ロイ・ハラデイ
● 2019年1月22日、殿堂入りしたロイ・ハラデイの「義理堅いフォロワー」。
● 2017年11月7日、大投手 ロイ・ハラデイ。
● 2010年11月8日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (4)特徴ある4人のアンパイアのストライクゾーンをグラフ化してみる(付録テンプレつき)
● 2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。
● 2010年10月6日、長年の念願をかなえポスト・シーズン初登板のロイ・ハラデイが、いきなりノーヒット・ノーラン達成!
● メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い
January 25, 2019
以下のツイートによると、100年を越えるMLB史においてハラデイは「200奪三振以上、かつ与四球40以下」を5回も達成した唯一のピッチャーだったらしい。
Multiple seasons with 200+ K and fewer than 40 walks (1893-present)
— Christopher Kamka (@ckamka) 2019年1月24日
5 Roy Halladay
3 Curt Schilling
2 Chris Sale
2 Corey Kluber
2 Clayton Kershaw
2 Cliff Lee
2 Pedro Martinez
2 Cy Young
この記録自体、たしかにすさまじいが、
同時に「誤解されやすいデータ」でもある。
というのは、
ハラデイが「豪腕タイプのピッチャーだったから、三振をたくさんとれて、大記録が達成できた」わけでは、まったくないからだ。彼は160キロを越える速球をブンブン投げるような手法で年間200もの三振を奪っていたわけでは、まったくない。
むしろ、ハラデイの真骨頂といえば、「球数が非常に少ないこと」だ。
完投数の多さをみればわかる。
上のツイートの顔ぶれをみてもらえばわかることだが、「200奪三振、かつ与四球40以下」という記録の複数回達成者には、クリス・セール、コーリー・クリューバー、クレイトン・カーショーといった2010年代のピッチャーの名前が多い。
2010年代の投手たちの三振数の記録はあまりアテにならない。それは、このブログで何度も書いてきたように、2010年代がMLB史で最も三振数が多い「三振の世紀」だからだ。ロイ・ハラデイ、クリフ・リー、ペドロ・マルチネスが活躍した2000年代は、それ以前と比べれば三振が多くなった時代ではあるにしても、2010年代ほどの酷さではない。
では、「球数が少ないハラデイに、なぜ数多くの三振がとれた」のか。ここからが話の本番だ。
以下のデータを見てもらいたい。
フィリーズ時代のハラデイのデータだ(2011年6月10日カブス戦)。「球種ごとの水平方向と垂直方向の変化」がわかる。
2011年を選んだのにはちょっとした理由がある。
彼の投球術としての完成形が2011年にあると思うからだ。
たしかに彼の2010年シーズンは輝いている。フィリーズでリーグ最多の9完投21勝を挙げ、完全試合とノーヒットノーランを同じシーズンに達成し、サイ・ヤング賞も受賞している。
だが、彼の自己最高の防御率2.35、自己最多の220奪三振が記録されたのは、その2010年ではなく、5年連続のリーグ最多完投を達成した翌2011年なのだ。
(ちなみに2012年以降、ハラデイはもはや往年のチカラがなくなってしまい、故障や肉体的な衰えから「らしさ」が決定的に失われて、2013年に引退した)
本題に戻ろう。
上のデータをクリックして拡大して眺めてもらいたいが、「同じ色のドット(点々)が、ほぼ同じエリアに集中している」。
どういう意味かというと、カットボール、カーブ、シンカー、「それぞれの球種が、ほとんどの投球において、ほぼ同じ変化をしている」ということだ。
ハラデイのデータだけみせると、「なんだ、そんなことか」と言われても困るので、他の投手をネガティブな例として挙げてみる。2017年のある日本人投手のデータだ。
ドットが非常にばらついている。どれだけピッチングが「なりゆきまかせ」か、わかるはずだ。
つまり、このピッチャーは「自分の投げた球が、どこに行くのか、わからないまま、なりゆきにまかせて投げている」のである。三流であることの証にほかならない。なりゆきまかせで名選手になれるなら、誰も苦労なんてしない。(ましてステロイドなんて論外である)
世の中には、MLBのピッチャーはパワーにまかせて、なりゆきまかせに投げていると決めつけている人が大勢いる。
とんでもない。
「なりゆきまかせでないMLBピッチャー」の例を、もうひとりだけ挙げてみる。ハラデイのデータと同じ2011年のクリフ・リーである。
見事としか言いようがない。
カーブ、チェンジアップ、シンカー、カットボール。すべての球種が、「常に同じ変化でキャッチャーに到達している」。
「ドットの分布エリア」が球種ごとに完全にスッパリ分かれて分布していることからわかるように、このゲームでのクリフ・リーは、往年のロイ・ハラデイ以上に「変化球のメリハリ」がすさまじい。カーブは「カーブらしく」、シンカーは「シンカーらしく」、カットボールは「カットボールらしく」変化し、しかも、それらの投球すべてがなんと、「自分の思ったところに投げている」のである。
これこそ真の意味での「ゲーム・コントロール」であり、「ゲームの支配力」だ。
「完投が非常に多い」ということは、100球制限のあるMLBにおいては、「球数が少ない投球ができる」ということだが、「球数の少なさ」は往々にして「奪三振の多さ」と両立しない。例えばダルビッシュやフェリックス・ヘルナンデスなどもそうだが、奪三振の多いピッチャーでたくさんの球数を投げるピッチャーなど、いくらでもいる。そんな投手は二流にしかなれない。
クリフ・リーが「ストライク率の異常に高い、ストライクばかり投げる稀有なピッチャーだった」ことは、過去に何度も記事にしてきた。
2010年6月7日、クリフ・リー、シアトルが苦手とするアーリントンのテキサス戦で貫禄の107球無四球完投、4勝目。フィギンズの打順降格で、次に着手すべきなのは「監督ワカマツの解雇」 | Damejima's HARDBALL
2010年10月6日、クリフ・リー、タンパベイを10三振に切ってとり、ポストシーズンまず1勝。フィラデルフィアでもみせた大舞台でのさすがの安定感。 | Damejima's HARDBALL
「球数が少ないのに、三振をとれる投手」であり続けるようとするなら、無駄な球は一切投げられない。また、自分が意図しないところにいってしまう荒れ球など、まったく必要ない。常に思ったところに投げ、常にストライクで勝負し、バッターを翻弄し続けなければならない。それが、ロイ・ハラデイやクリフ・リーだ。
投手がコントロールすべきなのは、ボールではない。
自分自身だ。
ロイ・ハラデイが、いかに真の意味での大投手だったか。少しだけでもわかってもらえたら、幸いである。
January 23, 2019
ロイ・ハラデイの「2017年11月5日で止まったままのツイッターアカウント」には、いまだに6万4千人ものフォロワーがいる。例えば有名MLBライターのひとり、Jason Starkなども、いまだにフォローしている。理由はいまさら言うまでもない。
自分は、というと、いまはフォローしてない。「好きなプレーヤーだからツイッターをフォローする」という習慣自体が自分にないからだと思う。例えば、もしイチローがツイッターをやっていたとしても、もしかするとフォローしないかもしれないのである。
自分の場合、ツイッターでのフォローはあくまで情報収集が目的だ。フォロー対象は、あくまでKen Rothentahlなどの有名なMLB情報源であり、申し訳なくは思うが、自分をフォローしてくれたMLBファンを相互フォローすることは、ほとんどない。
ちなみに、言い訳がましく書いておくと、Ken RosenthalやJon Heyman、HardballTalk、Bob Nightengaleなんかも、ロイ・ハラデイのアカウントを今はフォローしてない。
いまもハラデイのアカウントをフォローしている人の中には、Jason Starkのほか、引退したMichael Youngや、MLBライターのPeter Gammonsなどがいる。マイケル・ヤングのこういう義理堅いところが好きだ。ちなみに、マイケル・ヤングのフォロワーは4万6千人あまりなので、既に鬼籍に入っているロイ・ハラデイより約2万人ほど少ない(苦笑)
Congratulation Roy, HOFer, my everlasting star.
— damejima (@damejima) 2019年1月23日
さきほど、ロイ・ハラデイのツイッターをひさしぶりに覗いて、「殿堂入りおめでとう」と言ってみた。いわば「ツイッター墓参り」である。
彼がどういう野球選手で、どういうプレーをしたか、知らないまま野球を見ている人がいたら、どう説明したらいいだろう。よくわからないが、「初めてのポストシーズンのゲームでノーヒット・ノーランをした投手なんだぜ」とでも言えば、少しは興味をひくのだろうか。
そんな短すぎる言葉で彼の本当の偉大さや魅力が伝わるわけはない。本当なら彼がデビッド・オルティーズを手も足も出ないまま三振させた打席の配球なんか見てもらいたいところだが、そういう単純なきっかけで生前の彼に対する興味があらためて湧いてくれたらいいなと思う。
2017年11月7日、大投手 ロイ・ハラデイ。 | Damejima's HARDBALL
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い | Damejima's HARDBALL
November 08, 2017
大投手ロイ・ハラデイ、飛行機事故で逝去。享年40歳。
2010年に以下の記事を書いた。
2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。 | Damejima's HARDBALL
ハラデイのフォームに違和感を感じて書いた記事ではあるが、正直いって、当時ハラデイの身体が「壊れている」とまで感じたわけではなくて、ちょっとヒジの調子がよくないのかな、と思った程度だった。
実際、この年ハラデイは、21勝して最多勝を手にし、完全試合と、ポストシーズン初戦のノーヒット・ノーランまで達成して、2度目のサイ・ヤング賞投手にもなったのだから、大投手ハラデイの「全盛期」はまだまだ「長い」、と思えた。
2010年10月6日、長年の念願をかなえポスト・シーズン初登板のロイ・ハラデイが、いきなりノーヒット・ノーラン達成! | Damejima's HARDBALL
彼の真骨頂は、短く言えば
「球数の少なさ」にある。
「1球はずしておいて、勝負」などというのは、「たとえ」として言えば、手数の多すぎる寿司職人と同じだ。7手で握れるのと、9手では、熟練の度合いがまるで違う。「1球はずして」なんていう発想があるうちは、超一流なんて言えないことを教えてくれたのが、ロイ・ハラデイだった。
— damejima (@damejima) 2017年11月8日
球数が少ない中でバッターをうちとれれば、「長いイニング」を投げられる。当然だ。だが、球数を減らすには、「ストライクを投げ続ける勇気」のほかに「バッターに振らせる才能」がなければならない。
ただ、振らせて、マトモにバットの芯で打たれるのでは、困る。芯を食わないためには、「いかにも打てそうな、だが、実際には打ちにくい球」を投げ続けなければならない。当然ながら、「コントロール」がよく、「変化球がキレて」いなくては、話にならない。
ノーヒットノーランを達成した2010NLDSのシンシナティ戦も、わずか104球での達成だ。ひとりあたり3.85球と、ひとりあたり4球以下でバッター27人を仕留めたことになる。まさにハラデイの面目躍如となった歴史的なゲームだった。
このブログに1000以上書いてきた記事の中で、自分が常に「これを読んでもらいたいと思っている記事」のひとつが、これだ。フィラデルフィアに移籍する直前、トロント時代のデイヴィッド・オルティーズに対する投球について書いたものだが、本当に効果的に考えぬかれた配球だと今でも思う。
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い | Damejima's HARDBALL
自分が思う、これこそが「ロイ・ハラデイ」と思った投球。対戦相手はオルティーズ。(https://t.co/ZfQzzdlF51 より)外のチェンジアップ、内のカットボール、そして、インローにカーブ。「芸術」としか、言いようがない。形容する言葉がない。 pic.twitter.com/Ba9lKyxKtD
— damejima (@damejima) 2017年11月8日
分析が大流行の時代ではある。
では、その「分析」とやらがあらゆるバッターに通用するか、というと、アーロン・ジャッジ程度のバッターにホームランを50本も打たれるのだから、そうでもない。なぜって、いくら打者の攻略方法が分析でわかったとしても、「思ったとおりに投げられる能力」がない投手ばかりなら、分析結果が役に立たないからだ。
誓ってもいいが、もしハラデイと対戦していたら、アーロン・ジャッジ程度の弱点のわかりきっているバッターは三振を繰り返して手も足も出ない。
あれほど輝かしい2010年を経験したハラデイだったが、その後数年で引退した。思えば2010年はキャリアのハイライトだったわけだ。引退直前のハラデイについて、マイケル・ヤングがこんなことを弔意とともに語ってくれている。
I’ll never forget Aug ‘13. Doc and I were two months away from retirement. He was hurt, clearly. He was still pitching tho. One day in Wrigley he was throwing 83, and all over the place. I go to the mound and he just said “everything hurts.”
— Michael Young (@MikeyY626) 2017年11月7日
He wouldnt come out. Always fighting.
「あれは忘れもしない(2013年の)8月13日。ドクと僕は引退を2ヶ月後に控えてた。彼は明らかに怪我してたが、まだ投げていた。ある日、彼はリグレイ・フィールドで83球投げ、自分をコントロールする力を失ってた。マウンドに行ったら、彼は「どこもかしこも痛む」とだけ言った。でもマウンドは降りなかった。彼はいつもそうやって戦ってたんだ。」
痛々しすぎる。
読むのが辛かった。
親友の突然の死にあたって、普通なら、その人の生前の「最盛期」のことを「英雄的に」語ったりするものだ、と、われわれは思いがちだ。
だが、よく考えれば、最盛期だけ語って悲しむような「うわべの行為」は、実は、その人のことをメディアを通してしか知らない、「疎遠な人」のやることだ。マイケル・ヤングはそうはしなかった。
マイケル・ヤングは、よくあるRIPというような省略語ではなく、彼自身の言葉と経験で、「ロイ・ハラデイが、引退するシーズンの最後の最後まで、自分が『ロイ・ハラデイであり続けよう』と必死に頑張っていたこと」を静かに語ってくれた。
今はもう、ロイ・ハラデイはこの世にいない。
ロイ・ハラデイは、「大投手ロイ・ハラデイ」として、その野球キャリアとともに名誉ある短い人生を終えたからだ。
大投手、ロイ・ハラデイ。
野球とともに生きた40年間だった。
「彼は『すべてのチカラが尽きるまで投げた』んだよ」と、マイケル・ヤングはいうわけ。「すべて」だよ、すべて。すべてをメジャーのマウンドで投げつくして、もうダメだってとこまで投げて、引退した。
— damejima (@damejima) 2017年11月8日
野球とともにあった人生。ロイ・ハラデイ。
November 09, 2010
Hardball Times: A zone of their own
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年11月6日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (3)アンパイアの個人差をグラフ化してみる
最初に、アンパイアごとの個人差の大きさを実感してもらうために、最もストライクゾーンの大きいアンパイアと、最も小さいアンパイアを比べて見てもらおう。
赤い線が、ルールブック。
青い線が、そのアンパイアのストライクゾーン。
Jeff Nelson
Gerry Davis
1)Jeff Nelson
1965年ミネソタ生まれ。広大すぎるゾーン。判定は気まぐれで可変
最初にとりあげるのは、2010NLCSで、ロイ・ハラデイの低めに決まるカットボールを「ボール」と判定し続けて物議をかもしたアンパイア、Jeff Nelson。
Hardball Timesは、MLBでストライクゾーンが最も広いアンパイア、Jeff Nelsonについて、
against right-handed hitters, the classic “Glavine” call a couple inches off the plate. と、右打者のアウトコースについては、たとえホームプレートから数インチ離れていようとも「ストライク」とコールする「Jeff Nelsonのアウトコースの判定のゆるさ」を評して、「トム・グラビン時代の古典的コールをするアンパイア」と言っている。
前に書いたように、かつてのステロイド時代は、ステロイドを容認し、打者有利な飛ぶボールを使ってホームランを量産させる一方で、バーター的な意味で、投手には「アウトコースが異常に広い、ステロイド時代特有の投手有利なストライクゾーン」を与え、なかでもトム・グラビンはその「アウトコースの広いステロイド時代のストライクゾーンの恩恵」を人一倍上手に使った、という皮肉めいた意味でもある。
参照:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (1)「ステロイド時代のストライクゾーン」と、「イチロー時代のストライクゾーン」の違い。
大投手ロイ・ハラデイは2010NLCSで、こんな「日頃ストライクゾーンが馬鹿広いことが、あらかじめわかっていたはずの、ゆるんゆるんのアンパイア」に、「低めいっぱいに決まるカットボール」を「ボール」と言われ続けたのである。そりゃ腹が立たないわけがないし、とてもとても、まともなゲームになるわけがない。
アンパイアのストライクゾーンが広いからといって、必ずしも投手有利になるとは限らない、というよい例である。ブログ主は、いまでもNLCSはフィラデルフィアが勝つべきだったと思っている。
Umpire Watch: Postseason Bunting -- MLB FanHouse
ちなみに上のリンクは、2010NLCS Game 5の3回表、無死1、2塁で、ハラデイがバントしたときの誤審についての記事。ハラデイはバントのボールが自分の足に当たったのがわかったので一塁には走らなかったが、キャッチャーバスター・ポージーは三塁にスローした。だが球審Jeff Nelsonは即座にフェアとコールし、結果的にハラデイがアウト。1死2、3塁になった。記事は、Halladay's bunt was clearly foul.と、明確に誤審を指摘しており、本来なら無死満塁になった場面だった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。
2)Gerry Davis
1953年ミズーリ生まれ。宇宙一タイトなストライクゾーン。
宇宙で一番ゾーンが広いのがJeff Nelsonなら、宇宙で一番狭いアンパイアのひとりが、2010ALCSでアンパイアをつとめたGerry Davis。
この2人のアンパイアのストライクゾーンの大差について、Hardball Timesは、Jeff Nelson calls about 10 more strikes than Gerry Davis in an average game. 平均的なゲームで球審をしたなら、ジェフ・ネルソンは、ジェリー・デイビスより、10個は多くストライクをコールするだろう、と述べている。
3)Jeff Kelllog
1961年ミシガン生まれ。2001年以降のストライクゾーンの規範ともいうべき、正確な判定。
個性を押し出すのではなく、いわゆる2001年以降のMLBが指向する「ルールブックどおり」の正確なコールをできるアンパイア。それが、Jeff Kelllog。その判定の正確さは、上に挙げたグラフにそのままあらわれていて、ルールブック(赤い線)と彼のストライクゾーン(青い線)には、ほとんど差がない。
正確さを表現する言葉にも、いろいろあるが、彼の場合、ただaccuracyというだけより、clockworkと表現したほうがピッタリくる。正確に時を刻み続ける時計のような、狂いの無い連続作業と言うイメージ。
ALCSのテキサスとヤンキースのクリフ・リー登板ゲームでPL(球審)をつとめたが、あのときの非常に正確なコールには感心した。だから、今年のワールドシリーズはぜひこの人に球審をやってもらいたいものだ、と思っていたら、案の定、ワールドシリーズのアンパイアもつとめてくれて、ブログ主としては嬉しく思ったものだ。
ただ、Jeff Kelllogは、塁審をつとめる際にはちょっとどうかな、と思うフシもないわけではない。ワールドシリーズでも、一塁の塁審をやったゲームでちょっと「?」と思った判定があった。
例:Umpire Watch: One Shaky Sixth Inning -- MLB FanHouse
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月12日、クリフ・リー、無四球完投!「アウトコース高めいっぱいのカーブ」を決め球に、11奪三振。テキサスがヤンキースとのリーグ・チャンピオンシップに進出。このゲームを正確なコールで素晴らしいゲームにした名アンパイアJeff Kellogg。
ちなみにJeff Kelllogは、ストライクゾーンが広いことで有名なJeff NelsonのいるCrew G のチーフ・アンパイアでもある。つまり、ひとつのクルーに、正確無比なタイプのアンパイアと、やたらとゾーンの広いタイプが同居しているわけだ。
プレーヤーにしてみたらどうなのだろう。Crew Gにあたったチームは、ゲームごとにしっかりと頭を切り替えていく対処する必要がある。
4)Mike Winters
1958年カリフォルニア生まれ。横長のストライクゾーン。
ここまで縦長なストライクゾーンのアンパイアばかり扱ったので、この記事の4人目は、横長のストライクゾーンのアンパイアを扱ってみよう。ワールドシリーズでアンパイアをつとめたMike Wintersである。
2009年9月にイチローを退場処分にしたBrian Runge、あるいはEd Hickoxも、このMike Wintersに似た「横長ストライクゾーン派」のアンパイアだが、RungeやHickoxが低めをとるのに対して、Mike Wintersは低めをとりたがらない。だからMike Wintersのゾーンは、RungeやHickoxより、さらに横長な形状になる。
2010ワールドシリーズではテキサスを応援して見ていたが、特にピンチの場面、それも試合の終盤になると決まって、Mike Wintersは低めの判定が辛くなるのには、見ていて非常にイライラさせられた。(下記画像は参照例:Game 4 7回表のポージーのホームランの打席の2球目)
逆に、サンフランシスコのクローザー、ブライアン・ウィルソンが投げるいくつかの球は、どうみてもボールにしか見えない球で、テキサスの打者が非常に気の毒になった。
特にマイケル・ヤングは、明らかにアンパイアに嫌われていて、まるで「狙い打ちされている」かのように、きわどくもないストライクをとられて、バッティングの調子を崩していた。(下記画像参照:Game 4 7回裏の三振の打席の2球目、および9回裏の三振の打席の4球目)
要は、Mike Wintersは、インコース、アウトコースはアホみたいにとるクセに、低めをとってくれないアンパイアなのである。このことに、テキサスのキャッチャーベンジー・モリーナは最後まで気がつくことはなかった。
2010ワールドシリーズ
Game 4 球審:Mike Winters
7回表 バスター・ポージー
ソロホームラン
2球目の低めいっぱいの
ストレートを
ボールコール
2010ワールドシリーズ
Game 4 球審:Mike Winters
7回裏マイケル・ヤング 三振
2球目のインコースまっすぐを
ストライクコール
2010ワールドシリーズ
Game 4 球審:Mike Winters
9回裏マイケル・ヤング 三振
4球目のインコースのスライダーを
ストライクコール
ちなみに、Mike Wintersは、横長派のBrian Rungeと同じ、Crew Hの所属。Crew Hにあたったチームは、アウトコースのストライクゾーンが広いことを覚悟しなければ試合にならないだろう。
おまけ
自分で作るアンパイアごとのストライクゾーンデータ
1)このグラフの画像をイラストレーターのようなソフトに、背景画像として取り込む。取り込んだらロックしておくのがコツ
2)赤色でない色(青とか緑とか)の四角形を、仮に書く。太さは3ポイント程度。赤い四角形が見えなくなるので、塗りつぶしは指定しない
3)上のグラフのグリッドごとの距離は12インチ。上下左右の4本の線を、それぞれのアンパイアのストライクゾーンのズレの分だけ、ずらしていく。ずらしたい線を選択する場合、必ず「ダイレクト選択ツール」を使う。通常の選択ツールで動かすと、四角形全部が移動してしまう
4)上下左右をずらし終えたら、保存して1人分が終了。このとき別名保存しないと、テンプレート(=元の画像のこと)がなくなってしまうので注意
5)保存後、線はいくらでもズラしなおせるので、2人目、3人目と次々と作りながら、別名で保存していく
October 22, 2010
もちろん、チームが「勝利」を期待する投手だし、投高打低のポストシーズンなだけに、2人とも本当に大変な疲労感があるに違いない。2人には、心からお疲れ様といいたい。
Philadelphia Phillies at San Francisco Giants - October 21, 2010 | MLB.com Gameday
特に、気になったのは、ロイ・ハラデイだ。
なにかこう、ダルそうな、腕の振れてない感じのピッチングフォームが心配になった。
もともとスリー・クオーターというより、下手をすると、スリー・クオーターとサイドスローの中間くらいな感じでスローするピッチャーではあるが、それにしたって今日は、いくらなんでもちょっと肘が下がってしまっているように思えてならなかった。
もちろんレギュラーシーズン21勝して、今年のサイ・ヤング賞間違いなしの大投手とはいえ、10敗した中には打ち込まれたゲームも何ゲームもあり、そういう調子の悪いの登板の大半は見てないからなんとも言えないが、それでも、これほどダルそうな感覚で投げて、しかも8回どころか、6回で降板していく疲れたハラデイを見ると、いつも8回くらい平気で投げぬくタフな人だけに、肘でも痛いのかと、ちょっと心配になる。
(ハラデイ、1977年5月生まれの30代のオジサン。かたやリンスカム、1984年6月生まれ。7歳違うんだから、しかたがないといえば、しかたがないか 苦笑 ちなみに1977年生まれは、他に、野手ではアンドリュー・ジョーンズ、カルロス・ベルトラン、ブランドン・インジ、アレックス・ゴンザレス、投手ではフィリーズの同僚のロイ・オズワルト、AJバーネット、ヴィンセント・ペディーヤなどなど 1977 Major League Baseball Born this Year - Baseball-Reference.com)
今シーズンのロイ・ハラデイのゲームログ
Roy Halladay Game Log | phillies.com: Stats
それと、もうひとつ気になるのは、
ハラデイの低めのカットボールに対する
アンパイアのコールの辛さ。
NLCS(=ナ・リーグのチャンピオンシップ・シリーズ)になってからのハラデイは、打者を追い込んでから投げる「ベース上、低めいっぱいに決まる決め球のカットボール」を、かなりの数、「ボール」判定されて苦しんでいる。
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool
どうもゲーム中盤、しかもサンフランシスコのクリンアップの打席になると、決まって判定が辛くなるような気がするのは、気のせいなんだろうか。
実は、この6回の球審Jeff Nelsonの判定の辛さについては
かなりややこしい背景がある。
10月16日 Game 1
6回表のカットボール(3球目)の「ボール」判定
San Francisco Giants at Philadelphia Phillies - October 16, 2010 | MLB.com Gameday
球審は、サンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズが755本目のホームランを打ったときに球審をしていたDerryl Cousins(→NYデイリー・ニューズで検索したDerryl Cousinsのこれまでの記事はこちら Derryl Cousins)。10月21日の球審をつとめるJeff Nelson(2001年にシアトルに在籍していたブルペン投手ジェフ・ネルソンとは別人)は、このゲームではレフトの線審。
6回表2アウト1塁。バッターは5番パット・バレル。0-2と追い込んでからの3球目、決めにいった低めいっぱいのカットボールが、「ボール」判定。ロイ・ハラデイはこのあと2本のタイムリーを浴びた。
「試合の流れを決めた判定」だけに、MLBの公式サイトの動画にも、わざわざHalladay has a close call on a 0-2 pitch(「ハラデイ、カウント2ナッシングからきわどい判定に泣く」)というタイトルまでつけられた動画がアップロードされているくらいだ。実際、きわどい。
そもそも中立的な立場のMLBの公式サイトの動画で、アンパイアの判定の微妙さが動画になって残ること自体、そう滅多にあることじゃないと思う。
この件について、ハラデイ自身は記者の質問に、こんなコメントを残した。
Halladay had thrown an 0-2 fastball with two outs that looked like it could be strike three to slugger Pat Burrell, until umpire Derryl Cousins deemed it low. Did Halladay figure the inning-ending strikeout was his?
"Yeah, I did," he said. "But that's part of it. There are obviously calls that (the Giants) wanted too. That's part of the game. (後略)"
出典: Roy Halladay, Jimmy Rollins Among Phillies to Show Cracks in Game 1 -- MLB FanHouse
問題の場面の動画
Baseball Video Highlights & Clips | NLCS Gm 1: Halladay has a close call on a 0-2 pitch - Video | MLB.com: Multimedia
2010年10月16日
NLCS Game 1
6回表 2アウト1塁
カウント0-2
ジャイアンツ5番打者
パット・バレルへの
非常にきわどい3球目
3球目の低めのカットボールを「ボール」と判定され、次の4球目、タイムリー・ツーベースを打たれ、3点目を失う。
10月21日 Game 5
6回裏のカットボール(6球目、7球目)の
「2球連続ボール」判定
Philadelphia Phillies at San Francisco Giants - October 21, 2010 | MLB.com Gameday
今日のゲームの球審は10月16日のGame 1では線審だったJeff Nelson。10月16日Game 1で球審をつとめていたDerryl Cousinsは、このゲームではセカンド塁審。
Jeff Nelsonは、Hardballtimesによれば
「ルールブックに沿ったゾーン、理論的なストライクゾーンと最もかけはなれた、自分勝手なストライクゾーンを主張するMLBアンパイア」の代表格。
Jeff Nelsonのストライクゾーンは「2000年代以降にストライクゾーンが、ルールブックどおりに近い現在のゾーンに修正される前までの、ステロイダーによるホームラン量産時代の典型的ゾーン」に近く、「異常にアウトコースのストライクゾーンが広い」。
Hardballtimesは、この「古いストライクゾーン」をいまだに使っているJeff Nelsonのコールを、the classic “Glavine” call、つまり、「トム・グラビン的ストライクゾーンによる古典的なコール」と呼んでいる。特にJeff Nelsonの「右打者から見て外角のストライクゾーン」が異常に広いことは、データ的に明らか、らしい。
Jeff Nelsonは、今年2010年8月10日のボルチモアとテキサスのゲームでは、ボルチモアに不利な判定をし続けた上に、これまでメジャーのキャリアで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスの打席で、わけのわからない判定で三振させて、温厚なマーケイキスがさすがにキレたのを、マーケイキスにとってキャリア初となる退場処分にし、さらに9回には、名監督バック・ショーウォルターまで、このゲーム2人目となる退場処分にした、いわくつきのアンパイア。
この「マーケイキス退場事件」が起きたのも、やはり10月16日、10月21日の両事件と同じ、「6回」。
Jeff Nelsonによって
退場になるニック・マーケイキス(動画)
Baseball Video Highlights & Clips | TEX@BAL: Markakis is ejected arguing the strike zone - Video | orioles.com: Multimedia
Jeff Nelsonによって
退場になるバック・ショーウォルター(動画と記事)
Baltimore frustrated, ejected against Wilson | orioles.com: News
2010年8月10日のデータサンプル:明らかに「ボール」
cascreamindude: Ejections: Jeff Nelson (3, 4)
NYデイリー・ニューズで検索したJeff Nelsonのこれまでの記事:Jeff Nelson (Umpire)
HardballtimesのJeff Nelsonに関する批評
タイトルがA zone of their own(「身勝手なストライクゾーン」)という、辛辣な記事。「メジャーで、最も実際の理論的なストライクゾーンとかけはなれた、自分勝手なストライクゾーンを主張するアンパイアは誰なのか?」を、豊富なデータから解き明かす優れた記事。
Jeff Nelsonの短評は、north and south、つまり高低は正確だが、内外については古典的グラビン・コールをするアンパイア」
Jeff Nelson: The most pitcher-friendly umpire in 2007. He calls the vertical strike zone much closer to the rulebook definition. He also is willing to give the outside corner against right-handed hitters, the classic “Glavine” call a couple inches off the plate.
A zone of their own
さて今日のゲームの話に戻ろう。
6回の先頭打者として、このポスト・シーズンの活躍で一気に名を上げた感じの4番バスター・ポージーが打席に入った。
ハラデイはポージーをカウント2-2と追い込んで、6球目、7球目に「低めいっぱいのカットボール」を投げたが、いずれも「ボール」と判定され、結局、四球。ノーアウトのランナーになった。
ハラデイは、なんとかこの後、2死1、2塁を無失点に抑えるが、このイニングで降板。いつものように長いイニングを投げることはできなかった。
マーケイキスも物静かな男だが、ロイ・ハラデイも負けず劣らず冷静な男だ。だが、さすがに今日は、テレビ画面からもロイ・ハラデイの憤怒が伝わってくるほど、彼の表情は険しくなり、感情を露わにしていた。
この6回の「疑惑の2球連続ボール」判定の伏線には、初回に起きた「5番バレル怒鳴り散らし事件」がある。
2010年10月21日
NLCS Game 5
6回裏 ノーアウト
ジャイアンツ先頭打者
4番バスター・ポージーへの
6球目、7球目
10月21日 Game 5
初回の「ストライク判定」にまつわる
サンフランシスコ5番打者バレルの「怒鳴り散らし事件」
あまり書いていて気持ちのいい話ではないのだが、6回の「2球連続ボール判定」の前に、実は、既にこのゲームの初回、例の10月16日に「ボール」判定が問題になった件の当事者であるパット・バレルが、大きな問題をひき起こしている。
5番バレルは、初回に5人目の打者として登場したが、Gamedayのグリッドで見るかぎり、明らかにストライクの「インローいっぱいに決まるカットボール」でロイ・ハラデイに三振させられた。
だがバレルは、その際、たぶん「ストライク判定」が不服だったのだろう、例のマーケイキスとショーウォルターを退場させた球審Jeff Nelsonに、大声を出して文句をつけている。
だがバレルは、球審の判定に声を張り上げて文句を言うだけで(それだけで、既に退場ものだが)済まさずに、ベンチに引き上げていくロイ・ハラデイに対して、何か大声で怒鳴り散らした。
ブログ主は、ひとの唇の動きを読めるような達人ではない。だが、動画によれば、なんとなくフォー・レター・ワーズを使っているようにも見える。もしこのとき、いわゆる「フォー・レター・ワーズ」を使っているとしたら、球審は、なんらかの処分、というより、バレルを即時退場にすべきだ。
だが、球審Jeff Nelsonは、8月にマーケイキスは退場処分にしたクセに、このときは、動画を見ればわかるように、ただバレルの行動をいさめただけで、退場にしなかった。
球審に文句をつけるパット・バレルの動画
YouTube - 100_0088[1].MP4
2010年10月21日
NLCS Game 5
1回裏 2アウト1、2塁
ジャイアンツ5番
パット・バレルへの4球目
低めいっぱいのカットボール。Gamedayのグリッドで見るかぎり、あきらかに「ストライク」。それなのにバット・バレルは球審とロイ・ハラデイに怒鳴り散らした。
球審Jeff Nelsonはバレルを即刻退場にすべきだった。
この初回の「バレル怒鳴り散らし事件」については、このゲームを取材していた沢山のメディアも気がついており、ニューヨーク・デイリーニューズ電子版などは、通常の野球記事のように、この日のゲーム内容を記事にするだけでなく、「バレル怒鳴り散らし事件」を含めて記事にしている。
ニューヨーク・デイリーニューズは、ロイ・ハラデイ自身に、ベンチに引き上げていくときの事情について質問さえしていて、さらにはハラデイからの回答も記事にしている。記事によればロイ・ハラデイは、
There are a lot of emotions at this point in the season.
「この件はシーズン中からいろいろと紆余曲折があるんだ。」
と、数々のいきさつや感情が複雑に折り重なった、やっかいな問題が存在することを認めつつ、
I thought it was a pretty good pitch.
「僕が投げたボール(初回バレルに投げたカットボール)は非常にいい球だったと思っているよ。」
と、「投球が明らかにストライクだった」と確信していることを、明確に示した。
Roy Halladay pulls groin but bests Giants 4-2, as Phillies send NLCS back to Philadelphia down 3-2、
このGame 5の初回と6回の出来事をならべるとわかることだが、これは言いたくもないが、6回のポージーの打席で「低めいっぱいに入っているカットボール」を、それも「2球連続してボール判定」したのは、球審Jeff Nelsonが「初回のバレルの打席のストライク判定と帳尻をあわせた」可能性があるのである。
だが、ここが肝心な点だが、ボール自体は、動画やGamedayのグリッドで見るかぎり、10月16日Game 1の6回表バレルの打席で「ボール」判定されたカットボールも、Game 5の1回裏にバレルが三振した「ストライク」判定のカットボールも、6回ポージーへの2-2からの「2球連続ボール判定」されたカットボールも、どれもこれも「ストライク」といってさしつかえないと、ブログ主は判断している。
球審がストライクコールをしているのに、球審にも、相手投手にも汚い言葉で怒鳴るなど、もってのほかだ。そして球審は、そういう選手をこそ退場にしないで、誰を退場にするというのだ。
10月16日の「ボール」判定では、ロイ・ハラデイだってよほど腹がたったかもしれないが、彼は判定に不服などつけたりはしなかった。
それに、そもそも10月16日の「ボール」判定においては、パット・バレル側は「得」をしている側であり、ゲームにも勝っているわけであって、この初回の「ストライク」を「ストライク」と判定したことに、顔を真っ赤にして、青筋たてて怒る筋合いは全くない。
もし仮に、プレーヤーに恫喝されて、球審が判定を後で「帳尻させている」と邪推されかねない行為があるとすれば、そのアンパイアには非常に問題がある。責任をとって、このポストシーズンのアンパイアを自主的に辞退したほうがいいと思う。
そもそも、この「バレルとロイ・ハラデイの間の遺恨」が発生してしまった原因は、ここまで書いてきたことでわかるように、10月16日のバレルでの打席で「ストライク」のカットボールを「ボールと判定ミスしたこと」にあることを忘れてはならない。
あきらかな「ボール」を「ストライク」とコールされて怒ったマーケイキスは退場にさせたクセに、あきらかな「ストライク」を「ストライク」とコールされただけなのに、逆ギレして怒鳴り散らしたパット・バレルは退場にしない。また、どれもこれも「ストライク」である「低めいっぱいのカットボール」を、「ボール」といってみたり、「ストライク」といってみたり、挙句の果てに「2球連続ボール」とコールしてみたり。この審判団は判定に一貫性がなく、グラグラと揺らいでばかりいる。だから、こういう不愉快な事件が続発することになる。
October 07, 2010
なんと形容すればいいか、言葉が追いつかない。
なんという素晴らしいドラマ。MLBは本当に素晴らしい。
104球。79のストライク、8三振。1四球。
12シーズン所属したトロントを今年離れ、フィラデルフィアに移籍した"Doc"こと、ロイ・ハラデイ。いきなりレギュラーシーズンで250イニング登板して21勝を挙げ、完全試合も達成。2003年のア・リーグに続いて両リーグ受賞となるナ・リーグのサイ・ヤング賞は間違いない。(両リーグでサイ・ヤング賞投手になったのは、スピットボールで有名なゲイロード・ペリー、先日PBSの"The Tenth Inning"でも取り上げられていたペドロ・マルチネス、元シアトルのランディ・ジョンソン、ステロイダーのロジャー・クレメンス)
そして今日10月6日は念願だったポスト・シーズンでの初登板だったが、なんと、いきなりシンシナティをノーヒット・ノーラン(というか、準完全試合)にしとめた。
ポストシーズンでのノーヒットノーランは、1956年ワールドシリーズで、ヤンキースのドン・ラーセンがドジャース相手に完全試合を達成して以来、54年ぶり2度目。
今年ナ・リーグのサイ・ヤング賞投票で彼、大投手ロイ・ハラデイの名前を書かない記者など、ありえない。
間違いなく、いま、MLB最高の投手は、彼だ。
おめでとう、ドク。
Roy Halladay Postseason Statistics | phillies.com: Stats
Cincinnati Reds at Philadelphia Phillies - October 6, 2010 | MLB.com Gameday
27個のアウト全部が見られる動画
Doctober! No-no for Halladay in playoff debut | MLB.com: News
試合直後のインタビュー
試合直後のインタビューでロイ・ハラデイは、Dream comes true.とポストシーズンで初めて登板できた嬉しさを淡々と語ったほか、キャッチャーの Carlos Ruizの名前を挙げて、今日の偉業にとって、キャッチャーの強力なサポートが不可欠だったと褒めたたえた。Carlos Ruizは、1979年生まれで、フィリー生え抜きの5年目。今年初めて3割を打っている。
Baseball Video Highlights & Clips | CIN@PHI Gm 1: Halladay talks on-field about his no-no - Video | MLB.com: Multimedia
上に挙げた動画で、27のアウト全部、正確にいうと、27個のアウトと、たった1個のフォアボールを、5分間にわたって見ることができる。MLBの動画サービスはいつも素晴らしいが、全部のアウトを編集している動画は珍しい。
いかにロイ・ハラデイが「落ちる変化球で打者をしとめているか」が、非常によくわかる。メジャーの決め球は「アウトコース低め一杯のストレート」などではなく、「変化球」なのである。
この動画、注意して見ると、それぞれの打者に投げた配球を表す小さい画面が、全部の打者の分、映っている。「ひとりの打者を、ほんとうに少ない球数でしとめる」ロイ・ハラデイの特徴が、非常によくわかる。三振も、三球三振が少なくない。
いつぞや、トロント時代の2009年にボストンのオルティーズを三球三振にしとめた配球の素晴らしさを紹介したことがあった(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い)が、あのときと同じようにハーフハイトの球を使った美しい三球三振を、また今日も見られたのには感激した。
2009年9月30日
トロント時代にオルティーズを三球三振にとった配球
2球目に変化球を低めに決めるのがポイント。
チェンジアップ
カットボール
カーブ
2010年10月6日
ハーフハイトの球を使った
あまりにも美しい三球三振
ストレート
チェンジアップ
カットボール
October 01, 2009
芸術的な三振だった。
Toronto vs. Boston - September 30, 2009 | MLB.com: Gameday
上の画像は、さきほどボストンの大敗に終わったトロント対ボストンのゲームで、7回に大投手ロイ・ハラデイが、DHデビッド・オルティースを3球三振にとった場面である。
このゲームで大投手ハラデイは、ポストシーズン進出が決まって2軍を出してきたボストンとはいえ、わずか100球で完封してしまったわけだが、ストライクはまったくセオリーどおりの68球(つまり、ピッタリ3球に2球がストライク)。
この三振を見るだけで、「少ない球数で相手を討ち取る技術にかけてはメジャー屈指の大投手」として名を馳せるハラデイの配球術が、いかに素晴らしく、レベルが高いか、わかろうというもの。
ここまでくると、もう一種の配球芸術ですらある。
初球、チェンジアップをアウター・ハーフに
ストライク
ここでいうハーフというのは、ハーフハイト、つまり「中ほどの高さ」ということ。
ピッチング、というと、コネ捕手城島(笑)ではないが、なんでもかんでも「コーナーいっぱい」に決めるものと思っている馬鹿がいる。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて話にならない。
ハーフハイト(中間の高さの球)をメインに使った配球パターンくらい、アメリカの初歩の教科書といわず、どこにでも普通に書かれている(例:WebBall.com - Pitch Sequence & Selection)わけだが、コネ捕手さんは、いつまでたっても「ストライクゾーンのコーナーいっぱいにストレートをズバっと決める」みたいな、日本の高校野球みたいなことばかり考えている。(コネ捕手の追従者の馬鹿なライター、新聞記者、ファンも同様だ。だが、いまどき日本の高校野球でもそんな配球ばかりしていたら勝てない。下記の日米比較リンク等を参照)
日米の配球に対する考え方の違いの例
下記のリンクをまとめて言えば、アメリカで最初に教える基本配球パターンは「インコースにストレート、アウトコースに変化球」。また、決め球に変化球が使われることも多い。
ひるがえって、日本の野球では、「アウトコースのストレートがピッチングの基本であり、勝負球でもある」と考えることが多い。(もちろん、その「日本では通用するストレート」がメジャーに来たら通用しないことが後からわかるからこそ、メジャーに来る日本の投手は誰も彼も苦労する。)
(1)コースと球種
アメリカの配球についての記事:6つの初歩の配球パターン
「基本はインコースにストレート、アウトコースに変化球」
WebBall.com - Pitch Sequence & Selection
日本での配球での考え方の例
「配球の基本はアウトコースのストレート」という昔ながらの考え
配球の基本 | 今関勝の野球はやっぱり面白い | スポーツナビ+)
(2)特定カウントで使う球種
日本野球での配球の違いに関する発言例:阪神ブラゼル
「昨年はメジャー流の考え方が頭に染み付いていて、日本の配球になじめなかった。例えば、カウント0―2や0―3になれば、メジャーでは間違いなく直球が来るので狙い球が絞りやすい。でも、日本はフォークなどの変化球を投げてくる。しかも、日本の左腕はカーブやスライダーを投げる投手が多い。右に打球を引っ張りたいボクには合わなかった。」
ゲンダイネット
日本野球での配球の違いに関する発言例2:阪神メンチ
「アメリカと配球が逆だ。アメリカは基本的には変化球を決め球で使うことが多い。でも日本は初球から変化球が来て、ストレートを決め球にする。」
阪神・メンチ「配球分かってきた」…きょう中日戦 ― スポニチ Sponichi Annex 大阪
高校野球での配球についての記事:
あまりにも極端な配球! 日本文理が仕掛けていた大胆な策。[詳説日本野球研究] - 高校野球コラム - Number Web - ナンバー
2球目、カットボールをインナー・ハーフに
2ストライク
さて、ハラデイの配球芸術の話に戻ろう。
2球目はカットボールをインコースに投げて、速度とコースを変えた。
だが、2球目で最も大事なことは、1球目同様に「ハーフハイト」、つまり「中ほどの高さ」に決まったことだ。
これはもちろん偶然そうなったのではなく、3球目への「布石」だ。ハーフハイトへの投球は、「意図的」にそうしているのであり、コントロールのいい投手でなければ投げられない。
初球にハーフハイトの球で配球を開始するパターンの場合、多くは2球目を低め一杯に決めたりはしない。むしろ、1球目、2球目と続けてハーフハイトに決めて、3球目に(沈む変化球などで)変化をつけることが多い。
もしもこの2球目が、日本のキャッチャーがよくやりたがるように「インロー、内角低め一杯に決まるストレート」だったら、3球目はまるで違った球にしないといけなくなるだろう。
また、たまたま投手ハラデイがコントロールをミスして、2球目のカットボールが「うっかり低め一杯にに決まってしまった」場合も、3球目は、別の球になっていた可能性があるし、3球目を勝負球にしなかった可能性もある。
それくらい、2球目の「ハーフハイト」の高さは大事なのである。
3球目、カーブをインローに
空振り三振
3球目は、インコースの低めいっぱいに、カーブ。打者オルティースのバットが空を切って、見事に3球三振。
この低めへの3球目のカーブをみればこそ、2球目で投げるカットボールは、かえって「低め一杯に決めるべきではない」ということはわかってもらえるはずだ。
3球目をみれば、1、2球目を「中ほどの高さ」にしていること、特に「2球目で低めいっぱいをついてはならないこと」の大きな意味がわかるだろう。「勝負は2球目でおおよそついている」のである。だから3球目が生きてくる。
もし2球目で「低め一杯のストレート」を投げていれば、どうだろう。もし3球目にこのカーブを投げていたとしても、2球目と3球目で球道、つまりマウンドからホームプレートまでの中間のボールの軌道が、まったく違う球が同じコースに来る以上、バッター側にしてみれば、3球目を見切るのはむつかしくない。バットを振ってこない可能性が高い。
同じ球道に、まずストレート系(この場合のハラデイはカットボール)を投げておいて、次にカーブを投げるのは、アメリカでたいへんによく研究されているテクニックである。(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」)
2球目に低めいっぱいのストレートを投げてしまっては、打者に3球目の変化球を見切られやすく、カーブを投げる効果がなくなってしまう。
「高めのストレートを使って打者を凡退させるテクニック」もある
例:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:最終テキサス戦にみるロブ・ジョンソンの「引き出し」の豊かさ (1)初球に高めストレートから入る)その場合は、入りの球からして、別の球になる。
ハラデイがここで使ったのは「ハーフハイトの球を有効に使う配球パターン」であって、「高めの球からわざと入るパターン」ではない。ハーフハイトにきっちり決めるコントロール、変化球のキレ、配球パターン、打者の好みやクセに対する対応。あらゆる点でハラデイの素晴らしい投球術である。
ちなみに、インコースとアウトコースにボールを交互に投げわけた先日のコネ捕手城島の「あまりにも不細工な、醜い配球」を、比較のために挙げておく。アウトコースとインコースにストレートを投げわけただけ(爆笑)こういうのはEast-west pitchingとは、とても呼べない(笑)
ハラデイの芸術と、コネ捕手、両者を比べてみれば、コネ捕手のリードぶりにいかに鮮やかさや芸術性がなく、脳の中身がいかに不細工で知恵がないか、わかると思う(笑)
2009年9月27日 8回
打者バーノン・ウェルズ
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