May 19, 2012
図1
アメリカの1歳以下の乳児全体に占める
「マイノリティ」のパーセンテージ
Census: Fewer white babies being born – In America - CNN.com Blogs
参考図
メジャーの球団所在地のバラつき
紫色で示した州:ア・リーグ、ナ・リーグ両方の球団がある州
ピンクで示した州:どちらかのリーグの球団だけがある州
図2
2011年オールスターで
前年より視聴率の上がった地域・都市
出典:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月18日、去年より低かった2011MLBオールスターの視聴率 (2)700万票以上集めた選手すら出現したオールスターの「視聴率が下がる」現象は、どう考えても納得などできない。
図3
2010年ワールドシリーズで
テキサスとサンフランシスコのどちらが優勝するか
州別ファンの予想(赤色がテキサス)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月25日、東西を2分する2010ワールドシリーズの優勝チーム予想。
図1の元になった話題は、アメリカの1歳未満の乳児において、白人が初めて過半数を割り込んだという、アメリカ国勢調査局発表のニュースで、図は、CNNが、その国勢調査局発表データから州別の図に起こしたもの。非常に素晴らしい仕上がりである。
このニュースでいう「マイノリティ」、つまり「少数派」とは、ヒスパニック系、アフリカ系アメリカ人である黒人、日本人を含めたアジア系など、要するに、「白人以外」あるいは「有色人種」のことを指している。
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これだけ多様な人種が混在する多民族国家アメリカの居住者を、「白人」と「有色人種」、2つのカテゴリーのみに分類する観点もどうかと思うが、とりあえず、このニュースの観点では、アメリカの1歳以下の乳児における「マイノリティ」は、かつては「有色人種」を指していたわけだが、それがいまや「白人」になった、ということになる。
もちろん人口動態の傾向からして、今後ともこの有色人種増加傾向が継続されるのは間違いない。
言いたいのは、「有色人種万歳」などというレイシズムではなくて、このニュースだけに限っては、今までメディアで頻繁に使われてきた「マジョリティ、マイノリティ」という二分法を無理矢理あてはめながら物事を説明しようとすること、そのものに破綻が生じてきている、ということだ。
言い換えると、このニュースは「アメリカ社会においては、これまで頻繁に使われてきた「マイノリティという人種的なラベリング」が用をなさなくなりつつある」という話。
なのに、その「マイノリティという分類法が意味をなさないニュースにおいて、マイノリティという言葉を使って説明しようとしている」ことに論理的に無理が生じるのは、当然の話だ。
だが、まぁ、ここはそういうややこしいことを議論する場所ではない。詳しい議論は割愛しておく。
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さて、オリジナルのCNNのサイトの図では、各州の上にカーソルを重ねると、乳児だけでなく、各州における「1歳以下の乳児」「18歳以下」「人口全体」、3つのボリュームについて、州別に「マイノリティの人口比率」が右側に表示されるという、素晴らしい仕組みになっている。
野球関連メディアについてもいつも感じさせられることでもあるが、こういうちょっとした点に、アメリカのジャーナリズムの質の高さ、読者に理解しやすくする努力の姿勢を、ヒシヒシと感じさせられる。
ぜひ一度、オリジナルサイトを訪問して、この素晴らしい図の出来具合を体験してみることを勧める。
なお、オリジナルサイトのデータによれば、アメリカ南西部では、人口に占める非白人比率が、カリフォルニア州60%、テキサス州55%、アリゾナ州43%と非常に高いのに対して、ワシントン州28%、オレゴン州22%と、アメリカ北西部の州では、逆に、高い白人比率が堅持されていて、「同じアメリカ西海岸でも、南と北とでは、人種構成に大きな違いがある」ことが、ハッキリ理解できたりする。
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こうしたアメリカ社会の人種的な意味での変容のトレンドは、MLBも無関係ではないどころの騒ぎではなくて、いろいろな面で、非常に深い関係が出ている。また、今後はもっともっと色々な面で強く影響が現れてくるはずだから、この話は、日本のMLBファンの誰もが頭の隅に覚えておくべきニュースだと思う。
もちろんそれは、球団のマーケティングやチーム強化戦略について考えるときの基礎データとしての意味だ。人種意識をいたずらに煽ろうとするような、悪質な意図は全くない。それぞれの人が、それぞれの問題意識に照らして、上の図1-1を解釈したらいいと思う。
とにかく、単純な決めつけだけはしてもらいたくない。こういうことは常に自分で心しておかないと、いらない偏見だけが育つことになる。
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決めつけが良くないという例を、ひとつ挙げておく。
MLBでは、たくさんのベネズエラやドミニカの選手たちが活躍している、という記事を先日書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年4月5日、MLBのロスターの3.5人にひとりは、メインランド(アメリカ大陸の50州)以外の出身選手、というESPNの記事を読む。(出身国別ロスター数リスト付)
だが、ベネズエラやドミニカの選手が多いからといって、MLBで、すべての「白人以外の選手」が全体として増加しているかというと、そんなことはないのである。
アメリカのスポーツメディアでは、アフリカ系アメリカ人、あるいは、かつて多かった中米プエルトリコ出身の選手たちが、減少しているという記事を最近よく目にする。
資料:MLBにおける「アフリカ系アメリカ人プレーヤー」の減少
Number of African-American baseball players dips again – USATODAY.com
Decline Of African-Americans In MLB Discussed As League Marks Jackie Robinson Day - SportsBusiness Daily | SportsBusiness Journal
資料:MLBにおけるプエルトリコ出身選手の減少
Puerto Rico Traces Decline in Prospects to Inclusion in the Baseball Draft - NYTimes.com
資料:増大するドミニカ出身選手の将来像分析と、MLBにおけるプエルトリコ出身選手の減少グラフ)
Baseball in Latin America: Draft dodgers no more | The Economist
つまり、言いたいのは、
アメリカで、これまでマイノリティと呼ばれてきた人種の人口が増加傾向にあるからといって、それがそのままMLBにおける白人以外の選手や、白人以外のファンの増加傾向に直結していると決めつけてはいけない、ということだ。
何度もしつこく書いて申し訳ないが、単純に決めつけてはいけないのである。判断は、もっとさまざまなデータ、記事、事実などから、時間をかけて公平になされるべきだ。
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とはいえ、
最初に挙げた図1、図2の重なりを比較してみると、
つまり、
いくら「軽々しく断言することは間違った行為だ」とはいえ、さすがに大西洋岸と並んで、全米でも非常に野球の盛んな地域のひとつであるカリフォルニアからテキサスにかけてのエリア、つまり、MLBでいう「西地区」でのマーケティングにおいては、非白人の動向が無視できない、くらいのことは言っても問題ないだろう。(逆にいうと、アメリカ中西部と東部の内陸の一部における野球やプロスポーツへの関心の低さも)
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ちなみに図2は、去年イチローが初めて落選したオールスターの選考プロセスがあまりにも納得がいかないことから記事を書きまくっていた時期に、自作したものだ。
だから、世界中どこのサイトを探しても、この図は落ちていない。気になったデータというものは、やはりとっておくものだと、つくづく思う。こんなところで繋がってくるとは正直思わなかった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月18日、去年より低かった2011MLBオールスターの視聴率 (2)700万票以上集めた選手すら出現したオールスターの「視聴率が下がる」現象は、どう考えても納得などできない。
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あらためて確認しておきたいが、たった2つや3つのグラフから、単純に「MLBを支えているコアなファン層は、非白人層が中心だ」とか、「西海岸でのMLBチームのマーケティングで、非白人層の存在を十分考慮しないマーケティングは、間違っている」とか、単純に結論づけられるものでもない。
現実ってものは、そんな単純なものじゃない。
例えば、ファンにも様々なタイプがあることを考えてもわかる。
スタジアム入場料金の高さは、アメリカのメディアでもよく取り上げられるが、スタジアムに来るにしても、有料のケーブルテレビを契約して観戦するにしても、いずれにせよ、金はかかる。
中には、高額なシーズンチケットを購入して球団にお金を落としてくれるのに多忙で時間がなくスタジアムにあまり来られないファンもいれば、スタジアムに足しげく通いたいために高額な席を敬遠する層もいるだろうし、スタジアムには来ないが有料のケーブルテレビで毎日試合を観戦してくれる層もいれば、海外旅行のついでにスタジアムを訪れ、市街地でも買い物や食事で大金を落としていってくれる外国人もいる。ファンの形もさまざまだ。
だから球団運営についても、スタジアムの入場料収入やユニフォームの売り上げなどを重視するオーソドックスな考え方もあるだろうし、最近のエンゼルスやテキサスのように、ケーブルテレビから入ってくる超高額の収入をアテにしたチーム強化戦略をとる考え方もある。
(非白人比率の高くなっているテキサスやカリフォルニアでの球団運営戦略として、ケーブルテレビを重視する球団運営は、非常に理にかなっていると思う)
どの観客層から、どんな収入を得るか、何を球団マーケティングの中心とみなすかは、地域差やチーム事情による違いがあるが、それぞれのチームの特性に応じた施策が必要なのは言うまでもない。
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少なくとも今の時点でシアトルに関して言いたいのは、
目を開けて、時代を見ろ、ということ。
そんな甘い見通りなど、通用するわけがない。それは、いくら白人比率の比較的高いと「思われている」ワシントン州シアトルであっても、だ。
そんな「ヤワな策略」で、ケーブルテレビの高収入をもとに、あらゆる国から人種と価格を問わず、優れたスカウトマンが、優れた選手をかき集めてきて、優れたコーチが上手に若い選手を育成してメジャーに上げてくる西地区の強豪を凌駕できる、わけがない。
自分のいる場所の現状さえわからないようでは、ダメだ。
ワシントン州の人口に占める非白人比率は、現状たしかに28%と低いが、1歳以下の乳児に限れば、既に44%もの高率になっている。ワシントン州で近未来の非白人比率が高まるのは、確実だ。
モンタナやアイオワ、ワイオミング、ダコタのように、全体人口においても乳児においても白人比率が高く、そのかわり、MLBの球団が存在しない (ひいてはプロスポーツのマーケットそのものが無い)州とは、まるで事情が違うのだ。(だからといって、ベネズエラ人のフェリックス・ヘルナンデスでセーフコフィールドが満員にできているわけでもない。そこがシアトル独特の難しさだ)
時代の変化に目をつぶっている人間を置き去りにして、
時代は容赦なく変わっていく。
アメリカの1歳以下の乳児全体に占める
「マイノリティ」のパーセンテージ
Census: Fewer white babies being born – In America - CNN.com Blogs
参考図
メジャーの球団所在地のバラつき
紫色で示した州:ア・リーグ、ナ・リーグ両方の球団がある州
ピンクで示した州:どちらかのリーグの球団だけがある州
図2
2011年オールスターで
前年より視聴率の上がった地域・都市
出典:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月18日、去年より低かった2011MLBオールスターの視聴率 (2)700万票以上集めた選手すら出現したオールスターの「視聴率が下がる」現象は、どう考えても納得などできない。
図3
2010年ワールドシリーズで
テキサスとサンフランシスコのどちらが優勝するか
州別ファンの予想(赤色がテキサス)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月25日、東西を2分する2010ワールドシリーズの優勝チーム予想。
図1の元になった話題は、アメリカの1歳未満の乳児において、白人が初めて過半数を割り込んだという、アメリカ国勢調査局発表のニュースで、図は、CNNが、その国勢調査局発表データから州別の図に起こしたもの。非常に素晴らしい仕上がりである。
このニュースでいう「マイノリティ」、つまり「少数派」とは、ヒスパニック系、アフリカ系アメリカ人である黒人、日本人を含めたアジア系など、要するに、「白人以外」あるいは「有色人種」のことを指している。
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これだけ多様な人種が混在する多民族国家アメリカの居住者を、「白人」と「有色人種」、2つのカテゴリーのみに分類する観点もどうかと思うが、とりあえず、このニュースの観点では、アメリカの1歳以下の乳児における「マイノリティ」は、かつては「有色人種」を指していたわけだが、それがいまや「白人」になった、ということになる。
もちろん人口動態の傾向からして、今後ともこの有色人種増加傾向が継続されるのは間違いない。
言いたいのは、「有色人種万歳」などというレイシズムではなくて、このニュースだけに限っては、今までメディアで頻繁に使われてきた「マジョリティ、マイノリティ」という二分法を無理矢理あてはめながら物事を説明しようとすること、そのものに破綻が生じてきている、ということだ。
言い換えると、このニュースは「アメリカ社会においては、これまで頻繁に使われてきた「マイノリティという人種的なラベリング」が用をなさなくなりつつある」という話。
なのに、その「マイノリティという分類法が意味をなさないニュースにおいて、マイノリティという言葉を使って説明しようとしている」ことに論理的に無理が生じるのは、当然の話だ。
だが、まぁ、ここはそういうややこしいことを議論する場所ではない。詳しい議論は割愛しておく。
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さて、オリジナルのCNNのサイトの図では、各州の上にカーソルを重ねると、乳児だけでなく、各州における「1歳以下の乳児」「18歳以下」「人口全体」、3つのボリュームについて、州別に「マイノリティの人口比率」が右側に表示されるという、素晴らしい仕組みになっている。
野球関連メディアについてもいつも感じさせられることでもあるが、こういうちょっとした点に、アメリカのジャーナリズムの質の高さ、読者に理解しやすくする努力の姿勢を、ヒシヒシと感じさせられる。
ぜひ一度、オリジナルサイトを訪問して、この素晴らしい図の出来具合を体験してみることを勧める。
なお、オリジナルサイトのデータによれば、アメリカ南西部では、人口に占める非白人比率が、カリフォルニア州60%、テキサス州55%、アリゾナ州43%と非常に高いのに対して、ワシントン州28%、オレゴン州22%と、アメリカ北西部の州では、逆に、高い白人比率が堅持されていて、「同じアメリカ西海岸でも、南と北とでは、人種構成に大きな違いがある」ことが、ハッキリ理解できたりする。
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こうしたアメリカ社会の人種的な意味での変容のトレンドは、MLBも無関係ではないどころの騒ぎではなくて、いろいろな面で、非常に深い関係が出ている。また、今後はもっともっと色々な面で強く影響が現れてくるはずだから、この話は、日本のMLBファンの誰もが頭の隅に覚えておくべきニュースだと思う。
もちろんそれは、球団のマーケティングやチーム強化戦略について考えるときの基礎データとしての意味だ。人種意識をいたずらに煽ろうとするような、悪質な意図は全くない。それぞれの人が、それぞれの問題意識に照らして、上の図1-1を解釈したらいいと思う。
とにかく、単純な決めつけだけはしてもらいたくない。こういうことは常に自分で心しておかないと、いらない偏見だけが育つことになる。
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決めつけが良くないという例を、ひとつ挙げておく。
MLBでは、たくさんのベネズエラやドミニカの選手たちが活躍している、という記事を先日書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年4月5日、MLBのロスターの3.5人にひとりは、メインランド(アメリカ大陸の50州)以外の出身選手、というESPNの記事を読む。(出身国別ロスター数リスト付)
だが、ベネズエラやドミニカの選手が多いからといって、MLBで、すべての「白人以外の選手」が全体として増加しているかというと、そんなことはないのである。
アメリカのスポーツメディアでは、アフリカ系アメリカ人、あるいは、かつて多かった中米プエルトリコ出身の選手たちが、減少しているという記事を最近よく目にする。
資料:MLBにおける「アフリカ系アメリカ人プレーヤー」の減少
Number of African-American baseball players dips again – USATODAY.com
Decline Of African-Americans In MLB Discussed As League Marks Jackie Robinson Day - SportsBusiness Daily | SportsBusiness Journal
資料:MLBにおけるプエルトリコ出身選手の減少
Puerto Rico Traces Decline in Prospects to Inclusion in the Baseball Draft - NYTimes.com
資料:増大するドミニカ出身選手の将来像分析と、MLBにおけるプエルトリコ出身選手の減少グラフ)
Baseball in Latin America: Draft dodgers no more | The Economist
つまり、言いたいのは、
アメリカで、これまでマイノリティと呼ばれてきた人種の人口が増加傾向にあるからといって、それがそのままMLBにおける白人以外の選手や、白人以外のファンの増加傾向に直結していると決めつけてはいけない、ということだ。
何度もしつこく書いて申し訳ないが、単純に決めつけてはいけないのである。判断は、もっとさまざまなデータ、記事、事実などから、時間をかけて公平になされるべきだ。
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とはいえ、
最初に挙げた図1、図2の重なりを比較してみると、
図1、図2において、濃い薄い両面で、「ピッタリ重なる地域」が存在することは、否定できない。
つまり、
いくら「軽々しく断言することは間違った行為だ」とはいえ、さすがに大西洋岸と並んで、全米でも非常に野球の盛んな地域のひとつであるカリフォルニアからテキサスにかけてのエリア、つまり、MLBでいう「西地区」でのマーケティングにおいては、非白人の動向が無視できない、くらいのことは言っても問題ないだろう。(逆にいうと、アメリカ中西部と東部の内陸の一部における野球やプロスポーツへの関心の低さも)
ア・リーグ西地区3州における非白人比率(%)
カリフォルニア州 テキサス州 ワシントン州
1歳以下 75 70 44
18歳以下 73 67 40
全人口 60 55 28
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ちなみに図2は、去年イチローが初めて落選したオールスターの選考プロセスがあまりにも納得がいかないことから記事を書きまくっていた時期に、自作したものだ。
だから、世界中どこのサイトを探しても、この図は落ちていない。気になったデータというものは、やはりとっておくものだと、つくづく思う。こんなところで繋がってくるとは正直思わなかった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月18日、去年より低かった2011MLBオールスターの視聴率 (2)700万票以上集めた選手すら出現したオールスターの「視聴率が下がる」現象は、どう考えても納得などできない。
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あらためて確認しておきたいが、たった2つや3つのグラフから、単純に「MLBを支えているコアなファン層は、非白人層が中心だ」とか、「西海岸でのMLBチームのマーケティングで、非白人層の存在を十分考慮しないマーケティングは、間違っている」とか、単純に結論づけられるものでもない。
現実ってものは、そんな単純なものじゃない。
例えば、ファンにも様々なタイプがあることを考えてもわかる。
スタジアム入場料金の高さは、アメリカのメディアでもよく取り上げられるが、スタジアムに来るにしても、有料のケーブルテレビを契約して観戦するにしても、いずれにせよ、金はかかる。
中には、高額なシーズンチケットを購入して球団にお金を落としてくれるのに多忙で時間がなくスタジアムにあまり来られないファンもいれば、スタジアムに足しげく通いたいために高額な席を敬遠する層もいるだろうし、スタジアムには来ないが有料のケーブルテレビで毎日試合を観戦してくれる層もいれば、海外旅行のついでにスタジアムを訪れ、市街地でも買い物や食事で大金を落としていってくれる外国人もいる。ファンの形もさまざまだ。
だから球団運営についても、スタジアムの入場料収入やユニフォームの売り上げなどを重視するオーソドックスな考え方もあるだろうし、最近のエンゼルスやテキサスのように、ケーブルテレビから入ってくる超高額の収入をアテにしたチーム強化戦略をとる考え方もある。
(非白人比率の高くなっているテキサスやカリフォルニアでの球団運営戦略として、ケーブルテレビを重視する球団運営は、非常に理にかなっていると思う)
どの観客層から、どんな収入を得るか、何を球団マーケティングの中心とみなすかは、地域差やチーム事情による違いがあるが、それぞれのチームの特性に応じた施策が必要なのは言うまでもない。
------------------------------------------
少なくとも今の時点でシアトルに関して言いたいのは、
目を開けて、時代を見ろ、ということ。
年々相対的にレベルの低下していっているドラフト対象の白人プレーヤーの現状に目をつぶるかのように、ドラフトで獲得しまくり、ラインアップに若い選手を並べてみました、ということだ。
というだけで、
アメリカ南西部の強豪に負けない強い球団をつくり、
しかも
スタジアムを満員にしていける、そんな時代ではない。
そんな甘い見通りなど、通用するわけがない。それは、いくら白人比率の比較的高いと「思われている」ワシントン州シアトルであっても、だ。
そんな「ヤワな策略」で、ケーブルテレビの高収入をもとに、あらゆる国から人種と価格を問わず、優れたスカウトマンが、優れた選手をかき集めてきて、優れたコーチが上手に若い選手を育成してメジャーに上げてくる西地区の強豪を凌駕できる、わけがない。
自分のいる場所の現状さえわからないようでは、ダメだ。
ワシントン州の人口に占める非白人比率は、現状たしかに28%と低いが、1歳以下の乳児に限れば、既に44%もの高率になっている。ワシントン州で近未来の非白人比率が高まるのは、確実だ。
モンタナやアイオワ、ワイオミング、ダコタのように、全体人口においても乳児においても白人比率が高く、そのかわり、MLBの球団が存在しない (ひいてはプロスポーツのマーケットそのものが無い)州とは、まるで事情が違うのだ。(だからといって、ベネズエラ人のフェリックス・ヘルナンデスでセーフコフィールドが満員にできているわけでもない。そこがシアトル独特の難しさだ)
時代の変化に目をつぶっている人間を置き去りにして、
時代は容赦なく変わっていく。