June 07, 2012

最近、MLBではアフリカ系アメリカ人(いわゆる黒人)プレーヤーが縮小傾向にあると、いわれることについて、何度も引用してきている。
USA Todayのある記事に言わせると(その記事の言い分を絶対的なものと信じてもらっても困るのだが)、アフリカ系アメリカ人プレーヤーの減少は、アフリカ系アメリカ人観客の減少を招いており、「2011年にMLBを見に来場してくれたアフリカ系アメリカ人の割合は、わずか9%に過ぎない」というマーケティング会社の調査があるらしい。
The lack of African-American players also affects diversity in the stands. Just 9% of fans who attended an MLB game last season were African American, according to a recent Scarborough Marketing Research study.
Number of African-American baseball players dips again – USATODAY.com

その一方で、これも何度も書いているように、ベネズエラドミニカなど、ヒスパニック系プレーヤーのウエイトは年々確実に重さを増していっている。(だが、だからといって「スタジアムにおけるヒスパニック系ファン数も急増した」とまで言えるかどうかは、手元に資料がないのでわからない)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年4月5日、MLBのロスターの3.5人にひとりは、メインランド(アメリカ大陸の50州)以外の出身選手、というESPNの記事を読む。(出身国別ロスター数リスト付)

州別・1歳以下の乳児に占める非白人率
州別・乳児に占めるマイノリティ率


先日、アメリカで「1歳以下の乳児」に占める「非白人」のパーセンテージがついに「白人」より多くなったというニュースについて書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2012年5月18日、「アメリカでの非白人比率の増大傾向」と、「MLBプレーヤー、ファン両面の人種構成の変化」との複雑な関係。
そしてこんどは、アメリカでアフリカ系アメリカ人の平均寿命が伸び、白人との平均寿命の差が縮小したというニュースを読んだ。これもMLBのおかれた環境を知る上で、なかなか面白い。

男性
白人    75.3歳 → 76.2歳
アフリカ系 68.8歳 → 70.8歳
両社の差  6.2歳 → 5.4歳

女性
白人    80.3歳 → 81.2歳
アフリカ系 75.7歳 → 77.5歳
両社の差  6.0歳 → 3.7歳
米国で黒人の平均寿命伸びる、白人との差が縮小=調査 | 世界のこぼれ話 | Reuters


ただ、このニュース、ちょっとだけ気をつけてほしい点がある。

日本の新聞社などにこのニュースを配信したのは、大手通信社のロイターだが、この現象の社会背景の解説として、「エイズや心臓病で死亡する黒人の数が減少した一方、ドラッグの服用などで死亡する白人若年層が増加したことが背景にあるとみられている」と、通信社側の解釈を元に文章をつけくわえているのは、いただけないことだ。
これではまるで、あたかも「白人の麻薬中毒死の増加」が、「近年のアフリカ系アメリカ人と白人の寿命格差縮小の大きな要因のひとつである」かのように読めてしまう。
だが、そうした説明は、ロイターの配信の元ネタであるアメリカの医学誌JAMAの記事、およびJAMAの記事が引用しているCDCのデータの内容と、必ずしも一致しない。


数字を見れば明らかなように、白人とアフリカ系アメリカ人の平均寿命の差が縮小したのは、なにも白人の寿命が急激に短くなったから起きたわけではなく、アフリカ系アメリカ人の平均寿命、特に女性の平均寿命が「伸びた」ことによる。
アフリカ系アメリカ人の平均寿命の「伸び」の長期的な社会背景は、エイズによって死ぬ人数の減少などという短期的なことより、近年アフリカ系アメリカ人に医療保険を受けられる人が増えたことが大きい、とする説明のほうが、はるかに説得力も合理性もある。

ちなみにアメリカは、世界の平均寿命ランキングにおいて世界40位前後らしいが、日本やヨーロッパに比べると、新生児や幼児の死亡率がかなり高い。
世界保健機関(WHO)の2011年5月13日発表データによれば、日本の新生児死亡率はおよそ1000人に1人、幼児死亡率がおよそ1000人に2人と、ほぼ世界で最も良いレベルにある。また西ヨーロッパでも、新生児2人、幼児3人程度で、これは世界最高クラスの数字だ。
だが、アメリカでは、新生児4人、幼児7人と、子供たちの死亡率は高い。しかも、手元に資料がないのだが、下記の記事などによれば、同じアメリカ人でも、アフリカ系アメリカ人における新生児や幼児の死亡率は、さらに高いようだ。(なお、以下の記事は2007年と、ちょっと古いものであることに注意)
アメリカでは1,000人の新生児に対して6.8人が死んでいます。(中略)黒人の場合は13.7人が死んでおり、サウジアラビアと同じレベル。
亜米利加よもやま通信 〜コロラドロッキーの山裾の町から


日本は、かつて「人生50年」という言葉が存在していたように、第二次大戦前までの平均寿命が50歳を越えない状態が続き、アメリカよりはるかに下だった。
だが、第二次大戦後いわゆる「国民皆保険」を実現したことによって、戦後わずか20年しかたっていない1960年代には、アメリカを抜き去って、現在の世界最高レベルの長寿国への道を歩み出した。
こうしたほかならぬ日本の実例からしても、薬物中毒やエイズによる死者の減少よりも、「誰もが医療を受けられる医療保険制度の有無」が、人間の平均寿命に与える影響と即効性が遥かに大きいことは、明らかだ。
アメリカと日本の平均寿命推移
図録▽寿命の伸びの長期推移(対米比較)より引用


また、以下に示すように、元ネタになった医学誌記事が引用しているデータでいう「薬物中毒死」とは、必ずしも麻薬中毒によるものだけを指しているのではなく、「違法・合法を問わず、広い意味での薬物中毒死全体」を指している。
このニュースを読む人に、あたかもアメリカの白人に麻薬が蔓延し、バタバタ死んでいっているかのようなイメージを与えかねない解説を添付するのは、ちょっとやりすぎだと思う。

このニュースのオリジナルソースとなった記事(JAMA Network | JAMA: The Journal of the American Medical Association | Trends in the Black-White Life Expectancy Gap, 2003-2008)が発表されたのは、世界で最も発行部数の多い医学学会誌であるジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション (The Journal of the American Medical Association 略称JAMA 日本では『米国医師会誌』あるいは『米国医師会雑誌』などと表記される。1883年創刊)。
そして、JAMAに掲載された元記事がデータのソースとして引用したデータは、アメリカの疾病対策センター(CDC, National Center for Health Statistics Homepage)のデータである。

このJAMAの記事が示している引用元のひとつはいくつかあるが、以下のCDCの「薬物中毒=Drug Poisoning」に関する記事(リンク先)では、薬物中毒について、必ずしも「麻薬中毒 drug abuse」によるものだけを指しているわけではない。
In 2008, over 41,000 people died as a result of a poisoning.(中略)Drugs ― both legal and illegal ― cause the vast majority of poisoning deaths.
資料(pdf) CGC: Drug Poisoning Deaths in the United States, 1980–2008



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