March 07, 2020
まずは、以下の2つのNHK(=日本の国営テレビ)記事を読み比べてもらおう。ダイアモンド・プリンセス号事件の記事である。
2つの記事が書かれた日付は、わずか10日間しか離れていない。
だが、短い期間、同じメディアの記事であるにもかかわらず、2つの記事の間には気味が悪いほどの「事実認識の隔たり」がある。(以下の記述において、2つの記事はすべて記事A、記事Bと略す)
記事A)2020年2月23日NHK記事
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200223/k10012297661000.html
記事B)2020年3月4日NHK記事
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/31092.html
項目1)アメリカ人乗客を船内にとどめたのは誰か
記事Aに、明確に日本側はアメリカ人乗客の早期帰国を提案したが、船内にとどめるよう要請したのは、むしろアメリカ側で、CDCもそのことを事前に知っていた旨の明確な記述がある。(*CDC=アメリカの伝染病対策にあたる政府組織である「疾病対策センター」)
しかしながら、記事Bの記述ぶりはまったく異なる。
まず、記事Bでは「アメリカ側からの要請で乗員乗客を船内にとどめた」ことについて、悪質なことに、すっぽりと記述が抜け落ちている。
そして、記事Bでは「『日本政府の危機感が薄かった』と断定できるだけの記述量が、記事冒頭にまったく欠けている」にもかかわらず、「アメリカ側からの要請にまったく触れない」というレトリックによって都合よくも、いきなり「当初、政府に危機感は薄かった」などと記者が主観的に断定することから記事を始めている、のである。
また、記事Bの要所要所で記者は、「ある政府関係者」「政府高官」など、「曖昧な主語」を故意に散りばめることで、名前すら挙げない不特定の人間をあたかも日本政府自身が、みずからの失態をわかっていて、恥じてでもいるかのように陳述することで、読む人間の印象を操作しようとしている。
その結果、記事Bは記事全体として、あたかも「日本政府の当初の見通しの甘さが、乗客乗員を船内に長く留め置く原因になった」かのような「印象操作」を読者に強いているのである。
項目2)CDCの責任逃れ
記事Bには、CDCのコメントについて以下の記述がある。
この記事の最初の「項目1」を読んでもらえば明らかだが、「アメリカ人乗客に関して、船内にとどめるよう要請した」のは「アメリカ側」であり、その相談にはCDCも参加していたと、少なくとも記事Aは明記している。
つまり、ことアメリカ人乗客の下船に関する去就に関していえば、「乗客を船内にしばらくとどめるとする決定」は、CDCを含むアメリカ側に主な責任があり、また、全乗客の多数派であるアメリカ人乗客に関する「決定」が、他の国の乗客全体の処遇の決定に大きな影響を与えるであろうことは言うまでもない。
船内にとどめることに当初から同意していたCDCが、船内隔離による感染リスクについて他国の政府を批判できる立場にはないことは明らかだ。
項目3)「船内に乗客をとどめたことが感染を拡大させた、のではない」という日本の国立感染症研究所の指摘
記事Aにおける時系列をあらためて確認すると、日本が乗客を船内にとどめることにしたことには、「理由」がある。それは「『症状がある人』の中に武漢コロナ感染者がいることが明らかになったことで、すべての乗客乗員への検査の必要が生じ、また、たとえ結果が陰性であっても、2週間程度の経過観察を要するという判断が生じた」からだ。
では、なぜ「2月5日以降に乗客・乗員を船内に留め置いたことで、むしろ船内に感染を拡大させたのではないか」というような「根拠の曖昧な疑念」が生じたのか。
きっかけのひとつは、いうまでもなく、神戸大学教授・岩田健太郎がYoutubeにアップした主観的で独善的な動画(=既に削除されている)だ。そうした根拠のない主張が、アメリカのCDCの責任逃れに「口実」を与えることになり、CDCは尻馬に乗る形で「乗客は感染するリスクが高い状態に置かれている」などと批判を口にできたのである。
だが、記事Bにこういう記述がある。
つまり、日本の国立感染症研究所によれば、「乗客乗員を船内にとどめたことによって感染が拡大した」のではなく、全員を検査するとか、船内での14日間の観察期間を経過するとかより以前の段階で「船内ですでに感染拡大が起きていた可能性が高い」と指摘しているのである。
にもかかわらず、神戸大学・岩田教授の無責任きわまりない動画を見た大衆や日米のマスメディアは、「船内にとどめたことで感染が広がった」などと、無根拠なデマを飛ばしたのである。
項目4)アメリカがチャーター機を手配したことに関する記述
アメリカがチャーター機を手配するに至った経緯について、記事Aは以下のように記述する。
しかしながら、記事Bはニュアンスがまったく異なる記述を、故意かつ主観的に採用している。「日本の国立研究所が『船内での2週間の待機期間を設けたことで感染が拡大したのではない』と指摘した」という主旨の記述部分に続けて、こう書いて、印象操作しているのである。
この「事実の断片を部分的に主観で切り取って、無理につなげた文章」だけを読むと、あたかも「世界が懸念を表面化するなかで、何事にも迅速なアメリカが、もっとも早く他に先駆けて動き、自国民をいちはやく救済した」かのような印象を読む人に与える。
だが、「項目1」における記事Aによれば、それは事実ではない。
そもそも「船内にとどめるように要請した」のはもともと日本でなく、アメリカであり、また、アメリカ側がチャーター機を手配して2月19日の待機期限を待たず、アメリカ人乗客を帰国させたこと自体、日米両国間でとっくに了解済みの話なのである。「2週間の船内待機がウイルス汚染を拡大させた。それを危険視したアメリカが急いでチャーター機を飛ばした」という朝日、毎日、ニューヨーク・タイムズなどの下世話な論理は、そうしたメディアがもはやタブロイド紙まがいの三流ジャーナリズムでしかないことを如実に示している。
項目5)たとえ検査結果が「陰性」であっても発症する武漢肺炎の特性
記事Bは、アメリカのニューヨーク・タイムズの以下の記事を紹介している。
中国でのいくつかの事例、また、日本を含めた他の国での事例においても、武漢肺炎について「大流行のあとからわかった、最もやっかいなこと」のひとつは、たとえ「検査で陰性」だからといって、「いちど感染した人間は二度と発症しない」「症状がない人間は発症しない」「感染したからといって、症状が出るとは限らない」ことだ。
たしかに、「陰性で、2週間の待機を経過した乗客たち」であっても、「公共交通機関」で帰らせたことは迂闊な判断といえる。
だが、だからといって、「陰性の検査結果が、いったいどこまでの『安全』を意味するのか、いまだにはっきりしない」ような曖昧な状況では、「陰性とわかったはずの人間」、「治療が終わったとみなされた人間」の処遇において、「一定の誤り」が生じることは、それが誰であっても避けることはできない。
何が本当に安全といえる状態なのか。それは当分の間、誰にもわからないことだけはわかっているというのに、ニューヨーク・タイムズはいかにも「自分だけは、すべてがわかっている」かのような上から目線の態度なわけだが、そういう無意味で失礼な態度は笑止千万というものでしかなく、やがてくるブーメランの到来に備えたほうがいい。
サンフランシスコ沖のクルーズ船「グランド・プリンセス号」は、日本の「ダイヤモンド・プリンセス号」と同じ会社の所有する客船だが、ハワイで下船させた乗客が既に新型コロナに感染していたことがわかっている。
ニューヨーク・タイムズがいかに「上から目線」で語ろうと、アメリカでの新型コロナの検査が拡大すればするほど、この冬、アメリカでのインフルエンザ大流行と思われ、インフルエンザでの死者と思われていた症例の何パーセントか、何十パーセントかが、実は武漢コロナでしたという話になるのは目に見えている。
以上、同じNHKの異なる2つの記事を点検した。日米両国のマスメディアによるこのところの日本批判が、どれほど恣意的なものか、わかったことと思う。
われわれは常によく目を開けて、報道と事実の差異を点検すべきだ。
2つの記事が書かれた日付は、わずか10日間しか離れていない。
だが、短い期間、同じメディアの記事であるにもかかわらず、2つの記事の間には気味が悪いほどの「事実認識の隔たり」がある。(以下の記述において、2つの記事はすべて記事A、記事Bと略す)
記事A)2020年2月23日NHK記事
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200223/k10012297661000.html
記事B)2020年3月4日NHK記事
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/31092.html
項目1)アメリカ人乗客を船内にとどめたのは誰か
記事Aに、明確に日本側はアメリカ人乗客の早期帰国を提案したが、船内にとどめるよう要請したのは、むしろアメリカ側で、CDCもそのことを事前に知っていた旨の明確な記述がある。(*CDC=アメリカの伝染病対策にあたる政府組織である「疾病対策センター」)
記事Aからの引用(太字による強調はブログ側による)
日本政府が、当初、アメリカ人乗客の早期下船と帰国を提案したのに対し、アメリカ政府は日本側の対応に謝意を示したうえで、CDCなどと議論した結果、「乗客を下船させ、横田基地などに移動させれば、感染リスクが高まることが予想される。船は衛生管理がきちんと行われており、船内にとどめてほしい」と要請していた
しかしながら、記事Bの記述ぶりはまったく異なる。
まず、記事Bでは「アメリカ側からの要請で乗員乗客を船内にとどめた」ことについて、悪質なことに、すっぽりと記述が抜け落ちている。
そして、記事Bでは「『日本政府の危機感が薄かった』と断定できるだけの記述量が、記事冒頭にまったく欠けている」にもかかわらず、「アメリカ側からの要請にまったく触れない」というレトリックによって都合よくも、いきなり「当初、政府に危機感は薄かった」などと記者が主観的に断定することから記事を始めている、のである。
また、記事Bの要所要所で記者は、「ある政府関係者」「政府高官」など、「曖昧な主語」を故意に散りばめることで、名前すら挙げない不特定の人間をあたかも日本政府自身が、みずからの失態をわかっていて、恥じてでもいるかのように陳述することで、読む人間の印象を操作しようとしている。
その結果、記事Bは記事全体として、あたかも「日本政府の当初の見通しの甘さが、乗客乗員を船内に長く留め置く原因になった」かのような「印象操作」を読者に強いているのである。
項目2)CDCの責任逃れ
記事Bには、CDCのコメントについて以下の記述がある。
5日以降、乗客・乗員を船内に留め置いたことは、むしろ感染を拡大させたのではないか。こうした疑念が国内外に広がった。アメリカのCDC=疾病対策センターも、「乗客は感染するリスクが高い状態に置かれていた」などと指摘。国内外から批判が相次ぐこととなった。
この記事の最初の「項目1」を読んでもらえば明らかだが、「アメリカ人乗客に関して、船内にとどめるよう要請した」のは「アメリカ側」であり、その相談にはCDCも参加していたと、少なくとも記事Aは明記している。
つまり、ことアメリカ人乗客の下船に関する去就に関していえば、「乗客を船内にしばらくとどめるとする決定」は、CDCを含むアメリカ側に主な責任があり、また、全乗客の多数派であるアメリカ人乗客に関する「決定」が、他の国の乗客全体の処遇の決定に大きな影響を与えるであろうことは言うまでもない。
船内にとどめることに当初から同意していたCDCが、船内隔離による感染リスクについて他国の政府を批判できる立場にはないことは明らかだ。
Speechlessly amazed at the double standard of CDC and American media. In the case of the Diamond Princess, they had criticized Japan for "getting out of the boat", while the case Grand Princess, CDC "anchored offshore and test "
— damejima (@damejima) 2020年3月6日
Jaw-Dropping-Double-Standard.#GrandPrincess
項目3)「船内に乗客をとどめたことが感染を拡大させた、のではない」という日本の国立感染症研究所の指摘
記事Aにおける時系列をあらためて確認すると、日本が乗客を船内にとどめることにしたことには、「理由」がある。それは「『症状がある人』の中に武漢コロナ感染者がいることが明らかになったことで、すべての乗客乗員への検査の必要が生じ、また、たとえ結果が陰性であっても、2週間程度の経過観察を要するという判断が生じた」からだ。
記事Aが記述した時系列
2月1日 香港で下船した男性の感染が判明
2月3日 乗客・乗員3711人のうち「症状がある人」を対象に検査開始。当時の厚生労働省は「検査の結果が判明するまで全員船内に待機させたうえで、無症状者は検査を行わず下船させる方針」
2月5日、10人のコロナ感染が判明。厚生労働省、すべての乗客・乗員を検査し、陰性と確認され、健康状態にも問題がなければ14日間の健康観察期間が終了する2月19日から下船という方針に転換
2月19日〜21日 969人が下船
では、なぜ「2月5日以降に乗客・乗員を船内に留め置いたことで、むしろ船内に感染を拡大させたのではないか」というような「根拠の曖昧な疑念」が生じたのか。
きっかけのひとつは、いうまでもなく、神戸大学教授・岩田健太郎がYoutubeにアップした主観的で独善的な動画(=既に削除されている)だ。そうした根拠のない主張が、アメリカのCDCの責任逃れに「口実」を与えることになり、CDCは尻馬に乗る形で「乗客は感染するリスクが高い状態に置かれている」などと批判を口にできたのである。
だが、記事Bにこういう記述がある。
国立感染症研究所は、クルーズ船内で検疫が開始される前に、ウイルスの実質的な感染拡大が起こっていたと指摘。感染者の数が減少傾向にあることから、5日以降、乗客を自室にとどめたことなどが、有効な対応だった
つまり、日本の国立感染症研究所によれば、「乗客乗員を船内にとどめたことによって感染が拡大した」のではなく、全員を検査するとか、船内での14日間の観察期間を経過するとかより以前の段階で「船内ですでに感染拡大が起きていた可能性が高い」と指摘しているのである。
にもかかわらず、神戸大学・岩田教授の無責任きわまりない動画を見た大衆や日米のマスメディアは、「船内にとどめたことで感染が広がった」などと、無根拠なデマを飛ばしたのである。
Despite the truth, NHK and Japanese newspapers have stated "quarantine on board was decided by Japanese gov. alone", and foreign media, including the States, questioned the decision. They all follow the fake-leads made by themselves. They all are fake-news-agitator against Japan. https://t.co/3D4ofaVV5p
— damejima (@damejima) 2020年3月6日
項目4)アメリカがチャーター機を手配したことに関する記述
アメリカがチャーター機を手配するに至った経緯について、記事Aは以下のように記述する。
日本側が2週間の健康観察期間が過ぎる19日から下船が順次可能となると説明したのに対し、アメリカ側は日本政府の負担を軽減すべきと判断したとして、19日を待たずにチャーター機を派遣し、アメリカ人の乗客らを帰国させる方針を伝えた
しかしながら、記事Bはニュアンスがまったく異なる記述を、故意かつ主観的に採用している。「日本の国立研究所が『船内での2週間の待機期間を設けたことで感染が拡大したのではない』と指摘した」という主旨の記述部分に続けて、こう書いて、印象操作しているのである。
しかし、懸念は払拭できず、乗客の間にも不安が拡大する。
アメリカは、自国民を帰国させるため、各国に先駆けてチャーター機を手配。
この「事実の断片を部分的に主観で切り取って、無理につなげた文章」だけを読むと、あたかも「世界が懸念を表面化するなかで、何事にも迅速なアメリカが、もっとも早く他に先駆けて動き、自国民をいちはやく救済した」かのような印象を読む人に与える。
だが、「項目1」における記事Aによれば、それは事実ではない。
そもそも「船内にとどめるように要請した」のはもともと日本でなく、アメリカであり、また、アメリカ側がチャーター機を手配して2月19日の待機期限を待たず、アメリカ人乗客を帰国させたこと自体、日米両国間でとっくに了解済みの話なのである。「2週間の船内待機がウイルス汚染を拡大させた。それを危険視したアメリカが急いでチャーター機を飛ばした」という朝日、毎日、ニューヨーク・タイムズなどの下世話な論理は、そうしたメディアがもはやタブロイド紙まがいの三流ジャーナリズムでしかないことを如実に示している。
項目5)たとえ検査結果が「陰性」であっても発症する武漢肺炎の特性
記事Bは、アメリカのニューヨーク・タイムズの以下の記事を紹介している。
日本がクルーズ船の乗客を自由にしたが、それは安全なのか?
Japan let's passengers walk free. Is that safe?
中国でのいくつかの事例、また、日本を含めた他の国での事例においても、武漢肺炎について「大流行のあとからわかった、最もやっかいなこと」のひとつは、たとえ「検査で陰性」だからといって、「いちど感染した人間は二度と発症しない」「症状がない人間は発症しない」「感染したからといって、症状が出るとは限らない」ことだ。
たしかに、「陰性で、2週間の待機を経過した乗客たち」であっても、「公共交通機関」で帰らせたことは迂闊な判断といえる。
だが、だからといって、「陰性の検査結果が、いったいどこまでの『安全』を意味するのか、いまだにはっきりしない」ような曖昧な状況では、「陰性とわかったはずの人間」、「治療が終わったとみなされた人間」の処遇において、「一定の誤り」が生じることは、それが誰であっても避けることはできない。
何が本当に安全といえる状態なのか。それは当分の間、誰にもわからないことだけはわかっているというのに、ニューヨーク・タイムズはいかにも「自分だけは、すべてがわかっている」かのような上から目線の態度なわけだが、そういう無意味で失礼な態度は笑止千万というものでしかなく、やがてくるブーメランの到来に備えたほうがいい。
サンフランシスコ沖のクルーズ船「グランド・プリンセス号」は、日本の「ダイヤモンド・プリンセス号」と同じ会社の所有する客船だが、ハワイで下船させた乗客が既に新型コロナに感染していたことがわかっている。
ニューヨーク・タイムズがいかに「上から目線」で語ろうと、アメリカでの新型コロナの検査が拡大すればするほど、この冬、アメリカでのインフルエンザ大流行と思われ、インフルエンザでの死者と思われていた症例の何パーセントか、何十パーセントかが、実は武漢コロナでしたという話になるのは目に見えている。
以上、同じNHKの異なる2つの記事を点検した。日米両国のマスメディアによるこのところの日本批判が、どれほど恣意的なものか、わかったことと思う。
われわれは常によく目を開けて、報道と事実の差異を点検すべきだ。