「3地区制」になったため、東地区の強豪が他地区に分散したことが寄与したのも確かだが、それよりなにより、バーニー・ウイリアムス、ジーター、ペティット、ポサダ、リベラ、カノーなど、ファーム育ちの生え抜き選手が成長したことによる。
1996年〜2002年
バーニー・ウイリアムスの全盛期とダブる、
「ヤンキース黄金期」
ヤンキースに復活をもたらしたGene Michaelとバック・ショーウォルターのコンビは1995年で退き、翌96年からはGMがBob Watson、監督がジョー・トーリという新コンビにガラリと変わる。これはせっかく収穫を迎えた麦を他人に収穫させるようなもので、よくこんなことをしたものだと思う。
後にBob Watsonは、1997年にワールドシリーズ連続出場を逃した責任をとらされて1998年2月退任しているが、今にして思えば、あまりにもハードルが高すぎる。もしその条件を、Bob Watsonの後任として1998年2月にヤンキースGMに就任したブライアン・キャッシュマンにあてはめるなら、彼はもう何回も辞任していなくてはならない。しかし、彼は一度も辞めてない。
言うまでもないことだが、「キャッシュマン、トーリ体制」は、「ジーン・マイケル、バック・ショーウォルター体制」が生産した「ヤンキースというビルディングの骨組み」をそのまま受け継いだに過ぎない。
それは、ボストン・レッドソックスで1994年から2002年までGMだったダン・デュケット(現ボルチモア・オリオールズ編成責任者)が集めた人材を、後任GMであるテオ・エプスタイン(現カブスGM)が踏襲しただけなのに、あたかも2000年代のボストンの強さがエプスタインの手腕の成果ででもあるかのように誤解され続けてきたのと、まったく変わらない間違いだ。
2003年〜
ステロイド・ヤンキース
MLBでは、地区最下位になるような弱小球団は、翌シーズンのドラフトで才能あるドラフト上位選手の指名権を得ることでチーム再建への一歩を踏み出すことができる仕組みになっている。若い選手はサラリーが安いわけだから、こうしたドラフトによる再建方法は、育成に時間がかかりはするものの、コスト面では安上がりで済む。
だが、90年代末ヤンキースのように、毎年のように優勝する状態が続くと、ドラフトによる有望新人の指名権獲得は期待できなくなっていき、同時に、選手獲得コストがうなぎ登りに上昇していくことになる。そうなると、自軍の若い有望選手をキープしたまま選手レベルを維持しようとすると、他チームから高額なサラリーのFA選手を買うか、ドラフト外でラテンアメリカやアジアから選手をかき集めるくらいしか方法がなくなる。
実際、2000年代中期ヤンキースのスタメンには、2004年入団のAロッドはじめ、メルキー・カブレラ、シェフィールド、ジオンビーなどなど、ステロイド系スラッガーが多く名前を並べている。その背景には、ヤンキースが「ジーン・マイケル、バック・ショーウォルター体制」で作ったせっかくの若手育成機能をみずから放棄し、再び1980年代のような「カネで選手を買い集めるシステム」に戻ってしまい、なおかつ悪いことに、そこに「ステロイドの蔓延」も加わってしまった、ということがある。
いま多くの人がイメージする「ホームランの多い常勝ヤンキース」とは、2000年代に作られた人工的な「偶像」でしかない。
2006年にヤンキースが、1997年から28年間も傘下に置いてきたAAAのColumbus Clippersを手放してしまったのだが、その背景には、ヤンキースが「若い選手を育てる」のを止め、「FA選手を買う」という選手編成方針の転換があった。
例えばNeil Allenは、2003年、2004年、2006年にColumbus Clippersの投手コーチをつとめているように、長くヤンキースのさまざまなマイナーチームで投手育成の要職をこなしてきた人だが、彼は、ヤンキースが2006年にColumbus Clippersを手放すと、ついにヤンキースを離れてしまい、翌2007年からはタンパベイ・レイズのマイナーであるDurham Bullsの投手コーチに就任して、とうとう長年続いてきたヤンキースとの絆を断つことになった。
これは、ヤンキースのファームシステムが再び80年代のような弱体化傾向にあることを示す事例のひとつであり、マイナーのコーチ流出はヤンキースの若い選手の才能がなかなか開花しない原因のひとつにもなっていると思われる。
2012年〜
ノン・ステロイド・ヤンキース
2000年代中期に「若い選手を育てる」路線を自ら捨て、「FA選手を買う」路線に戻ってしまったヤンキースだが、買ってきた高額サラリーの選手たちの度重なる怪我、ステロイドによる出場停止、贅沢税問題など、さまざまなトラブルを抱えていて、その結果、予算はとてつもなく「硬直化」している。つまり、足りない選手を補強しようにも、自由に予算を使うことができないのである。
そして、おまけに悪いことに、予算の自由度がまるで無い中で、GMブライアン・キャッシュマンは、内野手やピッチャーのような「絶対的に不足しているポジション」の選手ではなく、外野手のような「既にダブついているポジションの選手」ばかり買ってくるのだから、まったくもって始末が悪い。
ステロイドのせいもあって、ホームランを量産する選手への風当たりは、いうまでもなく、きつくなり続けている。
最近のアンチ・ドーピングの流れを受けて、MLBでも大規模かつ執拗なドーピング検査が行われるようになったこともあるし、また、近年のデータ活用の発達で、打者の傾向が簡単にスカウティングされるようになってきたこともある。ヤンキースに限らずだが、ホームランを量産するスラッガーや主力先発投手など、長期高額契約選手のプレーに対するマークは、年々きつくなっていくばかりだ。
言うまでもないことだが、これまでステロイドを使って長打を量産してこれた選手が、近年の規制強化でステロイドが使えなくなったことで成績がガタ落ちした、ということもあるだろう。おおっぴらにならないだけだ。
こうした中、ジーター、リベラといった長年ヤンキースの骨組みとなってきた「構造材」には耐用年数の限界が見えてきている。
2012年は、Aロッド、グランダーソンなど高額サラリーの主軸打者の長期のスランプ、主力投手サバシアのストレートの球威低下、Aロッドのステロイド問題、あらゆる問題が表面化しかけたが、それでもヤンキースは、イバニェス、イチロー、カノーなど、一部選手の頑張りによって、かろうじて地区首位を拾った。
だが、翌2013年は、前のシーズン終盤で活躍をみせたイバニェスと再契約せず、またイチローを重用しないという、ピント外れのままのスタートとなり、さらに重い怪我でDL入りする主力選手が続出。また、補強ポイントを間違ったピント外れの選手補強が連綿と続くことで、2013年ヤンキースは結果的に「内野手は常に不足し、逆に、外野手は常にあり余っている状態」、「打力は足りないので補強が必要だが、かといって、投手力も補強されない、投打が両方壊滅する状態」、「補強した野手のポジションがあまりにもかぶり過ぎていて、どれだけ野手を補強しても同時には出場させられない」などという、アンバランスな状態になった。
せっかく好調期を迎える野手が出てきたとしても、好調期→起用法の変更→調子落ち→好調期→起用法の変更→調子落ち、という「ムダな繰り返し」の連続では、チームの得点力なんてものが安定するわけはない。
こうした「的確でない選手獲得を原因とする、度重なる起用法の変更」と「ジラルディの不安定な選手起用」は、2013ヤンキースにおけるひとつの「連続したワンセットの自己崩壊現象」であり、ヤンキース野手陣を常に不安定な状態におとしめる大きな原因のひとつになっている。
ベテランの多いチームにとって「意味のわからない不安定さ」はプラス要因にはならない。ヤンキースが2013年にやっている頻繁な起用法変更は、ベテランの競争意識を煽って成績を向上させるような代物では、さらさらない。
2014年〜
不透明なヤンキース
怪我をしてゲームに出られない主力選手、ピークを過ぎた選手と結んだ5年を超えるような長期契約に多くの予算が裂かれているバランスを欠いた予算配分により、来年以降もヤンキースのチーム予算の硬直化は避けられない。今後ヤンキースがとるべき対策が、どの程度の「深さ」なのか、誰もまだ測定していない。
August 02, 2013
イチローが7月29日タンパベイ戦で打った4安打に関連して、投手力によって首位争いに浮上したタンパベイでは、マイナーであるDurham Bullsで集中的に育て上げてきたピッチャーたちが「共通して、ストレートとチェンジアップを持ち球にしている」こと、そして「配球面でも、ストレートとチェンジアップ(またはカーブ)による緩急という、共通した特徴をもっている」ことを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年7月29日、タンパベイとヤンキースのマイナーの差。イチローが投手の宝庫タンパベイ・レイズから打った4安打。
トロピカーナで行われた7月31日のゲームで、アリゾナが、そのDurham Bulls育ちのジェレミー・ヘリクソン先発のタンパベイを、7-0という一方的スコアであっさり退治してみせたので、そのゲームの中身をちょっと確かめておきたくなった。
Arizona Diamondbacks at Tampa Bay Rays - July 31, 2013 | MLB.com Classic
以下に、このゲームで登板したタンパベイ投手のうち、Durham Bullsで育て上げられてきた生え抜き投手(または他チームでドラフトされたが、タンパベイでメジャーデビューした投手)がアリゾナに打たれたヒットの球種を箇条書きにしてみた。
ヘリクソンが「チェンジアップ」を打たれた2本の長打から生まれた序盤の失点が、このゲームの流れを決定づけているのが、なかなか面白い。(ジェイク・マギーは4シームで押すタイプ)
イチローは「チェンジアップをカットしながら粘り、最終的にタンパベイ投手陣が低めの4シームに頼るのを待って、4安打した」わけだが、アリゾナ打線はちょっと方針が違っていて、タンパベイ投手の特徴である「チェンジアップ」に焦点を絞って(特にジェレミー・ヘリクソンを)打ち崩しているわけだ。
1回表
プラド 二塁打
投手ヘリクソン
球種:チェンジアップ
3回表
チャベス 2ランHR
投手:ヘリクソン
球種:チェンジアップ
それにしても、興味深いのは、ヘリクソンがバッターに粘られても、粘られても、「徹底してストライクゾーン内で勝負しようとしていて、明らかなボール球を投げていないこと」だ。
これだけ様々な球種を、あらゆるカウントでストライクゾーンに投げられるできる能力は、タンパベイの誇る投手陣に共通する「コントロールの良さ」「基本性能の高さ」を示しているわけだが、これは同時に、彼らのある種の「融通の無さ」と、「ある種の弱点」を示してもいる。
イチローの4安打の記事でも、こんなことを書いた。
まぁ、これはあくまで想像でしかないが、ロジカルなデータ分析野球の大好きなタンパベイ監督ジョー・マドンとしては、ピッチャーの出す四球に代表されるような、「無意味なランナーを出して、自らピンチを招く行為」がとことん許せないのではないか、と思うのだ。
だからこそ、タンパベイでは、自軍のバッターには「たとえ低打率になっても構わないから、長打と四球を推奨するようなOPS的バッティング」を強要するのだろうし(その結果、貧打に陥っているわけだ)、逆に自軍の育てる投手陣に対しては「シングルヒットは構わない。だが、ホームランと四球だけは、なにがなんでも絶対に阻止しろ」というような「教育」を、マイナーで若い投手たちに徹底して教え込んでいるのではないか、と思うのだ。
だからこそ、アリゾナ戦もそうだが、対戦するバッターにしてみると、ある意味で「タンパベイ投手との対戦は楽だ」、といえる面が出てくる。
なぜって、ジョー・マドンの発明したロボットともいえるような「どこを切っても金太郎的な共通性」をもつ若いタンパベイ投手陣は、どんなカウントであっても、彼らがマイナーで鍛え上げられたコントロールの良さも手伝って、「打者に対して絶対に逃げ腰にならず、必ずストライクゾーン内で勝負してくれる」からだ。
これは、(能力のないバッターでは凡退の山を築いてしまうだろうが)才能あるバッターにしてみれば、ありがたいことだ。苦手な球種、打てそうになるコースをカットする技術さえあれば、「タンパベイの投手との対戦では、粘りこみさえすれば、ピッチャーはストライクを投げてくれるので、安心してバットを出せる」という面があるからだ。
野球という「駆け引きのスポーツ」では、投手はコントロールが良ければそれでいい、とか、ストライクゾーンで勝負していればそれで万能とか、いえるわけではない。いくらタンパベイにいい投手が揃っていても、対応策は必ずある。
Damejima's HARDBALL:2013年7月29日、タンパベイとヤンキースのマイナーの差。イチローが投手の宝庫タンパベイ・レイズから打った4安打。
トロピカーナで行われた7月31日のゲームで、アリゾナが、そのDurham Bulls育ちのジェレミー・ヘリクソン先発のタンパベイを、7-0という一方的スコアであっさり退治してみせたので、そのゲームの中身をちょっと確かめておきたくなった。
Arizona Diamondbacks at Tampa Bay Rays - July 31, 2013 | MLB.com Classic
以下に、このゲームで登板したタンパベイ投手のうち、Durham Bullsで育て上げられてきた生え抜き投手(または他チームでドラフトされたが、タンパベイでメジャーデビューした投手)がアリゾナに打たれたヒットの球種を箇条書きにしてみた。
投手:ジェレミー・ヘリクソン
チェンジアップ(二塁打)
カーブ
カットボール(タイムリー)
チェンジアップ(2ランHR)
チェンジアップ
4シーム
チェンジアップ
投手:アレックス・トーレス
チェンジアップ
投手:ジェイク・マギー
4シーム(タイムリー)
ヘリクソンが「チェンジアップ」を打たれた2本の長打から生まれた序盤の失点が、このゲームの流れを決定づけているのが、なかなか面白い。(ジェイク・マギーは4シームで押すタイプ)
イチローは「チェンジアップをカットしながら粘り、最終的にタンパベイ投手陣が低めの4シームに頼るのを待って、4安打した」わけだが、アリゾナ打線はちょっと方針が違っていて、タンパベイ投手の特徴である「チェンジアップ」に焦点を絞って(特にジェレミー・ヘリクソンを)打ち崩しているわけだ。
1回表
プラド 二塁打
投手ヘリクソン
球種:チェンジアップ
3回表
チャベス 2ランHR
投手:ヘリクソン
球種:チェンジアップ
それにしても、興味深いのは、ヘリクソンがバッターに粘られても、粘られても、「徹底してストライクゾーン内で勝負しようとしていて、明らかなボール球を投げていないこと」だ。
これだけ様々な球種を、あらゆるカウントでストライクゾーンに投げられるできる能力は、タンパベイの誇る投手陣に共通する「コントロールの良さ」「基本性能の高さ」を示しているわけだが、これは同時に、彼らのある種の「融通の無さ」と、「ある種の弱点」を示してもいる。
イチローの4安打の記事でも、こんなことを書いた。
ヤンキースのブルペン投手は「やたらとボール球のスライダーを振らせたがる」わけだが、どうやらタンパベイのピッチャーは「あくまでストライクを積極的にとりにいくピッチング」が信条のようだ。
まぁ、これはあくまで想像でしかないが、ロジカルなデータ分析野球の大好きなタンパベイ監督ジョー・マドンとしては、ピッチャーの出す四球に代表されるような、「無意味なランナーを出して、自らピンチを招く行為」がとことん許せないのではないか、と思うのだ。
だからこそ、タンパベイでは、自軍のバッターには「たとえ低打率になっても構わないから、長打と四球を推奨するようなOPS的バッティング」を強要するのだろうし(その結果、貧打に陥っているわけだ)、逆に自軍の育てる投手陣に対しては「シングルヒットは構わない。だが、ホームランと四球だけは、なにがなんでも絶対に阻止しろ」というような「教育」を、マイナーで若い投手たちに徹底して教え込んでいるのではないか、と思うのだ。
だからこそ、アリゾナ戦もそうだが、対戦するバッターにしてみると、ある意味で「タンパベイ投手との対戦は楽だ」、といえる面が出てくる。
なぜって、ジョー・マドンの発明したロボットともいえるような「どこを切っても金太郎的な共通性」をもつ若いタンパベイ投手陣は、どんなカウントであっても、彼らがマイナーで鍛え上げられたコントロールの良さも手伝って、「打者に対して絶対に逃げ腰にならず、必ずストライクゾーン内で勝負してくれる」からだ。
これは、(能力のないバッターでは凡退の山を築いてしまうだろうが)才能あるバッターにしてみれば、ありがたいことだ。苦手な球種、打てそうになるコースをカットする技術さえあれば、「タンパベイの投手との対戦では、粘りこみさえすれば、ピッチャーはストライクを投げてくれるので、安心してバットを出せる」という面があるからだ。
野球という「駆け引きのスポーツ」では、投手はコントロールが良ければそれでいい、とか、ストライクゾーンで勝負していればそれで万能とか、いえるわけではない。いくらタンパベイにいい投手が揃っていても、対応策は必ずある。