October 01, 2009

ここでメジャー流の「見せ球としての高めのストレート」を使った配球論というか、変化球を決め球にするためのストレートの使い方として、ひとつ「カーブを決め球にするために、高めのストレートを投げる」実例を挙げてみよう。

これは、アメリカの有名な野球サイトのHardball Times(The Hardball Times)にあった研究記事だ。

Pitch sequence: High fastball then curveball

記事全文をここに載せるわけにはいかないので、あらましだけを書けば、こういうことらしい。(言葉で書くと難しいが、リンク先にはグラフやアニメーションGIFなどでも説明されている。直接読んだほうがわかりやすいと思う)

「カーブの落差を有効に使いたいなら、低めのストレートではなく、高めのストレートを投げておいてからカーブを投げるほうが有効だ
なぜなら、高めのストレートは、ホームベースに到達する途中まで、軌道がカーブと多少かぶるために、打者の球種の判別を遅らせることができる。
だから、高めのストレートの直後にカーブを投げることによって、カーブだとわかるのが遅れて、落差がより効果になり、打者をうちとれる。」

なお、この記事では、「高めのストレートの後で、カーブ」という使い方をする実在の投手について研究して書いているのであって、なにも空想で書かれているわけではない。



まぁ、仮にこの記事の言うとおりだとして、落差のあるカーブをより有効にするために「高めのストレート」も必要だとしよう。



もし、カーブを決め球にしているシアトルのベダードや、大きなスローカーブである「ドルフィン」を持ち球のひとつにしているウオッシュバーンではないが、この記事で書かれているような「ストレートにはさほど球威はないが、落差のあるカーブを決め球にしている変化球投手」が、「外角低めのストレートに固執する日本人キャッチャー」と組んだ、としたら、どういうことになるか。

例えば「投手の配球としてはたいした意味のない『低めのストレート』を何度も何度も、一杯のコースに投げさせられ」「ストレートをボールにしてしまって、カウントが悪くなった後」でようやく、「低めのストレートとはまったく軌道の違う得意球のカーブ」を打者に投げなければならない。
もしそんなことになれば、打者は一瞬にして「ストレートでない球が来たことを見抜ける」ために、本来彼らの決め球のはずのカーブは、まったくもって台無しになる。

また、投げる球種の順番も、投手がクビを振らない限りは、「カーブを投げてから、決め球のストレートをアウトコース低め」という、投手本来の投げたいのとは逆の順序になってしまい、カーブが決め球どころか、慣れない配球を強要されて、ストレートで押すタイプのピッチャーではない彼らがストレートで勝負させられて、球威のそれほどないストレートを滅多打ちにあうかもしれない。



また、同じように、チェンジアップを決め球のひとつにするバルガスではないが、「配球の一部として、カウントを整えたり見せ球にしたりする意味で、高めのストレートを頻繁に使い、配球全体が他のピッチャーより高めに設定している組み立てで長年トレーニングしてきているアメリカの投手が、「外角低めのストレートに固執する日本人キャッチャー」と組んだら、どうなるか。

低めに決まる変化球を決め球として、それをより効果的にするために、見せ球として内角高めのストレートも混ぜておかなければならないはずが、外角低めのストレートばかり要求されて、打者の目をそらすことができないまま、軌道の全く違うチェンジアップを外角に投げさせられることになる。
投手は決め球を失うばかりか、「自分らしい配球スタイル」そのものがまったく失われて、自滅を繰り返すかもしれない。




メジャーでは、投手が長年の教育とトレーニングから、自分なりのピッチングの全体像をプランし、組み立てる。投手は、長年日本とは異なる「配球論」の基礎を教育され、自分の得意な球種などとてらして、自分なりの配球術をひとりひとり、マトリクス化して組み上げてきているわけだ。
「低めなら、とにかく素晴らしい」「最後は低めのストレート」などという、ワンパターンで、わけのわからない抽象論は、全くなんの役にも立たない。



まして、投げる投手が誰であっても、全員に全く同じ配球、たとえば「外角の低めにストレートを最後に決め球として要求するような単細胞の組み立てのためだけのサイン」を投手に強要するようなことは言語道断。

そんなのは、もはや「キャッチャー」とすら呼べない。


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