November 05, 2013
先日、国立霞ヶ丘陸上競技場(通称:国立競技場)の建て替えについての記事を書いたわけだが、ちょっと気になることがあって、追加でこの記事を書くことにした。
というのは、あの記事をさらっと読まれてしまうと、まるで「建て替え費用は、東京都が想定しているような『8万人規模で1500億円』なんて予算規模では、いいスタジアムなんてできない。世界に誇れる8万人規模のスタジアムを作るべきだから、文部省がとりあえず試算した『3000億円』かかるかどうかはともかく、1500億円以上は絶対にかけて事業を進めるべきだ」、などと読まれかねないと思ったからだ。
Damejima's HARDBALL:2013年10月29日、国立霞ヶ丘陸上競技場は、「同じ場所で建て替える」などという二番煎じのお茶をさらに温め直すような発想を止め、違う場所に新設すべき。
そもそも、東京都のいう「8万人収容、1500億円」という数字がどこから湧いて出てきたのか、推定してみると、たぶん以下のようなデータがあることからして、「世界一カネがかかったMetLife Stadiumが費用1600億円・8万人収容だから、東京でもそれくらいの費用でできるだろう」程度の大雑把な推論が話の出発点に違いない。
まずは、今の時点で、「世界で最もカネのかかったスタジアム」のベスト5を見てもらいたい。(以下「B=billion=10億」。例:US$1.6B=16億ドル≒約1600億円)
USドルでの比較(2011年12月付):The 5 Most Expensive Stadiums In The World
USドルでの比較(2011年10月付)11 Most Expensive Stadiums In The World
ユーロでの比較:世界のスタジアム建設費TOP10 |FootballGEIST
論点1)競技によって大きく異なる
「8万人収容スタジアム」の「規模」
日本の新聞メディアは国立霞ヶ丘陸上競技場の建て替えについて、「どういう意味の『8万人』なのか?」を全く定義することなく、ダラダラ、ダラダラ報道を垂れ流しているから、まるで議論にならない。
上でも書いたことだが、ひとくちに「8万人収容」といっても、「陸上競技の観客8万人」、「野球の8万人」、「サッカーの8万人」、「アメリカン・フットボールの8万人」では、それぞれに必要な土地面積、スタジアムの規模、かかる維持費の全てが、まるっきり違ってくる。
「陸上競技の8万人規模のスタジアム」というと、野球以上に広大な「敷地」が必要になる。だが、年間通しての集客など期待できるはずがない陸上競技では、8万人なんていうモンスター・スタジアムを作るなんてことは、まさに自殺行為でしかない。
サッカーというスポーツについては、テレビ中継画面の広角なアングルの「イメージ」のせいで、「広大なグラウンドを走り回ってプレーするスポーツである」だのと思いこんでいる人はやたら多いことだろうが、実際には、サッカー場の面積なんてものは、たとえピッチ外のスペースを含めたとしても、野球のフィールド面積のせいぜい半分程度にしかならない。アメリカン・フットボールはさらに狭い。
だから例えば、野球場のインフィールドに臨時の席を設営することを想定する場合、野球の開催で「6万人」くらいの収容規模のスタジアムは、アメリカン・フットボールでなら「8万人収容」くらいの規模のスタジアムであることを意味する。
もし東京都が、国立霞ヶ丘陸上競技場の建て替えで想定している「規模」が、「8万人の観客を、それも『常設席』に収容できる、陸上競技場」なんてものだとしたら、そんなスタジアムは「とてつもなくデカいモンスターになる」に決まっているし、そして当然ながら、「モンスターの建設には、とてつもない費用がかかる」。(というか、たぶんあのデザインを設計した人間は、「そもそもスポーツ観戦とか、スタジアムというものを理解してない人間」だ)
だが、上のスタジアム・ランキングでわかる通り、そんな「とてつもなく馬鹿デカいスタジアム」など、世界の(というか、アメリカの)どんな採算のとれているプロスポーツで探しても、どんなスポーツ先進国で探しても、「ない」し、「ありえない」。
そして、そういう「ありえないもの」を現実に作ろうとすれば、間違いなく「世界で最も建設費のかかったスタジアム」になり、さらに同時に、「世界で最も維持していけない陸上競技場」になるだろう。
イメージしておかなくてはならないのは、「野球よりはるかに狭いフィールドでプレーしているスポーツ」であるサッカーやアメリカン・フットボールを前提に考える「8万人収容のスタジアム」のイメージというのは、「野球でいうなら、6万人収容程度の大きさ」だ、ということだ。
例えば、8万人以上収容できるMetLife Stadiumは、世界で最もカネのかかったスタジアムで、建設費はおよそ「1600億円」もかかっっているわけだが、このスタジアムはそもそも「アメリカン・フットボール用」なのだから、野球場に換算するなら、「6万人収容の野球場」程度の大きさという意味でしかない。
「6万人収容の野球場」というと、野球場として大きいのは確かだが、想像を絶するほど大きさではないし、モンスターでもない。そして、そんな程度の大きさでも、建設には1600億円もかかったのだ。
もしこれが、「8万人を常設の席に収容できる陸上競技場」なんてものになったらどうなるか、想像できるはずだ。巨大なモンスター級スタジアムの建設の費用は、1500億とか1600億とかで収まるわけがない。そんなものを、1年にたった数週間しか使わないマイナーなプロスポーツだの、アマチュア競技のための常設施設だのとして作れば、どうなるか、わかりそうなものだ。
既に何度も書いていることだが、日本では「野球以外の競技」で、「6万人を超える規模のスタジアム」を作れば、間違いなく採算のとれない無用の長物になる。いうまでもない。
ここらへんの「スケール感」をきちんとアタマに入れた話をしていかないと、ウワモノの建設費が巨大になるくらいでは済まない。取得すべき土地の面積も、更地にする費用も、ランニングの経費も、人件費も、ありとあらゆる費用が膨大なものになることは、ここまでの話でおわかりいただけただろう。
東京都は既に国立霞ヶ丘陸上競技場周辺の立ち退きが予想される住民にある程度の説明を行ないつつあるようだが、そもそも彼らの想定する建て替えに必要な土地面積のイメージは、ぶっちゃけ「とんでもなくデカすぎる」ものだ。
上で「収容人数」について書いたことでわかるのは、国立霞ヶ丘陸上競技場の建て替えが、もし「8万人を常設席に収容できるモンスター級の陸上競技場をつくる」という意味であるなら、「1500億でできるわけがない」ということ、さらにそういう「モンスター級の陸上競技場など、日本には必要ないし、仮に作ったとしても、到底維持できない」というようなことだ。
さらに、MLBのボールパークの建設費ランキングを見てもらえばわかると思うが、「5万人収容くらいで、屋根が開閉式のドーム球場を作る費用は、少なくとも近年のアメリカでは、1000億以上かかることは、滅多にない」。そして、「場所にもよるが、500億円ちょっとでも十分作れる」。(資料:MLB Ballparks - Construction Cost Rankings)
新ヤンキースタジアムは世界第2位の約1500億円もかかった金満スタジアムだが、これはカネがかかりすぎというものであって、MLBで2番目にカネのかかった、同じニューヨークのシティ・フィールドは、前身のシェイ・スタジアムの駐車場に作ったせいか、わずか900億円しかかかっていない。(もちろん、900億でも、MLBのボールパークの建設費としては超高額だが)
そして、他の球場は、開閉式ドームのセーフコ・フィールドなども含めて、ほとんど全てのボールパークが、わずか「600億円以下」で建設されているのである。
上で書いたように、「6万人を収容できる巨大野球場」は、サッカーやアメリカン・フットボールでいえば、「8万人を収容できる巨大スタジアム」を意味する。
もし日本に「8万人収容で、屋根が開閉式のスタジアム」を新たに作るとしても、それが「8万人を、しかも常設席で収容できる、世界に前例のないモンスター級の陸上競技場」などという、わけのわからない無謀な話ではなくて、「6万人収容できるかなり大きな野球場、とでもいうような規模イメージのスタジアム」である限りは、「3000億円」どころか、「1500億円」もかけずに建設可能なはずだ。(もちろん、前に書いたように、同じ場所で建て替えようとするから、余計に費用がかさむということはある。だからこそ、同じ場所でなく、場所を変えるべきだ、というのである)
話が長くなった。
東京都が「8万人収容で、1500億円」と言っている「スタジアムの想定」が、結局のところ、いったい、どこの、何を、「模範」としてイメージされたかといえば、いうまでもなく、「1600億円という世界一のコストをかけて建設され、8万人以上を収容できるアメリカのMetLife Stadiumのレベル、つまり、世界トップレベルのスタジアムを、わが東京にも作るんだべ」程度のアバウトさ、ないしは、「世界一のMetLife Stadiumが1600億でできたんだから、オラも1500億くらいかけりゃ、東京にも、つくれるだろ」程度のアバウトさから発言されているに過ぎないであろうことは、ここまで長々と書いてきたことでわかってもらえると思う。
だが、彼らは、自分たちが企画書で目にして飛びついた「1600億かけて建設された、8万人収容の、世界でいちばんカネのかかったスタジアム」というのが、そもそも競技スペースが狭くて済む「アメリカン・フットボール場」であって、「陸上競技場ではない」ということを、たぶんわかってない。
もし、わけのわからない人間たちが、わけもわからず「8万人を、常設席で収容可能な、モンスタークラスの陸上競技場」なんてものを想定しているのだとしたら、国立霞ヶ丘陸上競技場は、ただでさえサブトラックの再整備が必要で、さらに、現にある陸上競技場を更地に戻す費用もかかり、既存の周辺住民を立ち退かせる費用など、さまざまな経費もかかった上に、さらに本題の広大な面積の土地を収用し、地上70メートルにも達する巨大なウワモノを、しかも「風致地区」に建設して、さらに膨大なレベルの維持費と人件費が何十年もかかり続けるのだから、「1500億円程度の費用」で建てられるわけがない。
「1500億でできますよ」だのというが
ほんと、「できもしないことを言うな」と、
猪瀬氏に言いたくなる。
というのは、あの記事をさらっと読まれてしまうと、まるで「建て替え費用は、東京都が想定しているような『8万人規模で1500億円』なんて予算規模では、いいスタジアムなんてできない。世界に誇れる8万人規模のスタジアムを作るべきだから、文部省がとりあえず試算した『3000億円』かかるかどうかはともかく、1500億円以上は絶対にかけて事業を進めるべきだ」、などと読まれかねないと思ったからだ。
Damejima's HARDBALL:2013年10月29日、国立霞ヶ丘陸上競技場は、「同じ場所で建て替える」などという二番煎じのお茶をさらに温め直すような発想を止め、違う場所に新設すべき。
そもそも、東京都のいう「8万人収容、1500億円」という数字がどこから湧いて出てきたのか、推定してみると、たぶん以下のようなデータがあることからして、「世界一カネがかかったMetLife Stadiumが費用1600億円・8万人収容だから、東京でもそれくらいの費用でできるだろう」程度の大雑把な推論が話の出発点に違いない。
まずは、今の時点で、「世界で最もカネのかかったスタジアム」のベスト5を見てもらいたい。(以下「B=billion=10億」。例:US$1.6B=16億ドル≒約1600億円)
1位 MetLife Stadium
US$1.6 B (ニュージャージー・NFL)
2位 新ヤンキースタジアム
US$1.5 B (ニューヨーク・野球)
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Olympic Stadium(モントリオール・多目的)
AT&T Stadium(テキサス・NFL)
Wembley Stadium(ロンドン・サッカー場)
3位〜5位のスタジアムの建設費は、1.25〜1.4 billion
注:
上位2つのスタジアムの順位は、どの資料をみても変わらない。だが、3位以下のスタジアムの順位は資料によって変動する。カナダ、アメリカ、イギリスと、それぞれが異なる国のスタジアムで、差が小さく、為替レートによっても順位が変動するレベルだから、ここは細かいことなど気にせず、「3位タイが3つあって、ドングリの背比べだ」とでも思っておけばいいだろう。
「建設費」だが、これは、初期費用は変わらないにしても、Olympic Stadiumがそうであるように、追加改修が必要になると完成後にも膨れ上がっていったりする。また「収容人員」については、どんなスポーツを開催するかによって大きく異なる。野球と比べ、サッカーやアメリカン・フットボールの開催は、フィールドに臨時のシートを増設することもできるため、より多くの観客をスタジアムに収容できる。
上記5つのスタジアムは、それぞれの主な使用目的が違う(NFL、野球、サッカー)。そのため収容能力を横一列で単純比較することは難しい。
AT&Tというと、MLBファンはどうしてもサンフランシスコのAT&T Parkを思い浮かべてしまうわけだが、ここではかつてCowboys Stadiumと呼ばれていたテキサスのNFLのスタジアムをさす。
収容人員数
1位 MetLife Stadium 82,566人(NFL)
2位 新ヤンキースタジアム 約5万人(MLB)
Olympic Stadium 66,308人(NFL)
AT&T Stadium 10万5千人(NFL)
Wembley Stadium 86,000人(サッカー)
USドルでの比較(2011年12月付):The 5 Most Expensive Stadiums In The World
USドルでの比較(2011年10月付)11 Most Expensive Stadiums In The World
ユーロでの比較:世界のスタジアム建設費TOP10 |FootballGEIST
「8万人収容・1500億円」の意味
論点1)競技によって大きく異なる
「8万人収容スタジアム」の「規模」
日本の新聞メディアは国立霞ヶ丘陸上競技場の建て替えについて、「どういう意味の『8万人』なのか?」を全く定義することなく、ダラダラ、ダラダラ報道を垂れ流しているから、まるで議論にならない。
上でも書いたことだが、ひとくちに「8万人収容」といっても、「陸上競技の観客8万人」、「野球の8万人」、「サッカーの8万人」、「アメリカン・フットボールの8万人」では、それぞれに必要な土地面積、スタジアムの規模、かかる維持費の全てが、まるっきり違ってくる。
「陸上競技の8万人規模のスタジアム」というと、野球以上に広大な「敷地」が必要になる。だが、年間通しての集客など期待できるはずがない陸上競技では、8万人なんていうモンスター・スタジアムを作るなんてことは、まさに自殺行為でしかない。
サッカーというスポーツについては、テレビ中継画面の広角なアングルの「イメージ」のせいで、「広大なグラウンドを走り回ってプレーするスポーツである」だのと思いこんでいる人はやたら多いことだろうが、実際には、サッカー場の面積なんてものは、たとえピッチ外のスペースを含めたとしても、野球のフィールド面積のせいぜい半分程度にしかならない。アメリカン・フットボールはさらに狭い。
だから例えば、野球場のインフィールドに臨時の席を設営することを想定する場合、野球の開催で「6万人」くらいの収容規模のスタジアムは、アメリカン・フットボールでなら「8万人収容」くらいの規模のスタジアムであることを意味する。
もし東京都が、国立霞ヶ丘陸上競技場の建て替えで想定している「規模」が、「8万人の観客を、それも『常設席』に収容できる、陸上競技場」なんてものだとしたら、そんなスタジアムは「とてつもなくデカいモンスターになる」に決まっているし、そして当然ながら、「モンスターの建設には、とてつもない費用がかかる」。(というか、たぶんあのデザインを設計した人間は、「そもそもスポーツ観戦とか、スタジアムというものを理解してない人間」だ)
だが、上のスタジアム・ランキングでわかる通り、そんな「とてつもなく馬鹿デカいスタジアム」など、世界の(というか、アメリカの)どんな採算のとれているプロスポーツで探しても、どんなスポーツ先進国で探しても、「ない」し、「ありえない」。
そして、そういう「ありえないもの」を現実に作ろうとすれば、間違いなく「世界で最も建設費のかかったスタジアム」になり、さらに同時に、「世界で最も維持していけない陸上競技場」になるだろう。
イメージしておかなくてはならないのは、「野球よりはるかに狭いフィールドでプレーしているスポーツ」であるサッカーやアメリカン・フットボールを前提に考える「8万人収容のスタジアム」のイメージというのは、「野球でいうなら、6万人収容程度の大きさ」だ、ということだ。
例えば、8万人以上収容できるMetLife Stadiumは、世界で最もカネのかかったスタジアムで、建設費はおよそ「1600億円」もかかっっているわけだが、このスタジアムはそもそも「アメリカン・フットボール用」なのだから、野球場に換算するなら、「6万人収容の野球場」程度の大きさという意味でしかない。
「6万人収容の野球場」というと、野球場として大きいのは確かだが、想像を絶するほど大きさではないし、モンスターでもない。そして、そんな程度の大きさでも、建設には1600億円もかかったのだ。
もしこれが、「8万人を常設の席に収容できる陸上競技場」なんてものになったらどうなるか、想像できるはずだ。巨大なモンスター級スタジアムの建設の費用は、1500億とか1600億とかで収まるわけがない。そんなものを、1年にたった数週間しか使わないマイナーなプロスポーツだの、アマチュア競技のための常設施設だのとして作れば、どうなるか、わかりそうなものだ。
既に何度も書いていることだが、日本では「野球以外の競技」で、「6万人を超える規模のスタジアム」を作れば、間違いなく採算のとれない無用の長物になる。いうまでもない。
ここらへんの「スケール感」をきちんとアタマに入れた話をしていかないと、ウワモノの建設費が巨大になるくらいでは済まない。取得すべき土地の面積も、更地にする費用も、ランニングの経費も、人件費も、ありとあらゆる費用が膨大なものになることは、ここまでの話でおわかりいただけただろう。
東京都は既に国立霞ヶ丘陸上競技場周辺の立ち退きが予想される住民にある程度の説明を行ないつつあるようだが、そもそも彼らの想定する建て替えに必要な土地面積のイメージは、ぶっちゃけ「とんでもなくデカすぎる」ものだ。
論点2)MLBのスタジアムで、建設費が10億USドルを越えているのは、実は「新ヤンキースタジアムだけ」
上で「収容人数」について書いたことでわかるのは、国立霞ヶ丘陸上競技場の建て替えが、もし「8万人を常設席に収容できるモンスター級の陸上競技場をつくる」という意味であるなら、「1500億でできるわけがない」ということ、さらにそういう「モンスター級の陸上競技場など、日本には必要ないし、仮に作ったとしても、到底維持できない」というようなことだ。
さらに、MLBのボールパークの建設費ランキングを見てもらえばわかると思うが、「5万人収容くらいで、屋根が開閉式のドーム球場を作る費用は、少なくとも近年のアメリカでは、1000億以上かかることは、滅多にない」。そして、「場所にもよるが、500億円ちょっとでも十分作れる」。(資料:MLB Ballparks - Construction Cost Rankings)
新ヤンキースタジアムは世界第2位の約1500億円もかかった金満スタジアムだが、これはカネがかかりすぎというものであって、MLBで2番目にカネのかかった、同じニューヨークのシティ・フィールドは、前身のシェイ・スタジアムの駐車場に作ったせいか、わずか900億円しかかかっていない。(もちろん、900億でも、MLBのボールパークの建設費としては超高額だが)
そして、他の球場は、開閉式ドームのセーフコ・フィールドなども含めて、ほとんど全てのボールパークが、わずか「600億円以下」で建設されているのである。
上で書いたように、「6万人を収容できる巨大野球場」は、サッカーやアメリカン・フットボールでいえば、「8万人を収容できる巨大スタジアム」を意味する。
もし日本に「8万人収容で、屋根が開閉式のスタジアム」を新たに作るとしても、それが「8万人を、しかも常設席で収容できる、世界に前例のないモンスター級の陸上競技場」などという、わけのわからない無謀な話ではなくて、「6万人収容できるかなり大きな野球場、とでもいうような規模イメージのスタジアム」である限りは、「3000億円」どころか、「1500億円」もかけずに建設可能なはずだ。(もちろん、前に書いたように、同じ場所で建て替えようとするから、余計に費用がかさむということはある。だからこそ、同じ場所でなく、場所を変えるべきだ、というのである)
話が長くなった。
東京都が「8万人収容で、1500億円」と言っている「スタジアムの想定」が、結局のところ、いったい、どこの、何を、「模範」としてイメージされたかといえば、いうまでもなく、「1600億円という世界一のコストをかけて建設され、8万人以上を収容できるアメリカのMetLife Stadiumのレベル、つまり、世界トップレベルのスタジアムを、わが東京にも作るんだべ」程度のアバウトさ、ないしは、「世界一のMetLife Stadiumが1600億でできたんだから、オラも1500億くらいかけりゃ、東京にも、つくれるだろ」程度のアバウトさから発言されているに過ぎないであろうことは、ここまで長々と書いてきたことでわかってもらえると思う。
だが、彼らは、自分たちが企画書で目にして飛びついた「1600億かけて建設された、8万人収容の、世界でいちばんカネのかかったスタジアム」というのが、そもそも競技スペースが狭くて済む「アメリカン・フットボール場」であって、「陸上競技場ではない」ということを、たぶんわかってない。
もし、わけのわからない人間たちが、わけもわからず「8万人を、常設席で収容可能な、モンスタークラスの陸上競技場」なんてものを想定しているのだとしたら、国立霞ヶ丘陸上競技場は、ただでさえサブトラックの再整備が必要で、さらに、現にある陸上競技場を更地に戻す費用もかかり、既存の周辺住民を立ち退かせる費用など、さまざまな経費もかかった上に、さらに本題の広大な面積の土地を収用し、地上70メートルにも達する巨大なウワモノを、しかも「風致地区」に建設して、さらに膨大なレベルの維持費と人件費が何十年もかかり続けるのだから、「1500億円程度の費用」で建てられるわけがない。
「1500億でできますよ」だのというが
ほんと、「できもしないことを言うな」と、
猪瀬氏に言いたくなる。