March 09, 2013

WBC Round 2 日本対台湾戦の文字通りの死闘は、4時間半もの時間をかけて日本の薄氷の勝利に終わった。それぞれの持ち味が発揮された屈指の好ゲームだったわけだが、セットアッパーに回って登場した田中将投手が、2人のキャッチャーを相手に「好対称のデキ」、つまり阿部捕手を相手に好投、相川捕手を相手に崩れるという結果を見せたことについて、ちょっとした思いつきをメモしておきたい。

以下は、普段は楽天のゲームを見てない人間が書いた、単なる思いつきだから、結論なんてエラそうなものではない。まぁ、「楽天の捕手って、かなりいいキャッチャーなんだろうな」と思ったまでのことだ。


相川捕手については、一度このブログで書いたような気はしていたのだが、あらためてブログ内検索してみたところ、やはり1度だけ書いていた。なにせ2年半も前のことだから、正直、書いたこと自体忘れていた(苦笑)
(ちなみに下記の記事は、理由はよくわからないのだが、このブログで最もよく読まれた記事のひとつだ。まぁ、MLBファンの数より日本のプロ野球のファン数のほうが圧倒的に多いのだから、しかたがない)
「巨人・阿部とは逆に、データで見るかぎり、例えばヤクルトの相川というキャッチャーなどは、『何回打たれても、同じチーム、同じバッターに、同じような攻めを繰り返したがるキャッチャー』にどうしてもみえる。彼は『どこが対戦相手だろうと、ワンパターンな自分の引き出しにある攻めだけしか実行しない。引き出しが少なく、探究心も無いキャッチャー』のひとりで、だからこそ阪神が神宮でゲームをするときには、彼のリードする投手はまるで『神宮球場が阪神の第二のホームタウン』ででもあるかのように、ボコボコ打たれるハメになる。」
出典:Damejima's HARDBALL:2010年9月30日、逆転3ランを打った村田が「なぜ、あれほど勝負のかかった場面で、高めのクソボールを強振できるのか?」についてさえ、何も書かない日本のプロ野球メディア、野球ファンの低レベルぶり。



まず阿部捕手だが、何度もツイートしていることだが、能見投手とのバッテリーを見ていて、非常に印象に残った配球がある。 「初球に、ど真ん中に落として見逃しストライクをもぎとるスプリット」 だ。(日本でいう「フォークボール」)

これ、何が面白いかというと、変化球、特に「その投手の最も得意な変化球」という貴重な財産、貴重な資源を、「バッターを追い込んでおいて、それから空振り三振をとるためだけにしか、その変化球を使わない」という、「狭苦しい用途」に押し込めないで済む、という意味だ。
別の言い方をすると、「バッターに、どの球種を、どのカウントで、どういう目的に使うかを、わからせないで済む」のだ。
そりゃ、初球にスプリットでストライクをとられれば、バッターは追い込まれてからのスプリットが、ワンバウンドするのか、それともゾーン内に来るのか決められなくなるし、そもそも決め球がストレート系か変化球かを推定できなくなる。


たしかにキューバ戦では、追い込んでスプリットさえ投げておけば簡単に空振り三振してくれたから、スプリットは切り札、勝負球として、最後までとっておけばよかった。
だが、そういう単純な配球が、全ての球審、全ての対戦相手に通用するわけではない。能見が打者を追いこんだ後に投げる低めのスプリットが非常に効果的なのは間違いないが、だからといってスカウティングの得意なチームに「低めのスプリットは、振らなければボールになるだけだ。振らなくていい」と見切られてしまえば、せっかくのスプリットが、切り札どころか、単にカウントを悪くするだけの「無駄球」に変わってしまう。

実際、台湾戦ではかなりの低めの球が見切られ、低めをとらないタイプのGuccioneが球審だったために、ボール判定された。
キューバ戦では、ストレートでカウントを稼いでおいて、低めにスプリットを連投しておけば打ち取れたが、日本の投手の配球パターンがわかっている打者の多い台湾戦に限っては、そもそもバッターがスプリットを振ってくれないという事態が頻繁に起こったのである。

だからこそ、阿部捕手が「能見のスプリットは、低めに使うだけじゃない。見逃せばストライクになるコースに投げることもあるんだぜ」と、長いゲームの中で「一度だけ」見せておく、というのは、スプリットの効果をできるだけ延命させる有効な策略になる。


かたや、相川捕手だが、日本対台湾戦の途中で、こんなツイートをした。


これはどうも、「Fastball Count」という言葉について、もう一度おさらいしておく必要がありそうだ。
Damejima's HARDBALL:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート(11) なぜライアン・ハワードは9回裏フルカウントでスイングできなかったのか? フィリーズ打線に対する"Fastball Count"スカウティング。

Fastball Count」は、文字通り、「投手が、球種としてストレートを投げる可能性が非常に高いカウント」なわけだが、これには「日本とMLBの配球文化の違い」が非常に大きく影響する。
(なお、WBCで「各国のファーストボール・カウントの違い」を観察することは、それぞれの国で異なる発達を遂げつつある各国の野球文化の「発展の方向性の違い」を知ることに繋がる

アメリカと、MLBの流儀の野球が教えられている地域では、カウント3-0や2-0のような「ボール先行カウント」は、論議する必要のまるでないfastball countであり、投手はほとんど例外なくストレートを投げてくる。

(ただし、fastball countは単に投手と打者の「騙し合い」の出発点に過ぎない。いまや投手も打者も相手を研究・工夫して、変化している。例えば2012年ワールドシリーズ最終ゲームでは、スライダーを多投することで知られるサンフランシスコのクローザー、セルジオ・ロモが、デトロイトの三冠王ミゲル・カブレラを追い込んでおいて、得意のスライダーではなく、ストレートを投げて見逃し三振にうちとってゲームセットになった。 資料:Damejima's HARDBALL:2012年11月10日 2012オクトーバー・ブック 投げたい球を投げて決勝タイムリーを打たれたフィル・コーク、三冠王の裏をかく配球で見事に見逃し三振にしとめたセルジオ・ロモ。配球に滲むスカウティングの差。

それに対して、日本では fastball count でも変化球が多投される。(例:第3回WBC 日本対台湾戦で、能見-阿部バッテリーは、カウント3-0でスライダーを選択した)
この背景には、日本の投手のコントロールの良さがある。

MLBと日本の配球は、構造において裏返しになっている点が非常に多い
あえて相違点だけ強調して言うと、例えばMLBでは、早いカウントではストレート系で入って、変化球で締めるパターンは多い。(例:プレートの真上に落ちるチェンジアップ、シンカー、カーブ)
かたや日本では、変化球から入って、最後はストレートやスライダーのような「速さのある球」を、それもアウトローに集めるのが配球常識という「思い込み」は非常に強い。また、ピンチの場面になると「最初から最後まで徹頭徹尾アウトロー」というワンパターン配球になってしまいがち。(もちろんMLBにも、ラッセル・マーティンのような弱気でワンパターンなアウトロー信者は存在する)

同じ現象を、バッター視点で見直してみる。
MLBでは大半の打者がヒットを打つのは、早いカウント。逆に言えば、大半のバッターは、追い込まれたカウントでの打撃成績が極端に悪い。(例外は、イチローや全盛期のボビー・アブレイユジョー・マウアーなど、ほんのわずかの高打率のバッター)
MLBの投手は、特に早いイニング、早いカウントでは、ストレート系を投げなさいと教えられて育つ投手が多いから、結果的に「バッターの側でも、早いイニング、早いカウントでは、ストレート系を狙う」ことになる。(こんな基本的なことは、MLBルーキーのダルビッシュに指摘されるまでもない)

そもそもMLBの打者は、「豪速球」には滅法強い。その上、早いカウントではストレート系狙いに徹してくる打者は多い。
(例:ヤンキースのグランダーソンがホームラン王になれたのは、極端なストレート系狙いのおかげ。Damejima's HARDBALL:2012年11月2日、2012オクトーバー・ブック 「スカウティング格差」が決め手だった2012ポストシーズン。グランダーソンをホームランバッターに押し上げた「極端なストレート狙い」が通用しなくなった理由。
そのためMLBの投手たちは、打者の「ストレート狙い」をかわす意味で、早いカウントでストレート系を投げるにしても、「動かない4シーム」ではなく、「動くストレート系」、例えば、2シームやカットボールなどを多投し、打ち損じを誘うように進化を続けてきた。(例:イチローがマリアーノ・リベラから打ったサヨナラ2ランは、初球のカットボール。リベラのあの決め球を初球打ちできたからこそ価値がある)
つまり、MLBのほとんどの球種が「動く」という事実の裏には、打者と投手の「早いカウントにおけるストレート勝負」という歴史があるわけだ。4シーム勝負できるのは、あくまでストレートによほどの球速がある、ほんのわずかな投手たちだけである。(例:バーランダーチャップマン


以上のような「MLBのストレート系が『動く』ようになった歴史」をふまえて、もういちど相川捕手の「ストレート、ストレート、変化球」というワンパターンなサインの意味を見てみる。

まず指摘したいのは、「ストライクになるストレート系を続けておいて、ボールになる変化球を振らせる」というけれども、こういうパターンに慣れている国は多い、ということだ。球にキレや球威が無ければ通用しない。
そして、「パターン認識」の得意な選手の多い国のバッターに、「ストレートはストライクにして、変化球はボールにする」という単純な配球パターンが見抜かれてしまうのに、さほど時間はかからない

さらにいけないのは、
ストレート系に強い打者の揃うWBCでは、日本の投手の4シームが通用しないこと、特に、早いカウントにおいて4シームでストライクをとりにいくという手法が、ほとんど通用しないこと」に、注意を怠っている。
さらには、「俗説で「ゾーンが低い」と言われがちなMLBの球審には、実際にはたくさんのタイプがいて、中には低めをとらない人、極端にストライクゾーンの狭い人もいる」という「球審ごとに違うゾーンの個人さの問題」にも、注意が足りないまま、低めにボールを集め続けてボール判定を食らい続けている。

その結果、「早いカウントのストレート」を狙われ、強振されて二塁打にされたり、ランナーが出てから、いたずらに低めに集めようとして、低めをとらない球審Gucchioneにきわどい球をボール判定され続けて四球を連発してしまい、カウントを悪くして苦し紛れにストライクをとりにいった高めの球をタイムリーされるという悪循環を招いた。
(ちなみに、カウントが悪くなってから、低めだけを突いてピンチを逃れようとしてドツボったのは、田中将-相川バッテリーだけでなく、能見-阿部バッテリーでも同じ現象がイニング中盤に見られた)



まとめよう。

相川捕手の「ストレート、ストレートでカウントをまとめておいて、最後は変化球」という配球のワンパターンさは、田中将のストレートを、不用意にも、ストレート系に滅法強い外国チームの狙い打ちに晒してしまい、また、球審のゾーンを考慮しないまま変化球を低めに集めた結果、変化球の効果も同時に台無しにした。
名捕手野村さんは、WBC本戦を前に田中投手について、以下のようなことを言ったらしいが、主旨には同感する。
「(田中投手の)打たれてるのは全部ストレート。お前のストレートは、ストライクゾーンに投げるとやられる。それがプロ」
強化試合で敗戦、田中将大にノムさんは「お前の真っ直ぐはプロじゃダメ」(Sports Watch) - livedoor スポーツ

だが、田中投手が辛抱できず、失点し続けてしまう原因は、相川捕手との相性の悪さにあると指摘したい。
たしかに、国際試合ではストレートにべらぼうに強い打者ばかり集まるから、日本の投手のストレートが通用しないという問題も関わってはいる。だが、その問題以前に、「ストレートを最大限に生かす配球をするという責任」において、相川捕手のワンパターンなサインとの相性の悪さによって、田中将は現状のポテンシャルすら発揮しきれていない。
実際、台湾戦での田中-阿部バッテリーにおいては、珍しくカーブも投げさせ、チェンジアップの数も増やすなどして、田中投手に足りない緩急の組み立てをキャッチャー阿部が配球の知恵で補強して、彼にあたかも緩急があるかのように見せかける(笑)工夫をしていた。
その結果、問題とされがちな「ストレート」も、阿部捕手の工夫のおかげで、それなりに台湾バッターに通用していたし、そもそも台湾にストレート系に狙いを絞らせなかった。

だが、阿部に代走が出てキャッチャーが相川に変わると、田中将はやはり早めのカウントのストライクになる4シームを狙われて、やすやすと外野にヒットされ続け、また低めのボールになる変化球は、打者に見逃されるか、もしくは球審にボール判定されて、四球もからんで自滅していくという、いつもながらの崩壊パターンにハマってしまったのは、明らかだ。
相川 読みの先頭打 延長10回決勝点の起点も反省は「配球見つめ直したい」 (スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース


田中将投手は、頭を使ってリードしてくれる阿部とのバッテリーでなら、「組み立ての単調さ」という彼が元々持っている欠点を改善し、ストレートの使い道にも工夫が凝らされて、彼本来のポテンシャルが発揮可能になると思う。相川捕手がやったような、ストレートで追い込んで変化球で仕留める程度の、初歩的なMLB風配球など、WBCでは通用しない。
そういう意味で、楽天におけるこれまでの田中投手の好成績は、相棒をつとめている嶋捕手(と楽天のキャッチャー陣)の功績と考えていいのではないか。そんな風に思ったわけである。


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