メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート

2013年3月8日、Fastball Count、あるいは日米の野球文化の違いからみた、WBCにおける阿部捕手、相川捕手と、田中将投手との相性問題。
2011年7月11日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (5)カウント3-0ではゾーンを広げて四球を避け、カウント0-2ではゾーンを狭めて三振を避ける。あらためて明らかになったアンパイアの「故意にゲームをつくる行為」。
2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。
2010年10月24日、メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート(11) なぜライアン・ハワードは9回裏フルカウントでスイングできなかったのか? フィリーズ打線に対する"Fastball Count"スカウティング。
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(10) 「MLB的カウント論」研究 <1> なぜアメリカの配球教科書の配球パターンは「4球」で書かれているのか?
2010年1月6日、豪球ノーコン列伝 ランディ・ジョンソンのノーコンを矯正したノーラン・ライアン。 ノーラン・ライアンのノーコンを矯正した捕手ジェフ・トーボーグ。 捕手トーボーグが投球術を学んだサンディ・コーファクス。
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(9)クリフ・リーのプレイオフ快刀乱麻からの研究例:「カーブとチェンジアップ、軌道をオーバーラップさせ、ド真ん中を見逃しさせるスーパーテクニック」
最終テキサス戦にみるロブ・ジョンソンの「引き出し」の豊かさ (1)初球に高めストレートから入る
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(8)「配球しないで給料をもらえる捕手」を縁切りしたヘルナンデス
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(7)実証:「3球目対角リバース」で打たれる配球失敗例と、ネイサンのネチネチ配球
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(6)実証:アダム・ムーアの場合
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(5)実証:ロブ・ジョンソンと城島との違い 「1死1塁のケース」
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(3)「低め」とかいう迷信 あるいは 決め球にまつわる文化的差異
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信
メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い

March 09, 2013

WBC Round 2 日本対台湾戦の文字通りの死闘は、4時間半もの時間をかけて日本の薄氷の勝利に終わった。それぞれの持ち味が発揮された屈指の好ゲームだったわけだが、セットアッパーに回って登場した田中将投手が、2人のキャッチャーを相手に「好対称のデキ」、つまり阿部捕手を相手に好投、相川捕手を相手に崩れるという結果を見せたことについて、ちょっとした思いつきをメモしておきたい。

以下は、普段は楽天のゲームを見てない人間が書いた、単なる思いつきだから、結論なんてエラそうなものではない。まぁ、「楽天の捕手って、かなりいいキャッチャーなんだろうな」と思ったまでのことだ。


相川捕手については、一度このブログで書いたような気はしていたのだが、あらためてブログ内検索してみたところ、やはり1度だけ書いていた。なにせ2年半も前のことだから、正直、書いたこと自体忘れていた(苦笑)
(ちなみに下記の記事は、理由はよくわからないのだが、このブログで最もよく読まれた記事のひとつだ。まぁ、MLBファンの数より日本のプロ野球のファン数のほうが圧倒的に多いのだから、しかたがない)
「巨人・阿部とは逆に、データで見るかぎり、例えばヤクルトの相川というキャッチャーなどは、『何回打たれても、同じチーム、同じバッターに、同じような攻めを繰り返したがるキャッチャー』にどうしてもみえる。彼は『どこが対戦相手だろうと、ワンパターンな自分の引き出しにある攻めだけしか実行しない。引き出しが少なく、探究心も無いキャッチャー』のひとりで、だからこそ阪神が神宮でゲームをするときには、彼のリードする投手はまるで『神宮球場が阪神の第二のホームタウン』ででもあるかのように、ボコボコ打たれるハメになる。」
出典:Damejima's HARDBALL:2010年9月30日、逆転3ランを打った村田が「なぜ、あれほど勝負のかかった場面で、高めのクソボールを強振できるのか?」についてさえ、何も書かない日本のプロ野球メディア、野球ファンの低レベルぶり。



まず阿部捕手だが、何度もツイートしていることだが、能見投手とのバッテリーを見ていて、非常に印象に残った配球がある。 「初球に、ど真ん中に落として見逃しストライクをもぎとるスプリット」 だ。(日本でいう「フォークボール」)

これ、何が面白いかというと、変化球、特に「その投手の最も得意な変化球」という貴重な財産、貴重な資源を、「バッターを追い込んでおいて、それから空振り三振をとるためだけにしか、その変化球を使わない」という、「狭苦しい用途」に押し込めないで済む、という意味だ。
別の言い方をすると、「バッターに、どの球種を、どのカウントで、どういう目的に使うかを、わからせないで済む」のだ。
そりゃ、初球にスプリットでストライクをとられれば、バッターは追い込まれてからのスプリットが、ワンバウンドするのか、それともゾーン内に来るのか決められなくなるし、そもそも決め球がストレート系か変化球かを推定できなくなる。


たしかにキューバ戦では、追い込んでスプリットさえ投げておけば簡単に空振り三振してくれたから、スプリットは切り札、勝負球として、最後までとっておけばよかった。
だが、そういう単純な配球が、全ての球審、全ての対戦相手に通用するわけではない。能見が打者を追いこんだ後に投げる低めのスプリットが非常に効果的なのは間違いないが、だからといってスカウティングの得意なチームに「低めのスプリットは、振らなければボールになるだけだ。振らなくていい」と見切られてしまえば、せっかくのスプリットが、切り札どころか、単にカウントを悪くするだけの「無駄球」に変わってしまう。

実際、台湾戦ではかなりの低めの球が見切られ、低めをとらないタイプのGuccioneが球審だったために、ボール判定された。
キューバ戦では、ストレートでカウントを稼いでおいて、低めにスプリットを連投しておけば打ち取れたが、日本の投手の配球パターンがわかっている打者の多い台湾戦に限っては、そもそもバッターがスプリットを振ってくれないという事態が頻繁に起こったのである。

だからこそ、阿部捕手が「能見のスプリットは、低めに使うだけじゃない。見逃せばストライクになるコースに投げることもあるんだぜ」と、長いゲームの中で「一度だけ」見せておく、というのは、スプリットの効果をできるだけ延命させる有効な策略になる。


かたや、相川捕手だが、日本対台湾戦の途中で、こんなツイートをした。


これはどうも、「Fastball Count」という言葉について、もう一度おさらいしておく必要がありそうだ。
Damejima's HARDBALL:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート(11) なぜライアン・ハワードは9回裏フルカウントでスイングできなかったのか? フィリーズ打線に対する"Fastball Count"スカウティング。

Fastball Count」は、文字通り、「投手が、球種としてストレートを投げる可能性が非常に高いカウント」なわけだが、これには「日本とMLBの配球文化の違い」が非常に大きく影響する。
(なお、WBCで「各国のファーストボール・カウントの違い」を観察することは、それぞれの国で異なる発達を遂げつつある各国の野球文化の「発展の方向性の違い」を知ることに繋がる

アメリカと、MLBの流儀の野球が教えられている地域では、カウント3-0や2-0のような「ボール先行カウント」は、論議する必要のまるでないfastball countであり、投手はほとんど例外なくストレートを投げてくる。

(ただし、fastball countは単に投手と打者の「騙し合い」の出発点に過ぎない。いまや投手も打者も相手を研究・工夫して、変化している。例えば2012年ワールドシリーズ最終ゲームでは、スライダーを多投することで知られるサンフランシスコのクローザー、セルジオ・ロモが、デトロイトの三冠王ミゲル・カブレラを追い込んでおいて、得意のスライダーではなく、ストレートを投げて見逃し三振にうちとってゲームセットになった。 資料:Damejima's HARDBALL:2012年11月10日 2012オクトーバー・ブック 投げたい球を投げて決勝タイムリーを打たれたフィル・コーク、三冠王の裏をかく配球で見事に見逃し三振にしとめたセルジオ・ロモ。配球に滲むスカウティングの差。

それに対して、日本では fastball count でも変化球が多投される。(例:第3回WBC 日本対台湾戦で、能見-阿部バッテリーは、カウント3-0でスライダーを選択した)
この背景には、日本の投手のコントロールの良さがある。

MLBと日本の配球は、構造において裏返しになっている点が非常に多い
あえて相違点だけ強調して言うと、例えばMLBでは、早いカウントではストレート系で入って、変化球で締めるパターンは多い。(例:プレートの真上に落ちるチェンジアップ、シンカー、カーブ)
かたや日本では、変化球から入って、最後はストレートやスライダーのような「速さのある球」を、それもアウトローに集めるのが配球常識という「思い込み」は非常に強い。また、ピンチの場面になると「最初から最後まで徹頭徹尾アウトロー」というワンパターン配球になってしまいがち。(もちろんMLBにも、ラッセル・マーティンのような弱気でワンパターンなアウトロー信者は存在する)

同じ現象を、バッター視点で見直してみる。
MLBでは大半の打者がヒットを打つのは、早いカウント。逆に言えば、大半のバッターは、追い込まれたカウントでの打撃成績が極端に悪い。(例外は、イチローや全盛期のボビー・アブレイユジョー・マウアーなど、ほんのわずかの高打率のバッター)
MLBの投手は、特に早いイニング、早いカウントでは、ストレート系を投げなさいと教えられて育つ投手が多いから、結果的に「バッターの側でも、早いイニング、早いカウントでは、ストレート系を狙う」ことになる。(こんな基本的なことは、MLBルーキーのダルビッシュに指摘されるまでもない)

そもそもMLBの打者は、「豪速球」には滅法強い。その上、早いカウントではストレート系狙いに徹してくる打者は多い。
(例:ヤンキースのグランダーソンがホームラン王になれたのは、極端なストレート系狙いのおかげ。Damejima's HARDBALL:2012年11月2日、2012オクトーバー・ブック 「スカウティング格差」が決め手だった2012ポストシーズン。グランダーソンをホームランバッターに押し上げた「極端なストレート狙い」が通用しなくなった理由。
そのためMLBの投手たちは、打者の「ストレート狙い」をかわす意味で、早いカウントでストレート系を投げるにしても、「動かない4シーム」ではなく、「動くストレート系」、例えば、2シームやカットボールなどを多投し、打ち損じを誘うように進化を続けてきた。(例:イチローがマリアーノ・リベラから打ったサヨナラ2ランは、初球のカットボール。リベラのあの決め球を初球打ちできたからこそ価値がある)
つまり、MLBのほとんどの球種が「動く」という事実の裏には、打者と投手の「早いカウントにおけるストレート勝負」という歴史があるわけだ。4シーム勝負できるのは、あくまでストレートによほどの球速がある、ほんのわずかな投手たちだけである。(例:バーランダーチャップマン


以上のような「MLBのストレート系が『動く』ようになった歴史」をふまえて、もういちど相川捕手の「ストレート、ストレート、変化球」というワンパターンなサインの意味を見てみる。

まず指摘したいのは、「ストライクになるストレート系を続けておいて、ボールになる変化球を振らせる」というけれども、こういうパターンに慣れている国は多い、ということだ。球にキレや球威が無ければ通用しない。
そして、「パターン認識」の得意な選手の多い国のバッターに、「ストレートはストライクにして、変化球はボールにする」という単純な配球パターンが見抜かれてしまうのに、さほど時間はかからない

さらにいけないのは、
ストレート系に強い打者の揃うWBCでは、日本の投手の4シームが通用しないこと、特に、早いカウントにおいて4シームでストライクをとりにいくという手法が、ほとんど通用しないこと」に、注意を怠っている。
さらには、「俗説で「ゾーンが低い」と言われがちなMLBの球審には、実際にはたくさんのタイプがいて、中には低めをとらない人、極端にストライクゾーンの狭い人もいる」という「球審ごとに違うゾーンの個人さの問題」にも、注意が足りないまま、低めにボールを集め続けてボール判定を食らい続けている。

その結果、「早いカウントのストレート」を狙われ、強振されて二塁打にされたり、ランナーが出てから、いたずらに低めに集めようとして、低めをとらない球審Gucchioneにきわどい球をボール判定され続けて四球を連発してしまい、カウントを悪くして苦し紛れにストライクをとりにいった高めの球をタイムリーされるという悪循環を招いた。
(ちなみに、カウントが悪くなってから、低めだけを突いてピンチを逃れようとしてドツボったのは、田中将-相川バッテリーだけでなく、能見-阿部バッテリーでも同じ現象がイニング中盤に見られた)



まとめよう。

相川捕手の「ストレート、ストレートでカウントをまとめておいて、最後は変化球」という配球のワンパターンさは、田中将のストレートを、不用意にも、ストレート系に滅法強い外国チームの狙い打ちに晒してしまい、また、球審のゾーンを考慮しないまま変化球を低めに集めた結果、変化球の効果も同時に台無しにした。
名捕手野村さんは、WBC本戦を前に田中投手について、以下のようなことを言ったらしいが、主旨には同感する。
「(田中投手の)打たれてるのは全部ストレート。お前のストレートは、ストライクゾーンに投げるとやられる。それがプロ」
強化試合で敗戦、田中将大にノムさんは「お前の真っ直ぐはプロじゃダメ」(Sports Watch) - livedoor スポーツ

だが、田中投手が辛抱できず、失点し続けてしまう原因は、相川捕手との相性の悪さにあると指摘したい。
たしかに、国際試合ではストレートにべらぼうに強い打者ばかり集まるから、日本の投手のストレートが通用しないという問題も関わってはいる。だが、その問題以前に、「ストレートを最大限に生かす配球をするという責任」において、相川捕手のワンパターンなサインとの相性の悪さによって、田中将は現状のポテンシャルすら発揮しきれていない。
実際、台湾戦での田中-阿部バッテリーにおいては、珍しくカーブも投げさせ、チェンジアップの数も増やすなどして、田中投手に足りない緩急の組み立てをキャッチャー阿部が配球の知恵で補強して、彼にあたかも緩急があるかのように見せかける(笑)工夫をしていた。
その結果、問題とされがちな「ストレート」も、阿部捕手の工夫のおかげで、それなりに台湾バッターに通用していたし、そもそも台湾にストレート系に狙いを絞らせなかった。

だが、阿部に代走が出てキャッチャーが相川に変わると、田中将はやはり早めのカウントのストライクになる4シームを狙われて、やすやすと外野にヒットされ続け、また低めのボールになる変化球は、打者に見逃されるか、もしくは球審にボール判定されて、四球もからんで自滅していくという、いつもながらの崩壊パターンにハマってしまったのは、明らかだ。
相川 読みの先頭打 延長10回決勝点の起点も反省は「配球見つめ直したい」 (スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース


田中将投手は、頭を使ってリードしてくれる阿部とのバッテリーでなら、「組み立ての単調さ」という彼が元々持っている欠点を改善し、ストレートの使い道にも工夫が凝らされて、彼本来のポテンシャルが発揮可能になると思う。相川捕手がやったような、ストレートで追い込んで変化球で仕留める程度の、初歩的なMLB風配球など、WBCでは通用しない。
そういう意味で、楽天におけるこれまでの田中投手の好成績は、相棒をつとめている嶋捕手(と楽天のキャッチャー陣)の功績と考えていいのではないか。そんな風に思ったわけである。

damejima at 15:02

July 12, 2011

本の宣伝をするつもりはないのだが、ソースのありかを示す必要上、しかたがない。
以下の話のオリジナル・ソースは、スポーツ・イラストレイテッドのシニア・ライター、Jon Wertheimが今年2011年1月に出版した Scorecasting: The Hidden Influences Behind How Sports Are Played and Games Are Won である。残念ながらこの本、まだ中身を見ていない。


この本で元データとして使われているのが、このブログでも「アンパイアのコールがどのくらい正確か」を知るためにたびたび使わせてもらっているBrooksBaseball.netのデータだ。
このブログで利用させてもらっているのはStrikezone Mapsというツールのデータだが、この優れたサイトには他に、Pitch FXという凄いツールもある。あらゆるゲームのあらゆる投球について、とんでもなく詳細な設定ができて、びっくりするほど詳細な情報が得られるツールだが、あまりにも精密すぎてブログ主には扱いきれないのが残念だ(笑)
Pitch FXでは、たとえば「7月9日LAA戦で、マイケル・ピネダが、ファーストストライクを、どの球種で、どのコースに、どんな速度で決めたか」を特定することができる。

下記の記事は、WIRED MAGAZINEが、Pitch FXを基礎資料として書かれたJon Wertheimの本をネタに記事を書いたもの。(ただ、ブログ主は、Jon Wertheimが主に利用したのは、Pitch FXではなくて、むしろStrikezone Mapsだろうと考える)
Pitching Data Helps Quantify Umpire Mistakes | Playbook


記事によると、アンパイアのコール全体における「正しいコール」の割合は、85.6%という結果が出ているらしい。
これは、「20球のうち17球を正しいコールをする」というレートになる。MLBのピッチャーがひとりの打者に投げるボールはだいたい平均4球くらいなわけだから、20球投げて5人の打者と対戦すると、そのうち「不正確なコール」が3球程度発生することになる。

さらに、ストライクゾーンのコーナー周辺に決まったボールをアンパイアが正しく判断できる確率は、わずか49.9%しかない、という。
(ただし、これらの数値は、MLBやHardball Timesのような老舗サイトが調べた数値ではなく、あくまで彼ら独自の測定結果、計算結果であることに注意すべき。これらの数字を根拠に何かを発言する場合、必ず根拠としてソースを示さないことには、その発言の信頼性は怪しくなる)


カウント0-3と、カウント0-2の、ストライクゾーンの違い


上の図は、カウント3-0と、カウント0-2におけるストライク・ゾーンの広さの違いを表したもので、これがこの記事では最も面白い部分だ。
濃い青色の部分より内側がカウント3-0におけるゾーン、青い斜線部分がカウント0-2におけるゾーンだ。
なかなか面白い。要は、こういうことだ。

1)カウント3-0では、
  アンパイアはストライクゾーンを広げて、
  ストレートのフォアボールを避けようとする。
フォアボールになりかかっているカウント3-0では、アンパイアのストライクゾーンは非常に広くなる。特に「両サイドのゾーン」が広い。
ことカウント3-0では、たとえルールブック上のゾーンをはずれていても、アンパイアは「ストライク」とコールする可能性が高くなるという調査結果だ。

2)カウント0-2では、
  アンパイアはストライクゾーンを狭めて、
  3球三振を避けようとする。
投手が打者を追い込んだカウント0-2では逆に、アンパイアの想定するゾーンは、非常に狭くなる。
特に狭いのは「低めの全て」と、全ての「コーナー」。投手圧倒的有利の0-2カウントでは、「ピッチャーがどんなにきわどい球を低めやコーナーに投げたとしても、アンパイアはストライク・コールしてくれない」可能性がある、という調査結果になっている。


なお、WIREDの記事では、きちんと指摘されてないことがあるので指摘しておく。

上の記事では、「MLBのアンパイアは、コーナー周辺のボールを正しく判定できる確率は、約50%しかない」という指摘と、「カウントによってゾーンがかなり可変になっている」という別の指摘をしているわけだが、この2つの指摘は相互に無関係なのではなく、むしろ、前者は後者の影響を受けることを考慮すべきだ。

「打者を追い込んだ0-2カウントでは、きわどい球はボール判定されやすい」ということは、もしピッチャーが打者を追い込んだカウントで、コーナーいっぱいに素晴らしいストライクを投げたとしても、「ストライクとコールされず、むしろボールとコールされてしまうことがありうる」ということだ。

だから、「MLBのアンパイアが、コーナー周辺に決まるボールを正しく判定する確率は、約50%だ」という事象は、その全てが「アンパイアの能力が不足しているために起きる誤審」とは言えない。
むしろ、「0-2カウントでは、きわどい球は、たとえそれがストライクでも、ストライクと判定しない」という例のように、アンパイアは「コーナーに決まる素晴らしいストライクでも、故意にボールと判定している」ケースがあるのである。
しつこいようだが、だからこそ「MLBのアンパイアが、コーナー周辺に決まるボールを正しく判定する確率は、約50%である」というデータをたまたま見たからといって、それを根拠に「MLBのアンパイアは判定技術が低い。だから、コーナーに決まる球を、約50%しか正しく判定できないのだ」と断言していいことにはならないのである。
この部分が、WIREDの記事ではきちんと指摘されていない。

よく、「MLBのアンパイアは下手だ」とかネット上で公言している人を見かけるが、何を根拠にそういう発言をしているのか知らないが、単に「下手」なのと、「わかっていて、わざと判定を操作している」のは、意味がまったく違う。「MLBのアンパイアが、コーナーのボールを正しく判定する確率は、約50%」というのは、「MLBのアンパイアが下手だ」という意味で言っているのではない。


Jon Wertheimの著作で細かいパーセンテージがどこまで正しいかは別にどうでもいいが、このデータから明らかになることは、
アンパイアたちが「現実にやっている仕事」は、
「単なる判定」ではなく、むしろ「ゲームをつくること」であり、判定は「もともと意図的なゲームの操作行為」として行われている
ということだ。


彼らアンパイアは、カウント0-2になれば、意図的にゾーンを狭めて三球三振になるのを避け、逆に、カウント3-0になれば、意図的にゾーンを広げ、四球の発生を避ける。それらの「意図的な判定操作」の結果、彼らが目指す方向性というのはたぶん「打者と投手の対戦が継続されるほうが、ゲームとして面白かろう?」 というようなことではないか、と思う。
このことは、一見、ベースボールというゲームの本質は何か? という問いを含んではいるように見える。「四球でも三振でもなく、打者と投手の対決がベースボールの醍醐味なのだから、それを楽しみなさい」というわけだ。

だが、そんな「アンパイアの実態」についての、ブログ主の基本的な意見は、こうだ。

何を、どう楽しもうと、ファンの自由。余計なお世話だ。
アンパイアよ、余計なことはするな。
勝手にゲームを作るな。
他人の楽しみ方に、勝手に方向性をつけるな。


人間というのは、野生動物としてのナチュラルなルールを失った弱い動物であり、社会的権威を持ったとき、心の奥底まで権威にすっかり犯されて、秩序維持のためとか称して権威をふりかざすようになるものだ。
意図的にゾーンを狭めたり、広げたりして、三振や四球を「意図的に」避けてやり、打者と投手の対戦を継続させる、という判定ぶりは、一見すると、スポーツの鉄則にかない、スポーツの面白さを維持するのに一役買っているように聞こえがちだ。

だが、現実に起きていることは、そんな単純な話ではない。
恣意的な判定」は、なにも「アンパイアが、三振や四球を故意に減らして、ゲームをよりエキサイティングにする」という方向性だけで行われているわけではない。
むしろ、彼らは故意に三振や四球を作り出してもいる。気にいらない打者は強引に三振させ、気にいらない投手には無理矢理四球を出させる」ようにみえる行為は、実際に多発している。

アンパイアはけして、ゲームを面白くしてくれる演出家である必要など、ない。

アンパイアの「余計なゲーム・メイキング」は、むしろ、投手のコーナーに決まる精妙なコントロールの価値を損なっているし、コーナーぎりぎりのボールを見極めるバッターの精密な選球眼の価値も貶めている。
ゲームをエキサイティングにするのは、アンパイアの下手な演出ではない。また、プレーヤーの高度な技術を無駄にする歪んだ演出など、まったく必要ない。

カウント0-2に追い込まれた打者がアンパイアに嫌われていて、その結果「次の球がストライクでも、カウント0-2だから、アンパイアはボール判定してくれるさ」と安易に考えていたら、コーナーいっぱいのストレートをストライクコールされ、三球三振。
あるいは、カウント3-0にしてしまった投手が、アンパイアに嫌われた結果、「カウント3-0だし、次の球は、はずれていても、たぶんストライクコールしてくれる」とぬるい考えでいて、ストレートを置きにいったらボール判定で、ストレートのフォアボール。
そんなくだらないシーンを、ブログ主は見たくない。

もう一度書いておこう。
アンパイアよ、余計なことはするな。
勝手にゲームを作るな





damejima at 21:32

October 31, 2010

前の記事で、2001年以降、MLBのストライクゾーンが、ステロイド時代の「横長の」ストライクゾーンから、「ルールブック通りの、縦長のストライクゾーン」に、あくまで「タテマエ的」にだが、改められることになり、アンパイアがメジャーのキャンプ地を巡回して説明に歩いた、という話をした。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (1)「ステロイド時代のストライクゾーン」と、「イチロー時代のストライクゾーン」の違い。

では、
2001年以降、本当に「ストライクゾーンは変わった」
のだろうか?



次に挙げるのは、2007年に書かれたHardball Timesの記事に添付された秀逸すぎるグラフである。
元記事:Hardball Times:The eye of the umpire

この非常に優れた記事とグラフは、膨大な数の実戦でのアンパイアの判定結果をグラフ上にマッピングすることで、「ルールブックのストライクゾーンと、アンパイアが実際のゲームでコールしている現実のストライクゾーンとの違い」を、誰にも有無を言わせない形でハッキリ明示している。

こういう素晴らしい記事を作れるHardball Timesに敬意を払わずにはいられないし、こんなブログ程度では彼らの足元にすらたどり着けないが、前置きはそのくらいにして、この記事が主張する結論と、それについてのブログからの注釈から先に言っておくことにする。


この記事の主張する結論
2007年のこの記事の調査範囲においては、MLBのアンパイアのストライクゾーンは、あいかわらず「2001年以前の横長の古いストライクゾーンのまま」である。MLBが2001年以降ストライクゾーンをルールブック通りにする、と言った割には、現実にはそうなっていない。
ブログからの注釈
この記事の調査は、必ずしも2001年以降、記事が書かれた2007年までの全ての投球、全てのアンパイアの判定を調査したものではない。
だから、この記事だけから即座に「MLBのストライクゾーンは、2001年以降もステロイド時代の古いストライクゾーンのまま、まるで変わっていない」と、単純に結論づけることはできない。
実際に、他の調査などでは、アンパイアごとの判定の個人差が大きいことがわかっている。(これについては次回の記事で書く)
だから、現在のMLBのストライクゾーンをめぐる状況について、当ブログでは次のように考える。
1)MLB全体としてのゾーン修正傾向
MLBのストライクゾーンは2001年に、それ以前のステロイド時代の「横長の」ストライクゾーンと決別して、「ルールブックに近い判定」をすることを宣言したが、何事でもそうだが、何もかもが即時に修正されるわけではない。いまだに「古いストライクゾーン」に決別できていないアンパイアも多いのは確かだが、今後の経過を見守る必要がある。

2)個人差
新旧のストライクゾーンが混在する現状があり、2001年以降のストライクゾーンの修正に沿って、ルールブックに近い「縦長のストライクゾーン」で判定を下しているアンパイアもいれば、2001年以前の古いステロイド時代の「横長の」ストライクゾーンに固執し続けているアンパイアもいることがわかっている。
現在ではアンパイアごとの個人差が顕著、と考えておくのが無難



グラフの見方
このグラフはアンパイア(キャッチャー)視線で見たもの。
だから、向かって
左がレフト側
右がライト側

赤い線が、ルールブック上の「ストライクゾーン」
緑の線が、実際の判定結果のマッピングから計測された「ストライクゾーン」

横並びの2つのグラフのうち
左にあるのが、RHB(右打者)のグラフ
右にあるのが、LHB(左打者)

ルールブックのストライクゾーンと実際に計測されたゾーンの差
(グラフはクリックすると拡大できます)

グラフからわかること

(1)左打者・右打者共通の特徴
ルールブック上のストライクゾーンは「縦長」だが、
実際のストライクゾーンは「横長」だ。高低はルールブックより狭く、内外はルールブックより広い。

高めのストライクゾーン」は、2001年以降「ルールブックに沿ったストライクゾーンにすることになった」「はず」だが
実際のゲームでの「アンパイアのストライクゾーン」では、高めのゾーンはけして広くない。

低めのストライクゾーン」も、1996年の改正で、「膝頭の上まで」だったのが、「膝頭の下まで」に変更されたことで、「ボール1個分くらい」低くなったはず」だし、また、2001年以降の修正で「ルールブック通りに判定する」ように修正された「はず」である。
1996 - The Strike Zone is expanded on the lower end, moving from the top of the knees to the bottom of the knees.
Umpires: Strike Zone | MLB.com: Official info

だが、実際には、低めのストライクゾーンを十分に拡張していないアンパイアがたくさんいる。

「現実のアンパイアの判定では、低めのストライクゾーンがルールブックより狭いことが、多々ある」ことがわかると、たとえば、NLCSのロイ・ハラデイの登板ゲームで球審をつとめた、例のJeff Nelsonの判定の偏りの意味がわかってくる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。

Jeff Nelsonは日本のサイトなどで「投手有利な判定をするアンパイア」であるかのような説明がなされているが、彼はメジャーでは「アウトコースのストライクゾーンが異様に広いことで有名なアンパイア(資料:Hardball Times A zone of their own)」であり、あのゲームでJeff Nelsonはロイ・ハラデイの低めいっぱいのストライクを、ピンチの場面ではことごとく「ボール」判定している。
これはつまり、Jeff Nelsonが「古い『横長の』ストライクゾーンで判定を行う典型的なアンパイア」であるために起きる、ただそれだけの現象といえる。
彼のような「古い横長ゾーン」のアンパイアは、「アウトコースのストライクはとりたがるが、高め、低めのストライクをとりたがらない傾向」がある。そのため、ロイ・ハラデイのような「コントロールが非常に良く、2001年以降のストライクゾーンの修正に沿って、ルールブック通りのストライクゾーンの、低めいっぱいに変化球を決めてきた投手」にしてみれば、イザとなると低めのストライクをとらなくなる「古い横長のストライクゾーンで判定するJeff Nelspn」は、「投手有利な判定をするアンパイア」とはまったく言えないことになるのである。


(2)左打者だけにあてはまるストライクゾーンの特徴
ルールブックに比べて、実際のストライクゾーンは、
アウトコース側が「極端に」広い。
インコースは、ルールブック通り。

このことからメジャーの左打者は、非常に広いアウトコースのストライクゾーンに対応するためには、どうしても「打席のできるだけ内側、プレート寄りギリギリの位置」にスタンスをとらざるをえない。(もちろん、イチローの打席での立ち位置を見てもわかるように、全員が打席ギリギリに立つわけではない)


(3)右打者のストライクゾーンの特徴
ルールブックに比べて、実際のストライクゾーンは、インコース、アウトコースともに、広い
ただ、左打者のアウトコースのような「極端に広いストライクゾーン」ではない。


ちなみにこれはメジャーでの話ではないのだが、とある日本のブログで、2010年9月18日ロッテvs楽天戦におけるロッテ先発・成瀬投手のピッチングについて、こんな記述があるのを確認できた。
左打者には外角中心の配球、右打者にはストライクゾーンの内角と外角、両サイドに満遍なく投げ分けていたのが記録上からも確認できる。」
日本のプロ野球のアンパイアの判定が、どの程度メジャーのストライクゾーンに準じたものになっているか不明なのだが、もし成瀬投手が、左打者と右打者で、それぞれに対して使うストライクゾーンを分けているとすれば、それは「左打者と右打者のストライクゾーンの違い」を重視した非常にクレバーな投球術、ということになる。






damejima at 13:13

October 25, 2010

NLCS Game 6
9回裏、2死1、2塁。フルカウント。
ライアン・ハワードはなぜ、
あの、きわどいブレーキングボールを振らなかったのか?

ESPNJorge Arangure Jr.の興味深い記事によると、ハワード本人いわく、「ここでブレーキングボールが来ることはわかっていた。でも『ボール』だと思ったから振らなかった」のだそうだ。
So realistically, Howard knew that Wilson likely would throw a breaking ball. When it came, Howard was not surprised. He simply didn't think it was a strike. So he didn't swing.
MLB Playoffs: Philadelphia Phillies' run as National League champions comes to an end - ESPN


NLCSでフィラデルフィアは、得点圏にランナーを送る得点チャンスが45回もありながら、得点できたのは、わずか8回。またライアン・ハワードはNLCSの22打席で、12打席も三振した。
これらのデータは、2010年のポストシーズンでフィラデルフィアがいかに「打撃面で失敗してしまっていたか」を示していると同時に、ナ・リーグ各チームが、今年のレギュラーシーズンにおいて、いかにフィラデルフィア打線のスカウンティングに成功していたかも意味すると、ESPNのJorge Arangure Jr.は考える。

ライアン・ハワードが、ここで自分が凡退したらNLCSは終わりという、あの緊迫した場面で、「変化球が来るのがわかっていた」と自分で言うわりには、思い切りのいいバッティングができなかった。
このことの背景についてESPNの記事は「フィラデルフィア打線の『ストレート狙い封じ』のスカウティングが効を奏した」としている。

詳しいことは、後で説明するとして、もしハワードが「変化球が来るのがわかっていた」とまでいうなら、ボールを見極めて押し出しのフォアボールを選ぼうとするような「消極的バッティング」をせずに、なぜ、むしろ積極的にきわどい球をスイングして、タイムリーでヒーローになろうとしなかったのか、または、カットしなかったのか、誰しも疑問に思ったはず。
それに、すでに記事にしたように、今年のNLCSの審判団は必ずしもフィラデルフィア有利な判定をしてはくれないことはわかっていなければならなかった。
「変化球がくるとわかっていた」「ボールだと思った」は、残念ながら、単なる言い訳に聞こえてしまう。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。



fastball counts


ESPNの記事は、フィラデルフィアの打者がNLCSで「精彩のないバッティングに終始した原因」を、こんな風に分析している。
All year, teams had stopped throwing the Phillies fastballs in fastball counts, a result of enhanced scouting -- and the byproduct of years of offensive success.
「スカウティングが進んだ結果、シーズン通じて、対戦相手のチームがフィリーズに fastball countsで、ストレートを投げてこなくなった。これはフィラデルフィアが打撃面において成し遂げ続けてきた成功の副産物だ。」


この記事のいう「fastball counts」というのは、もちろん3-0などの「投手がストレートを投げてきやすいカウント」を意味するわけだが、その背景にはやはり日米の配球の考え方の差異があり、それを踏まえてから読まないと、意味がわからなくなる。

メジャーの場合、カウント2-0、3-0のような「ボール先行カウント」は、イコール「投手がストライクゾーン内に確実に投げやすい球種であるストレートを投げて、カウントを改善すべき場面」を意味する。だからほぼ「ボール先行カウント」が、ほぼfastball countsであることになる。

だが日本では、かつて紹介した阪神・ブラゼルのコメントや(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」を鑑賞しながら考える日米の配球の違い)、ファンの野球観戦経験からもわかるとおり、日本では、「カウント3-0、2-0でも変化球を投げる野球文化」が発達しているために、「ボール先行カウント」がfastball countsには、ならない。


ただ、メジャーでいうfastball countsには、いくつか違う説明パターンがあることには注意しなければならない。

1)3-1、3-0の2つ。いわゆる「ボール先行カウント」のうち、3ボールになっている場合のみを指す。
例:fastball count - Wiktionary

2)2-0、2-1、3-0、3-1の4つ程度。いわゆる「ボール先行カウント」のうち、3ボールの場合だけでなく、2ボールのケースも含む。
例:Be A Better Hitter -- The Pitch Count

3)ブログによる補足項目:
アメリカでの定義としては上の2項目が正しいだろうが、さらに0-0、1-0を加え、打者側からみた「ストレートを強振していいカウント。ストレートを狙い打つのが効率のいい打撃につながるカウント」と、広く考えてみたい。具体的には、0-0、1-0、2-0、2-1、3-0、3-1。平たい日本語でいなら「ヒッティングカウント」。 資料例:Hitting by Count

fastball countsの定義として正しいのは上の2項目だろう。
しかし、この2つの定義だけだと、ESPNの記事がいう「ストレート狙いのフィリーズ打線に対するスカウティングが厳しくなって、fastball countsでストレートが来なくなっている」という話に完全にフィットしているようには思えない。
2-0や3-0などの、いわゆる「ボール先行カウント」限定でストレートを投げるのを止めるだけで、フィラデルフィア打線を湿らせることができると思えないからだ。
むしろ、「カウント0-0、1-0も含めたヒッティングカウントの多くで、ストレートが来なくなった」と考えるほうが、より記事の主旨に合う感じがする。

そこで、いちおう補足項目3も付け加えておくことにした。3では、ほぼfastball counts=ヒッティングカウントという意味でとらえている。
早くストライクをとって早く打者を追い込みたいメジャーの場合、0-0や1-0のような「早いカウント」も、ストレートが配球されやすいカウントであり、それは、打者側からすると「ストレートを狙い打ちすることで、ヒットを稼ぎやすいカウント」ということになる。


さて、fastball countsで、ストレートが来なくなる」と、打者の打席でのパフォーマンス、そしてゲームの流れは、どう変わってくるのだろう?

damejimaノート風にいうと、こんな風に解釈できる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート

「1人の打者に投げる球数」が多くなる
●フルカウントや2-2のようなカウントが多発する
●結果、ゲーム時間がだらだらと長くなる

と考える。


何度となく書いてきたように、メジャーの典型的な配球の思考方法というと、「ストレートで入って、カウントを作り、変化球で決める。典型的な決め球をひとつだけ挙げるとすると、ホームプレートの真上に落ちる変化球」ということになる。
また、2-0、3-0といった「ボール先行カウント」では、メジャーの投手は必ずストレートでストライクをとりにくる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(3)「低め」とかいう迷信 あるいは 決め球にまつわる文化的差異

比較:日本の配球文化
日本野球では最も典型的な決め球は、アウトコースの低め一杯に決まるストレート(またはスライダーやフォーク)。アウトローで勝負するのが安全であり、理想的という考え方が根強くあり、メジャーとはまるで逆。また日本では、2-0、3-0というボール先行カウントでも、投手は変化球を投げる。これもメジャーとは逆。


さて、ESPNの記事に戻ると、2009年までフィラデルフィアの打撃が劇的にうまくいっていた理由は「fastball countsで、投手のストレートを打ちこなしていたこと」にあることになる。
Fangraphのデータで確かめてみると、たしかに2008年、2009年のフィリーズは、ナ・リーグで最もストレートに強いチームだった。どうやら、2010年にスカウティングされ対策されるまでのフィラデルフィアの打者が「ストレートを打ちまくって、荒稼ぎしていた」のは、どうも確かなことのようだ。
だが、2010年になって事態が変わり、ストレートへの対応力は急激に下がっている


2008年のPitch Value
National League Teams » 2008 » Batters » 7 | FanGraphs Baseball
2009年のPitch Value
National League Teams » 2009 » Batters » 7 | FanGraphs Baseball
2010年のPitch Value
National League Teams » 2010 » Batters » 7 | FanGraphs Baseball

2009年までのフィラデルフィアの打者たちは、ストレートを狙い打ちして、ヒットを荒稼ぎしてきた。だが、2010年に突如として「ストレートが来るのを期待できなくなった」ということは、フィラデルフィアの打者にとって、どういう意味があっただろう?

メジャーのfastbal countsは、ほぼ「ボール先行カウント」と重なるわけだが、さらに細かいことを言えば、「早いカウント」や「インコース」などにも、「投手がストレートを投げてきやすいカウントやコース」は点々と存在している。
例えば、早いカウントで狙い打ってヒットを稼がせてくれた「ストライクになるストレート」が来ない。インコースを変化球でえぐられる。1-0、2-0、3-0などの「ボール先行カウント」ですら、いくら待ってもストレートが来ない。そういう投手の巧妙な攻めにばかり遭遇するシーンが、フィラデルフィアの2010年レギュラーシーズンに多々あったのかもしれない。

予想されるシチュエーション
●早いカウントから変化球のオン・パレード
●投手は、勝負どころでのストレート勝負を避けてくる。また、早いカウントでも、ストレートは投げない。ストレートで早め早めに打者を追い込もうともしない(特にランナーズ・オンの場面)


変化球のボール・ストライクの見きわめを要求される中で、じっくり待球型のバッティングをすることは、四球が多いことで有名なボビー・アブレイユばりに、たくさんの変化球の中から「自分の打てる球」を探りあてられる能力が求められる。また、フルカウントや、2-2などのカウントでも、きわどい変化球に対応できる柔軟性を求められる。

そういう能力は急には身につかない。

変化球に苦戦し続けているうちに、いつのまにかフィラデルフィアの打者から「かつての勢い」が消えていくのが、なんとなく想像できる。
たしかに、もし「いかにもストレートが来そうなカウントで、突然、ばったりとストレートが来なくなった」なら、打者としては非常に苦しい。
2010年シーズンのフィラデルフィアの打者は、要所要所で遭遇する数多くの変化球への対策を見つけられないまま、ポストシーズンを迎えたのかもしれない。


9回裏2死1、2塁。ライアン・ハワードの打席に戻ってみる。

ここまで書いてくると、NLCSの最終戦、Game 6の最終回の様相が、簡単ではないことがわかってくる。
San Francisco Giants at Philadelphia Phillies - October 23, 2010 | MLB.com Wrap

2010年10月23日 NLCS Game 6 9回裏 ハワード 三振

初球ストレートの空振り
前の打者、チェイス・アトリーは四球で歩いて、1塁走者を得点圏に押し上げることに成功した。
それだけに「四球直後の初球を狙え」というセオリーどおりに言えば、ハワードにとって、初球の、四球直後にストライクを取りにきた真ん中高めのストレートこそ、まさにfastball countsだったはず。
だがハワードは、その、まんまとやってきた「真ん中高めのおいしいストレート」を空振りしてしまっている。これは大失態といっていい。

4球目、2-1からの「スライダー」の見逃し
この打席で投球された7球のプロセスで、上に書いたfastball countsの定義に最もあてはまるシチュエーションは、カウント2-1からの4球目だ。ここでストレートが来てもおかしくない。
だが、このfastball countsでサンフランシスコのクローザー、ブライアン・ウィルソンが投げたのは、アウトコースいっぱいのスライダーであり、ストレートではなかった。
ハワードは、この4球目、fastball countsの定石どおり、ストレートを待っていたのだろうか? そこまではさすがにわからないが、ともかくライアン・ハワードは4球目のスライダーを見逃し、カウント2-2と追い込まれてしまった。

7球目、フルカウントからの「スライダー」の見逃し
そして、7球目。6球目のインコースのストレートをファウルしていたハワードは、7球目の真ん中低めいっぱいのスライダーに手が出ない。三振。ゲームセット。


終わってみると、ブライアン・ウィルソンの配球全体の流れそのものは「ストレートから入って、変化球で決める」という、典型的なメジャー的配球をした。大きな視点でみた場合、ウィルソンの配球はメジャーの典型的パターンで、とくに変わった点はない。
では細かい点で、とくに変わった点はあるだろうか。探せば、やはり4球目のfastball countsに目がいく。この「ストレートを投げることが多いボール先行カウント」で、「ストレート」ではなく「スライダー」を投げた4球目だけが、風変わりといえば風変わりであることに気づく。
そしてライアン・ハワードは、2009年までのフィラデルフィアの打者がそうだったように、ストレートは基本的に振り、変化球は基本的に見逃した。人間、習慣はなかなか変えられないものなのだ。


なるほど。
そういうことか。と、思う。

この「要所でフィラデルフィア打線にストレートを投げない戦略が、いかにフィラデルフィアの打者たちの狙いを迷わせたか」という視点で、このNLCS全体を見直してみたくなった。
2010 Postseason | MLB.com: Schedule






damejima at 12:38

January 17, 2010

メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」
『damejimaノート』(10)

「MLB的カウント論」研究 <1>
なぜアメリカの配球教科書の配球パターンは
4球」で書かれているのか?




2009年に、アメリカで教科書的に教えられている配球パターンが日本といかに違うかを紹介する意味で、ウェブサイト上に公開されている「6つの典型的配球パターン」というのを紹介したことがある。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信

Pitching Professor Home Pageを主催するJohn Bagonzi氏によるもの(WebBall.com - Pitch Sequence & Selection)で、ストレート、カーブ、チェンジアップと、3つの限定された球種だけを使い、6つの配球パターンを創案されている。
(彼自身がサイトで公表しているだけでなく他サイトにも転載されているので、記事では勝手に孫引きさせてもらったが、もし問題があればTwitter (http://twitter.com/damejima/)にでもご連絡をしていただければ対応したい)


メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」『damejimaノート』というシリーズの9回目までの部分で扱った「日米の配球の根本的な違い」という話題については、(それを反響と呼ばせてもらっていいかどうかわからないが)ありがたいことに内容に触れていただいた記事を目にしたことがある。
だが、John Bagonzi氏による6つの配球パターンの、ひと目みれば誰もがわかる「ある、わかりやすい特徴」については、残念ながら、いまだどなたも触れた形跡はない。

それは、6つのパターンすべてが、下記の4TH SEQUENCEにみられるように、全てのパターンが「4球」で記述されていることである。
(4TH SEQUENCE以外の5つのパターンは、次のリンクを参照。すべてが「4球」で構成されている。:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信

例:4TH SEQUENCE
Away, away and in


1. Fastball lower outer half
2. Repeat fastball lower outer half
3. Curveball away
4. Fastball up and in


なぜ5球でも、3球でもなく、
「4球」で配球パターンを構成するのか?

もちろん説明しきれるはずもないが、考えてみる価値はある。MLBのバッテリーにとって「カウント」のもっている意味、いわゆる「カウント論」とかいうやつだ。

そもそもカウントは本来、配球論のベースのひとつにほかならないはずだが、日米の間では、以前にいろいろ書いたように「配球」に違いがあるだけでなく、配球以前の「カウント」に対する考え方においても、あらゆる面で大きな違いがあるような気がする。
例えば、日本でカウントごとに漫然と分類されて考えられている「投手有利」だの、「打者有利」「五分五分」だのという話にしても、あまりに感覚的であり、果たしてMLBの実態に沿っているか? 根拠はあるのか? という疑問があった。


たとえば、この「なぜ4球なのか?」という問いに、「メジャーは球数制限があるから、手早く打者を片付けることに目標を置いているから」とか言えば、あたかも話が済んでしまうかのように思うかもしれないが、そんな馬鹿馬鹿しい説明では、まるで説明にならない。
「打者をうちとることのできるパターンをどうしても『4球』で創造すべき必然性」が、たとえ片鱗であっても説明できなければ、なんの意味もない。

さらにもうひとつ、話にならないほど間違った解答例をあげてみると、「2ストライク(つまり、投手有利なカウント)に打者を追い込んだ後、外角に1球外すから、『4球目が勝負』という意味だろう?」などという戯言(タワゴト)に至っては、まったくお話にならない。
(そんなことくらい誰でもわかりそうなものだが、大なり小なり、「0-2カウントが、どこの国でも、投手にとって最も有利なカウント」だの、「打者を追い込んだら外に遊び球」だの、そういうおかしな先入観にまみれたままMLBを見ている人は案外多いから困る)

6つの配球パターンを読むとき、先入観として、「どのパターンでも最初の2球で投手はできるだけストライクをとり、打者を、いわゆる『投手有利な0-2カウント』に追い込むことを目指す」と思いこんで読む人が多いかもしれないが、そんなこと、配球教科書のどこにも書かれてない。

実際「0-2カウントが最も投手に有利」なんていう話自体、ある意味ただの与太話、先入観であって、「打者という他者の存在と、0-2カウントを実現させるための投手側の多大なリスク」を無視した、ただの脳内お花畑以外の何モノでもない。「打者という他者の存在を想定しない配球」など、なんの意味もない。
0-2カウントがいつでも簡単につくれるくらいなら、投手は誰も苦労などしないし、配球論など必要ない。
また、投手に大きなリスクを犯させてまで「0-2」を無理に実現しようとする配球を強要するメリットは、実際にはほとんどない、と考える。わかりやすくいえば、0-2カウントを無理に実現しようとして初球と2球目を打たれまくっていては、なんの意味もないのである。


そんなだから、またぞろコネ捕手城島のような、あらゆるタイプの投手に三振配球を強要したりする、単調で、能の無い、先入観まみれの出来の悪い捕手が、はるばるアメリカにまでやってきてしまうのだ。
城島の他者を想定しない自己満足で非現実な配球のせいで、シアトルの投手がどれだけの「無用なリスク」を背負い、どれだけの失点をしたことか。


メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」『damejimaノート』というシリーズの10回目以降では、イチロー、ボビー・アブレイユなど、実際のMLB好打者たちの例をひきあいに出したりしながら、
「なぜイチローは、リベラの初球をホームランできたのか」
「なぜイチローの唯一の苦手カウントが、1-2なのか」
「なぜメジャーの投手のメッタ打ちパターンは『初球、2球目を連打され続けるのか?」

といった話を
「なぜアメリカの配球教科書に挙げられている配球パターンは、『4球』で書かれているのか?」
「なぜHardball Timesは、カウント1-1を研究したりする必要があるのか?」

といった話題につなげて、「なぜ4球なのか?」という疑問に多少なりとも糸口をつけていければと思う。

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damejima at 05:24

January 07, 2010

ノーラン・ライアンのコーチを受ける若き日のランディ・ジョンソンピッチング改造に取り組む
若き日のランディ・ジョンソン

“I was 40 years old, and to throw a 98-mile-an-hour in the ninth inning for the last out of the game, I still remember that,” Johnson said.
引退記者会見:自らのキャリアで最も輝ける瞬間は? と問われたランディ・ジョンソンは、「40歳の年齢で完全試合を達成し、そして9回でも98マイルを投げられたこと」と答えた)
Randy Johnson Retires; Matt Holliday Remains With Cardinals - NYTimes.com



2004年5月18日
ランディ・ジョンソン完全試合のBOX SCORE

May 18, 2004 Arizona Diamondbacks at Atlanta Braves Play by Play and Box Score - Baseball-Reference.com


ノーコン時代のランディ・ジョンソン

引退を発表したランディ・ジョンソンのキャリアをまとめたMLB Tonightの動画をみると、若き日のランディがひどいノーコン投手で、四球を出しまくっていたことを示す貴重なゲーム映像や、ノーラン・ライアンの指導を受けたことでピッチングが大きく改善され、大投手への道を歩きだしたことなど、ランディの22年の長いキャリアが一望できる。たいへんよくできた動画なので、ぜひ見てもらいたい。
MLB Tonight looks back at the career of Randy Johnson
Baseball Video Highlights & Clips | MLB Tonight looks back at the career of Randy Johnson - Video | MLB.com: Multimedia

ノーコン時代のランディ・ジョンソンの
与四球数・WHIP・K/BB

1989年 96   1.51  1.49
1990年 120  1.34  1.62
1991年 152  1.50  1.50
(=ノーラン・ライアンがPitcher's Bibleを発行した年)
1992年 144  1.42  1.67
1993年 99   1.11  3.11
1994年 72   1.19  2.83
Randy Johnson Statistics and History - Baseball-Reference.com

動画によればランディが1989年にシアトルにやってきたのは、あまりにもノーコンすぎてモントリオール・エクスポズにいられなくなったからだ。シアトルでの最初の4年間も、当時のWHIPの悪さをみればわかるように、四球数が毎シーズン100を越えていた。
シアトルに来たばかりのランディがまだたいした投手ではなかったことをみると、1990年代のマリナーズの観客動員がまだまだ低い数字に終わっていた理由もわかる。初期のランディ・ジョンソンは、まだ「ビッグ・ユニット」ランディ・ジョンソンではなく、ブランドン・モローのような、豪速球のノーコン投手のひとりにすぎなかったわけだ。(これはモローがダメ投手という意味ではない。ノーコンを修正するのは、ランディ・ジョンソン、ノーラン・ライアンでさえ、周囲の多大な協力があってはじめて実現した、ということである)

創立時以来のマリナーズ観客動員数推移グラフ


ランディ・ジョンソンのノーコン矯正のきっかけを作った
「ジ・エクスプレス」ノーラン・ライアンと
投手コーチのトム・ハウス


MLB Tonightの動画でランディ・ジョンソンのピッチング・フォームの改善のきっかけはノーラン・ライアンによるピッチング指導などと説明されているが、ライアンはランディがシアトルに移籍した90年代前半にはまだ現役投手であり、生まれ故郷のテキサスに所属していたわけで、なぜ同地区ライバルチームの投手であるランディをコーチングするに至ったのか? ちょっと経緯はよくわからない。
それはともかく、ノーラン・ライアンの投球術指導の能力の高さは、現在では折り紙つきだ。(例:スポーツ大陸)ノーラン・ライアンの著書Nolan Ryan's Pitcher's Bible (with Tom House, 1991)は、メジャー投手たちのピッチングの定番教科書となっていることで有名であり、ボストン松阪大輔の愛読書としても知られている。

このNolan Ryan's Pitcher's Bibleは、ライアンと、1985年にテキサスで投手コーチに就任し、80年代のノーラン・ライアンを甦らせたといわれている心理学の得意なトム・ハウスとの共著。
トム・ハウスはシアトル生まれの元投手で、いくつかの球団を経て、球団として発足したばかりの頃のマリナーズに入団、77年と78年に2シーズン投げて故郷のシアトルで引退している。
Tom House - Wikipedia, the free encyclopedia

コーチとしてのトム・ハウスはシアトルに在籍したことはないのだが、ランディ・ジョンソンとどこで接点があったのだろう?
ランディが若い頃に所属したモントリオールやシアトルでは、トム・ハウスのコーチ歴はないが、両者ともアストロズなら在籍したことがある。そのため、最初はトム・ハウスがランディを指導するとしたら、98年のランディのアストロズ在籍時か?とか思ったのだが、ランディはヒューストンに移籍する前の96年にトム・ハウスの共著でFit to Pitch(Human Kinetics Publishers, 1996. ISBN 0-87322-882-0. With Randy Johnson.)という本を出版している。
つまり、ランディとトム・ハウスの関係が始まったのは、90年代後半ではないく、90年代前半のシアトル時代なのは間違いない。

ちなみに下記の現地記事でも、ランディがトム・ハウスのコーチングを受けたのは、やはり90年代初頭のランディのシアトル時代、としている。やはりランディがシアトルにいて、他方ノーラン・ライアンとトム・ハウスがテキサスにいた90年代前半に、彼らの親密な関係は始まっている。
In the struggle to overcome his problems with ball control, Johnson got some valuable tips from world-famous pitching authority Tom House during the early 1990s. At the time House was pitching coach for the Texas Rangers.
Randy Johnson - Related Biography: Pitching Coach Tom House

これはただの想像だが、1991年時点ではノーラン・ライアンが、トム・ハウスとの共著Nolan Ryan's Pitcher's Bible本を出版したばかりの時代で、出したばかりの本のプロモーションがわりに、別球団のシアトルのノーコン投手ランディ・ジョンソンを指導してみせて、著書の内容の正しさを世間にデモンストレーションした、ということかもしれない。
指導対象にシアトルの投手を選んだのは、トム・ハウスがシアトル生まれで、しかも70年代にシアトルで投手をしていたというコネクションを利用したのかもしれない。
Nolan Ryan - Wikipedia, the free encyclopedia
ちなみに、テキサスで1988年にメジャーデビューした19歳のイヴァン・ロドリゲスがメジャー昇格2日目の6月21日にバッテリーを組んだのは、44歳のノーラン・ライアンだった。まだ新人のパッジも、おそらくノーラン・ライアンからは色々と感化されたに違いない。(そのわりには近年のリードは単調さが目立つが 苦笑)
Historical Player Stats | MLB.com: Stats


ランディ・ジョンソン以上のノーコン投手だった
ノーラン・ライアン


ノーコン投手時代のランディ・ジョンソンをコーチングして、彼が大投手になるきっかけをつくった「ジ・エクスプレス」ノーラン・ライアンだが、若い頃のライアン自身がランディ以上のたいへんなノーコン投手であり、ライアンのキャリア自体がまるでランディそっくりである(笑)だから、この師弟関係、なんとも微笑ましい。
ライアンはサンディ・コーファクスがドジャースで奪三振のメジャー記録をつくった1965年に、トム・シーバードン・サットンの先発投手全盛時代のメッツに入団した。以降ずっとノーコンに苦しんで、偉大な先発投手だらけのメッツでは居場所がなく、1971年12月に、アナハイムに移転する前の弱小球団だった時代のカリフォルニア・エンゼルスに放出された。
つまり、ノーラン・ライアンの若い頃は、ノーコンすぎてモントリオールにいられなくなってシアトルに放り出されたランディ・ジョンソンの若い頃そっくりなわけだ(笑)
若い頃のノーラン・ライアンは、1973年にサンディ・コーファクスのシーズン奪三振記録を塗り替えているわけだが、同時に、ランディ・ジョンソン以上の最悪の四球王でもあり、メジャー歴代ベスト3に入るシーズン200個以上もの四球を、それも2度出したことすらある。WHIPこそ、若い頃のランディ・ジョンソンの酷い数値に比べればマシだが、いかせんグロスの四球数がハンパなく多い(苦笑)

ノーコン時代のノーラン・ライアンの
与四球数・WHIP・K/BB

ちなみに、シーズン与四球204は、MLB歴代2位。202は、MLB歴代3位。183は、歴代7位(笑)さすが、何をやらせてもスケールが大きいノーラン・ライアン(笑)
1971年 NYM 116  1.59  1.18
1972年 CAL 157  1.14  2.10
1973年 CAL 162  1.23  2.36
(=ジェフ・トーボーグの引退シーズン)
1974年 CAL 202  1.27  1.82
1975年 CAL 132  1.43  1.41
1976年 CAL 183  1.32  1.79
1977年 CAL 204  1.34  1.67
1978年 CAL 148  1.41  1.76
1979年 CAL 114  1.27  1.96
Nolan Ryan Statistics and History - Baseball-Reference.com


ノーラン・ライアンのノーコン矯正のきっかけを作った
捕手ジェフ・トーボーグ


自分自身がもともとノーコン投手だった若き日のノーラン・ライアンに大投手になるきっかっけを作ったのが、当時カリフォルニア・エンゼルスでキャッチャーをやっていたジェフ・トーボーグ、というのも有名な話だ。
トーボーグは、「ライアンはモーションを急ぐために、足の踏み出しに腕の振りが追いついてない」と、フォームの欠陥を指摘したという。
その後ライアンは、監督や投手コーチも交えフォーム改造に取り組んだが、後年「機械的でうんざりすることもあったが、結局はこの作業が私のピッチングを変えることになった」と振り返っている。
(原資料:武田薫 「ノーラン・ライアン 「永遠の奪三振王」──その揺るぎなき本質」 『スポーツ・スピリット21 No.20 メジャーリーグ 栄光の「大記録」』、ベースボール・マガジン社、2004年、ISBN 4-583-61303-2、32-35頁。)

トーボーグは、後に監督業に転じて、クリーブランド、シカゴ、モントリオール、メッツ、フロリダの監督をやり、1990年にはシカゴでア・リーグ年間最優秀監督賞を受賞している。伊良部のフロリダ時代の監督でもある。
Jeff Torborg - Wikipedia, the free encyclopedia



捕手ジェフ・トーボーグにマウンドから投球術を伝授した
サンディ・コーファクス


Sandy Koufaxのピッチングフォーム

サンディ・コーファクスの背番号ウオッシュバーンロブ・ジョンソンの共同作業(参照資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:『ドルフィン』 by ウオッシュバーン&ロブ・ジョンソン)を思いおこさせるようなピッチャーとキャッチャーの共同作業によって、ノーラン・ライアンが大投手になるきっかけをつくったジェフ・トーボーグだが、彼がキャッチャーとして、とてもつもないノーコン投手だったノーラン・ライアンの球を受けていて、ライアンのフォームの欠陥を見抜くことができた理由は、トーボーグがドジャース時代に、あのサンディ・コーファクスの球を受けていたことにあるという。



トーボーグは、キャッチャーとしてカリフォルニア・エンゼルスに1971年に来たが、その前は、1964年から1970年まで7年間同じ西海岸のロサンゼルス・ドジャースに在籍していて、ノーラン・ライアンが1973年に記録を塗り替えるまでシーズン奪三振のMLB記録をもっていた大投手サンディ・コーファクスの球を実際に受けていた。
コーファクスの現役は1955年から1966年(58年にドジャースはブルックリンからロサンゼルスにホームタウンを変えた)だから、トーボーグとコーファクスは1964年からの3シーズンしかキャリアの重なりがないが、よく知られているように、コーファクスの全盛期はキャリア最後の4年間だから、大投手サンディ・コーファクスが最も輝きを放ったシーズンを体で最もよく知るキャッチャーが、このジェフ・トーボーグということになる。
コーファクスがメジャー奪三振記録382を作ったのも、最後のノーヒット・ノーランを達成したのも、引退前年の1965年。キャリア最後の4シーズンでコーファクスのWHIPは、4シーズン連続で1.00を切っている。ちなみに、コーファクスのキャリアWHIPは、1.11という、とてつもない数字だ。

サンディ・コーファクス 栄光の4年間の
与四球数・WHIP・K/BB

1963年 58  0.875  5.28
1964年 53  0.928  4.21
1965年 71  0.855  5.38
1966年 77  0.985  4.12
Historical Player Stats | MLB.com: Stats

Sandy Koufax Statistics and History - Baseball-Reference.com

そして、このコーファクスもまた、ランディ・ジョンソン、ノーラン・ライアンと同じく、若い頃は速球は速いもののコントロールの悪さから、ノーラン・ライアンほどではないが、四球が多かった(笑)
1955年 28  1.464  1.07
1956年 29  1.619  1.03
1957年 51  1.284  2.39
1958年 105 1.494  1.25
1959年 92  1.487  1.88
1960年 100 1.331  1.97


サンディ・コーファクスが達成した最後のノーヒッター(=1965年9月9日の完全試合)、そして、サンディ・コーファクスの奪三振記録を塗り替えたノーラン・ライアンが記録した最初のノーヒッター(1973年5月15日)、この両方の試合でキャッチャーをつとめたのが、ジェフ・トーボーグであるのも有名な話だ。
ちなみにトーボーグは、ライアンが最初のノーヒッターを達成した1973年シーズンを最後に引退している。まるでコーファクスの投球術をライアンに授けるためにメジャーリーガーになったような捕手である。

1965年9月9日
サンディ・コーファクスの完全試合のBOX SCORE

September 9, 1965 Chicago Cubs at Los Angeles Dodgers Box Score and Play by Play - Baseball-Reference.com
コーファクスの最後のノーヒッターゲームだが、実はドジャース側もわずか1安打。つまり、両チームあわせて、たった1安打の、超投手戦。試合時間はわずかに1時間43分。コーファクスはカブスを8回、9回と、6者連続三振に打ちとるなど、14三振を奪った。
1973年5月15日 ノーラン・ライアンの
最初のノーヒットノーランのBOX SCORE

May 15, 1973 California Angels at Kansas City Royals Box Score and Play by Play - Baseball-Reference.com



トーボーグ自身は、キャリア10年で打率,214、ヒット数わずか297本と、バッターとしてはさえない成績に終わったが、キャッチャーとして(または指導者として)、サンディ・コーファクスの投球術(あるいは投球フォームなのかもしれないが)をノーラン・ライアンに伝えた、という意味では、メジャーの歴史に残る大仕事をしたといえる。
「メジャーのキャッチャーは壁だ」なんていうのは、ただの迷信だ(笑)
またノーラン・ライアンは、キャッチャーのジェフ・トーボーグを経由することで、時代の離れたサンディ・コーファクスの投球術を受け継ぐことができた。さらにライアンは投手コーチのトム・ハウスとともにPitching Bibleとして集大成する仕事を成し遂げることでメジャーの投手たちを啓発し、ことランディ・ジョンソンに関しては、手取り足取りノーラン・ライアン流投球術のエッセンスを授けた、といえる。

1試合15奪三振以上試合数

1位 29試合 ランディ・ジョンソン
2位 26試合 ノーラン・ライアン
3位 10試合 ペドロ・マルチネス
4位  9試合 ルーブ・ワッデル
4位  9試合 サンディー・コーファックス
4位  9試合 ロジャー・クレメンス






damejima at 18:47

October 19, 2009

ずっとこのブログで取り上げてきた、あのクリフ・リーがNLCS、ナ・リーグ優勝決定戦の第3戦に先発した。黒田には申し訳ないのだが、結果は最初からこうなる、つまり、大差がつくと思っていた。サイ・ヤング賞投手クリフ・リーと黒田では、モノがあまりにも違いすぎる。
まだゲームは続いているが、10奪三振、無四球。クリフ・リー快刀乱麻で、フィリーズの勝ちは間違いない。
Phils back Lee's gem in Game 3 rout | phillies.com: News

LA Dodgers vs. Philadelphia - October 18, 2009 | MLB.com: Gameday

クリフ・リーの素晴らしいピッチングで特に圧巻だったのは、7回の1死2塁から、マニー・ラミレス、マット・ケンプを連続三振にうちとったシーン。たいへんいいものを見せてもらった。

このゲームでクリフ・リーが7回までに打たれたヒットはわずか3本しかないが、うち2本がマニー・ラミレスである。だがマニーにはヒットを打たれた、というより、長打を許さず、ドジャース打線を調子づかせないピッチングを徹底したと言えるわけで、これはこれで成功である。たとえマニーにシングルを打たれても、次の打順のケンプさえ抑えておけば、フィリーズ側にとって何も問題はない。

しかしながら、こと、この7回の1死2塁に関してだけは、マニー・ラミレスに対するクリフ・リーの気合と気迫が違った。「絶対に三振させてやる!」という、なんとも激しいオーラがクリフ・リーから発せられていた。

案の定、ラミレス、ケンプ、2者連続三振。

2009年10月18日 5回無死1塁クリフ・リー ケンプをカーブで三振ナ・リーグ優勝決定戦 第3戦
5回表 無死1塁
マット・ケンプ 三振

これは5回のケンプの三振。最後はインローのカーブで三振していることに注目。この目に焼きついたカーブを、次の打席でこんどはボール球として有効に使い、ケンプを翻弄した。素晴らしい配球。


2009年10月18日 7回クリフ・リー マット・ケンプを三振ナ・リーグ優勝決定戦 第3戦
7回表 2死2塁
マット・ケンプ 三振

7回の2死2塁では、ケンプへの3球目にカーブを真ん中低めに落としておいて、4球目のチェンジアップを同じ軌道で投げて追い込んだ。4球目はド真ん中だったが、5回にカーブで三振している後では、この同じ軌道の球にケンプは手が出せない。クリフ・リーのスーパー・テクニックだ。


カーブはマット・ケンプにだけ投げたわけではなく、他の打者にも投げている。だが、上に挙げた画像からわかるようにを、5回表の無死1塁の打席でケンプは「高めの球で追い込まれ、最後は低めいっぱいのカーブで空振り三振」している。ここが重要。
きっとケンプの目とアタマには「カーブの軌道」が焼きついたことだろう。


7回のケンプの三振でも、3球目にカーブを投げたが、こんどは「真ん中低めに落ちてボールになるカーブ」。使い方が、あまりにも素晴らしい。
ほれぼれするとは、このこと。クリフ・リーの「ド真ん中を打者に振らせない配球」、コントロールの良さ、変化球のキレ、そしてなにより、マウンドでの落ち着きと気迫。全てが素晴らしい。

3球目カーブの次に、4球目としてチェンジアップを、ほぼド真ん中低めのホームランコースに投げているわけだが、打者ケンプはあっさり見逃して、カウントを追い込まれている。
4球目のド真ん中を打者に振らせないで、見逃させることができたのは、3球目のカーブがあるからだ。「5回に三振をとったカーブを、こんどはボール球として利用」して、こんどはチェンジアップを「同じボールの軌道からど真ん中にほうりこむこと」によって、打者にバットを振らせなかったのである。

3球目と4球目は、打者目線で、「ほぼ同じ軌道」で来る。そこがポイントだ
3球目のボールになるカーブが75マイル。そして、4球目の、ほぼド真ん中のチェンジアップが85マイルで、球速にさほど差がない。
「前の打席での三振、そしてこの打席での3球目・・この4球目も真ん中低めに落ちてボールになるのでは・・・?」と、打者ケンプがバットを出しかねて迷った瞬間に、すでにボールはすっぽりキャッチャーのミットに納まっている、という次第だ。

素晴らしい。

このブログで、メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノートというシリーズで、「カーブを有効にするための高めのストレートの使い方」という研究例を挙げた。
これは、まず「高めのストレート」を投げておいて、次に「カーブを同じ軌道に投げ」、2つの球の軌道をかぶらせることで打者の目をくらませて、凡退させる、という「軌道のオーバーラッピング」の手法。
この記事はもともと、低めの球を最初から最後まで投げ続けるような低脳なリードを批判し、高めの球を有効に使う例として挙げたものだ。この記事だけでなく、シリーズ全体を読んで意図をしっかり読み取ってほしい。

上に挙げた5回表無死1塁で登場したケンプの三振でも、クリフ・リーはさんざん高めの球を使ってケンプを追い込んでおいて、それから決め球として、インローいっぱいにカーブを投げ、空振り三振させている。高目を有効に使って、最後のカーブに誘導したのである。
コネ捕手城島のごとく、「ピンチではアウトローに投げていれば打ち取れる、かもしれない」などという低脳リードは、意味のわからない迷信、ただの馬鹿リードだ。
今日の黒田にしても、初回1死から連打されたシングルはどちらも「アウトコース、コーナーいっぱいの球」。ハワードの三塁打が「真ん中低めの直球」。ワースの2ランが「アウトコース低めの直球」。臆病さと「低めという迷信」にとらわれている上に、工夫も知恵も足りない。

メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:カテゴリー:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート

クリフ・リーの使った「投球の軌道を打者の目から見てダブらせるテクニック」は、カーブを真ん中低めに落としておいて、それから同じ軌道をつかって、こんどはチェンジアップ、つまり、カーブほど曲がらない変化球を「ド真ん中に投げて、しかも振らせないことに成功している」のである。

クリフ・リー。さすが名投手である。
アウトローのスライダーしか頭にないコネ捕手城島などに、これほどのハイレベルの配球ができる可能性は、まさに「ゼロ」である。

ちなみにクリフ・リー。114球投げて、ストライクは76球。ボールは、そのピッタリ半分の38球。つまり、「ストライク2に対して、ボール1」。ぴったり、セオリー通りのピッチングである。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月5日、ヘルナンデスのストライク率と四球数の関係を解き明かす。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年10月6日、ヘルナンデスと松坂の近似曲線の違いから見た、ヘルナンデスの2009シーズンの抜群の安定感にみる「ロブ・ジョンソン効果」。

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damejima at 12:05

October 13, 2009

ちょっと時間があいてしまったが、ヘルナンデスとロブ・ジョンソンの「サイ・ヤング バッテリー」が19勝目を飾った最終テキサス戦のことを書いてみる。
Texas vs. Seattle - October 4, 2009 | MLB.com: Gameday


このゲームについては、すでに初出の記事で「高めの球を効果的に使った好リード」と、明確に書いておいた。もちろん、ちゃんと理由があってのことだ。
2009年10月4日、ロブ・ジョンソン、高めの球を効果的に使った好リードや8回の刺殺などでヘルナンデスに5連勝となる19勝目、ついにア・リーグ最多勝投手達成!!

ロブ・ジョンソンの今シーズンの英雄的な勝率の高さについては、馬鹿な城島オタや、データも無しに「気分」でモノを言ったり書いたりする評論家やライター、あまりバッテリーワークの細部を見ずにモノを言うアホウが、雁首そろえ、しかもジェラシー丸出しにして(笑)、「勝てるヘルナンデスを担当しているんだから、勝率が高くて当たり前」みたいな、理にあわないことを言う場面を何度となく見せてもらって、いつも腹を抱えて笑わせてもらっていたものだ。こんな馬鹿丸出しの話はない。
ヘルナンデスを担当するだけでサイ・ヤング賞がとれるなら、コネ捕手城島だって去年まで3年連続でサイ・ヤング賞とはいわないまでも、ヘルナンデスやウオッシュバーンに月間最優秀投手くらい受賞させていなければおかしいわけで、理屈にあわない。
いい大人が子供でもわかるヒガミをクチにして得意げになっていては、恥をかくだけだ。

今シーズンのロブ・ジョンソンとヘルナンデスのバッテリーについては、何度も記事を書いたが、思うのは、「彼らはすべてのゲームで成功してきたわけではない」ということだ。
ときには、ストレートにキレがないために、なかなかストライクがとれないゲームもあった。また、初回から相手チームにヘルナンデスの配球の基本であるストレートに狙いを絞りこまれ、対応に苦しんだゲームもあった。特に8月は、対戦相手が思い切って狙い球を絞るゲーム運びをしてきたケースが続き、相手打線の狙いをはぐらかすのに苦労したものだ。
だが、たとえ対戦相手から研究され、スカウティングされようと、それを乗り越え、相手を研究し返し、苦しいゲームを乗り切ったときに、はじめて、「ア・リーグ最多勝」「月間最優秀投手2回」「サイ・ヤング賞有力候補」というような、栄冠が得られるものだ。

名誉がなんの苦労もなく手に入るわけはない。
勘違いしてもらっては困る。



まぁシーズンも終わったことだし、そんな苦労の多かったロブ・ジョンソンにとって、名誉あるシーズンの締めくくり、集大成になった最終テキサス戦をサンプルに、今シーズンのバッテリーとしての工夫ぶりや、ロブ・ジョンソンの「引き出し」の多さについてのメモを書きとめておこうと思う。


このテキサス最終戦で、ヘルナンデスが対戦した打者は25人。
ゲームを見ていても「高めの球をうまく使っている」と感じたわけだが、後で調べてみると、ヘルナンデスが「初球に高めのボールを投げた打者」が9人ほどいる。対戦したバッターの3分の1程度には、だいたい同じ球を高めに投げていることになる。
この「3分の1」、というのが、いかにもロブ・ジョンソンらしさである。これが2分の1になって、相手に読まれてはいけないのである。

2回 ティーガーデン 三振
2回 キンズラー   レフトフライ
3回 ジェントリー  サードゴロ
3回 ジャーマン   ライトフライ
4回 マーフィー   レフトライナー 左打者
4回 ブレイロック  三振 左打者
5回 ジェントリー  ショートゴロ
7回 ブレイロック  四球 左打者
7回 ティーガーデン サードゴロ
(7回 ジェントリー レフトライナー 投手メッセンジャー)

初球、右打者には(1人をのぞいて)「インハイ」、左打者には「アウトハイ」に投げている。球種はほとんどがストレート。
要するに、投手ヘルナンデス側からみれば、「9人に、初球をまったく同じコースに投げた」ということだ。投手にしてみれば、同じコースに投げればいいわけで、たいへん投げやすいはずで、余計な気を使う必要がなく、精神的な疲労感が軽減できる。


なぜ、これら9人のバッターに「高めの球から入ったか」といえば、理由は簡単だ。
テキサス打線の大半が「高めの球、特にインハイが苦手だから」だ。

だからこそ、これらのバッターはのべ9人が9人とも、ヘルナンデスとロブ・ジョンソンのバッテリーの「高めの初球」をヒットすることはできなかった。4人がストライクを見逃している。

初球の高めの球を打てないテキサス打線
2回 ティーガーデン ボール
2回 キンズラー   見逃しストライク
3回 ジェントリー  見逃しストライク
3回 ジャーマン   見逃しストライク
4回 マーフィー   空振り
4回 ブレイロック  見逃しストライク
5回 ジェントリー  ファウル
7回 ブレイロック  ボール
7回 ティーガーデン ボール

FOX SportsのMLBページでは、Hot Zoneといって、打者のコース別の打率を、上下左右に9分割したコース別に公開してくれている。
それをみると、テキサスの打者はかなりの数、というか、大半の打者が「高め」を苦手にしていることがわかる。あの巧打で知られる右打者キンズラーでさえ、インハイは苦手なのだ。

ボーボン インハイとアウトローが苦手
Julio Borbon, Center Field, Texas Rangers, MLB Hot Zone - FOX Sports on MSN
マーフィー 典型的にハイボールヒッター
David Murphy, Left Field, Texas Rangers, MLB Hot Zone - FOX Sports on MSN
ブレイロック  インハイとインローが苦手
Hank Blalock, Designated Hitter, Texas Rangers, MLB Hot Zone - FOX Sports on MSN
キンズラー インハイとアウターハーフが苦手
Ian Kinsler, Second Base, Texas Rangers, MLB Hot Zone - FOX Sports on MSN
ティーガーデン インハイが苦手
Taylor Teagarden, Catcher, Texas Rangers, MLB Hot Zone - FOX Sports on MSN
ジェントリー アウトコース低めしか打てない
Craig Gentry, Center Field, Texas Rangers, MLB Hot Zone - FOX Sports on MSN
ジャーマン 高めがまったくダメ。逆に低め、インコースは強い
Esteban German, Second Base, Texas Rangers, MLB Hot Zone - FOX Sports on MSN

では、
Hot Zoneの示すような「データ的に打率の低いコースに投げてさえいれば打たれない」のか? 打者全員に「初球は打率の低いコースを投げていれば、初球だけは打たれないですむ」のか?

いやいや。そんなわけがない。
それでは打者に配球を読まれてしまう。読まれたら終わりだ。だから「3分の1」の打者にしか、「初球 高めストレート」を使わない。

それに、インハイの打率が低いからといって、それが本当に苦手コースかどうかは正確にはわからない、ということもある。インハイに投げてくる投手が少なかったとか、インハイのサンプル数が少ないだけ、という可能性だってある。



プロの打者というものは、たとえそれが苦手なコースや球種のボールであっても、あらかじめ「来る」とわかっていれば打ててしまう。まして、160キロの速球であろうと、超高速のブレる球、ナックルであろうと、どんな球でも打ちこなしてしまうのがメジャーだ。

余談になるが、どうも「ボールが投手の指を離れ、ボールがホームプレートに到達するまでのリーチ時間」と、「通常の人間の反射スピード」を単純に比較すると、「ボールのスピードや変化のほうが早すぎて、とても打てるはずはない」らしい。
では、なぜプロのバッターがバットにボールを捉えられるのかといえば、トレーニングによって反射スピード(「カラダが反応する」というやつ)を上げている以外に、異常なほどの天性の動体視力、投手のフォームのクセに対する「読み」、配球から次の球種やコースを予測する「読み」など、さまざまな能力がからむことで、それではじめて「打てる」ということらしい。


「初球にテキサス打線の苦手な高め」はいいが、
2球目だって問題だ。

以前に「メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート」というシリーズで紹介した「メジャー捕手と城島の『対角パターン』の正反対ともいえる違い」を思い出してもらいたい。
もしこれがコネ捕手城島なら、「インハイにストレート」を投げたからには、次の球は「アウトコース低めいっぱいの変化球」、とくにスライダーを投げそうなものだ。
城島のよく使う「対角パターン」というやつだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」damejimaノート

だが、しかし、今回とりあげた9人の打者に、ロブ・ジョンソン、ヘルナンデスのバッテリーは、一度も「2球目に、アウトコース低めコーナーいっぱいにスライダーを投げる」ような、無駄に力が入って神経質なだけで、労力のかかる無駄なことをしていない。

たしかに初球に高めを投げた9人のうち、2球目に変化球を投げるケースは半数ほどある。だが、どのケースでも2球目に投げたのは「真ん中低め」(数人は「真ん中」に投げてしまっているが、これはおそらくコントロールミスの可能性が高いだろう)であって、カーブ、スライダー、チェンジアップを投げわけている。もちろん、「真ん中低め」を決め球に使うのは、メジャーの配球のパターンのひとつである。
この結果、何人かの打者は2球目で打ちとっている。また、こうした組み立てをしたのは、2回から5回と、7回の5イニングだけで、1回と6回は組み立てをまったく変えている。

要は、ロブ・ジョンソンとヘルナンデスは「高めから入る組み立て」においては、「2球目で打ち取れるものなら打ち取って、さっさとイニングをすませたい」のであって、ひとりに6球も7球も使って無理矢理三振をとりたいと最初から考えて、意味不明な苦労をみずから背負い込んで投げているわけではないということ。
そもそも「2球目に素晴らしい変化球をアウトコースコーナーいっぱい、いっぱいに使って、絶対に打者のバットを振らせない、きわどいピッチング」をしなければならない必要性など、どこにもない。
気楽にやればいいいのだ。それが、2009年5月にアーズマの言った「サンデー・フェリックス」だ。

カテゴリー.:「サンデー・フェリックス」byアーズマ

2009年5月24日、デイビッド・アーズマが「ヘルナンデスがロブ・ジョンソンと組むゲームと、城島と組むゲームの大きな違い」を初めて証言した。

一応いっておくと、ロブ・ジョンソンバッテリーに「三振を最初から獲りにいく配球戦略」がないのではない。実際、このゲームの6回には、突然、「低めから入る配球」に切り替えて、テキサス打線をズバズバと3者三振に切ってとっている。

そのことについては、また後のほうで書く。






damejima at 05:55

October 05, 2009

エース ヘルナンデスがサイ・ヤング賞とア・リーグ最多勝をかけて先発するシアトルの最終戦が、あと数時間後に始まる。もちろんキャッチャーはロブ・ジョンソンだ。
暇なので、こんどはヘルナンデスと城島の関係についての解説の決定版を書いてみることにした。こんなのは別にむつかしくない。3分とかからずにアイデアができた。


8枚の絵を用意した。
今シーズン、ヘルナンデスの唯一の汚点である、城島と組んだ5月の3連敗のうち、5月9日ミネソタ戦のデータである。主要左バッターへの、4人の投手たちの投球を8打者分集めた。5人にヘルナンデスが投げている。
あらかじめ言っておくが「たったこの8枚だけが、このゲームでの城島さんの素晴らしいミネソタ打線攻略配球(笑)のすべてではない」。そんなわけない。(笑)
あまりにも素晴らしい配球が多すぎて、これだけしかのせられないのだ(笑)興味があるひとは右打者への配球なども、たいへんに素晴らしいから、2009年5月9日のGameDayをじっくり見てみるといい。


特に3番マウアー、4番モーノーに対する配球は見事としかいいようがない。
この日マウアーは、3打数2安打2四球3打点2得点、ホームラン1本、2塁打1本。モーノーは、2打数2安打2四球1打点2得点、ホームラン1本。
モーノーは、「コネ捕手城島さんの『まったく配球しないで多額の給料をもらう』捕手としての天才ぶりを、メジャーで最も詳細に語れるであろうプレーヤー」として、メディア各社にブログから推薦しておく。

このゲームでミネソタ打線は、サイ・ヤング賞候補ヘルナンデスに、6安打3四球2ホームランを浴びせて自責点5を喫しさせ、全体としては、シアトルの5投手に8安打7四球3ホームラン、8点をとった。
もし今年ヘルナンデスがサイ・ヤング賞を取り逃がすようなことがあれば、このミネソタ戦をはじめ城島と組まされた3ゲームが原因である。ハッキリしている。

Seattle vs. Minnesota - May 9, 2009 | MLB.com: Gameday

この8枚、自分でいうのもなんだが、たいへん便利にできている。

ただ目を通すだけで、「シアトルのエース、ヘルナンデスが、なぜ城島を拒否しているか」「シアトルの有力投手たちは、なぜ城島とはバッテリーを組む必要がないか」「城島がチームにいないほうが勝率が上がるのはなぜか」、なにもかもが、誰にでも簡単に、手にとるようにわかるようになっている。
便利すぎる。おかげでこのブログさえ、いらなくなるだろう(笑)困ったもんだ(笑)
5月に最悪に見えたヘルナンデスが、「なぜロブ・ジョンソンと組んで今年サイ・ヤング賞目前というところまで力を伸ばせたか」、そして、今年のシアトルの「シーズン勝率回復がそもそも誰と誰のおかげか」、についても、誰でも答えが簡単に出せるようになる。

よく、ウェブ検索サイトの質問コーナーで「ヘルナンデスはなぜ城島と組まないのですか」とかいう質問と答えが書いてあって、日本とメジャーの野球のシステムの違いだの、なんだの、こむつかしく、トンチンカンな説明をするアホウがいる。
だが、そんなややこしい説明、まったくあたってないし、必要もない。

2009年5月9日 ミネソタ戦 1回トルバート 四球1回 無死2塁
2番トルバート 四球

投手:ヘルナンデス
先頭の1番スパンに2塁打を打たれると、2番トルバートにすかさず「アウトコース攻め」で四球(笑)

2009年5月9日 ミネソタ戦 1回 マウアー タイムリー二塁打1回 無死1、2塁
3番マウアー
2点タイムリーツーベース

投手:ヘルナンデス

2009年5月9日 ミネソタ戦 1回 モーノー 四球1回 無死2塁
4番モーノー 四球

投手:ヘルナンデス
2点タイムリーのマウアーがセカンド走者。モーノーにも気恥ずかしくなるほどの「アウトコース攻め」で四球。またも無死1、2塁。

2009年5月9日 ミネソタ戦 3回 マウアー ホームラン 3回 2死走者なし
3番マウアー ホームラン

投手:ヘルナンデス
マウアー、モーノーに連続ホームランを打たれ、スコアは0-4。

2009年5月9日 ミネソタ戦 4回 スパン 犠牲フライ4回 1死2,3塁
1番スパン 犠牲フライシングル

投手:ヘルナンデス
犠牲フライを打たれたくないはずの場面での「高め攻め」(笑)。あっさり犠牲フライで失点

2009年5月9日 ミネソタ戦 5回 モーノー シングル5回 無死1塁
4番モーノー シングル

投手:ホワイト
マウアー四球、モーノーのシングルで無死1、2塁。このあと6番カダイアーに3ランを打たれる

2009年5月9日 ミネソタ戦 6回 モーノー 四球6回 2死1、2塁
4番モーノー 四球

投手:スターク


2009年5月9日 ミネソタ戦 7回 ブッシャー 四球7回 1死走者なし
7番ブッシャー 四球

投手:アーズマ


のべ8人の左打者に対して、4人の投手の投げたインコースの球は、総計で3球だけ。コネ捕手さん、たいへんすばらしい「アウトコース攻め」でいらっしゃる(笑)
この素晴らしい「攻め」(笑)を実際のゲームで実行したのは、メジャー4年目のキャッチャーさんで、年収は800万ドルと聞いている。



冗談さておき。
「打者が左なら、なんでもいいから、アウトコースに投げとけ」、などという配球法は、プロフェッショナルのベースボールには「ない」。

冗談でいうのではない。
そんなのは配球では「ない」。

だからコネ捕手城島は、ヘルナンデスに対して、実は「配球してない」し、配球論は「ない」。
配球とは一定の戦略と戦術に基づいた組み立てやシステム、マトリクスであり、また、見方を変えれば、「個」や「アイデンティティ」、「プライド」や「歴史」でもある。

配球せず、アイデンティティも歴史もシステムも戦術も、何もない捕手と、ヘルナンデスは組みたくない。
当然だ。

以上、証明終わり。
簡単だったな。



英会話のレベルがどうとかこうとか、巨額のサラリー、不器用なバッティング、文化論も、キャッチングの技術論も、実は「城島問題」の真髄部分には、そういう雑多な議論はまったく関係がない。

「配球しないキャッチャー」というのは、いってみれば、「英語がまったく喋れないまま、英語圏の国に滞在している」ようなものだ。
なぜなら、配球は「ピッチャーとキャッチャーのコミュニケーション」における「共通言語」だからだ。
「何を投げたい?これか?」
これは会話そのものだし、何気ないやりとりの背景には、膨大な情報量や文化、戦略や戦術、トレーニング、スラングや方言、スタイルやアイデンティティ、プライドや歴史などの「言語様式」が存在していることも、言語とまったく同じである。


その「共通言語」が「ない」のに、しゃべれはしない。それは英会話レベルの問題ではない。

メジャー流の配球論の基礎があるとか無いとかなんたらいう無駄な分析をする前に、そもそも配球という仕事そのものが「マトモになされない」どころか、「配球してない」のだから、新人さん、お子様はともかく、メジャーのマトモな投手とコミュニケーションが成り立つわけがない。

もちろん「配球しないキャッチャー」とかいう気味の悪い人に、「日本式リード」とか「自称」されても大いに困る。

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October 04, 2009

サイ・ヤング賞をヘルナンデスと争っているグレインキーが先発したカンザスシティと、ア・リーグ中地区の優勝がかかったミネソタとの熱いゲームで、ちょっと笑い話のような決勝ホームランがあったので、ちょっと記事をつくってみる。


誰にでもわかりやすいパターンだ、という理由で、このシリーズでずっと取り上げてきている「アウトハイ・インローの対角パターン」だが、このパターン、結論から先に言うと、あまりにも単純な形でピッチングに使うのは、たいへんに危険でもある。
つまり、まぁ、それだけバッター側にも十分わかりすぎるほどわかってバレている典型的配球だ、ということなのだろう。

2つ例を挙げる。
2例とも、初球から3球続けて対角パターンを使い、3球目で「初球の球種・コースにリバース」して、あっさりホームランを打たれた。
ひとつが、今日のグレインキー先発ゲームの、8回裏カダイアー決勝ホームラン。もうひとつは、このシリーズの(1)でとりあげたイヴァン・ロドリゲスのケース。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー


この2例にはひと目でわかる共通点がある。

・初球、2球目で、あきらかにそれとわかる「対角パターン」
「3球目で、初球とまったく同じ球」を投げて、打者に見切られれ、ホームラン。いうなれば「3球目対角リバース」


2009年10月3日 ミネソタvsカンザス戦 カダイヤー決勝ホームラン2009年10月3日
ミネソタvsカンザス戦
8回裏同点から
カダイヤー決勝ホームラン

初球  インロー  2シーム
2球目 アウトハイ ストレート
3球目 インロー  2シーム(ホームラン)

ピッチャー:ヒューズ
キャッチャー:オリーボ

ごく普通の「アウトハイ・インロー」パターンなら、ストレートはインコース、変化球はアウトコース専用、という場合が多い。変化球は、チェンジアップ、カーブ、スライダーなどが使われたりすることを何度も説明してきた。
シリーズ(2)イヴァン・ロドリゲスの例 チェンジアップ
シリーズ(5)ロブ・ジョンソンの例 チェンジアップ
シリーズ(6)アダム・ムーアの例 カーブ


だが、同点で迎えたゲーム終盤のこの打席、カンザスシティパッテリーの「対角パターン」ではストレートを、イン側ではなく、アウト側の球として使い、イン側には2シームを使っている。
これはまぁ、たぶん、「チェンジアップとストレート」の組み合わせのようにスピード面の緩急はつかない「2シームと4シーム」のミクスチュアなだけに、バッテリーがちょっと工夫したかったのではないかと想像する。

2球目に外の高めにストレートを投げたのを見て、「次の3球目、初球と同じコースに同じ2シームを投げなければいいが・・・」と直感的に思ったわけだが、結局、初球と同じ球を投げて、カダイアーに決勝ホームランを打たれてカンザスシティは負けてしまった。


次に、イヴァン・ロドリゲスのケース。

2009年9月28日 テキサスvsLAA戦 1回 モラレス 2ラン2009年9月28日
テキサスvsLAA 1回
モラレス 2ランホームラン

ピッチャー:ハンター
キャッチャー:イヴァン・ロドリゲス

初球  アウトハイ チェンジアップ
2球目 インロー  ストレート
3球目 アウトハイ チェンジアップ(ホームラン)
Texas vs. LA Angels - September 28, 2009 | MLB.com: Gameday

やはり、上に紹介したカダイアーの決勝ホームランの「3球目対角リバース」と同様で、初球2球目で「対角」に大きくふっておいて、3球目に初球と同じ球を投げた、つまり「リバース」したことで、打者モラレスに配球を読まれ、スタンドに放り込まれている。


なぜまた配球の教科書の最初のページにのっかっているようなパターンを「誰にでもわかる形で」使ってしまうのか。理由はわからないが、こういう「3球目リバース」の形で対角パターンが使われるケースは、ゲームの中でけして少なくない。ケースが多いだけに、いちいち探して挙げているとキリがない。自分で探してみてほしい。
少なくともわかっていなければならないのは、バッテリーの側だけでなく、メジャーの打者の側は、こういう配球パターンがあることなど、熟知していると思わなければダメだということだ。なにごとも打者に見え見えではダメだということだろう。



アタマが疲れてくれば誰でもミスを犯す。それはそうなのだが、誰も彼も同じようにミスを犯すのかどうか。ネイサンの例を見てみる。
上に挙げたカダイアーのホームランで1点リードしたミネソタは、9回表にクローザーのネイサンが登場して、3人でピシャリと抑え、優勝がかかった大事なゲームに勝った。
そのネイサンの、先頭打者ジェイコブズに対する、非常にしつこい配球プロセスを見てもらいたい。

2009年10月3日 ミネソタvsカンザス戦 9回表 ネイサンの配球2009年10月3日
ミネソタvsカンザス戦 9回表
先頭打者ジェイコブズ 三振

ピッチャー:ネイサン
キャッチャー:マウアー

初球  アウトハイ ストレート ストライク
2球目 インハイ  ストレート ボール
3球目 アウトロー ストレート ストライク
4球目 真ん中低め スライダー ファウル
5球目 アウトハイ ストレート ボール
6球目 インロー  スライダー ボール
7球目 インロー  スライダー ファウル
8球目 アウトハイ ストレート 空振り三振

この打者にネイサンは3度も「対角パターン」を使って、しつこく打者のバットを振らせようとしているが、単純なリバースは一度もしていない。

最初の対角は、2球目から3球目。ストレートだけを対角に投げ分けた。両方同じストレートなだけに、4球目でのリバースはないと予想できる。
だからこそカウント1-2になった4球目に何を投げるのかが面白い。
ネイサンは「3球目リバース」
の失敗例のようにインハイに戻ったりせず、真ん中低めスライダーを選び、明らかに決めにかかった。決め球が「真ん中低め」というところが、いかにもメジャーらしい。

ところがファウルされて粘られた。2球目3球目の対角パターンがストレート連投だっただけに、ここはさすがに打者に「そろそろ変化球だな」と先を読まれた。

そのため、ネイサンは新たな対角を企てる。カウントに余裕があるからこそできる2度目の対角の企てだ。5球目で外に1球ストレートをはずしておいて、それから、インコース低めの「対角」にスライダーを投げた。典型的な「アウトハイ・インローの対角パターン」で打ち取りにかかったわけだ。

だが6球目は打者が振らず、ボール判定。

たがネイサンは、この項目で何度も触れてきた「3球目リバース」の失敗例のように、すぐにリバースせずに、同じ球をもう1球インローに投げておいてファウルさせておいてから、つまりひと呼吸おいて、3度目の対角パターンとして、アウトハイに予定どおりストレートをほおる。
ついに空振り三振。
そして残り2人も打ち取って、ゲームセット。

一度企てが失敗しても、しつこく、しつこく攻めてくるネイサン。球数減らしの名手ハラデイの配球芸術とは対極にあるような、ベテランクローザー、ネイサンならではの素晴らしくネチネチした配球術だ(笑)

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October 02, 2009

消化試合なのであまり気合が入らない。
フィスターとアダム・ムーアのバッテリーなので、暇つぶしにアダム・ムーアについても書いてみる。
Oakland vs. Seattle - October 1, 2009 | MLB.com: Gameday

結論から先に言うと、ムーアは「どこか教科書っぽい欠点があるが、上手いし、手際がいい」「カウントを追い込むのに長けていて、フィニッシュはワンパターン化しやすい」

しかし、まぁ、なんにしても、来年になって、全てのチームにやる気がある春から夏の季節に、パターンを読む力に優れた強豪チームと当たってみないと実力はわからない
消化試合のオークランドは、まったくだらしがない(苦笑)



ともあれ。
まずは次の3つの画像。

このシリーズをしつこく読んできた人なら、アダム・ムーアは典型的なというか、むしろ「教科書どおり」といったほうがいいようなメジャーらしいキャッチャーだとわかるはず。

逆転されかねなかった4回の大ピンチを1点で切り抜ける上で、たいへんに役に立ったのが、ピーターソンとカストを三振にとれたことだが、この2人の左打者をカウント的に追い込んでから使ったのが、このパターン。
「アウトコース高めに、カーブをボールになるように投げこんておいて、次のストレートをイン寄りに投げて、空振りさせる」

要するに、いままでいくつもの例で説明してきたが、メジャーのキャッチャーがよくやる「メジャーバージョンの対角パターン」、つまり「アウトローではなく、アウトハイの変化球とインローのストレートで、対角線上に攻める」という基本パターンなわけだ。
この「対角」パターンを、左打者のカウントを追い込んだ場面で、同じイニングで何度も繰り返し使った、という話だ。(ムーアはどうも、効果がなくなるまで同じパターンを繰り返し使うリード癖はあるようには思う。好きな数パターンを使いたがることも垣間見える)

「教科書的」と言ったのはもちろん、今日は成功したとはいえ、正直ものすごく「ベタ」なパターンだからだ。「追い込んだカウントだから通用する」「右投手が左打者に使うから通用する」と、いろいろ限定条件がつくこともある。だから、シーズンの行方が決まってしまった消化試合での成功に、手放しに喜ぶような話でもない。

むしろ、多少苦笑してしまうのは、左バッターの2−2の平行カウントでアウトコースのボールにするカーブを投げることで、「ああ、次はインコースに、たぶんストレートが来るな」と、予想がついてしまう、ということだ。
けして若いムーアをけなす意味でなく言うと、LAAのアブレイユやハンターあたりのような野球をよく知っている打者に、こういう小細工が通用するとは思わない。
トロントやホワイトソックス同様、今年のオークランドは、かつてセイバーメトリクス、分析的野球の総本山だったことなど、微塵も感じられない。それほど、何の分析力も、粘り強さも感じられない。ただただ来た球を振り、自分の前の打席や、自分の前の打者への配球など、きちんと見て考えてもないように見える。
だから、バーノン・ウェルズやオーバーベイの打席をみるかのように、オークランドは何度でも「同じパターン」にひっかかってくれる。

2009年10月1日 1回 ケネディ 四球2009年10月1日
1回表 先頭
ケネディ 四球

4球目に外高めのカーブで、次が外高めのストレートなので、ここは典型的な「アウトハイを使った対角」ではないのだが、外高めカーブの直後にストレートを使うパターンは初回からあったことを示すために収録。


2009年10月1日 4回 カスト 三振2009年10月1日
4回表 無死3塁
カスト 三振
球が全体にはストライクゾーンに集中しているわりに、「5球目のカーブ」だけは大きくはずれたように「見せて」いるのは上手い。直後ストレートのコースは結構甘いのだが、それでも三振してくれるのは、やはり打者が、外のカーブが大きくボールになるのを見て多少気が抜けたこともあるかもしれない。


2009年10月1日 4回 ピーターソン 三振2009年10月1日
4回表 2死2塁
ピーターソン 三振

この三振も、カストの三振と非常に似ている。カウントを追い込んだストライクはどれもけっこう真ん中よりに決まっていて、コースは甘い。それでも、アウトコースのボールになるカーブの後に、ズバっとストレートを真ん中に放り込む。度胸だけで乗り切ったという感じもある。



さて、「教科書的」と思った理由を、もうひとパターン挙げてみる。5回のケネディのシングルヒットの場面。

2009年10月1日 5回 ケネディ シングルヒット2009年10月1日
5回 ケネディ
シングルヒット

初球  アウターハーフ 2シーム ストライク
2球目 アウトコース高め ストレート ボール
3球目 インナーハーフ ストレート ストライク
4球目 アウターハーフ チェンジアップ ヒット

ここまでとりあげてきたメジャーの基本パターンの「アウトハイ・インローの対角パターン」や、コネ捕手の小汚い「3拍子幕の内弁当」(「3拍子幕の内弁当配球」とは何か?についてはこちらを参照:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(5)実証:ロブ・ジョンソンと城島との違い 「1死1塁のケース」)のどちらとも違って、ブログ主好みのいわゆる「ハーフハイトのボールを使った配球パターン」で、無駄が少なく、それだけに美しい。

ただし、3球目までは、だ(笑)

いけないのは4球目。
メジャーの打者の誰もがここは、「ああ、4球目はアウトコースにチェンジアップが来るな。そう教科書に書いてあるよな?(笑)」とか(笑)、予測できてしまう、そういう典型的配球になっていると思う。
打者ケネディは、第一打席でも四球を選んでいるとおり、カストやピーターソンのように、捕手ムーアの得意とする教科書的な典型的配球パターンにハマってはくれない。この打席でも、ムーアの流れるような配球にはまりこむことなく、予想どおりのチェンジアップをレフト方向へ綺麗にシングルヒットを見舞った。
ケネディ、いい打者である。ジャック・ウイルソンやビル・ホールなどではなくて、こういう「賢い打者」こそ、本当はトレードで獲得すべきだ。

だからこそ、4球目がもったいない。この4球目だけは、教科書的な配球ではなく、ベテランクローザー、ネイサンの配球でも見習って、何かひとひねりがあればパーフェクトだったと思うのだ。
打者によって技量は違うわけで、ケネディはカストよりパワーはないが、アタマがいい。打者ごとの技量の差を読むことまでは、まだムーアにはできていない。つまり「若い」と感じるわけである。

暇な人は、この配球パターンと、このシリーズの序論ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」)でとりあげた大投手ハラデイのシンプルさの極致をいく「ハーフハイトのボールを使った芸術的3球三振」を、ぜひ比べてみて欲しい。

寿司を握る職人は、経験を積めば積むほど、「手数が減っていく」というけれども、たった3手でオルティーズを3球三振させるハラデイと、ボールを挟みながら、4球目で相手に読まれてしまうムーアでは、まだまだ大差があるのである。


とはいえ、ムーア独特の感じ、というものもある。
6回のバートンの打席。非常にカウントの追い込みかたが美しい。

2009年10月1日 6回 バートン 1塁ゴロ

初球  インナーハーフ ストレート ストライク
2球目 インロー カーブ 空振りストライク
3球目 インナーハーフ チェンジアップ ボール
4球目 真ん中低め チェンジアップ ボール
5球目 真ん中低め 2シーム 1塁ゴロ

結局ムーアが良さを見せる最も得意パターンは、「カウントを追い込むプロセスの手際の良さ」だと思う。(まぁ、理論的でもあるだろうし、悪く言えば、教科書的でもあるだろうし。評価は来シーズン以降だ)
最後のフィニッシュは、ここまで書いたとおり、けっこうワンパターンだったりもする。

この打席も4球目までは完璧な気がする。
初球にまっすぐをハーフハイトに放り込んでおいて、2球目に同じ場所にカーブを落として振らせる。3球目はインコースにチェンジアップで腰を引かせておいて、4球目に真ん中低めのチェンジアップを振らせにかかった。
もし、4球目のチェンジアップがもう少し高くて、きわどいコースに来ていれば、バッターはここで凡退させられただろう。
そういう自分のプロセスに自信があるからこそ、4球目で決まらなかった同じコースに、5球目の2シームを自信をもってコールできるわけである。
非常にわかりやすい。

最後の決め球に、日本のように「アウトコース低め」ではなくて、メジャーでは「真ん中低め」を使うことも多いともいわれている。そのことについては、なにか機会と実例があるときに、また。

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damejima at 13:55
書きたいことを書きつらねているうちに、いつのまにかシリーズ化してしまっている「メジャーと日本の配球論の差異から考える城島問題」 『damejimaノート』だが、ロブ・ジョンソンというキャッチャーがどういうキャッチャーなのか、城島と比べてみるのにわかりやすい例がないか、探してみた。

このシリーズの(2)では、イヴァン・ロドリゲスと城島を比べてみたわけだが、せっかくだから同じシアトルのロブ・ジョンソンと城島を比べてみようというわけだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー


比較条件は「投手モロー、四球直後の打者、テキサス」
できるだけ似たシチュエーションで、しかも、両者の特徴を際立たせる例となると、探しだすのに苦労した。両方のキャッチャーがマスクをかぶっている投手となると、シアトルではヘルナンデスやフィスターではなく、モローやスネルくらいしかいないからである。
結局、「モローが四球を出して、ランナー1塁になった直後の打者への配球」「同じテキサス・レンジャーズ相手」という同じ条件で、キャッチャーだけが違う2つの打席を選びだしてみた。
ランナーがいるシチュエーションを選んだのは、そういう場面ほど、両者の配球に対する考え方の違いが際立つ、と考えたからだ。

また「城島が四球を出しやすいキャッチャー」であることはデータからもよく知られていて、このブログでも何度も指摘してきた。だが、さらにいけないのは城島が「ランナーがいるシチュエーションで四球を出しやすい、つまり、ランナーを貯めて、大量失点につながる非常に痛い四球を出しやすいキャッチャー」でもあることだ。
ここでは、どうして城島がそういう、出してはならない四球を出してランナーを貯めて傷口を広げやすいのかという点について、あまり語られてこなかった「ランナーのいる場面での、城島の配球プロセスのもたつき」についても、多少説明になればとも思った。

1 ロブ・ジョンソン

2009年9月12日 アウェイ・テキサス戦 4回裏
先頭打者の5番ネルソン・クルーズを四球で歩かせた後の、
無死1塁 6番マーフィーの打席
結果:1塁ゴロ ダブルプレー
Seattle vs. Texas - September 12, 2009 | MLB.com: Gameday

2009年9月12日 投手モロー テキサス戦 マーフィー ダブルプレー

配球
アウトコース高め チェンジアップ ボール
アウトコース高め チェンジアップ ボール
インコース低め  ストレート   ストライク
真ん中低め    チェンジアップ(1塁ゴロ ダブルプレー)

特徴
ひと目みれば、(2)の記事(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー)で書いたパッジこと、イヴァン・ロドリゲスの「対角」パターン(2009年9月27日レンジャーズ対エンゼルス戦)と似ていることがわかるだろう。
3球目と4球目のコースは甘く見えるわけだが、結局のところ、1,2球目の高めにはずれるチェンジアップが効いた。というか、むしろ、1、2球目の「はずれるチェンジアップ」が効いているからこそ、こういう場合3球目では、神経質な城島が投手に細かすぎるコントロールを要求して無駄なプレッシャーを与えるような、あまり細部のナーバスさは、実は、まったく必要ない。
これはなかなか重要な点で、かつてアーズマがヘルナンデスについて指摘した「サンデー・フェリックス」という話(カテゴリー:「サンデー・フェリックス」byアーズマ)に通じるものがあるし、アダム・ムーアの例でも同じような、多少コントロールが甘くても打ち取れる実例がある。(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.: メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(6)実証:アダム・ムーアの場合


ロブ・ジョンソンのこの配球の特徴は、メジャーのキャッチャーに共通した基本的なものだ。

・城島のようなインハイとアウトローではなく、
 「インローとアウトハイとの対角線」を使っている
・ 外に変化球、内にストレート(参照:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信
・ 入りの球は変化球から入り、ストレートでカウントをとる
・ 決め球は変化球で、ゴロを打たせることに成功

ほかにも、結果的に決め球になった4球目のチェンジアップのコースが城島の固執する「外角低め一杯」ではなくて、「真ん中低め」というのも、いかにもメジャーらしいし、4球目と「少ない球数で勝負がついた」ことも、球数の節約を重視し、早いカウントで勝負することを尊ぶメジャーらしい。
素晴らしいダブルプレーだ。

日本での配球での考え方が、「配球の基本はアウトコースのストレート」という考え方に固執しがちだ、という話は、以下のリンクを参照ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』 序論:2009年9月30日、大投手ハラデイの「配球芸術」

日本では「決め球をストレートと想定して全体を組み立てがちだ」という話は、以下のリンクの話題を参照ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(3)「低め」とかいう迷信

今までいろいろ説明してきたことから、この打席に関していえば、ロブ・ジョンソンは非常にメジャーっぽい攻めをするキャッチャーであること、城島の配球パターンとはまったく異なるリードをしたこと、がわかってもらえると思う。


2 城島

2009年7月10日 ホーム・テキサス戦 3回表
1死後、9番ビスケールを四球で歩かせた後の、
1死1塁 1番イアン・キンズラーの打席
結果:このキンズラーの四球で傷口を広げて、1死1、2塁。直後に、2番マイケル・ヤングに3ランホームランという致命傷を負うことになる。
Texas vs. Seattle - July 10, 2009 | MLB.com: Gameday

2009年7月10日 投手モロー テキサス戦 キンズラー四球

配球
アウトコース低め  スライダー   ボール
アウトコース低め  スライダー   ボール
インコース低め   チェンジアップ ボール
インコース高め   ストレート   ストライク
アウトコース真ん中 ストレート   ボール(四球)

特徴
インハイのストレートと、アウトローのスライダー、お約束の組み合わせである。7月10日のキンズラーの四球といい、9月23日のタンパベイ戦でアップトンに2点タイムリーを打たれたのケースといい、同じパターンで何度打たれれば気がすむのだろう。
2009年9月24日 8回アップトン 2点タイムリー2009年9月24日
8回アップトン
2点タイムリー

初球と3球目が
インハイのストレート
2、4、5球目が
アウトローのスライダー


以下の特徴を、ロブ・ジョンソンのケースとの間で比較してみてもらいたい。違いがよくわかるはずだ。
・ イヴァン・ロドリゲスやロブ・ジョンソンのケースと違い、
  「インハイとアウトローとの対角線」に固執しがち
・ ピンチになった後の打者に対する入りの2球は
  「アウトコース低め」「スライダー」に固執しがち
  決め球もアウトコース低めに固執する傾向
・ カウントを悪くした後はストレートに頼り、
  必死にきわどいコースを神経質に突こうとするが、
  結局四球を出して、傷口を広げる
・ 3球目ごとにリズムを変えようとする、いわゆる「3拍子配球」

初球2球目を同じコース同じ球種で行き、3球目にリズムを変えて、インコースを突いた。そして3球目4球目と、内に2球投げておいて、3つ目(全体として見れば5球目)に、こんどはアウトコース。
つまり2度、同じパターンでリズム変更をやっているわけだ。

こういう「3球目ごとにリズムを変えようとする」というリード癖については、楽天の監督さんが「3拍子配球」とか命名して指摘している話と同じ話ではあるが、ここは別に野村氏の受け売りではない。野村氏の発言を知りたいなら、いちおうリンクだけ挙げておくので、そっちを読むといい。
“読まれた”3拍子配球…ノムさん理論的中(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース

実際、コネ捕手城島の「3拍子配球」(ゲーム後半になると「4拍子」になることが多いが、たいしてかわりばえしない)が最も典型的に多く見られるのは、こういう「対角パターン」においてではなく、ストレートを中心に、変化球をオカズに混ぜて配球する場合に多い。
つまり初球から言えば、ストレート、ストレート、チェンジアップ、というパターンだ。(ゲーム後半になると、ストレートの数を増やして、3球ストレートの後で変化球というパターンにしたりもする。また、混ぜる変化球はチェンジアップだけでなく、スライダー、またはカーブに変更することもある)
ともかくこのパターンでは、ストレートと、1種類の変化球の、合計2球種だけを使って打者を攻めることに特徴がある。いわば「ストレートが白米のごはんで、おかずに変化球」という、「幕の内弁当」パターンである。

わかってしまえば、単純すぎるパターンだが、それでも例えばトロントのバーノン・ウェルズなどは、何度も何度も、この「3拍子幕の内弁当」にひっかかっている。情けないバッターだ。
このブログが、ホワイトソックスやトロントのことを、「LAAなどと違って、相手バッテリーの配球パターンに対応する速度が遅すぎる」と常に批判的に言うのは、そのへんに理由がある。

2009年9月16日、今日のコネ捕手、リードは「ストレートは基本インコース、変化球はアウトコース」 たった、それだけ(笑)被安打9、8回にはホームラン被弾。ホワイトソックス打線の知恵の無さに助けられただけのゲーム。

2009年9月27日、コネ捕手城島、先発マスク3連敗。「1球ごとに外、内。左右に投げ分ける」ただそれだけの素晴らしく寒いリードで、トロント戦8回裏、期待どおりの逆転負け(笑)ローランド・スミス、自責点5。

2009年9月25日 トロント戦 2回裏 オーバーベイ セカンドゴロ 3拍子パターンの典型例 1
おかずにカーブを混ぜる「幕の内弁当」パターン


2009年9月25日 トロント戦
2回裏 オーバーベイ
セカンドゴロ
ストレート、ストレートで、3球目にカーブ。単純で馬鹿っぽいパターンだが、このゲーム序盤では効いていた。


2009年9月25日 7回 バティスタ 2点タイムリー3拍子パターンの典型例 2
おかずにカーブを混ぜる「幕の内弁当」パターン

2009年9月25日 トロント戦
7回裏 バティスタ
2点タイムリー
ゲーム終盤になると、ストレート、ストレート、カーブという、単純な3拍子パターンが効かなくなり、このザマ。最後は逆転負け。


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damejima at 02:48

October 01, 2009

ここでメジャー流の「見せ球としての高めのストレート」を使った配球論というか、変化球を決め球にするためのストレートの使い方として、ひとつ「カーブを決め球にするために、高めのストレートを投げる」実例を挙げてみよう。

これは、アメリカの有名な野球サイトのHardball Times(The Hardball Times)にあった研究記事だ。

Pitch sequence: High fastball then curveball

記事全文をここに載せるわけにはいかないので、あらましだけを書けば、こういうことらしい。(言葉で書くと難しいが、リンク先にはグラフやアニメーションGIFなどでも説明されている。直接読んだほうがわかりやすいと思う)

「カーブの落差を有効に使いたいなら、低めのストレートではなく、高めのストレートを投げておいてからカーブを投げるほうが有効だ
なぜなら、高めのストレートは、ホームベースに到達する途中まで、軌道がカーブと多少かぶるために、打者の球種の判別を遅らせることができる。
だから、高めのストレートの直後にカーブを投げることによって、カーブだとわかるのが遅れて、落差がより効果になり、打者をうちとれる。」

なお、この記事では、「高めのストレートの後で、カーブ」という使い方をする実在の投手について研究して書いているのであって、なにも空想で書かれているわけではない。



まぁ、仮にこの記事の言うとおりだとして、落差のあるカーブをより有効にするために「高めのストレート」も必要だとしよう。



もし、カーブを決め球にしているシアトルのベダードや、大きなスローカーブである「ドルフィン」を持ち球のひとつにしているウオッシュバーンではないが、この記事で書かれているような「ストレートにはさほど球威はないが、落差のあるカーブを決め球にしている変化球投手」が、「外角低めのストレートに固執する日本人キャッチャー」と組んだ、としたら、どういうことになるか。

例えば「投手の配球としてはたいした意味のない『低めのストレート』を何度も何度も、一杯のコースに投げさせられ」「ストレートをボールにしてしまって、カウントが悪くなった後」でようやく、「低めのストレートとはまったく軌道の違う得意球のカーブ」を打者に投げなければならない。
もしそんなことになれば、打者は一瞬にして「ストレートでない球が来たことを見抜ける」ために、本来彼らの決め球のはずのカーブは、まったくもって台無しになる。

また、投げる球種の順番も、投手がクビを振らない限りは、「カーブを投げてから、決め球のストレートをアウトコース低め」という、投手本来の投げたいのとは逆の順序になってしまい、カーブが決め球どころか、慣れない配球を強要されて、ストレートで押すタイプのピッチャーではない彼らがストレートで勝負させられて、球威のそれほどないストレートを滅多打ちにあうかもしれない。



また、同じように、チェンジアップを決め球のひとつにするバルガスではないが、「配球の一部として、カウントを整えたり見せ球にしたりする意味で、高めのストレートを頻繁に使い、配球全体が他のピッチャーより高めに設定している組み立てで長年トレーニングしてきているアメリカの投手が、「外角低めのストレートに固執する日本人キャッチャー」と組んだら、どうなるか。

低めに決まる変化球を決め球として、それをより効果的にするために、見せ球として内角高めのストレートも混ぜておかなければならないはずが、外角低めのストレートばかり要求されて、打者の目をそらすことができないまま、軌道の全く違うチェンジアップを外角に投げさせられることになる。
投手は決め球を失うばかりか、「自分らしい配球スタイル」そのものがまったく失われて、自滅を繰り返すかもしれない。




メジャーでは、投手が長年の教育とトレーニングから、自分なりのピッチングの全体像をプランし、組み立てる。投手は、長年日本とは異なる「配球論」の基礎を教育され、自分の得意な球種などとてらして、自分なりの配球術をひとりひとり、マトリクス化して組み上げてきているわけだ。
「低めなら、とにかく素晴らしい」「最後は低めのストレート」などという、ワンパターンで、わけのわからない抽象論は、全くなんの役にも立たない。



まして、投げる投手が誰であっても、全員に全く同じ配球、たとえば「外角の低めにストレートを最後に決め球として要求するような単細胞の組み立てのためだけのサイン」を投手に強要するようなことは言語道断。

そんなのは、もはや「キャッチャー」とすら呼べない。


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damejima at 16:35
前の記事ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(2)「外角低め」「ストレート」という迷信 実例:「アウトハイ・インロー」の対角を使うメジャーのバッテリー)で挙げたような「わざと高めを多用する配球パターン」が、メジャーでの配球論の基礎にすでに存在していることに、違和感を感じる野球ファンは、日本には多いとは思う。

よく日本の野球解説者が、「今日は球がよく低めに集まっていますね」とか言って、「ホメ言葉」として「低め」を使う。そういう言い方が定着しているのは

「球は低いほうがいい」
という日本的なkey thoughts


が、日本野球の背景にあるからである。

これは、160キロの速球でも軽々と打ちこなすバッターや、ローボールヒッターの揃ったメジャーでは、ある意味、key thoughtsなどという耳ざわりのいい言葉ではなく、ただの田舎モノの迷信とでもいっていい話でもある。

この2つ前の記事(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信)であげた「基礎的な6つの配球パターン例」を見てもらってもわかるとおり、「なんでもかんでも低い球を投げ続ければ打者はうちとれる」なんて馬鹿なことは、アメリカの配球の基礎論のどこにも書いてない。

むしろ、インハイの球を効果的な見せ球に使ってからアウトコースで決める3RD SEQUENCEや、外外と打者を攻めておいて最後にインハイにストレートを投げて詰まらせて打ち取る4TH SEQUENCEなどの実例を見てもらえばわかることだが、「高めのストレート」を有効に使うパターンはいくつもあり、特に「インハイのストレートの有用性」については、基礎編にすら、その有効性がとくとくと説明されている。

3RD SEQUENCE
See-Saw

1. Fastball up and in
2. Change-up down
3. Fastball up and in
4. Curveball down


4TH SEQUENCE
Away, away and in

1. Fastball lower outer half
2. Repeat fastball lower outer half
3. Curveball away
4. Fastball up and in


こうした「ストレートの使い方」「高めのボールの有効性」についての見解の相違に、メジャーと日本でこれほど大きな差異が出てくる背景というか、主因になっているのは、あきらかに
「決め球をストレートと想定して全体を組み立てている」のか、そうではなくて、「変化球を決め球にするための組み立てなのか」という、文化的ともいえる差異が影響している。

少なくともメジャーで野球をしたいなら、決め球を「アウトロー」とか「ストレート」とか、自分勝手に一義的に決め付けていては、キャッチャーとして、160ゲームもある長いシーズンをコントロールできる自由な発想は絶対に生まれてこない。

城島がチームにつれこんだ身内のチームトレーナーで、城島をスタメンで使わないからといって不平を言っている(というより、メジャーではタブーの「関係者によるチーム批判」)スタッフがいるそうだが、どれほどの馬鹿なのか? ほんとうに顔を見てやりたいものだ。

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damejima at 15:51
前の記事(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(1)「外角低め」「ストレート」という迷信)で、アメリカでの野球の基礎や初歩を学ぶときに与えられる基本的な考え、key thoughtsのひとつとして、
・ストレートはインコースに
・変化球はアウトコースに

という考え方が教えられているという話を書いた。あまり屁理屈ばかりでも、面白くないので、ちょっと実例を見てみる。打者を「対角 opposing corner」に攻めた場合のサンプルを、コネ捕手城島でない場合と、日本人キャッチャー、コネ捕手城島の場合、2つあげてみる。


1 レンジャーズバッテリーの「対角」


これは9月28日のレンジャーズ対エンゼルスのゲームでの、モラレスの2ランの場面。ピッチャーはハンター、キャッチャーはイヴァン・ロドリゲス。

2009年9月28日 1回 モラレス 2ラン2009年9月28日
レンジャーズ対エンゼルス
1回 モラレス 2ラン


キャッチャー:
イヴァン・ロドリゲス


レンジャーズバッテリーの配球
初球  アウトコース高め チェンジアップ
2球目 インコース低め  ストレート
3球目 アウトコース高め チェンジアップ
Texas vs. LA Angels - September 28, 2009 | MLB.com: Gameday

ここで基調になっているのは、前の記事でいうkey thoughts 1の、「ストレートはインコースに、変化球はアウトコースに」ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 (1))、だということは、ひと目でわかると思う。

それにしても「対角に攻める」とはいうものの、日本でよくある「インハイとアウトローの組み合わせ」ではなく、「インローとアウトハイの組み合わせ」が使われていることにぜひ注目してもらいたい。
また、入りの球種も違う。ありがちな「ストレート」から入るのではなく、変化球からはいって、次がストレート、3球目を再び変化球にしている。

つまり、簡単に言えば、すべてが「日本的な考え」の「逆」をいっていることになる。ここが大事。後で挙げる城島の実例と比較して、日米の違い、ベースボールと野球の違いを考えるきっかけにしてみてほしい。



2 コネ捕手城島の「対角」

上に挙げたレンジャーズバッテリーの「対角」の攻めの実例に対し、もしこれが「日本人キャッチャー」なら、どう配球するだろう。
日本人キャッチャーが「対角」に攻めるなら、インハイとアウトローを使うだろうし、入りの球は変化球ではなく、ストレートになるだろう。すると、こうなる。

初球  インコース高め  ストレート
2球目 アウトコース低め チェンジアップ
3球目 インコース高め  ストレート

となるのではないか。最初のレンジャーズの例と比べてみれば、なにもかもが逆になっている。

予測ばかりでもつまらない。最近のゲームでの城島の実例も挙げてみる。2009年9月23日のタンパベイ戦8回、アップトンに打たれた2点タイムリーの打席である。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2009年9月23日、打てば三振ばかりのコネ捕手城島のワンパターンリードで四球連発。先発モローのリードもままならず、ブルペン投手を大量消費した挙句に、BJアップトンに同じ外角スライダーで2打席連続レフト前タイムリーを浴び、8回裏の逆転2点タイムリーで逆転負け。

2009年9月24日 8回アップトン 2点タイムリー2009年9月23日
タンパベイ戦 8回
アップトン 2点タイムリー


キャッチャー:
コネ捕手城島


初球  インハイ  ストレート
2球目 アウトロー スライダー
3球目 インハイ  ストレート
4球目 アウトロー スライダー
5球目 アウトロー スライダー(2点タイムリー)

要は、城島の場合、インコースは全部が全部、インハイのストレートで、アウトコースは全部アウトローのスライダーなわけである。単純な話だ。



この、あまりにも違う2つの例を分けている差異は、単にサインがあう、あわないという小さな話ではない。たまたまカーブを投げたいか、ストレートを投げたいかどころの、小さな意見のくい違いではない。

それどころか、一番深い部分に横たわる「深すぎる溝」は、配球や投球術そのものの根本にある、考え方の違いだし、さらにいえば、打者が何を狙ってバットを振り、投手はどう攻めるかを考えるにあたって出てくる「ベースボール」と「野球」の違い、そのもの、である。

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damejima at 15:06
ハラデイの絶妙な3球三振の配球を見たことだし、消化試合のこの時期、暇つぶしにちょっと配球の話でも書いてみる。



配球という言葉は、英語だと、pitch sequence(またはsequence of pitches)という表現になる。

ウェブでのアメリカでの配球についての記述はけして多くはないが、例えば代表的なもののひとつとして、Pitching Professor Home Pageを主催するJohn Bagonziによって、ストレート、カーブ、チェンジアップ、3つの球種だけを使った典型的な6つの配球パターンというのがウェブに発表されている。
彼自身のサイトだけでなく他のサイトにも転載されているので、下記に孫引きさせてもらおうかと思う。問題があればTwitterにでもご連絡をしてきてもらいたい。
WebBall.com - Pitch Sequence & Selection

この6つの配球パターンをどう評価するかは読む人の自由だから、どうとでも勝手に評価すればいいが、読む前にアタマに入れておかないとダメなことがある。
それは「城島問題」を知る上でもたいへん重要なことなので、指摘しておきたいし、ぜひアタマに入れておくべきことだと思う。

前の記事2009年9月30日、ハラデイの配球芸術。(おまけ コネ捕手城島との比較 笑))でも、ハラデイの素晴らしい3球三振における投球術の根本と、日本での配球についての考え方の違いについてk軽く指摘した。

下記に挙げた6つのの基本配球パターンにしても、こういうことを考える前提になっているkey thoughts、つまり基調思考があって、それが日本でのkey thoughtsと、だいぶ異なっている。これは大きい。
このkey thoughts 1が前提になって話が進んでいることをアタマにいれてリンク先の6つのパターンを眺めないと、それぞれの配球の意図がよくわからなくなると思う。

アメリカ的 key thoughts 1
・ストレートはインコースに
・変化球はアウトコースに



例えば、もし、このkey thoughts 1が「まるっきり逆」だったらどうだ? 配球パターンがまったく違ってくるのは、誰でもわかるはずだ。
もし下の6つのパターンのkey thoughtsが、1ではなくて2だとしたら、下に挙げた6つのパターンは大半が成立しなくなってしまう。

日本的 key thoughts 2
・変化球はカウント球として使い
・ストレートはアウトコースに決め球




だから、仮に例えばの話として、「アウトコースのストレートを決め球にしよう」と最初から決めてかかっているアタマの硬い日本人キャッチャーが、アウトコースの変化球を決め球にする野球教育やトレーニングを長年積んできたアメリカのピッチャーとバッテリーを組んでも、あるいはアメリカのコーチと意見をかわしても、意見があうわけがない。

それは、単に「決め球の1球のみを、どの球種にするか、どのコースに投げるか」について投手とキャッチャーの意見があわなくて、キャッチャーのサインに投手が首を振るとかいう、単純な問題ではぜんぜんない。
そもそものkey thoughtsの違いが根本原因としてあり、配球や組み立てといわれるバッテリーワーク全体に及ぶ意見の違いであり、投球術のあらゆる詳細な点においてストレスを生む。
それはもう、文化の相違といっていい違いであって、ピッチャーとキャッチャーがちょこちょこっとダグアウトの片隅で話をすれば変われる、というような簡単な話ではない。


(以下、次の記事へ続く)


FIRST SEQUENCE
Pure Location


1. Fastball low
2. Fastball high
3. Fastball out of strike zone
4. Fastball down

2ND SEQUENCE
Challenge and Fade


1. Fastball in
2. Repeat fastball in
3. Fastball up and in
4. Curveball outer part

3RD SEQUENCE
See-Saw


1. Fastball up and in
2. Change-up down
3. Fastball up and in
4. Curveball down

4TH SEQUENCE
Away, away and in


1. Fastball lower outer half
2. Repeat fastball lower outer half
3. Curveball away
4. Fastball up and in

5TH SEQUENCE
Living on the outside


1. Fastball outer half
2. Curveball low and away
3. Fastball in
4. Change-up low and away

6th SEQUENCE
Down and out


1. Curveball low
2. Fastball outside
3. Fastball in
4. Change-up low outside

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damejima at 14:25
いやはや。
芸術的な三振だった。

2009年9月30日 7回 ハラデイ、オルティスを3球三振

Toronto vs. Boston - September 30, 2009 | MLB.com: Gameday
上の画像は、さきほどボストンの大敗に終わったトロント対ボストンのゲームで、7回に大投手ロイ・ハラデイが、DHデビッド・オルティースを3球三振にとった場面である。
このゲームで大投手ハラデイは、ポストシーズン進出が決まって2軍を出してきたボストンとはいえ、わずか100球で完封してしまったわけだが、ストライクはまったくセオリーどおりの68球(つまり、ピッタリ3球に2球がストライク)。

この三振を見るだけで、「少ない球数で相手を討ち取る技術にかけてはメジャー屈指の大投手」として名を馳せるハラデイの配球術が、いかに素晴らしく、レベルが高いか、わかろうというもの。

ここまでくると、もう一種の配球芸術ですらある。



初球、チェンジアップをアウター・ハーフに
ストライク


ここでいうハーフというのは、ハーフハイト、つまり「中ほどの高さ」ということ。
ピッチング、というと、コネ捕手城島(笑)ではないが、なんでもかんでも「コーナーいっぱい」に決めるものと思っている馬鹿がいる。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて話にならない。
ハーフハイト(中間の高さの球)をメインに使った配球パターンくらい、アメリカの初歩の教科書といわず、どこにでも普通に書かれている(例:WebBall.com - Pitch Sequence & Selection)わけだが、コネ捕手さんは、いつまでたっても「ストライクゾーンのコーナーいっぱいにストレートをズバっと決める」みたいな、日本の高校野球みたいなことばかり考えている。(コネ捕手の追従者の馬鹿なライター、新聞記者、ファンも同様だ。だが、いまどき日本の高校野球でもそんな配球ばかりしていたら勝てない。下記の日米比較リンク等を参照)


日米の配球に対する考え方の違いの例
下記のリンクをまとめて言えば、アメリカで最初に教える基本配球パターンは「インコースにストレート、アウトコースに変化球」。また、決め球に変化球が使われることも多い。
ひるがえって、日本の野球では、「アウトコースのストレートがピッチングの基本であり、勝負球でもある」と考えることが多い。(もちろん、その「日本では通用するストレート」がメジャーに来たら通用しないことが後からわかるからこそ、メジャーに来る日本の投手は誰も彼も苦労する。)

(1)コースと球種
アメリカの配球についての記事:6つの初歩の配球パターン
「基本はインコースにストレート、アウトコースに変化球」
WebBall.com - Pitch Sequence & Selection
日本での配球での考え方の例
「配球の基本はアウトコースのストレート」という昔ながらの考え
配球の基本 | 今関勝の野球はやっぱり面白い | スポーツナビ+

(2)特定カウントで使う球種
日本野球での配球の違いに関する発言例:阪神ブラゼル
「昨年はメジャー流の考え方が頭に染み付いていて、日本の配球になじめなかった。例えば、カウント0―2や0―3になれば、メジャーでは間違いなく直球が来るので狙い球が絞りやすい。でも、日本はフォークなどの変化球を投げてくる。しかも、日本の左腕はカーブやスライダーを投げる投手が多い。右に打球を引っ張りたいボクには合わなかった。」
ゲンダイネット

日本野球での配球の違いに関する発言例2:阪神メンチ
「アメリカと配球が逆だ。アメリカは基本的には変化球を決め球で使うことが多い。でも日本は初球から変化球が来て、ストレートを決め球にする。
阪神・メンチ「配球分かってきた」…きょう中日戦 ― スポニチ Sponichi Annex 大阪

高校野球での配球についての記事:
あまりにも極端な配球! 日本文理が仕掛けていた大胆な策。[詳説日本野球研究] - 高校野球コラム - Number Web - ナンバー


2球目、カットボールをインナー・ハーフに
2ストライク


さて、ハラデイの配球芸術の話に戻ろう。
2球目はカットボールをインコースに投げて、速度とコースを変えた。
だが、2球目で最も大事なことは、1球目同様に「ハーフハイト」、つまり「中ほどの高さ」に決まったことだ。
これはもちろん偶然そうなったのではなく、3球目への「布石」だ。ハーフハイトへの投球は、「意図的」にそうしているのであり、コントロールのいい投手でなければ投げられない。
初球にハーフハイトの球で配球を開始するパターンの場合、多くは2球目を低め一杯に決めたりはしない。むしろ、1球目、2球目と続けてハーフハイトに決めて、3球目に(沈む変化球などで)変化をつけることが多い。

もしもこの2球目が、日本のキャッチャーがよくやりたがるように「インロー、内角低め一杯に決まるストレート」だったら、3球目はまるで違った球にしないといけなくなるだろう。
また、たまたま投手ハラデイがコントロールをミスして、2球目のカットボールが「うっかり低め一杯にに決まってしまった」場合も、3球目は、別の球になっていた可能性があるし、3球目を勝負球にしなかった可能性もある。
それくらい、2球目の「ハーフハイト」の高さは大事なのである。


3球目、カーブをインローに
空振り三振


3球目は、インコースの低めいっぱいに、カーブ。打者オルティースのバットが空を切って、見事に3球三振。
この低めへの3球目のカーブをみればこそ、2球目で投げるカットボールは、かえって「低め一杯に決めるべきではない」ということはわかってもらえるはずだ。
3球目をみれば、1、2球目を「中ほどの高さ」にしていること、特に「2球目で低めいっぱいをついてはならないこと」の大きな意味がわかるだろう。「勝負は2球目でおおよそついている」のである。だから3球目が生きてくる。

もし2球目で「低め一杯のストレート」を投げていれば、どうだろう。もし3球目にこのカーブを投げていたとしても、2球目と3球目で球道、つまりマウンドからホームプレートまでの中間のボールの軌道が、まったく違う球が同じコースに来る以上、バッター側にしてみれば、3球目を見切るのはむつかしくない。バットを振ってこない可能性が高い。

同じ球道に、まずストレート系(この場合のハラデイはカットボール)を投げておいて、次にカーブを投げるのは、アメリカでたいへんによく研究されているテクニックである。ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」
2球目に低めいっぱいのストレートを投げてしまっては、打者に3球目の変化球を見切られやすく、カーブを投げる効果がなくなってしまう。

「高めのストレートを使って打者を凡退させるテクニック」もある
例:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:最終テキサス戦にみるロブ・ジョンソンの「引き出し」の豊かさ (1)初球に高めストレートから入る)その場合は、入りの球からして、別の球になる。
ハラデイがここで使ったのは「ハーフハイトの球を有効に使う配球パターン」であって、「高めの球からわざと入るパターン」ではない。ハーフハイトにきっちり決めるコントロール、変化球のキレ、配球パターン、打者の好みやクセに対する対応。あらゆる点でハラデイの素晴らしい投球術である。



ちなみに、インコースとアウトコースにボールを交互に投げわけた先日のコネ捕手城島の「あまりにも不細工な、醜い配球」を、比較のために挙げておく。アウトコースとインコースにストレートを投げわけただけ(爆笑)こういうのはEast-west pitchingとは、とても呼べない(笑)

ハラデイの芸術と、コネ捕手、両者を比べてみれば、コネ捕手のリードぶりにいかに鮮やかさや芸術性がなく、脳の中身がいかに不細工で知恵がないか、わかると思う(笑)


2009年9月27日 8回 バーノン・ウェルズ 三振2009年9月27日 8回
打者バーノン・ウェルズ


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