June 08, 2012
マイケル・ソーンダースのバッティングが今シーズン非常に良化していることに、誰もが驚いている。
彼の最大の弱点が、カウントを追い込まれてからのインコース低めの変化球であることは、誰もがわかりすぎるほどわかっていたことだが(いまのジャスティン・スモークにも同じ欠点がある)、今年はなんと、そのインローの変化球をカットできるようにすらなってきている。
また、昔から長打できるのはインコースの高めのストレート系だけであり、MLBの左バッターが誰でも苦労するアウトコースの2シームを長打できるほどのパワーをバットに伝達する技術などなかったわけだが、今年は外の球でもホームランできている。
かつてのソーンダースの欠点は、2009年のメジャーデビュー以来、これまで何シーズンも進歩が見られなかっただけに、たいていのファンは彼のキャリアも今年で終わりかと諦めかけていたわけだが、変われば変わるものだ。
デビュー当時と今とで、彼のバッティングで最も変わった点は、なんといってもタイミングのとりかただ。
昔のソーンダースのバッティングフォームは、ピッチャーが動作を開始するタイミングや、投げる球種とまったく無関係に、自分のタイミングでバットを引き、来る球をスイングする、たったそれだけの「ワンタイミングのスイング」でしかなかった。(これだとバットを引いて待っている間に、せっかくバットにためこんだ加速度は、まるっきり失われてしまう)
だから、結局のところ昔のソーンダースが用意できていたのは、「ストレート系に合わせた、たった1種類のタイミングだけ」だったわけで、これでは投手に少しでもタイミングをズレされる、つまり、チェンジアップや高速シンカーような変化球を投げられると、もう手も足も出なかった。
それにくらべて今シーズンのソーンダースのスイングは、下の動画の比較でわかるように、バットを持った手を細かく動かしながらピッチャーの投球動作の開始を待ち、動作開始にピタリと照準をあわせてバットを引き、スイングを始動できるようになっている。
この「手を細かく動かしつつ、スイング開始タイミングを、球種や投手のクセにアジャストする工夫」を導入したおかげで、ストレート系であれ、変化球であれ、スイングするタイミングや始動のきっかけの異なるさまざまな球種に細かく対応することが可能になってきたわけだ。
彼がメジャーデビューしたのは、2009年7月25日のクリーブランド戦だが、当時のソーンダースと今のソーンダースの打撃フォームを動画で比べてもらうとよくわかるはず。
2009年
8月5日 投手 ケイル・デイビス(KC)
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@KC: Saunders' first extra-base hit has Seattle up - Video | MLB.com: Multimedia
2012年
6月5日 投手 ギャレット・リチャーズ(LAA)
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@LAA: Saunders skies a solo homer to center - Video | MLB.com: Multimedia
マイケル・ソーンダースの動画(MLB公式)
Multimedia Search | MLB.com: Multimedia
と、まぁ、書くと、
「なーんだ。タイミングかえただけの話かよ」と思われてしまいがちだ(笑)
そうでもない。下の画像を見てもらうとわかる。タイミングの取り方を変えただけで打てるようになるものでもない。

これは今年のソーンダースで、6月5日のLAA戦でホームランを打った打席のソーンダースの「構え」だ。打ったのは、カウント3-1からの96マイルの4シーム。
バットの角度に注目してもらいたい。
このときの投手ギャレット・リチャーズは、常に95マイル以上のストレートが投げられる速球派だが、今シーズンのソーンダースは、こういう速球派との対戦においても、バットをまだ少し寝かせたままにしておき、いつでも打てる態勢になってしまうのを「我慢」できる。
この「待ち時間」が、パワーを生む。
もし「ピッチャーの投球動作にもっと早くから合わせていた昔のソーンダース」なら、「ピッチャーの投球動作の早い段階で、すでにバットの角度が立ってしまい、いつでもスイングできる態勢に入っていただろう」と思う。
テニスでは、野球でいう「振り遅れ」を避ける意味で、「できるだけ速くラケットを後方に引いて、構えていなさい」と、テニスでいう「構え遅れ」を避ける指導をすると聞く。
だが、「素材のしなり」を含み、なおかつ「先端が重くて、長い」木製バットを一連の動作で振り回す野球のバッターの場合、バットをあまりにも早く引きすぎて、つまり、必要以上に早いタイミングでしっかり構えきってしまうと、バットのヘッドに蓄積できるはずのパワーがスッと抜けてしまい、力感の無いスイングになってしまう。
マイケル・ソーンダースのスイングは、たとえて言えば、ルアー釣りでルアーを遠くにキャストする動作にちょっと似ている。
ロッドをふりかぶっても、すぐにキャスト(投げる)わけではなく、ルアーの重みや、ロッドのしなりから生まれる遠心力が、ロッド先端にしっかりと「のって」、ロッドが最大にたわむ瞬間を一瞬だけ待って、それから一気にスイングする。
この「待ち時間の長さ」は、そのとき使うルアーの重さや、ロッドのしなり具合などの条件によって、さまざまに変化する。そして重いルアーより、ロッドのしなりを利用して軽いルアーを遠くに飛ばすほうが、遥かに難しい。そして上手いアングラーは細くて「しなる」ロッドを使いこなせる。


バットの重さに振り回されるのではなく、バットの「重み」や「たわみ」、遠心力で振りぬこうと思うと、この「待機時間」は必要以上に長すぎては困る。
ルアーのキャストにたとえると、ロッドをあまりにも早く後ろに構えて、あまりにも待ち過ぎると、ロッドから「たわみ」が抜け、真っ直ぐになってしまうから、もうルアーを遠くに投げる遠心力は生まれてこない。
かつてのマイケル・ソーンダースのスイング動作は、ロッドのたわみを利用してキャストできない下手くそなアングラーそのもので、あまりにも律儀に早くからバットを引きすぎていて、力感がなかったが、今のソーンダースは、どこでもルアーを飛ばせる、上手なアングラーだ。

彼の最大の弱点が、カウントを追い込まれてからのインコース低めの変化球であることは、誰もがわかりすぎるほどわかっていたことだが(いまのジャスティン・スモークにも同じ欠点がある)、今年はなんと、そのインローの変化球をカットできるようにすらなってきている。
また、昔から長打できるのはインコースの高めのストレート系だけであり、MLBの左バッターが誰でも苦労するアウトコースの2シームを長打できるほどのパワーをバットに伝達する技術などなかったわけだが、今年は外の球でもホームランできている。
かつてのソーンダースの欠点は、2009年のメジャーデビュー以来、これまで何シーズンも進歩が見られなかっただけに、たいていのファンは彼のキャリアも今年で終わりかと諦めかけていたわけだが、変われば変わるものだ。
デビュー当時と今とで、彼のバッティングで最も変わった点は、なんといってもタイミングのとりかただ。
昔のソーンダースのバッティングフォームは、ピッチャーが動作を開始するタイミングや、投げる球種とまったく無関係に、自分のタイミングでバットを引き、来る球をスイングする、たったそれだけの「ワンタイミングのスイング」でしかなかった。(これだとバットを引いて待っている間に、せっかくバットにためこんだ加速度は、まるっきり失われてしまう)
だから、結局のところ昔のソーンダースが用意できていたのは、「ストレート系に合わせた、たった1種類のタイミングだけ」だったわけで、これでは投手に少しでもタイミングをズレされる、つまり、チェンジアップや高速シンカーような変化球を投げられると、もう手も足も出なかった。
それにくらべて今シーズンのソーンダースのスイングは、下の動画の比較でわかるように、バットを持った手を細かく動かしながらピッチャーの投球動作の開始を待ち、動作開始にピタリと照準をあわせてバットを引き、スイングを始動できるようになっている。
この「手を細かく動かしつつ、スイング開始タイミングを、球種や投手のクセにアジャストする工夫」を導入したおかげで、ストレート系であれ、変化球であれ、スイングするタイミングや始動のきっかけの異なるさまざまな球種に細かく対応することが可能になってきたわけだ。
彼がメジャーデビューしたのは、2009年7月25日のクリーブランド戦だが、当時のソーンダースと今のソーンダースの打撃フォームを動画で比べてもらうとよくわかるはず。
2009年
8月5日 投手 ケイル・デイビス(KC)
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@KC: Saunders' first extra-base hit has Seattle up - Video | MLB.com: Multimedia
2012年
6月5日 投手 ギャレット・リチャーズ(LAA)
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@LAA: Saunders skies a solo homer to center - Video | MLB.com: Multimedia
マイケル・ソーンダースの動画(MLB公式)
Multimedia Search | MLB.com: Multimedia
と、まぁ、書くと、
「なーんだ。タイミングかえただけの話かよ」と思われてしまいがちだ(笑)
そうでもない。下の画像を見てもらうとわかる。タイミングの取り方を変えただけで打てるようになるものでもない。

これは今年のソーンダースで、6月5日のLAA戦でホームランを打った打席のソーンダースの「構え」だ。打ったのは、カウント3-1からの96マイルの4シーム。
バットの角度に注目してもらいたい。
このときの投手ギャレット・リチャーズは、常に95マイル以上のストレートが投げられる速球派だが、今シーズンのソーンダースは、こういう速球派との対戦においても、バットをまだ少し寝かせたままにしておき、いつでも打てる態勢になってしまうのを「我慢」できる。
この「待ち時間」が、パワーを生む。
もし「ピッチャーの投球動作にもっと早くから合わせていた昔のソーンダース」なら、「ピッチャーの投球動作の早い段階で、すでにバットの角度が立ってしまい、いつでもスイングできる態勢に入っていただろう」と思う。
テニスでは、野球でいう「振り遅れ」を避ける意味で、「できるだけ速くラケットを後方に引いて、構えていなさい」と、テニスでいう「構え遅れ」を避ける指導をすると聞く。
だが、「素材のしなり」を含み、なおかつ「先端が重くて、長い」木製バットを一連の動作で振り回す野球のバッターの場合、バットをあまりにも早く引きすぎて、つまり、必要以上に早いタイミングでしっかり構えきってしまうと、バットのヘッドに蓄積できるはずのパワーがスッと抜けてしまい、力感の無いスイングになってしまう。
マイケル・ソーンダースのスイングは、たとえて言えば、ルアー釣りでルアーを遠くにキャストする動作にちょっと似ている。
ロッドをふりかぶっても、すぐにキャスト(投げる)わけではなく、ルアーの重みや、ロッドのしなりから生まれる遠心力が、ロッド先端にしっかりと「のって」、ロッドが最大にたわむ瞬間を一瞬だけ待って、それから一気にスイングする。
この「待ち時間の長さ」は、そのとき使うルアーの重さや、ロッドのしなり具合などの条件によって、さまざまに変化する。そして重いルアーより、ロッドのしなりを利用して軽いルアーを遠くに飛ばすほうが、遥かに難しい。そして上手いアングラーは細くて「しなる」ロッドを使いこなせる。


バットの重さに振り回されるのではなく、バットの「重み」や「たわみ」、遠心力で振りぬこうと思うと、この「待機時間」は必要以上に長すぎては困る。
ルアーのキャストにたとえると、ロッドをあまりにも早く後ろに構えて、あまりにも待ち過ぎると、ロッドから「たわみ」が抜け、真っ直ぐになってしまうから、もうルアーを遠くに投げる遠心力は生まれてこない。
かつてのマイケル・ソーンダースのスイング動作は、ロッドのたわみを利用してキャストできない下手くそなアングラーそのもので、あまりにも律儀に早くからバットを引きすぎていて、力感がなかったが、今のソーンダースは、どこでもルアーを飛ばせる、上手なアングラーだ。
