DET ジョー・ドンブロウスキー

2013年10月14日、10年前の2003年に119敗したチームを3年連続ALCSに進出できる有力チームに変えたデトロイトGMデーブ・ドンブロウスキーの「この10年間のトレードリスト」。
2013年10月13日、ALDS Game 5における球審Tom Hallionの「左打者に関するバーランダー寄り判定」を後世に残す。
2012年5月10日、デトロイトの誇る先発投手3人全員を打ち、イチローをうちとる典型的配球も打ち砕いて「ゲームを動かす突破口」を築き、ジム・リーランドを涙目にさせたイチロー。
2011年10月13日、ALCS Game 5で「4人の打者による『ナチュラル・サイクル』」という珍記録。

October 16, 2013

Dave DombrowskiDave Dombrowski

Yahoo SportsのJeff Passanが書いたデトロイト・タイガースの社長兼GMデーブ・ドンブロウスキーの手腕に関する記事を面白く読んだ。
「あのヒューストンがこの3年間で最も多く負けたシーズンですら111敗だというのに、2003年に119敗もしているデトロイトを3年連続でALCSに進出できるチームに変えた」とJeff Passanが書いた「かつてのデトロイトがどれほど弱いチームだったかを示すためのたとえ話」が、ヒューストンのファンにはたいへん申し訳ないのだが、なんともリアリティがあって笑ってしまった(笑) まぁ、興味があれば読んでみてもらいたい。
From a 119-loss team to a perennial power, Dave Dombrowski has spun magic for Tigers - Yahoo Sports


この記事の基本的な主旨のひとつは、このブログの以下の記事で、デトロイトについて書いた部分とまったく同じだ。
Damejima's HARDBALL:2013年9月19日、「2000年代中期までのドラフト上位指名の成果」と、「2010年代の選手層の厚み」との関係。「もともと育ちの悪かった植物」に、突然、大量の肥料を与えだしたヤンキース。
エッセンスだけもういちど書くと、ア・リーグ東地区の有力チームは2000年代中期までのドラフトをベースに現在の基本戦力を整えたが、デトロイトはそれらのチームとは手法が違っていて、「2000年代のドラフト上位指名選手を容赦なくトレードの駒にするというやり方で、現在の戦力を整えた、というのが主旨である。


ただ、Jeff Passanの記事を読むときに気をつけるべき点はある。

上っ面だけ読むと、まるで「2003年に119敗という最悪なシーズンを経験したデトロイトに、救世主ドンブロウスキーが2003年以降にGMとしてやってきて、見事なテコ入れに成功した」とか、勝手に思い込んでしまう人がいるかもしれない。
だが、ドンブロウスキーがデトロイトGMになったのが「2001年」であることを忘れてはいけない。
デトロイトが、MLBワースト記録(120敗 1962年メッツ)寸前の「119敗」を喫したのは2003年だが、これは2006年にジム・リーランドが監督就任する前の「アラン・トランメル監督時代」(2003年就任、2005年10月3日解任)で、その最悪シーズンだった2003年時点のGMだって、やはりドンブロウスキーだったのだ。
(注:トランメルは1980年代を中心に活躍したデトロイト生え抜きのショートストッパーで、フランチャイズプレーヤー。現在はアリゾナのベンチコーチ)

要するに、ドンブロウスキーのトレード手腕がどれほど素晴らしいにせよ、その有能な選手たちを上手に使いこなせる手腕をもった「監督」をみつけてこないことには、どうにもならないのが、野球というものだぜ、ということだ。

近年のデトロイトの栄光を、監督リーランドの統率力をまったく抜きにして、「GMドンブロウスキーだけの功績」と讃えてしまうなら、それはあまりに問題がありすぎる。
トランメルはデトロイト生え抜きのスタープレーヤーのひとりだったが、監督としては能無しで、かたや、リーランドは選手としては同じデトロイトの2Aモントゴメリーのキャッチャーで終わった程度だが、監督としてはとても優秀だったのだ。



さて、話を元に戻して、Jeff Passanの記事にある「ドンブロウスキーのこの10年のトレードリスト」を挙げてみよう。

ちなみに、元記事にはそれぞれの選手のドラフトイヤーが書かれていないので、こちらで付け加えておいた
照らし合わせれば、このブログで「デトロイトは、ア・リーグ東地区の各チームと違って、2000年代のドラフト上位指名選手を容赦なくトレードの駒にするというやり方で、現在の戦力を整えた」と書いたことの意味が、どれほどリアリティのある話かがわかるはずだ。

放出した選手

Curtis Granderson  2002年 ドラフト3位
Cameron Maybin  2005年 1位
Andrew Miller  2006年 1位
Avisail Garcia  2007年 アマチュアFA
Jacob Turner  2009年 1位
Rob Brantly  2010年 3位
Charlie Furbush  2007年 4位
Chance Ruffin  2010年 1位
Casper Wells  2005年 14位
Burke Badenhop  2005年 19位
Eulogio de la Cruz  2001年 アマチュアFA
Mike Rabelo  2001年 4位
Brian Flynn  2011年 7位
Francisco Martinez
Giovanni Soto  2009年 21位
Dallas Trahern  2004年 34位
Danry Vasquez


獲得した選手
(カッコ内は元の所属チーム)

Miguel Cabrera  4番打者 サード(FLA)
Max Scherzer  ローテーション投手(ARI)
Anibal Sanchez  ローテーション投手(MIA)
Doug Fister  ローテーション投手(SEA)
Austin Jackson  1番打者 センター(NYY)
Jhonny Peralta  ショート、レフト(CLE)
Jose Iglesias  ショート(BOS)
Omar Infante  セカンド(FLA)
Jose Veras  リリーフ(クローザーも可能 HOU)
Phil Coke  リリーフ(NYY)


「デーブ・ドンブロウスキーのこの10年間のトレードリスト」が驚嘆に値するのは、「獲得した選手」に三冠王ミゲル・カブレラはもちろんのこと、他チームが涎を垂らして欲しがるレベルのローテーション・ピッチャーがなんと3人もいることもさることながら、その一方で、「デトロイトが放出した若手」で、移籍先で大成した選手がひとりもいないことだ(笑)(いうまでもなくグランダーソンはNYY移籍前にすでに30ホームラン打った29歳の選手だし、ドラフトされたばかりの若手とはいえない)

前にも書いたことだが、ドンブロウスキーは、誰彼かまわず若手を手当たり次第に放り出してきたわけではない。ジャスティン・バーランダー(2004年ドラフト1位 全体2位)とリック・ポーセロ(2007年ドラフト1位 全体27位)のように、手元に置いておくと決めた若手選手もいて、それらの有望選手たちはデトロイト内部で成長を遂げさせることに成功しているのである。


だから、もしもデーブ・ドンブロウスキーにインタビューするチャンスがあったら聞いてみたいと思う質問は、「来年のデトロイトに欲しいのは、どの有名選手か?」などという、ありきたりのわかりきった話ではない。

聞いてみたい質問は、2つ。
ひとつは、それぞれの勝ちトレードにおいて、「なぜこのチームのジェネラル・マネージャーなら、普通なら放出しそうもない有力選手を放出してくれそうだ、と思えたのか?」という点。そして2つ目に、「放出する若手を選ぶにあたって、なぜこの選手はいらないとわかったのか?」という点だ(笑)

もちろん、その質問の回答はきちんとプリントアウトして、マーリンズやマリナーズのジェネラル・マネージャーのデスクパッドの真ん中にそっと置いて帰りたいと思う(笑)

参考記事:
Fister returns to haunt Mariners again - SweetSpot Blog - ESPN

Curveball key to Fister's recent success | tigers.com: News

damejima at 03:02

October 14, 2013

2013ALDS Game5 Tom Hallionのバーランダー優遇判定
元資料:2013ALDS Game 5 | BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps


これは、デトロイト対オークランドの2013ALDS Game 5における、球審Tom Hallion左打者における判定マップである。例によって、示されているのは「打者の見逃した球の判定」のみであり、「全投球を示す」ものではない。

四角形のドットは、ソニー・グレイ先発のオークランドの全ピッチャー、三角形のドットが、デトロイトのピッチャーの投球(先発ジャスティン・バーランダーとクローザーのホアキン・べノア)を示す。
図は「アンパイア目線」で描かれているため、向かって、左側は三塁側、右側が一塁側である。また、赤いドットは「ストライク判定」、緑色のドットは「ボール判定」を意味する。

黒い実線の大きな四角形は、「ルールブック上のストライクゾーン」、斜線で区切られた四角の部分は、「標準的なMLBの球審の使うストライクゾーン」である。
図をみてわかるとおり、実際のゲームで球審が使う「左バッターのストライクゾーン」は、ルールブック上のゾーンよりも、はるかにアウトコース側が広大にできている。このことは、これまで何度も説明してきたとおりだ。
参考:Damejima's HARDBALL:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。

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さて、図をダブルクリックして、別窓に大きな画像として開いてみてもらいたい。

図の「左側のピンク色の部分」に、非常にたくさんの赤色の三角形が並んでいること、そして、同じエリアの四角形は、そのほとんどが緑色になっていること、がわかる。

これは、「MLB特有の『左バッターのだだっ広いアウトコースのストライクゾーン』と、そのさらに外側のボールゾーン」において、
デトロイトのピッチャーが、左バッターのアウトコースに投げた投球のうち、明らかにボールと思われる4球ほどを含め、かなりのパーセンテージが「ストライク判定」されていること

そしてその一方で、
ソニー・グレイをはじめとするオークランドのピッチャーが、同じく左バッターのアウトコースに投げたきわどい投球では、その大半が「ボール判定」されていたこと
を意味する。

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もちろん、前の記事で書いたとおり、オークランドのALDS敗退の主原因は監督ボブ・メルビンの投手起用ミスにあると思うし、その判断がこのデータによってくつがえることはない。
Damejima's HARDBALL:2013年10月13日、ボブ・メルビンのALDSにおける自滅。相反する「カオス的世界」と「リニアな個人」。


だが、この試合の球審Tom Hallionの判定の酷さについては、後世のオークランドの名誉のためにも、記録のひとつとして残さないわけにはいかない。

バッティング面でいうと、オークランドは右腕バーランダーを打ち崩す目的で、好調の1番ココ・クリスプ以外にも、5番から9番まで、合計6人の左バッターを打線に並べていた。
球審の左バッターのアウトコースの判定がこれほど偏っていたのでは、オークランドの左を並べた打線の狙いが無意味になってしまいかねない。
(ちなみに、バーランダーが「左バッターとの対戦」のほうが三振をとりやすく、四球をだしやすいというデータはあるが、「右バッターより、左バッターに特に弱い」という顕著なデータはない Justin Verlander Career Pitching Splits - Baseball-Reference.com

また、ALDS Game 2で信じがたいほどの快投ぶりをみせていた若いソニー・グレイが、Game 5では一転してランナーを出しまくる不調ぶりをみせた理由にしても、原因の大半は彼自身の「経験不足」や「度胸不足」にあるにしても、球審Tom Hallionのこれほど偏った判定ぶりに左右された部分もあったことを、あえて言い添えておきたいと思う。

とりわけ、グレイはこのゲームで、デトロイトの左バッターの代表である5番ビクター・マルチネスに3安打されている(他に3安打以上した打者はいない)のをはじめ、7番アレックス・アビラと9番ドン・ケリー、2人のバッティングのそれほどよくない左打者に、合計3四球を与えている。
右打者には、ミゲル・カブレラの2ランを除けばそれほど痛打されていないだけに、球審の判定の偏りによって、グレイにかかる左バッターのプレッシャーが非常に大きくなったことは、想像にかたくない。

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ソニー・グレイがこれから経験するMLBは、ときとしてこうしたおかしな判定に遭遇する、やっかいな場所でもある。

ソニー・グレイが今後、豊かな経験を得ることを通じて、こうした判定上の不利にも動じないピッチングのできる、度胸の座った投手に育つこと、さらに、こうしたゲームでは球審の判定の歪みを逆に利用できるほどの狡猾さも身につけること、そして、ヴェテラン球審にさえ「この大投手なら、このコースはストライクとコールしなくてはしょうがないだろう」と思わせるような、バーランダークラスの大投手になることを、祈ってやまない。







damejima at 16:51

May 11, 2012

2勝1敗と勝ち越したデトロイト3連戦におけるイチローの活躍は、それはそれは素晴らしいものだったのだが、イチローのプレーの意味、深さをきちんと語りきるだけの能力が、日本とシアトル、どちらのメディアにもないようだ(笑)
ならば、しかたない。基本的なことばかり書かなければならないのでメンドクサイが、このブログで多少触れておくことにする。
デトロイトの弱点であるブルペン投手を打った選手を持ち上げて騒いでいるようなことでは、野球の面白さなんて、伝わりっこない


バーランダーフィスターポーセロシャーザーベノワバルベルデデトロイトの主力ピッチャーは、ほぼ全員が右投手だ。
そのせいか、基本的にチーム全体が「左バッターに対する苦手意識」を持っている。(もちろん、優れたバッター、優れたピッチャーは、「左右病」なんてもの自体に縁がない)
ここに、まず第一のポイントがある。

デトロイトのスターター全体のERAは、3.75とそれほどかんばしくもないが、これはシャーザーなど、4番手5番手のローテ投手のERAが良くないからそうなるだけのことで、バーランダー、フィスター、スマイリーの先発3本柱のERAは十分過ぎるほど優れた数字であり、また、彼らはバッターが左か右かをそれほど気にしない。

4月の初登板で脇腹を痛めていたフィスターの復帰によって、デトロイトはシアトル3連戦に「数字のいい主力スターター3人」をズラリと並べることができた。しかも、そのうちのひとり、ドリュー・スマイリー(一部メディアでは『シミリー』と表記している)は、デトロイトでは貴重な左の先発。
だから、地区優勝を狙うデトロイトとしては、なおさらシアトル3連戦は「負け越すわけにいかないカード」だった。

そして先発投手は3人ともゲームを作った。
フィスター    7回4安打無四球 失点なし
バーランダー  6回7安打2四球 3失点
スマイリー    6回2安打2四球 1失点

だが、実際には、表ローテで臨んだデトロイトは1勝2敗と負け越してしまったのであり、その原因を作ったのが、イチローだという話を、以下に書く。



現状のデトロイト投手陣の最大の問題は、
セットアッパーの浴びる長打と、9回の酷さだ。

イニング別チームERAで見ると、6回〜8回のERAが、3.30から3.60(5月10日現在)であまり冴えないが、被打率はそれぞれ、.246、.183、.236で、それなりに抑えてはいるので、セットアッパーが長打を浴びる悪癖さえ直れば、ゲーム中盤のERAはすぐに改善できる。

本当に問題なのは、9回のピッチャーの酷さだ。9回の被打率.356、ERA7.20というのは、優勝候補の下馬評の高かったデトロイトが勝率5割に低迷する原因と、ハッキリ指摘していい。



ブルペンに弱味のあるデトロイトとのゲームにおいて、ゲーム終盤に、冴えないブルペン投手が出てきて失点してくれることは、わかりきったことなのだ。
だから、デトロイト戦でゲーム終盤に出てきた冴えないブルペン投手を打ち、「おいしいところをもっていっただけのヒーロー」になる「運のいいバッター」が出てくることは、「よくある話」であって、メディアがその
「運のいい選手」を(特にシアトルの地元メディアが)ほめそやしたがることに、ほとんど意味はない。


Jason Beckは、MLB公式サイトのデトロイト担当記者だ。
彼がこのシアトル3連戦について書いた「デトロイト側の視点から見た、シアトル3連戦におけるイチローのいやらしさ」についての記述が、非常に面白い。
その視点は、デトロイトのアキレス腱とわかりきっている「ブルペン投手」を打ち、弱点であるクローザーを打って勝ちを拾ったことに、ぬか喜びしているシアトルの単細胞なメディアの視点とは、全く違っている。


まず最初に、
デトロイトが9回裏にサヨナラ負けした5月7日の第1戦
イチローがドーテルから選んだ四球について。

2012年5月7日 9回裏 ドーテルから四球を選ぶイチロー

この日の9回裏のシアトルの打順が、2番から、右のライアン、左のイチロー、右のモンテーロであることを、あらかじめ頭に入れて以下を読んでもらいたい。
Detroit Tigers at Seattle Mariners - May 7, 2012 | MLB.com Gameday

Jason Beckは、リリーフの右腕オクタビオ・ドーテルが、イチローに打順が回る9回裏に登板したことについて、自身のブログに次のようなことを書いている。
Nobody on the Tigers pitching staff owns right-handed hitters like Dotel has over at least the last couple years. And the one lefty Dotel was due to face, Ichiro Suzuki, was 1-for-10 with five strikeouts lifetime against him. By comparison, Ichiro is 5-for-11 off Phil Coke, including 4-for-6 since the start of last season.
(右腕の)ドーテルが少なくともここ数シーズンにわたって右バッターを抑えてきたほど、右バッターを抑えてこれたタイガースのピッチャーはいない。ドーテルが対戦した唯一の左バッター、イチローは、キャリア通算でドーテルに対して、10打数1安打で、5三振を喫している。ちなみに、比較としていうと、フィル・コークは、(本来は左バッターに強いはずの左腕であるにもかかわらず) 昨シーズン序盤の6打数4安打を含めて、11打数で5安打されている。
If you were going to go to the bullpen for the ninth, even with Phil Coke available, Dotel was the most logical option.
もし9回に起用するブルペン投手を選ぶとしたら、まだフィル・コークが使えるケースであったとしても、ドーテルが最も合理的な選択だった。
出典:Taking apart Monday’s walkoff loss « Beck's Blog


Jason Beckの言い分は、しごくもっともだ。

右のドーテルは、もともと右バッターに強いピッチャーで、かつ、左のイチローも抑えてきた。それに対して、左投手の少ないデトロイトで、本来は左に強いはずの貴重な左投手フィル・コークは、イチローに好きなように打たれまくってきた歴史がある。
だから、9回裏同点の場面での右腕ドーテルの登板について、「右、イチロー、右」と続くイニングに登板させる投手として、これ以上の選択はない、と断言するJason Beckの発想に疑問を挟む余地はない。
(彼の発想が、まるで「左右病」から抜け切れておらず、本来、左投手をまるで気にしないイチローの凄さを理解してないものであることは、しかたがない)

キャリアの長い右投手ドーテルの「対イチローのキャリア通算成績」は以下の通り。
資料:Ichiro Suzuki vs. Octavio Dotel, 2002 to 2012, Regular Season and Postseason
たしかに、12打席10打数1安打。イチローがシーズン安打記録を作った2004年でさえ、5打席5三振を喫している。四球も、これまでの12打席で、たったひとつしかない。
まぁ、たった12打席やそこらのサンプル数を根拠に、ピッチャーの左右などほとんど気にしない天才打者イチローをドーテルが抑え込めると考えてしまうのは、あまりにもイチローという打者の凄さを知らなさ過ぎるわけだが、その点はここでは置いておこう。


とにもかくにも、デトロイト側は、「ドーテルでイチローを抑えらえる」と踏んだ。舐めてかかったわけだ。
だが、実際には、イチローは苦手ドーテルから貴重な四球を選ぶことで、サヨナラ劇場のドアを開けたのである。
ドーテルにしてみれば、抑える自信があったはずのイチローに四球を選ばれてしまったことの精神的ショックが、その後の2つのワイルドピッチにつながった、といえば、ちょっと言い過ぎだろうか(笑)

他チームなら、イチローへのワンポイントとして、左投手をリリーフさせるという選択もあるだろう。
だが、右腕だらけのデトロイトには、ただでさえ左投手が少ない。その上、イチローはデトロイトの左のセットアッパー、フィル・コークをまったく苦にせず、打ちまくってきた歴史がある。
イチローは、デトロイトの「鬼門」なのだ。


次に、5月8日第2戦
先発バーランダーから打った先制タイムリーについて。
Detroit Tigers at Seattle Mariners - May 9, 2012 | MLB.com Classic

2012年5月8日 イチロー バーランダーからタイムリー

バーランダーとイチローの過去の対戦成績は、以下の通り。
通算では、打率.333、SLG.451と、バーランダーをずっと打ちこなしてきたイチローだが、不振だった昨年2011年だけは、7打数1安打と、抑え込まれた。ここがポイントだ。
Ichiro Suzuki vs. Justin Verlander, 2006 to 2012, Regular Season and Postseason

イチローを抑える配球パターン、というと、シーズンごとに多少違うが、典型的なパターンのひとつといえば、「外のボールで追い込んでおいてから、インコース低めに『膝元から落ちてワンバウンドになる変化球』を投げて、空振りさせる」という「インローの縦の変化球で、空振り三振パターン」がある。

3回裏にイチローがバーランダーから打った先制タイムリーは、まさにそういう典型的な「インロー、空振り三振パターン」で使われる変化球だ。おそらくバーランダーとしては、ほぼ狙いどおりの球が行っているだけに、「よし! 三振もらった!」 と思ったに違いない。

しかし、結果は先制タイムリー

舐めてもらっちゃ困る。
相手の狙いを打ち砕くタイムリーは、相手の自信を打ち砕く一打でもある。舐めてかかる相手を必ず痛い目にあわせるのが、イチローだ。



次に、5月9日の第3戦
スマイリーから打ったヒットについて。

2012年5月9日 イチロー デトロイト先発スマイリーからヒット

「相手の狙いを打ち砕く」という意味合いは、第1戦のドーテル、第2戦のバーランダーだけでなく、第3戦でイチローが先発スマイリーから打ったチーム最初のヒットにも同じことがいえる。
左腕スマイリーが左のイチローのアウトコースに投げた、クロスファイヤー風に逃げていく絶妙なコースのスライダーを、うまく流し打たれてヒットにされたのだから、打たれたデトロイト側にしてみれば、「してやられた気持ち」になったはずだ。

この2球目が、イチロー対策としてよくある「外のボールで追い込んでおいて、インローにボール球を投げる」というパターン配球の一貫だったかどうかまではわからないが、少なくとも、この外のスライダーで 「よし。イチローをパターンどおり追い込めた」と、バッテリーが考えた瞬間に打たれたヒットであることは、おそらく間違いない。

その証拠に、第1戦におけるデトロイトのイチロー対策失敗にブログで触れていたデトロイト側のビートライター、Jason Beckは、この第3戦でも、イチローについてこんなことを書いている。イチローが6回に打ってアウトになったレフトライナーにまで触れているのだから、よほどショックと悔しさがあったのだろう。

Smyly didn't allow a base hit outside of the fourth inning, when Ichiro Suzuki went to the opposite field on a single and Kyle Seager doubled off the right-field fence for a two-out RBI.
スマイリーは4回まで外野に飛ぶヒットを全く許していなかった。 だが、4回にイチローに流し打ちでヒットされ、カイル・シーガーに2アウトからライトフェンス直撃タイムリーを打たれた。
Just four other balls got out of the infield, with Ichiro's sixth-inning liner to left the only one with much authority. The Mariners swung aggressively, but Smyly and Laird used that against them to change speeds and get swings and misses.
他の外野への飛球はそれまでわずかに4つだったが、しっかりとらえられた打球といえば、イチローの6回のレフトライナーと、このタイムリーだけだった。(以下省略)
Detroit Tigers at Seattle Mariners - May 9, 2012 | MLB.com DET Recap


最初にも書いたように、デトロイトの主力投手は大半が右投手だ。だから、当然のことながら、左の先発スマイリーが今後貴重な存在になることは、言うまでもない。
その貴重な先発左腕の球が、左バッターのイチローにヒットやライナーを打たれた、という事実は、デトロイト側にしてみれば非常に気の重い事実だ。これまで、左のセットアップマン、フィル・コークが、イチローにいいように打たれまくって「カモにされ続けてきた」のと同じように、左腕スマイリーもイチローに打たれまくる未来を予感させるからだ。
右腕の多いデトロイトに新たに登場した新鋭の先発左腕までイチローに「これからずっとカモられる」のでは、デトロイトとしては、たまったものじゃないのである。


デトロイト3連戦におけるゲーム終盤、決定的な弱点であるブルペン投手が登板してくる場面でデトロイトは、イチローを四球で歩かせてマトモにバッティングさせない戦略をとったわけだから、イチローは試合を決定する場面で好調なバッティングを披露するチャンスには恵まれなかった。(もちろん、歩かせたイチローが生還したことでゲームが最終的に決した、という意味で言えば、「ブルペンが弱点だからイチローを歩かせる作戦」はかえって墓穴を掘った


復帰してきたフィスターからいきなり打った初回のツーベース。
苦手ドーテルから選んだ四球。バーランダーから打った先制タイムリー。デトロイト期待の新鋭スマイリーから打ったチーム初ヒット。
こう並べてみたとき、わかるのは、
デトロイトとの3連戦でイチローは、デトロイトのウイークポイントであることがわかりきっているブルペン投手ではなく、むしろ、デトロイトの誇る先発投手3人を全て打ち、また、デトロイトが右バッター対策で獲得した苦手のドーテルから四球を選び、しかも、「イチローを抑えこんできたはずの典型的な配球パターン」を破壊して、この3連戦全ゲームにおいて「ゲームを動かす突破口を築いた」 ことである。

damejima at 09:24

October 14, 2011

ALCS Game 5 は、デトロイトの監督ジム・リーランドが、点をとられてばかりいる「劇場型クローザー」ホセ・バルベルデを使わないことを試合前に宣言していたゲームだったが、けして調子のよくない「雨男」ジャスティン・バーランダーが、100球を大幅に越え133球も投げて、7回1/3を粘り抜き、さらに残りの1回2/3イニングを、宣言どおりバルベルデではなくフィル・コークに投げさせて試合を締めるという「苦肉の策」を使い、やっとの思いでシリーズ2勝目を手にした。
Texas Rangers at Detroit Tigers - October 13, 2011 | MLB.com Classic
"It had been a battle all day."
---Justin Verlander
'Baseball' lives up to its name as Justin Verlander, Tigers beat Rangers in ALCS Game 5 - Joe Lemire - SI.com


このゲームの6回裏の攻撃で、デトロイト打線は珍しい記録を達成した。「連続した4人の打者による『ナチュラル・サイクル』」だ。
ライアン・レイバーン シングル
ミゲル・カブレラ ダブル
ビクター・マルチネス トリプル
デルモン・ヤング ホームラン(2ラン)

これは知らなかったのだが、サイクルヒットの中でも、「シングル、ダブル、トリプル、ホームラン」という順序、つまり「より長打になる順序で打ったサイクルヒット」のことを、「ナチュラル・サイクル(hit for the natural cycle)」というらしい。これまで1,319試合あったポストシーズンのゲームで『ナチュラル・サイクル』が達成されるのは史上初。
(注:4人の打者によって達成されたサイクルヒットのことを「ナチュラル・サイクル」と呼ぶのではないので注意。また「サイクルヒット」という言葉は和製英語であり、英語ではHitting for the cycleとなる)

これまでのMLBの歴史で、「ナチュラル・サイクル」の達成者は、両リーグ7人ずつの、計14人。(日本では1950年の藤村富美男さんが最初で、合計5人)
Hitting for the Cycle Records by Baseball Almanac

2000年代に入って以降、「ナチュラル・サイクル」を達成している打者は3人いるようだが、そのひとりが、モントリオール・エクスポズ在籍時代のブラッド・ウィルカーソン。2003年6月23日ピッツバーグ戦で達成した。
SI.com - Baseball - Wilkerson hits for natural cycle in Expos' win - Tuesday June 24, 2003 06:44 PM
2003年当時のウィルカーソンは、メジャーデビュー2年目の2002年にいきなり20ホームランを打った翌年で、スラッガーとしての将来を期待され、エクスポズのクリンアップを打つようになっていた。
Brad Wilkerson Statistics and History - Baseball-Reference.com
ウィルカーソンの「ナチュラル・サイクル」が達成されたゲームのエクスポズは、4番が、2007年2008年とシアトルでDHとしてプレーしたホセ・ビドロ、先発は大家友和投手。


後にウィルカーソンは、エリック・ベダード獲得のためにセンターのドラフト1位選手、アダム・ジョーンズを放出したことで新たな外野手を必要としていたシアトルに2008年にFA移籍した。ライトを守るウィルカーソン加入でセンターに回ったイチローは、センターでもゴールドグラブを獲得した。



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  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。



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