黒田・岩隈・杉内

2013年10月1日、デビッド・ブライスのみせた「右打者のアウトローにボール球を投げない快投」を、ボストン戦におけるヤンキース先発陣の配球と比較する。
2013年9月13日、黒田という投手を評価しない理由。そして、なぜジラルディは満塁ホームランを打たれるような場面を自ら演出してしまうのか、について。
2012年9月15日、ヤンキースが「3対6で負け」、「3対2で勝つ」理由。
2009年3月23日、第2回WBC決勝を前に岩隈の変化球連投を考える。

October 02, 2013

ポストシーズン進出をかけたタンパベイ対テキサスのワンデープレーオフは、予想どおりタンパベイの勝利に終わったわけだが、なんといってもサイ・ヤング賞投手デビッド・プライスの堂々たるピッチングが光った。
3点リードの9回裏を迎える前、ブルペンではクローザーのフェルナン・ロドニーが肩をつくっていて、テキサスのベンチも、見ているファンも、「ロドニー登場か?」と思ったわけだが、結局監督ジョン・マドンはプライスにゲームを託す英断を下し、プライスはこの大事なゲームをひとりで投げ切ってしまった。この日のマドンとプライスには、さすがに脱帽した。


プライス好投の理由は、なんといってもテキサス打線にストライクゾーンで勝負し続けたことにあるし、しかも彼は安易にアウトローに球を集めるような、逃げのピッチングをしなかった。これが本当に素晴らしい。(詳しいことは下記に挙げたデータを見てもらいたい)

タンパベイの投手たち全体の配球が、「ストレート」と「チェンジアップを使った緩急」という共通のコンセプトを持っていること、そして、先発投手のほとんどがボールになる釣り球を多投するようなワンパターン配球に頼らず、ストライクゾーンで真っ向勝負してくる傾向にあることは、以下の2つの記事で書いた。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年7月29日、タンパベイとヤンキースのマイナーの差。イチローが投手の宝庫タンパベイ・レイズから打った4安打。

参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年8月1日、タンパベイ投手陣の共通した持ち球である「チェンジアップ」に狙いを絞って、ジェレミー・ヘリクソンを打ち崩したアリゾナ。粘りこめばストライク勝負してくれるタンパベイ投手陣。


2013年9月30日のデビッド・プライス

右打者への攻めをリストアップしてみた。(左打者についてはリンク先にデータがある)最も注目してほしいのは、図でいう「右下の部分」、つまり、右打者のアウトローにほとんどドットが無いことだ。
緑色の三角形のドットは「バッターが見逃して、ボールとコールされた球」を意味するが、アウトローにはドット自体ほとんどない。
また、アウトコースのボールになっている球は、その大半が、よくある「低め」ではなく、「高め」に投じられている。このことにも意味がある。というのは、対戦相手のテキサス打線のほぼ全員が「典型的なローボールヒッター」だからだ。デビッド・プライスは、コントロールミスした低めの球を強振されるようなイージーミスを犯さなかった。

2013年9月30日デビッド・プライス対右打者
2013年9月30日 TB vs TEX : BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps


以下に比較のために、ボストン戦におけるヤンキースの先発投手のデータを挙げる。すべて「右打者」に対してのものだ。(左打者へのデータはリンク先にある)
いかにボストン戦のヤンキース投手陣がアウトローに逃げる配球ばかりしているかがわかると思う。


比較1
2013年9月14日 NYY vs BOS
投手:サバシア
9被安打4四球、5失点。

最近のサバシアの勝負弱さは、上のプライスと比較するまでもない。ピンクの楕円で示した部分、つまり、図のアウトコース(=右の部分)と、低め(=下の部分)に、大量のボール球を示す緑色のドットがある。いかに球速の衰えたサバシアがボストンの右打者とマトモに勝負できていないか、ひとめでわかる。

2013年9月14日サバシア対右打者
2013年9月14日 NYY vs BOS : BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps


比較2
2013年8月18日 NYY vs BOS
投手:サバシア
7被安打5四球、6失点。

緑色のドットが、図の右と下に大きく分散して偏っている。配球が「右打者のアウトロー」に偏っていたことが、ひとめでわかる。これで5四球ではどうにもならない。
本来のサバシアの右バッターに対する配球のポイントは、インロー(=図でいう左下)へのカーブでストライクをとれるかどうかにあると思っているのだが、このデータを見る限り、インローにそこそこの数のボール球が、あるにはある。
おそらくは、インローに投げた変化球の多くが「垂れてしまって、コーナーに決めきれていない」あるいは「打者に簡単に見切られるほど、最初から軌道がボールに見えている」のだろうと思う。

2013年8月18日サバシア対BOS右打者
2013年8月18日 NYY vs BOS : BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps


比較3
2013年9月13日 NYY vs BOS
投手:黒田
8被安打2四球、5失点。

このゲームでの黒田は5失点しているが、2四球と、四球数自体は少ない。こういう黒田の登板について「少なくとも丁寧に投げていた」などという、わけのわからない評価を下す人がいたりするが、ブログ主はまったく同意しない。
見てのとおり、図の左側半分にドットがほとんどない。つまり、このゲームの黒田は「右打者のインコース」にほとんど投げていないのである。アウトコースオンリーの逃げの配球であることは、火をみるより明らか。これでバットコントロールのいいボストンの右打者が抑えられるなら誰も苦労しない。
こうしたデータが出現すること自体、珍しい。シーズン終盤に勝ち星がないのも当然だろう。

2013年9月13日黒田対BOS右打者
2013年9月13日 NYY vs BOS : BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps


damejima at 03:16

September 14, 2013

以下、9月13日ボストン戦の7回裏に浴びた決勝の満塁ホームランが、なぜ「ヤンキース自身がみずから招きよせた人災」であるかを説明するわけだが、その前に、このゲームが、なぜ4-4の同点で7回裏を迎えたのかについて、ひとこと書いておきたい。
New York Yankees at Boston Red Sox - September 13, 2013 | MLB.com Classic


そもそも今日のゲームが最初から0-4と劣勢にあったのは、初回に黒田が4点をとられたからだ。
言うまでもないが、「ポストシーズンを争うような、カネのかかったチームの、高額サラリーの主力投手」として、4失点は多すぎるし、そもそも大量失点イニングが早すぎる。この失点数と失点イニングは、「もし2回以降のイニングでちょっとでも失点を重ねれば、即座に交代させられても、投手側から何も文句は言えないほどのレベルの失態」を意味する。
だが、黒田が交代させられずに済んだのは、単に、野手ばかり補強している偏ったロスター構成のヤンキースでは、本来補強ポイントだったはずのブルペンの台所が常に苦しいために、たとえ「初回に4失点した先発投手」でさえ、1回裏ではやばやと交代させるわけにはいかない、それだけだ。


4失点を1点ずつ取り返していくのは、とても骨が折れる。タイムリーなんてものは、チャンスが数回あって、やっと1回出るのが普通だし、そもそもヤンキースはタイムリーが出やすいチーム構成にはなっていない。たとえソロ・ホームランが数発出て2点くらいはなんとかなるとしても、4点差を一気にひっくり返すようなビッグイニングを作るのは、先発投手がマウンドから降り、ゲームが切羽詰ったタイミングにしか起こらないことがほとんどだ。


よくメディア解説者でもファンでも、黒田について「粘りのピッチング」などと呼んで褒めちぎりたがる人がいるが、ブログ主は全くそう思わない。
理由は簡単。この投手が常に「先取点を許してしまう先発ピッチャー」だからだ。

資料:2013黒田 全登板 ©damejima
黒田が先取点をとられたゲームを青色のセルで示した。(4月8日クリーブランド戦含む。この試合では、1回表ヤンキースが3点先制したが、1回裏に3失点している) なお、赤色のセルは、ヤンキースが先制しながら、黒田が打たれて逆転負けした試合。
黒田登板ゲームの詳細data generated by Hiroki Kuroda 2013 Pitching Gamelogs - Baseball-Reference.com

「投球数が無駄に多すぎる」こと、「テンポが悪く、野手の守備時間が長くなりすぎる」こと、「配球のワンパターンさ」など、この投手を好きになれない理由は他にも多々あるが、最も評価を下げているのは、他のなにより「先取点を簡単に与えすぎること」だ。
例えばブログ主は、2013年7月には、このピッチャーを一度もけなさなかった。それは、よくいわれるこのピッチャーの「防御率の良さ」が理由ではなく、「先取点をやらない登板が何試合も続いた」からで、単にそれだけに過ぎない。(もちろん、基本的に投手として高評価することにしたわけではない)

ダルビッシュファンには申し訳ないが、強豪相手だと、たとえ先発投手が「わずか1失点」であっても負けるなんてことは、よくある。むしろ、それが「ポストシーズン進出を狙うチームの主力ローテーション投手」に課せられた「宿命」というものだし、そういう強豪相手のクロスゲームで先取点をやらないことが、優勝チームの投手としての「ノルマ」でもある。
そういう立場にある投手が達成すべき「仕事」とは、数字の上でクオリティ・スタートとなる試合を積み重ねるなどという「うわっつらな仕事」ではなく、文字通り、勝つこと、そのものだ。
テキサスにとってのオークランド戦、デトロイトにとってのクリーブランド戦、ヤンキースでいえば同地区の上位チームとのゲームすべて。そういう、勝ちにくいゲームでも勝ててこそ、はじめて「仕事した」「エース」という言葉が似合う。(もっとも、「クオリティスタートできたから、仕事している」などという、低レベルな目標しか持たない投手だとしたら、話は別だが)
だから、今日のボストン戦のような大事なゲームでこそ、「先取点を簡単に与えてはいけない」のだ。ランサポートの数字なんて、どうでもいい。
先取点を与えて負けてばかりいては、防御率がいくらよくても、その投手の勝ち数は伸びないし、チームの勝率は上がらない。球数が多すぎれば、イニングイーターにすらなれない。当然のことだ。防御率がいいのに負けてばかりいる投手には、ちゃんと説明のつく「理由」がある。

単年だろうが、なんだろうが、これだけの額のサラリーをもらっている先発投手は「先取点をやらないピッチングができて当たり前」だと思っている。(同じように、20億近くもらっているステロイダーのAロッドがほんのたまにホームラン打ったからって、別に褒める気になどならない。「仕事」して当然のプレーヤーだ)
誰かのピッチングを「我慢のきくピッチング」と呼びたいなら、「先取点を与えるのが普通な投手」ではダメだ。先取点と追加点を、ダラダラ、ダラダラと相手チームに与え続けるような先発投手が、「我慢のきくピッチャー」であるはずがない。


さて、7回裏。
先頭シェーン・ビクトリーノがヒットで出塁すると
ジラルディは問答無用に黒田を降板させた。

ジラルディはマウンドに行く前に既に投手交代を手で示し、またマウンドの黒田と視線を合わせることも、言葉をかけることもしなかった。
なぜかといえば、理由は簡単、7回表にとうとう同点に追いついたというのに、その直後の先頭バッターをノーアウトで塁に出してしまうような、だらしないピッチングをしたからだ。
ブログ主はジラルディの選手起用のスタイルが大嫌いだが、この場面でジラルディが怒るのは当然だ。この交代については黒田が悪い

だが、血が頭に上ったジラルディは、次の投手を誰にするか、という点で、ゲームを左右する大きなミスを犯した


次の投手は、新人シーザー・カブラル
デビット・オルティーズに死球をぶつけ、
わずか2球で降板。


2013年6月に上げてきたヴィダル・ヌーニョというヤンキースのマイナー上がりのピッチャーがいたが、あの投手がそうだったように、このシーザー・カブラルというピッチャーも、フォームがおかしい。いずれ、股関節か肘か、体のどこかに重い故障を発症して長期休養する羽目になるだろう。こんなフォームのままマウンドに上げるなんて、ヤンキースのにはロクなピッチングコーチがいないとみえる。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年6月13日、ヴィダル・ヌーニョの股関節の故障と、ピッチングフォームの関係。(クレイトン・カーショーとの比較)

この新人ピッチャーのコントロールが根本的に悪いことについては、こんなフォームに作り上げたマイナーのピッチングコーチのせいだろうが、そんなことより問題なのは、こんな経験のない新人投手を、これほどヘビーな場面でマウンドに上げてしまうジラルディであって、言うまでもなく、監督ジラルディに責任の全てがある。ジラルディは、この大事なゲームの、それも、同点になった直後のノーアウト1塁という場面を、なぜまた、こんな経験不足の新人にまかせようという気になったのか。


死球でノーアウト1,2塁になって、ジラルディは、投手をプレストン・クレイボーンに交代させた。
だが、前の投手がたった2球でマウンドを降りてしまい、心も肩も準備ができていないクレイボーンは、代打ジョニー・ゴームズを四球で歩かせてしまい、さらに満塁のピンチを招くことになる。


クリス・スチュアートというキャッチャーの配球発想は、どういうわけか、ダメ捕手城島や去年までヤンキースにいたラッセル・マーティンのような、「頭をまるで使わないタイプのキャッチャー」と酷似している。スチュアートはピンチになると、とたんに「アウトコース低めの変化球」ばかり投げさせたがるのである。
資料:Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。
このクリス・スチュアートがいまだにヤンキースの正捕手でいられるのは、彼が打てるからでも、リードがいいからでも、肩が強いからでも、相手チームの打者の特徴を研究しつくしているからでもない。そもそも「キャッチャー」というポジションが2013年開幕前の補強ポイントのひとつだったにもかかわらず、ヤンキースが補強しようとしなかった、だからスチュアートも使うしかない、ただそれだけだ。
誰も言わないが、今のヤンキースは、ア・リーグ有数の選手層の薄いチームだ。だから、クリス・スチュアートがマスクをかぶり続けて、クソつまらない配球をやり続けることについての責任は、スチュアート本人以外には、GMブライアン・キャッシュマンに責任がある。

ジョニー・ゴームズだけでなく、ボストンというチーム自体が、MLBで最も待球してくるチームであり、可能な限り「ボール球を振らない」ということが徹底教育されている。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年5月24日、「ボールを振らず、かつ、ストライクだけ振れるチーム」など、どこにも「存在しない」。ボールを振るチームはストライクも振り、ボールを振らないチームは、ストライクも振らない。ただそれだけの話。

だからこそ、ヤンキースの先発投手たちとクリス・スチュアートがよくやるような「ボールになるアウトコースの変化球を空振りさせる」などという紋切型のワンパターンな配球戦略は、ボストンのような待球型チームとの対戦においては、そもそも通用しないのが当然なわけだが、ヤンキースバッテリーが「ボストン相手にはストライクゾーンで勝負しなければ最初から勝負にならないこと」に気づいたためしがない。
2012年にあれだけラッセル・マーティンのアウトロー配球を批判したわけだが、その後もヤンキースはまるで変わっていない。

実際、この代打ゴームズにしても、投手クレイボーンが、捕手スチュアートのサインにまんま従って、何も考えず投げこんでくる「最初からボールになるとわかっている、流れ落ちる軌道をえがく変化球の釣り球」に、まったく釣られず、振ってこなかった。

2013年9月13日 ジョニー・ゴームズ四球


加えて言うと、先発の黒田登板時からだが、ボストンは、ヤンキースのピッチャーが投げる球種のうち、「ストレート系」にずっとヤマを張り続けてきていて、それが、このゲームにおけるボストン打線の基本傾向だった。
もっというと、ボストンのバッターには、ホワイトソックスやブルージェイズ、エンゼルス、アストロズなどの「フリースインガーがズラリと揃った非分析型のチーム」(ここにヤンキースも含まれる)のように、「アウトコース低めのボールになる変化球」で簡単に空振り三振してくれるような簡単な打者は、ほとんどいない。(だからこそ、ボストンが勝負強い打線になっているわけだ)

だからこそ、もし「四球の許されない」満塁というシチュエーションになれば、突然登板させられてコントロールの定まらないクレイボーンと、アウトローの変化球で逃げる配球しか能がないスチュアートのヤンキースバッテリーがやろうとしている「ボールになる変化球を、なんとか振ってもらえないだろうか?」などという「曖昧で、かつ、弱気な作戦」が簡単に破綻するのは目にみえていた。
ヤンキースバッテリーが、このあとどこかで変化球でカウントを悪くしてしまって、ストライクをとるために「ストレート」を投げてくることは、この代打ゴームズを四球で歩かせた時点で、ほとんど確定していたといっていいのである。


ダニエル・ナバ、無死満塁の場面
アウトコースのチェンジアップで三振。

前の打者、ジョニー・ゴームズをアウトコースに外れる変化球の連投で歩かせてしまったクセに、次のダニエル・ナバの打席で「アウトコースの大きく外れたチェンジアップ」がたまたま効いて、三振がとれてしまった。
このことで、明らかにヤンキースのキャッチャー、クリス・スチュアートは、非常に大きな「勘違い」をした
「ゴームズは歩かせてしまったが、それでも、アウトコースの変化球でかわしておけば、なんとかなるのではないか」と、「甘すぎる判断」をしたのである。次打者サルタラマキアに対する初球で、ナバの4球目、5球目に投げたのと、まったく同じコース、まったく同じ球種を、3連投してまで使ったのが、その動かぬ証拠だ。
そして、監督ジョー・ジラルディもまた、同じ「勘違い」をした。「クレイボーンの変化球でなんとかしのげるのではないか」と、甘い考えを抱いたのである。だからこそ、ジラルディはコントロールのあやしいクレイボーンを替えなかった。


次打者、ジャロッド・サルタラマキア


次打者サルタラマキアへの初球は、前の打者ダニエル・ナバが三振した球と、まったく同じコース、まったく同じ球種の「チェンジアップ」だ。この球で、クレイボーンは、3球続けて「外のチェンジアップ」を投げている。
だが、サルタラマキアはピクリとも動かなかった
この「初球のチェンジアップ」でサルタラマキアが微動だにしなかったことで、「サルタラマキアの狙いが、『ストレート』、それもインコースのストレートであること」は確定していた。(もちろん、フォアボールの許されないこの場面では、打者が誰であろうと、ストレート系を待つ場面であることは言うまでもない)

だが、みずから満塁のピンチをまねいてしまい、「ボールになる変化球をアウトコース低めに投げ続ける」という「能無し配球」すらできなくなったクレイボーンとスチュアートのバッテリーは、サルタラマキアの対応ぶりをまったく観察せず、単なるストライク欲しさで、まさにその「投げてはいけないストレート」を、よせばいいのに「投げてはいけないインコース低め」に投げてしまう


結果、満塁ホームラン。

付け加えておくと、サルタラマキアは典型的な「ローボールヒッター」なのである。

サルタラマキアの右投手に対するHot Zone
サルタラマキア HotZone
via Jarrod Saltalamacchia Hot Zones - ESPN

2013年9月13日 7回裏 サルタラマキア満塁ホームラン



どうだろう。
2013年にヤンキースが野球というものを舐めてかかってチームを作った結果の、ほとんど全てがここに凝縮して表現されているのが、おわかりだろう。
New York Yankees at Boston Red Sox - September 13, 2013 | MLB.com Classic

この満塁ホームランは、
偶然などではない。

damejima at 13:10

September 16, 2012

実は、このところヤンキースの試合を見ていなかった。
理由は、ヤンキースの「負け方のワンパターンさ」が性に合わないからだ。


7月末から見始めたヤンキース戦が面白くなくなってきた理由は、もちろんイチローがスタメン出場してない試合があるから、という、わかりやすい理由があるのもたしかだが、それ以上に大きいのは、今シーズンのヤンキースのゲームの中身が「勝つにしても負けるにしても、あまりにワンパターン」だからだ。

もちろん、ヤンキースはもともと大味な勝ち方をするチームではある。

だが、かつての強いヤンキース打線は、ホームランだけの打線ではなくて、案外四球とシングルヒットで繋げていく攻撃もできる「しつこい打線」でもあった。9月9日のボルチモア戦4回表にヒットと四球で延々と満塁をキープして4点をとったが、ああいう野球は、かつてのヤンキースの「おハコ」のひとつでもあった。
また、「ひたすら打ち勝っていくワイルドな野球」と、「ホームランは打つが、ワンパターンな負けばかりが増え続けていく弱い野球」とでは、まるで意味が違う。
策を尽くして負けるのはしょうがない。だが、負けがこむ理由というのは、たいていの場合「欠点に修正を加えるのが遅れること」からくる。何試合も同じパターンで負け続けるのは、弱いヤンキースだ。相手をきちんと研究しないで負け続ける「頭を使わない、雑な野球」を見させられ続けると、正直、飽きてくる。



もしいま、ヤンキースの負けパターンと勝ちパターンを短い言葉で表すなら、「3対6で負け、3対2で勝つ」、ということになる。(もちろん、なにも実際に3対6で負けてばかり、3対1で勝ってばかりなわけではない。あくまで、だいたい2対5とか、3対6で負けるとか、3対1、4対2で勝っているとか、そういう「たとえ話」だ)

ポイントのひとつは、長打を打ちまくって勝ってきたと「思われがち」なヤンキースの得点が、実は「常に3点どまり程度の攻撃力しかない」ということだ。
爆発的な得点力という「イメージ」をもたれやすいヤンキースだが、その得点力は「イメージ」よりもずっと低い。印象だけで語ってはいけない。得点力が思ったほど無いために、ヤンキースはいつのまにか「ゲームの勝ち負けは、投手、特にブルペン投手次第で決まる」という、なんともふぬけた消極的なチームになっている
今のヤンキースは、たまにホームランは打てるものの、逆に言えば、ただそれだけのことであり、投打の根本的なチカラに欠け、なおかつチグハグな、消極的チームだ。
ホームランなんてものは、思っているよりずっと出現率が低い。まして打率2割ちょっとの「低打率偽物スラッガー」を並べて、たまにホームランを打つのを待っているような消極的な野球ばかりしていたら、2位とのゲーム差が何十ゲームあろうと、追いつかれるに決まっている。
(いまのヤンキースと同じように、ホームランか四球かという単調で消極的なバッティングを推奨して得点力が著しく低いタンパベイが地区上位にぶら下がっていられたのは、単に投手陣が優秀だったからという、ただそれだけの理由)


ヤンキースの「負けパターン」

失点面

先発ピッチャーは、それがサバシアであれ、黒田であれ、6回または7回を「4失点」で終わる。
その後に出てくるコディ・エプリーがソロ・ホームランを打たれて、さらに1失点。次のイニングでジョバ・チェンバレンがさらに1失点して、ヤンキースの失点は、合計6になる。

黒田というピッチャーに、高評価を与える人は多い。
たぶん彼の防御率の低さを見て判断しているのだろうが、ブログ主は彼の防御率を信用してない。
黒田は長いイニングを投げられる、いわゆる「イニング・イーター」だから、防御率だけを見ると、実態より低めの数字が出やすい。
だが、「7回4失点」では、ヤンキースは現実のゲームで勝てないのだ。特にクロスゲームで、疲れの出てくる試合中盤に、不用意な失投による3点目、4点目の失点が痛すぎる。

サバシアも含めて、「7回4失点」の大投手に大金を払ってペイロールを窮屈にしたことで、結果的にブルペンや下位打線に予算をかけられず、質が下がるのは、今の「得点力がない上に、ブルペン投手陣が崩壊している、弱いヤンキース」には向かない選手構成だ。
これでは、ボルチモアのような新興チームに勝てない。
彼らのような若いチームは、若くて給料の安い先発投手たちが「5回3失点」くらいで短く登板を終えたとしても、打線の元気さとブルペンピッチャーの優秀さのために、ゲームには余裕で勝ててしまうからだ。

ヤンキースでは、7月から8月にかけて登板すれば必ず失点していた無能なブルペン投手、エプリーが9月半ばにようやくモップ(=敗戦処理)に回されたことで、9月の「ゲーム終盤に失点して、負けゲームを演出するピッチャー」はロバートソンに代わった。
負けは、サバシアや黒田など、先発投手につくこともあるが、ブルペン投手につくこともある。だから、いかにヤンキースのブルペンが崩壊しているかは、7月以降の負け投手を見てもわかる。
7月末にはエプリーが何度も負け投手になっていた。(7月20日オークランド戦、7月22日オークランド戦)それが、9月はロバートソンになっている。(9月3日タンパベイ戦、9月6日ボルチモア戦、9月11日ボストン戦
彼らが負け投手になったのは、どれもこれも地区優勝にかかわる重要なゲームばかりだ。

この2人のブルペン投手が「相手チームに狙い打ちされている理由」は、ハッキリしている。「球種の少なさ」だ。
エプリーは、「アウトコースにスライダーを投げるだけ」という、なんともワンパターンなピッチャーで、よくこの程度のピッチャーを優勝争いをしているシーズン終盤に使うもんだとしか思えないレベルの投手だ。打てないほうが、むしろどうかしている。
ロバートソンは、いい投手ではある。だが、残念なことに彼にはカットボールしか球種がない。ラッセル・マーティンと組めば、一定のコースにカットボールばかりが行くのだから、打たれないわけがない。
ヤンキースが悠然と走っていた首位の座を明け渡しかねない事態に陥った理由のひとつは、打てない上に単調で無策なバッティングと、ラッセル・マーティンの単調なリード以外にも、球種の少ない単調なブルペン投手に頼りきっていた投手起用のミスにも原因がある。


得点面

ヤンキースが、1試合で最低限期待できる基礎点」は、「2点」だ。子供でもわかる。(これがわからないでゲームを観ているやつは、単なる暇なアホだ)
ゲーム中盤に、グランダーソン(または他の誰か)のソロ・ホームラン。そしてジーターの放つタイムリー(またはソロ・ホームラン)。
毎試合期待できるのは、たったこれだけだ。あとは、グランディのソロ・ホームランが、四球のランナーのいる2ランになったりするだけの違いでしかない。

あと1点は、ゴニョゴニョっと生まれてくる。「その日かぎりの1点」だ。たいていの場合は、下位打線のヒット(または四球)、ジーターのシングルヒットで作ったチャンスを、2番か3番打者が、犠牲フライ or 内野ゴロ or ダブルプレーの間の得点か何かでランナーを帰す。(そうでなければグランダーソン以外の誰かのマグレっぽいソロ・ホームラン)
なんやかんやで、都合、3点。わかりやすい。

あまりニューヨークのメディアはハッキリ言わないように思うが、基本的に、今のヤンキースにおいては、「ホームランが打てること」と、「得点力の高さ」が混同されている、と思う。

いくらホームランが打てて、チームOPSが高いからといっても、チームは勝てるわけでもなければ、強いチームになれるわけでもない
いくらソロホームランを2本ばかり打とうが、負けるものは負ける。そして、負けたら、この大味なチームには意味がなくなる。言うまでもなく、9月に大事なことは「勝つこと」であって、勝てなければ、いくらソロ・ホームランを1本や2本打とうが、何の意味もない。
Damejima's HARDBALL:指標のデタラメさ(OPS、SLG、パークファクターなど)

結果
6対3で、ヤンキースの負け。



なぜヤンキースの負けゲームが、こうもワンパターンにになるのか。ヤンキースの「3対6 負けパターン」の理由を、以下に挙げてみた。

失点面

失点面の主原因は、ヤンキース・バッテリーが、「相手バッターの弱点を、ピッチャーの配球にほとんど反映していないこと」にある。
特にラッセル・マーティンは、相手バッターの得意・不得意にまるで関係なく、どんなバッターであっても、同じパターンの配球を投手に要求している。(特にランナーのいる場面の弱気さは酷い)
簡単にいえば、これは「頭を使わない野球」である。失点が防げるわけがない。

得点面

1試合に2本でるかどうかという、一部のバッターのホームランだけに頼り切った打線。いくらチームの総ホームラン数が多くても、今のヤンキースの得点力は、実は、かなり低い。


マーティンがキャッチャーのときの配球のワンパターンさについては、既に何度も書いている。
マーティンの配球は、明らかに「アウトコースに片寄り過ぎている」。特に、ランナーが出た後は、まず間違いなく、「アウトコースのスライダーの連投」に走る。これだけ打たれているのに、マーティンは自分の配球パターンの修正ができていない。(このところスチュアートの出番が増えてきているが、それはもちろん「いいこと」だ)

スカウティングの非常に発達しているMLBにおいては、ヤンキースがこんな単純な配球ばかりしていることに気がつかないチームは無い。今のヤンキースのピッチャーは、相手チームにとって「いいカモ」であり、「良いお客さん」だ。

ドジャース時代のイメージがあるせいか、マーティンは、正直もっと上手いキャッチャーだとばかり思いこんでいた。
だが、ヤンキース野球を1ヶ月ちょっとの間、ベッタリ見させてもらって、その先入観が完全に間違っていたことがわかった。「ラッセル・マーティンの考える配球パターンは、かつてのダメ捕手城島と同レベル」と公言して、さしつかえない。(おまけに、マーティンの出すダメ・サインに、ヤンキースの若くて自信の無いブルペンピッチャーたちは、ほとんど首を振らないときている。9月9日ボルチモア戦でチェンバレンが一度首を振って、打者のインコース攻めに転じて快投を見せたが、すぐ元のアウトコース連投パターンに戻してしまった。本当にもったいない)

たとえラッセル・マーティンのヤンキースバッテリーが、バッターをカウントで追い込んだとしても、カウント1-2から投げるコースも、球種も、だいたい事前に「アウトコースの釣り球の、ボールになるスライダーが来る」ことは、子供でもわかる。だから、バッターに余裕をもって釣り球を見逃される
いくら打者を追い込んでも、ストライクを投げず、ボールになる釣り球ばかり連投するから、バッターに見逃されれば、当然カウントは苦しくなる。
苦しくなれば、ストライクゾーン内に投げざるをえなくなって、おそるおそる球を置きにいったアウトコースのストレートやスライダーを狙い打ちされる。

ワンパターンも、いいところだ。

こんな配球じゃ、ピッチャーの球数がいたずらに増えるばかりで、まったく意味が無いし、ブルペンピッチャーに自信もつかない。

たとえ次にどんなボールが来るのか、ある程度わかっていたとしても、弱いチームの若いバッターなら打ち損じてくれることも少なくない。だが、強いチームの経験を積んだ主軸打者には、そうはいかない。相手チームの主軸バッターの打撃傾向をまったく把握せず配球しているとしか思えないゲームが多すぎる。

スカウティングに基づかない
ヤンキースの配球戦略の失敗例

・アウトコースばかり待っているのがわかりきっているホワイトソックス打線に対して、ケビン・ユーキリスアダム・ダンに、アウトコースの球ばかり投げて痛打される
Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。
・待球型チームの多いア・リーグ東地区で、唯一、早いカウントから打ってくることが通例のボルチモア打線に、早いカウントで勝負を仕掛ける(これも黒田投手の例で恐縮だが、彼は負けたボルチモア戦の試合後、「球数が少なかったのは良かった」などと間違った発言をしている。だがボルチモア戦に限っては、「球数が少ないことが良いこととは限らない」。認識が根本的に間違っている)
・得意コース、得意球種だけを狙って長打を打つが低打率のボルチモアのマーク・レイノルズに、得意の「インハイ」「ストレート」を連投
・チームが崩壊して、打てるバッターのいなくなったボストン戦で、唯一打たれそうなジャコビー・エルズベリーに勝負を挑んで、サヨナラ負け


マーク・レイノルズの例を挙げてみる。

彼が得意なのは、コースでは「高め」。球種ではなんといっても「ストレート」と「カーブ」だ。カーブのようなブレーキングボールを打つ技術は、ボルチモアで最も上手い。逆に苦手なのは、「低め」と、スライダー、チェンジアップといった、いわゆる「オフ・スピード」の球だ。
これらの条件を頭に入れて、ヤンキースのピッチャーがホームランを打たれ続けた配球が、いかに馬鹿馬鹿しいものだったか、データを追いかけて見てみるといいと思う。ここに挙げたのはほんの一例に過ぎない。
マーク・レイノルズにホームランを打たれ続けていた間、ヤンキースバッテリーがどういう配球をしていたか、レイノルズの得意コースや得意球種と照らし合わせれるだけでも、なぜあれほどホームランを打たれ続けたか、わかるはずだ。

2012マーク・レイノルズのホットゾーン
Mark Reynolds Hot Zone | Baltimore Orioles | Player Hot Zone | MLB Baseball | FOX Sports on MSN

ラッセル・マーティンは、普段あれほどワンパターンに「アウトコースの低めのスライダー連投」をやり続けているクセに、ホームラン連発されているマーク・レイノルズに限っては、彼の大得意な「インハイ ストレート」を投げ続けていたのだから、意味がわからない。

ホームラン時のレイノルズへの「インハイ
9月2日 5回表(投手:ヒューズ)
ホームラン時のレイノルズ(2012年9月2日5回表)
Baltimore Orioles at New York Yankees - September 2, 2012 | MLB.com Gameday

ホームラン時のレイノルズへの「インハイ ストレート連投
9月6日 6回裏 (投手:チェンバレン)
ホームラン時のレイノルズ(2012年9月6日6回裏)
New York Yankees at Baltimore Orioles - September 6, 2012 | MLB.com Classic

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凡退時のレイノルズへの「スライダー連投
9月9日4回裏(投手:チェンバレン)
凡退時のレイノルズ(2012年9月9日4回裏)
New York Yankees at Baltimore Orioles - September 9, 2012 | MLB.com Gameday


おまけ:バントについて

下位打線の誰かが、数少ないノーアウトのランナーとして出塁すると、9月に入って「上位打線にはビッグボール、下位打線にはスモールボール」という「風変わりな実験」をしている監督ジョー・ジラルディは、たとえイニングがゲーム序盤の3回であっても、「初球バント」をやらせたがる。

だが、ビッグボール推奨チームのバッターには、メンタルと技術面の両方で「準備」がされてない。だからたいていのバントは失敗する。
そこでジラルディはどうするかというと、常套手段として、「初球バント失敗の次の球は、ほぼ必ず、ヒッティングに切り替える」のだ。

だが、このバントパターンも、相手チームのバッテリーはとっくにスカウティング済みなのだ。

だから、相手チームの投手は、バント失敗の次の2球目には、ほぼ必ずといっていいほど、「大きく曲がるアウトコースの変化球」を投げてくる。
バントを失敗したバッターは、力んでしまって空振り。そして、追い込まれて凡退。

高校野球ではないのだから、1球ごとにサインを変えたりするような大雑把なことをしても、それが実行できるチームと、できないチームがある。ビッグボールのヤンキースは明らかに後者である。それは例えばイチローの技術うんぬんの問題ではない。チームがそもそも、そういうことをやる雰囲気にないイニングと雰囲気の中で、突然バントを実行させても、うまくいくわけがない。

1球ごとにサインを変えるのが、「細かい野球」、「スモールボール」なのではない。むしろ、突然そんなことをやり出すのは、単に窮地に追い込まれた焦りを、相手チームに悟られるだけでしかない。

damejima at 06:44

March 24, 2009

やれやれ。
日本はキューバ・韓国とゲームを繰り返している間に、いつのまにか決勝になってしまった。投打のバランスの普通にとれた中南米チームとの白熱の対戦など、もっと違うゲームバリエーションを見てみたかった。


今回のWBC、結局のところ、対応力の高い韓国に負けては、パターンを修正して、こんどはスカウティングをしないキューバに勝つ。これの繰り返しばかりだった気もする。
正直、見ていてパターンがわかりやすすぎて、多少飽きた。

決勝のポイントも、なぜ日本チームはキューバには完勝できて、宿敵韓国には何度もやられているのか、という点にある。
一般の野球ファンなら誰もが、キューバと韓国の差が、チーム力の差というより、「分析力」や「対応力」にあることはわかっているというのに、メディアのほうは、そんな基本事項にキチンと触れないまま決勝を煽っている。キューバ野球と韓国野球の質的な違いに言及しもしないでゲームを語って、何が面白いのだ。

決勝はお互いの分析力、即応力の勝負になる。キューバに欠けていて、韓国にあるのは「対戦相手を分析するチカラ、それと、分析に基づいてゲームの中で即応するチカラ」だが、それを上回るゲームを岩隈が作れるなら、日本が余裕で勝てるはずだ。


キューバは、試合相手をほとんどスカウティング(分析)しないらしい。そういう素朴な野球スピリットを指して、すべて間違いだとは言い切れない。むしろそれは野球の変わらぬ魅力のひとつでもある。。
ただ、そうはいっても、何の戦略もなしにやたらとバットを振り回してばかりでは、もはや現代野球では勝てなくなってきている。(アメリカにもキューバと似たような部分がある)
今の時代にしてはあまりに相手を研究しなさすぎるキューバ打線は、打線に「中南米系の選手+城島+セクソン」と、振り回すしか能ない打者ばかり並べ、負けに負け続けたシアトルマリナーズ打線のようなものだ。

熱心な野球ファンで知られるキューバのカストロ氏も、キューバの歴史的な敗戦の重さについて「(今後は)より技術的、科学的な方法を適用しなければならない」と、さすがに自国チームの戦略の旧式さ、古臭さを認めている。
【WBC】キューバのカストロ前議長「敗戦から教訓を」
http://sankei.jp.msn.com/sports/mlb/090320/mlb0903201748013-n1.htm

日本戦でのキューバ打線は、何度も何度も同じパターンで凡退し続けてくれた。岩隈の投げたキューバ戦などは、決め球のフォークとシュートを温存して、カーブ、チェンジアップ、スライダーの組み合わせだけで打線をかわすことができたほどだ。
さすがに試合後半には、松阪がヒットを打たれた球種を調べてみればわかるが、キューバ打者もスライダー系を狙い打ちしてきたが、チーム全体で徹底されていたとは言いがたい。そのため打線全体の迫力がなく、連打での得点など期待できるわけがなかった。


だが、韓国は違う。
ねちっこく相手チームの戦略や特徴を分析しつつゲームを進めてくる。

例えば日本が対戦した試合でも、中軸打者は一度は打ち取られてくれても、どこかで対応してくる。同じ球種の連投にその場で対応してきたり(例 3月9日に岩隈が決勝タイムリーを打たれたシュート連投)、2巡目から順応してきたり(例 3月9日に岩隈が決勝タイムリーを打たれた4回表の2人のランナー)、現状のキューバにはない順応力がある。これが打率の低さを補っている。

負けた韓国戦
3月7日 松阪● スライダー系にコントロールのつかない、いわゆる「悪い松阪」。組み立てに煮詰まった城島が苦し紛れにカットボールを要求し、ホームラン浴びて敗戦。古田氏、野村氏が城島を批判。
3月9日 岩隈● 2巡目からボールを見極められた。4回にランナーを貯められ、シュート連投。3塁線に決勝タイムリー浴びる。
3月17日 ダルビッシュ● 初回ランナーが出た場面で、同じコースにスライダー連投で、3失点。城島退場事件。

完勝したキューバ戦
3月16日 松阪○ スライダー系に制球が戻った「いい松坂」。「球を散らした」(松坂談)
3月19日 岩隈○ 2巡目から組み立てをカーブ主体に切り変えつつ、決め球フォークを温存。4回の2死1,3塁ではフォークを3連投、三振に打ち取った。


そんなキューバ・韓国のチームカラーの違いをアタマに入れた上で、あらためて岩隈先発の韓国戦・キューバ戦を比較してみるとどうだろう。
3月9日 岩隈● 2巡目からボールを見極められた。4回にランナーを貯められ、シュート連投。3塁線に決勝タイムリー浴びる。
3月19日 岩隈○ 2巡目から組み立てをカーブ主体に切り変えつつ、決め球フォーク、シュートを温存。4回の2死1,3塁ではフォークを3連投、三振に打ち取った。

韓国戦で打たれた決勝タイムリーは、「シュート」連投。そしてキューバ戦2巡目の2死1,3塁では「フォーク」連投。どちらのゲームもイニングは4回で、つまり打者2巡目のピンチで決め球を連投している点が共通している

0-1で負けた試合の韓国の4番は岩隈のシュート連投を打ち返してきたが、キューバ戦4回の1.3塁でキューバの7番はワンバウンドのフォークを空振りしてくれた。この差が最初に言ったキューバと韓国の「分析力・対応力の差」である。

何が言いたいか、もうおわかりだろう。
2つのゲームで、岩隈自身のピンチでの投球術は特に変わってはいないのである。

松阪の場合は、韓国戦で打たれた後、スライダーのコントロール精度を上げつつシュートを混ぜ、投球内容に手を加えてその後のゲームに臨んでいるわけで、岩隈と同じではない。
岩隈の韓国戦のシュート連投は打たれたから批判して、キューバ戦のフォーク連投は勝ったから批判しないのでは筋が通らない。フォークが打たれないのは、ひとえに岩隈のフォークのコントロールがズバ抜けているからに過ぎない。


だから決勝を見る上で、岩隈の投球術そのものが過去2試合で大きく変わっていたわけではないことをアタマに入れておく必要がある。
2ストライク以降の要所でのシュート、さらにピンチではフォーク連投もいとわない岩隈の必勝パターンが。このまま「不動の必勝パターン」で終わることができるのか、それとも、打率も防御率もたいしたことがないのに決勝まで来た韓国の「対応力」がそれを上回るのか。

以前にも言ったことだが、今の岩隈の絶対的な決め球は韓国戦で多用したシュートでなく、キューバ戦で多用したフォーク(アメリカ風に言うならスプリッター)のほうである。岩隈本人もアメリカ戦後に「フォークには自信がある」と明言している。自信があるから、ランナーがいてもパスボールを怖れることなく、平気でフォークを投げられる。

アメリカ戦終盤、馬原がフォークのスッポ抜けをタイムリーされて2点差まで詰め寄られたが、捕手は馬原と岩隈のフォークには差があることを考慮せずにピンチでバカのひとつ覚えのようにフォークを要求すればいいわけではない。
岩隈の場合はストライクになるフォークと、ボールになるフォークを投げ分けられるほど、フォークのコントロールがいい。馬原のフォークとはレベルに差があるのである。
相手打線は縦の変化に弱い、だから要所でフォークを使えばいい、その程度のリードでは単に絵に書いた餅であり、記録に現れないミスどころか、馬原が2点差に詰め寄られた後の追加点がなかったら、この試合、どうなっていたかわからない。

試合観戦中の追記
3回裏
無死1,2塁、城島はバントを2度失敗。その後サードゴロで二塁封殺。飛んだコースが野手正面なら当然ダブルプレーを食っていた。

4回裏
ちょうど予想どおりのシチュエーションが来た。2死1塁で韓国4番。スライダー スライダー フォーク 直球 フォーク インコースの抜けたストレート。最後の球は本来ならシュートかもしれないが、抜けた球がフラフラとインコースに来たのをレフトフライ。これは明らかに打った側の打ち損じ。うっかりするとホームランだった。これが後々にどう影響するか。打ち取ったと勘違いした判断をすると怪我をする
5回表
ノーアウト1,3塁、城島、外角スライダーを空振り三振。
5回裏
スライダーでカウントをとりにいったところをホームランされた。次打者も内川のファインプレーでセカンドでアウトにはできたが、やはりスライダーを狙い打たれてヒットされている。これが韓国の「対応力」というやつ。試合中盤以降にカウントをとるスライダーに狙いを絞ってくるにしても、キューバは打てないが、韓国は打ってくる。本来ならこのイニングから組み立てを変えているべきだっただろう。
6回裏
打たれた「後」で組み立てを変えてくる、いつもの城島。シュートを多用しはじめた。1イニング遅い。ここからはランナーが出たケースとクリンアップには、シュート、フォークを投げることになる。
7回表
1死1,3塁、城島、フォークをサードゴロ併殺。
8回裏
先頭打者にスライダーを打たれ、無死二塁。1死三塁となって、代打イ・デホに初球のスライダーを狙い打たれて大きなセンター犠牲フライ。1点差に詰め寄られる。
9回表
1死1,2塁、城島センターへの浅いフライ。ランナーは釘付け。ここまで日本ヒット12本、韓国4本。それで3-2なのだから、点の入らない原因は4番城島。
9回裏
スライダーの多投をダルビッシュに要求してはいけないのである。何度も書いたことだ。
そして狙い打たれてタイムリーだ。
言わぬことではない。これでわかったろう?城島は馬鹿だ。
打たれたらいつものようにさっそくストレート主体に切り替えとは。やれやれ。城島。
10回表
2死満塁、城島見逃しの三振。

優勝おめでとう!





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