June 13, 2011

何か、ハッキリしたいのにモヤモヤしていて言えなかったことが形にできたときは、まるで流鏑馬(やぶさめ)で、矢が的を真っ二つに割るような、そんなスッキリした気持ちになるものだ。

NBAファイナルで、2006年に一度ファイナルで敗れているマイアミ・ヒートを破って初優勝したが、ダラス・マーヴェリックスの38歳「ミスター・トリプルダブル」ジェイソン・キッドが使った「支配」という言葉が、まさに、的を射抜いてくれた。



ジェイソン・キッドは3度目のトライで遂に栄冠を手にした。試合直後にインタビューされていたが、同じマイアミ・ヒートに2006年に決勝で敗れたことだし、さぞ感激したことだろう。
相手のヒートには、キッドがガキの頃から近所で一緒にプレーしてもらった同じポイントガードのゲイリー・ペイトンがいたとか、ジェイソン・キッドは実は野球もやっていたとか、そういうことはまぁ、どこかのサイトが書くだろう。そういうのはほっとこう。
ジェイソン・キッドがイチローについて語った「支配」という単語が非常に興味深い。

イチローが将来、殿堂入りすると思うかと聞くと、「殿堂入りするはずだ。彼はバットのひと振りと足で試合を変えることができる。あれだけの支配力がある選手は、キャリアが終わったときには殿堂入りするべき」と主張した。そう言うキッドも、将来は間違いなくバスケの殿堂入りを果たす選手だ。
【NBA】ジェイソン・キッドが語る「オレとイチローの共通点」 - 雑誌記事:@niftyニュース


「支配」ね。
なるほど。


彼の言う「支配力」を、もうちょっと自分流にわかりやすくしてみたい。
ジェイソン・キッドの言う「支配」はたぶん「ゲームを支配すること」を指していると思う。
この「ゲーム支配力」という説明手法は、これまで「流れ」とか、そういう曖昧な説明に終始してきたスポーツの意味的な仕組み、かけひきの構造を、もっとクリアでわかりやすい構造にして、目にみえるものにしてくれる。少なくとも、単なる利益最大化をめざす古くさいゲーム理論程度は軽く超越してもいる。
いろいろなスポーツで、いままで曖昧なまま放置され、曖昧に説明されてきた事象はたくさんあるが、それらをもっとわかりやすい言葉に変換し、誰でもが説明できる、ひとつのツールにできる可能性がある。


うまく例がみつかるかどうかわからないが、
別の角度で説明してみよう。


「ボール・ポゼッション」とか「ボール支配率」というサッカー用語がある。そこでいう「支配」という言葉の意味は、単に「ボールを持っている時間の長さ」のことであって、ジェイソン・キッドの言う「支配」とはまったく別だ。
サッカーでは、ボール・ポゼッションに関して、相手チームにボールをわざと「持たせる」という表現もある。だが、それがどういう状態をさすのか、誰でも頭ではわかってはいても、曖昧にしか説明されてない。

だが、「ゲームの支配」という発想を導入すると、こういう曖昧な表現にもっとクッキリした形を与えることができるようになる。

「相手チームにわざとボールを持たせる」というのは、「ボール支配権は相手にわざと渡すが、逆に、ゲームの支配を高めようとするマジカルな戦術」だ。別の言い方をすると、「たとえボールを長時間保持しようと、ゲームそのものはまるで支配できていない状態にさせる」という意味だ。
もっと具体的な例でいえば、ユーロ2008で優勝したスペインとロシアのゲームのように、ボールを『相手に持たせる』展開になった場合、「ゲーム支配権」があるのは、「ボールを持って、意味の無い横パスを繰り返して、時間を無駄にしているロシア」ではなく、逆に「ボールを持たずに、悠然と守備しているスペイン」にある。


話を野球に戻してみる。
野球は、攻守がイニングごとに交代するスポーツなわけだから、サッカーの「ボールを持たさせる」展開にあてはまるような場面は「無い」と、たいていは思われている。

いやいや。そんなこと、絶対ない。むしろ、そういうかけひきは野球の昔からある発明品だ。思うに、誰もきちんと言葉で説明できてこなかっただけのことだ。

ボールをただ保持するだけなのが「ボールポゼッション」なら、「ゲームを支配する戦術力」は「ゲーム・ポゼッション」とでもいえばいいか。
「ゲーム・ポゼッション」という発想で見なおしてみると、野球というスポーツには昔から「ゲーム・ポゼッション」的戦術はたくさん存在しているわけで、「ゲームを支配する」という発想からいろいろなことを説明しなおすと、もっとそういう昔からあった戦術の意味や目的、手法がクリアになり、もっと整理されてくるような気がする。


なにかわかりやすい「ゲーム支配」に関する例はないだろうか?
いくつか無理矢理あげてみる(笑)


1)「やたらランナーは出るが、得点できないゲーム」
よく「むやみにランナーを出すが、得点がほとんど無くて、負けてしまうゲーム」がある。たいていは「タイムリーが出ないのがダメ」とか、「バントしろ」とか、当たり前のことばかり言われて、話は終わりになってしまう。つまり、こういうゲームの構造は、これまであまりきちんと考察も対策もされてこなかった。

だが、「ゲーム支配」という発想を入れてくると、話はもっと明確な部分がでてくる。
要は、野球というボールゲームにおいては「いくらチャンスがたくさんあって、優勢に見えても、それで『ゲーム支配』ができているとは限らない」という話なわけだ。
こういうモヤモヤした事象を理解するには、今までにないくらい切れ味のある切り口が必要になる。じゃあ、どうすればこういうゲームでゲーム支配への突破口が切り開けるか? 言われても困るが(笑)

例えばバント。クロスゲームでのバントは、「もしゲームの支配につながる」のならバントすればいい。だが一方では、「バントに成功しても、ゲームポゼッションにまるで変化が起こらない」こともありうる。
つまり、「ゲーム支配」という観点からすれば、バントという戦術自体が有益か、そうでないか、絶対的に価値を議論することには、ほとんどなんの意味もないのだ。

2)敬遠で満塁にして、凡退を誘う
野球には「敬遠で、わざと満塁にする」という独特のタクティクスがあるが、これも一種の「ゲーム支配」なのは間違いない。
案外、満塁は点が入りにくいものだ。守備がしやすくなるという具体的なメリットもあるが、ものすごく有利な場面をポンと与えられるとかえってプレッシャーを感じて凡退してしまうのが人間というものだ(笑)

3)わざとボール先行カウントを作って凡退させる
イチローをバッテリーが攻める場合に、「わざとボールを2つ続けて投げて、カウントをわざと悪くしておき、次の球をわざと振らせて凡退させる」なんてオークランド風味の配球戦術もある。
これもどこか「ゲーム支配」の匂いがする。あきらめたようにみせかけているが、実は全然あきらめてない。


話が、本題から離れまくってしまった(笑)

ジェイソン・キッドがイチローについて言う「バットのひとふり」「走塁」は、誰がやっても「ゲームの支配力」を上げることができるだろうか。

もちろん、そんなことはない。

ゲームを支配するひとふり。
ゲームを支配する盗塁。
ゲームを支配するキャッチング。
それが誰にでもできるのなら苦労はしない。

サヨナラホームランはたしかに劇的だ。
だが、サヨナラホームランを1本も打たずに10年やって全米のスターになって、10年続けてオールスターに出続けることとの難しさを考えたら、サヨナラホームランを打つほうが、やっぱり簡単だ。誰でも人生に一度くらいサヨナラホームランは打てるが、10年続けてオールスターに出られるプレーヤーはいない。


もっと簡単に言おう。
イチローは、「ランナーとして1塁に立つだけでゲームを支配できる」そういうプレーヤーだ。







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