April 01, 2020

武漢肺炎の世界的感染において、「log scale」の有用性がやっと認識されてきたようだが、その「使い方」、「読み方」は、いまだに満足いくものではない。

なので、「感染者数グラフの正しい書き方、読み方」をもっと理解してもらうために、以下の記事を書く。誰が読んでもわかるようにはしたいのはやまやまだが、だからといって、読む人の努力がまったく必要ないというような過剰サービスをするつもりはない。譲れないところは正確を期して、しっかり書く。

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まず最初に理解しなければならないのは、なにも「対数グラフが見やすくて便利だ」などと、単に視覚的な意味の話をしているのではない、ということだ。
武漢肺炎の感染拡大のような時間とともに変化が急激になる自然現象こそ、対数グラフで表現するのが妥当なのは、なぜなのか」ということを、なにより先に理解しなければ意味がない。

先に簡略化した結論を示せば、
「時間軸に沿って推移する自然現象の動的な変化」には「指数関数的に推移するケース」がかなり多いから
である。

ウイルス感染症の拡大をlog scaleグラフで見ると「より全体を読めるようになる」が、それは、感染症のオーバーシュートが、現象として「自然界では、よくある変化のしかた」だからなのである。

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自然現象、ことに「時間と事象の関係」が、リニアではなく、むしろ、対数的であることが多々ある。

もっとかみ砕いて書くと、時間が「1日、2日,3日,4日」とか、「1年、2年、3年、4年」とか、「決まった数だけ変化していく」間に、現象は、例えば、感染者が「1人、2人、4人、8人、16人」とか、温度が「1度、10度、100度、1000度、10000度」などというふうに、「時間がたつにつれて増加が急激になる」(あるいは「時間がたつにつれて減少が急激になる」)ような事象が少なくない、ということだ。

例えば、モノが冷えるとき、時間の経過とともにみられる「ニュートンの冷却の法則」。時間経過に対する放射性物質の崩壊。細胞分裂。「時間と位置の関係」である雨粒の落下速度。コンデンサーに蓄えられた電気の減衰。 地震の強さを示すマグニチュード。音圧。エントロピー。情報量。大気圧と高度の関係など、とても書ききれない。

だからこそ、自分は武漢肺炎の対数グラフについては、X軸もY軸も対数であるような「両対数グラフ」ではなく、X軸だけが「リニアな時間」、Y軸には「対数で示した感染者数」という「片対数グラフ」を推奨するわけである。


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生物の生理現象ではかなりの部分が指数関数的にできているらしいが、細胞分裂非常に典型的でわかりやすい現象だ。

一般的な細胞は、「ひとつの細胞が2つに分裂して」増えていく。だから、その増え方は「1、2,3,4」という「リニアな増加」ではない。「1、2、4、8」と、倍々に増えていく「指数関数的な増加」なのである。「時間がたてばたつほど」、その数は「急激に」増えるのが特徴だ。
例えば、人間の赤ちゃんは母親の体内で最初はとても小さい。だが、臨月が近づくにつれて急激に発達するから、おかあさんのお腹は急に大きく膨らんで、出産が近いことを知らせてくれるのである。

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ウイルスの増殖そのものは、一般的な生物にみられる「1、2、4、8」という細胞分裂ではない。

というのも、一般的な生物では、細胞は「ひとつが、2つに分裂する「1、2、4、8」的な方式(=「対数増殖」)で数を増やしていくが、ウイルスは「1つのウイルスが、入り込んだ宿主、たとえば人間の細胞内で数を大きく増やし、それを体外に一気に放出して、次の宿主を探す」という感染方式(=「一段階増殖」)だからで、例えば「ひとつのウイルスが、放出時にはいきなり10000個になっている」ような増殖形態だからだ。

だが、
ウイルス感染を、「感染者数」という角度からみてみることで、指数関数的な現象として把握することが可能になる。

なぜなら、感染拡大の、特に初期においては、「ひとりの感染者が2人にうつし、2人の感染者が4人にうつし、4人の感染者が8人にうつす」というふうに、ひとりの感染者から「指数関数的」にウイルス感染して広がっていく。これは一般的な生物での増殖と同じ、指数関数的な増え方である。(1人の感染者が何人にうつすかを示す「基本再生産数」は現在のところ、「世界全体で2から2.5」)

このことは、ウイルス感染の拡大を、「死亡者数」ではなく、「感染者数」でみていったほうが事態の推移がわかりやすいと考える理由でもある。
死亡者数の推移は、自然現象そのものというよりも、その国のふだんの衛生状態、医療制度の整備度合い、国としての裕福さなどのような、人工的個別的な要因に左右されやすい。

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ウイルス感染者数の増加にみられる「自然現象によくある指数的な増加傾向」の「数の変化の特徴」を、もっと平易な言い方になおすと、
最初の段階では変化の量が少ないが、時間の経過とともに爆発的な増大に移行する現象
ともいえる。

最初のうちは、「1→2→4→8」と、数字の絶対値が小さい。だから、人はほとんどその意味の重さに気づかないし、ビビらない。

だが、その数字がやがて、「256→512→1024→2048」となっていくと、事の重大さに気づき、さらに「16384→32768→65536→131072」となると、パンデミックだ!と誰もが気づいて、絶望感が漂うわけである。(いわゆる、日本でいう「将棋盤問題」、西洋でいう「小麦とチェス盤の問題」である)
この「時間の経過とともに、変化が急激になる」という部分は、とても大事な部分で、武漢肺炎感染者の対数グラフが、両対数グラフではなく、X軸が「リニアな時間」になった片対数グラフが望ましいと考える理由のひとつでもある。
自然界の指数関数的な増加現象は、常にリニアでゆっくりした時間変化と対比させながら注視していかないと、その激増や終息の始まりを視覚的に追っていけないのである。

(2につづく)
2020年4月2日、「感染者数グラフ」の正しい書き方、読み方。(2)なぜ実数が増えているのに「事態は落ち着いてきた」と言えるのか。 | Damejima's HARDBALL


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