SFG ブライアン・セイビアン ブルース・ボウチー

2014年10月31日、PARADE !
2014年10月30日、2014オクトーバー・ブック 〜 マイク・モースの「無死満塁でのライト犠牲フライ」というビッグプレーが引き寄せたワールドシリーズ第7戦の勝利。
2014年10月29日、2014オクトーバー・ブック 〜 ヴェネズエラの悪球打ち魔人サルバドール・ペレスにあえて「悪球勝負」を挑み、ワールドチャンピオンをもぎとったマディソン・"Mad Bum"・バムガーナーの宇宙レベルの「度胸」。
2014年10月27日、90年代末NYY、2010年代SFGの「生え抜き選手層」は、誰が作ったか。変わりつつあるメディアのBrian Sabean評。
2014年1月7日、『父親とベースボール』 (11)白人移民と、アフリカ系アメリカ人とのかかわり
2013年4月12日、「躊躇し続けるヤンキース」のつまらなさ。
2012年11月10日 2012オクトーバー・ブック 投げたい球を投げて決勝タイムリーを打たれたフィル・コーク、三冠王の裏をかく配球で見事に見逃し三振にしとめたセルジオ・ロモ。配球に滲むスカウティングの差。
2012年11月6日、2012オクトーバー・ブック アウトコースのスカウティングで完璧に封じ込められたプリンス・フィルダー。キーワードは「バックドア」、「チェンジアップ」。
2012年11月2日、2012オクトーバー・ブック 「スカウティング格差」が決め手だった2012ポストシーズン。グランダーソンをホームランバッターに押し上げた「極端なストレート狙い」が通用しなくなった理由。
2012年6月1日、怪我との苦闘を乗り越えて。ヨハン・サンタナ、ノーヒット・ノーラン達成。
2010年10月25日、東西を2分する2010ワールドシリーズの優勝チーム予想。

November 01, 2014

damejima at 08:43

October 31, 2014

6フィート5インチ(約196センチ)もある大柄なマイク・モースは、動作の感じからしても、かつてのシアトル時代、ナッツ時代の印象からしても、不器用なタイプだったはずだが、その彼が2014ワールドシリーズ第7戦でみせた「2度にわたる流し打ち」、特に、2回表無死満塁での犠牲フライが、後続打者の打点にもつながる「ライトへのフライ」だったことには、正直痺れた。既にツイッターには書いたことだが、記録として残したいので、もう一度書く。


「無死満塁でのライトへの犠牲フライ」は、サードランナー生還はもとより、セカンドランナーもタッチアップできるため、「1死1、3塁」となって、次打者が続けて犠牲フライを打てば2点目追加も期待できる。これが「レフト犠牲フライ」なら、残るシチュエーションは「1死1、2塁」だから、話が違ってくる。
そんな理屈くらい、誰でもアタマではわかっていても、とかくパワーで押したがる打者の多いMLBだ、簡単には実現できない。フルスイングで変化球をひっかけて内野ゴロ、ダブルプレー食らっている間に1点だけ入って2死3塁、点が入らないよりはマシ、そういう大雑把さがMLBにはある。

無死満塁だからこそホームランを狙っていいという豪快な考え方、無死満塁だからこそ最低でも1点はとるバッティングをすべきというタイトな考え方、野球にはいろいろな考え方がある。貯蓄指向が国によって大きく違うのと同じで、案外国民性がでやすい。


マイク・モースは、得点効率の良さ、相手に与えるプレッシャーの大きさでレフトフライとは比較にならない「ライト犠牲フライ」を打つことを選んだ。(ちなみに彼は「右投手のほうが得意な右打者」であり、ジェレミー・ガスリーも、ケルビン・ヘレラも、右投手だ)

こういうことを細かい野球と呼ぶか、高い得点効率と呼ぶか、ラベルはどうでもいいのだが、少なくとも、マイク・モースのようなタイプの選手にさえ、見栄を捨ててチームに貢献しようと思わせる「空気」がチームにあることが(移籍当時のモース自身も「フィールドにいる選手の誰もが、いつもなにかしている」と新天地の空気を語っている)、サンフランシスコ・ジャイアンツの5年で3度のワールドシリーズ優勝に繋がっていることは間違いない。

ワールドシリーズ優勝という収穫。その大きさを考えるなら、「ライト犠牲フライ」はけしてスモールでなく、むしろ「ビッグプレー」だ。その「大きさ」に気づかないのは、その人間の小ささのせいであって、野球の大小の問題ではない。


2014WS第7戦2回表 モース 犠牲フライ2014WS第7戦2回表
マイク・モース
ライトへの犠牲フライ
投手:ジェレミー・ガスリー(右腕)
San Francisco Giants at Kansas City Royals - October 29, 2014 | MLB.com Classic

2014WS第7戦4回表 モース ライト前タイムリー2014WS第7戦4回表
マイク・モース
ライト前タイムリー
投手:ケルビン・ヘレラ(右腕)

ちなみに、あくまで蛇足なのだが
カンザスシティの右の速球派リリーバー、ドミニカのケルビン・ヘレラは、今シーズンのRISP(得点圏)場面で、93人の打者に被打率.172と、十分すぎるほどのスタッツを残しており、また70イニング投げてホームランを1本も打たれていない。
ところが、RISPシチュエーションをもっと詳しく調べてみると、ヘレラは「満塁」と「1、3塁」が非常に苦手で、場合によっては被打率が3割を越えてしまっているのだ。

大雑把にスタッツを眺めていると、「ケルビン・ヘレラは得点圏にランナーがいてもまったく動じないリリーバー」とだけ、みなしてしまう。だが彼が得意なRISPシチュエーションというのは、あくまで、「1、2塁」、「2塁」といった「よくある場面」だけであって、どういうわけか「サードにランナーがいる場面」を非常に苦手にしているのだ。


野球において発生数の多いRISPシチュエーションといえば「1、2塁」「2塁」だから、問題ないといえば問題ないと思われるかもしれない。

だが、2014ワールドシリーズ第7戦の4回表にカンザスシティ監督ネッド・ヨーストがピッチャーを先発ジェレミー・ガスリーからケルビン・ヘレラに変え、そのヘレラがマイク・モースに決勝タイムリーを浴びてしまった場面というのは、ヘレラが苦手としている1、3塁の場面だった。

また、マイク・モースは右打者だが、右投手を得意にしている右打者なのだ。キャリア通算でも右のほうが打率がいいし、2014年に至っては右.293に対して左.248と、右投手との対戦のほうがはるかに打率がいい。
カンザスシティは綿密で機動力のある野球をしていると思われがちだが、こうした細かい点を考慮しているわけではないのだ。


正直、このワールドシリーズでのネッド・ヨーストの采配の動揺ぶりには首をかしげる点がいくつか感じられた。例えば打順がそうで、アレックス・ゴードンを上位に固定するとか、打てる選手をもっと上位に固めて起用していたらシリーズの結果は違っていたかもしれない。
数年前のテキサスのワールドシリーズで、ピンチの場面でのリリーフ起用の酷さにみられた「ロン・ワシントンのうろたえぶり」と、ある意味同じ失態といってもいい。
ワールドシリーズでのテキサスについては、ロン・ワシントンさえいなかったら結果は違っただろうにと何度も思ったものだが(苦笑)、ネッド・ヨーストがこれからカンザスシティでどういう存在になるかはわからないが、最近テキサスを辞めたロン・ワシントンに一度会って、なにかアドバイスをもらったほうがいいかもしれないとすら思うのである(笑)

damejima at 12:47
ワールドシリーズはサンフランシスコ・ジャイアンツが勝ち、21イニング1失点のマディソン・バムガーナーがシリーズMVP。終わってみれば順当な結果だ。おめでとう、バムガーナー。

第1戦の球審は案の定、バムガーナーが非常に相性の悪いJerry Mealsだったが、彼がまったく動じることなくカンザスシティ打線を抑えこんだ時点で、このワールドシリーズ、すでに「勝負あり」だった。
参考記事:2014年10月14日、ワールドシリーズ担当アンパイア7人と、両チームのエースとの相性だけからみた、2014ワールドシリーズの勝者。 | Damejima's HARDBALL


それにしても第7戦、1点差の9回裏2アウト3塁での「ヴェネズエラの悪球打ち(英語ではbad-ball hitter)魔人サルバドール・ペレス」と、サンフランシスコの怪童バムガーナーとの「悪球勝負」は面白かった(笑)


初球

ペレスが例によってアウトコース高めの「とんでもないボール球」をスイングしてきたことで、怪童同士の対決は始まった。

2014WS 第7戦 9回裏 ペレスvsバムガーナー2014ワールドシリーズ第7戦
スコア:SFG 3-2 KCR
9回裏2死3塁
打者:サルバドール・ペレス
投手:マディソン・バムガーナーSan Francisco Giants at Kansas City Royals - October 29, 2014 | MLB.com Classic

2014WS第7戦 9回裏 ペレスvsバムガーナー出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool


「初球に、ペレスがアウトコース高めのとんでもないボール球を空振りしたこと」は、単なる偶然ではない。以下の彼のHot Zoneデータを見てもらうとわかる。

KCRサルバドール・ペレス 2014Hot Zone

上は「全投手、全球種のデータ」だが、これをさらに「スピードボールのみ」に絞り込んでみる。すると、こうなる。

KCRサルバドール・ペレス 2014Hot Zone/Fastball

ボールゾーンが真っ赤だ。
こんなバッター、見たことない(笑)

ストライクゾーン内部のかなりの面積が青くなっている(=ストライクを振ると凡退が多い)にもかかわらず、ゾーンの外、特にアウトコースが真っ赤に染まっている。ボール球をかなりの割合でヒットにしていることがよくわかる。バッターとしてのサルバドール・ペレスが、いかに「変態」かが、よくわかるデータだ(笑)

さらに注目してもらいたいのは、「ストライクゾーンの外側どころか、内側、さらに上下にも、青色や赤色でカラーリングされたエリアがあること」だ。
つまり、ペレスは「ボール球のスピードボールなら、インアウト、高低、まるで関係なく、容赦なく振ってくるバッター」であり、さらにいえば、「アウトコースのボール球(特にスピードボールを)をヒットにすることが、ストライクを打つことより得意な、ありえないバッター」なのだ(笑)

だからこそ、9回裏、1点差の2死3塁で、バムガーナーが初球に投げた「アウトコースのボールになるスピードボール」は、ペレスにしてみれば、「『俺のど真ん中』にキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」という意味になる(笑) よくまぁ、同点タイムリーを食らわなかったものだ。


振り返ってみると、バムガーナーはこのワールドシリーズで21イニングも投げているが、失点は第1戦で打たれたソロホームランのみ。その唯一無二の失点を喫した相手こそ、ヴェネズエラの怪人、サルバドール・ペレスだ(笑)
打ったのは「インコースのストレート」だが、データでみるとやはりストライクゾーンを「外れて」いる。MLBの球審は右打者のインコースをとらない人が多いから見逃せばボールだろうが、ペレスにとっては「ど真ん中のストライク」だったわけだ(笑)
打球はレフトスタンドにあっさり消えていった。



2014WS第1戦 ペレスHR(投手バムガーナー)2014ワールドシリーズ第1戦
ペレス ソロホームラン
投手:バムガーナー


2球目以降

香水(女性用品店Victoria's Secretのボディスプラッシュらしい)をつけてゲームに臨んでいる理由を聞かれて「球審をいい気持ちにして酔わせるためさ」なんて答えるわ、9月のデトロイトとの大事な首位決戦で帰塁せずタッチアップしてアウトになってゲームに負けるわ、WS第2戦ではSFGのリリーフ、ハンター・ストリックランドとケンカするわ、まぁ、やりたい放題な自然児がサルバドール・ペレスなのだが(笑)、そのヴェネズエラの怪人を抑えないと、サンフランシスコ・ジャイアンツは3度目のワールドシリーズ制覇にたどりつけない。

そこでバムガーナー、
何をしたか


悪球打ち魔人ペレスが振りたくなりそうな
「悪球」ばかり投げた
、のである(笑)


ペレスもペレスだが、
それを越えていくバムガーナーもバムガーナーだ。

彼も、キャッチャーのポージーも、たぶんペレスが「悪球打ちバッターであること」くらい、わかっている。わかっているなら、初球に「ボール球(=ペレスのストライク)をあえて投げなくても、「普通に、ストライクゾーン内で勝負」でもよかったはずだ。だがバムガーナーは、あえて「ペレスの大好きなボール球」を投じ続けて勝負することにしたのである。

よほど、唯一のホームランを打たれたのがしゃくにさわっていたのかもしれないが(笑)、すでに一度ボール球をホームランされているというのに、あとアウトひとつでワールドシリーズ制覇だが、ランナーが帰れば同点、延長戦突入などという緊迫した場面で、どこからそういうケタ外れの度胸、そういう奇想天外な発想が沸いて出てくるのか、まったくもって理解できない(笑)

ストライク勝負には危険性もある。ついうっかり手元が狂って球がボールゾーンにいってしまうと、「魔人ペレス・ストライクゾーン」(笑)に入りかねないからだ。
だが、だからといって、「ペレスの苦手な高めのボールゾーン」に投げたつもりが、うっかり「ペレスの大得意なアウトコースのボールゾーン」にいかないと、誰が保障できる(笑)なんせ、相手は普通の計算などまるで役に立たない「香水好き魔人」なのだ。

こんな「悪球配球」、よほどの度胸がないと続けられっこない。ストライクを投げる訓練は誰でもやるが、ボール球、それも、まちがいなく打たれるボール球にならないように気をつけながら、打たれないボール球をきわどく投げ続ける訓練など、誰もやるわけがない(笑)


マンガでしか見られないような勝負を現実の野球でやってのけ、ヴェネズエラの香水魔人すらねじふせた、"Mad Bum"、マディソン・バムガーナー。たぶんこの人なら、たとえ宇宙人と野球をやっても完封すると思う(笑)

damejima at 07:06

October 28, 2014

オールドスクール
現代のデータ分析をわかってない旧式な野球
ヴェテランを重視し過ぎ

これが、これまでの典型的なサンフランシスコ・ジャイアンツGM Brian Sabean評だ。

2010年以降ワールドシリーズに1年おきに3度も登場し、3度とも勝っていながら、いまだに「バリー・ボンズがMLBから消去されて以降に、ジャイアンツのチームカラーを一新したBrian Sabeanの仕事ぶり」を評価したがらないメディアは少なくない。
さらにいえば、ポスト・バリー・ボンズ時代のSFGの「独特の勝ちかた」が好きになれないライター、ジャイアンツはデータ軽視のオールドスクールの「はず」だからSFGは嫌いと勝手に思い込んでいる「データ分析出身ライター」もけして少なくない。

だが現実を見てみれば、2014ワールドシリーズを戦っているSFGの内野はキャッチャー含めて全員が生え抜きの若手で構成されている。Brian Sabeanがヴェテラン重視だった時代は、はるか昔に終わっているのである。
また、データを重視しないという風評についても、2012年ワールドシリーズ最後の打者となったミゲル・カブレラを、スライダーピッチャー、セルジオ・ロモがストレートで見逃し三振させた場面について書いた記事でわかるように、SFGはMLB屈指の「相手チームの得意分野、やりたいことを探りあて、封じ込める、卓越したスキルをもったチーム」だと思う。

それでも、Brian Sabeanを「オールド」と決め付けたがる風潮は、ジャイアンツのワールドシリーズ視聴率に影響するほど(笑)根強い。
原因はおそらく、Brian Sabeanが1990年代にヤンキースで、スカウトとして後に「コア4」と呼ばれることになるヤンキースの将来の中心選手(ジーター、リベラ、ポサダ、ペティット)のような若い有望選手をまとめて獲得した仕事と、2000年代後半のジャイアンツGMとしての仕事の両方を、ほとんど認識しないまま批判ばかりしてきた人間がメディアに多いせいじゃないだろうかと思う。


だが、このところ少し風向きが変わってきた。

というのは、かつてはまるで評価されなかったヤンキース・スカウト時代の実績に「ごく一部のライター」(それもあまり有名でなく、野球専門サイト所属でもないライター)が気づいて(笑)、彼を持ち上げる記事を書き始めているからだ。
例:NY TImes Brian Sabean, in Front Office, Is a Giant Among Giants - NYTimes.com
Brian Sabean's formula for the Giants: Tough, gritty, determined - San Jose Mercury News

まぁ、たしかに、「育成にとんと興味を示さないヤンキースに、コア4をスカウトしてきて、1990年代末の黄金時代を築いたこと」についても、そして「ジャイアンツGMとして、2000年代後半のドラフトで次世代の若手を揃え、ポスト・バリー・ボンズ時代の新しいチームカラー導入に成功して、2010年以降ジャイアンツ黄金時代を築いた」ことにも、Brian Sabeanが関わったのは確かだ。

だが、だからといって、「ありとあらゆることが、Brian Sabeanの功績だ」という話か、というと、それはちょっと言い過ぎだ。

早計な決め付けが大好きなメディアに「全部が全部、Brian Sabeanの功績」だということにされてしまう前に、どの時代に、誰が、どんな役割で仕事をし、その黄金時代を支えたのか、わかる範囲でだが、書いておこうと思う。けしてブログ主の得意分野ではないが、どうせ誰もやらないだろう(笑) 多少間違いや不十分さがあるかもしれないが、資料を後世に残さないよりマシだ。

90年代末ヤンキース黄金期を用意した人物たち

Gene Michael(GM)
関連記事:2013年8月5日、「生え抜きの成長、黄金期、ステロイド、そして衰退」 正しいヤンキース30年史。 | Damejima's HARDBALL
詳しくは上のリンク記事を読んでもらいたいが、Gene Michaelは、ヤンキース監督として、1981年に「80年代における唯一のワールドシリーズ進出」を果たした人物であると同時に、1990年にヤンキースGMとなって以降、92年にバック・ショーウォルターを監督に据え、彼とともに「若い人材を育て上げる」という、それまでのヤンキースになかった「新しいチーム編成方針」を創造した人物でもある。彼の素晴らしい業績は、1990年代末のヤンキース黄金期となって見事に結実した。
黄金期のキープレーヤー、バーニー・ウイリアムスがオーナーシップの気まぐれによってトレードされそうになったとき、ショーウォルターとともに阻止したことでも有名。

Buck Showalter(監督)
関連記事:2012年4月29日、長年の課題だった投手陣再建を短期で実現しア・リーグ東地区首位に立つボルチモア (1)ボルチモアはどこがどう変わったのか? | Damejima's HARDBALL
現職は、2010年就任のボルチモア・オリオールズ監督。2014年地区優勝。かつてボストン黄金期の選手層を用意した実績をもつ現GMダン・デュケットとともに、パワーだけはあるがクオリティがあまりに雑で、低迷続きだったボルチモアを、とうとう地区優勝できるチームに変身させることに成功した。当初のボルチモアの投手コーチは元シアトルのリック・アデア。
このショーウォルターが、1990年代にヤンキースの若手を、2000年代初期にテキサスの若い才能を整備したことによって、これら2つのチームが優勝争い常連チームになる基礎を築いたことは明らか。

Brian Sabean(スカウト)
現在はサンフランシスコ・ジャイアンツGMだが、1990年代はGene Michael時代のヤンキースでスカウトをしていた。GM・Gene Michaelの「若手育成路線」を支え、後に「コア4」と呼ばれることになるデレク・ジーターマリアーノ・リベラホルヘ・ポサダアンディ・ペティットなどとの契約をまとめて、ヤンキース黄金時代の基盤を築くことに貢献。

Neil Allen(AAA・Columbus Clippersの投手コーチ)
関連記事:2013年7月29日、かつてColumbus ClippersのピッチングコーチだったNeil Allenが支えるタンパベイ投手陣と、ヤンキースのマイナーとの差。イチローが投手の宝庫タンパベイ・レイズから打った4安打。 | Damejima's HARDBALL
長くヤンキースのさまざまなマイナーで投手育成の要職をこなしてきた人物。2003年、04年、06年には、コア4を生んだヤンキース傘下の伝説のマイナー、Columbus Clippersの投手コーチをつとめた。マイナー時代の王建民にシンカーを教えたのも、この人らしい。
ブライアン・キャッシュマンの2000年代ヤンキースが、Gene Michaelが築いた「若手育成路線」を捨て、選手編成方針を「FA選手を買う」方向へ転換したため、ヤンキースは、1997年以降28年間も傘下に置いてきたColumbus Clippersを2006年に手放してしまう。
それをきっかけにNeil Allenもヤンキースを離れ、翌2007年にタンパベイのマイナー、Durham Bullsの投手コーチに就任した。Neil Allenとヤンキースとの絆は断たれ、その一方でタンパベイに投手陣躍進の機会が訪れた。
Columbus Clippersを手放したこと、そして、Neil Allenのようなマイナーの経験あるコーチを失ったことは、ヤンキースの2000年代以降のファームシステムが「80年代の貧弱さ」に戻ることを意味しており、2000年代以降ヤンキースの若手の才能がまったく開花しなくなったことの「謎解き」がここにある。

2010年代ジャイアンツ黄金期を用意した人物たち

Brian Sabean(GM)
データ:San Francisco Giants 1st Round Picks in the MLB June Amateur Draft | Baseball-Reference.com
スカウト出身で、1996年以降、現職。バリー・ボンズなどによる「90年代末のステロイド・ホームラン時代」をモロに経験したGMでもあるが、2003年、2012年のSporting News Executive of the Yearを受賞したことでわかるように、2000年代以降はチーム編成の路線を変更、ドラフトで最も実績を挙げたGMのひとりとなった。
2002年マット・ケインに始まり、2006年ティム・リンスカム、2007年マディソン・バムガーナー、2008年バスター・ポージー、2011年ジョー・パニックと、2010年代のジャイアンツ黄金期に主力選手として活躍する若手選手を指名し続けてきた。彼ら全員がそれぞれの年度における全米1位選手ではなかったところに、セイビアン独特のこだわりと目のつけどころの良さが感じられる。
もし世間がこれまで言ってきたように、この人が「まったく若手をかえりみない、ヴェテラン重視なだけのGM」だったとしたら、ジャイアンツの5シーズンで3回のワールドシリーズ制覇などという輝きの季節は訪れなかった。

Bruce Bochy(監督)
近年のボウチーの偉大な功績については、もう細かくあれこれ書く必要はないので、短く書く。
キャッチャー出身。フランス生まれで、フロリダ育ち。GM Sabeanとは家族を含めた親交があり、ボウチーの妻は、Sabeanに息子ができたときのドゥーラ(付添い人)であり、名づけ親でもある。
いわずとしれた、ポストシーズンの魔術師。名監督なのは既に間違いなく、このまま実績を積み重ねていけば、いずれ殿堂入りまであるだろう。

John Barr(スカウト担当重役、球団副社長)
データ:San Francisco Giants: Front Office
ニュージャージー出身。球団重役だが、GM就任前のBrian Sabeanと同じく、スカウト専業のキャリアを歩んできたスカウトのプロフェショナルでもある。1984年メッツを皮切りに、1989-90ボルチモア(マイク・ムッシーナ)、1991-93サンディエゴ、1994-97メッツ(AJバーネット、テレンス・ロング)、1998-2007ドジャース(ラッセル・マーティン、エドウィン・ジャクソン、ジョナサン・ブロクストン)を経て、サンフランシスコにやってきた。
ジャイアンツでのキャリアは6年目。スカウト担当として、2008年バスター・ポージーのほか、ブランドン・クロフォードブランドン・ベルトなどの獲得に携わった。2009年にProfessional Scouting Hall of Fameに選出。


注:Sabeanという名前の「読み」について

Brian Sabeanという名前は、マーク・テシェイラやブライアン・マットゥースほどではないにしても、日本語で表記するのが難しい名前のひとつではある。
このブログでは、耳ざわりがいいという理由で「ブライアン・セイビアン」としているが、もし原音に忠実にカタカナで書こうと思うなら、本来は「サビアン」と書くのが最も近いだろうし、歴史的にも辻褄があう、とは思う。(ちなみに彼自身はニューハンプシャー生まれだが、アメリカでSabean姓をもつ人たちの大多数が1940年代以降のマサチューセッツ(=ニューハンプシャーの隣の州)に記録があることから、近い先祖がマサチューセッツの移民の出である可能性は高い)

よく彼の名前を「サビーン」と表記したがる人がいるが、何を根拠にそんな表記が出てきたのか知らないが、それについては以下の理由から同意できない。


欧米人の名前は「聖書に起源をもつ名前」が多数あるが(例:ジョン=イエスの弟子ヨハネ、マイケル=大天使ミカエル)、旧約聖書に「シバの女王」という有名な人物が登場する。「シバ」というのはアラビア半島南西(今のイエメンあたり)に栄えた古代国家の名前で、表記は、英語なら "Sheba(シバ)" だが、ヘブライ語の英語転写では "Saba"(サバ)となる。
「Saba国の人」あるいは「Saba国の言語」を意味する言葉として、"Sabaeans" あるいは "Sabeans" という単語があり、その発音をカタカナで無理に表記してみると「サビアンズ」という感じになる。

"Sabeans" という言葉の、「接尾辞 -an の読み」は、「American」を「アメリカン」、「Canadian」を「カナディアン」、「Hawaiian」を「ハワイアン」と発音する原則と同じで、「アン」と読む。

だから、もし仮に "Sabean" という名前が旧約聖書由来だとすると、「サビアン」とか、「セイビアン」とか読む可能性はあっても、「サビーン」とはならない。(ただし、残念ながら "Sabaeans" あるいは "Sabeans" が、Brian Sabeanの姓の由来かどうかまでは、完全には確かめられなかった)

別資料:
Sabean Name History, Name Meaning and Family Crest
Sabean is an ancient Anglo-Saxon surname that came from Sabinus and Sabine.
この資料は「Sabeanという名前」のオリジナルの形はSabinusあるいはSabineであって古代ローマに起源があるとしているが、ブログ主は賛同できない。
たしかに、ユリウス・カエサルの有名な手記『ガリア戦記』にSabinus(サビヌス)という名の人物が登場するし、古代ローマにSabine(サビーヌ)という地名もある。
だが、古代ローマの姓の末尾につく「-us」という接尾辞は、「出身地」あるいは「出身家系」を意味するケースがあるため、Sabinusという名前をさらに遡ることができるはずであり、旧約聖書に登場するSaba(サバ)という地名、あるいは、Sabaゆかりの家系と無関係だとは必ずしも断定できないのである。


damejima at 11:23

January 07, 2014

これまで「父親とベースボール」シリーズでやろうとしたことのひとつは、1977年にヒットしたテレビドラマ「ルーツ」がやったように、「アフリカ系アメリカ人がアメリカ内部をどう移動してきたか」を簡単にたどってみることで、時代によって彼らの目に「アメリカ」がどう見えていたのかを垣間見ることなわけだが、住んでいる場所の移動にはいくつかの「ポイント」があって、それぞれが彼らの歴史のターニングポイントになっている。

例えば、三角貿易の時代に西アフリカから奴隷船でアメリカに連れてこられ、到着したサウスカロライナ州チャールストンのような奴隷交易港。南部の綿花畑のようなプランテーション。Underground Railroadによる北部への脱出。Great Migrationにおけるニューヨークのような北部の大都市への移住。そして、南部回帰。

おそらくアフリカ系アメリカ人は、場所を移動するたび、それぞれの街で、さまざまな「白人」と出会っただろう。
奴隷商人。プランテーションの主人。Underground Railroadをこっそり支援してくれる進歩的と呼ばれる白人。ニューヨークのダウンタウンに住んでいる白人。大都市でアフリカ系アメリカ人と職をどりあうような立場の、貧しい白人。


これまで「父親とベースボール」シリーズに欠けていた視点のひとつは、肌の黒いアフリカ系アメリカ人が運命に流され、アメリカ国内を流転し続ける中で出会った「さまざまな立場の白人たち」の多くが、アメリカ以外の場所から来た「移民」であるという視点だ。

例えば、アメリカ史の資料を読んでいると、移民の国だけあって、よく「アメリカにはドイツ系移民が多い」とか、「この人はアイルランド系」といったふうに、「なになに系」という記述に非常に頻繁に出くわすことになる。
こうした場合に、例えば「ドイツ系」と書かれている文章をもう少し掘り下げて読んでみると、その記述が意味する「ドイツ系」が一定のパーセンテージで「ドイツ系ユダヤ移民」を指す場合がある。
また、同じように「東ヨーロッパ系移民」という表現が、実際には「東欧系ユダヤ移民」を指すと考えて読むと、意味がはるかにわかりやすくなる場合もある。

一例をあげると、例えば映画『ドラゴンタトゥーの女』でリサベット・サランデルを演じたルーニー・マーラの曽祖父にあたるNFL ニューヨーク・ジャイアンツの創始者ティム・マーラについて書いた記事で、彼の経歴を「ロウワー・イーストサイドの貧しい家庭に生まれ、13歳で映画館の案内係になり、通りで新聞を売る仕事を経てブックメーカーの使い走りになり、さらに18歳のとき彼自身がブックメーカーになった」と書いたわけだが、かつて東欧系の貧しいユダヤ系移民が「ニューヨークのロウワー・イーストサイド」に多数住んでいたことを考慮すると、ティム・マーラのキャリアが、東欧系ユダヤ移民の典型的すぎるくらい典型的なサクセスストーリーであることに気づく。
Damejima's HARDBALL:2012年12月21日、ニューヨークまみれのクリスマス・キャロル(2) NFLニューヨーク・ジャイアンツとティム・マーラとポロ・グラウンズ

また、MLB サンフランシスコ・ジャイアンツの元オーナー、ピーター・マゴワンについて、「かつてアメリカの三大投資銀行のひとつとして名を馳せた、かのメリル・リンチの創業者、そして全米屈指のスーパーマーケットSafewayの創業者でもあるチャールズ・メリル (1885-1956)の孫」と書いたことがあるが、このチャールズ・メリルの「投資銀行で成功するというサクセスストーリー」もまた、ユダヤ系移民の典型的なサクセスストーリーだ。
Damejima's HARDBALL:2013年2月11日、1958年ドジャース、ジャイアンツ西海岸移転に始まる「ボールパーク・ドミノ」 (8)番外編 三代たてば、なんとやら。「ステロイド・イネーブラ」と呼ばれたピーター・マゴワン。


アフリカ系アメリカ人ばかりに関心を向けて書いていたときには、明らかに注意不足だったわけだが、アメリカに流入した移民は、なにもイギリスの主導する三角貿易によってアメリカに連れてこられたアフリカ系アメリカ人だけではなく、ヨーロッパからの白人移民も新移民・旧移民入り乱れて、大量に入ってきている。
だから、アフリカ系アメリカ人とさまざまな立場の白人、特に「マイノリティ白人」といわれる貧しい白人移民との間には複雑な関係があるわけだが、これについては、この勉強不足なブログ程度で書き切れるような話ではないにしても、「父親とベースボール」ではあまりにボンヤリとしか記述できていなかった。
Damejima's HARDBALL:2012年8月4日、父親とベースボール (5)アメリカが抱えこんだ二面性の発見 「とても自由で、とても不自由なアメリカ」


自省の意味をこめて、少しは「アフリカ系アメリカ人と白人移民との関係」について、情報を書き加えておかなくてはならない。

例えば、アフリカ系アメリカ人の北部へのGreat Migrationで、例えばニューヨークに移住したアフリカ系アメリカ人は「職にありつこうとしても熟練した技術が必要な職人仕事にはなかなかつけなかった」などという記述がよくある。なにごとも技術の熟練にはとかく時間がかかるわけだが、それ以外にも、東欧から移住してきた貧しいユダヤ系移民に職人が多かったために、ニューヨークの職人系の仕事が東欧系ユダヤ移民に流れたということも関係している。
また、アイルランド系移民は、南北戦争では奴隷制維持を支持し、ニューヨークでアフリカ系住民の家を襲撃することさえ行っている。その理由のひとつは、奴隷解放が実現すれば自分たちの仕事が減るという危機意識だ。また、1880年代に盛んになった労働運動や労働組合はアイルランド系移民の社会的地位の向上に非常に大きな役割を果たしたが、それらの組織は他方で、アフリカ系アメリカ人をアイルランド系移民が多くを占める仕事から締め出すという作用も果たした。





damejima at 01:40

April 13, 2013

迷えるヤンキースはいつまで「クラシックなアメ車みたいな野球」が通用すると思っているのだろう。アメリカ人のクルマの好みや需要がいつまでも変わらないと思っているとしたら大間違いなのは、数年前にアメリカの自動車市場の重要部分を占めるピックアップ・トラックやSUVの中古価格が急落したことなど、消費者の考え方の根本的変化を示す近年のマーケティング調査の結果を見るまでもない。


2012年に、夏までは地区優勝間違いなしと思われていたヤンキースが、夏を過ぎて主軸打者の攻撃力不足(特にAロッドグランダーソン)と、投手陣崩壊(特にセットアッパー)というダブルパンチにみまわれながらも、新GMダン・デュケットがチーム再生に成功した2位ボルチモアに優勝をかっさらわれずに済んだのは、ひとえにラウル・イバニェスと途中加入のイチローの奇跡的な活躍があったからだが、逆にいうと、2012年に「ついうっかり優勝できてしまった」ことで、ヤンキースは古い体質を変えていくチャンスを逸してしまった、とも言える。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年9月20日、『イチロー・ミラクル・セプテンバー』全記録(1)トロント戦全ヒット 東海岸が初体験する「ゲップが出るほどのイチロー体験」のはじまり、はじまり。

参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年9月28日、『イチロー・ミラクル・セプテンバー』全記録(2)オークランド戦以降の「魔法」 〜イチローがアメリカで「ウィザード」と呼ばれる理由。

Aロッドとグランダーソンは、2012ポストシーズンについにスタメンをはずされるところまで打撃成績が急降下したわけだが、原因は、既にブログにも書いたように、単なる「一時的な不調」ではなく、彼らのバッティング上の根本的な弱点や、打席で常に狙っている球種やコースが、他チーム(特に今まで大味な野球をやってきた同地区のチーム)に十分すぎるほど知れ渡ったためだ。
打席で常に弱点を徹底的に突かれるようになっている彼らの攻撃力低下は、半ば永続的なものであり、もう伸びしろなど、あるわけはない。ヤンキースのゲームをきちんと見ている人なら、つべこべ言わなくてもわかるはずだ。突然グランダーソンがインコースの縦に落ちる変化球を打てるようになるとは、(ドーピングでもしない限り)まったく思わない。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年11月2日、2012オクトーバー・ブック 「スカウティング格差」が決め手だった2012ポストシーズン。グランダーソンをホームランバッターに押し上げた「極端なストレート狙い」が通用しなくなった理由。

もっと言えば、ア・リーグ東地区は、ついこの間まで大味ないわゆる「大砲野球」でも十分やってこれた。
というのは、なんせ、同地区に毎年下位に甘んじてくれるチームがたくさんあり、そういう大味なチームが隙だらけの野球をやり続け、負け続けてくれてきたからだ。
ヤンキースやボストンなど本拠地の狭い上位チームは、金にモノを言わせて(たとえそれがステロイダーのゲイリー・シェフィールドやAロッド、ジェイソン・ジオンビーなどなどであっても)ホームランバッターを並べておきさえすれば、優勝争いを独占し続けることができた。

他方、例えばかつてのボルチモアは、早打ちの淡泊すぎるバッティング、酷い守備の大雑把な野球が特徴だったから、ヤンキースやボストンにとっては「いいカモ」であり、勝ち数を簡単に増やしてくれる「同地区の、対戦数の多い、おいしい対戦相手」、いわゆる「お客さん」だった。

だが今は違う。
ボルチモアはGMと監督を入れ替え、チーム体質を変えていく過程にあって、昔のような行き当たりばったりにスイングしまくる野球スタイルを止め、隙のない野球もできる体質に少しずつ変化し始めている。
2012年にチームの内部事情から大崩壊したボストンにしても、2013年を前に投手陣再建にうってつけてのジョン・ファレルをトロントから引き抜いて新監督に迎え、また、データをあらためてチームにしっかり注入し直して、データ主義野球を従来よりさらに前面に押し出し、早くもチーム再生に成功しつつある。ボストンはもともとMLBで最も待球型の打線だが、今シーズンはおそらくこれまで以上にバッターに徹底的に待球指示を出しているように見えるし、守備位置の決定にすら打者データが徹底活用され始めている。
またタンパベイは、OPS重視の古くさい打線構成があいかわらず機能しておらず、その点は馬鹿としか言いようがないが、なんといっても投手陣がいい。上位チームにたとえ打ち負けることがあっても、投手の違いで勝ちを拾っていける可能性がある。

トータルに見れば、打てるか打てないかわからないホームランだけに頼ってヤンキースが勝てるような時代ではなくなった、ということだ。
古くからのヤンキースファンや、ニューヨークのMLBメディアがどう考えようと、どう書こうと、現実の野球は変わりつつある。(ドーピングを摘発するための血液検査もそのひとつの例)ヤンキースが狭い球場でホームランだけ狙って強振し続けるドーピングスラッガーを並べておけば楽にワールドシリーズ優勝できたような「雑な時代」は、とっくに過去のものになりつつある。
そりゃそうだ。2012ワールドシリーズ優勝のサンフランシスコの強さ、分析力の高さをみてもわかることだ。ドーピングしまくっている主軸打者が、早いカウントのストレートだけ狙い打ちしてフルスイングしているだけで、ワールドシリーズに優勝できた雑な時代なんてものは、とっくに終わっていると考えるのが当たり前というものだ。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年11月10日 2012オクトーバー・ブック 投げたい球を投げて決勝タイムリーを打たれたフィル・コーク、三冠王の裏をかく配球で見事に見逃し三振にしとめたセルジオ・ロモ。配球に滲むスカウティングの差。


では2012年にかろうじて地区優勝を拾ったヤンキースは、オフに、昨シーズン終了間際のチーム編成の不備、つまり、「投打両面でのチカラ不足」という課題を解決できたのか。

言うまでもなく、解決などされてない。

ヤンキースの2012年オフの補強ぶりを簡単にまとめるなら、「『足りないもの』はほとんど補強されず、『既に足りていたもの』ばかり慌てて衝動買いしただけ」なのだから、チームバランスが修正できているわけがない。
ヤンキースの投打の戦力不足のうち、短期的課題はなんといっても「投手補強」だったわけだが、これがほとんど手がつけられていない。
また、去年のポストシーズンにあれだけ打てなくて問題になった野手についても、内野のスタメンのほとんど(テシェイラ、ジーター、Aロッド)が怪我で開幕を欠場しているにもかかわらず、GMキャッシュマンが補強したのは、その足りない内野手ではなくて、外野手ばかりを、それも手当たり次第に買ってくるという、わけのわからない補強ぶりだったわけだから、当然ロスターのバランスは著しく片寄ってしまい、さらに当然のことながら、選手起用は非常に歪(いびつ)なものになってしまった。


ヤンキースは、長期契約している大物先発投手が少ない。つまり投資の重点は、投手ではなく、打者だということだ。当然ながら、ペイロール(=選手に払うサラリーの年間予算)の大半を占めるのは、「高額サラリーの野手」という予算構造になっている。
怪我で、内野のレギュラーのほとんど(1塁テシェイラ、遊撃手ジーター、三塁手Aロッド)と、オフに契約を結び直した外野の中心選手グランダーソンが不在という異常事態のままシーズン開幕を迎えそうになってしまい、慌てたGMキャッシュマンは2013シーズンの開幕直前になって、つまり、もう移籍市場に選手がろくに出回ってない状態になって慌てて補強をした(つまりは、高い買い物をつかまされた)わけだが、その目的は当面の攻撃力不足を体面的に取り繕うためだけに過ぎなかった。

結果的に、「攻撃のヤンキース」という体面を取り繕ろってはみたものの、移籍市場に商品が並んでいない状態でのなりふり構わない一時的な補強は、結果的に外野手と内野手のバランスを悪くして、予算削減にも結局失敗してしまい、内野手は足りず、外野手は余っている。(例えば、ジーター不在の穴を埋めているショートのヌニェスがちょっと怪我をして欠場するだけで、内野の控えがいなくなってしまうという事態が起きるのも、そのせい)


MLBチームの編成は、ロスターが25人と、ベンチ入りできる選手数がもともと限られているだけに、ちょっとでもバランスを欠く選手構成になれば、すぐ弊害がハッキリ出る。特に、今のような「投打のバランスが強く求められる時代」には余計にそうなる。
例えば、下に挙げたグラフでわかる通り、かつてア・リーグ西地区で最も弱かった時代のテキサス・レンジャーズは、メジャーで最も失点するチームのひとつだった。当時のテキサスは、打線がいくら点を入れても入れても、キリがないくらいに投手が失点して、その結果、ひたすら負け続ける、そういう「バランスの悪い、ザルみたいなチーム」だった。

テキサスのホームラン率・被ホームラン率の変遷
テキサスのチームホームラン率・被ホームラン率の変遷


野球ではスタメンの選手が、攻撃面で9人分働き、守備でも9人分の働きをする、というのがとりあえずの理想ではある。だが、スタメンの中には、守備的な選手、攻撃オンリーの選手が入ることもよくあることなわけだから、「ひとつのチームで、9人分の攻撃力と9人分の守備力を実現すること」は、実際には至難の業だ。
ところが、馬鹿なことに、中には「超守備的」だの、馬鹿馬鹿しい目標を立てて大失敗している頭の悪いシアトルの例でわかるように、たとえ守備面で9人分以上の働きができても、攻撃面では2人分くらいの働きしかできないような「偏向したチーム」を作ってしまうアホなチームがある。もちろん、それではチームはマトモに機能しない。
それと同じように、やたらと攻撃だけに徹したチームを作ろうとして、同タイプのフリースインガーばかり集めて打線に並べてしまう頭のイカれたチームもバランスを欠いている。(これもかつてシアトルでやった馬鹿げた施策のひとつ)

今の時代は、投打にしても、内外野にしても、バランスを著しく欠いたチームがワールドシリーズを勝てるような、もう、そんな時代ではない。(もっといえばチーム内の人種構成にもバランスが必要になっている)
第3回WBC優勝のドミニカ代表にしても、かつてのような打撃オンリーのチームカラーではなくなっているからこそ優勝できたといえる。カリビアン・ベースボールは、もうかつてのようなスラッガーとキャッチャーだけが突出した、偏った野球などしていない。中米の野球が、優れた打者を輩出するだけでなく、しっかりした投手も生産できるバランスのとれた選手育成ができるように変化してきたからこそ、ドミニカはどんなタイプのチームと対戦しても、揺るがずに自分の野球ができる。
参考記事:Damejima's HARDBALL:2013年3月16日、カリビアン・ベースボールの音色。


たぶんヤンキースの野手は7月のフラッグシップ・ディールまでに何人かが他チームに放出されることになるだろうが、たとえAロッドやグランダーソンがスタメン復帰して「本来のヤンキース打線」に戻ったとしても、それで打線が向上するとは限らない。
むしろ、対戦相手(特に対戦数の多い同地区のライバルチーム)に十分過ぎるほど研究され尽くされているこの2人の主軸打者がスタメンと打順を占領したまま打撃不調を続けることになったら、彼らをスタメンからはずしたくてもはずせないまま負け続けた2012年終盤の貧打が、単に再現されることにしかならないだろう。

好調なバッターを日替わりで使えばいい、と考える人もいるだろうが、毎日のように変わる「日替わりスタメン」「日替わり打順」というような流動的なチーム方針は、伸び盛りの若いチームならともかく、ヤンキースのような「高齢チーム」には明らかに向いてない

とかく管理者というものは「高額サラリーの選手はスタメンからはずせない」と思いこみがちだし(本当は遠慮なく外せばいいだけのことだが)、そういう不良債権の復調を待ってスタメンで使い続けている間に、せっかく好調だったバッターも調子を落としていき、その一方でなかなかAロッドやグランダーソンが復調しないというパターンは、2012年秋に既に経験していることだが、「変われないヤンキース」はたぶんこの夏に2012年ポストシーズンと同じような失敗を経験することになるだろう。
Aロッドやグランダーソンの高額サラリーを考えれば、ヤンキースは彼らをスタメンで使わないわけにはいかない、と考えて使い続けることだろうが、彼らが不調のせいでなく、他チームのスカウティングで恒常的に打てなくなっていることが明確になるまでの数ヶ月を我慢している間に、シーズンなどあっという間に終わってしまう。
そして、その「我慢」の間に、GMキャッシュマンが開幕直前になりふりかまわず補強した選手たちは、ポジションを交代交代で使われているうちに調子を落としてしまうのは目に見えている。
そうなれば、ファンは、2012年秋にチームがAロッドとグランダーソンをスタメンからはずす決断ができるまで躊躇し続けたムダな時間に経験したのと全く同じイライラを、またもや経験させられるハメになる。


まぁ、ハッキリ言わせてもらうと、
今のヤンキースは、ホームランを打とうが、打たまいが、ホームランでスカッとする、なんていう「抜けのいいチームカラー」ではない。やることなすことがそもそもチーム方針がハッキリせず、施策は後手後手に回るから、なにをしても抜けが悪いし、見ているほうがイライラする。 そういうチームだ。

ヤンキースGMにしても、ニューヨークメディアにしても、古くさいステレオタイプの「ホームラン量産 攻撃型ヤンキース」だけをどうしても見ていたい、というのなら、それはそれで構わない。(ただ、言っておくと、実際のヤンキースが、ずっとそういう「ステレオタイプなヤンキース」だったわけではない。そんなのは単に都市伝説に過ぎない)
古くて燃費も悪いアメ車にどうしても乗り続けたい、これに乗ってないとクルマに乗っている気がしない、というのなら、それはそれで好きにすればいいだけのことだし、チームが方針としてハッキリ打ちだせば、それですむことだ。ジョシュ・ハミルトンだろうが、ジャンカルロ・スタントンブライス・ハーパーだろうが、好きなだけ金を使って他チームの看板スラッガーをかっさらってきて、さっさと打線に並べればいい。(もちろん、ことわっておくと、他チームに弱点の知れ渡ったハミルトンはもう打てないから大金をかける価値はもうない)
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年10月6日、2012オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。

古いアメリカ野球で今のワールドシリーズに勝てる、と、本当に思うのなら、そうすればいい。


なのに、今は「躊躇する曖昧なヤンキース」なんてハンパなものを見せられ続けられているのだ。なんとも不愉快きわまりない。
ニューヨークの野球ファンは馬鹿じゃない。いまのヤンキースのチームプランの中途ハンパさ、抜けの悪さは、なにもアメリカの大手メディアのライターに言葉で指摘されなくても、最初から誰でもわかっている。客席の空席の多さを見れば、馬鹿でもわかる。
このブログとしても、不愉快きわまりない中途半端なチーム方針の下で右往左往させられるイチローを観ているのがあまりに不愉快だから、ブログを書こうとする手すら、ついつい止まってしまう。

本当にいい迷惑だ。


どこの誰が、いまのいま、どんな野球を見たがっているのか。
どんな野球をすれば、いまの時代に、最後まで勝ち続けられるのか。

そういう、ハッキリした時代に向けたメッセージがまるでアピールできてない「躊躇し続けるヤンキース」なんてものは、本当につまらない。

よく、ヤンキースは勝利至上主義だ、なんてことをいいたがる人がいるわけだが、いまのヤンキースは到底そんな厳格なチームではない。単に、いろいろな人の、いろんな契約の、いろんな都合を、ただ配慮しているだけの、抜けの悪い、八方美人の、後手後手のチーム。それが今のヤンキースだ。


イチローの処遇にしても、彼が「強いチーム」でスタメン争いに苦労するのを見るのなら、別に何も問題はない。なぜって、それが「競争というものの本質」だからだ。
しかし、「チーム自体が躊躇しまくりで、大型契約と不良債権の制約でがんじがらめになっている、弱いヤンキース」で右往左往、なんてのは、「競争」でもなんでもない。スポーツでもない。
そんなのは、ただの「ご都合」だ。テレビの前で「他人の都合」なんか見せられても、なにも面白くない。当然のことだ。

だいたい、2012年秋に一度死にかけたチームをポストシーズンに導く活躍をして、アンドリュー・ジョーンズやイバニェスといったスラッガー系のライバルを押しのけて外野のレギュラーポジションをもぎとり、さらに年齢を考えると破格ともいえる2年契約を得て、さぁ、今年は春からやるゾ、という肝心なときになって、トラブルを抱えまくったチームサイドがわけのわからない補強をじゃんじゃんやりました、また最初からやり直してください、じゃ、さすがのイチローだって、モチベーションが上がるわけがない。チーム運営が滅茶苦茶なシアトルで失わさせられた貴重なモチベーションを、もう一度上げるためにヤンキースに移籍したというのに、この中途半端な状態では何のために移籍したのかわからない。
「モチベーション」というやつは、誰でも同じではなく、ヴェテランになればなるほど、一度落ちたら、再度上げていくのに時間も手間もかかる、そういうものだ。ヴェテランの多いチームなのだから、そんなことくらい、理解しないとダメだろう。(まぁ、理解しているからこそ、多少不調でも6番に固定している、といえなくもないが、そんな中途半端な配慮で中途半端な打順に置くくらいなら、いっそ「9番」、つまり「裏の1番」とかのほうが、打線の繋がりとして、よほど面白い)


そしてあとひとつ。言うまでもないことだが、今の時代に求められる「強さ」は、「ドーピングスラッガーを並べたヤンキース」でもなければ、「中古の大砲を並べただけの、古いヤンキース」でもない。

damejima at 03:04

November 11, 2012

2012シーズンのポストシーズンの「戦い方のチームごとの巧拙」をまとめると、以下のような言葉になる。

「自分の打ちたい球」「自分の投げたい球」しか考えられないチームが負け、「対戦相手が何をやりたがっているのか」を考える能力のあったチームが最後まで勝ち残った。



ワールドシリーズに出場した2チームにしても、その戦いぶりの巧拙には大差があった。それを如実に示す、2つの打席を以下に示す。それは「2012シーズン終盤のMLBのチームごとの戦い方の巧拙」を如実に現す鏡でもあった。
San Francisco Giants at Detroit Tigers - October 28, 2012 | MLB.com Classic

ひとつは、イチローの2ランホームランに端を発した4失点でホセ・バルベルデを破壊されて使えなくなったデトロイトの代役クローザー、フィル・コークが、サンフランシスコにシーズン途中ボストンから移籍してきたマルコ・スクータロに、決勝タイムリーを打たれたWS Game 4の10回表の打席。
もうひとつは、同じゲームの10回裏、サンフランシスコの髭のクローザー、セルジオ・ロモが、三冠王ミゲル・カブレラを快心の見逃し三振に切って取って、サンフランシスコのワールドシリーズ制覇が決まった打席である。


「読まれた」フィル・コークのストレート

2012年10月28日 WS Game 4 10回表 スクータロ タイムリー2012年10月28日
WS Game 4 10回表
スクータロ タイムリー


フィル・コークの持ち球は、93マイル前後の4シーム、80マイル前後のスライダー、83マイル前後のチェンジアップとあるが、そのなかで彼が自信をもって投げられるボール、といえば、「4シームのみ」であることは、ア・リーグでコークと対戦の多いバッターなら誰でも知っていると思う。
Phil Coke » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball


場面は、3-3で迎えた延長10回、2死2塁。

このタイムリーを許してはならない場面で、代役クローザー、フィル・コークは、平行カウント1-1から、ベースの真上に落ちる絶妙な低めのチェンジアップを投げた。これは本当に素晴らしいチェンジアップで、もしバッターがグランダーソンだったら間違いなく空振りしていたし、もしスクータロが「なんでもかんでもスイングするバッター」だったら、空振りしていただろう。

だが、打者マルコ・スクータロは、けしてチェンジアップを苦手とするバッターではないにもかかわらず、このきわどいチェンジアップを振らずに、見逃した
詳細は下に書くが、彼が見逃すことができた理由のひとつは、2012ポストシーズンにおけるスクータロが「やたらボールを見ようとするバッター」であり、さらには、アウトコースをセンターあるいはライトに流し打つことで、ALDSでの絶不調から抜け出しかかっていたからだ。

そして球審Brian O'Noraは、このきわどい低めのボールを「ボール」と判定した。低めの判定が怪しいという過去データのある球審(例:Brian O'Nora's Strike Zone Last Night - Royals Review)ではあるが、この判定に関しては正しかった。
この「ストライクゾーンから入って、結果的にボールになるチェンジアップ」が、バッターに見逃され、球審にも正確にボール判定されたことが、Game 4の分かれ目になった。


この「スクータロの見逃し」と「球審のボール判定」、野球の試合ではよくある偶然のように見えるが、どちらも偶然ではない


ワールドシリーズを前にBaseball Analysticsは、2012ポストシーズンでのマルコ・スクータロのバッティングについて、打率.150、20打数3安打と不調に終わったシンシナティとのNLDSでインコースを38球も見逃し、ストレートの大半を見逃していたこと、セントルイスとのNLDSでも同じように39球ものインコースを見逃したが、アウトコースの球をセンターおよびライト方向に7本のヒットを打つという手法で復調しつつあったことをふまえて、ワールドシリーズにおいてデトロイトがとるべき「スクータロ対策」について、次のように明確に述べていた。
If this pattern continues, and the Tigers are going to quiet Marco Scutaro, look for them to be working him on the inner half of the plate and up in the zone.
「もし(NLCSにおいてみられたスクータロのアウトコースを流し打つ)バッティングパターンが続き、そしてタイガースがスクータロを沈黙させたいなら、インコース、高めのゾーンにしか、活路はない」
Analyzing NLCS MVP Marco Scutaro - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
Sergio Romo » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball

2012NLCSにおけるマルコ・スクータロの「アウトコース打ち」2012NLCSにおけるマルコ・スクータロの「アウトコース打ち」を示すHot Zoneデータ。(Baseball AnalysticsのHot Zoneは投手から見た図。一方、Brooks BaseballのPitchFX Toolは、球審から見た図で、左右が逆になっていることに注意)


球審Brian O'Noraの判定は以下の通り。3球目のチェンジアップの判定(=下記の図で「3」という数字のついた部分)は、非常にきわどい球だが、「ボール」とした球審ブライアン・オノーラの判定は、正しい。
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - PitchFX Tool

2012年10月28日 WS Game 4 10回表 スクータロ 3球目の判定

このワールドシリーズを捌いたアンパイアには、過去にいろいろひと悶着あったアンパイア、経験が足りないのではと思われるアンパイアが多くいたと思うが、結果的にこのワールドシリーズの判定ぶりについては、クチうるさいサイトの多いアメリカの批評サイトのいくつかが「非常に素晴らしい判定ぶりだった」と高評価したように、判定に問題はなかった。(もちろん低評価を下したサイトがなかったわけではない)

Close Call Sports: Discussions: 2012 World Series

World Series: After Video Review, Umpire Crew Perfect in San Francisco Games | Bleacher Report

3球目のきわどいチェンジアップを見逃され、後がなくなったフィル・コークは、4球目の「振ってくれればもうけもの」といえる、アウトコースに外れる4シームもスクータロに見逃されて、カウントを3-1にしてしまい、5球目は、4球目とほぼ同じコースに、同じ4シームを投げた。
2死2塁で、1塁が空いていただけに、おそらくここは「フォアボールでもしかたがない」という気持ちで投げたボール球だったのかもしれない。
だが、よくこのブログでいっている「同じコースに、同じ球種を続けて投げ続けると、徐々に内側に寄っていく」という原則どおり、5球目の4シームは4球目より内側に寄ってしまい、アウトコースだけを待っていたスクータロに狙い通り流し打ちされてしまい、これが決勝タイムリーとなってしまう。




スクータロがこの「5球目のボール球のストレート」を打って右中間方向に打球を飛ばしたことが、ただの偶然か、そうでないかは、ここまで書いてきたことでわかるはずだ。
ワールドシリーズ前にBaseball Analysticsが指摘したように、アウトコースを狙っているスクータロに「あえてアウトコースを投げる」なら、「ヒットにできそうにないほど、遠いところに投げておくしかなかった」のである。

逆に、スクータロ側から言えば、代役クローザーのフィル・コークの「持ち球の少なさ」からして、3-1と打者有利なカウントにもちこんでから待つのは「ピッチャーの得意球種のストレート」あるいは「自分の得意コースのアウトコース」に絞っていたはずだ。

フィル・コークは、4球目か5球目で、Baseball Analysticsがスクータロについてスカウティングしたとおり、インコースにストレートを投げこんでいれば、それが多少甘いコースであっても、「インコースとストレートを見逃す癖のあるスクータロ」は、スイングしてこなかったのではないか、と思う。また、4球目に、3球目に続けてチェンジアップを投げていたとしても、たぶんスクータロはスイングしてこなかったように思う。
いずれにしても、フィル・コークはスクータロを追い込むチャンスを「自分から逃した」のである。

結局のところ、スクータロに決勝タイムリーを打たれたフィル・コークの配球の何がいけなかったのかといえば、フィル・コークの配球が、「自分本位」であり、「相手が何を待っているかで、次の球を決めている」のではないからだ。
彼は基本的に、他の大多数のピッチャーと同じように、「自分の投げたい球を投げているだけ」だ。

これが、後で書くミゲル・カブレラを見逃し三振に切ってとれたセルジオ・ロモとの大きな違いだ。
サンフランシスコのピッチャーは、「相手バッターが何を待って打席に入っているか」を基本的に頭に入れて投げていて、そのことがサンフランシスコをワールドチャンピオンにした



「裏をかいた」セルジオ・ロモのストレート

2012年10月28日 WS Game 4 10回裏 ミゲル・カブレラ 三振2012年10月28日
WS Game 4 10回裏
ミゲル・カブレラ 三振


見ればわかることなので、簡単に書く。

セルジオ・ロモは、スライダーを中心に配球してくるタイプのクローザーであることは、誰でもわかっている。
3球のうち2球が、77マイルちょっとの遅いスライダーで、あとは、87マイルのシンカーと、同じ87マイルの4シーム。チェンジアップも投げられないこともないが、スライダー以外の球種といえば、基本的にはストレートで、シンカーを少し混ぜる程度だ。(とはいえ、シンカーと4シームの球速が同じであることは、ロモのピッチングの要点のひとつなのだが)
Sergio Romo » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball


10回表。

先頭はインコースしか待っていないのがわかりきっているワンパターンな右打者、オースティン・ジャクソン
ロモは、ジャクソンの苦手なアウトコースへ、得意のスライダー4連投。軽々と空振り三振。
ALCSでヤンキースがあれほど手こずったジャクソンは、実はこんなに簡単に三振がとれる「スカウティングしやすいバッター」なのである。サンフランシスコにとって、ジャクソンはまったくの「安全パイ」だったわけだが、むしろこの程度のバッターに手こずってしまうヤンキースの「スカウティングの無さ」が悪い。

2人目は、左のドン・ケリー。アウトコース低めに4シームとスライダーを集めるだけの「簡単なお仕事」で、空振り三振。


問題は、3人目のミゲル・カブレラだ。
右のスライダーピッチャー、ロモが右バッターを攻める定番の配球で、アウトコース低めのスライダーばかり5連投して、カウント2-2。
5球目のスライダーをファウルできるあたりが、カブレラだ。やはりアウトコースが穴だらけのオースティン・ジャクソンと違って、コースにほとんど穴がなく、右にもホームランが打てるミゲル・カブレラは、スライダー連投だけで空振り三振してくれるほど、甘くない。

ここで、ロモが投げたのが、
ハーフハイトの4シーム



球速はたったの89マイル。
データ的にはややアウトコース寄りだが、見た目の印象としては「真ん中」に投げているに見える。度胸が据わっているとしかいいようがない。



カブレラ、なんと見逃し三振。
彼はスライダーが来ると思っていたのだ。
ゲームセット。


いうまでもなくカブレラは
セルジオ・ロモの得意球種である「スライダー」に備えていた。


もう一度書いておこう。

2012年のシーズンは、「自分の打ちたい球」「自分の投げたい球」しか考えられないチームがなすすべもなく負け、「対戦相手が何をやりたがっているのか」を考える能力のあったチームが最後までしぶとく勝ち残った。


damejima at 15:35

November 07, 2012

プリンス・フィルダーが2012ポストシーズンで完璧に抑えこまれたこと(そして打順を変更しなかったこと)は、デトロイトの得点力を著しく下げ、ワールドシリーズ制覇を逃す主原因のひとつになったわけだが、ブログ主はフィルダーがまったく打てなかった原因を、「単なる一時的な不調のせい」だとは、まったく思わない。

フィルダーが打てなかった原因は、ハッキリしている。
スカウティングだ。

もっと言うなら、
「アウトコースにおけるフィルダー攻略パターンの発見」、具体的には「バックドアの変化球、特にチェンジアップの使い方」だ。

問題なのは、フィルダー攻略パターンをすべてのチームが発見できたわけではないことだ。実際のゲームで活用できたのは、あくまで「オークランド、サンフランシスコなど、ごく一部のチームだけ」だ。
(この攻略パターンは、来年のレギュラーシーズンでもまだ多少は有効だろうから、やがて他チームにも拡散していくだろう。来年のフィルダーの打撃成績に少なからず影響を及ぼすのは間違いない)



2012ポストシーズンのフィルダーがアウトコースのボール球に手を出しまくって大失敗したことは、例のBaseball Analysticsも指摘している。
Prince Fielder's Tough World Series - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

いつものことだが、彼らの指摘は、基本的な着眼点はいい。
だが、残念ながら彼らの記事の指摘は、単純に「フィルダーがポストシーズンにアウトコースのボール球に手を出し続けていた」という単純な事実の指摘であって、「ディテール」と「ストーリー」と「配球についての具体性な指摘」のどれもが欠けている。それだけに、内容がなく、つまらない。また、配球のディテールが全く語られていないのも、いただけない。
いったい、この「フィルダーへの徹底したアウトコース攻め」が、いつ、どのチームで始まってたのか、そして、それが他のチームにどういう形で受け継がれ、修正されたのか、そういう「流れ」がまったく明らかになっていないから、面白くない。

また、正確さにも欠けている。フィルダーのスイングした球のデータだけ見ると、あたかもフィルダーが「外にはずれたボール球ばかり手を出しまくった」かのように思えてしまうと思うが、実際には、必ずしもボールになる球ばかり振り回したわけではない。

考えてもみてほしい。
配球として、あのフィルダーに、ただただアウトコースだけを連続して投げ続けていれば、うちとれるだろうか?
いやいや。ヤンキースのラッセル・マーティンの「アウトコース・オンリー・ビビりまくり配球」じゃあるまいし、そんな子供だましの単純なアウトコース攻めだけで、フィルダーのバッティングの調子を根底から崩壊させるところまで追い込めるわけがない。



レギュラーシーズンのフィルダーの得意球種、得意コースを具体的に調べてもらうと、面白いことがわかると思う。
なぜなら、フィルダーはそもそもアウトコースが苦手どころか、むしろ「アウトコース、特に『高め』が大得意なバッター」であること、そして、むしろ過去のデータでみるかぎり、ポストシーズンにあれほど凡退しまくった「チェンジアップが最も得意な球種のひとつ」であることがわかるからだ。
例えば「チェンジアップ」だが、フィルダーは2012レギュラーシーズンに、SLG.563と打ちこなしている。(注:SLG=長打率という指標は根本的な誤りのあるデータだ。だが元資料である下記の記事が使っているために、しかたなく使った)
Prince's Power Outage - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics


フィルダーの得意コースであるはずのアウトコース、得意球種のチェンジアップなのに、なぜオークランドやサンフランシスコは彼を抑え込むことができたのか。ここが明確にならないと、野球を観る本当の楽しみは無い。

このブログの経験値として言えば、「フィルダーが、他チームの巧妙なアウトコース攻めに屈した」という話についてはもちろん賛成するが、だからといってフィルダー攻略のディテールについては、「単純なアウトコース配球で攻略できたわけではない」ことを指摘しておきたい。



最初に「フィルダー攻略パターン」を見つけたのは、たぶんレギュラーシーズン終盤に躍進を遂げ、ついに地区優勝にまで成功した知将ボブ・メルビン率いるオークランド・アスレティックスだろう、と思っている。

今シーズンからア・リーグに移籍してきたフィルダーには、ア・リーグのチームとの対戦データが多くないし、大半のチームが打率.280以上打たれているわけだが、それでも、フィルダーを完璧に抑えこむことに成功したチームが、ひとつだけある。

オークランド・アスレティックスだ。

対戦したほとんどのチームに対する打率が.280以上あるフィルダーが、1割を切るほど徹底的に抑えこまれた対戦相手は、このオークランド以外にない。

対オークランド戦(7ゲームの打率)
.074
Prince Fielder 2012 Batting Splits - Baseball-Reference.com


10月初旬のオークランド×デトロイト戦。
オークランド先発のジャロッド・パーカーが、フィルダーの好きなアウトコース高め、おまけに彼の好きなチェンジアップを投げて、セカンドポップフライに凡退させることに成功した。しつこく言うが、フィルダーは、「アウトコース高め」も、「チェンジアップ」も得意なバッターだ。

2012年10月6日レギュラーシーズン OAKパーカーvsDETフィルダー


ミゲル・カブレラは、たとえ好きなコースや好きな球種が来ても、それがボールならスイングせずに我慢できるし、また、苦手コースや苦手球種でもライト方向にヒットやホームランにできるとか、とにかく柔軟な対応力をもった天才だ。
だが、ジョシュ・ハミルトンカーティス・グランダーソンには、それができない。自分の好きなコース、好きな球種を待っているだけ。だからスカウティングされやすい。
Damejima's HARDBALL:2012年10月6日、オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。

Damejima's HARDBALL:2012年11月2日、2012オクトーバー・ブック 「スカウティング格差」が決め手だった2012ポストシーズン。グランダーソンをホームランバッターに押し上げた「極端なストレート狙い」が通用しなくなった理由。



フィルダーのバッティングは、あらゆる方向に打球を打てるミゲル・カブレラとは、まったく違う。
フィルダーはむしろ、「好きなインコースにボールが来ると、それがたとえ狙い続けているストレートではなく変化球であっても、必ず手を出してしまい、空振り三振しまくるカーティス・グランダーソン」に、よっぽど近い。フィルダーは、好きな食べ物を出されれば、思わず手を出してしまう、そういうバッターだ。
「アウトコース」「チェンジアップ」と、目の前に好物を並べられたフィルダーは、それがたとえボール球のアウトコースでも、ボール球のチェンジアップでも、やすやすと振り回してしまう
フィルダーが、アウトコース、チェンジアップに我慢できるバッターではないこと」、これが「オークランドの発見したフィルダーの弱点のひとつ」だ。(弱点は他にもある)


この「フィルダーが思わず手を出してしまう配球パターン」は、ポストシーズンでフル活用された。まずは以下のALDSオークランド×デトロイト戦の3打席の凡退ぶりを見てもらおう。

2012年10月10日ALDS Game4 AJグリフィンvsフィルダー2012年10月10日
ALDS Game4
AJグリフィンvsフィルダー

2012年10月10日ALDS Game5 スクリブナーvsフィルダー2012年10月10日
ALDS Game5
スクリブナーvsフィルダー

2012年10月11日ALDS Game5 パーカーvsフィルダー2012年10月11日
ALDS Game5
パーカーvsフィルダー


オークランドのフィルダー対策をまとめると、基本的には以下のとおり。まずインコースを「見せて」おいて、のちのちのアウトコース攻めを効果的にするあたりが、石橋を叩いて渡る「慎重派」のオークランドらしさを感じさせる
慎重なオークランド流フィルダー対策

1)まずインコースを見せる。アウトコースを待っているフィルダーは、振ってこない。(フィニッシュのアウトコースの球をより効果的するための布石)
2)外に、ストライクになる「バックドア・チェンジアップ」。カウントを追い込む。(フィルダーはカウント0-2からの打率が他のスラッガーと比べても極端に悪い。追い込まれるとまったく打てなくなるタイプ)
3)フィニッシュ


このオークランド流に始まったフィルダー攻略は、サンフランシスコが進化させ、ワールドシリーズでの遠慮のないサンフランシスコ流のアウトコース攻めとして完成する。
下記に見るように、サンフランシスコ流のフィルダー対策では、慎重なオークランド流の配球では存在していた「インコースの見せ球」すら消えて、コントロールのいい右投手がズラリと揃ったサンフランシスコらしく、徹底したアウトコース攻めのみによって、フィルダーを軽々と空振り三振させてしまうことができるようになった。
サンフランシスコの攻略パターンが成功をおさめたについては、もちろんオークランドに抑え込まれたというフィルダーのトラウマが背景にある。オークランドがフィルダーにある種の「アウトコース・トラウマ」を植え付けることに成功したことで、サンフランシスコはオークランドの攻略パターンをバージョンアップし、さらに深いトラウマに上書きした。

それにしてもサンフランシスコのバッテリーは、まったくたいしたコントロールと度胸を兼ね備えている。なんというか、バッテリーの「格」が、他チームと何ランクか違っている。
だからこそ、ワールドシリーズ終了時に、ポストシーズンのMVPはバスター・ポージーだ、とツイートしたのである。



サンフランシスコ流フィルダー対策

1)アウトコースの同じコースに、ストレートと「バックドア・スライダー」を連投、ストライクを容赦なく続けて2つとる。
この「同じコースへのストレート・スライダー連投パターン」は、以前指摘した「ストレートとカーブを同じコースに続けて投げる配球パターン」のバリエーションだ。
Damejima's HARDBALL:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」

2)アウトコース低めに、ボールになるチェンジアップを、「見せ球として」投げる。
オークランドの投手はこの球をフィルダーのアウトコースいっぱいに投げこんでいたが、サンフランシスコはボールゾーンで見せ球として使った。もちろん、この球にフィルダーが手を出して空振り三振することも多々ある。(下記に挙げたWS Game 3でリンスカムが奪った空振り三球三振が典型例)

3)アウトコース一杯のストレートで勝負。
外のチェンジアップを我慢したフィルダーの筋肉は、既に硬直してしまっており、アウトコースと「頭では」わかっていても、「カラダは動かない」。あっさり見逃し三振。
これこそ『硬い筋肉』、『硬いカラダ』が裏目に出る瞬間だ。


2012年10月27日 WS Game3 ボーグルソンvsフィルダー2012年10月27日
WS Game3
ボーグルソンvsフィルダー


2012年10月27日 WS Game3 リンスカムvsフィルダー2012年10月27日
WS Game3
リンスカムvsフィルダー


2012年10月28日 WS Game4 マット・ケインvsフィルダー2012年10月28日
WS Game4
マット・ケインvsフィルダー



「インコースのストレート」をただひたすら待っているグランダーソンに、インコースの変化球を投げて。スイングを誘って空振り三振させまくるのが、「グランダーソン・パターン」だったわけだが、アウトコースを待っているフィルダーの場合は、好きなチェンジアップを、好きなアウトコース高めよりも低く、なおかつ、ちょっとだけ外のボールゾーンにわざと投げることで空振りさせることができる。(フィルダーにはアウトコース高めのボールゾーンに投げても、同じ効果がある)
「フィルダー・パターン」のほうが、ちょっとだけグランダーソン・パターンより手がこんでいる。だが、基本発想はほとんど変わらない。

ヤンキースがポストシーズンで手を焼いたデトロイトの1番打者オースティン・ジャクソンも、好きなインコースをひたすら待っているだけのワンパターンなバッターなのはわかりきっていた。だから、ワールドシリーズでサンフランシスコは、ジャクソンのアウトコースだけをひたすら攻めまくって、ジャクソンにまったく活躍の場所を与えなかった。簡単なことだ。

いずれにしても、自分の好きなコース、自分の好きな球種だけをひたすら待ってホームラン、長打にしようとする「フリースインガー系スラッガー」にこそ、攻略パターンの発見は容易だし、効果もびっくりするほど絶大で、しかも長続きする、ということだ。

damejima at 04:38

November 03, 2012

インターネット全盛のこの時代、MLB関係のメディアやウェブサイトには、どこもデータがてんこもりだ。そして、MLBのチーム運営においても、実際のゲームにおいても、あらゆるデータが「どこのチームでも」「正確に」生かされ、役に立っている、と、思われがちだ。(それでも日本よりはるかにマシなのは確かだが)

だが実際には、「MLBではデータが十二分に活用されている」というのは、全体としては正しいが、細部では間違っている
例えば、「チーム間のスカウティング格差」は確実に存在する。


データ全盛時代だからこそ、かえって必要になることがある。
例えば、どこの誰が本当に信頼できるデータを提示してくれていて、どこの誰がそれを有効に活用できているかを、正確に知ることも、そのひとつだ。

ファンの利用するデータサイトですら、信頼できないデータを平然と掲げているサイトなど、いくらでもある。
また、たとえMLBであっても、実際のプレーにデータがまるで生かされていないチームが、いくらでもある。それは、そのチームがセイバーメトリクスを採用しているかどうかとは、まったく関係ない。それに、セイバーだけがデータ活用手法ではない。


例えば、ファン向けのデータサイトで、データがてんこもりになっていたとしても、そのデータが必ずしも信用できるとは限らない。「サイトごとのデータの精度」には、いまや大きな「格差」が生まれていると思わなければならない。

例えば先日の記事で検証した「Hot Zone」。
Damejima's HARDBALL:2012年10月6日、オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。
ジョシュ・ハミルトンに関する自分の経験値を判断基準に記事を書いて、いくつかのサイトを検証してみたが、あの例でもわかるとおり、FoxやGamedayのHot Zoneはアテにはできない。そして、Baseball AnalyticsのHot Zoneは、「自分の経験値に非常に近い」という意味で、信頼性が高い。
ハミルトンの実際のバッティング結果とデータを照らし合わせてみても、どのコースを攻めたバッテリーがハミルトンを抑え込むことに成功し、どのコースを攻めたバッテリーが打たれているか、ちょっと確かめれば、この「自分の経験値を元にしたHot Zoneの精度の判定」がほぼ間違っていないことは確かめられている。

ハミルトンはこのオフにFAになるわけだが、ブログ主が「もしスカウティングが得意なチームなら、この選手に超高額の長期契約オファーを出すわけがない」「この選手に超高額オファーを出すのは、ポストシーズンに弱い勝負弱いチームだけ」と判断する理由は簡単だ。この選手が「穴のハッキリしている打者」であり、また「打席で抑え込むのは、それほど難しくない打者」であることは、Hot Zoneのようなささいなデータから見ても、ハッキリしているからだ。


また「打者に対するスカウティング格差」を例にとれば、すべてのチームが、同レベル、同じように高いレベルで、打者をスカウティングし、ピッチャーの配球が決定されているわけではない

ひとつには、あらゆる投手に、スカウティングどおり投げられるだけの能力が存在するわけがない、ということもある。(むしろ、大半のピッチャーは、主にコントロールが悪いせいで、行き当たりばったりに、パワーまかせの投球をする。パワーだけのピッチャーなど、MLBには掃いて捨てるほどいる)
ただ、そういう既に誰もがわかっている投手のコントロールの無さという問題より重要なのは、チームごとに存在する「スカウティング格差」の問題だ。


「チームごとのスカウティング格差」は、2012年ポストシーズンでは特にハッキリした。
たくさんのチームを分析しなければならないレギュラーシーズンと違って、ポストシーズンはスカウティング対象が狭いわけだから、より細かく分析できるし、短期決戦はスカウティングの重要度は高い。スカウティングが勝敗を決するといっても過言ではない。
あっけなく敗れ去ったチーム(ヤンキースなど)と、シーズン終盤に躍進したチーム(オークランド、ボルチモアなど)や、最終的にワールドシリーズに勝ったサンフランシスコの間には、びっくりするほどの情報利用の上手下手、つまり「スカウティング格差」があるはずだ。(そのことはこの『オクトーバー・ブック』でさらに書いていく予定)



カーティス・グランダーソンを例に挙げてみよう。

ブログ注:以下、誤解しないでもらいたいのは、ブログ主にとってグランダーソンは今もブログ主のお気に入りの選手である。なにもこの記事で彼をおとしめたいと思っているわけではない。イチローやミゲル・カブレラにも不得意な球種やコースというものは存在する。ただ、バッティングが単調で、スカウティングされやすく、バッティングの「穴」が既に分析されてしまっているグランダーソンに高額契約を提示することには、まったく賛成できない。


グランダーソンは、自分の経験値として言うと、常に「インハイのストレート」を狙ってフルスイングしているバッターだ。アウトコースを狙っている、というイメージは無い。


この「グランダーソンの執拗なインコースのストレート狙い」は、例のBaseball Analyticsを調べてみると、やはり予想どおり2011年8月19日に記事として取り上げられていて、内容はブログ主の「経験値」とまったく一致している。
Curtis Granderson Dominating the Fastball - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

グランダーソンのストレート打撃成績(2009-2011)

グランダーソンの年度別得意コース



ただ、念のため指摘しておきたい点が、ひとつある。
Baseball Analyticsは、同じ年、2011年5月14日付で書いた以下の記事において、グランダーソンは、「インコース狙い」ではなくて、「アウトコース高めの球を引っ張ることでホームランにしている」と、分析していることだ。

2011年5月時点のグランダーソンのホームランゾーン2011年5月時点でBaseball Analyticsの指摘したグランダーソンのホームランゾーンは「アウトコース高め」
Granderson's Home Run Surge - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics


こういう「不整合」が起きる原因は、たぶん簡単なことだろう。それは、Baseball Analyticsが、「データのみに依拠して記事を書いているから」だ。それは、この優れたサイトの「良さ」であると同時に、決定的な欠点でもある。

おそらくグランダーソンは、2011シーズン当初の1ヶ月くらいの間に限って「アウトコース高め」を何本かホームランにしたのだろう。
だから、優れた観察眼と見識を持っているBaseball Analyticsといえども、彼らに「データのみに従う」というポリシーがあるだけに、かえって、「アウトコース高めを事実打っている」という、わずか1ヶ月間の短期間の「未確定の事実」にとらわれてしまうことになるわけだ。
1ヶ月程度の短いデータをもとに書かれた記事に、信憑性はない。優秀なBaseball Analyticsですら、あたかもグランダーソンが「アウトコースが得意である」というような「必ずしも正確でない記事」を書いてしまうのだから、いくら優秀なサイトといえど、そのすべてが信用できるわけではない。

短期間のデータをもとに記事を書いたことで判断ミスが起きたといえる証拠に、Baseball Analyticsは、2011シーズンが半分ほど過ぎた2011年8月中頃の記事では、グランダーソンが狙っているのは「アウトコース」ではなく、「インコースのストレート」と、判断を変更している。(もちろん判断の変更は潔し、といえる)


2012年のレギュラーシーズンとポストシーズンにおけるグランダーソンの「狙い」は、データで全てを確かめたわけでもなんでもないが、自分の経験値として言えば、2011シーズンとまったく同じで、「なにがなんでもインコースのストレートをホームランにすること」だった、と考えている。


このグランダーソンの「徹底したストレート狙い」が始まったのは、どうやら2011年のようだ。
グランダーソンのバッティングがデトロイト時代とはまるで違うものになった理由については、ヤンキースのバッティング・コーチ、ケビン・ロングの指導によるものという解説が、2011年を中心にESPNやNY Timesをはじめとする数多くのアメリカのメディアでなされてきた。
New York Yankees' Curtis Granderson using lessons learned from Kevin Long - ESPN New York

Curtis Granderson made a wise choice by approaching hitting coach Kevin Long in 2010 - MLB - Yahoo! Sports

Curtis Granderson's thank you to Kevin Long - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

Baseball-All-Starlytics: Curtis Granderson: What a difference a year makes - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

ちなみに、2012ポストシーズンが終わって、当のKevin Longが、シーズン終盤のグランダーソンの絶不調について何と説明したかというと、"Yankees batting coach Kevin Long said Curtis Granderson’s feeble postseason might have been because of a lack of confidence." (Kevin Long, New York Yankees batting coach, says Curtis Granderson bad postseason might have been because of a lack of confidence - NYPOST.com)、つまり「自信喪失」だと言っていうのだから、説明になってないし、無責任な話だと思う。


さて、このグランダーソンの「執拗なストレート狙い」だが、2012年後半にはすっかり大半の対戦チームのバッテリーに知れ渡っていた

それが証拠に、2012年シーズン終盤にヤンキース対戦チームのほとんどのバッテリーは、グランダーソンを外の変化球などで追い込んでおいて(というのも、インコース狙いに徹しているグランダーソンには外のストライクをマトモにヒットできるわけがないからだ)、最期は「インコース低め」に縦に変化する球を投げて、グランダーソンをそれこそ「好きなだけ」空振り三振させることに成功していた。
そんなわけでグランダーソンは、このブログでさんざん批判してきた「低打率のホームランバッター」に成り下がっていった。



だが、逆にいえば、なぜこれだけあからさまな「ストレート狙い」のグランダーソンが、たとえ一時的にせよ大成功してホームランを量産し、ヤンキースでの生き残りに成功したのか?
それは、グランダーソンがこれほどあからさますぎるストレート狙いに徹しているというのに、グランダーソンに、その「ストレート」を投げまくってくれる、ありがたい無能なバッテリーが数多く存在するからだ。単純な話だ。


その「グランダーソンにストレートを投げまくってくれる、ありがたいチーム」のひとつ、それが、ボストンだ。
今季のボストンは本当に「甘ったれた、なまぬるい」チームだった。
このグランダーソンに限らず、そのバッターの得意コース、得意球種をわざわざ投げてくれるくらいのことは、朝飯前だった。不振だったタンパベイのアップトンにヒットを供給しまくったのも、ボストンだ。(以下の記事参照)
Damejima's HARDBALL:2012年9月17日 アウトコースのスライダーで空振り三振するのがわかりきっているBJアップトンに、わざわざ真ん中の球を投げて3安打させるボストンの「甘さ」


グランダーソンは地区優勝とポストシーズン争いの両方がかかった9月以降のあの大事な時期に、9本のホームランを打っていながら、8月の打率.196に続いて打率.214という極端な低打率の状態で、それでもしつこくホームランだけを狙い続けていたわけだが、その9本のホームランのうち、5本ものホームランをボストンから打っている
というか、セイバーメトリクスの総本山だかなんだか知らないが、他のチームが楽々空振り三振させまくっているグランダーソンに、「5本ものホームランを供給したチーム」のスカウティング能力が高いわけがない。(ホームラン供給源は他に、ミネソタ、タンパベイなど) 今シーズンのボストンが、いかに大雑把で気の抜けた野球をしていたか、この事実からハッキリわかる。


典型的な例を挙げておこう。
10月1日のNYY×BOSのクレイ・バックホルツだ。

カットボール、カーブ、スプリッターと、変化球を続けて、カウント1-2と、典型的な形でグランダーソンを追い込んだにもかかわらず、バックホルツはここでグランダーソンに「インコースのストレート」を投げて、2ランホームランを浴びている。

呆れるほど頭を使っていない。
ここは右投手のバックホルツなら、グランダーソンのインコース低めにスライダーかカーブでも投げこんでおけば、キャッチャーがスプリッターを後逸するような心配もなく、いとも簡単に空振り三振がとれている。間違いない。

ちなみに、ボストンでは、アーロン・クック松坂などが、9月のグランダーソンに鬼門のストレートを投げてホームランを打たれている。

2012年10月1日2回裏バックホルツのグランダーソンへのストレート失投Boston Red Sox at New York Yankees - October 1, 2012 | MLB.com Classic


このグランダーソンの「ストレート狙い」だけでなく、自分の狙い球だけを狙って打席に入っている「低打率のホームランバッター」は、他にもたくさんいる。(ハミルトンの「インコース狙い」、ケビン・ユーキリスの「アウトコース狙い」)
Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。

そしてそういう「狙い球を決め打ちしてくる打者」に対してすら、何も考えずに、その打者の得意球種、得意コースを投げてしまう、馬鹿げたバッテリー、馬鹿げたチームというのもまた、馬鹿馬鹿しいほど多く存在している
また、ピンチになると、アウトコース低めさえ投げておけばなんとかなると思いこんでいるラッセル・マーティンのように、スカウティング能力も無ければ、度胸も無いバッテリー、そういう、このブログで分析する価値のまったく無いバッテリーも、数多く存在している。

かたや、その打者の得意球種、得意コースをしっかり頭に入れ、デトロイトはじめ、対戦相手を好きなように牛耳ることに成功したサンフランシスコのようなチームもある。

これが、2012年のポストシーズンのコントラストを決めた「スカウティング格差」だ。


ちなみに、スカウティング上手のサンフランシスコだが、そのサンフランシスコですら、スカウティングミスといえる失投が複数ある。

2012年10月28日3回裏マットケイン ミゲル・カブレラへの失投2012WS Game 4
カブレラの最も得意とするのは、「インロー」。ミゲル・カブレラが2012ワールドシリーズで打った唯一のホームランも、「インロー」で、マット・ケインの失投。この天才バッターにインコース低めを投げるのは、ある種の自殺行為だ。Game 1でバリー・ジトがカブレラに打たれたタイムリーも、「インロー」。


ここから『オクトーバー・ブック』では、ポストシーズンのプリンス・フィルダーの不振の原因、イチローがデトロイトのクローザー、ホセ・バルベルデから打った2ランホームラン、WS Game 4でマルコ・スクータロフィル・コークから打った決勝タイムリー、同じくWS Game 4でセルジオ・ロモミゲル・カブレラから奪った三振の素晴らしい配球などについて、それぞれの現象と現象の繋がりをつけながら書いていく予定。

damejima at 09:44

June 02, 2012

ノーヒット・ノーラン達成の歓声に応えるヨハン・サンタナ

メッツのヨハン・サンタナが、セントルイス相手にノーヒット・ノーラン達成。これは1962年のメッツ創設以来、半世紀を経て、初の快挙 (8020試合での達成)
これまでメッツでは、1975年にメッツ在籍時のトム・シーバーがノーヒットを維持したまま9回まで行ったことはあったらしいが、そのときは達成できなかった。 (その後トム・シーバーは1978年に、メッツでなくシンシナティでノーヒット・ノーラン達成。奇しくも、サンタナと同じセントルイス戦)

動画(MLB公式):St. Louis Cardinals at New York Mets - June 1, 2012 | MLB.com Video

St. Louis Cardinals at New York Mets - June 1, 2012 | MLB.com Wrap

サンタナの快挙は、長い長い怪我での休養から復帰して、4シームが88マイルしか出ない中、4シームとパラシュート・チェンジアップを駆使して134球もの球数を投げる中での偉業であり、心からおめでとうと言いたい。
この歴史的なゲームを見ていた人はわかったと思うが、この快挙は、ゲーム終盤、右バッターのインコースを果敢に攻めまくった結果だ。

やはり、バッターから逃げていては、快挙は達成できない。

ESPNのジェイソン・スタークによれば、134球でのノーヒット・ノーラン達成は、2010年6月25日タンパベイ戦で達成したアリゾナのエドウィン・ジャクソンの149球に次いで、史上2番目の球数の多さらしい。
June 25, 2010 Arizona Diamondbacks at Tampa Bay Rays Play by Play and Box Score - Baseball-Reference.com



この「134球を投げてのノーヒット・ノーラン達成」という球数の多さが、いかにヨハン・サンタナが故障に苦しんできたかという証でもあるだけに、かえって「誇らしい数字」と、彼の偉業をたたえたくなる。

サンタナは、もともとジャスティン・バーランダーのような100マイルを投げられる速球派ではなく、4シームとチェンジアップの緩急でかわしていくタイプだが、それでも、サイ・ヤング賞を2度獲ったミネソタ時代には93マイル程度のスピードボールは投げていた。
だが、メッツ移籍以降は、膝、肘、肩と、絶え間ない故障に悩まされて、2011年などは一度も投げられず、このゲームでも、4シームのスピードは88マイルしかなかった。

それだけに、今回の快挙には涙が出る。



ニューヨーク・メッツ創設は、1962年。
既に書いたように、例の「1958年のドジャースとジャイアンツ西海岸移転」で、ニューヨークに存在する球団がヤンキースだけになってしまったとき、急遽つくられた球団だ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:「1958年の西海岸」 特別な年、特別な場所。

メッツ創設に尽力したのは、弁護士ウィリアム・A・シェイで、1964年に本拠地ができたときには、シェイ・スタジアムと、彼の名前がつけられた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年3月21日、1958年ドジャース、ジャイアンツ西海岸移転に始まる「ボールパーク・ドミノ」  (3)キャンドルスティック・パーク、ドジャー・スタジアム、シェイ・スタジアムの開場
メッツのチームカラーのうち、青はドジャース、黒とオレンジはジャイアンツのチームカラーから取った、という有名なエピソードも、要するに、「ニューヨークから去ったドジャースとジャイアンツのファンを、新球団メッツのファン層として取り込みたいというマーケティング的な思惑」からきたものだ。

1962年の創設以降、しばらくお荷物球団と言われたメッツだが、ミラクルメッツと呼ばれるようになったのは、1967年に入団し1977年まで在籍、メッツでサイ・ヤング賞を3回も受賞した殿堂入り右腕トム・シーバーや、シーバーと同じ67年に入団し78年まで在籍した左腕ジェリー・クーズマンの活躍による。

トム・シーバーは、1978年6月16日に、ヨハン・サンタナと同じセントルイス戦でキャリア唯一のノーヒットノーランを達成しているが、このときシーバーは1977年に移籍していたシンシナティの所属選手で、メッツでの達成ではない。
(ちなみに、トム・シーバーがノーヒッター達成した時のシンシナティのラインナップは、1番ピート・ローズ、2番ケン・グリフィー・シニア、3番ジョー・モーガン、など、錚々たる顔ぶれ)
June 16, 1978 St. Louis Cardinals at Cincinnati Reds Play by Play and Box Score - Baseball-Reference.com


怪我を乗り越え、88マイルしか出ないスピードボールとチェンジアップだけで達成したノーヒット・ノーラン。

ヨハン・サンタナに心からの拍手を贈りたい。

damejima at 12:29

October 26, 2010

2010WS ESPN ファンの優勝予想

2010ワールドシリーズいまESPNのサイトでは、2010ワールドシリーズの結果予想の投票を行っているのだが、その経過を見ると、これが見事に「東西を2分する結果」になっているのが面白い。
東海岸で、テキサスの優勝を予想していないのは、ディヴィジョンシリーズでテキサスに圧倒されてあっけなく敗れ去ったヤンキースの本拠地ニューヨーク州だというのも、ちょっと苦笑いさせられた(笑)
2010 World Series: Texas Rangers vs. San Francisco Giants - MLB Playoffs - ESPN



20世紀初頭のニューヨークにあった、あのポロ・グラウンズを本拠地にしていたジャイアンツが、グラウンドを貸していた店子(たなこ)のヤンキースに、フランチャイズのニューヨークを奪われるような形で西海岸に移転することになったいきさつについては、一度ちらっと書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月25日、セーフコ、カムデンヤーズと、ヤンキースタジアムを比較して、1920年代のポロ・グラウンズとベーブ・ルースに始まり、新旧2つのヤンキースタジアムにも継承された「ポール際のホームランの伝統」を考える。

一方で、レンジャーズは、もともとワシントンD.C.にあった(ワシントン・セネタース)。
だからこんどのワールドシリーズは、もともと東海岸にあった2チームの対戦になった。ブログ主としてはクリフ・リーのいるテキサスを応援している。と、いうのも、なんとなくフィラデルフィアとサンフランシスコのNLCSのときの、ジャイアンツの選手たちの印象がよくなかった。

2000年代以前のストライクゾーンに近いアウトコースのコールをすることで知られるJeff Nelsonが審判団に加わっていたせいか、きわどい球に対するアンパイアの判定が不安定すぎることに端を発して、両チームの間はいつになく不穏な雰囲気が漂ったままのNLCSだった。
パット・バレルが温厚なロイ・ハラデイに怒鳴り散らした事件は、当然ながら、今でもあれは退場にすべきだったと思っているし、またチェイス・アトリーが出塁したときにもジャイアンツ側のプレーヤーがイチャモンをつけたことで、両チームが揉めかけるなど、あちらこちらから選手を寄せ集めてきた今のジャイアンツにあまりいい印象を持てなかった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。

damejima at 22:03

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  • 2014年10月31日、PARADE !
  • 2013年11月28日、『父親とベースボール』 (9)1920年代における古参の白人移民と新参の白人移民との間の軋轢 ヘンリー・フォード所有のThe Dearborn Independent紙によるレッドソックスオーナーHarry Frazeeへの攻撃の新解釈
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年11月8日、『父親とベースボール』 (8)20世紀初頭にアメリカ社会とMLBが経験した「最初の大衆化」を主導した「外野席の白人移民」の影響力 (付録:ユダヤ系移民史)
  • 2013年6月1日、あまりにも不活性で地味な旧ヤンキースタジアム跡地利用。「スタジアム周辺の駐車場の採算悪化」は、駐車場の供給過剰と料金の高さの問題であり、観客動員の問題ではない。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年7月3日、『父親とベースボール』 (2)南北戦争100年後のアフリカ系アメリカ人の「南部回帰」と「父親不在」、そしてベースボールとの距離感。
  • 2012年6月29日、『父親とベースボール』 (1)星一徹とケン・バーンズに学ぶ 『ベースボールにおける父親の重み』。
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