July 23, 2013

かつてツール・ド・フランスを7連覇したアメリカのランス・アームストロングがようやくドーピングを認め、ツールにおける栄光のすべてを剥奪されたばかりだが、MLBでも、ようやくミルウォーキーのライアン・ブラウンがステロイド使用を認めて謝罪し、今シーズンの残り試合すべての出場停止という処罰を受けた。2013シーズン、この卑怯者の姿を見ることは、もうない。

だが、ライアン・ブラウンが今までどれだけいけしゃあしゃあと潔白を主張し続けてきたかを思いだすと、とても彼の謝罪を受け入れる気になどならないし、そもそも処罰が軽すぎる。
なにせこの選手はドーピングしつつ、リーグMVPを獲得したのだ。そのタイトルを剥奪することを、まず処罰の出発点にするのがスジというものだ。
(2011年MVPで次点だったマット・ケンプも同意見らしい。 Ryan Braun should lose MVP award, Matt Kemp says - ESPN Los Angeles

Ryan


この事件の経緯をちょっとまとめておきたい。

2011年10月ライアン・ブラウンのステロイド検出
2011年10月19日、ミルウォーキー対アリゾナのNLDS(ナ・リーグ地区シリーズ)で提出されたライアン・ブラウンの尿検体から、ステロイドの一種であるテストステロンが検出。50試合の出場停止が仮決定され、この時点で誰もがライアン・ブラウンは「クロ」だと了解した。
だが、ライアン・ブラウン側は辣腕の弁護士を雇い、ドーピングそのものの真偽を論議するのではなく、法的手続き、いわゆるdew processの不備を突くという戦略にでた。
ドーピング検査の検体は、適正な手続きにおいては「採取後、すぐに検査施設に発送」しなければならない。だが、ライアン・ブラウンの検体採取が土曜の夜だったため、係員は「週末で、発送業者はもう営業が終わっているだろうから発送できない」と考え、週が明けに発送するつもりで尿検体を自宅に持ち帰り、自宅の冷蔵庫で約48時間保管した。
ライアン・ブラウン側の弁護士は、「48時間の間に誰かが検体にドーピング薬物を混入してないと、誰が証明できる?」と、論点をずらすことで、テストステロン検出自体は事実だったにもかかわらず、処罰をきりぬけることに成功した。実際には 検体容器は3重に封印されていたため、封を切らずに外からドーピング薬物を混入するのは、ほぼ不可能だった。

このままうやむやになるのかと思われた「ライアン・ブラウン事件」だが、2013年、思わぬところから新展開があった。

マイアミ・ニュータイムズによるバイオジェネシス告発
ローカル紙マイアミ・ニュータイムズが、複数の有力選手がマイアミのクリニック「Biogenesis」からドーピング薬物を提供されていたと実名入りでスクープ報道したが、そこに、ほかならぬライアン・ブラウンの名があった。

この「バイオジェネシス事件」では、メルキー・カブレラの代理人に関係しているJuan Carlos Nunezという人物が、重い処罰をまぬがれるための証拠を捏造する目的で、第三者のウェブサイトを買収して、架空の薬物販売サイトにつくりかえ、あたかもそのサイトから購入した商品に意図せず禁止薬物が紛れ込んでいたように見せかけようとした。だが、ウェブサイト買収そのものがすぐにバレて、この卑劣な証拠捏造は失敗に終わった。

MLB代理人レビンソン兄弟の関与疑惑
今回のスキャンダルに名を連ねる選手の多くが、ブルックリンに事務所を構えるレビンソン兄弟の代理人事務所ACESと代理人契約を結んでいる。またメルキー・カブレラに関して、偽の薬物販売ウェブサイトを立ち上げて証拠捏造を図ろうとした人物も、身元はレビンソン兄弟の関係者だったりする。

かつての「ミッチェル報告」でドーピング薬物の供給者として摘発されたのは、元メッツ職員カーク・ロドムスキーや、元ヤンキース・トレーナーのブライアン・マクナミー(クレメンスやペティットに薬物を渡していた人物)だが、元ステロイダーのポール・ロ・デューカは「自分にロドムスキーを紹介したのはレビンソン兄弟」とメディアに明言しており、MLB機構も、ロドムスキーとレビンソン兄弟の関係を明らかにするために聞き取り調査を行ったりしている。

だが、レビンソン兄弟の関与を示す指摘が数多くあり、レビンソン兄弟が事件全体に関与しているのではという疑惑が常に取り沙汰され続けているにもかかわらず、現時点ではまだ決定的な確証には至っていない。


資料:レビンソン兄弟が代理人をつとめる選手リスト
(太字は、マイアミのクリニックの事件に関与したといわれる選手)

アレン・クレイグ
グラント・バルフォア
ジェイソン・モット
ジオ・ゴンザレス
ジョナサン・パペルボン
ジョニー・ペラルタ 追記:出場停止
ジョン・ジェイソ
ジョン・バック
ショーン・ビクトリーノ
スコット・ローレン
ダスティン・ペドロイア
デビッド・ライト
ナイジェル・モーガン
ネルソン・クルーズ 追記:出場停止
ヒース・ベル
プラシド・ポランコ
ブランドン・インジ
ブランドン・フィリップス
ブランドン・リーグ
ヘクター・ノエシ
ヘスス・モンテーロ 追記:出場停止
ホアキン・ベノワ
マイケル・ピネダ
マイケル・モース
マット・ハリソン
ミゲル・カイロ
メルキー・カブレラ
ラウル・イバニェス
フランシスコ・セルベリもかつてレビンソン兄弟を代理人にしていた 追記:出場停止


司法取引 plea bargaining
ちなみに、こうした大規模なドーピング事件では、事件の処罰が決まっていく初期段階で公式に謝罪した人物に世間の非難は集中するわけだが、だからといって、必ずしもその人物に厳罰が下るとは限らない。
というのは、『24』や『Major Crimes』などのドラマシリーズのファンならよくおわかりのように、アメリカでは司法取引が発達しているからだ。なんでも一説によると、起訴された事件のなんと8割が司法取引で結審しているらしい。
かつて「ミッチェル報告」で、カーク・ラドムスキーが選手リストを提供したのも、ミゲル・テハダが虚偽証言とヒト成長ホルモン摂取を認めたのも、アンディ・ペティットがいつのまにか現役復帰して登板できているのも、元はといえば彼らが司法取引に応じたからだし、バイオジェネシス事件でも、ライアン・ブラウンの処罰期間が来シーズン開幕以降ではなく、2013シーズンで終わるように繰り上げられているのは、ライアン・ブラウンが、往生際の悪いアレックス・ロドリゲスと違って、はやめに司法取引に応じたからだ。
司法取引に応じたライアン・ブラウンが、自分以外の選手のドーピングについて、どの程度まで証言しているかはわからないが、ここまで来るとあとは連鎖的に捕まっていくのが「アメリカらしさ」というものではある。
しかしながら、たとえ司法取引に応じて捜査に協力していようとも、ライアン・ブラウンのやったことは許されない。彼の穢れた2011年のリーグMVPは絶対に剥奪されるべきだと思う。


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