2012イチロー・ミラクル・セプテンバー全記録
September 29, 2012
適度に、とか、手加減なんて意味のないことをしないのが、
イチローの真骨頂だ。
9月19日からのダブルヘッダーを含むホーム3連戦でトロントをスイープしたあたりで始まった 「イチロー・ミラクル・セプテンバー」は、当然、オークランド戦以降も形を変えつつ続いている。
ある期間、イチローの走攻守は「度を越した好調」を維持し続けていた。あまりに好調過ぎて「ときどき度を越してしまう」のだが、ますます「空気の読めないイチロー」らしくていい(笑)
そういう「周囲の空気と無関係に生きるイチロー的な流れ」の中で、9月21日以降のオークランド3連戦では、「野球マンガの中でしか起こりえないような出来事」がびっくりするほど次々と起きた。
第1戦で「イチローの打球が、ピッチャーのジャージーの中に入って内野安打」。「ワンバウンドするほど低いカーブを、軽々とヒット」。第2戦では、「新人君のサードベース踏み忘れで、サヨナラならず」の直後、「延長でとられた4点差を追いついて、しかもサヨナラ勝ち」。
ミネソタ3連戦はそれなりに平凡なゲームだった(笑)が、9月27日からのトロント(ビジター)第2戦で「グランダーソンのピッチャーライナーが、ピッチャーのグラブをはじき飛ばしたが、ピッチャーがそのグラブごとキャッチして、アウトになった」という非常に珍しいシーンを見たとき、「しめた! このゲーム、間違いなく勝った!」と思ったものだ(笑)
「特別なことが起きたゲームは、勝つ」。
その理由を、以下に書く。
最近活躍が多いせいで、大きく増えたイチローに関するアメリカのメディア記事を読んでいると、「火のついたイチロー体験」のまだ浅いメディアやブロガーが、いまだにたくさんいることがわかる。
なぜって、「火のついたイチローの周囲では、野球マンガでしか起こらないようなことが、平気で起きる」。そして、それこそが「本来のイチローの持ち味」だ、ということを、いまだに彼らが理解できていないからだ。
悪いけれど、日本の熱心なイチローファンなら、こんなことは、はるか昔から誰でもわかっている。
その、「とっくにわかっている我々」でさえ、イチローがプロデビューして20年、いまだに、なぜか「火のついたときのイチロー」が関わると「野球マンガでしか起こらないはずの出来事が普通に起こる」ことに驚かされ続けているのだ。
ましてや、「火のついたイチロー」未経験のニューヨーカーや、真のイチローの凄さに気がつこうとしてこなかったアメリカの野球オヤジどもが、「イチローと、イチローの出場するゲームで、野球マンガでしか起こらないような風変わりなことが次々と起こること」に、ビックリさせされないわけはない。(まぁ、イチロー初心者には、無理もないが)
だから逆に言えば、「イチローに火がついているかどうか、確かめる作業」なんてのは、まったく難しくない。キャンプ場で焚火するより簡単。子供でも、できる。
イチローと、イチローの出場する現実のゲームにおいて、「野球マンガでしかありえないようなことが、起きているかどうか」を確かめるだけ、それだけでいいのだ。
それが、「イチローに火がついているかどうか」を確かめる「リトマス試験紙」だ。
よくSF映画で、「時空の歪み」を計測することによって、その場所で「ワープ」が起きていたのかどうか確かめるシーンがあるが、あれと意味はほぼ変わらない。
もしもし「イチローに火がついた」なら、野球という常識まみれの空間は多少歪んでしまい、普段起こらないようなことも平気で起きるのである。だから、イチローに火がついたら、多少のハプニングで驚いていてはいけないのだ。
だからこそ、例えばワンバウンドの球ですらヒットにしてきたイチローを、やれ出塁率だの、選球眼だのと、へリクツばかり言うヤツは馬鹿だと、ブログ主は常に公言している。
ワンバウントの球を打ち、まるでスパイダーマンのように壁によじ登って捕れるはずのない打球を捕球し、ありえない塁まで盗塁しようとするくらい、「火のついたイチロー」には普通の出来事だ。
コアなデータ分析家の多いアメリカですら匙を投げたイチローに、ファン、メディア、データ馬鹿、評論家、野球監督、無能GMの「データや常識などという、あさはかなモノサシ」など、通用しない。
常識がはりめぐらされた「結界」のような膠着状態を打ち破る陰陽師のような役割が、イチローの本来の持ち味なのだ。
だから、膠着状態の続いた状態でイチローが塁に出ることによって、ホームランに頼ってばかりでタイムリーが出ず、得点力が大幅に低下して負け続けていたヤンキースに新たな展開が生まれてくるのは、当然のことだ。
だからこそ、他チームの監督、特にイチローをよく知るバック・ショーウォルター、ボブ・メルビン、マイク・ソーシアなどは、「均衡破りのプロ」イチローの出塁を忌み嫌う。
当然だ。彼らは、「火のついた状態のイチロー」が出塁することによって、あらゆる均衡がほころびて、結界が破れることを、リクツ抜きにわかっていて、イチローのプレーから自由を奪うことに躍起になって取り組んできたのである。
もうおわかりだろう。
ゲームで、「おいおい、こんなことが起こっていいのか?」と思うような出来事を見たら、それはイチローが好調をキープしている証拠だと思っていいのだ。
9月21日 オークランド 第1戦
「シャツヒット」
Oakland Athletics at New York Yankees - September 21, 2012 | MLB.com Classic
3回裏、まだヤンキースにヒットの無い場面で、イチローの打球が、オークランド先発、ジャロッド・パーカーが、エリのボタンをはずして着ていたジャージー(ユニフォームの上のシャツのことだ)の中に飛び込んでしまう。
パーカーは、ボールを捕り出してファーストに送球しようと、襟元から手を突っ込んで必死にもがいたが、ボールを取り出すことができず、結果的にイチローは内野安打になり、ヤンキースのチーム初ヒットが生まれた。
次のイニング、マウンドに登場したパーカーの襟元のボタンは「きっちりと閉められていた」のを見たYES(=ヤンキースの実況担当チーム)の実況席は笑いころげた(笑)
試合後イチローも「一生に一度ないことでしょう」と言ってニヤニヤしていたようだ。たしかに一生見ることのないはずの出来事が起きたのは事実だが、逆に言えば、そういう「野球マンガでしか起きない、ありえないプレー」を、現実の野球で起こし続けてきた選手に言われてもなぁ・・・、という気もする(笑)
試合は結局ラッセル・マーティンのサヨナラホームランで、ヤンキース勝利。
9月22日 オークランド 第2戦
「新人君のサードベース踏み忘れ」
「延長4点差をひっくり返してサヨナラ勝ち」
延長13回表にオークランドに4点をとられ、誰もが「万事休す」と思った13回裏。先頭バッターのイチローがセカンド内野安打で出塁すると、均衡が破れた。あれよあれよと言う間にチャンスが広がって、ノーアウト満塁。
ここでまず、ピッチャー、パット・ネシェックがワイルドピッチ。イチローが生還して、3点差。さらに犠牲フライに続いて、ラウル・イバニェスの起死回生の2ランが飛び出して、同点に追いつく。
14回裏、エリック・チャベスがシングルヒットで出塁。ジーターがバントで送って、1死2塁のサヨナラのチャンスを作る。オークランドは、絶好調の2番イチローを敬遠して、1死1、2塁。ここでAロッドがセンター前を放った。本来ならセカンドランナーが生還してサヨナラになり、Aロッドがヒーローになる「はず」だった。
ところがなんと、セカンドランナーとして代走起用された新人メルキー・メサがサードベースを踏み忘れてしまい、ベースを回ってから気づいて、あわてて塁に戻るというボーンヘッドが起き、サヨナラを逃した。
1死満塁で、次打者カノーはピッチャーゴロ。サードランナーが本塁憤死して、2死満塁に変わり、バッターはヌネス。
ここでヌネスはファーストゴロだったのだが、オークランドの一塁手、ブランドン・モスが打球を足で蹴飛ばしてしまい、エラーに。サードランナーのイチローが生還し、ゲームセット。
まるで測ったように、イチローで始まり、イチローが生還したイニングによって、ゲームが終わった。
Oakland Athletics at New York Yankees - September 22, 2012 | MLB.com NYY Recap
サードベース踏み忘れ
動画:Budweiser: Walk-Off A Hero | OAK@NYY: Yankees walk off on an error in the 14th - Video | MLB.com: Multimedia
9月28日 トロント 第2戦(ビジター)
ボール&グラブ フライ・キャッチ
初回の2死2塁で、カーティス・グランダーソンが、トロントの新人ピッチャー、チャド・ジェンキンズのグラブを弾き上げるほどの強烈な当たりを打った。ジェンキンズはその打球をグラブに収めたかに見えたが、あまりにも強い打球だったために、ジェンキンズのグラブは真上に跳ね上がった。
だが、そのボールの入ったグラブが真上に跳ね上がったことが幸いして、ジェンキンズは落ちてきたボールとグラブを、グラブごとキャッチしたため、グランダーソンはアウトになった。
ジェンキンズは立ち上がりこそヤンキース打線を翻弄するかに見えたが、ランナーが出てからのピッチングがまったくダメなことがわかり、失点を重ねて、いつのまにかヤンキースの楽勝に終わった。
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さて、かの有名なデータサイト、Baseball Referenceで、イチローのページを開けると、こんな表記がある。
Ichiro Suzuki Statistics and History - Baseball-Reference.com
太字の名前に続けて、2行目に、Wizard とある。
Baseball Referenceでは、名前の後にカッコ書きがつく場合、その選手のニックネームとか略称という意味になる。Wizardとは「魔法使い」のことだが、データサイトの大御所であるBaseball Referenceが、アメリカにおけるイチローの代表的なニックネームとして、Wizardを挙げているわけだ。
だがこれは、日本ではコアなイチローファンくらいしか知らないニックネームだし、アメリカのスポーツメディアが記事でイチローのニックネームとされるWizardという単語を使う機会も、滅多にない。
データサイトの大御所であるBaseball Referenceは、プレーやゲームのデータについては、MLBの公式データにも肩を並べるくらいの高い権威があるのは確かだが、さすがに「選手のニックネーム」ともなると、Baseball Referenceに書かれているニックネームの全てが、ファンやマスメディアに広くオーソライズされているわけでもない。
例えば、デレク・ジーターのニックネームは、Baseball Referenceによれば "Mr. November" とか、 "Captain Clutch" とか記載されているが、実際に最もよく使われるニックネームといえばは、もちろん、短く「キャプテン」だ。
また、ニューヨークメディアはマーク・テシェイラを、短くTex、カーティス・グランダーソンを短縮してGrandyと呼ぶことも多いが、Baseball Referenceにおける記述では、Texは載せているくせに、Grandyのほうは記載していない。
では、 "Wizard" というニックネームがまったく使われいないかというと、そうでもない。
イチローがメジャーデビューした2001年のTIME誌の記事にも、既にWizardという単語が使われているし、また、2009年だかにESPNのChris Bermanが行ったイチローのニックネームに関する調査によれば(圧倒的な支持率とは到底いえないが)、いちおう最も高い比率で "Wizard" が1位に支持されている。
ESPN.com - Page2 - Case No. 5, Ichiro Suzuki
The BrooklynTrolleyBlogger: N.Y. Yankees ~ Ichiro; The Wizard Comes Home
Ichiro Is Still A Wizard - Lookout Landing
The Wizardと名付けられた
シアトル時代の球団CM(2009年)
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移籍して9月以降のイチローの活躍ぶりを見るかぎり、「火のついたときのイチロー」が、かつて石原裕次郎の歌った『嵐を呼ぶ男』、つまり、野球でいうなら、「常識による膠着や、事態の均衡、結界を破って、野球マンガの中でしか起こりえないと誰もが思っていることを、実際の野球で起こしてしまう、ある種、特別なプレーヤーであること」は確実なようだ。
と、なると、この "Wizard" 「魔法使い」という耳慣れないニックネームも、実は非常に要を得たニックネームなのかもしれない、という気がしてくる。
イチローの真骨頂だ。
9月19日からのダブルヘッダーを含むホーム3連戦でトロントをスイープしたあたりで始まった 「イチロー・ミラクル・セプテンバー」は、当然、オークランド戦以降も形を変えつつ続いている。
ある期間、イチローの走攻守は「度を越した好調」を維持し続けていた。あまりに好調過ぎて「ときどき度を越してしまう」のだが、ますます「空気の読めないイチロー」らしくていい(笑)
そういう「周囲の空気と無関係に生きるイチロー的な流れ」の中で、9月21日以降のオークランド3連戦では、「野球マンガの中でしか起こりえないような出来事」がびっくりするほど次々と起きた。
第1戦で「イチローの打球が、ピッチャーのジャージーの中に入って内野安打」。「ワンバウンドするほど低いカーブを、軽々とヒット」。第2戦では、「新人君のサードベース踏み忘れで、サヨナラならず」の直後、「延長でとられた4点差を追いついて、しかもサヨナラ勝ち」。
ミネソタ3連戦はそれなりに平凡なゲームだった(笑)が、9月27日からのトロント(ビジター)第2戦で「グランダーソンのピッチャーライナーが、ピッチャーのグラブをはじき飛ばしたが、ピッチャーがそのグラブごとキャッチして、アウトになった」という非常に珍しいシーンを見たとき、「しめた! このゲーム、間違いなく勝った!」と思ったものだ(笑)
「特別なことが起きたゲームは、勝つ」。
その理由を、以下に書く。
最近活躍が多いせいで、大きく増えたイチローに関するアメリカのメディア記事を読んでいると、「火のついたイチロー体験」のまだ浅いメディアやブロガーが、いまだにたくさんいることがわかる。
なぜって、「火のついたイチローの周囲では、野球マンガでしか起こらないようなことが、平気で起きる」。そして、それこそが「本来のイチローの持ち味」だ、ということを、いまだに彼らが理解できていないからだ。
悪いけれど、日本の熱心なイチローファンなら、こんなことは、はるか昔から誰でもわかっている。
その、「とっくにわかっている我々」でさえ、イチローがプロデビューして20年、いまだに、なぜか「火のついたときのイチロー」が関わると「野球マンガでしか起こらないはずの出来事が普通に起こる」ことに驚かされ続けているのだ。
ましてや、「火のついたイチロー」未経験のニューヨーカーや、真のイチローの凄さに気がつこうとしてこなかったアメリカの野球オヤジどもが、「イチローと、イチローの出場するゲームで、野球マンガでしか起こらないような風変わりなことが次々と起こること」に、ビックリさせされないわけはない。(まぁ、イチロー初心者には、無理もないが)
だから逆に言えば、「イチローに火がついているかどうか、確かめる作業」なんてのは、まったく難しくない。キャンプ場で焚火するより簡単。子供でも、できる。
イチローと、イチローの出場する現実のゲームにおいて、「野球マンガでしかありえないようなことが、起きているかどうか」を確かめるだけ、それだけでいいのだ。
それが、「イチローに火がついているかどうか」を確かめる「リトマス試験紙」だ。
よくSF映画で、「時空の歪み」を計測することによって、その場所で「ワープ」が起きていたのかどうか確かめるシーンがあるが、あれと意味はほぼ変わらない。
もしもし「イチローに火がついた」なら、野球という常識まみれの空間は多少歪んでしまい、普段起こらないようなことも平気で起きるのである。だから、イチローに火がついたら、多少のハプニングで驚いていてはいけないのだ。
だからこそ、例えばワンバウンドの球ですらヒットにしてきたイチローを、やれ出塁率だの、選球眼だのと、へリクツばかり言うヤツは馬鹿だと、ブログ主は常に公言している。
ワンバウントの球を打ち、まるでスパイダーマンのように壁によじ登って捕れるはずのない打球を捕球し、ありえない塁まで盗塁しようとするくらい、「火のついたイチロー」には普通の出来事だ。
コアなデータ分析家の多いアメリカですら匙を投げたイチローに、ファン、メディア、データ馬鹿、評論家、野球監督、無能GMの「データや常識などという、あさはかなモノサシ」など、通用しない。
常識がはりめぐらされた「結界」のような膠着状態を打ち破る陰陽師のような役割が、イチローの本来の持ち味なのだ。
だから、膠着状態の続いた状態でイチローが塁に出ることによって、ホームランに頼ってばかりでタイムリーが出ず、得点力が大幅に低下して負け続けていたヤンキースに新たな展開が生まれてくるのは、当然のことだ。
だからこそ、他チームの監督、特にイチローをよく知るバック・ショーウォルター、ボブ・メルビン、マイク・ソーシアなどは、「均衡破りのプロ」イチローの出塁を忌み嫌う。
当然だ。彼らは、「火のついた状態のイチロー」が出塁することによって、あらゆる均衡がほころびて、結界が破れることを、リクツ抜きにわかっていて、イチローのプレーから自由を奪うことに躍起になって取り組んできたのである。
もうおわかりだろう。
ゲームで、「おいおい、こんなことが起こっていいのか?」と思うような出来事を見たら、それはイチローが好調をキープしている証拠だと思っていいのだ。
9月21日 オークランド 第1戦
「シャツヒット」
Oakland Athletics at New York Yankees - September 21, 2012 | MLB.com Classic
3回裏、まだヤンキースにヒットの無い場面で、イチローの打球が、オークランド先発、ジャロッド・パーカーが、エリのボタンをはずして着ていたジャージー(ユニフォームの上のシャツのことだ)の中に飛び込んでしまう。
パーカーは、ボールを捕り出してファーストに送球しようと、襟元から手を突っ込んで必死にもがいたが、ボールを取り出すことができず、結果的にイチローは内野安打になり、ヤンキースのチーム初ヒットが生まれた。
次のイニング、マウンドに登場したパーカーの襟元のボタンは「きっちりと閉められていた」のを見たYES(=ヤンキースの実況担当チーム)の実況席は笑いころげた(笑)
試合後イチローも「一生に一度ないことでしょう」と言ってニヤニヤしていたようだ。たしかに一生見ることのないはずの出来事が起きたのは事実だが、逆に言えば、そういう「野球マンガでしか起きない、ありえないプレー」を、現実の野球で起こし続けてきた選手に言われてもなぁ・・・、という気もする(笑)
試合は結局ラッセル・マーティンのサヨナラホームランで、ヤンキース勝利。
9月22日 オークランド 第2戦
「新人君のサードベース踏み忘れ」
「延長4点差をひっくり返してサヨナラ勝ち」
延長13回表にオークランドに4点をとられ、誰もが「万事休す」と思った13回裏。先頭バッターのイチローがセカンド内野安打で出塁すると、均衡が破れた。あれよあれよと言う間にチャンスが広がって、ノーアウト満塁。
ここでまず、ピッチャー、パット・ネシェックがワイルドピッチ。イチローが生還して、3点差。さらに犠牲フライに続いて、ラウル・イバニェスの起死回生の2ランが飛び出して、同点に追いつく。
14回裏、エリック・チャベスがシングルヒットで出塁。ジーターがバントで送って、1死2塁のサヨナラのチャンスを作る。オークランドは、絶好調の2番イチローを敬遠して、1死1、2塁。ここでAロッドがセンター前を放った。本来ならセカンドランナーが生還してサヨナラになり、Aロッドがヒーローになる「はず」だった。
ところがなんと、セカンドランナーとして代走起用された新人メルキー・メサがサードベースを踏み忘れてしまい、ベースを回ってから気づいて、あわてて塁に戻るというボーンヘッドが起き、サヨナラを逃した。
1死満塁で、次打者カノーはピッチャーゴロ。サードランナーが本塁憤死して、2死満塁に変わり、バッターはヌネス。
ここでヌネスはファーストゴロだったのだが、オークランドの一塁手、ブランドン・モスが打球を足で蹴飛ばしてしまい、エラーに。サードランナーのイチローが生還し、ゲームセット。
まるで測ったように、イチローで始まり、イチローが生還したイニングによって、ゲームが終わった。
Oakland Athletics at New York Yankees - September 22, 2012 | MLB.com NYY Recap
サードベース踏み忘れ
動画:Budweiser: Walk-Off A Hero | OAK@NYY: Yankees walk off on an error in the 14th - Video | MLB.com: Multimedia
9月28日 トロント 第2戦(ビジター)
ボール&グラブ フライ・キャッチ
初回の2死2塁で、カーティス・グランダーソンが、トロントの新人ピッチャー、チャド・ジェンキンズのグラブを弾き上げるほどの強烈な当たりを打った。ジェンキンズはその打球をグラブに収めたかに見えたが、あまりにも強い打球だったために、ジェンキンズのグラブは真上に跳ね上がった。
だが、そのボールの入ったグラブが真上に跳ね上がったことが幸いして、ジェンキンズは落ちてきたボールとグラブを、グラブごとキャッチしたため、グランダーソンはアウトになった。
ジェンキンズは立ち上がりこそヤンキース打線を翻弄するかに見えたが、ランナーが出てからのピッチングがまったくダメなことがわかり、失点を重ねて、いつのまにかヤンキースの楽勝に終わった。
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さて、かの有名なデータサイト、Baseball Referenceで、イチローのページを開けると、こんな表記がある。
Ichiro Suzuki Statistics and History - Baseball-Reference.com
太字の名前に続けて、2行目に、Wizard とある。
Baseball Referenceでは、名前の後にカッコ書きがつく場合、その選手のニックネームとか略称という意味になる。Wizardとは「魔法使い」のことだが、データサイトの大御所であるBaseball Referenceが、アメリカにおけるイチローの代表的なニックネームとして、Wizardを挙げているわけだ。
だがこれは、日本ではコアなイチローファンくらいしか知らないニックネームだし、アメリカのスポーツメディアが記事でイチローのニックネームとされるWizardという単語を使う機会も、滅多にない。
データサイトの大御所であるBaseball Referenceは、プレーやゲームのデータについては、MLBの公式データにも肩を並べるくらいの高い権威があるのは確かだが、さすがに「選手のニックネーム」ともなると、Baseball Referenceに書かれているニックネームの全てが、ファンやマスメディアに広くオーソライズされているわけでもない。
例えば、デレク・ジーターのニックネームは、Baseball Referenceによれば "Mr. November" とか、 "Captain Clutch" とか記載されているが、実際に最もよく使われるニックネームといえばは、もちろん、短く「キャプテン」だ。
また、ニューヨークメディアはマーク・テシェイラを、短くTex、カーティス・グランダーソンを短縮してGrandyと呼ぶことも多いが、Baseball Referenceにおける記述では、Texは載せているくせに、Grandyのほうは記載していない。
Baseball Reference記載のニックネーム例
ベーブ・ルース
(The Bambino or The Sultan Of Swat)
ゲーリッグ
(The Iron Horse, Biscuit Pants or Buster)
ディマジオ
(Joltin' Joe or The Yankee Clipper)
アレックス・ロドリゲス (A-Rod)
ジーター (Mr. November or Captain Clutch)
テシェイラ (Tex)
では、 "Wizard" というニックネームがまったく使われいないかというと、そうでもない。
イチローがメジャーデビューした2001年のTIME誌の記事にも、既にWizardという単語が使われているし、また、2009年だかにESPNのChris Bermanが行ったイチローのニックネームに関する調査によれば(圧倒的な支持率とは到底いえないが)、いちおう最も高い比率で "Wizard" が1位に支持されている。
"Wizard!" the Mariners cried.
"Wiz-aaard!"
"Wizzzzz!"
Ichiro the Hero - TIME
ESPN.com - Page2 - Case No. 5, Ichiro Suzuki
The BrooklynTrolleyBlogger: N.Y. Yankees ~ Ichiro; The Wizard Comes Home
Ichiro Is Still A Wizard - Lookout Landing
The Wizardと名付けられた
シアトル時代の球団CM(2009年)
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移籍して9月以降のイチローの活躍ぶりを見るかぎり、「火のついたときのイチロー」が、かつて石原裕次郎の歌った『嵐を呼ぶ男』、つまり、野球でいうなら、「常識による膠着や、事態の均衡、結界を破って、野球マンガの中でしか起こりえないと誰もが思っていることを、実際の野球で起こしてしまう、ある種、特別なプレーヤーであること」は確実なようだ。
と、なると、この "Wizard" 「魔法使い」という耳慣れないニックネームも、実は非常に要を得たニックネームなのかもしれない、という気がしてくる。
damejima at 23:31
September 21, 2012
いまから2週間足らず前、9月8日ボルチモア戦でイチローが「左投手のインコース」を打ったツーベースに関する記事で、「左投手のインコースの球を、センター奥までライナーで打ち返したことに、今後のイチローを占う深い意味がある。」と、書いた。
Damejima's HARDBALL:2012年9月8日、イチローが左投手のインコースを打った二塁打の意味。一塁塁審Jerry Mealsの大誤審に名指しで怒るニューヨークメディア。
トロント戦で、まさにその通りになった。
気分がいい。
イチローの大活躍でトロントをスイープすることに成功したヤンキースだが、以下に「イチロー・ミラクル・セプテンバー」ともいうべき驚異的な9本のヒットを、ちょっとした解説をつけてメモに残しておくことにした。(もしイチローのいくつかのヒットがなければ、とっくにヤンキースは2位に沈んでいた。既に指摘しておいた「ヤンキースの貧打と、ラッセル・マーティンのアウトコース配球癖、ブルペン投手の崩壊」は、いまだに修正されていない Damejima's HARDBALL:2012年9月15日、ヤンキースが「3対6で負け」、「3対2で勝つ」理由。)
以下のデータをいきなり見ても意味がない。
9月8日の記事などをあらかじめ読んで、「インコースのハーフハイト」、「カウント1-2」など、この5年ほどのイチローの苦手コース、苦手カウントなどをあらかじめ頭にいれ、また、「左投手」「得点圏ランナー」など、このところイチローについてとやかく言われていた「イチローの苦手パターン」も頭にいれておくことではじめて、この9本のヒットがいかに価値があるか、ハッキリとわかる、と思う。
このトロント3連戦でイチローは、それらの「イチローのことは何でも知っているといわんばかりの、知ったぶりの赤の他人がこれまで得意気に指摘したがった『イチローの苦手シチュエーションの全て』において、ヒット、ホームラン、タイムリーを打ってみせたのである。(ヤンキース移籍以降の対左投手打率、.362)
ザマーミロ(笑)
イチローにこうした絶好調モードが訪れて「火がつく」ことは、もう2週間以上前に予測した。「火のついたイチロー」を試合で使う使わないは、ヤンキースの自由だ。だからブログ主は、イチローが何番を打ち、どこを守ろうが、まったく気にしていない。
東海岸のMLBライターたちにしても、本当にミラクルな状態のイチローを、体験していないことは、このところ彼らの記事の書きっぷりをさんざん漁ってみて、よーくわかった。
彼らは、まだまだ「火のついいたイチロー」を知らない。彼らはシアトル時代のイチローのすさまじいMLBキャリアの意味を、実は、遠くからチラチラ眺めただけに過ぎないからである。
ちょっと足が速くて、多少守備の上手い、ヒットマシーンだって?
左ピッチャー?
舐めてもらっては困る。彼らが持ち上げまくる予定だったジーターの8度目の200本安打という大記録すら霞むほどイチローに大活躍されてアタフタしている東海岸のメディアには、これからまだまだ嫌っていうほど「イチロー体験」をしてもらわなければならない。
このトロント戦で誰もが、打順の何番を打とうが、どの守備位置を守ろうが、目立つものはどうしたって必然的に目立ちまくることを、思い知らされたことだろう。
スポーツとは、そういうものだ。
ゲップが出るのは、まだまだ早い。
MLBがイチローの真価に気づかされるのは、これからだ。
MLB公式サイトのイチロー動画ページ
Multimedia Search | MLB.com: Multimedia
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3-2と最少点差のリードで迎えた8回表、満塁の大ピンチを救ったイチローのファインプレー。このレフトへのハーフライナーは、太陽光の中を左右にブレながら野手の正面に飛んでくる、非常に難しい打球だった。
初回
ライト前ヒット
投手:右(アルバレス)
カウント:1-0
コース:インハイ
球種:2シーム
3回裏
レフト前ヒット
投手:右(アルバレス)
カウント:初球
コース:アウトコース ハーフハイト
球種:4シーム
8回裏
ダメ押し点につながるグラウンドルールダブル
投手:左
(ダレン・オリバー)
カウント:0-1
コース:インコース ハーフハイト
球種:2シーム
「左投手」の、しかも「インコースのハーフハイト」を、それも「レフト線」に流し打って、ダメ押し点につなげた価値ある二塁打。
初球と2球目は、同じインコース一杯の球ではあるが、性質はまったく異なる。初球は、よく「フロントドア」と呼ばれるコースどりで、ボールゾーンからぎりぎりストライクになる「フロントドア・スライダー」。これはたぶん左投手ダレン・オリバーの左バッターに対する会心の球のひとつ。2球目は、初球と逆で、ストライクゾーンからボールゾーンにはずれていく2シーム。
左図で、Bが左バッターにとっての「フロントドア」
初球のフロントドア・スライダーをボールだと思って見逃しストライクをとられた左バッターにしてみると、2球目の似たコースの球を「よしっ! こんどこそ」とばかりに強振していくと、こんどは入ってくるスライダーではなくて、インに食い込んでくる2シームだから、1塁線のゴロのファウル、もしくは、詰まった内野ゴロかなにかにうちとられてしまう。
それをイチローに、オリバーの想定したライトへの詰まった凡打どころか、逆にレフト線へツーベースされたのだから、左投手ダレン・オリバーとしては「お手上げ」なのだ。
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2回裏
センター前ヒット
投手:左(ロメロ)
カウント:0-1
コース:真ん中低め
球種:4シーム
4回裏
ライト線二塁打
投手:左(ロメロ)
カウント:初球
コース:インハイ
球種:4シーム
6回裏
ライト前ヒット
投手:左(ロメロ)
カウント:初球
コース:真ん中やや低め
球種:カーブ
前の2打席で、イチローに4シームを速いカウントから連続でヒットにされていた左の先発投手ロメロは、この打席では配球プランを変え、初球に「時速75マイル(120キロ)」のカーブから入って、イチローを緩急でかわそうと考えた。
球種ごとの得意不得意を示すPitch Valueデータでみるかぎり、イチローの苦手なのは「速球」、次にこの「カーブ」ということになっている。
だが「火のついたイチロー」には、緩急も、カーブも通用しない。あっさりライト前ヒット。
8回裏
決勝タイムリー
投手:左(ループ)
カウント:1-1
コース:インコース ハーフハイト
球種:2シーム
ツイートしておいたことだが、この決勝タイムリーが生まれた「インコースのハーフハイトの球を流し打ちする」というヒットの打ち方は、もちろんデレク・ジーターのトレードマークの、いわゆる「ジップ・ヒット」の打ち方である。
この打ち方は、詰まった打球がフラフラっと上がって、外野手の前にポトリと落ちる。バックホームがきかないために、得点圏ランナーが生還しやすい打球になるし、打ち取ったと勘違いしやすいので、相手チームと相手投手に与える精神的なダメージは相当にデカい。
動画:Baseball Video Highlights & Clips | TOR@NYY: Ichiro singles to drive in the go-ahead run - Video | MLB.com: Multimedia
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3回裏
反撃の口火となる
ソロ・ホームラン
投手:左(ラフェイ)
カウント:1-1
コース:インコース やや高め
球種:4シーム
2位のボルチモアがまったく負けてくれないため、地区下位のトロント戦を1試合も負けられないヤンキースだが、先発フィル・ヒューズが早々と失点して、0-2とリードされ、非常に重苦しい雰囲気が漂う中で飛び出した一発。起死回生とは、まさにこのホームラン。
動画:Baseball Video Highlights & Clips | TOR@NYY: Ichiro jacks solo shot to put Yanks on board - Video | MLB.com: Multimedia
4回表
逆転2点タイムリー
投手:左(ラフェイ)
カウント:2-2
コース:インハイ
球種:カットボール
この2点タイムリーが価値があるのは、3球目のファウルによって、イチローのカウントが、キャリア通算打率が低い「カウント1-2」に追いこまれたにもかかわらず打ったタイムリーだからである。
ピッチャーの左のラフェイは、既にイチローの第一打席でインハイの4シームをホームランされている。そのためインコースで勝負するわけにもいかず、アウトコース中心の配球で、なんとか「イチローの苦手といわれるカウント1-2」を作ることに成功した。
だが、カウント2-2から、詰まらせて内野ゴロでも打たせてダブルプレーに仕留めるつもりだったと思われるインハイのカットボールを、見事に外野にライナーのツーベースを打たれ、泣くことになったのである。
動画:Baseball Video Highlights & Clips | TOR@NYY: Ichiro gives Yanks lead with two-run double - Video | MLB.com: Multimedia
第3戦の勝利によるメンタルな意味について、ニック・スウィッシャーは、こんなコメントを残した。
また、この素晴らしい逆転2点タイムリーの打席については、長年スポーツ・イラストレイテッドで活躍し、最近USA Todayに移って、すぐにNational Sportscasters and Sportswriters Association (NSSA)の選ぶNational Sportswriter of the Yearに選ばれたスポーツジャーナリストの重鎮で、自ら認めるイチローファンでもあるJoe Posnanskiが、イチローが投手アーロン・ラフェイの「もくろみ」を1球1球崩していき、最後にタイムリーにもっていく駆け引きを細かく描いた、素晴らしい長文コラムを書いている。
Posnanski Named Inaugural Writer Of The Year « Baseball Bloggers Alliance
Damejima's HARDBALL:2012年9月8日、イチローが左投手のインコースを打った二塁打の意味。一塁塁審Jerry Mealsの大誤審に名指しで怒るニューヨークメディア。
トロント戦で、まさにその通りになった。
気分がいい。
イチローの大活躍でトロントをスイープすることに成功したヤンキースだが、以下に「イチロー・ミラクル・セプテンバー」ともいうべき驚異的な9本のヒットを、ちょっとした解説をつけてメモに残しておくことにした。(もしイチローのいくつかのヒットがなければ、とっくにヤンキースは2位に沈んでいた。既に指摘しておいた「ヤンキースの貧打と、ラッセル・マーティンのアウトコース配球癖、ブルペン投手の崩壊」は、いまだに修正されていない Damejima's HARDBALL:2012年9月15日、ヤンキースが「3対6で負け」、「3対2で勝つ」理由。)
以下のデータをいきなり見ても意味がない。
9月8日の記事などをあらかじめ読んで、「インコースのハーフハイト」、「カウント1-2」など、この5年ほどのイチローの苦手コース、苦手カウントなどをあらかじめ頭にいれ、また、「左投手」「得点圏ランナー」など、このところイチローについてとやかく言われていた「イチローの苦手パターン」も頭にいれておくことではじめて、この9本のヒットがいかに価値があるか、ハッキリとわかる、と思う。
このトロント3連戦でイチローは、それらの「イチローのことは何でも知っているといわんばかりの、知ったぶりの赤の他人がこれまで得意気に指摘したがった『イチローの苦手シチュエーションの全て』において、ヒット、ホームラン、タイムリーを打ってみせたのである。(ヤンキース移籍以降の対左投手打率、.362)
ザマーミロ(笑)
イチローにこうした絶好調モードが訪れて「火がつく」ことは、もう2週間以上前に予測した。「火のついたイチロー」を試合で使う使わないは、ヤンキースの自由だ。だからブログ主は、イチローが何番を打ち、どこを守ろうが、まったく気にしていない。
東海岸のMLBライターたちにしても、本当にミラクルな状態のイチローを、体験していないことは、このところ彼らの記事の書きっぷりをさんざん漁ってみて、よーくわかった。
彼らは、まだまだ「火のついいたイチロー」を知らない。彼らはシアトル時代のイチローのすさまじいMLBキャリアの意味を、実は、遠くからチラチラ眺めただけに過ぎないからである。
ちょっと足が速くて、多少守備の上手い、ヒットマシーンだって?
左ピッチャー?
舐めてもらっては困る。彼らが持ち上げまくる予定だったジーターの8度目の200本安打という大記録すら霞むほどイチローに大活躍されてアタフタしている東海岸のメディアには、これからまだまだ嫌っていうほど「イチロー体験」をしてもらわなければならない。
このトロント戦で誰もが、打順の何番を打とうが、どの守備位置を守ろうが、目立つものはどうしたって必然的に目立ちまくることを、思い知らされたことだろう。
スポーツとは、そういうものだ。
ゲップが出るのは、まだまだ早い。
MLBがイチローの真価に気づかされるのは、これからだ。
MLB公式サイトのイチロー動画ページ
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このたった一ヶ月の活躍で好調だの、インクレディブルだの、言われ出したイチローだが、イチローファンは「イチローがこの状態を10年ずっとキープし続けてきたこと」を知ってるんだよ。舐めるなって。
— damejimaさん (@damejima) 9月 21, 2012
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ダブルヘッダー第一試合(2012年9月19日)
スコア:NYY 4-2 TOR
打順:1番
4打数3安打2得点
ファインプレー 1
Gameday:Toronto Blue Jays at New York Yankees - September 19, 2012 | MLB.com Gameday
「ヤンキースの選手の1日7安打4盗塁」
前日の雨による中止でダブルヘッダーとなった9月19日のトロント戦2試合で、イチローは「1日のうちに、7安打4盗塁」を達成。これをヤンキースの選手が達成したのは、イチローが初。(ソース:エライアス)
3-2と最少点差のリードで迎えた8回表、満塁の大ピンチを救ったイチローのファインプレー。このレフトへのハーフライナーは、太陽光の中を左右にブレながら野手の正面に飛んでくる、非常に難しい打球だった。
初回
ライト前ヒット
投手:右(アルバレス)
カウント:1-0
コース:インハイ
球種:2シーム
3回裏
レフト前ヒット
投手:右(アルバレス)
カウント:初球
コース:アウトコース ハーフハイト
球種:4シーム
8回裏
ダメ押し点につながるグラウンドルールダブル
投手:左
(ダレン・オリバー)
カウント:0-1
コース:インコース ハーフハイト
球種:2シーム
「左投手」の、しかも「インコースのハーフハイト」を、それも「レフト線」に流し打って、ダメ押し点につなげた価値ある二塁打。
初球と2球目は、同じインコース一杯の球ではあるが、性質はまったく異なる。初球は、よく「フロントドア」と呼ばれるコースどりで、ボールゾーンからぎりぎりストライクになる「フロントドア・スライダー」。これはたぶん左投手ダレン・オリバーの左バッターに対する会心の球のひとつ。2球目は、初球と逆で、ストライクゾーンからボールゾーンにはずれていく2シーム。
左図で、Bが左バッターにとっての「フロントドア」
初球のフロントドア・スライダーをボールだと思って見逃しストライクをとられた左バッターにしてみると、2球目の似たコースの球を「よしっ! こんどこそ」とばかりに強振していくと、こんどは入ってくるスライダーではなくて、インに食い込んでくる2シームだから、1塁線のゴロのファウル、もしくは、詰まった内野ゴロかなにかにうちとられてしまう。
それをイチローに、オリバーの想定したライトへの詰まった凡打どころか、逆にレフト線へツーベースされたのだから、左投手ダレン・オリバーとしては「お手上げ」なのだ。
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ダブルヘッダー第二試合(2012年9月19日)
スコア:NYY 2-1 TOR
打順:8番
4打数4安打1打点4盗塁
Gameday:Toronto Blue Jays at New York Yankees - September 19, 2012 | MLB.com Gameday
動画:Baseball Video Highlights & Clips | TOR@NYY: Ichiro swipes four, singles home game-winner - Video | MLB.com: Multimedia
「1試合4安打4盗塁」
1918年以降のMLBで19回達成されている。イチロー自身は、2004年にマリナーズで既に達成済み。今回で2度目の達成となった。
6回と8回に記録した4盗塁のうち、8回の2盗塁は、今シーズンの盗塁阻止率ア・リーグ第二位39.1%の強肩キャッチャー、ジェフ・マシスから奪ったもの。
記録達成者のうち、2度の出塁機会における4盗塁で「4安打4盗塁」を達成したのは、リッキー・ヘンダーソン、ケニー・ロフトン、カール・クロフォード、そしてイチローの4人のみ。
ヤンキースの選手が「1試合4安打4盗塁」を達成したのは、1988年4月11日トロント戦のリッキー・ヘンダーソン以来、イチローが2人目。また、他チームで最も最近この記録を達成しているのは、2009年8月15日ボストン戦におけるテキサス・レンジャーズのフリオ・ボーボン。
ホームスタジアムにおけるヤンキースの選手の「1試合4盗塁」
イチローの達成は、2005年のTony Womack以来。過去の最多記録は、ヤンキース在籍時代のリッキー・ヘンダーソンの「5回」(1918年以降)
ヤンキースの「1試合チーム7盗塁」
この試合でヤンキースは、イチローの4盗塁を含め、計7盗塁を記録したが、「ヤンキースの1試合7盗塁」は、1918年以降では2番目に多い記録。最多は1996年6月2日の「1試合8盗塁」。
2回裏
センター前ヒット
投手:左(ロメロ)
カウント:0-1
コース:真ん中低め
球種:4シーム
4回裏
ライト線二塁打
投手:左(ロメロ)
カウント:初球
コース:インハイ
球種:4シーム
6回裏
ライト前ヒット
投手:左(ロメロ)
カウント:初球
コース:真ん中やや低め
球種:カーブ
前の2打席で、イチローに4シームを速いカウントから連続でヒットにされていた左の先発投手ロメロは、この打席では配球プランを変え、初球に「時速75マイル(120キロ)」のカーブから入って、イチローを緩急でかわそうと考えた。
球種ごとの得意不得意を示すPitch Valueデータでみるかぎり、イチローの苦手なのは「速球」、次にこの「カーブ」ということになっている。
だが「火のついたイチロー」には、緩急も、カーブも通用しない。あっさりライト前ヒット。
8回裏
決勝タイムリー
投手:左(ループ)
カウント:1-1
コース:インコース ハーフハイト
球種:2シーム
ツイートしておいたことだが、この決勝タイムリーが生まれた「インコースのハーフハイトの球を流し打ちする」というヒットの打ち方は、もちろんデレク・ジーターのトレードマークの、いわゆる「ジップ・ヒット」の打ち方である。
この打ち方は、詰まった打球がフラフラっと上がって、外野手の前にポトリと落ちる。バックホームがきかないために、得点圏ランナーが生還しやすい打球になるし、打ち取ったと勘違いしやすいので、相手チームと相手投手に与える精神的なダメージは相当にデカい。
動画:Baseball Video Highlights & Clips | TOR@NYY: Ichiro singles to drive in the go-ahead run - Video | MLB.com: Multimedia
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第3戦(2012年9月20日)
スコア:NYY 10-7 TOR
打順:8番
4打数2安打3打点2得点
Gameday:Toronto Blue Jays at New York Yankees - September 20, 2012 | MLB.com Gameday
動画:Baseball Video Highlights & Clips | TOR@NYY: Ichiro goes 2-for-4 with three RBIs - Video | MLB.com: Multimedia
3回裏
反撃の口火となる
ソロ・ホームラン
投手:左(ラフェイ)
カウント:1-1
コース:インコース やや高め
球種:4シーム
2位のボルチモアがまったく負けてくれないため、地区下位のトロント戦を1試合も負けられないヤンキースだが、先発フィル・ヒューズが早々と失点して、0-2とリードされ、非常に重苦しい雰囲気が漂う中で飛び出した一発。起死回生とは、まさにこのホームラン。
動画:Baseball Video Highlights & Clips | TOR@NYY: Ichiro jacks solo shot to put Yanks on board - Video | MLB.com: Multimedia
4回表
逆転2点タイムリー
投手:左(ラフェイ)
カウント:2-2
コース:インハイ
球種:カットボール
この2点タイムリーが価値があるのは、3球目のファウルによって、イチローのカウントが、キャリア通算打率が低い「カウント1-2」に追いこまれたにもかかわらず打ったタイムリーだからである。
ピッチャーの左のラフェイは、既にイチローの第一打席でインハイの4シームをホームランされている。そのためインコースで勝負するわけにもいかず、アウトコース中心の配球で、なんとか「イチローの苦手といわれるカウント1-2」を作ることに成功した。
だが、カウント2-2から、詰まらせて内野ゴロでも打たせてダブルプレーに仕留めるつもりだったと思われるインハイのカットボールを、見事に外野にライナーのツーベースを打たれ、泣くことになったのである。
動画:Baseball Video Highlights & Clips | TOR@NYY: Ichiro gives Yanks lead with two-run double - Video | MLB.com: Multimedia
第3戦の勝利によるメンタルな意味について、ニック・スウィッシャーは、こんなコメントを残した。
''I feel that we're getting that inner confidence back that we lost there for a little bit,'' Swisher said.「少し失いかけていた内側の自信みたいなものを取り戻せた気がする」
Suzuki, Swisher send first-place Yanks over Jays - Yahoo! Sports
また、この素晴らしい逆転2点タイムリーの打席については、長年スポーツ・イラストレイテッドで活躍し、最近USA Todayに移って、すぐにNational Sportscasters and Sportswriters Association (NSSA)の選ぶNational Sportswriter of the Yearに選ばれたスポーツジャーナリストの重鎮で、自ら認めるイチローファンでもあるJoe Posnanskiが、イチローが投手アーロン・ラフェイの「もくろみ」を1球1球崩していき、最後にタイムリーにもっていく駆け引きを細かく描いた、素晴らしい長文コラムを書いている。
Posnanski Named Inaugural Writer Of The Year « Baseball Bloggers Alliance
When I think of the 1990s, I think of Pearl Jam, Nirvana, the young Tiger Woods, the Clint Eastwood character in “Unforgiven,” Barry Sanders in motion, Emmitt Smith running, Michael Jordan in flight, Michael Johnson making the final turn, Mark McGwire taking batting practice.
Ichiro seems to me that sort of presence -- not just a fabulous player, but an indelible one. The stretch before he sets himself in the batter’s box. The amazing way he reaches out to spoil outside pitches. The running start he takes. (中略)
I won’t know for another decade or two how to look back on this particular time. I’m pretty sure, though, that watching Ichiro Suzuki hit will be part of the panorama.
Pennant Races: Nats Win! Oh, Wait ... | SportsonEarth.com : Joe Posnanski Article
ジョー・ポズナンスキーのコラムが素晴らしい。自分以外で、誰が最も熱心にイチローについて書いているかと問われたら、迷わず、「ジョー・ポズナンスキー」と答える。今回の「ミラクル・セプテンバー」をしっかり書いているコラムは他にない。2点タイムリーをここまで深く書いてしまうんだから。
— damejimaさん (@damejima) 9月 21, 2012
damejima at 12:26