July 2014

July 17, 2014

今年のMLBオールスターでは、ナ・リーグ先発アダム・ウェインライトが、「今季限りでの引退が予定されているデレク・ジーターの打席で、彼に打ちやすい球を投げた」という意味の発言をした。
もちろん後になってウェインライトは躍起になって否定したがったが、もう後の祭り(笑)まぁ、真意がどうであれ、しっかり記録に残させてもらうことにする。





Adam Wainwright admits, then denies he served fat pitch to Jeter - MLB - Sporting News

Adam Wainwright says he gave Derek Jeter easy pitches to hit in all-star game - The Washington Post

ウェインライトの発言はよくあるジョークのひとつさ、と、思いたい人は思えばいいし、そうでないブログ主のような人は、ツイッターで#JeterSC というハッシュタグでも検索してみるといいと思う(笑)

去年のオールスターも、同じように引退が予定されていたマリアーノ・リベラが「おこぼれ的感触のオールスターMVP」をもらったわけだが、あれといい、今年のジーターといい、オールスターがただの『ショーケース』(花試合)になりつつあるのは、本当に迷惑。

まぁ、見ないから別にいいけどさ。



July 15, 2014

食材の鮮度さえよければ、あとは何もしなくても、旨いよ。
てなことを言う人が、たまにいる。

エコロジー話題満載の前向きすぎるブログを全くつまらないと感じるのと同じくらい、どうもああいう言葉が好きになれない。なぜなんだろう。



鮮度が重要に思える寿司(鮨あるいは鮓)の場合でも、「鮮度が命」という法則はけしてあてはまらない。もしそれが本当なら、「漁港で食う寿司」はもっと旨くなければおかしいし、いつまでたっても「銀座が日本一」なんて時代が続くわけはない。

スティーブ・ジョブズが東京・銀座の超有名店、すきやばし次郎を贔屓にしていたことは彼の有名なエピソードのひとつだが、銀座にヒラメやアナゴが泳いでいるわけではない。なのに、銀座では「うまい鮨」が食える。「魚がとれる場所に近ければ近いほど、うまい寿司屋がある」わけではないのだ。

歴史的な視点だけでいえば、「寿司という食い物はもともと『都市文化』であり、海から遠くて新鮮な魚が手に入りにくい江戸時代の都市で生まれたから」などと説明すれば、話のほとんどは済んでしまう。鮮度保持の技術がなかった時代に魚介類をおいしく食べようと思ったことから、酢や昆布で締めるとか、醤油に漬けたり、煮たりする各種の調理技術が開発されたわけだ。

もっと短く言えば、
寿司を食うという行為は、主に
技術を味わっている」のだ。


しかし、いまでは冷凍・冷蔵技術が発達している。ならば、いつでもどこでも新鮮な魚が手に入るようになったはずだから、日本中どこでも「職人の技術すら凌駕する、鮮度の高さで勝負できる旨い寿司」が食えるようになったはずだ。
だが、江戸文化に端を発した寿司の銀座中心主義がおちぶれて、より海に近い場所でこそ、旨い寿司が食えるような時代が来たかというと、そんなことはない。
かえって鮮度抜群の魚が手に入るはずの海岸地方や漁港の寿司がダメな場合が(自分の経験では)あいかわらず多い。(ただし全ての漁港を回ったわけではないので(笑)、正確にはわからない)


この「漁港の寿司が案外ダメなことが多い理由」は、なんだろう。

ひとつには、「漁港の寿司のちょっとした不味さが、鮮度とは無関係」だからだ、という気がする。
たとえば、酢を合わせてもいない「ゴハンのままのゴハン」を大量に手にとって、ぎゅうううううっとチカラいっぱい、それこそ握り締めるように握って、その上に鮮度抜群の魚の切り身をのっけると、それは「旨い寿司」になるか。もちろん、ならない。
また、海岸で釣りをして、その魚をその場で捌いて食うような食べ方をすれば、それが一番うまい魚の食い方か、というと、そうでもない。肉でも魚でもタンパク質が適度に分解された「食べごろ」というやつがあるから、生簀(いけす)のある店で板前さんが目の前で捌いたばかりの魚の切り身で作った寿司が、世の中で一番うまい寿司になるわけではない。


同じように「地産地消」なんていう言葉もあるけれど、これも昔はもっともな言葉だと思っていたが、今は信用していない。

なぜって、よく地産地消をウリにした地方のレストラン、なんてものもあるわけだが、それはたいていの場合「東京などの有名店で修業した人が、わざわざ田舎に作った店」であることがほとんどだからだ。つまり、詳しく表記するなら、「地方の鮮度のいい魚や野菜を出す、地方発の店」があるわけではなくて、「産地の鮮度のいい食材を調理する腕を持った『都会帰りの調理人』が、たまたま田舎で出している店」なのだ。


これは自分勝手な言い分ではあるが、もし「漁港の寿司屋に足りないもの」が、『鮮度以外の何か』とか、『技術』なのだとしたら、それがハッキリ自覚できないと『地方の、それも、鮮度とイキのいい若い人が都会に出ていくのを止められるわけはない』などと思ったりする。

『鮮度』というやつは、ほおっておくと価値が落ちるばかりだ。だから、てっとりばやくカネに変えるには、そっくりそのまま都会に出荷するしかない。しかし、鮮度のいい魚を安い価格で都会に発送し続けているような昔の漁協的発想だけでは、地方の寿司屋は旨くはならない気がする。また、旨くもない漁港の寿司にリピーターはつかない。

鮮度のいい農産物や魚介類を『魅力ある商品』に変えてくれる魔法みたいな意味の「技術」が「多くの場合、都会だけにある」ものだとしたら、そりゃ、そういうものを学ぼうとする若い情熱の流出を止められるわけはない。
都会で寿司屋になった地方の若者だって、聞いてみたら「できたら生まれ育った場所で腕のいい寿司屋になりたかった」と思っているかもしれない。だが残念なことに、漁港には鮮度のいい魚はあっても、それを素晴らしい商品にかえる『技術』がないことが多い。材木は何をしなくても、いつのまにか素晴らしい家具になっているわけではないのだ。


どういうわけか知らないが都会の寿司屋というやつは、多少味がまずくてもなかなか潰れなかったりするわけだが、他方、これもどうしたものかわからないが、もっと旨くなる余地があるはずの地方の漁港の寿司屋も、なかなか旨くはならない。なぜなんだろう。

にもかかわらず、自分のこれまでの発想を捨てることもせず、これまで築いてきたポジションや利権を捨てることも、他人に分け与えることもせず、ただただ「地方の若い人が都会に出ていくのを止めなければ」なんてことばかり考えている地方のオトナは、あいかわらず減ることがない。
地方のオトナたちは「地方にだって、いくらでも旨いものや楽しみがあるっていうのに、なぜここらへんの若い人たちは都会にばかり出て行きたがるのだろう?」なんて的外れなことを、毎日考えていたりする。


そうそう。

優秀なプレーヤーほどMLBに行くのをああだこうだ言う人がいなくならないのにも、似たところがある。そういう発想の人に限って、「日本野球に、本当は何が足りていないのか」を、あまり真剣に考えようとしてない。

シーズン14年目半ばにしてMLB通算2800安打を越えたイチローだが、この数字、簡単に割り算すれば、「14シーズン連続で、年平均200安打ずつ打った」とでもいう意味になる。凄い数字だ。
だが、こういう積み重ねの数字というのは、案外その凄さや重さがつかみにくいものだ。凄さを表現するためには、ちょっと角度を変えてみてみる必要がある。


イチローがある程度まとまった数のプレーをした、という意味で、「200打数打っているスタジアム」というのは、以下に示した13のスタジアムある。
これらの「200打数以上打った13のスタジアム」のうち、イチローは赤字で示した3つのスタジアムでMLB歴代1位(2014年7月14日現在 以下同じ)、黒い太字で示した3つのスタジアムで歴代3位までに入る打率を残しているのである。(カッコ内の数字は、そのスタジアムでの2014年7月14日現在の打数)

セーフコ・フィールド(3875)
レンジャーズ・ボールパーク(513)
現在のヤンキースタジアム(509) 1位 カノー
エンジェル・スタジアム(479)
オー・ドット・コロシアム(467)
ロジャース・センター(301)
プログレッシブ・フィールド(266) 1位 ジーター
コメリカ・パーク(255)
カウフマン・スタジアム(253)
カムデンヤーズ(254)  1位 ジーター
トロピカーナ・フィールド(251)
USセルラー・フィールド(242)
フェンウェイパーク(228)

ブログ注:実は、この記事を書くほんの直前までイチローはカムデンヤーズでも歴代1位だった。だが、2014シーズン前半の最終シリーズとなったカムデンヤーズの連戦でイチローが打率を落としたため、2014年7月14日現在でみると、イチローは「カムデンヤーズでの打率歴代1位」ではない。
もちろんイチローは3875打数のセーフコでも当然上位に入っている。ただ「200打数以上」という条件でいうと、ゲレーロ、オーランド・カブレラ、ジーター、カノー、イチローなんていう順位になる。

もう少し細かいことを言わせてもらうと、これらのイチローが歴代上位にいるスタジアムというのは、「キャリア通算3割以上の数字を残したバッターが、ほんの数えるほどしかいない、難攻不落なスタジアム」であり、なおかつ、「ホームランが出やすいといわれているスタジアムではない」ことが多い。


まぁ、スタジアム別打率といっても、レギュラーシーズンの打率のように「規定打数」が存在するわけじゃないから、「200打数」とか、ある程度まとまった数の打数を記録している歴代の打者のうち、「歴代で最も高い打率を残している打者」とでもいうふうに、ひとつの数字遊びだと思って、ゆるーく考えてもらいたい。
だが、以下の点は勘違いされても困るので、いちおう注釈をつけておく。


スタジアムというのはほとんどの場合、何十年かに一度、建て変わる。だから「スタジアム別の打率順位」というのは、「同時代のプレーヤー、あるいは近接した時代にプレーした打者の中での順位」という意味に、どうしてもなってしまう。

たとえば、かつてシアトルにあったキングドームでは、最高打率(200打数以上)を記録したバッターは.372を残したロッド・カルーなのだが、カルーは1985年に引退しているため、当然ながらセーフコの歴代打率リストには出てこない。同じように、イチローはセーフコでも当然のように歴代上位に入っているが、キングドームではプレーしていないためにキングドームのリストには出てこない。


だから、よほど長い歴史のあるスタジアムの話でもしないと、大昔のバッターと今のバッターの数字を同時に並べることはできないのだ。


例えば、20世紀初期のベーブ・ルースやルー・ゲーリッグからデレク・ジーターまでのデータが揃っている旧ヤンキースタジアムでいうと、このスタジアムで「200打数以上で3割を超える打率を残したバッター」は、60人以上もいる。この数字の多さは、ひとえにこのスタジアムの歴史の長さ(と老朽化)を物語っている。
デレク・ジーターは、現代のバッターでみるとイチローやロビンソン・カノーと同じように、かなりの数の現役スタジアムで歴代3位以内に入る数字を残してきた最高のバッターのひとりだが、旧ヤンキースタジアムでの打率順位だけでみると、.322という素晴らしい数字を残しているにもかかわらず「歴代18位」にしかならない。

ジーターの18位という順位を、「古い時代のバッター、特にヤンキースには、ジーター以上のバッターがぞろぞろいた」とみるか、それとも、「かつてのMLBは、超バッター有利なスタジアムだらけだった」とみるかは、それぞれのファンの考え方次第であり、簡単に結論を出すわけにはいかない。


ただ、ブログ主が思うには、こうした「3割バッターがぞろぞろいる現象」は、旧ヤンキースタジアムや、レンジャーズ・ボールパーク、フェンウェイパークのような、「バッター有利なスタジアム」に特に典型的に表れる現象に思える。
これは「超バッター有利なスタジアムでは、たとえホームランを量産するスラッガーであっても、同時にハイ・アベレージを残すような現象が可能になる」という意味だ。
例えば、稀代のホームラン王ベーブ・ルースは、旧ヤンキースタジアムで2835打数で.349という高打率を残しているし、また、ウラジミール・ゲレーロ、エイドリアン・ベルトレ、Aロッド、アルフォンソ・ソリアーノのようなタイプのバッターは、レンジャーズパークのような打者有利スタジアムで、長打を量産しつつ、しっかり打率も稼いでいる。

例えば、広いセーフコで通算3割打てたバッターはイチローを含め歴史的に数人ほどしかいないわけだが、これが例えばフェンウェイパークになると「200打数以上、3割を打てたバッター」が、旧ヤンキースタジアムのさらに3倍、180人以上もいて、その180人のうちには、ウェイド・ボッグズテッド・ウィリアムズジミー・フォックスノマー・ガルシアパーラカール・ヤストレムスキーなど、「ボストンに長期在籍経験のある殿堂入り野手」が数多くいるのである。

こうした「ボストンに長く在籍した有名バッター」がスタッツを荒稼ぎしたスタジアムは、もちろん地元フェンウェイパークだ。
確実に野球の天性があった彼らについて、「フェンウェイに長くいたから、殿堂入りできた」とまでは、もちろん言わないが、少なくとも彼らの打撃成績がフェンウェイでの長いキャリアで底上げされ、いわば「フェンウェイ補正」の恩恵を受けているのも間違いない、とは思う。


だからこそ、イチローがセーフコだけでなく、他のスタジアム、例えばコメリカ、カムデンヤーズ、プログレッシブ、オードットなど、数々のスタジアムで同世代のバッターを置き去りにするほどの数字を残してきたことを凄いと思うわけだし、また同時に、彼が、ヤンキースタジアムやフェンウェイ、アーリントンのような「バッター有利なはずの球場」(特にフェンウェイ)で思いのほか打率がよくないことを不思議に思うわけだ。

July 12, 2014

40歳以上(400打数以上)で打率3割をマークした10人
資料:Baseball Reference

いまヤンキースで40歳を越えたイチローが打率3割をキープしているわけだが、これまでMLBで40歳以上で打率3割(400打数以上)を記録した選手は、10人いる。(Sam Riceが2度、Luke Applingが3度達成)

Sam Rice (通算ヒット数2987本=歴代29位 殿堂)
Paul Molitor (3319本 10位 殿堂)
Luke Appling (2749本 54位 殿堂)
Ty Cobb (4189本 2位 殿堂)
Johnny Cooney (965本)
Rickey Henderson (3055本 22位 殿堂)
Stan Musial (3630本 4位 殿堂)
Pete Rose (4256本 1位)
Harold Baines (2866本 43位)
Lou Block (3023本 24位 殿堂)

言うまでもないが、シングルシーズンでさえ打率3割を達成すること自体が難しいわけだが、さらに40歳以上での達成ともなると、これほど限られたリストになってくる。記録大好きなブログ主(笑)としては、イチローにぜひとも達成しておいてもらいたい記録のひとつではある。

イチローMLB通算2800安打(動画)
Video: Ichiro's 2,800th career hit | MLB.com


ちなみに、この10人のうち、「3000安打」達成選手となると、さらに減って、サム・ライス、ポール・モリター、タイ・カッブ、リッキー・ヘンダーソン、スタン・ミュージアル、ピート・ローズ、ルー・ブロックの7人しかいない。どれもこれも、MLB史に名前を残した選手ばかり。もちろん野球賭博に加担して永久追放になっているピート・ローズ以外の全員が全員、殿堂入りしている。
「40歳以上400打数以上で、打率3割を達成した選手」は、MLB史上でもわずか10人しかいない。だが、その全員が3000安打達成者ではないのだ。

というのも、2012年に何度か書いたように、「通算3000安打」という記録は、デビュー時からヒットを積み重ね、なおかつ、衰えの来る38歳以降にも十分すぎる数のヒットを打って、しかも、その間ずっと長期休養しないという、とてつもない条件を達成できた選手のみに許される大記録だからだ。

だから、野球選手としてのキャリアをかけて3000安打にチャレンジできる可能性のある選手というのは、実はデビュー直後にほぼ決まってしまう。「3000」という数字は、若いときだけ打てばいいとか、38歳以降、40歳以降だけ打てば達成できるとかいう、なまやさしい記録ではないのである。

2011年9月26日、3000本安打を達成する方法(1) 4打数1安打ではなぜ達成不可能なのか。達成可能な選手は、実はキャリア序盤に既に振り分けが終わってしまうのが、3000本安打という偉業。 | Damejima's HARDBALL

2012年9月28日、3000安打達成のための「38歳」という最初の壁。これからのイチローの数シーズンが持つ、はかりしれない価値。 | Damejima's HARDBALL

July 11, 2014

7月のクリーブランド戦で田中将大投手が使った球種について、春先の登板ゲームの球種と比較しつつ、少しデータを追加しておきたい。以下のデータにおいて、球種の略号は以下のとおり。
FA(Fastball)
SI(Sinker)
SL(Slider)
CU(Curveball)
FC(Cutter)
FS(Splitter)
CH(Changeup)
(ちなみに球種の分類結果は、あまり厳密にとらえないでもらいたい。例えば、2シームという球種はよく使われる球種のひとつだが、これをどこに分類するかはアメリカのMLB関連サイトでも異なっていることがあるし、また、日米で分類が異なる球種などもある)

「ストレートとスプリッター中心の配球」で始まった
田中将大の2014シーズン


春先に田中投手の使った球種は、ストレートとスプリッターを中心の構成だった
そのことを示す例として以下に、ア・リーグ、ナ・リーグ各1試合ずつ、ビジター2試合のデータを挙げてみた。この2試合は、まったく同じ試合のデータかと勘違いしかねないほど、投球内容が「びっくりするほど似ている」。そのことは、データからすぐにわかってもらえると思う。

言い方を変えれば、2本塁打を浴びて、ちょっとファンをヒヤヒヤさせたゲームだろうと、完璧といえる素晴らしい内容で完封勝ちしたゲームだろうと、実は、投球内容そのものは「ほとんど同じ」であることも、あわせてわかっていただけると幸いだ。
よくいわれることだが、勝った負けたと短絡的に大騒ぎするファンはともかく、プレーヤーにしてみると、試合結果が勝ちか負けかは、単純に時の運であることがいかに多いかが、本当によくわかるデータでもあるのだ。

ここで留意しておかなくてはならないのは、ボストンにしても、メッツにしてもそうだが、対戦相手が「スプリッターを最も多くスイングしてきている」ことだ。(もうちょっと詳しく書くと、田中投手の持ち球がまだわからない開幕直後4月のボストン打線はあらゆる球種について40%以上のレートでスイングしてきているが、5月のメッツ打線になると、はやくもストレートとスプリッターにある程度照準を絞ってスイングする傾向が見えはじめている)

「田中将がスプリッターを多投する投手であること」は、当然ながら、開幕前から情報として誰の耳にも入っている。ただ、情報としていくら知ってはいても、打席に入って実際に打つのは勝手が違うわけで、最初はバットが空を切り続けるわけだ。

4月22日 ボストン戦
7回1/3 被安打7 四死球なし 自責点2 勝ち

FA 36球(24ストライク/66.7%)17スイング(47.2%)
FS 23球(16ストライク/69.6%)15スイング(65.2%
SL 22球(16ストライク/72.7%)10スイング(45.5%)
SI 14球(12ストライク/85.7%)6スイング(42.9%)
出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool

5月14日 メッツ戦
9回完封勝ち 被安打4 四死球なし 自責点ゼロ

FA 37球(24ストライク/64.9%)17スイング(45.9%)
FS 28球(16ストライク/57.1%)15スイング(53.6%
SL 20球(15ストライク/75.0%)7スイング(35.0%)
SI 14球(7ストライク/50.0%)5スイング(35.7%)
出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool



ストレートが影をひそめ
「スプリッターなど変化球中心」になった7月


最初に挙げた2試合のデータと比べてもらうと、「7月のクリーブランド戦で田中投手の投げる球種が大きく変わっている」ことは、一目瞭然だ。
1)ストレートが大きく減少
2)カットボール、シンカーが一気に増加

これに対し、打つ側はどうかというと、クリーブランドの打者が、田中投手が投げる割合の高いスプリッター、カットボール、シンカーの3つの球種を、特にスイングしてきていたことが、以下のデータの赤色部分からハッキリわかる。

ここでいうシンカーとは、平均速度92.4マイル (最高95.6マイル)の球のことで、いわゆる「高速シンカー」にあたり、またカットボールが平均89.9マイル (最高91.5マイル)、スプリッターが87.4マイル(最高90.3マイル)だから、要するに、クリーブランド打線は「田中投手の90マイル前後の変化球を目の色を変えてスイングしてきた」のであり、平均94マイルのスピードボールも、スピードを抑えた平均83マイルのスライダーも、田中投手自身がもはや多投しなくなっているし、また、クリーブランド打線も狙ってスイングしてはいないのである。

7月8日 クリーブランド戦
6回2/3 被安打10 四死球1 自責点5

FS 27球(17ストライク/63.0%)16スイング(59.3%
FC 20球(14ストライク/70.0%)12スイング(60.0%
SI 19球(14ストライク/73.7%)13スイング(68.4%
SL 15球(13ストライク/86.7%)4スイング(26.7%)
FA 12球(3ストライク/25.0%)3スイング(25.0%)

出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool


クリーブランド打線が試合開始時点では田中投手のストレートやスライダーをほとんど振ってこないのは、「投手があまり投げない球種だから、打者がスイングする率が低い」のではない。「打者側で、投手があまり投げてこないのが最初からわかっているから、その球種を捨ててかかっている」のである。
例えば、4月・5月の2ゲームのスイング率で見ると、春先は「田中投手が投げる割合が4番目に高い球種」でも「40%前後」もの割合でスイングしてくれていた。つまり、漫然とスイングしてくれる春先ならではの現象として、各チームのバッターは田中投手の使うさまざまな球種に、それこそ「まんべんなく手を出してくれていた」のだ。

だが、7月のクリーブランド戦では違う。
「4番目に高い球種であるスライダー」について、わずか26.7%しかスイングしてくれなくなっている。つまり、「田中投手に対する狙いが、ある程度しぼられてきている」のである。

これでは、投手に「逃げ場がない」。

たとえ、たまに遊びを増やす意味で球速の遅いカーブやスライダーを投げていたとしても、打者はあまり反応してくれないし、そもそも「90マイル前後の変化球を狙う」というターゲットを変更して、ブレてはくれない。

こうして90マイル前後のスプリッターを打ちこまれた後の田中投手は、次にスライダーを置きにいき、再びホームランを浴びた。明らかにこれは打者に「逃げ先を先読みされて、追い打ちを食らっている」のである。


ストレートを痛打された痛い経験のせいなのかどうなのか、詳しいことまではわからないが、田中投手(あるいはヤンキースのバッテリーコーチ、あるいは、正捕手ブライアン・マッキャン)の側が、田中投手の球種からストレートを引っ込めた理由は何なのだろう。
何度か書いてきたように、例えば田中投手にはチェンジアップがない。いうまでもなく、チェンジアップやカーブ、あるいは、キレのある2シームといった、4シーム以外の「何か」を持たない投手が、「ストレートを引っ込める」ということは、MLBの場合、打者に狙いをさらに絞られることを意味するほかない。

「打たれたから、引っ込めました」、
それだけが理由では困るのである。

例えば、引退したばかりのマリアーノ・リベラにカットボールがあり、大学当時は速球派だったジェイソン・バルガスが肩を壊してチェンジアップを覚え、サイ・ヤング賞投手クリフ・リーがカーブを持ち球のひとつにし、ブライアン・マッカーシーがオークランドで2シームを修正されて飛躍し、デビュー当時4シームばかり投げたがっていたフェリックス・ヘルナンデスがそのストレートを打たれまくって高速シンカーを決め球のひとつに加えたように、それぞれ持ち球に変化を加えるのには、先発ピッチャーとしてMLBで長くやっていくための方策として、やはり大きな意味があるのである。

July 09, 2014

試合をひっくり返した2ランを打ったのは、ヤンキースから鳴り物入りでクリーブランドに移ったのはいいが、打率1割台と、打撃絶不調に泣くニック・スウィッシャーだった(笑)
試合後に、「(田中将大とは)初対戦だし、ビデオで研究したら、追い込んでから変化球でしとめるのが好きみたいね」とコメントしたと、日本のメディアの記事にある。


この試合中にツイートしたことをあらためて振り返ってみる。

まず、以下の3つのツイートだが、これらはすべて「クリーブランドの逆転が実現する前のツイート」だ。明らかに、クリーブランド打線は何かを執拗に狙ってきていた

そして、その「何か」とは、主に「田中将大のスプリット」だったと思う。

ゲームが終わってだいぶ経ってから考えると、クリーブランドが「田中将大がスプリットを投げるときのクセ」を完全に見抜いていたとまで断言できかどうかは、いまのところ保留しておくにしても、少なくとも正直者のニック・スウィッシャーが手の内を明かしてくれたように、クリーブランド打線は「田中将大がスプリットを投げる典型的なカウントのパターン」は把握できていた、とみるべきだろう。
でなければ、これまであれだけMLBの打者をキリキリ舞いさせてきたスプリット(これは彼の生命線でもある変化球だ)に限ってフルスイングしてくるようなマネができるとも思えない。









「クリーブランド打線は、田中のスプリットを狙い打ちにきている」という「予感」は、その後「確信」に変わることになった。






その「仕上げ」にあたる「事件」が、マイケル・ブラントリーに「アウトコース低めのスプリット」を狙い打たれたタイムリー・ツーベースだった。

こうなると、もう間違いない。「アウトコース低めのスプリット」をレフト線にタイムリーの長打を打たれる、なんてことは、この球が先発投手としての生命線のひとつである田中将大にとっては、間違いなく「事件」だ。



あとは、スプリットに対する自信が揺らいでしまい、スライダーで逃げようしたところを、チゼンホールにシングルヒットされ、同じくスライダーをニック・スウィッシャーにスタンドに放り込まれることになる。
これでスプリットを失い、スライダーも打たれた田中は、茫然自失状態になってしまい、自分の投げるべき球、投げるべきコースを見失ったまま、ストレートをど真ん中に置きにいってしまい、マイケル・ブラントリーに追い打ちのホームランを浴びることになった。




まさに、このゲームこそ、田中将大が「MLBで長くやっていくとは、どういうことなのか」を考えるべきゲームになったと思う。







「7月になるまでスカウティングというものがあまり活用されない理由」は、ハッキリしたことまではわからないが、MLBでポストシーズンに出られそうなチームと、そうでないチームが、ハッキリ色分けされるのが、7月という季節なのだということがあるのは、おそらく間違いないと思う。

この季節、首位争いをしていて、秋のポストシーズンに高い確率で出られそうなチームは、他から選手をさらに買い集める、つまり、BUYの側に立つ。
そして、既に下位に沈み、ポストシーズン進出の望みを断たれているチームは、チーム解体に走り、選手を売る、つまり、SELLの側に立つ。
こうした「BUY or SELL」の図式がハッキリする、つまり、自分のチームがポストシーズンに向けてカネを使う意味があるかどうか、まだ決まらない前に、MLB球団が大金を払ってまでして外部の分析専門会社からスカウティング、つまり、今シーズンの分析データを買ったりしないだろう、というのが、ブログ主の「読み」である。(もちろん、今シーズンのデータを分析するのに一定の時間がかかるということもあるし、また、スカウティング会社がデータを夏に販売するという記事をどこかで読んだ記憶もある)

それは、7月になる前の打者の行き当たりばったりのバッティングぶりからして、「MLBでは7月になるまでは、それほどスカウティングがはっきりと活用されてはいない」と感じる理由のひとつでもある。

July 08, 2014

2014年7月5日 ミネソタ戦イチロー見逃し三振
出典:Brooks Baseball
http://www.brooksbaseball.net/pfxVB/pfx.php?s_type=3&sp_type=1&year=2014&month=7&day=5&pitchSel=450282&game=gid_2014_07_05_nyamlb_minmlb_1/&prevGame=gid_2014_07_05_nyamlb_minmlb_1/&prevDate=75&batterX=65

7月5日のミネソタ戦9回表に、球審Marty Fosterの誤審による「アウトコース低め」の判定で見逃し三振させられた(投手:グレン・パーキンス)ことが火をつける形で、翌日、7月6日のミネソタ戦でイチローは、「すべて初球を、レフト前ヒット3本」を放ってみせた。ほんと、負けず嫌いな男ではある(笑)

特に面白かったのは、4回、先頭打者でて初球アウトコース低めをレフト前に打ち返したヒット。イチローは、ミネソタのリリーフ、アンソニー・スウォーザクが問題の「アウトコースの低め」を初球に投げてきたのを、待ってましたとばかり、レフト前に打ちかえした。
いうまでもなく、この打席、実際イチローは「アウトコース低め」が来るのを、手ぐすねひいて待っていたと思う。こうして相手のスカウティングを「2倍がえしする技術」があったからこそ、イチローはMLBで14年もやってこれたのだ。


Brooks BaseballでのPitch F/Xデータでみても、7月5日ミネソタ戦9回の見逃し三振は、高さ・コースとも、ほんのわずかストライクゾーンを外れていて、球審Marty Fosterの「誤審」なのはハッキリしている。
とはいえ、40歳にして、こんな際どい球まで見分けるイチローの相変わらずの選球眼にも感心するが、おそらくは、彼を最も苛立たせた最も大きな問題はそこではないだろうと思う。


一度2011年の記事で書いたことがあるが、MLBの球審は「コーナーぎりぎりの球」をあまりストライク判定しないのが普通だ。(もちろん、何度も書いてきたようにアンパイアごとの個人差は非常に大きく存在する)
参考記事:2011年7月11日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (5)カウント3-0ではゾーンを広げて四球を避け、カウント0-2ではゾーンを狭めて三振を避ける。あらためて明らかになったアンパイアの「故意にゲームをつくる行為」。 | Damejima's HARDBALL

以下のデータは、2011年7月11日の記事で引用したものと同じものを再掲したものだが、これでひとめで分かる通り、おおまかに言うなら「MLBの球審のストライクゾーンは、円を描くように分布している」のである。
カウント0-3と、カウント0-2の、ストライクゾーンの違い
出典:Pitching Data Helps Quantify Umpire Mistakes | Playbook | WIRED

だから、いくら「左バッターのアウトコースのストライクゾーンが、とてつもなく広い」のがMLBアンパイアの常識であるとはいえ、だからといって、左バッターのアウトコース低めのコーナーぎりぎりのところをスライダーやシンカーがかすめたように見えたからといって、そうそう簡単にストライクといってもらえないのが、MLBの常識、コモンセンスというものなのだ。(だから、かつてシアトルのダメ捕手城島がMLBのピッチャーにアウトコース低めコーナーいっぱいのスライダーばかり要求したのは、あまりにもMLBを知らない、無意味で馬鹿げた行為なのだ)


7月5日の球審Marty Fosterは、もともと「高めをまったくとらないMLBアンパイア」のひとりではあるが、かといって、「低め」ならなんでもストライクにするアンパイア、というわけではない。
Marty Fosterの7月5日の判定傾向に限って言えば、右打者、左打者問わず、「アウトコースの判定」が滅茶苦茶だったのであって、これほど不安定なアウトコース判定をされて、打者たちがアタマにこないほうがどうかしている。
データ出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps
2014年7月5日Marty Fosterの判定傾向



加えていうと、2014シーズンのイチローに対する判定は、細かいデータまで集めきれないが、印象としては、「低めをやたらとストライクコールされてばかりいた印象」があったのである。
だからか、今シーズンのイチローは、真ん中低めなど、低めを空振り三振するケースが増えていて、打席数が多くない割に三振数が多すぎた。



そうなると、スカウティング全盛時代だから、もちろん投手の側だって、馬鹿じゃない。イチローの三振パターンみたいなものを割り出し、それを執拗に繰り返してくるのが、今のMLBだ。

2014年版のイチロー攻略パターンは、いくつかあるが、例えば「イチローの打席だけでは、どういうものかストライクとコールされるアウトコース低めいっぱいの球でカウントを追い込んでおき、次に、遊び球でアウトコース低めに外れる球を投げておいて、4球目にインコースのハーフハイトに投げる」、または「追い込んだら、3球目にインハイを投げておいて、4球目にアウトコース低めいっぱいに投げる」という感じだった。

つまり、イチローの打席特有のアウトコース低めのゾーンの広さがバッティングに少なからず影響していたと思えるわけだ。(それでも3割打っているのは、さすがだが)


7月5日のアウトコース低めの誤審で見逃し三振させられ、いい加減にキレたのか、イチローが、その「ボール気味なのに、やたらストライク判定されまくって、クソ頭にくる低めの球」をしばきまくったのが、7月6日の3安打、というわけだ(笑)

2013シーズンにスカウティングされまくったのは、誰がどうみても明らかで、ヤンキースがどうみても高額契約なんか結ぶべきではなかった外野手アルフォンソ・ソリアーノが予想どおりDFAになって、ライトの定位置がイチローのものになった7月は、もともと苦手でもなんでもない左投手が先発するゲームでもスターターとして出場できそうだし、ひさしぶりにファイヤーな予感がする。(もちん、先発投手が足りないのなんて最初からわかりきっている馬鹿なヤンキースが、投手と交換にイチローをポストシーズン進出の可能性のあるチームに放出してくれるのが、最良の結果だが)


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