July 18, 2011

多忙なためになかなかブログを更新できなかったので、扱う話題がしばらくはちょっと古い話になりそうだ。申し訳ない。


まずは、6.9%に下がったMLBオールスターの視聴率について。(去年は7.5%)

この件について、このブログ本来の意見を言う前に、まず「地ならし」のために言っておかなければならないことがある。(自分の意見だけ言い放って済ませるのがブログの快感なのに、世間には本当に馬鹿な人が多くて、自分の意見を言う前にまず整地して平らにしておかなくてはならないのだから、やれやれである)


某巨大掲示板がまさにそうだが、なんというか、テレビの視聴率についてよくもあれだけ馬鹿げた、根拠のない思い込みだけを元に、野球が終わっただのなんのと、くだらないバッシングをデッチ上げることができるものだ。
MLBオールスターの視聴率が6%台であること、ただそれだけを理由にあげつらって、野球人気だの、アメリカのスポーツ人気だのをあれこれ語るなど、あまりにも馬鹿らしい。くだらなさすぎて、語りたくもない。

だが、ああいう議論とはまるで呼べない低レベルの雑談ですら、きちんと馬鹿にできる人間、クズなものをクズと言い切れる人間が見当たらないのだから、しかたない。自分で書かざるをえない。


たとえば日本の新聞記者などは、数字の意味も頭に入れないまま、あたかもMLBがひどく低迷しているかのようなイメージで、思いつきで記事を書いていい気になっているのだから、これはもう、どうしようもない。彼らはもはやプロのモノ書きのレベルではない。
年老いた彼らの頭の中では、いまだにアイドルの出す黒い塩化ビニールのLPレコードが100万枚以上売れ、いまだに年末の紅白歌合戦を日本の60%以上の人がテレビの前に座って、みかんの皮をむきながら見ているのだろう。
マジに、脳のポンコツさ加減にも程がある。


日本のマスメディアのおめでたいガラクタと、掲示板で必死に野球をバッシングしているガラクタは、ちょっと考えただけも、2つの点で間違っている。
まず、いわゆる「テレビ視聴率で全てを把握できた時代」など、とっくの昔に終わっていること。そして、「全米6.9%という視聴率の意味」がまるでわかってないこと。


アメリカでは、Broadcast Programs、いわゆるオープンエアーで放送されるテレビの番組の人気、あるいは3大ネットワークだけがメディアを牛耳れた時代など、とっくの昔に終わっている。
ケーブルもインターネットもない1960年代に、ビートルズThe Ed Sullivan Show(エド・サリバン・ショー)に出て、全米で45.3%と、スーパーボウル並みの視聴率を集めることができた、そういう「テレビ全盛時代」はとっくに終わったのだ。
こんな誰でもわかっていることを書くだけで貴重な時間が潰れていくのが実に馬鹿らしくて嫌になる。
World Series television ratings - Wikipedia, the free encyclopedia

ケーブル、ネット上の違法ストリーミング、Youtube、Facebook、Twitterなど、メディアの役割は分散しながら、新しい時代を迎えている。最近の中近東の政治情勢の変化にFacebookが果たした役割はよく知られている。
アメリカでWWE(プロレスの一種)やNBAを見るのはケーブルテレビだが、ケーブルテレビは日本以上に発達している。アメリカを旅行してホテルでテレビを見たことのある人ならわかるだろうと思うが、旅行者ですら100を越えるプログラムから自分の見たいものを選択することができる。

また、テレビ全盛時代が終わったということは、視聴者の行動のすべてをニールセンなどの視聴率調査会社が完全把握できた時代も終わったということだ。
今は、テレビやケーブルだけが情報ソースではなく、インターネット上に違法なスポーツ観戦ストリーミングなども無数にあり、見たいスポーツイベントの大半は、ネット上で、しかも無料で見ることができる。こういう違法な視聴のあり方は、もちろん視聴率には現れてこない。
また、アメリカの人気テレビシリーズについて言えば、視聴率は低くとも、世界マーケットに展開した後でのDVDレンタルでの凄まじい収益や人気は、ニールセンの数字には表れてこない。(そのため、人気ドラマHeroesなどは、放送するNBC自身が、見逃しても無料で見られるネット上のストリーミングサイトを開設して、人気のキープに励んでいた。もちろん、放送終了後の世界展開での収益を見込んでいるのである http://www.nbc.com/Heroes/)
単に視聴率が下がったからといって、関心が下がったなどとは必ずしも言い切れないし、むしろ、そんな単純なことを言っているヤツは、ただの馬鹿だ。


あらためて歴代のテレビ視聴率のランキングを見ると、大半が1960年代から1990年代前半までの、しかも、ほとんどがNFLスーパーボウルのデータであり、いかにインターネットが普及する2000年前後以降にメディア環境が変わったか、よくわかる。
いくらスーパーボウルが人気があるとはいえ、2001年以降に視聴率45%を越えることができたのはセインツ対コルツの2010年しかないのだ。スーパーボウルがコンスタントに45%を稼ぎ出せたのは、1970年代後半から80年代にかけての「テレビ時代」の話だ。
その一方で、Britain's Got Talentで世界に知られたスーザン・ボイルの動画がそうであるように、Youtubeのちょっとした動画が億単位のアクセスを集める、そういう時代なのだ。
6.9%だから野球は終わったとかどうとか、くだらないにも程がある。

たとえば、今年の春から夏にかけてのスポーツイベントの視聴率を見てみる。
ケンタッキーダービー 6.7%
NCAAトーナメント 6.4%
FOX NASCAR SPRINT CUP-02/27/2011 5.9%
NHLスタンレーカップ ファイナル第7戦 4.8%
ゴルフ 全米オープンのファイナルラウンド 4.5%


野球を叩きたがる数字音痴が口癖のように言いたがるのは、アメリカで人気があるのはNFL、NBA、NHLで、MLBはその次だとかいう、お決まりの陳腐なセリフだが、例えばNHLは、MLBのワールドシリーズにあたるスタンレーカップの、それもファイナル第7戦ですら、全米視聴率は5%も無いのである。
また、詳しくは書かないが、ケーブルにおけるNBAの数字は、1%台から3%台であることが珍しくない。
当然のことだが、これらの低い数字は、それらのスポーツが人気低迷状態にあることを意味する数字ではなく、「テレビ視聴率で何か言えた時代など、とっくに終わっている」という単純な話だ。


スポーツ以外のテレビ番組にも目を向けてみる。

America's Got Talentは、携帯電話のセールスマンだったポール・ポッツや、ただのオバサンだったスーザン・ボイルをスターにしたイギリスのBritain's Got Talentの元ネタになったオーディション番組で、週間視聴率全米トップ5に入るほどの人気番組だが、この人気番組America's Got Talentですら、視聴率は7.2〜8.8にしかない。

2010年に終了した全米人気テレビシリーズで、
日本でもヒットした作品の最終回視聴率

Lost       7.5%
24         5.2%
Ugly Betty  4.2%
Heroes     2.8%


2000年〜2009年に終了した
全米人気テレビシリーズで、
日本でも大ヒットした作品の最終回視聴率

ER         10.4% 2009
The X-Files   7.9% 2002
Nash Bridges 6.3% 2001



視聴率7.5%で終了したLostや、視聴率5.2%で終了した24を「全米大ヒット」ともてはやす一方で、視聴率6.9%のMLBが低迷とか言っているヤツは、それが日本のスポーツメディアのガラクタ記者であれ、一般人であれ、根本的に馬鹿だ。
そもそも「インターネット時代に、テレビがどういう位置にあるか?」 という、今の時代には誰でもが頭に入れていなければならないことすら、まるでわかってない。
MLBのチームでも、白人の多いチームもあれば、多国籍なチームもあり、地域性がマーケティングに反映する。アメリカには、たくさんの人種がいて、それぞれがある種の文化的な意味のタコツボに入っていて、文化的なコミュニティを持っている。
いくら誰でも楽しむことができるのがスポーツの良さではある。だが、大半の人気ドラマシリーズの最終視聴率すら10%どころか5%にも満たずに終わってしまうこの時代に、特定のスポーツの特定のイベントが全米の人口の10%以上を確実に楽しませることは、もう昔のテレビ全盛時代のように簡単な話ではないのだ。


こんな当たり前のことすら、こうして時間を費やしてブログに書かなくてはならないのだから、日本のスポーツをめぐる言説のレベルも、本当にたかがしれている。

今の日本では、こんな、言わなくてもよさそうなことでさえ、きちんと言っておかなくてはならない。どうしてまた、こんなに言説のレベルが下がっているのか。
下がったのは、MLBのオールスターの視聴率以上に、日本の言葉と議論のレベルだ。







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