October 20, 2009

城島のシアトル退団がハッキリしてから書こうと思っていたことが、ひとつあった。それを書く。
日本のプロ野球ソフトバンクで正捕手をつとめる田上(pronounce "Ta-no-wo-e")というキャッチャーのことだ。


先日、日本のパシフィック・リーグ王者決定戦、(メジャー風にいうとPLCS、Pacific League Championship Series)いわゆるクライマックス・シリーズ(Climax Series)で、シーズン3位のソフトバンクは2位楽天に敗れてペナント争いから去ったが、このゲームでは、2005年にドジャースでスターターだったホールトン投手が先発し、楽天・山崎に決勝3ランを打たれたのが敗因になった。

Yahoo!プロ野球 - 2009年10月17日 楽天vs.ソフトバンク

D.J. Houlton Statistics and History - Baseball-Reference.com

D.J.ホールトン - Wikipedia

この両チームの普段の野球を年に100ゲームくらいは見て、多少はチームの戦略やプレーヤーの個性がわかっているならともかく、ほとんど知らないので、ゲーム自体の勝敗の原因と結果どちらも、あれこれ言うつもりはない。

だが、気になる点がある。
ソフトバンクのホールトンが決勝ホームランを打たれた場面のことだ。

結論を先に言えば、この場面でのキャッチャー田上のリードぶりは「城島そっくりのアウトコースにかたよった配球」である。
城島が日本球界に復帰することになったことでソフトバンク・ファンの方々の一部は「城島がソフトバンクに復帰してくれれば、バッテリーのリード面が大きく改善され、チームはかつてのような常勝球団に復帰できる」と考える人もいらっしゃるようだが、それがわからない。

城島は日本人投手へのリードにおいても、WBCで繰り返しヘマをしていることは何度も記録にとどめてきた。ソフトバンクの投手でいえば、WBC壮行試合の巨人戦で、ソフトバンク杉内投手をリードしたゲームで、巨人アルフォンゾにチェンジアップをホームランされ、解説の古田にリードを批判されている。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:カテゴリー:WBC
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:カテゴリー:杉内


この山崎のホームランの場面、たまたま見かけただけだが、なかなかシチュエーションの前提が複雑だ。

このゲームは、負ければソフトバンク敗退というゲーム。背水の陣のはずであり、ランナーがサードに出た場面で、3番鉄平を敬遠してまで、4番との勝負に出た。絶対に打たれては困る場面だ。(だから敬遠後、投手を交代させる、という手段もあったはず)
なぜホールトンで強打者であるはずの楽天4番打者と勝負したかについては、理由がある。楽天の3番が小技もできて好調だというのもあるが、なにより、解説伊東氏によれば、ホールトン投手は打者山崎に対して、この打席の前の2打席は「インコースを攻めて凡退させている」というのだ。

ならば、だ。
ソフトバンク側は、敬遠までして勝負するのだから、山崎に対して三度目のインコース攻めにでもするのかと思ったが、どうしたものか、そうではなかった。

この場面でのホールトンの配球はこうだ。(日本にはGameDayのような便利な記録の道具がない。配球を画像化して資料として残せないのが残念だ)


アウトコース一杯 ストレート 見逃し。きわどいがボール判定
アウトコース    変化球   空振り
真ん中高め    ストレート ホームラン


初球は、ほんとうにきわどかった。ストライク判定してよかったように思うが、アンパイアはボールにした。おそらく投手ホールトンも、捕手田上も、判定には不服だったはず。顔にも出ていた。2球目は外のスライダーかなにかをうまく振らせ、空振り。問題は3球目だ。
ホームランを打たれた3球目は、キャッチャー田上はアウトコースにミットを構えており、田上は初球から続けて3球目のアウトコースを要求、アウトコース一辺倒の攻めであることが判明する。メジャーでも城島がよくみせた(過去形)、ピンチの場面特有のリード方法である。(城島の場合、セカンドへの送球に支障がないようにするためか、特に左バッターのケースで非常に多くアウトコースを使っていた。山崎は右バッター)


なぜまた、初球で外側の判定が非常に辛いことがわかっているにもかかわらず、3球目にも同じコースのストレートを要求したのか? ボール1個分かそこら内側に寄せてストライクにしたかったのか?
投手心理としては、弱気なタイプなら初球をボール判定されて「投げにくいな・・」とナーバスに考える投手もいるだろうし、強気なタイプなら「なんとしてでもアンパイアにストライクと言わせやる!」と意地になるタイプもいるだろう。いずれのタイプにせよ、この場面では投手の立場からは、カウントを悪くもしたくないし、コントロールが万全にはできにくいシチュエーションには違いない。
そして結局、投げたボールは真ん中に甘く入ってしまい、ホームラン。ゲームが決まってしまった。


「城島問題」について何度か書いたことだが、投手というものは同じコースを続けて投げたり、同じ球種を続けていると、だんだんコースが甘くなり、また内側にボールが寄っていくもの、である。
それにホールトンの得意球はカーブなどであって、ストレートは、球威・コントロールともに、それほど自信があるとは思えない。ならば、キャッチャーは、投手の得意な球を生かすことを考えずに、しかも、インコースで2度打ちとっている打者に対して、なぜワンパターンな「アウトコース一辺倒」にこだわる必要があるのか。
まったくピンチでの失点ぶりが城島に似ている。



ブログ主は常に、こういうホームランを「投手の失投」と馬鹿のひとつ覚えのように言って投手をけなしているだけでは「チームの不用意な失点はなくならない」、という考えのもとに野球というゲームを見ている。

投手という生き物は、失投して当たり前の生き物だ。コントロールミスしない投手など、いない。ミスはゼロにはできない。
だがチームの不用意な失点はなくしたい。だからこそ「失投しやすいシチュエーション」があることを理解し、分析して、そのシチュエーションにはまりこむのをできるだけ避けるのが、「配球」というタスクの意味のひとつだと考えている。
配球は、別にバッターをゴロだのフライだのと、小器用にアウトにさせるためだけにあるのではなく、「起こるべくして起こる失投」を回避する意味でも存在している。
例えば、先日のナ・リーグ優勝決定戦で登板したクリフ・リーは「ド真ん中に投げてもバッターがバットを振ってこれないような配球」をしている。そもそも「失投」そのものが起こりえない配球をしているのである。
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(9)クリフ・リーのプレイオフ快刀乱麻からの研究例:「カーブとチェンジアップ、軌道をオーバーラップさせ、ド真ん中を見逃しさせるスーパーテクニック」

この田上のケースは「失投しやすいシチュエーション」にわざわざ変化球投手ホールトンを無理のある配球で追いつめてしまっているように見える。ホールトンは針の穴を通すコントロールの持ち主ではない。
例えばコントロールが甘く、球が真ん中に寄るのを避けるためには「同じコースを何度も何度も投げ続ける」、特に、「同じ球種を同じコースに何度となくキャッチャー側が要求しつづけること」を避ける必要があると思っているわけだが、その点で、田上も城島も、やっていることはほとんどかわりない。
投手の得意不得意おかまいなしに、アウトコースにばかりボールを要求し、球種だけかえることで「目先の味つけ」をかえて、打者の狙いをなんとかそらそうとしているだけのことだ。
リスクを回避している「つもり」になっているだけで、かえって「リスクを自分から招きいれて」いる。


この場面、もし城島がキャッチャーだったら、
ソフトバンクは楽天に勝てていたか?

まったくそうは思わない。


ちなみに、ソフトバンクの選手同士が似ている、という話は、守備の城島と田上ばかりではない。打撃面で、城島と井口も「そっくりさん」同士なのだ。

Baseball Reference
(http://www.baseball-reference.com/)は、MLBを扱うデータサイトの大御所中の大御所であり、MLB所属の各プレーヤーに関して膨大な古今東西のデータを有していて、もちろん城島の詳細なデータもある。

このサイトの城島ページに、年度別の打撃成績を、「古今のMLBプレーヤーと比較して、似ている打者をみつけだす」という項目があるのだが、この項目のトップ、つまり、最も似ているプレーヤーの2007年、2008年の1位が、なんと、元ソフトバンク、現ロッテの井口なのである。2009年も井口が2位である。

世界中から集まったあれほどの数の選手がプレーするMLBにおいて、データの豊富なことではどこにも負けないBaseball Referenceが選ぶ「城島のそっくりさん」が、元チームメイト井口だというのだから、どれだけ狭い話かがわかる。チームカラーというものは怖ろしいものだ。

Kenji Johjima Statistics and History - Baseball-Reference.com

Kenji Johjima Batting Similarity Comparison Age-Based - Baseball-Reference.com


企業にも社風という風土があるように、野球のチームにもチームカラーというものがある。その城島と、田上、井口がそっくりな理由は、ほかの言葉では説明できそうにない。ある意味、城島はそういう日本での自分のカラーが抜けないままメジャーに居座ろうとして結局失敗したわけだが、それも「チームカラーという風土病」のもつマイナス面ではある。

日本での野球が染み付く前にメジャーに行こうと考える若者はこれから増えるだろうと思う。こんどシアトルにかわって「城島問題」を抱えるのは、日本のプロ野球チームである。日本の野球しか見たことのないファンにも、そのうち「城島問題」の意味がわかるときが来ると思う。







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