MLBのストライクゾーンの揺らぎ

2018年4月12日、安易に「数字」を見て、何かを信じ込むことの怖さ。 〜 2010年代のストライクゾーン拡大と、三振率、四球率の変化を例に
2018年4月4日、球審Lance Barksdaleの「誤判定」で見逃し三振「させられた」イチローと、2010年代のストライクゾーンの変化。
2014年11月28日、「低めのゾーン拡張」を明確に示すHardball Timesのデータによって、より補強された「ルールブックどおりのストライクゾーン化、アンパイアの判定精度向上」説。
2014年7月7日、球審Marty Fosterによるアウトコース低めの「誤審」による見逃し三振で、火がついたイチロー。ファイヤーな7月の予感。
2013年3月3日、WBCファースト・ラウンドにみる「MLB球審のストライクゾーン」とゲーム内容との関係 (2)ゲーム編
2013年3月3日、WBCファースト・ラウンドにみる「MLB球審のストライクゾーン」とゲーム内容との関係 (1)基礎知識編
2012年4月22日、球審Marvin Hudsonによる9回裏イチロー見逃し三振判定を異常と断言する「3通りの理由」。
2011年11月5日、パ・リーグCS Game3、10回裏の長谷川選手「4球目の判定」について、拾いモノの写真をしつこく眺めてみた。
2011年8月4日、デトロイトにトレード後、初登板のダグ・フィスターは、7回QSで4勝目。水面下で進む「ストライクゾーンの密かな改変」は、ホームラン大量生産時代への回帰をはかる懐古主義の流れかもしれない。
2011年7月11日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (5)カウント3-0ではゾーンを広げて四球を避け、カウント0-2ではゾーンを狭めて三振を避ける。あらためて明らかになったアンパイアの「故意にゲームをつくる行為」。
2011年6月14日、「高めをとらない」球審ジョー・ウエストへの対策が遅れたシアトルバッテリー。
2011年6月5日、今日も今日とてイチローと球審との戦い。従来と立ち位置を変え、バッターとキャッチャーの間の隙間「スロット」から判定する今の球審の「アウトコース判定の歪み」。
2011年5月28日、両軍先発に合計10個の四球を記録させた球審Todd Tichenorの、「あの記録」。
2010年11月8日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (4)特徴ある4人のアンパイアのストライクゾーンをグラフ化してみる(付録テンプレつき)
2010年11月6日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (3)アンパイアの個人差をグラフ化してみる
2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。
2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (1)「ステロイド時代のストライクゾーン」と、「イチロー時代のストライクゾーン」の違い。

April 12, 2018

2010年代」を最も特徴づけるファクターのひとつが、「三振の急増」であることは、これまでも何度も書いている。
参考記事:2017年2月4日、「三振の世紀」到来か。2010年代MLBの意味するもの。 | Damejima's HARDBALL

2018年4月11日、意図的に「ホームランの世紀」をつくりだそうとした2010年代MLB。実際に起きたのは、「三振とホームランの世紀にさからったチーム」によるワールドシリーズ制覇。 | Damejima's HARDBALL


2010年代に三振急増をもたらした要因のひとつは、明らかに「ストライクゾーンの拡張」だが、それをデータとして明示する記事が、The Hardball Timesにある。
The 2017 Strike Zone | The Hardball Times (an article written by Jon Roegele, The Hardball Times)

詳しいことは記事を読んでもらえばいいが、この記事、残念なことにデータがグラフ化されていないために、「要素それぞれの関係」が把握しづらい。

なので、記事中にある「ストライクゾーンの拡大」「三振率」「四球率」の変化を「無理矢理に、ひとつのグラフに表示してみた」ところ、以下のようになった。

2010年代のストライクゾーン、三振率、四球率


この「図」をみたら、誰もが「ストライクゾーンの拡大は、三振率と四球率の変動に非常に大きな影響を与えている」などと思いこむことだろう。

だが、実は上のグラフには「ゴマカシ」がある。
以下にその「ゴマカシ手法」を説明して、「安易に数字を見ることの怖さ」の一例としようと思う。


わかる人はとっくに気づいているだろうが、上の折れ線グラフは「縦軸のつくり」が根本的におかしい。というのは、上の3本のグラフは、それぞれの縦軸の「数値の刻み」がまるで異なるデータなのだ。
上の「ゴマカシのグラフ」では、縦軸の数値の刻みを無理矢理に揃えることによって、3つのデータ」を無理矢理にひとつにまとめて図示し、「3つの数値があたかも常に連動して変化し、非常に深い関係にある」かのように、「みせかけている」のである。


ここまで書いてもまだわからない人がいることだろう。
もっと目にみえる形で説明してみる。


以下に、縦軸を共通の数値の刻みにして表現した、「ゴマカシのないグラフ」を図示した。赤い線が「三振率」、緑の線が「四球率」である。
わかるひとにはすぐ意味がわかるはずだ。三振率と四球率は、どちらも縦軸は「パーセント」だが、「縦軸の刻み」がまったく違うため、本当は「変化のレンジ」がまったく異なっていたのである。

縦軸を共通にした三振率と四球率のグラフ


図からわかることを端的に表現すれば
三振率のほうが、四球率よりはるかに鋭敏に「ストライクゾーンの変化」に反応している
のである。

同じことを、こんどは「数字」で表現しなおしてみる。
三振率の変化は「平均19.81、標準偏差1.23」、四球率の変化は「平均8.16、標準偏差0.42」であり(標準偏差は不偏分散からみたもの)、三振率の「分散」のほうが、四球率の「分散」よりずっと大きい。
平易な言葉でいいかえると、三振率の変化の「バラつき」のほうが四球率よりはるかに大きいのである。
三振率が±4%の範囲で「大きく変化している」のに対して、四球率の変化は±1%と「分散の1倍の範囲内での小規模な変化」にとどまっている。このことは、「ストライクゾーンの変化に対する三振率の変化」が有意である可能性があるのに対して、「ストライクゾーンの変化に対する四球率の変化」はむしろ単なる誤差でしかない可能性が高いことを意味する。



このブログでは、これまでずっと、
四球という現象の出現度は、他のプレー要素によってほとんど左右されることはない。
むしろ四球の出現度は、チームの強弱に関係なく、あらゆるチームにおいてほとんど一定であり、四球という現象があたかもチームの優劣を左右するかのような発想には、実はまったく意味がない。
出塁率にしても、その増減を決定づけているファクターは、そのほぼすべてが『打率』であり、四球数ではない」
という考え方を貫いてきた。

2015年2月に書いたように、たとえ「100年くらいの長期」でみても、四球というファクターは、得点や出塁率はもちろん、「他のあらゆるゲームファクターの増減とはまったく無縁」の「独立したゲーム要素」である可能性が高いのである。

今回の「2010年代のストライクゾーンの変化」による三振や四球への影響をみても、「ストライクゾーンの変化によって、三振率も四球率も、同じ割合で、平行して変化する」などと考えることが馬鹿げた錯覚に過ぎないことがわかる。

記事例:
2011年2月24日、四球数をヒット数に換算する発想はベースボールにとって意味が無い、と考えるいくつかの理由。 | Damejima's HARDBALL

2012年4月8日、チームの「総得点」と「総四球数」の相関係数を調べた程度で、「四球は得点との相関が強い」とか断言する馬鹿げた笑い話。 | Damejima's HARDBALL

2012年11月11日、いまだに「チーム総四球数とチーム総得点の間には、何の関係もない」ことの意味が理解できず、「すでに自分が死んでいること」に気づかないない人がいる、らしい。 | Damejima's HARDBALL

2013年10月9日、2013ポストシーズンにおける「待球型チーム vs 積極スイングチーム」の勝負のゆくえ。 | Damejima's HARDBALL

2015年2月8日、「MLBの得点力低下をもたらした四球・長打の過大評価」原論にむけて(3)100年もの長期でみても「四球数」は、「得点」や「出塁率」はもちろん、他のゲームファクターの増減と無縁の存在である可能性は高い。 | Damejima's HARDBALL


だが、もしこのデータを、ごまかしのないグラフではなく、「数字だけ」で見せられ、「ほら、な。ストライクゾーンが変化すると、三振も四球もこんなに変化するんだぜ?」などと主張する記事なり、ネットの書き込みなりを見たとしたら、あなたは即座にその「作為」「デタラメ」「ウソ」を見抜くことができるだろうか? というのが、この記事の本当の主旨である。

ブログ主が思うに、大半の人は「信じ込んでしまう」のではないか。

そして「ストライクゾーンが変化すんだからよぉ、三振も四球も大きく変化するに決まってんだろ!」などと信じ込む安易な人間に限って、他人に議論をふっかけたがる。本当に始末が悪いのである。

damejima at 19:00

April 05, 2018



2018年4月4日は、AT&TでのSFG戦だが、第一打席で球審のおかしな判定のせいでイチローが見逃し三振「させられた」のが非常にアタマにきた。
データ集めと画像編集がめんどくさいせいせいで(笑)、最近アンパイアとかストライクゾーンについて記事を書かなくなっていたことも反省としてあるし、「この数年のアンパイアの新しい傾向」にも触れながら怒りの記事を書いてみた。


このブログでは「MLB独特のストライクゾーン」について何度も書いてきた。その主なものを箇条書きにしてみると、こうなる。
・右バッターと左バッターでは、ゾーンがかなり異なる
左バッターのゾーンは、「アウトコース側」に大きくズレている。

参考記事:
2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。 | Damejima's HARDBALL

2007年時点のゾーン
2007年時点の右打者左打者のゾーンの違い


しかし、これからMLBを見ようとする人はぜひ知っておくべきことでもあるが、「2010年代以降のストライクゾーン」は、かつての「アンパイアの個人差が許容されていたゾーン」とはまったく違うものになりつつある。
The 2017 Strike Zone | The Hardball Times via Jon Roegele, Hardball Times

2007年と2017年のストライクゾーンの違い左バッターに関する2007年と2017年のゾーンの違い


上の図で一目瞭然だが、かつてあれだけ広かった「左バッターのアウトコースのゾーン」がほぼ無くなっているかわり、今では「低めを非常に広くとるようになった」のである。(もちろん、このことは、低めの球をすくい上げるようにしてフライを打つ近年のMLBバッターの傾向とも、深く関係している)

そのベクトルを簡単にいえば、
2010年代以降のMLBのストライクゾーンは
意図的に「ルールブック通り」に変えられてきている
ということになる。



「MLBのストライクゾーンがルールブック通りのものになっていく傾向」の一方で、「アンパイアの判定の正確さ」も急激に変化しはじめている。
詳しくは別の機会に書くが、簡単にいえば、2010年代に入ってアンパイアのストライク判定は「どんどん正確になってきている」のである。

これには、MLBが「判定精度は多少悪いが個性の強いヴェテランアンパイアを引退させ、ルールブック通りに判定したがるせいで個性はないが判定精度の高い新人に入れ替えはじめた」ことも関係している。(これは別の言い方をすれば、2010年代に入ってストライクゾーンがリニュアルされるのと同時に、アンパイアの顔ぶれも、どんどん個人差のない、単調で機械的なものに「リニュアル」されつつある、という意味でもある)

参考記事:Umpires Are Less Blind Than They Used To Be | FiveThirtyEight
2010年代のアンパイアの判定の正確さの変化

こうした最近のMLBのストライクゾーンの傾向とアンパイアの変化をまずアタマに入れ、その上で、2018年4月4日のSEA対SFG戦でのLance Barksdaleのイチローの見逃し三振判定をみれば、その意味はわかると思う。


たしかにLance Barksdaleは、2010年代に求められはじめた「判定精度の高いアンパイア」のひとりで、年々精度の上がっているひとりではあるが、その一方、以下のサイトの2013年の判定例からわかるように、かつては「左打者のインハイをストライク判定したがる、奇妙なアンパイア」だった。

2013年のLance Barksdaleの判定傾向
2013_06_12_Lance_Barksdale.mia_mil.norm | Strike Zone Maps

もしMLBに「左バッターのインハイをストライク判定したがるアンパイア」がたくさんいるのなら、「MLBの判定傾向は左打者のインハイをストライク判定するのが普通なのだから、しかたがない」といえなくもないが、実際には、そんなアンパイアなどMLBにはほとんどいない。


で、あるならば、だ。

これだけMLBのストライクゾーンが「ルールブックどおり」になりつつあり、アンパイアの精度が飛躍的に上がってきていて、個人差も減って(というか、「減らされ」)きている2018年現在、MLBアンパイアの中でも指折りの判定の正確さのはずのLance Barksdaleのが、イチローに対する判定だけがこれほど酷いままでも許される理由は、どこにもない。
Lance Barksdaleが「かつての自分の判定の好みを、イチローにだけ押しつける」なんてことは、判定が画一化されつつある2018年となっては、もはやなんの意味もないのである。


あえて汚い言葉を使わせてもらうなら、
「特定の選手を差別して判定してんじゃねぇよ、クソ野郎。」
って、話になるのである。

damejima at 09:57

November 28, 2014

古参サイトのHardball Timesで、Jon Roegeleという人が今年10月に昨今の投高打低現象の原因を、「この数シーズン、ストライクゾーンが広がり続けていること」で説明する記事を書いている。

投高打低をどう理由づけするかは、人それぞれ異なる意見があるだろうけれど、このブログとしては、最近書いた記事の信憑性をより高めてくれた「最新ストライクゾーンデータ」を提供してくれた点を評価したい(笑)

The Strike Zone Expansion is Out of Control – The Hardball Times author:Jon Roegele

右バッターのストライクゾーン比較2009vs2014右バッターのストライクゾーン比較2009vs2014
左バッターのストライクゾーン比較2009vs2014左バッターのストライクゾーン比較2009vs2014


見てのとおり、「2009年と2014年のストライクゾーンの違い」で最大のポイントは、「低めの広さ」だ。(従来は広いのが当たり前だった左バッターのアウトコースが狭くなっていることにも驚いた)

もう少し具体的にいえば、「低めのゾーンが、ほぼルールブックどおりの広さに近づいた」ことが、近年のストライクゾーン拡張の最大のポイントといえる。
(よく「MLBのゾーンは日本より低い」とか無造作に書く人がいるが、過去のMLBの平均的なストライクゾーンがどういう形をしていたか、もういちどこのブログを読んで人生をやり直してほしい(笑) 参考ページ:カテゴリー:MLBのストライクゾーンの揺らぎ │ Damejima's HARDBALL


このブログでも2014年10月の記事で、最近の投高打低現象について、「アンパイアの若返りによる、判定の正確さの向上」という視点から若干の解説を試みて、アンパイアの正確さの向上が投高打低につながるというフロリダ大学のBrian M. Mills氏の論文も紹介した。
2014年10月31日、「MLBアンパイアの若返り傾向」と、「得点減少傾向」の関係をさぐる。 | Damejima's HARDBALL
「世代交代によるアンパイアの若返り」にどういう意味があるかというと、短くまとめるなら、「若いアンパイアほど、几帳面で、従順だ」ということだ。アメリカでもオトコは「草食男子化」しているわけだ(笑)
若いアンパイアは、データから推察する限り、「ルールブックどおりのストライクゾーンで判定したがる傾向」が非常に強い。彼らのゾーンに個性はないが、「正確に判定する能力」だけは、とてつもなく高い。
したがって、従来の個性的なMLBアンパイアたちが維持してきた 『ストライクゾーンの大きな個人差を許容する』というアンパイア文化は、いま大きく揺らぎつつあるわけで、アンパイアの世代交代の影響は近年、MLBのストライクゾーンに「従来にはありえなかった2つの傾向」を生み落とした可能性が高い。
1)ストライクゾーンが、より「ルールブックどおりのゾーン」に近いものに軌道修正された
2)ストライク・ボールがこれまで以上に正確に判定されている

結果だけみると、このブログも、Hardball Timesも、「ストライクゾーンがルールブックどおりのサイズに近づくことによって、投高打低現象が引き起こされている」可能性を指摘したわけだから、指摘の方向性そのものは似ている。

だが、残念ながらHardball Timesの記事には、「なぜストライクゾーンがルールブックに軌道修正されつつあるのか?」、「なぜルールブックどおりのゾーンだと投高打低になるのか?」について、解説も示唆もない。
Hardball Timesの記事はたぶん「広いゾーンは、打者に不利だ」程度の平凡な野球常識をベースに書いていると思われるが、「ゾーンが広がったこと、たったそれだけ」で投高打低のすべてを説明できるとは、到底思えない。

もっと簡単に言うと、ストライクゾーンさえ昔のように狭くすれば、再びバッター有利な時代が来るのか? 再び1990年代のようにホームランが急増し、得点も急増するのか?ということだ。
データ分析とスカウティングが全盛で、ステロイド禁止の今のMLBでは、「そんなこと、ありえない」と考えるのが妥当だし、当然だと思う。

「ストライクゾーンの拡張」は、投高打低を説明するファクターのひとつではあっても、すべてではない。もちろんこのブログでは、アンパイアのストライクゾーンだけが投高打低の理由だなどと考えたことは、一度もない。


かつて蔓延していた薬物不正を少しでも減らしていこうとするMLBの対策強化によって、あからさまなステロイド依存のホームラン量産ができにくくなったために、バッター、とりわけ低打率のスラッガー系打者は、打撃成績をキープするひとつの方法論として、「自分の狙いを極端なまでに絞りこむこと」を思いついた。

だが、これまでデータ分析に熱心でなかったチームも含め、MLB全体のデータ分析力が向上し続けていることによって、そうした「コースや球種に関する、打者の極端な絞りこみ」は、いとも簡単にスカウティングされてしまうようになってきている。
また打球コースの分析から、特にプルヒッターに対して極端な守備シフトをしくチームも増え、ヒット性の打球すらアウトにできてしまうようにもなってきた。


このブログでも、「狙いを絞りすぎのスラッガー」や、「得意なコースや球種が、あまりにもハッキリしすぎているバッター」について、何度となく書いてきた。
ジョシュ・ハミルトン。カーティス・グランダーソン、オースティン・ジャクソン。プリンス・フィルダー、BJアップトン、ケビン・ユーキリス(引退)。マニー・マチャド、ヤシエル・プイグ、サルバドール・ペレスなど。
彼らは、狙いを得意球種や得意コースに絞りこむことで打撃成績をキープしていると思われるタイプのバッターだが、彼らの「狙い」は、従来よりはるかに多くの投手、チームによって、より短期間で見抜かれるようになってきている。(だからこそブログ主は、彼らのようなバッターとの大型の長期契約に賛成しない)


投手が、スカウティングどおりに投げられない「コントロールの悪いパワーピッチャー」ばかりだった時代なら、引退したアダム・ダンが典型的だったように、投手のミスショットをひたすら「待って」フルスイングしていればよかった。
関連記事:2014年10月20日、やがて悲しきアダム・ダン。ポスト・ステロイド時代のホームランバッター評価の鍵は、やはり「打率」。 | Damejima's HARDBALL
彼らは、得意でない球は見向きもせず、ひたすら投手の甘いミスショットが来るのだけを待つ。たからこそ、見逃し傾向が非常に強く、打撃成績が四球と三振とホームランだけでできた「低打率のアダム・ダン型ホームランバッター」が量産された。(彼らの高出塁率で勘違いしている人間がほとんどなのだが、彼らの打撃は、けして効率的でも、「セイバーメトリクス的」でもない)

だが、日本人投手のように「コントロールがいい投手」が増え、その一方でストライクゾーンも広がるとなると、攻略方法がわかっている打者はスカウティングどおりの配球で簡単に封じ込められてしまう。
コントロールのいい日本人投手が近年のMLBで重宝される所以(ゆえん)である。(OPSのようなデタラメ指標と、四球の過大評価を、成績とサラリーの過大評価の「隠れ蓑」にしてきた「低打率のホームランバッター」が生きながらえられる時代はこうして終った)
投手としてパワーピッチに多少問題があっても、スカウティングとコントロールの良さの「合わせ技」でなんとか打者を料理できててしまうとしたら、「投手の時代」になるのは当然だ。

2012年10月6日、2012オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。 | Damejima's HARDBALL

2012年11月2日、2012オクトーバー・ブック 「スカウティング格差」が決め手だった2012ポストシーズン。グランダーソンをホームランバッターに押し上げた「極端なストレート狙い」が通用しなくなった理由。 | Damejima's HARDBALL

2012年11月6日、2012オクトーバー・ブック アウトコースのスカウティングで完璧に封じ込められたプリンス・フィルダー。キーワードは「バックドア」、「チェンジアップ」。 | Damejima's HARDBALL

2012年9月17日 アウトコースのスライダーで空振り三振するのがわかりきっているBJアップトンに、わざわざ真ん中の球を投げて3安打させるボストンの「甘さ」 | Damejima's HARDBALL

2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。 | Damejima's HARDBALL

2013年7月16日、ヤシエル・プイグは、これから経験するMLBの「スカウティング包囲網」をくぐりぬけられるか? | Damejima's HARDBALL

2013年7月5日、怖くないボルチモア打線 スカウティング教科書(1)マニー・マチャドには「アウトローを投げるな」 | Damejima's HARDBALL

2014年10月29日、2014オクトーバー・ブック 〜 ヴェネズエラの悪球打ち魔人サルバドール・ペレスにあえて「悪球勝負」を挑み、ワールドチャンピオンをもぎとったマディソン・"Mad Bum"・バムガーナーの宇宙レベルの「度胸」。 | Damejima's HARDBALL

damejima at 19:40

July 08, 2014

2014年7月5日 ミネソタ戦イチロー見逃し三振
出典:Brooks Baseball
http://www.brooksbaseball.net/pfxVB/pfx.php?s_type=3&sp_type=1&year=2014&month=7&day=5&pitchSel=450282&game=gid_2014_07_05_nyamlb_minmlb_1/&prevGame=gid_2014_07_05_nyamlb_minmlb_1/&prevDate=75&batterX=65

7月5日のミネソタ戦9回表に、球審Marty Fosterの誤審による「アウトコース低め」の判定で見逃し三振させられた(投手:グレン・パーキンス)ことが火をつける形で、翌日、7月6日のミネソタ戦でイチローは、「すべて初球を、レフト前ヒット3本」を放ってみせた。ほんと、負けず嫌いな男ではある(笑)

特に面白かったのは、4回、先頭打者でて初球アウトコース低めをレフト前に打ち返したヒット。イチローは、ミネソタのリリーフ、アンソニー・スウォーザクが問題の「アウトコースの低め」を初球に投げてきたのを、待ってましたとばかり、レフト前に打ちかえした。
いうまでもなく、この打席、実際イチローは「アウトコース低め」が来るのを、手ぐすねひいて待っていたと思う。こうして相手のスカウティングを「2倍がえしする技術」があったからこそ、イチローはMLBで14年もやってこれたのだ。


Brooks BaseballでのPitch F/Xデータでみても、7月5日ミネソタ戦9回の見逃し三振は、高さ・コースとも、ほんのわずかストライクゾーンを外れていて、球審Marty Fosterの「誤審」なのはハッキリしている。
とはいえ、40歳にして、こんな際どい球まで見分けるイチローの相変わらずの選球眼にも感心するが、おそらくは、彼を最も苛立たせた最も大きな問題はそこではないだろうと思う。


一度2011年の記事で書いたことがあるが、MLBの球審は「コーナーぎりぎりの球」をあまりストライク判定しないのが普通だ。(もちろん、何度も書いてきたようにアンパイアごとの個人差は非常に大きく存在する)
参考記事:2011年7月11日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (5)カウント3-0ではゾーンを広げて四球を避け、カウント0-2ではゾーンを狭めて三振を避ける。あらためて明らかになったアンパイアの「故意にゲームをつくる行為」。 | Damejima's HARDBALL

以下のデータは、2011年7月11日の記事で引用したものと同じものを再掲したものだが、これでひとめで分かる通り、おおまかに言うなら「MLBの球審のストライクゾーンは、円を描くように分布している」のである。
カウント0-3と、カウント0-2の、ストライクゾーンの違い
出典:Pitching Data Helps Quantify Umpire Mistakes | Playbook | WIRED

だから、いくら「左バッターのアウトコースのストライクゾーンが、とてつもなく広い」のがMLBアンパイアの常識であるとはいえ、だからといって、左バッターのアウトコース低めのコーナーぎりぎりのところをスライダーやシンカーがかすめたように見えたからといって、そうそう簡単にストライクといってもらえないのが、MLBの常識、コモンセンスというものなのだ。(だから、かつてシアトルのダメ捕手城島がMLBのピッチャーにアウトコース低めコーナーいっぱいのスライダーばかり要求したのは、あまりにもMLBを知らない、無意味で馬鹿げた行為なのだ)


7月5日の球審Marty Fosterは、もともと「高めをまったくとらないMLBアンパイア」のひとりではあるが、かといって、「低め」ならなんでもストライクにするアンパイア、というわけではない。
Marty Fosterの7月5日の判定傾向に限って言えば、右打者、左打者問わず、「アウトコースの判定」が滅茶苦茶だったのであって、これほど不安定なアウトコース判定をされて、打者たちがアタマにこないほうがどうかしている。
データ出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool | Strikezone Maps
2014年7月5日Marty Fosterの判定傾向



加えていうと、2014シーズンのイチローに対する判定は、細かいデータまで集めきれないが、印象としては、「低めをやたらとストライクコールされてばかりいた印象」があったのである。
だからか、今シーズンのイチローは、真ん中低めなど、低めを空振り三振するケースが増えていて、打席数が多くない割に三振数が多すぎた。



そうなると、スカウティング全盛時代だから、もちろん投手の側だって、馬鹿じゃない。イチローの三振パターンみたいなものを割り出し、それを執拗に繰り返してくるのが、今のMLBだ。

2014年版のイチロー攻略パターンは、いくつかあるが、例えば「イチローの打席だけでは、どういうものかストライクとコールされるアウトコース低めいっぱいの球でカウントを追い込んでおき、次に、遊び球でアウトコース低めに外れる球を投げておいて、4球目にインコースのハーフハイトに投げる」、または「追い込んだら、3球目にインハイを投げておいて、4球目にアウトコース低めいっぱいに投げる」という感じだった。

つまり、イチローの打席特有のアウトコース低めのゾーンの広さがバッティングに少なからず影響していたと思えるわけだ。(それでも3割打っているのは、さすがだが)


7月5日のアウトコース低めの誤審で見逃し三振させられ、いい加減にキレたのか、イチローが、その「ボール気味なのに、やたらストライク判定されまくって、クソ頭にくる低めの球」をしばきまくったのが、7月6日の3安打、というわけだ(笑)

2013シーズンにスカウティングされまくったのは、誰がどうみても明らかで、ヤンキースがどうみても高額契約なんか結ぶべきではなかった外野手アルフォンソ・ソリアーノが予想どおりDFAになって、ライトの定位置がイチローのものになった7月は、もともと苦手でもなんでもない左投手が先発するゲームでもスターターとして出場できそうだし、ひさしぶりにファイヤーな予感がする。(もちん、先発投手が足りないのなんて最初からわかりきっている馬鹿なヤンキースが、投手と交換にイチローをポストシーズン進出の可能性のあるチームに放出してくれるのが、最良の結果だが)

damejima at 15:08

March 04, 2013

第3回WBC 1st Round
日本対ブラジル戦
球審Chris Guccioneのストライクゾーン
Chris Guccioneのストライクゾーン

第3回WBC 1st Round
日本対中国戦
球審Gerry Davisのストライクゾーン
Gerry Davisのストライクゾーン

(上の図で、赤い線は「ルールブック上のストライクゾーン」。青い線が「そのアンパイアのゾーン」だ。あくまで、それぞれのアンパイアの過去の判定結果を集計したデータからみたストライクゾーンの判定傾向である。実際の個々のゲームでは、「過去に低めを広くとる傾向にあったアンパイア」が、その日に限っては低めが辛い、なんてことも、よくある)


2人のMLBアンパイアに共通していえることは、「ストライクゾーンが狭いこと」だ。
(なお、この2人は「信頼性が非常に高いアンパイア」でもある。信頼性の高さとゾーンの狭さは、直接関係ない。ゾーンの狭いアンパイアほど信頼性が高いわけではない)


1974年生まれと若いChris Guccioneだが、少し前の彼のゾーンデータは「全体として、やや狭め。ただし、高めだけは少しだけ広い」ということになっている。
これは、正確無比な判定で知られ、ポストシーズンなど重要ゲームを任されることも多いMLBのアンパイアの重鎮のひとり、Jeff Kelloggのゾーンと、もう瓜二つといっていいくらい、似ている。また近年評価が高まっていて、2011年にはアンパイア界の重鎮のひとりであるGerry Davisのクルーに加わったAngel Hernandezも、似たタイプのゾーンを持っている。

ひとくちに「ゾーン全体が狭めなアンパイア」といえども、いくつかのタイプがあり、アンパイアごとに個人差もある。
高めの判定の違いだけに注目して比較すれば、「全体が狭いが、高めだけは多少広い」、Kellogg、Guccione、Hernandez、Cousinsなどのタイプと、「全体に狭いし、高めもとらない」、Davis、Chad Fairchild、Tim McClelland、Paul Schrieberのようなタイプに分かれる。
ブラジル戦の球審Chris Guccioneは前者で、「全体に狭めだが、高めだけは広め」。中国戦の球審Gerry Davisは後者であり、「全体に狭く、高めもとらないが、低めだけは例外的に広め」、ということになる。

こうした事前データから、これらの球審がさばく2つのゲームで、投手と打者が意識しておくべきポイントは、次のような点だった。

「ゾーンが全体として狭めだ」という意識が必要。

四球が出やすい。特に投手がきわどいところを突こうとし過ぎると、四球連発で大量失点に繋がることが多々ある。

ゾーンの左右は狭い。よって、打者が内外の難しい球に無理に手を出す必要は、ほとんど無い。
(特に右バッターのアウトコース)

打者が「高め」「低め」に手を出すべきかどうかは、球審とイニングしだいで判断。


ブラジル戦の球審Chris Guccione
日本の投打との関係


さて、上に書いたまとめから、以下のブラジル戦に関するツイートの意味は、詳しく説明するまでもなく、ハッキリするはずだ。

打つほうでいうと、早いカウントで、内外のきわどい球を無理に打つ必要は全くなく、ボールを見極めてさえいけば、割と簡単に四球が獲得できる可能性が、どの打者にも、常にあった。特に、右バッターがアウトローのコーナーに逃げていくスライダーに無理に手を出す必要は、全く無かったはず。(例えば坂本や長野の凡打)
投げるほうは、打者とは逆で、(日本のキャッチャーに非常にありがちなリードだが)アウトローのコーナーいっぱいを突くきわどい球でストライクをとろうとばかりすると、球審にボール判定を連発されて、投手のリズムも配球プランも両方崩れて、四球連発で試合を壊してをしまうことになりかねない。(例えば杉内の2イニング目)
実際、ブラジルのバッターの何人かは、外のスライダーをあえて見逃し、低めがストライクにならないことに日本側の投手がイライラし、焦れて高めに浮かせてくる球をヒットにしていた。




ブラジルは、遅い球の無い田中将の主力武器である「ストレート」、杉内の決め球「スライダー」と、その投手が多投してくるのがわかりきっている球種に、最初から狙いを定めてバッティングして、功を奏していた。
もちろん、それができたのは、ブラジルチームに日本野球経験者が多く、日本の投手の情報が十分に活用されてもいたからだ。

ツイートで、日本のキャッチャーについて「阿部がふさわしい」と言ったのは、ブラジル戦で7回までマスクをかぶっていた相川捕手は、「その投手の最もいい球を投げさせる」「低めに集める」という原則にとらわれすぎている、と思うからだ。
相川捕手は、自軍投手とのコミュニケーションにばかり気をとられて、対戦しているブラジル側打者が「日本の投手それぞれの最もいい球に狙いを絞って打席に入っている」こと、そして「早いカウントから、その狙い球をスイングしてきていること」に、球審が低めをとらないタイプであることに、ほとんど気がつかないでいた、と思う。

逆に、8回からマスクをかぶった阿部捕手は、球審にストライクをとってもらいやすい高めの球を上手に使えていた。例えば、能見投手のフォークだが、これも、よくある「低めにはずれて、空振りさせるフォーク」ではなくて、このゲームで投げたのは「見逃しストライクになるフォーク」だった。
もし、よくある「低めの、ワンバウンドするような、振らせるフォーク」だったなら、もし打者に見逃された場合、この球審は低めをとらないタイプだから、間違いなく「ボール」判定されていた。もちろん、外国の打者は早いカウントでストレート系を狙うことが多い、ということもある。
それにしても、よくまぁ、好打者の初球に、真ん中のフォークを投げさせるものだ。能見投手の技術の確かさ、阿部捕手のサインを出す度胸には、感心するしかない。



中国戦の球審Gerry Davis
日本の投打との関係


球審Gerry Davisは、1953年生まれの60歳のヴェテラン。
同じゾーンの狭いタイプの球審でも、高めはとってくれたブラジル戦の球審Guccioneとは違って、「高め」はとらない。加えて、もっと大事なことは、この記事の最初に挙げた図からわかるように、左右のゾーンが非常に狭い

実際、ゲームを見ていた人は、前田健太投手のキレのあるストレートが、左右のバッターのアウトコース一杯、あるいは右バッターのインコースに、『ズバッと決まった』と見えたのに、球審にあっさりボール判定され、マエケンが「えっ?」っと驚いた表情を浮かべるシーンを、かなりの回数見たはず。
もしそこで、かつてダメ捕手城島がやり続けた馬鹿リードのように、アウトローぎりぎりに投げさせることに無理矢理こだわり続ければ、逃げ道の無くなった投手は自滅するほかなくなる。


中国戦のマスクは、相川でなく、阿部が復帰している。これは大きかった。というのは、記憶力がよく柔軟性のある阿部捕手は、「球審が、コースぎりぎりのストレートを、ストライクとコールしないこと」に、早々と気づいたからだ。阿部はイニングを重ねるごとに、マエケンの主力球種をストレートではなく、スライダーなどの変化球に変えていった。

前の試合のブラジルは分析力のあるチームで、日本の投手それぞれの中心球種が何かを把握してゲームに臨んでいたし、アウトコースのボールになるスライダー(もっと正確にいえば、「きわどいが、球審にボールと判定されるスライダー」)を見逃すことができるバッターもいた。
だが、中国チームのバッターは、「この球審の場合、本来は見逃すべき、アウトコースのボール気味のスライダー」を投げても、やすやすと三振がとれた。これは中国チームの選手個人個人の野球センスの無さでもあるし、またチームとしてのスカウティング能力の無さでもある。



中国にない日本の野球史の長さを表わすこんなシーンがある。日本がようやく中国を突き離しにかかった5回裏、元メジャーリーガー、松井稼頭央が、フルカウントからの極めてきわどい外のストレートをあえて見逃して、貴重な四球を選んだシーンだ。
これは高度な選球眼が要求されるし、試合の流れをずっと追いかけて頭に入れて打席に入っていないとできないファインプレーだと思う。
マエケンのゲーム序盤の投球では、松井が四球を選んだような「アウトコースぎりぎり」の、それも「ストレート」は、大半がボール判定になっていた。
もし松井稼頭央が、このアウトコースのきわどい球に無理に手を出して凡退し、打線の繋がりが切れていたら、その後の大量点はどうなっていたか。地味に見えるかもしれないが、明らかにファインプレー。さすが松井稼頭央、さすがベテランとしか、言いようがない。


ちなみに、この中国戦の球審Gerry Davisが、そんじょそこらの「球場の雰囲気に左右されて、肝心の判定基準がフラフラと変わる」ような、ボンクラなアンパイアではないことは、この「松井稼頭央の四球」でも、よくわかる。
この1球の判定は、ただでさえ「アウトコース一杯」の難しい判定であるばかりでなく、この判定の結果で、打者松井が三振になるか、四球になるかが決まり、さらに、このイニングが、どのくらい日本のチャンス、中国のピンチになるかが決まる「重い」判定でもある。
もしここで、それまで重ねてきた「ボール」判定ではなく、突如として、この球だけに限って「ストライク」とコールしてしまうような「判定の揺らぎ」があれば、それこそゲームが混乱する大きな原因になる。

ボールなものは、ボール。
どんなにきわどい場面であろうと、なかろうと、変わらず自分の主張、自分のストライクゾーンを貫き通してくれるGerry Davisは素晴らしいアンパイアだ。

damejima at 16:37
2人のMLBアンパイア、Chris Guccione と、Gerry Davis がそれぞれ球審をつとめたWBC日本対ブラジルと、日本対中国戦の2試合について、いつもMLBのゲームを見ながらやっているように球審のストライクゾーンについてツイートしていたところ、思わぬ数の反響(リツイートやらフォローやら)を頂いて驚いた。

おそらく、日本のテレビでWBCを観戦している方は、普段は日本のプロ野球だけ見るタイプの方が多いと思われるわけだが、それだけに、これら2人の球審が「非常に強い特徴をもつ、独特のストライクゾーン」を持っていることをこちらのツイートで知って、驚かれたのだろう、と思う。


そこで、そうした方々にも、MLBと日本のプロ野球との違い、MLBのアンパイアの個性とその意味について知ってもらい、MLBに関する間違った認識も訂正しつつ、もっとMLBに親しんでくれるファンを増やす意味で、簡単にだが、ちょっと自分のわかる範囲で説明してみることにした。(もちろん解説が100%正確ともいえないとは思うが、アメリカはともかく、日本では他の野球サイトでMLBのストライクゾーンの現状について、このブログ以上にきちんとまとめた解説をこれまで見たことがない)



MLBのストライクゾーンについての基礎知識

ネットでも、ファン同士のリアルな会話でも、よく「MLBのストライクゾーンは、日本より低い」という話を聞かされたことがあると思う。だが、そんなのは単に過去の「情報不足の時代」に言われていた俗説に過ぎない。
昔はまだMLBで実際にプレーする日本人選手が限られ、実際のゲームを見る機会も今ほど多くはなかっただろうし、またインターネットも無く、パソコンを使ったデータ収集もままならなかった。そんな情報不足の時代に、ほんのちょっと見ただけの印象が、聞きかじりに伝聞され、通説化していたとしか思えない。

日本にはいまだに存在しないのが残念だが、アメリカには、MLBについてのパブリックなデータサイトが非常に発達している。(例:Baseball Reference
中には、実際のゲームの何十万球もの投球データを集計して、アンパイアの実際のストライクゾーンを研究したデータ、なんてものもある。
だから、調べれば「MLBのストライクゾーンは低い」なんて単純な話ではないことは、誰でもわかる。


1)一般論としてのMLBのストライクゾーンは「横長」

ルールブック上のストライクゾーンは見た目に「縦長」な形をしているが、実際の試合でMLBの球審が判定するストライクゾーンは「一般論としては、横長」にできている。つまり、ルールブック上のゾーンに比べて、実際のゾーンは、高低が狭く、左右は広いのである。
もちろん個々のアンパイアには大きな個人差が存在する。アンパイアによって、「縦長」「横長」「真四角」と、さまざまな形のゾーンが存在する。だが、非常にたくさんの判定データをぶちこんで、ならしてみると、結局「横長」のゾーンになる、という集計結果が出ている。
資料:Hardball Times:The eye of the umpire


2)左バッターと右バッターのゾーンは異なる

MLBの左バッターのゾーンは、「アウトコースが異常に広い」のが特徴。アンパイアによっては、ルールブックよりボール2個以上広いことすらある。逆にインコースは、ルールブック通り。全体として言えば、「左打者のゾーンはアウトコース側に大きくズレている」ともいえる。もし左打者としてMLBで成功しようと思うなら、広いアウトコースに対応できなくてはならない。
右バッターのゾーンは、インコース、アウトコース、ともに、ルールブックより少し広い。ただ、右バッターのアウトコースのゾーンは、左バッターのアウトコースほど広くない。逆に、インコースは左打者よりやや広め。全体として言えば、右バッターは、インコースもアウトコースも、両方に対応する必要がある。
資料:Damejima's HARDBALL:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。
ルールブックのストライクゾーンと実際に計測されたゾーンの差
上の図で、左図は右バッター、右図は左バッター。アンパイア視点で書かれた図なので、向かって右がライト側、左がレフト側になる。赤色の線が「ルールブック上のストライクゾーン」、緑色の線が「実際のゲームでアンパイアがコールしているゾーン」。球審のコールするゾーンが「横長」であることがわかる。


3)個々のアンパイアのストライクゾーンは「個人差」が非常に激しく、その「個人差」は、他のあらゆるファクターに優先する

MLBのゾーンが「一般的に横長」という特徴をもつことや、左打者・右打者のゾーンの違い、それらのどの項目よりも、「アンパイアごとの個人差」は優先される
球審ごとにゾーンは少しずつ異なるが、いくつかのタイプ分けはできないこともない。(ただ、勘違いしてほしくないのは、ゾーンが狭いから上手いとか、広いから下手とか、そういう意味ではないことだ)
「ほぼルールブックどおり」代表例:Jeff Kelllog
「非常に狭い」例:Gerry Davis
「非常に広い」例:Jeff Nelson
「めったやたら横長」例:Mike Winters
「全体として高い」例:Sam Holbrook
「全体として低い」例:Tim Timmons

資料:Damejima's HARDBALL:2010年11月8日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (4)特徴ある4人のアンパイアのストライクゾーンをグラフ化してみる(付録テンプレつき)

資料:Hardball Times:A zone of their own


4)アンパイアに存在する「技術差」について

ひとこと確認しておかなければならないと思うことがある。
それは、アンパイアごとの「個人差」と「技術差」は、意味がまったく違う、ということだ。
技術の下手なアンパイアはMLBにもいるが、そしてWBCに派遣されているアンパイアは、たとえ「ストライクゾーンの個人差」は存在するにしても、MLBでも指折りの、技術の確かな厳選されたアンパイアが派遣されてきている、ということは強調しておきたい。日本のブラジル戦、中国戦の2試合をさばいたChris Guccione と、Gerry Davisは、2人とも素晴らしいアンパイアであり、MLBでの評価は非常に高い。

例えば、「MLBのアンパイアが実際に使うストライクゾーンは、ルールブック上のゾーンとは、かなり異なっており、また、個人差が非常に大きく影響する」などと書くと、とたんに、「じゃあ、MLBのアンパイアは、みんな下手なんだな」とか、「MLBのアンパイアは、バラバラの判定をしてるのか」とか、勘違いする人が出てくる可能性がある。

だが、それは間違っている。

最後はどうしても日米の文化論に帰結してしまうことになるが、アメリカでは州ごとに法律が異なっているように、「個人差を認める」というルールが文化の根幹に通底している。「アンパイア全員が、まったく同じ基準で判定しなければスポーツではない」と考えなければならない理由は、どこにもない。
では、個人差が認められているから、MLBのアンパイアの判定がバラバラなのかというと、そういうわけではなく、「通底した了解」も同時に存在する。けしてバラバラではない。ちょっと日本人には理解できにくいことなのかもしれないが、「大きな個人差があり、それが優先されながらも、全体としてひとつの方向性が存在する」という発想を認めなければ何事も先に進まない。

野球というゲームのアンパイアの判定で、最も困ることのひとつは、「ゾーンが高すぎる」とか「ゾーンが横長すぎる」というような「個人差の存在」ではなくて、むしろ「ゲーム中に判定基準がコロコロ変わること」や、「重要なゲーム、重要な場面で、プレッシャーに押しつぶされて、アンパイアがわかりきった判定をあからさまにミスすること」、つまり、「経験を含めた判定技術の上手い、下手」だ。

野球選手はプロだから、「今日の球審のゾーンは高いな」とか、「今日の球審はアウトコースが広い」とか、わかった上でプレーしている。だから、選手はアンパイアの個人差をそれほど問題にしてはいない。
だが、判定基準をゲーム中に突然変えることは、プレーしている選手にはバレるし、怒りを買う。突然さっきまでボールと言われていたコースをストライク判定されて三振させられたら、選手は一気に頭にくるし、黙ってない。アンパイアに執拗に抗議して退場させられたりすることもある。


最後にアンパイアの「個人差」と「技術の上手い下手」が意味が異なる、という例を挙げてみる。

Close Call Sportsという各種プロスポーツの退場処分だけを扱ったユニークなサイトによれば、日本対ブラジル戦を球審としてさばいたChris Guccioneだが、彼は、2011年に退場コールを3回行っているが、そのどれもが後に「正しい判定だった」(つまり抗議した側が判断を間違っていた)ことがわかっている。さらに2012年には、彼はなんと、一度も退場コールをしていない。
資料:Close Call Sports: Chris Guccione
このことからわかるのは、Chris Guccioneのストライクゾーンが他のアンパイアと比べて「やや高い」というような「判定の個人差」と、彼の判定技術の高さの間には、なんの関係もない、ということだ。

damejima at 12:14

April 23, 2012

2012年4月22日 ホワイトソックス戦9回裏判定 Marvin Hudsonアウトコース高めに注目。ボールの3球目より、ストライクの5球目のほうが外にある。(以下、画像をクリックすると、別窓で拡大画像)
Chicago White Sox at Seattle Mariners - April 22, 2012 | MLB.com Gameday


ホワイトソックス3連戦の最終戦で球審を務めたMarvin Hudsonは、2010年6月2日に当時デトロイトの先発投手だった右腕アーマンド・ガララーガの完全試合が、1塁塁審ジム・ジョイスの明らかな誤審によってフイにされたあのゲームで球審を務めていたアンパイアだ。
アーマンド・ガララーガの幻の完全試合 - Wikipedia
9回裏1死1塁でイチローに対する5球目をMarvin Hudsonはストライク判定したが、そのいい加減さに呆れかえっている。そして、ロクにデータを見る習慣も無いクセに、イチローの三振について、あーだこーだと批判するアホウにも、つける薬がない。

ちなみに、この打席でのピッチャーの投球は、
1球目 4シーム ボール
2球目 2シーム ファウル
3球目 4シーム ボール
4球目 4シーム ファウル
5球目 2シーム ストライク 見逃し三振


この判定は、以下の3つの観点から、
その判定はおかしい」と断言する。

何度も書いてきたように、そのことの是非はともかくとして、MLBの球審の判定は「ルールブック上のストライクゾーン」に従ってなど、いない。
むしろ、アンパイアごとに、当たり前のように、そのアンパイア固有のストライクゾーンがあり、彼らはゲームをある意味で「作って」もいる。そして、アンパイア間の個人差は、かなり酷いレベルにある。
MLBでプレーするバッターは、ゲームに出る以上、良くも悪くも、ルールブック上のストライクゾーンに従ってのみプレーするのではなくて、「その球審の判定傾向に沿ってプレーすること」を強いられることも、常に頭に入れておかなければならないし、MLBのストライクゾーンにはアンパイアごとの非常に大きな個人差が存在することを、誰でも知っておかなければならない。

ブログ主は、球審は絶対にルールブックに沿って判定すべきなどとは思わないが、むしろ球審が「自分のストライクゾーン、あるいは、今日のストライクゾーンが、どういう形か」という判定ルールをゲームの流れの中で暗黙のうちに示さなかったり、また、「自分が一度示していたルールを、ゲームの特定場面のみに関して恣意的に変更する」ことは許されない、と考えている。
これは、単純に「人間だから判定を間違うこともあるさ」なんていう、ジジイのカビくさい説教で説明できる話ではないし、また、「3球目は変化しない4シーム、5球目は変化する2シームだから、3球目がボールで、よりアウトコースに行った5球目がストライクなのはしょうがない」という程度の常套句で説明できる誤差でもない。


1)過去のMarvin Hudsonは、むしろ
 「アウトコースの非常に狭い球審」


Marvin Hudsonの過去のストライクゾーン
赤色の線は、「ルールブック上のストライクゾーン」、
青色の線が、Marvin Hudsonの過去の判定傾向だ。
(資料:Hardball Times: A zone of their own 2007年)
過去のMarvin Hudsonの判定傾向はこうなる。
1)3塁側(左バッターでいうアウトコース)が狭い
2)高めが広い

Marvin Hudsonは本来、左バッターのアウトコースのストライクゾーンが非常に広いMLBにあって、真逆の「左バッターのアウトコースのゾーンが非常に狭い特殊なアンパイア」であり、9回裏の問題判定は、この球審の「過去の判定傾向」に、まったくそぐわない。


2)この日だけに限ったMarvin Hudsonの判定傾向は、
 「低めが狭く、あとはルールブックどおり」であり、
 しかも、一貫している


以下の2つの図は、2012年4月22日のシアトル対ホワイトソックス戦だけに限った球審Marvin Hudsonの判定傾向だ。(上の図が左バッター、下が右バッター) 特徴は、2つある。
1)右バッターは、アウトコースもインコースも、標準的なMLBのゾーンより、かなり狭い
2)左バッターは、インコースは狭く、アウトコースはやや狭め
3)左バッターのアウトコースは、高めに関してはとらない
4)左右共通して、低めが狭く、ほとんどとらない

4月22日限定の左バッターへの判定
アウトコースの高めはほとんどとっていない。
2012年4月22日 Marvin Hudsonの判定の全体傾向

4月22日限定の右バッターへの判定
インコース、アウトコースのきわどい球を全くとっていない。
2012年4月22日 Marvin Hudsonの判定の全体傾向(右バッター)

総じていえば、この日のMarvin Hudsonの判定は、低めのゾーンが狭いことを除けば、標準的なMLBのゾーンではなく、「ほぼルールブックどおりのゾーン」がルールになっている。
MLBのアンパイアの標準的ストライクゾーンといえば、もちろん「左バッターはアウトコースだけがボール2個分くらい広く、右バッターはインコース・アウトコースともに1個分くらいずつ広い」わけで、このルールブックより広い標準的ストライクゾーンで判定するアンパイアは少なからずいるわけだが、この日のMarvin Hudsonのゾーンは、そのMLB標準ゾーンよりもずっと全体的に狭い。
これは、この元来「アウトコースは狭いが、低めはほぼルールーブックどおり、高めはかなり広くとるアンパイア」にしては、非常に珍しい判定傾向だ。

そして問題なのは、この日、Marvin Hudsonの「ホワイトソックス投手がシアトルの左バッターに投げた球に関する判定」において、ストライク判定された見逃しストライクは、9回裏のイチローへの5球目、この、たった1球だけしか記録されていないことだ。
この1球の判定だけが、明らかに、「この日限定の判定傾向」の流れに沿っていない。

出典:Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool


3)9回裏イチローの打席は、3球目の4シームをこの日の判定傾向どおりボール判定しておいて、3球目より外に行ったの5球目の2シームをストライク判定する「トラップ判定」

以上の話を、ひとつの図にまとめてみた。

赤い線が、ルールブック上のストライクゾーン。
青い線が、過去のMarvin Hudsonのストライクゾーン。
緑の線が、22日のMarvin Hudsonのストライクゾーン。
アルファベットのAで示した緑色の三角形が、9回裏イチロー3球目の4シーム。アルファベットのBで示した赤色の三角形が、同じく5球目の2シームである。
2012年4月22日のMarvin Hudsonのストライクゾーン


上の図のアルファベットのAB(=9回裏のイチローへの3球目と5球目)を、BrooksBaseball.netのStrikezone Maps上にマッピングし、ズームしてみると、以下のようになる。(黒い太線が、ルールブック上のストライクゾーン、黒い破線が、左バッターに対するMLBの標準的なストライクゾーン)
2012年4月22日 Marvin Hudsonの9回裏判定 ズームアップ


上で一度書いたように、球審Marvin Hudsonの「ホワイトソックス投手の左バッターに対する判定」において、ストライク判定されているアウトコースの見逃しストライクは、9回裏のイチローへの5球目、このたった1球だけしか記録されていない

そして、さらにタチが悪いのは、
3球目のアウトコース高めの4シームを、「この日の判定傾向」どおりにボール判定して、「やっぱりアウトコース高めはとらない」と思わせておいて、5球目のほぼ同じコースの2シームを、彼の「過去の判定傾向」とも、また、「この日の判定傾向」とも無関係に、ストライク判定していることだ。


まさに 「トラップ」だ。ありえない。
こんなあくどい判定に対応できるわけがない。


もし、このゲームでの球審の左バッターに対する判定が、ごく標準的なMLBのストライクゾーン、つまり、左バッターのアウトコースについてボール2個分くらいは広い標準的ゾーンに基づいてコールされていたら、ブログ主も5球目の判定に文句をつけるつもりにはならない。

なぜこの判定が「異常だ」と断言するかといえば、この判定が、「Marvin Hudsonの過去の判定傾向」とも、「この日の判定傾向」ともまるで異なるうえ、さらに悪質なことに、3球目をあらかじめボール判定しておいて、あたかも「今日のオレ様の判定は、外をとらないんだぜ」と思わせておいて、5球目をストライク判定してみせた「トラップ判定」だから、である。


バッターは9回ともなれば、自分のそれまでの打席から得た経験と、他のバッターやスコアラーから得た情報などから、その日の球審の判定傾向を頭に入れてバッターボックスに立っているものだ。
もしアウトコースのストライクゾーンが可変、つまり「コロコロ変わる」というのなら、それはそれで構わないのであって、「この球審のアウトコースのストライクゾーンは、けっこう変わる」とあらかじめ頭にいれて打席に入ればいいだけのことで、イチロークラスの技術のあるバッターなら、アウトコースのくさい球をカットしに行く心の準備ができる。

だが、
「もともとアウトコースの狭いアンパイア」が、その日の傾向として「ほぼルールブックに沿った、標準ゾーンより狭いストライクコール」をしていて、「左バッターのアウトコース高めには、辛い判定をしている」とわかっているゲームで、しかも、3球目の「左バッターのアウトコースがかなり広い標準的ストライクソーンからすればストライクと判定するはずの球を、ボール判定した」その直後に、3球目よりもさらにアウトコースに来た球をストライク判定するなどと、誰も思うわけがない。


イチローは選球眼がいいから、よけいに、見極めができてしまう。3球目がボールなら、2シーム程度の曲がりなら、この日の判定傾向のアウトコース高めのゾーンの狭さからして5球目はボールと判断するのは当然だ。

こんな経緯の球をカットに行けるわけがない。
だから、こんな判定は「異常」と断言できるのである。

damejima at 22:07

November 06, 2011

このブログは、いつも球審の判定に文句ばかりつけているブログではあるわけだが(笑)、今年のプロ野球パ・リーグのクライマックスシリーズ第3戦の10回裏に実質決勝タイムリーとなる二塁打を打った長谷川という選手の打席での「4球目の判定」について、なにやら世間が騒いでいたようなので、ネットで拾ったキャプチャー画像を少しばかりいじってみた。

場面は、先攻の西武が1点リードで迎えた10回裏のソフトバンクの攻撃。2死2塁で、カウント1-2からの4球目の判定は「ボール」。この「4球目」をストライクと感じた人が少なからずいたようだ。
もしこれがストライクなら、ゲームセットで西武の勝ちになり、シリーズの決着は翌日以降に持ち越されていたわけで、この判定がどの程度きわどい判定だったかは別にして、試合結果に大きく影響した判定ということにはなる。

2011年11月5日 ソフトバンク対西武 第3戦 10回裏 打者;長谷川


2011年11月5日 パ・リーグCS第3戦 10回裏長谷川 4球目判定


上の画像はクリックすると別窓で開いて、出てきた画像をさらにクリックすると、かなり大きな画像として見ることができる。気をつけるべきポイントが、以下のとおり、たくさんある。

)元画像自体が本当に100%信用できると言えるとは限らない
この意味は、いちおう「元画像自体が拾いものである以上、誰かが悪意で画像処理ソフトなどで作った『こしらえモノ』である可能性は絶対にゼロだ、とは言い切れない」という意味もあるが、それだけではない。
カメラ越しにとらえられた画像というものは、「必ずしも現実をフラットに見せているわけではない」という点にも留意しなくてはならない、という意味でもある。
例えば、普段メガネをかけているとか、カメラ好きの人なら、わかると思うが、「カメラのレンズ越しに見る世界」は、魚眼レンズほど極端に歪まないにしても、実際よりもずっと近く見えたり、歪んで見えたり、多少なりともレンズの影響があることが多いものだ。カメラのレンズ越しの視野を、プレートの真後ろで判定している球審の視野とまったく同じ、と、考えてはいけないのである。

)画像の中のA〜Dって?
上の画像のアルファベットのA、B、C、Dで示した4本のラインは、元の画像にはなく、全てブログ側が新たに書き込んだものだ。(もちろん元画像そのものはいじっていない。また1番目〜3番目の画像に、A、B、C、Dのラインをつけ加えるにあたっては、まったく同じ画像を、同じ位置になるようにペーストしてある)
この4本のラインを新たに書き入れてみた目的は、パースペクティブを検証するためだ。
4本とも、左右のバッターボックス前と後ろのライン、つまり縦方向のラインを、プレートからマウンドに向かって延長してみただけのものであり、厳密なものではないし、まして、ストライクゾーンの両端を示す線ではない。

)無視すべきラインD
A、B、C、D、4本のラインは厳密なものではないとは言ったが、相互比較すれば、右バッターの後ろの「ラインD」だけが、他の3本のラインA〜Cと、まったくパースペクティブが異なっていることは、容易にわかる。
ラインDが歪んでいる原因はおそらく、カメラのレンズの「収差」(=カメラやメガネのレンズそれぞれがもつ固有の歪み)が原因ではなく、ゲーム途中にラインを引き直す時に、方向も何も考えずに適当に引き直したのが原因と思われる。
ラインDは「4球目の判定」の検証に、何の役にも立たない。それどころか画像を見る人の印象をいたずらに歪める可能性すらあり、「4球目の判定」を考える上では、意識からラインDの存在を消去して考える必要がある。(ラインDがどうしてこうなっているのかについては、「4球目の判定」の検証には関係ないので、議論を省く)

)重要なラインB、ラインC
最も「4球目の判定」に関係するはずなのが、ラインBとラインCだと思う。
たぶん中継カメラは、センターバックスクリーン周辺からプレート周辺をズームアップして撮っているはずだから、画像上でラインBとラインCがまったく平行になっているようだと、この画像は後から手を加えられている可能性がある。絵画の遠近法でもそうだが、ラインBとラインCの幅は、「バックネット方向に接近していくにつれて、だんだん狭くなる」のでないと、理屈にあわない。
幸いなことに、画像を見てもらうとわかるが、元画像上のラインBとラインCは、マウンドからプレートに向かって少しずつ幅が狭くなっていっており、画僧自体の信頼性には問題がないように思える。

)左バッターのアウトコースのゾーンの広さは
  右バッターとは違う
このブログで何度も書いてきたことだが、MLBのアンパイアの場合、左バッターと右バッターとでは、アウトコースのストライクゾーンの広さがまるっきり違う。また、アンパイアごとの個人差も、非常に激しい。人によっては、ゾーンがほぼルールブック上のストライクゾーンどおりにであることさえある一方で、人によってはボール2個分を遥かに越える広いゾーンで判定している人すらいる。
日本のプロ野球の場合の球審の判定については、MLBのように十分なサンプル数をふまえた集計データが存在しているのかどうかがわからないため、プロ野球の球審の場合のアウトコースのゾーンの広さが、右バッターと左バッターとではどのくらい違うのかが、さっぱりわからない。だから確かなことは言えない。
だが、少なくとも問題の「4球目の判定」が「左バッターのアウトコース」である以上、アウトコースの判定を「ゾーンの広さは、右バッターとまったく同じ」と最初から断定して考察することはできないことくらいは、念頭に置いておくべきだろうと思う。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。

)ボールから地面に向かって引いた垂直線の
  下端の終点は「簡単には決められない」
各画像で、ボールから地面に向かって垂直に引かれた線は、ブログ側で後から書き込んでいる。目的はもちろん、その瞬間に「ボールがマウンドからプレートまでの、どの位置にあるか?」を推測するため。
この「垂直線の下端の終点が、必ずしもラインCの上になるとは限らない」。この点は非常に重要だ。
なぜなら、もし検討を始める前から「垂直線の下端が、常にラインCにある」と思い込んでしまうと、「4球目は、常にラインCの上空だけを通過した後、キャッチャーミットに収まった」と、先入観で決めつけることになってしまう。
もちろんそれは、この投球を最初から「ボール」と決めつけてかかることを意味するわけで、それはおかしい。

)垂直線の下端を決めるファクターは無いのか
前項で説明した「垂直線の下端がどこなのか?」を決められる材料は、非常に乏しい。だが、唯一の確実な要素といえるのは、たぶん、ボールがキャッチャーのミットに収まる寸前と思われる3番目の画像での、「キャッチャーの足のつま先の位置」だろう。3番目の画像で、
  a)ボールの位置から、地面に下した垂直線
  b)キャッチャーの左右のつま先を結んだ線
  c)ラインC
この3つの資料から考えると、3番目の画像に限っては、他の画像と違ってボールから地面に下した垂直線の終点が、おおまかになら決められる。
おおまかにいって、キャッチャーのミットに収まる寸前、ボールは「最低でも、右バッターボックスの最内ラインである「ラインC」の上、もしくは、ラインC上よりもさらにアウトコース側」にあるように見える。

)打者の視線の方向は、それなりに重要
あくまで補助的なものだが、「打者の目の位置とボールとを結んだライン」も、元画像に書き入れてみた。
もし打者の顔の向き、つまり視線の方向と、後から書き込んだこの「打者の目とボールを結んだライン」があまりにもかけ離れているとすれば、この「打者の目とボールを結んだライン」はまったく役立たずなわけだが、画像から判断するかぎり、そこそこ矛盾の無い範囲にあるように見える。
この「打者の目とボールを結んだライン」は、「ボールから伸ばした垂直線の下端を、どれくらいの長さと推定すればいいか?」という問題について、不完全ではあるものの、少しは判断材料にできる。(だが、「打者の視線方向」を、鵜呑みにすることはできない。下で説明するが、ボールがミットに収まろうとしている瞬間にも、打者の視線は遅れて、自分の真ん前あたりを見つめていたりする。100数十キロの速度で移動する物体を目で追いかけているのだから、遅れて当然だ)

)ピッチャーの球種がもし「シュート」だったら
Yahooでみかけた投球データによると、西武・涌井投手は、この「4球目」に「ストレートを投げた」ことになっている。
だが、画像だけを見て判断するかぎり、右投手である涌井投手が投げようとしたのは、ストレートではなく、「シュート」であるように思えるのだが、どうなのだろう。
というのも、画像を見るかぎり、投球後に涌井投手の左足位置が、「ラインB」よりかなりファースト側に踏み出していることから、涌井投手はプレート左端を踏み、かなりアウトステップして投球していると思われるからだ。おそらく左バッターのアウトコース一杯を、逃げるようにスライスしながらギリギリに通過するシュートを投げようとしたのではないか。
カウント1-2からの「4球目」の意図は、左バッターのアウトコースをまっすぐ通過して完全にボールになる「見せ球」(あるいは空振りを誘う釣り球)のストレートではなく、見逃し三振をとろうとした「勝負球」で、この球はかなり意図的に角度をつけられている。
そうなると、ボールはアウトコースに多少スライドしながら、キャッチャーのミットに収まったことになるわけで、意図したシュートか、シュート回転のストレートかは別にして(ステップの方向からして意図的なシュートだろうとは思うが)、「多少なりともボールがスライドしている」と仮定すると、球審の位置から見るのでもかぎり、この3枚の画像だけでボールがプレートのどの位置を通過したのかを正確に判定することは、残念ながら、かなり難しくなる。

10)1番目と2番目の画像で、
   ボールからの垂直線の下端が「やや短め」にしてある理由
実は、1番目と2番目の画像で、ボールからの「垂直線」は、ラインCに届かない程度に、わざと短めにしてある。これは、涌井投手の投球が「多少なりともシュートしている」ことを、いちおう考慮に入れた結果だ。
もしこれがプレート右端を踏み、まっすぐステップして投げたアウトコースの「見せ球」なら、この投球の判定が「ボール」であることに疑いの余地は無いし、これほど野球ファンがとやかく言うことでもない。

11)球審がストライクゾーンを広げたり、狭くする
   「特定のカウント」がある
この件とは直接関係ないのだが、MLBの球審は、特定カウントでゾーンを故意に広くしたり、狭くしたりする傾向がある。このことは、以前一度記事として取り上げた。
具体的にいうと、カウント0-2と、打者が一方的に追い込まれると「ゾーンは狭く」なり、また、カウント3-0と、投手が四球を出しそうになると「ゾーンは広く」なって、結果的に「球審が判定の厳しさを恣意的に変えることで、三振と四球を避け、バッターとピッチャーの対決を長く観客に見せようと仕向ける傾向がある」ことを、データの集積から発見した人が、メジャーにはいるのだ。
今回の「4球目の判定」は、カウント1-2での出来事だから、これらのケースには該当していない。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月11日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (5)カウント3-0ではゾーンを広げて四球を避け、カウント0-2ではゾーンを狭めて三振を避ける。あらためて明らかになったアンパイアの「故意にゲームをつくる行為」。


前置きばかり長くなったが(笑)、画像それぞれを見てみよう。

1番目の画像
何もいじっていない元の画像だけ見ると、「ボールがバッターの手元近くに来た瞬間の画像」と見えなくもない。
だが、「ボールから引かれた垂直線」「ラインC」「打者の視線」など、線を引いておいてから判断しなおすと、印象がまったく違ってくる。どうやらボールはまだ「グラウンドの芝が、土に切り替わるあたりまでしか来ていない」のである。
問題は、このときボールがどのくらいアウトコース側を通過したのかを見極められるかどうかだが、それを知るためにボールから引かれた垂直線の下端の位置を特定できるかどうかについて考えてみたが、特定のための材料に乏しく、ちょっと特定は難しいと思う。

2番目の画像
これも元画像だけを見ると、「ボールが打者のヒッティングポイントを通過した瞬間」にも見える。
だが1番目の画像と同じように、「ボールから引かれた垂直線」「ラインC」「打者の視線」などから印象を修正してみると、ボールがまだ「バッターボックスの、投手寄りの最先端部分あたり」にあることがわかる。打者のヒッティングポイントよりは、ほんのわずかではあるが、まだ投手側にある感じなのだ。
ここでも、ボールから引かれた垂直線の下端の位置を特定するのは難しいのだが、ボールとバッターボックスの位置関係が多少は見えてきていることを考慮すると、「ボールが、バッターボックスの最前部に来たときには、プレートの右端と、ラインCの中間あたりを通過している」といえるようには思う。

3番目の画像
これなども、他の画像同様で、元画像だけ見ると「ボールが、打者のまさに真ん前を通過した瞬間」に見えなくもない。
だが1番目、2番目の画像と同じように、「ボールから引かれた垂直線」「ラインC」「打者の視線」などをもとに印象を修正していくと、ボールは「すでに打者の前を通過し、バッターボックスの後端あたり、すでにキャッチャーミットに収まる寸前まで来ている」はずだ。
このとき打者の視線は「プレート上あたりを見ている」わけだが、3番目の画像においてが、他の画像と違って、打者の視線とボールの位置は「少しズレている」のである。
ここでは、最初の2枚の画像と違って、キャッチャーの位置、バッターボックスとの位置関係などから、ボールの位置を多少なりとも推定できる。
「ボールから引かれた垂直線」、「キャッチャーが左腕をめいっぱい伸ばしていること」、「キャッチャーの左右のつま先を結んだ線」、「ラインC」等々の要素からして、「ミットに収まる寸前のボールは、どう少なく見ても、ラインC上よりアウトコース寄り(=三塁側)に位置している」ように見える。
2番目の画像の時点ではボールはプレートとラインCの中間にあったと思われるから、3番目の画像でボールは「アウトコース側にスライドした」ことを意味する。


やたらと長くなったが、ストライクボールの判定は、上に書いたさまざまな理由から確実なことは言えないわけであって、実際にゲームを見ていた人それぞれの判断にまかせたい。
(まぁ、こっそり小声で(笑)いうなら、この球は最低でもボール2個、実際には2個半くらいは、はずれていただろうとは思う。ただ、左バッターのアウトコースのゾーンが右バッターより広いこと、投手が意図的に角度をつけていると思われる投球であることを考慮すると、実際にどう判定するかについては、アンパイアの個人差にも左右される。もしブログ主が球審なら、たとえプレートの左端を踏んで投げ、しかもシュートしているにしても、プレート付近に到達するまでの途中段階で、「ボールの軌道が外に寄りすぎている」という根拠で、躊躇なく「ボール」と判定する)

まぁ、そんなことより、わざわざこんな長文を書いたのは、スタジアムのバックスクリーンから見た映像は、テレビの画面で投手と打者の勝負を観戦するには大変わかりやすい角度だが、同時に、かなりパースペクティブがついたアングルからの映像でもあるために、球審の判定については、見た目の印象と判定結果が異なるというやっかいな現象が起こりうるアングルであることを、自分でも一度確認しておきたかったからだ。それさえわかれば、この件は十分だ。こういうことも、野球の楽しさの一部だ。

この球がストライクに見えた人がたくさんいたこと自体は、とてもよくわかる。だが、たとえ静止画であっても動画であっても、画像や動画と、自分が自分の目で見た印象が、かけ離れていることは、十分ありうるのだ。


資料:元画像
いちおうウイルススキャン済みですが、
開くかどうかは自己責任でどうぞ(笑)

2011年11月5日 元画像



damejima at 23:43

August 04, 2011

センターが馬鹿広いヒッターズパークのコメリカパーク、かつ、強打のテキサスとの対戦と、打たれて当たり前みたいな厳しい条件の登板だったが、ダグ・フィスターがデトロイト移籍後初登板を、7回3失点、QSで白星スタートを飾った。
3失点も、ほとんどがエラーがらみ。まったく問題ない。フィスターは打線の援護さえあれば、これからも白星を積み重ねて、ポストシーズンでも登板のチャンスがあることだろう。
Texas Rangers at Detroit Tigers - August 3, 2011 | MLB.com Classic


このゲームでフィスターはテキサス打線に何本かの二塁打を打たれたが、あらかじめ7月31日の記事で指摘しておいたように、これはひとつにはコメリカパークの「センターが異常に広い」という形状によるもの。
このスタジアムではセンター脇にシャープな当たりが飛べば、たいていは二塁打になってしまう。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月31日、「広い球場は、投手有利」というのは、ただの固定観念にすぎない。だからこそ、せっかくグラウンドボール・ピッチャーに変身を遂げたダグ・フィスターを売り払ってまでして外野手を補強してしまうシアトルは、どうしようもない馬鹿である。


だが、今日のゲームでずっと問題だったのは、センターの広さよりも球審John Tampaneの判定だ。
まぁ、低めとコーナーをまったくとらない、とらない
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool

なお、カウントによって、メジャーのアンパイアがコーナーいっぱいのボールをストライクと判定しない問題については、以下の記事を参照。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月11日、カウント3-0ではゾーンを広げて四球を避け、カウント0-2ではゾーンを狭めて三振を避ける。あらためて明らかになったアンパイアの「故意にゲームをつくる行為」。

2年くらい前に書いたことだが、テキサスの打者は、ローボールヒッターがほとんどを占める
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:最終テキサス戦にみるロブ・ジョンソンの「引き出し」の豊かさ (1)初球に高めストレートから入る

だから、テキサス相手に勇気をもって投げた低めがことごとくボール判定されてしまうと、ピッチャーは投げる球がなくなって、非常に追い詰められるわけだ。

その追い詰められたシチュエーションを、デトロイトバッテリーは次のような配球でなんとか切り抜けた。
「高めはゾーンぎりぎり、ストライクに。
 低めはゾーン外、ボールにする」

例えば、右打者のインコースに投げるときは、低くはずれるだけではなくて、打者側にボール1個か1個半くらいはずれるボール。アウトコースに投げるときも、低くはずれるのではなくて、ファースト側に外れるボール。

こういうとき、執拗に低めを投げて球審がストライクと言ってくれるのを待っていたのでは、カウントを悪くするばかりで、しかたなく高めにストライクを取りにいって球が浮いたところを痛打されるのがオチ。(=相性のあわないキャッチャーと組んだときのバルガス



それにしても、今日のデトロイト・テキサス戦に限らず、最近の大半のゲームで、かなりの数の球審が、「低め」をストライクコールしなくなってきている、と、ブログ主は感じている。
今日のゲームでも、左打者が見逃したフィスターの低めの投球のほとんどが「ボール」とコールされている。

何度か書いてきたことだが、MLBでは、イチローがメジャーデビューした2001年に「タテマエの上では」ストライクゾーン改定が実施され、ステロイド時代のゾーンからルールブック通りに近いゾーンに改定された、とされている。
だが、その後の調査で明らかなように、ゾーンは必ずしもルールブック通りにはなっていない。
むしろ正確な言い方としては、「ほぼルールブック通りのゾーンを使うアンパイア」、「異常に狭いゾーンのアンパイア」、「ステロイド時代特有の広いゾーンを使うアンパイア」などと、アンパイアごとに使うゾーンはバラバラ、「ゾーンはアンパイアまかせ」という状況が生まれてしまっている。

それがこのところ、新たに「低めをとらない」という判定傾向が今シーズン、突然に現れて出してきている。
「低め」をストライク判定しないとすると、当然のことながら、打者有利の時代が到来することになる。これは、2001年以降10年ほど続いてきたルールブック通りのゾーンの判定基準への「タテマエ的変更」が、転換期を迎えていることを示しているのだが、この点についてMLB機構が何か発表したわけではない。

だが、明らかに、今シーズンのMLBは、「ステロイド・クリーン」なイチローやプーホールズが代表してきた2000年代の「何か」を、排除、あるいは、過去のものにしようとしていると、ブログ主は常々感じている。
今年のオールスター選出での歪んだ経緯を見てもわかるし、またアンパイアの判定傾向の変化も、MLBが90年代のステロイド時代のごとくの「ホームラン量産時代」に向かって、こっそりと舵を切りつつあるのを感じるのである。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (1)「ステロイド時代のストライクゾーン」と、「イチロー時代のストライクゾーン」の違い。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。





damejima at 10:52

July 12, 2011

本の宣伝をするつもりはないのだが、ソースのありかを示す必要上、しかたがない。
以下の話のオリジナル・ソースは、スポーツ・イラストレイテッドのシニア・ライター、Jon Wertheimが今年2011年1月に出版した Scorecasting: The Hidden Influences Behind How Sports Are Played and Games Are Won である。残念ながらこの本、まだ中身を見ていない。


この本で元データとして使われているのが、このブログでも「アンパイアのコールがどのくらい正確か」を知るためにたびたび使わせてもらっているBrooksBaseball.netのデータだ。
このブログで利用させてもらっているのはStrikezone Mapsというツールのデータだが、この優れたサイトには他に、Pitch FXという凄いツールもある。あらゆるゲームのあらゆる投球について、とんでもなく詳細な設定ができて、びっくりするほど詳細な情報が得られるツールだが、あまりにも精密すぎてブログ主には扱いきれないのが残念だ(笑)
Pitch FXでは、たとえば「7月9日LAA戦で、マイケル・ピネダが、ファーストストライクを、どの球種で、どのコースに、どんな速度で決めたか」を特定することができる。

下記の記事は、WIRED MAGAZINEが、Pitch FXを基礎資料として書かれたJon Wertheimの本をネタに記事を書いたもの。(ただ、ブログ主は、Jon Wertheimが主に利用したのは、Pitch FXではなくて、むしろStrikezone Mapsだろうと考える)
Pitching Data Helps Quantify Umpire Mistakes | Playbook


記事によると、アンパイアのコール全体における「正しいコール」の割合は、85.6%という結果が出ているらしい。
これは、「20球のうち17球を正しいコールをする」というレートになる。MLBのピッチャーがひとりの打者に投げるボールはだいたい平均4球くらいなわけだから、20球投げて5人の打者と対戦すると、そのうち「不正確なコール」が3球程度発生することになる。

さらに、ストライクゾーンのコーナー周辺に決まったボールをアンパイアが正しく判断できる確率は、わずか49.9%しかない、という。
(ただし、これらの数値は、MLBやHardball Timesのような老舗サイトが調べた数値ではなく、あくまで彼ら独自の測定結果、計算結果であることに注意すべき。これらの数字を根拠に何かを発言する場合、必ず根拠としてソースを示さないことには、その発言の信頼性は怪しくなる)


カウント0-3と、カウント0-2の、ストライクゾーンの違い


上の図は、カウント3-0と、カウント0-2におけるストライク・ゾーンの広さの違いを表したもので、これがこの記事では最も面白い部分だ。
濃い青色の部分より内側がカウント3-0におけるゾーン、青い斜線部分がカウント0-2におけるゾーンだ。
なかなか面白い。要は、こういうことだ。

1)カウント3-0では、
  アンパイアはストライクゾーンを広げて、
  ストレートのフォアボールを避けようとする。
フォアボールになりかかっているカウント3-0では、アンパイアのストライクゾーンは非常に広くなる。特に「両サイドのゾーン」が広い。
ことカウント3-0では、たとえルールブック上のゾーンをはずれていても、アンパイアは「ストライク」とコールする可能性が高くなるという調査結果だ。

2)カウント0-2では、
  アンパイアはストライクゾーンを狭めて、
  3球三振を避けようとする。
投手が打者を追い込んだカウント0-2では逆に、アンパイアの想定するゾーンは、非常に狭くなる。
特に狭いのは「低めの全て」と、全ての「コーナー」。投手圧倒的有利の0-2カウントでは、「ピッチャーがどんなにきわどい球を低めやコーナーに投げたとしても、アンパイアはストライク・コールしてくれない」可能性がある、という調査結果になっている。


なお、WIREDの記事では、きちんと指摘されてないことがあるので指摘しておく。

上の記事では、「MLBのアンパイアは、コーナー周辺のボールを正しく判定できる確率は、約50%しかない」という指摘と、「カウントによってゾーンがかなり可変になっている」という別の指摘をしているわけだが、この2つの指摘は相互に無関係なのではなく、むしろ、前者は後者の影響を受けることを考慮すべきだ。

「打者を追い込んだ0-2カウントでは、きわどい球はボール判定されやすい」ということは、もしピッチャーが打者を追い込んだカウントで、コーナーいっぱいに素晴らしいストライクを投げたとしても、「ストライクとコールされず、むしろボールとコールされてしまうことがありうる」ということだ。

だから、「MLBのアンパイアが、コーナー周辺に決まるボールを正しく判定する確率は、約50%だ」という事象は、その全てが「アンパイアの能力が不足しているために起きる誤審」とは言えない。
むしろ、「0-2カウントでは、きわどい球は、たとえそれがストライクでも、ストライクと判定しない」という例のように、アンパイアは「コーナーに決まる素晴らしいストライクでも、故意にボールと判定している」ケースがあるのである。
しつこいようだが、だからこそ「MLBのアンパイアが、コーナー周辺に決まるボールを正しく判定する確率は、約50%である」というデータをたまたま見たからといって、それを根拠に「MLBのアンパイアは判定技術が低い。だから、コーナーに決まる球を、約50%しか正しく判定できないのだ」と断言していいことにはならないのである。
この部分が、WIREDの記事ではきちんと指摘されていない。

よく、「MLBのアンパイアは下手だ」とかネット上で公言している人を見かけるが、何を根拠にそういう発言をしているのか知らないが、単に「下手」なのと、「わかっていて、わざと判定を操作している」のは、意味がまったく違う。「MLBのアンパイアが、コーナーのボールを正しく判定する確率は、約50%」というのは、「MLBのアンパイアが下手だ」という意味で言っているのではない。


Jon Wertheimの著作で細かいパーセンテージがどこまで正しいかは別にどうでもいいが、このデータから明らかになることは、
アンパイアたちが「現実にやっている仕事」は、
「単なる判定」ではなく、むしろ「ゲームをつくること」であり、判定は「もともと意図的なゲームの操作行為」として行われている
ということだ。


彼らアンパイアは、カウント0-2になれば、意図的にゾーンを狭めて三球三振になるのを避け、逆に、カウント3-0になれば、意図的にゾーンを広げ、四球の発生を避ける。それらの「意図的な判定操作」の結果、彼らが目指す方向性というのはたぶん「打者と投手の対戦が継続されるほうが、ゲームとして面白かろう?」 というようなことではないか、と思う。
このことは、一見、ベースボールというゲームの本質は何か? という問いを含んではいるように見える。「四球でも三振でもなく、打者と投手の対決がベースボールの醍醐味なのだから、それを楽しみなさい」というわけだ。

だが、そんな「アンパイアの実態」についての、ブログ主の基本的な意見は、こうだ。

何を、どう楽しもうと、ファンの自由。余計なお世話だ。
アンパイアよ、余計なことはするな。
勝手にゲームを作るな。
他人の楽しみ方に、勝手に方向性をつけるな。


人間というのは、野生動物としてのナチュラルなルールを失った弱い動物であり、社会的権威を持ったとき、心の奥底まで権威にすっかり犯されて、秩序維持のためとか称して権威をふりかざすようになるものだ。
意図的にゾーンを狭めたり、広げたりして、三振や四球を「意図的に」避けてやり、打者と投手の対戦を継続させる、という判定ぶりは、一見すると、スポーツの鉄則にかない、スポーツの面白さを維持するのに一役買っているように聞こえがちだ。

だが、現実に起きていることは、そんな単純な話ではない。
恣意的な判定」は、なにも「アンパイアが、三振や四球を故意に減らして、ゲームをよりエキサイティングにする」という方向性だけで行われているわけではない。
むしろ、彼らは故意に三振や四球を作り出してもいる。気にいらない打者は強引に三振させ、気にいらない投手には無理矢理四球を出させる」ようにみえる行為は、実際に多発している。

アンパイアはけして、ゲームを面白くしてくれる演出家である必要など、ない。

アンパイアの「余計なゲーム・メイキング」は、むしろ、投手のコーナーに決まる精妙なコントロールの価値を損なっているし、コーナーぎりぎりのボールを見極めるバッターの精密な選球眼の価値も貶めている。
ゲームをエキサイティングにするのは、アンパイアの下手な演出ではない。また、プレーヤーの高度な技術を無駄にする歪んだ演出など、まったく必要ない。

カウント0-2に追い込まれた打者がアンパイアに嫌われていて、その結果「次の球がストライクでも、カウント0-2だから、アンパイアはボール判定してくれるさ」と安易に考えていたら、コーナーいっぱいのストレートをストライクコールされ、三球三振。
あるいは、カウント3-0にしてしまった投手が、アンパイアに嫌われた結果、「カウント3-0だし、次の球は、はずれていても、たぶんストライクコールしてくれる」とぬるい考えでいて、ストレートを置きにいったらボール判定で、ストレートのフォアボール。
そんなくだらないシーンを、ブログ主は見たくない。

もう一度書いておこう。
アンパイアよ、余計なことはするな。
勝手にゲームを作るな





damejima at 21:32

June 15, 2011

まだゲーム中だが、ちょっと気になったのでメモしておく。
Los Angeles Angels at Seattle Mariners - June 14, 2011 | MLB.com Classic

今日の球審はジョー・ウエスト
データ上では、メジャーでゾーンの狭い球審のひとりだ。メジャーのアンパイアのデータは下記を参照。(本来のジョー・ウエストは、左打者のアウトコース側と、低めが狭い)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年11月6日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (3)アンパイアの個人差をグラフ化してみる

これは2回までの判定マップだが、ルールブック上のストライクゾーンに入っている先発フィスターの「高めの投球」が、ほとんど全てといっていいくらい「ボール」判定されている。特に左打者の高めは全滅だ。
身長が高いダグ・フィスターは、角度のついたストレートを投げたがる。フィスターがいつも投げる高めストレートに、今日はスピードもコントロールもなかったのは彼自身の責任だが、その一方で、判定もひどかった。
2011年6月14日 ジョー・ウエストのストライクゾーン(2回まで)
資料:Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - Strikezone Map Tool


2011年6月14日 1回表 アブレイユ 四球1回表
アブレイユ 四球

初回のアブレイユは、初球、3球目がゾーン内。画像は省略したが、二塁打を打たれた先頭バッター、アイバーへの3球目も、ゾーン内。だが、ストレートにこだわって高めに連投し、「ボール判定」の連続から大量失点を招いた。


元のマップに、今日のゲーム序盤(2回まで)に球審が最もストライク判定しているホットゾーンを、赤い枠線で書きこんでみた。いかにゾーンそのものが狭く、また、「高目をとっていなかったか」がわかる。
2011年6月14日 球審ジョー・ウエストの判定ゾーン


こういう特殊なゾーンでの判定傾向に対して、エンゼルス先発のジェレッド・ウィーバーはどう対処しているかというと、シンプルに「打たせてとるピッチングをしているの」だ。無理にきわどいところを突いて、三振をとりにいくようなことはしていない。
こういうところは、さすがLAAの鍛えられたバッテリーだと思う。非常にクレバーだ。無理に空振りをとりにいって成功するような球審でないことを、ウィーバーは早くから見抜いている。
たとえばイチローが3回にヒットにした球を思い出してほしい。イチローが打ったのは、「ボールになる真ん中低めチェンジアップ」だ。ヒットを打たれはしたが、打たれたくないバッターにこういうボールを使うという方針は、まったく間違ってない。


かたやフィスターだが、立ち上がりに高めばかり投げたのは、こういう判定傾向のゲームでは「致命傷」だった。
彼の経験の無さ、初回にアレックス・アイバーにバント(ファウル)されたことだけで気持ちがアップアップになってしまう精神的なゆとりの無さを考えると、ここはフィスター自身がピッチングを修正するより、キャッチャーのミゲル・オリーボが、フィスターに「進むべき方向」を示してやるべきだったが、いつもそうなのだが、オリーボはその日の判定傾向をほとんど考慮していないように見える。これはフィスターのときだけに限らない。

フィスターが中盤以降に立ち直ってきたのは、プレートの真上に落ちる変化球、つまり「球審の好きなストライク」を多用するようになってからだが、これでは対応が遅すぎる
初回に、「フィスターのいつも使う角度のある高めのストレートを多投するピッチング」ではなく、もっとプレートの真上に落ちるチェンジアップやカーブをもっと効果的に使うように方針をもっと早く変更していれば、重い4失点など、なかったと思う。
もちろん、初回の走者ハンターの狭殺プレーでのスモークの守備、ダブルプレーにできたはずのケネディの送球ミスなど、守備にも足をひっぱられた。

フィスター、いつものことながら、気の毒だ。






damejima at 13:05

June 06, 2011

今日のタンパベイ戦、球審はJim Joyce。そう、あのガララーガの完全試合未遂ゲームの、あのジム・ジョイス。
Jim Joyceはどうも、右打者のときは完全に「スロット」のポジションだが、左打者のときはやや中心よりと、バッターによって立ち位置が変わっているように見えるのだが、どうなのだろう。気のせいか? (左のペゲーロのときなどはスロットだったりするのも、意味がよくわからない)
Tampa Bay Rays at Seattle Mariners - June 5, 2011 | MLB.com Classic


初回のイチローは、アウトコースのストレートを見逃し三振。自信をもって見逃している。もちろん、ボールはデータ上、ストライクゾーン外にはずれている。詳しくはまた後で書く。今はデータを貯めたい。

最近、イチローが「不調だから、アウトコースが見えてない」なんて言う人がいるが、ハッキリ書いておく。
イチローは「アウトコースが見えていないから、ストライクを振らずに三振した」のではない。「ボールなのがわかったから、振らなくていい球を振らなかった」だけだ。
これをストライクと判定するかどうかは、単に「球審の個人差の問題」であり、イチローの選球眼の問題ではない。

2011年6月5日 1回裏 イチロー 見逃し三振1回裏
イチローへの4球目

2011年6月5日 初回 イチロー三振時の判定マップ
資料:Brooksbaseball.net

次の資料は7回裏、イチローへの初球。球審Jim Joyceはインコースへのストレートをストライク判定した。これも、もちろんデータでみると、ゾーンをはずれている。

何度も書いてきているように、MLBのアンパイアの傾向として「左打者のアウトコースの判定で、ゾーンを広くとる」というのはある。
資料:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:アンパイア、MLBのストライクゾーン

だがしかし、左打者のインコース、いわゆる「スロット」に立って判定しているはずの球審が、左打者のインコースの「ゾーン外にはずれている球」を「ストライク判定」とは、ちょっとやりすぎだ。左打者への判定が外は広いMLBとはいえ、内はここまで広くない。

2011年6月5日 7回裏 イチロー 初球7回裏
イチローへの初球


次の資料は、2回裏、6番の右打者ミゲル・オリーボへの3球目。アウトコースへのストレートをストライク判定。これも、もちろんゾーンははずれている。

今日の先発はエリック・ベダードだが、こういう外の判定の広い球審の日には、ストライクゾーン内にしゃかりきになってストライクを投げようとしてはいけないのだが、残念ながら、今日の序盤のベダードは非常に投げ急いでいて、カウント0-2から必要のないストライクを投げ急いでタイムリーを浴びている。

なんせ、アウトコースの、ゾーン外の球をこれだけストライク判定してしまうアンパイアなのだから、バッテリーはちょっと使うコースを考えないとダメだ。(さらに言えば、ゲーム終盤にはゾーンが変わってくる、という問題も意識に入れておくべきだろう)

2011年6月5日 2回裏 ミゲル・オリーボへの3球目2回裏
オリーボへの3球目

2011年6月5日 2回裏 オリーボ3球目時点での右打者判定マップ
資料:Brooksbaseball.net


ちなみに最近「球審の立ち位置」が、昔とは違うことをご存知だろうか?

なにも特定のアンパイア、少数のアンパイアが、自分の特殊な趣味で立ち位置を変えたのではなく、トレンドとして変わった、というか、変えたのだ。(とはいえ、もちろんそれでも「立ち位置」に冠する球審間の個人差が無くなるわけではない。「個人差」というのは、MLBにおいて常に認められている、ひとつの文化のようなものだ)
どう変わったかというと、球審はかつてのようにホームプレートの中心ラインに沿って立って、「ストライクゾーンを左右均等に見てはいない」のである。
今、アンパイアは、プレートの中心に沿って立つのではなく、「バッターのインコース側」に立って、バッターとキャッチャーの間の「隙間」から顔をのぞかせるようにして、ゾーンを見て、判定しているのである。
この「打者とキャッチャーの間の、球審が顔をのぞかせる隙間」のことを「スロット」といい、「スロットに立って判定する球審のポジショニング」を、アンパイアの人たちの用語などは「スロット・ポジション」とかいっている。(なお、英語サイトでは、work in the slotとか、set up in the slotなどという表現をみかける)「スロット」という言葉は、ギャンブルの名前ではなく、「隙間」という意味。

この球審の立ち位置の変化は、MLBであれ、日本のプロ野球であれ、野球を見る上でファンの誰もが必ず知っておくべきことだと思う。
アンパイアをやっている立場の人にしてみれば、「スロット」からの判定は「一番判定の難しいアウトコース低目が見えるようになる。またインコースの際どい球筋が見えることで、投手の極端なインコース攻めを抑制できる」とか考えている人が多いようだ。

だが、実際に野球をやってきて今は解説者をやっている人たちや、巷の野球ファンが、アンパイア側の人たちと同じ意見を持っているとは限らない。
解説者の中にも、ファンの中にも、「スロットからの判定だと、遠いアウトコースの判定はおぼつかないんじゃないの?」と疑問を投げかける趣旨の発言をしている人は、けっこうみかける。
ブログ主も、「スロットから判定すれば、アウトコースの判定がより正確になる」とは、今のところ思えない。

発言例:ボルチモアのフォーラム
New Umpire Plate Position
発言例:High School Baseball Web
Plate Umpire positioning - Topic
資料:球審のポジションに関するPDF
http://glenwoodlittleleague.org/wp-content/uploads/forms/umpiring/plate_mechanics.pdf


ちなみに以下は、8回表からベダードをリリーフして、逆転を許したシアトルのジャーメイ・ライトの、タンパベイ、フェリペ・ロペスへの2球目。ゾーンに入っているアウトコースのストライクを「ボール判定」。
なんだろうねぇ、この球審ジム・ジョイスの「アウトコースの判定」。やれやれ。

2011年6月5日 8回表 フェリペ・ライトへの2球目8回表
ロペスに投じた
ライトの2球目






damejima at 05:39

May 29, 2011

ア・リーグのゲームでピッチャーが打席に立つことは絶対にありえないか? と、聞かれれば、答えは No だ。

ア・リーグでも投手が打席に立つことは、ありうる。

Boston Red Sox at Minnesota Twins - May 28, 2009 | MLB.com Wrap

May 28, 2009 Boston Red Sox at Minnesota Twins Box Score and Play by Play - Baseball-Reference.com

例えば、こういうことだ。

昨日2011年5月27日のシアトル・ヤンキース戦のゲームの球審をつとめたTodd Tichenorのストライクゾーンがやけに狭くて、両軍先発投手ピネダバーネットが2人で合計10個もの四球を出した、という話をしたばかりだが、奇しくもちょうど2年前の2009年5月28日に、そのTodd Tichenorが球審をつとめたミネソタ・ボストン戦で、こんな事件があった。


この日のミネソタは、これはたまたまなのだが、レギュラーキャッチャーのジョー・マウアーが休養日で、DHとして出場していた。

1-1の同点で迎えた7回表。

先頭打者ジェイソン・バリテックが、珍しくこの日2本目となるホームランを打って1点リードした後、さらに1死1、3塁となって、ダスティン・ペドロイアが犠牲フライを打ち、ボストンがリードを2点に広げたのだが、ホームプレート上でのクロスプレイのセーフ判定を巡って、ミネソタ側が猛烈に抗議した。
球審Todd Tichenorはこのとき、ミネソタのやたらと退場させられることでも有名なガーデンハイアー監督と、控えキャッチャーのマイク・レドモンドを退場処分にしたのだが、この日のミネソタベンチには、悪いことに、DHジョー・マウアーしかキャッチャーがいなかった。

そのためミネソタはやむなく、マウアーをDHからキャッチャーにして守備につかせた
Morning Juice: Outta here! Tichenor hits an umpire's grand slam - Big League Stew - MLB Blog - Yahoo! Sports

DHが守備につくケースでは以下のルールが適用される。

1) 守備しないDHの選手を、守備につかせることはできる
2) だが、そのかわりに、チームはDHの権利を失う
3) DHがいなくなった以上、そのチームの投手は打席に立たなければならなくなる
(実際にはピンチヒッターが出されることがほとんど)

だから、この日のミネソタ側のWrapには、ア・リーグでは見慣れない表記がいくつもある。

Mauer, DH-C
マウアーの右側の記号は守備位置だが、DHからキャッチャーに代わったことがわかる。

Redmond, M, C(退場になった控えキャッチャー)
Henn, P
a-Cuddyer, PH
Ayala, P
b-Buscher, PH

ミネソタは控えキャッチャーのレドモンドが退場になったために、守備の欠けた部分はDHマウアーが守備について埋めたわけだが、打撃のラインアップの欠けた部分、つまり8番の打順を、「DHの権利が消滅した」投手で埋めなくてはならない。
そのためミネソタはブルペンからショーン・ヘン(当時ミネソタに在籍していて、現在はトロント)を登板させただけでなく、打者として8番に入れた
というのも、DHマウアーが守備についたことで、ミネソタ側の「DHの権利が消滅」してしまい、たとえア・リーグのゲームで、投手であっても、この場合は打順に入れなくてはならないのだ。
そして、この8番という打順は、すぐ裏の7回裏に打順が回ってくるために、もし代打を出さずにおくと、投手ショーン・ヘンは、DH制ア・リーグのゲームなのに、打席に立たなければならなくなる
(実際には代打が出る。このケースでもマイケル・カダイアーが代打に立った)

さらにやっかいなことに、カダイアーが代打に出たにしても、こんどはカダイアーが投手を兼任できるわけではないわけだから、カダイアーが打席に立った次の守備のイニングになる時点で、カダイアーの打順には投手をいれなくてはならない。
(このケースではカダイヤーの打順に投手アヤラを入れた)

さらにまた、その投手に打順が回ってくることがあれば、またまた代打を出すハメになる。
(このケースでは、投手アヤラに代打ブッシャーを出した)
めんどくさいこと、このうえない。

DHの権利喪失の例
Forfeiting the right to a DHという項目参照。やはりキャッチャーがらみのケースが多い。
Designated hitter - Wikipedia, the free encyclopedia

ただし、
このゲームはこのままでは終わらなかった。


波乱だらけの7回表が終わり、7回裏のミネソタの攻撃になった直後、ストライク・ボールの判定を巡って、こんどはボストン側が猛抗議を行ったことから、なんと、こんどはボストンの監督フランコーナと、キャッチャーのジェイソン・バリテックが退場になったからだ。
ただし、ボストンのベンチには、控えキャッチャーのコタラスがいたために、ボストンはミネソタがDHを失ったような「めんどくさい事態」にはならずにすんだ。(キャッチャーをDHにしたりするものじゃないことが、よーくわかる)
05/28 2009 7回表裏で両チームのキャッチャーと監督4人が退場 ‐ ニコニコ動画(原宿)

そう。
あの両軍監督、両軍キャッチャー、合計4人退場事件のときの球審が、昨日のシアトル・ヤンキース戦で両軍先発投手に10個もの四球を出させた球審Todd Tichenorなのである。


この人の「帳尻癖」、なんとかならないものかね?(苦笑)






damejima at 08:43

November 09, 2010

以下の記事のエクセルデータを、こんどは個人別に平面に展開してみる。テンプレートは自作。誰でも同じ作業ができるように、この記事の最後の部分で、作成方法を解説する。まずは、アンパイアごとのデータを4人分みてもらいたい。
Hardball Times: A zone of their own

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年11月6日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (3)アンパイアの個人差をグラフ化してみる

最初に、アンパイアごとの個人差の大きさを実感してもらうために、最もストライクゾーンの大きいアンパイアと、最も小さいアンパイアを比べて見てもらおう。
赤い線が、ルールブック
青い線が、そのアンパイアのストライクゾーン

Jeff Nelsonの広大かつ縦長なストライクゾーンJeff Nelson

Gerry Davisの狭いストライクゾーンGerry Davis


1)Jeff Nelson
1965年ミネソタ生まれ。広大すぎるゾーン。判定は気まぐれで可変

最初にとりあげるのは、2010NLCSで、ロイ・ハラデイの低めに決まるカットボールを「ボール」と判定し続けて物議をかもしたアンパイア、Jeff Nelson

Hardball Timesは、MLBでストライクゾーンが最も広いアンパイア、Jeff Nelsonについて、
against right-handed hitters, the classic “Glavine” call a couple inches off the plate. と、右打者のアウトコースについては、たとえホームプレートから数インチ離れていようとも「ストライク」とコールする「Jeff Nelsonのアウトコースの判定のゆるさ」を評して、「トム・グラビン時代の古典的コールをするアンパイア」と言っている。
前に書いたように、かつてのステロイド時代は、ステロイドを容認し、打者有利な飛ぶボールを使ってホームランを量産させる一方で、バーター的な意味で、投手には「アウトコースが異常に広い、ステロイド時代特有の投手有利なストライクゾーン」を与え、なかでもトム・グラビンはその「アウトコースの広いステロイド時代のストライクゾーンの恩恵」を人一倍上手に使った、という皮肉めいた意味でもある。
参照:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (1)「ステロイド時代のストライクゾーン」と、「イチロー時代のストライクゾーン」の違い。

大投手ロイ・ハラデイは2010NLCSで、こんな「日頃ストライクゾーンが馬鹿広いことが、あらかじめわかっていたはずの、ゆるんゆるんのアンパイア」に、「低めいっぱいに決まるカットボール」を「ボール」と言われ続けたのである。そりゃ腹が立たないわけがないし、とてもとても、まともなゲームになるわけがない。
アンパイアのストライクゾーンが広いからといって、必ずしも投手有利になるとは限らない、というよい例である。ブログ主は、いまでもNLCSはフィラデルフィアが勝つべきだったと思っている。
Umpire Watch: Postseason Bunting -- MLB FanHouse
ちなみに上のリンクは、2010NLCS Game 5の3回表、無死1、2塁で、ハラデイがバントしたときの誤審についての記事。ハラデイはバントのボールが自分の足に当たったのがわかったので一塁には走らなかったが、キャッチャーバスター・ポージーは三塁にスローした。だが球審Jeff Nelsonは即座にフェアとコールし、結果的にハラデイがアウト。1死2、3塁になった。記事は、Halladay's bunt was clearly foul.と、明確に誤審を指摘しており、本来なら無死満塁になった場面だった。

ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。



2)Gerry Davis
1953年ミズーリ生まれ。宇宙一タイトなストライクゾーン。

宇宙で一番ゾーンが広いのがJeff Nelsonなら、宇宙で一番狭いアンパイアのひとりが、2010ALCSでアンパイアをつとめたGerry Davis
この2人のアンパイアのストライクゾーンの大差について、Hardball Timesは、Jeff Nelson calls about 10 more strikes than Gerry Davis in an average game. 平均的なゲームで球審をしたなら、ジェフ・ネルソンは、ジェリー・デイビスより、10個は多くストライクをコールするだろう、と述べている。



3)Jeff Kelllog
1961年ミシガン生まれ。2001年以降のストライクゾーンの規範ともいうべき、正確な判定。

Jeff Kelllogの正確なストライクゾーン


個性を押し出すのではなく、いわゆる2001年以降のMLBが指向する「ルールブックどおり」の正確なコールをできるアンパイア。それが、Jeff Kelllog。その判定の正確さは、上に挙げたグラフにそのままあらわれていて、ルールブック(赤い線)と彼のストライクゾーン(青い線)には、ほとんど差がない。
正確さを表現する言葉にも、いろいろあるが、彼の場合、ただaccuracyというだけより、clockworkと表現したほうがピッタリくる。正確に時を刻み続ける時計のような、狂いの無い連続作業と言うイメージ。
ALCSのテキサスとヤンキースのクリフ・リー登板ゲームでPL(球審)をつとめたが、あのときの非常に正確なコールには感心した。だから、今年のワールドシリーズはぜひこの人に球審をやってもらいたいものだ、と思っていたら、案の定、ワールドシリーズのアンパイアもつとめてくれて、ブログ主としては嬉しく思ったものだ。
ただ、Jeff Kelllogは、塁審をつとめる際にはちょっとどうかな、と思うフシもないわけではない。ワールドシリーズでも、一塁の塁審をやったゲームでちょっと「?」と思った判定があった。
例:Umpire Watch: One Shaky Sixth Inning -- MLB FanHouse
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月12日、クリフ・リー、無四球完投!「アウトコース高めいっぱいのカーブ」を決め球に、11奪三振。テキサスがヤンキースとのリーグ・チャンピオンシップに進出。このゲームを正確なコールで素晴らしいゲームにした名アンパイアJeff Kellogg。

ちなみにJeff Kelllogは、ストライクゾーンが広いことで有名なJeff NelsonのいるCrew G のチーフ・アンパイアでもある。つまり、ひとつのクルーに、正確無比なタイプのアンパイアと、やたらとゾーンの広いタイプが同居しているわけだ。
プレーヤーにしてみたらどうなのだろう。Crew Gにあたったチームは、ゲームごとにしっかりと頭を切り替えていく対処する必要がある。



4)Mike Winters
1958年カリフォルニア生まれ。横長のストライクゾーン。

Mike Wintersの横長なストライクゾーン

ここまで縦長なストライクゾーンのアンパイアばかり扱ったので、この記事の4人目は、横長のストライクゾーンのアンパイアを扱ってみよう。ワールドシリーズでアンパイアをつとめたMike Wintersである。

2009年9月にイチローを退場処分にしたBrian Runge、あるいはEd Hickoxも、このMike Wintersに似た「横長ストライクゾーン派」のアンパイアだが、RungeやHickoxが低めをとるのに対して、Mike Wintersは低めをとりたがらない。だからMike Wintersのゾーンは、RungeやHickoxより、さらに横長な形状になる。

2010ワールドシリーズではテキサスを応援して見ていたが、特にピンチの場面、それも試合の終盤になると決まって、Mike Wintersは低めの判定が辛くなるのには、見ていて非常にイライラさせられた。(下記画像は参照例:Game 4 7回表のポージーのホームランの打席の2球目)
逆に、サンフランシスコのクローザー、ブライアン・ウィルソンが投げるいくつかの球は、どうみてもボールにしか見えない球で、テキサスの打者が非常に気の毒になった。
特にマイケル・ヤングは、明らかにアンパイアに嫌われていて、まるで「狙い打ちされている」かのように、きわどくもないストライクをとられて、バッティングの調子を崩していた。(下記画像参照:Game 4 7回裏の三振の打席の2球目、および9回裏の三振の打席の4球目)
要は、Mike Wintersは、インコース、アウトコースはアホみたいにとるクセに、低めをとってくれないアンパイアなのである。このことに、テキサスのキャッチャーベンジー・モリーナは最後まで気がつくことはなかった。

2010年10月31日 WS Game 4 8回表バスター・ポージー ホームラン2010ワールドシリーズ
Game 4 球審:Mike Winters

7回表 バスター・ポージー
ソロホームラン
2球目の低めいっぱいの
ストレートを
ボールコール


2010年10月31日 WS Game 4 7回裏マイケル・ヤング 三振2010ワールドシリーズ
Game 4 球審:Mike Winters

7回裏マイケル・ヤング 三振
2球目のインコースまっすぐを
ストライクコール


2010年10月31日 WS Game 4 9回裏マイケル・ヤング 三振2010ワールドシリーズ
Game 4 球審:Mike Winters

9回裏マイケル・ヤング 三振
4球目のインコースのスライダーを
ストライクコール



ちなみに、Mike Wintersは、横長派のBrian Rungeと同じ、Crew Hの所属。Crew Hにあたったチームは、アウトコースのストライクゾーンが広いことを覚悟しなければ試合にならないだろう。




おまけ
自分で作るアンパイアごとのストライクゾーンデータ


ストライクゾーン テンプレ

1)このグラフの画像をイラストレーターのようなソフトに、背景画像として取り込む。取り込んだらロックしておくのがコツ
2)赤色でない色(青とか緑とか)の四角形を、仮に書く。太さは3ポイント程度。赤い四角形が見えなくなるので、塗りつぶしは指定しない
3)上のグラフのグリッドごとの距離は12インチ。上下左右の4本の線を、それぞれのアンパイアのストライクゾーンのズレの分だけ、ずらしていく。ずらしたい線を選択する場合、必ず「ダイレクト選択ツール」を使う。通常の選択ツールで動かすと、四角形全部が移動してしまう
4)上下左右をずらし終えたら、保存して1人分が終了。このとき別名保存しないと、テンプレート(=元の画像のこと)がなくなってしまうので注意
5)保存後、線はいくらでもズラしなおせるので、2人目、3人目と次々と作りながら、別名で保存していく






damejima at 21:26

November 07, 2010

このブログ記事で掲載するグラフ類はすべて、下記リンクのHardball Timesの記事内でリンク先として公開されているエクセルデータを元にしている。
Hardball Timesの記事は、それ自体、MLBのアンパイアの現状を知る上で非常に優れたものだが、記事を書く上で基礎データにしているMLBの70数人のアンパイアのストライクゾーンの数値が、エクセルデータとして一部公開され、誰でも読める状態にある。これは素晴らしい英断である。
下記のサイトにおける長年の途方もない努力に、心から敬意を表するものである。
Hardball Times: A zone of their own


Hardball Timesはもちろん、MLBの諸事情について、あるレベル以上に精通・習熟したアメリカの野球ファンが読むことを前提に作られている高度なサイトであるために、上記の記事も、70数人のアンパイアの全体傾向を分析したり、一般論を展開したりする目的では書かれていない。
この記事が目指すのは一般的な総論ではなくて、数歩進んで、個人差の大きいMLBのアンパイアの中でも特に極端な人々、つまり、「極端にゾーンの狭いアンパイア」と「極端に広いアンパイア」を具体的に抽出することに主眼がある。
そのため、記事内で示されるデータは、あらかじめ70数人のデータの中から、10数人程度に絞り込まれてしまっている。

だが、日本人の目からすると、
70数人の元データも、なんらかの形で参考にしたいところだ。

というのも、日本国内のサイトには、こうしたMLBのアンパイアの全体像を知るためのデータ供給源は全く無い。だからアンパイアに関する議論をしようにも、Hardball Timesのように、主張の基になる元データをきちんと作成し、明示した上で考察することはまず不可能だ。
そのため、日本国内でのこれまでのMLBのアンパイアに関する議論といえば、十分な資料もないままに「俺の知っているメジャーは、ああだ、こうだ」と、個人個人の思い込みと先入観にまみれ、憶測や人から聞きかじっただけの伝聞だけをもとに、むやみにお互いの主観をぶつけあうだけの形で続けられてきた哀しい経緯がある。


例えば、日本では「MLBのアンパイアのストライクゾーンは、外角が広く、低めも広い」などという話が、書籍やネット上でまことしやかに公言されているのをよく見る。

だが、70数人のアンパイアの現実のデータなどをちらっと見るだけで、そういったこれまでの定説が先入観まみれなのが、ひと目でわかる。

例えば「右打者と左打者とでは、内外のゾーンの広さがまるで違う」という点について、きちんと意識した上で、メジャーのストライクゾーンを論じているサイトをほとんど見たことがない。
(その点、故・パンチョ伊東氏などはア・リーグとナ・リーグのアンパイアのゾーンの違いについて指摘がみられるなど、MLBのアンパイアの判定がけして一枚岩ではないことを、はやくから指摘しておられた。 パンチョ伊東のメジャーリーグ通信

「MLBの外角のストライクゾーンは広い」という先入観だが、まず言えるのは、「左打者・右打者に関係なく、アウトコースのゾーンは、必ず広いものである」と断言できるほどの根拠は、データ上、見えてこない。
「左打者のアウトコースのストライクゾーンが広いアンパイアが多い」のは確かであるにしても、むしろ、約半数のアンパイアのレフト側のゾーンは、ルールブックどおりに近いか、むしろ狭いわけで、アンパイア間の個人差がかなり大きく、また、左打者と右打者とでは、おそらく判定に差が出る。

さらに、「低めのゾーンが広い」という点に至っては、必ずしも断言できないどころか、一度記事にしたように、むしろ「メジャーの低めのゾーンは、ルールブックよりも、やや狭い」というデータがみられる
参照:ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。

アンパイア全員の共通点といえそうな点は、いまのところ左打者のインコースのストライクゾーンの狭さくらいくらいしかない。


つまり、これまでのストライクゾーンにまつわる議論は、MLBの実際のアンパイアの個人差を示すデータを(一般に公開されている、ありがたいデータも存在するのに)誰も前提にしないまま、思い込みだけで論議し、思い込みで「MLBのストライクゾーンは外に広く、低めも広い」という先入観が形成されてきた、それだけのことなのである。

だからこそ、一般的な日本人MLBファンが先入観だけでMLBのストライクゾーンを議論してきた今までの経緯からすれば、Hardball Timesの上記の記事の背景に、せっかくの70数人のMLBのアンパイアのデータが埋もれていくことは、非常にもったいない。
もっと正確にMLBのアンパイアの実像を知るデータがあれば、今後もっと正確に議論や知識を深めあっていくことができると思う。

だから、より正確なMLBの議論を定着させていく意味で、あえて上記の記事の背景にある70数人のアンパイアのデータを「目に見える形」にしてみた。なにかの参考になれば幸いである。


以下のグラフの見方

1)ライト側、レフト側という表記
アンパイア(キャッチャー)の目線から見た左右を示す。だからライト側といえば、この場合、左打者では「インコース」の意味になる。
2)Overall という数値
最初の縦長の表では、「ライト側」「レフト側」「高め」「低め」の4項目で、「ルールブック上のストライクゾーンと、そのアンパイアのゾーンとのズレの大きさ」が示されている。Overallという数値は、その4つの数値を平均化したもので、「そのアンパイアのストライクゾーンの全体としての広さ」を、イメージ的に漠然と示したもの。
3)2番目以降の4つのグラフのX軸
2番目以降の4つのグラフでは、X軸は、Overallの数値の順に、左から右にむかって70数人のデータが並んでいる。
だから、最も左に位置するのが、Overallの数値が最もマイナスのアンパイア、つまり「全体数値の平均値が最も小さく、ストライクゾーンが狭い傾向のアンパイア」であり、逆に、最も右側に位置するのが「ストライクゾーン全体が広い傾向にあるアンパイア」ということになる。

気をつけてほしいのは、
例えばOverall値が「大きい」からといって、必ずしもそれが「ストライクゾーン全体が、あらゆる方向に、馬鹿みたいに広い」という意味にはならないことだ。
Overall値の大きいアンパイアといっても、「ゾーン全体が、あらゆる方向に広い人」だけが存在するのではなく、ほかにも「ゾーンがやたらと横長な人」、逆に「やたらと縦長な人」、「高めだけ広い人」、「低めだけ広い人」、あらゆるタイプが存在するのである。Overall値よりもむしろ、非常に大きな個人差に注意が必要だ。(ゾーンが狭い場合の話も同様)


アンパイア全体のデータ


right側のストライクゾーン・データ

right側の近似曲線は横棒に近い。このことから、right側のストライクゾーンは「Overall値にほとんど左右されない」という強い特徴があることがわかる。また、大半のアンパイアのright側の数値は「ゼロ」に近い。
だから、総じて言えば、MLBの大半のアンパイアのright側は(極端すぎる一部アンパイアを除いて)ほぼ「ルールブック通り」で、いかに個人差が大きいMLBのアンパイアといえども、right側の判定方針についてだけは「ルールブック通りにすべき」という意見でほぼ一致していることがわかる。

right側のストライクゾーン・データ


left側のストライクゾーン・データ

right側とまったく逆で、left側の数値は、Overall値にほぼ比例する点に最大の特徴がある。つまり、大半のアンパイアのストライクゾーンのOverall値は、4つの数値のうち、このleft側数値との関連性が一番強く見える。
別の言い方をすれば、そのアンパイアのストライクゾーンの広さは、left側のゾーンの広さで推定することができる、というような言い方もできるかもしれない


left側のストライクゾーン・データ


top側(高め)のストライクゾーン・データ

top側の近似曲線は大きく波を打っている。つまり、高めのストライクゾーンは、必ずしもOverall値(あるいはleft側の数値)に一義的に比例しない。つまり、ストライクゾーンが馬鹿みたいに広いとか、left側の非常に広いアンパイアだからといって、必ずしもtop側、あるいはbottom側のゾーンも広いとは限らない、ということになる。
また、right側やleft側に比べて、「高低」、つまり、top側とbottom側のズレは、レンジがずっと大きく、非常に激しい個人差がある。

top側のストライクゾーン・データ


bottom側(低め)のストライクゾーン・データ

bottom側も、top側同様に、近似曲線が大きく波を打っている。つまり、低めのストライクゾーンは、必ずしもOverall値(あるいはleft側の数値)に左右されず、そのアンパイアのゾーンの広さや、left側のゾーンの広さに比例しない。また波を打っている位置のズレからわかるように、bottom側が広ければtop側も広い、とか、bottom側が狭ければtop側も狭い、とか、必ずしも決定できるわけではなく、ここでも個人差は非常に強く影響している。

bottom側のストライクゾーン・データ



ここで挙げたデータと、以下の記事で挙げた下記のグラフを照らし合わせると、MLBのアンパイアの全体の傾向と、個人差の意味が多少見えてくるはず。
総じて言えば、内外のストライクゾーンにはある種の法則性が垣間見えるが、高低のストライクゾーンは非常に大きな個人差が存在し、そのアンパイア個人の個性に依存して非常に大きく伸縮する曖昧な尺度のように思う。

ルールブックのストライクゾーンと実際に計測されたゾーンの差
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (2)2007年の調査における「ルールブックのストライクゾーン」と、「現実の判定から逆測定したストライクゾーン」の大きな落差。





damejima at 05:46

October 31, 2010

前の記事で、2001年以降、MLBのストライクゾーンが、ステロイド時代の「横長の」ストライクゾーンから、「ルールブック通りの、縦長のストライクゾーン」に、あくまで「タテマエ的」にだが、改められることになり、アンパイアがメジャーのキャンプ地を巡回して説明に歩いた、という話をした。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月29日、MLBのストライクゾーンの揺らぎ (1)「ステロイド時代のストライクゾーン」と、「イチロー時代のストライクゾーン」の違い。

では、
2001年以降、本当に「ストライクゾーンは変わった」
のだろうか?



次に挙げるのは、2007年に書かれたHardball Timesの記事に添付された秀逸すぎるグラフである。
元記事:Hardball Times:The eye of the umpire

この非常に優れた記事とグラフは、膨大な数の実戦でのアンパイアの判定結果をグラフ上にマッピングすることで、「ルールブックのストライクゾーンと、アンパイアが実際のゲームでコールしている現実のストライクゾーンとの違い」を、誰にも有無を言わせない形でハッキリ明示している。

こういう素晴らしい記事を作れるHardball Timesに敬意を払わずにはいられないし、こんなブログ程度では彼らの足元にすらたどり着けないが、前置きはそのくらいにして、この記事が主張する結論と、それについてのブログからの注釈から先に言っておくことにする。


この記事の主張する結論
2007年のこの記事の調査範囲においては、MLBのアンパイアのストライクゾーンは、あいかわらず「2001年以前の横長の古いストライクゾーンのまま」である。MLBが2001年以降ストライクゾーンをルールブック通りにする、と言った割には、現実にはそうなっていない。
ブログからの注釈
この記事の調査は、必ずしも2001年以降、記事が書かれた2007年までの全ての投球、全てのアンパイアの判定を調査したものではない。
だから、この記事だけから即座に「MLBのストライクゾーンは、2001年以降もステロイド時代の古いストライクゾーンのまま、まるで変わっていない」と、単純に結論づけることはできない。
実際に、他の調査などでは、アンパイアごとの判定の個人差が大きいことがわかっている。(これについては次回の記事で書く)
だから、現在のMLBのストライクゾーンをめぐる状況について、当ブログでは次のように考える。
1)MLB全体としてのゾーン修正傾向
MLBのストライクゾーンは2001年に、それ以前のステロイド時代の「横長の」ストライクゾーンと決別して、「ルールブックに近い判定」をすることを宣言したが、何事でもそうだが、何もかもが即時に修正されるわけではない。いまだに「古いストライクゾーン」に決別できていないアンパイアも多いのは確かだが、今後の経過を見守る必要がある。

2)個人差
新旧のストライクゾーンが混在する現状があり、2001年以降のストライクゾーンの修正に沿って、ルールブックに近い「縦長のストライクゾーン」で判定を下しているアンパイアもいれば、2001年以前の古いステロイド時代の「横長の」ストライクゾーンに固執し続けているアンパイアもいることがわかっている。
現在ではアンパイアごとの個人差が顕著、と考えておくのが無難



グラフの見方
このグラフはアンパイア(キャッチャー)視線で見たもの。
だから、向かって
左がレフト側
右がライト側

赤い線が、ルールブック上の「ストライクゾーン」
緑の線が、実際の判定結果のマッピングから計測された「ストライクゾーン」

横並びの2つのグラフのうち
左にあるのが、RHB(右打者)のグラフ
右にあるのが、LHB(左打者)

ルールブックのストライクゾーンと実際に計測されたゾーンの差
(グラフはクリックすると拡大できます)

グラフからわかること

(1)左打者・右打者共通の特徴
ルールブック上のストライクゾーンは「縦長」だが、
実際のストライクゾーンは「横長」だ。高低はルールブックより狭く、内外はルールブックより広い。

高めのストライクゾーン」は、2001年以降「ルールブックに沿ったストライクゾーンにすることになった」「はず」だが
実際のゲームでの「アンパイアのストライクゾーン」では、高めのゾーンはけして広くない。

低めのストライクゾーン」も、1996年の改正で、「膝頭の上まで」だったのが、「膝頭の下まで」に変更されたことで、「ボール1個分くらい」低くなったはず」だし、また、2001年以降の修正で「ルールブック通りに判定する」ように修正された「はず」である。
1996 - The Strike Zone is expanded on the lower end, moving from the top of the knees to the bottom of the knees.
Umpires: Strike Zone | MLB.com: Official info

だが、実際には、低めのストライクゾーンを十分に拡張していないアンパイアがたくさんいる。

「現実のアンパイアの判定では、低めのストライクゾーンがルールブックより狭いことが、多々ある」ことがわかると、たとえば、NLCSのロイ・ハラデイの登板ゲームで球審をつとめた、例のJeff Nelsonの判定の偏りの意味がわかってくる。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。

Jeff Nelsonは日本のサイトなどで「投手有利な判定をするアンパイア」であるかのような説明がなされているが、彼はメジャーでは「アウトコースのストライクゾーンが異様に広いことで有名なアンパイア(資料:Hardball Times A zone of their own)」であり、あのゲームでJeff Nelsonはロイ・ハラデイの低めいっぱいのストライクを、ピンチの場面ではことごとく「ボール」判定している。
これはつまり、Jeff Nelsonが「古い『横長の』ストライクゾーンで判定を行う典型的なアンパイア」であるために起きる、ただそれだけの現象といえる。
彼のような「古い横長ゾーン」のアンパイアは、「アウトコースのストライクはとりたがるが、高め、低めのストライクをとりたがらない傾向」がある。そのため、ロイ・ハラデイのような「コントロールが非常に良く、2001年以降のストライクゾーンの修正に沿って、ルールブック通りのストライクゾーンの、低めいっぱいに変化球を決めてきた投手」にしてみれば、イザとなると低めのストライクをとらなくなる「古い横長のストライクゾーンで判定するJeff Nelspn」は、「投手有利な判定をするアンパイア」とはまったく言えないことになるのである。


(2)左打者だけにあてはまるストライクゾーンの特徴
ルールブックに比べて、実際のストライクゾーンは、
アウトコース側が「極端に」広い。
インコースは、ルールブック通り。

このことからメジャーの左打者は、非常に広いアウトコースのストライクゾーンに対応するためには、どうしても「打席のできるだけ内側、プレート寄りギリギリの位置」にスタンスをとらざるをえない。(もちろん、イチローの打席での立ち位置を見てもわかるように、全員が打席ギリギリに立つわけではない)


(3)右打者のストライクゾーンの特徴
ルールブックに比べて、実際のストライクゾーンは、インコース、アウトコースともに、広い
ただ、左打者のアウトコースのような「極端に広いストライクゾーン」ではない。


ちなみにこれはメジャーでの話ではないのだが、とある日本のブログで、2010年9月18日ロッテvs楽天戦におけるロッテ先発・成瀬投手のピッチングについて、こんな記述があるのを確認できた。
左打者には外角中心の配球、右打者にはストライクゾーンの内角と外角、両サイドに満遍なく投げ分けていたのが記録上からも確認できる。」
日本のプロ野球のアンパイアの判定が、どの程度メジャーのストライクゾーンに準じたものになっているか不明なのだが、もし成瀬投手が、左打者と右打者で、それぞれに対して使うストライクゾーンを分けているとすれば、それは「左打者と右打者のストライクゾーンの違い」を重視した非常にクレバーな投球術、ということになる。






damejima at 13:13

October 30, 2010

new zone and old zoneこれはフロリダのSt. Petersburg Timesの「2001年以降の新しいストライクゾーン」についての記事(Sports: Baseball adapts to a new zone)に添付されているイラスト。元記事では、点線で示されているのが、2000年までの「古いストライクゾーン」赤い太線で示されているのが、「新しいストライクゾーン」、と説明されている。

「説明されている」と、ちょっと曖昧な、奥歯にモノがはさまった言い方をしたのには理由があって、このイラストだけ見た人は、「最近のMLBのストライクゾーンは、アウトコースが狭くなって、高目を広くした」だけで、「低めのストライクゾーンは、近年、まったく変更が加えられていないと、誤解する」のではないかと感じるからだ。

「低めは変更なし?」
そんな馬鹿な。
「低め」だって「ボール1個分」広くなっている
1996 - The Strike Zone is expanded on the lower end, moving from the top of the knees to the bottom of the knees.
Umpires: Strike Zone | MLB.com: Official info


元記事は各チームがフロリダでスプリング・トレーニングをしている最中の2001年2月27日に書かれた。
セント・ピーターズバーグはもちろんフロリダのタンパベイ・レイズの本拠地だが、春先には暖かいフロリダでたくさんのチームがキャンプする。
2001年にMLBのストライクゾーンが大きく変更されるにあたっては、キャンプ中の各チームをアンパイアが手分けして訪問し、この「新しいストライクゾーン」について確認して回った。

非常に偶然だが、この記事には、2010年NLCSでさんざんアンパイアの低めのコールに文句をつけて問題を起こしてばかりいるパット・バレルが登場する。どうもフィラデルフィアの新人時代のバレルが、2001年2月にアンパイアJim McKeanからこの「新しいゾーン」について懇切丁寧に指導を受けたのが、偶然記事になっているらしい。
なにやら非常にむかつく。
パット・バレル、おまえはそもそも「ルールブック通りの新しいストライクゾーン」しか知らないはずの選手のクセに、どういう了見で低めに文句つけるんだ?と、言いたくなる。


こういう「低めも広くなった(はずの)新ゾーンしか知らないはずの選手が、低めのストライクにいちいち文句をつける」なんていう、おかしな現象が起こるのも、実は、MLBのアンパイアの中に、「この『2001年以降、新しいストライクゾーン』を徹底していこうとせず、むしろ故意にか何か知らないが『2001年以前の古いストライクゾーン』のままコールしようとしているとしか思えないアンパイア」が現実に存在しているからだと、ブログ主は思っている。(2010NLCSでアンパイアをつとめたJeff Nelsonもそのひとり。どういうわけか、サンフランシスコのゲームにはこういう「ステロイド時代風のコール」をしたがるアンパイアが多い)
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2010年10月21日、ちょっと心配になるロイ・ハラデイの「ひじ」と、「アンパイアのコール」。今日の球審は、今年8月、これまで一度も退場になったことのないニック・マーケイキスと、監督バック・ショーウォルターを退場にしたJeff Nelson。


2001年以降にストライクゾーンが大きく変更になったのは、MLBのステロイド規制に重い腰を上げたコミッショナー、バド・セリグ氏の意向によるもの。
これまでもイチローのメジャーデビューが、いかにステロイド禁止以降のMLBを象徴しているかという点については、何度も繰り返し記事にしてきた(ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:MLB史におけるイチローの意義、ケン・バーンズ)。
「ステロイド時代には、アウトコースが意図的に非常に広くされ、高目はとらなかったが、イチロー時代以降、ルールブック通りのストライクゾーンに変更された」という点も、「イチロー時代のクリーンさ」をよく象徴している。


「ステロイド時代のストライクゾーン」と「イチロー時代のストライクゾーン」は、そもそも時代背景からして、まったく違う。
ステロイド時代のMLBは、ステロイド打者に「飛ぶボール」を与えるなどして、ホームランの多発を演出し、集客を高めるかわりに、投手には「投手有利な、広いストライクゾーン」を与えて、帳尻を合わせた、といわれている。
つまり、打者に有利すぎるステロイド時代には、ストライクゾーンを「横長」に拡張して、例えばアウトコースに数インチもはずれているボール球でも「ストライク」と投手有利に判定することで、「投手のストライクのとりやすさと、打者のパワーの帳尻をあわせた」わけだ。

これに対して、イチロー以降の「ステロイド禁止。飛ばないボール。スピード重視」のMLBは、ストライクゾーンを「ルールブック通りの、縦に長いストライクゾーン」に戻そうとしている

もちろん、ケン・バーンズが「イチローはクリーン」という言葉で表わそうとしている2001年以降のベースボールは、ルールブックどおりのストライクゾーンの、揺るぎないベースボールである。
(まぁ、だからこそ、ランナーが出るとアウトコース低めのサインばかり出しているダメ捕手城島は、ステロイド時代的なストライクゾーンに毒されたキャッチャーであって、2001年以降のMLBには絶対に来るべきではなかった典型的なキャッチャーという言い方ができるわけだ)


だが、残念なことに、
ストライクゾーンの揺らぎ」は、2001年で全て解消したわけでもなんでもない。むしろ2010年になっても、アンパイアのコールには、いまだに「古いゾーン」と「新しいゾーン」が混在している。
頑固に「古いゾーン」を使い続けているアンパイアもいれば、素直にMLBの指導方針の変更に沿って「新しいゾーン」にのりかえたアンパイアもいる、という混乱した状況では、「判定の個人差」はかえって広がってしまう

だとすれば、かえってアンパイアの判定は、かつてないほど「個人差」に強く左右されてしまっている現状もあるだろうと、ブログ主は考える。

新ゾーンの講習を受けるデトロイト監督フィル・ガーナー(2001年)これは、最初に挙げた2001年の記事に添付されている、別の写真。アンパイアのJerry Layneが、当時のデトロイトの監督フィル・ガーナーをわざわざ打席に立たせて、「膝元のストライク」について講習をしている。

つまり、1996年の変更で「ボール1個分、低くなったはず」の、「低めのストライク」は、この記事が書かれた2001年のスプリング・トレーニングの時点でも、わざわざこうしてスプリング・トレーニングで忙しい監督を捕まえて講習をしてみせないといけないほど、十分に周知徹底されてはいなかった、ということ。もちろん、実際のゲームでもきちんと運用されていたとは言えない。

続きは次回。






damejima at 15:21

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