シアトル時代のイチロー

2018年4月5日、「400フィート」という距離。
2015年5月25日、思い切りよく負け続けて球団再建に成功した「5つのチーム」と、無駄な補強と無意味な地区2位を繰り返しつつ、チームをダメにし続けてきた「ひとり負け シアトル・マリナーズ」の差。
2012年7月25日、この10年のヤンキース戦の観客動員データから明らかになった、セーフコ・フィールドのファンは「イチローを観るためにスタジアムに通い続けてきた」という子供でもわかる事実。
2012年6月23日、サンディエゴ戦第3打席でタイムリーを打ったイチローと、ソーンダースのインコース打ちのバッティングフォームを鑑賞用に保存する。
2012年6月19日、イチローMLB通算2500安打を、MLB史上最速のシーズン数、MLB史上4番目の試合数で達成!
2012年6月9日、ハンク・アーロンという「節目」。イチロー、ドジャースのクレイトン・カーショーから日米通算3772本目のヒット。
2012年6月9日、日米通算安打数でハンク・アーロンの3771本に並んだ日本のWizard、イチロー。
2012年6月8日、複数投手によるノーヒット・ノーラン、combined no-hitter達成!記念すべき試合の決勝点はイチロー!
2012年6月6日、エンゼルス戦イチローのダメ押しホームランでわかった、チームメイトの「心配」と「安心」。イチローに薦めたい 「リスタート時にこそ、一度わざとローギアに落とす」という処方箋。
2012年5月21日、イチローの鬼気迫るファインプレーは、静止画で味わうのがいい。
2012年5月10日、デトロイトの誇る先発投手3人全員を打ち、イチローをうちとる典型的配球も打ち砕いて「ゲームを動かす突破口」を築き、ジム・リーランドを涙目にさせたイチロー。
2012年5月2日、イチロー、メジャー通算安打数2462本到達でオジー・スミス越え。1ゲーム10刺殺の球団新記録も達成。
2012年4月27日、一球一音、野球小僧と音楽小僧 (1)イチローと忌野清志郎
2012年4月19日、9回表1死満塁、1点ビハインド、左打者ハナハンは絶対にライトには引っ張らず、なおかつ初球から狙ってくる。その理由。
2012年3月28日、プレーヤーと観客が作り上げる野球という素晴らしいゲーム。2012年シーズン開幕。
2011年10月22日、野球ファンの「視線共有」の楽しみ 例:2009年9月18日のイチローのサヨナラ・2ランホームランを、スタジアムの角度別に楽しむ。
2011年9月28日、3000本安打を達成する方法(3) 第1グループ「カール・ヤストレムスキー型」にみる、身体の丈夫さと、フランチャイズ・プレーヤーであることによる「幸福な長いキャリア」
2011年9月28日、3000本安打を達成する方法(2) 3000本安打達成者の「3つのタイプ」
2011年9月21日、「空気の読めなさ」が、イチローがアメリカで成功できた理由かもしれない(笑)
2011年8月24日、スティーブ・ジョブズ、アップルのCEOを辞任。彼の2005年の言葉を、イチローに贈る。
2011年8月13日、「振り切る」ということ。
2011年8月13日、怒り半分、うれしさ半分で言わせてもらおう。このレーザービームのどこに文句がある? 文句あるなら、どっからでもかかってこいや!
2011年7月10日、600万票以上得票したプレーヤーが何人もいるにもかかわらず、20%以上プレミア価格が下がっても、いまだに4000枚以上売れ残っている今回の「恥ずべき」オールスターのチケット。
2011年7月8日、デレク・ジーターのオールスター欠場という事態を招いた「歪んだファン投票結果」に怒りを覚える。
2011年7月5日、イチローの強烈なダブルプレー阻止スライディングで決勝点ゲッツ。ズレンシックの「二重スタメン」の弊害。
2011年7月3日、「ここまでするか」と感じる、2011年オールスター投票の作為。
2011年6月24日、「ライナーが多いとヒットも多いはずだが、ハンリー・ラミレスやイチローは例外」と分析をあきらめた(笑)ニューヨーク・タイムズの記事。
2011年6月16日、よく噛んで味わうイチローのMLB通算400盗塁 (3)ジーターの老化を「年齢の壁のせい」と決め付けるNY Times記事を冷やかしながら、寝転んで黒糖かりんとうをつまみつつ、本当の解答を提示する。
2011年6月16日、よく噛んで味わうイチローのMLB通算400盗塁 (2)現役選手の盗塁数ランキングを眺めながら、抹茶でもすすりつつ、28歳のホセ・レイエスがイチローを超える確率でも計算してみる。
2011年6月16日、よく噛んで味わうイチローのMLB通算400盗塁 (1)オマール・ビスケールとクレイグ・ビジオの数字を眺めながら、しみじみコーヒーでも飲んでみる
2011年6月12日、NBAで初優勝したダラス・マーヴェリックスのジェイソン・キッドが言う『イチローの支配力』という言葉の面白さ。「ランナーとして1塁に立つだけで、ゲームを支配できる」、そういうプレーヤー。
2011年6月10日、イチローが「アメリカ」なのだ。
2011年6月10日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(3)
2011年6月5日、低めいっぱいを打った3つの画像でくらべてみる天才野球小僧イチローの回復ぶり。
2011年6月2日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(2)
2011年6月2日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(1)
2011年6月2日、3回という早いイニングで敬遠したバック・ショーウォルターの慎重な「イチロー対策」。ジェレミー・ガスリーの被ホームランの多さ。
2011年5月30日、言語学的意味論から考える「しぼむ風船」ショーン・フィギンズ。
2011年5月27日、フランクリン・グティエレスのスーパー・キャッチ。イチローの変態ツーベース&決勝打点。タイムリー無しの4得点でヤンキースを撃破! 勝率5割復帰!!! ポーリー3勝目。
2011年5月23日、600号目前のトーミに2本食らって、どうみても負けそうなミネソタ戦を、全員野球で延長10回逆転。 6連勝! ひゃっほうううう!!
2011年5月18日、ゲーム中にバッティングを修正していける、この素晴らしいイチローの修正能力。
2011年5月8日、ちょっとビミョーすぎる(笑)イチロー応援ダジャレ軍団登場(笑) Ichiro’s Bleacheros!
2011年4月3日、早くもレーザービーム炸裂のイチロー。
2011年4月1日、シーズン開幕。"ever-reliable"イチローの活躍が、人の心に癒しと勇気を与えますように。黙祷。
Hutch賞と、フレッド・ハッチンソン・ガン研究センター。野球と医学の架け橋。
2011年1月9日、シーズンオフらしく、MLBのポジション別ゴールドグラブ受賞回数でも眺めながら、ウィリー・メイズとイチローの時代の違いを考えてみる。
2010年11月1日、イチロー2年連続3度目のFielding Bible賞に輝く。ろくにゲームに出てないジャック・ウィルソンの高評価には大いに疑問。
2010年9月19日、クリフ・リーが絶賛したイチローの”hand-eye coordination”と、現代アスリートに求められる脳内トレーニング。
2010年9月9日、盗塁とホームランの「相反する歴史」。そしてイチローのメジャーデビューの歴史的意義。
2010年7月29日、 稀代の天才イチローにこれほどの見苦しさを我慢しつづけさせるのは、野球史上のひとつの犯罪である。

April 06, 2018

1959年から1965年にかけての南海ホークスは、三冠王野村克也を中心にした重量打線が売りで、1959年と1964年の2度、日本シリーズを制している。その重量打線のネーミングが「400フィート打線」で、この「400フィート(=約122メートル)」という数字はいうまでもなく「打球がホームランになるのに十分な飛距離」を意味している。


先日、大谷翔平がサイ・ヤング賞投手コーリー・クルーバーからセンターに打ったメジャー2号がやはり「400フィート」というので話題になったが、MLBのボールパークの大半でセンターの最深部は400フィートちょっとだから、大谷はとりあえず南海の400フィート打線でもやっていけるはずだ(笑)



2007年のオールスターでイチローが打ったランニングホームランの飛距離も、飛距離はだいたい「400フィート」だった。




2007年オールスターの会場はサンフランシスコのAT&Tパークだ。

このスタジアムの右中間の「最深部」は、421フィート(=約128.3メートル)もある。(以下の写真で、Aと書かれた円形の中に「421」という数字が書いてある部分)
センターの最深部は「399フィート」(=121.6メートル)だから、AT&Tは「センター最深部より、右中間奥のほうがはるかに広い、特殊なスタジアム」なのだ。

イチローの打球が直撃したフェンスは下記の写真のB、つまり「オレンジ色の広告」の部分だが、写真のCの部分、つまり右中間の中間部は「365フィート」(=111.2メートル)だから、この打球の飛距離はだいたい「400フィート」ということになる。

2007年オールスターのイチロー ランニングHR

2007年オールスター イチローのランニングHRAT&T Park

ソース:
Clem's Baseball ~ AT&T Park


右中間、左中間がまっすぐ平らになっていて、右中間がたった370フィート(約112メートル)しかないアナハイムと比べると、AT&Tの右中間の「異常さ」(笑)がよくわかる。

アナハイムAngel Stadium of Anaheim

ソース:
Clem's Baseball ~ Angel Stadium of Anaheim



いまだにイチローのランニングホームランを「偶然の産物」だと思っている人がいるかもしれないが、それは間違いだ。

たいていのボールパークはどこも右中間、左中間が潰れたカタチをしていてホームランが出やすくなっているから、「右中間が400フィート以上もあるボールパーク」なんてものは、普通はありえない。
だからイチローの打った「400フィートという飛距離」は、「普通のボールパークの右中間」なら、スタンド最前列に飛び込むどころか、フェンスから10メートルほど奥に届いている。

つまり、イチローのランニングホームランは、「本来はホームランになるべき、十分すぎる飛距離の打球」だったのだが、打った場所がたまたま「AT&T」だったためにスタンドに届かなかった、ただそれだけのことなのである。
当時の外野手ケン・グリフィーJRが、頭上を越えていく打球に心の備えがないまま前進守備していて、あわてふためいて送球が遅れたのも、AT&Tならばこそだ。



ちなみに、センターが広大なので有名なのは、デトロイトのコメリカパークだ。センター最奥は、AT&Tの右中間の奥と同じ、「420フィート」もある。
大谷がアナハイムでセンターに打った400フィートのホームランも、コメリカパークでなら、よくて三塁打、普通は二塁打で、ホームランにはならない。もし大谷の打撃データをもとにシフトが敷かれていた場合なら、ホームランどころか、下手すると外野フライだった可能性だって、ないわけではないのである。

damejima at 16:11

May 26, 2015

MLBの今の地区首位チームの顔ぶれがなかなか面白い。

5月25日現在の地区首位6チームのうち、優勝常連チームのカーズとドジャースを除くと、以下に赤色で示した4チームは、過去10年に最低1回は『メジャー最低勝率』を記録した経験をもつ、「つい最近まで目もあてられないほど弱かったチーム」なのである。

地区優勝の常連チームの顔ぶれは、特にア・リーグで一変しつつあるともいえるわけだが、もちろんこうした現象は「偶然」ではない。

5月25日時点のア・リーグ地区首位チーム
タンパベイ・レイズ (2007、2008)
カンザスシティ・ロイヤルズ (2006)
ヒューストン・アストロズ (2012〜2014)

ナ・リーグ
ワシントン・ナショナルズ (2009、2010)
セントルイス・カージナルス
ロサンゼルス・ドジャース

(カッコ内の数字はMLBワースト勝率を喫したシーズン)


MLBドラフトは、不完全なまま放置され続けている日本のドラフトと違って、前年勝率の低かったチームから順に指名する「完全ウェーバー方式」だ。だから、最初に挙げた4チーム(TB、KCR、HOU、WSN)はすべて近年にMLB最低勝率を喫したということは、これらのチームは「最低勝率翌年のドラフトでは、全米1位選手を指名している」という意味になる。

そこで、参考までに「2000年以降、この15年間の全米ドラフトで、全米3位までの指名を行ったチーム」を表にし、さらに「2000年以降に、3回以上、この表に登場するチーム」をピックアップし、色づけしてみた。(出典:Basebal Reference)

これをみると「2000年から2014年までのシーズンに、MLBワースト3位以内の勝率を3度以上喫した経験をもつチーム」が、6球団ほどあることがわかる。
いま地区首位にいる4チーム(TB、KCR、HOU、WSN)と、これも近年躍進がめざましいピッツバーグ・パイレーツ、そして、あいかわらず低迷しているシアトル・マリナーズ(笑)の2球団を加えた、6球団だ。

2000年〜2014年のMLBドラフト上位指名球団

「6球団」をわざわざ色分けして示したことの「意味」は、「これらの6球団が、この15年間のどこかで『連続的なチーム低迷期』を過ごしてきたチームであること」を示すためだ。


その6球団のうちの4球団は、「2015年5月現在、地区首位になるほどのチーム再建
」を達成しているわけだが、 これら6球団はそれぞれの低迷期に、ドラフトの上位指名でどんな新人を獲得してきたのか。ちょっとリストにしてみた。(以下のリストで、赤色は「全米1位指名選手」を意味する)
TB  エヴァン・ロンゴリアデビッド・プライス、BJアップトン(全体2位)、デルモン・ヤングなど
KCR ザック・グレインキー、アレックス・ゴードン、ビリー・バトラー、エリック・ホズマーなど
HOU ジェイソン・カストロ、ジョージ・スプリンガー
WSN ライアン・ジマーマン、スティーブン・ストラスバーグブライス・ハーパー
PIT アンドリュー・マッカチェン、ニール・ウォーカー、ポール・マホーラム
SEA ダスティン・アックリー(笑) (注:アダム・ジョーンズを獲得した「2003年」はシアトルにとっての低迷期ではないので、このリストからは除外)


スティーブン・ストラスバーグとブライス・ハーパーを2年続けて狙い撃ちして獲得し、才能ある彼らの大活躍で今はナ・リーグ東地区王者に輝くようになったワシントン・ナショナルズが、2008年、2009年と全米ワースト勝率を記録したのは、あくまで「巧妙なチーム再建戦略」なのだということが、上の表でよくわかる。
そして今年5月25日時点で地区首位にいる4チーム、TB、KCR、HOU、WSNに、近年地区優勝争いに加わるようになったピッツバーグ・パイレーツをあわせた5チームと、ただひとり取り残されたシアトル・マリナーズの「チーム運営能力の差」は、まさに天と地ほどあるのだ(笑)

これだけを見ても、シアトル・マリナーズというチームが、まぎれもなく「全米ナンバーワンのチーム運営の下手クソなチーム」であり、また、この10年間のシアトルのジェネラル・マネージャーどもが「MLB史上まれにみるほど無能な人間だった」ということがわかるというものだ。


かつて2007年に(=監督マイク・ハーグローブが突然辞任し、ジョン・マクラーレンが引き継いだシーズン)に、それまでの3シーズンずっと地区最下位だったシアトルが珍しく「地区2位」になったことがあったが、日本の無能なファンは長らくこのシーズンを「惜しくも地区優勝を逃した年」などと思っていたものだ。
また、この年の地区優勝を逃した原因は、主に7月の勝率(.500)を思うように伸ばせなかったことにあるのだが、かつてダメ捕手城島が2007年7月に打率2割を下回る酷い打撃成績で地区優勝の可能性のあったチームの足を引っ張ったにもかかわらず、この選手が8月以降にそれなりの打撃成績で帳尻をあわせたことについても、「この年の城島の打撃成績はなかなかよかった」などと思いこんでいる馬鹿なファンがいまだにいる。


まったく馬鹿馬鹿しいにも、ほどがある。

シアトルが2000年代後半の低迷期に「本来やっておかなくてはならなかったこと」はむしろ、かつてナショナルズがやったように「思い切り徹底して負けておく」ことであり、また「GMや監督をクビにすることも含め、チームを一度バラバラに解体して、組織を再編し、人材を育成していく」ことであって、「思い出したようにときどき地区2位になること」などではない。

むしろ、再建を本気で目指すなら、地区2位というような「ハンパなこと」を絶対にしてはいけないのである。

にもかかわらずシアトルは、2000年代後半にダメ捕手城島やリッチー・セクソンのようなダメ選手を補強したり、無駄に地区2位になったりするなどして、根本的なチーム再建にまったく手をつけようとしなかった。


そしてこのダメチームは、
2010年代になってもまた同じようなことをしている。

このチームは、若手育成への転換と自称しながら誰ひとりとして育てることができず、観客減少にビビッて方針を転換し、マイナーの改善にも本気で取り組まず、スタジアムを狭く改造したことでホームランを浴びまくるようになり、その一方で、チーム史そのものだったイチローを無意味に放り出したにもかかわらずフェリックス・ヘルナンデスには大金を与えて抱え込み、気分屋ロビンソン・カノーや、薬漬けネルソン・クルーズ、とっくにスカウティングされきっているオースティン・ジャクソン、引退寸前のリッキー・ウィークスにすら大金を与えて抱え込んで、結局なにも残らず、あっという間にヒューストンに追い抜かれた。もちろん、当然ながらシアトルは当分の間これらの選手たちに約束したサラリー負担に追われることになる。


株式投資でも企業再建でも、はたまた植物の「剪定」でも同じだが、「チームという生き物」の再生方法のひとつは、切るべきでない主枝は残し、無駄な枝をすべて切った上で、「思いきりよく負けて」おいて歩む方向をスッパリ切りかえること、なのだ。

だがシアトル・マリナーズがこの10年やってきたことは、なにもかも「ハンパなことばかり」だ。
運営方針は毎年のように間違った方向に変更され、無駄にちょっとずつトレード補強しては大金を使って失敗し、無能な若手、そしてMLB史に残る無能ジェネラル・マネージャー、ジャック・ズレンシックは常に温存したまま、有能な先発投手ばかり次々に安売りしてきた結果、「失われた10数年」を過ごしたのである。


にもかかわらず、限りなく馬鹿なこの球団は、GMをクビにするどころか、、MLB史に残る大失敗を何度も何度も繰り返してきたGMジャック・ズレンシックと「契約延長」したのである。


まったく呆れ果てたチームだ。


シアトル・マリナーズが、かつてナ・リーグで地区最下位を長年続けてきたヒューストン・アストロズにあっという間に追い抜かれたことを、ブログ主は、感情として「いい気味だ」、「ザマーミロ」と思っているし、また、組織論としてロジカルな意味でも「当然の結果」だと思っている。

damejima at 19:48

July 26, 2012

セーフコでのシアトル対ヤンキース観客動員数推移(2012年7月まで)

イチローのヤンキース電撃移籍が発表になった直後のセーフコ・フィールドでのシアトル3連戦が終わった。観客動員数は、以下の通り。

23日(月曜日) 29,911
24日(火曜日) 31,908 ヘルナンデス登板
25日(水曜日) 36,071
----------------------------
3ゲーム平均  32,630
2012 Seattle Mariners Schedule, Box Scores and Splits - Baseball-Reference.com

これらの数字を、かつてこのブログで作った1999年から2011年までのヤンキース戦限定の曜日別観客動員数グラフ(=セーフコフィールドにおけるシアトルの対ヤンキース戦、つまりホームでのヤンキース戦)に組み込んでみた。それが、上の図だ。
元記事:Damejima's HARDBALL:2011年9月16日、球団のドル箱であるヤンキース戦ですら1試合あたり観客2万人を切る事態を招いた無能GMズレンシック。もはや「内側に向かって収縮する白色矮星」のシアトル・マリナーズ。


このカードでセーフコに集まった多くの観客の大半は、いうまでもなく、去っていくイチローを観ようというシアトルファン、あるいは、全米に存在しているヤンキースファンで、イチローのヤンキース加入に強い興味をひかれセーフコに来たヤンキースファン、つまり、観客の大半が「イチローを観に来た観客」で占められている。
そして、この「イチローを観るためにセーフコに来る」というモチベーションこそが、「セーフコフィールドに野球観戦に来る理由そのものだった」のだ、という話を以下に書きとめる。







ちなみに、月曜日以降、徐々に観客数が増えていっているのは当然で、イチローのヤンキース移籍があまりにも突然発表されただけに、ファンの側がすぐに自分の都合を繰り合わせてスタジアムにかけつけるのは難しかったという理由からだろう。
もしイチローの移籍があらかじめわかっていれば、3日間の平均観客数は3万5000どころか、おそらくイチローがシアトルに加入した2000年代初頭のように、4万人に迫る数字になったに違いない

以前から何度も記事に書いてきたように、セーフコの観客はヘルナンデスを観に来るのではない。
そのうち、スタンドがガラガラなのに、キングスコートだけ満員という、異常な状態がセーフコに実現することになる。それを見れば、セーフコの観客がこれまで何を観に来ていたのか、いくら馬鹿でもわかるだろう。そういう日は遠からず確実にやって来る。
Damejima's HARDBALL:2009年9月14日、平日月曜から木曜のスタジアムに陣取るコアな観客層が落胆し、拒絶した「2009年8月のシアトル野球」。(2)


他のどの球場のヤンキース戦も同じだが、セーフコ・フィールドにおけるヤンキース対シアトル戦も、シアトル・マリナーズにとって、ボストン戦と並ぶ、いわゆる「ドル箱カード」だった。

2001年にイチローが加入したことでシアトル・マリナーズの年間観客動員数は350万人を越え、「全米で最も観客数の多い球団」になった。(この事実をいまだに知らない人もいるかもしれないが、2012年の日本開幕戦にもみられるように、イチローの観客動員力はハンパなものではない)当時のヤンキース戦は、常に4万数千人の大観客でセーフコフィールドは隙間もないほど埋め尽くされていた。
チーム強化の成功から大観衆を集め続けてきたテキサスでさえ、2011年の年間観客動員数は294万人で、300万人すら超えてないのである。イチローというスーパースターを迎えた2001年のシアトルがどんな沸騰状態だったか、わからない人にはわからないだろう。

また、たとえシアトルの順位が最下位ばかりになって観客数が減り続けた時代になって以降も、ことヤンキース戦に限っては、平均3万5000人以上の観客でスタジアムが満たされるのが普通だった。


こうした状況に大きな異変が起きたのは、イチローが成績を落とした昨年2011年だ。
マリナーズの年間観客動員数が、189万6000人と、イチローがシアトルに来て以来、初めて200万人を割り込んだこの年、「ドル箱カード」のはずのヤンキース戦ですら、2万人程度しか観客が集らない異常事態になった。
2011年9月(61勝85敗)
9月12日月曜日 22,029 ヘルナンデス登板
9月13日火曜日 18,306
9月14日水曜日 20,327
----------------------------
3ゲーム平均  20,221
2011 Seattle Mariners Schedule, Box Scores and Splits - Baseball-Reference.com



その2011年に比べて、2012年7月のヤンキース対シアトル戦の観客動員数の大幅な増加をみせたことから、
イチロー加入以降のセーフコ・フィールドの観客は単に、
イチローを観に来ていたのだ

というシンプルな事実が確定できた。

とっくにわかりきっていたことではあるが、こうして数字になったことで、事実を事実として認めたがらないアホなファンや馬鹿なメディアと無駄に論争せずに済むのは、ありがたい。人と議論などしている暇があったら、書きたいことをもっと書いて、自分をもっと先に進めたい。


以下の記事に挙げた20歳前後と思われる若いセーフコのシアトルファンは、イチローのヤンキース移籍に際して、こんなせつないストーリーをブログに書いている。

I remember staying up late to watch him break the single-season hits record, how gracious he was to the crowd―a crowd that had lacked anything to root for during a progression of 90- and 100-loss seasons. He was the only reminder of our glory days.
観客は、90敗とか100敗とか大敗シーズンが続く中で、何に対して熱くなればいいかわからなくなっていた。彼、イチローだけが、栄光の日々を思い起こさせるものだったんだ。彼は、たとえ衰えを感じさせはじめたときですら、僕の目には前向きの希望と興奮を感じさせる、唯一のプレーヤーだった。

Damejima's HARDBALL:2012年7月23日、イチローのヤンキース移籍でわかる、「感情を表現する場所の変化」。子供時代にイチローを知った世代にとっての「イチローの特別さ」


この文章からわかることは、若い世代のシアトルのファンは、実に冷静にチーム状況の推移を見守ってきた、ということだ。
彼らは馬鹿ではない。モノを見る目もある。
そして、近未来の球団の支えとなるはずだった(過去形)こうした地元の若い野球ファンにとって、唯一の希望だったのは、「イチロー」だったのである。



自分の手でチームを破壊しておきながら、チームのレジェンドに移籍圧力をかけるような矛盾まみれで、馬鹿げた自己保身しかできないシアトルのオトナぶった無能な人々、たとえば馬鹿げたチーム運営コンセプトを乱発し、トレードでもドラフトでも致命的な大失敗ばかり犯して、チーム自体を破壊し続けた張本人のGMズレンシック、そして、そんな誰の目にも明らかな事実関係すら理解できず、指摘もしない無能なシアトル・タイムズに代表される地元メディアの偏向したライター。
彼らがファンに押し付けようとしてきた自分たちの失敗を覆い隠す言い訳、そして彼らの「オトナの都合」など、イチローのクレバーさを見習って育ってきた、頭がよくて礼儀もわきまえているクレバーな子供たちの耳にはまったく届かない。届くわけがない。

「常識が無いクセに、常識人ぶろうとするオトナ」、「メンツを守りたがるクセに、まともなロジックのカケラすらないオトナ」が、いったい「何を壊したのか」、骨身に沁みて思い知ることになるのは、まだまだこれからだ



もういちど、骨に刻むように書いておこう。

セーフコ・フィールドのごく普通のファンは、この10数年、
イチローを観るためにスタジアムに通い続けていた
のである。


(追記)
この記事を書き、イチローが去ったシアトルで2012年7月26日にカンザスシティ戦が行われた。ブログ主のお気に入りのジェイソン・バルガスの素晴らしいピッチングがあったが、それでも観客数は、15,014人。イチロー移籍の余韻のある時点でこれだ。これからの下り坂に何が待っているのか、シアトルのチーム関係者は思い知るといい。

damejima at 16:58

June 24, 2012

2012年6月23日 イチロー第3打席タイムリー

これはイチロー第3打席のタイムリーのときのバッティングフォームだ。四球のランナー、しかも2アウト2塁でのタイムリーだから、よけいに価値がある。(クリック→別窓で大きな画像)
スイングが始まり、バットにボールが当たって、フォロースルーに至るまで、頭の位置、踏み出した右足のつま先の方向、微動だにしていない。打った瞬間のアオダモでできた日本製バット特有の強いしなりが、画像からよくわかる。いかに真芯でとらえているかがよくわかるし、糸を引くように外野へ弾き返されていく打球の軌跡が、写真からでも想像してもらえるのではないかと思う。

見た目に綺麗なフォームだからヒットが打てるとは限らないが、こういうクリーンヒットのときのフォームは、例外なく、綺麗なものだ。
不思議なものだ。
Seattle Mariners at San Diego Padres - June 23, 2012 | MLB.com Gameday

動画(MLB公式):Baseball Video Highlights & Clips | SEA@SD: Ichiro singles home Ackley in the fourth - Video | MLB.com: Multimedia

イチロー関連の動画(MLB公式):Multimedia Search | MLB.com: Multimedia



フォームといえば、マイケル・ソーンダースのソロホームランのフォームも素晴らしい。

腕のたたみ方をみてほしい。

打ったのはインコース高めの、やや抜け気味のスライダー。
もともとインコース低めの落ちる変化球に弱点があることは自他ともに認めざるをえなかったわけだが、長い両腕をあらかじめたたんでおいてからスイングにかかっているから、見た目窮屈そうに見えても、きちんとミートできるし、バットに十分な力を伝えることに成功している。
以前のソーンダースなら、インコースが来て、慌てながら事後的に腕をたたみつつスイングしていたから、バットの軌道はまるで自分の思うようならなかった。というか、あれは腕をたたんで打っているのではなくて、ただ腕を体にくっつけてカラダを回転させているだけだった。

いやぁ。進歩したものだ。

2012年6月23日 マイケル・ソーンダース8号

動画:Baseball Video Highlights & Clips | SEA@SD: Saunders smashes solo shot off the foul pole - Video | MLB.com: Multimedia

damejima at 13:22

June 20, 2012

チェイス・フィールドで行われた2012年6月19日のアリゾナ戦で、イチローが、第1打席でセンター前ヒットを放ち、MLB通算2500安打を達成した。その後も、2本の二塁打を含む4安打2打点の活躍をみせ、延長10回表のダメ押しタイムリーツーベースで接戦を締めくくってみせた。



イチローMLB通算2500本安打達成


動画Ichiro's historic night
Seattle Mariners at Arizona Diamondbacks - June 19, 2012 | MLB.com Video

動画Seattle Mariners at Arizona Diamondbacks - June 19, 2012 | MLB.com Classic

チーム公式サイトIchiro Suzuki back in lineup, collects 2,500th hit | Mariners.com: News

MLB公式サイトSeattle Mariners at Arizona Diamondbacks - June 19, 2012 | MLB.com SEA Recap

ESPNSeattle Mariners vs. Arizona Diamondbacks - Recap - June 19, 2012 - ESPN

Ichiro Milestone: Fourth Fastest To 2,500 Hits | Seattle Mariners

かつてイチローのチームメートだった対戦相手アリゾナの1番打者ウィリー・ブルームクイストの試合直後のコメント

"You can sit and analyze Ichiro's swing until you are blue in the face and you are never going to figure it out," said D-backs shortstop Willie Bloomquist, who spent seven years with Suzuki in Seattle.
イチローのスイングは、たとえ腰を落ち着けて、精も根も尽き果てるまで分析したとしても、けして理解することなんてできないさ。」と、イチローとシアトルで7シーズンを過ごしたダイヤモンドバックスのショートストップ、ウィリー・ブルームクイストは言う。

"He cues the ball off the end of the bat for a double down the line. There is no rhyme or reason for it. You try to play him opposite way a little bit assuming he is going to slap a ball in the hole, and it's a 10-hopper up the middle that gets through.
「彼は、まるでビリヤードのキューでボールを突くみたいにバットの先端を使ってライン際に二塁打を打った。あれを言葉で説明するなんて不可能だ。
もし、イチローがボールを叩きつけてゴロをレフト方向に打って出塁しようとしていると仮定して、(レフト打ちさせない配球をするとか)ちょっと違うアプローチで彼を手玉にとろうとしても、こんどは野手の間をセンターに抜けていく地を這うようなヒットを打たれるんだ。」
(ブログ注:
slap slap hitterは、主にソフトボールなどでよく使われるバッティング用語。左バッターが走り出しながらボールをレフト方向に「大きく跳ねるゴロ」を打ち、出塁する技法。打球が大きくバウンドする点に特徴がある。
hopper:a hit that travels along the ground. 「地を這うような」ゴロのヒットのこと。「大きくバウンドする打球」であるslap hitとは180度対称的な打球)

"That's just the element he brings to the game. You can't cheat too much one way or the other with him, because he is that good, where he is able to find holes and figure out ways to get hit. He hasn't gotten 2,500 hits over here for nothing. He's obviously a craftsman at work all the time when he is up there."
「そういうものにしたって、彼の野球スタイルのほんのひとつの要素に過ぎない。どうにかして彼の目をくらまそうとしたって、うまくはいかない。なぜって、彼は(どんなに包囲網をしこうと、必ず)突破口をみつけ、ヒットを打つ方法をみつけることができるからなんだ。
イチローは、何もしてないのに2500ものヒットを打てたわけじゃないんだよ。彼は言うまでもなく職人だ。常にトップクラスにいるかぎり働き続ける職人なんだよ。」

Ichiro gets to 2,500, spoils D-backs' big game


His 3,778 hits are the third-most among professional players in either country, seven more than Henry Aaron and trailing only Pete Rose (4,256) and Ty Cobb (4,191).
「彼の(日米通算)3778本のヒットは、日米両国を通じて3番目に多い。ハンク・アーロンよりも7本多く、彼の上にいるのはもはや、ピート・ローズ(4256本)、タイ・カッブ(4191本)の、たった2人だけだ。」

Notebook: Ichiro gets 2,500th hit for Seattle » The Commercial Appeal



イチローの2500安打は、試合数ベースで見ると、史上4番目の達成スピードと安易に言う人がいるわけだが、ブログ主の考えは違う

「近代野球の2500安打」においてはイチローが、議論の余地なく、ナンバーワンだ。

これは身内を贔屓して言うのではない。上位3人の時代の野球は、今とはスタイルや試合のシステムも違う。

例えば、上位3人が2500安打を達成した20世紀初頭のMLBは「1シーズンのゲーム数」が、現在のMLBより少ない。また、それらは、セントルイスよりも西にはMLB球団がまったく無かった「MLBのフランチャイズが非常に狭いエリアに固まって限定して存在していた時代の記録」だ。

なにか、現在よりゲーム数が少ない時代に2500安打を達成したほうが偉いとか、勘違いしている人が多数いるようだが、20世紀初頭のMLBはシーズン中の試合の開催密度が現在より低く、また、チームの移動距離の負担もずっと小さい。
そういう「現在より、はるかにのんびり野球をプレーしていた時代の記録」を、「近代野球」に含めて考え、イチローの2500本安打を「達成にかかった試合数では、近代野球では4番目」とするのは、あまりにも安易すぎる。


だから、ブログ主は、たとえ20世紀初頭のMLBの1シーズンの試合数が現在よりもほんの少しばかり少ないにしても、「近代野球における2500安打」というとき、真に「近代野球」と言えるのは、MLBが1950年代以降に西海岸に向かって次々と拡張された結果、「全米全域に球団が点在するようになって、MLBが真の意味で全米レベルでの拡張を終えて以降」を、「近代野球」と考える。

だから、イチローのこの「たった12シーズンでの2500安打達成」という記録の「密度」は、近代野球として初めて達成された快挙といってよく、Unbreakable 今後も破られることはない記録だ。
現実に、連続したシーズンで打ったヒット数は、連続した4シーズンのヒット数から、果ては連続12シーズンで打ったヒット数まで、どこをとっても、イチローがMLB歴代ナンバーワンなのだ

MLB連続シーズン安打数記録(歴代)

連続4シーズン
1位 930本 イチロー (2004-2007年)
2位 918本 Bill Terry (1929-1932)
3位 899本 George Sisler (1919-1922)

連続5シーズン
1位 1143本 イチロー (2004-2008)
2位 1118本 Chuck Klein (1929-1933)
3位 1103本 Bill Terry (1928-1932)

連続6シーズン
1位 1368本 イチロー (2004-2009)
2位 1313本 Willie Keeler (1894-1899)
3位 1301本 Jesse Burkett (1896-1901)

連続7シーズン
1位 1592本 イチロー (2001-2007)
2位 1526本 Jesse Burkett (1895-1901)
3位 1517本 Willie Keeler (1894-1900)

連続8シーズン
1位 1805本 イチロー (2001-2008)
2位 1719本 Willie Keeler (1894〜1901)
3位 1713本 Jesse Burkett (1894〜1901)

連続9シーズン
1位 2030本 イチロー (2001〜2009年)
2位 1905本 Willie Keeler (1894-1902)
3位 1891本 Jesse Burkett (1893-1901)

連続10シーズン
1位 2244本 イチロー (2001-2010)
2位 2085本 Rogers Hornsby (1920-1929)
3位 2074本 Paul Waner (1927-1936)

連続11シーズン
1位 2428本 イチロー (2001-2011)
2位 2293本 Paul Waner (1927-1937)
3位 2265本 Pete Rose (1968-1978)

連続12シーズン
1位 2500本以上 イチロー (2001-2012)
2位 2473本 Paul Waner (1926-1937)
2位 2473本 Pete Rose (1968-197)



試合数ベースでイチローより達成スピードの速い3人の打者のうち、アル・シモンズと、ジョージ・シスラーの2人は、3000本安打を達成しないまま引退している。(シモンズ2927本、シスラー2812本)
イチローが次なる目標として目指す3000本安打という金字塔は、本数として凄い記録なのも確かだが、記録達成スピードとして、とてつもない記録になるのは間違いない。

通算2500安打達成スピード (試合数ベース)

アル・シモンズ   1784試合 1924-1936年
1936年9月14日達成
Al Simmons Statistics and History - Baseball-Reference.com

タイ・カッブ     1790試合 1905-1918年
1918年8月16日達成
Ty Cobb Statistics and History - Baseball-Reference.com

ジョージ・シスラー 1808試合 1915-1928年
1929年5月18日達成
George Sisler Statistics and History - Baseball-Reference.com

イチロー      1817試合 2001-2012年
2012年6月19日達成
Ichiro Suzuki Statistics and History - Baseball-Reference.com

(以下はイチローより達成スピードの遅い選手)

ポール・モリター
1825試合 1938年6月3日達成

ロジャー・ホーンスビー
1846試合 1929年5月7日達成


通算2500安打達成スピード (シーズン数ベース)

イチロー  2001-2012年
        12シーズンで2500安打達成
ジョージ・シスラー 1915-1928年 13シーズンで2653本
アル・シモンズ   1924-1936年 13シーズンで2514本
タイ・カッブ     1905-1918年 14シーズンで2522本



それにしても、今日も今日とて、監督エリック・ウェッジのおかしな選手起用がみられた。

5回表、8-5と3点リードの2死ランナー無しの場面で、ここまで5失点と単調なピッチングの先発ピッチャー、エラスモ・ラミレスに打席が回ってきたのだが、ここで監督ウェッジは、代打は出さずに、投手であるラミレスをそのまま打席に立たせた。(結果は、もちろん凡退)

普通、投手に代打を出さなかったのだから、たとえアリゾナ打線に好きなように打たれまくっている防御率5点台のさえない先発投手であっても、3点リードしたわけだし、交代させずに、もう1イニングくらい引っ張って使う気持ちになったのか? とか、思うわけだが、なんと、ウェッジは、投手のラミレスが凡退し、チェンジになった直後の5回裏に、ピッチャーを岩隈に交代させたのだ。

まぁ、なんというか、長いこと野球も見てきたが、DHのないリーグの試合終盤に、こんなわけのわからない投手起用をする監督を、初めて見た。

DHのない場合の選手起用」ってものが、まったくわかってないままインターリーグに臨んている、としか思えない。
さすが、ダスティン・アックリーのボブルヘッドデーに、当のアックリーをスタメン起用せず、不可解に思った記者に理由を聞かれて「メモするのを忘れた」などと、わけのわからない言い訳をする「イっちゃってる監督」なだけはある。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年5月25日、アックリーのボブルヘッドデーに当のアックリーを先発からはずした理由を聞かれて、「メモし忘れた」と子供だましの言い訳したファン軽視の最高の馬鹿監督、エリック・ウェッジ。


damejima at 15:24

June 10, 2012

猪口日本では節句それぞれに独特の行事がある。季節や区切りというものを意識しながら暮らしていくのが、四季の推移の中で暮らしていく日本の暮らしというものだ。
たとえば新しい季節の始まりの日(立春・立夏・立秋・立冬)の前日を節分といい、季節の変わり目には邪気が現れるともいわれ、それを追い払う為に豆がまかれたりする。
変わり目は単なる通過点でしかないのは確かだから、大つごもりのように丸めた餅を飾るまでのことを毎度していては大袈裟だが(笑)、必要と感じたならお払いしてもいい。節目にお払いをする行為はきちんと日本の古式にかなったふるまいだからだ。

もちろん祝いたいなら誰に遠慮することなく
好きなだけ祝えばいい。
ただ、なにも祝うだけが節目ではない。
区切り、というものを、何事もなく無事にやり過ごせることも
とても大事なことなのだ。


イチロー、2012年6月9日のドジャース戦で、クレイトン・カーショーから初回に打った今シーズン66本目のヒットで、日米通算安打は3772本。これで順調にハンク・アーロンの3771本を越え、あとはタイ・カッブピート・ローズだけが上にいる。

Los Angeles Dodgers at Seattle Mariners - June 9, 2012 | MLB.com Classic

2012年6月9日イチロー日米通算安打3772本ハンクアーロン越え


さあ。
酒を地に撒いて邪気を払ったら、ひとくち、口に含んで
新しい目標に出発だ。

土俵開き


damejima at 11:36
combined no-hitterが達成された2012年6月8日ドジャース戦の3本のヒットを加えると、イチローの今シーズンのヒット数は65本。

日本時代の9シーズン1278本、MLBでの2011年までの11シーズン2428本を加えた日米通算20シーズン3706本に、今シーズンの65本を加算し、合計は3771本。

この3771本は、MLB歴代3位のハンク・アーロンの本数と同数だ。


イチロー自身が日米通算記録については「もういいんじゃないですか」とコメントしているのは、たしかにその通りだから、ハンク・アーロンのヒット数に日米通算で並んだことについて、どうせ通過点でしかないこともあるし、あえて大騒ぎする必要もないとは思うが、それにしたって、よくここまで到達したものだと、感慨を抱くくらいは許されていいだろう。


日本時代の9シーズンの平均ヒット数は、ちょうど142本。
そしてMLB11シーズンの平均ヒット数は、220.72本。

210安打した1994年は、1試合あたり、1.6154
262安打した2004年は、1試合あたり、1.6273
日米問わず、1試合当たり約1.6本。不思議な一致である。


MLBのみでの通算ヒット数の目標は、殿堂入り選手では、レジー・ジャクソンの2584本(21シーズン)を今シーズン中に抜けるかどうかという感じだが、もちろんこれも単なる通過点。
来シーズン以降、ジミー・フォックス2646本(20シーズン)、テッド・ウィリアムス2654本(19シーズン)、ルイス・アパリシオ2677本(18シーズン)、ルー・ゲーリッグ2721本(17シーズン)、ロベルト・アロマー2724本(17シーズン)などが次々にターゲットに入ってくる。

だが、イチローがMLBのキャリアが、まだ12シーズンであることを考えると、本当の当面のライバルは、たった15シーズンで2812本を打ったジョージ・シスラーの「ヒットを生産する速度」かもしれないと思ったりもする。

そのシスラーでも、
シーズンあたりのヒット数は、187.46本。

MLBにおけるこれまでの11シーズンで、平均ヒット数220.72本というイチローの「ヒット生産スピード」が、いかにずば抜けているかが、非常によくわかる。

スポーツ・イラストレイテッドのJoe Posnanskiが2010年に書いたコラムを読めば、日米通算の数字といえども、ことイチローに関してだけは、たとえアメリカのスポーツライターとはいえど、一目置いていることがよくわかると思う。
Seattle Mariners' Ichiro Suzuki is one-of-a-kind player - Joe Posnanski - SI.com

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年3月26日、The Fielding Bible Awards選考委員で、2007年CASEY Awardを受賞しているスポーツ・イラストレイテッドのJoe Posnanskiがイチローを絶賛した記事の翻訳を読んでみる。

damejima at 02:38

June 09, 2012

2012年6月8日 combined no-hitter達成の原動力ミルウッドの力投

いや−、珍しいゲームを観た。
combined no-hitter、つまり、複数の投手によって達成されるノーヒット・ノーランだ。

投げたのは、先発ケビン・ミルウッド、ファーブッシュ、プライアー、ルートキー、リーグ、そしてウィルヘルムセン。キャッチャーはヘスス・モンテーロ

シアトルは7回裏のイチローのヒット、盗塁、イチローを帰したカイル・シーガーのタイムリーであげた、いわゆる「イチシガコンビ」の虎の子の1点を守り抜いた。
こういう「打って盗塁するスピードスター、イチロー」が、打順も含めて、やはり本来のイチローのイチ(位置)だ。
Los Angeles Dodgers at Seattle Mariners - June 8, 2012 | MLB.com Box

USA Today : Six Mariners pitchers combine for no-hitter

動画:Baseball Video Highlights & Clips | LAD@SEA: Wilhelmsen completes the combined no-hitter - Video | MLB.com: Multimedia

球審は、先日マリナーズが完全試合を食らったときと同じ、Brian Runge。そう。イチローがベースの脇にバットで線を引いて、MLBで初の退場処分にさせられた、「あの球審」だ。(ちなみにBrian Rungeは、MLB有数の「高めをまったくストライクコールしない球審」)
Brian Rungeがノーヒッターゲームで球審をつとめたのは、これが3度目。(2009年7月10日Jonathan Sanchez、2012年4月21日Philip Humber。ちなみに最高は、Frank O'Loughlinの6回)
また、ESPNなどによれば、同一シーズンに同じ球審で2度のノーヒッターは、1990年のDrew Coble以来。
Mariners take unusual route to no-hitter - Stats & Info Blog - ESPN
完全試合とcombined no-hitterの両方で球審だったBrian Runge

1シーズン2度のノーヒッターをコールした球審

Bradley, Foghorn (1880)
Walsh, Mike (1882)
Valentine, John (1884)
McLean, Billy (1884)
Gaffney, John (1888)
Lynch, Tom (1892)
O'Loughlin, Frank (1905)
Connolly, Tommy (1908)
Brennan, Bill (1915)
Nallin, Dick (1917)
Dinneen, Bill (1923)
Schwarts, Harry (1962)
Wendelstedt, Harry (1968)
Deegan, Bill (1977)
Coble, Drew (1990)
Runge, Brian(2012)

同一ピッチャーに2度のノーヒッターをコールした球審
Ed Vargo for Sandy Koufax, 6/4/1964, 9/9/1965
Eric Cooper for Mark Buehrle, 4/18/2007, 7/23/2009


動画:記録達成直後のミルウッド@ロッカールーム
女性インタビュアー「ウイニングボールはどうするんですか?」
ミルウッド「ボールはオレのじゃない。他のピッチャーのさ」
女性の質問に照れる無口なミルウッド親父であった(笑)
Baseball Video Highlights & Clips | LAD@SEA: Millwood talks about Mariners' no-hitter - Video | MLB.com: Multimedia(下のビデオは、このリンクとは別のもの)


リーグ、ファーブッシュ、ルートキーのインタビュー



シアトル・マリナーズでノーヒット・ノーランが記録されたのは、これが3回目。1990年6月2日のランディ・ジョンソン(対デトロイト・タイガース)。そして、1993年4月22日のクリス・ボジオ(対ボストン・レッドソックス)。



またMLB全体で、この珍しい記録combined no-hitterが達成されたのは、10回目
前回9回目の達成は、2003年6月11日アストロズ(6投手 先発ロイ・オズワルト 対ヤンキース)。また、マリナーズ自身も、1990年4月11日にエンゼルスにcombined no-hitterをやられた経験がある(2投手 先発マーク・ラングストン)
List of Major League Baseball no-hitters - Wikipedia, the free encyclopedia


それにしても、この記録が球団にとって大きいのは、記録としての価値だけではなくて、途中6回まで投げていてノーヒットノーラン継続中だったケビン・ミルウッドが、不本意にも、太ももの付け根の故障でマウンドを降りざるをえなかったにもかかわらず、そのミルウッドの残した夢を、他の5人のピッチャーが守りぬいて実現させたことだろう。
これこそが野球だ。おめでとう、シアトル・マリナーズ。


ちなみに、MLB公式サイトは、珍しい記録の生まれそうなこの試合を途中から急遽放映していた。そして、それを見ていたヤンキースのマーク・テシェイラのコメント。


タコマ・ニューストリビューンで、ワシントン大学のフットボールとバスケットのビートライターをしているRyan Divishのお祝いのメッセージ。


元ガンズ・アンド・ローゼスのダフ・マッケイガンからのコメント



damejima at 14:06

June 07, 2012

2012年6月6日 エンゼルス戦8回表 イチロー4号
動画Baseball Video Highlights & Clips | SEA@LAA: Ichiro's solo shot adds an insurance run - Video | MLB.com: Multimedia

エンゼルス戦でイチローが4号ダメ押しホームランを打って復調気配を見せたわけだが、ダグアウトに帰ってきたイチローを待っていたのは、チームメイトたちのたくさんのハグだった。

いままでアホほどたくさんのイチローの出場ゲームを見たが、これほどホームラン(あるいは好打)の後でハグまくったイチローを見たことはない(笑)
この、珍しくほのぼのとした事件(笑)でわかったことは、「態度に表わすことこそ滅多にないが、実は、たくさんのチームメイトが、イチローのバッティングを心配していた」ということだった。(イチローに言わせれば、たかが3試合くらいで重くなってんじゃねぇよ、うっとおしい。とのこと。いやー、失礼、失礼 笑)


以下は、イチローにしてみれば「そんなの晒してじゃねぇよ」とイヤがる画像だとは思うのだが、まぁ、チームスポーツなんだし、10年に一度くらい、こういう照れくさい経験があってもいいと思う(笑) いくつか某巨大掲示板から拝借し、のっけておく。
Seattle Mariners at Los Angeles Angels - June 6, 2012 | MLB.com Classic


そもそも、ホームランの後でダグアウトがハグ大会になった一因は、ミゲル・オリーボ。ダイヤモンドを一周してダグアウトに戻ってきたイチローが当惑するのにもまるでかまわず、ヘルメットを脱がしてやるわ、うれしげに肩を叩きまくるわ、ハグしまくるわ、カメラ目線だわで、大騒動だったのが発端である(笑)
続けて、ハグしたのはマイク・カープマイケル・ソーンダース川崎といった面々。普段ありえないようなハグ大会が続いた(笑)

ちなみに、ダグアウトに戻ってきたイチローを最初に出迎えたのは、ヘスス・モンテーロの笑顔。今シーズンの開幕戦を東京で見た人たちなどはわかっていると思うが、試合直前にバッティングゲージに入る前のウオームアップで、イチローの身近にいて軽く談笑などしながら一緒に動いているのは、実は若いモンテーロだったりする。


まぁ、結局のところ、3番から1番に戻って、ホームランをいきなり2本打ったままパタリと途絶えていたイチローのバッティングについて、多くのチームメイトが心配し、ハラハラしていた、ということが非常によくわかったのである(笑)

イチローの復活4号でイチロー以上にほっとするミゲル・オリーボ
やっぱりベテランの存在はありがたい、と思わせるミゲル・オリーボの祝福ぶり。

師匠イチローの復活4号を喜ぶマイケル・ソーンダース
イチローによくバッティングのことを聞きにくる「弟子」のソーンダースも、イチローのホームランを目に見える形で喜んだ。

ダメ押し4号でやたらと喜ばれてにやけるイチロー
やたらとチームメイトに喜ばれて、かえってはにかむイチロー



ブログ主がこの4号ホームランを天晴と感じたのは、このホームランがスピードボールをチカラまかせに弾き返したのではなく、チェンジアップを打ったものだったからだ。
チェンジアップという球種は、りきみかえっていては打てない。ちょっとゆとりをもっていないと、あっさりやられてしまう。6月のイチローはちょっと肩に力が入り過ぎていた。


自動車には「ギア」というものがある。
「エンジン」で起きる爆発のパワーを、「ギア」を通じて状況にあった適切な走行能力に変換することではじめて、クルマは自在に走ることができる。

今シーズンのイチローの、守備の素晴らしい身のこなしを見て、疑いなく見てとれるのは、イチローにとっての「エンジン」、つまり「身体能力」そのものは、38歳の今もまったく錆びていないことだ。むしろ今シーズン、体調そのものは非常に好調なのだろう、と思う。

だが、である。

どういう理由でそうなるのかがわからないので困るのだが、そのせっかくのイチローの天才的な身体能力が、うまくプレーに発揮されていないもどかしさがあった。(実はこのことは今日のエンゼルス戦の前にちょっとピンときて、ちょうどブログに書こうとしていた)

クルマをマニュアルギアで運転している人はわかると思うが、走り出した直後の加速においては、ローギアでゆっくり走り始めて、それからギアを上げながらスピードを上げていかないと、いくらエンジンに並外れた最高性能が備わっていても、ギアが適性でないと、高速道路に乗ることができないどころか、まともにスピードを上げることすらできない。


イチローは、車体の重いへヴィなアメリカ車ではなく、軽量だが、高性能エンジンで非常に速度の出る「スポーツカー」だ。

そしてイチローは責任感が強い。
だから、いくら表面的には「僕は3番であろうと、自分らしくやるだけですよ」とコメントしていたとしても、心の内側では、自分に対して非常に高い義務を課してしまう(と、想像される)。
そもそもイチローは、たとえ3番であろうとなかろうと、試合でトップギアに入っている自分を観客に見せることを義務だと常に思っていることだろう。
だからこそ、よけいに肩に力が入ってしまい、すぐにトップギアに入れてしまうようなことも起きるのではないか、と思うのだ。


だが、アスリートは自分でもわからないうちに調子が落ちてしまうことがある。スポーツカーというものは、常にトップギアで走れるわけではない。突然エンジンの回転数が落ちてしまうような、意に沿わないハプニングも起こりうる。


言いたいのは、エンジンがピカピカなのに、なぜか不調な、摩訶不思議な状態のときこそ、トップギアに入れたまま乗り切ろうと無理してはいけない、ということ。
去年も、4月非常に好調に見えたイチローのその後の不調ぶりについては、長いこといろいろ考えたものだが、最近になって最終的にやっと落ち着いたのが、この提案だ。

時に、あえてギアを落とし、ローギアで。


今日の第3打席で、バット先端でかすってスピンする打球が、ショートのエラーを誘って出塁したが、その後でタイムリー、ホームランと、2本のヒットが出た。

いったい何をさして「ローギアのプレー」というのか、ブログ主にもまだハッキリ指摘するなどできないが、よく「きっかけ」という言葉で説明されがちなこういう偶然も、ある意味ひとつの「ローギア」のプレーなのは、間違いない。

なにも、不調だからセフティバントをしたほうがいいと言っているのではない。肩の力を抜く、というほうが、よほど近い。

damejima at 16:03

May 20, 2012

イチロー ファインプレー 2012年5月17日 クリーブランド戦
2012年5月17日 クリーブランド戦のファインプレー
クリックして別窓で見てもらいたい。
また、5月2日タンパベイ戦のファインキャッチの連続写真風画像も参照のこと。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年5月2日、イチロー、メジャー通算安打数2462本到達でオジー・スミス越え。1ゲーム10刺殺の球団新記録も達成。


まぁ、たしかに動画の時代ではある。
だが、特別な一瞬を静止画で切り取ってみたときに、かえってプレーの凄味が理解できるというのも、プロのスポーツというもの。

身体能力」という言葉があるけれども、
もしこの言葉をイチローに使わなかったら
いったい他の誰に使えばいいのだろう。


5月17日クリーブランド戦でのファインキャッチ
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@CLE: Ichiro leaps to make a nice catch in right - Video | MLB.com: Multimedia

イチローに関するMLB公式動画リスト
Multimedia Search | MLB.com: Multimedia

イチロー ファインプレー 2012年5月17日 クリーブランド戦


イチロー ファインプレー 2012年5月17日 クリーブランド戦




おまけ
5月17日コロラド戦8回表のマット・レイノルズ
イチローに対する配球
Seattle Mariners at Colorado Rockies - May 18, 2012 | MLB.com Classic

5月17日コロラド戦でのマット・レイノルズ8回の配球

これは単なるオマケだが、インターリーグ初戦のコロラド戦8回表に、イチローがファーストゴロに倒れた打席の配球。

何度も書いてきた「アウトハイ・インロー」の非常にMLB的な配球で、しかも、初球アウトハイにチェンジアップ、2球目インローにストレート系と、「内と外で、球種を変えている」という点でも典型的だ。
また、最後の決め球が、日本でよくあるアウトコースの4シームやスライダーではなく、「プレートの真上に落ちてくる変化球」というのも、MLBらしい。

なんというか、非常にうまく「高さと低さ」「スピードとオフスピード」「ストレートと変化球」がブレンドされている。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:カテゴリー : メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(3)「低め」とかいう迷信 あるいは 決め球にまつわる文化的差異

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(5)実証:ロブ・ジョンソンと城島との違い 「1死1塁のケース」



damejima at 05:39

May 11, 2012

2勝1敗と勝ち越したデトロイト3連戦におけるイチローの活躍は、それはそれは素晴らしいものだったのだが、イチローのプレーの意味、深さをきちんと語りきるだけの能力が、日本とシアトル、どちらのメディアにもないようだ(笑)
ならば、しかたない。基本的なことばかり書かなければならないのでメンドクサイが、このブログで多少触れておくことにする。
デトロイトの弱点であるブルペン投手を打った選手を持ち上げて騒いでいるようなことでは、野球の面白さなんて、伝わりっこない


バーランダーフィスターポーセロシャーザーベノワバルベルデデトロイトの主力ピッチャーは、ほぼ全員が右投手だ。
そのせいか、基本的にチーム全体が「左バッターに対する苦手意識」を持っている。(もちろん、優れたバッター、優れたピッチャーは、「左右病」なんてもの自体に縁がない)
ここに、まず第一のポイントがある。

デトロイトのスターター全体のERAは、3.75とそれほどかんばしくもないが、これはシャーザーなど、4番手5番手のローテ投手のERAが良くないからそうなるだけのことで、バーランダー、フィスター、スマイリーの先発3本柱のERAは十分過ぎるほど優れた数字であり、また、彼らはバッターが左か右かをそれほど気にしない。

4月の初登板で脇腹を痛めていたフィスターの復帰によって、デトロイトはシアトル3連戦に「数字のいい主力スターター3人」をズラリと並べることができた。しかも、そのうちのひとり、ドリュー・スマイリー(一部メディアでは『シミリー』と表記している)は、デトロイトでは貴重な左の先発。
だから、地区優勝を狙うデトロイトとしては、なおさらシアトル3連戦は「負け越すわけにいかないカード」だった。

そして先発投手は3人ともゲームを作った。
フィスター    7回4安打無四球 失点なし
バーランダー  6回7安打2四球 3失点
スマイリー    6回2安打2四球 1失点

だが、実際には、表ローテで臨んだデトロイトは1勝2敗と負け越してしまったのであり、その原因を作ったのが、イチローだという話を、以下に書く。



現状のデトロイト投手陣の最大の問題は、
セットアッパーの浴びる長打と、9回の酷さだ。

イニング別チームERAで見ると、6回〜8回のERAが、3.30から3.60(5月10日現在)であまり冴えないが、被打率はそれぞれ、.246、.183、.236で、それなりに抑えてはいるので、セットアッパーが長打を浴びる悪癖さえ直れば、ゲーム中盤のERAはすぐに改善できる。

本当に問題なのは、9回のピッチャーの酷さだ。9回の被打率.356、ERA7.20というのは、優勝候補の下馬評の高かったデトロイトが勝率5割に低迷する原因と、ハッキリ指摘していい。



ブルペンに弱味のあるデトロイトとのゲームにおいて、ゲーム終盤に、冴えないブルペン投手が出てきて失点してくれることは、わかりきったことなのだ。
だから、デトロイト戦でゲーム終盤に出てきた冴えないブルペン投手を打ち、「おいしいところをもっていっただけのヒーロー」になる「運のいいバッター」が出てくることは、「よくある話」であって、メディアがその
「運のいい選手」を(特にシアトルの地元メディアが)ほめそやしたがることに、ほとんど意味はない。


Jason Beckは、MLB公式サイトのデトロイト担当記者だ。
彼がこのシアトル3連戦について書いた「デトロイト側の視点から見た、シアトル3連戦におけるイチローのいやらしさ」についての記述が、非常に面白い。
その視点は、デトロイトのアキレス腱とわかりきっている「ブルペン投手」を打ち、弱点であるクローザーを打って勝ちを拾ったことに、ぬか喜びしているシアトルの単細胞なメディアの視点とは、全く違っている。


まず最初に、
デトロイトが9回裏にサヨナラ負けした5月7日の第1戦
イチローがドーテルから選んだ四球について。

2012年5月7日 9回裏 ドーテルから四球を選ぶイチロー

この日の9回裏のシアトルの打順が、2番から、右のライアン、左のイチロー、右のモンテーロであることを、あらかじめ頭に入れて以下を読んでもらいたい。
Detroit Tigers at Seattle Mariners - May 7, 2012 | MLB.com Gameday

Jason Beckは、リリーフの右腕オクタビオ・ドーテルが、イチローに打順が回る9回裏に登板したことについて、自身のブログに次のようなことを書いている。
Nobody on the Tigers pitching staff owns right-handed hitters like Dotel has over at least the last couple years. And the one lefty Dotel was due to face, Ichiro Suzuki, was 1-for-10 with five strikeouts lifetime against him. By comparison, Ichiro is 5-for-11 off Phil Coke, including 4-for-6 since the start of last season.
(右腕の)ドーテルが少なくともここ数シーズンにわたって右バッターを抑えてきたほど、右バッターを抑えてこれたタイガースのピッチャーはいない。ドーテルが対戦した唯一の左バッター、イチローは、キャリア通算でドーテルに対して、10打数1安打で、5三振を喫している。ちなみに、比較としていうと、フィル・コークは、(本来は左バッターに強いはずの左腕であるにもかかわらず) 昨シーズン序盤の6打数4安打を含めて、11打数で5安打されている。
If you were going to go to the bullpen for the ninth, even with Phil Coke available, Dotel was the most logical option.
もし9回に起用するブルペン投手を選ぶとしたら、まだフィル・コークが使えるケースであったとしても、ドーテルが最も合理的な選択だった。
出典:Taking apart Monday’s walkoff loss « Beck's Blog


Jason Beckの言い分は、しごくもっともだ。

右のドーテルは、もともと右バッターに強いピッチャーで、かつ、左のイチローも抑えてきた。それに対して、左投手の少ないデトロイトで、本来は左に強いはずの貴重な左投手フィル・コークは、イチローに好きなように打たれまくってきた歴史がある。
だから、9回裏同点の場面での右腕ドーテルの登板について、「右、イチロー、右」と続くイニングに登板させる投手として、これ以上の選択はない、と断言するJason Beckの発想に疑問を挟む余地はない。
(彼の発想が、まるで「左右病」から抜け切れておらず、本来、左投手をまるで気にしないイチローの凄さを理解してないものであることは、しかたがない)

キャリアの長い右投手ドーテルの「対イチローのキャリア通算成績」は以下の通り。
資料:Ichiro Suzuki vs. Octavio Dotel, 2002 to 2012, Regular Season and Postseason
たしかに、12打席10打数1安打。イチローがシーズン安打記録を作った2004年でさえ、5打席5三振を喫している。四球も、これまでの12打席で、たったひとつしかない。
まぁ、たった12打席やそこらのサンプル数を根拠に、ピッチャーの左右などほとんど気にしない天才打者イチローをドーテルが抑え込めると考えてしまうのは、あまりにもイチローという打者の凄さを知らなさ過ぎるわけだが、その点はここでは置いておこう。


とにもかくにも、デトロイト側は、「ドーテルでイチローを抑えらえる」と踏んだ。舐めてかかったわけだ。
だが、実際には、イチローは苦手ドーテルから貴重な四球を選ぶことで、サヨナラ劇場のドアを開けたのである。
ドーテルにしてみれば、抑える自信があったはずのイチローに四球を選ばれてしまったことの精神的ショックが、その後の2つのワイルドピッチにつながった、といえば、ちょっと言い過ぎだろうか(笑)

他チームなら、イチローへのワンポイントとして、左投手をリリーフさせるという選択もあるだろう。
だが、右腕だらけのデトロイトには、ただでさえ左投手が少ない。その上、イチローはデトロイトの左のセットアッパー、フィル・コークをまったく苦にせず、打ちまくってきた歴史がある。
イチローは、デトロイトの「鬼門」なのだ。


次に、5月8日第2戦
先発バーランダーから打った先制タイムリーについて。
Detroit Tigers at Seattle Mariners - May 9, 2012 | MLB.com Classic

2012年5月8日 イチロー バーランダーからタイムリー

バーランダーとイチローの過去の対戦成績は、以下の通り。
通算では、打率.333、SLG.451と、バーランダーをずっと打ちこなしてきたイチローだが、不振だった昨年2011年だけは、7打数1安打と、抑え込まれた。ここがポイントだ。
Ichiro Suzuki vs. Justin Verlander, 2006 to 2012, Regular Season and Postseason

イチローを抑える配球パターン、というと、シーズンごとに多少違うが、典型的なパターンのひとつといえば、「外のボールで追い込んでおいてから、インコース低めに『膝元から落ちてワンバウンドになる変化球』を投げて、空振りさせる」という「インローの縦の変化球で、空振り三振パターン」がある。

3回裏にイチローがバーランダーから打った先制タイムリーは、まさにそういう典型的な「インロー、空振り三振パターン」で使われる変化球だ。おそらくバーランダーとしては、ほぼ狙いどおりの球が行っているだけに、「よし! 三振もらった!」 と思ったに違いない。

しかし、結果は先制タイムリー

舐めてもらっちゃ困る。
相手の狙いを打ち砕くタイムリーは、相手の自信を打ち砕く一打でもある。舐めてかかる相手を必ず痛い目にあわせるのが、イチローだ。



次に、5月9日の第3戦
スマイリーから打ったヒットについて。

2012年5月9日 イチロー デトロイト先発スマイリーからヒット

「相手の狙いを打ち砕く」という意味合いは、第1戦のドーテル、第2戦のバーランダーだけでなく、第3戦でイチローが先発スマイリーから打ったチーム最初のヒットにも同じことがいえる。
左腕スマイリーが左のイチローのアウトコースに投げた、クロスファイヤー風に逃げていく絶妙なコースのスライダーを、うまく流し打たれてヒットにされたのだから、打たれたデトロイト側にしてみれば、「してやられた気持ち」になったはずだ。

この2球目が、イチロー対策としてよくある「外のボールで追い込んでおいて、インローにボール球を投げる」というパターン配球の一貫だったかどうかまではわからないが、少なくとも、この外のスライダーで 「よし。イチローをパターンどおり追い込めた」と、バッテリーが考えた瞬間に打たれたヒットであることは、おそらく間違いない。

その証拠に、第1戦におけるデトロイトのイチロー対策失敗にブログで触れていたデトロイト側のビートライター、Jason Beckは、この第3戦でも、イチローについてこんなことを書いている。イチローが6回に打ってアウトになったレフトライナーにまで触れているのだから、よほどショックと悔しさがあったのだろう。

Smyly didn't allow a base hit outside of the fourth inning, when Ichiro Suzuki went to the opposite field on a single and Kyle Seager doubled off the right-field fence for a two-out RBI.
スマイリーは4回まで外野に飛ぶヒットを全く許していなかった。 だが、4回にイチローに流し打ちでヒットされ、カイル・シーガーに2アウトからライトフェンス直撃タイムリーを打たれた。
Just four other balls got out of the infield, with Ichiro's sixth-inning liner to left the only one with much authority. The Mariners swung aggressively, but Smyly and Laird used that against them to change speeds and get swings and misses.
他の外野への飛球はそれまでわずかに4つだったが、しっかりとらえられた打球といえば、イチローの6回のレフトライナーと、このタイムリーだけだった。(以下省略)
Detroit Tigers at Seattle Mariners - May 9, 2012 | MLB.com DET Recap


最初にも書いたように、デトロイトの主力投手は大半が右投手だ。だから、当然のことながら、左の先発スマイリーが今後貴重な存在になることは、言うまでもない。
その貴重な先発左腕の球が、左バッターのイチローにヒットやライナーを打たれた、という事実は、デトロイト側にしてみれば非常に気の重い事実だ。これまで、左のセットアップマン、フィル・コークが、イチローにいいように打たれまくって「カモにされ続けてきた」のと同じように、左腕スマイリーもイチローに打たれまくる未来を予感させるからだ。
右腕の多いデトロイトに新たに登場した新鋭の先発左腕までイチローに「これからずっとカモられる」のでは、デトロイトとしては、たまったものじゃないのである。


デトロイト3連戦におけるゲーム終盤、決定的な弱点であるブルペン投手が登板してくる場面でデトロイトは、イチローを四球で歩かせてマトモにバッティングさせない戦略をとったわけだから、イチローは試合を決定する場面で好調なバッティングを披露するチャンスには恵まれなかった。(もちろん、歩かせたイチローが生還したことでゲームが最終的に決した、という意味で言えば、「ブルペンが弱点だからイチローを歩かせる作戦」はかえって墓穴を掘った


復帰してきたフィスターからいきなり打った初回のツーベース。
苦手ドーテルから選んだ四球。バーランダーから打った先制タイムリー。デトロイト期待の新鋭スマイリーから打ったチーム初ヒット。
こう並べてみたとき、わかるのは、
デトロイトとの3連戦でイチローは、デトロイトのウイークポイントであることがわかりきっているブルペン投手ではなく、むしろ、デトロイトの誇る先発投手3人を全て打ち、また、デトロイトが右バッター対策で獲得した苦手のドーテルから四球を選び、しかも、「イチローを抑えこんできたはずの典型的な配球パターン」を破壊して、この3連戦全ゲームにおいて「ゲームを動かす突破口を築いた」 ことである。

damejima at 09:24

May 03, 2012

イチロー、キャリアハイ10刺殺の球団新記録
BGM:『Bolero』(1928年 モーリス・ラヴェル)
強烈にスライスしながら落下してくる難しい打球を、しっかり視界にとらえつつ右足で強く踏み切り、虚空を左から右へ飛翔しながら捕球する『エア・イチロー』。『まるで空中で静止したよう』と評されたニジンスキー(1890-1950)の跳躍の飛距離と高さ、ジョルジュ・ドン(1947-1992)のごとくのしなやかな航跡である。

ジョルジュ・ドン





IZといえば、1993年のミュージカル映画『The Wizard of Oz(オズの魔法使い)』でジュディ・ガーランドが歌った主題歌"Over the Rainbow"をカバーしてヒットさせたハワイ・ホノルル生まれのミュージシャンだが、MLBでOZといえば、いうまでもなくゴールドグラブ13回受賞の、『The Wizard of Oz』こと、オジー・スミス(Ozzie Smith)だ。

Ozzie Smithの華麗なショートの守備


今日の2安打で、イチローは、キャリア通算ヒット数2460本で歴代104位に並んでいたオジー・スミスを抜いた。歴代100位以内になる日も、そう遠くない。
このこと自体は既にそうなるのがわかっていたことであり、単なる通過点に過ぎない。目標は、もっとずっとずっと先にある。
Career Leaders & Records for Hits - Baseball-Reference.com


名ショート、オジー・スミスの足跡で素晴らしいのは、ヒット数ではなく、やはり13回のゴールドグラブ賞受賞だ。1980年から13回連続で受賞し、彼の華麗な守備は『オズの魔法使い』と讃えられた。

MLBで10回以上ゴールドグラブを受賞した選手は、10回受賞の『エリア51』イチローを含め、長いMLB史でも、たった16人しかいない。
イチローがあと何度受賞できるかわからないが、イチローがあと2回受賞すると、ロベルト・クレメンテ、ウィリー・メイズと並んで、MLB外野手部門トップの受賞回数になるだけに、最低2回受賞してほしいと常に思っている。

キャリア通算ゴールドグラブ受賞回数
18回 Greg Maddux
16回 Jim Kaat, Brooks Robinson
13回 Ivan Rodriguez, Ozzie Smith
12回 Roberto Clemente, Willie Mays
11回 Keith Hernandez
10回 イチロー, Johnny Bench, Roberto Alomar, Mike Schmidt, Omar Vizquel, Ken Griffey, Andruw Jones, Al Kaline

MLB National League Gold Glove Award Winners - Baseball-Reference.com


ちなみに、今日のゲームの刺殺数10は、イチローのキャリアハイであると同時に、球団新記録。記念に、今日9個目のファインキャッチを連続写真風に加工してみたのが、最初に挙げた写真だ。
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@TB: Ichiro sets team record with 10 putouts - Video | MLB.com: Multimedia

追記:
2012年5月2日 タンパベイ第4戦のファインキャッチ
これも冒頭の画像のスライスする打球同様に、見た目よりずっと難しいキャッチ。最後の最後にグッとひと伸びした右中間の打球を、ジャンプしつつ腕を目一杯伸ばしてつかまえた。

2012年5月2日 タンパベイ第4戦のファインキャッチ

damejima at 21:26

April 26, 2012

似ている人(イチローと忌野清志郎)

久しぶりにイチローと、同じ2001年MLBデビューで仲のいいアルバート・プーホールズの2人がゲーム中におしゃべりしている動画を見てたら、ふと「なんか、このときのイチロー、誰かに似てる。誰だろう・・・?」と思って考えたら、なんのことはない、ステージメイクをしてない、素顔のときの忌野清志郎にソックリなのだった。

永遠の野球小僧イチローと、音楽小僧(というか、R&B小僧)忌野清志郎の2人の顔が似る瞬間があることに、ずっとこの2人のファンをやってきているクセして、なぜ今まで気がつかなかったんだろう。



(ちなみに上の動画のイチローとプーホールズの会話は、2010年6月16日セントルイスのブッシュ・スタジアムで行われたシアトル対セントルイス戦の8回表に、イチローがこの2本目のヒットを打ち、ピッチャーがワンポイントで使われた左腕デニス・レイエスから、右のジェイソン・モットに変わるまでの、ごく短い時間に行われた。
Seattle Mariners at St. Louis Cardinals - June 16, 2010 | MLB.com Gameday



「破顔」という言葉がある。
「普段の固い表情を崩し、ほころんだ笑顔を見せる」とでもいう意味だ。

第2回WBC決勝で2点タイムリーを打った直後の2塁ベース上の表情などもそうだが、普段のイチローは厳しい顔をしていることが多く、「破顔する」ことはあまりない。また、ステージ上の忌野清志郎も派手にメイクアップして尖がっている。

舞台上(グラウンド、ステージ)で見せる彼らの尖った表情は、アメリカの文化(ベースボール、オーティス・レディング)の影響を出発点に、なりふり構わず自分の道を突進し続けた猛犬か猪のような自分、そして、アメリカ文化の影響を突き抜けた場所に見出した自分固有のスタイルで「一球一音」に自分の存在感と命を賭し続けるギリギリの自分だ。

だが、破顔した彼らの顔は、日頃は奥にしまいこまれている、もうひとりの穏やかな「小僧の顔」に戻っている。だから似るのだろうと思う。


野球小僧

作詞:佐伯孝夫
作曲:佐々木俊一
歌:灰田勝彦

野球小僧に 逢ったかい
男らしくて 純情で
燃えるあこがれ グランドで
じっと見てたよ 背番号
僕のようだね 君のよう
オオ マイ・ボーイ
ほがらかな ほがらかな
野球小僧

野球小僧は 腕自慢
すごいピッチャーで バッターで
街の空地じゃ 売れた顔
運がよければ ルーキーに
僕のようだね 君のよう
オオ マイ・ボーイ
ほがらかな ほがらかな
野球小僧

野球小僧が なぜくさる
泣くな野球の 神様も
たまにゃ三振 エラーもする
ゲームすてるな がんばろう
僕のようだね 君のよう
オオ マイ・ボーイ
ほがらかな ほがらかな
野球小僧

動画:http://youtu.be/9durJiqeWLAなど




damejima at 19:06

April 20, 2012

説明するまでもない。
シアトルのライトに強肩イチローがいることくらい、元チームメイトのジャック・ハナハンが一番よく知ってる。

ライトフライじゃ、多少のフライでも、サードランナーは帰れない。
右中間のフライも、普通のチームならセンターに守備の優先権があるが、シアトルではライトのイチローが横どりして捕球し、ホームプレートにレーザービームしてくる。(これは過去に何度もあった)
つまり、ライトから右中間にかけてのフライじゃ、同点にならず、ただ2アウトになるだけになる。もちろん、ライト前ヒットのケースでも、同点にはできるが、イチローの返球を考えればセカンドランナーまでは帰れないから、逆転まではいかない。


一方、クリーブランドのドミニカ人監督Manny Actaは代走をサードランナーにではなく、セカンドランナーにだした。これは、「同点どころか、逆転まで視野にいれているぜ」、という意味。


だから、トータルに言えば、クリーブランド側にライト方向の打球(外野フライ、シングルヒット)でまずは同点、なんて発想は、最初からゼロ。クリーブランドの監督にしてみたら、ハナハンがライト方向に犠牲フライを打つのを期待する発想なんて、ゼロどころか、むしろ、それだけはやめてくれ、という話。

ならば。
ハナハンはライトには打ってこない。
それくらい、アタマ使えよ。死ぬまでにな。


頭使うってことが、わかってなさすぎる。

なのに、押し出しへの恐怖で頭が一杯のリーグオリーボのバッテリーは、わざわざ初球から左バッターのハナハンがレフトに流し打ちしやすいアウトコースに2シーム系で攻めて、三遊間抜かれて逆転負けしてりゃ、世話ねぇわ(笑)

おまけに、狙われてるレフトの肩の弱いフィギンズに守備固めしない。馬鹿ですか? と言われてもしょうがないのが、この無能監督エリック・ウェッジ


去年、イチローの捕る外野フライの数がものすごく減ったことが、単なる偶然だ、とでも思ってるんだろな。

馬鹿だねぇ。
みんな、「ものすごく考えて野球やってる」のが、MLBなんだぜ?
イチローのいないところに打つ」。これがシアトルと戦うチームの原則になってる。だからライトに打球がいかない。


追伸:
以下のコメントは、さっきみつけた。こういうコメントがあるだろうと想定して探してたら、やっぱりあった。クリーブランドの地元メディアではなく、マイアミのメディアにあるんだから、見つけにくかった。
やっぱりハナハンは「初球から狙ってた」んだねぇ。やっぱ彼は、シアトルのことをよくわかってるし、周りがよく見えてる。

一方、1点差で満塁の場面で押し出しにだけはしたくないから、シアトルバッテリーは「初球からストライクが欲しくてたまらない」わけだ。

ただ、打つ側からすると、ゲームのゆくえが決まる1点差満塁のチャンスで初球から強振していく行為には、かなりの勇気が必要。
それでもハナハンは、ブランドン・リーグの球質からして、「勝負は速いカウントにかかってくる」と考え、「ここは、初球から振っていくべき打席なんだ」ということを、とてもよくわかった上でスイングしたことになる。

これって、なかなかできることじゃない。

たとえ頭でわかってても、チビってスイングできない臆病なバッターがどれだけ多いことか。また、クローザーのピッチングスタイル、持ち球、追い込みかたによっては、初球から強行するわけにはいかない投手もいる。あらかじめ頭を使っておかないと、初球から振っていいかどうかは、わからない。

ハナハンが、重要な条件の大半をきちんと考慮に入れて打席に入れているってことが、とても素晴らしい。

"It's not the type of guy you want to go deep in the counts with, with that split-finger fastball and he's throwing 97 (mph)," Hannahan said.
「(シアトルのクローザー、ブランドン・リーグは) スプリットも、97マイルのスピードボールも持ってるピッチャーなんだから、カウントを追い込まれたくないタイプの投手なんだ」 (決勝2点タイムリーで、初球から狙ったことについて、ジャック・ハナハン)
League coughs up lead, Indians beat Mariners 2-1 - Baseball Wires - MiamiHerald.com




damejima at 14:14

March 29, 2012

言いたいこと、書きとめておきたいことがたくさんあって、どこをどう書いたものか、まとめられないが(笑)、これだけは確実に言える。

素晴らしい開幕戦だった。

マスメディアに大量に情報が流されると思うので、このブログではそこには触れない。しっかり検索して関係する動画やコメントを探しだして、たっぷり楽しむといいと思う。イチローの素晴らしい4安打、特にセンター前タイムリーについては、項を改めて書きたい。
Seattle Mariners at Oakland Athletics - March 28, 2012 | MLB.com SEA Recap

Seattle Mariners at Oakland Athletics - March 28, 2012 | MLB.com Classic


Gameday背景画像 東京ドーム特別バージョン
おそらく東京ドーム特別バージョンと思われる
Gameday背景画像。

Gameday背景画像セーフコバージョン
こちらは通常のセーフコバージョン。


ゲーム直前ツイートしたように、オークランド先発のブランドン・マッカーシーは、いいカットボールを投げてくるグラウンドボール・ピッチャーだから、「ゴロを転がさせられたら終わり」と思っていたら、まさにその通りだった。狭いドーム球場では、こういうゴロを打たせることのできるピッチャーこそ適任。




個々のプレーヤーそれぞれについても、色々言いたいことはあるが、どうせ書ききれないので、箇条書きにしてみる。成長の感じられるプレーヤーは両軍それなりにいる。
イチローとアックリーしかいないシアトルに引き換え、よその芝生がやけに綺麗に見える。アスレチックスで、今年活躍しそうな何人かが、うらやましく思えてならない(笑)


トム・ウィルヘルムセン まるで期待してなかったブルペン投手だが、球の伸びがいい。デトロイトに放出してしまったデビッド・ポーリーの後継者としてロングリリーフに使える。いずれはヘクター・ノエシを追い越しそうな面白い存在。

ブランドン・マッカーシー スピードが十分すぎるくらいあるが、それだけならけして怖くない、そういう投手だった。だが、去年オークランドでカットボールを覚えて、グラウンドボール・ピッチャーに変身できたことが、なによりポイントが高い。セットポジションが下手なのだけは残念だが、なにもかもできる選手など、どこにもいない。活躍が期待できそう。

ボブ・メルビン
マイク・ソーシアばりに1番から3番まで、盗塁のできるスイッチヒッターを並べて、チームのと盗塁を評価しない自チームのGMビリー・ビーンに「もっと盗塁させてくれ」と直談判して許可をとりつけてくるあたり、明らかにチームを「ビリー・ビーンのつまらない数学チーム」から、「ボブ・メルビンの機動力野球チーム」に衣替えさせるための手を着々と打ちつつある。
オークランドが、ビリー・ビーンの役に立たずでつまらないセイバーメトリクスでつくった数字のチームではなくなっていくかもしれない。そういう意味で、今シーズンのオークランドには、かつてない面白味がある。

クリフ・ペニントン ショートの守備に定評があるわけだが、打撃も安定してる。いい選手だ。オークランドにはもったいないので、ブレンダン・ライアンと交換してもらいたい(笑)

ジェマイル・ウィークス
正直、兄のリッキー・ウィークス(MIL)に比べてかなり小粒で、ホセ・レイエスのそっくりさん、くらいにしか思ってなかった。ウィークス兄弟が、アップトン兄弟に肩を並べる日が来るのかどうか、まだわからないが、いつのまにか、走攻守、あらゆるプレーに対する自信が、プレー結果に目に見える形で表れるようになってきてる。身体能力の高さは折り紙つき。



フェリックス・ヘルナンデス 4シームのスピードが乗らない。スロースターターだけに、初夏の季節にならないと今年の調子は見えないプレーヤーだが、まだギアをトップに入れる時期でもない。判断は先のばし。
スモーク&モンテーロの「扇風機コンビ」
あの実戦での自信の無さは、どうしたものか。ゲージで見せる打球の伸びが、まったくといっていいほど実戦につながらない。野球はテレビゲームではない。生きた球で結果を出すのをみせつけてもらわない限りは、永遠に評価を上げようがない。
マイク・カープ 得意コース、得意球種をさばくのは、本当にうまい。だが、それはゲージの中だけの話で、他チームからのスカウティングを受け始める今年は、実戦で投手が自分の得意コースに不用意に投げてくれてヒットを稼げる時代は、もう終わる。それがメジャーというものだ。だから、彼の打撃に何の期待もしてない。ただ、いつもけなしまくる守備は、ポカもあいかわらずあるもの、良化のきざしがある。
マイケル・ソーンダース メジャー生き残りのために必死にならざるをえない立場だが、グティエレスの怪我もあって、開幕スタメン。今後も競争は続くが、頑張って自分に向いたプレースタイルをみつけて、才能を開花させてもらいたい。
ブレンダン・ライアン 小柄な選手なのにランナー二塁のチャンスで頭を使わないバッティング(ショートゴロ)を平気でするようなプレーセンスの無さには、本当にガッカリさせられる。よくこんな野球脳の低いバッターを2番に置いていたものだ。日本人贔屓の意味でなく、現状のメンバーでなら、川崎は2番を狙える。1番イチロー、2番川崎、3番アックリーでいい。

damejima at 12:26

October 23, 2011

前の記事で、こんなことを書いた。

「残念なことに、野球ファンは、いくら最高の感動の場面でも、その出来事をあらゆる角度から眺めることはできない。このことは、誰もが経験からよくわかっている。
しかし、パソコンやインターネットのある時代だからこそ、誰かの知恵と他人の目線を借りつつ、お互いの情報を補完しあうことで、自分ひとりだけの経験では特定の角度からしか見えないゲームの全体像を、俯瞰的に再構築して、もっともっと全体像を楽しめたら、と望んでいる」



野球ファンがスタジアムで存在していられる場所は、人生と同じで、シートはたったひとつしか与えられない。だからかつては、自分に体験できることは「自分のいる位置での体験だけ」だと、「思われて」いた。

だが、今は違う。

例えば、別の場所で見ていたファンが撮った動画や写真、音声などのソースから、公式サイトの動画や新聞などのマス・メディアの写真とはまた違った、「現場の興奮ぶりのリアリティ」を追体験することができる。
また、出来上がりに時間がかかり、内容も試合結果中心の新聞系メディアの記事を翌日に眺めるだけでなく、チャットやツイッター、掲示板などを通じて、「その劇的な場面が誕生するのを見ることができた興奮」や「その劇的な場面が誕生できた理由についての意見」を、リアルタイムあるいはゲーム直後に検討したり、論議したりもできる。
さらに、ブログ記事などで、そうした「視線の共有」「意見の共有」の場所に「自分なりの視線」をアピールすることもできる。

こうした行為によって野球ファンは、ひとつの劇的な場面について何をしているのかというと、「さまざまな角度からの視線を、共有しあっている」わけだ。


以下に、野球を楽しむ「視線共有」の例として、2009年9月18日のイチローのサヨナラ・ホームランについて、Youtubeに寄せられたファン目線の動画を集めてみた。


これらの動画にはそれぞれ、カメラのブレやフレームアウト、画質の粗さ、音割れなどが多数ある。だが、そんなささいなことは、まったく気にならない。むしろ、臨場感があって、非常にいいくらいだ(笑)

例えば「イチローコール」。
声の大きさや質が、スタジアムのポジションによってまるで違っていることが、よくわかる。女性の感極まったような高い声。英語訛りの男性の低い声。旅行者とおぼしき日本人。かわいい声でコールする子供。いろいろな人の声がする。
外野にいると内野よりもゲームを楽しめないわけじゃないのはもちろんだが、シート料金が安いポジションで声を張り上げてイチローコールしてくれている人が、そこよりも明らかに料金の高い場所で試合を見ている、いかにもIT企業などに勤めてそうな男どもより試合を楽しめてない、なんて、全く言えないことは、ひと目でわかる。
日本人の遠慮がちなイチローコールも、若い男性の英語訛りの「イチロゥ、イッチロゥ」という呟きも、耳をつんざく凄まじい女性の金切り声も、ホームランの瞬間、ごっちゃごちゃにひとつになる(笑)

結局、なんだというと、野球というスポーツは、スタジアムのどこで見ようと、「それぞれの場所に、それぞれの楽しみ」があることが、これらの動画から、本当によく伝わってくる、と、言いたいのである。
あらゆるシートに野球の楽しみがある。人生と同じだ。大事なのは精一杯楽しむ気持ちだ。

せっかく動画の時代がやってきたのだ。あなたがこんどスタジアムに行くときは、ぜひ、ビデオカメラを携行してもらいたい
関連記事も読みつつ、さまざまな角度の動画を見ることで、「視線を共有する」意味や楽しさを感じてもらえれば、と思う。

MLB公式サイトの動画:

Baseball Video Highlights & Clips | NYY@SEA: Ichiro's walk-off homer wins it in the ninth - Video | MLB.com: Multimedia

マリナーズ公式サイトの記事:
Ichiro's walk-off shot stuns Mariano, Yanks | Mariners.com: News

ブログ関連記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年1月16日、2009年9月にイチローが打った超劇的サヨナラ2ランで、ヘルナンデスが16勝目を挙げたNYY戦を、「カウント論」から振り返る。

ブログ関連記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月28日、アダム・ケネディのサヨナラタイムリーを生んだマリアーノ・リベラ特有の「リベラ・左打者パターン」配球を読み解きつつ、イチローが初球サヨナラホームランできた理由に至る。



1)三塁側 内野のかなり高い位置の席から。
子供たちが一生懸命にイチローコールをしている声で始まる動画。こういう高い位置の席を敬遠している人もいると思うが、ライトへのホームランの軌道が非常によくわかりやすい。また、イチローがホームに投げるレーザービームはじめ、あらゆる連係プレーが非常によくわかる。
シアトルファンの強い「イチローコール」、それが瞬時に叫び声に変わる一瞬が凄くリアルだ(笑) こういう瞬間のために野球がある。


2)ライトスタンドから。
自分たちに向かってサヨナラ・ホームランが飛んでくるんだから、そりゃ興奮しないわけがない(笑) これぞ外野スタンドの特権。
セーフコのライトスタンドは、言うまでもなく、イチローの守備を眺める楽しみ、また、イチローの盗塁を横から眺める楽しみもある。また有名な「イチメーター」の方に記念写真をお願いすることもできる。日本での開幕戦は、たぶんライトスタンドが争奪戦だろう。


3)三塁側 内野席の低い位置から。
興奮した男どもの突き上げる拳(こぶし)の列に、スタジアムでしか味わえない臨場感がある(笑)


4)一塁側 内野席の低い位置から。
Get out of here! と、打った瞬間叫ぶ声が印象的。左打者のライナー性のホームランの美しい軌道をすべて見るには、まさに絶好の位置。
よく見ると、打球がとっくにスタンドに飛び込んでいるのにもかかわらず、かなり遅れてヤンキースのライトがスパイダー・キャッチを試みている(11秒から12秒あたり)のが小さく映っており、このときの打球がいかに速かったかを物語っている。


5)一塁側 内野席のライン寄りから。
たぶん日本人ファンのカメラだと思うが、あまりにもイチローにズームしすぎて撮り始めているところに、突然のホームランで慌ててしまい、何も映ってない動画が、かえって臨場感がある(笑)


6)一塁側 内野席の比較的後ろ側。
通路をうつむき加減にあわてて帰っていくヤンキースファンがクッキリ映っている(32秒から33秒のあたり)のが、かえってファンの撮った現場映像らしくて、リアリティがある(笑)





damejima at 05:07

September 29, 2011

3000本安打を達成する「3つのルート」のうち、まず、3000本安打達成者としては「低打率なグループ」である第1のグループ、「カール・ヤストレムスキー型」の中身を見てみる。(まるでUFOのタイプ分けのようなネーミングだ 笑)

(「3つのタイプ」の分類については、ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年9月28日、3000本安打を達成する方法(2) 3000本安打達成者の「3つのタイプ」を参照)

(1)「カール・ヤストレムスキー型」
カール・ヤストレムスキー (3419本)43歳
エディー・マレー (3255本)41歳
カル・リプケン (3184本)40歳
ロビン・ヨーント (3142本)37歳
デイブ・ウィンフィールド (3110本)43歳
クレイグ・ビジオ (3060本)41歳
リッキー・ヘンダーソン (3055本)44歳
(数字は、通算安打数と引退年齢)

この第1グループに属するプレーヤーの最大の特徴は、カル・リプケン的な身体の丈夫さと、(全員がそうだとはいえないが)「地元の声援を受けて長くプレーすることができたフランチャイズ・プレーヤーである」という点だろう。


第1グループの打者たちは、3000本安打達成者としてみた場合、通算打率が.285前後と、低い。(もちろん、3000本安打達成者としては低いというだけで、そんじょそこらの凡庸な打者よりは、ずっと高い) だから必然的に、通算打率.285あたりの打者が3000本安打を達成するには、大きな怪我が少なく、長いキャリアを実現できた選手であることは必須条件になる。

第1グループの引退年齢をみると、44歳までプレーできた伝説の盗塁王リッキー・ヘンダーソン、歴代連続試合出場記録、連続試合フルイニング出場記録をもつカル・リプケンをはじめ、ロビン・ヨーントを除く全員が、40代までプレーしている。
連続試合出場記録をもつカル・リプケンがこのグループに属していることからもわかるのは、やはり、何事か大きなことを成し遂げることのできる長いキャリアを実現するには、丈夫な身体が必要だというシンプルな話だ。
単純なようだが、やはり身体の頑健さは人並み外れた成果を残すには必要不可欠。大事なことだ。


さらに趣深い特徴は、彼らの多くが最初に入団した球団のみでキャリアを終えた、スペシャルなフランチャイズ・プレーヤーであることだ。

ヤストレムスキー(ボストン)、リプケン(ボルチモア)、ヨーント(ミルウォーキー)、ビジオ(ヒューストン)と、第1グループはまるでMLBの代表的なフランチャイズ・プレーヤーの優良見本市のような趣がある。彼らは「近年の代表的な有力フランチャイズ・プレーヤー」という話題になったら、間違いなく名前が挙がる選手たちばかりだ。(第2グループにも、カンザスシティ一筋でキャリアを終えたジョージ・ブレットなどの例があるが)


3000本安打達成者の中では比較的低打率なバッターである彼らが、「地元の声援があったから、長いキャリアを維持できた」のか、それとも逆に、「長いキャリアが可能なほど、高い才能に恵まれた選手だったからこそ、フランチャイズ・プレーヤーとしてひとつの球団にとどまり続けることが可能だった」のか。
この「長いキャリア」と「地元の声援」の、どちらかニワトリで、どちらがだったのか、さすがに明言できないのだが、少なくとも言えることは、彼らのケースでの3000本安打達成については、「地元の声援」も大きく貢献しただろう、ということだ。

これは野球というスポーツのスピリッツをこれから見たり考えたりする上で、とても深く考えさせられる。
逆にいうと、これから3000本安打という、途方もない大記録に挑もうとしているフランチャイズ・プレーヤーの「放出」を煽りたてているシアトル地元メディアなどは、あまりにも馬鹿で、まったくお話にならない。3000本安打の意味も重みもわかってない。ケン・バーンズのほうがよほど野球というものの本質をわかっている。
時間があれば以下の記事を参照するといい。ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月20日、シアトル・タイムズのスティーブ・ケリーが、"The Tenth Innning"のケン・バーンズと共同監督のリン・ノビックが行った「イチローインタビュー」について当人に取材して書いた記事の、なんとも哀れすぎる中身とタイトル。


3000本安打達成者の3つのグループの中では、低打率である第1グループの「ヤストレムスキー型」の達成プロセスが、彼らの「キャリアの長さ」に基づいているという話は、もちろん理にかなった話だ。打率が低いのだから、長いキャリアやらなければ、3000本安打達成には至らなかっただろう。
だが、そういうリクツ上の話はともかくとして、彼らの長いキャリアを支え、3000本安打達成に至らしめた原動力が、単に、彼らの恵まれた非凡な才能や身体の丈夫さだけではなかった、というのが、ヒューマン・ストーリーとして非常に面白い。「記録というものの、別の意味や重み」を考えさせられる。

野球選手に必要なものは、プレー技術だけではないのである。


イチローはこの第1グループに属すプレーヤーではなく、第3グループのプレーヤーだが、2011年9月まで、シーズン全体を棒に振るような長い休養もなく、11シーズンシアトルでプレーしてきて、イチローは、この第1グループの3000本安打達成者たちが発揮した「身体の頑丈さ」、「フランチャイズ・プレーヤー」という点からみても、申し分ない3000本安打達成者候補だ。



damejima at 10:17
3000本安打達成者の打数と安打数の関係 3タイプ分類(修正)

X軸(横軸)=通算ヒット数(1目盛=500本)
Y軸(縦軸)=1本のヒットを打つのに必要な打数=通算打数÷通算ヒット数(1目盛=0.2)

四角=低打率グループ。通算打率.285以下。
三角=中位グループ。通算打率.300前後。
円形=高打率グループ。通算打率.320以上

黒い線はそれぞれのグループの線形近似曲線
資料:Career Leaders & Records for Hits - Baseball-Reference.com


前の記事で「なぜ4打数1安打では絶対に3000本安打を達成できないのか?」を書いた。4打数1安打というレートでのヒット生産では、3000本達成前に、確実に選手としてのキャリアが終わってしまうからだ。
3000本安打を達成には、「かなり若いうち、できればデビュー直後から」、最低でも「3.5打数に1安打くらいのパーセンテージでヒットを打ち続け」、それも「かなり長期間(実際には20シーズン前後)にわたって持続する」ことが、必須条件になる。これらの条件のどれが欠けても、達成は難しくなる。


上の図は、2011年9月段階でMLB歴代ヒット数ランキング110位近辺にいるイチローより多くのヒットを打ったMLB歴代100人ちょっとの打者全員の通算安打数と、それにかかった打数の関係をプロットしたものだ。(もちろんこれからもヒットを打つ現役打者も含まれるから、あくまで暫定的な図だ)

ちょっと複雑な感じがするかもしれないが、横軸はその打者の通算安打数、縦軸は「1本のヒットを打つのに必要だった打数」。
つまり、右にいくほど「通算安打数の多い打者」であり、下にいくほど「少ない打数でヒットを打っている優秀な打者」という意味になる。

また、縦に上下に並んだマーカーを見ていく場合、最も下にある打者が「最も優秀」ということになる。例えば、横軸の2400本のあたりをずっと上方向に見てもらうと、イチロー(MLBのみ)を含め、10数人の打者のデータが縦に並んでいるのを見ることになるわけだが、これは「現役と歴代あわせて、2400本ちょっとのヒットを打った打者のうち、イチローがもっとも少ない打数で2400本打った」ということを意味している。


単に「イチローよりたくさんのヒットを打った打者」を並べるだけだと、データは図の上にまんべんなく分布するだけで、なんの特徴もみられない。特に、3000本をまだ達成してないか、達成できず3000本を目前にキャリアを終えた選手たちには、ハッキリした特徴を抽出することができない。
だが、面白いことに、「3000本安打達成者のみ」と限定すると、とたんに「3つのグループ」にハッキリと分布が分かれるのである。
上の図でいうと、楕円で囲んだ、3つの部分がそうであり、それぞれのグループは、お互いに距離をとるかのように、離れて存在している。
結局3000本安打を達成できなかった選手たちと、これから達成を目指す選手たちは、ドングリの背比べでハッキリした特徴がないが、「3000本安打達成者」には、ハッキリ「3つのタイプ」に分かれる


図の分類によって、3000本安打という名山の登頂に成功するには、3つのルートがあることがわかった。
3000本安打という大記録において、「達成できた選手」には特徴がハッキリあり、「そうでない選手」にはハッキリした特徴がないのは、実は、「若いうちから『3000本安打を達成するための3つの特定ルートのどれか』を着実に歩みながら、長いキャリアを過ごせた選手」と、達成のためのルートを歩めなかった選手の「差」が存在するからだ。

(1)通算打率.285以下 「カール・ヤストレムスキー型」
1本のヒットを打つのに、3.5以上の打数が必要。通算打率に換算すると、.285以下。3000本安打達成者の中では、低打率グループといえる。

(2)通算打率.300前後 「ピート・ローズ型」
1本のヒットを打つのに、3.3くらいの打数が必要。通算打率に換算すると、ちょうど.300あたり。3000本安打達成者の中では中位の打率グループになる。

(3)通算打率.320以上 「スタン・ミュージアル型」
1本のヒットを打つのに、およそ3.1以下の打数でヒットを量産できる安打製造機。通算打率に換算すると、.320から.330以上が必要。3000本安打達成者の中では高打率グループ。





damejima at 10:06

September 22, 2011

いやー。イチローがアメリカで成功できた理由を見た。
あの空気の読めなさ加減、ハンパない(笑)
Seattle Mariners at Minnesota Twins - September 21, 2011 | MLB.com Classic

今日のミネソタの先発ピッチャー、ケビン・スローウィーは、6回2アウトまで、ノーヒットノーランにシアトルを見事に抑えていた。だが、そのあと出てきたバッターが、どうにもいけなかった(笑)

イチロー

イチローのこれまでの対スローウィーは9打数1安打5三振なのだが、もちろん、そこはイチロー、空気なんか読まない(笑) 遠慮なく、アウトコースのカーブをセンターに抜けそうな絶好のゴロにして、かろうじて内野手が追い付いての内野安打で見事にノーヒット・ノーランをぶち壊した(笑)
するとスローウィー、気落ちしたのだろう、その後二塁打を2本続けて打たれて2失点するわ、次のイニングには3失点するわで、ノーヒット・ノーランどころか、負け投手になってしまった(苦笑)
今シーズンここまで0勝6敗で、ようやくスローウィー初勝利と思われた勝ち星も泡のように消え、結局7連敗。ミネソタも11連敗(笑)
Kevin Slowey: From 2007 to 2011, Facing current players for Seattle Mariners, Bats LH or Both, Order by PA desc, then by Name asc

非常に今日は痛快だ。イチローが日本を飛び出し、アメリカで成功できた理由のひとつが、たぶんこの「空気の読めなさ」だろう。
誰がなんと言おうと、自分を貫く。メディアであれ、誰であれ、何か言われたからって、自分のやり方を曲げない。打席に入るときは名曲「天城越え」(笑)
そう。何か言いたいやつは言わせておけばいいのだ。


日本流の謙遜は通じない場所だが、自分を貫き通すことは、できるようで、なかなかできない。ついつい、相手の価値観というやつに身を委ねてしまう。
忘れている人が多いわけだが、イチローは「日本を飛び出して戦っている日本人」である。和をもって尊び、なんてことをモジモジいってるようじゃ、勝てない。

イチローにはいつまでも「元気のいいガイジン」でいてほしいものだ。



damejima at 16:50

August 25, 2011

 
アップル ロゴ

The rainbow "bitten" logo, used from late 1976 to 1998.Designed by Rob Janoff

Think Different.
これは1997年にApple社が行ったキャンペーンで使われたスローガンだ。何度読んでも、深い含蓄と、アップルらしいクリエイティビティを感じさせる。
「他社との差別化」は広告手法の基本中の基本なわけだが、このスローガンにはビジネスにおける差別化程度のレベルを越えた深遠なメッセージがある。迷いに迷って道を進んだ挙句に、90年代末に会社が無くなる瀬戸際までいって踏みとどまり、やっと創業時の原点である「創造性」にたち帰る決心のついたアップルの世界観、文化論が、これでもかとばかりに詰め込まれている。

90年代末、MLBがまだステロイド・ホームランまみれだった頃に、アップルは一度、決定的に衰退しかかった。まだiPodも、iPadも、iPhoneもないどころか、iMacすら無く、互換機ビジネスにも失敗。96年にはやる気のない取締役が自社の売却先を求めて右往左往しているような最悪の状態だった。
97年2月になってアップルは、85年にアップル自身の手でクビにした創業者スティーブ・ジョブズを12年ぶりに復帰させ、同年11月に伝説の“Think Different.”キャンペーンが行われた。
翌98年アップルは、黒を基調とするデザインのPowerBook G3を発表すると同時に、1976年から使われ、熱狂的ファン層から常に支持されてきたレインボーカラーのカラフルなロゴを捨て、新しい単色のロゴを採用し、アップルは2001年以降の新たな輝きに向かって歩き出したため、Think Different.キャンペーンはレインボーカラーのロゴでの最後の大規模キャンペーンとなった。


Think Different - Wikipedia, the free encyclopedia

マリア・カラス in Think Different

ジミ・ヘンドリックス in Think Different


テクノロジーで世界を変えてきたアップルのロゴデザインはこれまで何度か変更されている。ロゴ変更は、それぞれの時代においてアップルが世界に提案するテクノロジーや製品すべてについてにかかわる戦略変更宣言を意味していた。
アップルのロゴの変遷
2001年は、イチローにとってはMLBへのデビュー・イヤーだが、アップルにとっては、Linux互換のMac OS Xを発売して、古き良きOS9までのテクノロジーと決別すると同時に、iTunesとiPodを投入して音楽事業に参入した年だ。
2001年からの10年はイチローにとって、ステロイド時代の余韻の残るMLBに独自のプレースタイルを持ち込み、追随を許さないキャリアを築き上げた輝かしいディケイドだが、アップルもこの10年、iPodから、iPad、iPhoneに至る創造的で活発な企業活動を経て、2011年8月10日にニューヨーク株式市場の終値で初めての時価総額世界一になるなど、輝かしいディケイドを過ごした。21歳の若者2人がガレージで始めた会社が、世界一の会社になったのである。


今シーズンのイチローについて、最近アメリカメディアの「ノイズ」が多い。
彼らの記事はどれも似たり寄ったりで、タイトルを読めば中身まで読めてしまうような、そんなレベルの低い記事ばかりで、オリジナリティはまったく無い。単なる「ノイズ」といって、さしつかえない。
例にあげた下記の記事なども、見た目のタイトルと、ページソースに埋め込まれているタイトルが違っている。オリジナリティへの敬意に欠ける創造性の無い人間は、こんな細かい、卑怯な芸当を使ってまでして他人を非難するのだから、哀れなものだ。
記事の例:Ichiro still follows own beat, but out of rhythm | MLB.com: News


2000年にアップル社CEOに復帰し、この10年間アップルを牽引して世界一に引きずりあげたスティーブ・ジョブズが、CEOを辞任するという。
ほとんどの人はジョブズの健康を心配するのだろうが、彼はなんせ名前に「ジョブ」なんてつく超仕事好き男だ、健康を考えて仕事をやめたりするような男ではないと、ブログ主は思う(笑)。おおかた、いつぞやNextでやっていたように、21世紀に入っていつのまにか大企業になってしまったアップルでは成し遂げられない特殊なアイデアでも思いついたに違いない。


2004年に膵臓ガンと診断されたジョブズが、2005年のスタンフォード大学の卒業式に招かれて行った有名なスピーチの一節を、イチローに贈ろう。

死を自覚するということは、
人生の岐路に立っている自分が道を選択するときに、
もっとも重要なツールになる。

なぜなら 
周囲からの期待、プライド、失態や失敗への恐怖
こういったほとんどの事柄は
死を前にすればすべて消え去ってしまって
本当に重要なことだけが残るからだ。

僕たちは裸だ。
だから、自分の気持ちに素直に従わない理由なんて、ない。

他人からのノイズに耳を傾けるな。
自分自身の内なる声に耳を傾けろ。

もっとも大切なことは
自分の心と直観を信じる勇気を持つことだ。
心と直感はすでに君たちが何になりたいかを知っている。
他のことなど、二の次でいい。


何がクリエイティブで、誰がただの猿真似なのか、ひと目で見抜く訓練すら積んでこなかった企業や人間が世の中の表舞台にしゃしゃり出てきたことで、価値観の錯綜してしまった今の時代には、メディアでも、インターネットでも、無価値で無様な意見を堂々と述べ続けている哀れな人間が、掃いて捨てるほどいる。
そういう人間には、誰の仕事かすら区別できない「ノイズ」を生産する仕事がお似合いだ。

そういう「ノイズ」に耳を貸す必要は、まるでない。





damejima at 15:04

August 14, 2011

今日のレーザービームの前からの話だが、しばらくいろいろな角度で考えてはみた。
だが、やはり、エリック・ウェッジが言う「イチローを常にフレッシュな状態で使いたいから、これからはDHでしばしば使う」なんて発言は、そもそもイチローに対する敬意が根本的に欠けている、余計な邪魔をするなと、このブログでは断言することにした。


むつかしい話ではない。
ノーヒット・ノーランを達成しかかっている先発投手に、ムダに話しかけるな、そして、そういう場面で「休め」などという人間は馬鹿だ、ということだ。
そんな言葉は、これまで10年連続でゴールドグラブをとってきたプレーヤーに言う言葉ではない。疲労を防ぐだの、なんだの、そういう生ぬるいことを言うくせに本音の見えない、なにかにつけてイザとなると弱気な男ウェッジ程度の人間の発する言葉が、本気かタテマエか、議論する必要もないし、考える時間も、もったいない。


最前線でプレーヤーとして10年戦ってくることの厳しさや、本当の意味で結果を出して戦ってきた人間への敬意を知っている人間なら、むしろこういうだろう。
「おまえ、きついか。でも、君の何かがかかったシーズンだろう? なら、俺が見ていてやる。死ぬ気でグラウンドに立って結果を出すところを、俺に見せつけてみろ。」と。

本気で相手に期待している人間なら、「適度に休んで、結果を残してくれればいい」などと、生ぬるいこを言うわけがない。
それくらい、今シーズン以降イチローが達成しようとしているものは、本来、重いものだ。その重みを知る者は、この数十年から100年、現れていない。エリック・ウェッジ程度の実績など、比べ物にならない。

重い目標ならば、潰れることもあるかもしれない。だが、周囲はそれを黙って見守るべきだ。ノーヒット・ノーランを達成しかかってゲーム終盤に差し掛かっている先発投手に、あえてムダな世間話で話かける者など、いない。
最も有効な助力は、「余計なことをしないこと」だ。

今日のレーザービームを見た後でも「たまにDHでやってくれ」なんて、ぬるいことが言える監督は、本気の戦いがどこに行われているか、まるでわかってない指揮官としか、言いようがない。

実質終わったシーズンに、来期のスタメンを確保しようと必死にヒットでアピールしようと目をギラつかせている若者どもの戦いなど、見ていてまったくたいしたことはない。
なぜなら、その程度の戦いなら、いくらでも反復、つまり、やり直すことができるからだ。メジャーでそんな程度の低い「あがき」を人前でやらなくたって、別にマイナーにいたとしても、その程度の戦いならいくらでもできる。そういう取り返しのつく程度の戦いに、たいした意味はない。


他方、イチローがこれからやっていく戦いは根本的に違う。
「後戻りできない戦い」であり、イチローのいる場所にしか存在しない。そして、誰もそれを反復することができないし、メジャーでしか達成できない。

ブログ主は常にイチローのプレーに期待している。そしてイチローは毎試合本気でグラウンドに立っていると思っている。

結果?
ハッキリ言っておこう。
そんなもの、出ようが出まいが、まったく関係ない。知ったこっちゃない。何年も最下位を続けてきて、2009年以降の3シーズンで道すじをつけておくべきだった「再建」にすら既に一度失敗したチームが、「二度目の再建」に手をつけようとしている体たらくなのに、いまさらチームもへったくれもあるか。

結果がどうであれ、イチローに休んでほしいと思ったことは、ほとんどない。むしろ、毎ゲーム延長戦になれば、イチローの打席数が1つでも増えて、守備機会も増えるので、そのほうがいいとすら思っている。
DHの件については、むしろ、イチローがもっと守備をしたいのなら監督室に明日の朝にでも直行して、「俺はDHなんかやりたくない。全ゲーム、守備もやらせてくれ。守備評価も俺のサラリーのうちに入っているということは、守備も打撃同様にオレの仕事であるだけでなく、権利でもある」と、自分の意思を自分の言葉でハッキリ伝えるべきだと思う。

そう。勘違いしている人が多いがイチローは守備につく権利がある。


大事なのは、自分の意思をハッキリ表明すること、
他人の意図、人の都合など気にしないと、自分の中でハッキリ決めること、だ。それが、「振り切った人生をおくる」ことにつながる。


注:馬鹿が勘違いするといけないので、注釈をつけて明確にしておく。
ここでいう「振り切る」とは、バットを全力で振り回すという意味ではない。芥川龍之介の『杜子春』という作品を読めばわかる。「振り切る」、というのは、他人の思いに引きずられることなく誰も到達したことのない境地にまっすぐ、脇目も振らず、突進していくことだ。他人の思いを断つことは、人間として本当に身を切るような思いで、その人自身をさいなむことになるが、それに耐えなければ、誰も達したことのない境地には手が届かないと、芥川は言うのである。






damejima at 23:52
これが正真正銘、イチローのトレードマークのひとつ、レーザービームだ。
文句あるなら、どっからでもかかってこいやッ。

判定がくつがえって溜飲が下がって喜べる人はいいが、
ブログ主などは、イチローにまつわる間違った判定、歪んだ判定が平気で下されるような今シーズンの空気を何度も指摘しているだけに、「そこまでやるのか」と、半分怒り心頭でもある。

いい加減にしろや、MLB。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月2日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(1)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月2日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(2)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月5日、今日も今日とてイチローと球審との戦い。従来と立ち位置を変え、バッターとキャッチャーの間の隙間「スロット」から判定する今の球審の「アウトコース判定の歪み」。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月10日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(3)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月3日、「ここまでするか」と感じる、2011年オールスター投票の作為。

Baseball Video Highlights & Clips | BOS@SEA: Ichiro makes an outstanding throw to get two - Video | MLB.com: Multimedia

2011年8月13日 イチロー レーザービーム誤判定事件 1
シアトルのキャッチャー、ジョシュ・バードがイチローのレーザービームをキャッチした瞬間。ボストンのサードランナー、エルズベリーは、まだホームプレートの2メートル以上も手前にいる。

2011年8月13日 イチロー レーザービーム誤判定事件 4

ジョシュ・バードがエルズベリーにタッチした瞬間の画像。明らかにアウト。エルズベリーの左足はホームプレートの数十センチ手前にあり、まったくホームプレートには届いていない。エルズベリーが左足膝でバードの顔面を直撃するのは、バードがエルズベリーをアウトにした、もっとずっと後の話。
球審Mark Rippergerの位置と、視線の角度をよく見てもらいたい。これで「角度が悪かった」だの、「見えなかった」だのとは言わせない。明らかに「アウトになった瞬間を見ている」。これで「セーフ」と判定するのだから、あきれるしかない。

2011年8月13日 イチロー レーザービーム誤判定事件 2
バードがエルズベリーにタッチした後で、エルズベリーの左足膝がバードの顔面を直撃した。画像を見ればわかるように、ホームプレートの左上の角がクッキリ写っている。つまり、左足でバードの顔面を膝蹴りした瞬間ですら、エルズベリーの左足のつま先はまだプレートに届いていない。


Boston Red Sox at Seattle Mariners - August 13, 2011 | MLB.com Classic
4回表1、3塁。
3塁ランナーはジャコビー・エルズベリー。今シーズンの盗塁数を言う必要もない。俊足のランナーだ。バッターはこの日4番に座ったダスティン・ペドロイア。カウント2-2から、ライトフライ。
捕球したとき、イチローのカラダの向きは、ホームプレートに向くのではなくて、ややライト側、イチロー自身から見て左側を向いた態勢で捕球している。これはたぶんイチローがよくやるフェイントのひとつ。「この向きでは、ホームプレートには投げられませんよ」と、サードランナーを騙して、「わざとタッチアップを実行させるためのフェイント」だ。
もちろんイチローはあの位置ならホームプレートに矢のような送球ができる。

ゲーム後、エルズベリーはこんな風に自信満々に語っている。
だが、自信家の若造には悪いのだけれど(笑)、語っている内容は単なる勘違いだ。多少スローイングが遅れていても、イチローはエルズベリーを十分アウトにできた。ホームプレートの2メートルも手前でアウトになったクセに、イキがるのもたいがいにすべきだろう。
I knew the throw had to be on the money for him to get me out...I knew it was going to be close.
僕をアウトにするには(ライトからイチローが)ドンピシャの送球をしなければならないことはわかってたよ。クロスプレーになるのは必至だったからね。
Hernandez survives rally as M's hold off BoSox 5-4 - seattlepi.com


MLB公式の動画を止めながらじっくり見ればわかるように、ジョシュ・バードがイチローの送球をミットの中につかまえたときに、サードランナー、エルズベリーはホームプレートの2メートル以上も手前でのんびりと走っていた。

アウトかどうかなど、議論する必要もない。
アウト。それ以外ない。

だが、なんと今日の球審、Mark Rippergerは、これをいったん「セーフ」と判定した。

酷いもんだ。
だから、今シーズン、常々言っている。「MLB全体に、イチローの記録更新を阻止するかのような、おかしな空気があるぜ」と。

ピッチャーのヘルナンデスが反射的に抗議。顎にスライディングを食らって、マスクを吹き飛ばされたバードは、仰向けになったまま起き上がれない。バードの様子をトレーナーが見ている横で、ヘルナンデス、エリック・ウェッジなどが抗議。

その後、このあからさまな「誤判定」は、くつがえった。


このブログが何度もエリック・ウェッジを負け犬呼ばわりしてきた理由が、今日判定がくつがえったことで誰もがわかったはずだ。

明らかな間違いに、きちんと抗議することはまったく間違ってないどころか、そういうことをきちんと実行しないチームこそ舐められる。

球審であれ、相手チームであれ、MLB機構であれ、相手が誰であろうと関係ない。舐められて間違った判定、不利な扱いを受けたのに、それを甘んじて受け入れるのは、負け犬のやることだ。
そんなことだからエリック・ウェッジは負け犬だと言うのだ。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月9日、Sam Holbrookのミスジャッジで試合は台無しになったと、語ったエリック・ウェッジは、「気づいた」のか。それとも、「気づかない」のか。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月24日、みずから牙を抜いて相手にさしだしてチームに「負け犬メンタリティ」をたっぷり塗りこめた「負け犬指導者」エリック・ウェッジの「3ボール四球黙認事件」を批判する。


ブログ主は、今日のゆがみきった判定が当然の結果に覆ったつくらいのことで、手をたたいて喜んだり、エリック・ウェッジを見直したりなど、しない。そんなことするのは、プライドの無い人間のすることだ。ありえない。
当然出るべきだった判定が出たことくらいで、いちいちありがたがったりしてはダメだ。MLBの球審の判定がくつがえることはほとんどないものだ、とか、どうとか、そういう常識論など、知ったこっちゃない。






damejima at 23:17

July 11, 2011

別に実際にオークションサイトなどをあたって、チケット価格と残り枚数をいちいち確かめたわけではないが、「オールスターのチケットのプレミア価格が20%下がった上に、いまだに4000枚以上売られている」と報じるソースがある。
Tickets to see the 2011 MLB all-star game continue to decline. Ticket resell prices on Stubhub and Ticket Networks have dropped 20% over the past week. On July 1st, lower level infield seats were going for $439 per ticket and currently are listed for $350 per ticket. The cheapest MLB all-star ticket is listed for $92 per ticket, down from $112 last week. Currently there are over 4,222 tickets listed for sale on Stubhub and with only 5 days left to go, there will certainly be a sell-off as game time approaches.
My previous post on MLB all-star tickets details some of the prices paid over the past couple of months. The ticket resell trend is certainly downward
MLB All-star tickets drop 20% this week


今回のオールスターのチケット価値の下落を伝えている記事は他にもある。
Breacher Reportも、「オールスターのチケットの価値は47%下落した」と伝えつつ、価格下落の理由として、「ジーター、Aロッド、マリアーノ・リベラなど、たくさんの有名選手たちの出場辞退があり、魅力が失われていること」を挙げている。
Ticket values are already estimated to be down 47%.
2011 MLB All Star Game Matters, Just Not to the Players or Teams | Bleacher Report


今年のオールスターのチケット価格の下落は、MLBのレギュラーシーズンのチケットの市場価格の「市場動向」とは、全く何の関係もない。 これをいくつかのデータで立証しておこう。

あるレポートによれば、2009年から2011年上半期までのMLBのチケット市場価格は、こんな風に推移しているらしい。
2011年のMLB全体のチケット価格動向は、価格が大きく下がった2010年に比べると持ち直したものの、チケットが高かった2009年と比べると下がっているらしい。
2009年 74ドル
2010年 64ドル
2011年 67ドル

MLB ticket market prices are up in 2011 ($67) compared to 2010 ($64). But MLB ticket prices are still down compared to 2009 when baseball tickets averaged $74.
MLB Ticket Market Prices Higher in 2011

MLBのチケット市場価格が高かった2009年だが、同年4月にFOXの電子版は、同年7月にブッシュスタジアムで行われる予定の第80回オールスターのチケット価格の「下落」を予想した。
前年2008年にヤンキースタジアムで行われた第79回オールスターのチケットは、150ドルから725ドルと、高額だったのに対し、ブッシュスタジアムでのオールスターのチケット価格は、100ドルから360ドルと、3分の2から、半額というレンジに下がるだろうとする記事である。
つまり、オールスターのチケット市場価格は必ずしも定額ではない。
MLB All-Star game ticket prices drop

このように、2009年は、MLB全体のチケット価格が高かったにもかかわらず、オールスターのチケット価格は大きく下がっている。
このことからいえるのは、「オールスターのチケット価格は、そのシーズンのMLB全体のチケットの市場価格動向とはあまり関係しない」ということだ。

チケット価格が本番直前になって下がってきている今年のオールスターのチケット市場価格だが、今年のレギュラーシーズンのチケット価格はむしろ上昇傾向にある。
また、オールスターのチケット価格は、MLBのレギュラーシーズンのチケット価格動向とあまり関係なく決まる。
今年のオールスターのチケット市場価格の下落を、MLB全体のチケット価格の下落のせいにすることは、「二重の意味」でできないのである。


レギュラーシーズンとオールスターのチケット市場価格には、なんの関係もない。
ないとはいえ、チケット全体が高騰傾向にあるシーズンに、オールスターのチケット市場価格が本番直前になって大きく下がり、また数千枚も売れ残っている。こんな事態が異常でないわけがない。

何度も書くように、この10年、例年250万票から400万票の間のレンジで決まってきたア・リーグの外野手投票において、700万票をはるかに超える票数がトロントのボティースタに投じられるような事態が、もし「マトモな投票」なら、肝心のオールスター当日のスタジアムのチケットが4000枚も売れ残る、などという事態は起こりっこないし、また、数多くの投票を集めたはずのヤンキースのスター選手たちが続々と辞退していなくなっていく、なんて事態も起こりっこない。
資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月3日、「ここまでするか」と感じる、2011年オールスター投票の作為。


「マトモ」な投票でないから、こういうことが起こるのだ

本当に恥ずべきオールスターである。

もし、バリー・ボンズマーク・マグワイアのあの「恥ずべきステロイド・ホームラン時代」に回帰したくて異常投票した人間がいるとしたら、そいつらは恥ずべき行為の責任をとって、恥ずべきオールスターの残りチケットを全部買い占めるべきだろう。






damejima at 17:53

July 09, 2011

わけのわからない投票の積み増しが、結果的に選手をオールスターから遠ざけた今年のオールスターには、本当に腹が立っている。放送を見るつもりもない。



彼個人は明らかに「いいヤツ」なのがわかっているのだから、よけいに困る。ブログ主はプレーヤーとして輝かしい道のりを歩んできた彼個人と、彼の残してきた素晴らしい実績を批判するつもりなど毛頭ない。全くない。むしろ、そういうことを絶対に避けたい。

だが、彼のもっている「全米的な人気」、「彼が長年の努力の末に築いてきたスター選手としてのステイタス」を、「外部から」利用して、「MLBの世代交代を印象づけるオールスター」「30代後半世代を代表するであり、最もアメリカ的スターでもあるデレク・ジーターの、『花道』のオールスター」とかいうマスメディアやマーケティングに都合のいいイメージを人為的に作りだして、ジーターの3000本安打達成の興奮もそこに折込みながら、MLBの次世代のスター作りへの橋渡しをしよう、とかなんとか、そういう流れを人為的に作りだそうとした今回の「歪んだオールスター」のマネージメントや印象操作には、本当に腹が立ってしかたがない。


ブログ主はオールスター投票の結果について以下の記事を書くことで、2011年のオールスター選出プロセスが「人為的な作為」に満ちたものではないか? と疑問に思う立場を提出した。
もちろんその立場に変更などありえない。この10年、例年250万票から400万票の間で決まってきたア・リーグ外野手投票の、どこをどういじくると、700万を越えるような異常な大量票が集まるというのか。教えてもらいたいものだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月3日、「ここまでするか」と感じる、2011年オールスター投票の作為。


デレク・ジーターだって、今シーズンの彼の成績だけを問題にするのなら、明らかに出場できるレベルにないことくらい、10回以上もオールスターに出場し、MLBの顔という重責を誰よりも長く背負ってきた人間なのだから、誰に言われなくてたって、彼自身が一番よくわかっている。

だが、今シーズンの成績が冴えない2人の選手、ジーターは出られて、イチローは出られないという差があるのは、明らかにおかしい。
これまでの実績で出られるというのなら、ジーターも、イチローも出られて当然のプレーヤーである。

だから、言いたいのは、「2つにひとつだ」ということだ。

ジーターもイチローも、「これまでの実績」で選ばれる。
ジーターもイチローも、「今シーズンの成績」で選ばれない。

だが、結果は、
アメリカ人であるジーターは大量得票で選ばれ、イチローは例年どおりの得票数を得たのに出られなかった。


誰かが作為的な結果をひねり出した結果、ジーターは喜んでオールスターに出れたか?
彼はむしろ、今年のオールスターをまるで「今年の自分はオールスターにはふさわしくないと、自ら辞退するかのように」出場を辞退してしまった。もったいないことだ。
これで今年のオールスターには、イチローも、ジーターも、ついでにいえば、Aロッドも、いない。そういう「しけった花火みたいなオールスター」を、誰が望んだというのか。


なんのための投票だったのだ?
そう言われてもしかたがないだろう。


改めて言いたい。
オールスターとは、そのシーズンに成績のいいプレーヤーを決める「統計的なランキング」などではない。もし、ランキングなのなら、ホームランと打率と打点の、それぞれ上位3人を優先出場させるとかなんとか、そういう規定でも作っておけばすむのだから、、さっさとそうすればいい。

オールスターが打撃ランキングで決まるなら
ファン投票など、まったく必要ないのだ。
そんなこともわからないのか。



オールスターは、
スターを選ぶ年に一度の夏祭り
だ。
わけのわからない人間が数百万票もの票を大量投票してまで、身勝手に結果を操作することなど、絶対に許されない。当然だ。


わけのわからない投票の積み増しが、
結果的にスター選手をオールスターから遠ざけた。






damejima at 11:28

July 06, 2011

2011年7月5日 イチローのスライディングで決勝エラー誘発

動画:Seattle Mariners at Oakland Athletics - July 5, 2011 | MLB.com Video

Gameday: Seattle Mariners at Oakland Athletics - July 5, 2011 | MLB.com Classic


1点リードで9回裏を迎えながら、クローザーブランドン・リーグが2本のヒットを浴びて、リードを失った。2本目のヒットはレフトのカルロス・ペゲーロがほぼ捕れたポップフライ。記録はシングルヒットだが、ほぼエラー。

同点で、試合は延長へ。

10回表。
まるで当たっていないグティエレスがようやくシングルで出塁し、無死1塁のチャンス。だが、次のホールマンがバント失敗した挙句に、三振。いやな空気が流れた。
次は、トップにまわって、この日すでに2安打のイチロー。タイムリーの期待が高まったが、打席途中でグティエレスが盗塁。
こうなると、当然、敬遠。現在のオークランドの監督は、クビになったボブ・ゲレンの後を引き継いだ元マリナーズ監督のボブ・メルビンだ。彼はイチローのことを知り尽くしている。1死1、2塁で、バッターはブレンダン・ライアン
ライアンはこのところイチローがランナーにいるとほとんど打てない。この日は3回表にも、1死1塁でイチローを塁上に置いて併殺打を打っている。ここでも例によってセカンドゴロ。

ライアンのこの日2回目の併殺打で万事休す、と、思われたが、イチローがオークランドの若いショート、クリフ・ペニントンに強烈なダブルプレー阻止のスライディングをかましたところ、ペニントンの悪送球を誘って、セカンドランナーのグティエレスが一気に生還。これが決勝点となった。


ゲームの経緯というものは、たいていこうやって書き並べて、経緯をきちんと追わないとわからないものだ。
きちんと経緯を見てもらえばわかるが、この「イチローのスライディング」は、味方のミスを最低4つは一気に取り返している。ざっと数え上げただけで、最低4人の大きなミスをカバーしているのである。
たかがスライディング、ではない。

9回表のブランドン・リーグの失点
9回表のカルロス・ペゲーロの守備ミス
10回表のグレッグ・ホールマンのバントミスと三振
10回表のブレンダン・ライアンの併殺打


今日のイチローはDHで、ライトを守ったのは、最近ペゲーロと交代でレフトに入り、たまにはグティエレスの代わりにセンターも守ったりするホールマンだ。
シアトルは「マイナー番長」であることが明らかになった外野手のリザーブのマイク・カープをマイナーに送り返したため、今日のように、ホールマンとペゲーロ、2人を同時にスタメンで使うと、ベンチには外野手の控え選手がいなくなる
もし、どうしても緊急に外野を守らせるとしたら、かつてLAA時代に外野手だったショーン・フィギンズくらいしかいない。
1点リードした9回裏に、1死3塁、あわやサヨナラ負けというピンチを迎えたが、守備が下手なのがわかっているレフトのペゲーロに守備固めができなかったのは、今シーズンの「野手の手薄さ」が背景にある。


なぜ、シアトルはこんなに「野手が手薄」なのか。
というか、スタメンを毎日入れ替え続けられるほど、野手がロスターにあふれかえっているのに、なぜ「野手が手薄」なのか。

理由はハッキリしている。
GMズレンシックの不手際だ。


ズレンシックが去年もくろんだ「超守備的選手構成」は、既に取り返しがつかないほど破綻して、ペイロール、つまりチームの予算は今は身動きがとれない
だが、その収拾策としてズレンシックが開幕以降やったことといえば、去年の無駄な選手を整理することもせず、放置したまま、マイナーから「打てそうだが、守りのできない給料の安い若手選手」を大量に連れてきて、「若手育成シーズン」とか称してスタメンに名前を連ねさせることだった。

その結果、生まれたのが、ウェッジが毎日やっているとっかえひっかえの「二重スタメン」だ。

だからいまズレンシックとウェッジがやっていることは、「若手の育成」という名目の、実質「自分の失敗してできた莫大な借金の穴埋め」だ。
去年の借金の整理もできないズレンシックは、しかたなく若手育成という名目のもとにマイナーから若い選手を次々に上げてきて、床に開いたデカい穴を、若手という「値段の安いパテ」で塗り固めてふさいで、誤魔化そうとしているのである。


ズレンシックは、去年自分の肝いりでスタメンに名前を連ねさせたミルトン・ブラッドリー、ショーン・フィギンズ、ジャック・ウェイルソン、フランクリン・グティエレスに、気前よく契約をくれてやった。だが、すぐに彼らは基本的に打撃(あるいは打撃と守備の両方)に問題があることが既にわかった。

そのため、いまシアトルのロスターは、働かないのに給料の高い選手と、働けるが給料の安い選手、2種類の選手が、ダブついて存在している。そしてズレンシックは、一部の選手が新しいスターであるかのように意識的にファンを誘導して、スタジアムを満杯にしようとやっきになっている。
普通に活躍し続けていれば自然と抜きん出ていくのがスターというものなのに、不自然、かつ、迷惑きわまりない。

A群 「打てない。守備のみ。複数年契約のベテラン」
2Bジャック・ウィルソン、CFグティエレス、3Bフィギンズ、そしてかつてのLFミルトン・ブラッドリーなど。言うまでもなく、「去年のロスターの残骸」だ。無能なズレンシックの与えた無謀な複数年契約で、能力に見合わない給料を稼いでいる。彼らの能力不足を埋めているのは、給料の安いケネディ、アックリー、ライアンなど。ケネディは、アックリーのリザーブまでこなしている。

B群 「打てそうな期待感。守備はイマイチ。若手」
1Bスモーク、LFペゲーロ、LFカープなどの新人。メジャーに呼んだ当初は多少打てた。だが、時間が経つにつれ、守備が下手なことが判明しつつあり、打撃も湿ってきた。彼らの控え選手はホールマンくらいしかいないが、とても能力不足解消とは言いがたい。彼らの出場じたいが、控え選手をスタメンに出しているようなものだから、もし彼らが怪我でもすると、控え選手はすぐに不足する。ジメネスの怪我がいい例だ。


ジャック・ウィルソンは、すっかりブレンダン・ライアンとダスティン・アックリーの陰にかくれたコストの馬鹿高い控え選手で、ペイロールの硬直化を招いている。複数年契約をもらって以降のグティエレスは、アウトコースの変化球に弱いくせに引っ張りたがる「サードゴロ マシーン」で、肩も弱い。年900万ドルも稼ぐフィギンズは、とっくに攻守とも壊れ果てた。ここに、アウトコースの変化球が打てないことが相手チームにバレつつあるオリーボが加わりつつある。
ペゲーロは打てる球種とコースをスカウティングされて、さっぱり打てなくなり、さらに守備が上手くない。低めのワンバウンドするような釣り球のチェンジアップで簡単に三振することは、いまや誰でも知っている。スモークは低めの縦に動く変化球に釣られやすく、強い当たりのファーストゴロが苦手なことも判明しつつある。カープは今回のコールアップでも全く時間の無駄に終わり、マイナーに返品された。


シアトル・マリナーズの4番以降9番までの6人は、シンプルにいえば攻撃しかできない給料の安い若手6人と、守備しかできない給料の高いベテラン6人、合計12人でやっている「おそろしく非効率な会社」のようなものだ。

この「会社の本来の仕事」は、本来は6人分だ。6つの攻撃と、6つの守備だ。本来はこれを6人でこなして、6人分の給料を払う。
だがシアトルでは、いわば12人の野手で、この6人分の仕事をさせている。12人分の給料を払い、常に12人分の出場枠を順繰りに確保してやって、調子をキープし続ける。


となると、そこで始まるのが、毎試合のように繰り返される「スタメン組み替えごっこ」だ。

「相手の先発投手が左だから」とか名目をつけて、「新人のA、B、C。ベテランのa、b、c」を使ったかと思えば、その翌日は「相手の先発が右だから」と名目をつけて、「新人のD、E、F。ベテランのd、e、f」と、まったく違う6人を使う。



先発投手が左? だから何?
そんなの、どこにも合理性はない。






damejima at 19:15

July 04, 2011

正直、人に負けるのが死ぬほど嫌いだ。

だから、10年MLBのトップを張ってきたイチローが今年のオールスターに出ないことについては、色々と書きたいことがある。
だが、まぁ、わかりやすいことから書いていかないと、時間もないことだし、整理している暇はない。思いつくことから書いていくことにする。


世間の反応を見ていると、「イチローが衰えて成績が下降したので、なんたら、かんたら」とか、「イチローの動態視力がどうたら、こーたら」とか、そういう、根拠もソースも無いことを言っては悦にいっている、ちょっとおかしな人間と、彼らの戯言(ざれごと)に影響されている気の弱い人間だらけなことに驚く。

正直、その程度の話では、ブログ主がへこたれる理由には、まるでならない。
もしかすると、どっかの誰かが今回のオールスター投票について、よほどシャープな意見でも書いてくれて、ブログ主をへこたれさせてくれるのかと思えば、誰もそんなこと書いてもくれない。

なんだか、世間のレベルの低さには、
いつもガッカリさせられる。


まぁ、まずは、このグラフでも見てもらおう。
いつものようにグラフをクリックすると別の窓が開いて、もっと大きくて鮮明にわかるグラフが現われるようになっているので、あらかじめ大きなグラフを開いておいてから記事を読むことをおススメする。

2001年〜2011年のMLBオールスター投票数の推移
2001年〜2011年のオールスター得票数推移


グラフで
赤色が、イチローの得票数。
緑色が、ア・リーグでトップなったの外野手の得票数。
青色が、ナ・リーグでトップになった外野手の得票数。

まず、イチローの得票数を、よく見てもらいたい。、
例年と比べて大きく減っている事実は、どこにもない」。

減るどころか、2011年の得票数は、イチローがMLBオールスターに連続出場してきたこの10年間と比べても、むしろ「やや高い得票数」に属している。
2011年の得票数を越えているのは、メジャーデビューしてセンセーションを巻き起こした2001年、シーズン最多安打記録を更新して感動を呼んだ翌年の2005年、そして2009年の、わずか3回しかない。
めんどくさいので計算してはいないが、おそらく2001年〜2011年のオールスター投票の平均値を計算すると、たぶん今年2011年くらいの数字になると思われる。

もう一度、きちんと書く。
2011年オールスター投票でのイチローの得票数は
まさに「例年並み」である。


イチローがファン投票で落選した最大の理由は簡単だ。
グラフをみてもらえばわかる。

ア・リーグの外野手への投票数が異常だった」からだ。


外野手トップの得票数に関していえば、2001年以降の10年間、MLBオールスターの投票数は、最高得票数は400万票を少し越えたあたりまでしかいったことがない。
加えて、
ア・リーグとナ・リーグの外野手のトップの得票数に、数百万もの大差がついたことなど、一度もない。

この10年で、両リーグの外野手の得票数に最大差がついたのは、イチローがデビューしていきなりその有り余る才能を見せつけてMLBを驚かせた2001年で、このときはナ・リーグ1位のバリー・ボンズに126万票もの差をつけたわけだが、これは当時のイチローデビューの衝撃の大きさを物語っているだけの数字で、なんの問題もない。
他には、2006年に、ボストンのマニー・ラミレスが、当時はピッツバーグの外野手だったジェイソン・ベイを36万票だか引き離したことがあるくらいだ。ボストンの選手がオールスターで異様に高い得票があるのはいつものことだ。


それが、今年に限っては、ハッキリ異常な投票結果になっている。
1位になったトロントのバティースタの数字は、700数十万票を越え、ナ・リーグとの差も、数百万票もの大差がついている。


ブログ主は、誰かに遠慮する気はさらさらない。遠慮しなければいけない理由もどこにもない。なので、何のためらいもなく「異常な投票結果」と言わせてもらう(笑)


こと、ア・リーグに関してだけ、こういう「異常な投票結果」が出たところを見ると、原因は、まぁ、おそらく、ア・リーグのどこか特定のチームの「組織票」だろう(笑)
たぶん、ホームランを量産しているバティースタを除外してまで、投票用紙を応援するチームの外野手だけで埋め尽くすと「なんか感じ悪いし、バレたときに困るような気もする」ので(笑)、「今年はどうみても選出されるはずで、はずそうにもはずせないバティースタをまず選び、外野手の残り2枠を、自分の応援するチームの外野手で埋める」とかいう小心者のチョイス(笑)で、何百万もの票が(たぶんオンラインで)投じられたとしか思えない。(もちろん、特定球団の外野手の票があまりに伸びるので、あわてて必死にバティースタの票を伸ばした心配症の北国のファンもいるだろう 笑)

まぁ、中間投票の推移からみて、ア・リーグ東地区の、「最近球場を建て替えた、あのチーム」か、「昔からある、ちっこいスタジアムをいまだに使っている、あのチーム」か、どちらかだろう(笑)どのチームのことを言っているかは、ご想像におまかせする(笑)各ポジションの選手たちの得票数と照らし合わせて、勝手に想像してくれていい。
そういえば、2005年にイチローがファン投票で4位になったときに、ジョニーなんたらいう選手を無理矢理3位に押し込んできた、赤いユニフォームのチームが、どこかにあったような気もする(笑)
この10年のオールスターで選ばれたア・リーグの外野手を眺めていると、どうしても外野手のスターターのひとり(できたら2人)はどうしても自分の応援チームから出さないと気がすまない、そういう集団が東海岸にいるようだ。


今年のオールスターでは、初めてイチローへの投票を呼びかける、なんていう、ガラにもないことをしてみた。最近イチローの打席でのアウトコースの球審の判定にクレームをつけているのにも、理由はある。

理由は簡単だ。
何か、上に書いたような「異常なこと」が次々に起きるのが、わかっているからだ。


ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月2日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(1)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月2日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(2)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月5日、今日も今日とてイチローと球審との戦い。従来と立ち位置を変え、バッターとキャッチャーの間の隙間「スロット」から判定する今の球審の「アウトコース判定の歪み」。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月10日、まるで「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(3)



端的にいうと、「MLBの『風向き』が変わった」ことが、その背景にある。(というか、もっと深くいえば、本当は「アメリカの風向き」なのだが)


その「変化」が「自然なもの」なら別に文句はつけない。
だが、「意図的なもの」なら、話は別だ。

ほかの人はどうか知らないが、
ブログ主は、そういう「人工の風」に負けるつもりなど、さらさら、ない。


そういえば、アメリカのメディアやファン・サイトでは、今回のオールスターについて、既に様々な「異論」が噴出している。そりゃそうだ。今回のオールスター投票は明らかに「ゆがんでいる」。

たとえばこれ。今回の選出がありえない選手をリスト化しているわけだが、栄えあるナンバーワンは、もちろんヤンキースのデレク・ジーターだ。
2011 MLB All-Star Voting: 5 Worst Selections in 2011 Midsummer Classic | Bleacher Report

こちらは、「選出されるべきだった選手」をリスト化した記事。
この記事にマイケル・ピネダの名前があるが、当然だろう。もしオールスターが、これまでの実績ではなく、シーズン開幕からの短期間の成績を重くみると「本当に言える」ものなら、選ばれるべきなのは今シーズン冴えないフェリックス・ヘルナンデスでなく、ヘルナンデスよりずっと成績のいいマイケル・ピネダが選ばれるべきだ。
なお、ブランドン・リーグも同じ。彼の防御率はオールスターに出るクローザーとしてはあまりにも冴えない。
2011 MLB All Star Game: 10 Notable Snubs and Manager Errors | Bleacher Report
snub : 「冷遇する」

マーケティング的にMLBの新しいスターが欲しいだけなら、若い選手を何人か実力だけで選出しておけばいいものを、ジーターだの、ヘルナンデスだの、あちこち選出の歪みばかり目立つから、おかしなことになる。
たとえば今シーズンのビクター・マルチネスなどは、なかなかクレバーな打撃を披露しているのに、ア・リーグ東地区の某球団から移籍しただけでファン投票から漏れてしまう。
こういうことでは、とても投票結果に納得などできるわけがない。






damejima at 20:48

June 25, 2011

ニューヨーク・タイムズにちょっとイチローのことを触れた記事があった。書いたのは、Derek VanRiperという、なんとなくオランダ系を思わせる名前のRotoWire所属のライターだ。
Fantasy Focus: Batted-Ball Types - NYTimes.com

RotoWire、というのは、Fantasy系の情報を広くスポーツメディアに提供しているウィスコンシンの会社で、提供先は、ESPN, Yahoo! Sports, FoxSports.com, NASCAR.com, NFL.com, NBA.com, and Baseball Prospectusと、大手スポーツメディアの大半はこの会社の提供する情報やライターを使っているといっていい。
シアトルのGMジャック・ズレンシックが、マリナーズの統計分析部門をまかせているTony Blenginoという男も、もとはRotoWireで野球のスタッツに関する記事を書いていたライターで、ズレンシックがミルウォーキーにいた頃から使っている。
下記の記述で見るかぎりは、ズレンシックの数字趣味(笑)は、昔からのものではなく、かなり付け焼刃風のようだ。
"I've always had that statistical information in addition to scouting," said Blengino, a former baseball stats writer for RotoWire, whose first job out of college was as a CPA. "It's an aspect I brought to Jack when we were in Milwaukee together. That's where my core is. That's where I started."
Mariners | Mariners plan department devoted to statistical analysis | Seattle Times Newspaper

ニューヨーク・タイムズの話に戻ろう。
この記事の本来の話題は、去年コロラドで24歳で大ブレイクし、シルバースラッガー賞とゴールドグラブを同時受賞し、打率.336で首位打者にもなったCarlos Gonzalezの今シーズンのバッティングの話。

ライターDerek VanRiperいわく、「Baseball Referenceによれば、今年のナ・リーグではライナーの70%以上がヒットになるらしいが、今年のCarlos Gonzalezの打撃数値がイマイチなのは、去年は20%以上もあったライナー率が、今年低下していることにある」とか、そういう趣旨のことを言いたいらしい。
       ゴロ フライ ライナー(ライナー率)
2010年  194  167  95(20.8%)
2011年  101  76   39(18.1%)
(2011年6月24日現在)
Carlos Gonzalez » Statistics » Batting | FanGraphs Baseball

アンタねぇ・・(笑)もっともらしいように書いてるけど、実にくだらない(笑)日本にもよくいるよな。こういう、「ライナーこそが野球」とか勘違いしてるヤツ(笑)
「ライナーが減ったから、ヒットが減った」んじゃなくてねぇ、単純に、活躍した翌年だから他球団にスカウティングされ、その結果、ライナーも含めてバットの芯で打たせてもらえなくなって、ヒット自体が減ったってだけでしょうが(笑)フライも減ってるのは見てないのかね。まぁ、いいんだけどさ(笑)


まぁ、ヘボいライターさんのテキトーすぎる分析など、本当はどうでもいい。問題は、そのあとだ。

このしょっぱいライターさんは、「ライナーはヒットになる確率が非常に高い。ライナーが減るとヒットも減る」とかいう(笑)出来損ないのギミック(笑)を披露しつつ、Carlos Gonzalezに関してダラダラ、ダラダラ書いたあとで、「ライナーはヒットになる確率が非常に高い」という世紀の大発見(爆笑)に「あてはまらない打者4人」を挙げているのだが、こちらのほうがむしろずっと面白い。

ハンリー・ラミレス   FLO (14.3/55.1/30.6)
イチロー        SEA (18.1/60.9/21.0)
アレックス・リオス  CWS (19.1/45.0/35.9)
ケイシー・マギー    MIL (13.8/53.2/33.0)
(数字は、ライナー/ゴロ/フライのそれぞれの率)


イチローに関する記述で、ほほぉ、と思ったのは、「2011年のゴロ率が約60%と高く、これはあの262本のシーズン最多安打を打った2004年の63.7%に次いで、キャリア2位のパーセンテージ」だという記述。なるほど。ゴロが多いから不調というわけではないのだな。ふむふむ。そこだけは、教えてくれてありがとう(笑)

Derek VanRiperは次のように書いて、イチローについての詳しい分析を諦めている(笑)
The usual rules do not apply to Ichiro.
「イチローには、普通のルールはあてはまらない」
そんなことはね、最初からわかってます。アナリスト業界の親玉ビル・ジェームズ親父も、イチローについてはとっくに、アンタとまったく同じこと言ってサジを投げてますって(笑)


シルバースラッガー賞を2回受賞しているフロリダのスラッガー、ハンリー・ラミレスが、ホームラン数の割りには「ライナーが少なく、ゴロの多い打者だ」というデータもちょっと意外。面白い。
Hanley Ramirez Statistics and History - Baseball-Reference.com


(ちなみに、これはイチローのゴロ/フライ/ライナーのそれぞれのBABIPについて書かれたFangraphのDavid Golebiewskiによる記事。Ichiro’s Silent Season | FanGraphs Baseball
Baseball NationのRob Neyerも、この記事を参考に今シーズンのイチローの不振について記事を書いているくらいの記事で、数字がわかりやすく、説得力もある。
ただ、イチローの数字上、最もBABIPが低下しているのは、Rob Neyerが「イチローの走力低下」を指摘している「ゴロ」ではなく、むしろDerek VanRiperがヒットの源泉だと思っている「ライナー」だ。これまで7割以上がヒットになってきた「ライナー」が、今シーズンは5割ちょっとしかヒットになっていない。これはもしかすると、ゴロやライナーが野手の正面をついているのは、守備のシフトもあるのかもしれない。)






damejima at 03:49

June 18, 2011

ついに3000本安打まであと6本と迫ったデレク・ジーターだったが、ふくらはぎを痛めたとかで15日間の故障者リスト入りしてしまった。

このジーター、ちょうどイチローと同じ「37歳」だ。

PECOTAシステムの開発者でもあるNate Silverはニューヨーク・タイムズの寄稿者のひとりでもあり、ここ最近のジーターの打撃成績低下について、Derek Jeter and the Curse of Age(「ジーターと、老化の害」)とかいう、まるでハリー・ポッターのタイトルみたいな記事(笑)をニューヨーク・タイムズに書いている。

この記事、要は「いくら名選手でも、37歳という年齢の壁はなかなか超えられないものだ」という趣旨のもとに書いているわけだが、そもそも『37歳で老化した名選手』のデータの集め方が、ちょっと目に余るほど手抜きが酷くて、笑ってしまう(笑)
もしブログ主がジーターなら、確実にハンマーか何か金属製のものを持って、こいつのところに怒鳴りこんでいると思う(笑)
Derek Jeter and the Curse of Age - NYTimes.com

Nate Silverのやり方は、過去の名ショートストップの「37歳時点での打撃成績」をいくつか挙げながら、「ジーターの成績低下は彼の37歳という特有の年齢のせい」と決めつけているのである。
いかに、彼の挙げた選手と、そのデータを何人分か挙げてみる。(ほとんどが殿堂入りのショートストップである)

「37歳でも、エリートか、まぁまぁ」
オジー・スミス
打率.295 43盗塁 13回目のゴールドグラブ
ホーナス・ワグナー 出塁率.423
カル・リプケン 14HR

「37歳のとき、イマイチ」
ルイス・アパリシオ  打率.232(1971年)
George Davis    打率.217(1900年代のHOF)

「37歳には、フィールドから消えていた」
Lou Boudreau 1952年 34歳で引退
Arky Vaughan 1948年 36歳で引退
Phil Rizzuto 37歳時点ではベンチプレーヤー 1956年 38歳で引退
Joe Cronin  37歳時点ではベンチプレーヤー 1945年 38歳で引退 

よくまぁ、この程度のデータの提示で「37歳」を老化の壁と決め付けたものだ(笑)
まず酷いのは、MLBの「丈夫さの代名詞」みたいなカル・リプケンを比較サンプルとして挙げていることだろう。連続出場記録をもつリプケンと比べたら、どんなに健康な37歳だって不健康にみえるのが当然だ(笑)(それにリプケン自身、30代終盤に急速に衰えたために引退したのであって、37歳を過ぎても成績が落ちなかった選手の代表、というわけでもない)
オジー・スミスの盗塁も、37歳時点ではたしかに43盗塁してみせたが、翌年からは衰える一方でパタリと走れなくなり、ついには580盗塁と、通算盗塁記録として大台の「600盗塁」にあと一歩のところで停滞したまま力尽きて、引退した。彼の盗塁数は「37歳でも元気だった選手」のサンプルにふさわしいとは思えない。
List of Major League Baseball stolen base records - Wikipedia, the free encyclopedia
また、ルイス・アパリシオは、37歳(1971年)に打率.232と打力が低下していたというけれど、彼の打力低下は37歳どころか、31歳(1965年)打率.225、33歳(1967年).233と、既に30代はじめに始まっている。盗塁数がガクンと減ったのも、31歳だ。したがってアパリシオは「37歳の壁」を証明するサンプルにはならない。
Lou Boudreauは1952年34歳で引退。Arky Vaughanも、第二次大戦を挟んで1948年に36歳で引退。こうした、第二次大戦の影響を受けつつ引退していった不運な選手たちのキャリアを、こうした「年齢の壁」について書く記事のサンプルとして取り上げるのは正当ではない。
(ちなみにLou Boudreauは、1941年7月17日のヤンキース戦8回表に、その日まで56試合連続安打を続けていたジョー・ディマジオがノーヒットで迎えた最終打席に打った痛烈な二遊間のゴロを横っ跳びにキャッチしてダブルプレーを完成し、ディマジオの連続試合安打記録をストップさせたショート。またArky Vaughanは、1941年のオールスターゲームで史上初めてとなる1試合2本のホームラン打った)
Phil Rizzutoについても、1956年に38歳で引退したが、36歳(1954年)のときに既に打率は.195だった。1945年に38歳で引退したJoe Croninも、たしかに37歳(1944年)時点で打率が.241しかないベンチウオーマーだが、35歳(1942年)で既に45ゲームしか出場しておらず、2人とも別に「37歳になったから」ベンチスタートになったわけではない。「37歳が壁だから、能力が低下した」と断定するための証拠になど、到底ならない。

以上(笑)証明終わり(笑)
なにごとも結論ありきでモノを言ってはいけないのだ。



このNate Silverのニューヨーク・タイムズ記事はまるで使い物にならないゴミ箱行きだが、それはともかくとして、「37歳が、野球選手にとって、どういう年齢か?」というテーマそのものは、実は、ちゃんと取り組むなら、非常に興味深いテーマなのだ。

たとえば、こんな記事がある。
イチローと、ロッド・カルートニー・グウィンウェイド・ボッグスピート・ローズタイ・カッブの5人のホール・オブ・フェイマーの成績を、特に「37歳以降のヒット数」に焦点を当てて比較検討した優れた記事だ。
Ichiro in Historical Context « The Greatest Hitter Who Ever Lived

この記事が非常に興味深いのは、いわゆる3000本安打を打った名選手といえども、37歳時点では、まだ2000数百本しか打っていなかった選手が多数いるということを示した点だ。
37歳以降に打ったヒット数(カッコ内は通算ヒット数)
ロッド・カルー   381(3053)
トニー・グウィン  581(3141)
ウェイド・ボッグス 681(3010)
ピート・ローズ   1290(4256)
タイ・カッブ     736(4189)


上のデータをグラフ化してみた。(縦軸は通常の均等なグラフだが、横軸はわかりやすいようにわざと変則的にしてあることに注意してほしい)
5人のホール・オブ・フェイマーが37歳以降に打ったヒット数


34歳の若さで既に3000本安打を達成していた球聖タイ・カッブは別として、ロッド・カルー、トニー・グウィン、ウェイド・ボッグスの3人は、37歳の時点には3000本安打どころか、2800本にすら到達していない。ここを、よく記憶しておいてもらいたい。

こちらのサイトに、3000本安打を達成した27人の選手全員の「達成時の年齢」を示したデータがある。
3,000 Hits Club on Baseball Almanac
みてのとおりだ。
37歳になる前、つまり、「36歳以下で3000本安打を達成した打者」は、タイ・カッブ(34歳)、ハンク・アーロン(36歳)、Robin Yount(36歳)と、たった3人しかいない。

その一方で、「40歳を超えて3000本安打達成にこぎつけた選手」が、びっくりするほど大勢いる。カール・ヤストレムスキー、ホーナス・ワグナー、ポール・モリター、ルー・ブロック、ラファエル・パルメイロ(以上、40歳で達成)デイブ・ウィンフィールド、クレイグ・ビジオ、ウェイド・ボッグス(ここまでが41歳で達成)、リッキー・ヘンダーソン(42歳)、Cap Anson(45歳)。

27人中、10人。約40%もの3000本安打達成者が、「40代での達成」なのだ。
37歳が壁でみんな潰れていく、のではなくて、37歳から頑張れた選手が3000本打てている、というのがリアルな話だ。


このことでわかることは、
ひとつしかない。


MLBのプレーヤーにとって
「37歳」という年齢は、
自動的にやってくる「壁」ではありえない。
むしろ本当の名誉への「扉」だ。
そう。これが真の解答だ。


つまり、こうだ。

37歳という「扉」は、誰に対しても開く。だが、「扉」の向こう側に立たたされたとき、その瞬間から、どれだけ必死に、どれだけ命がけで、もがき続け、努力し続けることができるか。

それが「37歳から始まる、本当の戦い。名誉ある最後の戦い」なのである。

だから37歳は、壁や出口ではありえない。
むしろ、「入り口」なのだ。

37歳という「入り口」に立つよりも前に3000本ものヒットを打ってしまうような特別なプレーヤーは、球聖タイ・カッブのような、名選手中の名選手と呼ばれる選手だけであり、だからこそ、彼は「球聖」という呼称を手にしたわけだが、下記のデータを見てもらいたい。

タイ・カッブと並び立つようなプレーヤーであることを見せつけるための、イチローの「37歳の扉」をくぐってからの、もがきと戦いは、今シーズンから、ついに始まったのである。600盗塁への長い道のり、オジー・スミスの13回のゴールドグラブ受賞へのチャレンジについても同じだ。

1ゲームあたりのヒット数
タイ・カッブ  1.3806
イチロー   1.4131
(MLBのみ。2010年までの数値)







damejima at 04:14

June 17, 2011

一度書いたことなのだが、「盗塁」の歴史は、MLBの発展史という観点からみると、「ホームラン」の増加と相反する関係にある。

盗塁の栄枯盛衰には、何人かの名選手がかかわっている。
1900年代は、球聖タイ・カッブが活躍した「盗塁の黄金時代であるMLB創世記」。1920年代は、ベーブ・ルースがヤンキースに移籍し、旧ヤンキースタジアム建設された「ホームラン賞賛によるMLB発展期」。
盗塁数が激減した1940年代以降の「盗塁受難時代」を、「盗塁の復権」へと導いたのが、ベネズエラの英雄ルイス・アパリシオや、ルー・ブロック。1980年代の「第二の盗塁黄金期」を築いたのは、リッキー・ヘンダーソンティム・レインズビンス・コールマン

盗塁という美学の歴史に深くかかわった彼らは、いってみれば、彼らの持って生まれた「天性のスピード」でMLB史を動かしたプレーヤー、でもある。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月9
日、盗塁とホームランの「相反する歴史」。そしてイチローのメジャーデビューの歴史的意義。


盗塁とホームランのMLB史とイチロー400盗塁


イチローが属している現在のMLBが「盗塁をするプレーヤー」にとって、どういう時代か、ちょっと考えてみたい。

結論を先にいえば今のMLBは、盗塁キングを志す快足プレーヤーたちにとって、けして黄金期とはいえない。このことは、イチローの盗塁記録を見る上でも、もっときちんと意識されていいことだと思う。

数字上でみても、1990年代の「ステロイドによるホームラン狂想曲」が終わったとはいえ、2000年代の盗塁数は急増してはいないし、グラフとあわせて、盗塁数ランキングの上位の現役選手たちの「年齢」を考慮してみれば、もっとわかりやすい。

通算盗塁数 現役ベストテン
1 Juan Pierre (33)   537 L 52
2 Carl Crawford (29) 417 L 52
3 イチロー (37)     401 L 39
  Omar Vizquel (44)  401 B 23
5 Johnny Damon (37) 392 L 27
6 Bobby Abreu (37)  382 L 28
7 Jimmy Rollins (32)  357 B 37
8 Jose Reyes (28)   353 B 58
9 Chone Figgins (33) 330 B 46
  Derek Jeter (37)   330 R 23

(2011年6月16日現在。名前の後のカッコ内が年齢。盗塁数の後、Lが左打者、Rが右打者、BはBoth、つまりスイッチヒッター。最後の数字は、キャリア1年あたりの盗塁数。)
資料:Active Leaders & Records for Stolen Bases - Baseball-Reference.com

通算盗塁数ランキング現役ベスト50人
2011年6月16日現在 盗塁数ランキング現役ベスト50人盗塁数、という記録は、長年積み重ねてきても下がる可能性のある「打率」とは違い、数字を積み上げていく記録なわけだから、ランキング上位を30代のオジサン・プレーヤーが占めているのは、あたりまえといえば、あたりまえだ。

では、今の20代の足の速い選手たちが熱心に盗塁し続けていけば、やがては、ランキング上位にいる30代のオジサン選手たちすべてを追い越して、自然と盗塁ランキングが大きく塗り替えられていくのだろうか?


ここで、ちょっと数字を操作して、ランキングの上位選手の盗塁数を、いまのイチローと同じ「37歳時点」に揃えてみることを思いついた。
方法は単純だ。それぞれの選手の通算盗塁数をメジャー経験年数で割った「1年あたりの盗塁数」を、それぞれの選手が37歳になるまでの年数分だけ加算してみただけ。
その仮の「37歳時 盗塁ランキング」は、こんな感じになる。

Jose Reyes    353+(58×9)=875
Carl Crawford  417+(52×8)=833
Juan Pierre    537+(52×4)=745
イチロー (37)  MLB401+日本200=日米601盗塁
Jimmy Rollins   357+(37×5)=542
Chone Figgins  330+(46×4)=514
イチロー (37)  MLB401盗塁
Omar Vizquel (44)  401
Johnny Damon (37) 392
Bobby Abreu (37)  382
Derek Jeter (37)   330

まずいえることは、イチローが、イチローよりも長いメジャー経験をもつ同年代のプレーヤー全員を追い越して、既に同世代のMLB盗塁王であることだ。(たとえばジョニー・デーモンデレク・ジーターは、2人とも1995年デビューでメジャー16年目)

だが、メッツのホセ・レイエスと、ボストンに移籍したカール・クロフォードが、これまでの「20代の盗塁ペース」を、「30代でも走力をずっと保ち続けて」、「盗塁し続けるための出塁を保障する打力を、37歳まである程度キープする」ことができると仮定すれば、彼らが37歳になったときには、2人して、イチローの現在のの「MLB 401盗塁」を遥かに上回るどころか、800盗塁だって達成できてしまう。
盗塁の記録にはいろいろな種類があるが、通算盗塁数でいうと、600というのがひとつの目安数字になる。MLB通算600盗塁を達成した選手は16人しかいないが、800盗塁となると、わずか5人しか達成していない。
あと10年で、いま20代のホセ・レイエスと、カール・クロフォードの2人が、このわずか5人しかいない「800盗塁クラブ」に加わるかもしれない、ということだ。
List of Major League Baseball stolen base records - Wikipedia, the free encyclopedia


イチローがメジャーデビューしてからここまでの「1年あたりの盗塁数」は平均で「 39 」。今年2011年の盗塁数が、既に「 18 」。今年はまだシーズンの半分も終わっていないだけに、今年は40盗塁を達成する可能性はかなり高い。

ここまで書いてくると、もうおわかりだろう。
37歳で、40盗塁というのは、ちょっとありえないほどの心身の健康さなのだ。

盗塁のシングルシーズン記録には、100を超える記録も数多くあるわけだが、そこだけをみていると、なにか「40盗塁」という数字が少ないように勘違いする人がいる。
そもそもシーズン100盗塁という記録は、19世紀末とリッキー・ヘンダーソンの記録がほとんどで、近年の選手レベルでいうと、40という盗塁数はけして少なくない。まして、最初に説明したとおり、ステロイド時代以降の野球においては、盗塁数そのものが激増するどころか、むしろ減少しかねない時代になってきているのが、今の時代だ。

「40盗塁を、しかも30代後半で連続的に達成できる選手」など、現実にはまだ30代前半だがホアン・ピエールくらいしか出現しないかもしれないのが、いまの盗塁という美的行為をめぐる現実だ。


たとえば、いま34歳のカルロス・ベルトランは、通算盗塁成功率88.1%という、とてつもないメジャー記録をもつ素晴らしい快速ランナーだったが、2005年8月に守備でマイク・キャメロンと激突して骨折した影響などで17盗塁に終わり、その後、膝の故障を抱えるようになってからは、盗塁数が激減した。
List of Major League Baseball stolen base records - Wikipedia, the free encyclopedia
このベルトランに代わるメッツの盗塁キングはもちろんホセ・レイエスだが、彼も2009年は故障の影響で11盗塁に終わっている。カール・クロフォードも故障持ちだ。


現役選手の盗塁ランキング上位選手の中で、いまだに盗塁という美的プレーに「伸びしろ」と「ゆとり」を失わない選手。
それが37歳のイチローだ。






damejima at 22:11
イチローがメジャー10年ちょっとで達成したMLB400盗塁という記録の意味を、ちょっとメモしておこうと思っていたら、いつのまにか、Youtubeでクレイグ・ビジオの動画を見てちょっと泣きそうになった(笑)
ちょっとズルいよ、ビジオにあの曲は(笑)

まずは、通算盗塁数のオールタイムベスト100人のリストを見てもらいたい。(リスト内、太字は現役選手。名前の横に+(プラス)という記号が添えられているのは、殿堂入りした選手。リストを詳しく見るためには、まずワンクリックして別窓に出し、さらにリストをクリックすると原寸でみられるはず)
資料:Career Leaders & Records for Stolen Bases - Baseball-Reference.com(2011年6月16日現在)

2011年6月16日現在 盗塁数ランキング オールタイムベスト100人最初、この長い長いリストを保存して記事を書こうと思ったのは、単純に、イチローとオマール・ビスケールが、ともに401盗塁、68位に仲良く並んでいるのが、見ていてなんだか美しいからである(笑)

もちろん、1989年にケン・グリフィー・ジュニアとともにシアトルでデビューしたオマール・ビスケールはまだホワイトソックスで現役なわけだが、彼の44歳という年齢を考えると、やがてこの2人の数字が離れていってしまうのは間違いない。
シアトルの先輩後輩2人の数字が並んでいるのを眺めて、ほんのひととき感慨を楽しみたいなら、今しかない。

こういうデータには、
いい意味での「せつなさ」がある。


401盗塁68位のイチローのすぐ上、63位には、あの「ミスター ツーベース」クレイグ・ビジオ414盗塁がある。
Craig Biggio Statistics and History - Baseball-Reference.com

オマール・ビスケールは1996年にハッチ賞を受賞しているが、クレイグ・ビジオも2005年に同じハッチ賞を受賞し、また、2007年にロベルト・クレメンテ賞も受賞している。資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:Hutch賞と、フレッド・ハッチンソン・ガン研究センター。野球と医学の架け橋。

クレイグ・ビジオがどれほどヒューストンの人たちに愛されたか、それをいまここで書いていては、このブログはたぶんビジオの動画と記事だけで埋め尽くされて、たぶんビジオ・ブログになってしまう(笑)そういうのは他の人にまかせたい。

ビジオは、1988年のメジャーデビューから1991年まではキャッチャーとしてプレーしているのだが、彼が引退した2007年の9月末に行われた、ミニッツメイド・パークでのアストロズ本拠地最終カードのアトランタ戦の第2戦(9月29日)で、チームは1991年以来16年ぶりに彼をキャッチャーとして先発させた。このゲームでビジオは、最初の2イニングをキャッチャーとしてプレイし、シーズン30本目、通算667本目のツーベースを打った。
ミニッツメイド・パークの収容能力は40,950人となっているが、このゲームに押し寄せた観客数は、収容能力を超える43,624人だった。

このことだけを挙げても、ビジオがファンにとってどういう選手だったかわかると思うが、足りなければ、3000本安打達成の瞬間のファンの狂ったような興奮ぶり(笑)なんかをYoutubeでお腹いっぱいになるほど見続けると、納得がいくと思う(笑)
Boxscore: Atlanta vs. Houston - September 29, 2007 | MLB.com: News

Gameday: Atlanta vs. Houston - September 29, 2007


この動画で使われているBGMは、フィラデルフィア出身のBoyz II Menの"It's So Hard To Say Goodbye To Yesterday"。1975年のモータウンソングで、1991年にBoyz II Menバージョンが発売され、全米2位になった。アルバム"CooleyHighHarmony"に収録。


クレイグ・ビジオが3000本安打を達成したときのスタジアムの熱狂は、いつのまにか、イチローがシーズン最多安打記録を作ったときのスタジアムの鳴り止まない拍手と、脳の中で重なっているのを感じる。
観客が「ビッジッオッ! ビッジッオッ!」と激しく叫び続ける「ビジオ・コール」を聞いていると、いつのまにかセーフコの「イチロー・コール」に重なって耳に聞こえてしまう。

実を言うとブログ主は、イチローが、ヤンキースでもどこでも好きなように移籍して、なんとしてでもワールドシリーズに出て欲しい、という意味での「移籍ぜんぜんオッケー派のイチローファン」なのだが、ビジオのああいう姿を見ると、どうもいけない(笑)
移籍ぜんぜんオッケー派イチローファンとしてのドライな気持ち(笑)が、どうもセンチメンタルにほんの少しだけ揺らぐのを感じるのである(笑)


ともあれ、イチローはやがて、オマール・ビスケールの401盗塁も、クレイグ・ビジオの414盗塁も、トリス・スピーカーの436盗塁も、ロベルト・アロマーの474盗塁も、ウィリー・キーラーの495盗塁も、ルイス・アパリシオの506盗塁も、追いつき、並び、そして、追い越していくことになる。

クレイグ・ビジオの映像と記録を見ながらしみじみ思う。

誰かの記録を超えていく、という作業は、能力比較として、ある選手が、過去の選手より「上の」選手になったことを証明することで、過去を凌駕すること、ではない。
そうではなく、以前の記録に並び、そして超えていくときに、自分が超えていく選手が持っていた、デビューできた喜び、ケガの苦さ、スランプの苦しみ、記録達成の歓喜、引退の安堵と哀しみ、そういうプレーヤーとしての長い歴史のエスキスを、ほんの少しだけ自分の一部としてもらい、やがて野球の歴史の地層に共に折り重なって土に還っていく日をめざして、さらに歩き出していく、ということだ。
ジョージ・シスラーのシーズン最多安打も、オマール・ビスケールやクレイグ・ビジオの通算盗塁数も、イチローはそうやって超えていくのである。

これは、単なる文字の上のセンチメンタリズムではなくて、実際にそうだ。だからこそ、イチローとオマール・ビスケールの数字が並んでいるをしみじみと眺めたくなるし、保存しておこうと思うのだ。






damejima at 18:29

June 13, 2011

何か、ハッキリしたいのにモヤモヤしていて言えなかったことが形にできたときは、まるで流鏑馬(やぶさめ)で、矢が的を真っ二つに割るような、そんなスッキリした気持ちになるものだ。

NBAファイナルで、2006年に一度ファイナルで敗れているマイアミ・ヒートを破って初優勝したが、ダラス・マーヴェリックスの38歳「ミスター・トリプルダブル」ジェイソン・キッドが使った「支配」という言葉が、まさに、的を射抜いてくれた。



ジェイソン・キッドは3度目のトライで遂に栄冠を手にした。試合直後にインタビューされていたが、同じマイアミ・ヒートに2006年に決勝で敗れたことだし、さぞ感激したことだろう。
相手のヒートには、キッドがガキの頃から近所で一緒にプレーしてもらった同じポイントガードのゲイリー・ペイトンがいたとか、ジェイソン・キッドは実は野球もやっていたとか、そういうことはまぁ、どこかのサイトが書くだろう。そういうのはほっとこう。
ジェイソン・キッドがイチローについて語った「支配」という単語が非常に興味深い。

イチローが将来、殿堂入りすると思うかと聞くと、「殿堂入りするはずだ。彼はバットのひと振りと足で試合を変えることができる。あれだけの支配力がある選手は、キャリアが終わったときには殿堂入りするべき」と主張した。そう言うキッドも、将来は間違いなくバスケの殿堂入りを果たす選手だ。
【NBA】ジェイソン・キッドが語る「オレとイチローの共通点」 - 雑誌記事:@niftyニュース


「支配」ね。
なるほど。


彼の言う「支配力」を、もうちょっと自分流にわかりやすくしてみたい。
ジェイソン・キッドの言う「支配」はたぶん「ゲームを支配すること」を指していると思う。
この「ゲーム支配力」という説明手法は、これまで「流れ」とか、そういう曖昧な説明に終始してきたスポーツの意味的な仕組み、かけひきの構造を、もっとクリアでわかりやすい構造にして、目にみえるものにしてくれる。少なくとも、単なる利益最大化をめざす古くさいゲーム理論程度は軽く超越してもいる。
いろいろなスポーツで、いままで曖昧なまま放置され、曖昧に説明されてきた事象はたくさんあるが、それらをもっとわかりやすい言葉に変換し、誰でもが説明できる、ひとつのツールにできる可能性がある。


うまく例がみつかるかどうかわからないが、
別の角度で説明してみよう。


「ボール・ポゼッション」とか「ボール支配率」というサッカー用語がある。そこでいう「支配」という言葉の意味は、単に「ボールを持っている時間の長さ」のことであって、ジェイソン・キッドの言う「支配」とはまったく別だ。
サッカーでは、ボール・ポゼッションに関して、相手チームにボールをわざと「持たせる」という表現もある。だが、それがどういう状態をさすのか、誰でも頭ではわかってはいても、曖昧にしか説明されてない。

だが、「ゲームの支配」という発想を導入すると、こういう曖昧な表現にもっとクッキリした形を与えることができるようになる。

「相手チームにわざとボールを持たせる」というのは、「ボール支配権は相手にわざと渡すが、逆に、ゲームの支配を高めようとするマジカルな戦術」だ。別の言い方をすると、「たとえボールを長時間保持しようと、ゲームそのものはまるで支配できていない状態にさせる」という意味だ。
もっと具体的な例でいえば、ユーロ2008で優勝したスペインとロシアのゲームのように、ボールを『相手に持たせる』展開になった場合、「ゲーム支配権」があるのは、「ボールを持って、意味の無い横パスを繰り返して、時間を無駄にしているロシア」ではなく、逆に「ボールを持たずに、悠然と守備しているスペイン」にある。


話を野球に戻してみる。
野球は、攻守がイニングごとに交代するスポーツなわけだから、サッカーの「ボールを持たさせる」展開にあてはまるような場面は「無い」と、たいていは思われている。

いやいや。そんなこと、絶対ない。むしろ、そういうかけひきは野球の昔からある発明品だ。思うに、誰もきちんと言葉で説明できてこなかっただけのことだ。

ボールをただ保持するだけなのが「ボールポゼッション」なら、「ゲームを支配する戦術力」は「ゲーム・ポゼッション」とでもいえばいいか。
「ゲーム・ポゼッション」という発想で見なおしてみると、野球というスポーツには昔から「ゲーム・ポゼッション」的戦術はたくさん存在しているわけで、「ゲームを支配する」という発想からいろいろなことを説明しなおすと、もっとそういう昔からあった戦術の意味や目的、手法がクリアになり、もっと整理されてくるような気がする。


なにかわかりやすい「ゲーム支配」に関する例はないだろうか?
いくつか無理矢理あげてみる(笑)


1)「やたらランナーは出るが、得点できないゲーム」
よく「むやみにランナーを出すが、得点がほとんど無くて、負けてしまうゲーム」がある。たいていは「タイムリーが出ないのがダメ」とか、「バントしろ」とか、当たり前のことばかり言われて、話は終わりになってしまう。つまり、こういうゲームの構造は、これまであまりきちんと考察も対策もされてこなかった。

だが、「ゲーム支配」という発想を入れてくると、話はもっと明確な部分がでてくる。
要は、野球というボールゲームにおいては「いくらチャンスがたくさんあって、優勢に見えても、それで『ゲーム支配』ができているとは限らない」という話なわけだ。
こういうモヤモヤした事象を理解するには、今までにないくらい切れ味のある切り口が必要になる。じゃあ、どうすればこういうゲームでゲーム支配への突破口が切り開けるか? 言われても困るが(笑)

例えばバント。クロスゲームでのバントは、「もしゲームの支配につながる」のならバントすればいい。だが一方では、「バントに成功しても、ゲームポゼッションにまるで変化が起こらない」こともありうる。
つまり、「ゲーム支配」という観点からすれば、バントという戦術自体が有益か、そうでないか、絶対的に価値を議論することには、ほとんどなんの意味もないのだ。

2)敬遠で満塁にして、凡退を誘う
野球には「敬遠で、わざと満塁にする」という独特のタクティクスがあるが、これも一種の「ゲーム支配」なのは間違いない。
案外、満塁は点が入りにくいものだ。守備がしやすくなるという具体的なメリットもあるが、ものすごく有利な場面をポンと与えられるとかえってプレッシャーを感じて凡退してしまうのが人間というものだ(笑)

3)わざとボール先行カウントを作って凡退させる
イチローをバッテリーが攻める場合に、「わざとボールを2つ続けて投げて、カウントをわざと悪くしておき、次の球をわざと振らせて凡退させる」なんてオークランド風味の配球戦術もある。
これもどこか「ゲーム支配」の匂いがする。あきらめたようにみせかけているが、実は全然あきらめてない。


話が、本題から離れまくってしまった(笑)

ジェイソン・キッドがイチローについて言う「バットのひとふり」「走塁」は、誰がやっても「ゲームの支配力」を上げることができるだろうか。

もちろん、そんなことはない。

ゲームを支配するひとふり。
ゲームを支配する盗塁。
ゲームを支配するキャッチング。
それが誰にでもできるのなら苦労はしない。

サヨナラホームランはたしかに劇的だ。
だが、サヨナラホームランを1本も打たずに10年やって全米のスターになって、10年続けてオールスターに出続けることとの難しさを考えたら、サヨナラホームランを打つほうが、やっぱり簡単だ。誰でも人生に一度くらいサヨナラホームランは打てるが、10年続けてオールスターに出られるプレーヤーはいない。


もっと簡単に言おう。
イチローは、「ランナーとして1塁に立つだけでゲームを支配できる」そういうプレーヤーだ。






damejima at 21:11

June 11, 2011

ひさびさにイチローのいないマリナーズのゲームを見て、いやぁ、これほどタメになるとは思わなかった(笑)

たぶん、日本人らしいネガティブ思考からどうしても抜けだせない巷のイチローファンの皆さんや、イチローの歴史的な業績の意味のわかってない日本の無能な解説者の皆さんが、このゲームをどう評価したのか、そんなことは知ったことではない。
ブログ主は、正直いって、他人の意見など聞く必要をまるで感じないほど、「ある確信」をもってゲームを見終えることができて、たいへんに喜んでいる(笑)


わかってしまえば簡単だ。
イチローが、アメリカ、なのだ。

わかるかな? もう一度、言おうか?
イチローが、アメリカなのだ。


理解できるように説明できるといいのだが、理解できなければ、それはそれでしかたがない(笑)こんなに丁寧に説明ばかりしているブログを読んで、わからない人が悪い。


イチローのいないマリナーズ」のやっている、あのスポーツ。
あれは「アメリカのどこにでもある、平凡な野球」だ。

と、同時に、それは、2000年代中期に実際にマリナーズで行われていた、フリースインガーだらけの、「かつてのマリナーズ」でもある。また、飛ぶボールでホームラン競争を故意に演出していた1990年代MLBの延長線上にある野球、でもある。
打者は、来た球のうち「打てる球は打ち、打てない球は打てないまま、ゲームを終わる」。投手も同じだ。「打たれる球を打たれ、打たれない球は打たれないで、イニングを消化し、ゲームが終わって」いく。


もう十分説明したつもりだが、これでもまだわからない人がいるだろうか。だとしたら、どうたとえれば、わかるだろう?

絵でいえば
「 精彩がない 」「 眠たい 」

音楽でいえば
「 どこにも抑揚がない 」
「 リズム感がない 」
「 グルーヴがない 」

音楽が聞こえてこない。ロックでもなければ、クラシックでもない。まして演歌でもない。まるで音を消してプレーする「無音のスーパーマリオブラザース」だ。
たとえばジャスティン・スモークはアメリカ南部の大学の出身だ。だが、彼のプレーからサザン・ロックは聞こえてこない。


イチローには、音楽がある。

たとえば、12音技法を創始した現代音楽の作曲家であるシェーンベルクはアメリカの映画音楽に対して多大な影響を与えたことでも知られているが、イチローのときとして型破り、破天荒なプレーぶりは、シェーンベルクに通じるものがある、と、かねがね思っている。
イチローは、荒々しく淫らなロックであり、コブシのききまくった演歌であり、ときには武満徹やシェーンベルクのような現代音楽として響くこともあり、また時には爆発するパンクでもあり、うねるラップであり、果ては、「シンコペーションそのもの」であると思えるときもある。


イチローが2001年にアメリカに渡って以来、実現し続けてきたのは、飛ぶボールとドーピングでホームラン時代を無理やり演出していた1990年代のような野球ではない。
もう何度も書いてきたように、ひとつには、20世紀初頭に途絶えていたタイ・カッブ時代の野球のリバイバルでもあり、また一方では、ちょっとありえない守備センス、ワンバウンドにすら手を出す特殊で過剰すぎる打撃感覚、過敏なほどのバットコントロールと選球眼、スピーディーだがいつ走るのかわからない独特の走塁感覚、それら全てを「人力(じんりき)だけ」でこなす、野球という名の「サルティンバンコ」だ。

これこそが言葉どおりの意味での「Show」だ。

カートゥーンのMGM作品「トムとジェリー(TOM and JERRY)」でいえば、90年代の野球が「野暮ったいトム」なら、イチローは「何を考えているのかよくわからないジェリー」だ。守備、攻撃、走塁。ゲームのどこを見ても、イチローの姿が右に左に、そこらじゅう跳ねまわっている(ような気分になる)のである。


そう。
イチローの「他人にない特殊さ」「自由さ」そのものが、むしろ本来の「ショーアップされたアメリカ」だ。スターを必要としないアメリカなんて、アメリカじゃない。


それが、ひさびさにイチローのお休みによってどうみえたかというと、
見えたのは、既視感しか感じない、精彩のない、平坦なベースボールであり、音楽のない、ただ勝ち負けを決めるだけのスポーツがそこに見えた。

打って、休んで。守って、休む。
打って、休んで。守って、また、休む。
たったそれだけ。


今日のゲームはイチローにとって、とても重要なゲームのひとつになったことと思う。

なぜなら「自分のいないマリナーズが見えた」はずだからである。たぶん、自分がMLBでも(もちろん日本でも)どれだけ他のプレーヤーとかけ離れたセンスで野球をやってきたか、痛感したことと思う。

それは普段は見えずらい「自分の姿」を見ることのできる、ひとつの効果的な方法でもある。
たまには「肉の入っていないスキヤキ」を食ってみないと、ファンもプレーヤーも、そしてなによりイチロー自身も、「肉がスキヤキに入っている意味」がわからなくなる。


もう一度言っておこう。
大事なことだ。


いまやコンテンポラリーな「アメリカ」なのは、
シアトル・マリナーズではない。
イチローだ。



たとえばオールスターだが、その時点で成績のいい選手をみんなで選ぶ「お受験」みたいなものと、自分勝手に勘違いしている幼稚園の受験生みたいな人たちを大勢みかける。


バカ言うなって(笑)

「スター」というのは、スキヤキの「肉」だ。
スキヤキは、「肉」の味を美味しく味わうために作られた料理だ。シラタキのためにあるんじゃない。


ブログ主は、今日のシアトル・マリナーズのような、「和風味の、水っぽい淡白な牛丼」みたいな腑抜けた食い物が大嫌いだ。シラタキの水っぽさだけしかない和風牛丼野球なんか、どうでもいい。

今日でよーくわかったこと。

イチローは、もっと自分のカラダが欲するままに、好きなようにやったらいい。頭で考えるより、体を自由に動かすほうが早い。
好きなだけ空振りして、好きなときに好きなだけ走って、気にいらない判定には悪態をついてやり、退場させられても涼しい顔で退場して、たまにはお気に入りの好投手の球を無理やり強振してスタンドにブチ込んでやれば、それでいい。

そう。キミは優等生でなくていい。
カラダにまかせてみる。カラダを信用してみる。
カラダの求めるだけ、好きなように、
野球とセックスすればいいのだ。

遠慮なんか、いらない。






damejima at 17:42

June 10, 2011

ビジター デトロイト戦初戦、3回表のイチロー第2打席。
3球目が気にいらないので、とりあげてみた。
今日の球審はCory Blaser
Seattle Mariners at Detroit Tigers - June 9, 2011 | MLB.com Classic


2011年6月10日 デトロイト戦3回表 イチロー 3球目2011年6月10日
デトロイト戦3回表
イチロー 3球目

3回表イチロー第2打席終了時の判定マップ
資料:Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool
2011年6月10日 球審Cory Blaserの判定マップ(3回表まで)

試合終了時の判定マップ
資料:Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool
2011年6月10日 球審Cory Blaserの判定マップ(試合終了時)


ちょっと長い注釈をつけたい。

このゲーム、初回の第1打席で、イチローは初球のアウトコースのストレートを打っている。打ったのはストレートで、かなりゾーンからはずれている
「なぜ、あのイチローが、ここまではずれているストレートを打つのだろう?」と驚く人もいると思う。

初回、第1打席の初球と、3回表、第2打線の3球目は、ほとんど同じコースで、ボールとしかいいようがないストレートだ。
イチローは初回は振ったが、3回表のストレートは振らなかった。振らなかったが、球審の判定は、ボールではなく、「ストライク」だった。

2つの球は似ている。

それだけに、上に挙げた2つ目と3つ目のマップ上での指摘は、もしかすると「初回に打った球」と、「3回の見逃した3球目」を混同しているのではないか? と思う人がいるかもしれない。

だが、それは絶対にない
そういうことを防ぐために、わざわざ2つの判定マップを挙げているのだ。理由を以下に説明する。


2つの判定マップはBrooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Toolというサイトのツールから借用したものだが、このサイトのマップにプロットされているドットが示しているのは、すべて「球審のコールした球」であって、「ゲームで投じられた全球」ではない。
つまり、記録されるのは「ボール判定された球」、および「打者が見逃したストライク」、この2つのみ、なのである。
もちろん、このことはサイトにきちんと明記されている。
These graphs only plot calls made by the home plate umpire. In other words, they only plot balls and called strikes. No other pitches or results are included. Intuitively, this provides a representation of the strikezone for each game.

3回表の判定マップは、イチローが第2打席を終えた「直後」に採取したものだ。

なぜ、そんなことをするのかというと、このツールのマップは、ゲーム進行につれてどんどん点が書き込まれていく仕組みになっていて、ゲームが終わったときには、3番目に挙げた「試合終了時の判定マップ」のように、たくさんの点が並んでしまっている。
だから普通なら、混みあい、重なりあったドットの中から「どれがイチローのアウトコースに投じられた投球なのか?」を、厳密に判定することが難しくなるのである。

だから、早めにマップをキャプチャーして保存でもしておかないと、後で言いたいことも言えなくなってしまう。
だから、あわてて保存するのだ。


だが、最近あまりにも目に余る「MLBのアンパイアのイチローのアウトコースへの理不尽な判定の数々」の場合、そういう「2段階の保存作業」は、本当は必要ない。

なぜなら、3回表の判定マップで「最もアウトコースにはずれているボール」(=イチロー第3打席の3球目)は、たとえ試合が終わって、マップ上に数多くの点が書き込まれてしまった後でも、つまり、3番目の図の状態で見たとしても、「迷わず、これがイチローのアウトコースの判定だ!」と、簡単に指摘できるほど、あまりにもストライクゾーンからはずれているから、である。

そのくらい、今のイチローのアウトコースの球審の判定は酷いのである。

実際、このごろ、どのピッチャーも、どのピッチャーも、初球は何をさしおいても「アウトコースのストレート」を投げてくる。そして、それをイチローが簡単に見逃すようになっていて、これが、いとも簡単にカウントが追い込まれる原因になり、そして、バッティングスタイルの崩れにも繋がっている。


そんな劣悪な環境におかれているのだ。
アウトコースのボール球であっても、どうせストライクコールされるくらいなら、振ってヒットにしてやる!」と、彼が思ったとしても、なんの不思議もない、と思う。

ブログ主は、イチローが、このゲームの初回、初球のアウトコースの「3回の3球目以上に、とんでもなくはずれているストレート」を強振したのは、彼なりの、野球のルール内での反抗と抗議であり、「球審のコールになんて、負けないぜ。ヒットにしてやるっ」という意思表明だと思って、このゲームを見た。

2011年6月10日 デトロイト戦 1回表 イチロー 初球2011年6月10日
デトロイト戦 1回表
イチロー 初球

ブログ主はイチローの不屈さを絶対的に支持している。
あきらめる? とんでもない。ありえない。
あきらめたら、負けだ。

気にいらないものは、
とことん「気にいらない」と言うつもりだ。
誰にも遠慮なんかしない。






damejima at 17:23

June 06, 2011

2011年5月17日 ミネソタ戦3回裏 イチロー 一塁ゴロ5月18日3回裏
一塁ゴロ
2011年5月17日 ミネソタ戦5回裏 イチロー タイムリー5月18日5回裏
タイムリー
2011年6月5日タンパベイ戦 イチロー 2点タイムリー スリーベース6月5日3回裏
2点タイムリー
スリーベース


上の2つは、5月18日のミネソタ戦で、3回裏に凡退したシーン(真ん中低めいっぱいのストレート)、5回裏にタイムリーを打ったシーン(インコース低めいっぱいのストレート)。ピッチャーは、リリアーノ
資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年5月18日、ゲーム中にバッティングを修正していける、この素晴らしいイチローの修正能力。

そして、一番下の画像は、今日6月5日タンパベイ最終戦で、3回裏に2点タイムリー三塁打を打ったシーン。ピッチャーはウェイド・デイビスで、打ったのは真ん中低めいっぱいに決まる、ゾーン内のストレート。


これら3打席すべてが「低めいっぱいに決まる球」を打ったシーンだけに、比較しやすい。

もう、ね。右足の踏み込みから、タイミングから、なにから、なにもかもが「上向き」な感じ。バットの先までパワーがしっかり伝達されていて、ぜんぜん心配ないわけですよ。天才野球小僧が修正してこないわけがないわけで。

むしろ、5月18日のイチローのタイムリーが、いかに状態の悪い中でチームに貢献しようと必死に打ったヒットかが、よくわかるわけですな。頭が下がりますです。はい。

天晴れ、イチロー。






damejima at 14:44

June 03, 2011

これは、ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年6月2日、「記録達成」を阻止したいのかとでも疑りたくなるような、今シーズンのイチローに対するアウトコースのストライクゾーン。(1)、の続きの記事。


BrooksBaseball.netは、ルールブック上のストライクゾーンと、実際のアンパイアの判定の「ズレ」について、非常に強いこだわりをもったデータを提供してくれているサイトだ。
今日のタンパベイのゲームでも、球審Ron Kulpaの正確無比な判定を、ゲームの進行に沿って、そこそこリアルタイムにデータ上にマッピングしてくれている。
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool

今日のゲーム全体の「左打者の判定」は、下のマップのようになっている。
クリックすると別窓が開いて、大きなマップがみられるので、よかったら見てみてもらいたい。四角い点がシアトルの投手、三角がタンパベイの投手。赤い点がストライク判定緑の点がボール判定だ。

どうだろう。

今日の判定は、赤い点が、実にきれいにゾーン内に収まって、なおかつ、緑の点がきれいにゾーンの外におさまっていることがわかると思う。
今日の球審Ron Kulpaが、かなり正確な判定をしていることがハッキリわかってもらえると思う。このブログでよくとりあげる、低めの大半をボール判定するタイプのSam Holbrookのマップなどと比べてもらってもいい。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月29日、4月8日にてこずったアンパイア Sam Holbrookにまたしても遭遇したジェイソン・バルガスの初勝利。

2011年6月2日 左打者への判定(Normalized Maps)ゲーム全体の判定マップ


さて問題にしたいのは、イチローのアウトコースの異常さだ。


まず1回裏、第1打席の5球目
イチローはカウント1-2から、タンパベイ先発の右投手James Shieldsの5球目のストレートを見逃して、三振に倒れている。その球は、下の画像でいうと、白い淡い線で描かれた仮想ストライクゾーンの左下にある、赤色で「5」と書かれた点だ。

この球、Gamedayの表記では、ゾーンからボールひとつくらいはずれているわけだが、後でこれがBrooksBaseballのデータ上ではどういう風に表記されているのかを見てみることで、BrooksBaseballというサイトのデータがいかに正確か、そして、ストライクとボールを見分けるイチローの選球眼がいかに正確かの、両方を感じとることができるはずだ。
(ちなみに下の「1回裏の判定マップ」で、マッピングされた点の数が「ゲーム全体の判定マップ」より少ないのは、初回イチローの打席までのデータであるため。後から画像ソフトで点を消したわけではない)

2011年6月2日 1回裏 イチロー 三振初回・イチロー
5球目を見逃し三振

1回裏時点での判定マップ
2011年6月2日 初回 イチローが三振した時点でのマップ


次に、4回裏、第3打席の初球
この球は、アウトコースのハーフハイトのストレート。ゾーン左側に「1」と書いてある赤い点がそうだ。
どうだろう。上の例と比べても、びっくりするほど、ゾーンからはずれているのがわかると思う。

2011年6月2日 4回裏 イチロー 5球目>4回裏・イチロー
ショートゴロ


上の2つの例を、こんどはBrooksBaseballの試合全体のデータで確認してみる。
細かいデータなので、図をクリックして、大きな図にしてから見たほうがいいと思う。もちろん赤い日本語の文字は、ブログ側で後からデータに書き入れたものだが、データそのものは一切いじっていない。

1番目のサンプルの、「初回・5球目」については、このコースをストライクとコールするアンパイアはいるものだ、ということは、もちろんわかっている。なにも、このコースをストライクコールされること自体に文句を言っているのではない。
問題にしているのはそういうことではなくて、「ゲーム全体の判定マップ」を見渡せばわかることだが、「ボール半分のわずかなズレでも正確に判定できるような、これほど優秀で正確なタイプのアンパイアが、なぜ、イチローの打席に限っては、あからさまに「ボール1個はずれたボール」を、ストライクとコールするのか?」ということだ。

マップを見てもらおう。

イチローへの投球を加筆強調したマップ
2011年6月2日 イチローの打席だけに現れるおかしな判定

BrooksBaseballのデータで見るかぎり、
シアトル、タンパベイ、どちらのチームの打者かを問わず、このゲームの左打者で、アウトコースのボール球をストライクと誤判定されたのは、イチローに対する初回・5球目と、4回・初球の、2球しかないのだ。

そして、4回のコールに関しては、どう考えても、このアンパイアは、「これほど明白にゾーンからはずれたストレート」を、ストライクコールするようなタイプではない。
加えて、この馬鹿みたいにはずれた明らかなボール球をストライクとコールする「アウトコースの判定が異常に広いアンパイア」は、さすがのMLBでも、ほとんどいない



以上、ここまで書いたことの信憑性を高める意味で、イチローの打席と比較する資料として、2回裏フィギンズの打席のアウトコース判定を挙げておく。
初球と4球目をよく見てもらいたい。ボール半分のわずかな違いしかない。非常にきわどい判定だが、球審は実に素晴らしい正確さで、初球のストライクはストライク、4球目のボールはボールとコールしている。いかにこの球審が目がいいアンパイアかが、これでわかる。
もし4球目がストライクコールなら、フィギンズは見逃し三振で、この打席5球目のタイムリーヒットは生まれていない。

2011年6月2日 2回裏 フィギンズの打席のアウトコース判定比較対象資料
2回裏フィギンズの打席の正確無比なアウトコース判定


改めて言うけれど、この球審Ron Kulpaは、もともと正確なジャッジのできるアンパイアだ。加えて、今日に限って言うなら、左打者のアウトコースを「ボール半分以下の正確な精度」で判定している。なかなかこんな優秀なアンパイア、Jeff Kellogじゃあるまいし、そうそういるものじゃない。

なのに、イチローの打席に限って、なぜああいうコールがされるのか。

おかしなアウトコース判定が、
今シーズン、あまりにも多すぎる。



資料;初回 イチローの打席までの全データ。
上の3つが補正後。下の3つが補正前。
証拠画像






damejima at 16:53
旅行好きの人はよく目にすると思う。

日本人旅行者が、やれ釣り銭を誤魔化されたの、ホテルがダブルブッキングだったの、ホテルの部屋の設備が故障していた、意味のわからない料金を払わされた、空港でトランクがどっかに行ってしまった、思っていたものと違うものを押し付けられた、そういう旅先でのトラブルの数々。
だが、そういう場面でしっかりクレームを言える人を、残念ながら、あまり見ない。
文句を言うのが恥ずかしい、あるいは、ガミガミ文句をいうとソフィスティケートされた人間でないと思われる、とでも思っているのだろうか? 意味がわからない。ダメなものは、はっきり「ダメ」「修理しろ」「やりなおせ」「これじゃない」「金返せ」と言っていいのだ。


ここに書くことは、「イチローの打席特有の、アウトコースの判定のおかしさ」について、だ。これは、今シーズンずっと思っていたことで、なにも今日初めて考えたのではない。

あらかじめ言っておきたいのだが、MLBのアンパイアには「右打者のゾーンにくらべると、左打者のゾーンは、アウトコース側にズレていて、アウトコースが広い」という、共通の判定基準がある。
この「左打者のアウトコースが広い」現象については、このブログでは、他のどんなメディアより、たくさんの記事を積み重ねて書いてきたつもりだし、MLB全体が共有している範囲での「左打者判定」なら、別に文句をつけるつもりはない。今までのシーズンのイチローの打席でも、「他のMLBの左打者にも共通の現象」なら、よくあった。
また、「同じゲームに出場しているシアトルの左打者にも共通してみられる判定のゆがみ」、あるいは「同じゲームに出場している相手チームの左打者にも共通してみられる判定のゆがみ」、つまり、単なる「そのアンパイア特有のクセや、贔屓の意識」という意味でなら、全世界の野球どこでもある話なので、そのことについても、文句を言ったことは一度もない。


だが、今シーズンのイチローのアウトコースの判定は、ちょっと酷いと、ブログ主は常々思って見ている。つまり、「両チームあわせて、イチローにだけ、厳しい判定が下されている」としか思えないシーンが、多々ありすぎる。


こういうことは、まぁ、誰もが体面を気にして、書かない。公言しない。
だがブログ主は今シーズンの2ヶ月弱のゲームを見てきて、今シーズンについてだけはひとこと言っておかなければならない、と思うようになり、あまり気は進まないが、重い腰を上げてみた。なんせ他に書く人がいないのだから、辛辣な書き方で知られる(笑)このブログで書くしかない(笑)
なんとか、誰にでもわかるようなレベルで書きとめられればいいが、と思う。

この話の真偽のほどは、それぞれの人の判断にまかせたい。同意する人もいるだろうし、同意しない人もいるだろう。
ブログ主はちなみに、今シーズンのイチローの打席については、ほぼ大半を見ている。あくまで今日挙げる例は、多々ありすぎる「おかしいと思うイチローのアウトコースの判定」のサンプルに過ぎない
まぁ、あれこれ言わなくても、シアトルのゲームを数多く見ている人なら、わかっていることだ、とも思っている。
Tampa Bay Rays at Seattle Mariners - June 2, 2011 | MLB.com Classic


まず今日の球審、Ron Kulpaについて。

最初にこれは確認しておきたい。
もし、もし今日の球審が、あまりにも極端なストライクゾーンの持ち主だったなら、むしろ、ブログ主はこんな記事は書かない。むしろ、正確な判定をする優秀な人だからこそ、書く気になった。

たとえんば、球審が、ゾーンが極端に狭いGerry Davis、逆に極端に広いJeff Nelson、ゾーンが非常に横長なMike Wintersなど、判定の特徴があらかじめわかっている人なら、「ああ、今日のゲームはゾーンが極端で、たぶん打者はアンパイアに振り回されることになるだろう」と、あらかじめわかる。(そういう意味では、ジェイソン・バルガスを悩ましているSam Holbrookだって、「ゾーンがかなり狭い」とわかっているのだから、それはそれで諦めがつく部分もある。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年11月8日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (4)特徴ある4人のアンパイアのストライクゾーンをグラフ化してみる(付録テンプレつき)
だが、今日の球審Ron Kulpaは、本来「非常にノーマルで、正確なタイプのアンパイア」のひとりだ。だからこそ、今日イチローのアウトコースの判定を問題にしたくなる。

Overall  2.08
Left    1.76
Right   -2.22
Top    1.9
Bottom  1.89

上の数字は、Ron Kulpaのストライクゾーンの数値だ。この数値が何を意味するのかは、ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年11月6日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (3)アンパイアの個人差をグラフ化してみる というブログ記事を参照してもらいたい。

上の数値を、図にしてみると、こんな感じになる。

Ron Kulpanoのストライクゾーン


ゾーン全体が、「やや三塁側、左打者のアウトコース側にやや寄っている」のがわかると思うが、このこと自体は、よくあることだ。
資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。

前に書いたように、「左打者のゾーンがアウトコース側にずれている」のはMLBのアンパイア全体の傾向であって、特に問題にならない。
むしろRon Kulpaのストライクゾーンは、ルールブック上のストライクゾーンからの「ズレ」は、トータルにみて「小さい」部類に入り、かなり正確な判定をするタイプのアンパイアだと思う。


むしろ、正確な球審だからこそ、
判定の問題部分がわかりやすいのだ。






damejima at 16:05
5月31日のボルチモア戦3回表に、ボルチモアの監督バック・ショーウォルターが2死2塁の場面でイチローを敬遠したとき、イチローの熱心なファンであるブログ主ですら、正直いって「いくら元テキサスの監督でイチローをよく知っているからといっても、3回という早いイニングで、敬遠? いくらなんでも警戒しすぎでしょうに」などと、思ったものだ。

だが。
試合結果からいうと、
正しかったのは、MLB監督として最優秀監督賞も受賞しているショーウォルターで、浅はかなブログ主ではなかった。


試合後にショーウォルターはこんな風にゲームを振り返った。
“It’s the type of game where you look back on the opportunities you had, and just realize there was no margin for error,”
Where were you? Mariners stun Orioles before record-low crowd | Seattle Mariners blog - seattlepi.com
「あとから振り返ってみると、ああ、今日のゲームはわずかなミスすら許されない、そんなゲームだったとわかることって、あるものだ。
でもね。後からわかって後悔してるんじゃ、遅いんだ。そこの甘ちゃんなキミ、わかってるのかい?」
と、ショーウォルターは厳しく言ってのけているわけだ。

実際、このところバットの湿ってきたジャスティン・スモークの劇的な逆転3ランで決まったこのゲームについて書かれたボルチモア側の記事で、トップに掲げられている動画は、スモークの3ランのシーンではなくて、イチローの出塁なのである。
このなにげない出塁がいかにゲームを動かしたか?を知っているのは、スモークのホームランで浮かれているシアトルのメディアでも、試合の機微をまるで伝えようとしない日本のメディアでもなくて、対戦相手のボルチモア側なのだ。
Baltimore Orioles at Seattle Mariners - May 31, 2011 | MLB.com BAL Recap

Orioles Insider: Error dooms Orioles in eighth - Baltimore Orioles: Schedule, news, analysis and opinion on baseball at Camden Yards - baltimoresun.com
"Quick runner. You have to get rid of the ball," Scott said. "That’s a tough play to make as a pitcher because he’s running, focusing on the throw and then he’s got to touch the bag at the same time. ... I just tried to get it to him as fast as I could. It was a tough play. Jeremy is very athletic. He's made plays, he’s made tremendous plays before. I led him maybe two or three inches too far."

(「俊足のランナーだしね・・・」と、イチローの足を意識するあまりのエラーだったことを認めるルーク・スコットのコメント)


ボルチモアのセットアッパー、上原投手も最近始めたというツイッター上でこんな風に言っている。
「負けるとキツいって思うけど、今日のは更にキツいと感じる負けやわ。ガスリーが頑張ってたんやけど、一つのプレーで流れが変わってしまったよね。野球って難しいσ(^_^;) その流れを変えたのは、イチローさんの足だと思う。速いっていいよなぁ(^^;; 」

https://twitter.com/#!/TeamUehara

ガスリー自身のツイートはこんな感じ。
「自責点ゼロで、負けちゃうんだからねぇ・・・(野球はむつかしいよ)」とでもいうところで、凹んでいた。
Accomplished something difficult tonight. Pitched a complete game allowing 0 ER & lost. #SweetFace

https://twitter.com/#!/jguthrie46
だが、6月2日のツイートでは、It is a brisk morning in Seattle. Still tough a loss to swallow but gonna 'recharge' & be ready next start. と気持ちを切り替えているから、ご安心を。


これはもう、3回表なのにイチローを敬遠したショーウォルターの見識に対して、謝るしかない。ごめんなさい。
Baltimore Orioles at Seattle Mariners - May 31, 2011 | MLB.com Classic


ここからは余談だ。

8回裏のイチローの出塁にからむボルチモアのプレーヤーは3人いる。ピッチャーのジェレミー・ガスリー、この日筋肉の張りからゲームを休んだ本来の1塁手で、過去に3回ゴールドグラバーになっているデレク・リー、この日の臨時の1塁手ルーク・スコット
あのエラーについて、ショーウォルターは「ガスリーは毎年ゴールドグラブの候補に挙がるくらい守備はうまいのだから」とガスリーの守備の良さを認めていることを示した上で、ルーク・スコットの送球があの場面では強すぎたと、ガスリーの肩を持った。


ジェレミー・ガスリーは、母親が日本語を話さない日系3世の日系4世カート・スズキはマウイ島出身だが、ガスリーはオアフ島のホノルル出身。好物は母親が作ってくれるエビの天ぷらで、食べるのはもっぱら白米。(といって、ガスリーがアメリカ人ぽくないわけではなく、バック・ストリート・ボーイズに心酔する、ごく普通のアメリカ人でもある)
asahi.com(朝日新聞社):信頼集める「ど根性」 ジェレミー・ガスリー(オリオールズ) - スポーツ人物館 日系大リーガー編 - スポーツ
Japanese-Americans (Nisei and Sansei, Yonsei and Happa) playing (or played) in the Major League Baseball
Jeremy Guthrie Statistics and History - Baseball-Reference.com

ジェレミーは、最初ブリガムヤング大学の所属だったが、後に野球のさかんなスタンフォード大学に移って、そこでエースになった。
2001年のカレッジ・ワールドシリーズでは、Pac-10カンファレンスの代表として決勝にまで行ったが、そこで残念ながら、マイアミ大学に1-12と惨敗している。
2001 College World Series - Wikipedia, the free encyclopedia
2002年のドラフトでクリーブランドに1位指名(全体22位)されて入団したが、クリーブランドでは芽が出ず、DFAされてウェーバーにかかって、2007年1月27日にボルチモアに拾われた。
1st Round of the 2002 MLB June Amateur Draft - Baseball-Reference.com
ちなみに、いまシアトルでピッチング・コーチをしているCarl Willisは、2003年から2009年までクリーブランドのピッチング・コーチだったから、ジェレミー・ガスリーのことはよく知っているはず。また、いまガスリーのいるボルチモアのブルペン・コーチは、去年までシアトルのピッチング・コーチだったRick Adair

ボルチモアに移籍してからのジェレミーは、よほど水があったのか、2007年にいきなりWHIPランキング9位の1.209を記録してブレイク。とうとうメジャー定着を果たした。
オリオール

2009年の第2回WBCでは、アメリカ代表のになり、3月11日の第1ラウンド・ベネズエラ戦ではセットアッパーとして、第2ラウンド3月18日のベネズエラ戦では先発投手として登板したが、いずれも負け投手になっている。
2001年カレッジ・ワールドシリーズ決勝といい、どういうわけか、ガスリーは大きなゲームに縁がない。
2009 ワールド・ベースボール・クラシック 2組 - Wikipedia

実力がないわけではない。
いや、むしろ、素質も実力もある。だが負けてしまう。
なぜなのだろう?

今年の防御率は3.24だが、それで2勝7敗では、ちょっと気の毒だ。BB/9、つまり9イニングあたりの四球率などは、この記事を書いている時点で1.320、ア・リーグ1位と、素晴らしい数字を残してもいる。
キーマン、イチローの出塁を許したルーク・スコットのエラーで負けたようなシアトル戦の内容も、実に素晴らしいものだったが、それでも逆転3ランを打たれ負けてしまうあたりに、ガスリー独特の「運の無さ」がある。

ツキの無い原因。
よくわからないが、ホームランかもしれない。
ガスリーは2009年にア・リーグ1位の17敗しているわけだが、その原因のひとつが被ホームランの多さ。2009年の35本はア・リーグ1位で、それ以降も被ホームラン数はずっと多いまま。
たぶん、よほど負けん気の強いピッチャーなのだろうと思う。


ガスリーのキャリアを追っていくと、野球選手がもつべき「目に見えない何か」、野球選手が翻弄される「目に見えない何か」というものの不思議さを感じる。
ガスリーと同じ日系アメリカ人であるブランドン・リーグについて、日系だからといって容赦することなく日頃厳しいことばかり書いているブログ主だが、ジェレミー・ガスリーについても、日系だから応援するという気持ちからではなく (そういう贔屓は、あまり好きではない)、せっかくもって生まれた才能をもっと上手に生かす道さえ見つかれば、もっともっと大成できる優れたプレーヤーなのに、もったいない、という意味で、応援したくなる選手ではある。


才能はある。
あるのに、負けてしまう選手が星の数ほどいる。
本当に野球は難しい。

10何年も負けないでやってこれたイチロー。
天才でないわけがない。

どういうわけで、ガスリー登板試合に限って3度ゴールドグラブを獲得してもいるデレク・リーが休みで、ルーク・スコットが1塁にいるのか。そういうときに、イチローの打球がそこに転がるのか。
「負ける」という現象が、どこで、どういう風に起きるのか。
バック・ショーウォルターが、ゲームがまだスコアレスなのにイチローを警戒したのはたぶん、「何かもっている選手に、何も仕事させないままゲームを終われるようにすることが、自分の仕事」と心得ているからだが、それでも「何かもっている選手」は、それすら乗り越えて仕事してしまう。

才気と才気が、なんの遠慮もなくぶつかりあうMLB。
厳しく激しい斬り合いの、サムライ世界である。






damejima at 02:44

May 31, 2011

ここに四角い箱がある。と、する。

箱

箱の中に、空気の十分たくさん入った、2つの風船を詰めると、風船は押し合って一定の形に収まる。(画像では便宜上めんどくさいので2つの風船を同じような形に描いているが、同じ形になるとは限らない)

箱に詰められた2つの風船

次に、2つの風船の入った箱の中に、もうひとつ、の風船を加え、詰める風船の数を3つに増やしてみる。
3つの風船同士は押し合って一定の形に収まるが、最初に詰めた、2つの風船の形は、さっきとは異なる形になる。
この「同じ風船でも、他の風船との兼ね合いで、形が変わる」ところが面白い。

箱に詰められた3つの風船

このたとえ話は、もともとフランス系の言語学者丸山圭三郎さんという人が言語という軟体動物の「意味」の不思議な変容ぶりについて話したことをもとにしているのだが、野球というゲームにも、なかなか面白い示唆を含んでいると思う。


四角い箱が、野球チームのスタメン枠
風船が、選手。風船の「色」が、その選手単体の個性。風船の「形」や「大きさ」が、役割や期待度だ、とする。

四角い箱に「どういう色の風船を詰めるか」によって、そのチームの「全体的なカラー」は決まってくる。
たとえばホームランバッターを赤い風船だとして、箱に赤い風船だけを9個詰めこむようなことをすると、その箱は赤い風船だけが入った真っ赤な箱になる。また、俊足のアベレージバッターが青い風船だとして、箱に青い風船だけを9個詰め込むと、その箱は真っ青な箱になる。


だが、たいていは、ひとつの色だけではなくて、さまざまなカラーの風船を、適度なバラつきをもつように混ぜ合わせて、箱の中身、そのチームのスタメンを決める。つまり、野球チームには(そして、バンドや企業でも)さまざまな役割をもった人間のバリエーションが不可欠だということだ。

このことは、実例を考えればわかりやすい。ホームランの打てるバッターの並んだヤンキースを考えればわかる。
とても大量のホームランなど打ちそうもなかったカーティス・グランダーソンが突然ホームランバッターに変身したのは、彼にもともとボールを飛ばす才能があった、ということもあるだろうが、意味論的にいうと、「自分の周りに真っ赤な風船(=ホームランバッター)ばかりがいる状態に置かれた青い風船は、やがて時間がたつと影響されて、色が赤くなる」という部分も見逃せないとも思う。
それはオカルトではなく、意味論の世界だ。



もう一度、風船の話に戻る。


本当に重要なのは、ここだ。箱に詰め込まれる風船の立場からみると、箱に新しく風船が詰め込まれるたび、風船の「形」が変わってくること。
それぞれの風船の色(=個性)は同じでも、風船の「形」(役割やパフォーマンス)は変わる。

たとえば、シアトル・マリナーズ。
箱(=チーム)に、非常に強い個性をもつ典型的リードオフマンのイチローという巨大な青い風船(=選手)がいるところに、後から、同じ青い色の風船ショーン・フィギンズが詰め込まれた。
この場合、イチローという風船、フィギンズという風船に、どういう事態が起こると予測されるだろう?


ちょっとわかりにくくなった。
ちょっと、たとえ話で考えてみる。

ある野球チームが、シーズン30本のホームランを打てるスラッガーを9人揃えたとすると、そのチームは、シーズンに「30×9=270本」の大量のホームランを打てる、あるいは、バッター同士がお互いの相乗効果で、270本どころか、300本以上のホームランを打てるようになるものだろうか?

野球というスポーツのこれまでの歴史は、上のクエスチョンの答えが明らかに「 NO 」であることを教えてくれている。むしろ、そのチームのホームラン数は、「270本以下」になってしまい、コストパフォーマンスが悪い結果になることがほとんどだろう。

つまり、いいたいことはこうだ。
「同じ色の風船がひとつの箱に詰め込まれた場合、それぞれの能力が多少そがれて、完全には能力が発揮されなくなることがほとんどだ」ということ。言い方を変えると、同じ色の風船を詰め込みすぎると、その色の風船はほぼ必ず「脆弱」になる。


なぜそうなるのか。
正直、理由はよくはわからない。生物の集団にはとかく謎は多いものだ。
風船同士の干渉によるのか。同じ色の風船同士は、押し合いへし合いすることで、目に見えないストレスがかかって、お互いのパフォーマンスが下がるものなのか。
この謎はなかなか興味深い。

だが、バンド。企業。動物の種の進化。インターネット。組織と名のつくものほとんど全てに、この原則はあてはまるように思う。
たとえばローリング・ストーンズに、キース・リチャーズと同じ弾き方をするギタリストは2人いらない。ほとんどの場合、企業に社長は2人必要ない。むしろ社長が2人もいたら、やりにくくてしょうがない。
南米チリの鉱山に閉じ込められた数十人の人々だって、もしも指導者が何人もいたら、全員が死んでいたかもしれない。

中心というものを必要としないクラウド・コンピューティングや、ストライカーを必要としないノートップのサッカーなど、新しい思考方法に基づくオーガニゼーションもあるにはあるが、そういうものが人間というやっかいな動物が常に縛られている意味論や組織論を、まったく超越し、解決しているかというと、そんなことはまるでない。
人間という生物の組織は、やはりシンプルな意味論を超えていけないようにできているのである。


野球の守備は9人で同時に行う。だから「守備はチームプレイ」だが、攻撃であるバッティングは、打席に2人の選手が一緒に入ることはない以上、「打撃は守備よりはずっとパーソナルなもの。個人的な行為」と、思われがちな部分があるが、実際には意味論的にも、そんなことは全くない。
長くなるので端折るが、打順の違う打者同士は、たとえお互いの打順が、1番と6番とか、大きく離れている場合でも、相互にまったく無関係なわけではなくて、むしろ、密接に関係しながら存在している。意味論的には、そうだ。一匹のサルが芋を洗って食べるようになると、遠く離れた場所のサルが芋を洗って食べるようになったりもする。

野球チームという箱に詰まった9つの風船は、お互いに非常に強く意味論的に影響しあいながら、ひとつの組織体を構成している。
「誰かが膨らめば、誰かが縮む。」
そんなことがありうる。


わざと結論を先延ばしにしてみたが(笑)
言いたいことはこうだ。

イチローとフィギンズを2人並べたからといって、2人あわせて400本ものヒットが打てるようになるわけではない。スポーツの技術論、組織論ではなく、人間のかかえる意味論から、そう思う。
この2人の選手は、色は同じでも、才能やチームへの影響力の強さに大きな差がある。片方の風船は常に劣勢に立たされ、押され、しぼんでいく。それが、「人間のつくる組織というもののもつ独特の意味論の世界」なのだ。


だから、ズレンシックは、フィギンズの今後のことも考えて、彼をシアトルから放出し、彼が「ひとり」でのびのびできるチームでプレーできるようにしてやるべきだ。






damejima at 19:34

May 28, 2011

シアトルがとうとう5割復帰。

3点のビハインドからグティエレスのファインプレーで流れを引き寄せると、イチローの2ベースを原動力に、1点差に詰め寄る。そしてライアンが同点になるゴロ打点、イチローの決勝打点も生まれて、タイムリー無しの4得点でNYY初戦に逆転勝利。先発ピネダをリリーフして好投したポーリーに3勝目がついた。

2011年5月27日 MLBトップページ
New York Yankees at Seattle Mariners - May 27, 2011 | MLB.com Classic

2011年5月27日 グティエレスのファインキャッチ
Baseball Video Highlights & Clips | NYY@SEA: Gutierrez makes a beautiful catch in center - Video | MLB.com: Multimedia

2011年5月27日 イチローのとんでもないツーベース
イチローの変態ツーベース。
どうみてもアウトコースのボール球(笑)


8回表2死2塁での牽制アウトの瞬間
セットアッパー、ジャーメイ・ライトが、セカンドランナーをピックオフで刺した瞬間を撮影したシアトル・タイムズのスーパーフォト。たぶんキャッチャーからのサインプレイ。
The Seattle Times: May 27 | Seattle Mariners vs New York Yankees


それにしても、今日の球審Todd Tichenorはストライクゾーンが狭かった。シアトルの先発ピネダ、ヤンキースの先発AJバーネットが、揃って5四球、2人あわせて10イニングで10四球という、めったにないゲームになったのはそのため。下記に、ピネダのケースのボール判定を挙げておく。
ちなみに、今日の1塁塁審は、バルガスがさんざん手こずっている、あのSam Holbrook
この対ヤンキース3連戦の3戦目にはバルガス先発のはずだが、また球審はSam Holbrookなのだろうか?
なんでまたシアトルはいつもいつもこのアンパイア、このチームに当たるのだろう?


ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月15日、Sam Holbrookの特殊なストライクゾーンに手こずったジェイソン・バルガス。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月29日、4月8日にてこずったアンパイア Sam Holbrookにまたしても遭遇したジェイソン・バルガスの初勝利。

2011年5月27日 1回表 A・ロッド 7球目1回表 A・ロッド 7球目
結果 四球

フルカウントから投じたアウトコース一杯に決まるスライダーが、ボール判定。

2011年5月27日 2回表 ポサダ 初球2回表 ポサダ 初球
結果 2球目をレフトフライ

初球、低め一杯に決まるストレートがボール判定。

2011年5月27日 2回表 スウィッシャー2回表 スウィッシャー 初球・3球目
結果 四球

初球と3球目、インコースのコーナー一杯のストレートがボール判定







damejima at 12:35

May 24, 2011

拍手拍手拍手

打点を挙げた、ジメネスの代打アダム・ケネディイチローペゲーロ、スモークの代走ルイス・ロドリゲス、終盤を締めたクリス・レイライトリーグオリーボ、みんなグッジョブ!!
勝ったケロ(笑) 6連勝!!!
ひゃっほぉうううう!!!!!

シアトルの5連勝以上のストリーク
2004 1回
2005 なし
2006 3回(最大6連勝)
2007 3回(最大8連勝)
2008 なし
2009 1回
2010 1回
2011 2回(最大6連勝)

Seattle Mariners at Minnesota Twins - May 23, 2011 | MLB.com Classic


諦めないってことは、美しいってこと。
(以下、働いた人のみ。仕事しなかった選手はカット 笑)

8回表 SEA 4−7 MIN
ブレンダン・ライアン シングル 1死1塁
ジャック・ウィルソン エラー出塁 1死1、3塁
代打アダム・ケネディ タイムリー 1死1、3塁
イチロー ジョー・ネイサンのインコース一杯に決まるスライダーでバットを折られながらも、きっちりセカンドベース付近に落とし、サードランナーを帰した。イチローさすがの一振りでシアトルが最少得点差に詰め寄る。打点1 2死1塁 

8回裏 SEA 6−7 MIN
投手 クリス・レイ
このイニングから、ダメ捕手ジメネスに代打ケネディが出た関係で、キャッチャーがオリーボに交代したことで、目に見えてピッチャーが安定した。このキャッチャー交代は、このクロスゲームに勝てた大きな要因のひとつ。
クリス・レイは、最初の2人をあっさり三振に切ったことで安定できた。2死後、この日絶好調のスパンにだけはヒットを許したが、これはかなり低い明らかなボール球を打たれただけのもので、こればっかりはバッターが上手すぎた。


9回表 SEA 6−7 MIN
ジャスティン・スモーク シングル 無死1塁
ジャック・カストは三振に倒れるが、その間にスモークの代走ソーンダースが2塁盗塁成功。結果的に送りバントの形に。
カルロス・ペゲーロ 同点タイムリー 2死1塁
ペゲーロの同点タイムリーは、初球のストライクとコールされてもおかしくないボールを見送って、2球目のど真ん中のストレートを打ったもの。低めの大好きなバッターだけに、よく初球のローボールに手を出さなかったものだ。
追記:ソーンダースの盗塁成功は「イチローとベンチで相手投手マット・キャップスのクセについて話し合ったこと」から
この日は控えだったソーンダース。ベンチで出番を待つ間に、イチローと、ミネソタのクローザー、マット・キャップスの投球フォームの癖についてしっかり話し合った。そのため、ソーンダースは代走で出場することになったらどうすべきかをよく心得て、起用を待っていた。という趣旨の話題を含む記事。
Mariners Blog | M's manager Eric Wedge nearly emptied his bench tonight, then watched as moves came up aces | Seattle Times Newspaper
Saunders was probably the difference-maker tonight. He'd looked on from the dugout in the eighth after Ichiro had made it to first base and noticed that closer Matt Capps was using a high leg kick rather than a slide-step in his delivery to the plate.
When the inning was over, Saunders and Ichiro talked it over and agreed there had been no slide-step.
So, when Saunders was asked to pinch-run, he knew what he had to do.

9回裏 SEA 7−7 MIN
投手 ジャーメイ・ライト
疲労がかなりたまってきているせいで、ライトは簡単に2アウトをとった後、四球、ワイルドピッチと、不安定な面も見せたが、既に2本のホームランを浴びているジム・トーミを敬遠したことで、なんとか切り抜けた。このイニングにあわててリーグを投入せず、延長をみすえたエリック・ウェッジもグッジョブ。


10回表 SEA 7−7 MIN
ジャック・ウィルソン シングル 無死1塁
ミゲル・オリーボ 送りバントを2度失敗した後、シングル 無死1、2塁
イチロー 高めのバントしにくい球を、あっさり送りバント成功 1死2、3塁
フィギンズ 敬遠 1死満塁
9回に代走の出たスモークに代わる1塁手ルイス・ロドリゲス 勝ち越し犠牲フライ 打点1
オリーボが2度も失敗した送りバントを、イチローがあっさりと成功させたことで、ダグアウトは大盛り上がり。
ルイス・ロドリゲスは、ペゲーロもそうだが、どういうわけか、こういう決定的な場面に打席が回ってくる運勢をもっている。低めにボールになる球が3球目と5球目にあったが、その2球を振らずに我慢できたことが、犠牲フライにつながった。

10回裏 SEA 8−7 MIN
投手 ブランドン・リーグ
リーグは、ようやく腕が振れてきた。そのことで、やっとアウトコースへのコントロールと球威が戻ってきている。
最後の打者スパンの当たりは、強いショートゴロで、ヒットでもおかしくなかったが、これをブレンダン・ライアンが好ポジショニングで、ショート正面のなんでもないゴロに変え、無事にゲームセット。記録には現れないが、ライアンのビッグなファイン・プレー








damejima at 13:15

May 19, 2011

5回裏2アウト1、3塁からのイチローの素晴らしいタイムリーを除くと、先日ノーヒッターを達成したばかりのミネソタの左腕フランシスコ・リリアーノにすっかり抑えられて負けてしまったシアトルだが、某巨大掲示板に5回のタイムリーの打席と、その前の打席の画像があったので、メモがわりにもらっておいた。

この2つの画像が興味深いのは、3回裏に凡退した打席(真ん中低め)も、5回裏のタイムリーの打席(インコース低め)も、球種が同じストレートで、イチローがひとつのゲームの中でプレーを修正する能力がいかに高いか、ということが、ひと目でわかるからだ。


まず3回裏の一塁ゴロのシーンだが、初球、2球目が、まったく同じコースとスピードの93マイルのストレートだった。まるで同じ球が続いただけに、イチローのほうがちょっと意表を突かれた感じになって思わずバットが出てしまい、一塁ゴロにうちとられた。ストップモーションでみれば一目瞭然だが、腰砕けな感じのスイングになってしまっていて、イチローの意表を突いたリリアーノにしてやられている。

だが、5回裏のタイムリーの場面では、イチローはまるで違うスイングをした。
初球が、アウトコース低めいっぱいに決まる素晴らしい86マイルのスライダー。2球目がインコース低め、92マイルのややボールっぽいストレートだったが、これを見事にタイムリー。体全体がまるで弓のようにしなって、バットの先まではりつめた意識が通った素晴らしいスイングで、きっちり92マイルのストレートをとらえて、リリアーノにリベンジしている。

シアトルの若手のバッターなどは、ピッチャーのまったく同じ攻めに何度も何度もひっかかる打者が多いが、こういう部分こそ真似をしてもらいたい、と、強く言いたいところだが、本音でいうと、「ゲーム中にすら、自分のプレーを修正していける能力」なんていうものは非常に高度な運動能力なわけで、そんな簡単に真似られるものなら誰しもオールスターに出られるプレーヤーになってしまうと思う。

やはりイチロー、
天才である。
Minnesota Twins at Seattle Mariners - May 17, 2011 | MLB.com Classic

2011年5月17日 ミネソタ戦3回裏 イチロー 一塁ゴロ3回裏
一塁ゴロ

2011年5月17日 ミネソタ戦5回裏 イチロー タイムリー5回裏
タイムリー




2011年5月17日 ミネソタ戦3回裏 イチロー 一塁ゴロ(データ)3回裏
一塁ゴロ


2011年5月17日 ミネソタ戦5回裏 イチロー タイムリー(データ)5回裏
タイムリー









damejima at 10:00

May 09, 2011

MLBの観客では、時々だが、特定の選手を応援するために仮装してスタジアムにやってくる「ダジャレ仮装応援団」が発生することがある。

彼らの特徴は
1)選手名にひっかけたダジャレをチーム名にする
2)仮装する
3)外野席で大騒ぎ(笑)

だいたい、これだけ(笑)
特に大事なのは、ダジャレだ。

ぶっちゃけ、こういうことをやるのに、たぶん深い意味は無い(笑)
楽しいからやるのだ。誰にかまうことがあるか、てな感じ(笑)

だが、まぁ、あえて言うなら、その選手が、ここまでして応援してもらえるほど、地元の熱心なファンから熱狂的支持を集めているという証拠、とはいえる。



デービッド・コーン David Cone 応援団
とうもろこし頭軍団「コーンズ・コーンナー」

デービッド・コーン応援団「コーンズ・コーンナー」1988年シェイ・スタジアムで、デービッド・コーンを応援する「コーンズ・コーンナー」の皆さんたち(笑)

なんというか、こう・・・「コーンって言いたいだけやろ、おまえ!」みたいな、愛すべきお馬鹿な人たち(笑)が、外野席のコーナー、つまり隅っこ、というか、ドハズレに陣取って応援しているのは、サイ・ヤング賞投手で完全試合も達成したデービッド・コーン

コーンは、(あらためて説明する必要もないだろうが)サイ・ヤング賞(1994年)、1999年7月18日の完全試合達成、リーグ最多勝4回(1988、94、95、98年)、最多奪三振2回(90年〜91年)など多数の大記録と、5回のワールドシリーズ優勝(トロント1回、ヤンキース4回)によって、近年のMLBファンに強烈な印象を残して2003年5月に引退した素晴らしい右腕。
David Cone Statistics and History - Baseball-Reference.com
これほどの成績のデービッド・コーンだが、2009年リッキー・ヘンダーソンが野球殿堂入りした時の投票で、得票率が5%以下しかなく、すでに殿堂入り候補者リストから脱落している。殿堂は20勝を何回も達成した選手でも無理な、厳しい世界なのだ。

以下に他の例をいくつか挙げてみる。ちょっと見ただけで、「ああ、本当にダジャレだけなのね・・」とわかってもらえるはず(笑)けしてむつかしく考えてはいけない(笑)

ゲイリー・シェフィールド Gary Sheffield 応援団
「シェフィールズ・シェフ」

ゲイリー・シェフィールドを応援する「シェフィールズ・シェフ」たぶん・・応援というより・・・
シェフ」って言いたかっただけ。みたいな(笑)


ブライアン・マッキャン Brian McCann 応援団
「マッキャンズ・カン」

ブライアン・マッキャンを応援する「マッキャンズ・カン」(笑)これも・・たぶん
カン=缶」って言いたかっただけだろうな(笑)


今年、11年連続200本安打などの大記録を目指すイチローにも、5月のホワイトソックス戦で、とうとう(笑)こうしたダジャレ応援軍団がついた。
その名も、
イチローズ・ブリーチェロズ!
Ichiro’s Bleacheros


Ichiro’s Bleacheros! Fanboys go blond for Mariners’ star - Big League Stew - MLB Blog - Yahoo! Sports

Ichiro’s Bleacheros


ううむ・・・金髪のウィッグ(かつら)が正装らしい・・・。
これ、喜んでいいのか?(笑)迷うぞ(笑)なんで金髪のウィッグ・・・。


bleacherというのはそもそも、こういう「外野席」のことだ。
アメリカの学校とかの小さなスタジアムにはたいていある。
bleacher

bleacher reportという、アメリカのスポーツファンのための有名サイトがあるが、あのbleacherは、日本語でいう「外野からモノを言う」というときの「外野」、すなわち、なにかにつけてクチうるさい観客を意味している。

シアトルのイチローファンが、チーム名をつけるにあたって「ブリーチェロス」bleacherosと、「外野席」を意味する「ブリーチャー」bleacherに、アルファベットを2文字くっつけたのは、もちろん、イチローの「ロー」にひっかけたかったからだ。・・・・と、いちいち説明を加えないと理解できないような苦しすぎるダジャレをチーム名にするあたり、このオジサンたち(というか、おじいちゃんたち)は、タダモノではない(笑)
たはははは(笑)

金髪軍団の正体は、セーフコのシーズンシートのチケットを持っているシアトルのおじいちゃんたちである。詳細はリンク先記事参照。






damejima at 04:35

April 04, 2011

バルガスの投球フォームの記事を書こうと思って準備してたら、こんなのきた(笑)
Seattle Mariners at Oakland Athletics - April 3, 2011 | MLB.com Classic

2011年4月3日 イチロー レーザービーム炸裂

すべりこんでいるのは、日米2500本安打を達成したばかりのひと。
まぁ、あれですね。シアトル戦のライトフライで、二塁ランナーがスタート切ること自体が間違いだね(笑)ふはははは。

それにしても、ココ・クリスプが凄い調子よさげなのにびっくり。こんなにプレーにキレがあるのは何年ぶり?








damejima at 05:52

April 03, 2011

2011シーズンがついに幕を開けた。今年の分のリクツをつべこべ山ほど書く前に、スタジアムの選手たちと一緒に大震災の被害に黙祷を捧げよう。

(黙祷)









(黙祷おわり)

A’s stumble, King Felix coasts (1-0) | Pro Ball NW

Athletics » Win Probability » Friday, April 01, 2011 | FanGraphs
Baseball


2011開幕ゲーム イチローのWPA


ショートが本職の打てない高給取りジャック・ウィルソンがいるのに、わざわざ同じ遊撃手で打撃の良くないブレンダン・ライアンを獲ってきてショートに据え、ジャック・ウィルソンは本職でないセカンドに回して、過去にセカンドをやっていたホセ・ロペス、控えのショートだったジョシュ・ウィルソンを放出してしまうような、複雑だけれど意味のわからない自己満足のパズルをするGMズレンシックのチームマネジメントのアホらしさはともかく、開幕戦、イチローが今年も健在振りをあますところなく示してくれて、他のどんなニュースより心が休まった。
MLBで10年も続けて実績を残し続けてきた偉大なプレーヤーなのに、どうして自分が毎年開幕直前になると「今年のイチローはどうなんだろう」と心配するのか、自分でも訳がわからない(苦笑)
Seattle Mariners at Oakland Athletics - April 1, 2011 | MLB.com Classic

シアトル地元のブログPro Ball NWは、開幕ゲームでのイチローの「確固たる存在感」を、こう評した。
"offensive attack was led by the ever-reliable Ichiro"

ever-reliable
選手として最高の賛辞のひとつだろう。

メジャーデビューから10年たって、ここまで地元ファンに言ってもらえる存在になったイチローを僕は、同じ日本人として本当に誇りに思う。

(追記)
ミネソタのセカンドになった西岡のバッティングを見たが、2シームのようなタテに動く早い球にまったくついていけてない。シンカーやチェンジアップへの対応もそうだが、ダウンスイングとはまったく違う意味で、動いていくボールを、ボールの変化を後ろからバットで上から叩こうとするかのように追いかけてしまっている。慣れるのにちょっと時間がかかりそうに思った。

(追記2)
第三戦も2三振だが、何度もこのブログで書いているように、MLBのストライクゾーンは、左打者の場合、かなり「アウトコース側に寄っている」。(外が広いというより、ゾーン全体が外側にズレる)
その点もまだ、西岡は対応できていない感じがある。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。






damejima at 03:30

January 28, 2011

以下、説明したいのは、今年のHutch Award受賞者アトランタ・ブレーブスのティム・ハドソンが、なんでまた、わざわざシアトルの子供たちのもとを訪れたのか、その理由や歴史をきちんと知っておいてほしい、と思ったからだ。

話が異様に長い。このブログはいつも長いが(笑)
申し訳ない。

Mariners | Atlanta pitcher Tim Hudson accepts Hutch Award | Seattle Times Newspaper
The Hot Stone League | Hutch Award winner Tim Hudson remembers Mariner glory days | Seattle Times Newspaper


それと、ブログ主からHutch Schoolの子供たちにひとつ、説明しておきたいと思うことがある。
フレッド・ハッチンソン・ガン研究センター内にあるHutch Schoolの子供たちの何人かは、地元の野球チームであるマリナーズの選手の活躍を心の糧に日々の過ごしているかもしれない。
そんな彼らの日常を支えているベースボールについて、先日このブログをやっているいい年のオトナは、ちょっと暗めの気分で記事を書いた。そういうオトナから、子供たちに説明をしておきたいと思うのである。
君たちの大事なものをけなすつもりで書いたのではない。大事なものであっても、キツいことを言わなければならないときもある。わかってほしい。

結局、勇気を与えてくれるのは、いつも偉そうにしているクセに、人に暴力をふるったり、自転車で家に逃げ帰ったりする心の弱い野球選手や、つまらない文章をブログに書いた挙句に自分で落ちたりして、右往左往してばかりいるオトナの僕らではなくて、野球に目を輝かせる子供たちのほうだ、と思う。きっと。
頑張らなくちゃ、申し訳ない。


Sicks' Stadiumシックズ・スタジアム

シアトルを代表する地ビールのひとつ、レイニア・ビールのオーナー、エミル・シック(Emil Sick)は、20世紀初めにマイナーのパシフィック・コースト・リーグに所属するシアトル・インディアンスを買収して、球団名を「シアトル・レイニアーズ」(Seattle Rainiers)に変更した。シックは1938年には新球場を開場し、シックズ・スタジアム(Sick's Stadium)と名づけた。「シアトル・レイニアーズ」は消滅する68年まで、そのシックズ・スタジアムを本拠地として使い続けた。「レイニアーズ」という名称は、いまの3Aタコマ・レイニアーズに受け継がれた。

Sick、という英単語にはもちろん、「病気」という意味もあるわけだが、このことは後世、不思議なドラマを生むことになる。
Seattle Rainiers - Wikipedia, the free encyclopedia
SICKS
Mount RainierMount Rainier
シアトルの南東54マイル(87キロ)にあり、標高4,392m。富士山より500m高い。
Mount Rainier - Wikipedia, the free encyclopedia



フレッド・ハッチンソンは、1919年にシアトルで生まれた右腕投手である。彼は地元のワシントン大学を経て、当時シアトルにシックズ・スタジアムが新設されたばかりの1938年に、シアトル・レイニアーズに入団した。彼は地元のレイニアーズでいきなり25勝を挙げ、スポーティング・ニューズの選ぶマイナー最優秀選手に選ばれた。

フレッド・ハッチンソン

フレッドは翌1939年に、故郷のシアトルではなく、デトロイトのタイガースでメジャーデビューする。まるでシアトル生まれのティム・リンスカムのように、地元シアトルで活躍するために生まれてきたような生い立ちの男だが、当時シアトルにはメジャーの球団が無かったのだ。こればかりはしかたがない。
彼はデトロイトでの在籍11シーズンで引退して、通算防御率3.73、95勝71敗と、かなりの好成績を挙げたが、途中21歳から25歳までの若い時期に、5年間のキャリアが存在していない。これはもちろん、第二次大戦による中断という不運があったからだ。もし不幸な戦争がなければ、フレッドはどんな成績を残しただろう。
Fred Hutchinson Statistics and History - Baseball-Reference.com
Fred Hutchinson - Wikipedia, the free encyclopedia

フレッド・ハッチンソンは、53年にデトロイトで現役引退したが、引退前年の52年には既にプレーイング・マネージャーとして監督を兼任しており、引退後はそのままデトロイトの監督になった。その後、セントルイス、シンシナティの監督を歴任し、セントルイスで監督をしていた57年に最優秀監督賞を受賞、61年にはシンシナティでワールドシリーズ出場も果たした。(例のピート・ローズがデビューしたのは、このハッチンソン監督時代のシンシナティである。ローズは第4回のハッチ賞受賞者でもあるが、この際ハッキリ言っておく。野球賭博に関係したピート・ローズはハッチ賞の名誉にふさわしくない
監督としても順風のキャリアを積んだフレッドだが、不幸なことに、彼は肺ガンから1964年に45歳の若さで急逝した。
翌1965年メジャーリーグは、フレッドの早すぎる死を悼んで、ファイティング・スピリッツ旺盛な選手に与えられるハッチ賞(Hutch Award)を創設した。第1回の受賞者は、61年のワールドシリーズでフレッドのシンシナティを破ったヤンキースの主砲、ミッキー・マントルだった。
Hutch Award - Wikipedia, the free encyclopedia



フレッド・ハッチンソンの兄ウィリアム・ハッチンソンは、1909年生まれの医師だ。どことなくロバート・デ・ニーロに似た渋い風貌である。
日本ではあまり知られていないが、ウィリアムは優れた医師であるとともに、ベースボールプレーヤーでもあった。その素質はプロとしてもやっていけないことはないレベルで、医師になるか野球選手になるか迷うほどだったらしい。
ウィリアムは、1950年代後半に、かつて弟フレッドが所属していたシアトル・レイニアーズのチームドクターをつとめており、野球と医学を横断する非常に個性的な人生を送った。

ウィリアム・ハッチンソン

ウィリアムは、弟フレッドの死の10年前の1956年に、連邦政府の援助をとりつけて、ガンや心臓手術の医療研究財団the Pacific Northwest Research Foundationを設立していたが、65年にMLBが弟フレッドの早すぎる45歳の逝去を悼んでHutch Awardを創設したのに呼応するように、75年に連邦の援助や民間の寄付、ヤンキースの人気スター選手ジョー・ディマジオなどの協力を得て「フレッド・ハッチンソンガン研究センター Fred Hutchinson Cancer Research Center」を創立した。開所式にはセンター創設に尽力した功労者ジョー・ディマジオも出席した。
ウィリアムは1997年10月26日に亡くなったが、この日はなんと97年のワールドシリーズ(クリーブランド・インディアンズ対フロリダ・マーリンズ)の最終ゲームが行われ、マーリンズが優勝を決めた日で、医学者ウィリアム・ハッチンソンと野球との不思議な深い縁を、当時の地元シアトル・タイムズが記事にしている。
HistoryLink.org- the Free Online Encyclopedia of Washington State History


ウィリアム・ハッチンソンが弟フレッドにちなんで設立したフレッド・ハッチンソン・ガン研究センターFred Hutchinson Cancer Research Center)は、シアトルにあって、白血病治療の骨髄移植(bone marrow transplantation)などで世界的に有名な医学研究所のひとつに発展し、ノーベル賞科学者を含め数多くの才能がシアトルに集まることになった。
元ビートルズのドラマー、リンゴ・スターの最初の妻で、離婚後にハードロックカフェのオーナーと再婚したモーリン・コックスが94年に白血病治療の最中に亡くなったのも、このセンターである。モーリンがこのセンターに来たのも、息子のザックからこのセンターの得意とする骨髄の移植手術を受けるためだった。
現在のフレッド・ハッチンソン・ガン研究センターでは、2000数百名のスタッフが稼動しているという。1997年に創設者ウィリアム・ハッチンソンが高いしてからは、2001年に出芽酵母を用いた細胞周期の遺伝学的解析でノーベル医学・生理学賞を受賞したリーランド・ハートウェル博士がこのセンターの所長をつとめている。
Fred Hutchinson Cancer Research Center - Wikipedia, the free encyclopedia
リーランド・ハートウェル - Wikipedia


2004年にノーベル医学・生理学賞を受賞したリンダ・バック博士は、第二次大戦が終わってMLBが再開された46年の翌年、1947年にシアトルで生まれた。

リンダ・バック

博士がワシントン大学で心理学と微生物学の理学士号を取得したのは、フレッド・ハッチンソン・ガン研究センターが創設された、ちょうどその1975年である。
才能に溢れた彼女は、その後の素晴らしい業績によってハーバード大学終身教授にまでなったが、2002年に故郷シアトルのフレッド・ハッチンソン・ガン研究センターに籍を移して、2004年のノーベル賞を、シアトルの学者として受賞した。リンダ・バックは、センターで基礎医学を研究するとともに、母校ワシントン大学の生理学、生物物理学教授もつとめている。故郷とはいえ、ハーバードのノーベル賞学者がわざわざリターンしてくるのだから、いかにこの研究所の権威が高いかがわかる。
リンダの専門分野は、嗅覚や味覚といった感覚の研究だが、嗅覚細胞の受容体を説明するのに、彼女は「キャッチャーミット」と、野球的な表現をすることがあるらしい。また彼女は、味覚を5種類に分類するが、その5つは、辛い(bitter)、甘い(sweet)、塩辛い(salty)、すっぱい(sour)、うまみ(Umami)で、日本語の「うまみ(Umami)」を日本語の発音のまま、固有名詞として使用しているようだ。
Linda B. Buck - Wikipedia, the free encyclopedia
リンダ・バック博士にノーベル賞-フェロモンと寿命の関わりを描く--健康情報



ボストン・レッドソックスの左腕ジョン・レスターは、1984年にシアトル・マリナーズのマイナー、タコマ・レイニアーズのあるシアトル近郊のワシントン州タコマで生まれた。
レスターはメジャーデビューした2006年に、血液のガンである「悪性リンパ腫」の一種を患ったことは日本のMLBファンの間でも知らない人はいない話だが、彼のガンが判明したのは、2006年6月下旬に故郷シアトルに遠征している最中のことだったらしい。
彼は2006年冬までに化学療法を受けて病気に打ち勝つのだが、その化学療法を受けた場所というのが、彼の故郷シアトルのフレッド・ハッチンソン・ガン研究センターなのである。
彼は2007年のシーズン途中、7月に復帰を果たす。このシーズンこそ4勝に終わったが、翌2008シーズンに16勝6敗を挙げ、ノーヒット・ノーランも達成した。
この2008年のハッチ賞受賞者となったのが、フレッド・ハッチンソン・ガン研究センターでの治療で復活を遂げたジョン・レスターであり、彼は受賞にあたって、センター付属のHutch Schoolを訪問している。ちなみに彼をエスコートしてスピーチを行ったのは、ホール・オブ・フェイマー、トム・シーバーである。大病を体験した後だけに、受賞のときのレスターのコメントは何度も読める感慨深いものになっている。
Larry Stone | Jon Lester wins Hutch Award | Seattle Times Newspaper
Jon Lester wins 2008 Hutch Award - USATODAY.com
Lester will visit children at the Hutchinson Center's Hutch School and receive his award at the annual Hutch Award Luncheon on Jan. 21 at Safeco Field in Seattle. Hall of Fame pitcher Tom Seaver will be the keynote speaker.(中略)
He's received chemotherapy treatments at the Fred Hutchinson Center during the winter for the rare form of the disease, and doctors there declared him cancer free before the 2007 season.


そう。
Hutch賞を受賞したプレーヤーが、殿堂入り選手にエスコートされる形でフレッド・ハッチンソン・ガン研究センターにあるHutch Schoolを訪問することは、MLBとシアトルの、そして野球と医学の、長い歴史の上に成り立ったイベントなのである。

2010年のHutch賞を受賞したのは、アトランタの右腕ティム・ハドソン。彼をシアトルでエスコートした殿堂入り選手は、ジョー・モーガンであった。ティムはこの受賞によるシアトル訪問で、彼がオークランドに在籍していた時代に対戦したシアトルにまつわる思い出話をしているのだが、これがなかなか面白い。
彼は、いままでシアトルで経験した中で最も印象に残るゲームとして2000年、2001年のシアトルを挙げ、当時のシアトルのファンがいかに盛り上がっていたかを楽しげに語っている。

なんせ、2001年4月2日イチローの記念すべきメジャーデビューのゲームで、イチローが最初の最初に対戦したピッチャーというのが、このティム・ハドソンなのである(結果はセカンドゴロ)。そして、ティム・ハドソンはメジャーで10年を過ごしたイチローがメジャーで最も打てていない、打率の低い投手でもある。(だいたい2割1分台の打率のはず)
The Hot Stone League | Hutch Award winner Tim Hudson remembers Mariner glory days | Seattle Times Newspaper
Hudson said he's proud of the fact that he was the first pitcher to face Ichiro in the major leagues, on Opening Day of the 2001 season at Safeco Field. In his major-league debut, Ichiro grounded out to second base against Hudson.


たしかに長すぎる話だ。
だが、話が長いのには理由があることがわかってもらえただろうか。書いていて、Hutch賞にまつわる人々の「縁(えにし)」というものは、尋常じゃないものがあるとしか思えない。


この長い長い時間の流れをどう感じるかは読む人の勝手だが、間違ってほしくないことが、ひとつだけある。

Hutch賞を受賞した選手がHutch Schoolを訪問するのは、それが受賞の「おまけ」だから、ではない、ということ。まして、有名人だからかわいそうな人を慰問するとか、そういうたぐいのものでは、絶対にない。

そうじゃない。
Hutch賞はそもそも、その成り立ちからして、単なる野球の賞ではない。
フレッドとウィリアム、野球好きのハッチンソン兄弟の物語に始まって、ガンと闘うフレッド・ハッチンソン・ガン研究センターでの現代医学の発展と常に深い関係にあり、病気という人生の上で乗り越えなければならないハードルに立ち向かう患者と医師、そして野球というスポーツ、シアトルという場所、ぞれぞれのアクロバティックとさえ言える不可思議な結びつきとともに、この賞は創設され、発展を続けてきた。

シアトル生まれのフレッド・ハッチンソンは地元シアトルでメジャーデビューすることはなかった。60年代末になるまでシアトルにメジャー球団がなかったからだ。
シアトルにメジャー球団を持つことは悲願と言われ続けていたが、長年にわたって実現しなかった理由は、シックズ・スタジアムの設備の脆弱さのせいだといわれている。
だが、そのシックズ・スタジアムが世に送り出した選手のおかげで、シアトルには医学界の超メジャー施設といえるフレッド・ハッチンソン・ガン研究センターができ、そういう有力な研究所がシアトルにあるおかげで、シアトル生まれのノーベル賞学者リンダ・バック博士は医学者として故郷に戻ってくることができた。

本当に、人生に何が起きるかなんて、わからない。
人生に偶然なんてない、と、よく言うが、たしかにそれは本当かもしれないと思わせてくれるのが、Hutch賞の長い長い物語である。






damejima at 10:11

January 10, 2011

2004年に引退したロベルト・アロマーはゴールドグラブを10回も受賞していて、これがMLBの二塁手として歴代最高回数なわけだが、Baseball Referenceから、ポジション別に3位までの選手をピックアップしてみた。
選手の名前の前の数字は受賞回数であり、背番号ではない。


ポジション別のゴールドグラブ受賞回数ランキング
ア・リーグ
MLB American League Gold Glove Award Winners - Baseball-Reference.com
ナ・リーグ
MLB National League Gold Glove Award Winners - Baseball-Reference.com

Pitcher
18 Greg Maddux
16 Jim Kaat
9 Bob Gibson

Catcher
13 Ivan Rodriguez, Puerto Rico
10 Johnny Bench
7 Bob Boone

1B
11 Keith Hernandez
9 Don Mattingly
8 George Scott

2B
10 Roberto Alomar, Puerto Rico
9 Ryne Sandberg
8 Bill Mazeroski

3B
16 Brooks Robinson
10 Mike Schmidt
8 Scott Rolen

SS
13 Ozzie Smith
11 Omar Vizquel, Venezuela
9 Luis Aparicio, Venezuela

OF
12 Roberto Clemente, Puerto Rico
12 Willie Mays
10 Ken Griffey
10 Andruw Jones, Curacao
10 Al Kaline
10 イチロー, Japan


ゴールドグラブ賞ができたのは1957年。だから、MLBができたばかりの時代のプレーヤーはこのランキングに入っていないし、近年ではこの賞の選出方法の欠陥についてさまざま議論もあるだけに、ゴールドグラブ受賞回数だけをもってMLB歴代最高の守備の名手が誰かを語れるとはもちろん言い切れない。
だが、それにしたって、10回以上この賞を受賞した選手が1957年以降、わずか16人しかいないのは、まぎれもない事実だ。もちろん10年以上連続受賞した選手はさらに限られる。

細かすぎる議論など、何十年というレンジでの話では、無視してもいい。1回でも受賞できたらそれだけでも凄いこの賞を、10回以上も受賞できた選手はやはり、文句なく凄い、のである。当たり前のことだ。
例えば、このところ衰えが目立ってきたデレク・ジーターの去年のゴールドグラブ受賞には文句を言いたい人がたくさんいること自体は、よーくわかるわけだが(笑)、受賞回数10回以上という長い目で見た基準からすれば、いまだ5回しか受賞してないジーターが、これからのキャリアでオマル・ビスケールルイス・アパリシオを越えて2桁のゴールドグラブ受賞回数に到達することは、おそらくないと思うのだ(笑)
だから肩がこるほど議論に力を入れすぎてもしかたがない。


むしろジーターより、きちんとした注釈が必要なのは、外野手部門のウィリー・メイズだろう。

ウィリー・メイズが例の「ザ・キャッチ」をやってのけたのは、1954年のワールドシリーズだが、この年にはまだゴールドグラブ賞そのものが存在していない。
メイズはオールスターに1954年から1973年まで20回連続出場しているわけだから、もっと早くこの賞ができていたら、1954年から56年の3年間にもゴールドグラブを受賞していた可能性がある。そういう意味で、もしMLBのもっと初期からゴールドグラブがあったなら、メイズの外野手として12回のゴールドグラブ受賞歴は、間違いなくもっと多かったに違いない。
だからもし再来年にイチローが12回目のゴールドグラブを受賞しても、受賞回数だけでウィリー・メイズと比肩できたと、全米のクチうるさい人たちに(笑)いってもらえるかどうかはわからない。


あと、これも余談だが、彼の「ザ・キャッチ」は、センター方向の、外野手の頭を越していく140メートルの大飛球だったわけだが、メイズがこの大ファインプレーを達成できた理由については、ゲームが行われたスタジアム、ポロ・グラウンズの特殊すぎる形状にも多少要因があると思う。
ポロ・グラウンズは、これまで何度も紹介してきた通り、もともとがポロ競技のための施設であり、ポロ・グラウンズのセンターは483フィート(約147メートル)もあって、センター方向だけが異常に広い縦長の形状だった。

Polo Groundsポロ・グラウンズ

Polo Grounds, Eighth Avenue at 159th Street, 1940
資料:A Little More New York in Black and White (photos and commentary)

メイズがつかんだ打球の飛距離は460フィート(約140メートル)も飛んでいたといわれているが、ホームグラウンドであるポロ・グラウンズの広大すぎるセンターを日頃から守っていたメイズは、「どんなに大飛球であってもセンター方向なら、フェンスの存在をほとんど気にすることなく全力疾走でキャッチしに行けることがわかっていたはずだ」と思うのである。
ジャイアンツがまだニューヨークのブルックリンにあって、ポロ・グラウンズをホーム・グラウンドにしていたからこそ達成できたファインプレーであったと考えるわけだが、どうだろう。

ウィリー・メイズのザ・キャッチ

現代のスタジアムなら、140メートルの大飛球は文句なくホームランであって、外野手は追いかけもしない。140メートルの飛距離の打球を背走で掴んだ古き良き時代のファインプレーとはまた違う苦労が、現代の外野手にはある。

今の時代、もしフェンス際に大打球が上がったら、外野手はフェンスを気にしないわけにはいかない。いつぞやのイチローのフェンス直前の後ろ向きのバスケット・キャッチ(あれも歴史に残る大ファインプレーだが)にしても、ホームランをもぎとったスパイダー・キャッチにしても、現代の外野手はフェンス激突のたいへんな危険を承知の上で、フェンス際の魔術的なファインプレーを達成しなければならないのである。

damejima at 04:43

November 02, 2010

The 2010 Fielding Bible Awardsが決まった。栄えある受賞者は以下の9人。カール・クロフォード(86ポイント/2位)、アルバート・プーホールズ(76ポイント/2位)が落選したりで、去年とは6人が入れ替わり、顔ぶれが変わった。

1B Daric Barton, Oakland
2B Chase Utley, Philadelphia
3B Evan Longoria, Tampa Bay
SS Troy Tulowitzki, Colorado
LF Brett Gardner, New York
CF Michael Bourn, Houston
RF Ichiro Suzuki, Seattle
C  Yadier Molina, St. Louis
P  Mark Buehrle, Chicago White Sox


Fielding Bible Award 2010 受賞者リスト

Fielding Bible Award 2010 全投票者と、その投票内容


参考までに、これが2009年の受賞者。
太字の3人が2010年の連続受賞

The 2009 Fielding Bible Awards

1B Albert Pujols, St. Louis
2B Aaron Hill, Toronto
3B Ryan Zimmerman, Washington
SS Jack Wilson, Pittsburgh and Seattle
LF Carl Crawford, Tampa Bay
CF Franklin Gutierrez, Seattle
RF Ichiro Suzuki, Seattle(93ポイント)
C  Yadier Molina, St. Louis
P  Mark Buehrle, Chicago


ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月31日、2009年Fielding Bible賞にみる「キャッチャーに必要な能力の新スタンダード」。ロブ・ジョンソン、キャッチャー部門9位にランクイン。


イチローの受賞は、2006年、2009年に続き、今年2010年の受賞で、2年連続3度目
調べてないが、たぶん3回受賞しているのは、受賞が当たり前のようになっているヤディア・モリーナ以外に、クロフォード、プーホールズ、イチローくらいだと思う。
この賞は、各リーグから一人ずつ選ばれるゴールドグラブと違って、ひとつのポジションについて両リーグで1人しか選ばれないだけに、価値ある受賞である。基本的に前年受賞したからといって翌年の受賞が保証されるわけでもなんでもないから、3度受賞するのは容易なことではない。この賞が創設されて今年で5年。その5年間で3回受賞しているのが、イチローである。
この賞は毎年10票の投票(=9人の投票者とデータ)で決められるが、2009年にイチローが獲得した1位票は5票だったが、今年は6人がイチローに1位票を入れており、1人増えた。
Winning his second consecutive Fielding Bible Award, third career win, Suzuki made three home-run-saving catches last year, saving five runs for the Mariners.(受賞者へのコメントより)


それにしても、去年受賞したシアトルのジャック・ウィルソンが、今年あれだけケガで休んでばかりいたにもかかわらず、今年もショート部門5位(39ポイント)に入っているのが、まったくもって意味不明だと思う。
例えばセイバー親父の大御所Bill Jamesなどは、ジャック・ウィルソンをショートの2位に、守備に関してはセイバー親父の親玉といえるJohn Dewanも3位に挙げているが、どうも何か勘違いしているとしか思えない。(他の投票者は全員が6位以下か、下手をすると10位以下の圏外)

Fielding Bible派がゴールドグラブを批判する場合に、よく「毎年のように同じようなメンバーが慣例で選ばれがち」というような意味の批判をするわけだが、ゲームにたいして出てもいないジャック・ウィルソンに高評価を与えているようでは、そういう批判は絵空事になるし、Fielding Bible Awardの名も上がらない。
賞の創設時の意義からいって、この賞は過去の実績の年功より、それぞれの年の守備貢献度だけをデータ的に計測などして目に見えやすい形で選ばれるべき賞であって、「お年寄りが、長年の自分のお気に入りプレーヤーに自分で投票して、その結果を人に見せて喜ぶ自己満足の見せびらかし、ではない」はずである。賞を創設してたった5年で腐るようなことでは彼らの批判するゴールドグラブと変わりない。
同じような意味で、フランクリン・グティエレスも、今年はセンター部門の2位(75ポイント)だったが、あの2010年の並以下のバッティング内容で受賞していたら、「Fielding Bible Awardも、ちょっと、な」、と考えただろう。


これからのFielding Bibleは、出場試合数が多くなく、バッティングが最悪な守備要員でも、ただ守備さえよければ賞の上位に選出してしまうつもりなのか。賞として、選考基準にちょっと今後に課題を残した感じがしないではない。






damejima at 12:14

September 20, 2010

"It's the first time I've gotten to play against a team I've played for previously,'' Lee said.
Mariners Blog | Cliff Lee had "a little extra incentive" in facing former Mariners team | Seattle Times Newspaper

クリフ・リーが言うには、「前に所属してたチーム相手に投げるのは、これが初めてなんだ。」ということらしい。
と、いうことは、クリフ・リーから最初の打席でヒットを打ったイチローは「クリフ・リーが以前に所属していたチーム相手に投げるゲームで、一番最初にヒットを打ったバッター」ということになる。
Texas Rangers at Seattle Mariners - September 18, 2010 | MLB.com Gameday


クリフ・リーはイチローのバッティングについて、こんな風に言っている。
"Obviously, Ichiro is pretty unbelievable,'' Lee said. "He's got a knack for getting hits no matter what's going on. He got a few, huh? I don't know how many he got. Two or three at least, right? And that's his game. He knows how to do that. He's got unbelievable hand-eye coordination.


hand-eye coordinationという言葉(eye-hand coodinationとも書く)は、昔からイチローの賛辞に使われる言葉のひとつとして何度も聞いてきた単語だ。

野球でこの言葉が使われる場合、ほとんどの場合「バット・コントロール」と訳されてしまうが、どうも気にいらない。それだと、hand-eye coordinationという言葉のニュアンスの一番重要な部分がスポイルされているような気がする。

hand-eye coordinationという言葉は、場合によっては「反射神経」という意味に近いニュアンスで使われることがある。
クリフ・リーが「イチローは信じがたいhand-eye coordination能力をもっている」というとき、それが「あらゆる球種にうまくバットをあわせてくる。つまり、バットコントロールが上手い」と言っているのか、「投手が投げた瞬間に、球種やコースを見極めて対応してくる、という反射神経の速さ」を言っているのかは、本当は、クリフ・リー本人にもっと突っ込んた話を聞いてみないとわからない。
インタビュアーはどうしてそういう突っ込んだ「いい話」を聞いてこないのか、と、いつも思う。
Eye–hand coordination - Wikipedia, the free encyclopedia


hand-eye coordinationという言葉を「バットコントロール」と訳すだけで終わらせるのが気にいらない理由を説明するために、ちょっと例を挙げてみよう。


hand-eye coordinationという言葉がよく使われるのは主に、スポーツ、外科手術、コンピューター、音楽といったプロの分野だ。これらの世界には「道具を使って、微細でテクニカルな操作を行う」という共通点がある。

例えば、バイオリニストが楽譜をまったく見ないで非常に上手くボウ(バイオリンを演奏する弓)を操って演奏したとしたら、それ自体はたしかに「ボウ使い(野球でいうバット・コントロール)が上手い」とはいえる。
だが、それではhand-eye coordinationの能力が高いとはいえない。なぜなら、それは「手の動きが上手い」だけで、「視覚との連動性の問題」が含まれていないからだ。
それに対して、初見(しょけん)の楽譜(=はじめて見る曲の楽譜)を見ながら、いきなりスラスラとその曲を弾きこなした、という場合には、初めて楽譜を見て理解するという「視覚の問題」と、それを即座に弾きこなすという「手の運動性」が連動して関係してくる。

ただ「道具をうまく使う」という意味を言いたいだけなら、別にhand-eye coordinationという言葉を使って説明する必要はない。
hand-eye coordinationという言葉を使うのにふさわしいのは、「視覚と手の中間になんらかの道具(デバイス)の仲介があり、目で見えるモノと、手の連動性が、あらかじめズレてしまう問題があるケース」だという気がする。


他にも、例えば、モニターを見ながら内視鏡手術をする外科医、モニターを見ながらテレビゲームを超高速でプレイするゲーマー、モニターを見ながらピクセル単位で的確にカーソルを移動できるデザイナーなど、「目でモニターの動きを追いかけながら、手で道具を動かす仕事」にも、「視覚と手の動きの連動性の問題」が存在する。
これらの仕事には、「視覚と、道具を扱う手の運動との間に、あらかじめズレがあり、そのズレを的確に埋める能力の高さで、処理スピードや処理の的確さが決まってくる」という共通点がある。

例えば内視鏡手術では、患部は非常に拡大されてモニターに映し出される。だが、実際に手を動かす必要があるのは1ミリ以下の場合もあるほどの小さな動きであり、視覚の「大きさ」と、手の動きの「微細さ」の間に「大きなズレ」が存在する。
「視覚で得られた情報(例えば、外科手術の拡大されたモニター、テレビゲームの画面、パソコンの画面、初めて見る楽譜)」と、指の微細な動き(1ミリ以下の操作の必要な内視鏡手術、高速でのコントローラー操作、ピクセル単位のマウス操作、テクニカルな楽器演奏の指の動き)」には、もともと「ズレ」があるのである。
もっと細かく言えば、縮尺のズレ(視覚的なスケールと運動のスケールのズレ)、視覚と手で行う道具の操作の方向性のズレ、奥行きの無いモニターでの視覚と凹凸を感じる手の感覚的ズレ、上下左右という方向性をボタン操作やマウス操作に変換する際の意識のズレ、楽譜という記述体系を楽器演奏という運動に変換する際のズレ、などである。

この「ズレの克服」こそが問題だ。

「視覚と手の運動のズレ」の克服は、例えば練習の積み重ねで楽譜を見なくても演奏できるようになるように、「道具が上手くコントロールできるように練習すること」だけで達成できるとは、到底思えない。

むしろ初めて見る楽譜を見て即座に演奏するバイオリニストの能力や、触覚と著しくズレている映像を見ながら微細な手術をする外科医の能力のように、
「視覚情報に、瞬時に反応できるスピード」
「視覚情報を、運動性に変換するときの的確さ」
「ズレを変換する際に強いられる精神的緊張の克服」
「連続的にズレていく視覚情報に、
 手の運動が連続的に追従していける動的能力」
などが要求され、単に「練習によって肉体的に慣れる」とか、「慣れによって視覚と運動の連動性を高める」とか、そういう程度の鍛錬では追いつかないような気がする。

内視鏡手術をする外科医には、見た目では数センチに見えるモニターの動きに「惑わされずに」、視覚から得た情報を1ミリ以下の指の微細な動きに変換するための独特の手術テクニックがあり、また、その特殊技術習得のための訓練にも、独特のトレーニング・スキルがあるらしい。
ゲーマーやデザイナー、音楽家も、モニターや楽譜を見ながら道具を操作する技術を、練習で自分のカラダにたたきこんで「正確な」指の動きをマスターしなければ仕事にならないだろうが、ただただ練習を繰り返せば一流になれるかというと、単なる肉体的な練習や慣れだけでは限界があると思う。


「道具をどう肉体がコントロールするか」だけが問題なのではなく、どうも「脳内の変換能力の向上」とでもいうものが必要な気がするのである。


うまくいえないが、イチローのhand-eye coordination能力は、単に「アナログ的な道具扱いの上手さ」だけを意味するのではなくて、なにかもっと別の、ずっと現代的でデジタルで脳内的な問題を含んでいるように思えるのである。

最近のカメラは、デジタル化によって、ようやく人間の目がもつさまざまな能力に少しずつ追いつきつつあるわけだが、それでも人間が目から得ている視覚情報は本来膨大なものである。また、脳内での情報処理も非常に高度な処理が行われていて、例えば人の顔の判別だけとっても、機械にはなかなかできなかったわけだが、人間の脳内では「顔の情報」について非常に高度な情報処理が行われていて、「それが誰であるか、即座に総合的な判別ができる」ようになっている。
しかし、一方で、人間の筋肉や骨を動かす能力のほうは、視覚から入った大量の情報に高速かつ的確に追従できるほど、高度にできていない。

だからこそ、テレビゲームをやっていて、モニターで「あ、いまコマンドを入れないと、やられてしまう」と、いくら頭でわかっていても、指はまったく動かなかったりする。
もちろん、鍛錬によって肉体の反応力はある程度までは上がっていくが、「肉体的な練習による、単なる慣れ」だけでは、身体のコントロール能力は、速度、正確さに限界があると思う。
たとえでいうと、「バットを振りつづける」「ゲームをやり続ける」「外科手術をむやみとたくさんやる」「やたらと楽器を演奏しまくる」ことだけでは、そのプレーヤーが到達できる高さには限界があるのではないか、ということだ。

RICKSON GRACIE瞑想するヒクソン・グレーシー

アスリートが「その先」を目指すためには、本当は「脳を鍛える」ようなこともしなくてはいけないのかもしれないのではないか、と思う。ヒクソン・グレーシーはヨガの達人でもあると聞く。それは「肉体的練習がもともともっている到達限界を超えて肉体をコントロールするためにトレーニングしている」のだと思う。
なにも、筋トレして筋肉を増やすことだけがトレーニングなわけではない。


本来、運動能力の正確さは年齢とともに急速に衰えいく。だから、肉体を鍛えているだけでは、加齢とともに「できたはずのこと」が「できないこと」に急速に変わっていくだけになる。

だが、イチローの場合は「肉体的な衰え」が、
「ほかの何か」でカバーされている。

その何かとは、「脳の変換力の若さ、正確さ、スピード」であり、その「若さ」がhand-eye coordinationを支えているとしたら、イチローのhand-eye coordinationとは、非常にデジタルで現代的な能力だと思う。






damejima at 15:14

September 10, 2010

通算盗塁数のメジャー記録1406をもっているリッキー・ヘンダーソンがメジャーデビューしたときに所属していたアスレチックスが「1イニング2ダブルスチール」という滅多にない記録をうちたてた記事を書いたばかりだが、野球というスポーツの歴史を振り返ってみると、盗塁とホームランは相反する歴史をもっている。

メジャーの歴史における盗塁とホームランの関係

これはメジャーの歴史における1ゲームあたりの盗塁数(SB/G)と、1ゲームあたりのホームラン数(HR/G)をグラフ化したもの。ひと目でメジャーのプレースタイルの変遷がわかる。非常に優れたグラフだ。
Stolen base - Wikipedia, the free encyclopedia


「球聖」タイ・カッブ時代
創生期の野球は、盗塁が非常に盛んで、スピーディで緻密な野球をしていたらしい。この時代、最大のヒーローは、いうまでもなく、通算安打数4189、通算打率.366で歴代ホール・オブ・フェイマーの中で第1位を誇る安打製造機にして、歴代4位の盗塁数897のスピードスター、「球聖」タイ・カッブである。
ホール・オブ・フェイマーの打撃比較
Hall of Fame Batting Register - Baseball-Reference.com

球聖タイ・カッブスライディングするタイ・カッブ。ベンチ前でスパイクを研いだエピソードは有名。相当スライディングがえげつなかったらしい。



カッブは、MLB史上4位の892盗塁を記録していて、1イニングで二盗、三盗、本盗を決める「サイクル・スチール」を通算4度も達成していて、現代のスピードスターであるイチローと、プレースタイルに多くの共通点がある。

1936年に第1回の殿堂入り選手を選ぶ投票が行われたが、このとき殿堂入り第1号選手に選ばれたのは、前年に引退したばかりのホームランバッター、ベーブ・ルースではなく、投票した226人のうち最高の222票、98.2%の票を得たスピードスター、「球聖」タイ・カッブだ。
この殿堂入り投票では、総投票数226のうち「75%以上の得票」である170票以上が必要だったが、それを集めることができたのはタイ・カッブ以外にベーブ・ルース(222票)、首位打者8回の"The Flying Dutchman"ホーナス・ワグナー(215票)、当時fadeawayと呼ばれた変化球(現在のスクリューボールといわれている)で通算373勝、2度のノーヒッターを達成した"Big Six"クリスティ・マシューソン(205票)、通算417勝の剛腕"The Big Train"ウォルター・ジョンソン(189票)の、合計5人だけだった。
ノミネート選手の中には、あのサイ・ヤング(111票)、ロジャース・ホーンスビー(80票)、ジョージ・シスラー(77票)、ルー・ゲーリッグ(51票)、ウィリー・キーラー(40票)と、日本でも名前を知られているMLBの超有名殿堂入り選手が数多くいたわけだが、タイ・カッブはそのあらゆる有名選手を抑えて得票第1位に輝いたのである。
タイ・カッブが記録した得票率98.2%は、トム・シーバーが1992年に98.8%の得票率で殿堂入りするまで、半世紀以上も破られなかった。
これまでタイ・カッブの98.2%以上の得票を得て殿堂入りしたのは、98.8%のトム・シーバー、 98.79%のノーラン・ライアン、 98.53%のカル・リプケン(野手としては史上最高の得票率)、メジャーの長い歴史の中でも、この3人しかいない。
1936 Hall of Fame Election - BR Bullpen


ベーブ・ルースと「ホームランの出やすい球場」の時代
野球創生期の「タイ・カッブの時代」を大きく変えたのが、ベーブ・ルースの登場だという話はよく言われることだが、その話をするとき、「ホームランの出やすい新球場の建設」や「1920年以前の『飛ばないボール』とは全く違うボールの採用」がホームラン量産時代を支えたことは、これまであまり日本のスポーツメディアではきちんと触れられてこなかった。
ヤンキースが、ボストンからルースが移籍してきた当時ホームグラウンドにしていたのは、左右両翼が極端に狭いためにホームランが出やすく、「ポール際ならポップフライでもホームランになる」といわれたポロ・グラウンズだが、この球場を手本に、ヤンキースが1923年にライト側だけが異常に狭い旧ヤンキースタジアムを建設したことで、大衆をホームランに熱狂させる時代がやってきたのである。
この時代の変化は、上のグラフにハッキリと表れている。1910年代から20年代にかけてゲームの盗塁数は激減、その一方で、ホームランの数は右肩上がりに増加していった
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月25日、セーフコ、カムデンヤーズと、ヤンキースタジアムを比較して、1920年代のポロ・グラウンズとベーブ・ルースに始まり、新旧2つのヤンキースタジアムにも継承された「ポール際のホームランの伝統」を考える。

Polo Groundsポロ・グラウンズ
Clem's Baseball ~ Polo Grounds

旧ヤンキースタジアム旧ヤンキースタジアム
Clem's Baseball ~ Yankee Stadium

タイ・カッブとベーブ・ルースの
目指すプレースタイルの違い

球聖タイ・カッブと、ベーブ・ルースがお互いをけなしあっていたことは有名な話だ。
カッブが「野球本来の面白さは、走塁や単打の応酬にある」と批判すれば、ルースは「客はオレのシングルヒットじゃなく、ホームランを見に来ているのさ」とやり返している。
だが、これは両者の「能力の差」ではなくて、単に「好みのプレースタイルの違い」である。なぜなら、2人とも、ヒットを積み重ねる能力もあれば、ホームランを打つ能力も欠けていたわけではないからだ。
例えば、タイ・カッブは、ホームランをもてはやしだしたマスメディアにイライラして「ちょっと見せたいものがある」とあらかじめ試合前に宣言しておいてゲームで1試合に3本のホームランを打ってみせたことがあり、また、首位打者、ホームラン王含めて打撃全タイトルを同時にとったことさえある万能選手だった。(このへんは「イチローは実はホームランも打てる」とよく言われるのと非常に似ている)また、一方のルースも、シーズン打率.393を打ったことがあり、アベレージヒッターとしての能力もあった。
つまり、タイ・カッブは「シングルヒットだけしか打てない打者」ではなかったし、一方、ルースも「打率は低いくせに、ホームランばかり狙っている扇風機」などではなかった。

ベーブ・ルースは1895年生まれでタイ・カッブよりずっと若くて、第1回殿堂入り投票前年の1935年まで現役だったから、既に野球創生期の偉人であったタイ・カッブより当時の評価がほんの少し低い傾向にあったことは、しかたない面がある。(ちなみに第1回の殿堂入り投票時のルースは殿堂入りノミネートに必要な引退後5年経過という条件を満たしていなかったが、特例でノミネートされた)

ちなみにイチローがシーズン最多安打記録を更新したジョージ・シスラーは1893年生まれで、やはり1886年生まれのタイ・カッブよりも年下で、全盛期もタイ・カッブより10年ほど遅い。(シスラーの殿堂入りは1939年)。

ジョージ・シスラー

スピードとテクニック系の選手だったシスラーは、不運なことに、ホームランが非常にもてはやされだしたベーブ・ルース時代と全盛期が重なってしまっている。そのため、彼のヒットを積み重ねた業績は1920年代以降のホームラン時代には、時代に埋もれてしまう不幸さがあった。かえってシスラーのようなタイプの選手は、ベーブ・ルース時代ではなく、タイ・カッブ時代に全盛期を迎えていれば、輝かしい業績を軽視されるような不運な目にあわずに済んだだろうと思う。
2004年のイチローによるシスラーのシーズン最多安打記録の更新は、もちろん、シスラーの正当な再評価、名誉ある業績の掘り起こしに繋がったわけで、シスラーの遺族がイチローの記録更新をかえって喜んだのも頷ける。


上のグラフでみるとわかるように、ベーブ・ルース以降1950年代までは「盗塁が少なく、ホームランの多い時代」が続く。
その証拠に、1950年にドム・ディマジオ(1955年に殿堂入りしたジョー・ディマジオの弟で、ボストンの選手)が「たった15盗塁」で盗塁王になったりしている。だから、この「ほとんど盗塁しない時代」にどんなタイプの選手がもてはやされたかは説明しなくてもわかると思う。


時代を変えたスピードスター、
ルー・ブロック、リッキー・ヘンダーソン

「MLBから盗塁が消えた時代」は、1960年代から70年代かけて急速に終わる。1ゲームあたりの盗塁数が右肩上がりに増えていき、1試合あたりの盗塁数とホームラン数の差は急激に縮まっていく
そして1980年代になると、盗塁は試合運びをする上で非常にポピュラーな戦術に返り咲いた
これは明らかに、74年に118盗塁を記録し、それまでのメジャーのシーズン盗塁記録を塗りかえた、通算盗塁数938で歴代2位のルー・ブロック(1985年殿堂入り)や、80年、82年、83年に100盗塁以上を記録し、82年の130盗塁でルー・ブロックの記録を塗りかえたリッキー・ヘンダーソン(2009年殿堂入り)の活躍があってのことだと思う。

盗塁するリッキー・ヘンダーソン盗塁するリッキー・ヘンダーソン
ベーブ・ルースなら「客はオレのシングルヒットじゃなく、ホームランを見に来ているのさ」と言うだろうが、リッキー・ヘンダーソンなら「いやいや。今は時代が違うだろ。今の客はオレ様の盗塁を楽しみに球場に来るのさ」と言い返すところだろう。我々が出塁したイチローを見るとき、「早く盗塁しないかな」と待ちあぐねながらテレビに釘付けになっているのとまったく同じである。
リッキー・ヘンダーソンも、ホームランを20本以上打ったシーズンが合計4シーズンあって、タイ・カッブもそうであったように、彼もまた「シングルヒットしか打てない打者」ではなかった。


2000年前後の薬物ホームランフィーバーと、
その後のドーピングへの幻滅

1998年から2001年にかけて、マーク・マクガイアサミー・ソーサバリー・ボンズといったホームランバッターによるホームラン記録の更新フィーバーの時代がやってくる。
日本でもサンフランシスコの球場の外で、ボートやカヌーに乗ってホームランボールを拾いに来ている野球ファンの映像が何度も流されたものだ。
しかし次々とステロイド使用による彼らの不正ぶりが告発されたことで、近年では彼らのホームラン記録の正当性そのものが疑問視されている。


タイ・カッブ、リッキー・ヘンダーソン、イチロー
歴史を変えたスピードスターたち

1980年に始まったシルバースラッガー賞という賞がある。
この賞、なまじ「スラッガー」とタイトルについているばっかりに、「ホームランをたくさん打つと、もらえる賞だ」と勘違いしている人が非常に多い。あるいは、イチローがシルバースラッガー賞を何度も受賞していることにいちいち異議を唱えたがるアホウもいる。

だが、例えば球聖タイ・カッブは通算117本しかホームランを打っていないが(しかも、その多くはランニング・ホームランらしい)、もしあの時代にこの賞があったら、少なく見積もっても10数回受賞したことだろう。
また、盗塁のキング・オブ・キングス、リッキー・ヘンダーソンは、通算3回シルバースラッガー賞を受賞しているわけだが、その内容を見れば、ドーピングが騒がれて個人のホームラン数がかなり減っている近年のMLBからしても、「これは凄い」という数字の成績でもない。81年などは「こんな成績でよく獲れたな」という感じの数字だ。
リッキー・ヘンダーソンの3回のシルバースラッガー賞も、盗塁を含めた打撃成績全体の貢献度を見てのものだろう。シルバースラッガー賞とは、そういう賞である。
リッキー・ヘンダーソンの
シルバースラッガー賞受賞シーズンの成績

81年 打率.319 135安打 6ホームラン 35打点 56盗塁
85年 打率.314 172安打 24ホームラン 72打点 80盗塁
90年 打率.325 159安打 28ホームラン 65打点 65盗塁
参考)イチローのシルバースラッガー賞受賞年の成績
01年 打率.350 242安打 8ホームラン 69打点 56盗塁
07年 打率.351 238安打 6ホームラン 68打点 37盗塁
09年 打率.352 225安打 11ホームラン 46打点 26盗塁

「ホームランだけが野球というスポーツの攻撃スタイルだ」という決めつけは、単なるガキくさい思い込みにすぎない。「野球 イコール ホームラン」というベーブ・ルース時代に作られた商業色の強いイメージに捉われたままの人が、いかに多いことか。
むしろ、近年のシルバースラッガー賞の受賞者のホームランバッターには、薬物問題で実際に処罰を受けた「まがいもの」「つくりもの」のプレーヤー(たとえばボンズ、マクガイア、ジオンビー、テハダ、他にも大勢いる)があまりにも多い。


これを書いていて、ほんとうに2001年のイチローの鮮烈なメジャーデビュー登場がメジャーの歴史にいかに大きなインパクトを与えたか、その意義を考えずにはいられない。
イチローの登場は、単に、シスラーのような大過去の偉大なプレーヤーの記録を掘り起こしただけではなくて、ルー・ブロックやリッキー・ヘンダーソンが「盗塁」というタイ・カッブ時代の野球の価値ある宝をあらためて掘り起こしたように、2001年までの薬物を使用しつつホームラン競争に明け暮れていた「薬物ホームラン時代」に終止符を打ち、新しいクリーンなスピード時代の幕を、イチローが開けたのだ。

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damejima at 07:16

July 30, 2010

昨日、こんな風に書いた。



同じ負けるにしても、まだ開花していない才能を育てる目的で負けるというのなら、未来のためと、我慢も理解もできるかもしれない。
だが、ダメとわかった選手になんの責任もとらせず、無駄にチャンスを与え続け、負け続けるだけなら、その負けは、単なる、無駄で、見苦しい

「吐き気のするような負け」

でしかない。

ファンは、ローランドスミスのような「見るに耐えない投手」「見苦しい選手」が見苦しいゲームをし続けるのを黙って見続けなければならない義務など無い。苦痛を我慢させられ続けるいわれもない。



で、今日になって思うのは、ファンにとって「見たくもないモノを見せ続けられて、吐き気がする」のなら、チームに所属し、現状打開にもがくイチローにとっては「何倍もの吐き気がするだろう」ということだ。
7月に入って突然訪れた不調の意味はそこにある気がする。言いたくても言えないことが溜まると人間は具合が悪くなると、かの吉田兼好も徒然草で言っている。「ものいわぬは、はらふくるるわざなり


どうせ誰も言わないだろうから、
このブログがハッキリ言ってスッキリさせておこう。

天才イチローをして、これほどの見苦しさの中で、「吐き気のするような無意味な負け」と無理に向き合わせながら、プレーレベルの維持を要求し、期待し続けるなどという行為は、才能の無駄遣いなのはもちろん、それを通りこして

「野球史上の犯罪」

ですらある。



天才イチローにこれほどの見苦しい無意味さを我慢しつづけさせる権利は、近い将来には財政上の理由かなにかで消えてなくなっているかもしれないようなメジャーの貧弱チームにはない。

と、いうか、
将来の野球史にとって、永久に名前が残り、その存在がメジャーと日本の野球に与えた影響や残した足跡の意味が永遠に語りつがれていくのは、シアトル・マリナーズでも、リンカーンでも、ズレンシックでも、ワカマツでも、アデアでも、ローランドスミスでも、フィギンズでも、任天堂でも、山内氏でも、ダメ捕手城島でもない。


「ほっておいても、やがて消えていくあなたがた」は、ほんとうに、なにか巨大な勘違いをしているのではないか。


選手、監督やGM、チームが、メジャーの歴史の片隅にでも名を残せる存在になりたいと願う、それはそれで、それぞれの人の勝手だ。どうぞ、好きなようにすればいい。

だが、そんな存在にいますぐ、今年なれるものなら、今日、いますぐ、やってみせてもらおう。

できるはずもない。


イチローが既に現役にして野球史に残る存在になれたのは、「結果」、つまり、残した数字の大きさからではなく、「プロセスの素晴らしさ」である。
ずっといろいろなマイナスにも耐えながら、ずっとブレずに、自分の能力向上と維持のための努力を続けてこれた、その努力の歳月の途方もない長さ、そして、結果を出すことを要求され続けるプロの世界に身を置いて、求められる以上の結果を出し続けてこれた、その年月の途方もない長さからである。
それらの「毎日すこしずつ積み重ねられたものが、あまりにも前人未到の高さ、誰も到達できないほどの遠さに到達している」からだ。

と、いうことくらい、「いくら現状が酷くても、手を打たず、ほっておくか、顔をしかめるくらいしか能が無い凡庸なマリナーズの人々」も、「手を打ったつもりでいるが、その実、効果が皆無で結果が出せていないことに深刻さを感じない凡庸なマリナーズの人々」も、いい加減に気づいたらどうか。


野球史に名を残すのは、(自分で言っていて耳が痛いが)「凡庸なクセに、今日やるべき小さなことを、それがさも当然のような顔をしてサボり続けきた人」「昨日の問題を、今日も明日も放置する人」ではない。

野球史に名を残すから偉いのでもなんでもない。
野球史に名を残すほど「長く」努力してきた、
野球史に名を残すほど「高く」結果を残し続けてこれた
そういうプレーヤーだからこそ
われわれは自然と視線を向けるのである。

そして、見ていたくなるプレーヤー、という程度を越えて
目が離せなくなるプレーヤー」、そういうレベルに
イチローは達している。

われわれは見ていたくなるどころか、この「目の離せないプレーヤー」の「今日してくれるかもしれない、見ていてスッとする何か」を見るために
スタジアムに通い、
テレビのスイッチを入れ、
ネットの回線を繋いでいるのである。


吐き気のするほど、無意味で、自堕落で、結果も努力の姿勢もアピールできないクセにプライドばかり高い選手とチームの漫然とした負けを見続ける義務など、われわれにはない。


そう。
マリナーズにとってイチローは必要かもしれないが、イチローファンにとって、もはやマリナーズは必要ない。






damejima at 18:29

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