「サンデー・フェリックス」byアーズマ

2009年8月5日、デイビッド・アーズマ流クローザー術の真髄、「4者凡退」を考える。
2009年7月21日、監督ワカマツはオルソン・城島バッテリーについて、5月24日のアーズマ「サンデー・フェリックス」発言と全く同じく、「窮屈さ」を叱責した。(監督ワカマツの性格分析つき)
7月9日、城島の呪縛から解き放たれオールスター出場直前のヘルナンデスは8回QS、5連勝で9勝目。グティエレスの逆転3ランで獣のごとく吼えた。(「二度のテストに失敗した城島」長文)
2009年6月11日、オルソンの神経質なピッチングを通じて、城島の「コーナーをつきたがる配球の欠陥」を考える。
2009年5月24日、デイビッド・アーズマが「ヘルナンデスがロブ・ジョンソンと組むゲームと、城島と組むゲームの大きな違い」を初めて証言した。

August 06, 2009

ネット上の日本のシアトルファンは、シアトルのクローザー、デイビッド・アーズマの9回のピッチングを称して「4者凡退」という言葉をよく使う。3者凡退ではなく、必ず1人ランナーを出して凡退になる、という意味だ。
この「4者凡退」という言葉は、毎日のようにシアトルのゲームを見ているネット住人が「アーズマはクローザーとしてなかなか優秀だ。なのに、なぜか3者凡退にはならないことが多い」こと、アーズマのピッチングに感じるこの不思議さを、自分たちなりの言葉で直感的に表現したものだ。

そして、この「4者凡退」という言葉、実はクローザーとしてのアーズマのピッチングの真髄、中心を射抜いている。

ネットの住人をよく小馬鹿にしたりする人がいまだにいなくならないが、人の「直感力」を侮ってはいけない。アーズマに関しては、コネ捕手城島より、よほどネット住人のほうが、臨時クローザーとして出発したアーズマの苦心して編み出した「アーズマ流クローザー術」をわかっている。

とにかく、デイビッド・アーズマはユニークな投手である。
そしてそのユニークさは、「4者凡退」という言葉で、ある意味、言い尽くされている。



彼が2009年に「4者凡退」という「アーズマ流クローザー術」を編み出す必要があった理由については、彼の「経歴」「データ」、この2つを見ておく必要があると思う。

まずは経歴。
アーズマはメジャーでのクローザー歴が無いために、よくクローザー経験が全くないように思っている人がいる。たしかにシアトルでのクローザー就任も、「ほかにいなかったから」という、どうにも消極的な理由だった。
だが、彼は大学時代にはカレッジ屈指のクローザーで、テキサス州ヒューストンにありノーベル賞学者を3人も出した名門ライス大学で、クローザーとして同校のセーブ数シーズン記録と通算記録の両方を塗り替え、カレッジ・ワールド・シリーズで優勝もしている。

アーズマが1巡目指名のジャイアンツからメジャーデビューしたのは2004年4月6日のミニッツ・メイド・パーク。3Aを経由しもしないでいきなりメジャーデビューしている。しかも、大学時代を過ごしたテキサスでのデビューだ。
リリーフとはいえ、ルーキーがいきなり開幕ロスター入り、9月とかではなく4月の登板、大学時代の地元でのデビュー、しかも2イニングをまかせてもらったのだから、当時のアーズマに対するチームの期待の異常な高さがよくわかる。(最近シアトルとマイナー契約したチャド・コルデロなども、カレッジ・ワールドシリーズを経て1巡目指名後、いきなりメジャーデビューしているが、彼でも8月末デビューで、アーズマのような4月デビューではない)

だが、その登板の結果と、その後の経歴はパッとしなかった。デビュー戦の2イニングは、3安打1四球無失点、無難にこなしたんだか、なんなんだか、よくわからないデビューぶり。その後のメジャーでの評価がさえないまま、彼はチームを転々とする「ジャーニー・マン」になった。


だがブログ主としては、結局この「2イニングを3安打1四球ながら無失点」というデビュー戦の苦さの意味を、アーズマ自身が年月をかけて考えぬいたことが、2009年の成果につながっていると思う。
ちょっとこんどはデータから見てみたい。

MLB Baseball Pitching Statistics and League Leaders - Major League Baseball - ESPN

THT Individual Pitching - Major League Baseball Statistics

(以下のデータは8月4日現在)

アーズマのデータ的なユニークさはたくさんある。
三振がとれる能力は十二分にある。だが、それ以上に四球も出す。だが、ここが肝心な点だが「それでも失点はしない」
そういう不思議なクローザー、それがアーズマ。

彼はとにかくホームランを浴びない。50イニング程度の投手では、ア・リーグトップクラスのHR/9(被ホームラン率)0.19だ。WHIPも、1.15で、リーグの20位くらいにつけていて、ここも肝心な点だが、ランナーは出るには出るが、ホームには帰さない。(だから「4者凡退」なのだ)またチーム内でも三振が最もとれる投手のひとりで、K/9(三振率)はヘルナンデスを越え、チームトップの10.55。

LOB% 残塁率
アーズマ  82.1
岡島    82.6
シェリル  84.8
ネイサン  86.1
リベラ   86.2
パペルボン 90.4

三振のとれるアーズマだが、欠点もある。ひさびさのクローザー業を始めたとき、彼がその欠点をどう乗り越えようとしたか。それが、アーズマ独特の「4者凡退ピッチング」という彼のスタイルにつながっている。

彼はWHIPはいいが、クローザーにしては四球が多い。四球連発のあとの長打で大量失点する印象の強いバティスタやモローと、四球率がたいして違わないくらいなのだ。
(ちなみにシアトルで四球率が最もいいのは一時クローザーもやっていたケリーと、移籍してしまったウオッシュバーン。打たせてとるウオッシュバーンらしい話。ケリーはK/BBも3.00とシアトルではヘルナンデスに次いで2番目。本来クローザー向きなのはケリーかもしれないが、DL後はどうもパッとしない)

K/BB(三振÷四球)で、今シーズンのア・リーグのブルペン投手を思いつきで並べてみた。
リベラ    8.33 NYY
ネイサン   5.78 MIN
オデイ    4.38 TEX
フランシスコ 4.25 TEX
ジェンクス  3.70 CWS
ダウンズ   3.60 TOR
シェリル   3.00 BAL
フエンテス  2.85 LAA
岡島     2.56 BOS
パペルボン  2.40 BOS
マーク・ロウ 2.15 SEA
アーズマ   2.11 SEA
松坂     1.89 BOS

アーズマは三振もとれるが四球も出やすい。リベラは三振がとれて、四球も出さない。いわゆる絶対的クローザーというやつだ。スタイルが違う。
松坂はブルペン投手ではないが、比較のために入れてみた(笑)。当然ながら先発にしては、K/BBが酷い。シアトルのマーク・ロウにも同じ傾向がある。と、いうか、シアトルのブルペン全体に「三振をとりたがるクセに、四球だらけで、K/BBがよくない」という傾向がある。この点についての城島の責任は重い。


さて、こうした特徴をもつデイビッド・アーズマだが、なぜ彼は「4者凡退ピッチングというクローザー術」に辿りついたのか。ブログ主は次のように考えてみた。


アーズマは、メジャーデビューであまりにも大きな期待をかけられながらジャーニーマンになってしまい、眠れぬ夜を何度も過ごした。シアトルに流れ着いた彼は、成り行きから大学時代以来久々のクローザーにトライする。いくら経験があっても、それは大学の話だし、アーズマもに自分の限られた投手能力の生かし方についていろいろ考えたことだろう。

その結果、ある対処法を考えたのではないか。

それは、ひとことでいうなら
「無理しない」ということなのだと思う。
自分はリベラやネイサンのような絶対的なタイプではない。だが「慎重に」「自分らしく」、そして「無理しない」なら、なんとかなる。それが、2009年にアーズマができた「気持ちの切り替え」なのではないか。

今の彼のクローザーという仕事に対する考え方の基本はおそらく、「とにかく失点をしないこと」そして「その方法にはこだわらないこと」にあると思う。そのために彼はかつての見栄や意地を捨てた。

ホームランについてアーズマは、常に大変な警戒をしている。警戒心によって四球を出すこともある。
だが、それについて彼はたぶん「コーナーだけに投げ続けるような窮屈な攻めをして、長打されたくはない。むしろ、長打が防げるなら四球はしかたがない、という割り切りも必要。だが、そのあとは完全に抑えなければ。いざとなれば自分は三振をとれる自信もあるから、大丈夫。」
そんなふうに考えているのではないだろうか。

三振についてだが、アーズマの基本的な考えは「いくら能力があっても、無理に三振をとりにいく必要などない。」と考えているのではないかと思う。必要なら三振をとる能力は、彼には十二分に備わっている。
だが、ここが肝心な点だが、「無理しない」「窮屈なシチュエーション、投球術に自分を追い込まない」。それが彼の発見した「4者凡退」スタイルだと思う。


同じ四球でも、「ホームランを警戒しつつ、十分に自分をコントロールしながら、自分の気持ちと能力の『ゆとり』の範囲内で出す四球」と、「コーナーだけを攻めようとして、コントロールを気にしすぎて窮屈になり、連発してしまう四球」とでは、たいへんな違いがある。
前者がアーズマのたどりついた「4者凡退スタイル」なら、後者は、かつてアーズマが指摘した「城島の窮屈すぎるリード」のスタイルである。

8月4日のカンザスシティ戦で、最終回に四球を連発したアーズマが苦虫を噛み潰した顔をしてみせたのも、キャッチャー城島との、あまりのスタイルの違い、自分が苦労して辿りついたスタイルについての、城島のあまりの無理解、そこに原因がある。






damejima at 09:05

July 24, 2009

バークのけなげな努力と、バルガスのプライドのかかった「キロス問題」などもそうだったのだが、だいぶ過去に遡って話を追いかけてきてもらわないと、話についてこれない。
ここでは城島やオルソンのピッチングの姿勢の「窮屈さ」の顛末をひとまずまとめておくので、たいへん恐縮な話だが、興味があれば順番に読んでいって頭に入れて理解してもらえるとありがたい。
アーズマの指摘する「5月初旬に連敗したヘルナンデスの『窮屈さ』」、ワカマツの叱責する「オルソンの窮屈さ」について、理解がさらに深まるのではないかと思うし、なにより、メジャーの投手たちが城島をキャッチャーにマウンドに上がって窮屈な思いをしたくないという精神的な部分を理解できる資料にもなるのではないかと思う。


第1の資料
アーズマの「サンデー・フェリックス」発言

これは城島の1回目のDLのおかげで4月末には地区首位に立ったシアトルが、5月に城島が先発に戻って逆V字の下降線を辿った頃の話。あやうく月間20敗しかかり、今でこそロブ・ジョンソンとのバッテリーでサイ・ヤング賞に向かってひた走る好調のフェリックス・ヘルナンデスでさえ、当時は城島とバッテリーを組まされ3連敗した(5月4日、9日、19日)。
その城島とのバッテリーに見切りをつける寸前のヘルナンデスが、ロブ・ジョンソンとバッテリーを組んだのは5月24日。すると、8回自責点1と、QSを達成しつつ、のびのびと投げて、あっさり勝利を手にした。
その同じゲームで最終回を締め、セーブを稼いだクローザーのデイビッド・アーズマが「5月中旬までの悪いときのヘルナンデス(つまり城島と組んだヘルナンデス)と、とても良くなったヘルナンデスの『違い』」についてインタビューに答えたのを、シアトル・タイムズのスティーブ・ケリーがまとめたのである。
原文の要点は「悪いときのヘルナンデスは『コーナーをつこう』『コーナーに球を集めよう』とばかりしていて、彼本来の良さをなくしていた」という感じの話だ。全文は元記事に訳をのせ、リンクも張ってある。全文をここで挙げるわけにもいかないので、詳細は原文をあたられたい。

"I think in his last couple of outings he was trying to pitch around guys a little bit more. Trying to throw stuff on the corners.(後略)
「僕が思うに、最近数試合の登板で彼はね、もっとストライクゾーンギリギリに投げよう、投げようとしていた。球種をコーナーに集めようとも試みていた。」
Steve Kelley | Mariners need more of Sunday's Felix Hernandez | Seattle Times Newspaper

2009年5月24日、デイビッド・アーズマが「ヘルナンデスがロブ・ジョンソンと組むゲームと、城島と組むゲームの大きな違い」を初めて証言した。



第2の資料
オルソンの神経質さについて指摘した当ブログの記事

2009年6月11日、オルソンの神経質なピッチングを通じて、城島の「コーナーをつきたがる配球の欠陥」を考える。

細部は上の元記事を読んでもらいたい。この記事で指摘した要点は「オルソンという投手は『ものすごくコーナーをつきたがる投手』なのだ」ということ。
そして、よく知られているように、オルソンの神経質さに輪をかけたような城島のリードは、特にランナーを出した直後はそうだが、コーナーにボールを集めたがるわけで、この似たもの同士のバッテリーが組まれる無意味さも、指摘したかったことのひとつだ。出来損ないのバッテリーのダメさ加減を考える上で、「神経質さ」は重要なポイントのひとつなのだ。

オルソンは6月11日のゲームで打率2割しかない8番打者にフォアボールを与えて自滅したわけだが、この打席の配球はまるで稀代のホームランバッターにするような、コーナーいっぱいのみを狙う配球だった。つまり、打率2割の8番打者への配球にしては狙いが窮屈すぎ、こういう窮屈さなが、かえって四球を増やしてしまうことを、この第2の資料では指摘した。
アーズマが「資料1」で指摘している「窮屈なピッチング」の典型的パターンと全く同じであり、まさに城島が先発マスクをかぶるゲームの大きな欠陥のひとつでもある。

資料2の元記事でも指摘したことを、あえてあらためて同じ指摘をしておくと、「コーナーをついているから間違ってない」というのは、プロでは必ずしも正しくない。ピッチャーの仕事は「アウトをとること」であり、「コーナーをつくかどうか」は方法論であって、それ自身は目的ではない。「ド真ん中をいきなり突いて三振」だって、別になんの問題もない。「コーナーをつかないとアウトがとれない」と、あまりにも窮屈に思い込んでいて、かえって四球を連発したり、相手打者に狙い球を絞られたりするのでは、先発バッテリーとしては長いイニングをこなせない。


第3の資料
7月16日のオルソンのピッチングについてのワカマツの指摘


ワカマツ、という人は、見た目、たいへん柔和に見える。だが、バルガスの「キロス問題」でもそうだったのだが、投手の失敗については「これこれがよくなかった」と容赦ない明快な指摘と叱責をする。そして、過去に自分が指摘したポイントについては、けして忘れないで、何度でも指摘する。だが、きつい叱責をするものの、チャンスをすぐに奪うような浅はかな真似はしない。かといって、何度か同じ失敗を繰り返して改善がみられないとわかると、容赦なくポジションをはずされる。

オールスター直後の7月16日のゲームでのオルソンのピッチングの失敗について、監督ワカマツは2つの指摘をしている。

1つ目の指摘は、まず「テンポの無さ」。
7月16日の試合終了直後にアップしたこのブログの記事で「テンポの無さ」について触れておいたが、数時間して出てきた監督ワカマツのインタビューでも全く同じ感想が述べられていて、「やはりな。そりゃそうだ」と思ったのを覚えている。この「テンポの無さを指摘するワカマツ」については、公式サイト、Mariners Insiderで、ほぼ同じ内容のインタビュー記事がある。
2009年7月16日、城島は試合序盤、投手オルソン、ジャクバスカスがモーションに入ってもミットを構えず、ゲームのリズムを壊した。(サイ・ヤング投手クリフ・リーがなぜショパックを指名捕手にしたか 解説つき)
Mariners Insider | The News Tribune | Tacoma, WA

2つ目の指摘は、「コーナーをつこうとしすぎることの無意味さ」だ。
この点が資料1と資料2で言う、「ピッチングの窮屈さ」に通じるわけだ。これついてのワカマツ発言は、どういうものか公式サイトの記事は、紙幅の制約のためか、触れておらず、Mariners Insiderだけが掲載している。奇しくもアーズマの「サンデー・フェリックス発言」と同じような内容を、ワカマツがオルソンのピッチングについて非常に強く指摘しているのが面白い。

もちろん「投球テンポ」、「コーナーをつくピッチング」、そのいずれも投手だけの所業ではなく、投手と捕手との共同作業であるのは言うまでもない。監督ワカマツのオルソンに対する2つの苛立ちは、暗に(というか、結果的に正捕手をはずされたことからも、明らかに)捕手城島にも向けられていた、と当ブログでは考える。

"I think we've talked all year long the importance of the starting pitcher establishing a tempo," Wakamatsu said. "I think it was two-fold. No.1, I didn't think Olson came out and had much of a feel. I thought he pitched a little defensively and his tempo was poor."
「先発投手が試合のテンポを確立することの大事さは、このシーズン中、ずっと話してきたことだ。」とワカマツ。「二つあると思う。まず第一には、オルソンは序盤からして、思い切りのいい雰囲気があるようには見えなかった。ピッチングが守りに入ってしまっていて、テンポが酷かった。」
ブログ注:come out and do 思い切って〜する

Wakamatsu said Olson was being defensive and trying to be too perfect.
"That's where we talk about sometimes guys want to be too perfect," Wakamatsu said. "We talked about it after the first inning. I said you don't have to be too perfect out there. It's not for lack of care or anything else. It's probably caring too much. I think he put a lot of emphasis on him being outstanding today, instead of going out and doing like he does out of the bullpen. At least he's done such a tremendous job. I saw a little different body language and maybe trying to carry a club out there the first two innings."

オルソンは守りに入って、パーフェクトに投げようとしすぎていたとワカマツは言う。
「時としてあまりにパーフェクトにピッチングしようとしすぎる、そんな会話をしたんだ。」とワカマツ。「話をしたのは、初回が終ったあと。あまりにもパーフェクトに投げようとしなくていいよ、とね。注意が足りないとか、そういうんじゃなく、たぶん色々なことを気にしすぎなんだ。ブルペン投手当時のようにマウンドに上がって投げるかわりに、自分が傑出した結果を残すことに重きを置きすぎたと思う。少なくともこれまでは素晴らしい仕事をしてきてくれた。最初の2イニングなんか、仕草からしてちょっと少し違って見えた。一人でチームを支えるつもりになっていたのかもしれない。」

(中略)

"It seems to be like I was trying to make good pitches out there instead of letting it just go through the zone like I have been doing most of the season," Olson said.
「シーズンの大半そうしてきたように、ゾーンにガンガン行って切り抜けていけばいいだけなのに、そうするかわりに、いい球を投げよう投げようと思ってしまっていたかもしれない」とオルソンは言った。


第4の資料
7月21日のオルソンについてのワカマツの指摘と
オルソンのマイナー落ち


7月21日の登板の失敗で、オルソンの先発投手としての仕事を失うことになった。
下記の記事で、ワカマツは「前にも言ったことだが」と話しているが、この「前にも話したことだが」「シーズン中何度も話したことだが」というフレーズを彼ワカマツが使うときには、バルガスの場合がそうだったように、ある意味で、往々にして「堪忍袋」は完全にブチ切れているのである。
彼は常に「話し合って改善が必要だとなったら、改善すべき義務が生じる」「何度かチャンスを与えられて改善できないプレーヤーには、チャンスを剥奪されてもしかたない」、そんな行動原則がある。
Mariners Blog | Looks like the Mariners need a fifth AND fourth starter | Seattle Times Newspaper

"It's what we talked about before, similar to his last start, a lot of it is not so much the stuff, but not being aggressive and attacking the hitters, and trying to be too perfect. I thought the walks, falling behind and having to give in, cost him.
「前にも話したことだし、この前の登板とそっくりだ。球数が多すぎる。積極性がなく、打者を攻めきれてない。パーフェクトに投げようとしすぎている。四球はね、遅れをとり、相手に屈服せざるをえなくなる。彼にとっては高くつくんだよ。」

まさにチャンスを貰っていながら気がつかないことは、高くつく。
思えばキロスにも名を上げてメジャーに残れるチャンスがあった。ベタンコートにもシアトルに残れるチャンスがあった。城島にも、オルソンにも、あった。
だが、キロスはDFA。ベタンコートはトレード。城島は正捕手ではなくなり、オルソンはマイナーに送られる。チャンスを与えられているが、永遠には与えられないということを忘れたプレーヤーたちの顛末である。






damejima at 01:52

July 12, 2009

イッツ・ショウタイム。


打線は2番ブラニヤンのバットが湿ってきたことでかなり微妙なものになりつつあるが、かわりに好調な伊達男グティエレスの一発で、首位テキサスとの4連戦の初戦をモノにできた。7月8日の逆転負けで傷心のクローザー、アーズマも9回に3人で抑え、今年一度も勝てなかったテキサスに、ようやく初勝利である。

7月6日に強豪とのきつい9連戦ロード(これは後で書くが、城島にとっては「ラスト・チャンス」だったようだが)からセーフコに帰ってきて以降、捕手としての立場を確立しはじめたロブ・ジョンソンのゲームは、6日のウオッシュバーンの準完全試合といい、ドラマチックな出来事が沢山起きるので見ていて飽きない。
この日のゲームも、語らなければならないことが多すぎるので、なかなか書けないでいた。たぶん暇なときにまた書き加えることになると思う。ご容赦願いたい。
Texas vs. Seattle - July 9, 2009 | MLB.com: Gameday

マイケル・ヤングの盗塁を阻止するロブ・ジョンソン
Baseball Video Highlights & Clips | TEX@SEA: Johnson makes heads-up play to get the out - Video | MLB.com: Multimedia


この日の主役はもちろん、6月のア・リーグ最優秀投手に選ばれオールスター初出場を目前に控えたフェリックス・ヘルナンデスだ。

打線がなかなか点がとれない一方、フェリックスは8回表まで1失点で投げきった。直後、先頭イチローが2ベースを打ちチャンスが巡ってきたが、ここでもブラニヤン、ロペスと倒れてランナーを進塁させることすらできない。「とても見てられないよ」とばかりにタオルを顔にかけ、ベンチで顔を覆って天を向くフェリックス。
その彼が突然跳ね起きたのは、2死でボックスに入ったグティエレスのバットの快音。右打者殺しのセーフコの左中間だが、一番深いところに放り込んだ。
吼えまくるフェリックスは動画にしっかりと残っている。何度でも好きなだけ見るといいと思う。ブログ主も20回以上見ているし、今も書きながら見ている(笑)何度見ても、この日のフェリックスの咆哮は最高だ。
これこそベースボール。これこそ野球というものの楽しみだ。

Baseball Video Highlights & Clips | TEX@SEA: Gutierrez's three-run shot puts Seattle up - Video | MLB.com: Multimedia


この日のフェリックスは、ロブ・ジョンソンのサインにクビを振って変化球を投げるシーンが印象的だった。打者にしてみれば、先発投手が強気な速球派とくれば、「クビを振る=ストレート」と想像するものだ。
だが、この日フェリックスは首を振り、(ロブ・ジョンソンのサインがストレートだったかどうかは定かではない)変化球、キレキレのシンカーを投げた。
かつてはよく城島と気が合わないフェリックスが、ストレートを投げたい場面で、例のワンパターンなリードで無理にでも外角低めに変化球を投げさせようとする城島のサインとぶつかって、下手をするとマウンドで喧嘩になるほど気持ちがキレる、などというケースがよくあったものだ。
もうあんなシーン、見たくもない。



ブログ主はこうやって頻繁にブログを書いている関係上、当然のことながら、5月の中旬以降、シアトルの主戦投手3本柱が城島とバッテリーを組まなくなっていることは、とっくにわかっていた。
フェリックスは5月19日以降、ウオッシュバーンだって、フェリックスとほぼ同じ5月18日以降は、城島と一度も組んでいない。もちろんベダードは2008年から既に「城島とは組みたくない」ことを表沙汰にしていたことはよく知られている。


なんだかよくわからないのだが、シアトルの主戦投手3人が3人とも、そろって城島とは組んでいないという今の事態に、過剰に驚く人、あるいは、城島が主戦投手と組ませてもらえないと、子供じみた憤慨する阿呆など、さまざまな人が世間にはいるようだが、ブログ主としては、いまさら何でそんなことを騒いでいるのか、可笑しくてしょうがない。

そんなことは、振り返れば、というか、ちゃんとデータを追っていれば、5月中旬にはすでに時間の問題だったことはわかりそうなものだ。

5月末にはなんとなく判明していた「主戦投手3人が誰も城島と組みたがっていない事実」が表沙汰にならなかったのは、ベダードが何度も登板回避していたために、主戦投手3人がズラリ全員ロブ・ジョンソンと組むという事態がなかなか起きなかっただけのことだ。


いいかえると、ここが大事な点だが、
5月にはすでに「城島に与えられた一度目のチャンス」は終わっていたのである。それに気がつきもしないで漫然としてチャンスを逃がしたのは城島自身である。


「第一の」、というのは、もちろん、「第二のテスト」があったからだ。
それはおそらく、6月末城島が骨折から復帰してからのLAD、NYY、BOSの9連戦だったと思う。ここでは、既にシアトルの先発3本柱がもう長いこと城島とはバッテリーを組んでいないにもかかわらず、「3連戦カードのうち、2ゲームを城島にまかせて『みる』」という不思議なテストが行われた。

この「第二のテスト期間」を「不思議」というのには、理由がある。
普通ならこういう場合、「3連戦のうち、3ゲーム目のデーゲームを、2人目の捕手にまかせる」という方式になることは、メジャーファンなら誰でも知っている。
だがこの9連戦では、非常に不規則なローテーションの組みかえが行われる中で、3連戦の初戦や2試合目がロブ・ジョンソンという、非常にイレギュラーな起用が試みられた。
その結果、「3連戦のうち2ゲームを城島にまかせる」というわりには、結果的に、(この9連戦でまだ復帰していないベダードを除いて)ただの1度もヘルナンデス、ウオッシュバーンは城島と組まなかった。




この「第二のテスト」である遠征9連戦の不可思議な捕手起用が意図的なものだったかどうかは、報道すらない以上たしかなことは言えないが、5月1日の城島1回目の復帰以降の「第一のテスト」に城島が失敗してチームが2008年同様の崩壊の危機に陥ったこと、そしてなにより、5月中旬から6月下旬の城島の骨折中、まったく城島と組まないですむ機会を得た主戦投手3人の「これが同じ投手か? と、見違えるような、めざましい働き」
この2つによって、「城島問題の影響の大きさ」がチームに認められたのは間違いないと、このブログでは考える。



だから、LAD遠征以降の9連戦以降、このブログの更新内容には常に気をつかった。ゲームごとの勝ち負けより、「第二のテスト」の目指す方向性がどういうものか、毎日気になった
もしヘルナンデス、ベダード、ウオッシュバーンのキャッチャーをロブ・ジョンソンから城島にあっさり変更してしまうようなことがあれば、あるいは、デーゲームにはロブ・ジョンソンとかいう斬新さの無い変更になってしまえば、チームがプレーヤーに向ける評価の目線の厳しさが「緩い」と判断せざるを得なくなる。

しかし、喜ばしいことに、シアトルはそうしなかった。

9連戦のとき、すでに復帰した城島に主戦投手3人と組む機会は既にほぼ失われていたと見るのが正しいことは明らかであるとは判断していたが、真っ先にトレードされたのが、一部で興味本位に噂されるベダードやウオッシュバーンではなく、ベタンコートであったことで、「このシーズンが始まって以来、シアトルのチームマネジメントが、2008年シーズンを大惨敗に導いたプレーヤーに、シーズン当初から厳しいテスト目線を向けていた」ことは、ようやく確信になった。

だからこそ、ようやく、この記事を書けるのである。
どういう起用法の変更になるか、形が見えてこないことには書けなかったことはたくさんあった。


「第二のテスト」は行われ、コネ捕手城島はそれにも失敗した。
だからこそ、ホームに帰ってきた7月6日のゲームでは、堂々と「主戦投手3本柱のゲームではロブ・ジョンソン」という新しい原則が公(おおやけ)にできたのだと思う。
なにも、いきなり城島が、主戦投手3人と組む機会を奪われたわけでも、いきなり正捕手の座を剥奪されたわけでもなんでもないことは、以上の記述でわかるはずだ。



メジャーの限られたプレーヤーが特別な待遇を約束されるのは「ゲームにおいてプロである」からだ。低いテンションで漫然とプレーしていても、ほっておいてもゲームに出られるなどと、緩い気持ちでサバイバルできる世界ではないことは誰もが知っていなければならない。

コネでスタメンなど買うから、こうなる。

ヘルナンデスにしても、2006年以降、どれだけ城島が関係を修復する時間とチャンスがあったことか。しかし、それができなかった以上、人のせいにすることは許されない。何度も何度も与えられてきたチャンスを逃がしたのは城島自身だ。


6月の月間最優秀投手受賞の大きさがこれでわかる。メジャー屈指の好投手フェリックス・ヘルナンデス、彼の本当の実力をロブ・ジョンソンが引き出したことで、フェリックスはようやく城島の呪縛から解き放たれる時が来た。


イッツ・ショウタイム。
これからが本当の勝負だ。




ヘルナンデス 自責点5点以上の全登板
2006年 12勝14敗
4月13日 自責点5 城島
5月16日 自責点5 城島
5月21日 自責点7 城島
5月31日 自責点5 城島
8月13日 自責点6 城島
8月23日 自責点7 リベラ→城島
9月3日  自責点7 リベラ

2007年 14勝7敗
5月30日 自責点7 城島
6月26日 自責点5 城島
7月22日 自責点6 城島
8月29日 自責点6 城島
9月9日  自責点9 城島

2008年 9勝11敗
5月3日  自責点6 城島
5月26日 自責点5 城島
8月19日 自責点5 バーク
9月9日  自責点6 ロブ・ジョンソン

2009年
4月11日 自責点5 城島
5月4日  自責点6 城島
5月9日  自責点5 城島
5月19日 自責点6 城島


ヘルナンデスの2009全登板ゲームログ

4月6日  6回自責点1  城島 QS
4月11日 5回自責点5  城島
4月17日 6回自責点3  ジョンソン QS
4月23日 7回自責点0  ジョンソン QS 完封リレー
4月28日 8回自責点0  バーク QS
5月4日  6回自責点6  城島 負け
5月9日  4回自責点5  城島 負け
5月14日 7回自責点0  ジョンソン QS
5月19日 5回2/3自責点6 城島 負け
5月24日 8回自責点1  ジョンソン QS 10三振
5月30日 6回2/3自責点0  ジョンソン QS
6月5日  7回自責点1    ジョンソン QS 10三振
6月10日 7回自責点1    バーク QS
6月16日 9回自責点0    バーク QS
6月21日 7回1/3自責点0 バーク QS
6月27日 8回自責点0    ジョンソン QS 9三振
7月3日  7回自責点3    ジョンソン QS
7月9日  8回自責点1    ジョンソン QS






damejima at 08:07

June 12, 2009

ボルチモア遠征第3戦が雨で中断していた時間を利用して、アーズマの「サンデー・フェリックス」発言の意味を、今日のオルソンのピッチングをサンプルに考えてみた。(現在は3ベースを打ったイチローが生還したところ)
まずは重要なアーズマの「サンデー・フェリックス」発言をあらかじめ読んでおいてもらおう。
Steve Kelley | Mariners need more of Sunday's Felix Hernandez | Seattle Times Newspaper

(原文)
"He was going right after guys," said closer David Aardsma, who picked up his sixth save with a scoreless ninth. "I think in his last couple of outings he was trying to pitch around guys a little bit more. Trying to throw stuff on the corners. (後略)"
(粗訳)
「彼(=5月24日のヘルナンデス)は打者をうまく打ちとっていたねぇ」と、9回を無得点に抑え、6つ目ののセーブを得たクローザー、デイビッド・アーズマはいう。「僕が思うに、最近数試合の登板の彼はね、もっとギリギリに投げよう、投げようとしていた。球種をコーナーに集めようとも試みていた。
2009年5月24日、デイビッド・アーズマが「ヘルナンデスがロブ・ジョンソンと組むゲームと、城島と組むゲームの大きな違い」を初めて証言した。

正確な話は原文を読んでもらうとして、アーズマの話のポイントは、城島が捕手をつとめたヘルナンデスのゲームが3登板つづけて連敗していた当時の「ピッチングの窮屈さ」をハッキリ指摘しつつ、それと好対照のゲームとして、5月24日のゲームでロブ・ジョンソンが捕手をつとめたヘルナンデスが実にのびのびとピッチングできていたことを対比してみせたことにある。
2009年5月24日、ヘルナンデスは無敗のパートナー、ロブ・ジョンソンを捕手に8回自責点1でQS達成、10奪三振でひさびさのデーゲームを勝利に導いた。


ここで、今日のオルソンの2回の四球の場面を見てもらおう。

この時点でスコアは0-2。1回裏にはやくも1番のロバーツと並んで打たせてはいけない好打者4番DHスコットにアウトコースぎりぎりの球を2ランされている。
下に挙げた画像は2回先頭打者のキャッチャーのゾーンの打席。ゾーンは打率.205の打者で、まったく怖い打者ではない。にもかかわらず、ノーアウトで四球で歩かせてしまい、次打者にシングルを打たれ、ノーアウト1,2塁のピンチを招いてしまう。
このときのピッチャーオルソンの立ち上がりの「ひとりよがりぶり」は、下の画像の配球を見ればわかるはずだ。「ひとりよがり」と断定的にコメントする理由は、今日のゲームデイで3回までの打者への全投球をよく見て確かめてほしい。

最初の40球が20ボール20ストライクだったように、これではボールが多すぎる。
「ボールが多すぎる」という場合、普通は「投手のコントロールが悪い」という意味になることが多いが、オルソンはそうではない。ここが重要なポイントだ。むしろ、彼はコントロールはいい。制球がいいのに、ボールが多いのだ。
(先日の松坂の登板などでも、5イニングで8三振くらい奪っているにもかかわらず、5失点でKOされたりしている。ここらへんの話は機会があれば書いてみるつもり)
その後、データでみると2回のストライクが増えていくが、それはボール球をたくさんファウルされたためにストライクとカウントされているためで、オルソンが多くのストライクを投げたわけではない。
Seattle vs. Baltimore - June 11, 2009 | MLB.com: Gameday

2009年6月11日 2回裏 ゾーン四球2回裏 先頭打者ゾーン
四球



この画像からわかるように、球はどれもこれもストライクゾーンの4隅を狙っている。オルソンという投手は「ものすごくコーナーをつきたがる投手」なのだ。ここも城島のリードのダメさ加減を考える上で重要なポイントのひとつだ。
また、このオルソン、このあいだの貧打で負けたゲームで「僕は今日の投球について何も恥じることはない」とコメントしているように、なかなか負けん気の強い性格の投手でもあるようだ。この強気な癖にピンチには弱い性格面も、なかなか城島に通じるものがある。

彼のような、球威はないがコントロールでかわしていく投手にしてみれば先頭のゾーンへのフォアボールは「アンパイアがストライクをとらないのがいけない。僕の球はコーナーをきちんとついているのだし、問題はない」とでも思うかもしれない。
しかし、打率2割の8番キャッチャーへの配球にしてはちょっと狙いが窮屈すぎて、かえって四球にしてしまっている。


これこそ、アーズマが指摘する「窮屈なピッチング」の典型的パターンであり、まさに城島がキャッチャーをつとめるゲームの大きな欠陥のひとつでもあると、当ブログでは指摘しておく。

「コーナーをついているから間違ってない」というのは、野球では必ずしも正しくなどない。ピッチャーの仕事は「アウトをとること」であり、「コーナーをつくかどうか」は方法論であって、それ自身は目的ではない。
それなのに、打率2割の先頭の8番バッターにここまでの「窮屈なピッチング」をして、フォアボールにしてしまうような、シチュエーションにあわない神経質な投球は、投手、特に先発投手にとって、必須のものではない。

現に、1回にスコットに打たれた2ランも、アウトコースいっぱいの球である。
いくらゾーンぎりぎりに球を投げようと、「ランナーが出たらアウトコースにストレート系が来る」とか、「カウントが悪くなれば、コーナーいっぱいにストレート系が来る」とか、打者側がわかってしまえば、優秀なスラッガーには長打されてしまうのである。
前述のゾーンを歩かせた場面は、たとえキャッチャーがキロスでなく城島でも、ほとんど同じような配球をすると考える。

こういう、「コーナーをついたのにホームラン」とか、「コーナーをついているのに四球」とか、そういうおかしな甘えは美学でもなんでもない。プロのベースボールには必要ない。

そういうのは日本の九州の田舎ででもやってもらえばいい。

2009年6月11日 1回 スコット2ラン1回 スコットの2ラン

アウトコースの4シーム。流し打ちのホームランボール。腕を伸ばして打てる、打者にとって絶好のコース。

2009年6月11日 7回裏マーケイキス ダブル7回裏 マーケイキス
ダブル


投手はオルソンではなく、ジャクバスカス。スコットの2ランと同じアウトコースいっぱいの球。流し打たれてツーベース。2、3塁のピンチ。






damejima at 10:22

May 27, 2009

デイビッド・アーズマの語る「サンデー・フェリックス」
----城島とバッテリーを組まされる「窮屈さの弊害」について、2009シーズンの投手陣自身が初めて明確な形で指摘する声を上げた----

まさに我が意を得たりとは、このことだ。アーズマはよくわかってゲームを見ているね。シアトルタイムズの記事からだ。2009年のシアトルを語る上で必読、マストの記事。
記事タイトルは「マリナーズはサンデー・フェリックスをもっと必要としている」ときた。もちろん、この意味深なタイトルも、このブログの愛読者なら意味はわかるだろう。もちろんタテマエでは「ヘルナンデスは日曜日のように、もっと大人の投球をしなさい」くらいの意味だが、明らかに婉曲には
4月にあれほど活躍したのに5月には日曜などのデーゲームにしか出場の機会がないロブ・ジョンソンがひさびさのデーゲームでキャッチャーとしてリードした日曜日のフェリックスは素晴らしかった。
日曜のロブのような、のびのびしたバッテリー感覚が、このチームにはもっと必要だ。そうしないと、このチームはダメだ

という意味もわかるような、ある意味いやらしい仕掛けになっている。

では、「ロブ・ジョンソンがリードしたサンデー・フェリックス」とは、どんなピッチングだったのか。
それを具体的に語ってくれたのが、デイビッド・アーズマだ。まるでこのブログでの主張とピッタリなので、嬉しくなる。
Steve Kelley | Mariners need more of Sunday's Felix Hernandez | Seattle Times Newspaper

(原文)
"He was going right after guys," said closer David Aardsma, who picked up his sixth save with a scoreless ninth. "I think in his last couple of outings he was trying to pitch around guys a little bit more. Trying to throw stuff on the corners. Today you saw him go out there with the attitude of 'here it comes' and just throwing great stuff right by guys."
(粗訳)
「彼は打者をうまく打ちとっていたねぇ」と、9回を無得点に抑えて6つ目ののセーブを得たクローザー、デイビッド・アーズマはいう。
「僕が思うに、最近数試合の登板で彼はね、もっとストライクゾーンギリギリに投げよう、投げようとしていた。球種をコーナーに集めようとも試みていた。(でも)今日は、ほら、みんなが見たように「ヒア・イット・カムズ (打席に入る打者ごとにあわせて投げてやるから)誰でも、さぁ来い」って姿勢だったよね。打者ごとに素晴らしい球を投げ、ただただ討ち取っていく、そういう姿勢だったね。」



アーズマの話のポイントは、城島が捕手をつとめた連敗中のヘルナンデスの「配球の窮屈さからくる自滅ぶり」と、ロブ・ジョンソンが捕手をつとめた5月24日のヘルナンデスの「のびのびした柔軟な打者への対応ぶり」を対比することだ。
アーズマの指摘する「ヘルナンデスの最近数試合の窮屈な登板内容」とは、もちろん、4連勝した4月の登板ではなく「5月に入って以降、連敗続きだったコネ捕手城島とバッテリーを組んだ4ゲーム」を直接明確に指すことは言うまでもない。
ある意味、アーズマは城島を名指ししているのである。
→2009年のヘルナンデスの全登板と組んだ捕手の一覧
2009年5月24日、ヘルナンデスは無敗のパートナー、ロブ・ジョンソンを捕手に8回自責点1でQS達成、10奪三振でひさびさのデーゲームを勝利に導いた。



このアーズマの話の中には、通常の英和辞書にはない、いわゆる野球的イディオム(言い回し)がいくつもある。中でも特にpitch aroundという熟語の意味は正確につかまえなければ内容を把握することはできない。
またHere it comes.という文の意味は、全体の文意をふまえて意訳しないと、ただ「さぁ来い」「さぁ来た」だけでは意味が伝わらない。同じ文でアーズマの話した言葉の中に、by guys「打者ごとに」という言葉がある点を重視しないと正確にはならない。「連敗中のようにどんな打者が来てもコーナー狙いのピッチングを繰り返してギリギリのコースばかり狙って自滅するのではなく、日曜日は、打者ごとにあわせたピッチングをしていたのが良かったね」というアーズマの話たい意図をふまえないと意味が伝わらなくなる。

stuff
「球種」
アーズマだけでなく、この記事の文中には監督ワカマツへのインタビュー部分含め、頻繁に出てくる野球用語。

go right
「(打者を)うまく打ち取る」
“go right”の検索結果(358 件):英辞郎 on the Web:スペースアルク
文例:I challenge batters and go right at them.
僕はバッターに挑んで、うまく打ち取っている。

pitch around
「(四球も覚悟で)きわどいコースをついて投球する」
野球用の熟語のひとつ。とある翻訳サイトには「はずして投球する」と訳されているが、それだけでは正確な意味は全く把握できない。下記に挙げた英語から英語に訳すサイトでの説明で、本来の詳細な意味がわかると思う。全文を引用する。

pitch around - Wiktionary
http://en.wiktionary.org/wiki/pitch_around
(transitive, baseball) To intentionally throw pitches which are slightly out of the strike zone, hoping that the batter will swing wildly at a pitch, but assuming that you will walk him
(打者が投球に対し)むやみやたらと大振りしてくれることを期待し、ストライクゾーンから、ほんのわずかにはずれた配球を故意に行うこと。だが、打者を歩かせてしまうリスクを負う。



damejima at 20:56

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