大谷翔平

2023年6月28日、ハンク・アーロンの「手首」。
2018年8月4日、大谷のイチロー風バッティング。
2018年4月1日、大谷に「一番最初に野球を始めてマウンドに行くときのような気持ち」にさせたマイク・ソーシアはやはり名監督だと思う。

June 29, 2023

ハンク・アーロンの打法の特徴のひとつに、「手首の強さ」があったことは、よく知られている。

では、いったい彼独特の手首の使い方がどうして生まれてきたのか。これについては、ほとんど誰も書いていない。

その「ハンク・アーロンの手首」について、自分なりのひとつの「答え」が見つかった。(以下 (c)damejima)

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先に結論を書いておくと、こうなる。

ハンク・アーロンは最初「クロス・ハンド」、つまり、通常のバットの握り方とは逆の形で、右手を下にしてバットをもっていた。プロになって普通のグリップに変えたが、クロス・ハンドだったときの「右手首の動き」は変えず、そのまま継続した。

だから、アーロンの「手首の使い方」は他に例をみない独特のものになった。


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もう少し詳しく書く。

右打者は、通常なら「右手を上、左手を下」にしてバットをグリップする。だが、初期のアーロンはクロス・ハンドだったから、「右手を下、左手を上」にしてグリップしていた。


この「右手を下に」という点が最も重要だ。

言葉でいくら説明してもわからないと思う。実際にやってみてもらったほうがいい。
野球経験があるか、もしくは野球ファンで、バットが自宅にあるならそれを使うとして、バットを自宅に持っていない人は、ホウキでも金属の棒でも、なんでもいい、ゆっくり振ってみてもらいたい。

もちろん、「左右の手の位置を通常と逆にして」バット(またはホウキ)を振ってみてもらいたい、のである。

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ここからは「アーロンと同じ右打者」の話として、話を進める。左利きの人は、右手左手を逆に読みかえてもらいたい。

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自分でバット(またはホウキ)をゆっくり振って確認してもらいたいのは、「右手首の向き」だ。

アーロンと同じようにクロス・ハンドでグリップし、ゆっくりスイングする。

すると、ここが最も重要な点だが、「バットを振り切って、バットの先端が投手側を向いたとき、右手首が、右手の小指側に曲がる」のである。

右手首がそういう形になる理由はハッキリしている。
左右の手が逆の位置でグリップしているため、「バットを振り切ったとき、右手が左手の下にもぐりこむという現象」が起きて、右手首を右手小指側によほどしっかり折り込まないとスイングそのものができないのである。

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手首が小指側に曲がる」と、言葉でいくら言ってもわかりにくいだろう。なので、以下の画像を見てもらいたい。

これは左バッターの例で、右打ちアーロンとはグリップが逆だが、「バットを振り切ったとき、まっすぐ伸びた腕に対して、アーロンとまったく同じように、手首が小指側に曲がっている」ことがわかる。

手首

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かなり昔、もはや、どのメディアだったかすら覚えていないくらい昔、ハンク・アーロンのバッティング・フォームの分解写真を見た。そのとき最も印象的だったのが、バットを振り切ったときの「手首の向き」だった。

その「独特のカタチ」は脳に焼きついてしまい、以降、一度も忘れたことがない。


だが、なぜその「カタチ」なのか。その「カタチ」でなければならない理由。それがわからないまま現在にまで至ってしまっていた。

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わからなかった理由のひとつは、自分の能力不足以外に、「アーロンに似たスイングを見かけたことがなかった」からでもある。

だが最近、ある野球選手が1試合に2本のホームランを打ったときのスイングを見て、どういうわけか、ピンときた。そのホームランを打った選手のバッティングフォームの原理が理解できたのではない。その選手の「手首の返し方」に似たハンク・アーロンのことを思いだしただけだ。なのにそのとき、どういうわけか、長い間アタマの片隅にあった疑問があっさり氷解したのである。


(追記)
Twitterで、かつてのハンク・アーロンの分解写真が載っているページを教えていただいた。「記憶にある『アーロンの手首』」と同じ曲がりかたである。

アーロンの手首2


damejima at 14:53

August 05, 2018

2016年に、イチローブライス・ハーパーの打撃フォームを比較してこんな記事を書いた。

2016年4月27日、「手打ち」と「イチロー」の違い。MLB通算2943安打にみる今シーズンのイチローのコンタクト率が異常に高い理由。 | Damejima's HARDBALL

イチローとブライス・ハーパー フォーム比較



ブライス・ハーパーの打撃フォームでは、以下の連続写真でわかるように、「カラダがバットと一緒に旋回」している。これは別に珍しいことではない。

ブライス・ハーパーのバッティング・フォーム



こんどは、2018年8月3日に大谷が1試合2ホームランを打ったゲームの「2本めのホームランのフォーム」と、ブライス・ハーパーを比べてみる。

大谷とブライス・ハーパー比較


言わなくてもおわかりだろう。
大谷は「イチロー風」に、「カラダを旋回させずに」スイングしている。ピッチャーはクリーブランドのマイク・クレビンジャーだが、彼が「あっ」と思った瞬間には、実はもう、とっくに「スイングは終わって」いて、ボールは左中間スタンドに一直線に向かっているのである。


ついでだから、イチローと大谷も並べてみる。
両者とも、「カラダがバットと一緒に旋回しない」ことがわかる。

大谷とイチロー比較



ただ、バットに当てた後、ここからが
大谷は、イチローと違う。

大谷のフォロースルー


試合後、マイク・ソーシアが2本めのホームランについて、「まるで右のプルヒッターみたいな打球」とコメントしているが、それは、こと「打球の質」については、まったくそのとおりなのだ。

というのも、2本めのホームランでは、ミート後に「腰が大きく開いて」、バットを振り切ったときには「カラダ全体がセンター方向を向いて」いるほど、カラダが開いているからだ。こういうフォロースルーはイチロー風ではない。
こういう「大きなフォロースルー」や「腰の開き」は、「右のプルヒッターによくありがちな、大きなフォロースルー」だ。
だから、打球の質も「右のプルヒッター風」になる。(こうした大きいフォロースルーは、大谷がMLBに行ってから始まったのではなく、日本でプレーしているときから既にこうだった)


だから、言ってみれば大谷は、「バットに当てるまでは、左打者イチロー風に」、そして、「バットに当ててからは、右のプルヒッター風に」スイングしたのである。なんとも器用な男だ。


本来なら、左バッターの右足は、右バッターの左足より、外旋しにくい。だから、左バッターの打ち方と右バッターの打ち方は違ってくるのが普通だ。右バッターは概して「腰が開きやすい」のに対して、左バッターはそれほど「腰を開かないまま」で打つことができる。


だが、大谷は、「右バッターと左バッターをミックスしたように打つ」ことができるのである。

このことは、大谷のスイングスピードの速さもあって、スローで見ないとわかりにくい。通常の速度でになにげなく見ているだけだと、大谷が右のプルヒッターがよくやるように、大きく腰を開いて打ったように見えるのである。


この「ミックスした打ち方」が、「意図的なもの」であることは、以下の記事の記述から、間違いない。

「試合前のフリー打撃では、早めに始動して右足を着地し、内側からバットを鋭角に振り下ろす動作を繰り返した。」
ソース:大谷に変化する勇気、イチロー式ダッシュ導入2桁弾 - MLB : 日刊スポーツ


ただ、上の記事では、「イチロー風のダッシュ」などと、くだらない点に着目して記事を書いているのだが、そんなことはどうでもいい。
「右足を、打撃フォームの非常に早いタイミングで着地し、スイングを早めに起動して、腰を開かないままバットを振り切っておくこと」が、「イチロー風」なのだ。

damejima at 07:03

April 02, 2018



メジャー初登板の大谷が3ランを打たれたとき、マイク・ソーシアは『ここから抑えれば何も問題ないから』と声をかけ、まだMLBに慣れていない若者を落ち着かせた。

初登板をなんとかホームランの3失点だけで乗りきった大谷が、試合後「野球を始めて、はじめてマウンドに行くときのような気持ち」で楽しかったとコメントしたと聞いて、マイク・ソーシアの「度量」の大きさを感じた。


ソーシアが、『ここから抑えれば何も問題ないから』とあっさり言える理由はハッキリしている。

「ショウヘイ。ウチのチームは、だな。あのマイク・トラウトも、アルバート・プーホールズもいるチームなんだぜ。心配しなくてもヤツラがそのうち逆転してくれるさ。だからオマエは自分の仕事さえしてくれれば、それでいいんだ。』

もっと短く言うなら、
「オマエはひとりで野球やってるわけじゃない。心配すんな。」
ということだ。



「ひとりじゃない」という意味の言葉が「ある特別なタイミング」で耳に入れば、ヒトの傷んだココロを一瞬で救える魔法の言葉になることは、わかる人にはわかると思う。


うがち過ぎの推測かもしれないが、日本にいるときの大谷は、エースでクリーンアップとでもいうような「1人2役」的な立場にあったわけだから、いってみれば、「ひとりで野球やっているような感じ」がぬぐえなかったのではないかと、この話を聞いて思った。

大谷という選手は、他人から「2刀流という自分独自のスタイルばかり追い求めている」とみなされることが、たぶん多い。
けれど、だからといって、彼は「ひとりで野球やりたい」と思って野球をやっているわけでもなければ、「ひとりでできるのが野球というスポーツだと、心の中で思っている」わけでも、おそらくない。

もしかすると、大谷は2刀流がやりたくてアメリカに渡ったばかりではなく、「ひとり野球がつまらなくて」アメリカに渡ったのかもしれないのである。

ならば、マイク・ソーシアに「肩のチカラを抜いて」もらって、長年たまっていた「ひとりで野球やっている感」から「解放」してもらえば、そりゃ野球が楽しいに決まっている。そして、「選手に楽しく野球をやらせることができる監督」は、「指導者として一流」に決まっている。



ちなみに、このオフの話題の中心だった大谷とジャンカルロ・スタントン、どちらがシーズンが進むにつれて成績を残すか、といえば、たぶん大谷のほうだろうと思う。

投手としての大谷は、これからMLBの環境や打者データへの順応がますます進んでいく立場にある。つまり、「のびしろがある」わけだ。
対してスタントンは逆に、2017シーズン前半しか活躍できず後半に大きく失速したアーロン・ジャッジと同じで、これからスカウティング好きなア・リーグ東地区各チームの研究対象になって、「のびしろがどんどんなくなっていく立場」にある。

だから、スタントンが、投手がまだスタントンの十分なデータを得られない春から夏にかけて、あの狭いヤンキースタジアムのホームゲームでいくらホームランを量産したとしても、それは単に「想定内」の出来事にすぎない。
他方、投手・大谷が春先に打たれる場面が多くみられたとしても、それもまた想定内の出来事にすぎない。いくらオークランドの新人君たちが「オオタニからホームランを量産できる自信があるぜ」と(笑)オオグチたたいてみせても、春先に1本や2本ホームランを打てるかもしれないが、長期的にはほとんど何の意味もないのである。


たかがスプリングトレーニングや、春先の投手有利なゲームの中で、新聞を売りたいだけのせっかちなメディアがどんなことを書こうと、短気なファンが「大谷はマイナースタートが似合い」とツイートしまくろうと、そういう「余計なお世話」など、何の意味もない。そんなことくらい、長年監督をやってきたソーシア自身が誰よりもわかっているのである。

damejima at 18:56

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