地区ごとの配球文化の差異
● 2011年5月28日、アダム・ケネディのサヨナラタイムリーを生んだマリアーノ・リベラ特有の「リベラ・左打者パターン」配球を読み解きつつ、イチローが初球サヨナラホームランできた理由に至る。
● 2010年10月9日、アメリカ東海岸からGulf Coastまでの気候と野球文化に大きな影響を与えている「大陸棚」について、もっとよく知ってみる。
● 2010年10月8日、ブログ過去記事を参照しながら味わうドジャース黒田の興味深いコメント (2)西海岸と東海岸、気候の違いと「配球文化」の差。または「湿度が高いとボールが飛ばない」という誤解。
● 2010年10月8日、東地区投手の多用するカットボール配球をまるで研究してないかのようなミネソタ打線の哀しさ。
● 2010年10月5日、ブログ過去記事を参照しながら味わうドジャース黒田の興味深いコメント (1)黒田の発言からわかる山本昌のアメリカっぽさ、シアトルのカビ臭い日本っぽさ
● 2010年9月5日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(2)クリフ・リーには「カウントによって、投げる球種に特定パターン」がある
● 2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。
● 2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ)
● 2010年10月9日、アメリカ東海岸からGulf Coastまでの気候と野球文化に大きな影響を与えている「大陸棚」について、もっとよく知ってみる。
● 2010年10月8日、ブログ過去記事を参照しながら味わうドジャース黒田の興味深いコメント (2)西海岸と東海岸、気候の違いと「配球文化」の差。または「湿度が高いとボールが飛ばない」という誤解。
● 2010年10月8日、東地区投手の多用するカットボール配球をまるで研究してないかのようなミネソタ打線の哀しさ。
● 2010年10月5日、ブログ過去記事を参照しながら味わうドジャース黒田の興味深いコメント (1)黒田の発言からわかる山本昌のアメリカっぽさ、シアトルのカビ臭い日本っぽさ
● 2010年9月5日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(2)クリフ・リーには「カウントによって、投げる球種に特定パターン」がある
● 2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。
● 2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ)
May 29, 2011
マリアーノ・リベラを打ち崩してサヨナラ勝ち。
これでとうとう貯金1。
打線もさることながら、ゲームを守りぬいたブルペン投手陣を褒めたい。昨日も頑張ってくれたデイビッド・ポーリーが連日2イニング投げ抜いてくれて、2日連続の勝利投手になった。
おめでとう、ポーリー。
New York Yankees at Seattle Mariners - May 28, 2011 | MLB.com Classic
それにしても、なぜ今までこんなことに気がつかなかったのか?、と自分でも残念に思うくらい、マリアーノ・リベラの左打者への投球は「パターンを特定する」ことができた。
「まず、左打者のインコースを、
ボールになるストレートでえぐっておく。
次に、同じコースにこんどは
ストライクになるカットボールを投げる」
パターンといっても、たった2球。
だが、百戦錬磨のクローザーらしく、シンプルだがよく計算されたパターンだ。
この「左打者インコースカットボールえぐり配球」、つまり、左打者にインコースのカットボールで、ドン詰まりの打球を打たせる「リベラ・左打者パターン」には、いくつか運用のバリエーションもあるが、基本的には上に書いたパターンだ。
もし打者が、2球目の「ストライクになるカットボール」を思わず強振してしまうと、初球にインコースをえぐらて印象が残っている分だけスイングが鈍るか、ストレートの軌道でスイングしてしまうかして、リベラのキレのあるカットボールのわずかな変化をバットの芯でとらえきれず、凡打してしまう。
それこそがリベラの狙いだ。
具体的に見ていこう。
シアトルがサヨナラ勝ちした12回表に打席に立った5人のバッターのうち、敬遠された右打者グティエレスを除いて、4人の左打者全員に、リベラはこの「左打者インコースカットボールえぐり配球」ともいうべき、「リベラ・左打者パターン」を使っている。
先頭打者 フィギンズ
アウトコースのストレートでまずストライクをとってから、2球目「インコースをえぐるボールになるストレート」、3球目「インコースでストライクになるカットボール」と、最も典型的な「リベラ・左打者パターン」を使った。
結果は、リベラの狙いどおり。
カットボールをひっかっけてセカンドゴロ。
この「ひっかけて内野ゴロ」、これがマリアーノ・リベラが左打者に対して最も理想的な討ち取り方だ。フィギンズはいわば、簡単に釣り針にかかるアタマの悪い魚。どうしようもない。
2人目 スモーク
初球は、例によってインコース。
ブログ主は、リベラがこの初球をストライクにしたかっただろうと考える。だが、今日のアンパイアSam Holbrookは、何度も書いているように、ゾーンが非常に狭い。そのため判定はボール。リベラの計算はここから狂った。
資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月15日、Sam Holbrookの特殊なストライクゾーンに手こずったジェイソン・バルガス。
資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月29日、4月8日にてこずったアンパイア Sam Holbrookにまたしても遭遇したジェイソン・バルガスの初勝利。
2球目も、初球同様にインコースのカットボールだが、初球よりも「内側にはずれて」いる。
この「内側にはずれるカットボール」こそ、「リベラ・左打者パターン」の最重要ポイントだと、ブログ主は考える。
スモークの打席は初球がボールに判定されてボール先行になっているわけだから、ストライクの欲しい2球目はむしろゾーン内に投げてくるのが当然だろ? 何言ってんの? と思う人もいるかもしれないが、この議論全体をもう一度読み返してみてもらいたい。
スモークのインコースを、あくまで「ボールになる球で、あらかじめえぐっておくこと」で、打者に「体に近いところを、ボールがかすめるように通過していく印象」を強く与えておくのが、「リベラ・左打者パターン」の本質なのだ。
だからこそ、2球目はストライクでなくてもいい。
結果的に2ボールになってしまっが、ここで、リベラは2-0からアウトコースのストレートを投げて、簡単にストライクを稼いだ。「リベラ・左打者パターン」の後で、アウトコースに投げたストレートは、ほとんどといっていいほど、バッターが手を出してこないことを、マリアーノ・リベラは誰よりも知っている。
そして、再度インコースにカットボールを投げた。打者スモークはさすがに4球目のカットボールを見透かしたのか、シングルヒットを打った。
おそらくリベラは、もし4球目を打たれなかったら、5球目にインコースにストレートでも投げるつもりだったんじゃないか? と思う。つまり彼は、4球目、5球目で、再び「リベラ・左打者パターン」を使ってスモークを討ち取るつもりだったのだろう、と思うのだ。
3人目 ジャック・カスト
初球、インコースをえぐるボール球のストレート。2球目、ストライクになるカットボール。まさに最も典型的な「リベラ・左打者パターン」だ。打者カストは、リベラの狙いどおり、2球目のカットボールに手を出し、ファウルになっている。
先頭打者フィギンズの凡退でもわかるとおり、2球目のカットボールをひかっけさせて凡退させるのがリベラのパターンなわけで、ファウルになったのは、カストにとってはむしろ幸いした。
4人目 グティエレス 敬遠
5人目 アダム・ケネディ サヨナラタイムリー
初球、インコースに「ボールになるカットボール」。2球目、同じインコースに、こんどは「ストライクになるストレート」。
ここまで説明してくると、これが「リベラ・左打者パターン」のバリエーションであることは想像がつくと思う。インコースをえぐっておいて、次にストライク。2球目は、初球と違う軌道の球。球種が逆転しているだけで、本質は変わらない。
結果は、アダム・ケネディの勝ち。
シアトルのサヨナラ。
マリアーノ・リベラが、去年イチローにサヨナラホームランを打たれたシーンを思い出してほしい。
あのとき「初球のカットボール」を、左打者イチローは痛打したが、あれもインコースだった。
たぶん、あのシーン、リベラはイチローに初球を投げる前から既に、「リベラ・左打者パターン」にそって「2球目に、インコースにストレート」を投げてイチローを討ち取るイメージでいたんじゃないか、と思うのだ。
これでとうとう貯金1。
打線もさることながら、ゲームを守りぬいたブルペン投手陣を褒めたい。昨日も頑張ってくれたデイビッド・ポーリーが連日2イニング投げ抜いてくれて、2日連続の勝利投手になった。
おめでとう、ポーリー。
New York Yankees at Seattle Mariners - May 28, 2011 | MLB.com Classic
それにしても、なぜ今までこんなことに気がつかなかったのか?、と自分でも残念に思うくらい、マリアーノ・リベラの左打者への投球は「パターンを特定する」ことができた。
「まず、左打者のインコースを、
ボールになるストレートでえぐっておく。
次に、同じコースにこんどは
ストライクになるカットボールを投げる」
パターンといっても、たった2球。
だが、百戦錬磨のクローザーらしく、シンプルだがよく計算されたパターンだ。
この「左打者インコースカットボールえぐり配球」、つまり、左打者にインコースのカットボールで、ドン詰まりの打球を打たせる「リベラ・左打者パターン」には、いくつか運用のバリエーションもあるが、基本的には上に書いたパターンだ。
もし打者が、2球目の「ストライクになるカットボール」を思わず強振してしまうと、初球にインコースをえぐらて印象が残っている分だけスイングが鈍るか、ストレートの軌道でスイングしてしまうかして、リベラのキレのあるカットボールのわずかな変化をバットの芯でとらえきれず、凡打してしまう。
それこそがリベラの狙いだ。
具体的に見ていこう。
シアトルがサヨナラ勝ちした12回表に打席に立った5人のバッターのうち、敬遠された右打者グティエレスを除いて、4人の左打者全員に、リベラはこの「左打者インコースカットボールえぐり配球」ともいうべき、「リベラ・左打者パターン」を使っている。
先頭打者 フィギンズ
アウトコースのストレートでまずストライクをとってから、2球目「インコースをえぐるボールになるストレート」、3球目「インコースでストライクになるカットボール」と、最も典型的な「リベラ・左打者パターン」を使った。
結果は、リベラの狙いどおり。
カットボールをひっかっけてセカンドゴロ。
この「ひっかけて内野ゴロ」、これがマリアーノ・リベラが左打者に対して最も理想的な討ち取り方だ。フィギンズはいわば、簡単に釣り針にかかるアタマの悪い魚。どうしようもない。
2人目 スモーク
初球は、例によってインコース。
ブログ主は、リベラがこの初球をストライクにしたかっただろうと考える。だが、今日のアンパイアSam Holbrookは、何度も書いているように、ゾーンが非常に狭い。そのため判定はボール。リベラの計算はここから狂った。
資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月15日、Sam Holbrookの特殊なストライクゾーンに手こずったジェイソン・バルガス。
資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年4月29日、4月8日にてこずったアンパイア Sam Holbrookにまたしても遭遇したジェイソン・バルガスの初勝利。
2球目も、初球同様にインコースのカットボールだが、初球よりも「内側にはずれて」いる。
この「内側にはずれるカットボール」こそ、「リベラ・左打者パターン」の最重要ポイントだと、ブログ主は考える。
スモークの打席は初球がボールに判定されてボール先行になっているわけだから、ストライクの欲しい2球目はむしろゾーン内に投げてくるのが当然だろ? 何言ってんの? と思う人もいるかもしれないが、この議論全体をもう一度読み返してみてもらいたい。
スモークのインコースを、あくまで「ボールになる球で、あらかじめえぐっておくこと」で、打者に「体に近いところを、ボールがかすめるように通過していく印象」を強く与えておくのが、「リベラ・左打者パターン」の本質なのだ。
だからこそ、2球目はストライクでなくてもいい。
結果的に2ボールになってしまっが、ここで、リベラは2-0からアウトコースのストレートを投げて、簡単にストライクを稼いだ。「リベラ・左打者パターン」の後で、アウトコースに投げたストレートは、ほとんどといっていいほど、バッターが手を出してこないことを、マリアーノ・リベラは誰よりも知っている。
そして、再度インコースにカットボールを投げた。打者スモークはさすがに4球目のカットボールを見透かしたのか、シングルヒットを打った。
おそらくリベラは、もし4球目を打たれなかったら、5球目にインコースにストレートでも投げるつもりだったんじゃないか? と思う。つまり彼は、4球目、5球目で、再び「リベラ・左打者パターン」を使ってスモークを討ち取るつもりだったのだろう、と思うのだ。
3人目 ジャック・カスト
初球、インコースをえぐるボール球のストレート。2球目、ストライクになるカットボール。まさに最も典型的な「リベラ・左打者パターン」だ。打者カストは、リベラの狙いどおり、2球目のカットボールに手を出し、ファウルになっている。
先頭打者フィギンズの凡退でもわかるとおり、2球目のカットボールをひかっけさせて凡退させるのがリベラのパターンなわけで、ファウルになったのは、カストにとってはむしろ幸いした。
4人目 グティエレス 敬遠
5人目 アダム・ケネディ サヨナラタイムリー
初球、インコースに「ボールになるカットボール」。2球目、同じインコースに、こんどは「ストライクになるストレート」。
ここまで説明してくると、これが「リベラ・左打者パターン」のバリエーションであることは想像がつくと思う。インコースをえぐっておいて、次にストライク。2球目は、初球と違う軌道の球。球種が逆転しているだけで、本質は変わらない。
結果は、アダム・ケネディの勝ち。
シアトルのサヨナラ。
マリアーノ・リベラが、去年イチローにサヨナラホームランを打たれたシーンを思い出してほしい。
あのとき「初球のカットボール」を、左打者イチローは痛打したが、あれもインコースだった。
たぶん、あのシーン、リベラはイチローに初球を投げる前から既に、「リベラ・左打者パターン」にそって「2球目に、インコースにストレート」を投げてイチローを討ち取るイメージでいたんじゃないか、と思うのだ。
damejima at 17:04
October 10, 2010
最近の記事で、アメリカ東海岸は、西海岸よりずっと湿った気候だということを書いた。
では、なぜ東海岸のほうが、西海岸より湿っているのか。
これについては、ちょっと北米大陸のcontinental shelf「大陸棚」について知る必要がある。
本棚のことを、bookshelf(ブックシェルフ)というように、shelfとは、「棚」という意味。
大陸の周辺の海底は、いきなり急激に深くなっている場合もあるが、図のように、遠浅(とおあさ)の傾斜のゆるい部分が長く続く海底もある。
これがcontinental shelf、「大陸棚」だ。文字どおり「棚」の状態になっている
大陸棚
北米大陸の大陸棚の場合、。
下の図で、ピンク色の部分が北米大陸の場合のcontinental shelf「大陸棚」だが、東部の海岸や、Gulf Coast(日本でいう「メキシコ湾岸」)周辺に広大なcontinental shelf、「大陸棚」が広がっていることがわかる。
大陸棚は浅いから、冷たく深い海より温まりやすく、たくさんの水分が蒸発する。だから、東海岸の巨大な大陸棚が、アメリカ東部の沿岸に湿気の多い気候をもたらすのである。
(東部の寒暖の大きな差は、主に北米の大陸側からの偏西風による。西海岸でも同じように偏西風があるが、西海岸の偏西風は大陸からではなく、太平洋という海洋から吹くため、寒暖の差が少ない)
continental shelfは、いま世界のニュースの「主役」といってもいいかもしれない。というのも、大陸棚には多くの有望な資源が眠っているからだ。
ついこのあいだまで大騒ぎしていたGulf Coastの原油流出事故(=日本でいう「メキシコ湾原油流出事故」)も、日本と中国の間で揉めている尖閣諸島の問題も、元をただせば大陸棚に眠る資源を巡る騒動だ。
どうでもいいことではあるが、あの油田事故のことを日本のサイトでは「メキシコ湾原油流出事故」などと呼んでいる。
だがアメリカでは、Gulf Coastと言えば、イコール「メキシコ湾岸部」の意味になるから、この事件を呼ぶとき、必ずしも「メキシコ」という単語をいれてはいない。
だから、例の油田事故の呼び名のバリエーションは、例えばGulf Coast Spillとか、Gulf Coast Oil Spillとか、Gulf Coast Oil Disasterとか、そういう感じになることが多い。そのことを頭にいれないで「メキシコ」という単語で検索していると、いつまでたっても目的のニュースに辿り着けない。
また、Gulf Coastという言葉は、「アメリカ南部のメキシコ湾に面した州」という意味でもある。テキサス、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、フロリダの5つが、このGulf Coastに属する州で、"Gulf States"と呼ばれる。
Gulf Coast of the United States - Wikipedia, the free encyclopedia
2005年の、あのHurricane Katrina(ハリケーン・カトリーナ)で絶大な被害が出たのはもちろん、ルイジアナを中心にしたこれらの"Gulf States"だった。ハリケーン・カトリーナではGulf Coastの油田が生産中断に追い込まれ、原油価格上昇を招いた。
油田事故といい、ハリケーンといい、Gulf Coastの広大な大陸棚が大国アメリカに与える影響力が、近年ますます大きくなりつつあることがよくわかる。
そういえば、いつぞやケン・グリフィー・ジュニアが引退をチームに電話で伝えてきたとき、彼が自宅のあるフロリダに向かうハイウェイから電話してきたという話にかこつけて、アメリカ南部のロックミュージックであるサザン・ロックや、サザン・ロックの代表的バンドのひとつレイナード・スキナードの話を書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:センチメンタルなフロリダ・ドライブのための音楽。
レイナード・スキナードの代表曲のひとつがSweet Home Alabama(1974)だが、この曲で歌われているアラバマはもちろん、"Gulf States"のひとつである。
Gulf Coastがもたらす「湿気」は、アメリカ南部に独特の文化をもたらしたように、日頃は忘れているが、「気候」というのは、音楽や野球などの文化にしても、経済や産業にしても、実は相当影響力の強い存在なのだ。
アメリカ東海岸らしさを感じる
アムトラックの路線のひとつ
Silver Service
ニューヨークから東海岸を南部フロリダまでひた走る路線。途中、ニューヨークではヤンキース、メッツ、フィラデルフィアではフィリーズ、ボルチモアではオリオールズ、ワシントンではナショナルズ、セントピーターズバーグではレイズ、マイアミではマーリンズが、熱心な野球ファンの訪問と観戦を待っている。
Amtrak - Routes - Northeast - Silver Service / Palmetto
では、なぜ東海岸のほうが、西海岸より湿っているのか。
これについては、ちょっと北米大陸のcontinental shelf「大陸棚」について知る必要がある。
本棚のことを、bookshelf(ブックシェルフ)というように、shelfとは、「棚」という意味。
大陸の周辺の海底は、いきなり急激に深くなっている場合もあるが、図のように、遠浅(とおあさ)の傾斜のゆるい部分が長く続く海底もある。
これがcontinental shelf、「大陸棚」だ。文字どおり「棚」の状態になっている
大陸棚
北米大陸の大陸棚の場合、。
下の図で、ピンク色の部分が北米大陸の場合のcontinental shelf「大陸棚」だが、東部の海岸や、Gulf Coast(日本でいう「メキシコ湾岸」)周辺に広大なcontinental shelf、「大陸棚」が広がっていることがわかる。
大陸棚は浅いから、冷たく深い海より温まりやすく、たくさんの水分が蒸発する。だから、東海岸の巨大な大陸棚が、アメリカ東部の沿岸に湿気の多い気候をもたらすのである。
(東部の寒暖の大きな差は、主に北米の大陸側からの偏西風による。西海岸でも同じように偏西風があるが、西海岸の偏西風は大陸からではなく、太平洋という海洋から吹くため、寒暖の差が少ない)
continental shelfは、いま世界のニュースの「主役」といってもいいかもしれない。というのも、大陸棚には多くの有望な資源が眠っているからだ。
ついこのあいだまで大騒ぎしていたGulf Coastの原油流出事故(=日本でいう「メキシコ湾原油流出事故」)も、日本と中国の間で揉めている尖閣諸島の問題も、元をただせば大陸棚に眠る資源を巡る騒動だ。
どうでもいいことではあるが、あの油田事故のことを日本のサイトでは「メキシコ湾原油流出事故」などと呼んでいる。
だがアメリカでは、Gulf Coastと言えば、イコール「メキシコ湾岸部」の意味になるから、この事件を呼ぶとき、必ずしも「メキシコ」という単語をいれてはいない。
だから、例の油田事故の呼び名のバリエーションは、例えばGulf Coast Spillとか、Gulf Coast Oil Spillとか、Gulf Coast Oil Disasterとか、そういう感じになることが多い。そのことを頭にいれないで「メキシコ」という単語で検索していると、いつまでたっても目的のニュースに辿り着けない。
また、Gulf Coastという言葉は、「アメリカ南部のメキシコ湾に面した州」という意味でもある。テキサス、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、フロリダの5つが、このGulf Coastに属する州で、"Gulf States"と呼ばれる。
Gulf Coast of the United States - Wikipedia, the free encyclopedia
2005年の、あのHurricane Katrina(ハリケーン・カトリーナ)で絶大な被害が出たのはもちろん、ルイジアナを中心にしたこれらの"Gulf States"だった。ハリケーン・カトリーナではGulf Coastの油田が生産中断に追い込まれ、原油価格上昇を招いた。
油田事故といい、ハリケーンといい、Gulf Coastの広大な大陸棚が大国アメリカに与える影響力が、近年ますます大きくなりつつあることがよくわかる。
そういえば、いつぞやケン・グリフィー・ジュニアが引退をチームに電話で伝えてきたとき、彼が自宅のあるフロリダに向かうハイウェイから電話してきたという話にかこつけて、アメリカ南部のロックミュージックであるサザン・ロックや、サザン・ロックの代表的バンドのひとつレイナード・スキナードの話を書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:センチメンタルなフロリダ・ドライブのための音楽。
レイナード・スキナードの代表曲のひとつがSweet Home Alabama(1974)だが、この曲で歌われているアラバマはもちろん、"Gulf States"のひとつである。
Gulf Coastがもたらす「湿気」は、アメリカ南部に独特の文化をもたらしたように、日頃は忘れているが、「気候」というのは、音楽や野球などの文化にしても、経済や産業にしても、実は相当影響力の強い存在なのだ。
アメリカ東海岸らしさを感じる
アムトラックの路線のひとつ
Silver Service
ニューヨークから東海岸を南部フロリダまでひた走る路線。途中、ニューヨークではヤンキース、メッツ、フィラデルフィアではフィリーズ、ボルチモアではオリオールズ、ワシントンではナショナルズ、セントピーターズバーグではレイズ、マイアミではマーリンズが、熱心な野球ファンの訪問と観戦を待っている。
Amtrak - Routes - Northeast - Silver Service / Palmetto
damejima at 06:32
October 09, 2010
これまでにも何度か「地域(東地区、中地区、西地区)によって、メジャーの投手がピッチングを構成する球種に違いがあること」を書いてきた。
だいたいの主旨はこうだ。
「東海岸ではカットボールを多用したピッチングを構成する。中地区、西海岸では、また違う。シアトルは特殊で、メジャーの他のどの球団より、ストレート(たぶん4シーム)を投げさせたがる」
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月29日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(1)2010年の「ア・リーグ東地区風カットボール多用配球スタイル」が東地区チームとの対戦に災いしているのか?
MLBで、地域によってピッチングの構成球種が異なることについては、これまでほとんど着目されてこなかった点だと自負しているが、今回、ドジャースとの3年契約を終えた黒田投手が、下記のようなコメントをしてくれたおかげで、これまで書いてきた記事への確信と、「新たな発見」があった。
「新たな発見」というのは、北米大陸の東海岸と西海岸との「気候の大きな違い」が、メジャーの投手の使う球種に大きな影響があるのではないか?という着眼だ。
まず、黒田投手の話をもう一度読んでみる。
「ツーシームは球場の湿気の違いや、東海岸と西海岸で違ったりするけど、それも自分の中で把握できつつある。汚いボールでも抑えた投手が凄い。きれいなフォーシームでいつも空振りが取れるなら苦労しないけど限界がある。それよりは動くボールで投球の幅を広げたほうがいい」
「日本では横にスライドする詰まらせるボールでした。しかし、メジャーの打者は詰まっても内野の頭を越えるどころか、外野の頭を越えることもある。それよりも安全なのはバットの下に当てさせるか、空振りさせること。だから今は角度をつけて落とすイメージ。シュートよりシンカー(沈む球)と口で言ったほうが、投げていてもイメージがつきやすい」
悩める黒田 残りたい理由と戻りたい理由とは…(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース
「きれいなフォーシームでいつも空振りが取れるなら苦労しないけど限界がある。それよりは動くボールで投球の幅を広げたほうがいい」などというコメントは、シアトルが馬鹿のひとつおぼえで揃えた速球派投手たちがなぜすぐに通用しなくなるかという、当たり前の現象を簡潔に説明している。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:「ストレート王国の病」
それはともかく。
東海岸と西海岸の気候はどう違うか、という基本的な話を説明しよう。
野球は春から秋のスポーツだが、夏だけ比べると、東海岸の夏は(日本ほどではないが)蒸し暑い。それに比べると、西海岸の夏はずっと湿度が低い。
月ごとの差、地域差、球場の形状の差など、細かい差異は言い出せばキリがないほどあるだろうが、おおまかに「東海岸は、西海岸より湿度がずっと高い」と覚えておけばいいだろう。
例えばドジャース、エンゼルスなどのあるロサンゼルスは、ケッペンの気候区分ではCs(地中海性気候。ダウンタウンや太平洋岸でなく、内陸となれば別の気候区分)。1年のうち約300日が晴れていて、年間平均気温は約18度、冬でも平均気温約15度。夏冬の寒暖の差があまりない。東京の年間降水量は約1500ミリだが、ロスではその5分の1程度しか雨が降らず、非常に乾燥している。
一方、ヤンキース、メッツのあるニューヨークは、ケッペンの気候区分でいうCfa(温暖湿潤気候。Cは温帯、fは湿潤、aは夏の気温が高いことを示す)ニューヨークはロサンゼルスと比べ、寒暖の差が非常に大きい。夏は遥かに暑く、冬は比較にならないくらい寒い。初夏の梅雨や秋の台風の影響を非常に強く受けて降水量が季節によって激変する東京と比べると、ニューヨークの降水量は少なく、月別変動も無いに等しいが、西海岸よりはるかに雨が多い。
気候、たとえば、気圧、風、湿度、温度と、野球との関係について書かれた記事は誰でも目にしたことがあるだろう。
気圧や風は主に『ボールがどのくらい飛ぶか」に大きく影響すると考えられている。海抜1600メートルの高地にあるコロラド・ロッキーズの打撃成績が眉唾だと思われているのは、そのためだ。
また温度は、高いほどボールは飛びやすい。なんでも、温度75F(摂氏23.8度くらい)で400フィート(約122メートル)の飛距離が、温度95F(摂氏35度くらい)になると、408フィート(約124.3メートル)と、約2メートルも飛距離が伸びるらしい。
Baseball Betting Article: How weather affects baseball betting
気温の高い夏のほうがボールが飛ぶ、というわけだから、「暑さの厳しいアメリカ東海岸の夏のほうが、西海岸よりホームランが若干でやすい」とか、「テキサスのような暑い地域のほうが、北西部のシアトルよりホームランがでやすい」とか、「暑くて湿度も高い日本のほうがアメリカよりホームランがでやすい」とか、言えるのかもしれない。
そして問題の湿度。
これに関しては、誰でもが覚えておくべき「非常に重要な誤解」が、ひとつある。それは「湿度が高いと、空気は重くなる。だからボールは飛ばない」という「大きな誤解」だ。
事実は逆。打球の飛距離への影響が有意なほど大きいかどうかはともかくとして、物理的には「空気は、湿度が高いほど、軽くなる」のであって、重くはならない。
理由は簡単だ。「比較的重い元素である窒素を含む空気の粒のほうが、水素と酸素だけで出来ている水蒸気よりも重い」からだ。だから「湿度が高ければ高いほど、空気の密度は小さくなり、空気は軽くなる」のである。
だから、仮に「空気の密度が大きいと、ホームランがでにくい」と仮定すると、ホームランがでやすいのは、カラッと湿度の低い西海岸ではなくて、湿った東海岸なのである。空気が乾燥するとボールが軽くなってよく飛ぶような気がする、というのは、単なる誤解だ。(また乾燥したボールと湿ったボール、どちらが飛ぶかという反発力などの問題は、別の問題)
WHY IS MOIST AIR LESS DENSE THAN DRY AIR AT SAME TEMPERATURE
Air Density and Performance - 空気密度と航空機の性能
余談があまりにも多くなりすぎた(苦笑)
投手のピッチングにとって、湿度はどう影響してくるのだろう。そして、湿度は、東海岸と西海岸では大きな差があるのだが、その地域差はピッチングに影響しているのだろうか。
湿度の問題を下記の2つくらいに絞ってみた。
・ボールの変化の大きさに対する湿度の影響
・ボールへの「指のかかり」
この話はあまりにも面白いので今後とも書こうと思っているので、ここではまず、「湿度がボールの変化にどう影響するか」に関してだけ、最初の考察のきっかけを書いてみる。
既に説明したように、「湿度が大きいほど、空気の密度は軽くなる」。(ここを間違えてはいけない)だから、湿度の高い東海岸と、湿度の低い西海岸での変化球の違いを、机上の空論で、最初の仮説を立ててみる。
まず西海岸。
「乾燥した西海岸では、湿った東海岸より空気密度が相対的に高く、空気抵抗が大きいと考えられる。
だから、西海岸では、回転の少ないボールに対する空気抵抗を利用することで、ボールに変化をつけやすい」
次に東海岸。
これも机上の空論だが、
「湿った東海岸では、乾燥した西海岸より空気密度が相対的に低く、空気抵抗が小さいと考えられる。だから、ボールに急激な変化をつけたいなら、ボールに対する空気抵抗を利用するより、むしろ、ボールに対してスピンをかけ、スピンで曲がるような変化のさせかたのほうが適している」
どうだろう。
例えば、スプリットのように、ボールに回転をわざと与えずに空気抵抗でボールが落ちやすくする投手は、空気の密度の濃い西地区のチーム、ボールに強いスピンを与える変化球が得意な投手は、空気の密度が低い東地区が向いている、という簡単な図式が出来上がったわけだ。
もちろん、こんな単純な話で、黒田投手の話が説明できるとも思っていないし、球場の形状や気圧、風、チームの方針など、配球に対する影響要因は他にもたくさんある。
だが、少なくとも、北米では東海岸と西海岸はロッキー山脈を挟んでまるで気候が違い、その気候の大きな違いによって「湿度」が大きく変化すること。また「湿度」などの環境の差によって、デリケートなプロの投手の変化球の変化が違ってくることは確実なのだから、気候のせいで、東海岸の投手と西海岸の投手で、使う球種に違いが出て、そのために配球にも影響があることはほぼ確実だろうと(今のところ)考えている。
フォークボールを武器にした野茂投手の最初の所属先が、東海岸ではなくて、ロサンゼルスだった理由、東海岸ではあまりパッとした活躍ができなかった理由を、気候や湿度の面から考えたりするのも、面白い。
また夏に湿気の多い東のクリーブランドやフィラデルフィアで「カーブ」を投げていたクリフ・リーが、乾燥した西海岸シアトルで投げるにあたって「なぜ、カットボールを増やそう」と思ったのか、さらにシアトルより暑い南西部テキサスに移籍して、その「カットボール」がなぜ通用しなくなったのかを、気候から考えるのも面白い。(クリフ・リーの場合は、気候の差にあえて反する持ち球の選択をすることによって、その地区で際立った個性を演出しているような気もする。つまり「東地区にありがちなカットボール投手にはならず、カーブを多用」「西地区ではあまり多用されないカットボールを多用する」など)
だいたいの主旨はこうだ。
「東海岸ではカットボールを多用したピッチングを構成する。中地区、西海岸では、また違う。シアトルは特殊で、メジャーの他のどの球団より、ストレート(たぶん4シーム)を投げさせたがる」
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月29日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(1)2010年の「ア・リーグ東地区風カットボール多用配球スタイル」が東地区チームとの対戦に災いしているのか?
MLBで、地域によってピッチングの構成球種が異なることについては、これまでほとんど着目されてこなかった点だと自負しているが、今回、ドジャースとの3年契約を終えた黒田投手が、下記のようなコメントをしてくれたおかげで、これまで書いてきた記事への確信と、「新たな発見」があった。
「新たな発見」というのは、北米大陸の東海岸と西海岸との「気候の大きな違い」が、メジャーの投手の使う球種に大きな影響があるのではないか?という着眼だ。
まず、黒田投手の話をもう一度読んでみる。
「ツーシームは球場の湿気の違いや、東海岸と西海岸で違ったりするけど、それも自分の中で把握できつつある。汚いボールでも抑えた投手が凄い。きれいなフォーシームでいつも空振りが取れるなら苦労しないけど限界がある。それよりは動くボールで投球の幅を広げたほうがいい」
「日本では横にスライドする詰まらせるボールでした。しかし、メジャーの打者は詰まっても内野の頭を越えるどころか、外野の頭を越えることもある。それよりも安全なのはバットの下に当てさせるか、空振りさせること。だから今は角度をつけて落とすイメージ。シュートよりシンカー(沈む球)と口で言ったほうが、投げていてもイメージがつきやすい」
悩める黒田 残りたい理由と戻りたい理由とは…(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース
「きれいなフォーシームでいつも空振りが取れるなら苦労しないけど限界がある。それよりは動くボールで投球の幅を広げたほうがいい」などというコメントは、シアトルが馬鹿のひとつおぼえで揃えた速球派投手たちがなぜすぐに通用しなくなるかという、当たり前の現象を簡潔に説明している。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:「ストレート王国の病」
それはともかく。
東海岸と西海岸の気候はどう違うか、という基本的な話を説明しよう。
野球は春から秋のスポーツだが、夏だけ比べると、東海岸の夏は(日本ほどではないが)蒸し暑い。それに比べると、西海岸の夏はずっと湿度が低い。
月ごとの差、地域差、球場の形状の差など、細かい差異は言い出せばキリがないほどあるだろうが、おおまかに「東海岸は、西海岸より湿度がずっと高い」と覚えておけばいいだろう。
例えばドジャース、エンゼルスなどのあるロサンゼルスは、ケッペンの気候区分ではCs(地中海性気候。ダウンタウンや太平洋岸でなく、内陸となれば別の気候区分)。1年のうち約300日が晴れていて、年間平均気温は約18度、冬でも平均気温約15度。夏冬の寒暖の差があまりない。東京の年間降水量は約1500ミリだが、ロスではその5分の1程度しか雨が降らず、非常に乾燥している。
一方、ヤンキース、メッツのあるニューヨークは、ケッペンの気候区分でいうCfa(温暖湿潤気候。Cは温帯、fは湿潤、aは夏の気温が高いことを示す)ニューヨークはロサンゼルスと比べ、寒暖の差が非常に大きい。夏は遥かに暑く、冬は比較にならないくらい寒い。初夏の梅雨や秋の台風の影響を非常に強く受けて降水量が季節によって激変する東京と比べると、ニューヨークの降水量は少なく、月別変動も無いに等しいが、西海岸よりはるかに雨が多い。
気候、たとえば、気圧、風、湿度、温度と、野球との関係について書かれた記事は誰でも目にしたことがあるだろう。
気圧や風は主に『ボールがどのくらい飛ぶか」に大きく影響すると考えられている。海抜1600メートルの高地にあるコロラド・ロッキーズの打撃成績が眉唾だと思われているのは、そのためだ。
また温度は、高いほどボールは飛びやすい。なんでも、温度75F(摂氏23.8度くらい)で400フィート(約122メートル)の飛距離が、温度95F(摂氏35度くらい)になると、408フィート(約124.3メートル)と、約2メートルも飛距離が伸びるらしい。
Baseball Betting Article: How weather affects baseball betting
気温の高い夏のほうがボールが飛ぶ、というわけだから、「暑さの厳しいアメリカ東海岸の夏のほうが、西海岸よりホームランが若干でやすい」とか、「テキサスのような暑い地域のほうが、北西部のシアトルよりホームランがでやすい」とか、「暑くて湿度も高い日本のほうがアメリカよりホームランがでやすい」とか、言えるのかもしれない。
そして問題の湿度。
これに関しては、誰でもが覚えておくべき「非常に重要な誤解」が、ひとつある。それは「湿度が高いと、空気は重くなる。だからボールは飛ばない」という「大きな誤解」だ。
事実は逆。打球の飛距離への影響が有意なほど大きいかどうかはともかくとして、物理的には「空気は、湿度が高いほど、軽くなる」のであって、重くはならない。
理由は簡単だ。「比較的重い元素である窒素を含む空気の粒のほうが、水素と酸素だけで出来ている水蒸気よりも重い」からだ。だから「湿度が高ければ高いほど、空気の密度は小さくなり、空気は軽くなる」のである。
だから、仮に「空気の密度が大きいと、ホームランがでにくい」と仮定すると、ホームランがでやすいのは、カラッと湿度の低い西海岸ではなくて、湿った東海岸なのである。空気が乾燥するとボールが軽くなってよく飛ぶような気がする、というのは、単なる誤解だ。(また乾燥したボールと湿ったボール、どちらが飛ぶかという反発力などの問題は、別の問題)
WHY IS MOIST AIR LESS DENSE THAN DRY AIR AT SAME TEMPERATURE
Air Density and Performance - 空気密度と航空機の性能
余談があまりにも多くなりすぎた(苦笑)
投手のピッチングにとって、湿度はどう影響してくるのだろう。そして、湿度は、東海岸と西海岸では大きな差があるのだが、その地域差はピッチングに影響しているのだろうか。
湿度の問題を下記の2つくらいに絞ってみた。
・ボールの変化の大きさに対する湿度の影響
・ボールへの「指のかかり」
この話はあまりにも面白いので今後とも書こうと思っているので、ここではまず、「湿度がボールの変化にどう影響するか」に関してだけ、最初の考察のきっかけを書いてみる。
既に説明したように、「湿度が大きいほど、空気の密度は軽くなる」。(ここを間違えてはいけない)だから、湿度の高い東海岸と、湿度の低い西海岸での変化球の違いを、机上の空論で、最初の仮説を立ててみる。
まず西海岸。
「乾燥した西海岸では、湿った東海岸より空気密度が相対的に高く、空気抵抗が大きいと考えられる。
だから、西海岸では、回転の少ないボールに対する空気抵抗を利用することで、ボールに変化をつけやすい」
次に東海岸。
これも机上の空論だが、
「湿った東海岸では、乾燥した西海岸より空気密度が相対的に低く、空気抵抗が小さいと考えられる。だから、ボールに急激な変化をつけたいなら、ボールに対する空気抵抗を利用するより、むしろ、ボールに対してスピンをかけ、スピンで曲がるような変化のさせかたのほうが適している」
どうだろう。
例えば、スプリットのように、ボールに回転をわざと与えずに空気抵抗でボールが落ちやすくする投手は、空気の密度の濃い西地区のチーム、ボールに強いスピンを与える変化球が得意な投手は、空気の密度が低い東地区が向いている、という簡単な図式が出来上がったわけだ。
もちろん、こんな単純な話で、黒田投手の話が説明できるとも思っていないし、球場の形状や気圧、風、チームの方針など、配球に対する影響要因は他にもたくさんある。
だが、少なくとも、北米では東海岸と西海岸はロッキー山脈を挟んでまるで気候が違い、その気候の大きな違いによって「湿度」が大きく変化すること。また「湿度」などの環境の差によって、デリケートなプロの投手の変化球の変化が違ってくることは確実なのだから、気候のせいで、東海岸の投手と西海岸の投手で、使う球種に違いが出て、そのために配球にも影響があることはほぼ確実だろうと(今のところ)考えている。
フォークボールを武器にした野茂投手の最初の所属先が、東海岸ではなくて、ロサンゼルスだった理由、東海岸ではあまりパッとした活躍ができなかった理由を、気候や湿度の面から考えたりするのも、面白い。
また夏に湿気の多い東のクリーブランドやフィラデルフィアで「カーブ」を投げていたクリフ・リーが、乾燥した西海岸シアトルで投げるにあたって「なぜ、カットボールを増やそう」と思ったのか、さらにシアトルより暑い南西部テキサスに移籍して、その「カットボール」がなぜ通用しなくなったのかを、気候から考えるのも面白い。(クリフ・リーの場合は、気候の差にあえて反する持ち球の選択をすることによって、その地区で際立った個性を演出しているような気もする。つまり「東地区にありがちなカットボール投手にはならず、カーブを多用」「西地区ではあまり多用されないカットボールを多用する」など)
damejima at 13:08
気候が大きく異なる東海岸と西海岸とでは、ピッチャーの使う球種にも違いがあるかもしれない、という話を書いているところだが、ミネソタのターゲット・フィールドで行われた東地区ヤンキースと中地区ツインズのディビジョン・シリーズで、ヤンキースのアンディ・ペティットが、第2戦でこんな配球を多用していた。
「まずストレートを投げる。続けて、まったく同じコースに、カットボールを投げる」
要は、「同じコースに、同じフォーム、同じ球筋で、ストレートと、ちょっとだけ変化する球(ペティットの場合は、少しだけ沈める)を続けて投げて、打者にカットボールのほうを打ち損じさせる」という、典型的なカットボール配球なのだが、これがまた、ミネソタ打線が面白いようにひっかかってしまっているのが、見ていて、とてもモノ哀しい気持ちにさせられた。
ブログ主は別にミネソタの熱烈なファンというわけではないが、好きな選手もいないこともない。(自分でも理由がわからないが、モーノーがなぜか好きになれない。むしろドナルド・スパンとかジョナサン・クベルとかの無骨さがミネソタらしくていい。もちろんヤンキースにも、マーク・テシェイラなど、好きな選手はいる)
わかりきっている「東地区のチーム特有の配球」に引っかかり続ける、という不器用さ、対応力の無さが、どうにも見ていてイライラするのである。(実際、何度かゲームを見るのをやめた(笑)だが、試合結果が気になって、また見始める、を繰り返した)
かつて書いた記事で、「東地区の投手はカットボールを多用してくる」という特徴があることを書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ)
ミネソタは、このところディビジョンシリーズに毎年のように出られるようになったのはいいが、ヤンキースにばかりやられ続けているのだから、ちょっとは東地区の投手の典型的配球くらい研究すればいいのに、と思わずにいられない。
監督のガーデンハイアーは、出来損ないのアンパイアに退場させられたのは気の毒に思うし、「あのアンパイアこそ、退場!」と思うが、こういうチームの操縦について柔軟性が無さ過ぎる点は、どうにかしないと、と思う。
上に挙げた記事でも書いたのだが、ミネソタというチームは、けっこう投手の配球も、頑固かつ特殊なところがある。
「スライダー」という球種は、投手に負担がかかるという理由から、メジャーではあまり数多く投げさせないという常識があると思っているのだが、どういうものか、ミネソタでだけは、たしか配球の「20数%」もの「スライダー」を投げさせている。(資料はたぶんFangraph)
こんなことを続けていては投手が壊れてしまう。
これまでのミネソタのホームは、いまではメジャーでも数が少なくなったクッキーカッター・スタジアムであるメトロドームだったが、ようやく今年から、近代的なボールパークであるターゲット・フィールドになった。
クッキーカッター・スタジアムの
歴史的経緯についての説明記事
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月21日、ボルチモアのカムデンヤーズは、セーフコのお手本になった「新古典主義建築のボールパーク」。80年代のクッキーカッター・スタジアムさながらの問題を抱える「日本のスタジアム」。
メトロドームは、日本の東京ドームがお手本にした球場で、屋根を気圧で押し上げる特殊な方式の球場だった。(東京ドームの屋根も同じ方式)
メトロドーム
左中間、右中間が狭い、という意味ではヤンキースタジアムとも共通点がある。
Clem's Baseball ~ Metrodome
それだけに、おそらくメトロドームには、この手のドーム球場の特殊な球場内部環境にしかない「気圧」、「湿度」、「風」などのメリット・デメリットの問題が必ずあったはずで、それが投手の配球にも影響が絶対にあったはずだ、と思っている。
湿度など気候が配球に与える影響に関する記事
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月8日、2010年10月5日、ブログ過去記事を参照しながら味わうドジャース黒田の興味深いコメント (2)西海岸と東海岸、気候の違いと「配球文化」の差。または「湿度が高いとボールが飛ばない」という誤解。
もしドーム球場特有の配球、なんてものが存在するのなら、せっかくメトロドームからターゲット・フィールドになった元年なのだから、ガーデンハイアーも今年以降は投手の配球に多少は配慮してスライダーの数を減らすなり、なんなり、野球スタイルに多少の変化をつけてくれているといいのだが、今年のミネソタのレギュラーシーズンの配球傾向がどうなっているか、心配だ(笑)
頑固なガーデンハイアーのことだから、やっぱり例年通りスライダーばっかり投げさせているような気もする(笑)
せっかくホームパークが変わったのだから、カットボール主体の東地区風の投手を数人つくればいいのにと思わないでもないが。どうだろう。
「まずストレートを投げる。続けて、まったく同じコースに、カットボールを投げる」
要は、「同じコースに、同じフォーム、同じ球筋で、ストレートと、ちょっとだけ変化する球(ペティットの場合は、少しだけ沈める)を続けて投げて、打者にカットボールのほうを打ち損じさせる」という、典型的なカットボール配球なのだが、これがまた、ミネソタ打線が面白いようにひっかかってしまっているのが、見ていて、とてもモノ哀しい気持ちにさせられた。
ブログ主は別にミネソタの熱烈なファンというわけではないが、好きな選手もいないこともない。(自分でも理由がわからないが、モーノーがなぜか好きになれない。むしろドナルド・スパンとかジョナサン・クベルとかの無骨さがミネソタらしくていい。もちろんヤンキースにも、マーク・テシェイラなど、好きな選手はいる)
わかりきっている「東地区のチーム特有の配球」に引っかかり続ける、という不器用さ、対応力の無さが、どうにも見ていてイライラするのである。(実際、何度かゲームを見るのをやめた(笑)だが、試合結果が気になって、また見始める、を繰り返した)
かつて書いた記事で、「東地区の投手はカットボールを多用してくる」という特徴があることを書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ)
ミネソタは、このところディビジョンシリーズに毎年のように出られるようになったのはいいが、ヤンキースにばかりやられ続けているのだから、ちょっとは東地区の投手の典型的配球くらい研究すればいいのに、と思わずにいられない。
監督のガーデンハイアーは、出来損ないのアンパイアに退場させられたのは気の毒に思うし、「あのアンパイアこそ、退場!」と思うが、こういうチームの操縦について柔軟性が無さ過ぎる点は、どうにかしないと、と思う。
上に挙げた記事でも書いたのだが、ミネソタというチームは、けっこう投手の配球も、頑固かつ特殊なところがある。
「スライダー」という球種は、投手に負担がかかるという理由から、メジャーではあまり数多く投げさせないという常識があると思っているのだが、どういうものか、ミネソタでだけは、たしか配球の「20数%」もの「スライダー」を投げさせている。(資料はたぶんFangraph)
こんなことを続けていては投手が壊れてしまう。
これまでのミネソタのホームは、いまではメジャーでも数が少なくなったクッキーカッター・スタジアムであるメトロドームだったが、ようやく今年から、近代的なボールパークであるターゲット・フィールドになった。
クッキーカッター・スタジアムの
歴史的経緯についての説明記事
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月21日、ボルチモアのカムデンヤーズは、セーフコのお手本になった「新古典主義建築のボールパーク」。80年代のクッキーカッター・スタジアムさながらの問題を抱える「日本のスタジアム」。
メトロドームは、日本の東京ドームがお手本にした球場で、屋根を気圧で押し上げる特殊な方式の球場だった。(東京ドームの屋根も同じ方式)
メトロドーム
左中間、右中間が狭い、という意味ではヤンキースタジアムとも共通点がある。
Clem's Baseball ~ Metrodome
それだけに、おそらくメトロドームには、この手のドーム球場の特殊な球場内部環境にしかない「気圧」、「湿度」、「風」などのメリット・デメリットの問題が必ずあったはずで、それが投手の配球にも影響が絶対にあったはずだ、と思っている。
湿度など気候が配球に与える影響に関する記事
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月8日、2010年10月5日、ブログ過去記事を参照しながら味わうドジャース黒田の興味深いコメント (2)西海岸と東海岸、気候の違いと「配球文化」の差。または「湿度が高いとボールが飛ばない」という誤解。
もしドーム球場特有の配球、なんてものが存在するのなら、せっかくメトロドームからターゲット・フィールドになった元年なのだから、ガーデンハイアーも今年以降は投手の配球に多少は配慮してスライダーの数を減らすなり、なんなり、野球スタイルに多少の変化をつけてくれているといいのだが、今年のミネソタのレギュラーシーズンの配球傾向がどうなっているか、心配だ(笑)
頑固なガーデンハイアーのことだから、やっぱり例年通りスライダーばっかり投げさせているような気もする(笑)
せっかくホームパークが変わったのだから、カットボール主体の東地区風の投手を数人つくればいいのにと思わないでもないが。どうだろう。
damejima at 06:48
October 06, 2010
3年目に自己最多の11勝を挙げてドジャースでの3年契約を満了した元・広島の黒田のコメントが、かなり面白い。配球マニアでなくても、必見だろう。
悩める黒田 残りたい理由と戻りたい理由とは…(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース
このブログで過去に書いたことの数多くの話とも、かなり響きあうので、ちょっといくつか記事を書いてみることにした。
ただ、この黒田のコメントを読む上では、まず最初に注意を促しておかなければならないことがある。それは球種の呼び名だ。
球種の呼び方、特に変化球の呼称は、ときに日米間で大差がある場合もある。また投手ごとにも、多少違いがある。
日米間で特に呼び方の差が激しいと思う球種はシンカーやツーシームのような、いわゆる「動くボール」の類(たぐい)だと思う。日米で「シンカー」と呼ばれている球は、実際には両国で大きな違いがある。
またメディア間、選手間で「こう握って、こう変化すると、シンキング・ファーストボール」とか、「こう握って、こう変化すると、スクリューボール」とか、絶対的定義が取り決められているわけでもない。
アメリカでは、なんでもキッチリしたがる律儀すぎる日本人からしてみればルーズだと叱られそうな話だが(笑)、場合によっては「なんだかわからないものは全部『チェンジアップ』と呼んで済ましておこう。それでいいじゃん。そうだ、そうしよう」などという場合も多々ある(笑)
投手にしてみれば「いま投げたのはサークル・チェンジです。次の球はスクリューボールです。」と、記者の質問にいちいち答えるわけでもなんでもない。
だから、映像で試合を実況するスポーツキャスターが、スローVTRの再生動画をチラッと見て、握りがなんとなく「サークルチェンジ風」だから「サークルチェンジ」と呼んだとしても、当の投手本人に言わせれば「あれはシンカーだよ?何いってんの」とか、違うことを思っていることだって、よくある。
また日本のプロ野球でプレーしているのにアメリカ風の球種分類に沿って話のできる日本人投手やコメンテイターもいれば、逆に、せっかくアメリカでプレーしているのに、いつまでたっても日本風の球種分類でしかコメントできない日本人捕手(笑)・日本人投手も、いる。
例えば中日ドラゴンズの山本昌のことを「スクリューボール投手」などと紹介するサイトは数多くあるわけだが、山本昌本人は「自分の投げるシンカー系の球を、全部スクリューだと言っている」わけではない。(また本人は自分を「速球派」といっているのは有名)
実際、ある実際のゲーム後、山本昌は「打者Aにはスクリュー、打者Bにはシンカーを投げた」と、きちんとスクリューとシンカーを区別したコメントをしている。
相手打者が右か左かによってボールをどちら側に曲げるかを決め、何種類かのシンカー系の球種を、しかも高低にコントロールして投げ分ける山本昌独特のピッチングスタイルは、むしろ非常にアメリカっぽい。彼のコメントのシンカーとスクリューボールの分類も、きちんとアメリカ的な分類に沿っていて、彼はコメントにおいても、この2つの球種が混同されることもない。
これはたぶん、山本昌が若い頃にドジャースのキャンプを経験していて、オマリー家の墓地で眠る故・アイク生原さんなどに変化球をたたき込まれたことが大きく影響しているに違いない。
山本昌はメジャーでの登板経験こそ投げないが、ピッチングスタイルにおいて非常にアメリカ的な部分があって、引き出しも多いヴェテランだけに、たぶんドジャース経験後の黒田と山本昌には通じ合う部分が多いに違いない。
黒田は、スカウンティングの発達により、すぐに研究されてしまうアメリカ野球を生き抜くために、たくさんの大投手たちに教えを請い、ピッチングのコツを教えてもらってきたようだ。投手王国・名門ドジャースならではの人脈も、彼に幸いしたのだろう。
黒田「メジャーはスカウティングシステムが発達していてすぐに研究されてしまう。だから常に進化していかないと、やられてしまう(中略)(だから、グレッグ・マダックスやクリス・カーペンターに直接指導してもらうなどして)いろんな勉強をして引き出しをたくさんつくった。(中略)
日本では小さい頃からきれいなフォーシームを投げる練習をするけど、こっちはスタートから違う。もちろんフォーシームで結果を残す投手はたくさんいるけど、合わない投手もいる。僕が動くボールを見せることで違う方向に行けば、違った結果が出る可能性もあると気づいてもらえればいい」
悩める黒田 残りたい理由と戻りたい理由とは…(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース
黒田と山本昌、引き出しの多い職人気質のヴェテラン投手2人のピッチング談義があったら、ぜひじっくり見てみたいと思う。彼らのようなスタイルのヴェテランの話にこそ「メジャーでも通用する日本人投手の新しいピッチングスタイル」「日本野球のレベルを一段引き上げる日本の投手の新しいスタイル」が見えてくるかもしれないと思うからだ。
余談だが、この10年の長きにわたって、シアトルが投手の育成やトレード、バッテリーワークの構築において犯し続けてきた根本的な間違いも、たぶんこういうところにある。
シアトルが育ててきたのは、「4シームがちょっとばかり速いだけで、後は何もない投手」だが、彼らは、黒田投手の言葉を借りれば、『引き出しのまったく無い投手』ばかり」であって、スカウンティングが発達し、打者の対応技術も高いアメリカでは、そんな投手たちはすぐに何の役にも立たなくなる。
なのにシアトルは、誰が陰でこのチームを指揮してきたのか知らないが、「ストレートの速い投手ばかり並べて、日本人キャッチャーが決め球のストレートをアウトコースの低め一杯に決めさせる」なんていう思い込みひとつで、大金をかけてチームをがむしゃらに作り上げてきた。
そのセンスの、まぁ、老人臭いこと、カビ臭いこと。野球の世界にまだ球種自体が少なくて、速球投手全盛だった村山や江夏の時代の日本野球じゃあるまいし。
誰がこのチームにクチを挟み続けてきたのか知らないが、この西海岸のチームだけは、広いメジャーの片隅で、こっそりと、そういうカビ臭い懐古趣味の実験を、10年もの間、続けてきたのだ。
勝てるわけがない。
悩める黒田 残りたい理由と戻りたい理由とは…(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース
このブログで過去に書いたことの数多くの話とも、かなり響きあうので、ちょっといくつか記事を書いてみることにした。
ただ、この黒田のコメントを読む上では、まず最初に注意を促しておかなければならないことがある。それは球種の呼び名だ。
球種の呼び方、特に変化球の呼称は、ときに日米間で大差がある場合もある。また投手ごとにも、多少違いがある。
日米間で特に呼び方の差が激しいと思う球種はシンカーやツーシームのような、いわゆる「動くボール」の類(たぐい)だと思う。日米で「シンカー」と呼ばれている球は、実際には両国で大きな違いがある。
またメディア間、選手間で「こう握って、こう変化すると、シンキング・ファーストボール」とか、「こう握って、こう変化すると、スクリューボール」とか、絶対的定義が取り決められているわけでもない。
アメリカでは、なんでもキッチリしたがる律儀すぎる日本人からしてみればルーズだと叱られそうな話だが(笑)、場合によっては「なんだかわからないものは全部『チェンジアップ』と呼んで済ましておこう。それでいいじゃん。そうだ、そうしよう」などという場合も多々ある(笑)
投手にしてみれば「いま投げたのはサークル・チェンジです。次の球はスクリューボールです。」と、記者の質問にいちいち答えるわけでもなんでもない。
だから、映像で試合を実況するスポーツキャスターが、スローVTRの再生動画をチラッと見て、握りがなんとなく「サークルチェンジ風」だから「サークルチェンジ」と呼んだとしても、当の投手本人に言わせれば「あれはシンカーだよ?何いってんの」とか、違うことを思っていることだって、よくある。
また日本のプロ野球でプレーしているのにアメリカ風の球種分類に沿って話のできる日本人投手やコメンテイターもいれば、逆に、せっかくアメリカでプレーしているのに、いつまでたっても日本風の球種分類でしかコメントできない日本人捕手(笑)・日本人投手も、いる。
例えば中日ドラゴンズの山本昌のことを「スクリューボール投手」などと紹介するサイトは数多くあるわけだが、山本昌本人は「自分の投げるシンカー系の球を、全部スクリューだと言っている」わけではない。(また本人は自分を「速球派」といっているのは有名)
実際、ある実際のゲーム後、山本昌は「打者Aにはスクリュー、打者Bにはシンカーを投げた」と、きちんとスクリューとシンカーを区別したコメントをしている。
相手打者が右か左かによってボールをどちら側に曲げるかを決め、何種類かのシンカー系の球種を、しかも高低にコントロールして投げ分ける山本昌独特のピッチングスタイルは、むしろ非常にアメリカっぽい。彼のコメントのシンカーとスクリューボールの分類も、きちんとアメリカ的な分類に沿っていて、彼はコメントにおいても、この2つの球種が混同されることもない。
これはたぶん、山本昌が若い頃にドジャースのキャンプを経験していて、オマリー家の墓地で眠る故・アイク生原さんなどに変化球をたたき込まれたことが大きく影響しているに違いない。
山本昌はメジャーでの登板経験こそ投げないが、ピッチングスタイルにおいて非常にアメリカ的な部分があって、引き出しも多いヴェテランだけに、たぶんドジャース経験後の黒田と山本昌には通じ合う部分が多いに違いない。
黒田は、スカウンティングの発達により、すぐに研究されてしまうアメリカ野球を生き抜くために、たくさんの大投手たちに教えを請い、ピッチングのコツを教えてもらってきたようだ。投手王国・名門ドジャースならではの人脈も、彼に幸いしたのだろう。
黒田「メジャーはスカウティングシステムが発達していてすぐに研究されてしまう。だから常に進化していかないと、やられてしまう(中略)(だから、グレッグ・マダックスやクリス・カーペンターに直接指導してもらうなどして)いろんな勉強をして引き出しをたくさんつくった。(中略)
日本では小さい頃からきれいなフォーシームを投げる練習をするけど、こっちはスタートから違う。もちろんフォーシームで結果を残す投手はたくさんいるけど、合わない投手もいる。僕が動くボールを見せることで違う方向に行けば、違った結果が出る可能性もあると気づいてもらえればいい」
悩める黒田 残りたい理由と戻りたい理由とは…(野球) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース
黒田と山本昌、引き出しの多い職人気質のヴェテラン投手2人のピッチング談義があったら、ぜひじっくり見てみたいと思う。彼らのようなスタイルのヴェテランの話にこそ「メジャーでも通用する日本人投手の新しいピッチングスタイル」「日本野球のレベルを一段引き上げる日本の投手の新しいスタイル」が見えてくるかもしれないと思うからだ。
余談だが、この10年の長きにわたって、シアトルが投手の育成やトレード、バッテリーワークの構築において犯し続けてきた根本的な間違いも、たぶんこういうところにある。
シアトルが育ててきたのは、「4シームがちょっとばかり速いだけで、後は何もない投手」だが、彼らは、黒田投手の言葉を借りれば、『引き出しのまったく無い投手』ばかり」であって、スカウンティングが発達し、打者の対応技術も高いアメリカでは、そんな投手たちはすぐに何の役にも立たなくなる。
なのにシアトルは、誰が陰でこのチームを指揮してきたのか知らないが、「ストレートの速い投手ばかり並べて、日本人キャッチャーが決め球のストレートをアウトコースの低め一杯に決めさせる」なんていう思い込みひとつで、大金をかけてチームをがむしゃらに作り上げてきた。
そのセンスの、まぁ、老人臭いこと、カビ臭いこと。野球の世界にまだ球種自体が少なくて、速球投手全盛だった村山や江夏の時代の日本野球じゃあるまいし。
誰がこのチームにクチを挟み続けてきたのか知らないが、この西海岸のチームだけは、広いメジャーの片隅で、こっそりと、そういうカビ臭い懐古趣味の実験を、10年もの間、続けてきたのだ。
勝てるわけがない。
damejima at 21:16
September 06, 2010
前の記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年8月29日、移籍後のクリフ・リーが打たれる原因を考えてみる。(1)2010年の「ア・リーグ東地区風カットボール多用配球スタイル」が東地区チームとの対戦に災いしているのか?
前回は、今年あたりから急速にカットボールを多用した組み立てで投げるようになったクリフ・リーが、シアトル時代には好投できたのに、テキサス移籍後に、なぜかア・リーグ東地区のチームを中心に打者につかまるようになった、という話をした。
今回は、クリフ・リーの使う球種には「カウントによって特定パターンがある」ことを示してみようと思う。
だが、「クリフ・リー・パターン」を見る前に、単純な誤解を避ける意味で、彼のピッチングの前提になっている「メジャー流の配球の基本の形」を確認しておく必要があると思う。
まず、大づかみに彼の特徴をみてみる。
データを見れば誰でもわかるように、クリフ・リーの投げる球種には次のような「カウント別の大きな流れ、大きな原則」がある。これはメジャーの投手に共通
原則1)打者を追い込むと「決め球の変化球」を投げる(=変化球の割合が急に高くなる。ストレートがゼロになるわけではない)
原則2)カウントが悪くなると「ストレート」を投げる
2010年のカウント別球種
Cliff Lee » Splits » 2010 » Pitching | FanGraphs Baseball (Pitch Typesという項目参照)
2008年のカウント別球種
Cliff Lee » Splits » 2008 » Pitching | FanGraphs Baseball
勘違いしてもらっても困るのだが、これはあくまで「メジャーの投手によくあるパターン」だ。だから、この特徴だけをとって「クリフ・リーはカウントによって使う球種があまりにもワンパターンだ。だから打たれるのだ」と早合点するのは、完全に間違っている。
元メジャーリーガーの阪神ブラゼルが「来日したばかりの頃、日米の配球の違いに驚いた。日本では3-0からでも変化球を投げる。慣れるのに時間がかかった」とコメントした話をかつて紹介したが、「メジャーの投手が3-0、2-0という投手不利カウントになったらストレートを投げるのは、お約束」であり、また、例えば「ホームベースの真ん中あたりでストライクゾーンからボールに落ちていく変化球」に代表されるように、「決め球は基本的には変化球である」のも、よくある話だ。(と、いうことは何度もこのブログで書いてきた。つうか、もういい加減、書くのも飽きてきた)
ストレートのスピードがそれほどでもないクリフ・リーだが、カウントが悪くなれば、(「メジャーの他の投手たちと同じように」という意味で)ストレートでストライクをとりにいくし、打者を追い込んだ場合に投げる決め球は変化球で、他の投手たちとなにも変わらない。
2008年までなら決め球は「カーブ」、今年などは「カットボール」だ。もちろん追い込んでからストレートを投げる割合がゼロになるわけではない。変化球を投げる割合がかなり増える、という意味だ。
普段、打者を見下ろしている間はストレートばかり投げこんでくるボストンのクローザー、パペルボンも、自慢のストレートが狙われてランナーを貯めて焦ったら「スプリット」を投げるし、あれほどストレートばかり投げたがるアーズマだって、ストレートを痛打されると、ようやくキャッチャーの変化球のサインに同意して変化球を投げて、なんとかピンチをかわそうとする。
ストレートの速度だけで打者をかわせるほどメジャーは甘くないことは、ストレート自慢のピッチャーたちだって誰だって、何度も痛い目を見てわかっている。
既に何度も書いたように、この「カウントによって使う球種が、日米で非常に大きく違うこと」は、日米の野球文化の根本的な差異の非常に大きな項目のひとつであって、「城島問題」の本質のひとつでもある。
配球教科書的にいうと、、ダメ捕手城島のように「シルバのようなシンカー系の投手(ただ、彼は実際にはもっと色々な球種を投げられる)であれ、アーズマのような高目のリスクの高いストレートしか投げられないがそれを決め球にしたい投手であれ、また、バルガスのようなチェンジアップによる緩急が持ち味の投手、ベダードやウオッシュバーンのようなカーブを決め球にもつ投手、ロウやモローのようなストレートはバカ早いがそれだけでは勝負にならず変化球の目くらましを必要とする若手投手であれ、あらゆるタイプの投手に、決め球として、アウトコースの低めいっぱいにピンポイントで決まるストレート(あるいはスライダー)を要求するような馬鹿リード」が、投手の被ホームランを増やし、与四球を増やし、防御率をはじめ、あらゆる投手成績を低下させて、最後は投手陣全員に嫌われるのは当たり前。
組み立ては投手の持ち球やタイプによって変わるのが自然であって、キャッチャーが画一的に決められるものではないのに、それを無理にキャッチャーが決めてしまうような無意味なことをすれば、シアトルのどの投手がマウンドに上がろうが、相手チームは「城島の配球パターンは、他のどのキャッチャーよりワンパターンで、スカウンティングしやすいわけだが、そのワンパターン・リードさえ解析できてしてしまえば、シアトルの投手全員を打ちまくることができる」、そういう特殊な事態が起こる。(というか、実際にそういう状態が何年か続いた)
メジャーに来て、日本とはまるで違うメジャーの野球の「を学びもしないで自分流を投手全員に押し付けようとして大失敗し、チームに大打撃を与えたクセに大金せしめて日本に逃げ帰ったのが、「城島」というダメ捕手である。投手全員が一斉に崩れる現象は、投手のコントロールが悪いせいではなく、投手の個性を無視した画一的なリードが悪いのである。
関連記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(3)「低め」とかいう迷信 あるいは 決め球にまつわる文化的差異
こんどはクリフ・リーの球種ごとの特徴をみてみる。
特徴1)ストレートは速くない
90マイル程度のスピードしか出ていない日もある。だから、もともとストレートにはスピードはあまりないクリフ・リーの場合、ストレートとカットボールにほとんどスピード差が少ない。そのため、カットボールを多投する組み立てをするには、もともとピッチングの緩急に不安があることに注意すべきだろう。
クリフ・リーのストレートが遅いことはシアトルファンは誰でも知っていることで、ゲームを毎日見ていればわかることだが、まぁ、一応データも挙げておく。
資料:Cliff Lee ≫ PitchFx ≫ Velocity Graphs ≫ FA | FanGraphs Baseball
だが、ここでも勘違いしてはいけないのは、92マイルの速度のショーン・ホワイトのシンカーのほうが、クリフ・リーのストレートより多少早いからといって、「投手としてショーン・ホワイトのほうがクリフ・リーより優れている」とは言えない、ということだ。
投手の能力はストレートの速さだけで決まったりはしない。
特徴2)持ち球の種類は限られている
クリフ・リーは基本的な球種のみしか使わない。基本的にストレート多めの投手。決め球に使うのは、ほぼカットボール、第二の選択肢としてはカーブだ。チェンジアップもあるが、これは組み立てに使う程度。
資料:Cliff Lee ≫ Statistics ≫ Pitching | FanGraphs Baseball
特徴3)決め球はカーブからカットボールに
サイ・ヤング賞投手になった2008年頃、決め球は「カーブ」だった。これは「2008年当時は、緩急を使いながら抑える投手だった」ことを意味する。だが、最近になって、理由はわからないが「カットボール」を多用するピッチングに変わってきた。
関連記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。
以上の2つの原則と3つの特徴から、クリフ・リーの打者への配球には、ひとつの典型的な「クリフ・リー・パターン」が「できてしまう」ことは、たぶん説明しなくても誰でもわかると思う。
試しに作ってみると、こんな風になる。メジャーのスターターらしいパターンで、よく言えばシンプルだし、悪く言えばバリエーションがない。
配球パターンの原則1)
「初球は90マイルちょっとのストレートから入る」
「3球目(または4球目)87マイルくらいのカットボール(または78マイルくらいのカーブ)で決める」
もちろん、逆パターンもある。初球にストレートではなく、チェンジアップやカットボールといった変化球を使い、最後をストレートで決めにくるのが逆パターンだ。
この逆パターンは、だいたいの場合、相手打者が1巡か2巡してから使うバリエーションであって、2打席目、3打席目に打者がクリフ・リーの初球ストレートを狙ってくるのをかわすために使われるだけの話。メインの投球パターンではない。
基本的に「クリフ・リーの初球はストレート」だと思う。打者が慣れていない試合序盤ではなおさら、初球にストレートを投げる確率はかなり高いと思っていい。
ここで覚えておかなくてはいけないのは、ストレートの遅いクリフ・リーの場合、2008年のように決め球にカーブを使うならストレートがいくら遅くても緩急がつけられるが、最近のように「カットボールを決め球にすると、ストレートとの緩急がつけられない」ことだ。
配球パターンの原則2)
カウント次第で3球目(または4球目)に投げる球種が決まる
打者を追い込んだ場合(カウント0-2、1-2)
カットボール(またはカーブ)で決めに行く
カウントを悪くした場合(カウント2-0、3-0)
ストレートでストライクをとりにいく
ストレートそのものにパーフェクトな威力があるわけではないクリフ・リーの場合、カウントを悪くしてからカウントをとりにいった甘いストレートを痛打される事態はできるだけ避けたいだろう。
となると、最初の2球で、できれば打者を追い込んでしまいたい。だから初球、2球目にボール球を投げて打者に余裕を与えるわけにはいかない。ストライクをどんどん取りに行くのである。これも覚えておく必要があるだろう。
さて、ここまで勝手に決め付けてきたが、実際にこんな風に投げているのか?
気になるだろうから、典型的な「クリフ・リー・パターン」の例を挙げてみようと思う。
これは打者をキレイにうちとったほうの例。
2010年6月7日シアトル在籍時代の、テキサスとのゲーム、初球と2球目ストレートで打者を追い込んだら、そこで間髪を入れずに決め球のカーブを投げて、三球三振させている。
この「ストレート、ストレート、カーブ」、これこそが、まさに「クリフ・リー・パターン」だし、本来の彼のピッチング、彼の真骨頂だと、ブログ主は思っている。
決め球に「カットボール」でなく、「カーブ」を使っているところが、2008年サイ・ヤング賞当時の配球であり、また、2010年シアトル在籍時の基本パターンのひとつというイメージがある。もしテキサス移籍以降なら、カーブではなく、カットボールを使っている場面だろう。
2010年6月7日
テキサス戦7回表
初球 ストレート
2球目 ストレート
3球目 カーブ(三振)
初球のストレートでストライクがとれていれば、3球目か4球目にカーブでうちとるのをあらかじめイメージしつつ、2球目も、もちろんストライクをとりにいくわけだが、もし「初球がボール」だったら話は結構変わってくる。カウントを悪くしたときに限って、ストレート4連投、なんていう単調な攻めになることがある。なぜなら、カウントをとりにいくのもストレートなら、悪いカウントになって投げるのもストレートだから、ストレートの連投になってしまうのだ。
だからこそクリフ・リーは「初球のストライク」を大事にする。初球がストライクのストレートだからこそ、決め球の変化球が生きてくるからだ。
次に、テキサス移籍後の打たれた例もみてみよう。
2010年8月26日、5回を投げて5失点したミネソタ戦だ。
Minnesota Twins at Texas Rangers - August 26, 2010 | MLB.com Gameday
この打たれるパターンがどうなのか問題なのだが、長くなるので、次回。
前回は、今年あたりから急速にカットボールを多用した組み立てで投げるようになったクリフ・リーが、シアトル時代には好投できたのに、テキサス移籍後に、なぜかア・リーグ東地区のチームを中心に打者につかまるようになった、という話をした。
今回は、クリフ・リーの使う球種には「カウントによって特定パターンがある」ことを示してみようと思う。
だが、「クリフ・リー・パターン」を見る前に、単純な誤解を避ける意味で、彼のピッチングの前提になっている「メジャー流の配球の基本の形」を確認しておく必要があると思う。
まず、大づかみに彼の特徴をみてみる。
データを見れば誰でもわかるように、クリフ・リーの投げる球種には次のような「カウント別の大きな流れ、大きな原則」がある。これはメジャーの投手に共通
原則1)打者を追い込むと「決め球の変化球」を投げる(=変化球の割合が急に高くなる。ストレートがゼロになるわけではない)
原則2)カウントが悪くなると「ストレート」を投げる
2010年のカウント別球種
Cliff Lee » Splits » 2010 » Pitching | FanGraphs Baseball (Pitch Typesという項目参照)
2008年のカウント別球種
Cliff Lee » Splits » 2008 » Pitching | FanGraphs Baseball
勘違いしてもらっても困るのだが、これはあくまで「メジャーの投手によくあるパターン」だ。だから、この特徴だけをとって「クリフ・リーはカウントによって使う球種があまりにもワンパターンだ。だから打たれるのだ」と早合点するのは、完全に間違っている。
元メジャーリーガーの阪神ブラゼルが「来日したばかりの頃、日米の配球の違いに驚いた。日本では3-0からでも変化球を投げる。慣れるのに時間がかかった」とコメントした話をかつて紹介したが、「メジャーの投手が3-0、2-0という投手不利カウントになったらストレートを投げるのは、お約束」であり、また、例えば「ホームベースの真ん中あたりでストライクゾーンからボールに落ちていく変化球」に代表されるように、「決め球は基本的には変化球である」のも、よくある話だ。(と、いうことは何度もこのブログで書いてきた。つうか、もういい加減、書くのも飽きてきた)
ストレートのスピードがそれほどでもないクリフ・リーだが、カウントが悪くなれば、(「メジャーの他の投手たちと同じように」という意味で)ストレートでストライクをとりにいくし、打者を追い込んだ場合に投げる決め球は変化球で、他の投手たちとなにも変わらない。
2008年までなら決め球は「カーブ」、今年などは「カットボール」だ。もちろん追い込んでからストレートを投げる割合がゼロになるわけではない。変化球を投げる割合がかなり増える、という意味だ。
普段、打者を見下ろしている間はストレートばかり投げこんでくるボストンのクローザー、パペルボンも、自慢のストレートが狙われてランナーを貯めて焦ったら「スプリット」を投げるし、あれほどストレートばかり投げたがるアーズマだって、ストレートを痛打されると、ようやくキャッチャーの変化球のサインに同意して変化球を投げて、なんとかピンチをかわそうとする。
ストレートの速度だけで打者をかわせるほどメジャーは甘くないことは、ストレート自慢のピッチャーたちだって誰だって、何度も痛い目を見てわかっている。
既に何度も書いたように、この「カウントによって使う球種が、日米で非常に大きく違うこと」は、日米の野球文化の根本的な差異の非常に大きな項目のひとつであって、「城島問題」の本質のひとつでもある。
配球教科書的にいうと、、ダメ捕手城島のように「シルバのようなシンカー系の投手(ただ、彼は実際にはもっと色々な球種を投げられる)であれ、アーズマのような高目のリスクの高いストレートしか投げられないがそれを決め球にしたい投手であれ、また、バルガスのようなチェンジアップによる緩急が持ち味の投手、ベダードやウオッシュバーンのようなカーブを決め球にもつ投手、ロウやモローのようなストレートはバカ早いがそれだけでは勝負にならず変化球の目くらましを必要とする若手投手であれ、あらゆるタイプの投手に、決め球として、アウトコースの低めいっぱいにピンポイントで決まるストレート(あるいはスライダー)を要求するような馬鹿リード」が、投手の被ホームランを増やし、与四球を増やし、防御率をはじめ、あらゆる投手成績を低下させて、最後は投手陣全員に嫌われるのは当たり前。
組み立ては投手の持ち球やタイプによって変わるのが自然であって、キャッチャーが画一的に決められるものではないのに、それを無理にキャッチャーが決めてしまうような無意味なことをすれば、シアトルのどの投手がマウンドに上がろうが、相手チームは「城島の配球パターンは、他のどのキャッチャーよりワンパターンで、スカウンティングしやすいわけだが、そのワンパターン・リードさえ解析できてしてしまえば、シアトルの投手全員を打ちまくることができる」、そういう特殊な事態が起こる。(というか、実際にそういう状態が何年か続いた)
メジャーに来て、日本とはまるで違うメジャーの野球の「を学びもしないで自分流を投手全員に押し付けようとして大失敗し、チームに大打撃を与えたクセに大金せしめて日本に逃げ帰ったのが、「城島」というダメ捕手である。投手全員が一斉に崩れる現象は、投手のコントロールが悪いせいではなく、投手の個性を無視した画一的なリードが悪いのである。
関連記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(3)「低め」とかいう迷信 あるいは 決め球にまつわる文化的差異
こんどはクリフ・リーの球種ごとの特徴をみてみる。
特徴1)ストレートは速くない
90マイル程度のスピードしか出ていない日もある。だから、もともとストレートにはスピードはあまりないクリフ・リーの場合、ストレートとカットボールにほとんどスピード差が少ない。そのため、カットボールを多投する組み立てをするには、もともとピッチングの緩急に不安があることに注意すべきだろう。
クリフ・リーのストレートが遅いことはシアトルファンは誰でも知っていることで、ゲームを毎日見ていればわかることだが、まぁ、一応データも挙げておく。
資料:Cliff Lee ≫ PitchFx ≫ Velocity Graphs ≫ FA | FanGraphs Baseball
だが、ここでも勘違いしてはいけないのは、92マイルの速度のショーン・ホワイトのシンカーのほうが、クリフ・リーのストレートより多少早いからといって、「投手としてショーン・ホワイトのほうがクリフ・リーより優れている」とは言えない、ということだ。
投手の能力はストレートの速さだけで決まったりはしない。
特徴2)持ち球の種類は限られている
クリフ・リーは基本的な球種のみしか使わない。基本的にストレート多めの投手。決め球に使うのは、ほぼカットボール、第二の選択肢としてはカーブだ。チェンジアップもあるが、これは組み立てに使う程度。
資料:Cliff Lee ≫ Statistics ≫ Pitching | FanGraphs Baseball
特徴3)決め球はカーブからカットボールに
サイ・ヤング賞投手になった2008年頃、決め球は「カーブ」だった。これは「2008年当時は、緩急を使いながら抑える投手だった」ことを意味する。だが、最近になって、理由はわからないが「カットボール」を多用するピッチングに変わってきた。
関連記事:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月23日、クリフ・リー「鳥肌モノ」の115球、4試合連続無四球で6勝目。「ストレートのかわりにカットボールでカウントを作って、変化球で仕留める」クリフ・リーの「東地区っぽいピッチング・スタイル」は、実は、2010年シアトルモデル。
以上の2つの原則と3つの特徴から、クリフ・リーの打者への配球には、ひとつの典型的な「クリフ・リー・パターン」が「できてしまう」ことは、たぶん説明しなくても誰でもわかると思う。
試しに作ってみると、こんな風になる。メジャーのスターターらしいパターンで、よく言えばシンプルだし、悪く言えばバリエーションがない。
配球パターンの原則1)
「初球は90マイルちょっとのストレートから入る」
「3球目(または4球目)87マイルくらいのカットボール(または78マイルくらいのカーブ)で決める」
もちろん、逆パターンもある。初球にストレートではなく、チェンジアップやカットボールといった変化球を使い、最後をストレートで決めにくるのが逆パターンだ。
この逆パターンは、だいたいの場合、相手打者が1巡か2巡してから使うバリエーションであって、2打席目、3打席目に打者がクリフ・リーの初球ストレートを狙ってくるのをかわすために使われるだけの話。メインの投球パターンではない。
基本的に「クリフ・リーの初球はストレート」だと思う。打者が慣れていない試合序盤ではなおさら、初球にストレートを投げる確率はかなり高いと思っていい。
ここで覚えておかなくてはいけないのは、ストレートの遅いクリフ・リーの場合、2008年のように決め球にカーブを使うならストレートがいくら遅くても緩急がつけられるが、最近のように「カットボールを決め球にすると、ストレートとの緩急がつけられない」ことだ。
配球パターンの原則2)
カウント次第で3球目(または4球目)に投げる球種が決まる
打者を追い込んだ場合(カウント0-2、1-2)
カットボール(またはカーブ)で決めに行く
カウントを悪くした場合(カウント2-0、3-0)
ストレートでストライクをとりにいく
ストレートそのものにパーフェクトな威力があるわけではないクリフ・リーの場合、カウントを悪くしてからカウントをとりにいった甘いストレートを痛打される事態はできるだけ避けたいだろう。
となると、最初の2球で、できれば打者を追い込んでしまいたい。だから初球、2球目にボール球を投げて打者に余裕を与えるわけにはいかない。ストライクをどんどん取りに行くのである。これも覚えておく必要があるだろう。
さて、ここまで勝手に決め付けてきたが、実際にこんな風に投げているのか?
気になるだろうから、典型的な「クリフ・リー・パターン」の例を挙げてみようと思う。
これは打者をキレイにうちとったほうの例。
2010年6月7日シアトル在籍時代の、テキサスとのゲーム、初球と2球目ストレートで打者を追い込んだら、そこで間髪を入れずに決め球のカーブを投げて、三球三振させている。
この「ストレート、ストレート、カーブ」、これこそが、まさに「クリフ・リー・パターン」だし、本来の彼のピッチング、彼の真骨頂だと、ブログ主は思っている。
決め球に「カットボール」でなく、「カーブ」を使っているところが、2008年サイ・ヤング賞当時の配球であり、また、2010年シアトル在籍時の基本パターンのひとつというイメージがある。もしテキサス移籍以降なら、カーブではなく、カットボールを使っている場面だろう。
2010年6月7日
テキサス戦7回表
初球 ストレート
2球目 ストレート
3球目 カーブ(三振)
初球のストレートでストライクがとれていれば、3球目か4球目にカーブでうちとるのをあらかじめイメージしつつ、2球目も、もちろんストライクをとりにいくわけだが、もし「初球がボール」だったら話は結構変わってくる。カウントを悪くしたときに限って、ストレート4連投、なんていう単調な攻めになることがある。なぜなら、カウントをとりにいくのもストレートなら、悪いカウントになって投げるのもストレートだから、ストレートの連投になってしまうのだ。
だからこそクリフ・リーは「初球のストライク」を大事にする。初球がストライクのストレートだからこそ、決め球の変化球が生きてくるからだ。
次に、テキサス移籍後の打たれた例もみてみよう。
2010年8月26日、5回を投げて5失点したミネソタ戦だ。
Minnesota Twins at Texas Rangers - August 26, 2010 | MLB.com Gameday
この打たれるパターンがどうなのか問題なのだが、長くなるので、次回。
damejima at 03:28
June 24, 2010
本当に凄い投手だ。
鳥肌モノの9イニングだった。
Chicago Cubs at Seattle Mariners - June 23, 2010 | MLB.com Gameday
6月に入って5回目の登板だったが、これで4試合連続の無四球試合。4試合34イニングを投げて、ただのひとつも四球も出していない。クリフ・リーを見慣れてしまうと、あたかも無四球試合が簡単であるかのような錯覚に陥りそうになる。もちろんそれは大きな勘違いで、1ゲームやるだけで凄いことなのだが、それを4試合も続けてしまえるのが、クリフ・リーだ。
クリフ・リーのゲーム・ログ
Cliff Lee Game Log | Mariners.com: Stats
クリフ・リーはけっこうヒットを打たれる。今日なども、完投とはいえ、相手チームのシカゴに9安打も打たれている。無死2、3塁なんていうイニングすらある。なのに、シカゴはソロホームランの1点どまり。それがクリフ・リーである。
何度も何度も見てきて、何度も何度も書いたことだが、クリフ・リーは四球による無駄なランナーを出さないし、出したランナーをホームに帰さない。そして「ここで三振が欲しい」という場面では、ずばぁああああっと、目の覚めるような3球三振がとれてしまう。
こんな投手を見ていると、ある意味しかたないホームランやヒットによるランナーより、バッテリー(あるいは投手)が防ぐことのできる四球によるランナーのほうがずっとやっかいだし、失点の原因になりやすい、という当たり前のことを痛感するし、四球がゲームに与えるダメージの重さがよくわかる。
守備時間を長くしやすい四球乱発は野手の疲労をまねくために、打撃、ラン・サポートにも大きな影響がある、ということもある。
SO/BB(キャリア)
クリフ・リーは44位。現役投手第1位はダン・ヘイレン。
Career Leaders & Records for Strikeouts / Base On Balls - Baseball-Reference.com
SO/BB(シングルシーズン)
1位は、サイ・ヤング賞2回のブレット・セイバーヘイゲンで、11.0000。ところが今シーズンのクリフ・リーは、なんと19.0000。もしもこのレベルでシーズンが終われば、とてつもない記録が出る。
ちなみに大投手ロイ・ハラデイはトロント在籍時代に3回、シングルシーズンのSO/BBトップに輝いていて、ナ・リーグに移籍した今年も、ナ・リーグトップを走っている。
Single-Season Leaders & Records for Strikeouts / Base On Balls - Baseball-Reference.com
SO/BB 19.0000。本当に素晴らしい数字だ。
これは今シーズン、クリフ・リーが投球術において、あの大投手ロイ・ハラデイと肩を並べるシーズンになることだろう。
今日クリフ・リーが投げたのは115球だが、そのうち、何球がストライクだったか。
90球。
そう。90球である。
ストライク率にすると、78.3%。もう、べらぼうに高いとか、そういう言葉すら追いつかない。ちょっと普通では考えられないくらいに、馬鹿みたいに、高い。
6月7日の登板のときにも、
「クリフ・リーが投げた107球のうち、84球もの投球がストライクだったことには驚かされた。」
と書いたわけだが、そのときのストライク率は78.5%で、今日6月23日とほとんど同じストライク率である。要は、相手がどこだろうと、まったくピッチング・スタイルが変わらない、それが今シーズンのクリフ・リーだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月7日、クリフ・リー、シアトルが苦手とするアーリントンのテキサス戦で貫禄の107球無四球完投、4勝目。フィギンズの打順降格で、次に着手すべきなのは「監督ワカマツの解雇」
6回表1死1、2塁
デレク・リー三球三振
初球 インハイのカットボール
2球目 インコース低め一杯に決まるカットボール
3球目 ほぼ真ん中のストレート(空振り)
6回表2死1、2塁
ネイディ三球三振
初球 インコース ハーフハイトのカットボール
2球目 インコースのストレート
3球目 高め一杯のゾーン内にストンと落ちるスローカーブ
7回表1死2、3塁
カストロ三球三振
初球
真ん中低めのチェンジアップ
2球目
高め一杯のカットボール
3球目
外から入ってくるカーブ
(見逃し三振)
つい先日の記事で(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ))、ア・リーグ東地区の投手が、「ストレートを多用するかわりにカットボールを多投する」というピッチングスタイルを持つ、ということを書いた。
今日ランナーのたまったシチュエーションで3人のバッターを三球三振になで切りにしてみせたクリフ・リーのピッチングは、ちょっと見ると、まさに「東海岸風カットボール ピッチング」にみえる。
クリフ・リー2010年スタイルの要点1
〜カットボールでカウントを作るという戦略
クリフ・リーが長く所属していたクリーブランド・インディアンズは中地区のチームであって東地区ではない。だが、オハイオ州自体ほとんどアメリカの北東のはずれといってもいいくらいの位置にある州なわけで、インディアンズと東地区各チームとは非常に近いロケーションにある。
では、その地理的に近い意味もあって、クリーブランドは先発投手が非常にカットボールを多用する「東海岸風のチーム」で、それでクリフ・リーもカットボールを多用する、という仮説が成り立つのだろうか?
答えは「 NO 」だ。
クリフ・リーがクリーブランドにいた時代の、クリーブランドの先発投手全体の「カットボール率」を見てみると、その数字はかなり低い。クリーブランドはカットボールを多用するチームカラーではなかったのである。
American League Teams » 2008 » Starters » Pitch Type Statistics | FanGraphs Baseball
チームを見るのではなく、クリフ・リー自身のピッチタイプ、つまり、ゲームで投げた球種の割合を年度別に見てみると、非常に面白いことがわかる。
クリフ・リーがカットボールを多用しだしたのは、フィラデルフィアに移籍して以降、つまり長年在籍したクリーブランドを出た以降のことで、さらにシアトルに移籍してからは、まるでトロント、ヤンキース、タンパベイといったア・リーグ東地区の投手たちのように「ますますカットボールの割合が増えている」のだ。
つまりクリフ・リーがピッチングのひとつの柱になるボールとしてカットボールを多用しだしたのは、ある意味、シアトルに来てから、なのだ
シアトル移籍以降のクリフ・リーのカットボール率はクリーブランド時代の3倍以上に跳ね上がっている。
Cliff Lee » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball
シーズン別 クリフ・リーのカットボールの割合
2004 5.2(%)
2005 2.8
2006 6.3
2007 4.9
2008 6.2 この年までクリーブランド
2009 12.4 フィラデルフィア移籍
2010 17.1 シアトル移籍
クリフ・リー2010年スタイルの要点2
〜0-2カウントから1球遊んで、それから勝負、などという回りくどいことをせず、打者に考える暇を与えない投球テンポの早さ。
クリフ・リーは上に挙げた3人に対して、0-2と、カウントを追い込んでから、怖がらずに変化球をストライクゾーンに投げ込んでいる。使われるのは、高い軌道を描いてボールから大きく曲がってストライクになるカーブなどだ。
今シーズン絶好調のジェイソン・バルガスも、もともとチェンジアップを決め球にしているピッチャーだが、今シーズンに限っていえばカットボールをけっこう多めに使いだしているらしい。
そのバルガス、なんでも、クリフ・リーに「カットボールを使うピッチングの要点について質問した」らしい。
で、クリフ・リーがバルガスに答えた「ピッチングの要点」というのは、カットボールそのものの握りだの、使うカウントだのという話ではなくて、「ピッチングのテンポを早めることの大事さ」を強調したらしい。
クリフ・リーいわく、「打者に考える暇など与えず、ポンポンとテンポよく投げろ」と、そういうようなことを、クリフ・リーはバルガスにアドバイスしているらしいのだ。
正直、投手コーチのリック・アデアより、クリフ・リーのほうが、「投手コーチとして有能」なんじゃないか、という気がしてきた
鳥肌モノの9イニングだった。
Chicago Cubs at Seattle Mariners - June 23, 2010 | MLB.com Gameday
6月に入って5回目の登板だったが、これで4試合連続の無四球試合。4試合34イニングを投げて、ただのひとつも四球も出していない。クリフ・リーを見慣れてしまうと、あたかも無四球試合が簡単であるかのような錯覚に陥りそうになる。もちろんそれは大きな勘違いで、1ゲームやるだけで凄いことなのだが、それを4試合も続けてしまえるのが、クリフ・リーだ。
クリフ・リーのゲーム・ログ
Cliff Lee Game Log | Mariners.com: Stats
クリフ・リーはけっこうヒットを打たれる。今日なども、完投とはいえ、相手チームのシカゴに9安打も打たれている。無死2、3塁なんていうイニングすらある。なのに、シカゴはソロホームランの1点どまり。それがクリフ・リーである。
何度も何度も見てきて、何度も何度も書いたことだが、クリフ・リーは四球による無駄なランナーを出さないし、出したランナーをホームに帰さない。そして「ここで三振が欲しい」という場面では、ずばぁああああっと、目の覚めるような3球三振がとれてしまう。
こんな投手を見ていると、ある意味しかたないホームランやヒットによるランナーより、バッテリー(あるいは投手)が防ぐことのできる四球によるランナーのほうがずっとやっかいだし、失点の原因になりやすい、という当たり前のことを痛感するし、四球がゲームに与えるダメージの重さがよくわかる。
守備時間を長くしやすい四球乱発は野手の疲労をまねくために、打撃、ラン・サポートにも大きな影響がある、ということもある。
SO/BB(キャリア)
クリフ・リーは44位。現役投手第1位はダン・ヘイレン。
Career Leaders & Records for Strikeouts / Base On Balls - Baseball-Reference.com
SO/BB(シングルシーズン)
1位は、サイ・ヤング賞2回のブレット・セイバーヘイゲンで、11.0000。ところが今シーズンのクリフ・リーは、なんと19.0000。もしもこのレベルでシーズンが終われば、とてつもない記録が出る。
ちなみに大投手ロイ・ハラデイはトロント在籍時代に3回、シングルシーズンのSO/BBトップに輝いていて、ナ・リーグに移籍した今年も、ナ・リーグトップを走っている。
Single-Season Leaders & Records for Strikeouts / Base On Balls - Baseball-Reference.com
SO/BB 19.0000。本当に素晴らしい数字だ。
これは今シーズン、クリフ・リーが投球術において、あの大投手ロイ・ハラデイと肩を並べるシーズンになることだろう。
今日クリフ・リーが投げたのは115球だが、そのうち、何球がストライクだったか。
90球。
そう。90球である。
ストライク率にすると、78.3%。もう、べらぼうに高いとか、そういう言葉すら追いつかない。ちょっと普通では考えられないくらいに、馬鹿みたいに、高い。
6月7日の登板のときにも、
「クリフ・リーが投げた107球のうち、84球もの投球がストライクだったことには驚かされた。」
と書いたわけだが、そのときのストライク率は78.5%で、今日6月23日とほとんど同じストライク率である。要は、相手がどこだろうと、まったくピッチング・スタイルが変わらない、それが今シーズンのクリフ・リーだ。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月7日、クリフ・リー、シアトルが苦手とするアーリントンのテキサス戦で貫禄の107球無四球完投、4勝目。フィギンズの打順降格で、次に着手すべきなのは「監督ワカマツの解雇」
6回表1死1、2塁
デレク・リー三球三振
初球 インハイのカットボール
2球目 インコース低め一杯に決まるカットボール
3球目 ほぼ真ん中のストレート(空振り)
6回表2死1、2塁
ネイディ三球三振
初球 インコース ハーフハイトのカットボール
2球目 インコースのストレート
3球目 高め一杯のゾーン内にストンと落ちるスローカーブ
7回表1死2、3塁
カストロ三球三振
初球
真ん中低めのチェンジアップ
2球目
高め一杯のカットボール
3球目
外から入ってくるカーブ
(見逃し三振)
つい先日の記事で(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年6月13日、「メジャーで最もストレートばかり投げる」シアトルのリリーフ陣。なんと「4球のうち、3球がストレート」。(ア・リーグ各地区ごとのピッチング・スタイルの差異についてのメモ))、ア・リーグ東地区の投手が、「ストレートを多用するかわりにカットボールを多投する」というピッチングスタイルを持つ、ということを書いた。
今日ランナーのたまったシチュエーションで3人のバッターを三球三振になで切りにしてみせたクリフ・リーのピッチングは、ちょっと見ると、まさに「東海岸風カットボール ピッチング」にみえる。
クリフ・リー2010年スタイルの要点1
〜カットボールでカウントを作るという戦略
クリフ・リーが長く所属していたクリーブランド・インディアンズは中地区のチームであって東地区ではない。だが、オハイオ州自体ほとんどアメリカの北東のはずれといってもいいくらいの位置にある州なわけで、インディアンズと東地区各チームとは非常に近いロケーションにある。
では、その地理的に近い意味もあって、クリーブランドは先発投手が非常にカットボールを多用する「東海岸風のチーム」で、それでクリフ・リーもカットボールを多用する、という仮説が成り立つのだろうか?
答えは「 NO 」だ。
クリフ・リーがクリーブランドにいた時代の、クリーブランドの先発投手全体の「カットボール率」を見てみると、その数字はかなり低い。クリーブランドはカットボールを多用するチームカラーではなかったのである。
American League Teams » 2008 » Starters » Pitch Type Statistics | FanGraphs Baseball
チームを見るのではなく、クリフ・リー自身のピッチタイプ、つまり、ゲームで投げた球種の割合を年度別に見てみると、非常に面白いことがわかる。
クリフ・リーがカットボールを多用しだしたのは、フィラデルフィアに移籍して以降、つまり長年在籍したクリーブランドを出た以降のことで、さらにシアトルに移籍してからは、まるでトロント、ヤンキース、タンパベイといったア・リーグ東地区の投手たちのように「ますますカットボールの割合が増えている」のだ。
つまりクリフ・リーがピッチングのひとつの柱になるボールとしてカットボールを多用しだしたのは、ある意味、シアトルに来てから、なのだ
シアトル移籍以降のクリフ・リーのカットボール率はクリーブランド時代の3倍以上に跳ね上がっている。
Cliff Lee » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball
シーズン別 クリフ・リーのカットボールの割合
2004 5.2(%)
2005 2.8
2006 6.3
2007 4.9
2008 6.2 この年までクリーブランド
2009 12.4 フィラデルフィア移籍
2010 17.1 シアトル移籍
クリフ・リー2010年スタイルの要点2
〜0-2カウントから1球遊んで、それから勝負、などという回りくどいことをせず、打者に考える暇を与えない投球テンポの早さ。
クリフ・リーは上に挙げた3人に対して、0-2と、カウントを追い込んでから、怖がらずに変化球をストライクゾーンに投げ込んでいる。使われるのは、高い軌道を描いてボールから大きく曲がってストライクになるカーブなどだ。
今シーズン絶好調のジェイソン・バルガスも、もともとチェンジアップを決め球にしているピッチャーだが、今シーズンに限っていえばカットボールをけっこう多めに使いだしているらしい。
そのバルガス、なんでも、クリフ・リーに「カットボールを使うピッチングの要点について質問した」らしい。
で、クリフ・リーがバルガスに答えた「ピッチングの要点」というのは、カットボールそのものの握りだの、使うカウントだのという話ではなくて、「ピッチングのテンポを早めることの大事さ」を強調したらしい。
クリフ・リーいわく、「打者に考える暇など与えず、ポンポンとテンポよく投げろ」と、そういうようなことを、クリフ・リーはバルガスにアドバイスしているらしいのだ。
正直、投手コーチのリック・アデアより、クリフ・リーのほうが、「投手コーチとして有能」なんじゃないか、という気がしてきた
damejima at 13:56
June 14, 2010
6月13日現在でシアトルの防御率は4.14で、ア・リーグ5位と、まぁ、なんとかみられる数字にはなってはいるが、それでも「打たれまくっている」とかなんとか、ケチをつけたがる人がいる。
先発投手 3.85 リーグ3位
リリーフ投手 4.82 ワースト2位
数字で明らかなように、打たれすぎているのは主にリリーフ陣であって先発投手たちではないし、さらに言えば、先発投手の中でも打たれているのはローランドスミスとかイアン・スネルであって、他の投手たちはそれぞれの実力相応の素晴らしい数字を残している。
こうした、いい投手とダメな投手でギャップの大きい投手陣、という構図はヘルナンデス、ウオッシュバーン、ベダードの3本柱の頑張りだけで勝ちを拾い続けた2009年とまるで変わってない。また、4番手投手、5番手投手でチームの借金を増やし続けるという悪い構図も、まったく代わり映えしない。
その打たれまくりのシアトルのリリーフ陣だが、投球の74.3%がストレートだというデータがある。なんと4球に3球ストレートを投げているわけだ。
もちろんデータなど見なくても、ストレートを投げる投手ばかり獲りたがるシアトルの歴史的なアホさ加減は十分知っているファンはたくさんいるわけだが、いくら速球投手大好き球団といったって、4球に3球の割合でストレートというのはいくらなんでも配球として多すぎると思うのは、ブログ主だけだろうか。
ちなみに、ストレートばかり投げたがるシアトル投手陣とはいえ、先発投手陣はここまでストレートばかり投げているわけではない。
チーム別スターターの球種
American League Teams » 2010 » Starters » Pitch Type Statistics | FanGraphs Baseball
チーム別リリーバーの球種
American League Teams » 2010 » Relievers » Pitch Type Statistics | FanGraphs Baseball
こういうことを言うと必ず「リリーフ投手の登板場面は走者のいる場面で投げることも多い。だから変化球は投げづらい」だの、なんだの、なんのことやらさっぱりわからない説明をする人が出てきそうなわけだが、数字をみてもらえばわかることだが、「リリーフ投手がこれほどストレートばっかり投げる球団」など、メジャーのどこにも見あたらない。
全30球団で、シアトルのリリーフが最も(というか、異常に)ストレートを投げる率が高いのである。
リリーフ投手がストレートを投げる率の低いベスト3
レイズ 50.2%
ブルージェイス 57.5%
ヤンキース 58.5%
ホワイトソックス 59.0%
エンジェルス 57.5%
リリーフ投手ストレート率の高いベスト3
マリナーズ 74.3%
インディアンス 67.9%
ロイヤルズ 66.8%
レンジャーズ 67.9%
レッドソックス 65.9%
「カットボール多用」のレイズおよび東地区
レイズのリリーバーは、他のチームにはない特徴がある。ストレートのかわりにカットボールを多用するといってもいいほどの極端なカットボール多用である。配球の24.8%がカットボールだから、4球投げたら「2球はストレート、1球がカットボール、残り1球が別の球」という配球ということになる。4球のうち3球がストレートのシアトルと比べると、その違いの大きさがわかる。
「カットボール多用」という傾向は、レイズほど極端ではないにしても、ストレートをあまり使わないチーム2位のブルージェイズ(11.9%)、3位のヤンキース(13.1%)にも同じようにある。つまり、いわば「カットボール多用は、ア・リーグ東地区のリリーバー共通のお約束配球」のようになっている。
「スライダー多用」のツインズ
レイズと東地区にカットボールをやたらと多用する傾向があるのと同じように、中地区のツインズには「スライダー多用」という特徴がある。
ツインズ以外のア・リーグ全球団が13〜16%におさまっているのに対し、ツインズだけが26.9%と、スライダーの割合がほぼ2倍になっている。多少ツインズに近い「スライダー多用リリーフ陣」は、他にオリオールズ(19.1%)くらいしかない。
西地区では、カットボールの多用される東地区と違って、チームごとにリリーバーの配球傾向が多少違う。
「カーブ多用」のエンジェルス ERA4.79
今シーズンは投手陣に難があるといわれていたエンジェルスだが、ストレート(59.2%)の比率が西地区で最も低い一方で、カーブ(16.3%)を多投してくる、という特徴がある。カーブ16.3%という数値はア・リーグでは飛びぬけて高い。また、メジャー30球団をみても、ナ・リーグに12%台のカージナルスやブレーブスがあるだけ。ア・リーグのチームはそもそも2桁パーセントにいかない球団がほとんどだ。
またカットボール9.3%で、西地区のリリーフで最もカットボールを使うのがこのエンジェルスだ。
本来なら、防御率を見るかぎりでは、こうした極端な配球が功を奏しているとは言えない・・・・・と、書きたいところだが、残念なことに、シアトルの貧打線には、ソーンダース、アルフォンゾ、不調時のグティエレス、ロペスなど、「縦に割れる外のカーブを非常に苦手にしている打者」が多く、ことマリナーズ戦に関してだけは「カーブ多用」が効果をあげているといわざるをえない。
エンジェルスにやや近い傾向のレンジャーズ ERA3.72
今シーズンのア・リーグ西地区で最もリリーフ陣が成功しているといえるレンジャーズの球種の傾向は比較的エンジェルスに近い。ストレート66.1%と、3球に2球がストレートで、残りがスライダー15.5、カーブ9.3などとなっている。
大きな特徴はないが、ややカーブの割合が多めな点に、エンジェルスに近いイメージがある。
「平均化して特徴を消している」アスレチックス ERA4.23
ストレート64.1、スライダー15.3、カットボール7.5、カーブ4.4、チェンジアップ8.7。どの球種の数字を見ても、リーグ平均に近い。打者に狙いを絞り込ませないように、あえて使う球種に際立った特徴をもたせないようにしているような感じがする。他の球団にみられない特徴をもつエンジェルスとは、全く逆のイメージである。
そんな西地区の中でマリナーズのリリーフ投手がカーブを投げる割合は、わずか2.6%しかない。その一方で、4球に3球ストレートを投げてくるのがわかっているのだから、打者としてはヤマを張りやすいのは間違いないだろう。
いくらなんでも、これでは打たれる。
もちろん、ロスター枠に野手が多すぎる問題などから投手の疲労度が高いことか、コントロールの悪さからカウントを悪くして、しかたなくストレートばかり投げてストライクを稼ぎに行く、という場面も多々あったとか、さまざまな理由が考えられることだろう。いずれにしても理由はどうでもあれ、打者にストレートにヤマを張られて打たれることに変わりはない。
例えば、まるでスカウティングが頭に入ってないアルフォンゾあたりのキャッチャーが、インコースのストレートくらいにしか強味のないバッター(例えば松井)あたりと対戦しているときに、いくらリリーフ投手が変化球のコントロールに自信がないから、疲れているからといって「ストレートのサイン」ばかり出し続けているようでは、いくらやってもダメなのである。
シアトルのリリーフ投手の極端なストレート偏重配球が、コントロールに自信のない投手側からの要求なのか、それとも、これまで速球派投手ばかり獲得してきたフロントの責任なのか、投手コーチのリック・アデアの戦略なのか、キャッチャーのリードのせいなのか、ピンチの場面ではベンチから投手に配球サインを出す監督ワカマツのミスなのかは、いまのところわからない。
年度別にみると、こうした「リリーフ投手のストレート偏重」傾向が始まったのはなにも今年が初めてではない。2006年までのシアトルのリリーフは、むしろア・リーグで最もストレートを投げない球団のひとつだった。転機になったのは2007年。いきなり急激にストレート偏重配球になり、さらに監督・投手コーチが変わった2009年以降にさらに拍車がかかった。
リリーフ投手がストレートを投げる率の
低い順に数えたシアトルの順位と、リリーフ陣のERA
2005年 61.7%(3番目)3.60
2006年 61.5%(3番目)4.04
2007年 65.3%(12番目)4.06
2008年 63.9%(7番目)4.14
2009年 73.4%(12番目)3.83
2010年 74.3%(12番目)4.96
だが誰の責任であれ、
もういい加減に方針転換しないとダメだと思う。
先発投手 3.85 リーグ3位
リリーフ投手 4.82 ワースト2位
数字で明らかなように、打たれすぎているのは主にリリーフ陣であって先発投手たちではないし、さらに言えば、先発投手の中でも打たれているのはローランドスミスとかイアン・スネルであって、他の投手たちはそれぞれの実力相応の素晴らしい数字を残している。
こうした、いい投手とダメな投手でギャップの大きい投手陣、という構図はヘルナンデス、ウオッシュバーン、ベダードの3本柱の頑張りだけで勝ちを拾い続けた2009年とまるで変わってない。また、4番手投手、5番手投手でチームの借金を増やし続けるという悪い構図も、まったく代わり映えしない。
その打たれまくりのシアトルのリリーフ陣だが、投球の74.3%がストレートだというデータがある。なんと4球に3球ストレートを投げているわけだ。
もちろんデータなど見なくても、ストレートを投げる投手ばかり獲りたがるシアトルの歴史的なアホさ加減は十分知っているファンはたくさんいるわけだが、いくら速球投手大好き球団といったって、4球に3球の割合でストレートというのはいくらなんでも配球として多すぎると思うのは、ブログ主だけだろうか。
ちなみに、ストレートばかり投げたがるシアトル投手陣とはいえ、先発投手陣はここまでストレートばかり投げているわけではない。
チーム別スターターの球種
American League Teams » 2010 » Starters » Pitch Type Statistics | FanGraphs Baseball
チーム別リリーバーの球種
American League Teams » 2010 » Relievers » Pitch Type Statistics | FanGraphs Baseball
こういうことを言うと必ず「リリーフ投手の登板場面は走者のいる場面で投げることも多い。だから変化球は投げづらい」だの、なんだの、なんのことやらさっぱりわからない説明をする人が出てきそうなわけだが、数字をみてもらえばわかることだが、「リリーフ投手がこれほどストレートばっかり投げる球団」など、メジャーのどこにも見あたらない。
全30球団で、シアトルのリリーフが最も(というか、異常に)ストレートを投げる率が高いのである。
リリーフ投手がストレートを投げる率の低いベスト3
レイズ 50.2%
ブルージェイス 57.5%
ヤンキース 58.5%
ホワイトソックス 59.0%
エンジェルス 57.5%
リリーフ投手ストレート率の高いベスト3
マリナーズ 74.3%
インディアンス 67.9%
ロイヤルズ 66.8%
レンジャーズ 67.9%
レッドソックス 65.9%
「カットボール多用」のレイズおよび東地区
レイズのリリーバーは、他のチームにはない特徴がある。ストレートのかわりにカットボールを多用するといってもいいほどの極端なカットボール多用である。配球の24.8%がカットボールだから、4球投げたら「2球はストレート、1球がカットボール、残り1球が別の球」という配球ということになる。4球のうち3球がストレートのシアトルと比べると、その違いの大きさがわかる。
「カットボール多用」という傾向は、レイズほど極端ではないにしても、ストレートをあまり使わないチーム2位のブルージェイズ(11.9%)、3位のヤンキース(13.1%)にも同じようにある。つまり、いわば「カットボール多用は、ア・リーグ東地区のリリーバー共通のお約束配球」のようになっている。
「スライダー多用」のツインズ
レイズと東地区にカットボールをやたらと多用する傾向があるのと同じように、中地区のツインズには「スライダー多用」という特徴がある。
ツインズ以外のア・リーグ全球団が13〜16%におさまっているのに対し、ツインズだけが26.9%と、スライダーの割合がほぼ2倍になっている。多少ツインズに近い「スライダー多用リリーフ陣」は、他にオリオールズ(19.1%)くらいしかない。
西地区では、カットボールの多用される東地区と違って、チームごとにリリーバーの配球傾向が多少違う。
「カーブ多用」のエンジェルス ERA4.79
今シーズンは投手陣に難があるといわれていたエンジェルスだが、ストレート(59.2%)の比率が西地区で最も低い一方で、カーブ(16.3%)を多投してくる、という特徴がある。カーブ16.3%という数値はア・リーグでは飛びぬけて高い。また、メジャー30球団をみても、ナ・リーグに12%台のカージナルスやブレーブスがあるだけ。ア・リーグのチームはそもそも2桁パーセントにいかない球団がほとんどだ。
またカットボール9.3%で、西地区のリリーフで最もカットボールを使うのがこのエンジェルスだ。
本来なら、防御率を見るかぎりでは、こうした極端な配球が功を奏しているとは言えない・・・・・と、書きたいところだが、残念なことに、シアトルの貧打線には、ソーンダース、アルフォンゾ、不調時のグティエレス、ロペスなど、「縦に割れる外のカーブを非常に苦手にしている打者」が多く、ことマリナーズ戦に関してだけは「カーブ多用」が効果をあげているといわざるをえない。
エンジェルスにやや近い傾向のレンジャーズ ERA3.72
今シーズンのア・リーグ西地区で最もリリーフ陣が成功しているといえるレンジャーズの球種の傾向は比較的エンジェルスに近い。ストレート66.1%と、3球に2球がストレートで、残りがスライダー15.5、カーブ9.3などとなっている。
大きな特徴はないが、ややカーブの割合が多めな点に、エンジェルスに近いイメージがある。
「平均化して特徴を消している」アスレチックス ERA4.23
ストレート64.1、スライダー15.3、カットボール7.5、カーブ4.4、チェンジアップ8.7。どの球種の数字を見ても、リーグ平均に近い。打者に狙いを絞り込ませないように、あえて使う球種に際立った特徴をもたせないようにしているような感じがする。他の球団にみられない特徴をもつエンジェルスとは、全く逆のイメージである。
そんな西地区の中でマリナーズのリリーフ投手がカーブを投げる割合は、わずか2.6%しかない。その一方で、4球に3球ストレートを投げてくるのがわかっているのだから、打者としてはヤマを張りやすいのは間違いないだろう。
いくらなんでも、これでは打たれる。
もちろん、ロスター枠に野手が多すぎる問題などから投手の疲労度が高いことか、コントロールの悪さからカウントを悪くして、しかたなくストレートばかり投げてストライクを稼ぎに行く、という場面も多々あったとか、さまざまな理由が考えられることだろう。いずれにしても理由はどうでもあれ、打者にストレートにヤマを張られて打たれることに変わりはない。
例えば、まるでスカウティングが頭に入ってないアルフォンゾあたりのキャッチャーが、インコースのストレートくらいにしか強味のないバッター(例えば松井)あたりと対戦しているときに、いくらリリーフ投手が変化球のコントロールに自信がないから、疲れているからといって「ストレートのサイン」ばかり出し続けているようでは、いくらやってもダメなのである。
シアトルのリリーフ投手の極端なストレート偏重配球が、コントロールに自信のない投手側からの要求なのか、それとも、これまで速球派投手ばかり獲得してきたフロントの責任なのか、投手コーチのリック・アデアの戦略なのか、キャッチャーのリードのせいなのか、ピンチの場面ではベンチから投手に配球サインを出す監督ワカマツのミスなのかは、いまのところわからない。
年度別にみると、こうした「リリーフ投手のストレート偏重」傾向が始まったのはなにも今年が初めてではない。2006年までのシアトルのリリーフは、むしろア・リーグで最もストレートを投げない球団のひとつだった。転機になったのは2007年。いきなり急激にストレート偏重配球になり、さらに監督・投手コーチが変わった2009年以降にさらに拍車がかかった。
リリーフ投手がストレートを投げる率の
低い順に数えたシアトルの順位と、リリーフ陣のERA
2005年 61.7%(3番目)3.60
2006年 61.5%(3番目)4.04
2007年 65.3%(12番目)4.06
2008年 63.9%(7番目)4.14
2009年 73.4%(12番目)3.83
2010年 74.3%(12番目)4.96
だが誰の責任であれ、
もういい加減に方針転換しないとダメだと思う。
damejima at 18:11