配球術としてのカウント論

2014年3月6日、田中将大が「Fastball Countで、定石どおりのストレートを投げたこと」の意味。
2014年1月28日、相関がほとんどないのが明らかな2つの事象の関係をベースにモノを言う愚かな行為の例 〜 投手のZone%とBABIP
2013年8月9日、MLBで三振を数多くとっているピッチャーたちは「2球目にボール球を投げていることも、けっこう多い」という調査。
2013年7月8日、グラフひとつでわかる「ボール球を振らせる投球哲学」と、「ストライクにこだわりぬく投球哲学」 常識に縛られることなく投球術の両極を目指すマリアーノ・リベラと、クリフ・リー。
2013年7月5日、怖くないボルチモア打線 スカウティング教科書(3)クリス・デービスは追い込んだら、とりあえず「プレート上に落ちるタテの変化球」を投げろ
2013年7月5日、怖くないボルチモア打線 スカウティング教科書(2)アダム・ジョーンズには「追い込んでからアウトローの変化球を投げろ」 アダム・ジョーンズの欠点をカバーするボルチモア「オセロ打線」の巧妙なカモフラージュ
2013年7月5日、怖くないボルチモア打線 スカウティング教科書(1)マニー・マチャドには「アウトローを投げるな」
2013年6月15日、本当に「初球はストライクがいい」のか。打者を追い込むだけで決めきれないフィル・ヒューズの例で知る「初球ストライク率が高いからといって、 必ずしも防御率は下がらず、好投手にはなれない」という事実。

March 07, 2014

スプリングトレーニングで田中将大がフィリー戦で初先発してホームランを打たれたと人から聞いて、その人にちょっと聞き返してみた。

打たれたカウントは?
3-1。」

なるほど。
「球種はまちがいなく、ストレートだな。」と、思った。


ホームランを打たれたこと自体はどうでもいい。誰だって、たまには打たれる。
早くメジャーに上がりたいマイナーの若い野手は、昇格アピールのために早めに仕上げてスプリングトレーニングに来ているわけだし、まだ仕上がっているわけではないメジャー契約の投手がいきなり長打を打たれることも、ある意味しかたがない。
なんせ、まだスプリングトレーニングだから、メジャーの投手のストレートにはまだ十分な球威がない。他方、打者は、まだ練習のためのゲームだから、ボールを選んでくるのではなくて、どんどん積極的にスイングしてもくる。特にストレートは狙われやすい。


むしろ、このホームランでブログ主が関心をもったのは、もっと別の点だ。

1.「田中が、まるでキャッチャーのサインどおり投げてしまっていた」ように聞こえたこと

2.「ストレートを投げざるを得ないカウントで、好きなように打たれてしまわないだけの球威のあるストレートが、田中にあるのか、ないのか」それがまだ未知数なこと


日本でなら、かつて来日当時の阪神ブラゼルが日米の野球の違いとしてコメントしていたように、たとえカウントが3-1だろうと、変化球を投げることも多い。

だがMLBでは、このブログで何度となく説明してきたように、「fastball counts」、つまり2-0とか、3-0とか、投手不利なカウントでは、MLBのキャッチャーは問答無用に「ストレートのサイン」を出してくる。そして、投手の側もそれがわかっているから、多くの投手がサインどおりにストレートを投げる。それが「MLBにおける配球のお約束」になっている。(もちろん例外もある)
だからバッターは、「fastball counts」ではストレートだけを狙ってフルスイングしてくる。そして、これもMLBのお約束のひとつだ。

記事例:2010年10月24日、メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート(11) なぜライアン・ハワードは9回裏フルカウントでスイングできなかったのか? フィリーズ打線に対する"Fastball Count"スカウティング。 | Damejima's HARDBALL

記事例:2013年3月8日、Fastball Count、あるいは日米の野球文化の違いからみた、WBCにおける阿部捕手、相川捕手と、田中将投手との相性問題。 | Damejima's HARDBALL


監督ジラルディは、この日の田中について、こんなことを言った。
(We) get him comfortable with our catchers.


どうも意味深に聞こえる。

イチローのヤンキース移籍後の1シーズン半でわかったことは、ジラルディという人間が「コメントをあまり信用できないタイプで、結局のところは『自分のやり方』にとことんこだわりぬく頑固オヤジ」だということだ。
ジラルディは、メディアにどんな柔らかいコメントをしようが、実際には「自分のやり方」にのみ、しつこくしつこくこだわる。そして、たとえ間違いを犯しても、最後まで自分の方法論を変えないし、修正するゆとりを持とうとはしない。

だから、MLBでルーキーでしかない田中にジラルディが求めるのは「おまえはまだ新人だ。だからMLBのキャッチャーのスタイルに従ってくれ」という一点張りになる可能性はけして低くないと、ブログ主は考える。


また、田中の球を受けることになるブライアン・マッキャンの田中評にしても、ブログ主は、どこか上の空な感じ上から目線という印象を受けた。

彼は田中のピッチングについて、こんな表現をした。
as good as advertised
前評判どおりだね


このコメント、あなたなら、どう解釈するだろう。
この例を見てもらいたい。

"Looking at their defense, they are as good as advertised," Manning said.
「彼らのディフェンス見たよ。まぁ評判どおりじゃないのかな。」
Manning: Seahawks defense 'as good as advertised'

これは、第48回スーパーボウルを戦う直前の1月末に、リーグ最強オフェンスを誇るデンバー・ブロンコスのクォーターバック、ペイトン・マニングが、「対戦相手シーホークスのリーグ最強ディフェンス」についてUSA Todayにコメントしたものだ。

今年のスーパーボウルの「試合前予想」では、いうまでもなく、2月の本番でシーホークスがあれほどの大差で圧勝するとは、誰も思っていなかった。
だから、既にスーパーボウルで優勝し、MVP獲得経験のあるマニングにしてみれば、as good as advertisedという表現にこめたニュアンスは、「とりあえず『評判通り』くらいは言っておくけど、まぁ、最後に勝つのは俺しかありえないぜ」という意味の「自信の表れ」であり、as good as advertisedという表現の実際の意味は、「まぁまぁだね。せいぜい頑張んなよな」程度の上から目線のニュアンスであって、「結果が出る前の、決まり文句」、「試合前のリップサービス」でしかない。
(それに、そもそも英語の 'good' という表現には「高く評価する」とか、「非常に優秀だ」とかいうニュアンスはない。「まぁまぁだね」と訳すくらいで、ちょうどいい)


球種の多いダルビッシュもさんざん手を焼いた点ではあるだろうが、田中将大がどのくらい「MLBのキャッチャーと組んだときにに、『オレ流』を貫けるのか」、そこが問題だと思う。

ヤンキースはテキサスよりも遥かに「内部の規律」が硬直的だし、また、田中投手はダルビッシュと違って、どうも性格的に自分から折れてしまいそうな気もする。監督の指示やキャッチャーのサインにただただ従って、打たれた後でストレスを溜めるようなケースが多発するのでは、結局マトモなシーズンにはならない。

damejima at 13:44

January 29, 2014

Baseball Analyticsが1月22日付の記事で、ヤンキース黒田について記事を書いている。
記事の要旨は要するに、「2013シーズン、黒田は、4月から7月まではストライクゾーンで勝負できていたが、8月以降にゾーンで勝負する率が劇的に下がってしまい、その結果、投手としての成績がガタガタになった」と言いたいらしい。
Hiroki Kuroda and Throwing in the Strike Zone - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

いつものように結論からいわせてもらえば、少なくとも、こんな出来そこないの無根拠な話から 「黒田という高給取りのピッチャーのピッチングの質が悪い理由」 がみえてきたりはしない


たいていの場合、こういう「ごたいそうなグラフ」を見せられると、「ほほぉ・・・・。そうなんだ」と思って信じてしまう人が大勢いる。困ったものだ。
相関係数なんていう取扱いに独特のクセのあるものを安易に野球にあてはめて、鼻高々に野球というゲームのファクターを説明したつもりになっている馬鹿がひとりでも減るように、簡単に説明しておくことにする。
(なお以下のグラフは、オリジナルをより見やすいように改造している。オリジナルはY軸の位置が上下で揃っていないのと、軸の太さが細すぎるため、非常にわかりづらい)

2013MLB BABIPとゾーン率の相関マップ


図中に、やや右下がりの赤い直線がある。
これはおそらく「近似直線」だろう。

近似直線や近似曲線は、グラフ上にマッピングされたデータの細部を思い切って捨象することで、「事象Aと事象Bの相関関係の様相や濃さ」などを可視化して見えやすくするために用いられる表現手法だ。(グラフに近似直線を書き加える機能は、例えばパソコンソフトのエクセルなどにも備わっているので、誰でも取り扱うことができる)

例えば野球ブログで、「得点とOPSの相関関係」や「得点と四球の相関関係」のような「2つの事象の相関」を取り扱う場合、使われてきた手法は、そのほぼ全てが「直線という表現を使う『線形近似』」であり、ブログ側の人間はその程度の曖昧な数字を根拠に鼻高々に語ってきた(笑)

だが、「近似の程度」を示す表現手法には、多項式近似によって「曲線」として表現するなど、さまざまなパターンがあるのであって、相関関係を「直線」として表現する方法なんてものは、たくさんある近似の表現のひとつに過ぎない。


さて、上の図の場合でいうと、X軸の事象であるZone%と、Y軸の事象BABIPとの相関関係は、やや右下がりの、平坦な直線として表現されている。
これは、どういう意味になるかというと、Zone%とBABIPという2つの事象の間に、「Zone%が上昇すると、BABIPが低下するという関係が、ほんのわずかならありうること」を示している。
もっと平たく言うと、「投手がストライクゾーンにより多く投げれば投げるほど、バッターに打たれないですむ傾向」が、「ほんのわずかならありうること」を意味している。


いま、「ほんのわずかなら」と書いたことには、もちろん重要な意味がある。

というのは、上の図の上にマッピングされた個別データの分布には、「個別データが、グラフ全体に、しかも、まんべんなく広がっている」というハッキリした特徴があるからだ。


こうした「法則性がほとんどみられないデータ分布」が意味するのは、「なにもわざわざ線形近似などみなくても、X軸とY軸で示された2つの事象の間に明瞭な相関が存在しないのは、明らかだ」ということだ。
つまり、「Zone%とBABIPとの間に、強い相関関係などそもそも存在していない」という意味であり、もっと具体的にいえば、「MLBの投手において、ストライクゾーンに投げれば投げるほど、それがそのまま、より多くの打者を凡退させられるという好結果につながる、という関係が成立する可能性は、非常に低い」という意味だ。

もしZone%とBABIPの間に強い相関関係があるなら、データの分布は、例えば「データが、右下がりに45度傾いた直線に沿って、右下がりにきれいに並ぶ」というように、ハッキリした「傾向」を示す。
だが実際には、こういうふうにデータがグラフ全体にまんべんなく広がって分布している。明確な相関関係が存在するわけがない。
上の図はそもそも、「世の中にはいろんなタイプのピッチャーがいる」という、ごく当たり前のことを言っているにすぎず、Zone%とBABIPの相関関係の強さを保障したりするどころか、まったく何も証明できていないまま、勝手に結論を導きだしているのである。


だから、この「Zone%とBABIPの関係を示したグラフ」とかいう「いい加減な基準」を使って、「2013黒田の成績がシーズン後半に大きく崩れたのは、彼がストライクゾーンに投げなくなったからだ」だのなんだのと、ごたいそうに結論づけるのは、いい加減なものさしを使って、長さを測定し、結論を導いていることにしかならない。
このロジックは「ものさし」そのものがいい加減なのだ。だから、そこから引き出された結論など、信じるわけにはいかない。当然のことだ。


このブログでは、2013シーズンの黒田のピッチングの「質の悪さ」については2013年9月にとっくに書いている。
Damejima's HARDBALL:2013年9月13日、黒田という投手を評価しない理由。そして、なぜジラルディは満塁ホームランを打たれるような場面を自ら演出してしまうのか、について。

このブログの記事では「黒田が先取点を安易に取られ過ぎるピッチャーだ」という論点から書いたわけだが、月別にみると、「黒田が先取点を取られる傾向」は、Baseball Analyticsが黒田のZone%が良かったとする「4月から7月」にも存在するし、また、Zone%が悪化したとする「8月以降」にしても、同じようにみられる。
だから、「4月から7月までの黒田と、8月以降の黒田は、まったく別人のような投球をしていた」というBaseball Analyticsの主張には、なんの説得力も感じない。単に7月だけが異常に良かっただけの話だ。
(以下の自作グラフでみてもらうとよりわかりやすいが、青色のセル部分は、4月から6月にも大量にあるし、また8月以降にもある。黒田が給料にみあう仕事をしていたのは、7月のみに過ぎない)

資料:2013黒田 全登板 ©damejima

図で、青色のセルで示したのは、「黒田が先取点をとられたゲーム」。(4月8日クリーブランド戦含む。この試合では、1回表ヤンキースが3点先制したが、1回裏に3失点している) また赤色のセルは、「ヤンキースが先制しながら、黒田が打たれて逆転負けした試合」を意味している。
黒田登板ゲームの詳細data generated by Hiroki Kuroda 2013 Pitching Gamelogs - Baseball-Reference.com


何度も書いてきたことをまた書くのは本当にうんざりだが、MLBのピッチャーにはたしかに「ものすごくストライクばかり投げて、なおかつ打たれないピッチャー」や、「ものすごくボールを投げて、それでも失点しないピッチャー」がいる。前者の代表はクリフ・リーであり、後者の代表は引退したマリアーノ・リベラだ。
Damejima's HARDBALL:2013年7月8日、グラフひとつでわかる「ボール球を振らせる投球哲学」と、「ストライクにこだわりぬく投球哲学」 常識に縛られることなく投球術の両極を目指すマリアーノ・リベラと、クリフ・リー。


だが、何度も書いてきたことだが、ストライクの鬼神クリフ・リーのような「非常に特別な投手」は、野球世界の頂点であるMLBにさえ、ほんのわずかしか存在していない。
他の投手たちの「投球術」というものは、どれも似たり寄ったりで、たいして違わない。たとえ好投手といえど、十分すぎるくらい「平凡」なのが普通なのだ。

昔の記事に次のような記述をしておいた。気になる人はあらためて読み返してもらいたい。
2013ア・リーグで「ボール球を振らせる率の高い投手ベスト20」のほとんど全員は、「非常に狭いエリア」に固まって存在している。そして、その大半は「ア・リーグ奪三振ランキングベスト20」とダブっている。

一部例外を除き、大半の投手の数値は似たり寄ったりであり、全投球に占めるストライクは42〜46%、「32〜35%前後のボール球」をバッターに振らせている。
つまり「ボール球を振らせることのできる率の高い優秀な投手」のほとんどは、「奪三振数の多い投手」でもあり、しかも彼らの投げるストライクとボールの比率はかなり共通した数値になる。
彼らのような奪三振系ピッチャーの投球術には、実は思ったほど相互に差異はなく、似たり寄ったりである

O-Swing%とZone%

X軸:O-Swing%(ボール球を振らせる率)
Y軸:Zone%(ストライクゾーンに投げる率)
青い点:O-Swing率の高いア・リーグ先発投手ベスト20
ソース:Fangraph(データ採集日:2013年7月5日)


投手にとって大事なことは、Baseball Analyticsのおざなりな記事がいうような「ストライクゾーンにどれだけ投げられるか」などという、低次元な話ではない。
ほんと、よくそんな素人分析で野球を解析できると思い込めるものだ。そんな低レベルの話でいいなら、誰も苦労なんてしない。

とりあえず、MLBでいい投手になるための出発点は、
ゾーンに投げても痛打されない、質のいいストライク
思わず打者が手を出したくなる、質のいいボール球
この「2つ」を持った投手になることだ。

もちろん、この「2つ」をモノにできたからといって、そのピッチャーがなれるのは、ごく普通の「三振がとれるピッチャー」に過ぎない。その程度の、どんな時代にも3人や5人はいるピッチャーに、みんながみんな殿堂入りされたんじゃ、たまったもんじゃない。

平凡な先発ピッチャーが、配球の天才ロイ・ハラデイやストライクの鬼クリフ・リーのような、個性ある名投手になろうと思えば、まったく別次元の高さのハードルが待っている。ちょっとくらい三振が人より多くとれた程度のことで、その投手が天才や名投手になれるわけじゃない
それは、Baseball Analyticsがいうような「ストライクゾーンに投げれば投げるほど、打者を打ち取れる」などという、子供じみた、嘘くさい分析で理解できるレベルの話ではない。

damejima at 01:36

August 10, 2013

SB Nationに掲載されたJon Roegeleという人の「三振をとる配球」についての記事が、なかなか面白い。
Strikeout pitch sequences, by location - Beyond the Box Score


ただ、最初にことわっておきたいと思うのは、この記事がちょっとした見どころがあるのは確かだが、だからといって「必ず三振をとれる配球を発見した」などというようなシロモノではないことだ。
この程度の数のサンプルで「野球の法則性の発見」と思い込むのは馬鹿げている。頭の片隅にでも置いておいて、何か類似した研究結果なりが出てきたとき思い出せれば、それでいい。


この記事は、「三振」という現象が起きたときに、どういう配球プロセスで起きていたかを、初球から3球目の「コース」を集中的に調べて、図に起こす、という手法で書かれているのだが、調査手法が大雑把過ぎて、狙いとする「三振をとるための配球エッセンス」がうまく記事として表現されていないのが、ちょっともったいない。

サンプル数の少なさより、はるかに決定的ミスだと思うのは、この記事が「左投手と右投手を分けて考えていないこと。左と右を分けて図示することを忘れていること」だ。
こうしたミスが起きる根本理由は、おそらくMLBのストライクゾーンが左バッターと右バッターでかなり異なっていることを、そもそも考慮に入れてないことにある。

これまで数かぎりなく書いてきたように、MLBのストライクゾーンは、左バッターと右バッターとでは全く違っている。基本的に、左バッターのゾーンは、「アウトコースのみが非常に広く、インコースは狭い」。他方、右バッターは、「内外のゾーンが均等の広さ」で判定されることが多い。
だから、「三振」という現象がどういうシチュエーションで起きたのか考えるにあたっては、最低でも、「左投手と右投手で分けて考える」必要があると思うし、さらに、できることなら「左バッターと右バッター」で分けてデータ化したほうが、ずっとエキサイティングな記事になただろうと思う。


例えばだが、左投手の場合、「持ち球」によってストライクの取り方はまるっきり変わる。
クロスファイヤーの得意なサイドスロー気味の左投手なら、左バッターのアウトコースのさらに外に「ボールになるスライダー」を投げて空振りさせたいだろうし、カットボールの得意な左投手なら、左バッターのインコースに「腰が引けるような球」を投げて、見逃しストライクをとりたいだろう。また、カーブやチェンジアップのコントロールに自信のある左投手なら、右バッターのインコース低めに「打者の目がついていけないブレーキングボール」を落として空振りさせる。
さらに言えば、投手の「性格」によって、安全なアウトコースで「安全な三振」をとりたがる性格の投手もいれば、逆にインコースに不意打ちを食らわすのが得意という強気な性格の投手だっている。

ストライクをとる方法は、「投手が左か右か」、投手の「持ち球」や「フォーム」、対戦するのが「右打者か左打者か」など、さまざまな条件によって大きく違ってくるわけだが、そうした各種の条件の中でも、投手が左か右かはやはり基本条件として、分けて考えるべきだと思う。

結局のところ、この記事は「それぞれの三振には、それぞれ固有の理由とプロセスがある」ことを考慮にいれてない。
だから、この記事を読んだだけで、「ダルビッシュがやっているように、初球、2球目と、アウトコース低めに投げるのが、最も効率的な三振の取りだ」などと決めつけられても困る。「そんな決めつけ、何の意味もない」としか言いようがない。(彼がアウトコース低めの変化球を使いたがることは、ある部分で日本の野球文化の悪影響だと思う)


前置きはさておき、この記事が発見したことで、一番面白いと感じたのは、「三振を数多くとっている投手が、特に2球目にボール球を投げている」ことだ。

ちょっと前に、ヤンキースのフィル・ヒューズが、「ア・リーグで最も初球にストライクを投げている投手」であること、また彼が「初球にストライクを多投する投手であり、打者を2ストライクに追い込むことにも成功しているにもかかわらず、追い込んでから打者をうちとれない典型的なピッチャー」であることを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年6月15日、本当に「初球はストライクがいい」のか。打者を追い込むだけで決めきれないフィル・ヒューズの例で知る「初球ストライク率が高いからといって、 必ずしも防御率は下がらず、好投手にはなれない」という事実。

また別の記事で、マリアーノ・リベラが「典型的なボール球を振らせるタイプのピッチャー」であり、クリフ・リーが「徹底的にストライクで押すタイプのピッチャー」であること、ヒューズとフェルプスのようなヤンキースの若手ピッチャーの投げる「ボール球」が、「打者が手を出してくれないボール球」であることを書いた。
Damejima's HARDBALL:2013年7月8日、グラフひとつでわかる「ボール球を振らせる投球哲学」と、「ストライクにこだわりぬく投球哲学」 常識に縛られることなく投球術の両極を目指すマリアーノ・リベラと、クリフ・リー。


「三振をとる」という仕事にとって、クリフ・リー(あるいは最近のマックス・シャーザー)のような特別な才能のあるピッチャーででもない限り、「バッターが手を出してくれるボール球を持つ」ことは、好投手であり続けるための必須条件であるのは確かだ。

だが残念なことに、フィル・ヒューズは、いわば「初球も2球目もストライクを投げたがるピッチャー」ではあっても、困ったことに、追い込んだ後に投げる球がない。だから、しかたなく「アウトコース低めに、誰の目にも明らかにボールとわかるスライダー」ばかり投げて、カウントを自ら悪くしてしまう。(こういう知恵の無いピッチングスタイルがどれだけピッチャーをダメにするかは、『城島問題』でも明らかだ)

ヒューズに奪三振王になれ、などとは思わないが、彼やフェルプスが本当にピッチャーとして開花したいと思うなら、「変化球を磨きなおすことに加えて、根本的に配球方針を変えないとダメなんだぜ」と言ってやりたいと、この記事を読んで思ったりしたのだ。

そういう意味でも、これからのヤンキースには、いい投手の指導者が必要だ。

damejima at 02:16

July 09, 2013

打者を追い込んだ。

ならば、次はどうするか。
ボール球を振らせるのか。
あくまでストライクを投げ抜くのか。

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追い込んだ場面に限らず、バッターをうちとるために、「ボール球で釣る」のか、そうではなく、「ストライクでねじふせるのか」という手法の差には、その投手の投球哲学のあり方が如実に反映される。

実は、好投手といわれる投手でも、そのほとんどは常識の域を出ない。ほどほどのストライク。そして、ほどほどの釣り球。

なぜなら、なにも哲学なんてもの持たなくてもバッターはうちとれるからだ。彼らを平凡な投手から隔てる差は、たいていの場合、追い込んだ後に投げるボール球をどれほど打者が振ってくれるか、にかかっている。カウントを整えて、釣り球。ファウルさせて、釣り球。その繰り返し。常識から完全に抜け出して固有の哲学をもとうとする投手は、ほんのわずかしかいない。

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だが、野球の歴史に名前を残すのが誰か、
となると、話は違ってくる。

歴史に名前を残すのはいつも、哲学、投球フォームなど、「他の投手に無い独自のスタイル」を追求し、なおかつ、並外れた結果も残すことに成功したピッチャーのほうだ。

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バッターを追い込んだあと、誰がみても最初からボールとわかる軌道のアウトローの変化球ばかり投げて、カウントを自分から悪くしてしまい、自滅していくピッチャーは、それこそ掃いて捨てるほどいる。そういうワンパターンなサインばかり出したがるキャッチャーも数かぎりなくいる。
そういう選手たちが観客に見せられるのは、結局のところ、平凡すぎる打たれることへの恐怖心だけで、天賦の才や常識を超えた哲学を追求するどころか、配球常識すら欠けている。無駄に増える球数。無駄に長い野手の守備時間。見ているファンの欠伸。何もいいことはない。

ヤンキースでいえば、悪いときのフィル・ヒューズもそうだ。
彼本来の能力には非凡な才能の片鱗がみられる。常識にとらわれない稀有なピッチャーを目指せる可能性もある。なんせ、ア・リーグで最も初球にストライクを投げられるようなピッチャーだ。才能がないわけがない。
だが、どうしたものか、彼の投球数はけして少なくならない。

ヒューズには、打者を追い込んだあとに彼が世界にアピールすべき「自分だけの哲学」がどういう形なのかが、まだ見えていないからだ。彼が自分だけの哲学を見つけてキャリアを終えることができるかどうかは、まだ誰にもわからない。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年6月15日、本当に「初球はストライクがいい」のか。打者を追い込むだけで決めきれないフィル・ヒューズの例で知る「初球ストライク率が高いからといって、 必ずしも防御率は下がらず、好投手にはなれない」という事実。

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そのピッチャーが、どのくらい非凡なピッチャーなのか、それを知るのに何をしたらいいだろう。
登板そのものを見てわかる人は、それでいい。だが、目で見てわかる才能の無い人は、「数字」を見る必要がある。

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以下に、「マリアーノ・リベラクリフ・リーの投球哲学が、いかに特別なものか」を示すグラフを作ってみた。

このグラフは、「ボール球を振らせている率」の高い投手が、いったい「どれくらいの割合でストライクゾーンに投げているか」を示している。
ア・リーグで「ボール球を振らせている率」の高い20人の投手、マリアーノ・リベラとクリフ・リー、ついでにヤンキースの投手数人をマッピングしてある。(© damejima)

O-Swing%とZone%

X軸:O-Swing%(ボール球を振らせる率)
Y軸:Zone%(ストライクゾーンに投げる率)
青い点:O-Swing率の高いア・リーグ先発投手ベスト20
ソース:Fangraph(データ採集日:2013年7月5日)

なかなか面白い。こんなことがわかる。
青い点、すなわち、2013ア・リーグで「ボール球を振らせる率の高い投手ベスト20」のほとんど全員は、「非常に狭いエリア」に固まって存在している。そして、その大半は「ア・リーグ奪三振ランキングベスト20」とダブっている。

一部例外を除き、大半の投手の数値は似たり寄ったりであり、全投球に占めるストライクは42〜46%、「32〜35%前後のボール球」をバッターに振らせている。
つまり「ボール球を振らせることのできる率の高い優秀な投手」のほとんどは、「奪三振数の多い投手」でもあり、しかも彼らの投げるストライクとボールの比率はかなり共通した数値になる。

この数字と事実は覚えておいて損はないと思う。投球術を考える上でたいへん興味深い。MLBにおける先発投手のストライクとボールの模範的な比率は「2:1」だが、それは「ストライクゾーンに投げている球が66パーセントを占める」という意味ではないのである。

ただし、これが役に立つのはごく常識的な投球術の模範回答を知る、という意味においてだ。これが達成できたとしても、天才にはなれない。

このグラフは、とりわけ「打者から多くの三振をとる」という行為を目指すピッチャーにとって、「ボール球を振らせること」がいかに重要かを示している可能性があるわけだが、それだけでなく、もしかすると、彼らのような奪三振系ピッチャーの投球術には、実は思ったほど相互に差異はなく、似たり寄ったりであることを示唆している可能性がある。
つまり、好投手になれるかどうかは、単に「ボールになる変化球を振らせる」というような「常識的な投球術」を実際に実行できる能力だけで決まってしまうかもしれない、ということだ。(もちろん、「模範解答が実行できる」ことだけでも十分に「秀才」だ。だがそれだけでは「天才」と呼ぶことはできない)

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ところが、まるで常識にあてはまらないピッチャーが
MLBには常に存在する。


例えば、マリアーノ・リベラというと、登板時の天衣無縫なイメージから「他の投手に真似のできない特別な変化をする独特のカットボールで、どんどんストライクをとっていく真っ正直なピッチャー」であるかのように思われやすいが、実際には違う。

いくら一流の奪三振王といわれる投手たちでも、ボール球を振らせる率はほぼ「33%前後」と、一定の数字に収まることがほとんどだ。しかし、リベラだけはこれが「44%」もあって、他のどんなピッチャーより高い。
なのに、どういうわけか、ストライクゾーンに投げる率は、データ上、わずか「41.3%」しかないのである。(他の投手は44%前後)
つまり、「数字で見るマリアーノ・リベラ」は、「どんな一流投手より多くの『ボール球』を投げ、しかも、誰よりも多く『ボール球』を振らせているピッチャー」なのだ。


また、グラフのはるか上のほうに名前があるクリフ・リーだが、彼はボールを振らせる率こそ人並みだが、ストライクゾーンに投げる率が、なんと「56.6%」にも達している。キャリア通算でみても、「58.3%」とずば抜けている。これは凄い。
つまり、クリフ・リーは、リベラとは180度正反対の方向性のピッチャーで、「鬼のようにストライクばかり投げこむピッチングを信条としているピッチャーであり、打者がボール球を振って凡退してくれることなど、最初からまるで期待していない投手だ」ということだ。
実際にマウンドに立つクリフ・リーは「心臓に毛のはえたような強気の投手」というイメージだが、これは彼のデータに見事に合致する。数字からみた彼は「3球に2球はストライクゾーンに投げる」ほど、ストライクに固執している。

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ボール球を振らせて凡退させるマリアーノ・リベラ。
ストライクで強引にねじふせるクリフ・リー。

平凡な選手が嫌いなブログ主としては、どちらも好みのピッチャーだが、では、このところ好投をみせつつあるフィル・ヒューズデビッド・ロバートソンといったヤンキースの若手投手は、いったい何を目指しているのだろう。


2人に共通の特徴がある。
ボール球をスイングさせる率の低さ」だ。

これは、一流投手になるための条件として、致命的だ。奪三振数ランキング・ベスト20の投手たちに比べ、数ポイントは低い。どうりで彼らのピッチングがいつも苦しいわけだ。
つまり、ヒューズとロバートソンの投げるボール球は、「バッターが振ってくれないボール球」なわけだ。

同じボール球でも、ボールを振らせる魔王マリアーノ・リベラや、奪三振率の高いピッチャーたちが投げるボール球は、「バッターが振ってくれるボール球」であり、当然ながら両者のピッチングには非常に大きな差が出る。

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フィル・ヒューズは、一度書いたように、「ア・リーグで最も初球にストライクを投げてくるピッチャーだが、今回作成したグラフ上でみると、実はサイヤング賞投手バートロ・コロンにかなり特性が近い。
バートロ・コロンは、クリフ・リー型の「ストライクにこだわる投球哲学を持った投手」で、だからこそ、コロンとクリフ・リーの2人が、サイ・ヤング賞投手になれたわけだが、データでコロンに近い数値をたたきだしているヒューズが、「常識にそわない自分だけのストライクを多投するピッチングスタイルを追求しつつ、日々マウンドに上がり続けていること」は明白だ。

ならば、これから彼の選ぶべき道は、「2つ」。

ヒューズがもし将来コロンになりたいのなら、ストライクを増やすことよりも、もう少し「ボール球を振ってもらえるようにする工夫」をすべきだし、彼がもしクリフ・リーになりたいのなら、「なにがなんでもストライクだけを投げぬける強いハートを持て」という話になる。
彼の課題は「彼自身が今後、誰を目指したいか」によって、かなり変わってくる。


他方、ロバートソン。
彼には2つ、特徴がある。第一に「あまりストライクを投げない」。そして第二に、奪三振数の多い先発ピッチャーたちに比べ、「ボール球を振ってもらえてない」。彼はピッチングのとき、いつも眉間に皺が寄っているが、原因はこんなところにある。ストライクは投げないわ、ボール球を振ってもらえないわでは、なんだか気の毒にさえなる。

彼は2012年にはカットボールばかり投げたがっていた。たぶん当時の彼は、コロンにタイプが似ている「ストライク・マニア」フィル・ヒューズが目指しているものとは全く違い、「カットボールでボール球を振らせて凡退させるマリアーノ・リベラ」を目指していたのだろう。だから、あえて彼はストライクを投げないで、カットボールを多投するピッチングスタイルをとってきたのではないか、そう思うわけだ。

だが、どうだろう。
ロバートソンがリベラになれるだろうか?

つい最近の彼が、カーブを多投するようになって大変身を遂げつつあることは、誰の人生にも必要な、素晴らしい「あきらめ」だと思う。マリアーノ・リベラのような、あれだけボール球を振らせることができるピッチャーは、彼の背番号と同じで、たぶんもう現れない。
ロバートソンはリベラにはなれない。もっとストライクを積極的にとっていき、球種も増やしていくほうが、彼のためだ。

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こうやって考えていくと、野球というのは本当に興味が尽きない。

「ボール球を振らせることのできる投手」と簡単にいうが、その多くは「ゾーンにストライクを数多く投げ、ゾーン内で勝負する投手」なのだろうか。それともストライク率とは無関係なのか。そして、ストライクゾーンで勝負してくる投手のストライクは、どれくらい打たれているのか。

ついでだから、「ストライクゾーンに投げる率であるZone率」と、「ストライクゾーンに投げた球をバットに当てられる率であるZ-Contact率」の関係をちょっと調べてみた。(青い点が、ストライク率の高いア・リーグ投手ベスト20)

ZONE%とZ-Contact%


このグラフでも、いろいろな投手たちのピッチングスタイルの違いがわかる。

例えば、マックス・シャーザーと、ジェレミー・ガスリーの2人は、ストライク率が似た投手だが、ガスリーのほうがはるかにコンタクト率が高い。つまり、同じストライクでも、シャーザーのストライクはバットに非常に当てにくく、他方、ガスリーのストライクは当てやすい、ということだ。
これは、かつてボルチモア時代のガスリーの被ホームラン率がア・リーグで3本指に入るほど高かった事実にピタリと一致する。かつての彼の欠点は、ストライクを投げることではなく、「ストライクにキレがないことだった」ということがわかる仕組みになっている。

このガスリーと同じ「ストライクを多投し、同時にストライクのコンタクト率が異常に高い」という特徴をもつのが、ミネソタのスコット・ダイアモンドだ。
2012年に防御率3.54で12勝9敗と、飛躍が期待されたが、2013年は防御率5.52、5勝8敗と低迷。2013年のHR/9は1.5で、リーグ平均の1.1よりずっと高い。つまり、ただほどほどのストライクを投げる常識的な投球術を続けているだけで活躍し続けられるほど、MLBは甘くない、ということだ。


2つ目のグラフにおいても、クリフ・リーのストライク率の異常な高さと、マリアーノ・リベラのストライク率の異様な低さは、群を抜いている。
いかに彼らが、他の投手とはまったく違うピッチング哲学を持った投手であることかが、このグラフからもよくわかる。
リベラのZ-Contact%、つまり、ストライクのコンタクト率は、マックス・シャーザー並みに低い。上で「リベラは、たくさんのボール球を投げ、そのボール球を振らせている特殊な投手だ」と書いたが、ストライクにしても、打者にやすやすとコンタクトされる安っぽいストライクではない、ということだ。
クリフ・リーのストライクにしても、あれだけ数多くのストライクばかり投げているのに、このコンタクト率で済んでいることは、彼のストライクが並みのレベルではない質の高いストライクであることを示している。

damejima at 13:33

July 06, 2013

7月5日のボルチモア戦でイヴァン・ノバがみせてくれたクリス・デービスの三振パターンは、実はだいぶ前、2012年の夏過ぎくらいからわかっていた。

クリス・デービスは、追い込んでおいて、
ベースの真上に変化球をタテに落とせば
確実に三振させられる。

だが、解決できていない、やっかいな問題は
「決め球を何にするか」ではなく、別のところにある。

いくら彼の打席のビヘビアを観察しても、いまだにクリス・デービスを打者不利なカウント(できたら0-2か1-2)に追い込む確実な投球パターン、つまり、初球から3球目あたりまでをどう構成したらいいかが、さっぱり見えてこないのだ。

2013年7月5日ボルチモア戦クリス・デービス三振2013年7月5日の
三振パターン

真ん中低めのカーブ

2012年秋のクリス・デービスの三振パターン2012年秋の
三振パターン

真ん中低めのスライダー


今わかっているクリス・デービス攻略手法のポイントは
追い込むこと」に尽きる。

まず、クリス・デービスの今シーズンのスピードボールに対するHot Zoneを見てもらいたい。
ほとんどのコースが真っ赤に染まっている。まぁ、驚くくらいこのバッターはスピードボールに強いのである。

2013全投手・スピードボール・打率 Hot Zone
クリス・デービス 2013全投手・スピードボール打率
Chris Davis Hot Zones - ESPN

ところが、である。こんなデータがある。
同じクリス・デービスの「2ストライクをとられた後の、スピードボールに対する打率」である。

2013全投手・2ストライク後のスピードボール打率
クリス・デービス2013全投手2ストライクにおけるスピードボール打率

どうだろう。とても同じ打者とは思えないほど差がある。
結論を先に書いておこう。

「初球や、打者有利なカウントでのクリス・デービス」と「2ストライクとられて追い込まれた後のクリス・デービス」は、全くの別人である。クリス・デービスは、追い込まれると別人のように打てなくなる

最初は経験則でも、あとで彼の「カウント別・打撃データ」を見れば、一目瞭然に裏がとれる。クリス・デービスは追い込んだ後でなら、彼が滅法強いはずの速球を投げても案外大丈夫だったりするのだ。(もちろんどうせ投げるなら「真ん中低めに、タテに落ちる変化球」のほうが望ましい)

クリス・デービスのカウント別バッティングスタッツ
ソース:Chris Davis 2013 Batting Splits - Baseball-Reference.com

念には念を入れて、クリス・デービスの、ビハインドとアヘッド、つまり投手有利カウントと打者有利カウントにおけるHot Zoneを調べておこう。鮮やかな結果がでる。

アヘッドカウント打率
2013全投手全球種
クリス・デービス 2013全投手アヘッドカウント全球種打率

ビハインドカウント打率
2013全投手全球種
クリス・デービス 2013全投手ビハインドカウント全球種打率


どうだろう。鮮やか過ぎるほどの差がでる。
クリス・デービスは「ビハインドカウント」では、急激に低めの球が打てなくなるというか、もっと正確にいうと、低めのボール球に手を出して、凡退してくれることが、ハッキリわかる。


ただ、問題がひとつだけある。

へたをすると三冠王に手がとどきかねないクリス・デービスを、ピッチャーはどう配球したら「投手有利なカウント」に追い込めるのか?
という点だ。
去年から今まで、ずっと観察を続けているにもかかわらず、直感でも、データ上でも、「これだ!」と手のひらを打てる的確な結論がなかなかみえてこない。(一時期「アウトコース高めの2シーム」がいいかなと思っていたが、この球を流し打ちでホームランにするのを見て、これじゃないと思った)


ただ、ヒントはつかんでいる。
ひとつのヒントは「初球」にある。

クリス・デービス2013全投手初球スピードボール打率


理由はまったくわからないが、データ上、彼が初球をヒットにしやすい球種は、どういうわけか、彼が最も得意なはずの「速球」ではなく、カーブ、チェンジアップといった、「スピードを抑えた大きく曲がるボール」であることがわかっている。


だから、今のところわかっていることを書いておくと、クリス・デービス攻略に必要な発想は、次のようなことになる。

クリス・デービスと対戦する投手がもつべき発想は、
カウントによって投げていい球種が変わるという発想。

まず初球は、いくら彼が「初球」と「速球」を鬼のように得意にしているバッターだからといっても、打たれるのを怖がって「カーブ」、「チェンジアップ」など、遅めの変化球で初球に安易にストライクを取りにいってはいけない。
むしろ、初球こそ、勇気をもって彼の最も得意なはずの速球を投げるべき。初球に限って(なぜそうなのか、理由不明だが)彼はスピードボールをあまりうまくミートできない。

運よく「打者有利なカウントに一度もならないうちに」クリス・デービスを追い込むことに成功できたら、後は簡単だ。ホームプレートの真上にタテに落ちる変化球を投げて、三振してもらうだけ。(もちろん、いくら追い込んでいるとしても、コントロールミスして真ん中に投げたりしてはいけない)
ただし、この「法則」にも条件がある。彼を打者不利カウントに追い込むプロセスで、「打者有利なカウントにしてしまったとき」には成立しない。打者有利カウントになったら、よほど警戒して次の球を投げないとやられてしまう。

残念ながら、彼から「2ストライク目を奪うための正確な方法論」は、いまだ確立されていない。


damejima at 22:01


イヴァン・ノバがボルチモア戦で好投したときにみせたマニー・マチャドへの配球がなかなか良かったことを書いたことだし、ついでに、アダム・ジョーンズが苦手なアウトローの変化球を三振して、ダグアウトに帰ってから、かぶっていたヘルメットを脱いで、それをバットで打とうとし、さらにはバットを壁にたたきつけて悔しがったシーンの「意味」も記録に残しておこう。
Baltimore Orioles at New York Yankees - July 5, 2013 | MLB.com Classic


今年からテキサスからアナハイムに移籍した左バッター、ジョシュ・ハミルトンが、追い込まれてからアウトローの変化球を投げられると、ほぼ間違いなく空振り三振してしまう悪いクセがあることは、既に2012年のポストシーズンに、ミゲル・カブレラとの比較で書いている。
だから、移籍したハミルトンがエンゼルスにとって巨大過ぎる不良債権になることは最初から予想できていたし、この「欠陥があることが最初からわかっているバッター」を、例えばシアトルが獲得しようとしていたことを聞いたときには鼻でせせら笑ったものだ。
Damejima's HARDBALL:2012年10月6日、2012オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。


アダム・ジョーンズにも、このハミルトンと同じクセがある。追い込まれると、ボールになるアウトローの変化球を追いかけて空振りしてしまうクセがあるのである。
(このクセは、BJアップトンにもある。だから彼の凋落も予想できた。Damejima's HARDBALL:2012年9月17日 アウトコースのスライダーで空振り三振するのがわかりきっているBJアップトンに、わざわざ真ん中の球を投げて3安打させるボストンの「甘さ」
インコースの連投でファウルを打たされて追い込まれ、最後はアウトコース低めの変化球(カーブ、スライダー)を完全に泳いだスイングで空振り。これが何十回も見てきたアダム・ジョーンズの典型的な三振パターンだ。

アダム・ジョーンズはクレバーなプレーヤーだから、自分の欠点をとっくにわかっている。誰よりもよくわかってはいるが、修正することができない。それが長年プレーを果てしない練習によって自分の体の奥底に滲みこませているプロならではの悩みだ。
だから、アダム・ジョーンズは悔しさのあまり、バットを壁に投げつけた。

2013年7月5日ボルチモア戦アダム・ジョーンズ三振7回表 三振




不思議なのは、度重なる凡退でバッティングの欠陥を他チームに見抜かれてしまったハミルトンが打率が2割ちょっとしかないほどバッティングが壊滅したのに、同じような欠点をもつアダム・ジョーンズが、ハミルトンのように低迷してないことだ。
彼は、低迷どころか、むしろ打率.291、ホームラン15本、二塁打22本を打っていて(7月5日現在)、ボルチモアの4番に座り続けている。

これはどうしたことだろう。
いつも不思議に思って彼の打席を見ている。

今だから正直に言えば、アダム・ジョーンズの「アウトローの欠陥」がわかっていたから、今シーズンの彼の打撃成績はハミルトン同様、低迷するものと予想したのだが、そうはならなかった。
そして、残念なことに、どのチームの投手もアダム・ジョーンズを完全には抑え込めない理由が、いまだにわからない。


ただ、とはいえ、
多少ボンヤリとした「推定」がないこともない。


それは、ボルチモアというチームがとっている「他チームにスカウティングされにくい、独自の『オセロ的』な打線構成手法」だ。

マニー・マチャドが、実は「アウトコース低めに異常にこだわることで数字を残しているバッターであること」は既に書いたが、では、そういう2番バッターにアウトローを打たれたばかりのピッチャーが、そのあとに出てきたボルチモアの3番とか4番打者に「アウトローを集中して投げる気になる」だろうか? ならないと思う。

つまり、2番に「アウトローに異常に強い打者を置いていること」が、アダム・ジョーンズに対するアウトロー攻めを回避させているのではないか、と思っているわけだ。(もちろん、それですべてを説明できるとも思えないが)

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こうした「タイプの違う打者を、まるでオセロの盤のように、交互に配置する」という「ボルチモア独特のオセロ的な打線構成手法」は、ボルチモアの監督がバック・ショーウォルターにかわってからというもの、ずっと見せられてきた。


例えば2012年ボルチモア打線のある試合のスターティング・オーダーをみてもらいたい。

左 マクラウス
右 ハーディー
右 ジョーンズ
両 ウィータース
右 レイノルズ
右 マチャド
左 デービス
右 フォード
右 アンディーノ

黒い太字で書いたのは、ストレートに非常に強いバッター
赤い太字で書いたのは、どちらかというと変化球に強いバッターだ。

「見た目」では「特殊なジグザグになっている」ようには見えない。だが実際には、(あくまで仮説だが)2012ボルチモアの上位打線は「まるでオセロの盤のように、ストレートに強いバッターと、変化球に強いバッターを、交互にならべて」作られていた。

ボルチモア打線が、相手チームの打線のスカウティングをまるでしないまま投げてくれるような、データを活用しない雑なチームと対戦すると、特に「持ち球の種類の少ないブルペン投手」をやすやすと攻略できる。そういうシーンを、2012シーズンの終盤にはよく見たものだ。
この2012シーズン終盤のボルチモア独特の打線の組み方を、仮に「ボルチモア・オセロ打線」とでも呼んでおくことにすると、その「メリット」は何だろう。


「オセロ打線」の狙いは、
いわば漁業でいう「定置網」だ。

ボルチモアの定置網にかかるのは、特徴の異なる打者ごとに配球や攻め方を変えようとせず、どんなバッターにも同じ配球をしようとする単調なチーム、単調なバッテリーだ。そういうチーム、バッテリーは、残念ながら、MLBにも非常に数多く存在する。

例えば、2012ヤンキースの正捕手だったラッセル・マーティンもそうだった。かなりのゲーム数を集中してみさせてもらったが、結論からいうと、彼は相手チームのスカウティングをほとんど頭に入れず、ピッチャーにワンパターンな配球しかさせていなかった。
彼は、例えば、ランナーが出るとアウトコース低めに球を集めることくらいしか考えない。また、ゲームの中での組み立てにしても、「最初の2巡目くらいまではアウトコースを使い、3巡目からインコースを混ぜる」とか、「2巡目までストレートを中心、3巡目からは変化球を混ぜる」程度の、誰でもやっていることしかしていなかった。
だから、例えば「アウトコースがアホみたいに得意なバッター」がズラリと揃っているホワイトソックスやトロントなどとのゲームであっても、スカウティングをまったく考慮せず、何も考えずに「アウトコース低めの変化球のサイン」ばかり出しては打たれまくって、ヤンキースは簡単に負けていた。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。


仮に「ボルチモア・オセロ打線」という仮説が正しいとして、こういう打線と、「打者ひとりひとりに対応することを全く考えないバッテリー」が対戦すると、投手はどういう目に遭うか。「配球の単調なラッセル・マーティンのヤンキースが、ボルチモア・オセロ打線と対戦するケース」をシミュレーションしてみよう。

ストレートを打たれまくる序盤

ヤンキースバッテリーはゲーム開始前に、たいていのチームの先発投手がそうであるように、ゲーム序盤のまだ球にパワーがあるうちは「ストレート」で押していくと決め、まずは、とことんストレート系で勝負する。
すると、どうなるか。
ストレートに強い1番マクラウスにストレートを打たれ、2番ハーディーはうちとるが、ランナーはセカンドに進塁。そこでストレートに鬼のように強い3番アダム・ジョーンズに、よせばいいのにストレート勝負、タイムリーを浴びる。スライダー打ちのうまい4番ウィータースは凡退させたが、インハイの好きな5番レイノルズに、インハイのストレートでのけぞらせるつもりが、逆にホームランを食らう。インコースが苦手な6番マチャドは打ち損じてくれるが、ストレートに強い7番クリス・デービスに痛打され、大量失点。

変化球に強い打者に打たれまくるゲーム中盤以降

序盤にストレートを打たれまくって困り果てたラッセル・マーティンは、打者3巡目以降に「変化球中心の組み立て」に変えることにした。
すると、どうなるか。
1番マクラウスは凡退させたが、2番ハーディーに低めのカットボールをヒットされる。3番アダム・ジョーンズは彼の苦手なアウトローのスライダーで泳がせて空振り三振させたが、4番ウィータースには「アダム・ジョーンズと同じように投げたはずのアウトローのスライダー」をタイムリーされてしまう。
スライダーを投げさせることにもビビったマーティンは、サインに困り、ゲーム序盤にインハイのストレートをホームランされている5番レイノルズに、こんどは「アウトコースのカーブ」を投げてみる。だが、球種にこだわりのないレイノルズに空振りさせるつもりのカーブをタイムリーヒットされて、ゲームは完全に劣勢に陥る。


「オセロ打線」というコンセプトは、持ち球の種類が少ないブルペンピッチャーには特に効果的だろうと思う。
というのは、「ストレート系を打てる打者」と「変化球を打てる打者」を交互に並べた「オセロ打線」との対戦では、その投手の中心球種が何であれ、持ち球の種類の少ない投手が投げる場合、オセロ打線は「どこかでは必ずその投手の中心球種を得意とするバッターが登場してきてしまう仕組み」になっているからだ。(だから「定置網」なのだ)

例えば、2012ヤンキースのブルペンピッチャーには、持ち球の種類が極端に少ないタイプが多かった。当時カットボールしか投げようとしていなかったローバートソン(今シーズンはカーブが持ち球に加わって改善した)、スライダーしか投げられないコディ・エプリー(オフに放出)、ストレートばかり投げようとするローガン(彼は今も変わらない)などだ。
だから、ヤンキースのブルペン投手がボルチモア戦で投げると、たとえ先頭打者をうちとれたとしても、2人目か3人目の打者に、ほぼ必ずといっていいほどつかまってしまう。
(ただ、たとえ当時のヤンキースが、この『ボルチモア・オセロ打線』の仕組みに気づいていたとしても、対処のしようがない。というのは、ブルペンピッチャーの数は限られているわけだから、すべてのブルペン投手をワンポイントで使うわけにいかないからだ。根本原因は「ヤンキースのブルペン投手の球種が少なすぎること」にある)
2012ヤンキースは、ストレートしか投げられないブルペン投手、あるいはスライダーしか投げられないような、柔軟性に欠けるブルペン投手ばかりゲーム終盤に投入していたのだから、2012年9月に地区優勝を逃しそうになるほどヤンキースがボルチモアに追い上げられたのも無理はなかった。


どうだろう。仮説ではあるが、得意球種(あるいは得意コース)の異なる打者を交互に並べるオセロ打線の効果や面白さが、わかってもらえたらいいが、と思う。

左右の打者を交互に並べるのが「ジグザグ打線」だが、それだけが打線の組み方ではないことを、ボルチモアGMダン・デュケットと監督バック・ショーウォルターは証明してみせたのである。
このオセロ打線は、たとえ打率のあまり高くない打者ばかり集めたチームであっても、十分に得点圏シチュエーションを作り、たくさんの得点を生みだすことが可能だということを証明してみせた。それが、2012年ボルチモア・オリオールズだった、というわけだ。


ちなみに、こうした打線を組むに至った「理由」は何だろう。

もちろんあくまで想像でしかないが、「ボルチモア・オセロ打線」が組まれた根本的なモティベーションは、「安定したバッターで、ストレートに滅法強いが、短所も多数あるアダム・ジョーンズ」と、「一見ストレートに強そうに見えるが、実は変化球を打つタイプであるマット・ウィータース」を、3番4番に並べて固定する、そのことだけのために考え出された、とブログ主は見ている。(もちろん、2012シーズン終盤になって左の好打者ニック・マーケイキスを怪我で欠いたことで、他に1番に適した野手が見つからなかったことも関係しているだろう)

もし、ボルチモアのメインピースであるジョーンズとウィータースを、3番4番として固定した形で地区優勝を飾りたいボルチモアが、同時に「ジグザグ打線」にこだわろうとすると、どうなるか、考えてみる。
右左の順序の関係上、(本来1番に適任なのは左バッターであることが多いが、ここではそれを無視していうと)「1番を打てる右打者」が必要になるが、当時のボルチモアには「1番バッターとしてのバッティングができるシュアなバッター」は存在しなかった。
ショーウォルターは、右のアンディーノライモールドを1番に置いてテストもしたが、この右バッター2人は、左のマーケイキスのバッティングには遠く及ばないことはハッキリしていたし、そもそも彼らではバッティングが雑すぎて1番には向かない。(だからシーズンオフにアンディーノを見切って放出した)

左右を気にせず考えると、2012ボルチモアの1番に最もふさわしかったのは明らかに左のマーケイキスだが、その彼が怪我で戦列を離れてしまい、ポストシーズンで1番を任されたのは、やはり左のマクラウスで、右打者を置くことはできなかった。

他チームから獲得するにしても、良質の1番バッターは、価格は安くないし、そもそも市場にほとんど出回ってない。
予算面でかなり無理して打線をジグザグ化してみたところで、ペイロールが打者偏重になることでボルチモア投手陣が薄くなってしまえば、ボルチモアの長年の課題である「投手陣立て直し」という最重要課題の達成に支障をきたしてしまう。

ボルチモアGMダン・デュケットは実際にはどうしたか。
価格の高くない「ストレートに強いパワー系打者」を獲得してきて(テキサスのクリス・デービス、Dバックスのマーク・レイノルズ、アトランタのネイト・マクラウス)、アダム・ジョーンズと一緒に並べて「打線の骨」にした。
そして、その太い骨と骨の間に、変化球に強い野手(生え抜きのウィータース、マチャド、アンディーノなどと、ミネソタから獲ってきたJJハーディー)を「オセロの盤」のように交互に挟みこんで「打線の肉」とし、「骨と肉」が交互に組み合わさった、立体的な「オセロ打線」を組み上げた。

相手投手攻略と、自軍の打線の特徴のカモフラージュのために、左右のバッターを交互に並べる「ジグザグ打線」ではなく、得意球種(あるいは得意コース)の異なるバッターを交互に並べる「オセロ打線」。
この仮説がもし本当に2012ボルチモア打線の構成意図だったとしたら、打線戦略として斬新だし、単調な配球しかしないバッテリーを抱えるチームと対戦する戦略として非常にリーズナブルだったと思うのである。



ちなみに、2012ボルチモア打線が「ストレートに強いアダム・ジョーンズと、変化球に強いマット・ウィータースを軸に、ストレートに強い打者、変化球に強い打者を交互に並べることで、「相手チームの投手のあらゆる配球パターンに対応できる打線を作った」とするなら、デトロイト打線は、「あらゆるコースに滅法強いミゲル・カブレラと、アウトコースに強いプリンス・フィルダーを軸に、「インコースに強い打者をズラリと並べていることに特徴がある。
これもまぁ、ひとつの「オセロ打線」といえなくもない。インコースだけとか、アウトコースだけとか、決まったコースだけ攻めていても、デトロイト打線は沈黙してくれないのだ。

2012ALCSのGame 1、Game 2で、ヤンキースバッテリーは、打順2巡目まではデトロイト打線のアウトコースを攻めきって完全に沈黙させていたにもかかわらず、ゲーム終盤になって、自分からインコースを突く配球に変えて自滅するという大失態を、2ゲーム続けて敗退した。
デトロイト打線がインコースに強い打者が揃ってる、そのくらいのこともわからないで、自分からインコース攻めに切り替えて打たれているラッセル・マーティンには、つける薬がなかった。
このキャッチャーは、ボルチモアの「オセロ打線」にさんざんやられまくったクセに、「自分たちがなぜこれほどまでに、ボルチモア打線につかまってしまうのか」、ちっとも探究せず、こんどはインコースに死ぬほど強いデトロイト打線、例えば、オースティン・ジャクソンデルモン・ヤングに、インコース勝負を挑んでは打たれまくったのである。(あれだけ得意不得意がはっきりしているオースティン・ジャクソンが低迷せず、いまだに3割とか打てるのは、それだけ「ぬるいチーム」「ぬるいバッテリー」が多数あるという証明でもある)


こういう「アタマを使わないチーム、アタマを使わないバッテリーを、カモにする」のが、「オセロ打線」という定置網戦術の狙いだと思う。
「オセロ打線」が組まれていることは、見た目ではわからない。それだけに、他チームに気がつかれにくく、スカウティングされにくい。スカウティングされにくいことは、今の情報戦時代の野球にとって、最大のメリットである。

この「それぞれの打者の欠点と長所をあらかじめ把握し、長所の異なるバッターを交互に並べることで、お互いの欠点をカバーしあう打線にする」というボルチモアならではの新発想は、2013年のボルチモア打線でも立派に機能していて、それが「アウトローに明白な欠点をもつアダム・ジョーンズ」の凋落を防いでいるのではないか。そんなふうに思うのである。

damejima at 17:01
ボルチモア第1戦は、イヴァン・ノヴァが、リードされている気楽さもあって、ゲーム後半に素晴らしいピッチングをみせ、ヤンキースがサヨナラ勝ちした。

このゲームの収穫は、大雑把なピッチングしかできなさそうに思われていたノヴァが、なんと「スカウティングどおりのピッチングでボルチモアの強力打線を封じ込めた」をみせたことだ。これは非常に大きい。(先制点を与えなければ100点満点だった)
今日のノヴァのクレバーさは、例えば、「アウトコースマニア」のマニー・マチャドに対して、彼の得意でないインコースでうちとるか、そうでない場合でも、まず初球にインコースを見せておいてからアウトコースを投げていることだ。「なにがなんでも最初から最後までアウトローのスライダー連投」などという馬鹿な配球は、今日のノヴァは一度もやってない。
Baltimore Orioles at New York Yankees - July 5, 2013 | MLB.com Classic


2013年7月5日ボルチモア戦マニー・マチャド凡退1回表 レフトライナー

2013年7月5日ボルチモア戦マニー・マチャド9回表凡退9回表 ショートゴロ


MLBの先発ピッチャーは、サンフランシスコ、オークランド、ボストンなど、データ活用のうまいチームならば、クローザーも含め、ピッチャーが細かなスカウティングデータ通りに打者の弱点を効果的に攻めてくることも少なくない。

だが、たいていのチームの場合は、「そのピッチャーがもっている『非常に狭い、ワンパターンな配球パターン』どおりにしか投げようとしないし、投げられもしない。そもそも、打者ごとに柔軟に配球を変えて投げられる器用さ自体を、もともと持ち合わせていない」ことがほとんどだ。
だから、ゲームを見ていると、弱いチームに限って「なんで、このバッターの最も得意なコースに投げるのかね?」と首をひねるシーンを、イヤというほど見せられる。


ヤンキースはどうか。

ヤンキースの大半のピッチャーは、残念なことに、「バッターのスカウティングと無関係に、自分の投げたい球を投げている」、そういうチームだ。(「スカウティングどおりに投げる能力」がないのではない。そういう「能力」自体はあるのに、実行してない)

だから、「このバッターに、なぜその球種、そのコースに投げてしまうのか?」とイライラする場面がけして少なくない。
この傾向は、野手に怪我人が大量に出て、投手陣の頑張りで貯金を作ってきたといわれることの多い2013シーズンであっても、別にかわりない。
これだけ貧打の状態でも勝率が5割を割らないのは、上位打線の3人、ガードナーイチローカノーが踏ん張っていること、もともとレベルの高い持ち球を持っている先発投手をそろえているから、だけであって、もしヤンキースの投手陣の配球がもっとテクニカルなものだったら(あるいはキャッチャーのサインがもっとクレバーだったら)勝てる試合はもっとあったし、勝率はこんなに低くない。


例えば、ボルチモアの伸び盛りの2番打者、マニー・マチャドは、ESPNのHot Zoneでもわかるとおり、「アウトコース、それも低めが、馬鹿みたいに強いバッター」だ。
これは、彼が打席の中でホームプレートから離れて立っていることから、バットを振らなくても最初から推定できた。例えば日本のプロ野球巨人の長野もその典型だが、インコースに苦手意識があるバッターというものは、えてしてプレートから離れて立って、強烈に踏み込んできて打ちたがるものだからだ。


マニー・マチャド
2013年全ゲーム 全投手・全球種・打率 Hot Zone

2013マニー・マチャド全球種コース別全打率
Manny Machado Hot Zones - ESPN


ヤンキースの右投手は、カウントが打者有利になったとか、強打者との対戦だとかいうと、すぐにビビッてしまい、まるで頭を使わずに、簡単に「右バッターのアウトローにスライダー」を投げてしまう。

これは右投手の悪いクセだ。

この、右投手のアウトローを狙い打ちすることでハイアベレージを挙げているのがわかりきっているマニー・マチャドに対してですら、「安易にアウトローのスライダーを投げてしまうような右投手」は、ハッキリ、「頭が悪い。馬鹿だ。」と言わせてもらう。

ちょっとはアタマを使え、と言いたくなる。

2013年直近30ゲーム
右投手・スライダー・長打 Hot Zone

2013最近30ゲーム マニー・マチャド右投手スライダー長打



ついでだから、マニー・マチャドの左投手に対するバッティング傾向も書いておこう。以下のデータを見ればわかるが、彼は、右投手のアウトローだけでなく、左投手のアウトローにも強い。一目瞭然だ。左投手でも、右投手と同様に、このアウトコース好きのバッターに、何の工夫もなくアウトローの球を投げてはいけない。

もちろん、右投手左投手それぞれに、「アウトコース好きのマニー・マチャドが、インコースを打てている球種」というのも、わずかながら存在する。「右投手のストレート」、「左投手のスライダー」が、それにあたる。これらの球種はインコースに投げても打たれる。
だが、それらは単に「例外」であって、投手があらかじめ「例外」として把握しておき、投げなければ何の問題も起きない。

マニー・マチャドのような「傾向のハッキリしている打者」に打たれるのを防ぐことは、どんな投手でもできる。それをしないのは、単に投手とチームの怠慢としかいいようがない。

2013直近30ゲーム 左投手・全球種・長打
2013直近30ゲーム マニー・マチャド左投手全球種長打

2013全ゲーム 左投手・スピードボール・打率
2013全ゲーム マニー・マチャド左投手スピードボール打率

2013全ゲーム 左投手・カーブ・打率
2013全ゲーム マニー・マチャド左投手カーブ打率

2013全ゲーム 左投手・チェンジアップ・打率
2013全ゲーム マニー・マチャド左投手チェンジアップ打率


damejima at 13:28

June 16, 2013

ヤンキースのフィル・ヒューズは、不思議なピッチャーである。そしてまた、わかりやすいピッチャーでもある。


というのは、彼が
ア・リーグで「最も初球ストライク率の高いピッチャー」で、同時にまた「カウント0-2に追い込む率が最も高い投手」であるにもかかわらず、どういうわけか
打者ひとりあたり、最も多くの球数を投げるピッチャーのひとり」でもある、からだ。
(2013年6月14日現在。以下データ採集日も同じ)


「初球ストライク率」が70%を超えるピッチャーなんて、ア・リーグでは彼ひとりだけだ。ナ・リーグをみても、たった2人しかいない。(ミルウォーキーのカイル・ローズと、アリゾナのパトリック・コルビン)
また「打者をカウント0-2に追い込む率」(Baseball Referenceでいう「02%」)は、38%。これも35%を超えるピッチャーなんて、ア・リーグにはスコット・カズミアーとアニバル・サンチェスくらいしかいない。バーランダーでさえ34%だ。

問題なのは、これだけストライクを投げているというのに、彼の「打者ひとりあたりに投げる球数」(P/PA=投球数÷打席数)は、4.10と、4を超えてしまっていることだ。P/PAが4.10を超えるローテーションピッチャーなんて、ア・リーグでたった5人しかいない。(クリス・ティルマン、ヘクター・サンチアゴなど)

本当にヒューズは不可思議なピッチャーだ。


要するに
フィル・ヒューズは、「初球に必ずといっていいほどストライクを投げる」し、「バッターを追い込むのが誰より上手い」が、同時に、「どんなバッターにも、必ず4球以上投げてしまう」という、勝負どころで真っ向勝負に行けない、典型的な「ひとり相撲」タイプのピッチャーだ
ということだ。(この傾向は、実はサバシアや黒田にもある)


ヤンキースのゲームをいつも見ている人には説明するまでもないことだが、ヒューズは打者を追い込んむところまではいいが、そこからがダラダラ、だらだら、やたらと長い
バッターを追い込んだら、彼は、必ずといっていいほどアウトコース低めあたりに「釣り球のつもりの変化球」、シンカーやスライダーを投げたがる。
ところが、この釣り球、まるで効果がなくて、バッターは余裕で見逃してくる。だから、せっかくカウント0-2にしたのにボールばかり増えて、うっかりすると、0-2からフルカウントにしてしまうことも、けして少なくない。

要するに、ヒューズはピッチングの組み立てが滅茶苦茶にワンパターンで、しかも追い込んだ打者にさらに強気の勝負を挑んで、たたみこめないタイプなのだ。


「初球ストライク率」の高いピッチャー(2013AL)

「初球ストライク率」の高いピッチャー(2013AL)
2013 American League Pitching Pitches - Baseball-Reference.com generated 2013/06/15


打者ひとりあたりの投球数の少ないピッチャー(2013AL)

打者ひとりあたりの投球数の少ないピッチャー(2013AL)
資料:同上


では、ヒューズには名投手になれる可能性はないのだろうか?

いや、むしろ、彼が「バッターを噛み殺さんばかりの勝負への気迫」やクレバーな配球術さえ持てば、名投手への道も開けると思う。下記の2つの表を見てもらいたい。


これらは、上の2つの図で「リストA両方に出ているピッチャー」と、「リストB下の図だけに出てくるピッチャー」を並べてみたものだ。

リストA:エース級が多い。サイ・ヤンガータイプ
初球ストライクが入り、かつ、球数も少ないピッチャー
バートロ・コロン 2.92 66%
デビッド・プライス
岩隈久志 1.79 66%
CCサバシア
アーヴィン・サンタナ 2.74 66%
ジョー・ブラントン
ジェレミー・ガスリー 3.60 64%
(名前の後の数字は防御率と初球ストライク率。
 数字のいい投手のみ添付)

リストB:軟投の技巧派が多い。
初球ストライク率が低いにもかかわらず
球数が少ないピッチャー

ジェローム・ウィリアムズ 3.15 61%
アンディ・ペティット 3.95 61%
ジェイソン・バルガス 3.74 58%
ニック・ぺティッシュ
ケビン・コレイア 3.97 58%
ジャスティン・マスターソン 3.52 61%
ブランドン・マウアー
ダン・ストレイリー
ジャスティン・グリム
ジャロッド・パーカー
ジョー・ソーンダース
バッド・ノリス 3.47 65%


かつて初球からどんどンストライクをとっていたジェイソン・バルガスを知っている立場からいうと、今年の数字には、ちょっと驚かされる。今シーズンの彼は初球ストライク率がなんと「58%」しかない。昔と組み立てを変え、今は初球に無理にストライクを取りにいくのを止めているのだろう。
彼本来の良さは、コントロールが抜群に良いことだが、かつてはクリフ・リー譲りの攻めの配球を信条としてもいたから、シアトル時代は初球から何の迷いもなく、積極的にストライクを取りにいっていた。
だが、いかんせん彼は大学時代の怪我でスピードはない。相手チームにパターンを覚えられるとストライクを狙い打たれる。だから、今年はたぶんバッターに狙いを絞らせない意味で配球コンセプトを変え、「初球から無理にストライクをとらなくても、球数は少なく抑えられる」そういうピッチングを心がけているのだろう。本当に稀有なピッチャーだ。

かたや、「初球ストライクは入るが、決めきれず、球数の多いピッチャー」のひとり、フィル・ヒューズの防御率は、現在のところ4.89。似たタイプのジェイク・ピービ―もERA4.30であり、概してこういう「初球にストライクを多投するが、どういうわけか球数自体は増えるタイプ」のピッチャーのERAは平均して高い。
バートロ・コロンのような「初球にストライクが入り、しかも、球数も少ないピッチャー」と、「単に初球にストライクが入るだけで、球数は多い」のヒューズとの違いは何だろう。
せめてヒューズに、打者とガチンコ勝負する心臓の強さ(もっと言えば、勝負どころで使えるキレのいい変化球、クレバーで大胆な配球も欲しいところだが)があれば、せっかくのストライクがもっと生きて、不動のエース級ピッチャーになる道も開けるだろうに。もったいない。


今の時代はやたらと出塁率を重んじるセイバーの影響などもあって、バッターが非常に球を見てくる(ないしはベンチがやたらと見逃しを指示してくる)確率が高くなっている時代だから、ピッチャーが初球ストライクを決めること自体は、たぶんかつてほど難しくない。
だが、いくら初球ストライクを決めたとしても、球を見てくるバッターばかりになってきた今の時代、追い込んだ後でアウトコースにしみったれた変化球ばかり連投するようなワンパターン配球を繰り返していても、強いチームの好打者はそうそう簡単に凡退してくれなくなっている。


かつて、ダメ捕手城島がシアトルにいた時代には、「初球にはストライクを投げるべきだ。それがいいピッチャーの条件だ」なんて、紋切型なことをもの知り顔で言いたがる人間をよく見かけたものだ。
だが、「初球にストライクを決めておいて、後はアウトコース低めを連投」なんていうワンパターン配球だけで世の中渡っていけるなら、誰でもサイ・ヤング賞投手になれる。

MLBのピッチャーにはさまざまなスタイルがある。「MLBでは必ず初球にストライクを決めてくる」だの、「初球にストライクを必ず投げるべきだ」だのと知ったかぶりに主張するのは、勘違いもはなはだしい。
初球にストライクを決めることばかりが、いいピッチャーになる条件なわけがない。
もしそれが本当なら、「他の誰より、初球にストライクを決められるフィル・ヒューズ」が、他の誰より先にア・リーグのサイ・ヤング賞投手になれたはずだ。

いくら初球ストライク率が高くても、追い込んだバッターとの勝負にいかなければ、必ずしもいい投手にはなれない。


参考記事:Damejima's HARDBALL:2011年5月13日、「打者を追い込むところまで」で終わりの投球術と、「打者を最終的にうちとる」投球術の落差  (1)打者を追い込んだ後のヘルナンデスの不可思議な「逆追い込まれ現象」

damejima at 02:16
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