March 2017

March 21, 2017

かつて王貞治のスイングについて、こんなことを書いたのだが、もう少し詳しく書いておきたくなった。

王貞治のバッティングは、バットがミートポイントに向かって「ものすごく直線的に向かうダウンスイング」だ、だから凄いんだと、思い込んでいる人が数多くいる。「一本足打法」というネーミングの直線的なイメージから、バットも「スイングの開始時点では、直立したまま」でスイングしていると思われているわけだ。
だが、いちど動画で確認してもらうとわかるが、この人のバットは「いちど大きく寝て」、それからカラダの後ろを回りこむような軌道でスイングが始まっている。「ドアスイング系のスイングをする落合や張本は、バットを一度寝かせてから振っているけれど、王のバットは一度も寝ないダウンスイングだ」と思い込んでいる人は非常に多いわけだが、もう一度、自分の目で確かめるといい。
2016年11月17日、「回転」に特徴をもつ人間の身体と、「直進するボールのスピードや制御」を要求するベースボールというスポーツの関係を明確化する | Damejima's HARDBALL


右翼席方向からの動画で確認すれば、王貞治のバットがいかに「寝て」いるかは一目瞭然だ。以下の画像でいえば、2番目から3番目のプロセスに至る過程でバットは一度大きく寝かされており、それから「すくい上げるような動き」で、ボールをたたいている。

かつては、こういうスイングをなんの検証もせず「ダウンスイング」と断定した人が数多くいて、そればかりか近所の子供に「自分の考える理想のダウンスイング」とやらを指導したりしていたのだろうから、人間の眼力や判断力なんてものは案外いい加減なものなのだ。

王貞治のスイング全体像


バットヘッドの動きからみると、王のスイングは以下のような「いくつかのプロセス」に「分割」できる。以下の画像に色わけして示す。

王貞治のスイング全体像(色わけ)

)上の画像の赤色部分(以下同じ)
片足を上げながら、バットヘッドが投手に向かって前傾する。「重心」はいちど投手側に片寄る。
水色
投手側に動かした重心を、こんどはバックネット側に戻す。同時にバット全体を後ろに引く。グリップは腰元まで下げられる。
黄色
バット全体を一度寝かす
白色
体全体を水平に時計回りの回転をさせつつ、バットヘッドを水平に回転させ、バットをボールにぶつける感じでミート。
ピンク
スイングの最終部分。バットから左手を離し、右手1本だけでハイフィニッシュしてボールにバックスピンをかける



プロセス1)赤色の部分

王貞治のスイング(1)

1本足で立った王貞治のバットヘッドは、最初「投手側に倒れる」。これは「わざと重心を、一度投手側に傾けておく」ことを意味する。目的は、2番目以降のプロセスで重心をバックネット側に戻すことによって、「重心移動の反動」を生じさせ、その「反動」をスイングパワーに利用するためだ。つまりこれは、いわば「体全体を使ったヒッチ」なのだ。

若き日の王貞治のグリップ位置

上の画像は、若い頃の王貞治の「グリップ位置」だ。1本足打法でのグリップ位置とは、高さも位置も違う。

彼は若い頃から「大きくヒッチするクセ」があった。そのためグリップは、ともするとヒッチするには早すぎる段階で、腰のあたりにまで下がった
ヒッチそのものは悪いことばかりではないが、若い時代の王貞治の場合、ヒッチするタイミングが早すぎる上に、ヒッチしたときのバットが立ったままなので次の動作に移りにくく、バットヘッドがスムーズに出てこない。

そういえば、師匠の故・荒川博氏と王の練習中の写真には、うっかりすると「グリップを顔より投手寄りに置いて」に構えている風景があったりする。この「グリップ位置の変更」は明らかに「指導と練習の成果」だ。

王貞治のバッティングというと、「1本足」の代名詞のとおり、足を上げることに主眼があると思われがちだが、故・荒川博氏自身は、たしかどこかの記事で「グリップ位置を直すことに主眼があった」という意味のことを言っておられたように記憶する。

王貞治のフォームを直す故・荒川博氏(写真キャプション)
王のグリップを抱え持って固定している故・荒川博氏。おそらく王は荒川氏が制約を与えないとグリップを体の後ろ側に引きたがる。そのため、こうしてしっかりグリップが移動しないように固定しているのだろう、と思われる。いわば「1本足打法養成ギプス」だ(笑)

では、若い頃からあった王貞治の「グリップが下がるクセ」は、打者として大成する過程で直ったのか、というと、以下にあげる写真群からわかるとおり、けして直ったわけではない。
例えば、上にあげた「色分け画像」で、「水色で示したバットヘッドの移動」は「右にいくほど垂れさがって」いる。これは「打とうとすると、どうしてもグリップ位置が下がる」のが原因だ。

だから、むしろ故・荒川博氏が王貞治の欠点を矯正するためにやったことは「スイングのどこかでグリップが下がるのは防げないにしても、むしろ、それをバットヘッドのスピードやパワーに変換することができないか」という「実験」だったように思える。(具体的には「体全体を使ったヒッチ」で生まれるパワーを、バットを寝かすことで、その後の水平な回転運動のエネルギーに変換しやすくしている)


プロセス2)黄色からプロセス3)水色にかけての動き

王貞治のスイング(2)

フラミンゴのような華麗なイメージのある王貞治の打撃フォームだが、上の画像の真ん中などはむしろ、かなりの「へっぴり腰」で、華麗なイメージとはかけ離れている。

かつてダウンスイングの代名詞みたいに、つまり、立たせたバットをその状態から動かさずにダウンスイングしていると思われがちだった王貞治だが、実際には上に挙げた画像のとおり、バットを一度かなり寝かしておいて、それから「体全体を水平に回転させるのにあわせてスイング」しているのである。(もちろん水平に回転するわけだから右肩はかなり開くし、右足のつま先は投手方向をまっすぐ向く)

最初と2番目のプロセスで行う「体全体を使ったヒッチ」で得られた体重移動の反動エネルギーがスイングのパワーとして使われるわけだが、もしここでバットを寝かさないと、その後の水平な回転運動にスムーズに移れない。
ただ、バットを単純にパタンと寝かして打っているわけでもない。黄色で示した軌道の「複雑さ」を見てもらうとわかるが、「スイングを開始する時間帯」にバットヘッドは「S字の軌道」を描きながら、ムチをふるうように抜け出ていく。ここに「体全体を使ったヒッチで得たエネルギーを、無駄なく水平な回転に変換する動作」の要点というかコツがある。
ルアーフィッシングをやったことがある方ならわかると思うが、カーボンロッドをムチのようにしならせてルアーを遠くへ飛ばすときに使う「ロッドをくねらせる動作」と同じで、王貞治のバットヘッドは単純に寝かされているのではなく、「S字の軌道」を描かせることで「反動をつけながら」振り出されている。


プロセス4)白色 〜 プロセス5)ピンク色

寝かしたバットを水平に(実際にはややアッパー気味に)回転させて打って、それからハイフィニッシュ。右肩はかなり開く。そのため、当然ながら右足のつま先は投手方向を向く。

もしスイングを高い位置で終わらせるのではなく水平回転のみで終わるとしたら、(日本のボールでは)ライナーは打てるが、ホームランは打てない。
だから回転の向きこそ違うものの、テニスプレーヤー、ビヨン・ボルグがトップスピンを打つために用いたハイフィニッシュと同じやり方で、王貞治はスイングの最後を「ハイフィニッシュ」し、ボールを長い時間かけてバットで逆向きにこすりあげることで、打球に「バックスピン」を与えてている。王のホームラン特有の「高い軌道」は、この「バックスピン」から生まれるのである。(ただし、MLBではこの打ち方ではホームランは打てない)

バットを寝かした瞬間、バットのエネルギーと重力はおそらく左手首に集中してかかる。だがハイフィニッシュでは左手は離している。これはいわば、「バットを左手から右手に渡して、持ち替えている」わけだ。

王貞治のスイング(3)

王貞治のスイング(4)



問題は、「体全体を使ったヒッチ」、「バットをいちど寝かすこと」、「S字軌道」、「ハイフィニッシュによるバックスピン」、「バットの持ちかえ」など、これらすべてを王貞治自身が考えついたのか、それとも、故・荒川博氏が考案したのか、だ。

ブログ主は、とくに理由もないが(笑)、「故・荒川博氏による考案」とみる。

グリップを下げたがる癖のある打者が、バットを立たせたままスイングに入ろうとしたら、バットヘッドが抜けず、ただただタイミングが遅れがちなスイングにしかならなかっただろう。そのバットを立たせたままヒッチして振りはじめる癖の「改善」を、頑固で一徹な性格の王貞治が自分自身で達成できたとはとても思えないのである。

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