January 23, 2017
いまのMLBでデータを最もカッコよくみせる技にたけているアナリストは、MLBアドバンスメディアのリサーチ&ディヴェロップメント部門ディレクターDaren Willmanだが、以下の図はその彼による「マリアーノ・リベラの投球コース」だ。(図はキャッチャー視点で描かれているから、右がファースト側、左がサード側)
ちなみにDaren Willmanはもともとbaseballsavant.comの創始者だが、今はサイトごとMLBに引き抜かれた形になっている。気鋭の「元・民間人」というわけだ。
以下の図から、いかにリベラが「ハーフハイトの使い手」で、また、コントロールのいい投手だったかがわかる。
ストライクゾーンの中間の高さ、ハーフハイト(half hight)の球を、MLBの投手がいかに上手に使っているかを、ロイ・ハラデイを例にして2009年の以下の記事にも書いた。
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い | Damejima's HARDBALL
上の記事は、「キャッチャーがピッチャーに対して、コーナーを突くきわどいボールを要求し続けることの、MLBにおける無意味さ」を理解させるために書いた。
過去のアンパイアの判定結果を集積したデータでみると、MLBアンパイアのストライクゾーンは「ルールブックどおりの四角形」ではなく、むしろ「円形」に近いことがわかっている。(下図)
それは、言い換えるなら、「MLBアンパイアは概してストライクゾーンのコーナーぎりぎりの球をそれほどストライク判定しない」という意味であり、また別の意味では「ハーフハイトの球については、左右を広くストライク判定する傾向」にあるという意味だ。
参考記事:2011年7月11日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (5)カウント3-0ではゾーンを広げて四球を避け、カウント0-2ではゾーンを狭めて三振を避ける。あらためて明らかになったアンパイアの「故意にゲームをつくる行為」。 | Damejima's HARDBALL
以上のような事実をアタマに入れておけば、「ストライクゾーンを横に広く使って、ハーフハイトのカットボールと4シームを投げわける」という「マリアーノ・リベラ特有の配球」は、「ストライクゾーンのコーナーぎりぎりを無理に突いて、アンパイアにボール判定されてイライラする」ことより、「MLBのアンパイアの判定の習性に沿っている」という意味で、はるかに理にかなっている。
左バッターに対して「カットボールと4シームを巧妙に混ぜつつ、インコースのハーフハイトを突くこと」が、マリアーノ・リベラ特有の投球術だったことは、2011年の以下の記事にも書いた。
参考記事:2011年5月28日、アダム・ケネディのサヨナラタイムリーを生んだマリアーノ・リベラ特有の「リベラ・左打者パターン」配球を読み解きつつ、イチローが初球サヨナラホームランできた理由に至る。 | Damejima's HARDBALL
2009年9月18日、1点ビハインドの9回裏にイチローがリベラの初球のカットボールを逆転サヨナラ2ランしたときの球は、もちろんリベラが最も得意としていた「ハーフハイトのカットボール」だ。
ここまで挙げたデータのすべては、この「初球」が「マリアーノ・リベラの失投などではなく、むしろリベラが最も得意とする配球を、予定通りに投げた球」であることを示している。
ブログ主にとっては、そのこと自体は昔からわかっていたことのひとつにすぎないが、最初に挙げたDaren Willmanのデータであらためてその正しさが明らかになった。
ちなみに、イチローがホームランしたリベラのカットボールは「ボール球」だ。
右投手リベラは、キャリア通算の被打率では左打者.209、右打者.214と、打者の左右などほとんど苦にしないピッチャーだった。キャリア通算で71本打たれているホームラン(クローザーになって以降は59本)のうち、左打者には27本しか打たれていない。
左バッターのインコースのハーフハイトを突くことに絶対の自信を持っていたリベラが、1点差の9回2死2塁で、おそらく「様子見のため」に投げた初球のボール球を、イチローにいきなり逆転サヨナラ2ランされたのだ。
リベラが唖然としながらマウンドで、何度も何度も "No! No!" とわめいていたのを、いまでもよく覚えている。それほど、リベラにとってあれは「想定外の出来事」だった。
たぶんリベラは2球目に、同じインコースのハーフハイトに、こんどは「ストライクになる4シーム」を投げてカウントを稼ぐつもりだったはずだ。そして3球目にはインコースぎりぎりのストライクになるカットボールで、バットをへし折るセカンド方向の内野ゴロか、ファウルを打たせるという寸法だ。
初球、2球目、3球目と続く「ストーリー」に絶対の自信があるからこそ、初球に「わざとボールを投げる余裕」が生まれる。リベラはイチローは初球を振ってこないと踏んで、ボールになるカットボールで「2球目への布石」を打ったのである。
以下の図は、最初にあげたMLBアドバンスメディアのディレクターDaren Willmanがイチローについてツイートした別のデータだ。
彼が2008年から2011年の間にウラジミール・ゲレーロがボール球をヒットにした数が「279本」であり、そのヒット数は当時のMLBで「2番目」に多いことをツイートしたとき、あるファンが「じゃ、1位は誰? イチローかな?」と質問したのだが、Daren Willman自身が以下のように答えた。
上のデータから、ゲレーロとイチローが「インコースのボール球」を何回かホームランしていることがわかる。
ゲレーロも、ボール球でもヒットにしてしまうことでよく知られた「悪球打ち」だったわけだが、ゲレーロさえ上回る「2000年代最強のMLBナンバーワン悪球打ち打者」、それが2000年代のイチローだ。
こういう天才肌のバッターに「よく球を見ていけ」なんて愚劣な指示を出すのは、明らかに間違いだ。他人よりもよく球が見え、なおかつ苦手コースが存在しない天才バッターだからこそ「悪球打ち」が可能になるのであって、平凡なプレーヤーでしかなかった自分の狭い常識を天才に押し付けるような無能な打撃コーチは、イチローやゲレーロにはまったく必要ない。
ちなみにDaren Willmanはもともとbaseballsavant.comの創始者だが、今はサイトごとMLBに引き抜かれた形になっている。気鋭の「元・民間人」というわけだ。
以下の図から、いかにリベラが「ハーフハイトの使い手」で、また、コントロールのいい投手だったかがわかる。
Always fun to go back and revisit Mariano Rivera's control... He could absolutely paint the corners with his cutter & 4 seamer pic.twitter.com/bRQkPXUy8v
— Daren Willman (@darenw) 2016年11月29日
ストライクゾーンの中間の高さ、ハーフハイト(half hight)の球を、MLBの投手がいかに上手に使っているかを、ロイ・ハラデイを例にして2009年の以下の記事にも書いた。
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い | Damejima's HARDBALL
上の記事は、「キャッチャーがピッチャーに対して、コーナーを突くきわどいボールを要求し続けることの、MLBにおける無意味さ」を理解させるために書いた。
過去のアンパイアの判定結果を集積したデータでみると、MLBアンパイアのストライクゾーンは「ルールブックどおりの四角形」ではなく、むしろ「円形」に近いことがわかっている。(下図)
それは、言い換えるなら、「MLBアンパイアは概してストライクゾーンのコーナーぎりぎりの球をそれほどストライク判定しない」という意味であり、また別の意味では「ハーフハイトの球については、左右を広くストライク判定する傾向」にあるという意味だ。
参考記事:2011年7月11日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (5)カウント3-0ではゾーンを広げて四球を避け、カウント0-2ではゾーンを狭めて三振を避ける。あらためて明らかになったアンパイアの「故意にゲームをつくる行為」。 | Damejima's HARDBALL
以上のような事実をアタマに入れておけば、「ストライクゾーンを横に広く使って、ハーフハイトのカットボールと4シームを投げわける」という「マリアーノ・リベラ特有の配球」は、「ストライクゾーンのコーナーぎりぎりを無理に突いて、アンパイアにボール判定されてイライラする」ことより、「MLBのアンパイアの判定の習性に沿っている」という意味で、はるかに理にかなっている。
左バッターに対して「カットボールと4シームを巧妙に混ぜつつ、インコースのハーフハイトを突くこと」が、マリアーノ・リベラ特有の投球術だったことは、2011年の以下の記事にも書いた。
参考記事:2011年5月28日、アダム・ケネディのサヨナラタイムリーを生んだマリアーノ・リベラ特有の「リベラ・左打者パターン」配球を読み解きつつ、イチローが初球サヨナラホームランできた理由に至る。 | Damejima's HARDBALL
2009年9月18日、1点ビハインドの9回裏にイチローがリベラの初球のカットボールを逆転サヨナラ2ランしたときの球は、もちろんリベラが最も得意としていた「ハーフハイトのカットボール」だ。
ここまで挙げたデータのすべては、この「初球」が「マリアーノ・リベラの失投などではなく、むしろリベラが最も得意とする配球を、予定通りに投げた球」であることを示している。
ブログ主にとっては、そのこと自体は昔からわかっていたことのひとつにすぎないが、最初に挙げたDaren Willmanのデータであらためてその正しさが明らかになった。
ちなみに、イチローがホームランしたリベラのカットボールは「ボール球」だ。
右投手リベラは、キャリア通算の被打率では左打者.209、右打者.214と、打者の左右などほとんど苦にしないピッチャーだった。キャリア通算で71本打たれているホームラン(クローザーになって以降は59本)のうち、左打者には27本しか打たれていない。
左バッターのインコースのハーフハイトを突くことに絶対の自信を持っていたリベラが、1点差の9回2死2塁で、おそらく「様子見のため」に投げた初球のボール球を、イチローにいきなり逆転サヨナラ2ランされたのだ。
リベラが唖然としながらマウンドで、何度も何度も "No! No!" とわめいていたのを、いまでもよく覚えている。それほど、リベラにとってあれは「想定外の出来事」だった。
たぶんリベラは2球目に、同じインコースのハーフハイトに、こんどは「ストライクになる4シーム」を投げてカウントを稼ぐつもりだったはずだ。そして3球目にはインコースぎりぎりのストライクになるカットボールで、バットをへし折るセカンド方向の内野ゴロか、ファウルを打たせるという寸法だ。
初球、2球目、3球目と続く「ストーリー」に絶対の自信があるからこそ、初球に「わざとボールを投げる余裕」が生まれる。リベラはイチローは初球を振ってこないと踏んで、ボールになるカットボールで「2球目への布石」を打ったのである。
以下の図は、最初にあげたMLBアドバンスメディアのディレクターDaren Willmanがイチローについてツイートした別のデータだ。
彼が2008年から2011年の間にウラジミール・ゲレーロがボール球をヒットにした数が「279本」であり、そのヒット数は当時のMLBで「2番目」に多いことをツイートしたとき、あるファンが「じゃ、1位は誰? イチローかな?」と質問したのだが、Daren Willman自身が以下のように答えた。
@gosutherl Correct. Ichiro, 322 pic.twitter.com/WJfe6kHTyG
— Daren Willman (@darenw) 2016年11月27日
All of Vladimir Guerrero's base hits from 2008 to 2011... 279 base hits on pitches out of the zone. 2nd most in that timeframe @MarchiMax pic.twitter.com/OPOFpnuwsl
— Daren Willman (@darenw) 2016年11月27日
上のデータから、ゲレーロとイチローが「インコースのボール球」を何回かホームランしていることがわかる。
ゲレーロも、ボール球でもヒットにしてしまうことでよく知られた「悪球打ち」だったわけだが、ゲレーロさえ上回る「2000年代最強のMLBナンバーワン悪球打ち打者」、それが2000年代のイチローだ。
こういう天才肌のバッターに「よく球を見ていけ」なんて愚劣な指示を出すのは、明らかに間違いだ。他人よりもよく球が見え、なおかつ苦手コースが存在しない天才バッターだからこそ「悪球打ち」が可能になるのであって、平凡なプレーヤーでしかなかった自分の狭い常識を天才に押し付けるような無能な打撃コーチは、イチローやゲレーロにはまったく必要ない。