May 25, 2013
まずはア・リーグ各チームの2013年5月の「ボールを振る率とスイング率との比例関係」を示すグラフを見てもらおう。
ア・リーグの各チームについて、横軸に「ゾーン外をスイングする率」(O-Swing%)、縦軸に「スイングする率」(Swing%)をとってある。
右下にも、左上にも、該当チームがない。このことは、チームの 「スイング率」 と 「ボールを振る率」、2つの事象の間の比例関係に、ほとんど「例外」がないことを意味している。線形近似の決定指数でみても、0.8681と、そこそこ高い。
(ただ、そのうち書くつもりだが、この0.8681程度の数字では、けして「両者の相関が完璧」なんて意味にはならない。完璧とまで言えるのは0.95くらいの高い数値にならないと無理)
こうしたことから、チーム単位でみると、「スイング率」 は 「ボール球を振る率」にほぼほぼ比例していることがわかる。
(ちなみに、チームごとのスイング率の差なんてものは、ほんのわずかな数字に過ぎないのは確かだ。だが、野球というのは「ほんのわずかな初期値の差が、結果の非常に大きな差になって表れるカオス的スポーツ」である。チーム間のほんのわずかな差を「有意」ととらえるかどうかは、人による)
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年11月9日、2012オクトーバー・ブック WS Game 4でフィル・コークが打たれた決勝タイムリーを準備した、イチローの『球速測定後ホームラン』 による『バルベルデ潰し』。
と、こんな話を聞かされると、
俗説を信じたまま野球を見ている大半の人は、
すぐこんなことを考えてしまう。
まったく笑える(笑)
頭は生きているうちに使え。
得点とOPSの相関数値を調べた程度のくせして、「OPSで得点の大半を説明できる」だのなんだの、腹を抱えて笑える俗説を打ちたてて自信満々になっていたくせに、OPSのデタラメさが明らかになっても自説を曲げる気配のない、どうしようもないOPS馬鹿とソックリな俗説が、ここにもある。
「ボール球を振らないチームは、選球眼がいいから、必然的にストライクを振る。だから打撃成績もいいはず」という俗説を信じてやまない人たちの考え方を、もうちょっとリクツっぽい話に直すと、たぶんこんなところだろう。
スジが通っている?
とんでもない(笑)
最初に挙げたグラフは、『チームにおけるスイング率』という事象が、『ボール球をスイングする』という事象との間に、そこそこの相関関係がある、という意味だ。
では、
その相関関係は、『ストライクをスイングするという事象』に影響して、その確率を押し上げるか?
いいかえると、「他チームよりボールをスイングしないチームは、他のチームよりストライクを多くスイングする」という仮説は妥当か?
結論など言うまでもない。
もちろん、正解は "No" だ。
理屈で説明するより、グラフで見たほうが説明が早い。
ア・リーグ2013年5月の「ボールを振る率とスイング率の比例関係」
2つのグラフを見比べるといい。
つまり、こういうことだ。
「OPS」と「得点」、たった2つの事柄の間の相関数字を調べただけで、野球すべてを説明できたようなつもりになっていたOPS馬鹿たちがやってきた間違いと同じ単細胞なミスが、ここにもある。
OPS馬鹿は、得点とOPSの単純な関係を調べただけで、指標として意味があると勝手に思い込んでいるわけだが、この場合、たとえ「ボール球をスイングする率」と「スイング率」との間に、ある程度高い相関関係がみられたからといっても、そのたったひとつの断片的な判定だけで、「スイング率を決定しているのは、ボールをスイングする率である」と断言できたりはしないのである。
ちなみに、野球の投球はたしかに「ストライク」と「ボール」の2つに分類される。だが、細かく言えば、この2つの現象が、相互に排他的な事象(Mutually exclusive events)であるか、あるいは独立な事象(Independent events)であると断定して扱っていいかかどうかを、単純に断言することなど、できない。
というのは、例えば「打者有利なカウントにあるバッターにとって、ボールの投球が、ストライク以上に『次の球をスイングする誘因』になっていること」は誰が考えても明らか、だからだ。
例えば、カウント2-0になったら、バッターは次の球を非常にスイングしたがる。だから、わざとボールを2球投げてカウント2-0にしておいて、次の球を「ほんの少し動くストレート系」を投げて、打者をゴロアウトにする配球術も、現実にMLBには存在する。
この「カウント2-0」の例にみられるように、「ボールとストライクとは、相互に排他的な存在とみなしてもいい」と単純に考えるのは、あまりにも野球知らずというものだ。
野球のボールとストライクは、コインの裏と表とは性質が全く違う。
野球というスポーツは、『カウント』や『配球』によってシチュエーションがめまぐるしく変化するところに面白みがある。
だから、現実の野球に存在するさまざまなケースで考慮すれば、ボールとストライクとは無関係どころか、むしろ「あまりにも密接な関連さえ、ありうる」と考えないかぎり、現実の野球にまったく近づけないとさえ、言える。そうでなければ、配球なんてものを考える意味がない。
ちょっと話が横道にそれた。
たとえ野球の投球が「ボール」(事象A)と「ストライク」(事象B)の2つだけで出来ていて、「スイング」という行為と「ボールを振る」行為との間にそこそこ強い相関関係がみられたからといって、「ボールを振らなければ、そのチームのストライクを振る率は上昇する」とか、「ボールを振らないチームは、他のどんなチームよりストライクを振っているから強い」などと断言できる根拠など、実はどこにもないのである。
チームとして、「『スイング率』と『ボールを振る率』との相関関係が高いこと」は、けして「その相関関係が、『スイング率』と『ストライクを振る率』を左右する」ということを意味しない。
こうした俗説はどんな思考プロセスから生まれてくるのか。
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野球ファンは、日頃から『ボール』と『ストライク』という2つの事象を、ついつい、相互に排他的な事象(あるいは独立した事象)と考えるクセが身についてしまっている。
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そこに、「ボールを振る打者は、選球眼が悪い」という、野球ファン特有の古い道徳が加わると、いつのまにか、「ボールを振ることと、ストライクを振ること、これら2つの現象の間には、どちらかが上がれば、どちらかが下がるというようなパレート最適的関係がある」という思い込みが生まれる。
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さらにそこに「ボールを振る率と、全体のスイング率とは、相関関係にある」なんてデータを提示されると、どうなるか。
自分の脳内で、「ボールを振らないと、スイングが減る。だから、ストライクを振る率は上がるから、打てるようになるに決まっている」と無意識に思い込んでしまう。
「ボールを振らないで我慢していれば、カウントは、より打者有利になる。だからボールを振らなければ必然的に、よりストライクだけを振れるから、いい打撃成績になる」と、常識的な視点から反論したがる人が出現するかもしれないので、あらかじめ言っておくが(笑)、そんなのはただの俗説だ。
例えば、ア・リーグで最もスイングしないチームであると同時に、ア・リーグで最も打てないチームでもあるシアトル・マリナーズのスイングデータを見ればわかる。
シアトルマリナーズという打撃不振のチームは、他のスイングしない系のチームに比べ、よりボール球をスイングし、よりストライクを振らない。
つまり、このチームの打者は、「ただただ打席で縮みあがって、萎縮していて、バットが振れないだけ」だ(笑)スイングを抑制することは、選球眼の向上を意味しないし、チームの打撃成績の向上も意味しない。
ストライクをフルスイングすることだけがヒットを打つ道であり、ボールを振らないことが四球を選ぶことであり正義だ、などという、何の根拠のない思い込みだけで勝手に作り上げた野球道徳をたよりにモノを言いたがるアホウな人間は実に多い。
だが、才能と、体格と、給料と、素晴らしい施設とスタッフに恵まれたメジャーリーガーでさえ実現できないことを、誰かれ問わず押し付けたがる人間が振り回す、その無根拠な断定的ロジックの土台は、実は、こんなにもいい加減な俗説でできているのである。
ア・リーグの「2つのスイング傾向」でわかる
「MLBの2種類の野球」の存在
ちなみに、このグラフで赤い楕円で示したように、ア・リーグの野球には大まかに分けて2種類の野球がある。
この2つのグルーピング結果がかなり面白いのは、ゲーム結果がある程度予測できることだ。
例えば、アナハイムとカンザスシティの対戦があるとすれば、どちらもア・リーグ屈指の「スイングしたがりチーム」なわけだから、必然的に打ち合いの空中戦になる、と予測が立つわけだ。
また、今年ア・リーグ中地区でクリーブランドが強いわけだが、今年のCLEはかつてのような大味な野球ではなくて、細かい野球をやり出していることが、このグラフでハッキリした。
同じ中地区のデトロイトは、ア・リーグ屈指の「ボールを振らず、ストライクを振ってくるチーム」だが、けしてスイング抑制系のチームカラーではない。
シアトル、クリーブランド、タンパベイ、オークランドの4チームのスイング率は似たようなものだ。だから、「チームカラーが似ているはず」と思うかもしれないが、ストライクをスイングする率はオークランドが飛びぬけている。ずっと貧打と言われ続けてきたオークランドだが、このデータから今年のオークランドが「いやに打てている」という直観が、単なる偶然ではないことが、よくわかる。
ア・リーグ西地区は、スイングしたがるアナハイム、ヒューストンと、スイングを控えるオークランド、テキサス、シアトルの構成だが、明らかにオークランドとテキサスが頭2つくらい抜けていることは、このグラフだけでわかるというスグレモノだ。
ちなみにヤンキースだが、あらゆる意味で「中庸」といえる位置にある。めちゃくちゃにスイングするわけでもなく、かといって、ボールを見逃して出塁することに命をかけているわけでもない。
だからこそ、今のヤンキースは攻守のバランスで首位を保っているチームなのであって、このチームを「スラッガーの集まった打撃型のチームとみなして語る」ことになど、何の意味もない。あるわけがない。
こんな、たったこれだけのわずかな差が、チームカラーと、チームの打撃効率、ひいてはチームの予算効率を左右するのが、野球というスポーツの繊細さだ。
ア・リーグの各チームについて、横軸に「ゾーン外をスイングする率」(O-Swing%)、縦軸に「スイングする率」(Swing%)をとってある。
右下にも、左上にも、該当チームがない。このことは、チームの 「スイング率」 と 「ボールを振る率」、2つの事象の間の比例関係に、ほとんど「例外」がないことを意味している。線形近似の決定指数でみても、0.8681と、そこそこ高い。
(ただ、そのうち書くつもりだが、この0.8681程度の数字では、けして「両者の相関が完璧」なんて意味にはならない。完璧とまで言えるのは0.95くらいの高い数値にならないと無理)
こうしたことから、チーム単位でみると、「スイング率」 は 「ボール球を振る率」にほぼほぼ比例していることがわかる。
(ちなみに、チームごとのスイング率の差なんてものは、ほんのわずかな数字に過ぎないのは確かだ。だが、野球というのは「ほんのわずかな初期値の差が、結果の非常に大きな差になって表れるカオス的スポーツ」である。チーム間のほんのわずかな差を「有意」ととらえるかどうかは、人による)
参考記事:Damejima's HARDBALL:2012年11月9日、2012オクトーバー・ブック WS Game 4でフィル・コークが打たれた決勝タイムリーを準備した、イチローの『球速測定後ホームラン』 による『バルベルデ潰し』。
と、こんな話を聞かされると、
俗説を信じたまま野球を見ている大半の人は、
すぐこんなことを考えてしまう。
ボール球を振らないチームほど、スイング率が低いんだな。
じゃあ、無駄にボール球に手を出さないチームはやっぱり、ストライクをしっかりスイングしてるってわけだな
まったく笑える(笑)
頭は生きているうちに使え。
得点とOPSの相関数値を調べた程度のくせして、「OPSで得点の大半を説明できる」だのなんだの、腹を抱えて笑える俗説を打ちたてて自信満々になっていたくせに、OPSのデタラメさが明らかになっても自説を曲げる気配のない、どうしようもないOPS馬鹿とソックリな俗説が、ここにもある。
「ボール球を振らないチームは、選球眼がいいから、必然的にストライクを振る。だから打撃成績もいいはず」という俗説を信じてやまない人たちの考え方を、もうちょっとリクツっぽい話に直すと、たぶんこんなところだろう。
野球の投球は、「ボール」と「ストライク」、2つの相互に排他的な(あるいは独立した)ファクターから成り立っている。
だから、もし「ボール球をスイングする率」が、他チームより低い「ボールを振らないチーム」では、自動的に「ストライクを振る率」が高くなって、打撃成績も向上しているはずだ。
スジが通っている?
とんでもない(笑)
最初に挙げたグラフは、『チームにおけるスイング率』という事象が、『ボール球をスイングする』という事象との間に、そこそこの相関関係がある、という意味だ。
では、
その相関関係は、『ストライクをスイングするという事象』に影響して、その確率を押し上げるか?
いいかえると、「他チームよりボールをスイングしないチームは、他のチームよりストライクを多くスイングする」という仮説は妥当か?
結論など言うまでもない。
もちろん、正解は "No" だ。
理屈で説明するより、グラフで見たほうが説明が早い。
ア・リーグ2013年5月の「ボールを振る率とスイング率の比例関係」
2つのグラフを見比べるといい。
ひとつの例外もなく、
上の「スイング率とボールを振る率の関係図」で、「左下」にあるチームは、下の「スイング率とストライクを振る率の関係を表わす図」においても、「左下」にある。
同じように、上の図で「真ん中」あたりにあるチーム、「右上」にあるチームは、下の図でも同じように「真ん中」「右上」にある。
つまり、こういうことだ。
結論
2つのグラフにおいて、あらゆるチームの位置は同じような位置にある。
このことから、チームごとのスイング率、つまり、それぞれのチームの「スイングしたがる度合い」というものは、実は、「ボール球を振る率」で決まるわけではない。「スイング率」と「ボール球をスイングする率」の相関係数がどれだけ高かろうと、なんだろうと、関係ない。
平たく言い直せば、
スイングしたがるチームは、
ボールも、ストライクも、両方振る。
スイングを抑制しているチームは、
ボールも、ストライクも、両方振らない。
ただ、それだけの話。
「OPS」と「得点」、たった2つの事柄の間の相関数字を調べただけで、野球すべてを説明できたようなつもりになっていたOPS馬鹿たちがやってきた間違いと同じ単細胞なミスが、ここにもある。
OPS馬鹿は、得点とOPSの単純な関係を調べただけで、指標として意味があると勝手に思い込んでいるわけだが、この場合、たとえ「ボール球をスイングする率」と「スイング率」との間に、ある程度高い相関関係がみられたからといっても、そのたったひとつの断片的な判定だけで、「スイング率を決定しているのは、ボールをスイングする率である」と断言できたりはしないのである。
ちなみに、野球の投球はたしかに「ストライク」と「ボール」の2つに分類される。だが、細かく言えば、この2つの現象が、相互に排他的な事象(Mutually exclusive events)であるか、あるいは独立な事象(Independent events)であると断定して扱っていいかかどうかを、単純に断言することなど、できない。
というのは、例えば「打者有利なカウントにあるバッターにとって、ボールの投球が、ストライク以上に『次の球をスイングする誘因』になっていること」は誰が考えても明らか、だからだ。
例えば、カウント2-0になったら、バッターは次の球を非常にスイングしたがる。だから、わざとボールを2球投げてカウント2-0にしておいて、次の球を「ほんの少し動くストレート系」を投げて、打者をゴロアウトにする配球術も、現実にMLBには存在する。
この「カウント2-0」の例にみられるように、「ボールとストライクとは、相互に排他的な存在とみなしてもいい」と単純に考えるのは、あまりにも野球知らずというものだ。
野球のボールとストライクは、コインの裏と表とは性質が全く違う。
野球というスポーツは、『カウント』や『配球』によってシチュエーションがめまぐるしく変化するところに面白みがある。
だから、現実の野球に存在するさまざまなケースで考慮すれば、ボールとストライクとは無関係どころか、むしろ「あまりにも密接な関連さえ、ありうる」と考えないかぎり、現実の野球にまったく近づけないとさえ、言える。そうでなければ、配球なんてものを考える意味がない。
ちょっと話が横道にそれた。
たとえ野球の投球が「ボール」(事象A)と「ストライク」(事象B)の2つだけで出来ていて、「スイング」という行為と「ボールを振る」行為との間にそこそこ強い相関関係がみられたからといって、「ボールを振らなければ、そのチームのストライクを振る率は上昇する」とか、「ボールを振らないチームは、他のどんなチームよりストライクを振っているから強い」などと断言できる根拠など、実はどこにもないのである。
チームとして、「『スイング率』と『ボールを振る率』との相関関係が高いこと」は、けして「その相関関係が、『スイング率』と『ストライクを振る率』を左右する」ということを意味しない。
こうした俗説はどんな思考プロセスから生まれてくるのか。
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野球ファンは、日頃から『ボール』と『ストライク』という2つの事象を、ついつい、相互に排他的な事象(あるいは独立した事象)と考えるクセが身についてしまっている。
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そこに、「ボールを振る打者は、選球眼が悪い」という、野球ファン特有の古い道徳が加わると、いつのまにか、「ボールを振ることと、ストライクを振ること、これら2つの現象の間には、どちらかが上がれば、どちらかが下がるというようなパレート最適的関係がある」という思い込みが生まれる。
-------------------------------------------------
さらにそこに「ボールを振る率と、全体のスイング率とは、相関関係にある」なんてデータを提示されると、どうなるか。
自分の脳内で、「ボールを振らないと、スイングが減る。だから、ストライクを振る率は上がるから、打てるようになるに決まっている」と無意識に思い込んでしまう。
「ボールを振らないで我慢していれば、カウントは、より打者有利になる。だからボールを振らなければ必然的に、よりストライクだけを振れるから、いい打撃成績になる」と、常識的な視点から反論したがる人が出現するかもしれないので、あらかじめ言っておくが(笑)、そんなのはただの俗説だ。
例えば、ア・リーグで最もスイングしないチームであると同時に、ア・リーグで最も打てないチームでもあるシアトル・マリナーズのスイングデータを見ればわかる。
シアトルマリナーズという打撃不振のチームは、他のスイングしない系のチームに比べ、よりボール球をスイングし、よりストライクを振らない。
つまり、このチームの打者は、「ただただ打席で縮みあがって、萎縮していて、バットが振れないだけ」だ(笑)スイングを抑制することは、選球眼の向上を意味しないし、チームの打撃成績の向上も意味しない。
ストライクをフルスイングすることだけがヒットを打つ道であり、ボールを振らないことが四球を選ぶことであり正義だ、などという、何の根拠のない思い込みだけで勝手に作り上げた野球道徳をたよりにモノを言いたがるアホウな人間は実に多い。
だが、才能と、体格と、給料と、素晴らしい施設とスタッフに恵まれたメジャーリーガーでさえ実現できないことを、誰かれ問わず押し付けたがる人間が振り回す、その無根拠な断定的ロジックの土台は、実は、こんなにもいい加減な俗説でできているのである。
ア・リーグの「2つのスイング傾向」でわかる
「MLBの2種類の野球」の存在
ちなみに、このグラフで赤い楕円で示したように、ア・リーグの野球には大まかに分けて2種類の野球がある。
スイングしたがるチーム
LAA、KC、CHW、HOS、DET、NYY、BAL
スイングを抑制したがるチーム
TOR、MIN、BOS、TEX、SEA、CLE、TB、OAK
この2つのグルーピング結果がかなり面白いのは、ゲーム結果がある程度予測できることだ。
例えば、アナハイムとカンザスシティの対戦があるとすれば、どちらもア・リーグ屈指の「スイングしたがりチーム」なわけだから、必然的に打ち合いの空中戦になる、と予測が立つわけだ。
また、今年ア・リーグ中地区でクリーブランドが強いわけだが、今年のCLEはかつてのような大味な野球ではなくて、細かい野球をやり出していることが、このグラフでハッキリした。
同じ中地区のデトロイトは、ア・リーグ屈指の「ボールを振らず、ストライクを振ってくるチーム」だが、けしてスイング抑制系のチームカラーではない。
シアトル、クリーブランド、タンパベイ、オークランドの4チームのスイング率は似たようなものだ。だから、「チームカラーが似ているはず」と思うかもしれないが、ストライクをスイングする率はオークランドが飛びぬけている。ずっと貧打と言われ続けてきたオークランドだが、このデータから今年のオークランドが「いやに打てている」という直観が、単なる偶然ではないことが、よくわかる。
ア・リーグ西地区は、スイングしたがるアナハイム、ヒューストンと、スイングを控えるオークランド、テキサス、シアトルの構成だが、明らかにオークランドとテキサスが頭2つくらい抜けていることは、このグラフだけでわかるというスグレモノだ。
ちなみにヤンキースだが、あらゆる意味で「中庸」といえる位置にある。めちゃくちゃにスイングするわけでもなく、かといって、ボールを見逃して出塁することに命をかけているわけでもない。
だからこそ、今のヤンキースは攻守のバランスで首位を保っているチームなのであって、このチームを「スラッガーの集まった打撃型のチームとみなして語る」ことになど、何の意味もない。あるわけがない。
こんな、たったこれだけのわずかな差が、チームカラーと、チームの打撃効率、ひいてはチームの予算効率を左右するのが、野球というスポーツの繊細さだ。