October 2014

October 31, 2014

6フィート5インチ(約196センチ)もある大柄なマイク・モースは、動作の感じからしても、かつてのシアトル時代、ナッツ時代の印象からしても、不器用なタイプだったはずだが、その彼が2014ワールドシリーズ第7戦でみせた「2度にわたる流し打ち」、特に、2回表無死満塁での犠牲フライが、後続打者の打点にもつながる「ライトへのフライ」だったことには、正直痺れた。既にツイッターには書いたことだが、記録として残したいので、もう一度書く。


「無死満塁でのライトへの犠牲フライ」は、サードランナー生還はもとより、セカンドランナーもタッチアップできるため、「1死1、3塁」となって、次打者が続けて犠牲フライを打てば2点目追加も期待できる。これが「レフト犠牲フライ」なら、残るシチュエーションは「1死1、2塁」だから、話が違ってくる。
そんな理屈くらい、誰でもアタマではわかっていても、とかくパワーで押したがる打者の多いMLBだ、簡単には実現できない。フルスイングで変化球をひっかけて内野ゴロ、ダブルプレー食らっている間に1点だけ入って2死3塁、点が入らないよりはマシ、そういう大雑把さがMLBにはある。

無死満塁だからこそホームランを狙っていいという豪快な考え方、無死満塁だからこそ最低でも1点はとるバッティングをすべきというタイトな考え方、野球にはいろいろな考え方がある。貯蓄指向が国によって大きく違うのと同じで、案外国民性がでやすい。


マイク・モースは、得点効率の良さ、相手に与えるプレッシャーの大きさでレフトフライとは比較にならない「ライト犠牲フライ」を打つことを選んだ。(ちなみに彼は「右投手のほうが得意な右打者」であり、ジェレミー・ガスリーも、ケルビン・ヘレラも、右投手だ)

こういうことを細かい野球と呼ぶか、高い得点効率と呼ぶか、ラベルはどうでもいいのだが、少なくとも、マイク・モースのようなタイプの選手にさえ、見栄を捨ててチームに貢献しようと思わせる「空気」がチームにあることが(移籍当時のモース自身も「フィールドにいる選手の誰もが、いつもなにかしている」と新天地の空気を語っている)、サンフランシスコ・ジャイアンツの5年で3度のワールドシリーズ優勝に繋がっていることは間違いない。

ワールドシリーズ優勝という収穫。その大きさを考えるなら、「ライト犠牲フライ」はけしてスモールでなく、むしろ「ビッグプレー」だ。その「大きさ」に気づかないのは、その人間の小ささのせいであって、野球の大小の問題ではない。


2014WS第7戦2回表 モース 犠牲フライ2014WS第7戦2回表
マイク・モース
ライトへの犠牲フライ
投手:ジェレミー・ガスリー(右腕)
San Francisco Giants at Kansas City Royals - October 29, 2014 | MLB.com Classic

2014WS第7戦4回表 モース ライト前タイムリー2014WS第7戦4回表
マイク・モース
ライト前タイムリー
投手:ケルビン・ヘレラ(右腕)

ちなみに、あくまで蛇足なのだが
カンザスシティの右の速球派リリーバー、ドミニカのケルビン・ヘレラは、今シーズンのRISP(得点圏)場面で、93人の打者に被打率.172と、十分すぎるほどのスタッツを残しており、また70イニング投げてホームランを1本も打たれていない。
ところが、RISPシチュエーションをもっと詳しく調べてみると、ヘレラは「満塁」と「1、3塁」が非常に苦手で、場合によっては被打率が3割を越えてしまっているのだ。

大雑把にスタッツを眺めていると、「ケルビン・ヘレラは得点圏にランナーがいてもまったく動じないリリーバー」とだけ、みなしてしまう。だが彼が得意なRISPシチュエーションというのは、あくまで、「1、2塁」、「2塁」といった「よくある場面」だけであって、どういうわけか「サードにランナーがいる場面」を非常に苦手にしているのだ。


野球において発生数の多いRISPシチュエーションといえば「1、2塁」「2塁」だから、問題ないといえば問題ないと思われるかもしれない。

だが、2014ワールドシリーズ第7戦の4回表にカンザスシティ監督ネッド・ヨーストがピッチャーを先発ジェレミー・ガスリーからケルビン・ヘレラに変え、そのヘレラがマイク・モースに決勝タイムリーを浴びてしまった場面というのは、ヘレラが苦手としている1、3塁の場面だった。

また、マイク・モースは右打者だが、右投手を得意にしている右打者なのだ。キャリア通算でも右のほうが打率がいいし、2014年に至っては右.293に対して左.248と、右投手との対戦のほうがはるかに打率がいい。
カンザスシティは綿密で機動力のある野球をしていると思われがちだが、こうした細かい点を考慮しているわけではないのだ。


正直、このワールドシリーズでのネッド・ヨーストの采配の動揺ぶりには首をかしげる点がいくつか感じられた。例えば打順がそうで、アレックス・ゴードンを上位に固定するとか、打てる選手をもっと上位に固めて起用していたらシリーズの結果は違っていたかもしれない。
数年前のテキサスのワールドシリーズで、ピンチの場面でのリリーフ起用の酷さにみられた「ロン・ワシントンのうろたえぶり」と、ある意味同じ失態といってもいい。
ワールドシリーズでのテキサスについては、ロン・ワシントンさえいなかったら結果は違っただろうにと何度も思ったものだが(苦笑)、ネッド・ヨーストがこれからカンザスシティでどういう存在になるかはわからないが、最近テキサスを辞めたロン・ワシントンに一度会って、なにかアドバイスをもらったほうがいいかもしれないとすら思うのである(笑)

ワールドシリーズはサンフランシスコ・ジャイアンツが勝ち、21イニング1失点のマディソン・バムガーナーがシリーズMVP。終わってみれば順当な結果だ。おめでとう、バムガーナー。

第1戦の球審は案の定、バムガーナーが非常に相性の悪いJerry Mealsだったが、彼がまったく動じることなくカンザスシティ打線を抑えこんだ時点で、このワールドシリーズ、すでに「勝負あり」だった。
参考記事:2014年10月14日、ワールドシリーズ担当アンパイア7人と、両チームのエースとの相性だけからみた、2014ワールドシリーズの勝者。 | Damejima's HARDBALL


それにしても第7戦、1点差の9回裏2アウト3塁での「ヴェネズエラの悪球打ち(英語ではbad-ball hitter)魔人サルバドール・ペレス」と、サンフランシスコの怪童バムガーナーとの「悪球勝負」は面白かった(笑)


初球

ペレスが例によってアウトコース高めの「とんでもないボール球」をスイングしてきたことで、怪童同士の対決は始まった。

2014WS 第7戦 9回裏 ペレスvsバムガーナー2014ワールドシリーズ第7戦
スコア:SFG 3-2 KCR
9回裏2死3塁
打者:サルバドール・ペレス
投手:マディソン・バムガーナーSan Francisco Giants at Kansas City Royals - October 29, 2014 | MLB.com Classic

2014WS第7戦 9回裏 ペレスvsバムガーナー出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool


「初球に、ペレスがアウトコース高めのとんでもないボール球を空振りしたこと」は、単なる偶然ではない。以下の彼のHot Zoneデータを見てもらうとわかる。

KCRサルバドール・ペレス 2014Hot Zone

上は「全投手、全球種のデータ」だが、これをさらに「スピードボールのみ」に絞り込んでみる。すると、こうなる。

KCRサルバドール・ペレス 2014Hot Zone/Fastball

ボールゾーンが真っ赤だ。
こんなバッター、見たことない(笑)

ストライクゾーン内部のかなりの面積が青くなっている(=ストライクを振ると凡退が多い)にもかかわらず、ゾーンの外、特にアウトコースが真っ赤に染まっている。ボール球をかなりの割合でヒットにしていることがよくわかる。バッターとしてのサルバドール・ペレスが、いかに「変態」かが、よくわかるデータだ(笑)

さらに注目してもらいたいのは、「ストライクゾーンの外側どころか、内側、さらに上下にも、青色や赤色でカラーリングされたエリアがあること」だ。
つまり、ペレスは「ボール球のスピードボールなら、インアウト、高低、まるで関係なく、容赦なく振ってくるバッター」であり、さらにいえば、「アウトコースのボール球(特にスピードボールを)をヒットにすることが、ストライクを打つことより得意な、ありえないバッター」なのだ(笑)

だからこそ、9回裏、1点差の2死3塁で、バムガーナーが初球に投げた「アウトコースのボールになるスピードボール」は、ペレスにしてみれば、「『俺のど真ん中』にキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」という意味になる(笑) よくまぁ、同点タイムリーを食らわなかったものだ。


振り返ってみると、バムガーナーはこのワールドシリーズで21イニングも投げているが、失点は第1戦で打たれたソロホームランのみ。その唯一無二の失点を喫した相手こそ、ヴェネズエラの怪人、サルバドール・ペレスだ(笑)
打ったのは「インコースのストレート」だが、データでみるとやはりストライクゾーンを「外れて」いる。MLBの球審は右打者のインコースをとらない人が多いから見逃せばボールだろうが、ペレスにとっては「ど真ん中のストライク」だったわけだ(笑)
打球はレフトスタンドにあっさり消えていった。



2014WS第1戦 ペレスHR(投手バムガーナー)2014ワールドシリーズ第1戦
ペレス ソロホームラン
投手:バムガーナー


2球目以降

香水(女性用品店Victoria's Secretのボディスプラッシュらしい)をつけてゲームに臨んでいる理由を聞かれて「球審をいい気持ちにして酔わせるためさ」なんて答えるわ、9月のデトロイトとの大事な首位決戦で帰塁せずタッチアップしてアウトになってゲームに負けるわ、WS第2戦ではSFGのリリーフ、ハンター・ストリックランドとケンカするわ、まぁ、やりたい放題な自然児がサルバドール・ペレスなのだが(笑)、そのヴェネズエラの怪人を抑えないと、サンフランシスコ・ジャイアンツは3度目のワールドシリーズ制覇にたどりつけない。

そこでバムガーナー、
何をしたか


悪球打ち魔人ペレスが振りたくなりそうな
「悪球」ばかり投げた
、のである(笑)


ペレスもペレスだが、
それを越えていくバムガーナーもバムガーナーだ。

彼も、キャッチャーのポージーも、たぶんペレスが「悪球打ちバッターであること」くらい、わかっている。わかっているなら、初球に「ボール球(=ペレスのストライク)をあえて投げなくても、「普通に、ストライクゾーン内で勝負」でもよかったはずだ。だがバムガーナーは、あえて「ペレスの大好きなボール球」を投じ続けて勝負することにしたのである。

よほど、唯一のホームランを打たれたのがしゃくにさわっていたのかもしれないが(笑)、すでに一度ボール球をホームランされているというのに、あとアウトひとつでワールドシリーズ制覇だが、ランナーが帰れば同点、延長戦突入などという緊迫した場面で、どこからそういうケタ外れの度胸、そういう奇想天外な発想が沸いて出てくるのか、まったくもって理解できない(笑)

ストライク勝負には危険性もある。ついうっかり手元が狂って球がボールゾーンにいってしまうと、「魔人ペレス・ストライクゾーン」(笑)に入りかねないからだ。
だが、だからといって、「ペレスの苦手な高めのボールゾーン」に投げたつもりが、うっかり「ペレスの大得意なアウトコースのボールゾーン」にいかないと、誰が保障できる(笑)なんせ、相手は普通の計算などまるで役に立たない「香水好き魔人」なのだ。

こんな「悪球配球」、よほどの度胸がないと続けられっこない。ストライクを投げる訓練は誰でもやるが、ボール球、それも、まちがいなく打たれるボール球にならないように気をつけながら、打たれないボール球をきわどく投げ続ける訓練など、誰もやるわけがない(笑)


マンガでしか見られないような勝負を現実の野球でやってのけ、ヴェネズエラの香水魔人すらねじふせた、"Mad Bum"、マディソン・バムガーナー。たぶんこの人なら、たとえ宇宙人と野球をやっても完封すると思う(笑)

October 28, 2014

オールドスクール
現代のデータ分析をわかってない旧式な野球
ヴェテランを重視し過ぎ

これが、これまでの典型的なサンフランシスコ・ジャイアンツGM Brian Sabean評だ。

2010年以降ワールドシリーズに1年おきに3度も登場し、3度とも勝っていながら、いまだに「バリー・ボンズがMLBから消去されて以降に、ジャイアンツのチームカラーを一新したBrian Sabeanの仕事ぶり」を評価したがらないメディアは少なくない。
さらにいえば、ポスト・バリー・ボンズ時代のSFGの「独特の勝ちかた」が好きになれないライター、ジャイアンツはデータ軽視のオールドスクールの「はず」だからSFGは嫌いと勝手に思い込んでいる「データ分析出身ライター」もけして少なくない。

だが現実を見てみれば、2014ワールドシリーズを戦っているSFGの内野はキャッチャー含めて全員が生え抜きの若手で構成されている。Brian Sabeanがヴェテラン重視だった時代は、はるか昔に終わっているのである。
また、データを重視しないという風評についても、2012年ワールドシリーズ最後の打者となったミゲル・カブレラを、スライダーピッチャー、セルジオ・ロモがストレートで見逃し三振させた場面について書いた記事でわかるように、SFGはMLB屈指の「相手チームの得意分野、やりたいことを探りあて、封じ込める、卓越したスキルをもったチーム」だと思う。

それでも、Brian Sabeanを「オールド」と決め付けたがる風潮は、ジャイアンツのワールドシリーズ視聴率に影響するほど(笑)根強い。
原因はおそらく、Brian Sabeanが1990年代にヤンキースで、スカウトとして後に「コア4」と呼ばれることになるヤンキースの将来の中心選手(ジーター、リベラ、ポサダ、ペティット)のような若い有望選手をまとめて獲得した仕事と、2000年代後半のジャイアンツGMとしての仕事の両方を、ほとんど認識しないまま批判ばかりしてきた人間がメディアに多いせいじゃないだろうかと思う。


だが、このところ少し風向きが変わってきた。

というのは、かつてはまるで評価されなかったヤンキース・スカウト時代の実績に「ごく一部のライター」(それもあまり有名でなく、野球専門サイト所属でもないライター)が気づいて(笑)、彼を持ち上げる記事を書き始めているからだ。
例:NY TImes Brian Sabean, in Front Office, Is a Giant Among Giants - NYTimes.com
Brian Sabean's formula for the Giants: Tough, gritty, determined - San Jose Mercury News

まぁ、たしかに、「育成にとんと興味を示さないヤンキースに、コア4をスカウトしてきて、1990年代末の黄金時代を築いたこと」についても、そして「ジャイアンツGMとして、2000年代後半のドラフトで次世代の若手を揃え、ポスト・バリー・ボンズ時代の新しいチームカラー導入に成功して、2010年以降ジャイアンツ黄金時代を築いた」ことにも、Brian Sabeanが関わったのは確かだ。

だが、だからといって、「ありとあらゆることが、Brian Sabeanの功績だ」という話か、というと、それはちょっと言い過ぎだ。

早計な決め付けが大好きなメディアに「全部が全部、Brian Sabeanの功績」だということにされてしまう前に、どの時代に、誰が、どんな役割で仕事をし、その黄金時代を支えたのか、わかる範囲でだが、書いておこうと思う。けしてブログ主の得意分野ではないが、どうせ誰もやらないだろう(笑) 多少間違いや不十分さがあるかもしれないが、資料を後世に残さないよりマシだ。

90年代末ヤンキース黄金期を用意した人物たち

Gene Michael(GM)
関連記事:2013年8月5日、「生え抜きの成長、黄金期、ステロイド、そして衰退」 正しいヤンキース30年史。 | Damejima's HARDBALL
詳しくは上のリンク記事を読んでもらいたいが、Gene Michaelは、ヤンキース監督として、1981年に「80年代における唯一のワールドシリーズ進出」を果たした人物であると同時に、1990年にヤンキースGMとなって以降、92年にバック・ショーウォルターを監督に据え、彼とともに「若い人材を育て上げる」という、それまでのヤンキースになかった「新しいチーム編成方針」を創造した人物でもある。彼の素晴らしい業績は、1990年代末のヤンキース黄金期となって見事に結実した。
黄金期のキープレーヤー、バーニー・ウイリアムスがオーナーシップの気まぐれによってトレードされそうになったとき、ショーウォルターとともに阻止したことでも有名。

Buck Showalter(監督)
関連記事:2012年4月29日、長年の課題だった投手陣再建を短期で実現しア・リーグ東地区首位に立つボルチモア (1)ボルチモアはどこがどう変わったのか? | Damejima's HARDBALL
現職は、2010年就任のボルチモア・オリオールズ監督。2014年地区優勝。かつてボストン黄金期の選手層を用意した実績をもつ現GMダン・デュケットとともに、パワーだけはあるがクオリティがあまりに雑で、低迷続きだったボルチモアを、とうとう地区優勝できるチームに変身させることに成功した。当初のボルチモアの投手コーチは元シアトルのリック・アデア。
このショーウォルターが、1990年代にヤンキースの若手を、2000年代初期にテキサスの若い才能を整備したことによって、これら2つのチームが優勝争い常連チームになる基礎を築いたことは明らか。

Brian Sabean(スカウト)
現在はサンフランシスコ・ジャイアンツGMだが、1990年代はGene Michael時代のヤンキースでスカウトをしていた。GM・Gene Michaelの「若手育成路線」を支え、後に「コア4」と呼ばれることになるデレク・ジーターマリアーノ・リベラホルヘ・ポサダアンディ・ペティットなどとの契約をまとめて、ヤンキース黄金時代の基盤を築くことに貢献。

Neil Allen(AAA・Columbus Clippersの投手コーチ)
関連記事:2013年7月29日、かつてColumbus ClippersのピッチングコーチだったNeil Allenが支えるタンパベイ投手陣と、ヤンキースのマイナーとの差。イチローが投手の宝庫タンパベイ・レイズから打った4安打。 | Damejima's HARDBALL
長くヤンキースのさまざまなマイナーで投手育成の要職をこなしてきた人物。2003年、04年、06年には、コア4を生んだヤンキース傘下の伝説のマイナー、Columbus Clippersの投手コーチをつとめた。マイナー時代の王建民にシンカーを教えたのも、この人らしい。
ブライアン・キャッシュマンの2000年代ヤンキースが、Gene Michaelが築いた「若手育成路線」を捨て、選手編成方針を「FA選手を買う」方向へ転換したため、ヤンキースは、1997年以降28年間も傘下に置いてきたColumbus Clippersを2006年に手放してしまう。
それをきっかけにNeil Allenもヤンキースを離れ、翌2007年にタンパベイのマイナー、Durham Bullsの投手コーチに就任した。Neil Allenとヤンキースとの絆は断たれ、その一方でタンパベイに投手陣躍進の機会が訪れた。
Columbus Clippersを手放したこと、そして、Neil Allenのようなマイナーの経験あるコーチを失ったことは、ヤンキースの2000年代以降のファームシステムが「80年代の貧弱さ」に戻ることを意味しており、2000年代以降ヤンキースの若手の才能がまったく開花しなくなったことの「謎解き」がここにある。

2010年代ジャイアンツ黄金期を用意した人物たち

Brian Sabean(GM)
データ:San Francisco Giants 1st Round Picks in the MLB June Amateur Draft | Baseball-Reference.com
スカウト出身で、1996年以降、現職。バリー・ボンズなどによる「90年代末のステロイド・ホームラン時代」をモロに経験したGMでもあるが、2003年、2012年のSporting News Executive of the Yearを受賞したことでわかるように、2000年代以降はチーム編成の路線を変更、ドラフトで最も実績を挙げたGMのひとりとなった。
2002年マット・ケインに始まり、2006年ティム・リンスカム、2007年マディソン・バムガーナー、2008年バスター・ポージー、2011年ジョー・パニックと、2010年代のジャイアンツ黄金期に主力選手として活躍する若手選手を指名し続けてきた。彼ら全員がそれぞれの年度における全米1位選手ではなかったところに、セイビアン独特のこだわりと目のつけどころの良さが感じられる。
もし世間がこれまで言ってきたように、この人が「まったく若手をかえりみない、ヴェテラン重視なだけのGM」だったとしたら、ジャイアンツの5シーズンで3回のワールドシリーズ制覇などという輝きの季節は訪れなかった。

Bruce Bochy(監督)
近年のボウチーの偉大な功績については、もう細かくあれこれ書く必要はないので、短く書く。
キャッチャー出身。フランス生まれで、フロリダ育ち。GM Sabeanとは家族を含めた親交があり、ボウチーの妻は、Sabeanに息子ができたときのドゥーラ(付添い人)であり、名づけ親でもある。
いわずとしれた、ポストシーズンの魔術師。名監督なのは既に間違いなく、このまま実績を積み重ねていけば、いずれ殿堂入りまであるだろう。

John Barr(スカウト担当重役、球団副社長)
データ:San Francisco Giants: Front Office
ニュージャージー出身。球団重役だが、GM就任前のBrian Sabeanと同じく、スカウト専業のキャリアを歩んできたスカウトのプロフェショナルでもある。1984年メッツを皮切りに、1989-90ボルチモア(マイク・ムッシーナ)、1991-93サンディエゴ、1994-97メッツ(AJバーネット、テレンス・ロング)、1998-2007ドジャース(ラッセル・マーティン、エドウィン・ジャクソン、ジョナサン・ブロクストン)を経て、サンフランシスコにやってきた。
ジャイアンツでのキャリアは6年目。スカウト担当として、2008年バスター・ポージーのほか、ブランドン・クロフォードブランドン・ベルトなどの獲得に携わった。2009年にProfessional Scouting Hall of Fameに選出。


注:Sabeanという名前の「読み」について

Brian Sabeanという名前は、マーク・テシェイラやブライアン・マットゥースほどではないにしても、日本語で表記するのが難しい名前のひとつではある。
このブログでは、耳ざわりがいいという理由で「ブライアン・セイビアン」としているが、もし原音に忠実にカタカナで書こうと思うなら、本来は「サビアン」と書くのが最も近いだろうし、歴史的にも辻褄があう、とは思う。(ちなみに彼自身はニューハンプシャー生まれだが、アメリカでSabean姓をもつ人たちの大多数が1940年代以降のマサチューセッツ(=ニューハンプシャーの隣の州)に記録があることから、近い先祖がマサチューセッツの移民の出である可能性は高い)

よく彼の名前を「サビーン」と表記したがる人がいるが、何を根拠にそんな表記が出てきたのか知らないが、それについては以下の理由から同意できない。


欧米人の名前は「聖書に起源をもつ名前」が多数あるが(例:ジョン=イエスの弟子ヨハネ、マイケル=大天使ミカエル)、旧約聖書に「シバの女王」という有名な人物が登場する。「シバ」というのはアラビア半島南西(今のイエメンあたり)に栄えた古代国家の名前で、表記は、英語なら "Sheba(シバ)" だが、ヘブライ語の英語転写では "Saba"(サバ)となる。
「Saba国の人」あるいは「Saba国の言語」を意味する言葉として、"Sabaeans" あるいは "Sabeans" という単語があり、その発音をカタカナで無理に表記してみると「サビアンズ」という感じになる。

"Sabeans" という言葉の、「接尾辞 -an の読み」は、「American」を「アメリカン」、「Canadian」を「カナディアン」、「Hawaiian」を「ハワイアン」と発音する原則と同じで、「アン」と読む。

だから、もし仮に "Sabean" という名前が旧約聖書由来だとすると、「サビアン」とか、「セイビアン」とか読む可能性はあっても、「サビーン」とはならない。(ただし、残念ながら "Sabaeans" あるいは "Sabeans" が、Brian Sabeanの姓の由来かどうかまでは、完全には確かめられなかった)

別資料:
Sabean Name History, Name Meaning and Family Crest
Sabean is an ancient Anglo-Saxon surname that came from Sabinus and Sabine.
この資料は「Sabeanという名前」のオリジナルの形はSabinusあるいはSabineであって古代ローマに起源があるとしているが、ブログ主は賛同できない。
たしかに、ユリウス・カエサルの有名な手記『ガリア戦記』にSabinus(サビヌス)という名の人物が登場するし、古代ローマにSabine(サビーヌ)という地名もある。
だが、古代ローマの姓の末尾につく「-us」という接尾辞は、「出身地」あるいは「出身家系」を意味するケースがあるため、Sabinusという名前をさらに遡ることができるはずであり、旧約聖書に登場するSaba(サバ)という地名、あるいは、Sabaゆかりの家系と無関係だとは必ずしも断定できないのである。


October 22, 2014

2012シーズンを最後に引退したMLBアンパイアTim Tschidaが、引退理由のひとつとして、近年のアンパイアの仕事が激務になってきていること、自らの体力面に不安があることを挙げ、「1試合あたりの投球数が昔より激増し、両軍あわせて『300球』にも達している」ことを指摘していたのを、ふとしたことで思い出した。

When I came in, the average number of pitches in a major league game was 200. Today, it's 300.
「俺がメジャーのアンパイアになったときは、1ゲームあたりの平均投球数は200だった。今じゃアンタ、300さ。」

Former umpire Tim Tschida 'having a ball' as prep assistant coach - TwinCities.com

もちろん、投球数激増の原因は、野球のオフェンスが非常にSelectiveになったことにある。

つまり、「ステロイド使用の抑制でホームラン数が激減する一方、セイバーメトリクスなどデータ分析の普及が進んだことによって、四球や出塁率の評価が高くなった、というより、『無意味なほど過大評価されだした』ことで、各チームはバッターにやたらと無駄なスイングの抑制や、球を見極めるバッティングを要求しだした」のである。

データ野球にはいまだに未成熟、未完成な部分が多々ある。そのことも理解しないまま、データ分析手法を「生半可に導入した」チームが増えれば、OPSのような「デタラメな古い価値基準」で選手の価値を評価したり、四球の価値を実際よりはるかに過大評価するハメになる。
ときどき思い出したようにホームランを打って、あとは四球になるのを待つだけ、ただそれだけの「アダム・ダン的、超低打率パワー系ヒッター」が過剰増殖する結果を生んだのも、当然の結果というものだ。

それは、野球本来の面白さではない。

関連記事:2014年10月20日、やがて悲しきアダム・ダン。ポスト・ステロイド時代のホームランバッター評価の鍵は、やはり「打率」。 | Damejima's HARDBALL


野球のオフェンスが 「本当に得点効率向上に貢献するのかどうかわからないほど、あまりにも過剰にSelectiveになった」 結果、「投手が打者ひとりあたりに投げる球数」は多くなり、「先発投手の投げるイニング数」は短くなり、セットアッパーの負担と責任も重くなった
それだけではない。 試合をさばくアンパイアの負担も非常に増え、さらには、ゲーム進行が遅くなったり、試合時間が長くなったりしたことで観戦するファンの負担も増やした可能性もある。

(ちなみに今シーズンから始まったインスタント・リプレイの適用範囲拡大も、試合時間を長くする要素にはなっている。だが、MLBファンはそれを受け入れており、『ファンにとって試合時間は短ければ短いほどいい』とは、けして断定できない。ヤンキースやレッドソックスの試合進行が遅すぎるという批判が100年前から既にあったことからもわかるように、ゲーム進行スピードの議論は今に始まったことじゃない。
参考記事:2011年7月5日、ゲームの進行が遅いとクレームをつけた最年長ベテランアンパイア、ジョー・ウエストに、ジョナサン・パペルボンが放った"Go Home"の一言。 | Damejima's HARDBALL


過去をふりかえると、「先発投手が125球以上投げた試合」は、1990年代には「のべ100数十試合」もあった。だが2000年代以降に激減。近年では20を切るシーズンも珍しくない。
先発投手が完投しないのはもはや当たり前。先発、セットアッパー、クローザーと、投手分業システムが確立した一方で、「長いイニングを投げられる、タフで怪我の少ない先発投手」も激減した。

そして、投げられるイニング数が短くなっているだけではなく、先発投手が長期DL入りや肘や肩の手術なしに、健康な状態で投げられる期間も、ますます短くなろうとしている。

1チーム1試合あたりの平均投球数
The average number of pitches thrown per game is rising ≫ Baseball-Reference Blog ≫ Blog Archive
1980年代末以降の投球数の増加 via Baseball Reference

1試合で125球以上投げた先発投手の「のべ人数」
(1996-2007)

125球以上投げた先発投手のべ人数1996-2007
引用元:
Count on it - MLB - Yahoo! Sports Data by Jeff Passan, Yahoo! Sports 2006

1試合あたり105球以上投げた先発投手の顔ぶれ(2008-2012)
1試合平均105球以上投げる先発投手の数 2008―2012


1チームの平均投球数「約150球」のうち、先発投手の投球数はだいたい84球から100球いかないくらいで、「平均92球前後」くらいらしいが、先発投手のP/IP(=1イニングあたりの投球数)が、良い投手で「14から15」、そこそこの投手で「16から17」であることを考えると、「92球」という球数は、だいたい「6イニング」という計算になる。
となると、総投球数「150球」から「先発投手の6イニングの総投球数、90ちょっと」を引いた「50から60球前後、3イニング」はブルペンに頼ることになる。
1チームあたりの平均総投球数=150球程度
先発投手90球ちょっと(=約6イニング)
-------------------------------------------
引き算によるセットアッパー+クローザーの負担
=50〜60球
=約3イニング
=2人の勝ちゲームのセットアッパー+1人の優秀なクローザー
=6回までにリードしておける攻撃態勢

「ブルペンが50球〜60球で、3イニングを消化する」ということは、「1イニングあたり、17〜19球で終わりたい」という意味になるから、計算上「セットアッパーが、バッター1人当たりに投げてもよいと考えられる球数」は、理想的には「4球以内」、「5球」なら普通で、多くても「6球」まで、「7球」では投げ過ぎ、ということになる。フルカウントなんて、もってのほかだ。

クリフ・リーが打者にストライクをやたらと投げるピッチャーであることや、フィル・ヒューズがヤンキース時代には「打者を追い込んでからの勝負があまりに遅いダメ・ピッチャー」だったのが、ミネソタ移籍後「勝負の早いピッチャー」に変身したことでエースとして大躍進を遂げたのには、やはりこの「過剰にSelectiveな現代野球」を生き残る戦略として、大きな意味があるわけだ。

せっかく打者を追い込んだのに、その後、ボールになる変化球(例えば、アウトコース低めのボールになるスライダーやシンカー。いわゆる釣り球)ばかり、だらだら投げ続けて、自らカウントを悪くするようなワンパターンな配球は、(例えばアダム・ジョーンズや、調子の悪いときのジョシュ・ハミルトンのように、追い込んでアウトローさえ投げておけば簡単に凡退がとれるタイプの打者との対戦を除くと)今のMLBでは意味がない。
ヤンキースが典型だが、投手陣を見ていて「勝負の遅いピッチャーだらけだ」と感じるということは、そのチームの投手コーチに現代野球の目指すべきベクトルを感じ取る嗅覚がない、という意味でもある。

関連記事:
2014年9月21日、フィル・ヒューズ自身が語る「フルカウントで3割打たれ、26四球を与えていたダメ投手が、被打率.143、10与四球のエースに変身できた理由」と、ラリー・ロスチャイルドの無能さ。 | Damejima's HARDBALL

カテゴリー:クリフ・リー (ビクター・マルチネス関連含む) │ Damejima's HARDBALL

だが、いうまでもなく現実の野球は計算どおりになどいかない。
近年の野球のオフェンスが、非常にSelective、つまり、やたら「球を見る」ようになってきていて、ひとりのバッターをうちとるのに昔より多くの球数が必要になってきているにしても、人材不足の昨今、優秀なブルペンを3人揃えてチームに囲い込んでおくことは容易ではない。
少ない球数でサクッとイニングを終わらせてくれるような、頼りになるセットアッパー2人と優秀なクローザーを揃えておかなければならないことくらい、どこのチームでもわかっている。
そういう投手はどこのチームだって欲しいわけだが、実際には不完全なブルペンのまま戦わなければならないチームも多い。


そういえば最近、ローテーションを6人体制にして中4日より長い登板間隔にすべきだ、なんて議論があるが、賛成するにしても反対するにしても、「先発投手の負担軽減」だけしか議論しないのは根本的に間違っている。

なぜって、「先発投手の負担」が従来より重くなっている原因のひとつが、投球数そのものが昔の1.5倍にも増加したことだとしたら、その影響が及ぶ範囲は、先発投手だけでなく、ブルペン、アンパイア、ファンに至るまで、「野球全体に及ぶ問題」だからだ。
バッテリーが早い勝負を心がけた戦略的な配球をするような攻撃的ディフェンスへの戦術転換の必要性、技術的進歩の必要度は、ますます高まっているはずなのに、今後のゲーム戦略を何も議論せず、また、アンパイアの疲労軽減対策や、ゲームの無駄な部分を省き、中身を濃くしてファンをより楽しませていく手法の検討もせず、ただローテ投手に必要な休養の長さだけを議論するのでは、意味がない。


ブログ主は無駄に球数を投げる雑な野球が心の底から嫌いだ。

「球数」が野球というゲームの構造に対して持つ「意味」は深い。「球数」は、「ゲーム支配力」であり、「プレー精度の証」であり、「ゲームとしての面白さ」そのものを決定づける要因のひとつでもある
それを考えもせず、先発投手の負担軽減だ、怪我防止だ、そんなことばかりしゃべっても、野球は面白くならない。

近年、球数の多さを生み出してきたのは、たしかに野球自身の責任だ。だが、クリフ・リーや最近のフィル・ヒューズのように、過剰にSelectiveなオフェンスの打破を目指してピッチングを改善している投手もいる。
いまこそ「過剰にSelectiveな今の野球が、本当に得点効率向上につながっているのかどうか」について、きちんと検証しなおし、ベースボールの進むべき方向性そのものも考え直すべきときにも来ているはずだ。
そうした技術的な進歩、ゲーム戦略の改善について検討しもしないで、選手の待遇向上ばかり話すのが野球の仕事じゃない。野球選手はバケーションを楽しむためにスタジアムにいるのではないのだ。

October 21, 2014

以下の図は、90年代以降、各シーズンごとのホームラン数ランキング上位5人を図示したものだが、今シーズン限りで引退するらしいアダム・ダンが2000年代後半以降打ってきたホームラン数が「けして少なくない数だった」ことがわかる。

にもかかわらず、アダム・ダンの「評価」は低い。
理由を以下に示してみる。

90年代以降のホームランランキングとアダム・ダン

●(赤い丸印)
で示したのは「ステロイダーのランキング位置」だ。
マーク・マグワイア、サミー・ソーサ、バリー・ボンズ、アレックス・ロドリゲス。近年ではライアン・ブラウン、ネルソン・クルーズ、クリス・デービス。こうした「ステロイダー」のランキングの高さ、数の多さをみれば、「1990年代後半から、2000年代前半にかけてのMLB」が「どれほど酷いステロイド・ホームラン時代」だったか、一目瞭然にわかる。

他方、「2000年代後半以降、ランキング上位者のホームラン数そのものが右下がりに減少し続けていること」もわかる。ポスト・ステロイド時代にホームランを量産するのは、もはや簡単なことではないのだ。


ステロイダーは絶滅していないとはいえ、今のMLBがステロイド時代からポスト・ステロイド時代への変化の中にあることを考慮するなら、アダム・ダンが2000年代後半以降に残したホームラン数は、けして少なくない。
だが、それでも彼の評価はけして高くない。それはなぜか。


以下に近年の「アダム・ダン率」ランキングを上位7人分だけ挙げてみた。
「アダム・ダン率」というのは某巨大掲示板で語られている「ネタ」のことで、指標ではない(笑)「かの三振王アダム・ダンのごとく、ホームラン、三振、四球の占める割合が異常に高いホームランバッター」を意味する。(計算は簡単で、3つの数字を足して打席数で割るだけ)
近年の「アダム・ダン率」ランキング

「アダム・ダン率」のネタとしての面白さ自体は正直認めざるをえないが(笑)、ツッコミを入れさせてもらうと、これら「アダム・ダン率の高い打者」たち同士の間には、「ある歴然とした差」が存在する。
それはホームラン数と四球数の多さでは判定できない「差」であり、「その打者が、スラッガーとみなされるか、それとも、昔シアトルにいたリッチー・セクソンのようなフリースインガーのひとりという評価で終わるかの、分かれ目」でもある。(ちなみにマグワイアはただのステロイダーであって、マトモなスラッガーではないので評価など必要ない)

そこで、アダム・ダン率ランキング上位選手たち同士の比較のためのデータとして、wOBAWARをつけておいた。(参考までにあのお笑いデタラメ指標OPSも添付した)
たとえどんな視点から眺めようと、2010年マーク・レイノルズと2012年アダム・ダンの打撃は、彼らがどれほど多くのホームランや四球を生産したにしても、そのクオリティはあまりにも低いものだったことがハッキリわかる。


アダム・ダンの「超絶的なほどのアダム・ダンらしさ」の本当の原因は、彼の「打率の低さ」にあるのである。7人を打率順に並べかえた以下のグラフを見てもらいたい。

打率によって決定される
「アダム・ダン率上位者の打撃クオリティ」
「アダム・ダン率」と、打率、wOBA


アダム・ダン的な「低打率のホームランバッター」のバッティング・クオリティは、打ったホームラン数、選んだ四球数、三振数にほとんど関係なく、『打率の低さ』によって決まる。(こうしたバッターの場合、wOBAの高低も打率のみに比例して決まる)
マーク・レイノルズ、アダム・ダンの2人が、「アダム・ダン率チャンピオン」であるはずのジャック・カストより、はるかに『アダム・ダンらしく』見える本当の原因」は、2人のホームランの多さでも、四球や三振の多さでもない。


アダム・ダンの評価が、彼のホームラン数ほど高くはないのは当然だ。
彼は、全盛期のアルバート・プーホールズや、近年のミゲル・カブレラのような、パワーもクオリティも兼ね備えた超越的ホームランバッターではない。

2014年10月13日の記事で書いたことでもあるが、「低打率のホームランバッターの評価が低い」のは当然なのだ。
単にホームランを人より多く量産しただけの「低打率、低クオリティ打者」を過大評価しなければならない理由など、もはやどこにもない。それが「ポスト・ステロイド時代に求められるクールな評価基準」というものだ。
2014年10月14日の記事で書いたように、「パスカルの賭け」に毛が生えた程度の欠陥ロジックでホームランという神を捏造する時代は、とっくに終わっている。

そもそも彼のような「アダム・ダン的 低打率のホームランバッター」が生産されはじめた原因は、ステロイド規制の強化と、データ重視野球のまだ未成熟でデタラメな部分を理解しないで思いつきに導入しだした軽薄な流行にあるだろう
MLBのいくつかのチーム、多くの指導者、多くのマスメディアは、本格的にデータ野球を理解して運用しているわけではなくて、単に近年の流行にのっかっただけだ。たとえとして言うなら、「OPSのデタラメさすら理解せずに、OPSで打者を評価したりするような馬鹿なマネをしてきた」、ただそれだけだろう。
ときどき思い出したようにホームランを打って、あとは四球を待つだけのワンパターンなパワーヒッターであっても、デタラメ指標のOPS(と、そのバリエーション)でなら「そこそこ素晴らしいバッター」と評価されたのである。

関連記事:
2014年10月13日、「ホームラン20本の低打率打者A」と「高打率の打者B」をwOBAでイコールにしようとすると、「打者Aのホームラン以外のヒットは、全て二塁打でなければならなくなる」という計算結果。 | Damejima's HARDBALL

2014年10月14日、「パスカルの賭け」の欠陥の発見と、「ホームランという神」の出現。期待値において出現確率を考慮しない発想の源について考える。 | Damejima's HARDBALL


ただ、だからといって、アダム・ダンが、このホームラン量産がますます難しくなりつつあるポスト・ステロイド時代に多くのホームランを打ってくれた素晴らしいバッターだったことに変わりはない。
ミゲル・カブレラほどの才能に恵まれなかった彼は、「打率をとるか、ホームランをとるか」という選択において、いさぎよく打率を捨て、ホームランをとった、それだけのことだろう。彼の三振の多さは、彼ならではの「正直さ」の表われだ。
アダム・ダンがステロイダーではなかった場合、という条件つきではあるが、彼の引退に心からの拍手を送りたい。

Note:
近年の「四球」についての過剰な評価が嘘八百であることの考察は、「チーム視点からみたとき、『チーム四球数』と『チーム総得点』との間には、ほとんど何の関係もないこと」を明確化した2012年4月記事も参照のこと。
Damejima's HARDBALL:2012年4月8日、チームの「総得点」と「総四球数」の相関係数を調べた程度で、「四球は得点との相関が強い」とか断言する馬鹿げた笑い話。

2011ア・リーグ 打率と出塁率の比例関係(ホーム)
2011ア・リーグ 打率と出塁率の比例関係(ビジター)

2011ア・リーグ 打率と出塁率の比例関係(ビジター)
2011ア・リーグ 打率と出塁率の比例関係(ホーム)

これらのデータが意味するところは、こうだ。
そのチームが稼ぎ出す「総四球数」というものは、それが
得点の多い強豪チームであれ、得点の少ない貧打のチームであれ、ほとんど変わらない。

このことから、チームデータを観るかぎりにおいて、
次の事実が確定する。

チームという視点で見るとき、「四球数」は、チームの総得点数にまったく影響しない


October 18, 2014

2014ワールドシリーズの担当アンパイア7人が決まったらしい。
ソース:4 umps to work World Series for first time thanks to strong replay results - CBSSports.com

Jeff Kellogg クルー・チーフ
Ted Barrett
Jeff Nelson
Hunter Wendelstedt
Eric Cooper
Jim Reynolds
Jerry Meals

今年からインスタント・リプレイが大幅に拡大され、いくつかの例外を除いて、大多数のプレーがビデオ判定されるようになった。
参考記事:カテゴリー:Instant Replay, インスタント・リプレイ │ Damejima's HARDBALL

CBS Sportsによれば、今回がワールドシリーズ初体験となる4人のアンパイアは、「今シーズン、20人のアンパイアが10回以上もの判定変更を経験したが、判定が覆った回数が少ない4人のアンパイアがワールドシリーズに選ばれた」ということらしい。(チャレンジ=判定を不服とする監督の要請によるビデオ判定だが、きわどいとわかっている判定についてはアンパイア自身が自主的にビデオ判定を行なうこともある)


ちょっと7人のアンパイアのストライクゾーンの特徴を記しておこう。
(注:以下のアンパイアのストライクゾーンの個人差を示した図では、上下左右は「アンパイア視線で見た上下左右」になっている。また、赤色の線は「標準的なルールブック上のストライクゾーン」、青色の線は「そのアンパイアの個人的なストライクゾーン」を示す)


今回のワールドシリーズ担当アンパイアで最も特徴的なのは、ストライクゾーンの高いアンパイアが、Eric CooperTed BarrettJeff Nelsonと、3人もいることだ。(さらにJeff Nelsonはストライクゾーンが広いことでも有名)

Eric Cooperの関連記事とストライクゾーン:2011年9月16日、ダグ・フィスター8回1失点で9勝目。デトロイト・タイガース、24年ぶり4回目の地区優勝(ア・リーグ中地区では初優勝)。おめでとうダグ・フィスター。 | Damejima's HARDBALL
Eric Cooperの標準的なストライクゾーン

Ted Barrettの関連記事とストライクゾーン:2011年10月6日、フィスター5回1失点の好投で、ALDS Game 5の勝ち投手に。デトロイトがヤンキースを破って、テキサスとのALCS進出! | Damejima's HARDBALL
Ted Burrettの標準的なストライクゾーン

Jeff Nelsonのストライクゾーン:Jeff Nelsonの標準的なストライクゾーン

対照的に、Jeff Kellogg、Hunter Wendelstedtの2人のゾーンは、全体的に狭めで、ストライクが入りにくい。投手にとってはやっかいな、打者にとっては有利なアンパイアだが、2人の特徴は正反対だ。
2014ワールドシリーズのクルーチーフを務めるKelloggだが、ゾーンが極端に狭いことで有名なアンパイアの巨匠、Gerry Davisと並んで、彼はMLBの重鎮なだけあって、非常に安定した正確なコールをする。
それに対して、Wendelstedtはかつてのミネソタ監督ロン・ガーデンハイアーとの長年の確執や、退場させる人数の多さでわかるように、ときとしてコールが不安定になることで有名で、荒れたゲームになりやすい懸念もある。(もっとも、この2年くらいコールはかなり安定し、退場させる人数も激減してはいる)

Jeff Kelloggの関連記事とストライクゾーン:2010年10月12日、クリフ・リー、無四球完投!「アウトコース高めいっぱいのカーブ」を決め球に、11奪三振。テキサスがヤンキースとのリーグ・チャンピオンシップに進出。このゲームを正確なコールで素晴らしいゲームにした名アンパイアJeff Kellogg。 | Damejima's HARDBALL
Jeff Kelloggの標準的なストライクゾーン

Hunter Wendelstedtの関連記事とストライクゾーン:2010年10月7日、ディヴィジョン・シリーズ第2戦で退場させられたミネソタの監督ロン・ガーデンハイアーと、球審Hunter Wendelstedtとの間にかねてからあった軋轢。 | Damejima's HARDBALL
Hunter Wendelstedtの標準的なストライクゾーン

Jim Reynoldsは低めが異常に広く、Jerry Mealsは低めがほんの少し広いが、ほぼルールブックに近い。

Jim ReynoldsJim Reynoldsの標準的なストライクゾーン
Jerry Meals:Jerry Mealsの標準的なストライクゾーン


ここでジャイアンツのエース、マディソン・バムガーナーアンパイア別の被打率をみてみる。
Jerry Meals .375
Jeff Kellogg .360
Ted Barrett .310
Jim Reynolds .293
Eric Cooper .292
Hunter Wendelstedt .245
Jeff Nelson 登板なし
Madison Bumgarner Career Pitching Splits | Baseball-Reference.com


カンザスシティのエース、ジェームズ・シールズについてはどうだろう。
Jeff Kellogg .316
Eric Cooper .301
Ted Barrett .265
Jeff Nelson .262
Jim Reynolds .255
Hunter Wendelstedt .204
Jerry Meals .192
James Shields Career Pitching Splits | Baseball-Reference.com


明らかに今回のアンパイアのメンツは、ジェームズ・シールズ有利とはいえる(笑)

たぶんシールズは、Hunter Wendelstedt か Jerry Mealsが球審だといいなと思っているに違いないし、バムガーナーは Jerry MealsやJeff Kelloggだけは止めてくれと思っているだろう(笑)
クルーチーフJeff Kelloggが球審を務めないわけはないが、このアンパイアのゲームではシールズもバムガーナーもコテンパンに打たれている。2人の相性が極端に分かれるのはJerry Mealsだが、このアンパイアがどのゲームで球審を務めるかが分かれ目のひとつになるかもしれない。

少なくとも、「エースピッチャーと7人の球審との相性」という極端な視点だけから見るなら(笑)、今年のワールドチャンピオンは「カンザスシティ・ロイヤルズ」かもしれない。

October 15, 2014

パスカルの賭けPascal's Wager)という話をご存じだろうか。

計算1 パスカルによる「神から受ける恩恵の期待値」計算

神が実在する場合の恩恵期待値
=(神が実在する確率)×(神から受ける恩恵=無限大)
=無限大(少なくともゼロよりは大きい)

神が実在しない場合の恩恵期待値
=(神が実在しない確率)×(実在しない神から受ける恩恵=ゼロ)
=ゼロ

有名な17世紀の哲学者Blaise Pascal(ブレーズ・パスカル)は神の実在について、こんな意味のことを考えたらしい。
「何も得られないゼロより、プラスのほうがいい。計算上、神の実在を信じないより信じたほうが恩恵がある。だから、神を信じたほうがいい」

この記事の目的は「期待値」というものについて考えてみることだ。神の実在を論じることでも、パスカルの賭けへの反論でもない。だからパスカルの賭け、それ自体を深く論じることはしない。
(勘違いしてほしくないのは、たとえ「パスカルの賭け」というロジックの貧弱さがわかったとしても、だからといって超自然的な存在が実在しない証明にはならないことだ。いつの世も、破綻するのは常に人間の浅知恵のほうであって、大自然の摂理ではない)


さて、ここに「ギャンブルにおける期待値(トラップ満載版)」を用意してみた(笑)
これはロジック内部にいくつもの「論理的なトラップ」を故意に用意して、読んだ人をあざむくために作ったロジックだ。ゆめゆめ脳内が汚染されないよう、気をつけて読んでもらいたい(笑)

計算2 ギャンブルにおける期待値計算(トラップ満載版)

ギャンブルすることの期待値
=(賭けに当たる確率)×(賭けに勝つことの利益=プラス)
=少なくともゼロよりは大きい

ギャンブルしないことの期待値
=(賭けに当たらない確率)×(利益=ゼロ)
=永遠にゼロのまま

結論:「ギャンブルすることの期待値」は常にプラスであり、いつまでたってもゼロのままである「ギャンブルしないことの期待値」より、常に大きい。だから結論として言えるのは、「ギャンブルは、やらないよりも、やったほうが、間違いなく儲かる」ということだ。


さてどうだろう。
この「ギャンブルにおける期待値計算(トラップ満載版)」のどこに、どういう形の「ロジックの罠」があるか、わかっただろうか。


少し種明かしをしてみよう。
計算3 ギャンブルにおける期待値計算(修正版)

ギャンブルして、賭けに当たる期待値
=(賭けに当たる確率)×(賭けに勝つことの利益=有限のプラス)
=少なくともゼロよりは大きいが有限であることが多い

ギャンブルして、賭けに当たらない期待値
=(賭けに当たらない確率)×(賭けに負ける損失=無限のマイナス)
=理論的にいえば「限度なしのマイナス」

ギャンブルしないことの期待値
=(賭けに当たらない確率)×(賭けの利益=ゼロ)
=永遠にゼロのまま

結論:「ギャンブルをやる」ことは「必ず儲かる」ことを意味しない。また「ギャンブルをやったほうが、やらないよりは儲かる」とはいえず、そうした断定に根拠はない。

ここまで書くと、「なぜギャンブルというものが、ちょこちょこ勝って、大きく負けることが多いのか」が、多少理解できると思う。


計算2「ギャンブルにおける「期待値計算」(トラップ満載版)」には、ざっと挙げただけでも、下記のような「トラップ」、論理的な落とし穴がある。

計算2に内在している「トラップ」

・ギャンブルにおける行為選択には少なくとも、第1に「参加する、しない」、第2に「勝つ、勝たない」という、「2段階のステップ」があり、「それぞれ別の確率の発生場面」が存在するが、計算2は「2段階の行為選択」をまったく区別せず、混同して語っている。

・第1段階の行為選択における「ギャンブルに参加しない」というチョイスは、第2段階における「賭けに勝つ、勝たない」という行為とその確率とまったく無関係の事象であり、拘束されない。にもかかわらず、計算2は、関連のないもの同士を無理に関連づけて計算している。

・ギャンブルの結果には、「勝つ」以外に、「勝たない(負ける)」という選択肢がある。だが計算2は「負ける」という結果とその確率を視野から消去している。

・ギャンブルの利益は、たとえ「勝つ」場合でも、たいていの場合「有限」なものだが、「負ける」場合のマイナスの利益=損失は、理論的には「無限」である。そのため「負ける」という結果や確率を視野から消去した話においては、ギャンブルのプラスの利益ばかりが過大に評価され、イメージに焼き付きやすい。

・ギャンブルに投資できる「原資」は、例外なく「有限」であり、賭けにおける当たりに遭遇するまで「無限に投資し続けること」は不可能。しかし、計算2ではそれが想定されていない。現実には「勝つ確率が非常に低いギャンブル」の場合、大多数の人は負けのみを経験し、負債の山とともにギャンブルの場面から退場することになる。


「パスカルの賭け」というロジックに多くの誤謬、論理矛盾、トラップがあることは、ここまでの説明(というか証明)でわかると思う。
それでも、計算2のようなトラップ満載のロジックは、現代社会のありとあらゆる場面で、毎日のように実際に使われ、数多くの人がその「落とし穴」に毎日落ちてもいる。また、「パスカルの賭け」に存在する、誤謬、論理矛盾、トラップは、この有名なロジックについて書かれてきた多くの書籍やブログできちんととらえられてさえこなかった。困ったものだ。
記事例:確率1

ただ、パスカルの生きた17世紀にはまだ「確率論の土台」というものがなかったことを思えば、彼のロジックの甘さやズルさをいまさら問いただすより、むしろ、彼が後世の確率論そのものの開祖のひとりであることのほうを忘れてはいけないのだろうとは思う。
彼がやったような、「論理を、まるで建築物の構造部分でも組み上げるかのように組み立てていき、その『建築されたロジック』というメスで、あらゆる対象を例外なく解剖できる、と信じる」という、その「度外れた論理オタクぶり」(笑)が、中世を近代に引き寄せた彼の業績そのものなのだ。(もちろん現代でそれをやっても意味などない。中世にやったから意味があっただけで、現代からみたパスカルの「論理の建築」はミスだらけの「あばら家」だ)
「神」のような超自然的なものですら、「計算で発見できる」と考えた論理思考の鬼、それがパスカルなのだ。


さて、さらに話を
低打率のホームランバッター」に振ってみる。


wOBAでは「ホームランは、シングルヒットの約2倍程度の得点貢献度がある」という発想をするわけだが、これを「文字として」読んだ人は、脳内で「ホームランバッターは、すべての打席において平均的な打者の2倍の得点をたたき出す能力を持っている」だのなんだのと、勝手に脳内変換しやすい(笑) ほんと、つくづく人間の脳の仕組みって出来損ないだなと、いつも思う。

もちろん、そんなことはありえない。
「パスカルの賭け」がもっている論理矛盾をえぐりだしたことで理解できると思うが、ホームランという現象には、「打席に入る」、「ホームランを打つ」という「2つの段階」がある。このことは常に見過ごされ、忘れられやすい、ただそれだけの話だ。

わかりにくいと思うので、もう少し具体的に書いてみる。

ホームランを打つという行為は、「打席に入る」、「ホームランを打つ」という「2段階の行為」なのだ。だから「ホームラン1本あたりの得点期待値」と、「ホームランバッターの、1打席あたりの、ホームランによる得点期待値」とは、イコールではない。
もし「ホームランバッターの、1打席あたりの、ホームランによる得点期待値」を計算したければ、必ずホームランの「出現確率」を想定に入れておかなくてはならない。また、計算3でわかるように、大多数の打席が実は失敗に終わること(=たとえば三振など、打席がなんらかの意味の「凡退」に終わること)の「損失の大きさ」も、損益計算に入れておくべきだ。

だが、上に挙げた「パスカルの賭け」や、「ギャンブルの期待値計算2」からわかるように、人は「当たりの出現確率の低さ」というやつを意識したがらないし、失敗が起きる頻度の高さを想定したがらない。また、「ホームランバッターが、いとも簡単に三振するバッターでもある」ということを、最初からまるで想定しないとか、または「無様な失敗場面を全部なかったことにして話す」ことも、非常によくある。

こうした無頓着な17世紀的ギャンブル感覚(笑)が、結果的に「ホームランの出現を信じる人のほうが、信じない人より恩恵がある」などという飛躍した論理、つまり、「ホームランという神」を生み出す原因になる。

計算4 「パスカルの賭け」を無批判に鵜呑みにした
トラップと論理矛盾まみれの「ホームランの恩恵の期待値」の計算例

ホームランが実現した場合の恩恵期待値
=(実現する確率)×(恩恵=はかりしれないほど大きい)
=少なくともゼロよりは大きいプラス

ホームランが実現しない場合の恩恵期待値
=(実現しない確率)×(恩恵=ゼロ)
=ゼロ

「パスカルの賭け」的ホームラン主義の結論:何も得られないゼロよりは、プラスのほうがいい。たとえ「低打率のホームランバッター」であっても、計算上、ホームランを打たないより打ったほうが恩恵がはるかに高いのだから、ホームランを期待して打席に送りだすべきだ。

計算4の論理の、どこがどう間違っているかは、もう説明するまでもない(笑) だがこの21世紀になっても、いまだに17世紀の「パスカルの賭け」の論理を使ってモノを考えたがる人の、多いこと、多いこと(笑)

では最後に、前記事にちなんで、ちょっとした計算をしておこう。
前記事:2014年10月13日、「ホームラン20本の低打率打者A」と「高打率の打者B」をwOBAでイコールにしようとすると、「打者Aのホームラン以外のヒットは、全て二塁打でなければならなくなる」という計算結果。 | Damejima's HARDBALL

打席数600、打率.220で、ホームラン20本を打つ打者A
打席数600、打率.330で、シングルヒット198本を打つ打者B

打者Aのホームラン1本、1打席あたりの得点期待値
2×(20÷600)≒0.06666666…
打者Bのシングルヒット1本、1打席あたりの得点期待値
0.9×(198÷600)≒0.297


「0.067の神の出現」だけを延々と待ち続ける野球をするのは、その人の自由だから、勝手にすればいいが、ステロイドで「0.067でしかないものを、0.1くらいに無理矢理に引き上げる不正行為」はまったくもって感心しない。ステロイドで捏造した神はニセモノであり、野球の冒涜だ。

たしかに0.297をうまく積み重ねることだけが野球の方法論ではない。また、期待値に縛られるのがスポーツの醍醐味ではないことも間違いない。だが、「マイナス面を直視しないパスカル的ギャンブル」は、もはや過去の遺物である。
現実というものを見て実利的で効果的な打線構造を決め、その上でギャンブルすべきタイミングを見定めていくのが、「ノン・ステロイド時代の打線」というものだ。

October 14, 2014

打者の攻撃力を測る指標のひとつに、wOBA(Weighted On-Base Average) がある。
「ホームランの価値はシングルヒットの4倍」などと(笑)、あらゆる面でデタラメな計算ばかりしているドアホなOPSと違って、例えば「得点生産力でみると、ホームランは、シングルヒットのだいたい2倍程度」という具合に、リーズナブルな比重計算をもとに「その打者の打撃面の得点貢献度の総計」を計算する。
wOBAは、シーズンごとに変わる微小な差異や、計算者ごとのポリシーの違いに基づく計算手法の違いがあるものの、いずれにせよ現在ではさまざまな指標の根幹データのひとつとして活用されている。
関連記事:Damejima's HARDBALL │ カテゴリー:指標のデタラメさ(OPS、SLG、パークファクターなど)

あるシーズンのwOBAの計算例=
0.72四球+0.75死球+0.90シングルヒット+0.92エラー出塁+1.24ニ塁打+1.56三塁打+1.95ホームラン

別の計算方式:wOBA(Speed)=
{0.7×(四死球−敬遠)+0.9×(シングルヒット+エラー出塁)+1.25二塁打+1.6三塁打+2.0本塁打+0.25盗塁−0.5盗塁死}÷(打席数−敬遠−犠打)

それにしても、指標の計算において、なぜまた「パークファクター」なんていう自軍のホームランと対戦相手のホームランの区別もつけられないような「根拠のあいまいな不完全な数値」で補正するのだろうと、いつも思っている。
例えば、あの四球とホームラン偏重のデタラメな計算で成り立っているデタラメ数字のOPSですら、パークファクターで補正すると「OPS+」になって多少マシなものになる、と、思い込んでいる人がたくさんいる。
つまり、多くの人が「パークファクターで補正した数値なら、元がどんなデタラメなものであれ、より正しいものになっているはず」と思い込んでいるわけだ。困ったものだ。根拠が曖昧な数値で補正して、何がどう「より正しくなる」というのか。さっぱりわからない(笑)


話を元に戻そう。
この記事の目的は「低打率のホームランバッターの意外なほどの価値の低さ、そして、そういう選手に大金を注ぎ込むことの無駄さ」を「数字で明示してあげる遊び」にwOBAを使ってみることだ(笑)

ここでの計算のとりあえずの目的は、
以下に仮定する「低打率のホームランバッターAが、高打率のアベレージヒッターBとwOBAで同等になるためには、『打者Aはいったいどれだけの二塁打を打たなければならないか』を、数字の上で計算してみる」ことだ。(計算式は上記の2つのうち、上の例を採用)

打者A 「ホームラン20本だが、低打率.220」
打者B 「高打率.330だが、ホームランはゼロ」

計算結果の意味を理解しやすくするため、A・B両者とも、四死球、敬遠、エラー出塁、犠打はまったく無く、打席数600とする。打者Aの三塁打はほんのわずかな数だろうから、打者Aの「ホームラン以外の長打」はすべて二塁打と仮定し、コントラストをつけるために打者Bのヒットは全て「シングルヒット」と仮定する。

打者A
600打数 20ホームラン 打率.220
ヒット総数=132本
ホームラン以外のヒット総数=132−20=112本
ホームランのみの得点貢献=20×1.95=39

打者B
600打数 ホームランなし 打率.330
ヒット数=198本(全てがシングルヒット)
得点貢献合計=198×0.90=178.2


「打者BのwOBA合計=178.2」から「打者AのホームランのみのwOBA=39」を引くと、wOBAにおいて「打者Aが打者Bと同等」となるために必要な、「打者Aのホームラン以外のヒットにおいて必要な得点貢献度」がわかる。
178.2−39=139.2

「打者Aの、ホームラン以外のヒットにおいて必要な得点貢献度の合計」が、139.2であることがわかった。

この139.2を、「打者Aのホームラン以外のヒット数」で割ってみる。すると「打者Aのホームラン以外のヒット1本あたりに必要な得点貢献度」がわかる。
139.2÷112≒1.243


wOBA計算式における「二塁打の比重」がちょうど「1.24」だ。
したがって、次のような話になる。
wOBAにおいて、打者A=打者Bとなるためには、打者Aのホームラン以外のヒット112本すべて『二塁打』でなければならない。

どうだろう(笑)

いかに野球ファンというものが、「ホームラン20本というのは、なかなか凄い数字だ」という「印象操作」、「マインドコントロール」にとらわれているか、ご理解いただけるだろう。
まぁ、こういう風に数字で明示してあげても、たぶん、誰もマインドコントロールから抜け出せないのだろうとは思う(笑)、だが現実に「ホームランを20本打つ低打率のバッター」なんてものは、明らかに『ただの見掛け倒し』にすぎないのだ。


ア・リーグのシングルシーズンの二塁打数は、トップクラスの選手でもシーズン40本くらいだから、「シーズン112本の二塁打」なんてことは絶対に達成不可能だ。だから「結論」はこうなる。
結論:「20本のホームランを打つ程度の低打率バッター」と「打率.330のバッター」と比べると、実は、前者は後者よりも得点貢献度ははるかに低く、まったく比較にならないほどだ。



おいおい。「ここまでの計算には四球とか敬遠が含まれていないじゃないか」。などと、思った人がいるとは思う(笑)
だが、記事が長くなりすぎるので細かい計算は省かせてもらうが、たとえ四球を含めて計算しなおしても、結論はまったく変わらない。(ちなみに「敬遠」はwOBAの算定からは普通除外される。それを知らないホームランマニアも多いはず)

いったい打者Aが何個くらい四球を選ぶと、「打者Aの打つべき二塁打」が現実の野球で多少は可能性のある数字レンジにおさまるか、計算してみるといい(笑)
ちなみにブログ主の計算では、「打者Bは、まったく四球を選ばない」という仮定のもとでなら、「打者Aが60個くらいの四球を選ぶと、wOBAにおいて打者A=打者B」という計算になる感じだ。

ところが、だ。
この「打者Aが四球60個を選ぶと、打者A=打者Bになる」という計算は、「打者Bのヒットが全部が全部シングルヒットで、ホームランも四球もまったくなし」という、「現実の野球ではありえない前提」での計算なのだ。だが現実には、打率.330の優秀な打者Bは、四球を選ぶし、長打も、ホームランも打つ。うっかりすると敬遠もされる。

実際ざっくり計算してみると、だいたい打者Aは、「打者Bの長打数+ホームラン数+四死球数」くらいの数の二塁打を打たなければ、wOBAにおいて打者A=打者Bにはならない。
だから「打者Aに必要な二塁打の数」なんてものは、絶対に「ゼロ」にはならないどころか、現実の野球でありえる上限の「二塁打40本」をはるかに越えていってしまう
さらにいえば、打者Bの盗塁守備貢献をプレーの貢献度として計算にいれてくる指標では、両者の「価値」はもっと違ってくる。



どこをどう仮定しなおそうと、打者Aに求められるホームラン以外の長打数(=現実には二塁打の数)は膨大な数になるのである。だから「wOBAの計算上、打者Aが打者Bと同等になることはありえない」という結論に、変化など起こらないのである。
「20本のホームランを打つだけの、低打率のバッター」が、いかにたいしたことのない存在か、そして、そうした打者をズラリと並べただけのチームが、やたらと金がかかるクセになぜ弱いのか、わかっていただければ幸いだ。
(さらに言えば「20本のホームランを打つだけの、低打率のバッター」はたいていの場合、守備もできなければ、足も遅い。ならば、打者Aは想像よりはるかに使い道の狭いプレーヤーだ、ということにほかならない)

こういうことの意味をチームとしてもっと重くとらえるべき時代が「ノン・ステロイド時代の野球」なのだが、その話は次の記事以降で書く。

October 08, 2014

勝負って、怖いねぇ。ほんと。
怖い。

2014NLDSは、ドジャース不動のエース、クレイトン・カーショーが、4点リードで迎えた7回に大量8失点の原因を作って負けた第1戦に続き、第4戦でもまったく同じ「ドジャースの勝ちが見えた7回」に、カーズの若い一塁手マット・アダムスこの日多投していた「カーブ」を狙い打たれてしまい、逆転3ラン。この一投、この一発だけで、試合が決まってしまった。
大金かけてメンバーをズラリと揃え、ワールドシリーズ制覇を狙い続けるドジャースだが、今年もポストシーズン敗退。
Los Angeles Dodgers at St. Louis Cardinals - October 7, 2014 | MLB.com Box

カーショーがカーブを打たれたことの背景について、ブログ主がちんたらログを打っていたら、鬼のような光速で分析記事をアップロードしたのが、SB NationのGrant Brisbeeだ。
彼はハッキリ書いている。
"Adams watched him dominate with his curve all day long." 「アダムスは今日ずっとカーショーのカーブを狙い続けていた」
この長文記事、逆転3ラン発生直後に挙がっているところをみると、「マット・アダムスがカーショーのカーブを狙っている」という記事のエッセンス部分は、逆転3ランが生まれるよりずっと前から、既にGrant Brisbeeの頭にイメージされていたに違いない。そうでなければ、こんな超絶的なスピードで、これほど的確な長文は書けない。
たいしたスピードだ。拍手。


ブログ主がツイートに上げておいたのは、マット・アダムスの「2014年のカーブに関するHot Zone」だ。ゾーンが赤い部分が彼の「得意コース」、青い部分が「苦手コース」だ。

データから、たしかに彼は「左投手がまったく打てない打者」だ。
だが、同時に彼は、「カーブ(あるいはチェンジアップなど、「球速の遅い変化球」)を得意球種にしているバッター」でもある。


この逆転3ラン直後、いくつかのMLBアカウントが、「マット・アダムスはまったく左ピッチャーが打てない打者なのに、今年のサイ・ヤング賞をとることがほぼ決まっている名左腕カーショーからホームランを打った。世界の7不思議的事件だ」という意味のツイートを、マット・アダムスの貧弱な対左投手スタッツとともにアップしている。

しかし、「左打者は左投手を打てない」程度の、小学生でも言えそうなレベルの視点だけからプロスポーツの「局面」というものについて解説を加えようとすることは、あまりにも幼稚だし、根拠が薄すぎる。そもそも野球というゲームの複雑さをまるで説明できてない。


まずは大量失点した2014NLDS第1戦の7回に、カーショーがが打たれた球種を見てもらいたい。



第1戦でカーショーは、ランナーがいてもいなくてもスピードのある4シームでぐいぐい押すピッチングをしたが、ランナーがたまって得点圏にも進み、重大なピンチともなると、変化球、このゲームの場合は「スライダー」を多投して、セントルイスの粘り強い打者たちに連続タイムリーを浴びてしまっている。
この第1戦の大量失点のケースでは、マット・アダムスも無死満塁で登場し、左投手カーショーの「スライダー」をタイムリーしているのだから、「左打者マット・アダムスは、左投手をまったく打てない」などという過去のデータは、第1戦の時点で既に通用していないのである。


そして第4戦。
逆転3ランを打つ7回裏のひとつ前、5回裏の打席でマット・アダムスは、先頭打者として登場。初球カーブ(見逃しストライク)、2球目4シーム(ボール)のあと、3球目のカーブでセンターフライに倒れている。
つまり、アダムスは5回の打席で「2度にわたってカーショーのカーブの軌道を見ている」わけだ。
SB NationのGrant Brisbeeによれば、カーショーは第1戦でカーブを「13球」投げたが、第4戦では逆転される7回にたどり着く前、6回までに、既に「28球」も投げている。この「カーブ多投」は、もちろんBrisbee氏が「マット・アダムスはカーショーのカーブを狙っていた」と断定する根拠のひとつになっている。


たぶんカーショーは、第1戦で肝心なピンチの場面で「スライダー」に逃げて痛打されて試合を壊したために、疲労が抜けず球速が出ない可能性が高い中3日で臨んだ第4戦の登板では、あえてスライダーを封印したのだろう。
だが、こんどは「カーブを狙い打ちされて、ふたたび撃沈した」というわけだ。


カーショーがカーブを多投した原因は、ドジャース監督で元ヤンキースのドン・マッティングリーの起用にも原因がある。
なんといったって、第4戦でヤシエル・プイグをスタメンから外したのも、往年のキレのないカール・クロフォードを2番に起用して得点力を低下させたのも、中3日の「疲労が抜けていないカーショー」を第4戦で登板させ、6回まで無失点に抑えてくれたというのに、欲張って7回も引っ張って投げさせたのも、原因はこのマッティングリー、その人なのだ。
そりゃ、中3日の疲労で4シームの球速の出ないカーショーが、いつものような4シームで抑え込むピッチングができず、ゆるいカーブを多用したピッチングに切り替えざるをえなかったのも、うなづける、というものだ。
そのカーショーを「まだ7回もいける」と判断したのは、明らかに「欲張り過ぎ」だ。
マッティングリーは、左投手を苦手どころか、むしろ得意にしている左打者イチローをまったく左投手先発ゲームで起用しようとせず、2014年のポストシーズン進出をむざむざ逃した無能なジョー・ジラルディともども、「左打者は左投手を打てない」などという単純な図式、過去の古びたカビ臭い常識にとらわれた、頭の硬い監督ということもいえる。


投手が打たれる仕組み、それは
配球だけが全てなのではない。

なるほどな。
なんかおかしいとは思ってたけど、やっぱりそうなんだな。

“Our data indicates the exclusion time of two years is far too short. Even four years is too short.”
我々のデータ(=アナボリック・ステロイドによるドーピングについての調査)によれば、(そうしたドーピングに対する処罰は)2年間の資格停止では短すぎるし、それどころか、たとえ4年間でも短すぎるくらいだ。
Effects of doping could be lifelong, say scientists - Athletics Weekly

こう語ったのは、アナボリック・ステロイドの身体への長期的影響を調査したオスロ大学・生理学教授、Kristen Gunderson氏。研究チームが学会誌Journal of Physiologyに発表した内容は、イギリスの陸上競技専門誌Athletics Weekly2014年6月号でも紹介された。

Gunderson氏がなぜ「アナボリック・ステロイドのドーピング処罰は4年といわず、生涯を通じた資格停止でもいい」と強く断言するのかといえば、理由は単純明快だ。彼らのマウスを用いた研究成果によれば、アナボリック・ステロイドの影響は、生涯ずっと続く可能性が高いと考えられることがわかったからだ。
I think it is likely that effects could be lifelong or at least lasting decades in humans.

In his study, mice were exposed to anabolic steroids for two weeks, which resulted in increased muscle mass.The drug was then withdrawn for three months, a period which corresponds to approximately 15% of a mouse’s lifespan.
After the withdrawal, the mice’s muscle mass grew by 30% in six days following load exercise, while untreated mice showed insignificant muscle growth during the same period.
研究では、マウスは2週間のアナボリック・ステロイド投与を行われ、筋肉量増加がみられた。投与はその後3週間停止されたが、これはマウスの寿命の15%にあたる。
「投与停止後のマウス」に6日間エクササイズをさせてみたところ、筋肉量は30%増加したが、その一方で、同じ日数だけエクササイズさせた「未投与のマウス」には明確な筋肉量増加はみられなかった。
Could the effects of doping be lifelong? - Cycling Weekly


詳しい内容は元記事を読んでもらいたいが、正直なところ、非常にイヤなニュースだ。気分が重くなったし、むかっ腹も立つ。

それはそうだろう。
野球でいえば、たとえアナボリック・ステロイドでドーピングしたのがバレて処罰を受けても、90ゲームばかり休んで復帰してくれば、こんどはおおっぴらにホームランを量産できる、なんてことが起こりうる可能性があることが科学的にわかった、という話なのだ。腹が立たないわけがない。


MLBで近年ドーピング処罰を受けた選手が資格停止期間を終え、復帰した後の打ちっぷりを見ていて、「あれれ? こいつ、今はステロイドやれないはずなのに、またホームラン量産しだしてるな・・・。なんなの、これ?」と思った経験は、誰しもあるはずだ。


ブログ主も、ある。
というか、いつもそう思ってきた。

具体的に名前を挙げさせてもらえば、ネルソン・クルーズメルキー・カブレラライアン・ブラウン、特に、ボルチモアのネルソン・クルーズについて、「ドーピング処罰明けというのに、ずいぶんホームランを打ってるけど、なんで?」と、ずっと不可解だな、と思っていた。


同じようなことは、野球だけではない。ドーピング摘発数のやたらと多い陸上競技や、自転車のロードレースなどでも、同様の事例をいくらでも見ることができる。
とかくメディアはそういう選手に限って、「ドーピングからの復帰後、初優勝。長いブランクに負けなかった誰それ」などと、すぐに「美談」に仕立て上げたがる。だが、そんな話は美談でもなんでもないことが、このオスロ大学の研究によってようやくわかったわけだ。

STAP細胞の捏造事件じゃないが、このオスロ大学の研究が本当に正当なものかどうかは十分な検証が必要ではあるが、それでも、この調査は今まで感じてきた「なんでこうなるかね・・。なんでだよ?」というモヤモヤした部分に「ようやく辻褄のあった、合理的説明が登場してくれた」という感じがする。


もちろん困ったことに、こうした「正確な」研究結果は、ある意味「諸刃の剣」でもある。

「たとえステロイドをやって不名誉な扱いを受けても、みそぎさえ済ませれば、こんどはヒーロー扱いされる」なんて可能性があるなら、「じゃあ、若い無名のうちにステロイドやっとくほうが得だよな。やっとくか。ザマーミロ、へっへっへ。」なんて話になりかねない。(というか、残念ながら実際そういう状態になっていると思う)

たとえステロイドをやって、不名誉な「ステロイダーのレッテル」を貼られ、所属チームをクビになるとか、人に後ろ指をさされるとか、不名誉な経験を経なければならないにしても、たとえそれが2年だろうと4年だろうと、「短期の処罰期間の不名誉さえ我慢し終えれば、再び良い成績を収められる可能性がどうやらあるらしい」という話が判明しつつあるのだとしたら、困った話にならないわけがない。

「カネだけ残れば、名誉なんか捨ててもいい」などという愚劣な選手ばかりが幅をきかせる結果をまねきかねない。ステロイドをやめた後、身体にステロイド時代の影響が残ったまま打撃で好成績をあげた選手が、さも名選手のような顔をしてダグアウトでニヤニヤしながら、ふんぞり返る、なんてことばかり起こるようになったら、スポーツとしての生命は終わりだ。


ただ、うまい話ばかりでもない。

というのは、前にも書いたように、ドーピング目的のステロイド使用は、骨格に「選手生命にかかわるほどの非常に重大な悪影響」をもたらす可能性があるからだ。
関連記事:2014年3月25日、ドーピング目的のアナボリック・ステロイド常用が引き起こす大腿骨頭壊死などの「股関節の故障」について。 | Damejima's HARDBALL

いいかえると、
ステロイドのせいで、筋肉だけは人並みはずれて隆々としてマッチョなのに、その一方で、骨、特に関節はボロボロで、手術が必要なほど、もろい」という、おかしな体格の選手
が量産される可能性がある。

あえて選手名を挙げることまでしなくても、今のMLBの主力選手で、「短い数シーズンに飛び抜けた好成績を収めたクセに、その後は、『骨の故障』ばかり繰り返すようになって、やたらと『休んでは復帰』を繰り返すようになった、奇妙なキャリアをもつプレーヤー」を、すぐに5人や10人、思いつくことができる。

こうした奇妙な選手たち、実は、若いときに続けていたステロイドの影響で骨がもろくなっているのが原因かもしれないのだ。

オスロ大学がいうように「アナボリック・ステロイドの影響は生涯続く」のなら、プラスの影響ばかりではなく、「マイナスの影響も、生涯続く」可能性があると考えるのが普通だ。
だから、たとえステロイドで一時的に好成績を収めても、あとになって骨や関節に重大な悪影響が現れるかもしれないのだ。そうなると、こんどは、「骨の丈夫さを人工的に保つための薬物を、シーズン中にやたら摂取しまくっている選手」とか「オフシーズンになると骨に関連した手術ばかりしている選手」なんてのが登場するかもしれない。(てか、実際登場していると思うが)


このニュースでますますステロイダーが嫌いになった。


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