オクトーバー・ブック

2014年10月30日、2014オクトーバー・ブック 〜 マイク・モースの「無死満塁でのライト犠牲フライ」というビッグプレーが引き寄せたワールドシリーズ第7戦の勝利。
2014年10月29日、2014オクトーバー・ブック 〜 ヴェネズエラの悪球打ち魔人サルバドール・ペレスにあえて「悪球勝負」を挑み、ワールドチャンピオンをもぎとったマディソン・"Mad Bum"・バムガーナーの宇宙レベルの「度胸」。
2013年10月15日、ポストシーズンに頻発しているらしい「バーランダー有利のアウトコース判定」に関する記事コレクションと、2012ALCSにおけるイチロー。
2012年11月10日 2012オクトーバー・ブック 投げたい球を投げて決勝タイムリーを打たれたフィル・コーク、三冠王の裏をかく配球で見事に見逃し三振にしとめたセルジオ・ロモ。配球に滲むスカウティングの差。
2012年11月7日、2012オクトーバー・ブック イチロー『球速測定後ホームラン』 〜『初期値鋭敏性』としての2012 ALCS Game 1
2012年11月9日、2012オクトーバー・ブック WS Game 4でフィル・コークが打たれた決勝タイムリーを準備した、イチローの『球速測定後ホームラン』 による『バルベルデ潰し』。
2012年11月6日、2012オクトーバー・ブック アウトコースのスカウティングで完璧に封じ込められたプリンス・フィルダー。キーワードは「バックドア」、「チェンジアップ」。
2012年11月2日、2012オクトーバー・ブック 「スカウティング格差」が決め手だった2012ポストシーズン。グランダーソンをホームランバッターに押し上げた「極端なストレート狙い」が通用しなくなった理由。
2012年10月9日、2012オクトーバー・ブック 『マトリクス・スライド』。ついに揃った 『イチロー 三種の神器』。
2012年10月6日、2012オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。

October 31, 2014

6フィート5インチ(約196センチ)もある大柄なマイク・モースは、動作の感じからしても、かつてのシアトル時代、ナッツ時代の印象からしても、不器用なタイプだったはずだが、その彼が2014ワールドシリーズ第7戦でみせた「2度にわたる流し打ち」、特に、2回表無死満塁での犠牲フライが、後続打者の打点にもつながる「ライトへのフライ」だったことには、正直痺れた。既にツイッターには書いたことだが、記録として残したいので、もう一度書く。


「無死満塁でのライトへの犠牲フライ」は、サードランナー生還はもとより、セカンドランナーもタッチアップできるため、「1死1、3塁」となって、次打者が続けて犠牲フライを打てば2点目追加も期待できる。これが「レフト犠牲フライ」なら、残るシチュエーションは「1死1、2塁」だから、話が違ってくる。
そんな理屈くらい、誰でもアタマではわかっていても、とかくパワーで押したがる打者の多いMLBだ、簡単には実現できない。フルスイングで変化球をひっかけて内野ゴロ、ダブルプレー食らっている間に1点だけ入って2死3塁、点が入らないよりはマシ、そういう大雑把さがMLBにはある。

無死満塁だからこそホームランを狙っていいという豪快な考え方、無死満塁だからこそ最低でも1点はとるバッティングをすべきというタイトな考え方、野球にはいろいろな考え方がある。貯蓄指向が国によって大きく違うのと同じで、案外国民性がでやすい。


マイク・モースは、得点効率の良さ、相手に与えるプレッシャーの大きさでレフトフライとは比較にならない「ライト犠牲フライ」を打つことを選んだ。(ちなみに彼は「右投手のほうが得意な右打者」であり、ジェレミー・ガスリーも、ケルビン・ヘレラも、右投手だ)

こういうことを細かい野球と呼ぶか、高い得点効率と呼ぶか、ラベルはどうでもいいのだが、少なくとも、マイク・モースのようなタイプの選手にさえ、見栄を捨ててチームに貢献しようと思わせる「空気」がチームにあることが(移籍当時のモース自身も「フィールドにいる選手の誰もが、いつもなにかしている」と新天地の空気を語っている)、サンフランシスコ・ジャイアンツの5年で3度のワールドシリーズ優勝に繋がっていることは間違いない。

ワールドシリーズ優勝という収穫。その大きさを考えるなら、「ライト犠牲フライ」はけしてスモールでなく、むしろ「ビッグプレー」だ。その「大きさ」に気づかないのは、その人間の小ささのせいであって、野球の大小の問題ではない。


2014WS第7戦2回表 モース 犠牲フライ2014WS第7戦2回表
マイク・モース
ライトへの犠牲フライ
投手:ジェレミー・ガスリー(右腕)
San Francisco Giants at Kansas City Royals - October 29, 2014 | MLB.com Classic

2014WS第7戦4回表 モース ライト前タイムリー2014WS第7戦4回表
マイク・モース
ライト前タイムリー
投手:ケルビン・ヘレラ(右腕)

ちなみに、あくまで蛇足なのだが
カンザスシティの右の速球派リリーバー、ドミニカのケルビン・ヘレラは、今シーズンのRISP(得点圏)場面で、93人の打者に被打率.172と、十分すぎるほどのスタッツを残しており、また70イニング投げてホームランを1本も打たれていない。
ところが、RISPシチュエーションをもっと詳しく調べてみると、ヘレラは「満塁」と「1、3塁」が非常に苦手で、場合によっては被打率が3割を越えてしまっているのだ。

大雑把にスタッツを眺めていると、「ケルビン・ヘレラは得点圏にランナーがいてもまったく動じないリリーバー」とだけ、みなしてしまう。だが彼が得意なRISPシチュエーションというのは、あくまで、「1、2塁」、「2塁」といった「よくある場面」だけであって、どういうわけか「サードにランナーがいる場面」を非常に苦手にしているのだ。


野球において発生数の多いRISPシチュエーションといえば「1、2塁」「2塁」だから、問題ないといえば問題ないと思われるかもしれない。

だが、2014ワールドシリーズ第7戦の4回表にカンザスシティ監督ネッド・ヨーストがピッチャーを先発ジェレミー・ガスリーからケルビン・ヘレラに変え、そのヘレラがマイク・モースに決勝タイムリーを浴びてしまった場面というのは、ヘレラが苦手としている1、3塁の場面だった。

また、マイク・モースは右打者だが、右投手を得意にしている右打者なのだ。キャリア通算でも右のほうが打率がいいし、2014年に至っては右.293に対して左.248と、右投手との対戦のほうがはるかに打率がいい。
カンザスシティは綿密で機動力のある野球をしていると思われがちだが、こうした細かい点を考慮しているわけではないのだ。


正直、このワールドシリーズでのネッド・ヨーストの采配の動揺ぶりには首をかしげる点がいくつか感じられた。例えば打順がそうで、アレックス・ゴードンを上位に固定するとか、打てる選手をもっと上位に固めて起用していたらシリーズの結果は違っていたかもしれない。
数年前のテキサスのワールドシリーズで、ピンチの場面でのリリーフ起用の酷さにみられた「ロン・ワシントンのうろたえぶり」と、ある意味同じ失態といってもいい。
ワールドシリーズでのテキサスについては、ロン・ワシントンさえいなかったら結果は違っただろうにと何度も思ったものだが(苦笑)、ネッド・ヨーストがこれからカンザスシティでどういう存在になるかはわからないが、最近テキサスを辞めたロン・ワシントンに一度会って、なにかアドバイスをもらったほうがいいかもしれないとすら思うのである(笑)

damejima at 12:47
ワールドシリーズはサンフランシスコ・ジャイアンツが勝ち、21イニング1失点のマディソン・バムガーナーがシリーズMVP。終わってみれば順当な結果だ。おめでとう、バムガーナー。

第1戦の球審は案の定、バムガーナーが非常に相性の悪いJerry Mealsだったが、彼がまったく動じることなくカンザスシティ打線を抑えこんだ時点で、このワールドシリーズ、すでに「勝負あり」だった。
参考記事:2014年10月14日、ワールドシリーズ担当アンパイア7人と、両チームのエースとの相性だけからみた、2014ワールドシリーズの勝者。 | Damejima's HARDBALL


それにしても第7戦、1点差の9回裏2アウト3塁での「ヴェネズエラの悪球打ち(英語ではbad-ball hitter)魔人サルバドール・ペレス」と、サンフランシスコの怪童バムガーナーとの「悪球勝負」は面白かった(笑)


初球

ペレスが例によってアウトコース高めの「とんでもないボール球」をスイングしてきたことで、怪童同士の対決は始まった。

2014WS 第7戦 9回裏 ペレスvsバムガーナー2014ワールドシリーズ第7戦
スコア:SFG 3-2 KCR
9回裏2死3塁
打者:サルバドール・ペレス
投手:マディソン・バムガーナーSan Francisco Giants at Kansas City Royals - October 29, 2014 | MLB.com Classic

2014WS第7戦 9回裏 ペレスvsバムガーナー出典:BrooksBaseball.net: PITCHf/x Tool


「初球に、ペレスがアウトコース高めのとんでもないボール球を空振りしたこと」は、単なる偶然ではない。以下の彼のHot Zoneデータを見てもらうとわかる。

KCRサルバドール・ペレス 2014Hot Zone

上は「全投手、全球種のデータ」だが、これをさらに「スピードボールのみ」に絞り込んでみる。すると、こうなる。

KCRサルバドール・ペレス 2014Hot Zone/Fastball

ボールゾーンが真っ赤だ。
こんなバッター、見たことない(笑)

ストライクゾーン内部のかなりの面積が青くなっている(=ストライクを振ると凡退が多い)にもかかわらず、ゾーンの外、特にアウトコースが真っ赤に染まっている。ボール球をかなりの割合でヒットにしていることがよくわかる。バッターとしてのサルバドール・ペレスが、いかに「変態」かが、よくわかるデータだ(笑)

さらに注目してもらいたいのは、「ストライクゾーンの外側どころか、内側、さらに上下にも、青色や赤色でカラーリングされたエリアがあること」だ。
つまり、ペレスは「ボール球のスピードボールなら、インアウト、高低、まるで関係なく、容赦なく振ってくるバッター」であり、さらにいえば、「アウトコースのボール球(特にスピードボールを)をヒットにすることが、ストライクを打つことより得意な、ありえないバッター」なのだ(笑)

だからこそ、9回裏、1点差の2死3塁で、バムガーナーが初球に投げた「アウトコースのボールになるスピードボール」は、ペレスにしてみれば、「『俺のど真ん中』にキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」という意味になる(笑) よくまぁ、同点タイムリーを食らわなかったものだ。


振り返ってみると、バムガーナーはこのワールドシリーズで21イニングも投げているが、失点は第1戦で打たれたソロホームランのみ。その唯一無二の失点を喫した相手こそ、ヴェネズエラの怪人、サルバドール・ペレスだ(笑)
打ったのは「インコースのストレート」だが、データでみるとやはりストライクゾーンを「外れて」いる。MLBの球審は右打者のインコースをとらない人が多いから見逃せばボールだろうが、ペレスにとっては「ど真ん中のストライク」だったわけだ(笑)
打球はレフトスタンドにあっさり消えていった。



2014WS第1戦 ペレスHR(投手バムガーナー)2014ワールドシリーズ第1戦
ペレス ソロホームラン
投手:バムガーナー


2球目以降

香水(女性用品店Victoria's Secretのボディスプラッシュらしい)をつけてゲームに臨んでいる理由を聞かれて「球審をいい気持ちにして酔わせるためさ」なんて答えるわ、9月のデトロイトとの大事な首位決戦で帰塁せずタッチアップしてアウトになってゲームに負けるわ、WS第2戦ではSFGのリリーフ、ハンター・ストリックランドとケンカするわ、まぁ、やりたい放題な自然児がサルバドール・ペレスなのだが(笑)、そのヴェネズエラの怪人を抑えないと、サンフランシスコ・ジャイアンツは3度目のワールドシリーズ制覇にたどりつけない。

そこでバムガーナー、
何をしたか


悪球打ち魔人ペレスが振りたくなりそうな
「悪球」ばかり投げた
、のである(笑)


ペレスもペレスだが、
それを越えていくバムガーナーもバムガーナーだ。

彼も、キャッチャーのポージーも、たぶんペレスが「悪球打ちバッターであること」くらい、わかっている。わかっているなら、初球に「ボール球(=ペレスのストライク)をあえて投げなくても、「普通に、ストライクゾーン内で勝負」でもよかったはずだ。だがバムガーナーは、あえて「ペレスの大好きなボール球」を投じ続けて勝負することにしたのである。

よほど、唯一のホームランを打たれたのがしゃくにさわっていたのかもしれないが(笑)、すでに一度ボール球をホームランされているというのに、あとアウトひとつでワールドシリーズ制覇だが、ランナーが帰れば同点、延長戦突入などという緊迫した場面で、どこからそういうケタ外れの度胸、そういう奇想天外な発想が沸いて出てくるのか、まったくもって理解できない(笑)

ストライク勝負には危険性もある。ついうっかり手元が狂って球がボールゾーンにいってしまうと、「魔人ペレス・ストライクゾーン」(笑)に入りかねないからだ。
だが、だからといって、「ペレスの苦手な高めのボールゾーン」に投げたつもりが、うっかり「ペレスの大得意なアウトコースのボールゾーン」にいかないと、誰が保障できる(笑)なんせ、相手は普通の計算などまるで役に立たない「香水好き魔人」なのだ。

こんな「悪球配球」、よほどの度胸がないと続けられっこない。ストライクを投げる訓練は誰でもやるが、ボール球、それも、まちがいなく打たれるボール球にならないように気をつけながら、打たれないボール球をきわどく投げ続ける訓練など、誰もやるわけがない(笑)


マンガでしか見られないような勝負を現実の野球でやってのけ、ヴェネズエラの香水魔人すらねじふせた、"Mad Bum"、マディソン・バムガーナー。たぶんこの人なら、たとえ宇宙人と野球をやっても完封すると思う(笑)

damejima at 07:06

October 16, 2013

ジャスティン・バーランダー登板時にみられる「左バッターのアウトコースの投手有利な判定」について、なんとなく調べ続けていたら、まぁ、どういう理由でこんなにたくさん書かれたのか知らないが、過去に、それもとりわけ「ポストシーズンでの判定」について書かれた記事が、あるわ、あるわ(笑)
どれもこれも、どこか怒りのこもった記事ばかりなのが困りものではあるが(苦笑)、それにしても、この数の多さ(笑)あんまり多いので、ついでだからコレクションしておくことにした(笑)


それにしても面白いのは、大半の記事が異口同音に「アウトコースの判定」を問題にしていることだ。どうやら、この「問題」の存在に気がついた人の数は、かなりの数にのぼるとみた。
この「ポストシーズンにおけるバーランダー優遇現象」が観測され続ける理由はなんだろう。バーランダーがよほど「左バッターのアウトコース」にばかりいい球を投げているのか、もしくは、「バーランダーにだけ好意的なアンパイア」が世の中に溢れかえっているのか、はたまた、「バーランダー嫌いのファン」が世の中に溢れているのか。どれが正解なのか、教えてもらいたいものだ(笑)


記事1
2011 ALDS Game 3 DET vs NYY
におけるバーランダー有利な判定(サバシアへの判定との比較)
Comparing strike zones for Sabathia and Verlander - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
サバシアが5回1/3(7安打4失点)しかもたず、当時まだセットアッパーだったラファエル・ソリアーノが、デルモン・ヤングに決勝ホームランを打たれて敗戦投手になったゲームだ。
ちなみにヤンキースはデトロイト時代のデルモン・ヤングには煮え湯を飲まされ続けていて、2011ALDSで3本、2012ALCSでも2本、合計5本ものホームランを打たれ、36打数12安打9打点とさんざんな目にあわされ、2度敗退する原因となった。
記事によれば、このGame 3で 「ゾーン外の球がストライク判定された割合」は、サバシア7.3%に対し、バーランダーはその約2.7倍、19.6%もの数字になるという。

この試合の球審は、「ゾーンの狭さ」と「判定の確かさ」の2つで有名なMLBアンパイア界の巨匠Gerry Davis(第3回WBCの日本ラウンド 日本対中国戦の球審をつとめたアンパイア)なだけに、2人の先発投手の判定にそこまで差が出るものなのかどうか、ちょっと信じがたい部分もないではないが、記事に掲載されたデータで見るかぎり、たしかに左バッターの場合の判定が「バーランダーだけ」甘くなっている。
Damejima's HARDBALL:2013年3月3日、WBCファースト・ラウンドにみる「MLB球審のストライクゾーン」とゲーム内容との関係 (1)基礎知識編

October 3, 2011 American League Division Series (ALDS) Game 3, Yankees at Tigers - Baseball-Reference.com

ちなみに2011ALDSといえば、Game 5で、この年の7月末にデトロイトにトレードされたばかりのダグ・フィスターがNYY相手に5回1失点と好投したのが懐かしい。リーランドはこの試合でも、2013ALDSのOAK戦でやったようにシャーザーをリリーフ登板させ、必勝態勢をひいている。
かたや、ジョー・ジラルディも、当時のエース、サバシアをリリーフ登板させているが、サバシアはこの2011ALDSでヤンキース投手陣では最も多くの失点をしている投手であって、たとえリリーフといえど、負けられないGame 5で使う意味が全くわからない。おまけにジラルディは、5回の2死2塁でミゲル・カブレラを敬遠させる弱気な策をとって、勝負どころに強いのがわかりきっているビクター・マルチネスに無理な勝負を挑み、決勝タイムリーを打たれている。(おまけに、1失点しているサバシアを次の6回も投げさせた)
ま、振り返ってみれば、ジラルディはイチローが移籍する前から勝負どころではいつも「謎采配」をする監督ではあったのだ(笑)
Damejima's HARDBALL:2011年10月6日、フィスター5回1失点の好投で、ALDS Game 5の勝ち投手に。デトロイトがヤンキースを破って、テキサスとのALCS進出!

October 6, 2011 American League Division Series (ALDS) Game 5, Tigers at Yankees - Baseball-Reference.com

記事2
2012 ALDS Game 5 DET vs OAK
におけるバーランダー有利な判定
Strike-Zone Controversy During ALDS? | A Good Sports Hang
デトロイトがオークランドを6-0のシャットアウトで下し、2012ALDSの勝ち抜けを決めたゲーム。球審はWally Bell。オークランド先発はジャロッド・パーカー。
オークランドは、クリスプ、ドリュー、セス・スミス、レディックと、上位に左バッターを4人並べたが、その4人で合計9三振を喫するという惨憺たる結果に終わっている。
翌2013年のALDS Game 5でオークランドは、前年を上回る6人もの左バッターを並べてバーランダーに挑んだが、やはり0-3のスコアでシャットアウト負けし、シリーズ敗退している。
October 11, 2012 American League Division Series (ALDS) Game 5, Tigers at Athletics - Baseball-Reference.com


記事3
2012 ALCS Game 3 DET vs NYY
におるバーランダー有利な判定(フィル・ヒューズへの判定との比較)
Rejection By Zoubek: One of the Many Benefits of Being Justin Verlander
ヤンキースが1-2のクロスゲームで敗れ、シリーズ3連敗となったゲームだ。球審は、本来はゾーン全体が狭いというデータをもつが、気まぐれな判定ぶりで何をするかわからないSam Holbrook。結果的にヤンキースはそのまま次のゲームでも敗れ、スイープを食らった。
記事によれば、このゲームでバーランダーは、左バッターのアウトコースの判定で、ゾーン外の球を10球程度ストライクと判定されている。その一方、フィル・ヒューズは、5球程度のゾーン内の球を「ボール判定」されている、という。
Sam Holbrookに関する記事:Damejima's HARDBALL:2011年4月15日、Sam Holbrookの特殊なストライクゾーンに手こずったジェイソン・バルガス。バルガス、松阪、コーファクスのピッチングフォーム比較。

この2012 ALCS Game 3で、ヤンキースのチーム初ヒットを打ったのがイチローなら(4回 レフト前)、ただひとり2安打して気を吐いたのも、イチローだ。
だが、試合後のデータをみればわかるとおり、2人の左打者ガードナー、グランダーソンはノーヒットに終わり、左のカノー、左打席のテシェイラも精彩はなかったように、ヤンキースの左バッターは全体としてはバーランダーに抑え込まれた。
October 16, 2012 American League Championship Series (ALCS) Game 3, Yankees at Tigers - Baseball-Reference.com

記事4
年々縮小していく傾向にある「バーランダーの速球につきものの有利なアウトコース判定」
Verlander's Fastball Losing Favor with Umps - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
かつて100マイルを誇ったバーランダーのストレートだが、その球速が最近になって低下していくのにしたがって、「バーランダーの投げるストライクゾーン外の速球がストライク判定されるパーセンテージ」も年々下がってきてますよ、という主旨の記事。
記事によれば、「ゾーン外の球がストライク判定される率」は、2011年にバーランダーが「16.4%」と高く、この数字より高いパーセンテージをもつ右投手は、リヴァン・ヘルナンデス、フィスター、マーカム、ボーグルソン、ダン・ヘイレン、コルビー・ルイス、ロイ・ハラデイくらいだという。


記事5
2013年に「ストライクゾーン外の球を、最も多くストライクとコールされた投手ランキング」(バーランダーは第3位)
Which Pitchers are Getting Calls, Getting Squeezed? - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
この記事によれば、「ストライクゾーンを外れた球を、最もストライクとコールされやすい投手」は、どういうわけか、ほとんどが「右投手」ばかりらしい。(アレックス・コブ、カイル・ローシュ、バーランダー、デンプスター、ピービー、バックホルツ、マカリスター、ヘリクソン、ケビン・スロウウィー、マット・レートスの順。逆に、ゾーン外の球を「ボール判定」されてしまいやすいのは、マット・ハービーやジョー・ソーンダースらしい)

だが、確かにALDS Game 5で、有利な判定を受けたとされるバーランダーは「右投手」だが、対戦相手のソニー・グレイだって「同じ右投手」だ。
だから、この程度の「寄せ集めのデータ」では、「右投手が左打者に投げるアウトコースのゾーンは一般に広い」と断言することなど、もちろんできない相談だし、ましてや、「バーランダーのアウトコースのストライクゾーンが、ソニー・グレイに比べてやたらと広かったこと」を、「バーランダーが右投手だから」と説明して済ますことはできない。
こういう記事だけ読んで、「MLBのアンパイアには、右投手が左打者のアウトコースに投げた場合、ストライクゾーンが広く判定されやすくなる傾向がある」と思い込んでも、それはまったく意味がない。



さて、こうしてポストシーズンでのバーランダーのことを書いていると、2012ALCSにおけるイチローの活躍を、あらためて書き起こしたくなってくる。

2012 ALCS Game 1
0-4と、4点リードされて迎えた絶体絶命の9回裏、当時のデトロイトの守護神ホセ・バルベルデから打った起死回生の2ランは忘れられない。初球のど真ん中の速球を見逃した後、バルベルデが投じたインコースいっぱいの速球を振り抜いた。この試合、イチローは2ランを含む4安打。爽快な試合だった。

Damejima's HARDBALL:2012年11月9日、2012オクトーバー・ブック WS Game 4でフィル・コークが打たれた決勝タイムリーを準備した、イチローの『球速測定後ホームラン』 による『バルベルデ潰し』。

October 13, 2012 American League Championship Series (ALCS) Game 1, Tigers at Yankees - Baseball-Reference.com



2012 ALCS Game 3
左バッターにとって、「ポストシーズンで対戦するのは鬼門」とさえいえる右腕バーランダーから、イチローが2安打したゲーム。
速球の衰えがささやかれるバーランダーが、打者を追い込んでから投げる最近の勝負球のひとつが、独特の握りから投げる「チェンジアップ」であることはよく知られているわけだが、イチローの4回のチーム初ヒットは、フルカウントからその「チェンジアップ」を打ったもの。
この記事で書いてきたことでわかるように、「バーランダーがポストシーズンで左バッターに投げるアウトコースの球」は、たとえストライクゾーンから外れていても、ストライク判定されやすい。それをしっかりヒットにしたのだから、たいしたものだ。
左バッターにとって非常にやっかいな「バーランダーのアウトコースの球」を、それもバーランダー有利な判定が頻発するポストシーズンにヒットにするのがいかに難しいかを知れば、このGame 3におけるイチローの2安打の奮闘ぶりが理解できるはず。
October 16, 2012 American League Championship Series (ALCS) Game 3, Yankees at Tigers - Baseball-Reference.com


やはり、どこをどうみても、シアトルから移籍してシーズンの半分だけ過ごした2012年ヤンキースで、ポストシーズン終了まで粘り強く活躍しつづけたイチローが、翌2013シーズンの開幕を「下位打線から再度始めなければならない理由」など、まったく、1ミリも、見つからない。

そもそも、上に挙げたイチローのヤンキース移籍前の、NYY対DETの2011ALDSでのヤンキースの打撃スタッツをみればわかることだが、2011年のポストシーズンの時点で既に、ヤンキースが「勝負どころになると全く打てないチーム」であることは明確になりつつあった。
2011ALDSでいえば、打線全体で5試合で50三振、1試合あたり10三振を喫して、シリーズ敗退。テシェイラ、Aロッド、ラッセル・マーティンの3人は打率1割台でまるでアテにならず、その打てない3人に、ニック・スイッシャー、ジーター、グランダーソンを入れた6人でも、ホームランはたった2本しか打ててない。

つまり、2013年は怪我人が多かったから打てない、のではなく、「怪我人が出まくる前から、見た目ほど打ててはいなかった」というのが正しいわけだ。

近年のビッグネームを並べただけのヤンキース打線の中身がスカスカになってきていたことに誰ひとり気がつかなかったのは、単に、ヤンキースにカネはあっても、分析力は無い、ただそれだけのことである。ジラルディとの4年契約をみても、「ヤンキースの分析力の無さ」ははっきりしている。

damejima at 08:44

November 11, 2012

2012シーズンのポストシーズンの「戦い方のチームごとの巧拙」をまとめると、以下のような言葉になる。

「自分の打ちたい球」「自分の投げたい球」しか考えられないチームが負け、「対戦相手が何をやりたがっているのか」を考える能力のあったチームが最後まで勝ち残った。



ワールドシリーズに出場した2チームにしても、その戦いぶりの巧拙には大差があった。それを如実に示す、2つの打席を以下に示す。それは「2012シーズン終盤のMLBのチームごとの戦い方の巧拙」を如実に現す鏡でもあった。
San Francisco Giants at Detroit Tigers - October 28, 2012 | MLB.com Classic

ひとつは、イチローの2ランホームランに端を発した4失点でホセ・バルベルデを破壊されて使えなくなったデトロイトの代役クローザー、フィル・コークが、サンフランシスコにシーズン途中ボストンから移籍してきたマルコ・スクータロに、決勝タイムリーを打たれたWS Game 4の10回表の打席。
もうひとつは、同じゲームの10回裏、サンフランシスコの髭のクローザー、セルジオ・ロモが、三冠王ミゲル・カブレラを快心の見逃し三振に切って取って、サンフランシスコのワールドシリーズ制覇が決まった打席である。


「読まれた」フィル・コークのストレート

2012年10月28日 WS Game 4 10回表 スクータロ タイムリー2012年10月28日
WS Game 4 10回表
スクータロ タイムリー


フィル・コークの持ち球は、93マイル前後の4シーム、80マイル前後のスライダー、83マイル前後のチェンジアップとあるが、そのなかで彼が自信をもって投げられるボール、といえば、「4シームのみ」であることは、ア・リーグでコークと対戦の多いバッターなら誰でも知っていると思う。
Phil Coke » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball


場面は、3-3で迎えた延長10回、2死2塁。

このタイムリーを許してはならない場面で、代役クローザー、フィル・コークは、平行カウント1-1から、ベースの真上に落ちる絶妙な低めのチェンジアップを投げた。これは本当に素晴らしいチェンジアップで、もしバッターがグランダーソンだったら間違いなく空振りしていたし、もしスクータロが「なんでもかんでもスイングするバッター」だったら、空振りしていただろう。

だが、打者マルコ・スクータロは、けしてチェンジアップを苦手とするバッターではないにもかかわらず、このきわどいチェンジアップを振らずに、見逃した
詳細は下に書くが、彼が見逃すことができた理由のひとつは、2012ポストシーズンにおけるスクータロが「やたらボールを見ようとするバッター」であり、さらには、アウトコースをセンターあるいはライトに流し打つことで、ALDSでの絶不調から抜け出しかかっていたからだ。

そして球審Brian O'Noraは、このきわどい低めのボールを「ボール」と判定した。低めの判定が怪しいという過去データのある球審(例:Brian O'Nora's Strike Zone Last Night - Royals Review)ではあるが、この判定に関しては正しかった。
この「ストライクゾーンから入って、結果的にボールになるチェンジアップ」が、バッターに見逃され、球審にも正確にボール判定されたことが、Game 4の分かれ目になった。


この「スクータロの見逃し」と「球審のボール判定」、野球の試合ではよくある偶然のように見えるが、どちらも偶然ではない


ワールドシリーズを前にBaseball Analysticsは、2012ポストシーズンでのマルコ・スクータロのバッティングについて、打率.150、20打数3安打と不調に終わったシンシナティとのNLDSでインコースを38球も見逃し、ストレートの大半を見逃していたこと、セントルイスとのNLDSでも同じように39球ものインコースを見逃したが、アウトコースの球をセンターおよびライト方向に7本のヒットを打つという手法で復調しつつあったことをふまえて、ワールドシリーズにおいてデトロイトがとるべき「スクータロ対策」について、次のように明確に述べていた。
If this pattern continues, and the Tigers are going to quiet Marco Scutaro, look for them to be working him on the inner half of the plate and up in the zone.
「もし(NLCSにおいてみられたスクータロのアウトコースを流し打つ)バッティングパターンが続き、そしてタイガースがスクータロを沈黙させたいなら、インコース、高めのゾーンにしか、活路はない」
Analyzing NLCS MVP Marco Scutaro - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
Sergio Romo » Statistics » Pitching | FanGraphs Baseball

2012NLCSにおけるマルコ・スクータロの「アウトコース打ち」2012NLCSにおけるマルコ・スクータロの「アウトコース打ち」を示すHot Zoneデータ。(Baseball AnalysticsのHot Zoneは投手から見た図。一方、Brooks BaseballのPitchFX Toolは、球審から見た図で、左右が逆になっていることに注意)


球審Brian O'Noraの判定は以下の通り。3球目のチェンジアップの判定(=下記の図で「3」という数字のついた部分)は、非常にきわどい球だが、「ボール」とした球審ブライアン・オノーラの判定は、正しい。
Brooks Baseball · Home of the PitchFX Tool - PitchFX Tool

2012年10月28日 WS Game 4 10回表 スクータロ 3球目の判定

このワールドシリーズを捌いたアンパイアには、過去にいろいろひと悶着あったアンパイア、経験が足りないのではと思われるアンパイアが多くいたと思うが、結果的にこのワールドシリーズの判定ぶりについては、クチうるさいサイトの多いアメリカの批評サイトのいくつかが「非常に素晴らしい判定ぶりだった」と高評価したように、判定に問題はなかった。(もちろん低評価を下したサイトがなかったわけではない)

Close Call Sports: Discussions: 2012 World Series

World Series: After Video Review, Umpire Crew Perfect in San Francisco Games | Bleacher Report

3球目のきわどいチェンジアップを見逃され、後がなくなったフィル・コークは、4球目の「振ってくれればもうけもの」といえる、アウトコースに外れる4シームもスクータロに見逃されて、カウントを3-1にしてしまい、5球目は、4球目とほぼ同じコースに、同じ4シームを投げた。
2死2塁で、1塁が空いていただけに、おそらくここは「フォアボールでもしかたがない」という気持ちで投げたボール球だったのかもしれない。
だが、よくこのブログでいっている「同じコースに、同じ球種を続けて投げ続けると、徐々に内側に寄っていく」という原則どおり、5球目の4シームは4球目より内側に寄ってしまい、アウトコースだけを待っていたスクータロに狙い通り流し打ちされてしまい、これが決勝タイムリーとなってしまう。




スクータロがこの「5球目のボール球のストレート」を打って右中間方向に打球を飛ばしたことが、ただの偶然か、そうでないかは、ここまで書いてきたことでわかるはずだ。
ワールドシリーズ前にBaseball Analysticsが指摘したように、アウトコースを狙っているスクータロに「あえてアウトコースを投げる」なら、「ヒットにできそうにないほど、遠いところに投げておくしかなかった」のである。

逆に、スクータロ側から言えば、代役クローザーのフィル・コークの「持ち球の少なさ」からして、3-1と打者有利なカウントにもちこんでから待つのは「ピッチャーの得意球種のストレート」あるいは「自分の得意コースのアウトコース」に絞っていたはずだ。

フィル・コークは、4球目か5球目で、Baseball Analysticsがスクータロについてスカウティングしたとおり、インコースにストレートを投げこんでいれば、それが多少甘いコースであっても、「インコースとストレートを見逃す癖のあるスクータロ」は、スイングしてこなかったのではないか、と思う。また、4球目に、3球目に続けてチェンジアップを投げていたとしても、たぶんスクータロはスイングしてこなかったように思う。
いずれにしても、フィル・コークはスクータロを追い込むチャンスを「自分から逃した」のである。

結局のところ、スクータロに決勝タイムリーを打たれたフィル・コークの配球の何がいけなかったのかといえば、フィル・コークの配球が、「自分本位」であり、「相手が何を待っているかで、次の球を決めている」のではないからだ。
彼は基本的に、他の大多数のピッチャーと同じように、「自分の投げたい球を投げているだけ」だ。

これが、後で書くミゲル・カブレラを見逃し三振に切ってとれたセルジオ・ロモとの大きな違いだ。
サンフランシスコのピッチャーは、「相手バッターが何を待って打席に入っているか」を基本的に頭に入れて投げていて、そのことがサンフランシスコをワールドチャンピオンにした



「裏をかいた」セルジオ・ロモのストレート

2012年10月28日 WS Game 4 10回裏 ミゲル・カブレラ 三振2012年10月28日
WS Game 4 10回裏
ミゲル・カブレラ 三振


見ればわかることなので、簡単に書く。

セルジオ・ロモは、スライダーを中心に配球してくるタイプのクローザーであることは、誰でもわかっている。
3球のうち2球が、77マイルちょっとの遅いスライダーで、あとは、87マイルのシンカーと、同じ87マイルの4シーム。チェンジアップも投げられないこともないが、スライダー以外の球種といえば、基本的にはストレートで、シンカーを少し混ぜる程度だ。(とはいえ、シンカーと4シームの球速が同じであることは、ロモのピッチングの要点のひとつなのだが)
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10回表。

先頭はインコースしか待っていないのがわかりきっているワンパターンな右打者、オースティン・ジャクソン
ロモは、ジャクソンの苦手なアウトコースへ、得意のスライダー4連投。軽々と空振り三振。
ALCSでヤンキースがあれほど手こずったジャクソンは、実はこんなに簡単に三振がとれる「スカウティングしやすいバッター」なのである。サンフランシスコにとって、ジャクソンはまったくの「安全パイ」だったわけだが、むしろこの程度のバッターに手こずってしまうヤンキースの「スカウティングの無さ」が悪い。

2人目は、左のドン・ケリー。アウトコース低めに4シームとスライダーを集めるだけの「簡単なお仕事」で、空振り三振。


問題は、3人目のミゲル・カブレラだ。
右のスライダーピッチャー、ロモが右バッターを攻める定番の配球で、アウトコース低めのスライダーばかり5連投して、カウント2-2。
5球目のスライダーをファウルできるあたりが、カブレラだ。やはりアウトコースが穴だらけのオースティン・ジャクソンと違って、コースにほとんど穴がなく、右にもホームランが打てるミゲル・カブレラは、スライダー連投だけで空振り三振してくれるほど、甘くない。

ここで、ロモが投げたのが、
ハーフハイトの4シーム



球速はたったの89マイル。
データ的にはややアウトコース寄りだが、見た目の印象としては「真ん中」に投げているに見える。度胸が据わっているとしかいいようがない。



カブレラ、なんと見逃し三振。
彼はスライダーが来ると思っていたのだ。
ゲームセット。


いうまでもなくカブレラは
セルジオ・ロモの得意球種である「スライダー」に備えていた。


もう一度書いておこう。

2012年のシーズンは、「自分の打ちたい球」「自分の投げたい球」しか考えられないチームがなすすべもなく負け、「対戦相手が何をやりたがっているのか」を考える能力のあったチームが最後までしぶとく勝ち残った。


damejima at 15:35

November 10, 2012


Baseball Video Highlights & Clips | ALCS Gm1: Ichiro's two-run shot puts Yanks on board - Video | MLB.com: Multimedia

2012ALCS Game 1 9回裏 イチロー 2ランHR



2012ALCS(=American League Championship)で、いいところなくデトロイトにスイープされ敗退したヤンキースだが、結局のところ、ALCSの命運を分けた分岐点は、やはり4点リードされた9回裏、あの2本の劇的な2ランホームランで追いついたにもかかわらず負けたことにあった、と思う。



まぁ、このGame 1の10回以降の延長イニングは、いってみれば、バタフライ効果でいうところの『後々の結果を大きく左右する微細な初期値』だったのだろう。
イチローラウル・イバニェスの2本の2ランは、まさに文字通り値千金だったが、「試合結果が固定されかかっていた」ゲームをせっかく振り出しに戻す、つまり、『カオス状態』に持ち込んだのだから、このゲームだけはなにがなんでも勝ち切って、シリーズの流れそのものを引き寄せておくべきだった。



9月の記事で、「なにか特別なことのあったゲームは勝つ」という意味のことを書いた。
Damejima's HARDBALL:2012年9月20日、『イチロー・ミラクル・セプテンバー』全記録(1)トロント戦全ヒット 東海岸が初体験する「ゲップが出るほどのイチロー体験」のはじまり、はじまり。

近年のヤンキースは、とかく「常識」にとらわれ過ぎる。
かつて『動物園』と呼ばれたこともあるヤンキースは、いい意味の野蛮さと天衣無縫さを持ったチームだったと思うが、今は、「ヤンキースとはこれこれ、こういう感じの爆発力を売りにするチームである」という、他人に期待される「ヤンキース像」、他人が作った「ヤンキース常識」に縛られているだけで、本当の意味の『カオス』が感じられないし、相手を制圧して生きている野蛮な肌感覚がない。

このポストシーズンにAロッドが試合中にナンパしただの、なんだのという話があったが、あれもそうだ。そんなこと、正直「どうでもいい」。ナンパなんか好きなだけすればいい。好きなだけネーちゃんに声をかけて、打ちたいだけホームランを打ておけば、それでいいのだ。誰にも文句など言わせないで済む。
本当の荒々しさの消えたヤンキースには、「野蛮さ」が備わらない。結局のところAロッドも「小さくて真面目なヤンキース」でしかない。ちょっとスカウティングされると、軽くひねられるようではダメだ。
家庭と子供のために、ゲームの空気をまるで読まずにホームランを打ちまくったイバニェスのほうが、よっぽどいい意味で「野蛮」な選手だ。
(常識にとらわれるな、といっても、大昔のヤンキースのようにもっと破天荒に生きろ、ハメをはずせ、という意味ではない。『ハメをはずす』なんて行動パターンは、いまどき「ひと昔前の常識」そのものだ。若い頃はやんちゃで、なんて調子でいい気になってしゃべる腹の出たオヤジの若い頃の思い出話がつまらないのと同じだ。面白くもクソもない)

短期決戦の『カオス』を自分のものにする野蛮さは、それこそ天性というべき能力だが、そういう天性をサブリミナルな内面に蓄えたプレーヤーは、結局のところ、ALCS Game 1の9回裏にホームランを打ったイチローとイバニェスくらいしかいなかった。



数学だけしかわからない数字馬鹿が、本当は、『生きた現象』、『現実というものの怒涛のごとくの野蛮さ』をわかってないと思うのは、こういうところだ。

セイバーを聞きかじった数字馬鹿の野球ファンに多いのだが、野球を数字で見ている「つもり」になっている人間に限って、すぐに「これこれは誤差の範囲であり、長期的には収束する。細かい差異に存在しない」なんて聞いたふうな意味のことを、しきりに言いたがる。
つまり、彼らは、どんな事象であっても、サンプル数さえ多くなれば、必ず一定の結果に収束する、と、なんの疑いも持たずに信じ込んでいる。


だが、野球というゲームは「生きている」。

いいかえると、野球は、「カオス的でない事象」、つまり、「初期の小さな差異が、かならず一定の結果に収束するような、予定調和な事象」だけで出来上がっているわけではないのだ。


日本の偉大な詩人宮沢賢治は『春と修羅』の序文でこう言っている。

わたくしといふ現象は
假定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといっしょに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です

『万物がせわしく明滅する』のは、何故か。

それは、我々自身、そして我々を取り巻く事象が、単に非カオス的な予定調和だけで出来ているわけではないからだ。

あらゆる現象は、「いちど点灯したら、放置しておいても点灯しっぱなし、何の面白みも変化もない裸電球」なのではない。むしろ、「カオス的な事象と非カオス的な事象が、交互に明滅する電燈」なのだ。世界の「点滅ぶり」は、最新の数学によっても証明されている。



野球という現象についても、もちろん、「非カオス的事象とカオス的事象が、交互に明滅する」、そういう複雑なゲームとみるべきであって、非カオスだけしか扱えない三流の古くさい統計数字ごときで語り尽くせるわけがない。
実際、野球には、小さな差異がやがて大きな差異へ拡大し、最終的にはゲーム結果を決定する、そういう『バタフライ効果的事例』にことかかない。
Lorenz AttractorThe Lorenz Attractor



ALCS Game 1 9回裏のイチローの打席を、もういちど見てみよう。

ピッチャーは、デトロイトの「劇場型」クローザー、ホセ・バルベルデ。90マイル台後半の速球とスプリッターが持ち球だ。


ホセ・バルベルデが99マイルを記録したのは、2008年から2009年あたりのアストロズ時代らしい。だが、このところのバルベルデの速球には、それほどの伸びを感じない。

1)2008年4月29日チェースフィールド
アストロズ対ダイヤモンドバックス戦 9回裏
2ベースを挟んで3三振
April 29, 2008 Houston Astros at Arizona Diamondbacks Play by Play and Box Score - Baseball-Reference.com

2)2009年4月25日 ミニッツメイドパーク
アストロズ対ブリュワーズ戦 9回表
ミルウォーキー時代のフィルダーに2ランホームランを打たれる
April 25, 2009 Milwaukee Brewers at Houston Astros Box Score and Play by Play - Baseball-Reference.com

damejima at 00:49

Baseball Video Highlights & Clips | ALCS Gm1: Ichiro's two-run shot puts Yanks on board - Video | MLB.com: Multimedia

2012ALCS Game 1 9回裏 イチロー 2ランHR



2012ALCS(=American League Championship)で結局いいところなくデトロイトにスイープされ、敗退したヤンキースだが、結局のところ、ALCSの命運を分けたターニングポイントは、Game 1でヤンキースが4点リードされた9回裏にイチローラウル・イバニェスの2本の素晴らしい2ランホームランで劇的に追いついたにもかかわらず、負けたことにあった、と思う。


野球というゲームにおいて、小さな差異は、ときとして大きな差異を生み、結果を左右する

まぁ、このGame 1の10回以降の延長イニングは、いってみれば、バタフライ効果でいうところの『シリーズそのものの結果を大きく左右する初期値』だった、というわけだ。
まさに値千金の2本の2ランで、「非カオス的状態に固定されかかった」ゲームをせっかく『カオス状態』に持ち込んだのだから、このゲームだけはなにがなんでも死ぬ気で勝ち切って、その後の流れをモノにするべきだった。


日本の偉大な詩人宮沢賢治は、『春と修羅』の序文でこう言っている。

わたくしといふ現象は
假定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといっしょに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です


いったい『万物がせわしく明滅する』のは、何故か。

それは、我々と、我々を取り巻く事象が、「最初から結論ありきの予定調和」だけで出来ているのではない、からだ。
数学でいうところの「カオス的な事象」と「非カオス的な事象」は、あらゆる事象において交互に姿を現し、互いの位置を換え続ける。それは我々の眼には、偶然と必然がせわしなく明滅を繰り返しているように見える。

世界というものが持っているカオスと非カオス、2つの性質のうち、「カオス的性質」は、論理的には、非線形科学の登場によってようやくロジカルに語られるようになったわけだが、そもそも現実というものが「点灯しっぱなしの白熱電球のように、いちどスイッチが入ったら、あとは故障して切れて捨てられるのを待つだけの哀れな存在」ではないことに、ヒトは太古から気づいており、詩人は世界のカオス的な性質を「直観」から記述し続けてきた。


野球というゲームは「生きている」。
それだけに、野球という系は「非カオス的事象とカオス的事象が、交互にせわしなく明滅する複雑な系」とみるべき事象なのであって、非カオス的な予定調和事象の、それも初歩の現象程度しか取り扱うことができない三流の古くさいうえに幼稚な初歩の統計数字ごときで語り尽くせるわけがない。

実際、野球において『バタフライ・イフェクト』といえる事例はことかかない。小さな差異が、必ずしも常に小異を捨てて、ありきたりの平均的な結論に結びつくわけではなく、野球における小異は、ときとして大きな差異へ拡大して、やがてゲーム、シリーズ、シーズンを決定することがある。

いいかえると、そうしたカオス的展開をけして無視できないのが、野球という「必然と偶然のゲーム」の面白さのひとつ、なのだ。

Lorenz AttractorThe Lorenz Attractor



ALCS Game 1 9回裏のイチローの打席を
もういちどよく見てみよう。


ピッチャーは、デトロイトの「劇場型」クローザー、ホセ・バルベルデ。90マイル台の速球とスプリッターが持ち球だ。

ホセ・バルベルデのストレートが99マイルを記録できた時代は、どうも2008年から2009年あたりのアストロズ在籍時らしい。だがデトロイトでのバルベルデのスピードボールには、かつてほどの輝きはない。

バルベルデの99マイル記録

1)2008年4月29日チェースフィールド
アストロズ対ダイヤモンドバックス戦 9回裏
2ベースを挟んで3三振
April 29, 2008 Houston Astros at Arizona Diamondbacks Play by Play and Box Score - Baseball-Reference.com

2)2009年4月25日 ミニッツメイドパーク
アストロズ対ブリュワーズ戦 9回表
ミルウォーキー時代のフィルダーに2ランホームランを打たれる
April 25, 2009 Milwaukee Brewers at Houston Astros Box Score and Play by Play - Baseball-Reference.com


イチローの打席に話を戻そう。

初球。

イチローは「ど真ん中の92マイルのストレート」を見逃した。
92マイルという球速は、いくら最近のバルベルデの4シームにかつてほどのスピードがないとはいえ、いくらなんでも遅い

バルベルデは速球で押しておいてスプリットを混ぜるタイプのクローザーだが、初球に92マイルなんていう「ハンパな速度」の球を、それも「ど真ん中」に投げるということは、バルベルデが、『イチローは初球は絶対に振ってこない』と確信していたことを意味している。
「単に早めにストライクが欲しいから初球を置きにいった」、「イチローはあまり初球を振ってこないというスカウティングに倣った」、「疲労から球威がなかった」、「2球目にスプリットを投げて空振りさせるつもりだった」、初球に92マイルの4シームを投げた理由がどれなのかは正確にはわからないが、少なくともイチローが「初球のど真ん中を見逃した」ことで、バルベルデがイチローを「舐めた」ことだけは間違いない。

そして第2回WBC決勝韓国戦を例に出すまでもなく、これまでどれだけのバッテリーがイチローを舐めてかかって泣いたことか。



イチロー側の視点からも見てみる。

ブログ主は、この「初球見逃し」を、「イチローが最初からホームランを打つつもりで打席に入り、あらかじめ初球のストレートのタイミングを体感で測定した結果、『打てる』と確信して、2球目を待った」、と見る。
かねてからイチローは、「ホームランは狙って打つ」と公言している。バルベルデというピッチャーが速球で押してくるタイプであることはわかっている。ゲームは4点リードされている9回裏。速度とタイミングは把握した。あとは、ホームランを打てるインコースにボールが来るのを待つだけだった。

初球で、バルベルデのストレートの速度、タイミングを測定していたからこそ、2球目のインコースのストレートを、イチローは、「待ちかまえて」、「狙い打ち」した。快心の一打だったはずだ。
いつぞやマリナーズ時代に、NYYのクローザー、マリアーノ・リベラの初球、インコースのカットボールをサヨナラ2ランしたことがあったが、あれと同じコースの球だ。
マリアーノ・リベラから打ったサヨナラ2ラン(2009/09/18)


ホセ・バルベルデの速球をとらえた打球は
ライトスタンドに鮮やかに消えていった。


この後のラウル・イバニェスの2ランホームランもイチローと同じで2球目だったが、この2球、両方ともスプリットだった。
そう。イチローにストレートを打たれたバルベルデはスプリットに逃げたわけなのである。イバニェスはそれを見逃さなかった。

2012ALCS Game 1 9回裏 イバニェス 2ランHRラウル・イバニェスの
素晴らしい2ラン


この例でもわかるとおり、ほんとうにイバニェスはクレバーなバッターなのだ。素晴らしい。

イバニェスは『イチローに速球をやられたバルベルデがスプリットに逃げるのを見逃さず、スプリットを狙い打ちした』というわけだ。
いいかえると、イチローのホームランがバルベルデの速球を封じ、イバニェスの2ランの呼び水となった、ということになる。
バッテリー(あるいはキャッチャー)というものは、失点するまでは、たとえランナーが出ようと打者のインコースを攻め続けるくせに、失点したとたんにアウトコース一辺倒に切り替えてさらに墓穴を掘ったりするものだ。


ALCS Game 1でクローザーのホセ・バルベルデをイチローに破壊されたデトロイトは、代役クローザーに、ストレート中心にピッチングを組み立てるフィル・コークをたてた。
そのフィル・コークは、WS Game 4の延長10回、マルコ・スクータロにストレートを狙われて決勝タイムリーを打たれ、デトロイトはサンフランシスコにスイープされ、悲願のワールドシリーズ制覇に失敗することになる。

つまり、ワールドシリーズの舞台装置を用意したのは、イチローによる『バルベルデ潰しの速度測定後ホームラン』だったわけである。

damejima at 00:37

November 07, 2012

プリンス・フィルダーが2012ポストシーズンで完璧に抑えこまれたこと(そして打順を変更しなかったこと)は、デトロイトの得点力を著しく下げ、ワールドシリーズ制覇を逃す主原因のひとつになったわけだが、ブログ主はフィルダーがまったく打てなかった原因を、「単なる一時的な不調のせい」だとは、まったく思わない。

フィルダーが打てなかった原因は、ハッキリしている。
スカウティングだ。

もっと言うなら、
「アウトコースにおけるフィルダー攻略パターンの発見」、具体的には「バックドアの変化球、特にチェンジアップの使い方」だ。

問題なのは、フィルダー攻略パターンをすべてのチームが発見できたわけではないことだ。実際のゲームで活用できたのは、あくまで「オークランド、サンフランシスコなど、ごく一部のチームだけ」だ。
(この攻略パターンは、来年のレギュラーシーズンでもまだ多少は有効だろうから、やがて他チームにも拡散していくだろう。来年のフィルダーの打撃成績に少なからず影響を及ぼすのは間違いない)



2012ポストシーズンのフィルダーがアウトコースのボール球に手を出しまくって大失敗したことは、例のBaseball Analysticsも指摘している。
Prince Fielder's Tough World Series - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

いつものことだが、彼らの指摘は、基本的な着眼点はいい。
だが、残念ながら彼らの記事の指摘は、単純に「フィルダーがポストシーズンにアウトコースのボール球に手を出し続けていた」という単純な事実の指摘であって、「ディテール」と「ストーリー」と「配球についての具体性な指摘」のどれもが欠けている。それだけに、内容がなく、つまらない。また、配球のディテールが全く語られていないのも、いただけない。
いったい、この「フィルダーへの徹底したアウトコース攻め」が、いつ、どのチームで始まってたのか、そして、それが他のチームにどういう形で受け継がれ、修正されたのか、そういう「流れ」がまったく明らかになっていないから、面白くない。

また、正確さにも欠けている。フィルダーのスイングした球のデータだけ見ると、あたかもフィルダーが「外にはずれたボール球ばかり手を出しまくった」かのように思えてしまうと思うが、実際には、必ずしもボールになる球ばかり振り回したわけではない。

考えてもみてほしい。
配球として、あのフィルダーに、ただただアウトコースだけを連続して投げ続けていれば、うちとれるだろうか?
いやいや。ヤンキースのラッセル・マーティンの「アウトコース・オンリー・ビビりまくり配球」じゃあるまいし、そんな子供だましの単純なアウトコース攻めだけで、フィルダーのバッティングの調子を根底から崩壊させるところまで追い込めるわけがない。



レギュラーシーズンのフィルダーの得意球種、得意コースを具体的に調べてもらうと、面白いことがわかると思う。
なぜなら、フィルダーはそもそもアウトコースが苦手どころか、むしろ「アウトコース、特に『高め』が大得意なバッター」であること、そして、むしろ過去のデータでみるかぎり、ポストシーズンにあれほど凡退しまくった「チェンジアップが最も得意な球種のひとつ」であることがわかるからだ。
例えば「チェンジアップ」だが、フィルダーは2012レギュラーシーズンに、SLG.563と打ちこなしている。(注:SLG=長打率という指標は根本的な誤りのあるデータだ。だが元資料である下記の記事が使っているために、しかたなく使った)
Prince's Power Outage - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics


フィルダーの得意コースであるはずのアウトコース、得意球種のチェンジアップなのに、なぜオークランドやサンフランシスコは彼を抑え込むことができたのか。ここが明確にならないと、野球を観る本当の楽しみは無い。

このブログの経験値として言えば、「フィルダーが、他チームの巧妙なアウトコース攻めに屈した」という話についてはもちろん賛成するが、だからといってフィルダー攻略のディテールについては、「単純なアウトコース配球で攻略できたわけではない」ことを指摘しておきたい。



最初に「フィルダー攻略パターン」を見つけたのは、たぶんレギュラーシーズン終盤に躍進を遂げ、ついに地区優勝にまで成功した知将ボブ・メルビン率いるオークランド・アスレティックスだろう、と思っている。

今シーズンからア・リーグに移籍してきたフィルダーには、ア・リーグのチームとの対戦データが多くないし、大半のチームが打率.280以上打たれているわけだが、それでも、フィルダーを完璧に抑えこむことに成功したチームが、ひとつだけある。

オークランド・アスレティックスだ。

対戦したほとんどのチームに対する打率が.280以上あるフィルダーが、1割を切るほど徹底的に抑えこまれた対戦相手は、このオークランド以外にない。

対オークランド戦(7ゲームの打率)
.074
Prince Fielder 2012 Batting Splits - Baseball-Reference.com


10月初旬のオークランド×デトロイト戦。
オークランド先発のジャロッド・パーカーが、フィルダーの好きなアウトコース高め、おまけに彼の好きなチェンジアップを投げて、セカンドポップフライに凡退させることに成功した。しつこく言うが、フィルダーは、「アウトコース高め」も、「チェンジアップ」も得意なバッターだ。

2012年10月6日レギュラーシーズン OAKパーカーvsDETフィルダー


ミゲル・カブレラは、たとえ好きなコースや好きな球種が来ても、それがボールならスイングせずに我慢できるし、また、苦手コースや苦手球種でもライト方向にヒットやホームランにできるとか、とにかく柔軟な対応力をもった天才だ。
だが、ジョシュ・ハミルトンカーティス・グランダーソンには、それができない。自分の好きなコース、好きな球種を待っているだけ。だからスカウティングされやすい。
Damejima's HARDBALL:2012年10月6日、オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。

Damejima's HARDBALL:2012年11月2日、2012オクトーバー・ブック 「スカウティング格差」が決め手だった2012ポストシーズン。グランダーソンをホームランバッターに押し上げた「極端なストレート狙い」が通用しなくなった理由。



フィルダーのバッティングは、あらゆる方向に打球を打てるミゲル・カブレラとは、まったく違う。
フィルダーはむしろ、「好きなインコースにボールが来ると、それがたとえ狙い続けているストレートではなく変化球であっても、必ず手を出してしまい、空振り三振しまくるカーティス・グランダーソン」に、よっぽど近い。フィルダーは、好きな食べ物を出されれば、思わず手を出してしまう、そういうバッターだ。
「アウトコース」「チェンジアップ」と、目の前に好物を並べられたフィルダーは、それがたとえボール球のアウトコースでも、ボール球のチェンジアップでも、やすやすと振り回してしまう
フィルダーが、アウトコース、チェンジアップに我慢できるバッターではないこと」、これが「オークランドの発見したフィルダーの弱点のひとつ」だ。(弱点は他にもある)


この「フィルダーが思わず手を出してしまう配球パターン」は、ポストシーズンでフル活用された。まずは以下のALDSオークランド×デトロイト戦の3打席の凡退ぶりを見てもらおう。

2012年10月10日ALDS Game4 AJグリフィンvsフィルダー2012年10月10日
ALDS Game4
AJグリフィンvsフィルダー

2012年10月10日ALDS Game5 スクリブナーvsフィルダー2012年10月10日
ALDS Game5
スクリブナーvsフィルダー

2012年10月11日ALDS Game5 パーカーvsフィルダー2012年10月11日
ALDS Game5
パーカーvsフィルダー


オークランドのフィルダー対策をまとめると、基本的には以下のとおり。まずインコースを「見せて」おいて、のちのちのアウトコース攻めを効果的にするあたりが、石橋を叩いて渡る「慎重派」のオークランドらしさを感じさせる
慎重なオークランド流フィルダー対策

1)まずインコースを見せる。アウトコースを待っているフィルダーは、振ってこない。(フィニッシュのアウトコースの球をより効果的するための布石)
2)外に、ストライクになる「バックドア・チェンジアップ」。カウントを追い込む。(フィルダーはカウント0-2からの打率が他のスラッガーと比べても極端に悪い。追い込まれるとまったく打てなくなるタイプ)
3)フィニッシュ


このオークランド流に始まったフィルダー攻略は、サンフランシスコが進化させ、ワールドシリーズでの遠慮のないサンフランシスコ流のアウトコース攻めとして完成する。
下記に見るように、サンフランシスコ流のフィルダー対策では、慎重なオークランド流の配球では存在していた「インコースの見せ球」すら消えて、コントロールのいい右投手がズラリと揃ったサンフランシスコらしく、徹底したアウトコース攻めのみによって、フィルダーを軽々と空振り三振させてしまうことができるようになった。
サンフランシスコの攻略パターンが成功をおさめたについては、もちろんオークランドに抑え込まれたというフィルダーのトラウマが背景にある。オークランドがフィルダーにある種の「アウトコース・トラウマ」を植え付けることに成功したことで、サンフランシスコはオークランドの攻略パターンをバージョンアップし、さらに深いトラウマに上書きした。

それにしてもサンフランシスコのバッテリーは、まったくたいしたコントロールと度胸を兼ね備えている。なんというか、バッテリーの「格」が、他チームと何ランクか違っている。
だからこそ、ワールドシリーズ終了時に、ポストシーズンのMVPはバスター・ポージーだ、とツイートしたのである。



サンフランシスコ流フィルダー対策

1)アウトコースの同じコースに、ストレートと「バックドア・スライダー」を連投、ストライクを容赦なく続けて2つとる。
この「同じコースへのストレート・スライダー連投パターン」は、以前指摘した「ストレートとカーブを同じコースに続けて投げる配球パターン」のバリエーションだ。
Damejima's HARDBALL:メジャーと日本の配球論の差異から考える「城島問題」 『damejimaノート』(4)「低め」とかいう迷信 研究例:カーブを有効にする「高めのストレート」

2)アウトコース低めに、ボールになるチェンジアップを、「見せ球として」投げる。
オークランドの投手はこの球をフィルダーのアウトコースいっぱいに投げこんでいたが、サンフランシスコはボールゾーンで見せ球として使った。もちろん、この球にフィルダーが手を出して空振り三振することも多々ある。(下記に挙げたWS Game 3でリンスカムが奪った空振り三球三振が典型例)

3)アウトコース一杯のストレートで勝負。
外のチェンジアップを我慢したフィルダーの筋肉は、既に硬直してしまっており、アウトコースと「頭では」わかっていても、「カラダは動かない」。あっさり見逃し三振。
これこそ『硬い筋肉』、『硬いカラダ』が裏目に出る瞬間だ。


2012年10月27日 WS Game3 ボーグルソンvsフィルダー2012年10月27日
WS Game3
ボーグルソンvsフィルダー


2012年10月27日 WS Game3 リンスカムvsフィルダー2012年10月27日
WS Game3
リンスカムvsフィルダー


2012年10月28日 WS Game4 マット・ケインvsフィルダー2012年10月28日
WS Game4
マット・ケインvsフィルダー



「インコースのストレート」をただひたすら待っているグランダーソンに、インコースの変化球を投げて。スイングを誘って空振り三振させまくるのが、「グランダーソン・パターン」だったわけだが、アウトコースを待っているフィルダーの場合は、好きなチェンジアップを、好きなアウトコース高めよりも低く、なおかつ、ちょっとだけ外のボールゾーンにわざと投げることで空振りさせることができる。(フィルダーにはアウトコース高めのボールゾーンに投げても、同じ効果がある)
「フィルダー・パターン」のほうが、ちょっとだけグランダーソン・パターンより手がこんでいる。だが、基本発想はほとんど変わらない。

ヤンキースがポストシーズンで手を焼いたデトロイトの1番打者オースティン・ジャクソンも、好きなインコースをひたすら待っているだけのワンパターンなバッターなのはわかりきっていた。だから、ワールドシリーズでサンフランシスコは、ジャクソンのアウトコースだけをひたすら攻めまくって、ジャクソンにまったく活躍の場所を与えなかった。簡単なことだ。

いずれにしても、自分の好きなコース、自分の好きな球種だけをひたすら待ってホームラン、長打にしようとする「フリースインガー系スラッガー」にこそ、攻略パターンの発見は容易だし、効果もびっくりするほど絶大で、しかも長続きする、ということだ。

damejima at 04:38

November 03, 2012

インターネット全盛のこの時代、MLB関係のメディアやウェブサイトには、どこもデータがてんこもりだ。そして、MLBのチーム運営においても、実際のゲームにおいても、あらゆるデータが「どこのチームでも」「正確に」生かされ、役に立っている、と、思われがちだ。(それでも日本よりはるかにマシなのは確かだが)

だが実際には、「MLBではデータが十二分に活用されている」というのは、全体としては正しいが、細部では間違っている
例えば、「チーム間のスカウティング格差」は確実に存在する。


データ全盛時代だからこそ、かえって必要になることがある。
例えば、どこの誰が本当に信頼できるデータを提示してくれていて、どこの誰がそれを有効に活用できているかを、正確に知ることも、そのひとつだ。

ファンの利用するデータサイトですら、信頼できないデータを平然と掲げているサイトなど、いくらでもある。
また、たとえMLBであっても、実際のプレーにデータがまるで生かされていないチームが、いくらでもある。それは、そのチームがセイバーメトリクスを採用しているかどうかとは、まったく関係ない。それに、セイバーだけがデータ活用手法ではない。


例えば、ファン向けのデータサイトで、データがてんこもりになっていたとしても、そのデータが必ずしも信用できるとは限らない。「サイトごとのデータの精度」には、いまや大きな「格差」が生まれていると思わなければならない。

例えば先日の記事で検証した「Hot Zone」。
Damejima's HARDBALL:2012年10月6日、オクトーバー・ブック 「平凡と非凡の新定義」。 「苦手球種や苦手コースでも手を出してしまう」 ジョシュ・ハミルトンと、「苦手に手を出さず、四球を選べる」 三冠王ミゲル・カブレラ。
ジョシュ・ハミルトンに関する自分の経験値を判断基準に記事を書いて、いくつかのサイトを検証してみたが、あの例でもわかるとおり、FoxやGamedayのHot Zoneはアテにはできない。そして、Baseball AnalyticsのHot Zoneは、「自分の経験値に非常に近い」という意味で、信頼性が高い。
ハミルトンの実際のバッティング結果とデータを照らし合わせてみても、どのコースを攻めたバッテリーがハミルトンを抑え込むことに成功し、どのコースを攻めたバッテリーが打たれているか、ちょっと確かめれば、この「自分の経験値を元にしたHot Zoneの精度の判定」がほぼ間違っていないことは確かめられている。

ハミルトンはこのオフにFAになるわけだが、ブログ主が「もしスカウティングが得意なチームなら、この選手に超高額の長期契約オファーを出すわけがない」「この選手に超高額オファーを出すのは、ポストシーズンに弱い勝負弱いチームだけ」と判断する理由は簡単だ。この選手が「穴のハッキリしている打者」であり、また「打席で抑え込むのは、それほど難しくない打者」であることは、Hot Zoneのようなささいなデータから見ても、ハッキリしているからだ。


また「打者に対するスカウティング格差」を例にとれば、すべてのチームが、同レベル、同じように高いレベルで、打者をスカウティングし、ピッチャーの配球が決定されているわけではない

ひとつには、あらゆる投手に、スカウティングどおり投げられるだけの能力が存在するわけがない、ということもある。(むしろ、大半のピッチャーは、主にコントロールが悪いせいで、行き当たりばったりに、パワーまかせの投球をする。パワーだけのピッチャーなど、MLBには掃いて捨てるほどいる)
ただ、そういう既に誰もがわかっている投手のコントロールの無さという問題より重要なのは、チームごとに存在する「スカウティング格差」の問題だ。


「チームごとのスカウティング格差」は、2012年ポストシーズンでは特にハッキリした。
たくさんのチームを分析しなければならないレギュラーシーズンと違って、ポストシーズンはスカウティング対象が狭いわけだから、より細かく分析できるし、短期決戦はスカウティングの重要度は高い。スカウティングが勝敗を決するといっても過言ではない。
あっけなく敗れ去ったチーム(ヤンキースなど)と、シーズン終盤に躍進したチーム(オークランド、ボルチモアなど)や、最終的にワールドシリーズに勝ったサンフランシスコの間には、びっくりするほどの情報利用の上手下手、つまり「スカウティング格差」があるはずだ。(そのことはこの『オクトーバー・ブック』でさらに書いていく予定)



カーティス・グランダーソンを例に挙げてみよう。

ブログ注:以下、誤解しないでもらいたいのは、ブログ主にとってグランダーソンは今もブログ主のお気に入りの選手である。なにもこの記事で彼をおとしめたいと思っているわけではない。イチローやミゲル・カブレラにも不得意な球種やコースというものは存在する。ただ、バッティングが単調で、スカウティングされやすく、バッティングの「穴」が既に分析されてしまっているグランダーソンに高額契約を提示することには、まったく賛成できない。


グランダーソンは、自分の経験値として言うと、常に「インハイのストレート」を狙ってフルスイングしているバッターだ。アウトコースを狙っている、というイメージは無い。


この「グランダーソンの執拗なインコースのストレート狙い」は、例のBaseball Analyticsを調べてみると、やはり予想どおり2011年8月19日に記事として取り上げられていて、内容はブログ主の「経験値」とまったく一致している。
Curtis Granderson Dominating the Fastball - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

グランダーソンのストレート打撃成績(2009-2011)

グランダーソンの年度別得意コース



ただ、念のため指摘しておきたい点が、ひとつある。
Baseball Analyticsは、同じ年、2011年5月14日付で書いた以下の記事において、グランダーソンは、「インコース狙い」ではなくて、「アウトコース高めの球を引っ張ることでホームランにしている」と、分析していることだ。

2011年5月時点のグランダーソンのホームランゾーン2011年5月時点でBaseball Analyticsの指摘したグランダーソンのホームランゾーンは「アウトコース高め」
Granderson's Home Run Surge - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics


こういう「不整合」が起きる原因は、たぶん簡単なことだろう。それは、Baseball Analyticsが、「データのみに依拠して記事を書いているから」だ。それは、この優れたサイトの「良さ」であると同時に、決定的な欠点でもある。

おそらくグランダーソンは、2011シーズン当初の1ヶ月くらいの間に限って「アウトコース高め」を何本かホームランにしたのだろう。
だから、優れた観察眼と見識を持っているBaseball Analyticsといえども、彼らに「データのみに従う」というポリシーがあるだけに、かえって、「アウトコース高めを事実打っている」という、わずか1ヶ月間の短期間の「未確定の事実」にとらわれてしまうことになるわけだ。
1ヶ月程度の短いデータをもとに書かれた記事に、信憑性はない。優秀なBaseball Analyticsですら、あたかもグランダーソンが「アウトコースが得意である」というような「必ずしも正確でない記事」を書いてしまうのだから、いくら優秀なサイトといえど、そのすべてが信用できるわけではない。

短期間のデータをもとに記事を書いたことで判断ミスが起きたといえる証拠に、Baseball Analyticsは、2011シーズンが半分ほど過ぎた2011年8月中頃の記事では、グランダーソンが狙っているのは「アウトコース」ではなく、「インコースのストレート」と、判断を変更している。(もちろん判断の変更は潔し、といえる)


2012年のレギュラーシーズンとポストシーズンにおけるグランダーソンの「狙い」は、データで全てを確かめたわけでもなんでもないが、自分の経験値として言えば、2011シーズンとまったく同じで、「なにがなんでもインコースのストレートをホームランにすること」だった、と考えている。


このグランダーソンの「徹底したストレート狙い」が始まったのは、どうやら2011年のようだ。
グランダーソンのバッティングがデトロイト時代とはまるで違うものになった理由については、ヤンキースのバッティング・コーチ、ケビン・ロングの指導によるものという解説が、2011年を中心にESPNやNY Timesをはじめとする数多くのアメリカのメディアでなされてきた。
New York Yankees' Curtis Granderson using lessons learned from Kevin Long - ESPN New York

Curtis Granderson made a wise choice by approaching hitting coach Kevin Long in 2010 - MLB - Yahoo! Sports

Curtis Granderson's thank you to Kevin Long - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

Baseball-All-Starlytics: Curtis Granderson: What a difference a year makes - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

ちなみに、2012ポストシーズンが終わって、当のKevin Longが、シーズン終盤のグランダーソンの絶不調について何と説明したかというと、"Yankees batting coach Kevin Long said Curtis Granderson’s feeble postseason might have been because of a lack of confidence." (Kevin Long, New York Yankees batting coach, says Curtis Granderson bad postseason might have been because of a lack of confidence - NYPOST.com)、つまり「自信喪失」だと言っていうのだから、説明になってないし、無責任な話だと思う。


さて、このグランダーソンの「執拗なストレート狙い」だが、2012年後半にはすっかり大半の対戦チームのバッテリーに知れ渡っていた

それが証拠に、2012年シーズン終盤にヤンキース対戦チームのほとんどのバッテリーは、グランダーソンを外の変化球などで追い込んでおいて(というのも、インコース狙いに徹しているグランダーソンには外のストライクをマトモにヒットできるわけがないからだ)、最期は「インコース低め」に縦に変化する球を投げて、グランダーソンをそれこそ「好きなだけ」空振り三振させることに成功していた。
そんなわけでグランダーソンは、このブログでさんざん批判してきた「低打率のホームランバッター」に成り下がっていった。



だが、逆にいえば、なぜこれだけあからさまな「ストレート狙い」のグランダーソンが、たとえ一時的にせよ大成功してホームランを量産し、ヤンキースでの生き残りに成功したのか?
それは、グランダーソンがこれほどあからさますぎるストレート狙いに徹しているというのに、グランダーソンに、その「ストレート」を投げまくってくれる、ありがたい無能なバッテリーが数多く存在するからだ。単純な話だ。


その「グランダーソンにストレートを投げまくってくれる、ありがたいチーム」のひとつ、それが、ボストンだ。
今季のボストンは本当に「甘ったれた、なまぬるい」チームだった。
このグランダーソンに限らず、そのバッターの得意コース、得意球種をわざわざ投げてくれるくらいのことは、朝飯前だった。不振だったタンパベイのアップトンにヒットを供給しまくったのも、ボストンだ。(以下の記事参照)
Damejima's HARDBALL:2012年9月17日 アウトコースのスライダーで空振り三振するのがわかりきっているBJアップトンに、わざわざ真ん中の球を投げて3安打させるボストンの「甘さ」


グランダーソンは地区優勝とポストシーズン争いの両方がかかった9月以降のあの大事な時期に、9本のホームランを打っていながら、8月の打率.196に続いて打率.214という極端な低打率の状態で、それでもしつこくホームランだけを狙い続けていたわけだが、その9本のホームランのうち、5本ものホームランをボストンから打っている
というか、セイバーメトリクスの総本山だかなんだか知らないが、他のチームが楽々空振り三振させまくっているグランダーソンに、「5本ものホームランを供給したチーム」のスカウティング能力が高いわけがない。(ホームラン供給源は他に、ミネソタ、タンパベイなど) 今シーズンのボストンが、いかに大雑把で気の抜けた野球をしていたか、この事実からハッキリわかる。


典型的な例を挙げておこう。
10月1日のNYY×BOSのクレイ・バックホルツだ。

カットボール、カーブ、スプリッターと、変化球を続けて、カウント1-2と、典型的な形でグランダーソンを追い込んだにもかかわらず、バックホルツはここでグランダーソンに「インコースのストレート」を投げて、2ランホームランを浴びている。

呆れるほど頭を使っていない。
ここは右投手のバックホルツなら、グランダーソンのインコース低めにスライダーかカーブでも投げこんでおけば、キャッチャーがスプリッターを後逸するような心配もなく、いとも簡単に空振り三振がとれている。間違いない。

ちなみに、ボストンでは、アーロン・クック松坂などが、9月のグランダーソンに鬼門のストレートを投げてホームランを打たれている。

2012年10月1日2回裏バックホルツのグランダーソンへのストレート失投Boston Red Sox at New York Yankees - October 1, 2012 | MLB.com Classic


このグランダーソンの「ストレート狙い」だけでなく、自分の狙い球だけを狙って打席に入っている「低打率のホームランバッター」は、他にもたくさんいる。(ハミルトンの「インコース狙い」、ケビン・ユーキリスの「アウトコース狙い」)
Damejima's HARDBALL:2012年8月20日、アウトコースの球で逃げようとする癖がついてしまっているヤンキースバッテリー。不器用な打者が「腕を伸ばしたままフルスイングできるアウトコース」だけ待っているホワイトソックス。

そしてそういう「狙い球を決め打ちしてくる打者」に対してすら、何も考えずに、その打者の得意球種、得意コースを投げてしまう、馬鹿げたバッテリー、馬鹿げたチームというのもまた、馬鹿馬鹿しいほど多く存在している
また、ピンチになると、アウトコース低めさえ投げておけばなんとかなると思いこんでいるラッセル・マーティンのように、スカウティング能力も無ければ、度胸も無いバッテリー、そういう、このブログで分析する価値のまったく無いバッテリーも、数多く存在している。

かたや、その打者の得意球種、得意コースをしっかり頭に入れ、デトロイトはじめ、対戦相手を好きなように牛耳ることに成功したサンフランシスコのようなチームもある。

これが、2012年のポストシーズンのコントラストを決めた「スカウティング格差」だ。


ちなみに、スカウティング上手のサンフランシスコだが、そのサンフランシスコですら、スカウティングミスといえる失投が複数ある。

2012年10月28日3回裏マットケイン ミゲル・カブレラへの失投2012WS Game 4
カブレラの最も得意とするのは、「インロー」。ミゲル・カブレラが2012ワールドシリーズで打った唯一のホームランも、「インロー」で、マット・ケインの失投。この天才バッターにインコース低めを投げるのは、ある種の自殺行為だ。Game 1でバリー・ジトがカブレラに打たれたタイムリーも、「インロー」。


ここから『オクトーバー・ブック』では、ポストシーズンのプリンス・フィルダーの不振の原因、イチローがデトロイトのクローザー、ホセ・バルベルデから打った2ランホームラン、WS Game 4でマルコ・スクータロフィル・コークから打った決勝タイムリー、同じくWS Game 4でセルジオ・ロモミゲル・カブレラから奪った三振の素晴らしい配球などについて、それぞれの現象と現象の繋がりをつけながら書いていく予定。

damejima at 09:44

October 11, 2012


MLB.com Must C | Must C Crafty: Ichiro avoids tag with slick slide - Video | MLB.com: Multimedia






2012ディヴィジョン・シリーズは、どのカードでも劇的なシーンが続出している。
今年のポストシーズンをずっと観戦してツイートしているらしいドジャースのシェイン・ビクトリーノなどは、特にディフェンシブな面で、劇的なファインプレーが続出していることに感心してツイートしている。


ゲームを観るのに忙しすぎて、とてもブログにまとめている暇がない(笑) だが、資料として残しておくべき、という意味では、一部のデータや、思ったことを記録に残しておかないと、そのとき言いたかったことや、事実と事実のつながりが、記憶から消えてしまう。


ALDS Game 2でイチローがみせた神業スライディングについては、某巨大掲示板で誰かが、「これでイチローのMLBでのスーパープレーは、スローイングの『レーザービーム』(2001年)、キャッチングの『スパイダーマンキャッチ』(2005年。スパイダーキャッチと表記する人もいる)、そして、今回のベースランニングと、3つが揃ったわけだな」という意味のことを言っているのを見て、「なるほど。うまいこと言うもんだな」と感心した。
いってみれば「イチロー 三種の神器」というわけだ。1950年代の「白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫」、1960年代の「車・クーラー・カラーテレビ」みたいなもんだ(笑)


だが困ったことに、このスライディング、まだネーミングが定着してない。こういうのは困る。どんなネーミングに定着しようと、カッコ良くて覚えやすければ別に気にしないが、定まってないのは困る。決まった言い方、それも、日米で同じネーミングが存在するほうが、色々な意味で便利だ。


プレー直後

レーザービーム』、『スパイダーマン・キャッチ』がメディアとファンの両方でネーミングとして定着しているのと同様に、この神業スライディングのネーミングも、メディアとファンの間でひとつに定着して欲しいものだとは思うが、それには多少時間がかかるかもしれない。

というのも、プレー発生直後、ファンとメディアのネーミングが "Ninja" と "Matrix"、二手に分かれたからである。


プレー直後、アメリカのファンのツイートや掲示板への書き込みは、もうとにかく"Ninja"の連呼、連呼だった(笑) どうしてアメリカ人たちはあんなに "Ninja!" という単語を使うのが好きなんだろう(笑) ショー・コスギかよ(笑)
ヤンキース公式サイト掲示板 New York Yankees > General > Ichiro is a Ninja

一方、メディア関係者のツイートはというと、キアヌ・リーヴス主演の大ヒット映画 "Matrix"にたとえる人々が主流だった。
"Matrix"という言葉をすぐに使ったライターは、例えば、ESPNのAndrew Marchand、NYデイリー・ニューズのMark FeinsandAnthony McCarron
そして、ヤンキース公式ツイッター、MLB公式(Gregor Chisholm)も、すぐに「マトリクス」という単語のバリエーションで追随し、この神業スライディングに対する驚きと賞賛ぶりを伝えた。

NY Daily News
VIDEO: Ichiro Suzuki's 'Matrix' slide into home plate gives Yankees early lead against Baltimore Orioles in Game 2 of ALDS - NY Daily News
MLB公式
Ichiro makes like 'The Matrix,' deftly avoids tag | MLB.com: News
USA Today
Ichiro Suzuki's matrix move at home plate
ESPN
Ichiro with the slide of the century - Yankees Blog - ESPN New York
メディアでの表現は他に、 "dance"、"Twister champion"(野球コラムニストJeff Bradley)、"Tangoing" (ボルチモアのビートライターBrittany Ghiroli)と、「踊り」や「ダンス」というイメージに結びつけたツイートもみられたが、主流はやはり "Matrix" だった。


ちなみに、このゲームをリアルタイムで観ていたMLBプレーヤー、マット・ケンプシェイン・ビクトリーノも、速攻でツイートし、この神業プレーを絶賛した。





Matrix !!!!

個人的にはこのネーミング、『マトリクス・スライド』としたいところだ。(そうでなければ、『マトリクス・ムーブ』)


英語ネイティブでない日本のファンの間では「マトリクス・スライディング」とing形で表現したい人もそれなりの数いるとは思う。だが、このプレーに関するアメリカの野球メディアを参照してもらうとわかると思うが、このプレーについて、「スライディング」というing形での表記はされていない。
あくまで、ing形でない「slide」、なのである。


しかしながら、『マトリクス・スライド』とネーミングすることについては、ちょっとした事情がないでもない。
というのも、2011年にアメリカの高校生が記録したトリッキーなスライディングが、既に "Matrix Slide" とネーミングされ、ネット上に存在しているからだ。(もちろん、イチローのスライディングのほうが、はるかにレベルが高くて天才的なのはいうまでもない)
記事と動画:High school kid’s ‘Matrix Slide’ greatest slide ever? (video) | Off the Bench


ちなみに、『マトリクス・ムーブ』というネーミングで記事を書いたメディアも多数ある。
例:USA Today
Ichiro Suzuki's matrix move at home plate
いまの時点での検索結果では、『マトリクス・ムーブ』という言葉が野球のプレーに対して命名されたことは前例が無いようだ。"move" という言いまわしには英語としてのカッコよさがあるし、意味のわかりやすさもある。

ただ、日本のファンが今後このプレーを語るときの使いやすさを考えると、"move" という英語っぽい言い回しは、日本人には馴染みが少ないかもしれない。せめて、日本人の耳に慣れた「スライディング」という単語に少しでも近い『スライド』という単語を使ったほうが、より耳と記憶に残りやすいのではないだろうか、と思う。


うーん。困ったね。

『マトリクス・スライド』
『マトリクス・ムーブ』
『センチュリー・スライド』
『イチロー・マトリクス』

どういうネーミングになっていくのが、この神業にふさわしいか、よくわからない。


そんなこんなで、結局このブログとしては、『マトリクス・スライド』というネーミングが最もふさわしい、という意見にしておくことにした。
『マトリクス・スライド』というネーミングには、かろうじて「スライディング」に近い言葉が入っていて、日米のファンとメディアが同時に理解できるのがいいし、そもそも和製英語じゃないのが、とてもいい。(野球用語にせよ、日常会話にせよ、わけのわからない和製英語は少しでも減らしていきたい)

ただ、まぁ、いくら英語表現の正確さにこだわったとしても、時間がたつにつれて日本では『マトリクス・スライド』が、いつのまにか『マトリックス・スライディング』とか、和製英語風のing形に定着していってしまうかもしれないのは、想定済みだ(笑) それはそれで、しかたがない。時間の流れにはさからえない。


全体の位置関係

さて、ネーミングはともあれ、このプレーが神業であることに変わりはない。野球に詳しくない方もおられることだろうし、「なぜ、この世紀の神業スライディングが生まれたのか?」について少し補足しておきたい。

ヤンキースがボルチモアでオリオールズと対戦した2012 ALDS Game 2の1回表、2死1塁で、走者はイチロー。ここで、4番ロビンソン・カノーが、ライト線にツーベースを打った。

フェアとわかったイチローは、セカンドベースを蹴り、サードに全力疾走してくる。

ここで、ヤンキースのサードコーチャーが、腕をぐるぐると回して、イチローに「ホーム突入」を指示した。これが、神業スライディングが生まれた直接の発端だ。


写真を見てもらいたい。

2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 位置解説

イチローは、図中Bの位置。イチローは、ロビンソン・カノーが打ったライト線のライナーが、フェア、そして長打になるのを確認しつつ、ファーストからセカンドに全力疾走し、さらにはセカンドを蹴ってサードに向かっている。
この段階までの判断は、ランナーのイチロー自身が行う。というのは、セカンドに向かう間、ランナーのイチローからライト線の打球が見えるからだ。セカンドを蹴る前ならば、「ライト線に飛んだライナーがヒットになるかどうか」、さらには「長打になるかどうか」について、ランナーは自分自身で判断できる。

だが、イチローが、セカンドを蹴ってサードに向かった後は、「情報収集」と「判断」の手法はまったく変わる。

このケース、もし打球がフェアなら、明らかに長打になる。だから1塁ランナーがサードまで進塁することには、何の問題もない。問題は、「サードを蹴って、ホームに突入すべきか、どうか」だ。
足の速いイチローが、選択肢1)サードで止まるか、それとも、選択肢2)ホームにまで突入するかは、打球が速いだけに、外野手の肩の強さよりも、図中Aの位置で打球処理を行っているボルチモアの右翼手クリス・デービスが、「どのくらい上手に打球処理できるか」で決まってくる。
もしクリス・デービスの処理がモタついた場合は、イチローは生還できるが、打球が速いライナーであるだけに、打球処理がスムーズなら、いくら俊足のイチローでもホーム突入にはかなりのリスクが生じる。

問題は、右翼手デービスのプレーは「ランナーからみて背中方向」であるために、イチローにはまったく見えないことだ。
だから、サードに向かって疾走するイチローが、スピードを落としてサードに止まるのか、または、スピードを維持したままサードも蹴ってホーム突入を敢行するのか、という判断は、ランナーであるイチロー自身が行うのではなく、図の中のCの位置からクリス・デービスのプレーを注視している「サードコーチャーの指示」によってのみ決まる

このケース、サードコーチャーは、写真で見ればわかる通り、腕を大きく回して、「ホーム突入を指示」している。


だが、足の速いイチローがホームプレート付近に到達するより数メートルも手前で、ボールがボルチモアのキャッチャー、マット・ウィータースのミットに返球されていることから明らかなように、この「サードコーチャーのホーム突入指示」は、「明らかなミス」、ボーンヘッドなのだ。
この判断のミスの程度は、あまりにも酷い。普通ならクロスプレーにすらならない。

だが、イチローは、ホームプレートの手前であえてスピードを落とすことで、キャッチャー、マット・ウィータースのタグ、日本語でいえば「タッチ」を、2度までもかいくぐってみせた。

まさに神業

そしてこれは他のプレーヤーの凡ミスを取り返してみせるプレーでもある。これ以上の「チームプレー」はありえない。


1回目のエスケープ

2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』1回目のタグ


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』1回目のタグ(2)



2回目のエスケープ
動画をコマ送りして見てみればわかるが、イチローは、ボルチモアのキャッチャー、マット・ウィータースのミットを、すんでのところで紙一重かわしている。

2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(1)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(2)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(6)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(3)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(4)


2012年10月8日 イチロー『マトリクス・スライド』 2回目のタグ(5)



three-foot rule

なお、こうしたベース周辺でのプレーに関して、いわゆる「3フィートルール」は適用されない。

野球のランナーの「走路」は通常、塁と塁を結んだ直線の左右両側に3フィートずつ、合計6フィート分の幅であり、ランナーが野手のタッチを避けるために「走路」を越えて走る、つまり、オーバーランすることはできない。
だが、「3フィートルール」は塁間での走塁に適用されるルールであり、「各塁と本塁ベース周辺では、この3フィートルールは適用にならない」。この点については、平林岳氏の指摘を待つまでもなく、聡明な野球ファン数名がプレー直後から既に指摘していた。


ああ。言い忘れたが、
ブログ主は、映画『マトリクス』の熱狂的なファンだ。当然、DVDは全て持っているし、キアヌ・リーヴスが手のひらをクイクイっとやるモノマネだって、できる(笑)
ちなみにキアヌ・リーヴスは、イチローがMLBデビューした2001年に、リトルリーグを舞台にした野球映画 "Hardball" に出演している。
このブログの『Marrix』に関する記事
Damejima's HARDBALL:2012年6月11日、「見えない敵と戦う」のが当り前の、ネット社会。

Matrix image


damejima at 18:40

October 08, 2012

自分にとって大事な「ひらめき」だから、忘れないうちに急いでイメージを残しておきたい。

具体的には、以下のツイートをしたときに「見えていたビジョン」を、この10月のジョシュ・ハミルトンミゲル・カブレラのバッティング内容の差異によって裏付けつつ、より鮮明な形にして残しておきたいのだ。まぁ、「イメージの冷凍保存」みたいなものだ。
(けしてハミルトンが凡庸なバッターだとは言わないが、天才だとは思わない。ともあれ、三冠王カブレラよりは確実に平凡だから(笑)、悪いけれど比較対象にさせてもらうことにする)

平凡と非凡を分けるのは、「ホームランの数の差」ではない。
打った3割の中身ではなく、打たなかった7割に差異がある。







「苦手な球にでも手を出してしまうバッター」としての
ジョシュ・ハミルトン

サンプル/2012年10月5日 ワイルドカード BAL×TEX


ジョシュ・ハミルトンが、「アウトコース低め」、もっと正確にいうと、「アウトコース低めで横方向に大きくスライドする球」、もっともっと具体的にいうと、「特に左投手のアウトコース低めのカーブ」を、まるで打てない」ことを「発見」したのが、一体いつのことだったか、まったく覚えていない。
まぁ、馬鹿のひとつ覚えで毎日のように野球ばかり観ていると、誰に教えられるわけでもなく自然とわかってくることが山のように沢山あるわけで、これもそうした「自然にわかること」のひとつ、とは思う。

「発見」などと、あえて自賛するのはなぜかというと、不思議なことに、一般的なレベルの野球データサイトがネット上で公開している「ジョシュ・ハミルトンのホットゾーン」(=打者ごとのコース別の得意不得意を図示したグラフ) には、「ハミルトンがアウトコース低めを苦手にしている」 というデータが出てこないからである。

2012年10月5日 ワイルドカード ハミルトン第1打席2012年10月5日
ワイルドカード BAL×TEX
ハミルトン第1打席

アウトコース低め
カーブ
セカンドゴロ
ダブルプレー


2012年10月5日 ワイルドカード ハミルトン第2打席2012年10月5日
ワイルドカード BAL×TEX
ハミルトン第2打席

アウトコース低め
2シーム
3球三振


2012年10月5日 ワイルドカード ハミルトン第3打席2012年10月5日
ワイルドカード BAL×TEX
ハミルトン第3打席

真ん中
カーブ
ピッチャーゴロ

これはたぶん「アウトコース低めを狙ったカーブ」がコントロールミスで真ん中に入ったのだと思う



3つの異なるサイトにみる
ジョシュ・ハミルトンのHot Zone


注意(必読)
以下に挙げた3つのサイトのデータは、最初の2つと、3番目とでは、視点が異なる
最初の2つは、「アンパイアから投手を見る方向」でデータが書かれている。したがって、「右がファースト側、左がサード側」になる。
それに対して3番目のデータは、投手からホームプレート側を見る視点でデータが描画されている。そのため、1番目、2番目とはデータが左右異なっており、「右がサード側、左がファースト側」になる。


FOX Sports

FOXのサイトにおけるジョシュ・ハミルトンのホットゾーン
データ出典:Josh Hamilton Hot Zone | Texas Rangers | Player Hot Zone | MLB Baseball | FOX Sports on MSN

このサイトによると、ハミルトンの苦手コースは「アウトコース高め」と「インコース低め」ということになる。先走って言うと、この判定結果は、ブログ主がハミルトンのゲームを見てきた経験値とは異なる。

加えて、このデータには致命的といえる欠点がある。
それは、「ボールゾーンの打率が表示されていない」ことだ。だから例えば、ハミルトンが特定のコースのボール球を、どれだけ空振り三振したり、凡退を繰り返しているか、FOXのデータからは何も判断できないのである。

バッターというものは、ストライクゾーンの球ばかり振って凡退しているわけではないのだから、ボールゾーンの打撃傾向もわからないと、そのバッターの本当の得意不得意は、わかりっこない。

参考記事:Sports Analytics and Application Development - Latest MLB Analytics News for TruMedia - ESPN: Josh Hamilton's Hot Zone


Gmaeday

Gamedayにおけるジョシュ・ハミルトンのホットゾーン
データ出典:Baltimore Orioles at Texas Rangers - October 5, 2012 | MLB.com Gameday

MLB公式サイトが運営する優れたネット上のファンサービスのひとつ、Gamedayには、日本のMLB愛好者の大半がお世話になっているわけだが、全てのバッターのホットゾーンを表示する機能が備わっている。
それによると、ハミルトンの「ストライクゾーン内」の苦手コースは、「アウトコース高め」と「インコースのハーフハイト」となっている。
ブログ主は、経験上、ハミルトンが最もホームランを打てる得意コースは「インコースの、ハーフハイトから高めにかけてのゾーンに限られる」と確信しているので、Gamedayが示すハミルトンのホットゾーンを必ずしも信用しない。
ただ、Gamedayのホットゾーンを評価したい点がある。それは、「ボールゾーンの打撃傾向が示されている」ことだ。この機能はFOXのホットゾーンには無い。
Gamedayのボールゾーンにおけるホットゾーンには、「ハミルトンが、アウトコース系のボール球で繰り返し凡退していること」が、弱い形ではあるが、示されている。
これはブログ主の経験値と合致するので、少しは信用できる。


Baseball Analystic

Baseball Analysticによるハミルトンのホットゾーンハミルトンの得意コースが「インコース」であることは明らか

データ出典Home Run Recap: Josh Hamilton - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

5人の寄稿者で運営しているらしい、このサイトは、イチローに関する記事を検索していて偶然に記事をみつけて読み、内容のレベルの高さに感心させられたことが何度かある。
ここのホットゾーンデータは、文字通り一級品、いや、最高級品だと思う。
(ブログ注:このサイトのホットゾーンデータが、果たしてサイトオリジナルなのか、それとも、野球シンクタンクかどこかの元データを引用しているのか、今のところわからない。同じデザインのホットゾーンがESPNでも大量に引用されているのだが、出典が記載されていない。ESPNのデータである可能性もある)

なにより、ここのホットゾーンを信頼するのは、「ハミルトンは、アウトコース低めを打てない」という、ブログ主の経験値と完全に一致するからだ。

また、このサイトは、その程度の「気づき」をはるかに越えた鋭い判断力に裏打ちされた分析記事にも溢れている。
さきほど、この記事を書くために、このブログ内を検索していて気づいたのだが、このサイトは2011年3月20日付で、「ジョシュ・ハミルトンの三振のさせ方」なる記事まで既に掲載し、「ハミルトンを三振させるなら、アウトコースのスライダーかカーブ」とハッキリ明言している。
この判断スピードの速さには、ハミルトンがアウトコースにウィークポイントがあることに今年になってやっと気づいたブログ主程度では、到底追いつけない。
How to strike out Josh Hamilton - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics
さらにこのサイトがちょっと信じられないほど素晴らしいのは、2011年8月13日付で、ハミルトンが「MLBでオフ・スピードの球を打つのが上手い3本指のバッターに入る」ことも記事にしていることだ。
つまり、この分析専門ブログのライターは、「ハミルトンが、スライダーのようなオフ・スピードの球を打つことについて、MLBで3本指に入る優れたバッターである」ことをデータ上できちんと把握した上で、それでも、「アウトコース一杯のスライダー(あるいはカーブ)なら、ハミルトンから確実に三振がとれる」と断言しているわけだ。
この判断力は凄い。観察眼の鋭さに加えて、よほどの決断力がなければ、到底こんなことをパブリックな場所に書くことはできない。脱帽するほかない。
Best Offspeed Hitters - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics


何事につけても自己中心的(笑)なブログ主は、自分の判断に合致するBaseball Analysticの分析とホットゾーンを信頼することにする。


FoxやGamedayなど、大衆的な野球データサイトが公開しているハミルトンの「ホットゾーン」では、「ハミルトンがアウトコース低めの変化球を苦手にしている」というデータが出てこないのには、どんな原因が考えられるだろう? 可能性をいくつか挙げてみた。

1)データのアップデートが頻繁に行われていないために、データが古い
2)ストライクゾーンのデータのみを収集し、「ボール球を振って凡退した」というデータが積極的に収集されていない。そのため、結果的に、「ストライクゾーンにおける打率」が、高めに表示されてしまう
3)ストライクゾーンを分割するマトリクスが大きすぎる。そのため、データの精度が低い
4)データ収集期間が長すぎる(または短すぎる)ため、データにリアリティが無い
5)左投手、右投手との対戦を区別してデータ収集されていないために、左右の投手別の打撃傾向がハッキリ把握できない。例えば「右投手の投げるアウトコースのカーブは得意でも、左投手の投げるアウトコースのカーブはまるで打てない」場合、単純なホットゾーンデータからはそうした事実を読み取ることができない

データが不正確になるいくつかの可能性を考えてはみたものの、アップデートの頻度、マトリクスの大きさ、データ収集期間の長さ、どれをとっても、FOXやGamedayのホットゾーンが正確さに欠けていることの言い訳にできるとは思わない。
いくら予算不足などの現実的な理由から、十分な頻度でアップデートできないとか、マトリクスを十分に細分化できないとか、データ収集に制約が生じているとしても、それを理由に「ホットゾーンデータが間違っても、しかたがない」とは、ブログ主は全く思わない。(たぶん、もっと他の根本的かつ幼稚な原因があるに違いない)

間違ったデータの提供は、いろいろな意味でファンの楽しみを損なう行為だということを、データサイトは十分に認識しつつサービスを提供すべきだと思う。

ちなみに、「左投手と右投手でホットゾーンを区別して評価すること」については、打者の傾向分析として重要な意味があると思うし、そういう現実的で有用なデータが無料で情報としてファンに提供されるなら、ファンサービスとして理想的な形だとは思う。
だが、労力として、一般的なデータサイトにはおそらく負担がかかりすぎるだろう。また、左投手と右投手のデータを混ぜたことが、不正確なホットゾーンが提供されてしまっていることへの言い訳にできるわけではない。

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話がいつのまにか「どこのサイトのホットゾーンが最も信用できるか」に流れてしまっているが、ご容赦願いたい(笑)

なぜこんな確認作業に手間をかけるか、といえば、どこのサイトのホットゾーンデータが「本当に信用できるのか」を、あらかじめ限定しておかないと、話が前に進まないからだ。

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「苦手な球に手を出さず、四球を選べるバッター」
三冠王 ミゲル・カブレラ


サンプル/2012年10月6日 ALDS
オークランド対デトロイト Game 1
打者:ミゲル・カブレラ 第2打席
投手:ジャロッド・パーカー

パーカーは、三冠王カブレラの数少ない苦手コースのひとつである「インハイ」を、果敢かつ徹底的に攻めたが、カブレラはまったく応じず、1球もスイングしなかった。
そこで、インハイ攻めで根負けしたパーカーは、カウント3-1の5球目、「インハイ」以上にカブレラの苦手コースである「アウトロー」に、ボールになるスライダーを投げてスイングさせようとしたのだが、ここでまたもやカブレラに見切られてしまい、結局、四球で歩かせることになってしまう。
Oakland Athletics at Detroit Tigers - October 6, 2012 | MLB.com Gameday

2012年10月6日 ALDS Game1 OAKvsDET カブレラ第2打席 

「インハイ」と「アウトロー」が、カブレラの苦手コースであることの真偽は、いまのところ最も信頼できるホットゾーンデータを提供していると思われるBaseball Analysticの、以下のデータで確認してもらいたい。(上に挙げたGamedayデータとでは、左右が逆になっていることに注意)
Pitching to Cabrera - Baseball Analytics Blog - MLB Baseball Analytics

ミゲル・カブレラ ホットゾーン


オークランド先発パーカーが、カブレラの苦手なインハイをきわどい球で攻めることは、まったく間違っていないし、逃げでもない。
それどころか、Baseball AnalysticPitching to Cabreraという記事で書いているように、ミゲル・カブレラへのインハイ攻めは、非常に積極的な「三冠王カブレラへの挑戦」なのだ。(オークランドのミゲル・カブレラに対するスカウティングの正確さは、2012レギュラーシーズン終盤にテキサスを冷静に分析することで、ハミルトンをはじめ、強打のテキサス打線を完全に封じ込めた彼らの分析力の高さを示してもいる)


だが、これだけ弱点を突かれても、
それでもカブレラは四球を選べてしまう。

それは、なぜか?

テキサスのジョシュ・ハミルトンが「苦手なはずのアウトローのカーブにさえ手を出して、空振り三振や併殺打に倒れてしまう」のと対称的に、ミゲル・カブレラが「苦手なインハイ」も、「苦手なアウトロー」も、まったく無駄なスイングをしない、からである。

このことが、最初に挙げた2つのツイートの意味だ。
あらためて、自分のためだけの金言として、もう一度まとめなおして書いておこう。


たとえ三冠王ミゲル・カブレラであろうと「苦手な球種や、苦手なコース」が存在するように、天才にも「苦手な球種や、苦手なコース」は存在する。

いいかえると

「苦手な球種やコースが存在すること」 は、
「平凡なバッターの証し」ではない。


平凡なバッターが「平凡」なのは
「苦手な球種やコースなのに、手を出してしまう」
からだ。

「苦手な球であるにもかかわらず、手を出して凡退してしまうのが、平凡なバッター」だとしたら、三冠王カブレラが本当の意味で優れたバッターなのは、彼が、「苦手な球を、振らずに済ますことのできるクレバーなバッター」だからである。


damejima at 01:01

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