October 04, 2009
サイ・ヤング賞をヘルナンデスと争っているグレインキーが先発したカンザスシティと、ア・リーグ中地区の優勝がかかったミネソタとの熱いゲームで、ちょっと笑い話のような決勝ホームランがあったので、ちょっと記事をつくってみる。
誰にでもわかりやすいパターンだ、という理由で、このシリーズでずっと取り上げてきている「アウトハイ・インローの対角パターン」だが、このパターン、結論から先に言うと、あまりにも単純な形でピッチングに使うのは、たいへんに危険でもある。
つまり、まぁ、それだけバッター側にも十分わかりすぎるほどわかってバレている典型的配球だ、ということなのだろう。
2つ例を挙げる。
2例とも、初球から3球続けて対角パターンを使い、3球目で「初球の球種・コースにリバース」して、あっさりホームランを打たれた。
ひとつが、今日のグレインキー先発ゲームの、8回裏カダイアー決勝ホームラン。もうひとつは、このシリーズの(1)でとりあげたイヴァン・ロドリゲスのケース。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー
この2例にはひと目でわかる共通点がある。
・初球、2球目で、あきらかにそれとわかる「対角パターン」
・「3球目で、初球とまったく同じ球」を投げて、打者に見切られれ、ホームラン。いうなれば「3球目対角リバース」
2009年10月3日
ミネソタvsカンザス戦
8回裏同点から
カダイヤー決勝ホームラン
初球 インロー 2シーム
2球目 アウトハイ ストレート
3球目 インロー 2シーム(ホームラン)
ピッチャー:ヒューズ
キャッチャー:オリーボ
ごく普通の「アウトハイ・インロー」パターンなら、ストレートはインコース、変化球はアウトコース専用、という場合が多い。変化球は、チェンジアップ、カーブ、スライダーなどが使われたりすることを何度も説明してきた。
シリーズ(2)イヴァン・ロドリゲスの例 チェンジアップ
シリーズ(5)ロブ・ジョンソンの例 チェンジアップ
シリーズ(6)アダム・ムーアの例 カーブ
だが、同点で迎えたゲーム終盤のこの打席、カンザスシティパッテリーの「対角パターン」ではストレートを、イン側ではなく、アウト側の球として使い、イン側には2シームを使っている。
これはまぁ、たぶん、「チェンジアップとストレート」の組み合わせのようにスピード面の緩急はつかない「2シームと4シーム」のミクスチュアなだけに、バッテリーがちょっと工夫したかったのではないかと想像する。
2球目に外の高めにストレートを投げたのを見て、「次の3球目、初球と同じコースに同じ2シームを投げなければいいが・・・」と直感的に思ったわけだが、結局、初球と同じ球を投げて、カダイアーに決勝ホームランを打たれてカンザスシティは負けてしまった。
次に、イヴァン・ロドリゲスのケース。
2009年9月28日
テキサスvsLAA 1回
モラレス 2ランホームラン
ピッチャー:ハンター
キャッチャー:イヴァン・ロドリゲス
初球 アウトハイ チェンジアップ
2球目 インロー ストレート
3球目 アウトハイ チェンジアップ(ホームラン)
Texas vs. LA Angels - September 28, 2009 | MLB.com: Gameday
やはり、上に紹介したカダイアーの決勝ホームランの「3球目対角リバース」と同様で、初球2球目で「対角」に大きくふっておいて、3球目に初球と同じ球を投げた、つまり「リバース」したことで、打者モラレスに配球を読まれ、スタンドに放り込まれている。
なぜまた配球の教科書の最初のページにのっかっているようなパターンを「誰にでもわかる形で」使ってしまうのか。理由はわからないが、こういう「3球目リバース」の形で対角パターンが使われるケースは、ゲームの中でけして少なくない。ケースが多いだけに、いちいち探して挙げているとキリがない。自分で探してみてほしい。
少なくともわかっていなければならないのは、バッテリーの側だけでなく、メジャーの打者の側は、こういう配球パターンがあることなど、熟知していると思わなければダメだということだ。なにごとも打者に見え見えではダメだということだろう。
アタマが疲れてくれば誰でもミスを犯す。それはそうなのだが、誰も彼も同じようにミスを犯すのかどうか。ネイサンの例を見てみる。
上に挙げたカダイアーのホームランで1点リードしたミネソタは、9回表にクローザーのネイサンが登場して、3人でピシャリと抑え、優勝がかかった大事なゲームに勝った。
そのネイサンの、先頭打者ジェイコブズに対する、非常にしつこい配球プロセスを見てもらいたい。
2009年10月3日
ミネソタvsカンザス戦 9回表
先頭打者ジェイコブズ 三振
ピッチャー:ネイサン
キャッチャー:マウアー
初球 アウトハイ ストレート ストライク
2球目 インハイ ストレート ボール
3球目 アウトロー ストレート ストライク
4球目 真ん中低め スライダー ファウル
5球目 アウトハイ ストレート ボール
6球目 インロー スライダー ボール
7球目 インロー スライダー ファウル
8球目 アウトハイ ストレート 空振り三振
この打者にネイサンは3度も「対角パターン」を使って、しつこく打者のバットを振らせようとしているが、単純なリバースは一度もしていない。
最初の対角は、2球目から3球目。ストレートだけを対角に投げ分けた。両方同じストレートなだけに、4球目でのリバースはないと予想できる。
だからこそカウント1-2になった4球目に何を投げるのかが面白い。
ネイサンは「3球目リバース」の失敗例のようにインハイに戻ったりせず、真ん中低めスライダーを選び、明らかに決めにかかった。決め球が「真ん中低め」というところが、いかにもメジャーらしい。
ところがファウルされて粘られた。2球目3球目の対角パターンがストレート連投だっただけに、ここはさすがに打者に「そろそろ変化球だな」と先を読まれた。
そのため、ネイサンは新たな対角を企てる。カウントに余裕があるからこそできる2度目の対角の企てだ。5球目で外に1球ストレートをはずしておいて、それから、インコース低めの「対角」にスライダーを投げた。典型的な「アウトハイ・インローの対角パターン」で打ち取りにかかったわけだ。
だが6球目は打者が振らず、ボール判定。
たがネイサンは、この項目で何度も触れてきた「3球目リバース」の失敗例のように、すぐにリバースせずに、同じ球をもう1球インローに投げておいてファウルさせておいてから、つまりひと呼吸おいて、3度目の対角パターンとして、アウトハイに予定どおりストレートをほおる。
ついに空振り三振。
そして残り2人も打ち取って、ゲームセット。
一度企てが失敗しても、しつこく、しつこく攻めてくるネイサン。球数減らしの名手ハラデイの配球芸術とは対極にあるような、ベテランクローザー、ネイサンならではの素晴らしくネチネチした配球術だ(笑)
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誰にでもわかりやすいパターンだ、という理由で、このシリーズでずっと取り上げてきている「アウトハイ・インローの対角パターン」だが、このパターン、結論から先に言うと、あまりにも単純な形でピッチングに使うのは、たいへんに危険でもある。
つまり、まぁ、それだけバッター側にも十分わかりすぎるほどわかってバレている典型的配球だ、ということなのだろう。
2つ例を挙げる。
2例とも、初球から3球続けて対角パターンを使い、3球目で「初球の球種・コースにリバース」して、あっさりホームランを打たれた。
ひとつが、今日のグレインキー先発ゲームの、8回裏カダイアー決勝ホームラン。もうひとつは、このシリーズの(1)でとりあげたイヴァン・ロドリゲスのケース。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー
この2例にはひと目でわかる共通点がある。
・初球、2球目で、あきらかにそれとわかる「対角パターン」
・「3球目で、初球とまったく同じ球」を投げて、打者に見切られれ、ホームラン。いうなれば「3球目対角リバース」
2009年10月3日
ミネソタvsカンザス戦
8回裏同点から
カダイヤー決勝ホームラン
初球 インロー 2シーム
2球目 アウトハイ ストレート
3球目 インロー 2シーム(ホームラン)
ピッチャー:ヒューズ
キャッチャー:オリーボ
ごく普通の「アウトハイ・インロー」パターンなら、ストレートはインコース、変化球はアウトコース専用、という場合が多い。変化球は、チェンジアップ、カーブ、スライダーなどが使われたりすることを何度も説明してきた。
シリーズ(2)イヴァン・ロドリゲスの例 チェンジアップ
シリーズ(5)ロブ・ジョンソンの例 チェンジアップ
シリーズ(6)アダム・ムーアの例 カーブ
だが、同点で迎えたゲーム終盤のこの打席、カンザスシティパッテリーの「対角パターン」ではストレートを、イン側ではなく、アウト側の球として使い、イン側には2シームを使っている。
これはまぁ、たぶん、「チェンジアップとストレート」の組み合わせのようにスピード面の緩急はつかない「2シームと4シーム」のミクスチュアなだけに、バッテリーがちょっと工夫したかったのではないかと想像する。
2球目に外の高めにストレートを投げたのを見て、「次の3球目、初球と同じコースに同じ2シームを投げなければいいが・・・」と直感的に思ったわけだが、結局、初球と同じ球を投げて、カダイアーに決勝ホームランを打たれてカンザスシティは負けてしまった。
次に、イヴァン・ロドリゲスのケース。
2009年9月28日
テキサスvsLAA 1回
モラレス 2ランホームラン
ピッチャー:ハンター
キャッチャー:イヴァン・ロドリゲス
初球 アウトハイ チェンジアップ
2球目 インロー ストレート
3球目 アウトハイ チェンジアップ(ホームラン)
Texas vs. LA Angels - September 28, 2009 | MLB.com: Gameday
やはり、上に紹介したカダイアーの決勝ホームランの「3球目対角リバース」と同様で、初球2球目で「対角」に大きくふっておいて、3球目に初球と同じ球を投げた、つまり「リバース」したことで、打者モラレスに配球を読まれ、スタンドに放り込まれている。
なぜまた配球の教科書の最初のページにのっかっているようなパターンを「誰にでもわかる形で」使ってしまうのか。理由はわからないが、こういう「3球目リバース」の形で対角パターンが使われるケースは、ゲームの中でけして少なくない。ケースが多いだけに、いちいち探して挙げているとキリがない。自分で探してみてほしい。
少なくともわかっていなければならないのは、バッテリーの側だけでなく、メジャーの打者の側は、こういう配球パターンがあることなど、熟知していると思わなければダメだということだ。なにごとも打者に見え見えではダメだということだろう。
アタマが疲れてくれば誰でもミスを犯す。それはそうなのだが、誰も彼も同じようにミスを犯すのかどうか。ネイサンの例を見てみる。
上に挙げたカダイアーのホームランで1点リードしたミネソタは、9回表にクローザーのネイサンが登場して、3人でピシャリと抑え、優勝がかかった大事なゲームに勝った。
そのネイサンの、先頭打者ジェイコブズに対する、非常にしつこい配球プロセスを見てもらいたい。
2009年10月3日
ミネソタvsカンザス戦 9回表
先頭打者ジェイコブズ 三振
ピッチャー:ネイサン
キャッチャー:マウアー
初球 アウトハイ ストレート ストライク
2球目 インハイ ストレート ボール
3球目 アウトロー ストレート ストライク
4球目 真ん中低め スライダー ファウル
5球目 アウトハイ ストレート ボール
6球目 インロー スライダー ボール
7球目 インロー スライダー ファウル
8球目 アウトハイ ストレート 空振り三振
この打者にネイサンは3度も「対角パターン」を使って、しつこく打者のバットを振らせようとしているが、単純なリバースは一度もしていない。
最初の対角は、2球目から3球目。ストレートだけを対角に投げ分けた。両方同じストレートなだけに、4球目でのリバースはないと予想できる。
だからこそカウント1-2になった4球目に何を投げるのかが面白い。
ネイサンは「3球目リバース」の失敗例のようにインハイに戻ったりせず、真ん中低めスライダーを選び、明らかに決めにかかった。決め球が「真ん中低め」というところが、いかにもメジャーらしい。
ところがファウルされて粘られた。2球目3球目の対角パターンがストレート連投だっただけに、ここはさすがに打者に「そろそろ変化球だな」と先を読まれた。
そのため、ネイサンは新たな対角を企てる。カウントに余裕があるからこそできる2度目の対角の企てだ。5球目で外に1球ストレートをはずしておいて、それから、インコース低めの「対角」にスライダーを投げた。典型的な「アウトハイ・インローの対角パターン」で打ち取りにかかったわけだ。
だが6球目は打者が振らず、ボール判定。
たがネイサンは、この項目で何度も触れてきた「3球目リバース」の失敗例のように、すぐにリバースせずに、同じ球をもう1球インローに投げておいてファウルさせておいてから、つまりひと呼吸おいて、3度目の対角パターンとして、アウトハイに予定どおりストレートをほおる。
ついに空振り三振。
そして残り2人も打ち取って、ゲームセット。
一度企てが失敗しても、しつこく、しつこく攻めてくるネイサン。球数減らしの名手ハラデイの配球芸術とは対極にあるような、ベテランクローザー、ネイサンならではの素晴らしくネチネチした配球術だ(笑)
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