松阪大輔

2012年3月16日、上半身と下半身の動きが揃ってしまい、「ビッシュ・ツイスト」しないクリーブランド戦のダルビッシュのフォーム。
2011年4月18日、分解写真で、ひさびさに好投したボストン松坂投手のピッチングフォームを、昔のフォームと比べてみる。
2011年4月15日、Sam Holbrookの特殊なストライクゾーンに手こずったジェイソン・バルガス。バルガス、松阪、コーファクスのピッチングフォーム比較。
2011年3月24日、「やじろべえ」の面白さにハマる。

March 17, 2012

先日ツイッターで、「ダルビッシュのフォームが崩れている」という主旨のことを書いたが、そのことをちょっと詳しく書いて、後々のためのメモを残しておきたい。


ちょうど去年の今頃、MLBに移籍する前のダルビッシュのフォームについて、こんなことを書いた。
特徴的なのは、「左足」をホームプレート方向に踏み出しているのにもかかわらず、「上半身」が、「左足の向きとはまさに正反対」なこと。つまり、ダルビッシュは「プレートに背中を向けた状態を保ったまま、左足をホームプレート方向に踏み出せる」のである。
おそらく体を「故意に、強烈に、よじっている」のだ。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。

指摘したかったメジャー移籍前のダルビッシュのフォームの特徴のひとつは、「上半身を強くよじったままの状態」を保って投球するフォーム、別の言い方をすれば、「上半身を、下半身より常に遅らせて動作するフォーム」だという点だ。

たとえていうなら、ねじったドーナツである「ツイスト」だ。

Twist Donut



ついでだから、このブログでは、便宜的にメジャー移籍前のダルビッシュのフォームを、誰もが「ダル」と呼ぶダルビッシュのことをWBCで冗談まじりに「ビッシュ」と呼んだイチローにならって、「ビッシュ・ツイスト」と呼ぶことにする(笑)

ビッシュ・ツイスト」では、「カラダに強いひねりを加える」目的で、「上半身を、下半身よりわざと遅らせて動作する」のがポイントのひとつだ。
バッター側から見ると、ダルビッシュの下半身がホームプレートをまっすぐ向くのが見えるにもかかわらず、背番号がまだ見えているような、「カラダのねじれ」、つまりこのブログのいう「ビッシュ・ツイスト」状態が作り出される。
この「ねじれ」たカラダを瞬時に反対向きにひねることで、ひねりから発生するチカラでボールに威力が加わるだけでなく、フォーム全体を「速く、しかも安定した状態で終了する」ことができる。
そして、この一連の動作のためには、松阪投手や岩隈投手がやっているような、このブログでいうところの「蹴り出し動作」は必要ないし、無いほうがいい。(そもそも「蹴り出し動作」のある投球フォームと、蹴り出しの無い「ビッシュ・ツイスト」はメカニズムと体のバランスが根本的に違う。ダルビッシュも昔はこの「蹴り出し動作」をやっていた。 ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。


「ピッチャーが投球動作全体を早く動作することのメリット」については一度書いた。以下の記事で引用した、Eduardo PerezがBaseball Tonightで行ったクリフ・リーのフォームについての指摘を参照してもらいたい。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月26日、クリフ・リーの投球フォームが打ちづらい理由。「構えてから投げるまでが早くできている」メジャーの投球フォーム。メジャー移籍後のイチローが日本とはバッティングフォームを変えた理由。

また、松坂投手、岩隈投手の「蹴り出し動作」、プレートに対して横向きに踏み出す動作、ノーラン・ライアンとの比較などについては、下記の記事を参照してもらいたい。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月25日、ノーラン・ライアンを思わせる「前ステップ」をみせる大阪ガスの松永昂大投手。高校からプロになった投手と、大学を経由した投手とのフォームの違い。



さて、テキサスに移籍して以降のダルビッシュだが、どんどん「ビッシュ・ツイスト」から離れて行っている印象があった。渡米直後の初ブルペンからこの傾向があって、3月13日のインディアンス戦でますます酷くなった感がある。

わかりやすい話として、「踏み出された左足の、つま先の向き」(あるいは膝の向き)に注目して下記の写真を見てみてもらいたい。



MLB移籍前

投球動作のかなり速い段階で、「左足つま先」がホームプレート方向を向いているのがわかる。
つま先がプレート方向をまっすぐ向くくらいだから、当然のことながら、「左足の膝」もしっかりホームプレート方向を向いている。つまり、左足のつま先と膝の向きから明らかなことは、下半身全体が、投球動作のかなり早い段階でしっかりプレート方向に向いていること、である。(だからリリース時にも左足位置は全くズレない)

だが、上半身は、というと、バッターにダルビッシュの背番号が見えるほど、ひねった状態をキープしている。これがまさに「ビッシュ・ツイスト」だ。

WBCにおける「ビッシュ・ツイスト」

日本ハム時代の「ビッシュ・ツイスト」



MLB移籍後

しかし、テキサスに移籍してからのダルビッシュの「左足のつま先」は、明らかにプレート方向を向くのが日本にいるときよりも遅い(下記の写真の赤い線で四角く囲った「左足のつま先」部分)。
左足の膝もサード側を向いたままだ。
つま先も、膝も、日本時代よりサード側を向いて投げているということは、「左足をまっすぐ、大きくプレート方向に踏み出していない」こと、「下半身をプレート方向にまっすぐ向けて投げていない」こと、を意味する。
また、細かく言えば、松阪投手風の「蹴り出し」動作も多少復活してしまっているために投球動作全体がやや遅くなり、バッターがタイミングを合わせやすくなってしまっている。

「ビッシュ・ツイスト」してないダルビッシュ(ブルペン)渡米直後の
ブルペン

「ビッシュ・ツイスト」してないダルビッシュ(インディアンス戦)3月13日
スプリング・トレーニング インディアンス戦


「下半身全体がプレート方向をまっすぐ向かないまま」踏み出しすと、投球動作は一瞬の出来事なのだから、上半身の動作はすぐに下半身に追いついてしまい、上半身と下半身は同時にボールのリリース動作に入っていってしまう。そして腕の振りは速度が速いため、すぐに下半身の時系列的変化を追い越してしまう。

このことで起こるのは
上半身と下半身の動作が揃ってしまう」ことだ。


これはマズい。
というのは、上半身と下半身が同じタイミングで動いたのでは、「カラダ全体に独特のヒネリが加わわらない」、つまり、ビッシュ・ツイスト」が起らないないまま投げることになってしまう、からだ。


本来の「ビッシュ・ツイスト」では、プレート方向に大きく、しかも「まっすぐ」踏み出した左足でまず地面をしっかりと踏みしめる。(ここで、あらかじめまっすぐ踏み出しておくからこそ、ボールをリリースする瞬間に、左足の位置、特に踵の位置を直す必要がなくなり、コントロールが安定する)
それから、かなり遅れて上半身がかぶさってきて、ボールを強くリリースする仕組みのはずだ。
だが、「上半身と下半身の動作が揃ってしまう」と、こうした「上半身と下半身の動作を故意にずらして、カラダにヒネリを生みだし、ヒネリからパワーを発生させるメカニズム」そのものが消えて無くなってしまう。

まぁ、そんなむつかしいことを言うよりなにより、下半身と上半身が同時にプレート方向を向くと、なんともいえず力感の無いというか、ぶっちゃけ「ブサイクな投球フォーム」になってしまう。(下記の写真の状態。明らかに下半身の動きを上半身が追い越してしまっている)
見た目に「ブサイク」なフォームというのは、たいていどこかに欠陥があるものだ。

3月13日インディアンス戦 手投げのダルビッシュ



どうして「ビッシュ・ツイスト」の本来の形が崩れたのだろう。

ひとつ考えられるのは、左足の「ふみ出し幅」を、MLBのマウンドに合わせて「故意に小さくしよう」としたことではないか、と推測する。

もともと「ビッシュ・ツイスト」では、まっすぐ、しかも、大きく、プレート方向に踏み出していたわけだが、もし、左足の踏み出しを小さくすると、下半身の動作が中途半端なタイミングで、しかも予定しているタイミングより早く終わってしまい、遅らせて動作するはずの上半身が、プレート方向に前のめりに突っ込んでいくような感覚とタイミングでリリースに進んでいくために、上半身と下半身の動作のズレが発生しなくなり、結果的に下半身と上半身の動きが揃ってしまって、カラダのヒネリの効果が失われてしまう。

あと、細かい点でいうと、(「蹴り出し動作」の復活もあって)最初からプレート方向にまっすぐ踏み出さないせいで、ボールのリリース時に、カラダを支えている左足の踵(かかと)が横に「ズリッ」と横ズレする現象まで起きはじめてしまう。(MLB移籍後の動画で、ダルビッシュの投球動作を後ろから見ると、この「左足スベリ現象」がわかると思う)
参考:MLB公式サイトのビデオ(以下の動画で、15秒目、23秒目、30秒目あたり。ボールリリース時に左足が「ズリッ」っと横にズレるのがよくわかる。また、46秒目などは左足のカカト側に体重があるためズレないが、ズレるときと、ズレないときがバラバラあるのも良くはない)
Baseball Video Highlights & Clips | TEX@CLE: Darvish yields two runs in three innings - Video | MLB.com: Multimedia
この状態だと左足がかなり「つま先立ちの状態」になっていて、しかも投げる瞬間に横にズレて投げていると思われるわけで、これではコントロールは安定しないのも当然だろう。


だが、まぁ、なんやかんやいっても、頭がよく柔軟性のある彼のことだから、すぐに修正してくると思う。心配いらないだろう。早く万全な状態での登板が見たいものだし、開幕以降の彼のピッチングが楽しみでならない。
Copyright © 2012 damejima. All Rights Reserved.

damejima at 15:57

April 19, 2011

ボストン・マラソンへの配慮から変則的な午前中のゲームになった今日のボストン対トロント戦で、最近不調だった松坂投手が7回1安打という素晴らしいピッチングをみせ、今シーズン初勝利をやっとものにした。
Toronto Blue Jays at Boston Red Sox - April 18, 2011 | MLB.com Classic

Top Plays | TOR@BOS: Dice-K dazzles through seven one-hit frames - Video | redsox.com: Multimedia

今日の松阪投手の投球フォームが公式サイトに挙がっていたので、それを分解写真に加工しなおして、過去のフォームと比べてみることにした。
過去のフォームは野球上達テクニック集  松坂大輔 -投球フォーム連続写真-)から拝借した。感謝したい。
比較しやすいように、拝借した写真のカットとほぼ同じ場面を並べるのに非常に苦労した。


まず、下が今日の松坂のフォームワインドアップだ。先にいっておくと、赤線で囲った部分に、過去のフォームとの違いが集中している。
2011年4月18日 松阪投手のピッチングフォーム


かつての松坂投手のフォーム
こちらは昔の松阪のフォーム。元記事の投稿日時から推定すると、2008年以前のフォームと思われる。
残念ながら、こちらはワインドアップではなく、セットポジションなため、神経質なことを言えば、上のワインドアップの分解写真とは厳密には比較できない。いちおう留意してもらいたい。


セットとワインドアップの違いはあるが、2つのフォームの違いをどう感じるだろうか。かなり変わったと感じる人、ほとんど変わらないと感じる人、野球観は人それぞれあるわけだから、いろいろな意見があっていい。

いちおうブログ主が感じる「2つのフォームの違い」を、2つばかり挙げておこう。赤い線で囲んだ「上段、左から4番目の画像」を注目してもらいたい。

1) グラブ位置
昔よりグラブ位置が高くなり、ホームプレートに向かってグラブをグイっと突き出す形になった。クリフ・リーの投球フォームがまさにこの「グラブを突き出すフォーム」だ。また、フォーム全体の流れの中で、左手の始動するタイミングが、昔より早くなっていて、左手の使い方を変えようとしていることが見てとれる。

2) 体幹の角度
昔のフォームでは、体幹がかなり前傾していて、「前かがみ」になっている。対して、今日の松坂は体幹がやや「立ち気味」になっている。たぶんホームプレート方向の視界はこのほうが確保しやすい。



総じて言うと、最近の記事でも指摘したことだが、たぶん松坂投手はもっと体幹をまっすぐ立てて、グラブ側の手を使うタイミングを変えるなどの改善を加えるなどして、もっとMLBっぽい投球フォームにフォーム改造していこうとしているのではないか、と思っている。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月15日、Sam Holbrookの特殊なストライクゾーンに手こずったジェイソン・バルガス。

もちろん、それが成功しつつあるかどうかは、たった1日だけの登板ではなんともいえないわけだが、フォームだけからみると、ボールをリリースした後にまったく右足が上がらない躍動感の無さや、何度も指摘している「やじろべえ」の傾きが傾いたまま垂直に直ってはいないこともあるので、ブログ主としては、まだまだ根本的な改善とはちょっといえないと考える。








damejima at 11:54

April 16, 2011

ジェイソン・バルガスは、今シーズン2度目の登板だった4月8日のホームゲームで、シアトルがもともと苦手にしてきたクリーブランドにボコボコにされてしまったわけだが、まぁ、あのゲームは、ジャック・ウィルソンがあんな馬鹿な事件を起こした直後でもあったからしかたがない。
次の登板では6回2/3を1失点と、きっちり立て直してきた。


4月8日のゲームでまずかったのは、シアトルバッテリーが球審Sam Holbrookの特徴をよく理解していなかったことだろう。
このゲームの球審Sam Holbrookのストライクゾーンは非常に特徴があって、ゾーンが非常に狭くて、さらに、極端に高めのストライクをとる傾向がある。
このゲームでバルガスは最初低めのコーナーをついて打者をうちとろうとしていたが、このアンパイアを相手にそれはそもそも無理なピッチングコンセプトだった。


MLB関連の有名サイトであるHardball Timesは、2007年11月に「ルールブック上のストライクゾーンとあまりにも異なるストライクゾーンでコールするアンパイア」について記事を書いているが、Sam Holbrookの名前は、この記事の数々のランキングに名前が登場している。
Hardball Times:A zone of their own
最もストライクゾーンが小さい 6位
最も低目をとらない 3位
最も高めをとる  5位


データで見るSam Holbrookのストライクゾーンは非常に特殊だ。
以前何度か記事にしたように、(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年11月8日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (4)特徴ある4人のアンパイアのストライクゾーンをグラフ化してみる(付録テンプレつき))MLBのアンパイアにはいくつかのタイプがあって、びっくりするくらいストライクゾーンが違うものだが、それにしたってSam Holbrookほどストライクゾーンが高めにシフトしているアンパイアは、ほとんど他に例をみない。

サム・ホルブルックの非常に風変わりなストライクゾーン
赤色の線がルールブック上のストライクゾーン。
青色の線が、Sam Holbrook。左がレフト側、右がライト側。


最近、下記の記事で、最近のダルビッシュのフォームが、だんだんノーラン・ライアンというか、MLB的な「前ステップする投球フォーム」になってきていること、そして比較対象として、松坂のフォームが日本的な「横ステップする投球フォーム」であること、を書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月24日、「やじろべえ」の面白さにハマる。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。


MLB的な「前ステップ」。そして日本的な「横ステップ」。

ジェイソン・バルガスのピッチングフォームはどちらだろう。
言うまでもないことだが、バルガスは典型的なMLB的「前ステップのフォーム」の投手だ。バルガスは身体の重心バランスを示す「やじろべえ」の形がまっすぐに立っている。だから、ややもすると球威が不足するが低目をつくコントロールに安定感がある。

前ステップする投手は、「上半身のヒネリ」をしっかり使うことで球威不足を補うことは既に書いた(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月25日、ノーラン・ライアンを思わせる「前ステップ」をみせる大阪ガスの松永昂大投手。高校からプロになった投手と、大学を経由した投手とのフォームの違い。
バルガスは、「下半身がホームプレートをまっすぐ向いて」いても、「上半身はまだ後ろ向きに残って」いて、全体として身体全体に強いヒネリが加わっている。この「ヒネリ」が球威不足を補う。ダルビッシュについて書いたことと同じだ。

ジェイソン・バルガスのピッチング・フォーム


体の「ヒネリ」という点について、もう少し書く。

松坂投手が先日登板したゲームのフォームを写真で見たが、ちょっと気になったことがあって、名投手サンディ・コーファクスと比べてみた。
グラブの位置に注目して見てみてもらいたい。

2011年版の松坂投手のフォーム松坂のグラブの位置は、腰の位置

サンディ・コーファクスサンディ・コーファクスのグラブ位置は、体の前方。

Sandy Koufaxのピッチングフォーム

松坂とサンディ・コーファクスを、ほぼ同じ位置でボールを持った写真で比較してみる。ちょっと興味深い。

松坂は、ボールをリリースするかなり前の、ホームプレートに踏み出す時点で、すでにグラブの左手は腰の位置にまで降りて来てしてしまっていて、ホームプレート側の左肩、左半身も、この段階でプレート方向に大きく開いて、打者から松阪投手の胸のチームロゴが見えてしまっている。
対して、サンディ・コーファクスは、グラブがプレート方向に突き出された状態でキープされ続けていることによって、右肩、右半身がファースト側を向いたままの状態が長く保たれ、開いていない。この特徴的な「グラブの突き出し」は、クリフ・リーにも全く同じことがいえる。


あくまでこれは想像でしかないが、松阪投手はこの開幕を前に「上半身にヒネリをきかすフォームに改造して、球威を増したい」と考えたのではないだろうか。
写真からして、胸を大きく張り、上半身にヒネリをきかせることで、なんとか球威を取り戻そうという意図が、なんとなく伝わってくるからだ。この試み自体は面白いとは思う。


だが、その意図は残念ながら成功していない。
なぜなら、根本的な部分のフォーム変更、つまり「横ステップ」から「前ステップ」への変更が着手されていないからだ。

松阪投手は見た目には、いかにも上半身をヒネって投げている、という風に見える。
だが実際には、サンディ・コーファクスとグラブ位置が大きく違うことからわかるように、ボールのリリースにいくタイミングのだいぶ前に、上半身からヒネリの効果が消えてなくなってしまっている。なんと表現すればいいかよくわからないが、「ヒネリ」がフォームの早い段階で消費され尽くしてしまい、上半身に貯金がほとんど残ってない。
そのため、いくら胸を張って投げたとしても、立ち投げ系のフォームのパワーの供給源である「上半身のヒネリ」がまったく効いてこない。

対して、サンディ・コーファクスは、上半身ができるだけホームプレート方向に向かないように、上半身がプレート方向に回転していくのを故意に遅らせている。だから、右足がプレート側にステップして、下半身がプレート側に向いた段階でも、上半身は長い時間ファースト側を向いている。
そのことで、「ホームプレートに向いた下半身」と、「ファースト側に向いた上半身」との方向に「差」ができる。この「差」、つまり「上半身のヒネリ」が長い時間維持されることで、ボールにウェイトがのり、また、打者からはボールが非常に遅れてリリースされてくるように見える。
こうしたサンディ・コーファクスの特徴は、MLBの同じタイプ、つまり「やじろべえが立ったまま投げるタイプ」の投手に共通して見られる特徴だ。


松阪投手の努力そのものには大きな敬意を表したい。この改造はまだ発展途上だから、しばらくは結果が出ないと思うが、MLB的な投球フォームに改造していく試みが成功することを祈りたい。








damejima at 23:08

March 25, 2011

前の記事で書いた松坂投手の投法だが、何の物理学的知識もないクセに、今の時点では「不完全で、未完成な、やじろべえ方式」なのではないか、と、勝手に思いだして、いま「やじろべえ」にハマりだしている(笑)
また「やじろべえ」とか「振り子」は、地震はもちろん、柔軟で安定した防災システムにもたぶん大いに関係がある。


鉄道車両に「振り子式車両」という、通過速度の向上と乗り心地の改善を狙った技術がある。
ブログ主は、いわゆる「鉄ちゃん」ではないため(笑)、よくはわからないのだが、できたばかりの頃、「単純に傾くだけだった」振り子式車両は乗り物酔いを起こす欠点を持っていたようで、背骨で内臓を錘(おもり)にして「やじろべえ方式」に支える人体もまた、左右への体重移動だけで簡単にコントロールできたりはしないのではないか、と、今の時点では思っているわけだ。
この「やじろべえと、人体、およびピッチングの関係の話」については、いつかただの好奇心としてだけでなく、きちんとした話にまとめられる日が来たらいいなと思う。
振り子式車両 - Wikipedia


下記の図は、大阪大学の2011年度大学院物理学科の入試問題に出題された「やじろべえ」だ。
大学院の、それも物理専門の入試に出題されるような複雑で高度なものを、頭に血が昇るのは誰よりも早いクセに、頭はけしてよくないブログ主が理解できるわけはないが(笑)、「やじろべえ」に内在している力学には、なにかしら「美」みたいなものが存在することは感じとれる。
大阪大学:過去の大学院入試問題
大阪大学2011年度大学院物理学科入試問題に出題された「やじろべえ」

こちらは、上記のリンク先の大学院入試問題を解いた人の描いた「傾いたやじろべえの状態」。回答を読んだが、難しくて、1行もわからない(笑)どうやら、単純にみえる「やじろべえ」には、非常に複雑で愉快な仕組みが隠れているらしい。野球と同じだ。
2011年度 大学院入試問題 物理学専攻解答 その1 - 〜なんとなく物理〜 - Yahoo!ブログ
大阪大学2011年度大学院入試問題を解いた人の書いた「やじろべえ」

問題の意味がさっぱりわからないブログ主だから、回答のほうの意味もさっぱりわからない(笑)が、「やじろべえ」は重心が支点より低い位置にあって、重心が支点と離れていることで安定していること、「傾いたやじろべえ」には、元の位置に復帰しようとする復元力が働くことは、あやしげな理解からなんとなくわかっている(笑)

上の、問題を解いた方の指摘で、「なるほど」と気づかされたのは、「傾いたやじろべえ」は、「傾くことで、重心位置がごくわずか上昇」して、「重心と支点の距離が、ごくわずかだが、接近する」という点だ。

支点と重心の位置の距離が近くなることは、「やじろべえ」にとって「不安定化」を意味する。支点と重心が重なると「やじろべえ」は「やじろべえ」でなくなる。これはよく飛ぶ紙飛行機をつくる原理と同じだ。
二足歩行するように進化してきた人体は、骨盤にささった位置にある背骨が、左右の内臓を錘(おもり)にして「やじろべえ方式」に支えるような力学的なしくみになっているらしいが、ブログ主の意見では、野球のピッチャーは、単純に「やじろべえ方式」に左右に体重を移動するだけのシステムでは、開発当初の振り子式車両が「お釣り」などさまざまな問題があったように、どうも「自分自身の力学的制御がうまくいかなくて、不安定になる部分が出てくる」のではないか。そんなことを思ったが、どうなのだろう。
人体の力学

横にステップする松坂投手横にステップする松坂投手

上に書いた大阪大学大学院の入試問題でわかるとおり、「やじろべえ」の形から横に傾くと、重心位置は「まっすぐ立った状態」よりもやや高くなり、重心が支点に近づくことで、やじろべえである人体は、わずかながら不安定化する。

一度でいいから、大学の物理の先生をとっつかまえて、死ぬほど野球の質問責めにしてみたいものだ(笑)


法隆寺などの五重塔などは、「やじろべえ」や「振り子」そのものではないが、さまざまな力学的な仕組みによって、ある種の柔構造を獲得することで、1000数百年の時を超え、壊れずにきたらしい。
資料:五重塔は耐震設計の教科書【プラント地震防災アソシエイツ】
野球とは関係ないが、津波の被害を防止するための防波堤とかの技術について、「やじろべえ」的に考えて思うのは、剛構造で、15メートルとか20メートルとか、ものすごく高くて硬いコンクリートの防波堤を作ったところで、所詮は人間の知恵、巨大津波のような自然の超越的パワーには勝てなかった、ということだ。

もし防波堤が硬いコンクリートではなくて、柔らかなシリコンでできていたらどうだったかな、などと妄想したくなった。
と、いうのも、三陸沖では、かつて100年ほど前にも巨大津波に襲われて、そのときも、今回同様の、2万2000人ほどの方が亡くなられているからだ。
明治三陸地震 - Wikipedia
100年という月日が経ち、数知れぬ人の努力、それも科学の発展初期によくある人生すべてを犠牲にするような献身的努力によって、日本の技術と科学と素材は格段に進歩してきた。
だが、やはり100年たっても、100年前とまるで同じように、2万人以上の人命が失われるのを防ぐことはできなかった。そのことに、ブログ主はある種の、言葉にできない感覚に襲われている。

科学に失望し、政治に失望して、ブルーになったのではない。
言葉にするのが非常に難しい。むしろ、ある種の「感銘」に近い。

100年たってもダメだったのは、技術の進歩がなかったからではなく、ぼくらの頭の中じゃないか。
1次災害の「地震」は、少しは予知もでき、家屋の全面的倒壊もなんとか防げるようになってきても、ぼくらの頭の中の構造はまだまだ「硬くできて」いて、2次災害の「津波」も、3次災害の「原発事故」も、4次災害の「電力不足」「帰宅難民」も「水不足」も、防げるようにはなってはいない、そういうことを知ったとき、ブログ主は、ただただ単純に「なるほどっ」と、膝を打ったのだ。
なぜだか失望はまったく感じない。むしろ、どういうわけか、まだまだやることだらけじゃないか、と、うれしくなる。

コチコチに硬い防波堤を作る、という発想は、ある意味の「硬い脳」から生まれてくる。津波や原子力のような、「人間の力をはるかに超越した自然界のパワー」を、力づくで封じ込めようとする発想だ。
だが、人の暮らしを守りたい、と思うのなら、「コンクリートの硬さ」だけではダメだ。そう思ったのである。別に、コンクリートの壁でなくて、シリコンでもいいのなら、ぷよんぷよん、ぽにょんぽにょんのシリコンでいい。
ブログ主はなんとなく、こういう気づきから、次の100年のライフスタイルが生まれはじめてきている気がする。


復興のためのスローガンについてだが、
「がんばる」は、やめてみようと思う。

なぜかというと、「がんばる」「がんばろう」というだけの発想は、いかにも「硬い、頑固なコンクリートのにおい」がするからだ。欝病の人に対する励ましの言葉で「がんばれ」は禁句だというが、災害で精神的に疲弊しきった沢山の人たちがいるにもかかわらず、こうも誰も彼もが「がんばろう」とか言い出すのでは、ちょっと気味が悪いし、工夫が無さ過ぎる。



できないとき、人は無理にがんばらなくていい。
たとえば、壊れ果てた故郷の土地にしがみついて命を落とし、健康をそこなうのではなく、モノがない、電気がないのなら西にでも一度逃げて、時期がきたら帰ったらいいし、そのまま、行った先の土地に住み着いて、その土地の土に、その土地の海のチリに還るのも、また人生だ。地盤沈下で使えない土地に無駄に再び大金を落とし必死になって元の町を復元しようとする頑固さばかりではなく、まったく新しい場所に新しい町をつくろうとする、そういうしなやかさもあっていい。

強い風に無理に抵抗しない、だが、けして屈しない。
そういう、しなやかさ。
それが、五重塔や、やじろべえ。
日本という、世界の東の果ての、小さい小さい場所で育まれた
美しい心の様(さま)である。






damejima at 15:01
ハワイ移民150周年
No Ichiro, No watch.

Play Clean
日付表記はすべて
アメリカ現地時間です




Twitterボタン

アドレス短縮 http://bit.ly/
2020TOKYO
think different
 
  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。



Categories
ブログ内検索 by Google
Google

livedoorブログ内検索
Thank you for visiting
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

free counters

by Month