March 17, 2012
先日ツイッターで、「ダルビッシュのフォームが崩れている」という主旨のことを書いたが、そのことをちょっと詳しく書いて、後々のためのメモを残しておきたい。
ちょうど去年の今頃、MLBに移籍する前のダルビッシュのフォームについて、こんなことを書いた。
指摘したかったメジャー移籍前のダルビッシュのフォームの特徴のひとつは、「上半身を強くよじったままの状態」を保って投球するフォーム、別の言い方をすれば、「上半身を、下半身より常に遅らせて動作するフォーム」だという点だ。
たとえていうなら、ねじったドーナツである「ツイスト」だ。
ついでだから、このブログでは、便宜的にメジャー移籍前のダルビッシュのフォームを、誰もが「ダル」と呼ぶダルビッシュのことをWBCで冗談まじりに「ビッシュ」と呼んだイチローにならって、「ビッシュ・ツイスト」と呼ぶことにする(笑)
「ビッシュ・ツイスト」では、「カラダに強いひねりを加える」目的で、「上半身を、下半身よりわざと遅らせて動作する」のがポイントのひとつだ。
バッター側から見ると、ダルビッシュの下半身がホームプレートをまっすぐ向くのが見えるにもかかわらず、背番号がまだ見えているような、「カラダのねじれ」、つまりこのブログのいう「ビッシュ・ツイスト」状態が作り出される。
この「ねじれ」たカラダを瞬時に反対向きにひねることで、ひねりから発生するチカラでボールに威力が加わるだけでなく、フォーム全体を「速く、しかも安定した状態で終了する」ことができる。
そして、この一連の動作のためには、松阪投手や岩隈投手がやっているような、このブログでいうところの「蹴り出し動作」は必要ないし、無いほうがいい。(そもそも「蹴り出し動作」のある投球フォームと、蹴り出しの無い「ビッシュ・ツイスト」はメカニズムと体のバランスが根本的に違う。ダルビッシュも昔はこの「蹴り出し動作」をやっていた。 ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。)
「ピッチャーが投球動作全体を早く動作することのメリット」については一度書いた。以下の記事で引用した、Eduardo PerezがBaseball Tonightで行ったクリフ・リーのフォームについての指摘を参照してもらいたい。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月26日、クリフ・リーの投球フォームが打ちづらい理由。「構えてから投げるまでが早くできている」メジャーの投球フォーム。メジャー移籍後のイチローが日本とはバッティングフォームを変えた理由。
また、松坂投手、岩隈投手の「蹴り出し動作」、プレートに対して横向きに踏み出す動作、ノーラン・ライアンとの比較などについては、下記の記事を参照してもらいたい。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月25日、ノーラン・ライアンを思わせる「前ステップ」をみせる大阪ガスの松永昂大投手。高校からプロになった投手と、大学を経由した投手とのフォームの違い。
さて、テキサスに移籍して以降のダルビッシュだが、どんどん「ビッシュ・ツイスト」から離れて行っている印象があった。渡米直後の初ブルペンからこの傾向があって、3月13日のインディアンス戦でますます酷くなった感がある。
わかりやすい話として、「踏み出された左足の、つま先の向き」(あるいは膝の向き)に注目して下記の写真を見てみてもらいたい。
MLB移籍前
投球動作のかなり速い段階で、「左足つま先」がホームプレート方向を向いているのがわかる。
つま先がプレート方向をまっすぐ向くくらいだから、当然のことながら、「左足の膝」もしっかりホームプレート方向を向いている。つまり、左足のつま先と膝の向きから明らかなことは、下半身全体が、投球動作のかなり早い段階でしっかりプレート方向に向いていること、である。(だからリリース時にも左足位置は全くズレない)
だが、上半身は、というと、バッターにダルビッシュの背番号が見えるほど、ひねった状態をキープしている。これがまさに「ビッシュ・ツイスト」だ。
MLB移籍後
しかし、テキサスに移籍してからのダルビッシュの「左足のつま先」は、明らかにプレート方向を向くのが日本にいるときよりも遅い(下記の写真の赤い線で四角く囲った「左足のつま先」部分)。
左足の膝もサード側を向いたままだ。
つま先も、膝も、日本時代よりサード側を向いて投げているということは、「左足をまっすぐ、大きくプレート方向に踏み出していない」こと、「下半身をプレート方向にまっすぐ向けて投げていない」こと、を意味する。
また、細かく言えば、松阪投手風の「蹴り出し」動作も多少復活してしまっているために投球動作全体がやや遅くなり、バッターがタイミングを合わせやすくなってしまっている。
渡米直後の
ブルペン
3月13日
スプリング・トレーニング インディアンス戦
「下半身全体がプレート方向をまっすぐ向かないまま」踏み出しすと、投球動作は一瞬の出来事なのだから、上半身の動作はすぐに下半身に追いついてしまい、上半身と下半身は同時にボールのリリース動作に入っていってしまう。そして腕の振りは速度が速いため、すぐに下半身の時系列的変化を追い越してしまう。
このことで起こるのは
これはマズい。
というのは、上半身と下半身が同じタイミングで動いたのでは、「カラダ全体に独特のヒネリが加わわらない」、つまり、「ビッシュ・ツイスト」が起らないないまま投げることになってしまう、からだ。
本来の「ビッシュ・ツイスト」では、プレート方向に大きく、しかも「まっすぐ」踏み出した左足でまず地面をしっかりと踏みしめる。(ここで、あらかじめまっすぐ踏み出しておくからこそ、ボールをリリースする瞬間に、左足の位置、特に踵の位置を直す必要がなくなり、コントロールが安定する)
それから、かなり遅れて上半身がかぶさってきて、ボールを強くリリースする仕組みのはずだ。
だが、「上半身と下半身の動作が揃ってしまう」と、こうした「上半身と下半身の動作を故意にずらして、カラダにヒネリを生みだし、ヒネリからパワーを発生させるメカニズム」そのものが消えて無くなってしまう。
まぁ、そんなむつかしいことを言うよりなにより、下半身と上半身が同時にプレート方向を向くと、なんともいえず力感の無いというか、ぶっちゃけ「ブサイクな投球フォーム」になってしまう。(下記の写真の状態。明らかに下半身の動きを上半身が追い越してしまっている)
見た目に「ブサイク」なフォームというのは、たいていどこかに欠陥があるものだ。
どうして「ビッシュ・ツイスト」の本来の形が崩れたのだろう。
ひとつ考えられるのは、左足の「ふみ出し幅」を、MLBのマウンドに合わせて「故意に小さくしよう」としたことではないか、と推測する。
もともと「ビッシュ・ツイスト」では、まっすぐ、しかも、大きく、プレート方向に踏み出していたわけだが、もし、左足の踏み出しを小さくすると、下半身の動作が中途半端なタイミングで、しかも予定しているタイミングより早く終わってしまい、遅らせて動作するはずの上半身が、プレート方向に前のめりに突っ込んでいくような感覚とタイミングでリリースに進んでいくために、上半身と下半身の動作のズレが発生しなくなり、結果的に下半身と上半身の動きが揃ってしまって、カラダのヒネリの効果が失われてしまう。
あと、細かい点でいうと、(「蹴り出し動作」の復活もあって)最初からプレート方向にまっすぐ踏み出さないせいで、ボールのリリース時に、カラダを支えている左足の踵(かかと)が横に「ズリッ」と横ズレする現象まで起きはじめてしまう。(MLB移籍後の動画で、ダルビッシュの投球動作を後ろから見ると、この「左足スベリ現象」がわかると思う)
参考:MLB公式サイトのビデオ(以下の動画で、15秒目、23秒目、30秒目あたり。ボールリリース時に左足が「ズリッ」っと横にズレるのがよくわかる。また、46秒目などは左足のカカト側に体重があるためズレないが、ズレるときと、ズレないときがバラバラあるのも良くはない)
Baseball Video Highlights & Clips | TEX@CLE: Darvish yields two runs in three innings - Video | MLB.com: Multimedia
この状態だと左足がかなり「つま先立ちの状態」になっていて、しかも投げる瞬間に横にズレて投げていると思われるわけで、これではコントロールは安定しないのも当然だろう。
だが、まぁ、なんやかんやいっても、頭がよく柔軟性のある彼のことだから、すぐに修正してくると思う。心配いらないだろう。早く万全な状態での登板が見たいものだし、開幕以降の彼のピッチングが楽しみでならない。
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ちょうど去年の今頃、MLBに移籍する前のダルビッシュのフォームについて、こんなことを書いた。
特徴的なのは、「左足」をホームプレート方向に踏み出しているのにもかかわらず、「上半身」が、「左足の向きとはまさに正反対」なこと。つまり、ダルビッシュは「プレートに背中を向けた状態を保ったまま、左足をホームプレート方向に踏み出せる」のである。
おそらく体を「故意に、強烈に、よじっている」のだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。
指摘したかったメジャー移籍前のダルビッシュのフォームの特徴のひとつは、「上半身を強くよじったままの状態」を保って投球するフォーム、別の言い方をすれば、「上半身を、下半身より常に遅らせて動作するフォーム」だという点だ。
たとえていうなら、ねじったドーナツである「ツイスト」だ。
ついでだから、このブログでは、便宜的にメジャー移籍前のダルビッシュのフォームを、誰もが「ダル」と呼ぶダルビッシュのことをWBCで冗談まじりに「ビッシュ」と呼んだイチローにならって、「ビッシュ・ツイスト」と呼ぶことにする(笑)
「ビッシュ・ツイスト」では、「カラダに強いひねりを加える」目的で、「上半身を、下半身よりわざと遅らせて動作する」のがポイントのひとつだ。
バッター側から見ると、ダルビッシュの下半身がホームプレートをまっすぐ向くのが見えるにもかかわらず、背番号がまだ見えているような、「カラダのねじれ」、つまりこのブログのいう「ビッシュ・ツイスト」状態が作り出される。
この「ねじれ」たカラダを瞬時に反対向きにひねることで、ひねりから発生するチカラでボールに威力が加わるだけでなく、フォーム全体を「速く、しかも安定した状態で終了する」ことができる。
そして、この一連の動作のためには、松阪投手や岩隈投手がやっているような、このブログでいうところの「蹴り出し動作」は必要ないし、無いほうがいい。(そもそも「蹴り出し動作」のある投球フォームと、蹴り出しの無い「ビッシュ・ツイスト」はメカニズムと体のバランスが根本的に違う。ダルビッシュも昔はこの「蹴り出し動作」をやっていた。 ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。)
「ピッチャーが投球動作全体を早く動作することのメリット」については一度書いた。以下の記事で引用した、Eduardo PerezがBaseball Tonightで行ったクリフ・リーのフォームについての指摘を参照してもらいたい。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月26日、クリフ・リーの投球フォームが打ちづらい理由。「構えてから投げるまでが早くできている」メジャーの投球フォーム。メジャー移籍後のイチローが日本とはバッティングフォームを変えた理由。
また、松坂投手、岩隈投手の「蹴り出し動作」、プレートに対して横向きに踏み出す動作、ノーラン・ライアンとの比較などについては、下記の記事を参照してもらいたい。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月23日、昔のダルビッシュと、今のダルビッシュ、どこが、どういう意味で違うのか。ノーラン・ライアン、松坂と比べながら、考える。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年3月25日、ノーラン・ライアンを思わせる「前ステップ」をみせる大阪ガスの松永昂大投手。高校からプロになった投手と、大学を経由した投手とのフォームの違い。
さて、テキサスに移籍して以降のダルビッシュだが、どんどん「ビッシュ・ツイスト」から離れて行っている印象があった。渡米直後の初ブルペンからこの傾向があって、3月13日のインディアンス戦でますます酷くなった感がある。
わかりやすい話として、「踏み出された左足の、つま先の向き」(あるいは膝の向き)に注目して下記の写真を見てみてもらいたい。
MLB移籍前
投球動作のかなり速い段階で、「左足つま先」がホームプレート方向を向いているのがわかる。
つま先がプレート方向をまっすぐ向くくらいだから、当然のことながら、「左足の膝」もしっかりホームプレート方向を向いている。つまり、左足のつま先と膝の向きから明らかなことは、下半身全体が、投球動作のかなり早い段階でしっかりプレート方向に向いていること、である。(だからリリース時にも左足位置は全くズレない)
だが、上半身は、というと、バッターにダルビッシュの背番号が見えるほど、ひねった状態をキープしている。これがまさに「ビッシュ・ツイスト」だ。
MLB移籍後
しかし、テキサスに移籍してからのダルビッシュの「左足のつま先」は、明らかにプレート方向を向くのが日本にいるときよりも遅い(下記の写真の赤い線で四角く囲った「左足のつま先」部分)。
左足の膝もサード側を向いたままだ。
つま先も、膝も、日本時代よりサード側を向いて投げているということは、「左足をまっすぐ、大きくプレート方向に踏み出していない」こと、「下半身をプレート方向にまっすぐ向けて投げていない」こと、を意味する。
また、細かく言えば、松阪投手風の「蹴り出し」動作も多少復活してしまっているために投球動作全体がやや遅くなり、バッターがタイミングを合わせやすくなってしまっている。
渡米直後の
ブルペン
3月13日
スプリング・トレーニング インディアンス戦
「下半身全体がプレート方向をまっすぐ向かないまま」踏み出しすと、投球動作は一瞬の出来事なのだから、上半身の動作はすぐに下半身に追いついてしまい、上半身と下半身は同時にボールのリリース動作に入っていってしまう。そして腕の振りは速度が速いため、すぐに下半身の時系列的変化を追い越してしまう。
このことで起こるのは
「上半身と下半身の動作が揃ってしまう」ことだ。
これはマズい。
というのは、上半身と下半身が同じタイミングで動いたのでは、「カラダ全体に独特のヒネリが加わわらない」、つまり、「ビッシュ・ツイスト」が起らないないまま投げることになってしまう、からだ。
本来の「ビッシュ・ツイスト」では、プレート方向に大きく、しかも「まっすぐ」踏み出した左足でまず地面をしっかりと踏みしめる。(ここで、あらかじめまっすぐ踏み出しておくからこそ、ボールをリリースする瞬間に、左足の位置、特に踵の位置を直す必要がなくなり、コントロールが安定する)
それから、かなり遅れて上半身がかぶさってきて、ボールを強くリリースする仕組みのはずだ。
だが、「上半身と下半身の動作が揃ってしまう」と、こうした「上半身と下半身の動作を故意にずらして、カラダにヒネリを生みだし、ヒネリからパワーを発生させるメカニズム」そのものが消えて無くなってしまう。
まぁ、そんなむつかしいことを言うよりなにより、下半身と上半身が同時にプレート方向を向くと、なんともいえず力感の無いというか、ぶっちゃけ「ブサイクな投球フォーム」になってしまう。(下記の写真の状態。明らかに下半身の動きを上半身が追い越してしまっている)
見た目に「ブサイク」なフォームというのは、たいていどこかに欠陥があるものだ。
どうして「ビッシュ・ツイスト」の本来の形が崩れたのだろう。
ひとつ考えられるのは、左足の「ふみ出し幅」を、MLBのマウンドに合わせて「故意に小さくしよう」としたことではないか、と推測する。
もともと「ビッシュ・ツイスト」では、まっすぐ、しかも、大きく、プレート方向に踏み出していたわけだが、もし、左足の踏み出しを小さくすると、下半身の動作が中途半端なタイミングで、しかも予定しているタイミングより早く終わってしまい、遅らせて動作するはずの上半身が、プレート方向に前のめりに突っ込んでいくような感覚とタイミングでリリースに進んでいくために、上半身と下半身の動作のズレが発生しなくなり、結果的に下半身と上半身の動きが揃ってしまって、カラダのヒネリの効果が失われてしまう。
あと、細かい点でいうと、(「蹴り出し動作」の復活もあって)最初からプレート方向にまっすぐ踏み出さないせいで、ボールのリリース時に、カラダを支えている左足の踵(かかと)が横に「ズリッ」と横ズレする現象まで起きはじめてしまう。(MLB移籍後の動画で、ダルビッシュの投球動作を後ろから見ると、この「左足スベリ現象」がわかると思う)
参考:MLB公式サイトのビデオ(以下の動画で、15秒目、23秒目、30秒目あたり。ボールリリース時に左足が「ズリッ」っと横にズレるのがよくわかる。また、46秒目などは左足のカカト側に体重があるためズレないが、ズレるときと、ズレないときがバラバラあるのも良くはない)
Baseball Video Highlights & Clips | TEX@CLE: Darvish yields two runs in three innings - Video | MLB.com: Multimedia
この状態だと左足がかなり「つま先立ちの状態」になっていて、しかも投げる瞬間に横にズレて投げていると思われるわけで、これではコントロールは安定しないのも当然だろう。
だが、まぁ、なんやかんやいっても、頭がよく柔軟性のある彼のことだから、すぐに修正してくると思う。心配いらないだろう。早く万全な状態での登板が見たいものだし、開幕以降の彼のピッチングが楽しみでならない。
Copyright © 2012 damejima. All Rights Reserved.