August 06, 2009

ネット上の日本のシアトルファンは、シアトルのクローザー、デイビッド・アーズマの9回のピッチングを称して「4者凡退」という言葉をよく使う。3者凡退ではなく、必ず1人ランナーを出して凡退になる、という意味だ。
この「4者凡退」という言葉は、毎日のようにシアトルのゲームを見ているネット住人が「アーズマはクローザーとしてなかなか優秀だ。なのに、なぜか3者凡退にはならないことが多い」こと、アーズマのピッチングに感じるこの不思議さを、自分たちなりの言葉で直感的に表現したものだ。

そして、この「4者凡退」という言葉、実はクローザーとしてのアーズマのピッチングの真髄、中心を射抜いている。

ネットの住人をよく小馬鹿にしたりする人がいまだにいなくならないが、人の「直感力」を侮ってはいけない。アーズマに関しては、コネ捕手城島より、よほどネット住人のほうが、臨時クローザーとして出発したアーズマの苦心して編み出した「アーズマ流クローザー術」をわかっている。

とにかく、デイビッド・アーズマはユニークな投手である。
そしてそのユニークさは、「4者凡退」という言葉で、ある意味、言い尽くされている。



彼が2009年に「4者凡退」という「アーズマ流クローザー術」を編み出す必要があった理由については、彼の「経歴」「データ」、この2つを見ておく必要があると思う。

まずは経歴。
アーズマはメジャーでのクローザー歴が無いために、よくクローザー経験が全くないように思っている人がいる。たしかにシアトルでのクローザー就任も、「ほかにいなかったから」という、どうにも消極的な理由だった。
だが、彼は大学時代にはカレッジ屈指のクローザーで、テキサス州ヒューストンにありノーベル賞学者を3人も出した名門ライス大学で、クローザーとして同校のセーブ数シーズン記録と通算記録の両方を塗り替え、カレッジ・ワールド・シリーズで優勝もしている。

アーズマが1巡目指名のジャイアンツからメジャーデビューしたのは2004年4月6日のミニッツ・メイド・パーク。3Aを経由しもしないでいきなりメジャーデビューしている。しかも、大学時代を過ごしたテキサスでのデビューだ。
リリーフとはいえ、ルーキーがいきなり開幕ロスター入り、9月とかではなく4月の登板、大学時代の地元でのデビュー、しかも2イニングをまかせてもらったのだから、当時のアーズマに対するチームの期待の異常な高さがよくわかる。(最近シアトルとマイナー契約したチャド・コルデロなども、カレッジ・ワールドシリーズを経て1巡目指名後、いきなりメジャーデビューしているが、彼でも8月末デビューで、アーズマのような4月デビューではない)

だが、その登板の結果と、その後の経歴はパッとしなかった。デビュー戦の2イニングは、3安打1四球無失点、無難にこなしたんだか、なんなんだか、よくわからないデビューぶり。その後のメジャーでの評価がさえないまま、彼はチームを転々とする「ジャーニー・マン」になった。


だがブログ主としては、結局この「2イニングを3安打1四球ながら無失点」というデビュー戦の苦さの意味を、アーズマ自身が年月をかけて考えぬいたことが、2009年の成果につながっていると思う。
ちょっとこんどはデータから見てみたい。

MLB Baseball Pitching Statistics and League Leaders - Major League Baseball - ESPN

THT Individual Pitching - Major League Baseball Statistics

(以下のデータは8月4日現在)

アーズマのデータ的なユニークさはたくさんある。
三振がとれる能力は十二分にある。だが、それ以上に四球も出す。だが、ここが肝心な点だが「それでも失点はしない」
そういう不思議なクローザー、それがアーズマ。

彼はとにかくホームランを浴びない。50イニング程度の投手では、ア・リーグトップクラスのHR/9(被ホームラン率)0.19だ。WHIPも、1.15で、リーグの20位くらいにつけていて、ここも肝心な点だが、ランナーは出るには出るが、ホームには帰さない。(だから「4者凡退」なのだ)またチーム内でも三振が最もとれる投手のひとりで、K/9(三振率)はヘルナンデスを越え、チームトップの10.55。

LOB% 残塁率
アーズマ  82.1
岡島    82.6
シェリル  84.8
ネイサン  86.1
リベラ   86.2
パペルボン 90.4

三振のとれるアーズマだが、欠点もある。ひさびさのクローザー業を始めたとき、彼がその欠点をどう乗り越えようとしたか。それが、アーズマ独特の「4者凡退ピッチング」という彼のスタイルにつながっている。

彼はWHIPはいいが、クローザーにしては四球が多い。四球連発のあとの長打で大量失点する印象の強いバティスタやモローと、四球率がたいして違わないくらいなのだ。
(ちなみにシアトルで四球率が最もいいのは一時クローザーもやっていたケリーと、移籍してしまったウオッシュバーン。打たせてとるウオッシュバーンらしい話。ケリーはK/BBも3.00とシアトルではヘルナンデスに次いで2番目。本来クローザー向きなのはケリーかもしれないが、DL後はどうもパッとしない)

K/BB(三振÷四球)で、今シーズンのア・リーグのブルペン投手を思いつきで並べてみた。
リベラ    8.33 NYY
ネイサン   5.78 MIN
オデイ    4.38 TEX
フランシスコ 4.25 TEX
ジェンクス  3.70 CWS
ダウンズ   3.60 TOR
シェリル   3.00 BAL
フエンテス  2.85 LAA
岡島     2.56 BOS
パペルボン  2.40 BOS
マーク・ロウ 2.15 SEA
アーズマ   2.11 SEA
松坂     1.89 BOS

アーズマは三振もとれるが四球も出やすい。リベラは三振がとれて、四球も出さない。いわゆる絶対的クローザーというやつだ。スタイルが違う。
松坂はブルペン投手ではないが、比較のために入れてみた(笑)。当然ながら先発にしては、K/BBが酷い。シアトルのマーク・ロウにも同じ傾向がある。と、いうか、シアトルのブルペン全体に「三振をとりたがるクセに、四球だらけで、K/BBがよくない」という傾向がある。この点についての城島の責任は重い。


さて、こうした特徴をもつデイビッド・アーズマだが、なぜ彼は「4者凡退ピッチングというクローザー術」に辿りついたのか。ブログ主は次のように考えてみた。


アーズマは、メジャーデビューであまりにも大きな期待をかけられながらジャーニーマンになってしまい、眠れぬ夜を何度も過ごした。シアトルに流れ着いた彼は、成り行きから大学時代以来久々のクローザーにトライする。いくら経験があっても、それは大学の話だし、アーズマもに自分の限られた投手能力の生かし方についていろいろ考えたことだろう。

その結果、ある対処法を考えたのではないか。

それは、ひとことでいうなら
「無理しない」ということなのだと思う。
自分はリベラやネイサンのような絶対的なタイプではない。だが「慎重に」「自分らしく」、そして「無理しない」なら、なんとかなる。それが、2009年にアーズマができた「気持ちの切り替え」なのではないか。

今の彼のクローザーという仕事に対する考え方の基本はおそらく、「とにかく失点をしないこと」そして「その方法にはこだわらないこと」にあると思う。そのために彼はかつての見栄や意地を捨てた。

ホームランについてアーズマは、常に大変な警戒をしている。警戒心によって四球を出すこともある。
だが、それについて彼はたぶん「コーナーだけに投げ続けるような窮屈な攻めをして、長打されたくはない。むしろ、長打が防げるなら四球はしかたがない、という割り切りも必要。だが、そのあとは完全に抑えなければ。いざとなれば自分は三振をとれる自信もあるから、大丈夫。」
そんなふうに考えているのではないだろうか。

三振についてだが、アーズマの基本的な考えは「いくら能力があっても、無理に三振をとりにいく必要などない。」と考えているのではないかと思う。必要なら三振をとる能力は、彼には十二分に備わっている。
だが、ここが肝心な点だが、「無理しない」「窮屈なシチュエーション、投球術に自分を追い込まない」。それが彼の発見した「4者凡退」スタイルだと思う。


同じ四球でも、「ホームランを警戒しつつ、十分に自分をコントロールしながら、自分の気持ちと能力の『ゆとり』の範囲内で出す四球」と、「コーナーだけを攻めようとして、コントロールを気にしすぎて窮屈になり、連発してしまう四球」とでは、たいへんな違いがある。
前者がアーズマのたどりついた「4者凡退スタイル」なら、後者は、かつてアーズマが指摘した「城島の窮屈すぎるリード」のスタイルである。

8月4日のカンザスシティ戦で、最終回に四球を連発したアーズマが苦虫を噛み潰した顔をしてみせたのも、キャッチャー城島との、あまりのスタイルの違い、自分が苦労して辿りついたスタイルについての、城島のあまりの無理解、そこに原因がある。







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