October 02, 2009
消化試合なのであまり気合が入らない。
フィスターとアダム・ムーアのバッテリーなので、暇つぶしにアダム・ムーアについても書いてみる。
Oakland vs. Seattle - October 1, 2009 | MLB.com: Gameday
結論から先に言うと、ムーアは「どこか教科書っぽい欠点があるが、上手いし、手際がいい」「カウントを追い込むのに長けていて、フィニッシュはワンパターン化しやすい」
しかし、まぁ、なんにしても、来年になって、全てのチームにやる気がある春から夏の季節に、パターンを読む力に優れた強豪チームと当たってみないと実力はわからない。
消化試合のオークランドは、まったくだらしがない(苦笑)
ともあれ。
まずは次の3つの画像。
このシリーズをしつこく読んできた人なら、アダム・ムーアは典型的なというか、むしろ「教科書どおり」といったほうがいいようなメジャーらしいキャッチャーだとわかるはず。
逆転されかねなかった4回の大ピンチを1点で切り抜ける上で、たいへんに役に立ったのが、ピーターソンとカストを三振にとれたことだが、この2人の左打者をカウント的に追い込んでから使ったのが、このパターン。
「アウトコース高めに、カーブをボールになるように投げこんておいて、次のストレートをイン寄りに投げて、空振りさせる」
要するに、いままでいくつもの例で説明してきたが、メジャーのキャッチャーがよくやる「メジャーバージョンの対角パターン」、つまり「アウトローではなく、アウトハイの変化球とインローのストレートで、対角線上に攻める」という基本パターンなわけだ。
この「対角」パターンを、左打者のカウントを追い込んだ場面で、同じイニングで何度も繰り返し使った、という話だ。(ムーアはどうも、効果がなくなるまで同じパターンを繰り返し使うリード癖はあるようには思う。好きな数パターンを使いたがることも垣間見える)
「教科書的」と言ったのはもちろん、今日は成功したとはいえ、正直ものすごく「ベタ」なパターンだからだ。「追い込んだカウントだから通用する」「右投手が左打者に使うから通用する」と、いろいろ限定条件がつくこともある。だから、シーズンの行方が決まってしまった消化試合での成功に、手放しに喜ぶような話でもない。
むしろ、多少苦笑してしまうのは、左バッターの2−2の平行カウントでアウトコースのボールにするカーブを投げることで、「ああ、次はインコースに、たぶんストレートが来るな」と、予想がついてしまう、ということだ。
けして若いムーアをけなす意味でなく言うと、LAAのアブレイユやハンターあたりのような野球をよく知っている打者に、こういう小細工が通用するとは思わない。
トロントやホワイトソックス同様、今年のオークランドは、かつてセイバーメトリクス、分析的野球の総本山だったことなど、微塵も感じられない。それほど、何の分析力も、粘り強さも感じられない。ただただ来た球を振り、自分の前の打席や、自分の前の打者への配球など、きちんと見て考えてもないように見える。
だから、バーノン・ウェルズやオーバーベイの打席をみるかのように、オークランドは何度でも「同じパターン」にひっかかってくれる。
2009年10月1日
1回表 先頭
ケネディ 四球
4球目に外高めのカーブで、次が外高めのストレートなので、ここは典型的な「アウトハイを使った対角」ではないのだが、外高めカーブの直後にストレートを使うパターンは初回からあったことを示すために収録。
2009年10月1日
4回表 無死3塁
カスト 三振
球が全体にはストライクゾーンに集中しているわりに、「5球目のカーブ」だけは大きくはずれたように「見せて」いるのは上手い。直後ストレートのコースは結構甘いのだが、それでも三振してくれるのは、やはり打者が、外のカーブが大きくボールになるのを見て多少気が抜けたこともあるかもしれない。
2009年10月1日
4回表 2死2塁
ピーターソン 三振
この三振も、カストの三振と非常に似ている。カウントを追い込んだストライクはどれもけっこう真ん中よりに決まっていて、コースは甘い。それでも、アウトコースのボールになるカーブの後に、ズバっとストレートを真ん中に放り込む。度胸だけで乗り切ったという感じもある。
さて、「教科書的」と思った理由を、もうひとパターン挙げてみる。5回のケネディのシングルヒットの場面。
2009年10月1日
5回 ケネディ
シングルヒット
初球 アウターハーフ 2シーム ストライク
2球目 アウトコース高め ストレート ボール
3球目 インナーハーフ ストレート ストライク
4球目 アウターハーフ チェンジアップ ヒット
ここまでとりあげてきたメジャーの基本パターンの「アウトハイ・インローの対角パターン」や、コネ捕手の小汚い「3拍子幕の内弁当」(「3拍子幕の内弁当配球」とは何か?についてはこちらを参照:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(5)実証:ロブ・ジョンソンと城島との違い 「1死1塁のケース」)のどちらとも違って、ブログ主好みのいわゆる「ハーフハイトのボールを使った配球パターン」で、無駄が少なく、それだけに美しい。
ただし、3球目までは、だ(笑)
いけないのは4球目。
メジャーの打者の誰もがここは、「ああ、4球目はアウトコースにチェンジアップが来るな。そう教科書に書いてあるよな?(笑)」とか(笑)、予測できてしまう、そういう典型的配球になっていると思う。
打者ケネディは、第一打席でも四球を選んでいるとおり、カストやピーターソンのように、捕手ムーアの得意とする教科書的な典型的配球パターンにハマってはくれない。この打席でも、ムーアの流れるような配球にはまりこむことなく、予想どおりのチェンジアップをレフト方向へ綺麗にシングルヒットを見舞った。
ケネディ、いい打者である。ジャック・ウイルソンやビル・ホールなどではなくて、こういう「賢い打者」こそ、本当はトレードで獲得すべきだ。
だからこそ、4球目がもったいない。この4球目だけは、教科書的な配球ではなく、ベテランクローザー、ネイサンの配球でも見習って、何かひとひねりがあればパーフェクトだったと思うのだ。
打者によって技量は違うわけで、ケネディはカストよりパワーはないが、アタマがいい。打者ごとの技量の差を読むことまでは、まだムーアにはできていない。つまり「若い」と感じるわけである。
暇な人は、この配球パターンと、このシリーズの序論(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」)でとりあげた大投手ハラデイのシンプルさの極致をいく「ハーフハイトのボールを使った芸術的3球三振」を、ぜひ比べてみて欲しい。
寿司を握る職人は、経験を積めば積むほど、「手数が減っていく」というけれども、たった3手でオルティーズを3球三振させるハラデイと、ボールを挟みながら、4球目で相手に読まれてしまうムーアでは、まだまだ大差があるのである。
とはいえ、ムーア独特の感じ、というものもある。
6回のバートンの打席。非常にカウントの追い込みかたが美しい。
初球 インナーハーフ ストレート ストライク
2球目 インロー カーブ 空振りストライク
3球目 インナーハーフ チェンジアップ ボール
4球目 真ん中低め チェンジアップ ボール
5球目 真ん中低め 2シーム 1塁ゴロ
結局ムーアが良さを見せる最も得意パターンは、「カウントを追い込むプロセスの手際の良さ」だと思う。(まぁ、理論的でもあるだろうし、悪く言えば、教科書的でもあるだろうし。評価は来シーズン以降だ)
最後のフィニッシュは、ここまで書いたとおり、けっこうワンパターンだったりもする。
この打席も4球目までは完璧な気がする。
初球にまっすぐをハーフハイトに放り込んでおいて、2球目に同じ場所にカーブを落として振らせる。3球目はインコースにチェンジアップで腰を引かせておいて、4球目に真ん中低めのチェンジアップを振らせにかかった。
もし、4球目のチェンジアップがもう少し高くて、きわどいコースに来ていれば、バッターはここで凡退させられただろう。
そういう自分のプロセスに自信があるからこそ、4球目で決まらなかった同じコースに、5球目の2シームを自信をもってコールできるわけである。
非常にわかりやすい。
最後の決め球に、日本のように「アウトコース低め」ではなくて、メジャーでは「真ん中低め」を使うことも多いともいわれている。そのことについては、なにか機会と実例があるときに、また。
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フィスターとアダム・ムーアのバッテリーなので、暇つぶしにアダム・ムーアについても書いてみる。
Oakland vs. Seattle - October 1, 2009 | MLB.com: Gameday
結論から先に言うと、ムーアは「どこか教科書っぽい欠点があるが、上手いし、手際がいい」「カウントを追い込むのに長けていて、フィニッシュはワンパターン化しやすい」
しかし、まぁ、なんにしても、来年になって、全てのチームにやる気がある春から夏の季節に、パターンを読む力に優れた強豪チームと当たってみないと実力はわからない。
消化試合のオークランドは、まったくだらしがない(苦笑)
ともあれ。
まずは次の3つの画像。
このシリーズをしつこく読んできた人なら、アダム・ムーアは典型的なというか、むしろ「教科書どおり」といったほうがいいようなメジャーらしいキャッチャーだとわかるはず。
逆転されかねなかった4回の大ピンチを1点で切り抜ける上で、たいへんに役に立ったのが、ピーターソンとカストを三振にとれたことだが、この2人の左打者をカウント的に追い込んでから使ったのが、このパターン。
「アウトコース高めに、カーブをボールになるように投げこんておいて、次のストレートをイン寄りに投げて、空振りさせる」
要するに、いままでいくつもの例で説明してきたが、メジャーのキャッチャーがよくやる「メジャーバージョンの対角パターン」、つまり「アウトローではなく、アウトハイの変化球とインローのストレートで、対角線上に攻める」という基本パターンなわけだ。
この「対角」パターンを、左打者のカウントを追い込んだ場面で、同じイニングで何度も繰り返し使った、という話だ。(ムーアはどうも、効果がなくなるまで同じパターンを繰り返し使うリード癖はあるようには思う。好きな数パターンを使いたがることも垣間見える)
「教科書的」と言ったのはもちろん、今日は成功したとはいえ、正直ものすごく「ベタ」なパターンだからだ。「追い込んだカウントだから通用する」「右投手が左打者に使うから通用する」と、いろいろ限定条件がつくこともある。だから、シーズンの行方が決まってしまった消化試合での成功に、手放しに喜ぶような話でもない。
むしろ、多少苦笑してしまうのは、左バッターの2−2の平行カウントでアウトコースのボールにするカーブを投げることで、「ああ、次はインコースに、たぶんストレートが来るな」と、予想がついてしまう、ということだ。
けして若いムーアをけなす意味でなく言うと、LAAのアブレイユやハンターあたりのような野球をよく知っている打者に、こういう小細工が通用するとは思わない。
トロントやホワイトソックス同様、今年のオークランドは、かつてセイバーメトリクス、分析的野球の総本山だったことなど、微塵も感じられない。それほど、何の分析力も、粘り強さも感じられない。ただただ来た球を振り、自分の前の打席や、自分の前の打者への配球など、きちんと見て考えてもないように見える。
だから、バーノン・ウェルズやオーバーベイの打席をみるかのように、オークランドは何度でも「同じパターン」にひっかかってくれる。
2009年10月1日
1回表 先頭
ケネディ 四球
4球目に外高めのカーブで、次が外高めのストレートなので、ここは典型的な「アウトハイを使った対角」ではないのだが、外高めカーブの直後にストレートを使うパターンは初回からあったことを示すために収録。
2009年10月1日
4回表 無死3塁
カスト 三振
球が全体にはストライクゾーンに集中しているわりに、「5球目のカーブ」だけは大きくはずれたように「見せて」いるのは上手い。直後ストレートのコースは結構甘いのだが、それでも三振してくれるのは、やはり打者が、外のカーブが大きくボールになるのを見て多少気が抜けたこともあるかもしれない。
2009年10月1日
4回表 2死2塁
ピーターソン 三振
この三振も、カストの三振と非常に似ている。カウントを追い込んだストライクはどれもけっこう真ん中よりに決まっていて、コースは甘い。それでも、アウトコースのボールになるカーブの後に、ズバっとストレートを真ん中に放り込む。度胸だけで乗り切ったという感じもある。
さて、「教科書的」と思った理由を、もうひとパターン挙げてみる。5回のケネディのシングルヒットの場面。
2009年10月1日
5回 ケネディ
シングルヒット
初球 アウターハーフ 2シーム ストライク
2球目 アウトコース高め ストレート ボール
3球目 インナーハーフ ストレート ストライク
4球目 アウターハーフ チェンジアップ ヒット
ここまでとりあげてきたメジャーの基本パターンの「アウトハイ・インローの対角パターン」や、コネ捕手の小汚い「3拍子幕の内弁当」(「3拍子幕の内弁当配球」とは何か?についてはこちらを参照:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(5)実証:ロブ・ジョンソンと城島との違い 「1死1塁のケース」)のどちらとも違って、ブログ主好みのいわゆる「ハーフハイトのボールを使った配球パターン」で、無駄が少なく、それだけに美しい。
ただし、3球目までは、だ(笑)
いけないのは4球目。
メジャーの打者の誰もがここは、「ああ、4球目はアウトコースにチェンジアップが来るな。そう教科書に書いてあるよな?(笑)」とか(笑)、予測できてしまう、そういう典型的配球になっていると思う。
打者ケネディは、第一打席でも四球を選んでいるとおり、カストやピーターソンのように、捕手ムーアの得意とする教科書的な典型的配球パターンにハマってはくれない。この打席でも、ムーアの流れるような配球にはまりこむことなく、予想どおりのチェンジアップをレフト方向へ綺麗にシングルヒットを見舞った。
ケネディ、いい打者である。ジャック・ウイルソンやビル・ホールなどではなくて、こういう「賢い打者」こそ、本当はトレードで獲得すべきだ。
だからこそ、4球目がもったいない。この4球目だけは、教科書的な配球ではなく、ベテランクローザー、ネイサンの配球でも見習って、何かひとひねりがあればパーフェクトだったと思うのだ。
打者によって技量は違うわけで、ケネディはカストよりパワーはないが、アタマがいい。打者ごとの技量の差を読むことまでは、まだムーアにはできていない。つまり「若い」と感じるわけである。
暇な人は、この配球パターンと、このシリーズの序論(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」)でとりあげた大投手ハラデイのシンプルさの極致をいく「ハーフハイトのボールを使った芸術的3球三振」を、ぜひ比べてみて欲しい。
寿司を握る職人は、経験を積めば積むほど、「手数が減っていく」というけれども、たった3手でオルティーズを3球三振させるハラデイと、ボールを挟みながら、4球目で相手に読まれてしまうムーアでは、まだまだ大差があるのである。
とはいえ、ムーア独特の感じ、というものもある。
6回のバートンの打席。非常にカウントの追い込みかたが美しい。
初球 インナーハーフ ストレート ストライク
2球目 インロー カーブ 空振りストライク
3球目 インナーハーフ チェンジアップ ボール
4球目 真ん中低め チェンジアップ ボール
5球目 真ん中低め 2シーム 1塁ゴロ
結局ムーアが良さを見せる最も得意パターンは、「カウントを追い込むプロセスの手際の良さ」だと思う。(まぁ、理論的でもあるだろうし、悪く言えば、教科書的でもあるだろうし。評価は来シーズン以降だ)
最後のフィニッシュは、ここまで書いたとおり、けっこうワンパターンだったりもする。
この打席も4球目までは完璧な気がする。
初球にまっすぐをハーフハイトに放り込んでおいて、2球目に同じ場所にカーブを落として振らせる。3球目はインコースにチェンジアップで腰を引かせておいて、4球目に真ん中低めのチェンジアップを振らせにかかった。
もし、4球目のチェンジアップがもう少し高くて、きわどいコースに来ていれば、バッターはここで凡退させられただろう。
そういう自分のプロセスに自信があるからこそ、4球目で決まらなかった同じコースに、5球目の2シームを自信をもってコールできるわけである。
非常にわかりやすい。
最後の決め球に、日本のように「アウトコース低め」ではなくて、メジャーでは「真ん中低め」を使うことも多いともいわれている。そのことについては、なにか機会と実例があるときに、また。
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