June 09, 2011

よくまぁ、今日のようなストライクゾーンが「極端な横長」で、低めのチェンジアップがほとんどボールにされてしまうような球審にブチあたった日に、針の穴を通すコントロールで投げるのを信条とするジェイソン・バルガスが、ここまでの好投をできたものだ。感心した。

最近めっきりキレがなくなったリリーフ、ジャーメイ・ライトが同点2ランを打たれてしまい、せっかくのバルガスの勝ち星をフイにしてしまったが、いずれにしても粘り強いピッチングで、超苦手なホワイトソックス戦、苦手なUSセルラー・フィールドでのビジター3連敗を見事に阻止してくれたのは、バルガスの好投あってこそだ。文句無く素晴らしい。

前の登板の初完封といい、
バッテリーに心から拍手を送りたいと思う。

Seattle Mariners at Chicago White Sox - June 8, 2011 | MLB.com Classic

今日の球審Marvin Hudsonは、本来はこういうアンパイアではない、と思う。データ上でいうと、本来はかなりルールブックどおりのストライクゾーンを持っている「はず」のアンパイアだ。

だが、なんとまぁ驚いたことに、今日のMarvin Hudsonのゾーンは、「あまりにも横長なゾーンで判定することで有名なMike Winters」以上の、びっくりするほど横長なストライクゾーンだった。
資料:Mike Wintersのストライクゾーン
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年11月8日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (4)特徴ある4人のアンパイアのストライクゾーンをグラフ化してみる(付録テンプレつき)

今日のゾーンの「極端さ」ときたら、低めのきわどいボールをとらない程度の話じゃなかった。
たぶん今日は、ルールブック上のゾーンの低めいっぱいから上に、約ボール2個分、約5インチから6インチくらいの間の空間、つまり「ボール約2個分くらいの低めのストライクゾーン」が「消滅していた」と思う。

そして、低目をまるでとらない一方で、「左右のゾーン」は異常に広かった

だから、今日のバッテリーは「上下」ではなくて、「左右」にゾーンを使うしかなかった。(実際、今日バッティングでも大活躍したオリーボの打った球は、どれも高めの球。彼はキャッチャーだから「このアンパイアなら、高目を投げるしかないと、相手バッテリーも考えているに違いない」とでも考えて、狙いを高めに絞っていたかもしれない)


以下は、いつもの判定マッピングである。
四角い点がホワイトソックスの投手、三角の点がシアトルの投手。赤色の点が「ストライク判定」緑の点が「ボール判定」
低めのゾーン内に、「緑色の点」、つまり「球審にボール判定されたストライク」が、異常にたくさんあることを見ておいてもらいたい。
よくこれで、低めのきわどい球を決め手とするジェイソン・バルガスが好投できたものだ。

2011年6月9日 球審Marvin Hudsonの「横長ストライクゾーン」
資料:Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool


わかりやすくするために、上の今日の判定結果マッピングに、さらに手を加え、「今日のおおまかなストライクゾーン」を赤色の四角形で示してみた。
びっくりするくらい「ストライクゾーンが横長になっている」ことがわかると思う。図をクリックして、大きな図で確かめてもらいたい。

2011年6月9日 球審Marvin Hudsonの「横長ゾーン」を明示した図


バルガスは、こういう「低目をほとんどとらない球審」に出くわすと、どうしても彼本来の「きわどいコースにストライクを決めまくって、打者をキリキリ舞いさせるようなピッチング」が出来なくなってしまう。
バルガスはときとして大量失点することがあるが、それは、かつての城島キロス、いまのジメネスのような、バルガスの望む配球パターンを頭に入れてないキャッチャーとばかり組まされてきたこと以外に、球審の問題がある。低めのストライクがとってもらえず、しかたなく高めにチカラの無い球を投げては、連打されまくってしまうのだ。

バルガスが負けるときの典型的なパターンは、日本のファンもよく知ってのとおり、「コントロールの素晴らしいバルガスはいつでもきわどい変化球のストライクを投げられる。なのに、低目をまるでとらないような相性の悪い球審に悩まされると、結局、意図しない大量失点をする負けパターン」にはまる(というか、ハメられてしまう)のだ。


だが、今日のバルガスは違っていた。
やっぱり息のあったクレバーなバッテリーは見ていて気持ちがいい。
今日バルガスとオリーボは、バルガス特有の負けパターンにはまらないように気をつけていたように見えた。


プレートの真上に落ちる変化球は、MLBにおける典型的な決め球のひとつだが、バルガス、オリーボのバッテリーは、ゲーム序盤から「プレートの真上に落ちるチェンジアップ」だけに頼らず、「インコースを突く攻め」も織り交ぜて、配球に変化をもたせていた。
だが、ゲーム序盤に「今日は、低めのチェンジアップがストライク判定してもらえないこと」に気づいて、低めのチェンジアップだけに頼るのを止め、(特に右打者に対して)インコース攻めをより強調した。

この「インコース攻め」が、今日の「まったく普段の彼らしくないMarvin Hudson」のような「低目をまるでとらない球審」がとても苦手なバルガスにとって、非常に功を奏した。


例1)初回のカルロス・クエンティン
1回裏、二死走者なし。
3番カルロス・クエンティンには、この3連戦で既にフェリックス・ヘルナンデスがホームランを打たれているが、バルガスは、その危険なクエンティンのインコースへ「勇気ある2球目」を投げた。
シアトルには好投手も多い。だが、いま好調のクエンティンのインコースに、ひょいっとチェンジアップを投げるだけの勇気あるピッチャーは、このジェイソン・バルガスだけだろう。

このインコースのチェンジアップは見事すぎるほどの「明らかなストライク」だったが、球審の判定はなんと「ボール」。やむなく外のカットボールで追い込むが、4球目に再び「ボール判定されたチェンジアップ」と同じコースにストレートを投げたところ、ホームランを浴びた。ツいてない。

2011年6月9日 ホワイトソックス戦 1回裏 クエンティンへの2球目


例2)4回のリオス
4回裏、二死2塁。追加点のピンチ。
5番アレックス・リオス。2球目、インコース低めにズバリと決まったバルガス得意のチェンジアップだが、球審はこれを「ボール判定」。その後3-0とカウントを悪くして、ピンチを広げそうになった。
だが、こんどはバルガスが、あわてずに得意のチェンジアップを典型的な「アウトハイ・インロー」配球で内・外と投げ分け、リオスをピッチャーゴロに仕留めた。
MLBでよくみかける「アウトハイ・インロー配球」については以下のブログ記事を参照。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート

2011年6月9日 ホワイトソックス戦 4回裏 リオスへの2球目







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