MLB史 ルールや制度の変化

2018年10月8日、中小都市の「冷めやすいスープ」と、大都市の「冷めにくいスープ」。MLB集客マーケティングの根本的誤り。
2018年10月4日、2004年以降ではじめて観客動員数が7000万人を割り込んだMLB。観客動員数の動向を如実に反映する「マーカー球団」を発見。
2017年5月15日、「MLBにおける日曜試合禁止時代」とピューリタン的なBlue Law 〜 古代ローマ文化と『ローマの休日』
2015年8月26日、「右投手貯金」からみたMLB。
2015年8月17日、被死球王アレックス・ロドリゲスに11打数で3回ぶつけている「愛すべき」死球王コール・ハメルズ。
2015年3月26日、「ファウルボール事故」について考えていくためのMLB版資料。
2015年3月7日、まさにこの言葉を新コミッショナー、ロブ・マンフレッドに贈りたい。「ルールがゲームを生むのではない。ゲームがルールを定めるのだ」
2014年8月25日、ネガティブ・リストとポジティブ・リストの違いから説き起こす、「点差の開いたゲーム終盤での盗塁の是非」についてのダルビッシュの容認発言の根本的誤り。
2012年4月27日、1908年の試合告知ポスターにインスピレーションを得て作られたといわれる "Take Me Out To The Ball Game" の「元になったゲーム」を探り当てる。
2012年2月19日、「10 & 5 ルール」と、一般的なノートレード条項との違い。
2011年11月25日、 どうやら、新しく結ばれたMLBの労使協定に、「低比重のメープルバットの使用禁止が盛り込まれている」らしい。
2011年7月18日、去年より低かった2011MLBオールスターの視聴率 (2)700万票以上集めた選手すら出現したオールスターの「視聴率が下がる」現象は、どう考えても納得などできない。
2011年7月18日、去年より低かった2011MLBオールスターの視聴率 (1)6.9%だからMLBは衰退しているとかいう、くだらない議論。呆れた今の日本の「議論能力」の無さ。
2011年7月6日、「MLBでは不文律を絶対に破らない」という不文律は、「どこにも無い」。
2010年8月22日、カブスの監督を退任したルー・ピネラの出場した1977年ワールドシリーズ第6戦をリプレイしてみる。(ワールドシリーズにおけるDH制度の変遷)
2010年4月2日、野球のプレーに大きなジェスチャーが取り入れられたのは、いつなのか。あるいはダミー・ホイの歴史的意義。

October 08, 2018

2000年以降のMLBとDETの観客動員数の相関
赤:MLB 青:DET

2000年以降のMLBで「観客動員数が激減したシーズン」が、2002、2009、2018年と、3シーズンあり、そのいずれのシーズンにおいてもデトロイトの観客動員が激減していること、デトロイトの観客動員数そのものがMLB全体の観客動員の動向と連動する傾向にあることを示した。
2018年10月4日、2004年以降ではじめて観客動員数が7000万人を割り込んだMLB。観客動員数の動向を如実に反映する「マーカー球団」を発見。 | Damejima's HARDBALL


近年の「激減局面」において、「デトロイトの観客動員数が、MLBの観客動員数と連動している」ことは、理由はまだ判然としないものの、ほぼ疑いない。


では、「急増局面」では、どうだろう。

2000年以降、観客動員数が前年に比べて急増したシーズンは、なんといっても「2004年〜2007年」が筆頭で、あとは2012年に小さく上昇した程度だ。以下に2004年〜2007年に「年間40万人以上、観客動員数が増加した球団」とその年の地区順位を列挙してみる。

2004
PHI(2位) SDP(3位) HOU(2位 NLCS進出) DET(4位) FLA(3位 前年WS制覇) TEX(3位)

2005
WSN(5位) NYM(3位) STL(優勝 NLCS進出) CHW(優勝 WS制覇)

2006
CHW(3位 前年WS制覇) DET(2位、WS進出) NYM(優勝 NLCS進出)

2007
MIL(2位) NYM(2位) DET(2位) PHI(優勝 NLDS進出)

かなりの数の地区順位「2位」があるのが、ちょっと面白い。スポーツファンが優勝に興奮するのは当然の話だが、ある意味「ドラマチックな2位」にこそ「人を興奮させる要素がぎっしり詰まっている」のかもしれない(笑)


「急増」リストに複数回出現するチームは4つ(DET、NYM、CHW、PHI)あるが、3回以上出現するチームは、DETNYMの、2つだけしかない。
結局、「激減」「急増」の両面みて、そのほとんどに登場するチームは、30球団のうち「デトロイト・タイガースだけに限定される」。
デトロイト・タイガースが、MLBの観客動員の増減に非常に「鋭敏に」連動する球団、「マーカー」であることは、もはや疑いようがない。



さて、2000年以降の観客数の激減と急増、両局面を見たことで、もうひとつわかることがある。

デトロイトのような「激減と急増を繰り返す球団」はむしろ「例外」で、ほとんどのケースでは、「激減をたびたび経験した球団」と、「急増をたびたび経験した球団」とが異なっていることだ。

減少 PIT、CLE、TEX、MIA(FLA)、BAL
増加 NYM、CHW、PHI


「観客動員が急激に増減する要因」は、大小いろいろ考えられる。
ネガティブ面では、チーム低迷、人気選手の移籍や引退、ファイヤーセールなど。ポジティブ面では、前年のワールドシリーズ制覇で翌年への期待が高まったことや、地区での好成績、ポストシーズン進出などが考えられる。


では、「チーム成績がすべて」なのか。

たぶん、そうではない。
もしそうなら、大半のチームがデトロイトと同じように「チーム低迷時の激減」と「好調時の急増」を繰り返していなくては、辻褄があわない。チーム好調時の観客急増はよくある話だが、低迷時の観客激減をすべてのチームが経験するわけではないのだ。


リスト全体を何度となく眺めていて、単なる直感ではあるが、こんなふうに思えた。

メインの仮説

MLB球団の観客動員の「特性」は、実はチームごとに異なっており
以下の4種類くらいに大別される

熱しやすく、冷めやすい 例 DET
熱しにくく、冷めやすい 例 PIT CLE TEX MIA BAL
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熱しやすく、冷めにくい 例 NYM CHW PHI
良くも悪くも大きな変化はしない 大都市の人気球団

おしなべていえば、中小都市にあるチームのファンは「冷めやすい」。対して、シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルスなど、大都市マーケットのチームはおおむね「冷めにくい」。


もし、この「仮説」が正しいとしたら、
次に、以下のようなことが連想される。

メイン仮説からの敷衍

中小マーケットのチームは「冷めやすい」。したがって、一度観客を手離してしまうと、再び観客を取り戻すのに時間がかかり、容易ではない
対して、大都市マーケットのチームの観客動員は、固定観客が多数いるために、「冷えにくい」。したがって、チーム成績のアップダウンによる集客への影響は常に小さくおさまる。




ここにきてようやく、「2018年の観客動員が7000万人をひさしぶりに割り込んだ理由」に「仮説」を立てられそうだ。

2018年のMLBマーケットが縮小した理由

ただでさえ「冷えやすい」中小マーケットの多くが、チーム低迷と、チームの核の人気選手の大都市チームへの放出などによって、「急激に冷やされた」ことによると、推定される。


2018年の大都市チームの概況

2018年はドジャース、ボストン、ヤンキース、カブスなど、「大都市チーム」が同時にポストシーズン進出し、チーム補強のために過度ともいえる「選手狩り」を行った。(例 マッカチェン、マチャド、スタントン、JDマルチネス、ハップ、ハメルズ、ランス・リン、キンズラーなど多数)

だが、大都市チームの集客力は「常に上限にある」ことを忘れてはいけない。単年のポストシーズン進出や、有名選手の集結程度で、大都市チームの観客動員が激増することはないのである。

2018年の中小マーケットの概況

他方、シーズン100敗チームが続出する中、かなりの数のチームが一斉に低迷を迎えてしまい、中小マーケットは一斉に冷えこんだ。

「中小マーケットの人気選手」はもともと限られた数しかいないわけだが、これが一斉に大都市チームに移動し、中小マーケットはより冷却されることになった。


このブログでは、マイアミGMに就任したデレク・ジーターがチームを無意味に解体したことをたびたび批判してきたわけだが、その判断にはやはり間違っていなかった。マイアミに本当に足りなかったのは、無駄な再建ではなく、「先発投手陣を買い集める資金」だ。


大規模なリビルドやファイヤーセールがファン心理に与える影響が、大都市マーケットと、冷えやすい中小マーケットとで、まるで違うインパクトをもつことを、多くの人が忘れすぎている。

大都市のチームは「リビルド速度」が早い。
それは、豊富な資金力によって、チームに「強い回復力」が備わっているからだ。ファンのマインドも、選手の回転に慣れているから、リビルドの影響は小さい。

だが、資金に限度がある中小マーケットでは、有力選手を簡単には買い戻せない。そのため若手を育てる戦略をとるわけだが、それには一定の時間がかかる。また、地元で育った選手への「愛着」も強い。
中小マーケットでは、大規模なリビルドやファイヤーセールで一度マーケットを「冷却」してしまうと、チーム再建に時間がかかるだけでなく、ファンのマインドを再び温めなおしてボールパークに呼び戻すのにも、かなりの時間がかかるのである。


上に書いたような「規模の違いによるビヘイビアの違い」はなにも今年に限ったことではなく、昔からあったことだが、問題なのは、MLBマーケット全体の拡大のキーポイントが、飽和状態にある大都市マーケットにあるのではなく、むしろ「中小マーケットを過度に冷却しすぎないこと」にあることを忘れて、大都市マーケットにばかり熱中したがる視野の狭い人間たちが今のMLBやマスメディアを主導している点だ。

ロブ・マンフレッドは、大都市に選手が集結して、バットをやたらと振り回して三振とホームランを繰り返すような「雑なマーケティング」を誘導して、中小マーケットを冷やしたことを、心から反省すべきだ。

damejima at 17:02

October 04, 2018

2000年以降のMLB観客動員数


2018シーズンのMLB総観客動員数が、2004年以来はじめて「7000万人」を割り込んだ
だが、このことはシーズン当初から予想されてはいた。というのも、シーズン最初の2ヶ月に天候があまりに悪すぎたことが、年間観客動員数に響くことが当時から懸念されていたからだ。


ただ、2018年5月にUSA Todayに掲載されたAP通信の記事は、観客動員数の減少がなにも天候のせいばかりでなく、「三振の激増も原因なのではないか」と、コミッショナーロブ・マンフレッドに疑念をぶつけている。
Attendance drop, strikeout rise has MLB concerned

マンフレッドは「シーズンは始まったばかり。あわててもしょうがない」と、例によって毒にも薬にもならない返事でお茶を濁したのだが、シーズンが終わってみると、観客動員数はAP通信が懸念したとおり、原因が「三振」かどうかはともかく、2018年は最も観客動員数が劇的に落ち込んだシーズンのひとつになった。


いち早く「MLBの三振激増」に気づいたブログ主の立場からいうと、USA Todayのようなマス・メディアが「三振増加のネガティブな影響」に着目したのはなかなか面白いことではあるのだが、少し仔細に点検してみると、ちょっと「違う話」がみえてくる。

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まず、どのくらい観客数が減ると「大幅な減少」といえるかを決めなくてはならない。


もちろん明確な基準などない。だが、たとえドジャースだろうと、どこだろうと、「20万人くらいの増減」は、どんな人気球団でもあることを考えると「1チームあたり、20万人」の増減では、基準値=マーカーにはならない。

今年は82試合ホームゲームを行った例外的なチームがあったが、通常のMLBのホームゲームは「81試合」なので、「1試合につき5000人観客が減少」すると、「年間約40万人の観客が減少」することになる。
この20年くらいでみると、この「40万人の減少」は、出現しても多くて1年に3チームほどが上限で、まったく出現しないシーズンも、数シーズンある。

だから「1チームあたり40万人」という数字なら、マーカーになりうる。


そこで、2000年以降の「40万人の減少チーム」を調べてみると、2000年以降に、8球団とか9球団がこの「40万人以上の観客減少」を同時に経験したシーズンが3シーズンあることがわかる。
「2002年、2009年、2018年」だ。

いいかえると、2000年以降のMLBで「観客動員数が激減したシーズン」は、実は2018年だけではなく、「3シーズン」あった。

その3シーズンには、ある「共通点」がある。
同じシーズンに8球団から9球団が、同時に大量の観客を失う
という現象だ。

いいかえると、観客激減シーズンの原因は、1チームが一気に500万人もの観客を失うというような1点集中の現象ではなく、多くのチームが「一斉に」観客数を失う横並びの現象だ、ということだ。


こんどは、それら「3シーズン」において、観客数が激減したチーム名を列挙してみる。「不思議な現象」があることがわかる。

1シーズンに40万人以上の観客を減らしたチームのリスト

2002年 MIL PIT CLE TEX FLA COL DET BAL HOU
2009年 NYM DET NYY TOR SDP WSN CLE ARI
2018年 TOR MIA KCR DET BAL PIT TEX

左から「観客減少数」が多い順
太字は上のリストに複数回登場するチーム


「不思議な現象」とは、以下のような話だ。

たった3つしかないリストに、3回デトロイトが登場する。
PIT、CLE、TEX、MIA(=FLA)、BALの5球団が、2度ずつ登場する。



デトロイトの2000年以降の観客動員数を図示してみる。

2000年以降のデトロイト・タイガースの観客動員数


次に、最初に挙げたMLBの図と、デトロイトの図を重ねてみる。

2000年以降のMLBとDETの観客動員数の相関


いやー。
作ってみて、ちょっと鳥肌たった(笑)


もちろん、30球団すべてを図示してみないと最終的に断言はできないが、上で指摘したように「2002、2009、2018シーズンすべてにおける観客数激減が、デトロイトタイガースのみにしか見られない現象」であることから、まず間違いなく、以下のことが言える。

デトロイト・タイガースの観客動員数というのは非常に特殊で、MLB全体の観客動員数の動向(特に減少する場合)を最も如実に反映する「鏡」であり、マーカーである。


もちろん、言うまでもないが、デトロイトが代表格であるにしても、2度登場する「PIT、CLE、TEX、MIA、BALの5球団」にも、おそらく「デトロイトに似た傾向」が見られるはずだ。



では、なぜデトロイトを代表格として、「特定の球団グループの観客動員数と、MLB全体の観客動員数とが密接に連動する傾向」がみられるのか。そして、それは「MLB全体の観客動員数の激減を直接左右するような要因」なのか。

そのことは「次の記事」に譲る。


少なくともここで言えることのひとつは、LAD、NYY、BOSなどの「大都市の人気球団の観客動員数の動向」と「MLB全体の観客動員数の増減」とは、あまり連動しない、ということだ。(ただし2009年の激減にはNYYが関係している)
「人気球団は、MLB全体の観客動員数と関係なく、人気が維持できる」という見方も、もちろんできるが、それは見方を変えれば「人気球団の観客動員はすでに天井、上限値であって、もうこれ以上なにをやろうと観客動員の増加が見込めない」という意味でもある。


また、MLB全体の観客動員数を7400万人前後に押し上げたようなパワーは、実は「人気球団以外の球団」をどれだけ底上げできるかに常にかかっている、ということもハッキリした。


この件については記事をあらためてさらに考える。

damejima at 21:04

May 16, 2017

下の写真は1929年に「レッドソックスのホームゲーム」に向かう大勢のファンの姿だが、彼らが向かっているのは「フェンウェイ」ではない。「ブレーブス・フィールド」だ。
1932年までレッドソックスは「日曜に限って、フェンウェイで試合を開催することができなかった」。そのため「日曜のゲームだけ」は、西に1.4マイル離れたブレーブス・フィールドで行われていたのである。(ブレーブス・フィールドは、現在のアトランタ・ブレーブスがボストンにあった時代の本拠地で、現在の名称はニッカーソン・フィールドで、ボストン大学の所有)


いままで一度も真剣に考えたことがなかったが、どうも「人が休息する曜日には、2つの種類がある」ようだ。

1)宗教的なさまざまな「制約」が定められた安息日
2)疲労回復やリクリエーションなどをして過ごす、「自由」時間としての休日


上に書いた2種類の休日のうち、後者のルーツは、どうも「古代ローマ帝国」にあるのではないか、という主旨で以下を書く。(なお、余談としてオードリー・ヘップバーンが主演した『ローマの休日』という名作映画のタイトルの解釈の誤りにも触れる)


特定の曜日」の人々の行動について、「宗教的な視点から、制約を設けている国」は、案外多い。例えば、ユダヤ教なら土曜、キリスト教なら日曜、イスラム教なら金曜が、「安息のための日」とされ、歴史上さまざまな制約が設けられてきた。それぞれの宗教の信者の多さを考えると、かなりの数の人々がこれまで「特定の曜日の行動にさまざまな制約が設けられた文化のもとで暮らしてきた」ことになる。

例えばキリスト教国だと、古くから日曜日の人々の活動のいくつか(例えば飲酒)を法的に制限した例がある。
アメリカは、そうした国々の中で最も歴史の新しい国のひとつだが、それでも、かつてアメリカがヨーロッパの植民地だった時代に、厳格なモラルのある暮らしを求めるピューリタン系移民の意向でBlue Lawという法律が定められた。
Blue Lawによる制約は州によって中身が異なるのだが、いずれにしても自由の国アメリカにも「日曜日の行動」にさまざまな制約を設けていた時代があったのである。


ボストンは、トリニティ教会のような尖塔をもったヨーロッパ風の教会が点在するヨーロッパ文化の影響の濃い街だが、フェンウェイパークは球場の1000フィート内に教会があった。そのため、法的な規定によりかつては「日曜日に試合を開催すること」ができなかった。
例えば、「1929年」でいうと5月23日〜26日にレッドソックス対ヤンキース戦が5試合組まれているが、水曜から土曜までの4試合はフェンウェイだが、「日曜日の試合だけ」はフェンウェイではなく、「ブレーブス・フィールド」で行われている。(資料:http://www.baseball-reference.com/boxes/BOS/BOS192905260.shtml

なおブレーブスがレッドソックスに日曜限定で球場使用を認めた経緯については、以下の記事が詳しい。Red Sox to use Braves Field on Sundays - The Boston Globe
ブレーブス・フィールドとフェンウェイパークの距離


さて、野球の日曜開催を阻んでいたBlue Lawの存在がわかったら、話は終わりかというと、そうではない。まだ長い続きがある(笑)


英語で「日曜日」を意味する言葉が sunday、サンデイ であることは、英語の苦手な日本人でも知っている。
だが、こういう『太陽を意味する言葉』が「日曜日」を示すようになったことには、なかなか深い歴史的な意味がある。


長い話を書く前に
まず誤解を正しておかなくてはならない。

欧米のキリスト教国に、日曜日の人々のふるまいに制約を設ける法律があることについて、日本人はその理由を「キリスト教の安息日が日曜日だからだ」と思いがちだし、日本の多くのサイトも堂々とそういう「間違い」を書いている。

だが、それは以下に示すが、二重三重の意味で正しくない
 
そもそも「安息日」という言葉が指す曜日は、ユダヤ教、キリスト教、いずれの場合も、「土曜日」であって、日曜日ではない。
旧約聖書のもとにおける安息日(Sabbath)とは、天地創造7日目に神が休息をとった曜日である「土曜日」である。ユダヤ教、そしてキリスト教宗派の一部の厳格さを重んじる宗派において、安息日とは現在でも「土曜日」を指している。
さらに詳しく言えば、「安息日という意味の土曜日」は、厳密には「金曜の日没から、土曜の日没まで」を意味しているのであり、例えばユダヤ教では、「既に安息日に入っている金曜の日没後の夜」に、「安息日の禁止事項のひとつ」である「火を使って料理する行為」は許されない。
金曜を安息日とするイスラム教においてもまた、「安息日の金曜」が意味するのはあくまで「木曜の日没から、金曜の日没まで」であり、各種の禁忌は、金曜の深夜12時から始まるのではなく、「木曜の日没」から始まる。

新約聖書のもとでは、「日曜日」が特別視され、礼拝も行われるが、これも「日曜日が安息日だから」ではない。これは「日曜日」が「主キリストの復活した曜日」にあたる「主日」(しゅじつ、=Lord's day)だからである。
例えば、東方正教やカソリック系諸国の言語、ギリシャ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語などにおいては、「日曜日」を示す単語として、英語におけるsundayのような「太陽を意味する言葉」ではなく、「主日」に由来する言葉を用いる。

歴史家的視点からいうと、キリスト教における礼拝日は古代ローマ時代に「土曜日から、日曜日に変更になっている」と考えられており、その直接の転機は皇帝コンスタンティヌスがAD321年に発布した日曜休業令にある。
考察例:David Laband "Blue Laws: The History, Economics, and Politics of Sunday Closing Laws"



さて、19世紀アメリカの「日曜日の行動を規制する法律」、 Blue law のルーツに話を戻す。

この法律のルーツは、1617年にイギリスのステュアート朝初代国王ジェームズ1世が定めたDeclaration of Sportsといわれている。
ジェームズ1世のステュアート朝の前の、テューダー朝をひらいたヘンリー7世の息子ヘンリー8世が離婚のために英国国教会までつくったあたりのことは、既に記事に書いた。2014年12月5日、シェークスピアも予期できなかった、527年後の復讐劇。21世紀版 『リチャード3世』。 | Damejima's HARDBALL

英国国教会成立後のイギリスでは、国教会派と、それ以外のキリスト教宗派、特に清教徒(ピューリタン)との対立が激しくなり、ピルグリム・ファーザーズのような清教徒の一部は新天地を求めて、ボストンをはじめとするアメリカ東部に渡った。
こうしたピューリタンの影響のひとつがBlue Lawだ。清教徒はご都合主義を嫌ってアメリカに渡ったわけだから、アメリカ東部の都市の一部が「キリスト教的な厳格さを要求する保守社会」になったのは当然の成り行きでもあった。
だから「Blue law が人々に求める休日」とは、最初に書いた「休日のあり方に関する2つのパターン」のうちの前者、つまり「宗教的にさまざまな制約のある安息日にふさわしい過ごし方」であり、けして現在のような「休養やリクリエーションをして過ごす、自由な休日」ではない。


では、「宗教的な義務としての安息の日」ではない、「疲労回復やリクリエーションなどのための、単なる休憩時間としての休日」は、いつごろ人類史に現れたのか。


現在我々が経験している「日曜日に、野球でも見て、ビールでも飲んで、のんびり過ごす」というような意味での「自由な休日」のルーツは、どうやら古代ローマ帝国にある。

古代ローマには「ヌンディナエ」という「8日目の休日の習慣」が、キリスト教が古代ローマ帝国に浸透する前からあった。
古代ローマ帝国は当初、「ヌンディヌム(nundinum)」と呼ばれる「八曜制」を採用していたために、「古代ローマ初期の1週間のサイクル」は「8日間」でできていたが、ヌンディヌムの「8日目」が、ヌンディナエ(nundinae)であり、仕事も学校も休みで、たとえ下層階級である農民であっても、7日間の労働のあとのヌンディナエでは友人との時間を楽しむ時間的なゆとりを持てたらしい。

皇帝アウグスティヌの時代になると、「8日間サイクル」でできていた1週間は「7日間」に短縮され、その7日目には「太陽の日」を意味する Diēs Sōlis という呼称が与えられ、皇帝コンスタンティヌスは「日曜休業令」を発布し、「週の7日目に仕事や学校を休む」よう定めた。

古代ローマで「休養日」が「太陽を意味する言葉」で呼ばれていたこと自体には、古代ローマ特有の宗教上の理由がある。古代ローマ人は、キリスト教が伝来する前から多神教的な「太陽崇拝の土着宗教」を持っていたからだ。

だが、古代ローマの「日曜休業令」は太陽崇拝を強制するために作られたわけではない。
もし皇帝コンスタンティヌスが領土全体にローマ帝国の伝統宗教を強制しようとしたのであれば、領民全員に「太陽崇拝」と「日曜の太陽礼拝」を強制したはずだが、彼はむしろミラノ勅令ですべての宗教の自由を認めたことで有名な自由を重んじる皇帝であり、太陽崇拝の強制のために日曜日を休ませたわけではないし、また、彼自身たしかにキリスト教擁護者でもあったが、反面でローマ伝統の太陽崇拝を捨てていたわけでもないから、キリスト教の礼拝を強制するために日曜休業を言い出したわけでもない。

古代ローマでは、キリスト教が帝国全土に浸透する前の1週間がまだ8日間だった時代から既に、「1週間のうち、1日を、学校や仕事を休んで休養にあてる習慣が存在した」のであり、コンスタンティヌス帝は「日曜休業令」で「古代ローマの伝統的な習慣」を「制度化した」のに過ぎない。



「日曜日」の呼び名である "sunday" は「太陽」に関係した言葉であり、その原点は、キリスト教の登場より古く、古代ローマにある。
この言葉が規定した「日曜日」とは、もともと「宗教的な制約に従って静かに過ごす日曜日」ではなく、むしろ「自由に過ごしても許される、休養やリクリエーションの日としての日曜日」が、むしろ「オリジナルの日曜日」なのだ。
ヨーロッパを脱出してアメリカにやってきた清教徒たちのナーバスな要求で作られた Blue Law がボストンでの日曜の野球開催を禁じたわけだが、日曜日に娯楽に興じることはキリスト教よりも古いルーツにのっとった行為であり、やがてアメリカにおける Blue Law による生活のさまざまな制約は20世紀に撤廃されていくことになった。
(この例からも、アメリカと英語の文化が、けしてキリスト教文化のみでできているわけではないことが、そのこともなかなか興味深い)


ゆえに。

映画『ローマの休日』の原題 Roman Holiday は、厳密に直訳するなら、『ローマ式の休日』と訳すのが正しい
さまざまな制約に縛られてばかりいる王女が、イタリアのローマで、ヨーロッパ歴訪の過密スケジュールと王室の制約に縛られることなく、自由きままに休日を過ごした、そのリラックスした過ごし方こそ、「古代ローマ的な休日」にほかならない。

Audrey Hepburn in


damejima at 17:19

August 27, 2015

詳しいデータは自分で調べてもらいたいが、MLBでは右投手と左投手の先発登板割合がだいたい 3:1 になっている。


すると、どういうことが起きるか。

全試合の4分の3を占める右投手登板ゲームで大量の貯金を作れたチームが、地区優勝、あるいは、ポストシーズン進出を決める」ことになる。2015年でみても例外はない。
2015年「対右投手貯金」ランキング
太字は8月27日現在の地区首位チーム

STL 33
KCR 27
PIT 23
CHC 17
LAD 13
NYM 11
HOU 10
TOR 9

2015 Major League Baseball Standings & Expanded Standings | Baseball-Reference.com


この現象を、めんどくさいので短く「右投手貯金」とでも呼んでおこう。


この「右投手貯金」現象、
逆に「自軍ローテ投手視点」から見てみると、どうなるだろう。

MLB全体の登板割合が「右:左=3:1」ということは、ひとつのチームのローテ投手5人でみると、「右3人、左1人」が基本パターンで、あと1人がそのチームの投手事情やスタジアムの構造によって、右が左かが決まるというような投手構成が想定される。だから「右4人、左1人」か、「右3人、左2人」かはチーム事情とかによるわけだ。

上で見たように、地区優勝するようなチームは「大量の『右投手貯金』を作って、逃げ切ろうとする」わけだから、逆の視点から言うと、「自軍の右投手(3人か4人程度)には、絶対に負け越してもらっては困ることになる。とりわけ、同地区ライバルとの対戦カードでは、右投手先発ゲームでは絶対に負け越したくない。
一方「左投手(1人か2人)は、勝率5割程度でも、まぁ、しょうがないかな」という話になる。

短くまとめると、こんなふうになる。
自軍の右腕投手:負け越したら地区首位にはなれない
自軍の左腕投手:勝率5割程度で十分


さて、典型例として、多くの「右投手貯金」を作ることに成功しているセントルイスの投手陣を見てみる。
まさに「方程式どおり」の布陣と成績だ。右腕の4人、特にワッカ、マルティネスの2人で「自軍の右投手貯金」を大量に貯めこんだ。唯一の左腕ガルシアは勝率5割程度だが、これで十分。セントルイスは「右投手貯金」の稼ぎ頭マイケル・ワッカを手放すことは永遠にないと思う。いい人材を育て上げたもんだ。
右 マイケル・ワッカ 15勝4敗
右 カルロス・マルティネス 13勝6敗
右 ジョン・ラッキー 11勝8敗
右 ランス・リン 10勝8敗
左 ジェイミー・ガルシア 6勝4敗

カンザスシティはどうだろう。
複数年契約の左腕バルガスのDL入りで、右のジョニー・クエトを獲ったため、今は典型的な「右投手の多い構成」になってはいるが、もともと絶対的な右ピッチャーがいない。そのため「右投手貯金」はできていない。だが、貯金の大半を同地区ライバルのホワイトソックス(10勝3敗)から挙げていること、これが非常に大きい。また、同地区の全チームに勝ち越していることも地区首位に大きく貢献している。いわゆる全員野球的な勝ち方。
右 エディンソン・ボルケス 11勝7敗
左 ジェーソン・バルガス 5勝2敗 DL
右 ジェレミー・ガスリー 8勝7敗
右 ヨーダノ・ベンチュラ 9勝7敗
左 ダニー・ダフィー 7勝6敗
右 ジョニー・クエト 2勝3敗(トレードで獲得)

次にヒューストン
サイ・ヤング賞候補の左腕ダラス・カイケルがいるため、右3人、左2人。同地区TEXに4勝8敗と負け越しているのが困りものだが、SEAに9勝4敗、LAAに8勝5敗と、カンザスシティと同じく同地区相手に貯金を作ることで地区首位を守っている。
「大量の右投手貯金」を作ってくれる右腕が2人もいるセントルイスと違って、ヒューストンの「右投手貯金」はマクヒューひとりだけだが、そのかわり左腕ダラス・カイケルがいる。この「左腕でも稼げること」が、チームに絶大な効果がある。他チームなら勝率5割程度でしかたないはずの「左投手」が「大量の貯金をもたらして」くれる上に、左腕投手には負けたくない他チームに多大な打撃を与えてくれるわけだから、ダラス・カイケルの存在は実に大きいのだ。ア・リーグのサイ・ヤング賞はこの人だろう。
右 コリン・マクヒュー 14勝7敗
左 ダラス・カイケル 15勝6敗
右 スコット・フェルドマン 5勝5敗
左 スコット・カズミアー 7勝8敗
右 ランス・マキュラーズ 5勝4敗

トロントは、珍しく左投手寄りのチーム。
右のハッチソンは12勝2敗と勝ち星こそ多いが、内容は良くなく幸運に恵まれただけの結果で、実際に頼りになるのは、むしろエストラダとバーリー。そこでGMアンソポロスが不振のデトロイトからプライスを獲ったところ、プライスが8月の月間最優秀投手を受賞する勢いで連勝してくれて、チームは8月ほとんど負けなかったため、NYYから首位の座を奪えた。プライスがシーズン後にいなくなったら、おそらく来期は右のローテ投手を大金かけて獲ることになるだろう。
右 ドリュー・ハッチソン 12勝2敗
左 マーク・バーリー 13勝6敗
右 マルコ・エストラダ 11勝8敗
右 アーロン・サンチェス 6勝5敗
右 R.A.ディッキー 8勝10敗
左 デビッド・プライス 4勝0敗(トレードで獲得)

ドジャースは「本来なら」左投手に寄ったローテ。
同地区のCOL、ARI、SDPから大量の貯金を稼いでいるのはいいが、ひとつ気になるのは、最大のライバルであるSFGに3勝9敗と大きく負け越していること。2015年のカーショーはジャイアンツ戦に3回登板して、0勝2敗と勝てていない。打線も、AT&Tパークでは打率.211と酷い。右のグレインキーだけが頼りという感じで、なんともこころもとない。先発に左右の軸があるヒューストンより、ある意味、たよりない。
右 ザック・グレインキー 14勝3敗
左 クレイトン・カーショー 10勝6敗
左 ブレット・アンダーソン 8勝8敗
右 カルロス・フリアス 5勝5敗
左 アレックス・ウッド 2勝2敗(トレードで獲得)


damejima at 06:27

August 18, 2015

イチロー球聖タイ・カッブを越える日米通算4192安打目のヒットを献上してくれたジョン・ラッキーの記録をあれこれ調べていたら、イチローと関係ない「妙なこと」に気付いた(笑)

2002年にアナハイムからメジャーデビューして、もう14シーズンもメジャーリーガーをやってるジョン・ラッキーだが、彼がキャリア通算で「最も多く死球をぶつけた相手」が、どういうわけか、5回ぶつけたデレク・ジーターだったのだ。


この「通算5回」、多いか、少ないか。
気になりだすと止まらない。


ためしに、ジョン・ラッキーと同じように、「2000年代に活躍した有名ヴェテラン先発投手」の「ひとりの打者に対する最多与死球数」を何人か調べてみた。(カッコ内は、最も多く死球を与えたバッター名)

2個
バートロ・コロン (トリー・ハンター)
ヨハン・サンタナ (パブロ・オズーナなど2人)
ロイ・ハラデイ (オルティーズなど6人)
クリフ・リー (マイク・ナポリなど4人)

3個
ザック・グレインキー (カルロス・クエンティン)
CCサバシア (オルティーズ、エルズベリー)
A.J.バーネット (ジョン・ジェイなど2人)
コール・ハメルズ(Aロッド)
フェリックス・ヘルナンデス (イアン・キンズラー)

4個
C.J. ウイルソン (カノー、ビクター・マルチネスなど4人)
ランディ・ジョンソン (リード・ジョンソンなど2人)
ジャスティン・バーランダー (ケイシー・ブレイクなど2人)
ジェイミー・モイアー (オルティーズなど5人)

5個
ペドロ・マルティネス (カルロス・ギーエン)
ジョン・ラッキー (デレク・ジーター)

7個
ティム・ハドソン (チェイス・アトリー)


結果的にいうと、どうやらジョン・ラッキーの「デレク・ジーターに5回の死球」は「かなり多い」部類に入るようだ(笑)現役投手の与死球ランキングでみても、ジョン・ラッキーは3位に入っているから、もともと死球の多い投手ではある。(1位A.J.バーネット 141、2位ティム・ハドソン 122、3位ジョン・ラッキー 112)
アナハイムでデビュー以来、赤色のユニフォームのチームにばかり在籍してきたジョン・ラッキーだが、彼がステロイダーのAロッドを毛嫌いしていることは2012年のコメントで知っているが、同じヤンキースのジーターも嫌いだったのかどうかまでは、ちょっとわからない(笑)

蛇足だが、上のリストに載っている投手で、「MLB歴代通算与死球数ランキング」の上位にいる投手は、ランディ・ジョンソン(190 5位)だけで、他の投手は歴代ランキング20位までには入っていない。ランディの死球の多さは、若い頃ひどいノーコンだったせいかもしれない。
参考記事:2010年1月6日、豪球ノーコン列伝 ランディ・ジョンソンのノーコンを矯正したノーラン・ライアン。 ノーラン・ライアンのノーコンを矯正した捕手ジェフ・トーボーグ。 捕手トーボーグが投球術を学んだサンディ・コーファクス。 | Damejima's HARDBALL
データ:Career Leaders & Records for Hit By Pitch | Baseball-Reference.com


では、ひとりに何回以上ぶつけると、
多い」といえるのだろう。

データを眺めていると、コントロールのいいロイ・ハラデイやクリフ・リーなどのように、ひとりのバッターに通算2度ぶつけること自体が珍しい名投手も何人かいる。だから、「ひとりの投手が、特定のバッターに通算3度以上死球をぶつけることは、そうそう滅多に起こることではない気がしてくる。
実際、与死球数の多い投手たちのデータを見ても、「3回以上ぶつけている相手」はそんなにたくさんいるわけではない。
例えばジーターに5回ぶつけているラッキーだが、次に多くぶつけたバッターは「3回」なのだ。まぁ、だからこそ「ジーターに5回ぶつけている事実」が「目立つ」のだ(笑)


そこで現役バッターで、「最も多く死球をぶつけられた選手」を調べてみたが、これはもうダントツでAロッドとチェイス・アトリーの2人なのだ(笑)3位を40個以上引き離している。
被死球王」の彼らは、いわれてみれば2人とも死球での骨折経験がある。まぁたぶん原因は、「他の選手たちに好かれてないこと」だろうと思う(笑)
ちなみに、現役投手での通算与死球数2位ティム・ハドソンなどは、チェイス・アトリーになんと「通算7回」もぶつけている。これなどはもう「偶然」というレベルを越えている(笑)

現役通算被死球数

1位 Aロッド 175
2012年フェリックス・ヘルナンデスの死球で手の甲を骨折。この試合は、イチローがヤンキースに移籍した直後のセーフコでのヤンキース戦で、ヘルナンデスは骨折したAロッド以外に、ジーターとイチローにもぶつけていて、明らかに「故意」だった。
2位 チェイス・アトリー 173
2007年オールスターでの死球で手首を骨折

参考:3位以下の現役選手・被死球ランキング
リード・ジョンソン 134、アラミス・ラミレス 127、リッキー・ウィークス 127、AJピアジンスキー 127など


被死球王アレックス・ロドリゲスに「過去に3回以上死球をぶつけたことのある投手」を調べてみた。なんと、3回ぶつけた投手が6人もいる(笑)のには驚いた(笑)投手たちに嫌われているステロイダーらしいデータだ。
ただ、6人の投手の中にラッキーは入っていない。どうやらラッキーはAロッドが嫌いだからといって、Aロッドに繰り返しぶつけたりはしていないようだ(笑)
Aロッドに3回以上ぶつけた経験のある投手

コール・ハメルズ 11打数3死球

ラモン・オルティズ
CJウィルソン
ジェレミー・ガスリー
松坂大輔
マイク・ウッド 13打数3死球2HR


6人の投手のうち、コール・ハメルズは、アレックス・ロドリゲスとたった11打数しか対戦していないのに3回もぶつけている(笑)
3回のうちの1回は、2009年ワールドシリーズ第3戦でのもので、この試合でAロッドは2度の死球とホームランを記録して、シリーズ通算でも3度ぶつけられている。フィリーズはなかなか容赦ない。

November 4, 2009 World Series Game 6, Phillies at Yankees | Baseball-Reference.com

コール・ハメルズは2012年5月6日に、当時若干19歳だったブライス・ハーパーとの初対戦で、いきなり初球に93マイルの速球をぶつけているわけだが、こうして過去のデッドボール歴を眺めると、ハメルズという投手の性格がなんとなくわかってくる(笑)
コール・ハメルズは、Aロッドといい、ブライス・ハーパーといい、「ここぞというときには、ためらいなくぶつけてくるピッチャー」なわけだ。
ちなみに初打席で死球出塁したハーパーはホームスチールを成功させ、ハメルズにすかさずリベンジした。試合直後ハメルズ本人が「故意死球」だったことを認めたため、彼は5試合の出場停止処分になった。




当ブログからコール・ハメルズに
死球王」の名称を贈っておこう(笑)


そういえば、2005年7月の対マーリンズ戦で頭部に死球(92マイルの速球 投手:Valerio De Los Santos, Marlins)を受けて負傷し、7年後の2012年に、1日だけマーリンズとメジャー契約してMLB出場を果たしたアダム・グリーンバーグのケースも、ハーパーと同じ「メジャー初打席での死球」だった。

グリーンバーグのメジャー復帰は、リハリビに耐えてメジャー復帰を目指している彼の熱意に応える形でマーリンズが1日かぎりのメジャー契約を申し出て実現した。
R.A.ディッキーに3球三振にうちとられた彼を、スタジアムの観客はスタンディングオベーションでたたえ、試合後グリーンバーグは素晴らしい言葉を残しスタジアムを去っていった。

「人生にはカーブが来るときもあれば、僕みたいに後頭部へ92マイルの速球が当たることもある。でも、僕は立ち上がった。自分の人生は素晴らしい」  アダム・グリーンバーグ




「初打席に死球を受けた新人選手」は日本にもけっこういる。牧田明久(楽天 2005年公式戦)、會澤翼(広島 2007ウエスタンでのプロ初打席)、江越大賀(阪神 2015年公式戦)、デニング(ヤクルト 2015年公式戦)、近藤弘基(中日 2015年オープン戦)。
これらの日本国内の事例が2015年に集中しているのは、ちょっと気になる。おかしな「流行」でなければよいが、と思う。

グリーンバーグへの死球が、コール・ハメルズがブライス・ハーパーにぶつけたのと同じ、いわゆる "Welcome to the Big League" 的な意味だったのかどうかまでは、ちょっとわからないが、少なくとも新人の初打席にぶつけたい投手は「コントロールのかなりいい投手」でなければならない、ということだけは言っておきたいと思う。

damejima at 16:40

March 27, 2015

札幌ドームでの野球観戦中のファウルボールによる事故)について、球団などに賠償金支払いを命じる判決が地裁で下されたようだ。

この案件についての詳細な経緯がわからない以上、当ブログは無責任に責任の所在を空想で決めつけることなどできないし、また判決内容の適否についての議論も不可能だ。

この記事の意図するところは、当事者の方々それぞれの有利・不利に関与しようとするものではまったく無く、単に、MLBにおける「ファウルボール事故」は、どういう現状にあるのか?とシンプルに思った方たちに、多少なりとも「情報として数字実例」を提供することでしかない。いうまでもないが、情報の採否について個人の価値判断は含まれていない。


以下は、「ファウルボールによる怪我、foul ball injuries」について、BloombergのジャーナリストDavid Glovin2014シーズンについて2014年9月に書いた記事から要旨の一部を箇条書きに訳出したものだ。元記事の優れた数字と実例の収集に感謝を送りたい。(以下、わずらわしいので、「記事によれば」という表現は割愛させていただく。ご承知おきいただきたい)
Baseball Caught Looking as Fouls Injure 1,750 Fans a Year - Bloomberg Business



Bloombergが一部のボールパークで調査したところ、最大3160万人の観客について「球場の救護室に申告のあった怪我人が、750人 いた」ことがわかった。

この「割合」を単純に7400万人の観客全体に拡大してみると、「2014年に怪我をしたファンの数」は、「推定」で「1750人」となる。
これは「3試合に2人の割合で怪我人が出現する」という割合を意味し、また「観客100万人に対して、23.7人の怪我人が出現する」という意味でもある。

ブログ注:この記事のいう「1シーズンに、1750人」とは、あくまで「怪我人の総数の推定値」であり、「実際にMLB全試合を調査したデータ」ではないし、また、この「1750人という怪我人総数の推定」には、割合としてけして多くはないものの「ファウルボール以外による怪我」も含まれている。(例:折れたバットによる怪我、転がっていたボールで転んだこと等による怪我)

2014年のファウルボール総数7万3000のうち、「観客席に入ったファウルの数」は5万3000(72.6%)である。

ちなみにこの数値はfoulballz.comEdwin Comber氏の膨大な情報収集に基づく「実データ」の引用であり、ほんの数試合調査した結果からMLB全体の数値を推定した単なる理論値ではない。(以下、多くの情報ソースはEdwin Comberによる)

2014年の全ゲームにおける死球数はトータル1536であり、これは「怪我人総数の推計値」より少ない。

近年の重大事故においては、「子供」が被害に遭遇する例が多くみられた。
●2008年シカゴで、7歳の子供がライナーにより重度の脳浮腫
●生後18か月の乳児がシアトルの病院に入院
●2010年ブレーブスのゲームで、6歳の女の子がファウルボールで頭蓋骨折と骨の断片が脳を傷つける重傷を負い、手術
●2011年にニューヨークで、12歳の子供がファウルボールによる怪我で集中治療室に搬送
●2011年メッツのゲームで、外野席の15歳の少年がファウルで副鼻腔を骨折して手術
●2014年ブレーブスのゲームで、8歳の少年をライナーが直撃

新しいボールパークでは、より臨場感を味わいながら観戦できるように「よりフィールドに近い席」を用意していることが増えている。
前述のEdwin Comberのソースによると、新しいボールパークで観戦するファンは、「昔の球場よりも約7%ファウルゾーンに接近した位置で観戦している」らしい。

球場別にみたとき、ファウルボールによる重大事故の出現率には、「球場ごとの差異」がみられる。
また、どういう「」のファウルボールを重視して対策するかは、球場ごとに違いがある。例えばある球場では「高いフライボール」を重視しているが、別の球場では「ライナー」を重視している。

あるファウルボール事故の訴訟において原告側は、「約5万人が収容できる某球場で、「ネットで保護されている席」は2,791に過ぎないと主張した。

他のプロスポーツの重大事故としては、NHLのゲームで2002年に飛んできたパックに当たって10代のファンが亡くなっている例がある。


少なくともブログ主が言いたいのは、「野球を見に来るなら、観客は多少の危険は自己責任なのが当たり前だ」とか、「危険はすべて球場側の責任だから、球場のあらゆる場所にネットをつけておくべきだ」とかいうような、ヒステリックな議論には賛成できないということだ。
お互いが一方的で感情的な非難合戦に陥ることのないよう、より広く情報収集してあらゆる角度からこの問題を考え、柔軟な視野からこの問題に建設的な解決策を考えていってもらうことを願いたい。

damejima at 22:14

March 08, 2015

ひさびさ、人の言葉を読んでハタと膝を打った。
(将棋というボードゲームの歴史をほとんど知らないのだが、なんでも「二歩」が「即時負けのペナルティ行為」になったのは、最初からそうだったわけではなく、江戸時代にできた「新ルール」なんだそうだ)

某巨大掲示板における「ID:Vh3mh2bH0」氏のオリジナル発言
ルールがあってゲームが生まれるのではなく
ゲームによってルールが定まる

【将棋】橋本崇載八段、まさかの「二歩」反則負け-NHK杯©2ch.net

拍手。天晴れ。座布団50枚。
そうなんだよ。それ。

この言葉、野球だけでなく、モノを考えたり分析したりする上で「大事な原則とは何か」を教えてくれる。


MLBの初期、例えば「フォア・ボール」が「9ボール」だったように、初期のルールには今と大きく違う部分がいくつかあった。だが、多くの人が野球に関わるうち、だんだんと整理・変更され、今のようなルールになっていった。

つまり野球でも、「最初にルールを決め、それから野球というゲームが開始されたわけではない」のであって、あくまで野球というゲームそのものの発展につれて、ルールが定まっていったのだ。


新しいMLBコミッショナー、ロブ・マンフレッドは今、「バッターは打席を外すな」などというゲーム時間短縮のための新ルール(通称「ペースルール」)をいくつか作ろうとしているわけだが、彼のやろうとしていることの基本発想はまさに「ルールによってゲームを変化させていこうとする発想」そのものであって、けして「ゲームがルールを定めていく発想」ではないと思う。


朝日新聞は従軍慰安婦問題に際して「ジャーナリズムという名目のもと、30年間もの長きにわたって、政権批判のためと称して、事実無根の記事を掲載し、さらにそれを元に『日本人はこの事実を反省せよ』と強硬に言い張り続け」、外部からその間違ったプロパガンダ行為の根本的な誤りを指摘・批判されると「批判側の広告を黒く塗りつぶし、他者の言論の自由をチカラづくで奪ってみせた」ことで「自己崩壊した」だけでなく、「ジャーナリズム全体の社会的信頼性そのものにも致死量以上の打撃を与えた」。(もちろん彼ら自身は自己の過失の重さをいまだに理解していない)

この朝日新聞の例でもわかるように、現代社会において「目的は手段を正当化したりはしない」のである。このことは、今の時代、たいへん重要な原則だ。いいかえると「自分が正義だと信じる『目的』さえあれば、『手段』も正義として広く認められる」わけではないのだ。


と、いうわけで、
ロブ・マンフレッドにはこの言葉を贈りたい。

ルールがゲームを産むのではない。
ゲームがルールを定めるのだ。


damejima at 16:27

August 26, 2014

MLBには「Unwritten Rules(アンリトゥン・ルール)」というものがある。

日本語でいうなら「不文律」、文字に書かれない暗黙のルールのことだ。

それは例えば、「点差が開いて試合の趨勢が決まったゲームの終盤では、勝っているほうのチームのランナーは盗塁を試みてはならない」などというような、紳士協定的な約束事だけではなくて、一度ブログに書いたことがあるが、「マウンドはピッチャーの聖地である。凡退したバッターがダグアウトに戻るとき、近道のためにマウンドを横切ることは聖地であるマウンドを汚す行為であり、絶対許されない」なんてものまで、実にさまざまな種類がある。
(かつてAロッドがオークランド戦で、ファウルの帰塁の際に故意にマウンドを横切って、ダラス・ブレイデン投手と大ゲンカしたことがある 資料: 2011年7月6日、「MLBでは不文律を絶対に破らない」という不文律は、「どこにも無い」。 | Damejima's HARDBALL


さて、「点差の開いたゲームでの終盤の盗塁」について、ダルビッシュが以下のような発言をしているのを見た。
この発言は、「法の論議」としても、「論理学の論議」としても、あらゆる点で根本的な間違いを犯している。




例を挙げて話をしてみる。

かつてスポーツのアンチ・ドーピング、つまりドーピングの取り締まりのルールにおいては、「ネガティブ・リスト」によって取り締まる時代が長く続いた。
だがネガティブ・リストでは次から次に登場する新しいドーピング薬物の進化にとてもついていけないので、近年ではアンチ・ドーピングのルールは「ポジティブ・リスト」が加えられ、大きく変更されている。
この「ポジティブ・リスト」というルール決めの方法は、農業分野での薬物規制などでも行われているルールで、要するに「禁止薬物を羅列するのではなくて、逆に、許可薬物を羅列して示すようなやり方」に変わった、ということだ。

ネガティブ・リスト
禁止条件を羅列するようなルールづくりのやり方

ポジティブ・リスト
許可条件を羅列するようなルールづくりのやり方


いちいち書かなくてもわかると思うが、いちおう書いておく。
脱法ドラッグなどとまったく同じで、ネガティブ・リストの考え方だけで作られた薬物ルールでは、ドーピング規制が現実についていけず、いわゆる「ザル法」になってしまう。
というのは、「『まだ禁止薬物リストにのっていないドーピング薬物』が次から次へと開発されてくるのが現実だというのに、『ネガティブ・リストで作られたルールにリストアップされている薬物だけがドーピングだ』というのなら、『まだリストに書かれていない、新しい薬物を使うこと』はドーピングにならない」という屁理屈が成り立ってしまい、ドーピング蔓延に打つ手がなくなってしまうからだ。
(そして実際に、ネガティブ・リストでドーピング規制していたかつてのスポーツ界では、あらゆるドーピングが蔓延していた)

これではルールを決める意味がない。

これに対し、ポジティブ・リストの考え方でできたドーピングルールでは、「使ってよい許可薬物」が羅列される。だから、たとえドーピング薬物リストに書かれていない全く新しいドーピング薬物が次々に開発され、使用されたとしても、それらをドーピングとして摘発し、厳しく処罰することが可能になったのである。



この簡単なドーピング規制の例からわかることは、「ルールに書かれていない全てのことは、やっても許される」という論理が成り立つためには、その前提として、「全体を拘束しているルールが、ネガティブ・リストの考え方で作られている」という条件が必須だ、ということだ。
(だが、たいていの場合、こうしたことは誰も思いつかないし、気がつかない。なのに、ロジックに弱い人間に限って、気軽に「ルールに書かれてないことは、やっていいんだ」などと、根拠のない戯言をクチにする)

別の例:
コンピューターのルーターのフィルター設定
インターネットの接続先が「1番から100番まで」100個だと仮定して、あるルーターに「1番から10番までの接続先は接続禁止」というルールのみを設定してみる、とする。
すると、このルールの存在によって結果的に「11番から100番までの接続先、あるいは未知の接続先など、ルールで禁止されていない接続先になら、自由に接続してよい」という、「裏ルール」ともいうべきものがネガティブに成立することになる。
だが、それはあくまで裏ルールでしかない。子供でもわかることだが、元の「1番から10番までの接続先は許可」という明示されたルールを取り消すと、「禁止された接続先以外なら、あらゆる接続先に自由に接続してよい」という明示されない裏ルールも同時に消滅する。



だが、普通のルールの場合、「禁止事項のみが書かれていること」など、ほとんどない。

現に、MLBのルール、そして日本の野球のルールを見てもらいたい。それらには「やってよいこと」も、「やってはいけない」ことも、混合して書かれている

それは、論理学的観点からいうと、野球という世界のルールにおいては、やってよいこと、禁止されること、その両方とも書かれている以上、「ルールに書かれていないこと」についても、やってよいこと、やるべきでないこと、両方が含まれていて、「ルールに書かれてないことはやってもよい」というロジックは全く成立しない、ということを意味する。


繰り返す。
ありえないことだが、もし野球のルールが「禁止事項だけで作られている」としたら、それは確かに論理学的にいえば「ルールに書かれていないことは、やってもいい」というロジックも成り立ちうる。

だが、実際にはそうではない。
まったく違う。


もう一度繰り返す。
野球のルールには、許可事項もあれば、禁止事項も、両方が存在している。禁止と許可の両方がある以上、「野球のルールに書かれていないことは、許可されるべきだ」なんていう、わけのわからない屁理屈はまったく成り立たない。
野球の場合、『正式なルールに書かれていないこと』の中には、「やっていいこと」も、「やるべきでないこと」も、両方が存在しており、「正式ルールに書かれてないことは、何をやってもいい」わけではない。

それは、倫理でもなければ、安っぽいヒューマニズムでもない。
「純粋な論理」として、そうなのだ。


以上、点差の開いたゲームの終盤での盗塁に関するダルビッシュの発言の論理が、論理学的に根本的に間違っていることを「証明」した。影響力のある男なのだから、少しは頭を使ってモノを言ってもらいたい。


アンタさ、アタマが古いよ。ダルビッシュ。

付則:
たとえもし仮に、野球の正式ルールの枠外のルールである「アンリトゥン・ルール」という一種の「ルール」が、「禁止事項」だけがリスト化されたネガティブ・リストだったとしても、それらは、「野球の正式ルールに書かれていない、枠外の数限りない事項のうちの、ごく一部分」に過ぎない。だから、たとえアンリトゥンルールがネガティブ・リストだったとしても、論理的に野球の正式ルールはそのことによって影響は全く受けない。




damejima at 16:37

April 28, 2012

名曲「野球小僧」を歌った灰田勝彦さん(以下敬称略)の持ち歌に、『真赤な封筒』という曲がある。

この歌の原曲というのは、インディアナポリス出身のAlbert Von Tilzer (1878-1956) の作った「Oh By Jingo!」という歌らしい。(資料:NAKACO'S CRAFT'S WEBLOG

Albert Von Tilzerという人物は、なんと、あの"Take Me Out to the Ball Game" (邦題『私を野球に連れてって』)を作曲した人物。ラプソディ・イン・ブルーなどで知られるジョージ・ガーシュウィンなどと同様、19世紀末のニューヨークのいわゆるティン・パン・アレーTin Pan Alley)で、シアター産業に供給する音楽が量産されていた時代の作曲家のひとりだ。

つくづく、灰田勝彦さんという人は野球に縁があるらしい。


1950年代の日本では『歌う野球小僧』などのミュージカル映画が非常に数多く生産されているのだが、そのルーツはアメリカのミュージカル(舞台や映画)に行きつく。
(このへんの詳しい事情についてはもちろん、小林信彦さんの一連の著作を読んで、フレッド・アステアの『イースター・パレード』(1948)とか『バンドワゴン』(1953)、ジュディ・ガーランドの『The Wizard of Oz(オズの魔法使い)』(1939)などの名作映画を観るなりしたほうが間違いがない)


灰田勝彦さんが育ったハワイのミュージシャン、IZ (Israel Kamakawiwoʻole 1970-1997)バージョンの
"Over the Rainbow"


かつて野球と、映画や音楽との関わりは、非常に親密なものだった。

日本の映画産業は1950年代にたいへんな繁栄期を迎えていたが、その時代は同時に、プロ野球が黎明期を終わって、英語でいうnational passtime、国民的娯楽になりつつあった時代でもあった。
つまり、野球が国民的娯楽になってきた時代は、同時に映画産業の最初の興隆期でもあるのであって、50年代に日本の大映松竹東映など、当時の景気がよかった大手映画会社がこぞってプロ野球チームを持ち、さらに野球映画も数多く製作しているのには、ちゃんと理由がある。
「ミュージカル」は、「ベースボール」や「ジャズ」と並んで、アメリカで発明された最もアメリカらしい文化のひとつだが、日本で野球をテーマにしたミュージカル映画が作られたことは、当時として自然な流れだった。


さて、"Take Me Out to the Ball Game"の作詞をてがけたのは、Jack Norworth (1879-1959)である。


この曲の歌詞が出来た経緯については、「1908年に彼がニューヨークの地下鉄に乗っていて、あるポスターを見て、この歌詞を思いついた」というのは非常に有名な話だ。(だが、どういうわけか知らないが、日本のWikiにはこの部分に関する記述が欠けている)

そのポスターは「野球の試合の告知ポスター」で、
こう書かかれていた。
"Baseball Today ― Polo Grounds"

もちろん Polo Grounds というのは、1958年にサンフランシスコに移転する前までニューヨークにあったジャイアンツの本拠地球場のことだ。
参考記事:カテゴリー:『1958年の西海岸』 特別な年、特別な場所。 1/12ページ目 │ Damejima's HARDBALL


非常に興味深いのは、作詞者 Jack Norworthがニューヨークの地下鉄の車内で見た野球の試合のポスター」というのが、いったい、「何月何日の、どんなカードのゲームだったのか?という点だ。


以前、一度書いたように、ニューヨーク時代のジャイアンツは、本拠地ポロ・グラウンズを他球団に貸し出していた
2010年8月25日、セーフコ、カムデンヤーズと、ヤンキースタジアムを比較して、1920年代のポロ・グラウンズとベーブ・ルースに始まり、新旧2つのヤンキースタジアムにも継承された「ポール際のホームランの伝統」を考える。 | Damejima's HARDBALL

2012年3月21日、1958年ドジャース、ジャイアンツ西海岸移転に始まる「ボールパーク・ドミノ」  (1)エベッツ・フィールド、ポロ・グラウンズの閉場 | Damejima's HARDBALL


だが、ポロ・グラウンズが、例えばヤンキースの前身であるニューヨーク・ハイランダーズのような他球団、あるいはフットボールの試合のために「貸し出された」のは、「1913年以降」の話だ。

したがって、「1908年にニューヨークの地下鉄の中で、Jack Norworthが見た『ポロ・グラウンズで開催される野球の試合』の告知ポスター」とは、「ポロ・グラウンズを借用していたチーム」のゲームではなく、明らかに、1908年当時にポロ・グラウンズを本拠地にしていた唯一の球団である、ニューヨーク・ジャイアンツのホームゲームを告知するポスターであることが確定できる。


アメリカ野球に関する優秀なリサーチサイトBaseball Researcherの調査によると、"Take Me Out to the Ball Game" が楽曲として著作権事務所に申請された日付が「1908年の5月2日」であることがわかっている。
On May 2, 1908, "Take Me Out to the Ball Game" was submitted to the United States Copyright Office.

Baseball Researcher: Take Me Out to the Ball Game Polo Grounds

ならば「Jack Norworthが見た試合告知ポスター」の「日付」をさらに絞りこむことが可能になる。


1908年当時のゲームログを、Baseball Referenceで調べてみると、"Take Me Out to the Ball Game" が著作権事務所に申請された5月2日までのニューヨーク・ジャイアンツのホームゲームの日程と対戦相手は、以下の通りであることがわかる。

4月22日〜25日 ブルックリン・ドジャース戦
5月2日〜4日 フィラデルフィア・フィリーズ戦

1908 New York Giants Schedule, Box Scores and Splits - Baseball-Reference.com


もし、「Jack Norworthが、ポスターを見て詞を書いて、その直後に著作権事務所に行った」と仮定すると、可能性があるのは、5月3日、5月4日の試合会場はポロ・グラウンズではないことから、「4月22日から25日えまでの対ブルックリン・ドジャース4連戦」か、もしくは「5月2日フィリーズ戦」の「2つの可能性」しかない。

著作権事務所に出すための書類や楽譜などをそろえるための手間などを考えると、常識的に考えてJack Norworthが見たポスターは、どうみても「4月末のポロ・グラウンズで行われたドジャース4連戦を告知するポスター」だっただろう、ということにはなるが、「5月2日フィリーズ戦」である可能性も、けしてゼロではない。(もちろん、詞と曲が揃っていたか、という問題はある)


ここでちょっと、Jack Norworthの書いた"Take Me Out to the Ball Game"のオリジナル原稿を見てほしい。5か所の単語が入れ替られていることを除けば、「ほぼ修正されていない」。
出典:Larry Stone | "Take Me Out to the Ball Game" turns 100 years old | Seattle Times Newspaper


"Take Me Out to the Ball Gameのオリジナル原稿"
(クーパーズタウンのMLB野球殿堂所蔵)

オリジナル原稿で見ると、たった5つ程度の単語の入れ替えを除けば、大きな修正はほとんど無く、この詞が最初からほとんど完成レベルにあったことがわかる。
このことからして、"Take Me Out to the Ball Game"の詞は、地下鉄車内でほぼ完全な形に書き上げられていた可能性が高い
、と見ることができる。


事実、2009年4月8日のTimeの記事(ライター:Frances Romero)にによれば、「Jack Norworthは、ポロ・グラウンズでの野球の試合告知ポスターにインスピレーションを得て、地下鉄車内で、持っていた封筒の裏に15分以内に書きとめた」とある。
One day while riding a New York subway, Norworth saw a sign that read "Baseball Today ― Polo Grounds." And in 15 minutes, he had scribbled the words of his fun-time anthem on the back of an envelope
'Take Me Out to the Ball Game' - TIME

「語句の修正の少なさ」、そして、「地下鉄に乗ったとき、たまたま持っていた封筒の裏に書きつけるような慌ただしさ」から推察して、この詞が「非常に短時間で完成レベルに達した」ことは、資料的にも裏付けられている。


これだけ完成度の高いレベル作品、ほぼ瞬時に書き切ることのできた作詞者Jack Norworthが、ただ著作権を出願する、それだけのために、1週間から10日間も手元に置いておくとは、当時のティン・パン・アレーの状況からして、到底思えない
むしろ、「書いたその日のうちに著作権事務所に向かう」ということだって十分ありえるのが、当時のティン・パン・アレーという場所独特の「スピード感」なのだ。


楽譜出版社や演奏者のエージェントが集まったティン・パン・アレーはとにかくスピードが命の町で、この忙しい街に「ティン・パン・アレー」という「鍋や釜」を意味する名前がつけられたのも、ラジオもテレビもまだなく、また、レコード自体がまだ高価だった時代に、楽譜を買いにくる客のために目の前でその曲をピアノで弾いてみせて楽譜を買ってもらう商売のやり方が流行し、また、楽譜出版社が曲の宣伝の為にピアニストに試演させたりもしたため、町中がなにか「鍋や釜を叩いているような賑やかさ」に満ちていただったからだ。(ブルックリン生まれのジョージ・ガーシュインも、元はそうした試演ピアニストのひとりだった)

音楽を大量に作って、即座に売り、ヒットしそうならすぐに舞台や映画にもする、そういうスピード感で生きていた作詞家が生みだしたのが、この "Take Me Out to the Ball Game"なのだ。


だから、Jack Norworthにインスピレーションを与えた告知ポスターが示していた「試合の日付」は、「1908年4月22日〜25日のポロ・グラウンズにおけるニューヨーク・ジャイアンツ対ブルックリン・ドジャース戦」である可能性が高いが、「同年5月2日ポロ・グラウンズのニューヨーク・ジャイアンツ対フィリーズ戦」のポスターを見て、たった15分で詞を書きあげ、その日のうちに曲がついて著作権事務所で登録したという可能性も完全には否定できないのである。

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Take me out to the ballgame,
Take me out with the crowd.
Buy me some peanuts and Cracker Jack,
I don't care if I ever get back, 'cause it's root, root, root for the home team,
if they don't win it's a shame.
For it's one , two, three strikes you're out,
at the old ballgame.


Tin Pan Alley
Tin Pan Alley

damejima at 09:01

February 20, 2012

この冬、日本人プレーヤーの移籍が多かったせいもあって、たまに見かけることがあるのが、ノートレード条項だのなんだの、いわゆる野球選手の身分に関する権利についての単語。
だがブログ主は、何度も書いているように、ストーブリーグにあまり関心がないし、そもそもこういうMLBの複雑な仕組み自体が苦手分野だ(笑)


例えば、10 & 5 ruleというルールがあるが、どうもよくわからないことがある。
というのは、日本では、10 & 5 ruleと、一般的なトレード拒否権、この2つの異なるルールが混同されて扱われているように思えてならないのである。(しかも、そのことがどこにもハッキリ指摘されていない)

10 & 5 ruleは、「10フルシーズン以上メジャーのアクティブ・ロスター、つまり、25人枠に在籍した選手で、なおかつ、最近の5シーズン同じチームに在籍し続けている選手は、本人の同意なしにトレードすることはできない」というルールだ。

もう少し言い変えると、「10シーズン以上、それもフルシーズン、25人枠のロスター経験を積んで、しかも、同じチームに5年在籍している選手」のことを、ロスターやトレードのルール上の定義として特別に「ヴェテラン」と呼び、プレーヤーがこの「ヴェテランになってはじめて発生する、特別なトレード上の権利」のことを、10 & 5 ruleというのだ。


だから、10 & 5 ruleは、「誰でも彼でも、契約書に文言を盛り込みさえすれば効力が発生する、一般的なノートレード条項」とは、まったく別のルールだ、とブログ主は理解している。


例えば日本のWikiにおいて、10 & 5 ruleと、「一般的なノートレード条項」は、ノートレード条項という項目において、十分な区別のないまま、一緒くたに説明されてしまっている(ように見える)。

だが、アメリカのWikiでは違う。
下記資料が前半部・後半部とハッキリ分けて書かれていることからわかるように、いわゆる10 & 5 ruleと、選手とチームの契約に条項として盛り込むことで効力が発生する一般的なトレード拒否権は、「2つの異なるルール」として、きちんと分離されて説明されている。
また、これも重要な定義だが、10 & 5 ruleの適用に必要な10シーズンのアクティブロスター在籍という条件が、あくまで「フルシーズンでなければならないこと」も、日本のWikiは曖昧だが、アメリカのWikiにはきちんと明記されている。(太字はブログ側による)
If a player has been on an active major league roster for ten full seasons and on one team for the last five, he may not be traded to another team without his consent (known as the 10 & 5 rule).
Additionally, some players negotiate to have no-trade clauses in their contracts that have the same effect.
Major League Baseball transactions - Wikipedia, the free encyclopedia


しつこいが、いちおうもう一度書いておこう。

10 & 5 ruleというのは、(ブログ主の理解の範疇では)「10年、それもフルシーズン、メジャーのアクティブロスターに在籍して、しかも、5シーズン現在所属している同じチームでプレーしている『ヴェテラン』にだけ与えられる、特別なトレード拒否権」のことで、それを俗に10 & 5 ruleという。
この非常に特別なルールと、選手がチームとかわす契約に書き加えられることで効力が発生する「一般的なトレード拒否権」とは、両者に同じような効力が発生するにしても、このルールが成立した背後にあるMLB史やアメリカ史の重みは、まったく異なる次元のものだ。

10 & 5 ruleが成立した歴史的背景には、1966年から1982年までMLBPA(=メジャーリーグ選手会)会長をつとめたマービン・ミラーの足跡、あるいは1969年から72年まで争われた有名なカート・フラッド事件によるMLBの制度変更の経緯があるわけで、10 & 5 ruleは、こうした長いMLB史の中で培われてきたルールなのだ。
(カート・フラッド事件は、セントルイスに所属していたフラッドが、フィラデルフィアへのトレードを嫌がったことに端を発した事件で、最後は訴訟になり、形の上では選手会側が敗訴したものの、結果的には選手の権利の整備につながった)



10 & 5 ruleでいう「シーズン」とは、もちろん「フルシーズン」を意味するわけだが(このこと自体、日本のサイトではハッキリ表記されていないことも多い)、日本のWikiによると、「MLBにおけるフルシーズン」とは「アクティブロスター未登録の期間が、20日以内のシーズン」のことを指す、とある。
たしか先日決まったMLBとMLB選手会の新しい労使協定においては、近いうちに「フルシーズンの定義」そのものが変更になって、「A full season is defined as being on an active pro roster for at least 90 days in a season. アクティブロスターに少なくとも90日在籍していること」と、従来より緩和された定義になると思う。
だから、これまでは10年間もの長期にわたって活躍を続けてこれた、それも5年同じチームにいるごく限られた有名選手だけに適用されてきた10 & 5 ruleは、今後はもう少し広い範囲の選手に適用されるようになるんじゃないか、と思う。(だが正確なところは、今後のMLBのリリースで確かめる必要はある)


また、細かいことだが、ちょっと困ったことに、この10 & 5 rule、アメリカのいくつかのサイトで、5 & 10と、数字を逆にして表記している例がある。(ESPNのロブ・ナイアーなど)
厳密にどちらが正しいのかは調べてないが、このブログではいちおう、「10 & 5」という表記のほうを、「よりポピュラーな、より正しい表記」と考える。

10-5と表記する例

アメリカ版Wikiの項目、"Major League Baseball transactions"における表記例
the 10 & 5 rule
Major League Baseball transactions - Wikipedia, the free encyclopedia

アメリカ版Wikiの項目、"Trade (sports)"における表記例
the "Ten and Five" rule
Trade (sports) - Wikipedia, the free encyclopedia

アメリカ史をまとめたサイト"The People History"での「MLB史の概説」ページにおける表記例
the 10 and 5 rule
History of Major League Baseball From Early Beginnings to Current

英語圏で最も有名なイスラエル系百科事典サイト"Answer.com"での質問者の使用例
"ten and five rule"
What is the "ten and five rule"?: Information from Answers.com

逆に5-10と表記する例

ESPNのライター、Rob NeyerによるMLBの諸ルールの解説
注:5 & 10という表記はともかく、"Veteran Players"の項目におけるロスタールールの解説は、他のサイトより、ずっとよくまとまっている。
"the five-and-ten rule."
ESPN.com: MLB - Transactions Primer

MLBのトリビアをまとめたサイト"Recondite Baseball"における表記例
"Five-and-Ten" rule
Recondite Baseball: Five-and-Ten Players


もちろん言うまでもないことだが、この10 & 5 ruleが適用されるプレーヤーは、長期間にわたって安定した実績を残して長くメジャーに君臨することのできた、ごくわずかなプレーヤーに限られる。
イチローは今年MLB12年目のシーズンを迎え、野茂英雄さんのメジャー経験年数に並んだが、彼はこの10 & 5 ruleで厳密に定義される、真の意味の「ヴェテラン」であり、そんじょそこらのGMや監督にあれこれ言われるような安い存在ではない。
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damejima at 11:46

November 26, 2011

メープルバットの典型的な折れ方メープル特有の
縦に裂ける
折れ方

メープル(かえで)でできたバットが問題になりだしたのは、鋭利な形状に折れたバットで怪我をする選手、コーチ、ファン、アンパイアが続出しているからであり、既にMLBでは訴訟にもなっていて、日本でも選手にケガ人が出ている。

2008年にMLBと選手会によって行われた第三者による調査では、2008年7月から9月の3か月間に折れたバットは、2,232本。うち、756のケースでは、バットが複数ピースに分割される形で折れている。つまり、756のケースでは、折れたバットがなんらかの形でどこかに飛散した、ということだ。
そしてこの調査で、メープルのバットは、ホワイトアッシュの少なくとも3倍は、バットが複数ピースに分割される形で折れる、ということが判明している、らしい。

The rash of dangerous incidents in the 2008 season prompted an investigation by MLB and the players' union. Scientists from the U.S. Forest Service's Forest Products Laboratory, Harvard University and the University of Massachusetts made some eye-opening discoveries.
From July through September 2008 there were 2,232 bats broken in Major League games. They were collected and analyzed. Of those, 756 broke into multiple pieces. Maple bats were three times more likely than ash to break into two or more pieces.
Major League Baseball should ban maple bats | Tulsa World

資料記事:
カブスの外野手タイラー・コルビンの胸にバットが刺さる
Colvin’s Injury Highlights Danger When Wooden Bats Break - NYTimes.com
この場面の動画→http://chicago.cubs.mlb.com/video/play.jsp?content_id=12243779&topic_id=8878834&c_id=chc
タイラー・コルビンがチームメイトの折れたバットでケガ

LAAトリー・ハンターの折れたバットで女性観客が顔にケガ
Los Angeles Angels' Torii Hunter's broken bat could reignite maple debate - ESPN Los Angeles

Torii Hunter's broken bat hit Kansas City Royals fan in the face | Plog

デビッド・プライスがエイドリアン・ベルトレの折れたバットでケガ
Joe Maddon Renews Call for Maple Bat Ban After David Price Injured
デビッド・プライスがエイドリアン・ベルトレの折れたバットでケガ

球審ブライアン・オノーラがミゲル・オリーボの折れたバットでケガ Ump O'Nora hit in head by broken bat | MLB.com: News
球審ブライアン・オノーラ ミゲル・オリーボの折れたバットでケガ

ブラッド・ジーグラーがマイク・ナポリの折れたバットでケガ
Ziegler's injury revives maple bat debate | oaklandathletics.com: News

ロッテ 伊藤の左すねに折れたバットが突き刺さる
ゲンダイネット

ジャック・カストの折れたバットがクリフ・リーの頭部に当たりそうに
ジャック・カストの折れたバットが
クリフ・リーの頭に当たりそうになり、耳をかすめる


もともとバットをめぐる議論に詳しくないためもあるが、
このニュース、どうも細部がきちんと伝わってこない。

現在出回っている記事によれば、
Major League Baseball ban on the use of low-density maple bats by new players.

資料:Canadian manufacturer on board with MLB low-density maple bat ban - ESPN
と表記されているのだが、どうもこの文面だけでは言わんとしていることがハッキリしない。

例えば、
疑問1) new playerとは「どの範囲の選手」を指すのか
疑問2) densityという単語の意味は、木そのもののオリジナルな「比重」か、それとも「多少の加工を施した後の、密度」を意味するのか
疑問3) 禁止になるlow-densityとは、どの範囲までなのか、数値として既に決まっているのか
疑問4) そもそもメープルのバットは、「低比重のものは折れやすい」が、「高比重のメープルなら、折れにくい」と言えるのか。そもそも「メープルのバット全体が折れやすい」、という事実はないのか

1)についてだが、「既に、バットメーカーに発注してしまって、たくさん在庫を抱えているプレーヤーは、それを使ってプレーするのは許す。だが、新規発注して使うのは、もう禁止にする。だから、実質的には、今後はメープルのバットは使えなくする」、という意味なのか? どうも意味がよくわからない。(まさか、「ベテランさんは使ってもいいが、新人さんは使うな」という意味じゃないよな? 笑)


少し捕捉しておくと、市販されているメープルのバットのdensityはひとつではない。メープル製にも、低比重タイプもあれば、ライアン・ブラウンが使っているような、より高比重なタイプもある。
どうも今回禁止になるのは、低比重なタイプのメープルだけらしいから、バットメーカーさんは表向きは、「メープル禁止? 別にいいんじゃね。ウチが販売してるのは低比重タイプだけじゃないし」とか平静を装ったコメントをしているが、たぶんそれは表向きだけだろう(笑)
なぜって、最初に低比重だけを禁止にしたとしても、来シーズン以降に、より高比重のメープルでもあいかわらず事故が起き続けることがわかれば、やがてメープルバット全体が禁止になるのは、目に見えているからだ。
ただ、メープルバットを全面禁止にしないのは、メープルの使用率が上がってしまっているために、メープルバットを使用禁止にすると、MLBへのバットの供給が追いつかなくなる、という理由もあるらしい。(資料:ユニバーサルスポーツ店長日記 最近のアメリカのバット事情



以下に軽くメープル製バットが使われだした経緯をまとめておく。

もともと使い出したのは、10年ほど前、1999年のバリー・ボンズらしい。バリー・ボンズのホームラン記録で、ステロイドは禁止になったが、メープルバットは禁止にはならなかった、というわけだ。

従来MLBでよく使われてきたバットは、タモの一種で、ホワイトアッシュが中心だったが(他にヒッコリーなどもあるにはある)、ホワイトアッシュは折れやすかった。(たしかにゲームで見ていると、粉々に砕ける感じで折れる)
そこでホワイトアッシュより固く、より遠くに打球が飛ぶ(と、思われている)メープルを、バリー・ボンズにならって使う選手が増えた。ちなみに、イチローも使っているアオダモは、しなりが生じるために、打球を遠くに飛ばす能力は低い(と、ブログなどによく書かれている)。

だが、メープルは、その固さという特性が災いして、折れやすく、また、折れ方がホワイトアッシュやアオダモとまったく違う。
一般的に言えば、折れたバットが、縦に裂けるように、鋭利に尖る形で折れ、その折れたバットが、かなり遠くまで飛んでいって、人体に刺さる事故を起こす可能性が高い、ということだ。


それにしても、来シーズンからはHGH(ヒト成長ホルモン)の判定のための血液検査も実施するというし、血液検査、メープル禁止と、MLBをめぐる状況の変化は、このところちょっと目が離せない。MLBで今なにかが変わろうとしているのは確かだ。



damejima at 10:55

July 19, 2011

テレビがメディアの不動の中心だった時代が終わったことで、全米視聴率が簡単には10%を越えられなくなったのは普通のことだし、MLBのオールスターの6.9%という数字自体は、他の主要スポーツの大規模イベントや人気ドラマシリーズの最終回などと比べても、けして遜色ない数字であることを、前回書いた。
ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月18日、去年より低かったオールスターの視聴率について (1)6.9%だからMLBは衰退しているとかいう、くだらない議論。いまの日本人の「議論能力」の無さに呆れる


しかし、だ。

この記事 (ダメ捕手、城島健司。The Johjima Problem.:2011年7月3日、「ここまでするか」と感じる、2011年オールスター投票の作為。) で、書いたとおり、
例年、250万票から、多くても400万票ちょっとで決まっていたオールスターの外野手の投票数が、700万を越えるような得票を得た選手が出現し、他にも何人か600万票を越える得票を得た選手が数人出現するようなシーズンのオールスターで、「視聴率が前年より下がる」などという事態は、どう考えてもおかしいとしか言いようがない。

2000年代MLBオールスター視聴率の推移
MLB All-Star Game Earns Record Low 7.9 Overnight | Sports Media Watch


あらためて書く。

例年の2倍もの得票を獲得したプレーヤーが出現したオールスターなら、本来なら視聴率が上がるはず。ガクンと下がるわけがない。どうみてもおかしい。
なにか投票結果に「歪み」があったとしか思えない



以下に、「今回のオールスターで、視聴率が伸びた都市」と、その年を含む州を、アメリカの地図にプロットしてみた。
わざわざこんなめんどくさい作業をした意味は、もちろん、「大量に投票があったにもかかわらず、全米で視聴率が下がった『歪んだオールスター』を、テレビで熱心に見たファン層は、どこの街に存在するのか?」を、ちょっと地図上に並べてみて、今回の投票が異常なのかどうか調べたい、ということだ。

もし、「視聴率が急激に上がった都市と、例年にはありえないほどの大量得票を得てオールスターに出場した選手の所属チームのフランチャイズが、一致する」のなら、それは明らかに、自分の応援したい地元のスターを応援するためにファンが大量投票し、その選手がオールスターに出られることになった後は、テレビにかじりついてオールスターを観戦した、という「まっとうな流れ」が確認できることになる。

2011年オールスターで視聴率の上がった地域・都市

都市別のオールスター視聴率
ミズーリ州セントルイス 17.8%
ペンシルベニア州フィラデルフィア +11% up(14.7←13.3)
アリゾナ州フェニックス        +45% (10.6 ←. 7.3)
オハイオ州クリーブランド      +42% (9.5 ← 6.7)
テネシー州ノックスビル       +42% (4.7 ← 3.3)
カリフォルニア州サンフランシスコ +28% (11.1 ← 8.7)
ヴァージニ州リッチモンド      +23% (7.5 ← 6.1)
ペンシルベニア州ピッツバーグ  +21% (8.6 ← 7.1)
サウスカロライナ州グリーンビル  +16% (8.6 ← 7.4)
テキサス州オースティン       +16% (5.7 ← 4.9)
ノースカロライナ州グリーンズボロ +14% (8.3 ← 7.3)


上の結果を見てもらうとわかるが、正直言って、いくつかのハッキリした特徴とともに、オールスターに選出された選手のフランチャイズと、高視聴率の地域がまるで一致しないことを指摘しないわけにはいかない。


数字上の特徴

1)オールスターの視聴率が伸びたのは、THe South Atlantic States(フロリダ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、バージニア州、ウェストバージニア州 ワシントンD.C.など)のうち、北のエリアに位置する州(ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、バージニア州)で集中的な視聴率アップがみられる。これらはいずれも「アメリカ南部」と言われる地域の州。

2)ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、バージニア州には、メジャーの球団のフランチャイズはまったく無い。だが逆に、マイナーは非常にたくさんある。また、これらの州のカレッジベースボールは近年非常に盛んになっており、野球自体は非常に盛んな地域。

2)サウス・アトランティック以外で視聴率が上がった都市として、サンフランシスコと、テキサス州の州都オースティンがあるが、これらはいずれも去年ワールドシリーズ出場チーム(ジャイアンツ、レンジャーズ)の地元

4)たくさんのオールスター・プレーヤーを輩出した東地区のニューヨークやボストンには、オールスターの視聴率アップとかいう現象は見られない

5)同じく、ボティースタの所属するブルージェイズの地元トロントで大幅な視聴率アップがみられた、という報告は、今のところ発見できない。



数字から推定できること

1)セントルイスはこの9年ほどの間、オールスター視聴率が最も高い数値を示す都市であり続け、「全米で最もMLBオールスターが好きな都市」である。だからセントルイスについて「投票の歪みへの関与」を考慮する必要は全くない。また、サンフランシスコとテキサス州オースティンは、明らかに去年のワールドシリーズの影響から視聴率がアップしたのだと思われるので、これらの都市も考察から除外できる。

2)パイレーツが何シーズンかぶりの首位争いを演じているピッツバーグは、オールスター観戦もひさしぶりに盛り上がって当然のような気もするが、断言できるわけではない。

3)どうしてもオールスターで活躍するボティースタを見たいトロント市民が、オールスターの当日、テレビ中継をテレビにかじりついて見た、と断定できるような視聴率データは、今のところ見つからない。(といっても、カナダの視聴率データを見たわけではない。見たのはアメリカのニールセン程度)
だが、今のところ、トロント市民がオールスター出場がどうみても確定的なボティースタを、オールスターになんとしても出場させようという意図で大量投票するとは、考えにくい。そんな無駄な苦労などしなくても、今年のオールスターで彼は選ばれるだけの成績を残していた。

4)ボストン、ヤンキースファンの大量投票の可能性
大量のオールスター出場者を輩出したボストンやニューヨークはどうだろう。それらの州で「視聴率がハネ上がった」というデータは見られない。
考えられるのは、「彼ら大都市の住民は、大量投票を行って投票結果を左右した事実はあるものの、実際にテレビでオールスターを見ることはしなかった」、もしくは、「数百万票単位の大量投票自体、大都市の住民によるものではない」という可能性が考えられる。
なんせボストンやヤンキースのファンは全米にいるわけだし、なにもボストンやニューヨークの市民がシャカリキに大量投票をするとも思えない。

5)アメリカ南部での謎の視聴率アップ
メジャーの球団がないアメリカ南部のいくつかの都市(ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、バージニア州など)で、視聴率がグンとアップしているのは、目を引く。
理由として思いつくことがあるとしたら、近年のカレッジ・ワールドシリーズにこれらの州がたくさんの有力校を送りだすようになってきていて、これらの州の野球熱がこれまでになく高まりつつある可能性があること。それと、サウス・アトランティックの大学同士の対戦になった今年のカレッジ・ワールドシリーズとオールスターの日程が近接していたことで、これらの州でMLBオールスターへの関心がより高まった、という可能性も考えられなくもない。
だが、その一方で、メジャー球団がある都市での近年のオールスター視聴率がけして改善されてない状況の下で、「メジャーの球団の無い州の視聴率だけが異常に改善される」というのも、違和感が残る。
簡単に言えば、「不自然」だ。

6)外国からの大量投票の可能性
オールスターの投票は大量にあった、にもかかわらず、全米視聴率は下がった、ということは、単純に、「オールスターへの大量投票が行われたのが、アメリカ国内からの投票ではない」という可能性もある。
オールスターの投票は、オンラインでできるために、アメリカ国内からではなく、中米のスペイン語圏はもちろん、中国や韓国、日本など、アジアからでもできる。(今年はMLBが中国マーケットの開拓のために中国国内からのMLBのネット中継を無料開放している、という事情もある)
もし、「アメリカ以外のどこかの国から異常な大量投票があった」という仮説は、「オールスターの投票は非常に多かったのに、アメリカ国内の視聴率は下がってしまう」という矛盾した現象を、スムーズに説明することができる。


まぁ、当然のことながら、何も断定できるわけではない。
だが、こうした邪推ととれないこともない推定は、マスメディアでハッキリ表明されることはない。それでは「自由」ではない。



ブログとしてあらためて言わせてもらう。

これだけ異常な量の票が集まったのに視聴率が下がるのは、納得できない。公開されることなどないだろうが、「州単位」、「国単位」でいいから、投票数を自分の目で確かめてみたいものだ。たぶん、ひと目で「歪み」がわかるんじゃないか。






damejima at 18:55

July 18, 2011

多忙なためになかなかブログを更新できなかったので、扱う話題がしばらくはちょっと古い話になりそうだ。申し訳ない。


まずは、6.9%に下がったMLBオールスターの視聴率について。(去年は7.5%)

この件について、このブログ本来の意見を言う前に、まず「地ならし」のために言っておかなければならないことがある。(自分の意見だけ言い放って済ませるのがブログの快感なのに、世間には本当に馬鹿な人が多くて、自分の意見を言う前にまず整地して平らにしておかなくてはならないのだから、やれやれである)


某巨大掲示板がまさにそうだが、なんというか、テレビの視聴率についてよくもあれだけ馬鹿げた、根拠のない思い込みだけを元に、野球が終わっただのなんのと、くだらないバッシングをデッチ上げることができるものだ。
MLBオールスターの視聴率が6%台であること、ただそれだけを理由にあげつらって、野球人気だの、アメリカのスポーツ人気だのをあれこれ語るなど、あまりにも馬鹿らしい。くだらなさすぎて、語りたくもない。

だが、ああいう議論とはまるで呼べない低レベルの雑談ですら、きちんと馬鹿にできる人間、クズなものをクズと言い切れる人間が見当たらないのだから、しかたない。自分で書かざるをえない。


たとえば日本の新聞記者などは、数字の意味も頭に入れないまま、あたかもMLBがひどく低迷しているかのようなイメージで、思いつきで記事を書いていい気になっているのだから、これはもう、どうしようもない。彼らはもはやプロのモノ書きのレベルではない。
年老いた彼らの頭の中では、いまだにアイドルの出す黒い塩化ビニールのLPレコードが100万枚以上売れ、いまだに年末の紅白歌合戦を日本の60%以上の人がテレビの前に座って、みかんの皮をむきながら見ているのだろう。
マジに、脳のポンコツさ加減にも程がある。


日本のマスメディアのおめでたいガラクタと、掲示板で必死に野球をバッシングしているガラクタは、ちょっと考えただけも、2つの点で間違っている。
まず、いわゆる「テレビ視聴率で全てを把握できた時代」など、とっくの昔に終わっていること。そして、「全米6.9%という視聴率の意味」がまるでわかってないこと。


アメリカでは、Broadcast Programs、いわゆるオープンエアーで放送されるテレビの番組の人気、あるいは3大ネットワークだけがメディアを牛耳れた時代など、とっくの昔に終わっている。
ケーブルもインターネットもない1960年代に、ビートルズThe Ed Sullivan Show(エド・サリバン・ショー)に出て、全米で45.3%と、スーパーボウル並みの視聴率を集めることができた、そういう「テレビ全盛時代」はとっくに終わったのだ。
こんな誰でもわかっていることを書くだけで貴重な時間が潰れていくのが実に馬鹿らしくて嫌になる。
World Series television ratings - Wikipedia, the free encyclopedia

ケーブル、ネット上の違法ストリーミング、Youtube、Facebook、Twitterなど、メディアの役割は分散しながら、新しい時代を迎えている。最近の中近東の政治情勢の変化にFacebookが果たした役割はよく知られている。
アメリカでWWE(プロレスの一種)やNBAを見るのはケーブルテレビだが、ケーブルテレビは日本以上に発達している。アメリカを旅行してホテルでテレビを見たことのある人ならわかるだろうと思うが、旅行者ですら100を越えるプログラムから自分の見たいものを選択することができる。

また、テレビ全盛時代が終わったということは、視聴者の行動のすべてをニールセンなどの視聴率調査会社が完全把握できた時代も終わったということだ。
今は、テレビやケーブルだけが情報ソースではなく、インターネット上に違法なスポーツ観戦ストリーミングなども無数にあり、見たいスポーツイベントの大半は、ネット上で、しかも無料で見ることができる。こういう違法な視聴のあり方は、もちろん視聴率には現れてこない。
また、アメリカの人気テレビシリーズについて言えば、視聴率は低くとも、世界マーケットに展開した後でのDVDレンタルでの凄まじい収益や人気は、ニールセンの数字には表れてこない。(そのため、人気ドラマHeroesなどは、放送するNBC自身が、見逃しても無料で見られるネット上のストリーミングサイトを開設して、人気のキープに励んでいた。もちろん、放送終了後の世界展開での収益を見込んでいるのである http://www.nbc.com/Heroes/)
単に視聴率が下がったからといって、関心が下がったなどとは必ずしも言い切れないし、むしろ、そんな単純なことを言っているヤツは、ただの馬鹿だ。


あらためて歴代のテレビ視聴率のランキングを見ると、大半が1960年代から1990年代前半までの、しかも、ほとんどがNFLスーパーボウルのデータであり、いかにインターネットが普及する2000年前後以降にメディア環境が変わったか、よくわかる。
いくらスーパーボウルが人気があるとはいえ、2001年以降に視聴率45%を越えることができたのはセインツ対コルツの2010年しかないのだ。スーパーボウルがコンスタントに45%を稼ぎ出せたのは、1970年代後半から80年代にかけての「テレビ時代」の話だ。
その一方で、Britain's Got Talentで世界に知られたスーザン・ボイルの動画がそうであるように、Youtubeのちょっとした動画が億単位のアクセスを集める、そういう時代なのだ。
6.9%だから野球は終わったとかどうとか、くだらないにも程がある。

たとえば、今年の春から夏にかけてのスポーツイベントの視聴率を見てみる。
ケンタッキーダービー 6.7%
NCAAトーナメント 6.4%
FOX NASCAR SPRINT CUP-02/27/2011 5.9%
NHLスタンレーカップ ファイナル第7戦 4.8%
ゴルフ 全米オープンのファイナルラウンド 4.5%


野球を叩きたがる数字音痴が口癖のように言いたがるのは、アメリカで人気があるのはNFL、NBA、NHLで、MLBはその次だとかいう、お決まりの陳腐なセリフだが、例えばNHLは、MLBのワールドシリーズにあたるスタンレーカップの、それもファイナル第7戦ですら、全米視聴率は5%も無いのである。
また、詳しくは書かないが、ケーブルにおけるNBAの数字は、1%台から3%台であることが珍しくない。
当然のことだが、これらの低い数字は、それらのスポーツが人気低迷状態にあることを意味する数字ではなく、「テレビ視聴率で何か言えた時代など、とっくに終わっている」という単純な話だ。


スポーツ以外のテレビ番組にも目を向けてみる。

America's Got Talentは、携帯電話のセールスマンだったポール・ポッツや、ただのオバサンだったスーザン・ボイルをスターにしたイギリスのBritain's Got Talentの元ネタになったオーディション番組で、週間視聴率全米トップ5に入るほどの人気番組だが、この人気番組America's Got Talentですら、視聴率は7.2〜8.8にしかない。

2010年に終了した全米人気テレビシリーズで、
日本でもヒットした作品の最終回視聴率

Lost       7.5%
24         5.2%
Ugly Betty  4.2%
Heroes     2.8%


2000年〜2009年に終了した
全米人気テレビシリーズで、
日本でも大ヒットした作品の最終回視聴率

ER         10.4% 2009
The X-Files   7.9% 2002
Nash Bridges 6.3% 2001



視聴率7.5%で終了したLostや、視聴率5.2%で終了した24を「全米大ヒット」ともてはやす一方で、視聴率6.9%のMLBが低迷とか言っているヤツは、それが日本のスポーツメディアのガラクタ記者であれ、一般人であれ、根本的に馬鹿だ。
そもそも「インターネット時代に、テレビがどういう位置にあるか?」 という、今の時代には誰でもが頭に入れていなければならないことすら、まるでわかってない。
MLBのチームでも、白人の多いチームもあれば、多国籍なチームもあり、地域性がマーケティングに反映する。アメリカには、たくさんの人種がいて、それぞれがある種の文化的な意味のタコツボに入っていて、文化的なコミュニティを持っている。
いくら誰でも楽しむことができるのがスポーツの良さではある。だが、大半の人気ドラマシリーズの最終視聴率すら10%どころか5%にも満たずに終わってしまうこの時代に、特定のスポーツの特定のイベントが全米の人口の10%以上を確実に楽しませることは、もう昔のテレビ全盛時代のように簡単な話ではないのだ。


こんな当たり前のことすら、こうして時間を費やしてブログに書かなくてはならないのだから、日本のスポーツをめぐる言説のレベルも、本当にたかがしれている。

今の日本では、こんな、言わなくてもよさそうなことでさえ、きちんと言っておかなくてはならない。どうしてまた、こんなに言説のレベルが下がっているのか。
下がったのは、MLBのオールスターの視聴率以上に、日本の言葉と議論のレベルだ。






damejima at 19:18

July 07, 2011

MLBにはたくさんの不文律(unspoken rule, unwritten rule, "Baseball Code")が存在するが、ヤンキース対ボストン戦のいつもながらの試合展開の遅さにクレームをつけたアンパイア、ジョー・ウエストに対して、"Go Home"と口汚く罵倒したボストンのジョナサン・パペルボンではないけれど、「不文律」を破る例もまた、数多く存在する。
2011年7月5日、ゲームの進行が遅いとクレームをつけた最年長ベテランアンパイア、ジョー・ウエストに、ジョナサン・パペルボンが放った"Go Home"の一言。 | Damejima's HARDBALL

不文律は本当に存在するのか、しないのか。

この結論の出にくい疑問をあれこれ考え続ける人もいてもいいのだが、たぶんそれだけで一生が終わってしまう。それはさすがにもったいない。
それよりも、「自分の中で、これは不文律であり、絶対にゆずれない」と思うタブーを犯す人間が出てきたときに全力で怒りまくること、それと同時に、もし自分がタブーを破ったことがわかっても「絶対に簡単に謝ったりしないこと」、この両方のルールを同時に存在させることが、ある意味でアメリカはじめ欧米における「不文律」だ、ということが理解でき、自分でも実行できることのほうが大事だ(笑)
なんともややこしい話だ。


「相手投手のマウンドを横切った」アレックス・ロドリゲス
2010年4月22日
OAK vs NYY 6回表 スコア3対2
New York Yankees at Oakland Athletics - April 22, 2010 | MLB.com Gameday
1死ランナー無しの場面で、ヤンキースの4番Aロッドが、オークランド先発ダラス・ブレイデンからシングルヒット。次打者5番ロビンソン・カノーは、2球目のシンカーをレフト線へ長打性のファウルを打った。このとき、ランナーのAロッドは既にサードを回っていた。
ファウルだから、Aロッドはもちろんファーストベースに戻るわけだが、このときAロッドがサードからピッチャーズ・マウンドを横切ってファーストに帰ったことから、問題が起きた。
ブレイデンは、その次の3球目ストレートでカノーをファーストゴロに仕留め、ブレイデン自身でファーストにベースカバーに入ってダブルプレーを成立させ、イニングをリードしたまま終えることに成功したのだが、彼は既に「Aロッドに自分のマウンドを横切られたこと」で相当に激高していて、セカンドでアウトになり三塁側ダグアウト方向に戻りかけているAロッドとニアミス状態になったとき、声を荒げて“Get off my mound!” 「俺のマウンドだっ! 失せやがれっ!」と、怒鳴り散らした。
ブレイデンは1塁側ダグアウトに戻ったときも、ベンチに自分のグラブを叩きつけ、目の前にあるモノ全てを蹴りまくって、怒りを爆発させ続けた。(なお、この事件の起きた日付を日本のWikiは4月29日としているが、正しくは4月22日)



MLB公式サイト記事:A's Braden exchanges words with A-Rod | MLB.com: News

MLB公式サイト記事:Unwritten rules reflect baseball's protocol | MLB.com: News


この「Aロッド マウンド侵入事件」について、日本のWikiのような国内にある資料だけを読むことしかしないでいると、あたかも「不文律を厳格に遵守するMLBでは、この件については関係者全員が『Aロッドが絶対的な悪者』と考えている」かのように思ってしまうかもしれない。

だが、それは間違いだ。
この件についての判断は、さまざまな立場の意見が入り乱れて存在していて、必ずしも「AロッドはMLBの絶対的タブーを犯した! 罰するべき!」なんていう空気にはならなかった。

例えばNBC Sportsの以下の記事では、90年代に2度のワールドシリーズ優勝を経験し 239勝を挙げた左腕David Wellsの「まったくもってブレイデンが正しい」との意見を紹介する一方で、南カリフォルニア大学で1998年にカレッジ・ワールドシリーズに優勝し、ヒューストンでプレーした三塁手Morgan Ensbergの「ホームベースをカバーした投手がマウンドに戻るとき、『打席の中を絶対に踏むな』とは言われないだろ? ランナーはマウンドに絶対に入るなって話のほうがおかしいよ」という意見も紹介している。
(ちなみに、Morgan Ensbergは引退間際にほんのちょっとだけヤンキースでプレーして引退したというキャリアの選手だから、その「身贔屓な部分」を差し引いて考えないと判断を間違える)
A code to play by: Baseball's unwritten rules - Baseball- NBC Sports
この記事では、他に、ロブ・ジョンソントロイ・トゥロウィツキーライアン・ブラウンマット・ホリデーなどの意見を掲載しているが、彼らは現役選手だけに、けして歯切れのいい意見は聞こえてこない。トロイ・トゥロウィツキーなどは「まぁ、よくわからんけど、冷静にプレーすりゃいいんじゃないの?」などと、当たりさわりの無いことを言って、きわどい質問をかわしている。

だが、実際のゲームで「自分の思っているアンリトゥン・ルールを誰かに破られたとき」に、トゥロウィツキーが激高して殴りかかってこない保障はどこにもないのが、MLBである(笑)


もうひとつ例を挙げておこう。


「5点リードした8回に2連続盗塁した」カルロス・ゴメス
2011年4月9日
CHC vs MIL 8回裏 スコア0対5
Chicago Cubs at Milwaukee Brewers - April 9, 2011 | MLB.com Classic
5点リードで8回裏を迎えたミルウォーキーは、1死走者なしでマーク・コッツェイが四球を選び、代走として、1985年生まれの俊足の外野手カルロス・ゴメスを送った。
Carlos Gomez Statistics and History - Baseball-Reference.com
次打者ウィル・ニーブスの打席で、問題は起きた。
1塁ランナー、カルロス・ゴメスが二盗、三盗を決めたのである。これは明らかに「大量リードの終盤には、盗塁してはいけない」という不文律に反している。

おまけに、この2盗塁は、ただの盗塁ではない。
ゴメスは、1死1塁のニーブスの打席中に盗塁してセカンドに行っただけでなく、打者ニーブスが四球で歩いた瞬間に、2アウト・フルカウントの自動スタート状態でもないのにスタートを切って三盗まで実行し、1死1、3塁にしているのだ。これはさすがに、えげつない。
その後四球と三振で二死満塁になり、2番ナイジェル・モーガンが押し出し四球を選んだことで、三塁走者カルロス・ゴメスは生還を果たし、6-0。このスコアのままゲームは終わった。
動画(MLB公式):Baseball's wnwritten rules apparently open to interpretation | brewers.com: News


と、まぁ、ここまで書くと、よくある若い選手の不文律破りのエピソードのひとつに聞こえるかもしれないが、実はそうでもない。もう少し書く。

この「カルロス・ゴメスの5点差での2連続盗塁」について、彼を代走に出したミルウォーキーの監督Ron Roenickeは、こういう趣旨の発言をした。
20年前じゃあるまいし、5点差なんて、いまどきセフティ・リードとは言えない。満塁ホームランを打たれれば、すぐに追いつかれちまう。だから5点差で盗塁したって、問題ない
Ron Roenickeは、「不文律だって時代とともに変わるのさ」というロジックで、「8回5点リードでの2連続盗塁」を肯定したのである。
"Today's game is not 20 years ago. You can get five runs in one inning. ... People used to say you're not supposed to run in the seventh, eighth or ninth when you're up by more than a grand slam. That is completely out of this game today. It's not even close.
Brewers Late Baserunning Renews Questions About How Much is Too Much | The Baseball Codes



「11点差の場面で故意に2盗塁して乱闘を引き起こした」ナショナルズ時代のナイジェル・モーガン
2011年4月9日に、「不文律を破って2盗塁したカルロス・ゴメス」を生還させる四球を選んだミルウォーキーの外野手ナイジェル・モーガンについても書こう。
彼は今はミルウォーキーだが、前年2010年にはワシントン・ナショナルズの選手で、彼自身2010年9月1日、14-3の大差でリードされている4回表に、故意に2盗塁を決めて、その結果、6人が退場する乱闘騒ぎのトリガーを引いた。
要は血の気の多いモーガンは「不文律」を故意に破ることで「喧嘩のネタ」にしたわけで、これは不文律の悪用だ。
Washington Nationals at Florida Marlins - September 1, 2010 | MLB.com Wrap

2010年8月30日から、ナショナルズは、フロリダ・マーリンズ戦を迎えたのだが、外野手ナイジェル・モーガンが、マーリンズのキャッチャー、ブレット・ヘイズにタックルし、左肩を脱臼させた。



そして翌日。9月1日。
ナショナルズは、3回には既に3-14の大量リードを奪われていたが、4回表、マーリンズ先発クリス・ヴォルスタッドが、ナイジェル・モーガンにデッドボールを与えた。これは前日のゲームでキャッチャーの肩を脱臼させられたマーリンズ側のモーガンに対する「報復死球」とみられた。
ぶつけられたモーガンは、二盗、三盗を立て続けに決めた。もちろん「大量点差のゲームでは盗塁はしない」という「不文律」を故意に破ったわけで、モーガンの「報復死球への、報復盗塁」というわけだ。

ここまでされたらマーリンズも黙ってはいない。
6回に再び、モーガンが打席に立つと、マーリンズ先発ヴォルスタッドは再びモーガンの背中を通過する危険球を投げた。つまり、「報復死球への、報復盗塁への、報復」というわけだ。血相を変えたモーガンは一気にマウンドに駆け上がっていき、投手ヴォルスタッドをぶん殴り、あっという間に大乱闘に発展し、4人の退場者が出た。
この乱闘中、モーガンを地面に押さえつけたのは、マーリンズの一塁手ゲイビー・サンチェスだが、なんと7回にナショナルズのリリーフ投手ダグ・スレイトンは、このサンチェスにまで「報復死球」を与えたことで、ナショナルズ監督リグルマンなど、さらに2人の退場者が出た。
こうして報復が報復を呼ぶ遺恨試合の結果、6人が退場処分になった。



「不文律」は、なまじ「明文化されていないルール」だけに、たとえばメジャーとマイナーではルールが違うらしいし、また、選手の年齢によっても何を不文律と感じるかは異なる。「これは不文律だから守って当たり前、と、自分で思いこんでいるルール」は、実は、選手やシチュエーションによって異なっているのである。


少なくとも書きたかったのは、
「MLBでは不文律を絶対に破らない」という不文律、アンリトゥン・ルールだけは「無い」ということだ。

あらゆる選手、あらゆる監督が、いつでも「不文律を破る」可能性をもっている。

damejima at 19:00

August 23, 2010

イチローがメジャーに移籍して圧倒的な勝率をあげて地区優勝した2001年に、マリナーズ監督としてア・リーグ最優秀監督賞を受賞しているスウィート・ルー、こと、ルー・ピネラがカブスの監督を退任した。
【2月24日】1999年(平11) イチロー「1日で帰りたくなくなった」(野球) ― スポニチ Sponichi Annex 野球 日めくりプロ野球09年2月

彼の監督としての手腕の評価や、マリナーズ時代の華々しい実績などは、どうせたくさんの人が論じるだろうし、いまセンチメンタルになっても何も始まらないので、このブログでは、彼がヤンキース在籍時代にレフトとして全ゲームにスタメン出場し、ドジャースを相手に見事にワールドシリーズチャンピオンになった1977年のワールドシリーズの第6戦でもリプレイしてみることにする。
第6戦が行われたのは1977年10月18日で、ここまでヤンキースの3勝2敗。1986年以前の奇数年のワールドシリーズだから、DH制がなく、ヤンキースの投手たちはすべて打席に立った。
October 18, 1977 World Series Game 6, Dodgers at Yankees - Baseball-Reference.com


1977年のピネラは、カンザスシティ・ロイヤルズからヤンキースに移籍して4年目のシーズンで、103ゲームに出場して、339打数、47得点、45打点、12ホームラン。ヒットは112安打で、打率.330、OPS.876と、堂々たる成績のレギュラーシーズンだった。この1977年の打率.330は、結局ピネラのキャリアハイになり、ホームラン12本もキャリアハイ。
ポジション別の出場試合数は、DH43、ライト27、レフト24、ファースト1で、73年にア・リーグで始まったばかりのDHを最も頻繁につとめた。
当時のヤンキースでの彼のポジションはいちおう「ユーティリティ」という位置づけだが、ワールドシリーズも6試合すべてに出場しているように、単なる「守備要員の控え選手」あるいは「守備に全くつかないDH専門打者」という意味のプレーヤーではなく、守備も打撃も信頼された堂々たるレギュラーだったといっていい。
翌年1978年にピネラはレギュラーシーズンに130ゲーム出場、ワールドシリーズも全て出場して2年連続優勝。1979年もレギュラーシーズン130ゲームに出場している。
Lou Piniella Statistics and History - Baseball-Reference.com


さて、
この試合のプロセスをたどる前に、このゲームと大いにかかわりのあるワールドシリーズにおけるDH制の変遷の歴史をちょっと確かめておこう。

MLBのレギュラーシーズンで最初にDH制が認められたのは、1973年ア・リーグが最初だが、当初ワールドシリーズに関してだけは1973年以降もDH制は採用されていなかった。
初めてワールドシリーズでのDH制が認められたのはア・リーグでのDH制採用から3年たった1976年。だからワールドシリーズでのDH制は35年程度の歴史しかない。
しかもワールドシリーズでのDH制の採用当初は「偶数年でのみ、DH制採用」という「隔年DH制」であり、現在のようにホームチームにあわせてDHがあったりなかったりする制度になったのは、1986年以降。ワールドシリーズにおけるDH制度が現在の形になってから、実はまだ約25年ほどしかたっていないのである。
World Series - Wikipedia, the free encyclopedia

だから、「奇数年」のワールドシリーズである1977年のワールドシリーズには、そもそも「DH制がない」つまり、当時は既にDH制度があったア・リーグチャンピオンである77年のヤンキースは、レギュラーシーズンは「DHあり」で戦ったが、「ワールドシリーズだけは全ゲームをDH無しで戦った」。
77年のレギュラーシーズンではDHとしての出場ゲーム数が最も多かったルー・ピネラが、ワールドシリーズでは、DHではなくレフトとして全ゲームにスタメン出場しているのは、そのためだ。
ちなみにピネラのワールドシリーズでの打順は、ヤンキースタジアムでのゲームはすべて「7番レフト」だが、ドジャースタジアムで行われた第3戦、第4戦では「5番レフト」と、4番レジー・ジャクソン(彼の44番は永久欠番)の後ろのクリーンアップまで任されている。いかに、監督ビリー・マーチン(現役時代の彼の1番は永久欠番)のピネラに対する信頼が厚かったかわかる。


第6戦の先発は、ヤンキースがレギュラーシーズン17勝13敗、防御率3.88で77年シーズン途中にオークランドから移籍してきたばかりのMike Torrez(キャリア通算185勝160敗)。ドジャースがレギュラーシーズン12勝7敗、防御率2.62のBurt Hooton(キャリア通算151勝134敗)。


第1打席 ライトフライ
ルー・ピネラの第1打席は、2回裏。初回にドジャースのタイムリー三塁打で2点をリードされたヤンキースは、この回の先頭4番レジー・ジャクソンが四球で歩くと、5番のクリス・チェンブリスに2ランが出て、同点。その後、1死ランナー無しでルー・ピネラに打席が回ったが、浅い右中間のライトフライ。

第2打席 犠牲フライ(打点1)
4回裏。3回裏にドジャースの4番レジー・スミスにソロ・ホームランを打たれてまたも1点リードされていたヤンキースの4回は、ランナーを1塁において、4番レジー・ジャクソンが初球を逆転2ラン。4-3と、この試合はじめてヤンキースがリードした。
さらに2回裏にホームランを打っている5番チェンブリスに二塁打が出て、サードに進塁した1死3塁で、ルー・ピネラに打席が回った。ピネラはレフトに犠牲フライを打ち、ランナーが帰ってきた。スコアは5-3。ピネラの堅実な打撃で点差は2点に広がった。

第3打席 センターフライ
第3打席は6回裏。
5回裏にはランナーを1人おいて、またもレジー・ジャクソンが初球を2打席連続の2ランホームラン! ヤンキースが7-3と、点差を4点に広げていた。6回裏、ピネラは2人目の打者として登場したが、センターフライに終わり、その後三者凡退。

第4打席 ファウルフライ
ピネラの第4打席は8回裏。このイニングの先頭打者4番レジー・ジャクソンが、なんと「3打席連続初球ホームラン」! 点差は5点に広がり、スコアは8-3に。この日のレジー・ジャクソンは4回打席に立って、四球、3ホームラン、5打点。7番ピネラは2死ランナー無しから打席に立って、1塁側のファウルフライに倒れた。


結局このワールドシリーズのMVPはいうまでもなく「ミスター・オクトーバー」 レジー・ジャクソンだったわけだが、ルー・ピネラも有能なバイ・プレーヤーとして十分な貢献をした。(22打数6安打3打点)
ちなみにレジージャクソンは「3打席連続初球ホームラン」という離れ業をやってのけたのだが、実はこの前の第5戦の最終打席がホームランだったので、あわせて「ワールドシリーズ 4打席連続ホームラン」という偉業を達成している。


このワールドシリーズに出場したのは、「ミスター・オクトーバー」レジー・ジャクソン、後に日本のプロ野球巨人でプレーしたレジー・スミスだけでなく、多数の才能ある選手が出場した。
投手では、ヤンキースの永久欠番(49番)投手で、翌年78年にサイ・ヤング賞投手になる「ルイジアナ・ライトニング」ロン・ギドリー、74年サイ・ヤング賞投手で、5年連続20勝、完全試合を達成し殿堂入りしているキャットフィッシュ・ハンター、この77年のサイ・ヤング賞投手で70年代を代表するクローザーのひとりスパーキー・ライル
野手では、70年ア・リーグ新人王で、この77年のア・リーグMVPも獲得し、生きていれば殿堂入り確実といわれながら飛行機事故で若くして亡くなったが、ジョニー・ベンチと並ぶ名キャッチャーといわれ、キャプテンで永久欠番選手(15番)のサーマン・マンソン(ルー・ピネラはサーマン・マンソンの葬儀で弔辞も読んだ)、ゴールドグラブ三塁手のグレイグ・ネトルズ(シアトルにいたマイク・スウィニーの奥さんは、ネイルズの弟の娘)はじめ、数々の名手たち。

こうした才気あふれるプレーヤーの中で1977年のワールドシリーズの全ゲームにスタメンとして出場したルー・ピネラが、いかに選手として素晴らしい選手だったかは、いうまでもない。


通算打率 .291
ア・リーグ新人王(1969年)
ゲームあたりレンジファクター1位(レフト 1969年)
オールスター出場(1972年)
最多二塁打(1972年 ア・リーグ)
最多アシスト1位(13 レフト 1974年)
守備率1位(レフト 1974年)
最優秀監督賞3回(1995年、2001年、2008年)






damejima at 16:44

April 03, 2010

先日NHK-BS1で、野球のアンパイアが大きな身振りでストライク、セーフ、アウトなどの判定結果を表したり、ベンチとプレーヤーの間でブロックサインが使われたり、つまり、野球に身体を使ったジェスチャーによる意思伝達システムが導入されるようになったのはいつなのか、というアメリカ制作のドキュメンタリー番組を放送していて、なかなか興味深かった。
BSの番組は再放送されることが多いから、そのうちまた放送するのではないかと思う。機会があったら、なかなか面白い番組だったので、見るといいと思う。


番組で紹介しているのは、2つの説。ダミー・ホイ Dummy Hoy起源説と、Bill Klem ビル・クレムを起源とする説。


ダミー・ホイ

ダミー・ホイ Dummy Hoy (William Ellsworth "Dummy" Hoy 1862年5月23日-1961年12月15日) は、メジャー史上3人目の聴覚障害をもったメジャーリーガーで、1888年から1902年までプレーした。イチローがシーズン安打記録を破ったジョージ・シスラーより前の時代の人といえば、その古さがわかるだろう。デビューした1888年には盗塁王になっている。
Hoy became the third deaf player in the major leagues, after pitcher Ed Dundon and pitcher Tom Lynch.
Dummy Hoy - Wikipedia, the free encyclopedia
野球ができた頃、アンパイアは最初は大きな動作はなく、声だけでボール/ストライクのコールをしていたらしい。だが3歳のときの髄膜炎がもとで聴覚障害のあったホイはそれを聞くことができない。そのためアンパイアが一定の動作で判定を伝えるように配慮し、それが審判スタイルとして定着していった、というのが、普通に言うダミー・ホイ起源説だ。
だがBSの番組では、ホイのために、アンパイアではなく、サード・コーチャーがボール/ストライクのコールをサインで伝達した、それが他のチームでも真似されていき、野球のブロック・サインの起源になった、というような、多少違う説明だったと思う。


ちなみに、聴覚や言語の障害を表す英単語や、野球選手のニックネームについて、少し話をしておかなければならない。
deaf 聴くことに障害がある
dumb 喋ることに障害がある
ホイの本名はあくまでWilliam Ellsworth Hoyであって、ダミー・ホイではないわけだが、これはベーブ・ルースの本名がGeorge Herman Ruthというのと同じで、それ自体は特に珍しくはない。
ホイのニックネームになっているdummyダミーという単語は、ほかにも聴覚障害のあったダミー・テイラーという投手がいた例があるように、聴覚障害をもったメジャーリーガーに共通して使われた。
dummyという単語の起源は、「モノいわぬ」という意味のdumbという言葉にあるわけだが、聴覚障害のあったダミー・ホイは、たしかにdeafではあったが、ゲーム中にフライを捕球するプレーで大声を上げて他のプレーヤーに知らせていたように、けしてdumbであったわけではない。
要は、dummyという単語は「トンマな」というような揶揄する意味を含んで使われていたわけである。当時の時代背景において、それがどのくらい侮蔑的な意味だったか推し量るのは容易ではないが、見ず知らずの他人に軽々しくクチにしていい単語ではないのは間違いない。
(なお、一部サイトでDammyと表記しているのを見たが、それは明らかに誤記で、Dummyが正しい)


ビル・クレム (William Joseph Klem、1874年2月22日 - 1951年9月1日)は、1905年から1941年までナショナル・リーグでアンパイアを務め、近代ベースボールの審判スタイルを確立した人。審判として初の野球殿堂入りを果たしている。
例えば、両手を横に大きく広げる動作で「セーフ」を意味するコールをするスタイルを発明したのはこの人で、手を使った判定ジェスチャーを初めて野球に取り入れたといわれている。


さて、この2人のどちらが果たして起源なのか。番組でも断定はしていない。
だが、2人のプレー時期を比べると、ホイのほうが時代が古いことや、ビル・クレムがメジャーのアンパイアとしてデビューする前の1900年前後の新聞記事に、既に「ダミー・ホイのために考案されたサインというシステムを他のチームでもやるようになった」という意味の記事がいくつも出ていることから、少なくともブロックサインについてはダミー・ホイ起源説に分があるように感じた。
また、アンパイアが大きなジェスチャーとともにボール/ストライクのコールを行うになった起源については、どうもアメリカの専門家の間でも意見が分かれているらしく、正確なところはまだまだわからないらしい。






damejima at 16:46

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