October 11, 2012
MLB.com Must C | Must C Crafty: Ichiro avoids tag with slick slide - Video | MLB.com: Multimedia
Ichiro with the slide of the century espn.go.com/blog/new-york/…
— Andrew Marchandさん (@AndrewMarchand) 10月 9, 2012
2012ディヴィジョン・シリーズは、どのカードでも劇的なシーンが続出している。
今年のポストシーズンをずっと観戦してツイートしているらしいドジャースのシェイン・ビクトリーノなどは、特にディフェンシブな面で、劇的なファインプレーが続出していることに感心してツイートしている。
This is a #Postseason of great defensive plays... #Phillips #Pagan #Crawford #Crisp #Werth sorry if I forgot anyone geez too many
— Shane Victorinoさん (@ShaneVictorino) 10月 11, 2012
ゲームを観るのに忙しすぎて、とてもブログにまとめている暇がない(笑) だが、資料として残しておくべき、という意味では、一部のデータや、思ったことを記録に残しておかないと、そのとき言いたかったことや、事実と事実のつながりが、記憶から消えてしまう。
ALDS Game 2でイチローがみせた神業スライディングについては、某巨大掲示板で誰かが、「これでイチローのMLBでのスーパープレーは、スローイングの『レーザービーム』(2001年)、キャッチングの『スパイダーマンキャッチ』(2005年。スパイダーキャッチと表記する人もいる)、そして、今回のベースランニングと、3つが揃ったわけだな」という意味のことを言っているのを見て、「なるほど。うまいこと言うもんだな」と感心した。
いってみれば「イチロー 三種の神器」というわけだ。1950年代の「白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫」、1960年代の「車・クーラー・カラーテレビ」みたいなもんだ(笑)
だが困ったことに、このスライディング、まだネーミングが定着してない。こういうのは困る。どんなネーミングに定着しようと、カッコ良くて覚えやすければ別に気にしないが、定まってないのは困る。決まった言い方、それも、日米で同じネーミングが存在するほうが、色々な意味で便利だ。
プレー直後
『レーザービーム』、『スパイダーマン・キャッチ』がメディアとファンの両方でネーミングとして定着しているのと同様に、この神業スライディングのネーミングも、メディアとファンの間でひとつに定着して欲しいものだとは思うが、それには多少時間がかかるかもしれない。
というのも、プレー発生直後、ファンとメディアのネーミングが "Ninja" と "Matrix"、二手に分かれたからである。
プレー直後、アメリカのファンのツイートや掲示板への書き込みは、もうとにかく"Ninja"の連呼、連呼だった(笑) どうしてアメリカ人たちはあんなに "Ninja!" という単語を使うのが好きなんだろう(笑) ショー・コスギかよ(笑)
ヤンキース公式サイト掲示板 New York Yankees > General > Ichiro is a Ninja
一方、メディア関係者のツイートはというと、キアヌ・リーヴス主演の大ヒット映画 "Matrix"にたとえる人々が主流だった。
"Matrix"という言葉をすぐに使ったライターは、例えば、ESPNのAndrew Marchand、NYデイリー・ニューズのMark FeinsandとAnthony McCarron。
そして、ヤンキース公式ツイッター、MLB公式(Gregor Chisholm)も、すぐに「マトリクス」という単語のバリエーションで追随し、この神業スライディングに対する驚きと賞賛ぶりを伝えた。
NY Daily News
VIDEO: Ichiro Suzuki's 'Matrix' slide into home plate gives Yankees early lead against Baltimore Orioles in Game 2 of ALDS - NY Daily News
MLB公式
Ichiro makes like 'The Matrix,' deftly avoids tag | MLB.com: News
USA Today
Ichiro Suzuki's matrix move at home plate
ESPN
Ichiro with the slide of the century - Yankees Blog - ESPN New York
メディアでの表現は他に、 "dance"、"Twister champion"(野球コラムニストJeff Bradley)、"Tangoing" (ボルチモアのビートライターBrittany Ghiroli)と、「踊り」や「ダンス」というイメージに結びつけたツイートもみられたが、主流はやはり "Matrix" だった。
ちなみに、このゲームをリアルタイムで観ていたMLBプレーヤー、マット・ケンプ、シェイン・ビクトリーノも、速攻でツイートし、この神業プレーを絶賛した。
I've never seen a play like that in my life!
— Matt Kempさん (@TheRealMattKemp) 10月 9, 2012
#ICHIRO..WoW! Great baserunning skills
— Shane Victorinoさん (@ShaneVictorino) 10月 9, 2012
Matrix !!!!
個人的にはこのネーミング、『マトリクス・スライド』としたいところだ。(そうでなければ、『マトリクス・ムーブ』)
映画のマトリクスにたとえてる人が多いんで、「マトリクス・スライド」と命名しました(笑)
— damejimaさん (@damejima) 10月 9, 2012
英語ネイティブでない日本のファンの間では「マトリクス・スライディング」とing形で表現したい人もそれなりの数いるとは思う。だが、このプレーに関するアメリカの野球メディアを参照してもらうとわかると思うが、このプレーについて、「スライディング」というing形での表記はされていない。
あくまで、ing形でない「slide」、なのである。
しかしながら、『マトリクス・スライド』とネーミングすることについては、ちょっとした事情がないでもない。
というのも、2011年にアメリカの高校生が記録したトリッキーなスライディングが、既に "Matrix Slide" とネーミングされ、ネット上に存在しているからだ。(もちろん、イチローのスライディングのほうが、はるかにレベルが高くて天才的なのはいうまでもない)
記事と動画:High school kid’s ‘Matrix Slide’ greatest slide ever? (video) | Off the Bench
ちなみに、『マトリクス・ムーブ』というネーミングで記事を書いたメディアも多数ある。
例:USA Today
Ichiro Suzuki's matrix move at home plate
いまの時点での検索結果では、『マトリクス・ムーブ』という言葉が野球のプレーに対して命名されたことは前例が無いようだ。"move" という言いまわしには英語としてのカッコよさがあるし、意味のわかりやすさもある。
ただ、日本のファンが今後このプレーを語るときの使いやすさを考えると、"move" という英語っぽい言い回しは、日本人には馴染みが少ないかもしれない。せめて、日本人の耳に慣れた「スライディング」という単語に少しでも近い『スライド』という単語を使ったほうが、より耳と記憶に残りやすいのではないだろうか、と思う。
うーん。困ったね。
『マトリクス・スライド』
『マトリクス・ムーブ』
『センチュリー・スライド』
『イチロー・マトリクス』
どういうネーミングになっていくのが、この神業にふさわしいか、よくわからない。
そんなこんなで、結局このブログとしては、『マトリクス・スライド』というネーミングが最もふさわしい、という意見にしておくことにした。
『マトリクス・スライド』というネーミングには、かろうじて「スライディング」に近い言葉が入っていて、日米のファンとメディアが同時に理解できるのがいいし、そもそも和製英語じゃないのが、とてもいい。(野球用語にせよ、日常会話にせよ、わけのわからない和製英語は少しでも減らしていきたい)
ただ、まぁ、いくら英語表現の正確さにこだわったとしても、時間がたつにつれて日本では『マトリクス・スライド』が、いつのまにか『マトリックス・スライディング』とか、和製英語風のing形に定着していってしまうかもしれないのは、想定済みだ(笑) それはそれで、しかたがない。時間の流れにはさからえない。
全体の位置関係
さて、ネーミングはともあれ、このプレーが神業であることに変わりはない。野球に詳しくない方もおられることだろうし、「なぜ、この世紀の神業スライディングが生まれたのか?」について少し補足しておきたい。
ヤンキースがボルチモアでオリオールズと対戦した2012 ALDS Game 2の1回表、2死1塁で、走者はイチロー。ここで、4番ロビンソン・カノーが、ライト線にツーベースを打った。
フェアとわかったイチローは、セカンドベースを蹴り、サードに全力疾走してくる。
ここで、ヤンキースのサードコーチャーが、腕をぐるぐると回して、イチローに「ホーム突入」を指示した。これが、神業スライディングが生まれた直接の発端だ。
写真を見てもらいたい。

イチローは、図中Bの位置。イチローは、ロビンソン・カノーが打ったライト線のライナーが、フェア、そして長打になるのを確認しつつ、ファーストからセカンドに全力疾走し、さらにはセカンドを蹴ってサードに向かっている。
この段階までの判断は、ランナーのイチロー自身が行う。というのは、セカンドに向かう間、ランナーのイチローからライト線の打球が見えるからだ。セカンドを蹴る前ならば、「ライト線に飛んだライナーがヒットになるかどうか」、さらには「長打になるかどうか」について、ランナーは自分自身で判断できる。
だが、イチローが、セカンドを蹴ってサードに向かった後は、「情報収集」と「判断」の手法はまったく変わる。
このケース、もし打球がフェアなら、明らかに長打になる。だから1塁ランナーがサードまで進塁することには、何の問題もない。問題は、「サードを蹴って、ホームに突入すべきか、どうか」だ。
足の速いイチローが、選択肢1)サードで止まるか、それとも、選択肢2)ホームにまで突入するかは、打球が速いだけに、外野手の肩の強さよりも、図中Aの位置で打球処理を行っているボルチモアの右翼手クリス・デービスが、「どのくらい上手に打球処理できるか」で決まってくる。
もしクリス・デービスの処理がモタついた場合は、イチローは生還できるが、打球が速いライナーであるだけに、打球処理がスムーズなら、いくら俊足のイチローでもホーム突入にはかなりのリスクが生じる。
問題は、右翼手デービスのプレーは「ランナーからみて背中方向」であるために、イチローにはまったく見えないことだ。
だから、サードに向かって疾走するイチローが、スピードを落としてサードに止まるのか、または、スピードを維持したままサードも蹴ってホーム突入を敢行するのか、という判断は、ランナーであるイチロー自身が行うのではなく、図の中のCの位置からクリス・デービスのプレーを注視している「サードコーチャーの指示」によってのみ決まる。
このケース、サードコーチャーは、写真で見ればわかる通り、腕を大きく回して、「ホーム突入を指示」している。
後々、誤解する人がいるといけないんで明言しときます。サードコーチャーはぐるんぐるん手を回してました。イチローをホームに突入させたのは、サードコーチャーですからね。誤解のないように。
— damejimaさん (@damejima) 10月 9, 2012
だが、足の速いイチローがホームプレート付近に到達するより数メートルも手前で、ボールがボルチモアのキャッチャー、マット・ウィータースのミットに返球されていることから明らかなように、この「サードコーチャーのホーム突入指示」は、「明らかなミス」、ボーンヘッドなのだ。
この判断のミスの程度は、あまりにも酷い。普通ならクロスプレーにすらならない。
だが、イチローは、ホームプレートの手前であえてスピードを落とすことで、キャッチャー、マット・ウィータースのタグ、日本語でいえば「タッチ」を、2度までもかいくぐってみせた。
まさに神業。
そしてこれは他のプレーヤーの凡ミスを取り返してみせるプレーでもある。これ以上の「チームプレー」はありえない。
1回目のエスケープ


2回目のエスケープ
動画をコマ送りして見てみればわかるが、イチローは、ボルチモアのキャッチャー、マット・ウィータースのミットを、すんでのところで紙一重かわしている。






three-foot rule
なお、こうしたベース周辺でのプレーに関して、いわゆる「3フィートルール」は適用されない。
野球のランナーの「走路」は通常、塁と塁を結んだ直線の左右両側に3フィートずつ、合計6フィート分の幅であり、ランナーが野手のタッチを避けるために「走路」を越えて走る、つまり、オーバーランすることはできない。
だが、「3フィートルール」は塁間での走塁に適用されるルールであり、「各塁と本塁ベース周辺では、この3フィートルールは適用にならない」。この点については、平林岳氏の指摘を待つまでもなく、聡明な野球ファン数名がプレー直後から既に指摘していた。
ああ。言い忘れたが、
ブログ主は、映画『マトリクス』の熱狂的なファンだ。当然、DVDは全て持っているし、キアヌ・リーヴスが手のひらをクイクイっとやるモノマネだって、できる(笑)
ちなみにキアヌ・リーヴスは、イチローがMLBデビューした2001年に、リトルリーグを舞台にした野球映画 "Hardball" に出演している。
このブログの『Marrix』に関する記事
Damejima's HARDBALL:2012年6月11日、「見えない敵と戦う」のが当り前の、ネット社会。
