March 20, 2020
フランスの大臣Olivier Veranがさしたるエビデンスもない現状なのにもかかわらず、「武漢肺炎については、イブプロフェン摂取を控えるべき」と軽率な発言をしたことで、以下にみるように、さまざまなデマが生じるスキを与え、無責任なリツイートによって、たくさんの誤解が生まれた。
英国の国営メディアBBCは3月19日、このところネット上に非常に多くみられていた『新型コロナでのイブプロフェン摂取に警鐘を鳴らす各国の事例』」について、それらが事実かどうかチェックしたところ、多くが「デマ」であることが判明したと発表している。
これらの「デマ」は新たな誤解を誘発するという意味で、たいへん悪質である。
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ここからちょっと長い前置きになる。
痛みや発熱を起こす体内の炎症を抑える薬剤は、「ステロイド性」「非ステロイド性」など、いくつかのジャンルにわかれている。ステロイド系は強い副作用の制御が容易ではないため、一般的な用途には多く「非ステロイド性抗炎症薬」が用いられる。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、NonSteroidal Anti-Inflammatory Drugs)には非常に多くの薬剤があるが、一般的な代表例としては、アスピリン、イブプロフェン、アセトアミノフェン、ロキソプロフェンなどが広く知られている。
このとき気をつけるべきなのは、アスピリンを例にとれば、街のドラッグストアで「アスピリンそのものが商品名として売られている」わけではないということだ。薬局では、「アスピリンを主剤(=主成分)にした薬」が「製薬会社ごとに違う商品名」で売られているのである。
逆にいえば、世の中には数え切れないほどの鎮痛解熱剤が存在しているが、「主成分の違い」だけに絞ってみれば、それらには、アスピリン系、イブプロフェン系、アセトアミノフェン系、ロキソプロフェン系など、おおまかな「分類」があるわけだ。
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では、話を最初に戻す。
もし「コロナ感染を心配している人」が、「新型コロナに感染したら、イブプロフェンを服用すると危ない」と聞いたら、どういう反応をするだろうか。
「イブプロフェンが危ない? ならば、他のタイプの鎮痛解熱薬、例えばアスピリンやアセトアミノフェンを試そう」などと考える人が確実に発生する。
だが、それはちょっと待つべきだ。
インフルエンザを例に説明してみる。
まず、これはあくまで推測だが、「新型コロナ感染において、イブプロフェンが症状をむしろ悪化させる」というデマは、「インフルエンザにおいては、イブプロフェンがインフルエンザ脳症を起こすから投与すべきでない」という医学的検証の済んでいる話を「コロナに流用」し、デマとして流布したのではないかと考える。
たしかに、「インフルエンザではイブプロフェン投与は避けるように」と欧米で公式に指導されている。
だが、だからといって、「インフルエンザ感染時に、イブプロフェンでない解熱剤の服用なら安全といっていい」のか。たとえば「アスピリンなら、安全といえる」のか。
そうではない。
「アスピリン」に関しては、「水痘やインフルエンザ時に使用すると、(特に小児は)ライ症候群になりやすい」という指摘が、すでに1980年代にアメリカで指摘されている。また、インフルエンザ時に安全と思われがちな「アセトアミノフェン」にすら、死亡率が高まるケースがあるという一部専門家の警告もある。
総じていえば、感染症においては「きつい解熱剤の使用」が、かえって症状を重症化し、死亡率も高めるケースがあることは、多くの専門家が指摘するところだ。
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この「インフルエンザと、各種の鎮痛解熱剤との間でみられる副作用の関係」でわかるように、『イブプロフェン服用がかえって危ない』という言説が一部にあったからといって、それが、『アスピリンなら安全』、『アセトアミノフェンは安全』、『イブプロフェンではない薬は全部安全だ』という意味には、まったくならないのである。
だが、悲しいことに人間は、ツイッターなどで「コロナにはイブプロフェンを投与するな」というロジックを目にすると、アタマの中で勝手に「アセトアミノフェンなら大丈夫、安全」などと話をすりかえて、「専門家への相談もなしに、アセトアミノフェンに手を出してしまう」のである。
薬物のことなどわからない素人のわれわれは、たとえ「イブプロフェンが新型コロナの症状をかえって悪化させる」ことが専門家の調査でわかったとしても、だからといって、「アスピリンなら大丈夫」とか、「アセトアミノフェンなら安全」とか、「何の根拠もない思いつきだけで断定的にモノを言う」ことは許されないのである。
薬物の服用に関しては、たとえそれがインフルだろうと、コロナだろうと、素人が、いわゆる素人考えで、勝手に服用したり、医師の指示した服用を勝手に止めたりすることなく、まず専門家に相談すべきだし、さらにいえば、真実かどうかもわからない「いい加減な情報」の拡散は慎むべきであり、また、いい加減に拡散された情報から「自分の脳内で勝手に情報を拡張したり増幅させたりすること」も止めるべき、なのだ。
追記:
WHOは2020年3月20日あたりに、新型コロナ感染者のイブプロフェン服用を控えるよう求める勧告は「しない」などと言い出した。その論拠として「治療にあたっている医師への調査の結果、通常の副作用以外に、症状を悪化させるという報告はなかった」というのだが、WHOのこの無能さ、無責任さは、いったい何事だろうか。
WHOは、世界保健機関との名前のとおり、世界の健康を預かる非常に大事な仕事であるはずだ。にもかかわらず、この人たちはロクに医学的追求もせず、デマにのっかる形で、「武漢肺炎におけるイブプロフェン服用は避けるべき」などと発言し、こんどはそれを撤回したのである。
医学にかかわる立場にある組織が、なぜ最初から風説に踊らされることなく、事実を専門家にたしかめないのか。
このことで、WHOが単なる「素人集団であること」は、もはや確定した。こんな素人の集団に対して、日本は資金を拠出したりするべきではないし、WHOの責任者は、事務局長以下、全員が自発的にこの不祥事の責任をとって辞任すべきだ。
英国の国営メディアBBCは3月19日、このところネット上に非常に多くみられていた『新型コロナでのイブプロフェン摂取に警鐘を鳴らす各国の事例』」について、それらが事実かどうかチェックしたところ、多くが「デマ」であることが判明したと発表している。
BBCによれば、以下の事例はすべてデマである。
1)アイルランドのコークで、集中治療室に収容されている既往症のない4人の若者は、全員が抗炎症薬を服用しており、それによって深刻な病気が引き起こされた懸念がある
2)ウィーン大学は、武漢肺炎の症状がある人々に「イブプロフェンを服用しないよう警告するメモ」を送信した
3)フランスのトゥールーズの大学病院で、既往症のない若者4人が武漢肺炎による重篤な状態にあるが、彼らはいずれも感染初期にイブプロフェンなどの鎮痛解熱剤を服用した
ソース:Coronavirus and ibuprofen: Separating fact from fiction - BBC News
これらの「デマ」は新たな誤解を誘発するという意味で、たいへん悪質である。
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ここからちょっと長い前置きになる。
痛みや発熱を起こす体内の炎症を抑える薬剤は、「ステロイド性」「非ステロイド性」など、いくつかのジャンルにわかれている。ステロイド系は強い副作用の制御が容易ではないため、一般的な用途には多く「非ステロイド性抗炎症薬」が用いられる。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、NonSteroidal Anti-Inflammatory Drugs)には非常に多くの薬剤があるが、一般的な代表例としては、アスピリン、イブプロフェン、アセトアミノフェン、ロキソプロフェンなどが広く知られている。
このとき気をつけるべきなのは、アスピリンを例にとれば、街のドラッグストアで「アスピリンそのものが商品名として売られている」わけではないということだ。薬局では、「アスピリンを主剤(=主成分)にした薬」が「製薬会社ごとに違う商品名」で売られているのである。
逆にいえば、世の中には数え切れないほどの鎮痛解熱剤が存在しているが、「主成分の違い」だけに絞ってみれば、それらには、アスピリン系、イブプロフェン系、アセトアミノフェン系、ロキソプロフェン系など、おおまかな「分類」があるわけだ。
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では、話を最初に戻す。
もし「コロナ感染を心配している人」が、「新型コロナに感染したら、イブプロフェンを服用すると危ない」と聞いたら、どういう反応をするだろうか。
「イブプロフェンが危ない? ならば、他のタイプの鎮痛解熱薬、例えばアスピリンやアセトアミノフェンを試そう」などと考える人が確実に発生する。
だが、それはちょっと待つべきだ。
インフルエンザを例に説明してみる。
まず、これはあくまで推測だが、「新型コロナ感染において、イブプロフェンが症状をむしろ悪化させる」というデマは、「インフルエンザにおいては、イブプロフェンがインフルエンザ脳症を起こすから投与すべきでない」という医学的検証の済んでいる話を「コロナに流用」し、デマとして流布したのではないかと考える。
たしかに、「インフルエンザではイブプロフェン投与は避けるように」と欧米で公式に指導されている。
だが、だからといって、「インフルエンザ感染時に、イブプロフェンでない解熱剤の服用なら安全といっていい」のか。たとえば「アスピリンなら、安全といえる」のか。
そうではない。
「アスピリン」に関しては、「水痘やインフルエンザ時に使用すると、(特に小児は)ライ症候群になりやすい」という指摘が、すでに1980年代にアメリカで指摘されている。また、インフルエンザ時に安全と思われがちな「アセトアミノフェン」にすら、死亡率が高まるケースがあるという一部専門家の警告もある。
総じていえば、感染症においては「きつい解熱剤の使用」が、かえって症状を重症化し、死亡率も高めるケースがあることは、多くの専門家が指摘するところだ。
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この「インフルエンザと、各種の鎮痛解熱剤との間でみられる副作用の関係」でわかるように、『イブプロフェン服用がかえって危ない』という言説が一部にあったからといって、それが、『アスピリンなら安全』、『アセトアミノフェンは安全』、『イブプロフェンではない薬は全部安全だ』という意味には、まったくならないのである。
だが、悲しいことに人間は、ツイッターなどで「コロナにはイブプロフェンを投与するな」というロジックを目にすると、アタマの中で勝手に「アセトアミノフェンなら大丈夫、安全」などと話をすりかえて、「専門家への相談もなしに、アセトアミノフェンに手を出してしまう」のである。
薬物のことなどわからない素人のわれわれは、たとえ「イブプロフェンが新型コロナの症状をかえって悪化させる」ことが専門家の調査でわかったとしても、だからといって、「アスピリンなら大丈夫」とか、「アセトアミノフェンなら安全」とか、「何の根拠もない思いつきだけで断定的にモノを言う」ことは許されないのである。
薬物の服用に関しては、たとえそれがインフルだろうと、コロナだろうと、素人が、いわゆる素人考えで、勝手に服用したり、医師の指示した服用を勝手に止めたりすることなく、まず専門家に相談すべきだし、さらにいえば、真実かどうかもわからない「いい加減な情報」の拡散は慎むべきであり、また、いい加減に拡散された情報から「自分の脳内で勝手に情報を拡張したり増幅させたりすること」も止めるべき、なのだ。
いずれにしても、薬物に関する情報はよほど慎重に扱わないと、痛い目にあうと思われる。自信がないのに、「リツイート」など、しないことだ。そういうわけのわからない情報拡散がパニックを呼ぶのである。
— damejima #ProtectJapanFromCOVID_19 (@damejima) 2020年3月19日
追記:
WHOは2020年3月20日あたりに、新型コロナ感染者のイブプロフェン服用を控えるよう求める勧告は「しない」などと言い出した。その論拠として「治療にあたっている医師への調査の結果、通常の副作用以外に、症状を悪化させるという報告はなかった」というのだが、WHOのこの無能さ、無責任さは、いったい何事だろうか。
WHOは、世界保健機関との名前のとおり、世界の健康を預かる非常に大事な仕事であるはずだ。にもかかわらず、この人たちはロクに医学的追求もせず、デマにのっかる形で、「武漢肺炎におけるイブプロフェン服用は避けるべき」などと発言し、こんどはそれを撤回したのである。
医学にかかわる立場にある組織が、なぜ最初から風説に踊らされることなく、事実を専門家にたしかめないのか。
このことで、WHOが単なる「素人集団であること」は、もはや確定した。こんな素人の集団に対して、日本は資金を拠出したりするべきではないし、WHOの責任者は、事務局長以下、全員が自発的にこの不祥事の責任をとって辞任すべきだ。