クリフ・リー (ビクター・マルチネス関連含む)

2019年1月24日、ロイ・ハラデイの「不世出のゲーム支配力」の源泉。
2011年7月9日、6月のPitcher of the Monthを受賞したばかりのクリフ・リーが、イチローが今シーズン初ホームランを打ったトミー・ハンソンからキャリア初ホームラン。
2010年10月26日、クリフ・リーの投球フォームが打ちづらい理由。「構えてから投げるまでが早くできている」メジャーの投球フォーム。メジャー移籍後のイチローが日本とはバッティングフォームを変えた理由。
2010年10月18日、クリフ・リー毎回の13奪三振! フェリースも100マイルピッチ連発で2三振を奪い、ヤンキースから合計15三振、テキサス圧勝!
2010年10月12日、クリフ・リー、無四球完投!「アウトコース高めいっぱいのカーブ」を決め球に、11奪三振。テキサスがヤンキースとのリーグ・チャンピオンシップに進出。このゲームを正確なコールで素晴らしいゲームにした名アンパイアJeff Kellogg。
2010年10月6日、クリフ・リー、タンパベイを10三振に切ってとり、ポストシーズンまず1勝。フィラデルフィアでもみせた大舞台でのさすがの安定感。
2010年9月20日、投手の投球テンポの早さを支えるのは「コントロール」だと、今日のボルチモアの"ルパン"上原を見てつくづく思った話。
2010年9月19日、クリフ・リーが絶賛したイチローの”hand-eye coordination”と、現代アスリートに求められる脳内トレーニング。
2010年9月13日、 移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(4 )1950年代の名捕手シュローダー君の考える「球種の少ない投手の球を受ける捕手に欠かせない、サインのひと工夫」。または谷啓さんの大きな文化的足跡。
2010年9月12日、、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(3)典型的な「パターン配球」で打ちこまれたミネソタ戦、「パターンの例外」を数多く混ぜて抑えたヤンキース戦の比較と、クリフ・リーがキャッチャー選びにこだわる理由。
2010年9月5日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(2)クリフ・リーには「カウントによって、投げる球種に特定パターン」がある
2010年8月29日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(1)2010年の「ア・リーグ東地区風カットボール多用配球スタイル」が東地区チームとの対戦に災いしているのか?
2010年8月19日、CCサバシアには申し訳ないが、今シーズンのア・リーグのサイ・ヤング賞にふさわしいのは、さまざまなメジャー記録を更新しそうなクリフ・リーだと思う。
2010年8月1日、不用意なクリフ・リー放出でマリナーズ「7月の墜落」。クリフ・リー放出の意味の重さがわかってないメディアとファンが多すぎる。
2010年7月9日、突然テキサスへ放出されたクリフ・リーの喪失感。2009年のウオッシュバーン放出同様、無能なズレンシックがまたやらかした「7月先発投手安売り」を批判する。
2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。
2010年6月7日、クリフ・リー、シアトルが苦手とするアーリントンのテキサス戦で貫禄の107球無四球完投、4勝目。フィギンズの打順降格で、次に着手すべきなのは「監督ワカマツの解雇」
2001年5月28日、クリフ・リー、ロブ・ジョンソンとのバッテリーでエンゼルスに10三振を食らわせる快投。「高め」の球の有効性を証明する配球術を披露。
2010年5月16日、クリフ・リーの「完投敗戦」にみるシアトルのチームマネジメントの責任。プレーヤー配置のアンバランスさが、ゲーム終盤の逆転劇の原因なのは明らか。
2010年5月11日、クリフ・リー、シアトルでの記念すべき初勝利。ランガーハンズのホームランが流れを大きく変え、ロブ・ジョンソン、ジョシュ・ウィルソン、ソーンダースがそれぞれ2安打。控え組起用がチームに活気を取り戻した。
2009年12月14日、シアトル、クリフ・リー獲得っっ !!!! (追記あり)
2009年11月4日、イバニェスを上位打線に移動させず、「ヤンキーススタジアムを理解しそこねた」フィリーズの失敗。そして2010シーズンへ。
2009年11月2日、クリフ・リー、ワールドシリーズ第5戦での「ゆるい」2勝目。
2009年10月28日、クリフ・リー、ワールドシリーズ第1戦を10三振自責点ゼロで無四球完投。This is Cliff Lee, Mr. Complete. これが「ミスター・コンプリート」クリフ・リー。イバニェス、試合を決める2点タイムリーヒット。
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(9)クリフ・リーのプレイオフ快刀乱麻からの研究例:「カーブとチェンジアップ、軌道をオーバーラップさせ、ド真ん中を見逃しさせるスーパーテクニック」
2009年10月15日、ナ・リーグ優勝決定シリーズ第1戦でシェリルとイバニェスの対戦が実現した。
2009年9月15日、クリフ・リー、ナッツを袋詰めして14勝目。
2009年8月27日、カーブのコントロールが全く無い田沢と、そのカーブを連投させまくるビクター・マルチネスの「鮮やかすぎるお手並み」(笑)
2009年8月24日、ビクター・マルチネスの呪縛から解き放たれたようなクリフ・リー、フィラデルフィアの控え捕手ポール・バコ相手に5連勝、8月の月間防御率0.58を記録する。月間最優秀投手賞は間違いなし。
2009年7月29日、サイ・ヤング賞投手クリフ・リーのフィリーズ移籍に、ヘルナンデスはじめシアトルのローテ投手の契約更新における「城島問題」の大きさを見る。
2009年7月16日、城島は試合序盤、投手オルソン、ジャクバスカスがモーションに入ってもミットを構えず、ゲームのリズムを壊した。(サイ・ヤング賞投手クリフ・リーがなぜショパックを指名捕手にしたか 解説つき)

January 25, 2019

ロイ・ハラデイがどういう意味で凄いピッチャーだったか。それを語るのにちょうどいいデータがあった。
以下のツイートによると、100年を越えるMLB史においてハラデイは「200奪三振以上、かつ与四球40以下」を5回も達成した唯一のピッチャーだったらしい。




この記録自体、たしかにすさまじいが、
同時に「誤解されやすいデータ」でもある。

というのは、
ハラデイが「豪腕タイプのピッチャーだったから、三振をたくさんとれて、大記録が達成できた」わけでは、まったくないからだ。彼は160キロを越える速球をブンブン投げるような手法で年間200もの三振を奪っていたわけでは、まったくない。

むしろ、ハラデイの真骨頂といえば、「球数が非常に少ないこと」だ。
完投数の多さをみればわかる。



上のツイートの顔ぶれをみてもらえばわかることだが、「200奪三振、かつ与四球40以下」という記録の複数回達成者には、クリス・セール、コーリー・クリューバー、クレイトン・カーショーといった2010年代のピッチャーの名前が多い。
2010年代の投手たちの三振数の記録はあまりアテにならない。それは、このブログで何度も書いてきたように、2010年代がMLB史で最も三振数が多い「三振の世紀」だからだ。ロイ・ハラデイ、クリフ・リー、ペドロ・マルチネスが活躍した2000年代は、それ以前と比べれば三振が多くなった時代ではあるにしても、2010年代ほどの酷さではない。


では、「球数が少ないハラデイに、なぜ数多くの三振がとれた」のか。ここからが話の本番だ。


以下のデータを見てもらいたい。
フィリーズ時代のハラデイのデータだ(2011年6月10日カブス戦)。「球種ごとの水平方向と垂直方向の変化」がわかる。

2011年6月10日のRoy Halladay

2011年を選んだのにはちょっとした理由がある。
彼の投球術としての完成形が2011年にあると思うからだ。

たしかに彼の2010年シーズンは輝いている。フィリーズでリーグ最多の9完投21勝を挙げ、完全試合とノーヒットノーランを同じシーズンに達成し、サイ・ヤング賞も受賞している。
だが、彼の自己最高の防御率2.35、自己最多の220奪三振が記録されたのは、その2010年ではなく、5年連続のリーグ最多完投を達成した翌2011年なのだ。
(ちなみに2012年以降、ハラデイはもはや往年のチカラがなくなってしまい、故障や肉体的な衰えから「らしさ」が決定的に失われて、2013年に引退した)


本題に戻ろう。
上のデータをクリックして拡大して眺めてもらいたいが、「同じ色のドット(点々)が、ほぼ同じエリアに集中している」。
どういう意味かというと、カットボール、カーブ、シンカー、「それぞれの球種が、ほとんどの投球において、ほぼ同じ変化をしている」ということだ。


ハラデイのデータだけみせると、「なんだ、そんなことか」と言われても困るので、他の投手をネガティブな例として挙げてみる。2017年のある日本人投手のデータだ。

ドットが非常にばらついている。どれだけピッチングが「なりゆきまかせ」か、わかるはずだ。
つまり、このピッチャーは「自分の投げた球が、どこに行くのか、わからないまま、なりゆきにまかせて投げている」のである。三流であることの証にほかならない。なりゆきまかせで名選手になれるなら、誰も苦労なんてしない。(ましてステロイドなんて論外である)

2017年6月6日の田中将大



世の中には、MLBのピッチャーはパワーにまかせて、なりゆきまかせに投げていると決めつけている人が大勢いる。

とんでもない。

「なりゆきまかせでないMLBピッチャー」の例を、もうひとりだけ挙げてみる。ハラデイのデータと同じ2011年のクリフ・リーである。

2011年6月28日のCliff Lee

見事としか言いようがない。
カーブ、チェンジアップ、シンカー、カットボール。すべての球種が、「常に同じ変化でキャッチャーに到達している」。
「ドットの分布エリア」が球種ごとに完全にスッパリ分かれて分布していることからわかるように、このゲームでのクリフ・リーは、往年のロイ・ハラデイ以上に「変化球のメリハリ」がすさまじい。カーブは「カーブらしく」、シンカーは「シンカーらしく」、カットボールは「カットボールらしく」変化し、しかも、それらの投球すべてがなんと、「自分の思ったところに投げている」のである。


これこそ真の意味での「ゲーム・コントロール」であり、「ゲームの支配力」だ。

「完投が非常に多い」ということは、100球制限のあるMLBにおいては、「球数が少ない投球ができる」ということだが、「球数の少なさ」は往々にして「奪三振の多さ」と両立しない。例えばダルビッシュやフェリックス・ヘルナンデスなどもそうだが、奪三振の多いピッチャーでたくさんの球数を投げるピッチャーなど、いくらでもいる。そんな投手は二流にしかなれない。


クリフ・リーが「ストライク率の異常に高い、ストライクばかり投げる稀有なピッチャーだった」ことは、過去に何度も記事にしてきた。
2010年6月7日、クリフ・リー、シアトルが苦手とするアーリントンのテキサス戦で貫禄の107球無四球完投、4勝目。フィギンズの打順降格で、次に着手すべきなのは「監督ワカマツの解雇」 | Damejima's HARDBALL
2010年10月6日、クリフ・リー、タンパベイを10三振に切ってとり、ポストシーズンまず1勝。フィラデルフィアでもみせた大舞台でのさすがの安定感。 | Damejima's HARDBALL


「球数が少ないのに、三振をとれる投手」であり続けるようとするなら、無駄な球は一切投げられない。また、自分が意図しないところにいってしまう荒れ球など、まったく必要ない。常に思ったところに投げ、常にストライクで勝負し、バッターを翻弄し続けなければならない。それが、ロイ・ハラデイやクリフ・リーだ。


投手がコントロールすべきなのは、ボールではない。
自分自身だ。

ロイ・ハラデイが、いかに真の意味での大投手だったか。少しだけでもわかってもらえたら、幸いである。

damejima at 17:09

July 10, 2011

5勝0敗、ERA0.21、WHIP0.690の素晴らしい成績で、6月のPitcher of the Monthを受賞したばかりのクリフ・リーが、オールスターを前に同地区2位アトランタとの重要なゲームに先発したのだが、このゲームの3回裏に、なんとアトランタ先発、10勝4敗の新鋭トミー・ハンソンから、キャリア初となるホームランをかっとばした。
ベンチではキャッチャーのカルロス・ルイーズが小躍りして喜んでいた(笑)
Cliff Lee Is Awesome, Adds Home Run Hitter to Resume

Pitcher of the Month
Philadelphia Phillies starter Cliff Lee voted National League Pitcher of the Month for June | MLB.com: Official Info

Cliff Lee 2011 Pitching Splits - Baseball-Reference.com


トミー・ハンソンは今シーズンは既に2桁、10勝にのせ、防御率も2.52と素晴らしい。だが、その新鋭のボールをスタンドに叩き込んでしまうのだから、クリフ・リーのバット、おそるべし(笑)
FOXのケン・ローゼンタールなどは「彼がバッティングが好きなんだ。だから、ナ・リーグに移籍したんだ」などとツイートした。


そういえば、6月28日のシアトル対アトランタで、イチローが今シーズン初ホームランとなる先頭打者ホームランを打ったのも、このトミー・ハンソン。
まぁ、単なる偶然という以上のこの出来事。この2人、いまだに縁が繋がっているらしい。

トミー・ハンソンの打たれたホームラン全記録
Tommy Hanson Career Home Runs Allowed - Baseball-Reference.com


ちなみにゲームは、トミー・ハンソンを粘り強いフィリーズ打線がまったく打ち崩せず、フィリーズの得点はなんと「クリフ・リーのホームランの1点のみ」で、クリフ・リーは勝ち投手になれなかった(笑)
その後1−1で延長に入り、11回表に3点を入れたアトランタが逆転勝ち。勝ち投手はなんとアトランタのリリーフ、ジョージ・シェリル(笑)

なんというか、いろいろとシアトルに縁のあるゲームだった(笑)

Atlanta Braves at Philadelphia Phillies - July 9, 2011 | MLB.com Classic






damejima at 08:50

October 27, 2010



ブログ注:この動画の出典はESPNなわけだが、どうも元の動画は削除されたらしい。http://espn.go.com/video/clip?id=5728888


2010ワールドシリーズキューバ出身のHOF(ホール・オブ・フェイマー)、Tony Perezの息子、Eduardo Perezは、2006年にシアトルでプレーした後、引退して、同年からBaseball Tonightのアナリストをしているが、2010ワールドシリーズを前に、クリフ・リーと、ヤンキースのマーク・テシェイラアレックス・ロドリゲスとのポストシーズンでの対戦場面を引き合いに出しながら、クリフ・リーの投球フォームと、彼のボールの打ちにくさを関連づけて解説している。
Eduardo Perez Statistics and History - Baseball-Reference.com


Eduardo Perezの言いたいことを簡単にまとめると、クリフ・リーの手からボールが離れる瞬間になっても、打者たちは体重移動のきっかけをうまく作れないままスイングに入って、空振りしたり、あるいは見逃したりしている、ということになる。
たしかに打者が構えるタイミングがまったくあっていない。


ブログ主が思うに、クリフ・リーの投球フォームは、「右足を踏み込んでから、ボールをリリースするまでの一連の動作」が無駄がなく、それだけに、とても早い
ちなみに、クリフ・リーだけが早いのではなくて、メジャーの投手は日本の投手と比べて、「構えて、投げるまで」が早い

このクリフ・リーの「動作の無駄の無さ」は、右足をホームプレートに向けて踏み込んでいく時点での、「ボールを持つ位置の高さ」を見ると、ひと目でわかる。


以下に、クリフ・リーの「踏み込み脚が着地する寸前の画像」を、フィラデルフィア、シアトル、テキサス、3チーム分、集めてみた。クリフ・リーのボールを握っている左手が、踏み込み脚の右足が着地するだいぶ前に、すでに「肩の高さ」まで上がり終えていることがおわかりいただけると思う。
それにしても、まぁ、いつの時代を見ても、まるで同じフォームにしか見えない。驚かされる。
体全体を動かすシステム、メカニクスがきっちりと、しかも無駄なく決まっているために、「どう足を着いたか」とか「どれだけ膝を曲げたり、伸ばしたりしたか」というような雑多な要素でコントロールが不安定にならないことが、よくわかる。

フィラデルフィア時代のクリフ・リーの投球フォームフィラデルフィア時代

シアトル時代のクリフ・リーの投球フォームシアトル時代

テキサスでのクリフ・リーの投球フォームテキサス移籍後



日本人投手のフォームとの違いを見るために、試しにボストンの松坂大輔投手と比べてみる。

松坂投手のフォーム(足をショート側に向ける瞬間)松坂投手は、左足を、ホームプレート方向に踏み出す前に、一度、自分の斜め後ろにあたる三遊間方向に向かって伸ばしている(左写真)
クリフ・リーにはこの動作が全くない

さらに松坂は、この伸ばした左足を、ブルース・リーの旋風脚のように、自分の体の前で円を描くように、つま先をホームプレート方向に向け直していき、そこからやっとホームプレート方向に踏み出すみ動作が始まる。なんというか、いうなれば「脚で一度タメている」のである。


ボストン松坂大輔投手のフォーム次に、ホームプレートに向かって踏み出した瞬間の、「ボールを握った右手の位置」を見てみる。

踏み出した左脚が着地寸前だが、右手はまだ腰より低い位置にある。(左写真)
いってみれば利き手を腰の後ろに長時間とどめておく松坂投手は「手で二度目のタメをつくっている」。

2つの画像での説明でわかるとおり、松坂投手の「予備動作の多さ」が、クリフ・リーのピッチングフォームのシンプルさとの大きな違いだ

松坂投手は、踏み込む左足の足裏がもう着地しそうになっている段階でも、まだ背中が丸まっていて、胸を張れてないし、ボールはまだ「腰のあたりにタメている」
だから、この「腰ダメの段階」からですら、すぐにはボールをリリースできない。ただでさえたくさんの予備動作をこなしてきたのに、さらにここからいくつかの予備動作がまだ必要になる
やっとボールがリリースできる段階にたどり着くのは、胸を張り、左足を踏みしめて、両肩を回しつつ、ボールを持った右腕を振り上げ、とか、やらなければならない沢山の動作をこなしてからだ。

こうなると、悪くすると、テニスで言えば「ラケットを引く予備動作の処理が遅いために、相手の球を打ち返しそこねる」ような状態になる。

というのも、こなさなければならない予備動作の多い松坂投手の場合、予備動作をこなしている間に、うっかりすると、まだリリースのタイミングに至ってないのに「踏み込み脚が完全着地しきってしまう」からだ。そうなると、せっかくの体重移動は少なからず無駄になる。
たとえ話でいうと、「上半身と下半身が別々に旅行に出発して、目的地で同時に着く待ち合わせをしたはずが、下半身だけがずいぶんと先に目的地に到着してしまい、スウェイバックしたままの上半身が、いつまで待っても目的地に到着しないので、先に目的地で待っていた下半身が待ちくたびれた状態になる」わけだ。(実際、松坂のキャッチボールでのフォームは、上半身が異様にスウェイバックしている)

また、コントロールにも問題が生じる。
松坂投手はボールをリリースするまでに、こなさなければならない予備動作が多い。たくさんの交通手段を使う旅行のようなものだ。
もし経由する動作がうまくいかなくて、動作に「誤差」や「ブレ」が生じれば、それは必ずコントロールへ影響してくる。
例えば、踏み込んだ脚を着地させてからリリースするまで、いくつかある予備動作のどこか、例えば、腰の低い位置でタメていた腕を振り上げていく軌道が毎回違っているとか、軸足を曲げる量が毎回変わるとか、両肩の回し方、ショート方向に向けていた脚をホームプレートに踏み込んでいくときの足を伸ばす幅、これらのどれでもいいのだが、「ボールをリリースするたびに正確に行われるはずの数多くある予備動作のどこかに「誤差」や「ズレ」が生じると、それがどんなズレであろうと、コントロールに影響が出る
そうなると、なんというか、形容矛盾のようだが、松坂投手のフォームは「体全体を使った、手投げ」になってしまう。



それに対して、クリフ・リーの投球動作はだいぶ違う。

投球モーションに入って、踏み込み脚の右足を胸に引き上げた後、その右足は、そのままホームプレートに向かっていく

クリフ・リーの「胸に大きく引き上げた足を、そのままホームプレートに向かって踏み下ろしていく動作」では、松坂にあるような予備動作のいくつかが省かれている。第一に、ホームプレートに向かって足を踏み込む前に、自分の斜め後ろ方向(左投手のクリフ・リーなら、1,2塁間の方向)に向ける動作。第二に、後ろに向けた足を「一度、完全に伸ばす動作」。第三に、「一度後ろに向かって伸ばした足を、ホームプレート方向に向け直していく動作」。これらの松阪投手の動作の全てが、クリフ・リーにはない。

そして、上の3つのチームでの投球画像で見てわかる通り、踏み込み脚が着地する直前には、もう既に「胸を張って」、「ボールを肩くらいまで上げ」、「リリースのための予備動作」は終了しているから、いつでもボールを安定してリリースできる段階になっている

投球動作の早い段階で腕が上がっているから、クリフ・リーのリリースポイントは、足の着地位置から逆算した「常に同じ高さ」に決まる。(この高さが決まってリリースポイントが安定することを指して、stay tallと言っているのではないかと思うのだが、どうだろう)だから、クリフ・リーのフォームでは、腕の振りさえ安定していれば、常に安定したコントロールが得られる。
クリフ・リーのリリース・ポイント(2007、2008年)
Cliff Lee Pitch F/X 2008 « Mop Up Duty | Baseball News Sabermetric | Baseball History Bio

総じて言えば、クリフ・リーの投球動作はシンプルだ。
「脚を上げて」、「左右に体を開きながら踏み込み」、そして「投げる」。これだけ。いかにもメジャーの投手らしい。
日本の投手のように、「脚を上げてからボールを投げる前に、いくつか加えているタメをつくる動作」の大半が省略されていて、非常に無駄なく組み立てられている。
加えて、踏み込んで全体重が踏み込み脚に乗った瞬間にボールがリリースされるようにできているために、体重移動のパワーが無駄にならない。


書きだすとキリがないが、クリフ・リーと松坂の投球フォームの違いは、単に2人の個人差だけからきているのではなくて、日本とメジャーの野球文化の差異でもある。

MLBファンの大半がわかっていることだと思うが、メジャーの投手のフォームは日本と違って「構えてから投げるまでが、とても早い」。(もちろん、それは「クイックで投げている」という意味ではない)

日本で野球をしているなら、打者は、モーションの大きな、投球に時間のかかる投手が円を描くような大きなテイクバックでタメをつくっている間に、打席内で大きく体重移動しておいてボールが打席まで来るのを待つことができる。だから、ドアスイングのような大袈裟なスイングの打者であっても、投手のボールのリリースを見てからでも、体の前のポイントで差し込まれずにスイングすることができる。

だが、メジャーでは、そんな悠長なことをしていては、とても打てない。

天才イチローですら日本での打撃フォームをメジャー用に改造したくらいだ。イチ、ニの、サンで振ればヒットやホームランになるようには、メジャーのベースボールは出来てない。

ノーラン・ライアンの投球フォーム現役時代のノーラン・ライアン

ノーラン・ライアンは、クリフ・リー同様に、ホームプレート方向に踏み込む動作のかなり早い段階で、ボールを握った手を「高い位置」に上げ、リリースに備えている。こうした予備動作の開始タイミングの早さが、構えてから投げるまでの動作の早さに繋がるのだと思う。






damejima at 14:37

October 19, 2010

心をへし折られたら、すぐさま相手の心を折り返せ!
まさに、そんなゲーム。

真打ちクリフ・リー、ア・リーグ・チャンピオンシップ(ALCS)初登場で、圧巻の13三振
13奪三振の動画(MLB公式)
2010 ALCS: Game 3 | ALCS Gm 3: Lee strikes out 13, earns the win - Video | MLB.com: Multimedia

13奪三振は彼のキャリア・ハイ・タイ。これまでに彼が13奪三振を記録したゲームは、クリフ・リーがテキサスに移籍して4ゲーム目の試合にあたる、今年2010年7月27日のオークランド戦がある。(Oakland Athletics at Texas Rangers - July 27, 2010 | MLB.com Gameday

クローザー、ネフタリ・フェリースも2三振を加え、2投手合計でなんと15三振。27アウトのうち、15三振だから、実に9分の5、半分以上のヤンキースのアウトが三振であることになる。(スタメンで三振しなかったのは、ロビンソン・カノーのみ
生馬アイザック風に言えば、まさに、これぞ「クリフ・リー・タイム」。ポストシーズンのチーム打率3割だったヤンキースを、それもヒッターズパークのヤンキースタジアムで、まさに「ねじふせた」。

クリフ・リーがタンバベイ相手に2回登板した関係で登板できなかったALCS Game 1でテキサスがかなり酷い逆転負けを喫したときには、どうなることやらと思ったが、いやはや、Game 2といい、テキサス、強い
ロン・ワシントンは、見事にALCS2勝目をモノにして、対戦成績を逆転した。
ちなみにMLB公式によると、ALCSが7試合制になった1985年以降、2勝1敗になった20チームのうち、15チームがALCSを制しているらしい。(2勝1敗になりながら負けた5チームの中の1チームが、1995年のマリナーズ)
今日のALCS Game 3
Texas Rangers at New York Yankees - October 18, 2010 | MLB.com Gameday


この勝利で、クリフ・リーはポスト・シーズン通算7勝で、まったく負けていない。(フィラデルフィア4勝、テキサス3勝)。また、リーグ・チャンピオンシップでも、2勝0敗(NLCS 1勝、ALCS 1勝)で、ERA 0.00。まだ1点も自責点がない。
加えて、この日の13三振でクリフ・リーは、タンパベイとのディヴィジョン・シリーズでの2登板21奪三振を含め、同年度のポストシーズンゲームで3試合連続の2ケタ奪三振。これはポストシーズン史上初
またポストシーズンERAは、前の登板までで1.44だったが、今日の8イニングで1.26にまで上昇。歴代1位のサンディ・コーファクス(0.95)、2位のクリスティ・マシューソン(1.06)、2人の殿堂入り投手のポストシーズンERA記録がいよいよ射程圏内に入ってきた。

ALCS Game 1の記事
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月15日、まさしく監督の経験の差が出たテキサスのリーグ・チャンピオンシップ第1戦。ロン・ワシントンの「乱心」。
クリフ・リーの前の登板
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月12日、クリフ・リー、無四球完投!「アウトコース高めいっぱいのカーブ」を決め球に、11奪三振。テキサスがヤンキースとのリーグ・チャンピオンシップに進出。
クリフ・リーの2010シーズン全登板記録
Cliff Lee Game Log | texasrangers.com: Stats


今日のクリフ・リーのストライク率は、67.2%(122球82ストライク)。フェリックス・ヘルナンデスを含め、普通の投手にしてみれば十分高いストライク率だが、前の登板で75%もの超絶のストライク率をたたきだしているクリフ・リーにしてみれば、ストライクが少なかったゲームではある。だが、それでも四球はひとつしか出さず、13奪三振。たいした投手だ。
試合後のインタビューによれば、クリフ・リー自身は「良かったのはカットボール」と言っている。たしかにカーブは前のゲームよりもコントロールとキレがよくなかった。また、アンパイアも、前のゲームの素晴らしいアンパイアJeff Kelloggほど、きわどいコースを見極められる人ではなかった。
"I was just throwing strikes," Lee said. "The cutter was a really good pitch for me today."
Lee K's way into record books | MLB.com: News


8月に「今シーズンのサイ・ヤング賞に最もふさわしいのはクリフ・リーだ」と書いたが、やはり間違ってなかった。サイ・ヤング賞の投票自体はポストシーズン前に終わっているのだが、そんなこと、別にどうだっていい。
サイ・ヤング賞をとれようが、とれまいが、彼クリフ・リーこそ、
今年のア・リーグ最高の先発投手である。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月19日、CCサバシアには申し訳ないが、今シーズンのア・リーグのサイ・ヤング賞にふさわしいのは、さまざまなメジャー記録を更新しそうなクリフ・リーだと思う。
こんな素晴らしい大投手を、シアトルは、モノになるかどうかもわからないプロスペクト数人程度で交換してくれたのだから、テキサスは同地区のチームとして、さぞかし喜んでくれていることだろう。
ズレンシックが無能」なのは、とっくにこのブログでは遥か昔に「決定事項」だが、テキサスとのトレードをいまだにwin-winなどといっているシアトルファンと関連メディアは、馬鹿そのものとしか言いようがない。
クリフ・リー、そしてフェリックス・ヘルナンデス、2人のサイ・ヤング賞候補クラスの先発投手がいて、どこを、どうするとシーズン100敗できるのか。ズレンシックは、「マイナーが充実したから、俺は仕事した」とか小学生の作文より酷いレターを公開して言い訳してないで、一刻も早く辞任すべきだ
Hamilton, Lee honored as AL's best in June | MLB.com: News


それにしても、クリフ・リーも凄かったが、クローザーのネフタリ・フェリースも凄かった。8点リードしていても手抜きなどせず、100マイルの超スピードボールを、ジーターマーク・テシェイラに1球ずつお見舞いして、2人とも揃って三振に仕留め、綺麗に圧勝劇を締めくくった。
ちなみに、元テキサスのマーク・テシェイラは、ここまで無安打。古巣テキサスの投手にパーフェクトに抑えられている。「絶対にテシェにだけは打たせるものか」という、テキサスサイドの強い意志が感じられる。

フェリースがどのくらい凄かったかって?
こう言えばわかるだろう。

テキサスのキャッチャー、ベンジー・モリーナは、フェリースのストレートを受けるたびに、ボールをピッチャーに返した後で毎回毎回ミットのほうの手をブラブラと振って、手の激痛をこらえなければならなかった。つまり、ミットが意味をなさなくなるくらい、フェリースの豪速球はモリーナの左手を酷く痛めつけ続けたのである。
メジャーのバッターなども、デッドボールや、自打球が当たった場合でもあまり痛がるそぶりを見せないことはよく知られているが、キャッチャーがあれほどあからさまにミットの中の手の痛みを、しかもイニング中ずっと表現し続けるのはかなり珍しい。






damejima at 12:48

October 13, 2010

クリフ・リーの惚れ惚れする無四球完投。
これでポストシーズン登板、6勝0敗。防御率も、あのサンディ・コーファックス、そしてクリスティ・マシューソン、殿堂入りしている伝説の2人の投手に続く、歴代3位。

歴代ポストシーズンERA
1位 サンディ・コーファクス  0.95
2位 クリスティ・マシューソン 1.06
3位 クリフ・リー       1.44

" When we scored that second run, you could see the look in his eye change."
「(テキサスの)2点目が入ったとき、クリフ・リーの目つきが変わったのがわかったろ?」(クリフ・リーが投げたら1点のリードで十分だったと語るマイケル・ヤングCompleteLee! Road to LCS for Texas: 5th gear | MLB.com: News

こんな素晴らしい投手を、しかもよりによって同地区のライバルチームに出して戦力強化に貢献してしまうシアトルのGMは、当然ながら、馬鹿だ。
(もっとも、クリフ・リーの能力は、再建すらままならならず、次の監督すら決まらないシアトルではポストシーズン進出がありえない以上、宝の持ち腐れにはなる。まぁ、あのトレードをwin-winだなんて恥ずかしいことを公然と言ってのける馬鹿だらけなのが、シアトルという底辺チームの、ファンもメディアも含めたレベルの低さなので、何を言っても無駄だろう。ESPNにあれほどフィギンズをクソミソにこきおろされても、まだ無能なズレンシックにしがみついている。やれやれ。)
Texas Rangers at Tampa Bay Rays - October 12, 2010 | MLB.com Gameday

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月3日、かつて2008年に城島が選ばれた「ESPN上半期LVP」と「年間LVP」をほぼ同時受賞したといえるショーン・フィギンズ。そして、「シーズン最悪の非貢献者」と名指しされたも同然のズレンシック。


クリフ・リーの今日の120球のうち、ストライクは90球。4球投げれば3球がストライクで、ストライク率は、驚異の「75%」。アトランタ・ブレーブスは四球とエラーで逆転負けし続けて敗退していったが、クリフ・リーはやはりポストシーズンに強い。(ポストシーズン防御率歴代3位。6勝0敗)ポストシーズン進出がわかっていたテキサスにとって、クリフ・リーは最上の買い物になった。
最初の登板でも104球中76ストライクで、ストライク率73.1%と破格の高率だったわけで、クリフ・リーは2回の登板、ほぼ同じペースでストライクをとり続けたことになる。結果、最初の登板で10三振、2回目が11三振、合計21三振。(その結果、テキサスがディヴィジョンシリーズで奪った三振は55となって、これは歴代1位)タンパベイ唯一の3割打者クロフォードはじめ、タンパベイ打線を完璧に抑え込んだ。

タンパベイ先発のデビッド・プライスが104球68ストライクで、65.4%だから、クリフ・リーのほうが10%もストライク率は高い。
プライスもけして悪い出来ではなかったが、いかんせん名投手クリフ・リーと投げ合うと、ピッチングの組み立てが、力まかせで、あまりにも工夫がないのがよくわかる。あれでは、まだ若い。ゲレーロのような強振タイプは速球で抑えられるが、イアン・キンズラーのようなタイプにはどうしても捕まってしまう。


ただ3回までのクリフ・リーには、ハラハラする場面もあった。
以前の記事で書いたことだが、やはりクリフ・リーは、明らかにキャッチャーのベンジー・モリーナと息があっていない。1点とられた3回だったか、クリフ・リーがモリーナのサインに首を振り続けて、4つ目か5つ目のサインで、ようやく投げるボールが決まる、なんていうシーンがあったように、サインがなかなか決まらず、クリフ・リーがピッチングにおいて重視する「投球テンポ」が遅かった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月12日、、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(3)典型的な「パターン配球」で打ちこまれたミネソタ戦、「パターンの例外」を数多く混ぜて抑えたヤンキース戦の比較と、クリフ・リーがキャッチャー選びにこだわる理由。

クリフ・リーが安定しだしたのは、やはり、「カーブを決め球に使い出した4回以降」だ。
これも何度も書いてきたことだが、クリフ・リーのシアトル移籍が決まるずっと前、日本のシアトルファンがクリフ・リーの名前すら知らない頃から注目してきたブログ主としては、カーブで決めてくるクリフ・リーが、ホンモノのクリフ・リーだと確信している。今日の序盤の横に動くカット・ボールも悪くはなかったが、4回以降にタンパベイ打線を沈黙させたのは、やはり「カーブ」だ。
テキサスの次の相手はヤンキースだが、あの打線はカットボールに非常に慣れているので、カットボールだけでは通用しない。

今日のクリフ・リーの「カーブ」は際立った特徴があった。「高めいっぱいに決まるカーブ」を決め球として多投して、数多くの三振を奪ったのである。
日本にはあいかわらず「低めの球さえ投げていれば、投手はなんとかなるものだ」という迷信がある。「高めいっぱいに決まるカーブ」を決め球に素晴らしいピッチングを披露した今日のクリフ・リーを見て、もうちょっと高めの球を使う研究をするべきだと思う。もちろん、そのためには目のいいアンパイアを育てないと話にならない。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(9)クリフ・リーのプレイオフ快刀乱麻からの研究例:「カーブとチェンジアップ、軌道をオーバーラップさせ、ド真ん中を見逃しさせるスーパーテクニック」


クリフ・リーのコントロールが冴えたこともさることながら、今日のホームプレートアンパイアJeff Kelloggが実に目のいいアンパイアで、コールの正確さには感心した。ほんのちょっとでもはずれているとボール、ギリギリ入っているのはストライクと、きわどいコースの判定が非常に正確だった。
先日ミネソタのガーデンハイアーを退場させたHunter Wendelstedtは、ポストシーズンもロクに経験してないクセに態度だけはデカい、最悪のアンパイアだったが、Jeff Kelloggはこれまでに、97年のオールスター、4回のナ・リーグのディヴィジョンシリーズ(1998, 2000, 2003, 2007), 5回のリーグチャンピオンシップ(1999, 2001, 2002, 2004, 2006)、3回のワールドシリーズ(2000, 2003, 2008)でアンパイアをつとめてきたヴェテランである。
クリフ・リーとデビッド・プライスの投げあい、なんていう好ゲームをきちんとファンに楽しんでもらおうと思うなら、Jeff Kelloggのような、ポストシーズンにふさわしいアンパイアを連れてきてもらわないと困る。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月7日、ディヴィジョン・シリーズ第2戦で退場させられたミネソタの監督ロン・ガーデンハイアーと、球審Hunter Wendelstedtとの間にかねてからあった軋轢。


それにしても、今日のテキサスの勝利の立役者は、守りではクリフ・リーだが、攻撃面で、ロン・ワシントン監督の思い切った盗塁指示と、テキサスのランナーたちの走塁の素晴らしさを挙げないわけにはいかないだろう。
タンパベイのキャッチャーは、奇しくも、クリフ・リーがクリーブランド時代に指名していたケリー・ショパックだったが、タンパベイの内野手たちの気の緩みを見逃さないテキサスの大胆かつ的確な走塁で、ショパックは試合途中でゲーム・コントロールを失っていた。

ショパックがそもそもクリーブランドからタンパベイに来たのは、タンパベイの正捕手ナバーロの不振からだ。
たぶん今日のゲームだけしか見ないアホウには、ショパックがただの経験不足のキャッチャーにしか見えないだろうが、レギュラーシーズンのチーム打率が.247と、まったく打てないタンパベイがレギュラーシーズンを優勝で終わることができたのは、先発・ブルペンともに防御率が良かったからであって、その意味でレギュラーシーズンでのショパックの働きは十分なものがあった。
ただ、まぁ、ショパックはいかんせんクリーブランド時代はポストシーズンとはまるで縁がなかったキャッチャーだけに、テンションの高い大舞台での経験不足が露呈した形になった。今後のためにはいい経験になったことだろう。






damejima at 13:53

October 07, 2010

フィラデルフィアに移籍したロイ・ハラデイが104球でノーヒット・ノーラン達成なら、テキサスに移籍したクリフ・リーはまったく同じ104球で、タンパベイを10三振と翻弄し、幸先の良いポストシーズンのスタートを切った。
Texas Rangers at Tampa Bay Rays - October 6, 2010 | MLB.com Gameday

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月19日、CCサバシアには申し訳ないが、今シーズンのア・リーグのサイ・ヤング賞にふさわしいのは、さまざまなメジャー記録を更新しそうなクリフ・リーだと思う。


2人の名投手がまったく同じ104球でポストシーズン初日を終えたわけだが、ロイ・ハラデイが9回を完投したのに対し、クリフ・リーの投球回数が7回なのは、ハラデイとクリフ・リーのピッチングスタイルの違いだ。
ロイ・ハラデイは「驚異的に少ない投球数で打者を抑え、今の時代には珍しく、平気で8回9回と投げて完投してしまう」のに対して、クリフ・リーは、シアトル時代がそうだったように、「多少はシングルヒットを打たれランナーを出すが、四球は少なく、ランナーが出ても後続には絶対に打たせず、7回くらいのイニングをピシャリと締めるタイプ」だ。


だが、今日この2人に共通していたのは、ストライクの驚異的な高さ
ロイ・ハラデイが104球中79ストライクなら、クリフ・リーも、104球中76ストライク。2人のストライク率は73から75%、つまり、2人とも4球のうち3球をストライクを投げ込んでいる
これは驚異的なストライク率だ。

前にフェリックス・ヘルナンデスのストライク率とピッチングの安定感の関係を記事にしたことがあるが、もし、この70%を遥かに越える高いストライク率でフェリックス・ヘルナンデスが投げ込んだ場合、ここまでの安定感を発揮できるとは、ブログ主は思わない。
もちろんフェリックスもだいぶ進化しつつあるが、それは主に「それぞれの持ち球の、球のキレや安定感が上がったこと」を意味していており、無駄な四球などが無くなったわけでもない。ヘルナンデスのピッチングにおける投球術は、クリフ・リーや、ましてロイ・ハラデイには、まだまだ及ばない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月5日、ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を解き明かす。(ヘルナンデスの2009ストライク率グラフつき)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「バランスの鬼」ヘルナンデス、8回2/3を2失点に抑え4勝目。輝きを取り戻しはじめたヘルナンデスの個性を、クリフ・リーとの「ストライク率の違い」から考える。ロブ・ジョンソン3安打。(2010年ヘルナンデス ストライク率表つき)






damejima at 18:35

September 21, 2010

ルパン・上原のもみあげ「なんじゃ、このおかしなモミアゲ・・・・」と最初は思っていても、軽く打者をひねる名クローザーぶりを見続けているうちに、いつのまにか「もしかすると、これ・・カッコええんちゃうか・・・?」と思えてくる魔法のモミアゲ、"ルパン"上原(笑)
いま日本人で最もブサ・カッコいいメジャー・リーガーだ(笑)
ルパン三世


いまや、ア・リーグ東地区最強チームに化けてしまったボルチモアが、今日も松坂先発のア・リーグ3位ボストンを軽くひねりつぶした。ルパン・上原も、快調にセーブを稼いだ。
Baltimore Orioles at Boston Red Sox - September 20, 2010 | MLB.com Gameday


シアトル在籍時に、クリフ・リージェイソン・バルガスにアドバイスしたことのひとつは「テンポよく投げろ。打者に考える時間を与えるな」だった。
では、「テンポよく投げる」ためには、どうしたらいいか。その答えが今日のボルチモア戦の上原のピッチングにある。

コントロールの良さ」、である。(あとは少しばかりの度胸)


いま絶好調の上原は「テンポが速い」。
一方で、毎試合四球を連発し、チンタラチンタラ4失点以上を続ける松坂は「とてもメジャーの投手とは思えないほど、テンポが遅い」。
では、松坂に「テンポを上げなさい」と言葉で言って、テンポを速くできるか? できるわけがない。
それはそうだ。コントロールの悪い松坂がテンポよくボール球ばかり投げたのでは、あっという間に満塁になってしまう(笑)


「テンポよく投球して、打者がなぜ打ち取れるのか」といえば、「ストライクが入る」「球にキレがあって、打者がまともにハードヒットできない」「ピッチャーとキャッチャーの呼吸があっている」など、いろいろ前提が必要だが、最も大事なのは「投手のコントロールがいいこと」だということを、今日の上原は非常にわかりやすく教えてくれた。


クリフ・リーも、何度もこのブログに書いているように、「異常にストライク率の高いピッチャー」であり、もちろんコントロールがいい。だからこそ、彼はテンポのいいピッチングをできる。
ストレートがそれほど早いわけではないクリフ・リーのコントロールが松坂並みだったら、とてもサイ・ヤング賞投手にはなれなかった。(注:腰痛が治ってきた彼のストレートはかなりスピードアップしている)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月7日、クリフ・リー、シアトルが苦手とするアーリントンのテキサス戦で貫禄の107球無四球完投、4勝目。フィギンズの打順降格で、次に着手すべきなのは「監督ワカマツの解雇」

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。






damejima at 11:48

September 20, 2010

"It's the first time I've gotten to play against a team I've played for previously,'' Lee said.
Mariners Blog | Cliff Lee had "a little extra incentive" in facing former Mariners team | Seattle Times Newspaper

クリフ・リーが言うには、「前に所属してたチーム相手に投げるのは、これが初めてなんだ。」ということらしい。
と、いうことは、クリフ・リーから最初の打席でヒットを打ったイチローは「クリフ・リーが以前に所属していたチーム相手に投げるゲームで、一番最初にヒットを打ったバッター」ということになる。
Texas Rangers at Seattle Mariners - September 18, 2010 | MLB.com Gameday


クリフ・リーはイチローのバッティングについて、こんな風に言っている。
"Obviously, Ichiro is pretty unbelievable,'' Lee said. "He's got a knack for getting hits no matter what's going on. He got a few, huh? I don't know how many he got. Two or three at least, right? And that's his game. He knows how to do that. He's got unbelievable hand-eye coordination.


hand-eye coordinationという言葉(eye-hand coodinationとも書く)は、昔からイチローの賛辞に使われる言葉のひとつとして何度も聞いてきた単語だ。

野球でこの言葉が使われる場合、ほとんどの場合「バット・コントロール」と訳されてしまうが、どうも気にいらない。それだと、hand-eye coordinationという言葉のニュアンスの一番重要な部分がスポイルされているような気がする。

hand-eye coordinationという言葉は、場合によっては「反射神経」という意味に近いニュアンスで使われることがある。
クリフ・リーが「イチローは信じがたいhand-eye coordination能力をもっている」というとき、それが「あらゆる球種にうまくバットをあわせてくる。つまり、バットコントロールが上手い」と言っているのか、「投手が投げた瞬間に、球種やコースを見極めて対応してくる、という反射神経の速さ」を言っているのかは、本当は、クリフ・リー本人にもっと突っ込んた話を聞いてみないとわからない。
インタビュアーはどうしてそういう突っ込んだ「いい話」を聞いてこないのか、と、いつも思う。
Eye–hand coordination - Wikipedia, the free encyclopedia


hand-eye coordinationという言葉を「バットコントロール」と訳すだけで終わらせるのが気にいらない理由を説明するために、ちょっと例を挙げてみよう。


hand-eye coordinationという言葉がよく使われるのは主に、スポーツ、外科手術、コンピューター、音楽といったプロの分野だ。これらの世界には「道具を使って、微細でテクニカルな操作を行う」という共通点がある。

例えば、バイオリニストが楽譜をまったく見ないで非常に上手くボウ(バイオリンを演奏する弓)を操って演奏したとしたら、それ自体はたしかに「ボウ使い(野球でいうバット・コントロール)が上手い」とはいえる。
だが、それではhand-eye coordinationの能力が高いとはいえない。なぜなら、それは「手の動きが上手い」だけで、「視覚との連動性の問題」が含まれていないからだ。
それに対して、初見(しょけん)の楽譜(=はじめて見る曲の楽譜)を見ながら、いきなりスラスラとその曲を弾きこなした、という場合には、初めて楽譜を見て理解するという「視覚の問題」と、それを即座に弾きこなすという「手の運動性」が連動して関係してくる。

ただ「道具をうまく使う」という意味を言いたいだけなら、別にhand-eye coordinationという言葉を使って説明する必要はない。
hand-eye coordinationという言葉を使うのにふさわしいのは、「視覚と手の中間になんらかの道具(デバイス)の仲介があり、目で見えるモノと、手の連動性が、あらかじめズレてしまう問題があるケース」だという気がする。


他にも、例えば、モニターを見ながら内視鏡手術をする外科医、モニターを見ながらテレビゲームを超高速でプレイするゲーマー、モニターを見ながらピクセル単位で的確にカーソルを移動できるデザイナーなど、「目でモニターの動きを追いかけながら、手で道具を動かす仕事」にも、「視覚と手の動きの連動性の問題」が存在する。
これらの仕事には、「視覚と、道具を扱う手の運動との間に、あらかじめズレがあり、そのズレを的確に埋める能力の高さで、処理スピードや処理の的確さが決まってくる」という共通点がある。

例えば内視鏡手術では、患部は非常に拡大されてモニターに映し出される。だが、実際に手を動かす必要があるのは1ミリ以下の場合もあるほどの小さな動きであり、視覚の「大きさ」と、手の動きの「微細さ」の間に「大きなズレ」が存在する。
「視覚で得られた情報(例えば、外科手術の拡大されたモニター、テレビゲームの画面、パソコンの画面、初めて見る楽譜)」と、指の微細な動き(1ミリ以下の操作の必要な内視鏡手術、高速でのコントローラー操作、ピクセル単位のマウス操作、テクニカルな楽器演奏の指の動き)」には、もともと「ズレ」があるのである。
もっと細かく言えば、縮尺のズレ(視覚的なスケールと運動のスケールのズレ)、視覚と手で行う道具の操作の方向性のズレ、奥行きの無いモニターでの視覚と凹凸を感じる手の感覚的ズレ、上下左右という方向性をボタン操作やマウス操作に変換する際の意識のズレ、楽譜という記述体系を楽器演奏という運動に変換する際のズレ、などである。

この「ズレの克服」こそが問題だ。

「視覚と手の運動のズレ」の克服は、例えば練習の積み重ねで楽譜を見なくても演奏できるようになるように、「道具が上手くコントロールできるように練習すること」だけで達成できるとは、到底思えない。

むしろ初めて見る楽譜を見て即座に演奏するバイオリニストの能力や、触覚と著しくズレている映像を見ながら微細な手術をする外科医の能力のように、
「視覚情報に、瞬時に反応できるスピード」
「視覚情報を、運動性に変換するときの的確さ」
「ズレを変換する際に強いられる精神的緊張の克服」
「連続的にズレていく視覚情報に、
 手の運動が連続的に追従していける動的能力」
などが要求され、単に「練習によって肉体的に慣れる」とか、「慣れによって視覚と運動の連動性を高める」とか、そういう程度の鍛錬では追いつかないような気がする。

内視鏡手術をする外科医には、見た目では数センチに見えるモニターの動きに「惑わされずに」、視覚から得た情報を1ミリ以下の指の微細な動きに変換するための独特の手術テクニックがあり、また、その特殊技術習得のための訓練にも、独特のトレーニング・スキルがあるらしい。
ゲーマーやデザイナー、音楽家も、モニターや楽譜を見ながら道具を操作する技術を、練習で自分のカラダにたたきこんで「正確な」指の動きをマスターしなければ仕事にならないだろうが、ただただ練習を繰り返せば一流になれるかというと、単なる肉体的な練習や慣れだけでは限界があると思う。


「道具をどう肉体がコントロールするか」だけが問題なのではなく、どうも「脳内の変換能力の向上」とでもいうものが必要な気がするのである。


うまくいえないが、イチローのhand-eye coordination能力は、単に「アナログ的な道具扱いの上手さ」だけを意味するのではなくて、なにかもっと別の、ずっと現代的でデジタルで脳内的な問題を含んでいるように思えるのである。

最近のカメラは、デジタル化によって、ようやく人間の目がもつさまざまな能力に少しずつ追いつきつつあるわけだが、それでも人間が目から得ている視覚情報は本来膨大なものである。また、脳内での情報処理も非常に高度な処理が行われていて、例えば人の顔の判別だけとっても、機械にはなかなかできなかったわけだが、人間の脳内では「顔の情報」について非常に高度な情報処理が行われていて、「それが誰であるか、即座に総合的な判別ができる」ようになっている。
しかし、一方で、人間の筋肉や骨を動かす能力のほうは、視覚から入った大量の情報に高速かつ的確に追従できるほど、高度にできていない。

だからこそ、テレビゲームをやっていて、モニターで「あ、いまコマンドを入れないと、やられてしまう」と、いくら頭でわかっていても、指はまったく動かなかったりする。
もちろん、鍛錬によって肉体の反応力はある程度までは上がっていくが、「肉体的な練習による、単なる慣れ」だけでは、身体のコントロール能力は、速度、正確さに限界があると思う。
たとえでいうと、「バットを振りつづける」「ゲームをやり続ける」「外科手術をむやみとたくさんやる」「やたらと楽器を演奏しまくる」ことだけでは、そのプレーヤーが到達できる高さには限界があるのではないか、ということだ。

RICKSON GRACIE瞑想するヒクソン・グレーシー

アスリートが「その先」を目指すためには、本当は「脳を鍛える」ようなこともしなくてはいけないのかもしれないのではないか、と思う。ヒクソン・グレーシーはヨガの達人でもあると聞く。それは「肉体的練習がもともともっている到達限界を超えて肉体をコントロールするためにトレーニングしている」のだと思う。
なにも、筋トレして筋肉を増やすことだけがトレーニングなわけではない。


本来、運動能力の正確さは年齢とともに急速に衰えいく。だから、肉体を鍛えているだけでは、加齢とともに「できたはずのこと」が「できないこと」に急速に変わっていくだけになる。

だが、イチローの場合は「肉体的な衰え」が、
「ほかの何か」でカバーされている。

その何かとは、「脳の変換力の若さ、正確さ、スピード」であり、その「若さ」がhand-eye coordinationを支えているとしたら、イチローのhand-eye coordinationとは、非常にデジタルで現代的な能力だと思う。






damejima at 15:14

September 14, 2010

クリフ・リーの配球に「一定のクセ」があることを指摘するこのシリーズ(3)では、次のような話をした。
「クリフ・リーの持ち球は少数精鋭主義で、それぞれ非常に優れている。しかし、球種の少なさから、配球パターンのバリエーションには限度があり、それを打者に見抜かれる可能性も高い。
これまではカーブを決め球にして、球種の少なさを『緩急』で補うことで、打者をかわしてきたが、カットボール主体に切り替えたこと、さらに移籍によって気のあわないキャッチャーと組まされたことで、配球の効果が大きく損なわれ、打者に痛打される場面が数多く出てきた。
だからこそ彼にとっては『少ない球種でも打者を翻弄できる配球がわかる、頭のいい、自分と気のあうキャッチャー』が必要不可欠だ。」
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月12日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(3)典型的な「クリフ・リー パターン配球」で打ちこまれたミネソタ戦、「例外パターン」を数多く混ぜて抑えたヤンキース戦の比較と、クリフ・リーがキャッチャーにこだわる理由の考察

ちょっと他に、この記事を補強する良い例がひとつ見つかったので、挙げてみることにする。

キャッチャーの役割に関するシュローダー的意見
P (監督): チャーリー・ブラウン
C シュローダー
1B シャーミー
2B ライナス
3B ピッグ・ペン
SS スヌーピー
LF パティ
CF フリーダ
RF ルーシー

この野球チームはジョー・ディマジオが活躍した1950年代に生まれた。ショートストップのスヌーピーは守備の名手である(彼は1957年4月12日には外野をやったという記録もある)


え?なになに。
「それ、漫画でしょ?」って?

馬鹿なこと言ってもらっちゃ、困る。
かのMLBのデータサイトとして超・超有名なBaseball Referenceにも、ちゃんと、このチームと、そのロスターのプレーの特色について記述・解説した専用ページがある。馬鹿にしちゃ、いかん。キャッチャーのシュローダー君などは、ちゃんとマスクとプロテクターをつけたボブルヘッド人形だってあるくらいだ。
あなた自身がBaseball Referenceに掲載してもらえるほどの有名野球チームの一員になって、さらに、ボブルヘッド人形をつくってもらえるほどの選手になってから、そういう生意気なことを言ってもらいたい。
Peanuts - BR Bullpen


さて、このチームの中心プレーヤーチャーリー・ブラウンだが、彼はかつては外野とキャッチャーも経験しているが、50年代後半からはピッチャーと監督を兼任するプレイング・マネージャーである。
持ち球は、遅いストレートと、曲がらないストレートと、落ちないストレートと、コントロールの悪いストレート。
なかなか球種が多い。

主戦投手の持ち球にそういう「特殊事情」があるため、ピアニストでもあるキャッチャーのシュローダー君は、「チャーリー・ブラウンに出すサインに、あるちょっとした工夫」をしている。

それが上の画像だ。

シュローダー捕手
「いいかい、チャーリー。
 指1本は、速球だぜ?(速くないけど)
 指2本は、カーブだ。(曲がらないけど)
 で、指3本は、ドロップ(落ちないけど)
 4本がピッチアウトだ。
 わかったかい?」

チャーリー・ブラウン投手
「もしサインを忘れちゃったら、どうしたらいい?}

シュローダー捕手
「心配いらない(キッパリ)。
 サイン出すのはね、チャーリー。
 敵に、キミがストレート以外に、
 なにか別の球種を投げられるんじゃ?
 と思い込ませる
ために出すだけなんだから、さ。」

チャーリー・ブラウン投手
「キミ、んっとに頭いいね!」


どうだろう。
球種の少ない投手にサインを出さなければならないキャッチャーが、どのくらいのクレバーさをもっていなければならないか、これで、よーくわかったことだろう。

キャッチャーとして苦労の絶えないシュローダー捕手は、ベートーベンを贔屓にするピアニストでもあるが、彼の気をひこうとするライトのルーシー選手に2度ばかり大事なピアノを壊されたことがある。
そのたび彼は新しいピアノを注文したのだが、新しいピアノが届くときに、どういう理由からか、セントルイス・カージナルスのJoe Garagiola選手のサイン入りブロマイドを手に入れている。

Joe Garagiolaは、1926年にセントルイスで生まれて、1946年に地元のカージナルスに入団した(実在の)プレーヤー。1951年にナ・リーグの守備率1位に輝いたが、パスボールも多かった。通算CERAは4.91、平均失点数5.62。通算打率.257。1954年引退。
Joe Garagiola Statistics and History - Baseball-Reference.com
シュローダー捕手が、いったいどういうわけでこの大スターとも思えないキャッチャーのサインをもらう気になったかはわからないが、少なくとも、キャッチャーというポジションが気に入っている、ということだけは確かなようだ。


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と、まぁ。
つまらないギャグにつきあってもらったのにも、理由がある。

チャールズ・M・シュルツさん原作の漫画「ピーナッツ」が日本で日本語吹き替え版アニメとして初めて放映されたのは1972年だが、初代チャーリー・ブラウン役の声優が、つい先日亡くなられた谷啓さん、その人なのである。


歴史を調べてみると、この作品は間違いなく、日本における地上波テレビ黎明期の傑作といえるテレビ番組のひとつであり、また、アメリカ文化を日本に紹介したコンテンツという意味でも、バットマンやサンダーバードに並ぶ歴史的作品だから、谷啓さんの死を追悼する意味で「ピーナッツ」を再放送すればいいのにと思うのだが、どうもそういう声が聞こえてこない。
それどころか、テレビの歴史を作った谷啓さんが亡くなったというのに、彼の業績の全体像がきちんとメディアで紹介されているとは、とてもとても思えない。日本のメディアって、本当に馬鹿だと思う。


谷啓さんの多大な業績をひとことで言うのは難しい。それでもあえて言わせてもらうなら「日本人(特に東京人)の流儀による、外来のアメリカ文化のエッセンスの紹介と、その日本流リメイク」だと思う。

そもそも谷啓さんの芸名そのものが、アメリカの有名コメディアン/俳優/シンガーのダニー・ケイ、Danny Kayeの名前をもじったものであり、また髪型や芸風は1940年代の大人気2人組コメディ・コンビ「アボット&コステロ」のルー・コステロに似せているのだから、念が入っている。

アボット&コステロアボット&コステロの
野球ギャグ

谷啓さんが所属していたクレイジーキャッツは、コミックバンドだと思っている人が多い。谷啓さん以外のメンバーは「ミュージシャン志望」であって、ひとり谷啓さんだけが「コメディアン志望」だったという。
この「コメディアン志望」というのは、なにも、いまのような「有名お笑い芸人になりたい。金持ちになりたい」という単純な意味では、たぶん、ない。
谷啓さんの「コメディアン志望」はおそらく「日本に入ってきたばかりのアメリカ文化と一体化したい願望」とでもいうか、「『異文化への憧れ』的な意味」であり、それをわからないとたぶんまったく理解できないと思う。
ちなみに、谷啓さんが「アメリカ流のコメディアン志望」だったから音楽テクニックがなかったかというと、それは逆で、ジャズ評論誌「スイングジャーナル」で彼のトロンボーンが高く評価されていたように、ミュージシャンとしてのテクニックも、クレイジーキャッツの中では谷啓さんが一歩ぬきんでていた。


アメリカのコメディの独特のセンスやリズム感。アメリカのオリジナルな音楽であるジャズ。アメリカのアニメ「ピーナッツ」。谷啓さんの周囲にあったのは、40年代から50年代にかけてのアメリカ文化そのものである。

クレイジー・キャッツがかつてレギュラー出演していた番組に「シャボン玉ホリデー」という当時の超有名番組があるが、そのレギュラーのひとりが「ザ・ピーナッツ」という60年代にスターだった2人組の女性ボーカルグループだった。

セブンス・イニング・ストレッチに歌われる "Take Me Out to the Ball Game"(わたしを野球に連れてって)でも、
Buy me some peanuts and Cracker Jack,
と歌われているように、ピーナッツとアメリカ野球は縁が深い。ピーナッツはMLBのスタジアムでもよく売られているし、シュルツさんの漫画「ピーナッツ」でも、野球が最も重要なスポーツシークエンスとして扱われている。
フリトレー社のピーナッツ
フリトレー社のピーナッツ

フリトレー社は、"Take Me Out to the Ball Game"でも歌われている「クラッカージャック」という糖蜜がけポップコーンの登録商標を現在保有しているアメリカの会社。

なにかにつけて、谷啓さんは「アメリカ」と「ピーナッツ」に縁のある人だった。

ピーナッツ(=アメリカ文化)と谷啓さんの深いかかわり。
これがこの記事のオチだ。

アメリカ野球も含め、谷啓さん世代が紹介してくれたアメリカ文化に、僕らは浸りきって毎日をおくっている。異文化をうまい具合に日本風にアレンジして世間に広めてくれた谷啓さんの業績は、けして小さくなんかない。

ご冥福をお祈り申し上げます。合掌。


谷啓版チャーリー・ブラウン



オリジナル版

Peanutsは単なるアニメではなく、たくさんの音楽が使われたアニメ・ミュージカルでもある。BGMに使われている数多くの素晴らしいナンバーを聴くのも、ひとつのPeanutsの楽しみ。これは"You're a Good Man, Charlie Brown!"から、"T-E-A-M"。ミュージカル仕立てのナンバー。


"Take Me Out to the Ball Game"


damejima at 11:39

September 13, 2010

テキサスに移籍してからのクリフ・リーがなぜ打たれまくったのか。それを考えるにあたって、記事を既に2つ書いた。それぞれの主旨は、以下の通りだ。


1)クリフ・リーの最近の配球パターンが変わった。
2008年までの「ストレートとカーブの緩急で打者を仕留めるパターン」から、2010年は「ストレートとのスピード差の少ないカットボールを多用するパターン」に変化した。そして、カットボールを多用した配球に慣れているア・リーグ東地区のチームを中心に打ち崩されるようになった。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月29日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(1)2010年の「ア・リーグ東地区風カットボール多用配球スタイル」が東地区チームとの対戦に災いしているのか?

2)クリフ・リーの配球には、そもそも「特定カウントで投げる球種が決まっているという、配球のクセ」がハッキリとあり、打者からみてカウントで投げる球種がある程度読めてしまう部分があった。
具体的には、初球はストレートで入り、その後、打者を追い込むことができた場合はカットボールで決める。そうでなく、ボールが先行すればストレートでカウントを改善する。ストレートとカットボールのスピード差は、あまり無い。チェンジアップは2つ目のストライクをとって打者を追い込むための球で、決め球ではない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年9月5日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(2)クリフ・リーには「カウントによって、投げる球種に特定パターン」がある


実際のゲームではどうなのだろう。
ちょうど今日2010年9月12日のヤンキース戦に先発してひさびさに快勝し、11勝目を挙げたところだから、短期のレンジで、テキサスに移籍後に打たれた試合と抑えた試合とを比較できる。
まずは打たれた2010年8月26日ミネソタ戦をみてみる。(たいへん読むのに骨が折れると思うが、我慢して読み込んでもらえるとありがたい。別窓にGamedayを開いてイニングごとに追いかけるとわかりやすくなると思う。)


打たれたゲーム
2010年8月26日 ミネソタ戦 5回5失点
Minnesota Twins at Texas Rangers - August 26, 2010 | MLB.com Gameday

1回表
三者凡退。3人とも「初球ストレート」。まさに「クリフ・リー パターン」そのもの。

2回表
打者7人、3失点。7人全員に「初球ストレート」を投げた。典型的な「クリフ・リー パターン」
ヒットされたのは、1人目、2人目、4人目。3人とも、「クリフ・リー パターン」である。
1人目のジョナサン・クベルには、フルカウントから「決めにいったカットボール」を打たれ、2人目のマイケル・カダイアーには、「初球ストレート」をヒットされた。
3失点は、4人目のデルモン・ヤングの3ランで、初球ストレートでストライクをとり、チェンジアップで打者を追い込みにかかったところで、ボールが高めに浮いてホームランを浴びた。

3回表
打者6人で2失点。6人中、4人はパターンどおりの「初球ストレート」、残り2人は初球カットボール。決め球は「追い込んでからカットボール」という「クリフ・リー パターン」を使った。
決定的な2失点は、5人目カダイアーに「初球ストレート」を投げてから、2球目にインコースへのカットボールを投げて追い込みにかかったところを狙い打ちされたもの。

4回表
三者凡退。このイニングだけは、初球にチェンジアップ、決め球にカーブという例外パターンを多く使い、あっさりミネソタ打線を抑えた。

5回表
打者4人、無失点。全員が「初球ストレート」で、「決め球はカットボールか、ストレート」という基本パターン。前の回にパターンを変えて本来の調子をとり戻したように見えたにもかかわらず、またもや「クリフ・リー パターン 一辺倒」に戻ってしまった。この回で降板。



抑えたゲーム
2010年9月12日 ヤンキース戦 8回1失点
New York Yankees at Texas Rangers - September 12, 2010 | MLB.com Gameday

1回表
三者凡退。3人への初球はそれぞれ、ストレート、カットボール、ストレート。珍しくスライダーも使った。

2回表
三者凡退。3人への初球はそれぞれ、カットボール、ストレート、カットボール。ちょうど1回と真逆のパターンになる。打者は早いカウントから打ちにきて凡退。(カウントによって投げる球種が決まる配球癖のあるクリフ・リー攻略は、狙い球を決めて、早いカウントから打ちにいくのが正解なわけだが、この日のクリフ・リーは打者の狙いをかわしにかかって、それが成功した)

3回表
三者凡退。3人への初球はそれぞれ、カットボール、ストレート、ストレート。1回とも2回ともまた違うパターン。ストレート、カーブ、カットボールを様々なバリエーションで投げて打者を攻略した。

4回表
三者凡退。3人への初球はそれぞれ、ストレート、カットボール、ストレート。

5回表
三者凡退。3人への初球はそれぞれ、カットボール、ストレート、ストレート。決め球は主にストレート。

6回表
打者6人1失点。先頭打者に「初球ストレート、2球目ストレート、3球目カットボール」の典型的な「クリフ・リー パターン」。2人目、「初球ストレート」から入って、5球目をヒットされる。3人目「ストレート、チェンジアップ、カットボール」の、これも典型的な「クリフ・リー パターン」。4人目、デレク・ジーターに「初球ストレート」の典型的な「クリフ・リー パターン」を二塁打され、失点。5人目、6人目も「初球ストレート」だが、なんとか1失点に抑える。

7回表
三者凡退。3人への初球はそれぞれ、ストレート、カットボール、ストレート。初球の球種を1人ずつ変えて、打者の狙いをはずした。

8回表
三者凡退。
1人目をストレート連投で0-2と追い込んだ。基本パターンどおりなら、3球目は「カットボール」または「カーブ」だが、ここでは「パターンにないストレート3連投」で三球三振
2人目、先頭打者と同じようにストレートを2球続けたが、こんどの3球目は1人目のような3球連続ストレート勝負ではなく、「「クリフ・リー パターン」どおりのカットボール」を投げて、セカンドゴロに抑えた。例外(1人目)と、典型的パターン(2人目)をうまく使い分けた。
3人目は「初球ストレート」を狙い打たれたが、たまたまセカンドポップフライで、お役御免。



別に、このブログの判断に従う必要はない。
打たれた2010年8月26日ミネソタ戦、抑えた2010年9月12日のヤンキース戦を、自分なりの価値観で比較してみるといいと思う。たぶん、両方のゲームでのクリフ・リーが、かなり違った組み立てをしていることに気づくとは思う。ミネソタ戦のクリフ・リーは非常に単調なのだ。

2つのゲームの違いと共通点
1)ミネソタ戦はいわゆる「クリフ・リー パターン」どおり
2)ヤンキース戦では、かなりの数の打者に対して「初球にカットボールを投げた。場合によっては、「初球と2球目、続けてカットボール」と、クリフ・リーにしては珍しい組み立ても見せつつ、その一方では、いわゆる「典型的なクリフ・リー パターン」も混ぜて、打者に的を絞られない工夫をした。
3)それでも、両方のゲームでの失点パターンは共通している。打たれたのは「初球ストレート」、または、「初球にストレートでストライクをとっておいて、2球目に打者を追い込みにかかったチェンジアップなどの変化球」を打たれて失点につながっている。これは、まさに「典型的なクリフ・リー パターン」だ。
4)ミネソタ戦と、ヤンキース戦は、キャッチャーが違う。ミネソタ戦はベンジー・モリーナ。ヤンキース戦は、マット・トレナー
ちょっと直感的な話なのだが、クリフ・リーとベンジー・モリーナはまったく噛み合ってないと、ブログ主は思っている。


クリフ・リーに必要なタイプのキャッチャーとは
クリフ・リーの持ち球は、もともと種類は少ない。
だが、(体調が万全で、十分なコントロール、球のキレがあるときなら)その持ち球は、どれもこれもストライクをとれて、三振もとれる球ばかりだ。ストレートでもストライクも三振もとれるし、カットボールでも、カーブでも同じだ。

だが、それにしたって、以前も言ったことだが、クリフ・リーのピッチングはよく言えばシンプルで、悪く言えばワン・パターンだ。持ち球の種類は限られているし、ストレートの速さもない。下手をすれば「球種パターンを打者に読まれることで、滅多打ちを食らう可能性」が、もともとあった、と考えられる。
まして、昔のようなストレートとカーブの緩急をつけるのではなく、「ストレートとカットボールという、わざとスピードに差をつけない配球パターン」に移行するとなると、緩急がない分、球種の少ないクリフ・リーは、よけい打者に読まれやすくなる可能性はあった。(たとえば、バカスカ打たれまくるときのアトランタの川上投手のように)


そういうリスクを避ける意味で、クリフ・リーという「シンプルさが生命線」の投手にとっては、彼の限られた配球パターンに迷彩をほどこす、というか、バリエーションをつけ続ける作業のできる「引き出しの多いキャッチャー」が必要不可欠だ、と思うのである。
(だからといって、自分の基本スタイルが確立しているピッチャーだからこそ、キャッチャーからクリフ・リーのポリシーに反する提案や、彼が必要としている以上の提案をしたとしても、「投げるのはオレだ。余計なことをして、オレの邪魔をするな」という話になるのではないか、とも思う。そこがなかなか難しい。)

そういう意味で、彼のような投手にはゲーム前に対戦相手の打者を全て調べあげてくる律儀さがあるが、投手との間での余計な対立は絶対に避けるロブ・ジョンソンのような「データ上の根拠がある提案は積極的にするが、投手に押し付けたりしない控え目さももっているキャッチャー」が必要不可欠(または合っている捕手のタイプのひとつ)なんだろうと考える。
これはあくまで憶測だが、もしベンジー・モリーナが「相手チームのスカウンティングデータは適当にナナメ読みするだけで、むしろ、相手チームがどこであろうと、結局は自分の長年の経験だけに頼ってサインを出して、それを投手に押し付けようとするマンネリなベテラン・キャッチャー」だとしたら、キャッチャーの仕事に対する強いこだわりのあるクリフ・リーのような投手のパートナーには絶対になれないと思う。そういうマンネリタイプの捕手を、クリフ・リーは必要としていない
(エンゼルス戦のランナーズ・オンのシチュエーションで、打者を打ち取れると思って、かえって松井の好きなインコースにストライクを置きにいくサインを出してしまうジョシュ・バードなども同じ)

もちろん、ダメ捕手城島がどちらのタイプだったかは、言うまでもない。






damejima at 20:56

September 06, 2010

前の記事ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月29日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(1)2010年の「ア・リーグ東地区風カットボール多用配球スタイル」が東地区チームとの対戦に災いしているのか?

前回は、今年あたりから急速にカットボールを多用した組み立てで投げるようになったクリフ・リーが、シアトル時代には好投できたのに、テキサス移籍後に、なぜかア・リーグ東地区のチームを中心に打者につかまるようになった、という話をした。
今回は、クリフ・リーの使う球種には「カウントによって特定パターンがある」ことを示してみようと思う。

だが、「クリフ・リー・パターン」を見る前に、単純な誤解を避ける意味で、彼のピッチングの前提になっている「メジャー流の配球の基本の形」を確認しておく必要があると思う。


まず、大づかみに彼の特徴をみてみる。
データを見れば誰でもわかるように、クリフ・リーの投げる球種には次のような「カウント別の大きな流れ、大きな原則」がある。これはメジャーの投手に共通
原則1)打者を追い込むと「決め球の変化球」を投げる(=変化球の割合が急に高くなる。ストレートがゼロになるわけではない)
原則2)カウントが悪くなると「ストレート」を投げる
2010年のカウント別球種
Cliff Lee » Splits » 2010 » Pitching | FanGraphs Baseball (Pitch Typesという項目参照)
2008年のカウント別球種
Cliff Lee » Splits » 2008 » Pitching | FanGraphs Baseball

勘違いしてもらっても困るのだが、これはあくまで「メジャーの投手によくあるパターン」だ。だから、この特徴だけをとって「クリフ・リーはカウントによって使う球種があまりにもワンパターンだ。だから打たれるのだ」と早合点するのは、完全に間違っている。
元メジャーリーガーの阪神ブラゼルが「来日したばかりの頃、日米の配球の違いに驚いた。日本では3-0からでも変化球を投げる。慣れるのに時間がかかった」とコメントした話をかつて紹介したが、「メジャーの投手が3-0、2-0という投手不利カウントになったらストレートを投げるのは、お約束」であり、また、例えば「ホームベースの真ん中あたりでストライクゾーンからボールに落ちていく変化球」に代表されるように、「決め球は基本的には変化球である」のも、よくある話だ。(と、いうことは何度もこのブログで書いてきた。つうか、もういい加減、書くのも飽きてきた)

ストレートのスピードがそれほどでもないクリフ・リーだが、カウントが悪くなれば、(「メジャーの他の投手たちと同じように」という意味で)ストレートでストライクをとりにいくし、打者を追い込んだ場合に投げる決め球は変化球で、他の投手たちとなにも変わらない。
2008年までなら決め球は「カーブ」、今年などは「カットボール」だ。もちろん追い込んでからストレートを投げる割合がゼロになるわけではない。変化球を投げる割合がかなり増える、という意味だ。

普段、打者を見下ろしている間はストレートばかり投げこんでくるボストンのクローザー、パペルボンも、自慢のストレートが狙われてランナーを貯めて焦ったら「スプリット」を投げるし、あれほどストレートばかり投げたがるアーズマだって、ストレートを痛打されると、ようやくキャッチャーの変化球のサインに同意して変化球を投げて、なんとかピンチをかわそうとする。
ストレートの速度だけで打者をかわせるほどメジャーは甘くないことは、ストレート自慢のピッチャーたちだって誰だって、何度も痛い目を見てわかっている。


既に何度も書いたように、この「カウントによって使う球種が、日米で非常に大きく違うこと」は、日米の野球文化の根本的な差異の非常に大きな項目のひとつであって、「城島問題」の本質のひとつでもある。
配球教科書的にいうと、、ダメ捕手城島のように「シルバのようなシンカー系の投手(ただ、彼は実際にはもっと色々な球種を投げられる)であれ、アーズマのような高目のリスクの高いストレートしか投げられないがそれを決め球にしたい投手であれ、また、バルガスのようなチェンジアップによる緩急が持ち味の投手、ベダードウオッシュバーンのようなカーブを決め球にもつ投手、ロウモローのようなストレートはバカ早いがそれだけでは勝負にならず変化球の目くらましを必要とする若手投手であれ、あらゆるタイプの投手に、決め球として、アウトコースの低めいっぱいにピンポイントで決まるストレート(あるいはスライダー)を要求するような馬鹿リード」が、投手の被ホームランを増やし、与四球を増やし、防御率をはじめ、あらゆる投手成績を低下させて、最後は投手陣全員に嫌われるのは当たり前。
組み立ては投手の持ち球やタイプによって変わるのが自然であって、キャッチャーが画一的に決められるものではないのに、それを無理にキャッチャーが決めてしまうような無意味なことをすれば、シアトルのどの投手がマウンドに上がろうが、相手チームは「城島の配球パターンは、他のどのキャッチャーよりワンパターンで、スカウンティングしやすいわけだが、そのワンパターン・リードさえ解析できてしてしまえば、シアトルの投手全員を打ちまくることができる」、そういう特殊な事態が起こる。(というか、実際にそういう状態が何年か続いた)
メジャーに来て、日本とはまるで違うメジャーの野球の「を学びもしないで自分流を投手全員に押し付けようとして大失敗し、チームに大打撃を与えたクセに大金せしめて日本に逃げ帰ったのが、「城島」というダメ捕手である。投手全員が一斉に崩れる現象は、投手のコントロールが悪いせいではなく、投手の個性を無視した画一的なリードが悪いのである。
関連記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(3)「低め」とかいう迷信 あるいは 決め球にまつわる文化的差異


こんどはクリフ・リーの球種ごとの特徴をみてみる。

特徴1)ストレートは速くない
90マイル程度のスピードしか出ていない日もある。だから、もともとストレートにはスピードはあまりないクリフ・リーの場合、ストレートとカットボールにほとんどスピード差が少ない。そのため、カットボールを多投する組み立てをするには、もともとピッチングの緩急に不安があることに注意すべきだろう。
クリフ・リーのストレートが遅いことはシアトルファンは誰でも知っていることで、ゲームを毎日見ていればわかることだが、まぁ、一応データも挙げておく。
資料:Cliff Lee ≫ PitchFx ≫ Velocity Graphs ≫ FA | FanGraphs Baseball
だが、ここでも勘違いしてはいけないのは、92マイルの速度のショーン・ホワイトのシンカーのほうが、クリフ・リーのストレートより多少早いからといって、「投手としてショーン・ホワイトのほうがクリフ・リーより優れている」とは言えない、ということだ。
投手の能力はストレートの速さだけで決まったりはしない。

特徴2)持ち球の種類は限られている
クリフ・リーは基本的な球種のみしか使わない。基本的にストレート多めの投手。決め球に使うのは、ほぼカットボール、第二の選択肢としてはカーブだ。チェンジアップもあるが、これは組み立てに使う程度。
資料:Cliff Lee ≫ Statistics ≫ Pitching | FanGraphs Baseball

特徴3)決め球はカーブからカットボールに
サイ・ヤング賞投手になった2008年頃、決め球は「カーブ」だった。これは「2008年当時は、緩急を使いながら抑える投手だった」ことを意味する。だが、最近になって、理由はわからないが「カットボール」を多用するピッチングに変わってきた。
関連記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。


以上の2つの原則と3つの特徴から、クリフ・リーの打者への配球には、ひとつの典型的な「クリフ・リー・パターン」が「できてしまう」ことは、たぶん説明しなくても誰でもわかると思う。
試しに作ってみると、こんな風になる。メジャーのスターターらしいパターンで、よく言えばシンプルだし、悪く言えばバリエーションがない。


配球パターンの原則1)
「初球は90マイルちょっとのストレートから入る」
「3球目(または4球目)87マイルくらいのカットボール(または78マイルくらいのカーブ)で決める」


もちろん、逆パターンもある。初球にストレートではなく、チェンジアップやカットボールといった変化球を使い、最後をストレートで決めにくるのが逆パターンだ。
この逆パターンは、だいたいの場合、相手打者が1巡か2巡してから使うバリエーションであって、2打席目、3打席目に打者がクリフ・リーの初球ストレートを狙ってくるのをかわすために使われるだけの話。メインの投球パターンではない。
基本的に「クリフ・リーの初球はストレート」だと思う。打者が慣れていない試合序盤ではなおさら、初球にストレートを投げる確率はかなり高いと思っていい。
ここで覚えておかなくてはいけないのは、ストレートの遅いクリフ・リーの場合、2008年のように決め球にカーブを使うならストレートがいくら遅くても緩急がつけられるが、最近のように「カットボールを決め球にすると、ストレートとの緩急がつけられない」ことだ。

配球パターンの原則2)
カウント次第で3球目(または4球目)に投げる球種が決まる

打者を追い込んだ場合(カウント0-2、1-2)
カットボール(またはカーブ)で決めに行く
カウントを悪くした場合(カウント2-0、3-0)
ストレートでストライクをとりにいく
ストレートそのものにパーフェクトな威力があるわけではないクリフ・リーの場合、カウントを悪くしてからカウントをとりにいった甘いストレートを痛打される事態はできるだけ避けたいだろう。
となると、最初の2球で、できれば打者を追い込んでしまいたい。だから初球、2球目にボール球を投げて打者に余裕を与えるわけにはいかない。ストライクをどんどん取りに行くのである。これも覚えておく必要があるだろう。


さて、ここまで勝手に決め付けてきたが、実際にこんな風に投げているのか?
気になるだろうから、典型的な「クリフ・リー・パターン」の例を挙げてみようと思う。

これは打者をキレイにうちとったほうの例。
2010年6月7日シアトル在籍時代の、テキサスとのゲーム、初球と2球目ストレートで打者を追い込んだら、そこで間髪を入れずに決め球のカーブを投げて、三球三振させている。
この「ストレート、ストレート、カーブ」、これこそが、まさに「クリフ・リー・パターン」だし、本来の彼のピッチング、彼の真骨頂だと、ブログ主は思っている。
決め球に「カットボール」でなく、「カーブ」を使っている
ところが、2008年サイ・ヤング賞当時の配球であり、また、2010年シアトル在籍時の基本パターンのひとつというイメージがある。もしテキサス移籍以降なら、カーブではなく、カットボールを使っている場面だろう。
2010年6月7日テキサス戦7回表 クリフ・リーの配球2010年6月7日
テキサス戦7回表

初球  ストレート
2球目 ストレート
3球目 カーブ(三振)
初球のストレートでストライクがとれていれば、3球目か4球目にカーブでうちとるのをあらかじめイメージしつつ、2球目も、もちろんストライクをとりにいくわけだが、もし「初球がボール」だったら話は結構変わってくる。カウントを悪くしたときに限って、ストレート4連投、なんていう単調な攻めになることがある。なぜなら、カウントをとりにいくのもストレートなら、悪いカウントになって投げるのもストレートだから、ストレートの連投になってしまうのだ。
だからこそクリフ・リーは「初球のストライク」を大事にする。初球がストライクのストレートだからこそ、決め球の変化球が生きてくるからだ。


次に、テキサス移籍後の打たれた例もみてみよう。
2010年8月26日、5回を投げて5失点したミネソタ戦だ。
Minnesota Twins at Texas Rangers - August 26, 2010 | MLB.com Gameday

この打たれるパターンがどうなのか問題なのだが、長くなるので、次回。






damejima at 03:28

August 30, 2010

8月26日のミネソタ戦に先発したクリフ・リーは5回5失点、目をこすって「これがあのクリフ・リー?」と見直したくなるような、ちょっと信じられないテンポの悪さにびっくりした。相手先発が今シーズン絶好調のリリアーノだっただけに、このゲーム、およそテキサスらしくない弱々しいゲームになってしまった。
Minnesota Twins at Texas Rangers - August 26, 2010 | MLB.com Wrap

何が「よくない」と感じたかというと、2つある。

1)1回から3回までの配球の単調さ
2)投球テンポの遅さ

1)だが、3回までの投球はほとんどが「ストレート」と「カットボール」のみ。これではさすがにあまりに単調すぎる。どういうわけか、彼の勝負球のひとつで、これまでも肝心なときには頼れる球種だったはずの「カーブ」がまったく使われていなかった。シアトル時代も「変化球はカットボールが中心」にはなっていたが、これほどまでにカーブを投げないクリフ・リーではなかった。
4回以降になってようやくカーブを使いだしたのだが、そのときには既にゲームの流れをミネソタに完全に奪われていて、もうどうしようもなかった。
加えて、シアトル在籍時に、アドバイスを求めたバルガスに「投球テンポを早くしろ。打者に考える時間を与えるな。」とアドバイスしたはずのクリフ・リーの投球テンポが、まるでもう、別人のように遅い。これには本当に驚いた。

短くまとめれば「テキサスでのクリフ・リーは、まったく自分のスタイルで投げられていない」。

なぜ、こんなことになったのだろう?



この8月、テキサスは特にア・リーグ東地区のチームとの対戦が続いているが、この間ずっとクリフ・リーにいいところがなく、彼の8月の月間防御率はなんと6.20、テキサス移籍後の防御率も4.50になってしまっている。
移籍前と後のスタッツの比較
Cliff Lee Split Statistics | texasrangers.com: Stats

今シーズンここまで23ゲームに先発しているクリフ・リーだが、4点以上の自責点のゲームは(シアトル在籍時も含めて)以下の7ゲーム。対戦相手にちょっとした共通点があることに注目してもらいたい。

5月5日 タンパベイ(8回 4失点)
5月21日 サンディエゴ(6回1/3 7失点)
7月10日 ボルチモア(9回 6失点)
8月1日 アナハイム(8回 4失点)
8月11日 ヤンキース(6回1/3 4失点)
8月16日 タンパベイ(7回2/3 6失点)
8月21日 ボルチモア(5回2/3 8失点)
8月26日 ミネソタ(5回 5失点)
Cliff Lee Game Log | texasrangers.com: Stats

タンパベイに2度、ヤンキースに1度、ボルチモアに2度、やられている。そう。つまり、ア・リーグ東地区のチームに特に集中的に打たれているわけである。
いちおう、ア・リーグ東地区のチームと対戦して「3失点以下だったゲーム」も挙げておく。2ゲームだけある。無失点で終われたゲームはない。
6月29日 ヤンキース(9回 3失点)
7月17日 ボストン(9回 2失点)


今年6月の2つの記事で、ア・リーグ東地区の投手たちのピッチングスタイルについて、「カットボール多用」の傾向がある、と書いた。
そして、クリフ・リーの2010年におけるピッチング・スタイルが、2008年までの「打者を追い込んだ後の勝負どころでカーブを多用する緩急のスタイル」ではなくなって、「カットボールを多用する、これまでにないスタイル」に変貌していることを書いた。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。


こうしたことから、
2010年にピッチングスタイルを変え、カットボールを多用する配球になったクリフ・リーが、カットボールを多用してくる投手との対戦に慣れているア・リーグ東地区の打者に、かえって打たれやすくなった
という仮説がいえるかどうか、考えてみることにした。


だが、問題なのはそう単純ではなくて、ちょっと長々と書きたい「わかりやすいクリフ・リーの配球のクセ」の問題があって、ちょっとややこしい。

次回の記事で、クリフ・リーの配球がどういうクセがあるか、具体的な話と、そして、それをメリットに変えて快投に導くキャッチャーとの相性などについて書いてみたい。
そのへんを書くと、今までなぜクリフ・リーがクリーブランドにいる頃からキャッチャーとのコンビネーションに神経を使い、クリーブランド時代にはビクター・マルチネスを拒否してまでショパックを選び、またシアトルではロブ・ジョンソンを専属キャッチャーに選んだりしていたのか、考える道筋がつく、と思う。






damejima at 21:33

August 20, 2010

今現在16勝を挙げてハーラートップを走っているのはNYYのCCサバシアだが、今年のサイ・ヤング賞に彼がふさわしいかどうか、という点になると、ちょっとどうだろうと思う。
彼はたしかに丈夫で頼りになる投手で、イニング数、ゲーム数を投げてくれる投手だが、打たれたヒット数、四球数がちょっと多すぎるし、彼にサイ・ヤング賞を与えるくらいなら、まだボストンのバックホルツにでもくれてやったほうがマシだと思うが、もっとふさわしい投手がいる。

それはクリフ・リー

彼の今シーズンの公式スタッツのうち、打ちたてつつある数々の歴史的な記録と、さまざまなスタッツで彼がどれだけ上位にいるかを見てもらいたい。
去年も勝ち数の多いヘルナンデスではなくて、防御率と内容で上回ったカンザスシティのグレインキーがサイ・ヤング賞投手になったが、今年のサイ・ヤング賞も、昨年のヘルナンデス同様に、勝ち数の多いサバシアより、(もう少し勝ち数を増やすという条件つきで)内容のあるクリフ・リーがふさわしいと思う。
2010 American League Pitching Leaders - Baseball-Reference.com

特に、ちょっと今シーズンのクリフ・リーの四球の異常な少なさは、ちょっと尋常でない。

SO/BB(Strikeouts / Base On Balls、三振数÷四球数)
SO/BBは、サイ・ヤング賞の名前の元になった約100年前の名投手サイ・ヤングが、1893年から1906年までの14シーズンで11回もメジャー最高を記録している記録で、サイ・ヤングの名投手ぶりを示す数値のひとつだ。
これまでの歴史的なシングル・シーズン記録は、1980年代に2度のサイ・ヤング賞に輝き、カンザスシティ・ロイヤルズをワールドチャンピオンに導いた名投手ブレット・セイバーヘイゲンが16年前、1994年に110年ぶりだかに打ち立てた11.0000だが、今年のクリフ・リーは、なんと14.7000
記録を破るにしても、その記録更新の幅がハンパなく大きすぎる。なんというか、ケタが違う。
セイバーヘイゲンの前の記録は、1884年にJim Whitneyが打ち立てた10.0000で、これは、イチローが84年ぶりに更新したジョージ・シスラーのシーズン最多安打記録と同じように、その後100年以上も誰も破れなかった歴史的大記録なのだが、ブレット・セイバーヘイゲンの11.0000は、その記録を110年ぶりにうち破った。
そのセイバーヘイゲンの快挙を、クリフ・リーはさらに誰も想像すらできないとんでもない数値14.7000で抜き去ろうとしている。
Progressive Leaders & Records for Strikeouts / Base On Balls - Baseball-Reference.com


BB/9(9イニングあたりの四球数)
メジャーの長い記録の中でも、単年でBB/9が1.0000を切ることができた投手は(今年のクリフ・リーを除いて)わずか114人しかいない。
そしてのその大半は1880年代から1900年代初頭にかけての古い記録であって、20世紀半ばから現在にかけてだけをみると、達成できたのは(2010年クリフ・リーを除いて)以下のわずかのべ9人しかいない。しかも、複数回達成した投手が大投手グレッグ・マダックスなど3人いることから、達成者の実数はたった6人しかいない。

カルロス・シルバ (26)  0.4301 2005
クリフ・リー (31)   0.5325 2010 左投手
Bob Tewksbury (31) 0.7725 1992
Greg Maddux (31)  0.7736 1997
Bob Tewksbury (32) 0.8424 1993
David Wells (40)  0.8451 2003 左投手
LaMarr Hoyt (30)  0.8558 1985
Jon Lieber (34)   0.9170 2004
David Wells (41)  0.9199 2004 左投手
Greg Maddux (29)  0.9873 1995
Single-Season Leaders & Records for Bases On Balls per 9 IP - Baseball-Reference.com

今年のクリフ・リーの0.5325は、いまのところ1800年代を含めていえば歴代15位くらいにあたるのだが、2010年クリフ・リーより上の数値を記録している14人は「全員が右投手」であって、今年のクリフ・リーがこのままいけば、左投手として歴代最高のBB/9を記録することになる。
近年の左投手がBB/9において1.0000を切った記録は、2000年にトロントで20勝をあげ完全試合もやっているデービッド・ウェルズの2003年の0.8451、2004年の0.9199くらいしか記録がなく、クリフ・リーの0.5325は、左投手として化け物クラスの数値である。
Progressive Leaders & Records for Bases On Balls per 9 IP - Baseball-Reference.com


WHIP(Walks & Hits per IP)
四球が異常に少ないのだから、WHIP(イニングあたりのヒットと四球でランナーを出す率)がいいのは当たり前といえば、当たり前かもしれない。クリフ・リーの0.947は、いまのところア・リーグトップ。

1. クリフ・リー .947
2. Cahill (OAK) .981
3. Weaver (LAA) 1.095
4. Pavano (MIN) 1.107
5. Lester (BOS) 1.130
6. Hernandez (SEA) 1.138
7. Danks (CHW) 1.146
8. Lewis (TEX) 1.153
9. Braden (OAK) 1.154
10. Marcum (TOR) 1.160
Progressive Leaders & Records for Walks & Hits per IP - Baseball-Reference.com

ただ、WHIPの数値の良さについては、四球を出す率が異常に少ないわけだから、その分ヒットを打たれてこの数字になっている、ともいえるわけで、それを考慮すると手放しで喜ぶべき数値ではない、ともいえる。
現に、シアトルから移籍して以降、クリフ・リーの被打率は、かなり急上昇している。
5月 .248
6月 .222
7月 .211
8月 .277
Cliff Lee Stats, News, Photos - Texas Rangers - ESPN

やはりクリフ・リーが今年の歴史的な記録塗り替え作業に成功するとしたら、ベースになった好成績期間は明らかにロブ・ジョンソンとバッテリーを組んだシアトル在籍中の成績である。

2010シーズン ERA+(=Adjusted ERA+)
シアトル在籍時 172 (ほぼキャリア・ハイ)
テキサス 126
2チーム在籍トータル 150

2010シーズン ERA(=いわゆる防御率)
シアトル在籍時 2.34 (キャリア・ハイ)
テキサス 3.44
トータル 2.77
Cliff Lee Statistics and History - Baseball-Reference.com






damejima at 11:12

August 02, 2010

4月 11勝12敗 .478
5月 8勝19敗  .296
6月 14勝13敗 .519
7月 6勝22敗  .214

これは、2010年シアトル・マリナーズの月別の勝ち負けと、勝率だ。
みてもらうとわかるように、4月と6月にはほぼ5割程度の勝率を残している。特に大事なのは、6月のチーム成績が言うほど悲惨ではないことだ。

しかし、7月に、突然エンジンが壊れた飛行機が急降下するように、マリナーズは墜落した。
今シーズンはこのままだとシーズン110敗を越えるのではといわれているが、その墜落原因が「チームとしての目的の再構築も、きちんとした精神的な準備、後半に使う選手の手配、そんな当たり前の準備すらないまま、突然クリフ・リーを不用意に放出して、投手陣の中心を失い、チームが数少ないストロングポイントを喪失したことにある」のは、火をみるより明らかだ。

これは2009年の7月にウオッシュバーンをデトロイトに放出したのと同じ現象である。

2009年の投手陣の精神的な支柱はウオッシュバーンだったが、2010年の場合、投手陣の精神的なリーダーは明らかにクリフ・リーである。ヘルナンデスはまだ若い。
クリフ・リーが突然いなくなったことで、マリナーズはイチロー以外の唯一の財産であった「優秀な先発陣」の「精神的な支柱」「大黒柱」を失って、残り少ない財産すら失ったのである。


7月以降もマリナーズでプレイする残された選手たちにとって大事なのは、「これからチームが何を目的に、どう戦っていくのか」「7月以降の再構築された目的のために、チーム編成にどういう変更を加えていくのか」であることは、当たり前である。
それなのに、シアトル・マリナーズはおそらく、何の明確な目的再構築のプランも持たず、選手にはほとんど何の説明もないまま、クリフ・リーをただただ安売りした、と、このブログでは推測する。
でなければ、これほどまでにチームが壊れない。今のシアトル・マリナーズは、チーム自体が壊れている


ひとつの人間集団が目的と中心を持たない、もてないことの影響の大きさは、はかり知れない。

なぜなら
目的をもたない人間は弱いからだ。
また、中心をもたない集団は弱いからだ。


こんなのは「兵法の基本」である。こんな当たり前のプリンシプルがわからない人間たちがマネージャーをやっているシアトル・マリナーズに、チームスポーツがコントロールできるわけがない。

シアトル・マリナーズはすみやかに目的と中心を再構築すべきだ。
それをする気がないのなら、球団運営などやめてしまえ。



さて、主な先発投手別に月別の勝ち負けをみてもらおう。
その目的は「月ごとに、誰が投手陣を支えてきたか」を見ることだ。(以下は、その投手の勝ち負けではなく、その投手の登板日におけるチームの勝ち負けである。お間違えなきように)

クリフ・リー登板ゲーム
4月 0勝1敗
5月 3勝2敗
6月 5勝1敗
7月 1勝0敗
Cliff Lee Stats, News, Photos - Texas Rangers - ESPN

ヘルナンデス登板ゲーム
4月 4勝1敗
5月 0勝6敗
6月 2勝4敗
7月 2勝4敗
Felix Hernandez Stats, News, Photos - Seattle Mariners - ESPN


ダグ・フィスター登板ゲーム
4月 2勝2敗
5月 2勝4敗
6月 1勝0敗
7月 1勝5敗
Doug Fister Stats, News, Photos - Seattle Mariners - ESPN

バルガス登板ゲーム
4月 2勝2敗
5月 3勝2敗
6月 3勝3敗
7月 1勝4敗
Jason Vargas Stats, News, Photos - Seattle Mariners - ESPN

ローランドスミス登板ゲーム
4月 2勝3敗
5月 1勝5敗
6月 1勝4敗
7月 0勝6敗
Ryan Rowland-Smith Stats, News, Photos - Seattle Mariners - ESPN


この程度のデータでも、小学生でもわかることがあるだろう。

4月の中心はヘルナンデスだ。しかし5月の不振はヘルナンデス登板ゲームに負け続けたことが大きい。
6月の中心は、もちろんクリフ・リー。
バルガス、フィスターの2人、特にバルガスは、この間ずっと地道にチームを支えてきた。
5月以降のローランドスミス登板ゲームの極端な負け越し(2勝15敗)を放置し続けたことは、チーム墜落に直結している。




クリフ・リーがマウンドに登れない4月を支えたのはヘルナンデス登板ゲームの4勝1敗だが、他の先発投手のゲームも、ほぼ5割の勝敗になっている。この時点で先発投手陣にはそれはそれなりの一体感があった。

だが、5月にクリフ・リーが復帰すると、ヘルナンデス登板ゲームが0勝6敗となって、結果的にチームは大きく負け越した。
5月のヘルナンデスの登板ゲームだが、彼は6ゲームのうち4ゲームでクオリティ・スタート(QS)を決めているわけで、けして「5月のチームの大きな負け越し」は、ヘルナンデスのせいではない。
だが、月別ERA(防御率)だけでみると、5月以外の月が全てERA2点台なのに対して、5月だけが4点台なのは事実なのであって、けして5月のヘルナンデスが本来の調子ではなかったのもまた事実だ。今シーズンのヘルナンデスは安定感がない。

6月になると、クリフ・リーの登板ゲームが5勝1敗となってチームを支えるとともに、他の投手もそれなりに勝ったために、結果的にチームは6月に限って言えばほぼ5割の勝率を残すことができた。

そして7月。クリフ・リーが同地区首位のテキサスにトレード。


これまでのシーズン、たとえサイ・ヤング賞候補になった年であれ、どのシーズンであれ、まだ若いヘルナンデスがチームの投手陣のリーダーシップを発揮してきたわけではない。やはりそこは、ウオッシュバーンのような年のいったベテラン投手がまとめてきた。
今年に限っては、ジェイソン・バルガスがクリフ・リーにいろいろと投球術を学んでいたという事実があるように、投手陣をリーダーとして引っ張っていたのは、引退したグリフィーでも、まだ若いヘルナンデスでもなく、「動じない男」クリフ・リーだ。


クリフ・リーの放出じたいはやむをえないことであるにしても、その放出先が同地区の首位チームであることの意味不明さや、チームの勝ち頭でリーダーのひとりであるはずのクリフ・リーが突如いなくなって、明らかに負けが増えていくことがわかっているこのチームが、いったい何を目指して戦うのか、そんな重要なことすらまるっきり明確でないようなラインアップ、スタメンが続いている中で、
イチローはじめ、選手たちが、「いったい自分はなんのために戦っているのだろう」などと思うような戦いしかできない状態だとしたら、そこには中心も、目的もありえない。ただの弱々しさだけが残るのは当然だ。


そんなこともわからずにチームスポーツをマネジメントしようとしている人間がいるとしたら、その人間は馬鹿だ。
何もわかっていないし、チームスポーツにかかわる資格がない。







damejima at 20:40

July 10, 2010

オールスター目前だというのに、突然クリフ・リーがテキサスにトレードされた。これでアナハイムのオールスターにクリフ・リーとイチローが同じユニフォームを着て出場する、ということはなくなったわけである。
まったく夢を売るのが商売のクセに、夢の無いことをするものである。


クリフ・リーのトレードについては、彼がゆくゆくトレードされること自体はあらかじめ覚悟しておかなければならない、とは、シアトルファンの間でよくいわれてきたことだ。それはまぁ、それはそうに違いない。

だが、ブログ主に言わせれば、クリフ・リー放出を早めた、あるいは、彼を引き止められる可能性をわざわざ自分の手でゼロにしたのは、「GMや監督、投手コーチのチームマネジメントの失敗によるチーム低迷が原因である」としか思っていない。「いつかクリフ・リーはチームを出ていくことになるだろう」という話と、実際のクリフ・リーのトレードの間には、ほとんどなんの因果関係も感じない。
チーム状態が改善に進んでいるのが目に見える形なら、こんなオールスター直前なんていう時期に出ていくことにはならずに済んだだろう。ところがチームの欠陥は、わかっているのに、まるで解消される方向にない。


2009年7月にウオッシュバーンを放出したが、あれとまるで似たようなことをして、よくGMズレンシックは恥ずかしげもなくスタジアムに来られるものだと思う。今年もまたこんな夢の無いことをやってしまってすみませんと、ファンに土下座してもらいたいものだ。
クリフ・リー放出でテキサスのトッププロスペクトの1塁手獲得というが、ファーストベースマンのジャスティン・スモーク打てないコッチマンカープラッセル・ブラニヤン、いったい誰にファーストを守らせるつもりか。そして誰をロスター落ちの犠牲者にするつもりか。(どうせ今までの通例どおり、若手や控え選手に犠牲を強いて、打てもしないベテランや高給取りの無能な選手をロスターに残して、負けを加速させるに決まっているが)

無能なズレンシックの選手の獲得はこれまでも選手のダブりを常に発生させてきた。
ショートの2人のウィルソン。衰え果てたグリフィー悩める男ブラッドリーマイク・スウィニー、ダブついたDH。いつまでたってもピリッとしないロペスまるで打てない高給取りのフィギンズ無能なバーンズソーンダースブラッドリーのレフト。
ただでさえ選手層が薄いのに、ズレンシックの獲ってくる選手は獲る選手獲る選手、どいつもこいつも常にポジションがかぶっていて、しかも打てるのはベテランより控えだったのに、「再建モードにはしない。ベテラン優先」という意味の無い方針を貫き続けてチームに損害を与え続けているのは、GMとして無能としか思えない。

こんな空気のチームでスモークが育つわけがない。
それに、打者有利のスタジアムで育てられてきたプロスペクトの打撃成績が広いセーフコでそのまま発揮できるとか考えるのは、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
Rangers acquire Lee from Mariners | MLB.com: News


毎年毎年このわけのわからないチームは、どうしてこう意味のわからないシーズンばかり過ごしているのだろう。
天才イチローがこの本当にどうしようもないチームに在籍していなければ毎年イライラせずに済むのに、と、毎年のように思う。もちろん、かつてのイチローの契約更新時には「どこのチームでもいいから、とにかく絶対に移籍してくれ」と願ったものだ。


近年のシアトルのストロング・ポイント
「先発投手」「イチロー」である。
わかりきっている。

そして2010年のウイーク・ポイントは(というか去年もあった同じ弱点だが)「貧弱な打線」「使えないブルペン投手」と、シーズンの早い時点でとっくにわかりきっていた。

にもかかわらず、だ。
マリナーズはいつまでたってもロスターに使えない野手を溢れさせたまま、何ヶ月も負け続けた。いくら先発投手がゲームを作っても、ゲーム終盤にブルペンが打たれて負ける、もう見飽きるほど見た負けパターンは、「打線」と「ブルペン」というわかりきったチームの欠陥がいつまでたっても修正されないことから生まれた。
わかりきったチームの欠陥を修正できないゼネラル・マネージャーや監督、コーチが無能でないわけがない。

無能なくせに、やることといえば2009年のウオッシュバーン放出と同じで、チームの一番のストロング・ポイントである「強固な先発投手陣」を自らの手で安売り、切り売りしはじめてしまうことなのだから、笑うに笑えない。
かつての弱かった「選手を売り払い続けるアスレチックス」ではないが、ストロング・ポイントを自分で毎年毎年売り払うチームが、いったいどうやって強くなるというのだ。



まぁ、たしかにクリフ・リーはいつかは(というか、近々)手放さざるをえなかっただろう。
だが、その話と、シアトルのチームマネジメントの失敗からチーム成績が低迷し、そのせいで2009年同様に貴重な先発投手陣の一角を自分から切り崩して、早くから安売りしなくてはならない状況に陥ったという話は、意味が違う。別の話だ。
今回のオールスター前のクリフ・リー放出という事態を招いた原因は、どうみても「いつかはクリフ・リーはチームを出ることになる」という事情通ぶりたいだけのしたり顔のガキが言いそうなわけのわからない話ではなくて、「2010年は最悪のシーズンの翌年だし、本来ならチームを若返らせて再建の年だけれども、けっこういい選手がトレードで獲れちゃったし、これはいきなりプレーオフ進出のシーズンにできるかもぉ・・・」などという見通しの甘さと、誰が見てもわかるチームの欠陥である「打線の貧弱さ」と「ブルペン投手の崩壊」を何ヶ月たっても修正できないチームマネジメントの失敗の連続のせいであることは明らかだ。
せっかく獲得したクリフ・リーの放出時期が早まったのは、根本的にはこうしたチーム編成の失敗の連続のせい、としかいえない。
クリフ・リーのトレードは、本質的には2009年のウオッシュバーン放出と何もやっていることに変わりはない、と思う。



2009年の前半戦は、ヘルナンデスウオッシュバーンベダードの3本柱で面白いように勝てた。にもかかわらず、ダメ捕手城島の担当したゲームが負けを大量生産し続けた結果、全体としてのチーム成績はうだつが上がらず、結果的にGMズレンシックはプレーオフ進出を諦めた。
そして無能なズレンシックは7月末のトレード期限にウオッシュバーンをデトロイトに放出するなどして、かわりにルーク・フレンチだの、イアン・スネルだの、使えもしない投手どもを獲得してきた。

2010年はどうか。
2009年と本質的には変わらない。
チーム低迷は先発投手のせいではないにもかかわらず、結果的には「イチロー」以外の唯一のストロング・ポイントである「先発投手のリーダー的ベテラン」を毎年切り売りしている。

2010年の序盤、クリフ・リーが出遅れている間にチームを支えたのは、ヘルナンデスフィスターバルガスの3人だ。
いってみれば彼らはダメ捕手城島が日本に逃げ帰ってくれた恩恵を最大にこうむった「 新・3本柱 」だった。
このシアトルの「城島がいなくなってくれたおかげで実力が発揮されだした新・3本柱」がなんとか踏ん張ってくれたおかげで、チームには、勝率はともかくとして、「先発投手だけは他のチームに劣らない」といえるストロング・ポイントが今年もできていた。

だが、2010年のシアトルは、ズレンシックの無駄に獲得してくる選手と、その選手たちをもとにした失敗だらけのチーム編成がことごとく期待はずれに終わり、貧弱すぎる打線に加えて、弱体なブルペンという2つの大問題を抱えたことは誰にでもわかることだ。


チームが2つもの大問題を抱えているにもかかわらず、無能なマリナーズは、2007年に2割も打てないセクソンを4番に据え続けたように、ケン・グリフィー・ジュニアをクリーンアップに置き続け、メジャー選手とはとても呼べないバーンズなどにレフトのポジションを与えてやり、また、打てもせず、かといって実は守備もそれほどたいしたことのないフィギンズに2番のポジションを与え続けて、結局、負け続けた。
こうした使えない野手が次々と怪我や引退でスタメンがコロコロ入れ替わる中で、仕事をしてくれたのは、ジョシュ・ウィルソンや、ソーンダースだったが、チームは彼らの仕事をたいして評価せず、打てもしないコッチマンが復帰してくればスタメンをまたもやくれてやり、スペランカーでマトモに試合に出場し続けられないジャック・ウィルソンをだましだまし使い続け、負けてばかりのローランドスミスには意味もなくチャンスを与え続け、打たれまくりのクローザー、アーズマにはストレートばかり投げるのを許し続け、結果、チームの負けパターンはいつまでたっても同じで、ピクリとも変えることができずに、さらに負け続けた。

たぶん、投手コーチリック・アデアにしても、去年報道されたほどたいして指導力などないのだと思う。でなければ、とっくにブルペン投手の誰かひとりくらいマトモになっていなければおかしいというものだ。


クリフ・リーの記者会見を見るかぎり、彼はシアトルに来たばかりの頃とは全く違う気分になっていたようだ。「せっかくいい天気になってきたのに」という言葉で、自分がシアトルのチームと馴染みができてきていたことを感じさせた。
Rangers acquire Lee from Mariners | MLB.com: News


2009年にウオッシュバーンを放出しても、その後チームの投手陣はどこもよくはならなかった。バルガス、フィスターがよくなって先発に定着してくれたのは、ダメ捕手城島が日本に逃げ帰ってくれて、実力の片鱗をみせることができるようになったお蔭でしかない。

ウオッシュバーンはラン・サポートの少ない中、あれほどイニングを食ってくれて、準パーフェクトゲームまでして、投手陣のリーダー役だったわけだが、クリフ・リーも同じように、このところはシアトルの投手陣ともたいへんに馴染んでリーダー役になってくれていた。
そのリーダー役のクリフ・リーが抜けたいま、投手陣の喪失感はただごとではないと思う。






damejima at 15:43

June 24, 2010

本当に凄い投手だ。
鳥肌モノの9イニングだった。
Chicago Cubs at Seattle Mariners - June 23, 2010 | MLB.com Gameday


6月に入って5回目の登板だったが、これで4試合連続の無四球試合。4試合34イニングを投げて、ただのひとつも四球も出していない。クリフ・リーを見慣れてしまうと、あたかも無四球試合が簡単であるかのような錯覚に陥りそうになる。もちろんそれは大きな勘違いで、1ゲームやるだけで凄いことなのだが、それを4試合も続けてしまえるのが、クリフ・リーだ。
クリフ・リーのゲーム・ログ
Cliff Lee Game Log | Mariners.com: Stats

クリフ・リーはけっこうヒットを打たれる。今日なども、完投とはいえ、相手チームのシカゴに9安打も打たれている。無死2、3塁なんていうイニングすらある。なのに、シカゴはソロホームランの1点どまり。それがクリフ・リーである。

何度も何度も見てきて、何度も何度も書いたことだが、クリフ・リーは四球による無駄なランナーを出さないし、出したランナーをホームに帰さない。そして「ここで三振が欲しい」という場面では、ずばぁああああっと、目の覚めるような3球三振がとれてしまう。
こんな投手を見ていると、ある意味しかたないホームランやヒットによるランナーより、バッテリー(あるいは投手)が防ぐことのできる四球によるランナーのほうがずっとやっかいだし、失点の原因になりやすい、という当たり前のことを痛感するし、四球がゲームに与えるダメージの重さがよくわかる。
守備時間を長くしやすい四球乱発は野手の疲労をまねくために、打撃、ラン・サポートにも大きな影響がある、ということもある。

SO/BB(キャリア)
クリフ・リーは44位。現役投手第1位はダン・ヘイレン
Career Leaders & Records for Strikeouts / Base On Balls - Baseball-Reference.com
SO/BB(シングルシーズン)
1位は、サイ・ヤング賞2回のブレット・セイバーヘイゲンで、11.0000。ところが今シーズンのクリフ・リーは、なんと19.0000。もしもこのレベルでシーズンが終われば、とてつもない記録が出る。
ちなみに大投手ロイ・ハラデイはトロント在籍時代に3回、シングルシーズンのSO/BBトップに輝いていて、ナ・リーグに移籍した今年も、ナ・リーグトップを走っている。
Single-Season Leaders & Records for Strikeouts / Base On Balls - Baseball-Reference.com

SO/BB 19.0000。本当に素晴らしい数字だ。
これは今シーズン、クリフ・リーが投球術において、あの大投手ロイ・ハラデイと肩を並べるシーズンになることだろう。



今日クリフ・リーが投げたのは115球だが、そのうち、何球がストライクだったか。

90球

そう。90球である。

ストライク率にすると、78.3%
。もう、べらぼうに高いとか、そういう言葉すら追いつかない。ちょっと普通では考えられないくらいに、馬鹿みたいに、高い。

6月7日の登板のときにも、
「クリフ・リーが投げた107球のうち、84球もの投球がストライクだったことには驚かされた。」
と書いたわけだが、そのときのストライク率は78.5%で、今日6月23日とほとんど同じストライク率である。要は、相手がどこだろうと、まったくピッチング・スタイルが変わらない、それが今シーズンのクリフ・リーだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月7日、クリフ・リー、シアトルが苦手とするアーリントンのテキサス戦で貫禄の107球無四球完投、4勝目。フィギンズの打順降格で、次に着手すべきなのは「監督ワカマツの解雇」

2010年6月23日 6回表1死1、2塁 デレク・リー三球三振6回表1死1、2塁
デレク・リー三球三振

初球 インハイのカットボール
2球目 インコース低め一杯に決まるカットボール
3球目 ほぼ真ん中のストレート(空振り)


2010年6月23日 6回表2死1、2塁 ネイディ三球三振6回表2死1、2塁
ネイディ三球三振

初球 インコース ハーフハイトのカットボール
2球目 インコースのストレート
3球目 高め一杯のゾーン内にストンと落ちるスローカーブ


2010年6月23日 7回表1死2、3塁 カストロ三球三振7回表1死2、3塁
カストロ三球三振

初球
真ん中低めのチェンジアップ
2球目
高め一杯のカットボール
3球目
外から入ってくるカーブ
(見逃し三振)


つい先日の記事で(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ))、ア・リーグ東地区の投手が、「ストレートを多用するかわりにカットボールを多投する」というピッチングスタイルを持つ、ということを書いた。
今日ランナーのたまったシチュエーションで3人のバッターを三球三振になで切りにしてみせたクリフ・リーのピッチングは、ちょっと見ると、まさに「東海岸風カットボール ピッチング」にみえる。

クリフ・リー2010年スタイルの要点1
カットボールでカウントを作るという戦略

クリフ・リーが長く所属していたクリーブランド・インディアンズは中地区のチームであって東地区ではない。だが、オハイオ州自体ほとんどアメリカの北東のはずれといってもいいくらいの位置にある州なわけで、インディアンズと東地区各チームとは非常に近いロケーションにある。

では、その地理的に近い意味もあって、クリーブランドは先発投手が非常にカットボールを多用する「東海岸風のチーム」で、それでクリフ・リーもカットボールを多用する、という仮説が成り立つのだろうか?


答えは「 NO 」だ。
クリフ・リーがクリーブランドにいた時代の、クリーブランドの先発投手全体の「カットボール率」を見てみると、その数字はかなり低い。クリーブランドはカットボールを多用するチームカラーではなかったのである。
American League Teams » 2008 » Starters » Pitch Type Statistics | FanGraphs Baseball

チームを見るのではなく、クリフ・リー自身のピッチタイプ、つまり、ゲームで投げた球種の割合を年度別に見てみると、非常に面白いことがわかる。
クリフ・リーがカットボールを多用しだしたのは、フィラデルフィアに移籍して以降、つまり長年在籍したクリーブランドを出た以降のことで、さらにシアトルに移籍してからは、まるでトロント、ヤンキース、タンパベイといったア・リーグ東地区の投手たちのように「ますますカットボールの割合が増えている」のだ。
つまりクリフ・リーがピッチングのひとつの柱になるボールとしてカットボールを多用しだしたのは、ある意味、シアトルに来てから、なのだ
シアトル移籍以降のクリフ・リーのカットボール率はクリーブランド時代の3倍以上に跳ね上がっている。
Cliff Lee » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball

シーズン別 クリフ・リーのカットボールの割合
2004 5.2(%)
2005 2.8
2006 6.3
2007 4.9
2008 6.2 この年までクリーブランド
2009 12.4 フィラデルフィア移籍
2010 17.1 シアトル移籍


クリフ・リー2010年スタイルの要点2
〜0-2カウントから1球遊んで、それから勝負、などという回りくどいことをせず、打者に考える暇を与えない投球テンポの早さ

クリフ・リーは上に挙げた3人に対して、0-2と、カウントを追い込んでから、怖がらずに変化球をストライクゾーンに投げ込んでいる。使われるのは、高い軌道を描いてボールから大きく曲がってストライクになるカーブなどだ。


今シーズン絶好調のジェイソン・バルガスも、もともとチェンジアップを決め球にしているピッチャーだが、今シーズンに限っていえばカットボールをけっこう多めに使いだしているらしい。
そのバルガス、なんでも、クリフ・リーに「カットボールを使うピッチングの要点について質問した」らしい。
で、クリフ・リーがバルガスに答えた「ピッチングの要点」というのは、カットボールそのものの握りだの、使うカウントだのという話ではなくて、「ピッチングのテンポを早めることの大事さ」を強調したらしい。
クリフ・リーいわく、「打者に考える暇など与えず、ポンポンとテンポよく投げろ」と、そういうようなことを、クリフ・リーはバルガスにアドバイスしているらしいのだ。


正直、投手コーチのリック・アデアより、クリフ・リーのほうが、「投手コーチとして有能」なんじゃないか、という気がしてきた






damejima at 13:56

June 08, 2010

無四球完封まであるかと思われたクリフ・リーだったが、さすがに最終回はちょっと力みが入ったようで、2点を失ったが、大きな問題はなく、107球、無四球のまま、4勝目を挙げた。
これまで鬼門といわれてきたアーリントンパークでのレンジャーズ戦にこれほど楽勝イメージで終わったゲームはほとんど記憶に無い。

さらにソーンダースが3ランを放ち、ロブ・ジョンソンがタイムリーと、下位打線の得点で同地区チームとの対戦をモノにしたのだから、このゲームの意味は小さくない。
シアトルの控え選手の力を信用しようとしないアタマの固いシアトルファンからずっと信用されなかった「ペーパーボーイ」(=新聞配達少年。マイク・スウィニーが命名したニックネームらしい) こと、ジョシュ・ウィルソンも、打撃好調をキープしている。
Seattle Mariners at Texas Rangers - June 7, 2010 | MLB.com Gameday


それにしてもクリフ・リーが投げた107球のうち、84球もの投球がストライクだったことには驚かされた。

前にヘルナンデスの例で書いたことだが(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月5日、ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を解き明かす。(ヘルナンデスの2009ストライク率グラフつき))、ヘルナンデスの場合はあまりにもストライクを投げようとしすぎるゲームではかえって好投できない傾向にある。もちろんこれには、打者にかえって狙いを絞らやすいとか、いくつかの要因があることだろう。


ところが、クリフ・リーは違った。

107球というと、普通はストライクが70球ちょっとになる場合が多い。というのもバッテリーが「ストライク2に対して、ボール球が1」というメジャーの配球セオリーにならっているからだ。
ところが今日のクリフ・リーの場合は、107球中84ストライク。と、いうことは、およそ投球の78.5%がストライク、つまり、5球のうちほぼ4球はストライクを投げた勘定になる
だが、それでも彼はフォアボールを出さないだけでなく、打者に狙いを絞り込まさせず、大きな当たりを許ず、三振をもぎとってしまう。
三振、といっても、クリフ・リーのとる三振は、三球三振も多い。例えばボストンの松坂などが三振をとる場合と違って、ゲーム全体の球数を少なくできる。
ゲームをみていても、たとえシングルヒットを2本打たれようと、悠々と次の打者を3球で三振にうちとってしまう。本人が「野球において、緊張というものをしたことがない」と豪語するだけのことはある。
まったく素晴らしい投手である。
"I wish I could go through a game and throw eight or nine balls," Lee said. "That's hard to do."
Lee gives bullpen much-needed day off | Mariners.com: News

今日からショーン・フィギンズが9番に下がった。これはかつてユニスキー・ベタンコートが在籍時によく行われた策だが、打てないフィギンズの打順をいじるのは遅すぎたとしか言いようがない。
9番、というと、普通は打てない打者が座る打順だが、1番に打率がよく、ダブルプレー打の極端に少ないイチローのいるシアトルでは、9番打者の出塁は得点力アップの上で重要だということは、シアトルファンなら誰でもわかっている。
だが、頑固なワカマツは、常識にとらわれているのかなんなのか知らないが、監督に就任した2009シーズンからこのかた、そういう策をまるで試そうとしてこなかった。
だから、イチローが打席に入るときは、いつも先頭打者だったり、ランナー無しだったりして、イチローの打点が伸びない、という愚かな現象を招いていたのである。
ほかにも彼ワカマツはこのところ、ダブルプレーになるのがわかりきっている打者(グリフィーやコッチマン)をゲーム終盤の大事な場面で代打に出してダブルプレーになったり、準備のできていないブルペン投手をマウンドに上げてLAAに惨敗してみたり、ともかく采配ぶりがルンバしまくっている。


25人ロスターの枠を占領していたグリフィーが引退し、逆転負けゲームを量産したコロメ、テシェイラの2人のブルペン投手をクビにし、さらに得点力の足枷になっていたフィギンズを9番に降格させた。また、打撃コーチをクビにし、三塁コーチと一塁コーチを入れ替えた。

では、この次にチームがやるべき策はなんだ?
ということになる。

もちろん、個人的にはコッチマンも、ジャック・ウィルソンもスタメンには不要な選手と思っているが、それ以上に真っ先に処分すべき人がいる。

それは「監督ワカマツの解雇」
この最上の策を、なぜシアトルが着手しないのか。
これが最もふさわしい、真っ先に実行すべき「次の一手」である。






damejima at 20:46

May 29, 2010

ゲームはまだ終わっていないが、試合の勝ち負けがどうであれ、好打者の多いエンゼルス打線に10三振させてしまうのだから、クリフ・リーの投球術、やはりたいしたものだ。特にクリーンアップに6三振なのだから、失点はしたが内容は本当に素晴らしい。

Seattle Mariners at Los Angeles Angels - May 28, 2010 | MLB.com Gameday



これぞクリフ・リーの投球術という感じのゲームだ。
カーブの良さもさることながら、エンゼルス打線に要所で投げている高めの球が、非常に効果をあげている。
知っての通り、クリフ・リーのストレートは早くはなく、剛球を誇るという速球派投手ではけしてない。だが、3-0というカウントでも慌てることなく、落ち着いて打者を処理してしまうあたり、やはり投球術においてそこらの新人君とは格が違う。

投球術、というと、「とにかく低めに投げること」と思い込みがちだが、このブログでも何度も取り上げてきたように、低めのタマに強い打者だらけのメジャーでは、高めの球を効果的に使うことは十分に戦略として重要だ。

例えば、カーブを有効に使いたい投手にとっては、ストレートを低めに集めてばかりいるのでは、打者に球筋を読まれてしまう。ストレートをボールになるように高めに投げておくことも、カーブの有効性を高めるひとつのアイデアとして、メジャーでは研究が進んでいる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」

また、例えばテキサスの打者のホットゾーン(=ストライクゾーンのどのコースを、どのくらいの割合でヒットしているか)をみると、このチームのほとんどの打者が「低い球」に対しては驚異的な打率を残している一方で、「高めの球」に対しては対照的に打てていないことがわかる。
2009シーズンの最終戦でロブ・ジョンソンは初球に高めの球から入ることで、強打者の揃うテキサス打線を翻弄した。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:最終テキサス戦にみるロブ・ジョンソンの「引き出し」の豊かさ (1)初球に高めストレートから入る






damejima at 13:26

May 17, 2010

このところ慢性化しているシアトルのゲーム終盤の逆転負け。
巷ではどういうものか、日本に逃げ帰ったダメ選手のファンが掲示板に恨みツラミを書き込んでいるせいかなにか知らないが、逆転負けの流れの原因をロブ・ジョンソンのせいにするのがアタマの悪いファンの間では流行なようだが、モノを見る目が無いにも程がある。
サヨナラ負け、逆転負けが続く根本原因はキャッチャーのパスボール程度にあるわけがない。

原因はプレーヤーの配置のアンバランスさ。
これに尽きる。
よく、企業でも「ヒト・モノ・カネ」というが、要は「経営資源の効率的効果的な配置、配分に経営の真髄がある」ということだ。シアトルのようにこれほど資源配分が間違うと、勝てるゲームも勝てるわけがない。


今日のゲームは、あいかわらず2番にフィギンズ、4番はロペス、5番にはグリフィーが座ったが、そもそもこのことに呆れ果てる。いつまでそういう「失敗した理科実験のようなチームマネジメント」を続けるつもりなのだろう。フィギンズもあれほどまでに打てないのなら、いい加減休ませるなり、打順を変えてやるなり、マイナーに落として調整させるなり、それくらいのペナルティは、あって当然だ。チームは活躍してもらうために金を払っているのだし、ファンは活躍が見たくて時間をさくのだ。

2009年まで投手陣の精神的な支柱の役割を果たしていたウオッシュバーンにかわって、2010シーズンの投手陣のムードメーカーをかってでてくれているクリフ・リーだが、たぶんセットアッパーの苦境に配慮したのだろう、自分ひとりで109球を投げ、2失点の好投で完投してくれた。
にもかかわらず、いつものように逆転負けした。捕手は新加入のジョシュ・バードで、ロブ・ジョンソンでも、ムーアでもない。
このことで、ハッキリわかるはず。今日のゲームでゲーム終盤の逆転負けが続く要因がわからなければ、その人は相当のアホウだ。
Seattle Mariners at Tampa Bay Rays - May 16, 2010 | MLB.com Gameday


ファンの誰もがわかっていることだが
シアトルの経営資源であるプレーヤーの配置が大きくアンバランスになっている部分は、2点に集約される。

ひとつは不調な野手の意味不明な起用と、アンバランスな打順配置
これが過度の得点力不足を生んでいる。
2つめは、リリーフ投手の人数の絶対的な不足
これがセットアッパーの疲弊と逆転劇を生んでいる。

ア・リーグ チーム得点ランキング
シアトルは最下位(5月16日時点)
MLB Baseball Team Statistics - Major League Baseball - ESPN


シアトルがもともと打てないチームなのは、その通りだ。
だが、ただ打てないのでは、ない。

故意に「打てない選手をスタメン起用し、さらに、さらに、悪いことに、その打てない選手を、よりによって2番やクリーンアップなど、打線の重要な部分に起用し続けている」のだから始末におえない。。
この「二重三重の選手配置の失敗、つまり、チームマネジメントの失敗」によって、ただでさえ打てない打線は、さらにまったくのパワーレス状態に陥っている。
そういうおかしな選手起用が続くせいで、ベンチも、スタメンも、クリーンアップも、どこもかしこも打てない野手で満杯なのだ。


例えばシアトルのベンチにはDH要員が2人もいる。
そのこともあって、投手陣の絶対数は1人削られている。ロスター枠を無駄なベンチ入り野手で占めていることから、投手の絶対的な人数が足りないのである。
人数が足りなければ、連投が要求されるセットアッパーは疲弊する。さらには、人数が少ないために相手に研究されやすくなり、球筋やパターンを読まれる、という悪い連鎖現象も起きる。


特に左のセットアッパーがいない。
そのため、ゲーム終盤に先発投手が降板した後のピンチの場面で、左の好打者要員として、ワンポイント的に使える左投手が全くいない。

DH要員が2人いるなど、「野手の無駄」がもたらす悪影響はそれだけではない。スタメン野手がかわるがわる休むということを許されない、故障する、という現象も生む。
野手があまりにも休まず出場していれば、当然のことながら怪我もある。グティエレスなどがそうだが、ただでさえ層の薄いシアトルの「打てる野手」が怪我をすれば、チームの打力はびっくりするほど低下する。怪我から復帰してきても、バッティングがすぐに元通りになるわけでもない。


こんな状態で戦ったらどうなるか、
わかりそうなものだが、シアトルのマネジメントにはそれがわかっていない。(だからこそ「城島問題」も長い間放置されてきたわけだが)

いくら先発投手が代わり、キャッチャーが代わっても、負けパターンは変わらない。なぜならチームのマネジメントが、自ら失敗したロスターのアンバランスさを、いつまでたっても修正しようとしないからである。

打率2割を切っている2番バッターを起用しつづけ、打率2割ちょいのDHを2人もベンチに置いて、相手先発投手の左右によってかわるがわる使うようなワカマツの手法と、ロスターから打てない野手の枠を1人削り、かわりに投手、特に左のセットアップマンを1人増やし、また、スタメン野手に交代でDHにつかせるなりして適度の休養を与えつつ戦うこと。
このどちらが今のチームにとってプラスになるか。
平凡すぎるアイデアではあるが、考えなくてもわかる。

最小限の得点ができない打順、少ないリードを守りきれないセットアッパー。さらに故障者を生みやすいチーム環境。
ヒトのマネジメントのできないチームでは勝てない。






damejima at 20:30

May 12, 2010

明らかに雰囲気が変わってきた。

クリフ・リーが112球(ストライク77、ボール35)、無四球で7回1/3を投げ、シアトルにおける初勝利を収めた。MLBの公式サイトのトップにも記事がある。低めに決まる見逃しストライクでカウントを稼ぎ、ポップフライに討ち取るパターンがよく決まった。
8回のピンチでリーをリリーフしたブランドン・リーグがピンチをしのいでベンチに帰ってきたときにクリフ・リーが見せた笑顔が、はじけるような素晴らしい笑顔だった。
打撃コーチが変わっただけでなく、開幕時のスタメンからはかなり打順と出場選手をいじったシアトルに少し活気が戻ってきた。
Seattle Mariners at Baltimore Orioles - May 11, 2010 | MLB.com Gameday

(クリフ・リーのピッチングは)「意図していることが後ろ(右翼)からも見えるし、守っていて楽しいね。ピッチングに立体感があるというか、ちょっとレベルが違う。(力の)入れどころと抜きどころがよく分かっている」(ゲーム後のイチロー)
「ピッチングに立体感がある」(イチロー語録): nikkansports.com

Lee notches first victory for Mariners | MLB.com: News


対戦相手のボルチモアがどうこうより、
チーム内で明暗の分かれるゲームだった。

明るい部分というのは、もちろんリーの好投もだが、シアトルの打者のバットにボールが当たる音が、カキーンと小気味いい音をしていたのがいい。これに尽きる。
野球は音でわかる部分もある。久しく、シアトルの打者のバットからこういう小気味いい快音を聞いてなかった。

このところスタメンで起用されはじめた開幕時の控え選手たちの攻守にわたる活躍がいい。
ランガーハンズは、ソロホーマーで試合の流れを大きく変え、1塁守備でもいいところを見せた。バッターボックスでインコースを待ち構えている様子なども、見ていてなかなか堂々としている。これはコッチマンもうかうかしていられないだろう。競争があるのはいいことだ。
下位の6番ジョシュ・ウィルソン、8番ロブ・ジョンソン、9番マイケル・ソーンダースのタコマ出身トリオがそれぞれシャープな打球音とともに2安打ずつ放って、ボルチモア先発のD・ヘルナンデスに好投されかかったゲームの主導権をガッチリ握ることができた。
ジョシュ・ウェルソンの大胆な空振りは、ちょっとボストンのペドロイアばりなところがあって、胸がすく(笑)今日のジョシュは守備でも、ベアハンドキャッチ&スローなど、好プレーを連発していた。また、インコースの球を鎌で草を刈るようなスイングをするソーンダースのスイングも、なかなか独特で面白い。ロブ・ジョンソンのバットにも本来のシュアさが戻ってきた。爽快な乾いた打球音がしている。
マイケル・ソーンダースのタイムリー(動画)
Baseball Video Highlights & Clips | SEA@BAL: Saunders knocks in a run with a single - Video | MLB.com: Multimedia

また、当たりが止まったままだったフィギンズのスイングにようやく回復のきざしがあったのも収穫。押し出しの四球を選んだこともいいが、それよりもヒットのイチローをランナーに置いた最終打席で、初球のアウトコース低めのストレートをレフト前に運んだ積極性が、なによりいい。初球をすかさずヒットするフィギンズなんて、シアトルでは初めて見た気がする(笑)四球ばかりでは味気ない。

こうした積極的な打撃への変化が、コックレル打撃コーチの解雇の成果なのかどうかは、まだわからない。
だが、少なくとも言えるのは、今日のシアトルの打者は「振っていいカウントや、振り回していいシチュエーションでは思い切りよくバットを強振し、一方で、待つべきときには、ボール球を冷静に見逃す」というシンプルなバッティングの基本が、しっかりできていた打者が多かった。
もちろん、全員の打球音が良かった、とは言わない(苦笑)


マイナス面も、残念ながら、ある。
というか活躍選手が出てくると、そういう負の面は、かえって目立つ。

子供でもわかることだが、ロペスグリフィーのところで、どうしても打線が切れ、得点圏のランナーを無駄にしている。
監督ワカマツは、若手起用を試し始め、打順に手をつけたのはいいとして、ランナーズ・オンの場面でダブルプレーだらけのロペスに4番を打たせ、もはやスイングに全くパワーの無いグリフィーをスタメン起用しつづけるような愚策をいつまで続けるつもりだろう。
打てない彼らにも責任がある。だが、その期待できないバッターを起用しつづけるマネージャーにはもっと大きい責任がある。打てないセクソンを4番に据え続けてファンを裏切り続けたかつてのシアトルを、また再現でもしたいのかといいたい。






damejima at 12:13

December 16, 2009

注:トレード内容について、当初ソースを2つあげたが、3つ目のソースが確実な内容なので、そちらを参照されたし。
追記ソース(3)
ESPN Buster Olney による説明

Mariners finalize deal with Phils for Lee | phillies.com: News


Welcome クリフ・リー

クリフ・リーのキャリアスタッツ
Cliff Lee Career Statistics | phillies.com: Stats

クリフ・リーの動画検索(MLB公式)
Multimedia Search | MLB.com: Multimedia

クリフ・リー略歴(日本語)
クリフ・リー - Wikipedia

2009ワールドシリーズ、クリフ・リーの
「クール・フライ・キャッチ」&背面ゴロ・キャッチ(動画)

Baseball Video Highlights & Clips | WS 2009 Gm 1: Lee makes two plays look easy - Video | MLB.com: Multimedia

Baseball Video Highlights & Clips | Cliff Lee on "cool" defensive plays in Game 1 - Video | MLB.com: Multimedia



(以下、元記事)

おいおいおいおいおいおい。
こりゃ、もう、うかうかしてられませんぜ(笑)
来シーズンのシアトルのゲームは全試合見る必要がでてくるかもしれないねぇ(笑)

他のメディアではほとんど触れることがないが、このブログで何度となく触れてきた、あのサイ・ヤング賞投手クリフ・リーが、シアトル、フィラデルフィア、トロントの三角トレード、オークランドのからんだ複雑なトレードでシアトルにやってくることになる、らしい。先だってのショーン・フィギンズに続く朗報である。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:クリフ・リー関連(ビクター・マルチネス含む)

このトレードは動きの少なかった大物2人のからむビッグ・トレード。というのも、最近移籍の噂の絶えなかったトロントの大投手ロイ・ハラデイと、今年クリーブランドからフィラデルフィアに移籍してワールドシリーズに出たばかりのサイ・ヤング賞投手クリフ・リーという、メジャーでも大物中の大物といえる投手が、2人もからむからだ。


ソース(1)
ESPN Jayson Starkによる説明
 →不正確
Sources: Roy Halladay to Philadelphia Phillies, Cliff Lee to Seattle Mariners deal close - ESPN

クリフ・リーのトレードの図式 by ESPN Jason Stark

シアトル
GET クリフ・リー(from PHI)
OUT 右投手フィリップ・オーモント(to TOR)

フィラデルフィア
GET ロイ・ハラデイ(from TOR)
OUT クリフ・リー(to SEA)、2人のプロスペクト(キャッチャーTravis d'Arnaud (確定)、外野手のMichael Taylor?)(to TOR)

トロント
GET オーモント(from SEA) 2人のプロスペクト(キャッチャーTravis d'Arnaud (確定)、外野手のMichael Taylor?)(from PHI)
OUT ロイ・ハラデイ(to PHI)

ESPNJason Stark (Jayson Stark (jaysonst) on Twitter) によれば、シアトルからフィリップ・オーモントを獲得するのはトロントになっており、トロントの得る見返りも十分。次に挙げるSI.comの説明より辻褄のあう話になっている。
ただ、この説明だと、シアトルの放出分が少なすぎる。どこかで金銭的な解決が図られているのかもしれないし、契約年数が長いであろうハラデイと、契約年数が短いクリフ・リーの、契約年数でのバランスかもしれない。(つまり、クリフ・リーはシアトルに長い契約を望んでいないかもしれない、ということ)


別ソース(2)SI.comの説明 →不正確
Roy Halladay to the Phillies at center of three-team mega-trade - MLB - SI.com

シアトル
IN クリフ・リー(from PHI)
OUT フィリップ・オーモント+誰か(to PHI)

SI.comの記事によれば、シアトルがフィラデルフィアに放出するプロスペクトは、右投手のカナディアンフィリップ・オーモントが決定の模様で、他にも選手を放出するといい、いまのところ、ソーンダースモローなどの名前があがっているようだ、と書かれている。
ESPN、SI.comともに、シアトルがトロントにオーモントを放出するのは確定と書いているだが、オーモント以外のプロスペクトをトロントに提供するのは、ESPNではシアトルではなく、フィラデルフィアになっており、情報が混乱している。
もしSI.comの言うようにソーンダースが放出されることになれば、シアトルはどこかでレフトを守れる選手を獲得しなければならないことになる。

フィラデルフィア
IN ロイ・ハラデイ(from TOR)、プロスペクト(from SEA)
Philadelphia, which would also get prospects from Seattle
ソースは上記SI.comのリンク
OUT クリフ・リー(to SEA)、プロスペクト(to TOR)

トロント
IN プロスペクト(from PHI) ?(from SEA)
OUT ロイ・ハラデイ(to PHI)

上のリストを見るとわかることだが、もしSI.comの説明をマトモにとると仮定すると、トロントは大投手ハラデイ放出するにもかかわらず、シアトルとフィラデルフィアの2チームから得る見返りが少なすぎて、トロント側の損失が大きすぎる。損得勘定からいうと、シアトルからプロスペクトを獲得するのでなければ、勘定があわない。
つまり、この三角トレードの細部はまだ情報が錯綜しているように、まだ決まっておらず、大筋が決まっただけらしい、ということになる。
もしかすると、SI.com説では、シアトルからフィラデルフィアに行くプロスペクトは、フィラデルフィアを経由して、トロントに行くのかもしれないが、そこはまだよくわからない。


追記
ソース(3)
 →正確
ESPN Buster Olney による説明
Sources: Roy Halladay, Philadelphia Phillies agree on deal - ESPN
Buster Olneyは、ESPN The Magazineのシニア・ライター。Jayson Starkなどの記事をベースに書き起こしたものらしい。
フィラデルフィア GET ハラデイ+プロスペクト3名+キャッシュ
RHP Roy Halladay (from Toronto)
RHP Phillippe Aumont (from Seattle)
OF Tyson Gillies (from Seattle)
RHP Juan Ramirez (from Seattle)
$6 million cash (from Toronto)

シアトル GET クリフ・リー
LHP Cliff Lee (from Philadelphia)

トロント GET プロスペクト3名
C Travis d'Arnaud (from Philadelphia)
RHP Kyle Drabek (from Philadelphia)
1B/3B Brett Wallace (from Oakland)

オークランド GET プロスペクト1名
OF Michael Taylor (from Philadelphia via Toronto)



疫病神のコネ捕手がいなくなったシアトルがますますパワーアップしていく(笑)城島がいかにシアトルの足かせになっていたかが、よーくわかる。






damejima at 07:34

November 05, 2009

終わってみれば、フィリーズは本当にもったいないことをした。

クリフ・リーがワールドシリーズ2勝目を挙げた第5戦で、楽勝のはずのゲーム終盤の点のとられ方がよくなく、ヤンキースに、これはニューヨークに帰りさえすれば勝てる、と思わせたのは残念と書いたが、やはりそのとおりになってしまった。

第7戦でヤンキースをみたび青ざめさせるクリフ・リーを見たかった。

"I expect to be back here next year," Lee said. "There's no reason why we shouldn't be." 「来年ここに戻ってくるつもりだ。そうできない理由など、何もない」(クリフ・リー)

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年11月2日、クリフ・リー、ワールドシリーズ第5戦での「ゆるい」2勝目。

Philadelphia vs. NY Yankees - November 4, 2009 | MLB.com: Gameday

Boxscore: Philadelphia vs. NY Yankees - November 4, 2009 | MLB.com: News

まとめて言うなら、フィリーズは結局「ヤンキーススタジアムを理解しそこねた」。


まず、第6戦のフィリーズ打線は、「ボールを見ていく」というミスを犯したように思う。
ぶっちゃけヤンキーススタジアムは、「振って、放り込んでなんぼ」のスタジアムだ。今日のライアン・ハワードの2ランホームランも、セーフコなら間違いなくホームランにはならない。外野手の守備も軒並み上手くない、思い切りバットを振ればいい球場なのに、フィリーズ打線は振ってこないのだから、見ていてまるで怖さを感じないのだ。

ペティットを早めに降ろしたいという意図でもあったのかもしれないが、もどかしいくらいバットを振らなかった。四球数が多かったのもそのためだと思うし、けして誉められた作戦ではないと思う。
終盤にハーフスイングの三振が目立ったように、三振するにしても積極性が出た三振ではなく、打ってヒットする、長打をもぎとる、という感じが伝わってこないのでは、いくらヤンキースのセットアッパーがしょっぱいといえど、投手は怖さを感じなかったと思う。


点がとれるのはチェイス・アトリーとイバニェスのバットしかないと思ってゲームを見ていたが、今日のアトリーは何かが変だった。積極性がなく、甘い球を見逃した。
特に7回表の2死1、2塁での彼は、2球目の真ん中に入ってきた甘いカーブになんの反応もせず、3球目のクゾボールのスライダーをいつもの彼らしくないハーフスイングをして3球三振。本当に痛かった。
だが、もっといけないのは5番のワースだろう。2四球選んではいるわけだが、結局ゲームが佳境に入った6回、8回に2三振して、ゲームセットのムードを作る原因になった。ともかく、どういうわけか、まるでバットを振らない。特にプレイオフレコードの13三振を記録していた4番ライアン・ハワードに待望のホームランが出た6回の追い上げムードの場面での見逃し三振は、もしかすると、と思わせたチームのムードを一気に冷えさせた。

結局長打でじわじわ得点を稼いでくるバッティングのNYYを相手にした、ヒヒッターズパークのヤンキーススタジアムのゲームでは、先発投手がクリフ・リーででもないのなら、当然打撃戦になる。狭い球場だし、凡退を恐れずに積極的にバットを振っていくべきだったと思う。
なにせ新ヤンキーススタジアムは、東京ドームのつぶれた形の右中間左中間と同様、右中間フェンスの膨らみがないと言われている球場だ。
ビジターがあまりにボールを見すぎても、結局意味がなかった。


もうひとつは打順の問題
特に、今日2本の二塁打を売ったイバニェスの打順がいけない。

2009ワールドシリーズでのフィリーズ打線に限っていうと、
.280以上打っているのは、わずか3人しかいない。長打の大半も、この3人が打っている。打順に注目してもらいたい。(順序は打率順)

9番ルイス   .333 ホームラン1 二塁打2
6番イバニェス .304 ホームラン1 二塁打4
3番アトリー  .286 ホームラン5 二塁打1

2009ワールドシリーズにおける
フィリーズ打線の打撃スタッツ

Philadelphia Phillies Stats ― Sortable Statistics | phillies.com: Stats


打てるバッターの打順が、3、6、9と、きれいに3人ずつ離れている。
また、2番、4番、7番と、打率1割台と不調のバッターが、打てる3,6、9の間に、ちょうどそれぞれ挟まってしまっていて、打線が切れ切れになっている。

これでは効率よく点が入るわけがない。


打順を組み替えるべきだった。
キャッチャーのルイスはまぁともかく、動かそうと思えば打順を動かせるイバニェスは、今シーズン一時は上位打線を打っていたわけだし、6番に置きっぱなしは、あまりにもったいなさすぎた。短期決戦では、実績より、その日、そのときに調子のいい選手を使う、という鉄則にはずれている。

あと、細かいことを言えば、負ければ終わりというゲームなのだし、ペドロ・マルチネスの見切りの遅さ、パク・チャンホの投入のタイミングの遅さなどなど、監督チャーリー・マニュエルの後手後手に回る投手交代もよくなかった。



それにしても、イバニェスの今日の8回表の二塁打は本当に素晴らしかった。
ファウルを5球打って、9球目まで粘り、センターの頭を越した。イバニェスは元々がア・リーグのシアトルにいたから、ヤンキーススタジアムの特性も、あの場面で自分に求められている役割もよく頭に入っている。この場面、この球場では、ボールを見るよりバットを振って大きなチャンスのきかっけにならなければという彼らしい使命感とア・リーグでの経験が、あの粘りになっていたのだと思う。


長い2009シーズンがこれで終わった。
シアトルにとってひさびさの城島のいない
記念すべき2010シーズンが始まった。







damejima at 16:42

November 03, 2009

ストライクをストライクととってくれないアンパイアに終始苦しんだクリフ・リーが、ある意味予定通りのワールドシリーズ2勝目を挙げるには挙げたのだが、なんとも締まらない幕切れ。8回裏にやすやすと3点をとられて降板し、自責点は合計5点になってしまったのはいただけない。ワールドシリーズ第1戦の、あの高いテンションが今日はなかった。

何が冷静なクリフ・リーを切れさせたのだろう?

ピンチとはいえ6点差で続投させてもらえなかったことが不満だったというのは、あたらない。8回最初のバッターへの投球からして、理由はわからないのだが、クリフ・リーの内側の何かがプツンと切れていた。アンパイアへの不満というわけでもないと思うし、よくわからない。

フィラデルフィアにとってはニューヨークでの連戦に暗雲の漂う勝ちになってしまった。

ラウル・イバニェスがタイムリーとソロ・ホームラン。さすが。彼のバットが火を噴かないと、ちょっと逆転優勝はむつかしいだけに、その点は期待がもてる。
NY Yankees vs. Philadelphia - November 2, 2009 | MLB.com: Gameday

ワールドシリーズに限らず、こういうアンパイアのストライクゾーンが異常に辛いゲーム、というのはレギュラーシーズンでも、たまにある。片方のチームにだけ辛いならブーイングものだが、今日のアンパイアは両方のチームに辛かった。低めをはじめ、きわどいボールがかなりボール判定されていた。あれではバッテリーもきつい。

クリフ・リー側からみていくと、もしアンパイアのコールがほんのちょっとでも緩ければどんどん三振がとれていたはずで、第一戦同様、三振をバシバシ奪うパターンに持ち込めただろう。だが、今日のアンパイアではそれは無理だった。
そこで、クリフ・リーは高めの球を使うことに頭を切り替え、フライを打たせる作戦に切り替え、7回までは安心して見ていられた。

一方、ヤンキースの先発バーネットも、かなりの球をアンパイアにストライクをボール判定されて苦しんでいたわけだが、バーネットはクリフ・リーと違って、厳しい判定をこらえる精神的なタフネスも、別の配球パターンに切り替える技術や引き出し、球威も足りず、結局、ストライクをとりにいったコントロールが甘い高めのストレートをフィラデルフィア打線に狙い打ちされ、好調チェイス・アトリーなどにつかまってしまった。

2人の投手の「度量の差」が結果に出たゲームだった。


とは、いうものの。
今日のゲームは、誰が考えても、本来フィラデルフィアが最後まで楽勝ムードを維持して、ヤンキースを気分的にブルーにさせたまま終わらなければならなかったゲームのはず。
それが、最後の8回9回で結局4点もあっけなく与えてしまい、ヤンキース側からすれば、「ああ、これはニューヨークに帰れば、間違いなく勝てる」と余裕をもたれてしまった感じ。
第6戦、第7戦はフィラデルフィアの先発投手がどうみても不安。楽勝ムードをゲーム後に残せなかったのが、非常にもったいない。

クリフ・リーも、サバシアも、もう先発できないわけだから、とりあえずはペドロ・マルチネスとペティットの力の差がどれだけあるかにかかってきた。



damejima at 14:01

October 29, 2009

素晴らしい。
クリフ・リーという大輪が秋の大舞台に咲いた。

無四球。ヤンキースのクリンアップから7三振を奪い、合計10奪三振。しかも、122球、完投
まる左腕のロイ・ハラデイである。

2008年サイ・ヤング賞投手の苦労人クリフ・リーは、2009年サイ・ヤング賞候補フェリックス・ヘルナンデスに並ぶレギュラーシーズン19勝(ア・リーグ最多勝タイ)で、ア・リーグ優勝決定戦でも、あのLAAですらまったく寄せ付けなかったクリーブランド時代の同僚で2007年サイ・ヤング賞投手のCCサバシアとの新旧サイ・ヤング賞投手同士の白熱の投げあいにも、また、強打を誇るヤンキース打線にも、まったく動じなかった。
ゲーム後のインタビューを見てもわかるが、冷静そのもの。興奮などありえない、とでもいわんばかりの飄々とした喋り。なんともクールな男である。
クリフ・リーの10奪三振(動画)
Baseball Video Highlights & Clips | WS 2009 Gm 1: Lee dominates the Yankees - Video | MLB.com: Multimedia

このゲームの6回裏、ヤンキースのジョニー・デーモンのピッチャーフライをクリフ・リーが捕るシーンがあるのだが、これは、どんな忙しい人でも、今日これからデートがある人でも、野球好きなら、ぜひぜひお薦め。いや、絶対に見るべきだ。このゲームがどんなゲームだったか、ひとめでわかる

揺るがない男、クリフ・リー。
「ミスター・コンプリート」である。


クリフ・リーの
「クール・フライ・キャッチ」&背面ゴロ・キャッチ(動画)

Baseball Video Highlights & Clips | WS 2009 Gm 1: Lee makes two plays look easy - Video | MLB.com: Multimedia

Baseball Video Highlights & Clips | Cliff Lee on "cool" defensive plays in Game 1 - Video | MLB.com: Multimedia

クリフ・リーの動画検索(MLB公式)
Multimedia Search | MLB.com: Multimedia


また、この試合でイチローの元チームメイトのラウル・イバニェスは、6番DHで先発出場。
2-0と、フィリーズが2点リードして迎えた8回表の2死満塁で、セットアッパー、ロバートソンの6球目のカーブをライト前へ見事に2点タイムリー。フィラデルフィアのリードを4点に広げて、ゲームをほぼ決定づけた。
まさにシアトル時代そのままの、このクラッチぶり。ほんとうに嬉しい。このままイバニェスがチャンピオン・リングをゲットしてもらいたいものだ。
フィリーズ側の記事
Complete Lee: Phils ride gem over Yanks | phillies.com: News
ゲームログ
Game Wrapup | phillies.com: News


クリフ・リーが、シアトル出身のサイズモアなどと一緒に、メジャー出場の果たせなかったエクスポズからクリーブランドに移籍してきたのは、2002年。90年代にクリーブランド黄金時代を築き、LAA時代にはイチローとよく対戦したコロン投手とのトレードである。
コロンが活躍した90年代のクリーブランド黄金時代を築いた監督は、シアトルの監督を2005年から2007年7月までつとめ、シーズン途中で「情熱がなくなった」と辞任した、あのマイク・ハーグローヴそのひとである。

また、クリフ・リーがフィラデルフィアにやってきた2002年のクリーブランドの監督は、2000年に就任していた元ヤクルト・スワローズで、現フィラデルフィア監督のチャーリー・マニュエルだ。
クリーブランド監督時代のマニュエルは、2001年にクリーブランド新人時代のサバシアのメジャー昇格を強く推した人物で、サバシアは期待に応えて17勝を挙げる活躍をみせ、チームは地区優勝した。
だがプレイオフでクリーブランドは、イチローがメジャーデビューし最高勝率を上げていたシアトルにプレイオフで敗れ、また、新人王争いでは、天才イチローがサバシアに投じられた1票を除いて全票を得て新人王を受賞。クリーブランドとサバシアは、イチローに敗れた。
2002年にはシーズン途中に成績不振からマニュエル監督はクリーブランドを去った。
2005年以降はチャーリー・マニュエルはフィラデルフィアの監督なわけだから、クリフ・リーにとってのチャーリー・マニュエルは、クリーブランドでメジャーデビューした当時の監督でもあり、また、フィラデルフィア移籍後の監督でもあるという、奇妙な縁である。

移籍後のコロンは、2002年にモントリオールで20勝し、2005年にはLAAでサイ・ヤング賞受賞と、トレード後も大活躍したわけだが、交換相手のクリフ・リーも2008年にサイ・ヤング賞投手になり、またサイズモアはトリー・ハンター以降のア・リーグを代表するセンタープレーヤーに成長したわけで、このときのトレードは、結果的に、サイ・ヤング賞投手同士のトレードにサイズモアという、なんとも豪華なトレードであり、いったいどちらのチームが得をしたのか、わからないほど充実したトレードだったといえる。

クリーブランドは、2007年にプレイオフ進出を果たしているが、このときクリフ・リーは故障明けでロスターからはずされたため、登板していない。故障明けの2008年にサイ・ヤング賞と同時にカムバック賞も受賞しているのは、そのため。
だからクリフ・リーにとって強豪フィラデルフィアに移籍した今年が、彼の最初のプレイオフにおける登板であり、また、最初のワールドシリーズ登板だった。
彼はその初めての大舞台で、悠然とパーフェクトな結果を残したのであるからよけいに素晴らしい。

クリフ・リーは「本物」だった。
ランディ・ジョンソンマダックスハラデイといった投手たちがもつ「大投手」という称号をもつのにはひとつ足りなかった、大舞台での活躍という結果を加え、サイ・ヤング賞投手に続いて彼自身が大投手に一歩近づいた。

クリフ・リーのポスト・シーズンの成績
Cliff Lee Postseason Statistics | phillies.com: Stats
クリフ・リーのキャリアスタッツ
Cliff Lee Career Statistics | phillies.com: Stats
クリフ・リー略歴(日本語)
クリフ・リー - Wikipedia


その大舞台で、このピッチング。素晴らしいとしかいいようがない。
フィリーズ公式サイトの見出しはComplete Lee、「完璧なリー」。

かつてウオッシュバーンが1安打ピッチング、つまり準完全試合を達成したときにもブログからThe Pitchという称号を進呈したが、今日のクリフ・リーには、このブログからも「ミスター・コンプリート」という称号を贈りたい。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:"The Pitch " achieved by Washburn & Rob Johnson in 2009



こんな完璧なクリフ・リーだが、2002年9月15日のメジャー最初の登板では、初登板初先発で5回1/3を投げ、2安打自責点1と、まだマウアーがメジャーデビューする前のミネソタ・ツインズ打線を抑えた。
にもかかわらず、味方打線がボストン移籍前のココ・クリスプのヒットなどわずか3安打とまったく冴えず、そのたった1点の失点のために負け投手となっている。その後のクリフ・リーの、「投げても投げても、チームが弱いために、優勝はできない」という苦しい運命を暗示するようなゲームだった。
2002年9月15日のクリフ・リーのデビューゲーム、クリーブランドのスタメンは、こうなっている。かつてシアトルでイチローと一緒にプレーしたベン・ブルサードがクリフ・リーのメジャーデビューゲームに8番レフトで先発出場している。
このゲームでの先発メンバーのうち3人が2003年から2004年に引退していることや、残りの6人も現在は誰ひとりとしてクリーブランドに残っていないあたり、当時のクリーブランドというチームの戦力の先行きの下り坂ぶりを予感させている。
September 15, 2002 Minnesota Twins at Cleveland Indians Play by Play and Box Score - Baseball-Reference.com

C Crisp CF ボストン、カンザスシティに移籍
O Vizquel SS サンフランシスコ、テキサスに移籍
E Burks DH 2004年古巣ボストンで引退
J Thome 1B フィラデルフィア、シカゴ等を渡り歩く
K Garcia RF 2004年引退
B Selby 3B 2003年引退
J Bard C サンディエゴ、ナショナルズに移籍
B Broussard LF シアトル、テキサスに移籍
B Phillips 2B シンシナティに移籍


クリーブランド時代のクリフ・リーが、なかなかプレイオフに出場できないチームのなかでひとり輝きを放ちながら黙々とプレーし続けた時代は、どこか、さえないシアトルというチームでオールスターに出場しつづけながら頑張っているイチローの姿にダブる部分がある。

クリフ・リーは、ワールドシリーズの重圧に負けずに、初舞台で素晴らしい結果を残し、たとえ下位チームに属していても、「本物は、やはり本物であること」を証明してみせた。

孤高の天才イチローにも、早くこういう、ワールドシリーズで本物の本物たるゆえんを見せ付ける日が訪れてくれることを願ってやまない。






damejima at 16:21

October 19, 2009

ずっとこのブログで取り上げてきた、あのクリフ・リーがNLCS、ナ・リーグ優勝決定戦の第3戦に先発した。黒田には申し訳ないのだが、結果は最初からこうなる、つまり、大差がつくと思っていた。サイ・ヤング賞投手クリフ・リーと黒田では、モノがあまりにも違いすぎる。
まだゲームは続いているが、10奪三振、無四球。クリフ・リー快刀乱麻で、フィリーズの勝ちは間違いない。
Phils back Lee's gem in Game 3 rout | phillies.com: News

LA Dodgers vs. Philadelphia - October 18, 2009 | MLB.com: Gameday

クリフ・リーの素晴らしいピッチングで特に圧巻だったのは、7回の1死2塁から、マニー・ラミレス、マット・ケンプを連続三振にうちとったシーン。たいへんいいものを見せてもらった。

このゲームでクリフ・リーが7回までに打たれたヒットはわずか3本しかないが、うち2本がマニー・ラミレスである。だがマニーにはヒットを打たれた、というより、長打を許さず、ドジャース打線を調子づかせないピッチングを徹底したと言えるわけで、これはこれで成功である。たとえマニーにシングルを打たれても、次の打順のケンプさえ抑えておけば、フィリーズ側にとって何も問題はない。

しかしながら、こと、この7回の1死2塁に関してだけは、マニー・ラミレスに対するクリフ・リーの気合と気迫が違った。「絶対に三振させてやる!」という、なんとも激しいオーラがクリフ・リーから発せられていた。

案の定、ラミレス、ケンプ、2者連続三振。

2009年10月18日 5回無死1塁クリフ・リー ケンプをカーブで三振ナ・リーグ優勝決定戦 第3戦
5回表 無死1塁
マット・ケンプ 三振

これは5回のケンプの三振。最後はインローのカーブで三振していることに注目。この目に焼きついたカーブを、次の打席でこんどはボール球として有効に使い、ケンプを翻弄した。素晴らしい配球。


2009年10月18日 7回クリフ・リー マット・ケンプを三振ナ・リーグ優勝決定戦 第3戦
7回表 2死2塁
マット・ケンプ 三振

7回の2死2塁では、ケンプへの3球目にカーブを真ん中低めに落としておいて、4球目のチェンジアップを同じ軌道で投げて追い込んだ。4球目はド真ん中だったが、5回にカーブで三振している後では、この同じ軌道の球にケンプは手が出せない。クリフ・リーのスーパー・テクニックだ。


カーブはマット・ケンプにだけ投げたわけではなく、他の打者にも投げている。だが、上に挙げた画像からわかるようにを、5回表の無死1塁の打席でケンプは「高めの球で追い込まれ、最後は低めいっぱいのカーブで空振り三振」している。ここが重要。
きっとケンプの目とアタマには「カーブの軌道」が焼きついたことだろう。


7回のケンプの三振でも、3球目にカーブを投げたが、こんどは「真ん中低めに落ちてボールになるカーブ」。使い方が、あまりにも素晴らしい。
ほれぼれするとは、このこと。クリフ・リーの「ド真ん中を打者に振らせない配球」、コントロールの良さ、変化球のキレ、そしてなにより、マウンドでの落ち着きと気迫。全てが素晴らしい。

3球目カーブの次に、4球目としてチェンジアップを、ほぼド真ん中低めのホームランコースに投げているわけだが、打者ケンプはあっさり見逃して、カウントを追い込まれている。
4球目のド真ん中を打者に振らせないで、見逃させることができたのは、3球目のカーブがあるからだ。「5回に三振をとったカーブを、こんどはボール球として利用」して、こんどはチェンジアップを「同じボールの軌道からど真ん中にほうりこむこと」によって、打者にバットを振らせなかったのである。

3球目と4球目は、打者目線で、「ほぼ同じ軌道」で来る。そこがポイントだ
3球目のボールになるカーブが75マイル。そして、4球目の、ほぼド真ん中のチェンジアップが85マイルで、球速にさほど差がない。
「前の打席での三振、そしてこの打席での3球目・・この4球目も真ん中低めに落ちてボールになるのでは・・・?」と、打者ケンプがバットを出しかねて迷った瞬間に、すでにボールはすっぽりキャッチャーのミットに納まっている、という次第だ。

素晴らしい。

このブログで、メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノートというシリーズで、「カーブを有効にするための高めのストレートの使い方」という研究例を挙げた。
これは、まず「高めのストレート」を投げておいて、次に「カーブを同じ軌道に投げ」、2つの球の軌道をかぶらせることで打者の目をくらませて、凡退させる、という「軌道のオーバーラッピング」の手法。
この記事はもともと、低めの球を最初から最後まで投げ続けるような低脳なリードを批判し、高めの球を有効に使う例として挙げたものだ。この記事だけでなく、シリーズ全体を読んで意図をしっかり読み取ってほしい。

上に挙げた5回表無死1塁で登場したケンプの三振でも、クリフ・リーはさんざん高めの球を使ってケンプを追い込んでおいて、それから決め球として、インローいっぱいにカーブを投げ、空振り三振させている。高目を有効に使って、最後のカーブに誘導したのである。
コネ捕手城島のごとく、「ピンチではアウトローに投げていれば打ち取れる、かもしれない」などという低脳リードは、意味のわからない迷信、ただの馬鹿リードだ。
今日の黒田にしても、初回1死から連打されたシングルはどちらも「アウトコース、コーナーいっぱいの球」。ハワードの三塁打が「真ん中低めの直球」。ワースの2ランが「アウトコース低めの直球」。臆病さと「低めという迷信」にとらわれている上に、工夫も知恵も足りない。

メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:カテゴリー:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート

クリフ・リーの使った「投球の軌道を打者の目から見てダブらせるテクニック」は、カーブを真ん中低めに落としておいて、それから同じ軌道をつかって、こんどはチェンジアップ、つまり、カーブほど曲がらない変化球を「ド真ん中に投げて、しかも振らせないことに成功している」のである。

クリフ・リー。さすが名投手である。
アウトローのスライダーしか頭にないコネ捕手城島などに、これほどのハイレベルの配球ができる可能性は、まさに「ゼロ」である。

ちなみにクリフ・リー。114球投げて、ストライクは76球。ボールは、そのピッタリ半分の38球。つまり、「ストライク2に対して、ボール1」。ぴったり、セオリー通りのピッチングである。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月5日、ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を解き明かす。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月6日、ヘルナンデスと松坂の近似曲線の違いから見た、ヘルナンデスの2009シーズンの抜群の安定感にみる「ロブ・ジョンソン効果」。

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October 16, 2009

Philadelphia vs. LA Dodgers - October 15, 2009 | MLB.com: Gameday

さすーが、ラウル。
満員のドジャーズ・スタジアムをすっかり静まり返らせてしまった(苦笑)
あれはわかってないと打てない球速だ。ぜひ彼には「投手が元同僚のシェリルだから、初球はスライダーとわかっていたのか?」と聞いてみたいものだ。


いま、まさにシアトルからワールドシリーズチャンピオン、フィリーズに移籍したラウル・イバニェスが、シアトルからボルチモアへ、さらにドジャースへと「栄転」移籍したジョージ・シェリルから、初球のゆるんゆるんのスライダーを、ライトスタンドへ3ランを打った。これでフィリーズのリードは4点。(そのあと、ドジャースが2点返した)
両方とも大好きな選手だけに、複雑な気分だ(苦笑)シェリルが緊迫していたゲームを壊してしまったのは残念だが、次の登板機会では本来の実力を見せてもらいたい。
イチローとのコンビでたくさんの打点を挙げてくれたイバニェスが活躍するのを見るのは、とても嬉しい。四球を出した後に打席に入った打者が初球ストライクをとりにくる球を強振する、まさしくセオリーどおりのプレーなのだが、こういう基本に忠実なプレーがとても大事なのであって、こういうセオリーどおりのプレーがきちんとできるのがラウル・イバニェスの素晴らしさだ。

もしこのゲームがフィリーズの勝ちで終わるなら、フィリーズの勝因は、攻撃ではもちろんイバニェスの決勝3ランだが、守りの面でも、大チャンスで二度打席に立ったマニー・ラミレスを徹底的にインコース攻めしたフィリーズのバッテリーワークが見逃せない。
全体にドジャーズ打線は、高めのボールになる96から97マイルのストレートを空振りしすぎる。貴重なチャンスを何度も潰した。この点は絶対に修正しないと、2戦目以降にも間違いなく同じ目にあう。


イバニェスがワールドシリーズに出られるような強豪チームで活躍できたのはうれしい。彼がシアトルに残らなかった、というより残れなかったのは、彼の複数年契約のための予算がシアトル側になかったため、というようなことらしい。コネ捕手城島に無駄な大金を使うくらいなら、なぜ技術だけでなくマインドも素晴らしいプレーヤーである彼に使わないのか。残って欲しかったプレーヤーのひとりである。まったく3年24M、無駄金を使ったものだ。


ちなみに、このシリーズ、第3戦のフィリーズ先発はサイ・ヤング賞投手クリフ・リー。楽しみである。クリフ・リーの嫌ったビクター・マルチネスを正捕手にしたボストンはほぼ無抵抗に敗退したが、クリフ・リーを獲得したフィリーズはリーグ優勝を争って戦っているのだから、クリフ・リーも移籍したかいがあったというもの。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:クリフ・リー関連(ビクター・マルチネス含む)






damejima at 12:21

September 16, 2009

クリフ・リーがナッツ、ワシントン・ナショナルズを124球で完封して、14勝目。
124球のうち、ストライク84、ボール40。ゲームは見ていないのだが、ストライク率の高さから、抜群の安定感だったことはわかる。ナッツは散発の6安打。

Washington vs. Philadelphia - September 15, 2009 | MLB.com: Gameday

クリフ・リーの勝敗はこうなった。
移籍前 7勝9敗
移籍後 7勝2敗

Cliff Lee Career Statistics | phillies.com: Stats

今シーズンのナ・リーグのサイ・ヤング賞は、リンスカムで決まりだろうけれども、来シーズンには(防御率をもうすこし改善できるなら)クリフ・リーにもチャンスが巡ってくるのではないだろうか。






damejima at 12:05

August 28, 2009

クリフ・リーに忌み嫌われたビクター・マルチネスがボストンに移籍したおかげで、田沢とマルチネスのバッテリー、なんていう、ちょっと面白い見世物(笑)が実現するのだから、メジャーはやっぱり面白い。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:クリフ・リー関連

これを書きだしたのは3回途中だが、まぁ、田沢、見事なくらいボッココボコにメッタ打ち(笑)打たれた原因は田沢本人にあって、あまりにもカーブのコントロールが無い。もともと球種が少ないのに投げられる変化球がなくなってゲームを壊したのは、まぎれもなく田沢自身の責任なのだが、そこへきてキャッチャーがビクター・マルチネスときているから、泥沼だ(笑)
Chi White Sox vs. Boston - August 27, 2009 | MLB.com: Gameday


予兆は、初回のピアジンスキーの打席にあった。
たまたまカーブがワンバウンドしたのだが、たまたま指におかしなかかり具合をするならよくあることだが、実際には今日の田沢のカーブは既に死んでいた。
これは最初にハッキリさせておかなければならないのだが、この日の乱調ぶりの責任は田沢にある。だが、その「乱調な投手をどう扱うか」という点で、ビクター・マルチネスの笑える対応ぶりが火に油を注いだ。

2009年8月27日BOS田沢1回ピアジンスキーへのカーブ1回表 ピアジンスキーへのワンバウンド

2球目のインローのボールになるカーブで偶然に空振りがとれてしまったために、次の球も、あろうことか、また同じコースにカーブを投げている(笑)
こういう「空振りをとれた同じコースに、すぐにまったく同じ球を2球続ける」とかいうリードをどう考えるかはその人次第だが、当ブログとしては失笑させてもらった(笑)こういう馬鹿リードはコネ捕手城島の得意技のひとつだが。まぁ、こんな失笑リードでピアジンスキーを打ち取れてしまったのが、かえって、2回以降のメッタ打ちの伏線になった。


田沢の変化球、特にカーブに全くコントロールが無いことが確定するのは2回のトーミの打席。3球目から5球目まで、3連続ワンバウンド。それでもビクター・マルチネスは「カーブ」を要求し続けるのだから、ある意味、たいした人物だ(爆笑)やっぱり大物はやることが違う(笑)投手の異変にまるで気がついてない。

2009年8月27日BOS田沢2回トーミへの3連続ワンバウンド2回トーミへの
3連続ワンバウンド


トーミへの3球目に投げたカーブがワンバウンドなのだし、いい加減ビクター・マルチネスも気がつけばいいものを、4球目、5球目と、続けて変化球を投げさせて3連続ワンバウンド。
もちろんキャッチャーとしては、変化球のコントロールが悪いからといって全く投げさせないわけにはいかないのだから、とにかくドンドン変化球をほうらせて、投げる中でコントロールを上げていく、というやり方もある。
だがビクター・マルチネスの1回のピアジンスキーの攻めをみていればわかるように、このオッサンは城島同様、一度投げてボールになると、悔しいのかなんだか知らないが、また同じコースを続けて要求しているだけ、ただそれだけである(笑)ワンバウンドしようが、なんだろうが、おかまいなしにサインを出しているだけ。ただそれだけ笑)
で、最後は投げる球がなくなって、ストレートを投げ、シングルを打たれた(笑)

おまけ:4回のトーミ
4回2死1塁。懲りもせずに入りもしないカーブを2連投してストライクがとれず、苦し紛れの3球目ストレートをまたもや狙い打ちされて、タイムリー・ツーベース(笑)



ビクター・マルチネスがどういうキャッチャーがさらによくわかるのは、トーミにシングルを打たれノーアウト1、2塁になった後のクエンティンの打席で、「カーブを3球連続要求したこと」だろう。おまえは城島か?(爆笑)
このキャッチャー、田沢のカーブのコントロールがまったく無いことが頭に無い(笑)

2009年8月27日BOS田沢2回クエンティンへの投球の乱れ2回 無死1、2塁
クエンティンへの
「3連続カーブ(笑)」


5球目のカーブはワンバウンド、そして、6球目のカーブは打者の頭の上を通過。普通のバッテリーなら、ここでこれだけ悪い球種なぞ投げないものだ。だが、ビクター・マルチネスが7球目に要求したのも「カーブ(笑)」。ワンバウンド、頭の上、それでも、カーブ(笑) ああ、腹痛い、笑いがとまんね(笑)
で、最後はまたしても投げる球がなくなり、ストレートをほおったところ、デッドボール(笑)もちろん大量失点につながった。

おまけ:次打席3回のクエンティン
3回1死1塁。またしても初球からカーブを2連投(笑)2球目を狙われて2ランホームラン。ここまでくると、笑い話だ(笑)

正直、ここまで打たれると、かえって心地よい。「ええい、とことんカーブ勝負だ、ボコボコにメッタ打ちになって30点とられてしまえ、田沢」(笑)

これからも田沢のときのキャッチャーはぜひビクター・マルチネスでお願いしたいものだ。






damejima at 09:34

August 27, 2009

7月末にクリーブランドからイバニェスのいるフィリーズに移籍したクリフ・リー赤丸絶好調だ。

8月にはいって、4登板で31イニングも投げて、自責点はわずか2点、四球たったの4つで、4連勝。ホームランは1本も打たれていない。三振も31イニングで33、ほぼ毎回奪三振。8月19日などは、106球で、2安打無四球完投勝ちなんていう、準完全試合まがいの離れ業まで披露している。
8月の防御率はなんと0.58。4連勝も当然だろう。

これで移籍前の3連勝と、移籍後の5連勝とあわせて、なんと8連勝、7月初旬にはまだ7勝9敗だった今年の勝ち負けを、一気に12勝9敗までもってきてしまった。

偉大なるクリス・カーペンターが8月5連勝しているが、月間ERAは2.08だし、ロッキーズのヒメネスも8月5連勝中だが、月間ERAは1.63。ナ・リーグ8月の月間最優秀投手は、今月あと1勝すれば、文句なく防御率1点以下のクリフ・リーで決まりだろう。
クリフ・リーの2009年全登板ゲーム
Cliff Lee Stats, News, Photos - Philadelphia Phillies - ESPN
8月のナ・リーグ勝ち星ランキング
MLB Baseball Pitching Statistics and League Leaders - Major League Baseball - ESPN

2009年7月16日、城島は試合序盤、投手オルソン、ジャクバスカスがモーションに入ってもミットを構えず、ゲームのリズムを壊した。(サイ・ヤング賞投手クリフ・リーがなぜショパックを指名捕手にしたか 解説つき)


さて、クリフ・リーでたびたび話題にしてきた「キャッチャー問題」だが、やはり、フィリーズでも面白いことになった。


クリフ・リーはクリーブランド時代、打撃型のキャッチャー、ビクター・マルチネスを拒否し、かわりにショパックを指名捕手にして、2008年のサイ・ヤング賞を獲得したわけだが、フィリーズに移籍後は、さすがに正捕手であるカルロス・クルーズが彼のボールを受けるのかとばかり思っていた。
2009年7月29日、サイ・ヤング賞投手クリフ・リーのフィリーズ移籍に、ヘルナンデスはじめシアトルのローテ投手の契約更新における「城島問題」の大きさを見る。

しかし、移籍後のクリフ・リーは一貫して、控え捕手のポール・バコを相手に投げ続けて5連勝負け知らずなのである。
まぁ、いってみれば、クリフ・リーも、クリーブランド時代にビクター・マルチネスに泣かされた苦い経験が生きて、「自分にあうキャッチャーは、早めにみつけて、必ず指名してしまう」ことにでもしたのだろう。
投手成績にとっての捕手との相性の大事さをよく知るクリフ・リーならではの早業である。

ポール・バコ キャリアCERA等
Paul Bako Stats, News, Photos - Philadelphia Phillies - ESPN
ポール・バコ 2009ゲームログ
Paul Bako Stats, News, Photos - Philadelphia Phillies - ESPN


ポール・バコは、まったく知らないキャッチャー。キャリアを見るとタイガースを皮切りに、12年目というキャリアで11チームを渡り歩いてきた、いわば「流しのキャッチャー」というべきジャーニーマン。CERA的には、2003年2004年のシカゴ・カブス時代が最も良く、2年続けて3点台を記録してはいる。

バコがフィラデルフィアでメジャーに上がったのは2009年6月だが、この月はフィラデルフィアは負け続きで、7連敗するなど調子がよくなかった。
ところが、7月に入ってバコが頻繁にマスクをかぶりだしてから、フィラデルフィアは一変。バコ先発ゲームだけで11勝もした。
特に7月8日から11日にかけての4連勝は(7月9日はクルーズ先発。代打がでて、キャッチャーがかわった)オールスターを前にしたチームに大きな変化をつけた。

オールスター後7月のバコは、ローテ投手5人のうち、2人を受ける率で先発し、それなりにゲームを勝っていたのだが、クリフ・リーが移籍してから、どういうわけか、クリフ・リー専属捕手という感じになった。
この間、どういう詳しい経緯があったか、調べてないのでわからないのだが、とにもかくにも、クリフ・リーにしてみれば「これでいいのだ」というところだろう。


正捕手のカルロス・ルイスと、控え捕手のポール・バコ、どちらが攻撃的な捕手か。
シーズン打率2割3分程度のルイスと、1割台のバコだから、比べようが無いといえば、比べようがない。

クリフ・リーにしてみれば、そんな些細なキャッチャーの打撃より、「俺がきちんと投げれば勝つ。だから、別に打たなくていいから、黙ってボールを受けるマトモなキャッチャーを寄こしてくれ」とでもいうところだろう。メジャーの大投手らしい、悠然とした対応である。


ちなみに、クリフ・リー、バッティングも大好きなようで、27打数で5安打、二塁打も2本打っている。OPSは.606。これはシアトルの、かのコネ捕手の2008年のシーズンOPSと、ほぼ同じ(失笑)






damejima at 03:22

July 30, 2009

サイ・ヤング賞投手クリフ・リーがクリーブランドからフィラデルフィアに移籍する直前に、「クリフ・リーが、ビクター・マルチネスとセットで移籍するのでは」なんていう、あまりにも馬鹿げた噂を平然と書いている人を目にした。
シアトルとはなんの関係もない話だが、「城島問題」という「捕手と投手の関係の問題」には大いに関係のある話題ではあるので、ちょっと書いておく。
Phillies land Lee from Tribe | MLB.com: News
クリフ・リーのキャリアスタッツ
Cliff Lee Pitching Statistics and History - Baseball-Reference.com

投手クリフ・リーと捕手ビクター・マルチネスの関係については一度、下の記事に書いたので、多少のデータとリンクはそちらを見ておいてもらいたい。要するに、クリフ・リーは捕手としてはダメ捕手のビクター・マルチネスとのバッテリーを拒否することでサイ・ヤング賞に輝いたのだ。
2009年7月16日、城島は試合序盤、投手オルソン、ジャクバスカスがモーションに入ってもミットを構えず、ゲームのリズムを壊した。(サイ・ヤング投手クリフ・リーがなぜショパックを指名捕手にしたか 解説つき)


そのクリフ・リーが優勝の見込みのないCLEを抜け出すにあたって、ダメ捕手と一緒に移籍?
とんでもない。ありえるわけがない。(笑)
そんなトレード、クリフ・リーが受け入れるはずがない。

だからこそ、クリフ・リーが移籍するとしたら、単独か、誰かと組み合わせになるにしても、ビクター・マルチネスとのセットには絶対にならないと最初から思っていた。案の定、外野手のベン・フランシスコとの組み合わせになった。
まったく、いつになったら「城島問題」はじめ、「捕手と投手の関係の問題」が、ゴリゴリに硬化した旧式の脳の人たちのアタマの奥に浸透するのか、と思う。
やれやれ。


さて、クリフ・リーが移籍する先のキャッチャーは誰なのか。
Carlos Ruiz CERA 4.31
Carlos Ruiz Stats, News, Photos - Philadelphia Phillies - ESPN
WBCのパナマ代表キャッチャーで、打率.230でPHIの正捕手であることからわかるとおり、リード重視の守備型キャッチャーで、ビクター・マルチネスとは対極のタイプの捕手である。クリフ・リーも、カルロス・ルイスならさぞかし安心だろう(笑)
移籍後のクリフ・リーのERAなどのスタッツには、今後も注目していくつもりだ。
ちなみに、カルロス・ルイスのWikiには、「肩にも定評があり2007年は30%を超える盗塁阻止率を記録した。」などと書いてある。彼の今の盗塁阻止率は31.9%、かたやロブ・ジョンソンは30.8%である。
そんな、盗塁阻止率なんていうたいしたことのないスタッツより、2008年のCERA3.84のほうが、よほどカルロス・ルイスを見る上でに重要。だいたいバリテックあたりと同じくらいの数字、なかなか優秀である。

カルロス・ルイスと、クリーブランドの2人のキャッチャーを並べてみると、こうなる。
Carlos Ruiz 4.31
Kelly Shoppach 4.83
Victor Martinez 5.84
もちろんア・リーグとナ・リーグの違いがどう関与するのかわからないし、投手陣の実力も違うわけだから、単純に比較するわけにはいかない。
だが、クリーブランドが真っ先にやるべきトレードは、クリフ・リーを手放すことではなく、ダメ捕手ビクター・マルチネスが売れるうちに一刻も早く見切りをつけて放り出し、どこかのマトモな投手か野手を獲得してくることだったのではないかと思えてならない(笑)

逆に言えば、インディアンスというチームが、「捕手と投手成績の関係の問題」について、関心を十分に払ってこなかった、十分な配慮を怠ってきたことが、サイ・ヤング賞投手が「このチームには先の見込みがない、移籍して、リングを手にしよう」と考えた理由であることは確かだと思う。



ビクター・マルチネスの処遇の誤りで、インディアンスは、ひとりのサイ・ヤング賞投手を失ったわけだが、シアトルにとっても他人事ではない。
ベダードやウオッシュバーンが今期になって「シアトルに残りたい」と言い出した背景には、当然のことながらチーム側から「もう城島とはバッテリーを組まなくてよろしい」とようやくお墨付きが出たということがあるわけで、それはヘルナンデスとの契約についても、当然のことながら、「城島問題」は大きく影響する、という意味になる。

シアトルが、クリフ・リーを失ったクリーブランドと同じ目にあって、ヘルナンデスを失いたくなければ、「城島問題」の処理をさらに強くすすめるべきだ。






damejima at 11:52

July 17, 2009

ビクター・マルチネスが捕手をやるのを嫌ってショパック相手に投げるクリーブランドのエース、サイ・ヤング賞投手クリフ・リーが完投する一方で、シアトルはエラーをしまくって負けた。どうにもこうにも、バッテリーにテンポが無く、ゲームのリズムが悪すぎる。
4点リードしている側のクリーブランドの観客さえ、あまりのゲームのテンポの無さに退屈してウェーブをやって退屈をまぎらしたくらいだから、相当なものだ。
Seattle vs. Cleveland - July 16, 2009 | MLB.com: Gameday


ある意味、クリーブランドとの対戦は楽しみにしていた。
なぜって、コネ控え捕手城島型キャッチャーともいうべきビクター・マルチネスがいるからだ。同じタイプのキャッチャー同士の対戦というわけだ。もし投手がクリフ・リーでなければ、だが。


今シーズンはここまで45ゲームにキャッチャーとして出ているビクター・マルチネスのCERAは5.99。酷いものだ。出場ゲーム数はロブ・ジョンソンとほとんど同じだが、CERAはロブ・ジョンソンの2倍にもなっている。
毎試合6点もの失点をするキャッチャー、それが捕手としてのビクター・マルチネスだ。彼がいくら多少ヒットが打てても、毎試合7点以上とってチームをポストシーズンに導いてくれるわけはない。
今シーズン最下位のクリーブランドのピッチング・スタッツはリーグ最下位。これも酷いものだ。先発ブルペン問わず、ERAは5点を越え、あらゆる面で投手スタッツはリーグ最下位に低迷している。

ビクター・マルチネスは、コネ控え捕手城島や、LAAのナポリ、NYYのポサダに似た立ち位置のキャッチャーだ。マルチネス、ポサダ、控え捕手城島、彼ら以上にCERAの悪いキャッチャーは、メジャーにはほとんどいない。若い捕手がこんな数字ならクビになるから、いないのだ。わかりやすい。
彼らのような捕手は、チームの主力投手にとってはバッテリーを組むメリットは何もない。打撃への期待からゲームに出してもらえている。そういう話。ヘルナンデスが城島を嫌ったのと同じ。
MLB Baseball Fielding Statistics and League Leaders - Major League Baseball - ESPN


だが今日のゲームでは、ビクター・マルチネスはポジションは1塁手で、キャッチャーはショパックだ。ビクター・マルチネスをクリフ・リーのためにはずしたクリーブランドと、ローテーションの穴を埋める控え捕手城島を使ったシアトルの対戦になった。
と、いうのも、2008年のサイ・ヤング賞投手クリフ・リーは今シーズンはショパック相手にしか投げないからだ。
Cliff Lee Pitching Statistics and History - Baseball-Reference.com


クリフ・リーとバッテリーを組むキャッチャーを2年ほど遡ってみる。

2007シーズン


(数字は被打率、被OBP、被SLG、被OPS)
ビクター・マルチネス(15ゲーム)
.307 .376 .530 .906

ショパック(5ゲーム)
.195 .258 .329 .588

Cliff Lee 2007 Pitching Splits - Baseball-Reference.com
ゲーム数を見てわかるように、クリフ・リーは最初からショパックを指名していたわけではない。だがこのシーズン、マルチネスとのバッテリーでは被打率.307で、26本もの二塁打を打たれているのに対して、ショパックとのバッテリーでは.195、二塁打わずかに2本。
クリフ・リーはこのシーズンで「捕手としてのビクター・マルチネスに見切りをつけた」ことだろう。

2008年シーズン

ショパック(27ゲーム)
.246 .279 .327 .605

ビクター・マルチネス(4ゲーム)
.301 .327 .505 .832

Cliff Lee 2008 Pitching Splits - Baseball-Reference.com
ショパックがビクター・マルチネスと立場を逆転、より優先してクリフ・リーとバッテリーを組み始めた。ショパックの27ゲームの被打率.246 OPS.605に対して、ビクター・マルチネスの4ゲームは被打率.301(2年続けて3割以上)、OPS.832というのだから、比べるまでもない。
それはそうだ。マルチネスに期待していいのはバッティングであって、投手のリードではない。この年、クリフ・リーはショパックを選ぶことでサイ・ヤング賞をとり、最多勝22勝、最優秀防御率2.539を記録した。


ショパックだって今シーズンCERAは5.00であって、控え捕手城島並みの数字で、けして良くはない。だが、クリフ・リーにしてみれば、ビクター・マルチネスよりはよっぽどマシだ。だからショパックを選んだ。
今日は「打てないビクター・マルチネス」コネ捕手城島をキャッチャーにしたシアトル相手に完投できたことだし、さぞかしクリフ・リーは「ああ、ショパックにしといてよかった」と思えるゲームのひとつになったことだろう。



それにしても、今日のゲーム序盤の城島はどういうつもりなのかは知らないが、投手オルソンがモーションに入っていてもミットを構えなかった。
ミットを構えるのはモーションが終わりかけて、投手がキャッチャーを見る、その瞬間という、おかしなキャッチング。ゲーム後半には、ブルペンコーチにでも指摘されたのかなにか知らないが、多少はマシにはなったが、あれはおかしい。
こうした現象は今にはじまったわけではなく、2008年5月には投手がボールをリリースするまで構えなかった時期すらある。
2008年5月、突如、城島は投手に対してミットを構えるのをやめた。

以下は今日の先発投手の、全投球数・ストライク・ボールである。(普通は投球数とストライクの数しか表示されていないが、ボールの数をわかりやすくするため、あえてつけてみた。)

Olson 69-34-35, Jakubauskas 46-23-23,
Kelley 19-12-7, Corcoran 9-7-2, Lowe 10-8-2

メジャーでのストライク・ボールの比率というのは、たいてい2:1になるように配球することが多いわけだが、ストライクとボールが同数に近いなどというのはよほどのことだ。
それが先発オルソンだけでなく、ジャクバスカスと続くのだから、何が原因かわかろうと言うものだ。オルソンのように神経質な性格で、もともと球の高い投手が、投げるための「的(まと)」になるミットがない状態で投げ続けていれば、ゲームの要所要所で四球を出してゲームのリズムを壊すのは当然だ。
エラーはブラニヤン2、ジャクバスカス、ウッドウォードと4つもあり、また、記録にはワイルドピッチとなっているが、城島が変化球のワンバウンドを後ろに逸らしたのが2度あった。酷いゲームだった。

まったくテンションのないゲームだ。
見ていて疲れる。






damejima at 11:52

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