July 11, 2014
7月のクリーブランド戦で田中将大投手が使った球種について、春先の登板ゲームの球種と比較しつつ、少しデータを追加しておきたい。以下のデータにおいて、球種の略号は以下のとおり。
FA(Fastball)
SI(Sinker)
SL(Slider)
CU(Curveball)
FC(Cutter)
FS(Splitter)
CH(Changeup)
(ちなみに球種の分類結果は、あまり厳密にとらえないでもらいたい。例えば、2シームという球種はよく使われる球種のひとつだが、これをどこに分類するかはアメリカのMLB関連サイトでも異なっていることがあるし、また、日米で分類が異なる球種などもある)
「ストレートとスプリッター中心の配球」で始まった
田中将大の2014シーズン
春先に田中投手の使った球種は、ストレートとスプリッターを中心の構成だった。
そのことを示す例として以下に、ア・リーグ、ナ・リーグ各1試合ずつ、ビジター2試合のデータを挙げてみた。この2試合は、まったく同じ試合のデータかと勘違いしかねないほど、投球内容が「びっくりするほど似ている」。そのことは、データからすぐにわかってもらえると思う。
言い方を変えれば、2本塁打を浴びて、ちょっとファンをヒヤヒヤさせたゲームだろうと、完璧といえる素晴らしい内容で完封勝ちしたゲームだろうと、実は、投球内容そのものは「ほとんど同じ」であることも、あわせてわかっていただけると幸いだ。
よくいわれることだが、勝った負けたと短絡的に大騒ぎするファンはともかく、プレーヤーにしてみると、試合結果が勝ちか負けかは、単純に時の運であることがいかに多いかが、本当によくわかるデータでもあるのだ。
ここで留意しておかなくてはならないのは、ボストンにしても、メッツにしてもそうだが、対戦相手が「スプリッターを最も多くスイングしてきている」ことだ。(もうちょっと詳しく書くと、田中投手の持ち球がまだわからない開幕直後4月のボストン打線はあらゆる球種について40%以上のレートでスイングしてきているが、5月のメッツ打線になると、はやくもストレートとスプリッターにある程度照準を絞ってスイングする傾向が見えはじめている)
「田中将がスプリッターを多投する投手であること」は、当然ながら、開幕前から情報として誰の耳にも入っている。ただ、情報としていくら知ってはいても、打席に入って実際に打つのは勝手が違うわけで、最初はバットが空を切り続けるわけだ。
ストレートが影をひそめ
「スプリッターなど変化球中心」になった7月
最初に挙げた2試合のデータと比べてもらうと、「7月のクリーブランド戦で田中投手の投げる球種が大きく変わっている」ことは、一目瞭然だ。
1)ストレートが大きく減少
2)カットボール、シンカーが一気に増加
これに対し、打つ側はどうかというと、クリーブランドの打者が、田中投手が投げる割合の高いスプリッター、カットボール、シンカーの3つの球種を、特にスイングしてきていたことが、以下のデータの赤色部分からハッキリわかる。
ここでいうシンカーとは、平均速度92.4マイル (最高95.6マイル)の球のことで、いわゆる「高速シンカー」にあたり、またカットボールが平均89.9マイル (最高91.5マイル)、スプリッターが87.4マイル(最高90.3マイル)だから、要するに、クリーブランド打線は「田中投手の90マイル前後の変化球を目の色を変えてスイングしてきた」のであり、平均94マイルのスピードボールも、スピードを抑えた平均83マイルのスライダーも、田中投手自身がもはや多投しなくなっているし、また、クリーブランド打線も狙ってスイングしてはいないのである。
クリーブランド打線が試合開始時点では田中投手のストレートやスライダーをほとんど振ってこないのは、「投手があまり投げない球種だから、打者がスイングする率が低い」のではない。「打者側で、投手があまり投げてこないのが最初からわかっているから、その球種を捨ててかかっている」のである。
例えば、4月・5月の2ゲームのスイング率で見ると、春先は「田中投手が投げる割合が4番目に高い球種」でも「40%前後」もの割合でスイングしてくれていた。つまり、漫然とスイングしてくれる春先ならではの現象として、各チームのバッターは田中投手の使うさまざまな球種に、それこそ「まんべんなく手を出してくれていた」のだ。
だが、7月のクリーブランド戦では違う。
「4番目に高い球種であるスライダー」について、わずか26.7%しかスイングしてくれなくなっている。つまり、「田中投手に対する狙いが、ある程度しぼられてきている」のである。
これでは、投手に「逃げ場がない」。
たとえ、たまに遊びを増やす意味で球速の遅いカーブやスライダーを投げていたとしても、打者はあまり反応してくれないし、そもそも「90マイル前後の変化球を狙う」というターゲットを変更して、ブレてはくれない。
こうして90マイル前後のスプリッターを打ちこまれた後の田中投手は、次にスライダーを置きにいき、再びホームランを浴びた。明らかにこれは打者に「逃げ先を先読みされて、追い打ちを食らっている」のである。
ストレートを痛打された痛い経験のせいなのかどうなのか、詳しいことまではわからないが、田中投手(あるいはヤンキースのバッテリーコーチ、あるいは、正捕手ブライアン・マッキャン)の側が、田中投手の球種からストレートを引っ込めた理由は何なのだろう。
何度か書いてきたように、例えば田中投手にはチェンジアップがない。いうまでもなく、チェンジアップやカーブ、あるいは、キレのある2シームといった、4シーム以外の「何か」を持たない投手が、「ストレートを引っ込める」ということは、MLBの場合、打者に狙いをさらに絞られることを意味するほかない。
「打たれたから、引っ込めました」、
それだけが理由では困るのである。
例えば、引退したばかりのマリアーノ・リベラにカットボールがあり、大学当時は速球派だったジェイソン・バルガスが肩を壊してチェンジアップを覚え、サイ・ヤング賞投手クリフ・リーがカーブを持ち球のひとつにし、ブライアン・マッカーシーがオークランドで2シームを修正されて飛躍し、デビュー当時4シームばかり投げたがっていたフェリックス・ヘルナンデスがそのストレートを打たれまくって高速シンカーを決め球のひとつに加えたように、それぞれ持ち球に変化を加えるのには、先発ピッチャーとしてMLBで長くやっていくための方策として、やはり大きな意味があるのである。
FA(Fastball)
SI(Sinker)
SL(Slider)
CU(Curveball)
FC(Cutter)
FS(Splitter)
CH(Changeup)
(ちなみに球種の分類結果は、あまり厳密にとらえないでもらいたい。例えば、2シームという球種はよく使われる球種のひとつだが、これをどこに分類するかはアメリカのMLB関連サイトでも異なっていることがあるし、また、日米で分類が異なる球種などもある)
「ストレートとスプリッター中心の配球」で始まった
田中将大の2014シーズン
春先に田中投手の使った球種は、ストレートとスプリッターを中心の構成だった。
そのことを示す例として以下に、ア・リーグ、ナ・リーグ各1試合ずつ、ビジター2試合のデータを挙げてみた。この2試合は、まったく同じ試合のデータかと勘違いしかねないほど、投球内容が「びっくりするほど似ている」。そのことは、データからすぐにわかってもらえると思う。
言い方を変えれば、2本塁打を浴びて、ちょっとファンをヒヤヒヤさせたゲームだろうと、完璧といえる素晴らしい内容で完封勝ちしたゲームだろうと、実は、投球内容そのものは「ほとんど同じ」であることも、あわせてわかっていただけると幸いだ。
よくいわれることだが、勝った負けたと短絡的に大騒ぎするファンはともかく、プレーヤーにしてみると、試合結果が勝ちか負けかは、単純に時の運であることがいかに多いかが、本当によくわかるデータでもあるのだ。
ここで留意しておかなくてはならないのは、ボストンにしても、メッツにしてもそうだが、対戦相手が「スプリッターを最も多くスイングしてきている」ことだ。(もうちょっと詳しく書くと、田中投手の持ち球がまだわからない開幕直後4月のボストン打線はあらゆる球種について40%以上のレートでスイングしてきているが、5月のメッツ打線になると、はやくもストレートとスプリッターにある程度照準を絞ってスイングする傾向が見えはじめている)
「田中将がスプリッターを多投する投手であること」は、当然ながら、開幕前から情報として誰の耳にも入っている。ただ、情報としていくら知ってはいても、打席に入って実際に打つのは勝手が違うわけで、最初はバットが空を切り続けるわけだ。
4月22日 ボストン戦
7回1/3 被安打7 四死球なし 自責点2 勝ち
FA 36球(24ストライク/66.7%)17スイング(47.2%)
FS 23球(16ストライク/69.6%)15スイング(65.2%)
SL 22球(16ストライク/72.7%)10スイング(45.5%)
SI 14球(12ストライク/85.7%)6スイング(42.9%)
出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool
5月14日 メッツ戦
9回完封勝ち 被安打4 四死球なし 自責点ゼロ
FA 37球(24ストライク/64.9%)17スイング(45.9%)
FS 28球(16ストライク/57.1%)15スイング(53.6%)
SL 20球(15ストライク/75.0%)7スイング(35.0%)
SI 14球(7ストライク/50.0%)5スイング(35.7%)
出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool
ストレートが影をひそめ
「スプリッターなど変化球中心」になった7月
最初に挙げた2試合のデータと比べてもらうと、「7月のクリーブランド戦で田中投手の投げる球種が大きく変わっている」ことは、一目瞭然だ。
1)ストレートが大きく減少
2)カットボール、シンカーが一気に増加
これに対し、打つ側はどうかというと、クリーブランドの打者が、田中投手が投げる割合の高いスプリッター、カットボール、シンカーの3つの球種を、特にスイングしてきていたことが、以下のデータの赤色部分からハッキリわかる。
ここでいうシンカーとは、平均速度92.4マイル (最高95.6マイル)の球のことで、いわゆる「高速シンカー」にあたり、またカットボールが平均89.9マイル (最高91.5マイル)、スプリッターが87.4マイル(最高90.3マイル)だから、要するに、クリーブランド打線は「田中投手の90マイル前後の変化球を目の色を変えてスイングしてきた」のであり、平均94マイルのスピードボールも、スピードを抑えた平均83マイルのスライダーも、田中投手自身がもはや多投しなくなっているし、また、クリーブランド打線も狙ってスイングしてはいないのである。
7月8日 クリーブランド戦
6回2/3 被安打10 四死球1 自責点5
FS 27球(17ストライク/63.0%)16スイング(59.3%)
FC 20球(14ストライク/70.0%)12スイング(60.0%)
SI 19球(14ストライク/73.7%)13スイング(68.4%)
SL 15球(13ストライク/86.7%)4スイング(26.7%)
FA 12球(3ストライク/25.0%)3スイング(25.0%)
出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool
クリーブランド打線が試合開始時点では田中投手のストレートやスライダーをほとんど振ってこないのは、「投手があまり投げない球種だから、打者がスイングする率が低い」のではない。「打者側で、投手があまり投げてこないのが最初からわかっているから、その球種を捨ててかかっている」のである。
例えば、4月・5月の2ゲームのスイング率で見ると、春先は「田中投手が投げる割合が4番目に高い球種」でも「40%前後」もの割合でスイングしてくれていた。つまり、漫然とスイングしてくれる春先ならではの現象として、各チームのバッターは田中投手の使うさまざまな球種に、それこそ「まんべんなく手を出してくれていた」のだ。
だが、7月のクリーブランド戦では違う。
「4番目に高い球種であるスライダー」について、わずか26.7%しかスイングしてくれなくなっている。つまり、「田中投手に対する狙いが、ある程度しぼられてきている」のである。
これでは、投手に「逃げ場がない」。
たとえ、たまに遊びを増やす意味で球速の遅いカーブやスライダーを投げていたとしても、打者はあまり反応してくれないし、そもそも「90マイル前後の変化球を狙う」というターゲットを変更して、ブレてはくれない。
こうして90マイル前後のスプリッターを打ちこまれた後の田中投手は、次にスライダーを置きにいき、再びホームランを浴びた。明らかにこれは打者に「逃げ先を先読みされて、追い打ちを食らっている」のである。
ストレートを痛打された痛い経験のせいなのかどうなのか、詳しいことまではわからないが、田中投手(あるいはヤンキースのバッテリーコーチ、あるいは、正捕手ブライアン・マッキャン)の側が、田中投手の球種からストレートを引っ込めた理由は何なのだろう。
何度か書いてきたように、例えば田中投手にはチェンジアップがない。いうまでもなく、チェンジアップやカーブ、あるいは、キレのある2シームといった、4シーム以外の「何か」を持たない投手が、「ストレートを引っ込める」ということは、MLBの場合、打者に狙いをさらに絞られることを意味するほかない。
「打たれたから、引っ込めました」、
それだけが理由では困るのである。
例えば、引退したばかりのマリアーノ・リベラにカットボールがあり、大学当時は速球派だったジェイソン・バルガスが肩を壊してチェンジアップを覚え、サイ・ヤング賞投手クリフ・リーがカーブを持ち球のひとつにし、ブライアン・マッカーシーがオークランドで2シームを修正されて飛躍し、デビュー当時4シームばかり投げたがっていたフェリックス・ヘルナンデスがそのストレートを打たれまくって高速シンカーを決め球のひとつに加えたように、それぞれ持ち球に変化を加えるのには、先発ピッチャーとしてMLBで長くやっていくための方策として、やはり大きな意味があるのである。