ロビンソン・カノー

2013年7月12日、ロビンソン・カノー自身が語った「いまチームで自分がやるべき仕事。イチローと自分の信頼関係」で知る、契約最終年のカノーの心の内、そして、カノーの前の打順にイチローを置く意味。

July 13, 2013

以下の記事はミネソタ遠征中に書かれたニューヨーク・ポスト紙Kevin Kerman氏の記事の訳出だ。長くはないが良い。いや、大変良い。今年読んだ野球記事の中で、今のところベストワンかもしれない。(2番目は2009年交通事故で亡くなったニック・エイデンハートにちなんで、ジェレッド・ウィーバーが産まれた自分の子供に『エイデン』と名付けた話)
元記事:Kevin Kernan: Robinson Cano, Ichiro Suzuki bond on New York Yankees despite different backgrounds, together help lead Yanks to 7-1 win over Minnesota Twins - NYPOST.com


ロビンソン・カノーは、いつもダグアウトで微笑んでいる。

だが、この記事からは、ドミニカからアメリカに渡ったひとりの男が、野球選手として、打席やダグアウトでは見せない沢山の感情が、言葉の裏側にきちんと聞こえてくる。とりわけ、彼が「言いようのない寂しさ」にひっそり耐えながらプレーしていることが、彼の言葉の端々から痛々しく伝わってくる。
この記事を訳したのは、イチローが登場するからではない。読んでもらえばわかる。

怪我人の続出で、ロビンソン・カノーがヤンキースでずっと一緒にプレーしてきた兄貴分たちが彼の目の前から消え、それでも頑張り続けなくてはならない立場にあるカノーが耐え続けている「寂しさ」は、けしてセンチメンタリズムではない。
それは、いわば、誰も到達しようと努力してこなかった高みを独り目指すイチローがずっと抱え込んだまま野球をやるしかない「孤高」と似た何かであり、誰かが解決してやれるような種類のものでは、まったくない。


読むにあたって頭にいれておいてほしいことがある。
契約最終年を迎えたカノーが、今年4月に代理人スコット・ボラスを解任し、新たに音楽プロデューサー、ジェイ・Zのロック・ネイションと契約したことだ。

スコット・ボラスはいうまでもなく、超高額契約をまとめることで有名な辣腕である。カノーもかつて、それなりに高額な4年30Mの契約を手にしている。(もちろんその金額は、今現在の彼の価値からみると、あまりに安すぎるが)
「ボラス解任」がどういう意味を持つのか、真意はどのメディアにもわかってはいないが、少なくとも、契約最終年という重要な年に代理人を解任したことは、「俺が自分の将来に望むもの。それはカネではない」という、ロビンソン・カノーからの強烈なメッセージなのではないか、と思う。

怪我人続出によって、契約の半分がゴミになりつつある苦境のヤンキースだが、ロビンソン・カノーとの再契約成功が今後の球団経営にとってどれほど必須なことなのか、誰もがわかっている。カノーとの再契約交渉がどの程度すすんでいるのか、憶測や推測が飛んでいるが、今のところヤンキース側が安心できるような状況にはないようだ。


ブログ主にしてみると、正直、ステロイド告白以降のAロッドなど、顔も見たくないと常々思っている。
だが、高校卒業後、2001年からずっと変わらずヤンキースに在籍し続けてきたロビンソン・カノーにとっては、ジーターがそうであるのと同じように、Aロッドもやはり「変わらぬ兄貴分」なのだ。この記事を読んであらためて痛感した。Aロッドがステロイダーであろうとなかろうと、打てようが、打てなかろうが、カノーは彼らを頼りに異国で頑張ってきたのだ。(だからといって、Aロッドのステロイドを許す気にはまるでならないが)


ロビンソン・カノーはいま、ヤンキースのクリンアップを事実上独りで背負って立っている。だから、ほとんど「マスト」に近い形で、出塁し、打点も挙げなくてはならない。
そういうきつい立場にある彼が、バッティングの上で参考にしているのが、自分の直前の打順で打つイチローのバッティングであり、あるいは、ダグアウトで笑わせてくれる同僚として頼りにしているのが、メディアが考えているより、ずっと明るくてお茶目な性格のイチローなのだ、というのが、以下の記事の趣旨だ。

ロビンソン・カノーはたぶん、本当に自分がヤンキースと長期契約すべきか、毎日プレーしながら、毎日迷っているのだろうと思う。もし、いまチームにイチローがいなかったら、彼の来年以降の契約に関する決断は、今頃どうなっていただろうか。

ロビンソン・カノーとイチロー



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Worlds apart, Ichiro, Cano come together
イチローとカノー。
別世界にいた二人が、ひとつになる日。

Ichiro Suzuki marveled over the success of Robinson Cano. He talked about Cano’s amazing plate coverage and stunning power.“Usually, when you have that kind of power, you can’t cover as much as he can”, Ichiro told The Post.
ロビンソン・カノーの成功ぶりに目を見張っているイチローがニューヨーク・ポストに、彼のあらゆるコースを打つ驚異的な能力と衝撃的なパワーについて語ってくれた。
「まぁ、普通あれだけパワーがあるとね、彼みたいにあらゆるコースを打てたりしないもんだよ。」

He then smiled and said there is only one area where Cano can improve.
彼は、そんな(あらゆるコースを打てる)カノーにも、まだたったひとつだけだが、まだ改善可能な部分があることを指摘して、ニヤリとした。

“If he can get a better personality, he can become a better player” Ichiro joked through translator Allen Turner. “I want him to look at me and my personality.”
「もしアイツが性格さえもっと良かったらねぇ・・・、もっといい選手になれるのに(笑)」と、イチローは通訳アレン・ターナーを通じてジョークを飛ばした。「彼にはオレを見習って欲しいよ、まったく。」(記事一部省略)

When Ichiro’s comment was passed along to Cano, the superstar let out a laugh.
このイチローのコメントをカノーに伝えると、スーパースターは声を上げて笑った。

“That’s Ich. That is the side of him people don’t see. I love that he is so much fun to be around,”Cano said.
「イチらしいな(笑) みんな、彼のそういうとこ、わかってないからな。彼は一緒にいて楽しい奴なんだぜ?」とカノーは言う。(記事一部省略)

Cano admitted the Yankees struggles have been tough to deal with.
カノーは、ヤンキースがいますぐ苦戦続きを解消できる状態でもないことを認めた。

“I play the game because I love to win,” Cano said. “It's not about numbers, it’s about winning.”
「僕がプレーするのは、勝つことが好きだからだ。」とカノー。「(お金とか記録とか)数字のことを言ってるんじゃなく、勝つことそのものの話さ。」

Cano said playing without Jeter and A-Rod has taken its toll. The injuries keep coming with Hiroki Kuroda now dealing with a sore left hip flexor.
カノーは、ジーターとAロッドが不在のままプレーせざるをえないことは大きな損失だ、と言う。怪我人はまさにひっきりなしで、今は黒田が左股関節屈筋に痛みを抱えている。

“You have to understand you don’t have the same lineup you used to have,” Cano said. “That’s why I try my best to win. If you don't succeed, you are not going to help the team win. If you don't get the hits, you are not going to win.
「チームが昔と同じメンバーで戦ってるわけじゃないってことを、よく理解すべきなんだ。」とカノーは言う。「僕がいまプレーにベストを尽くして勝とうとしてるのは、それが理由さ。成功してなければ、チームを勝利に導こうという気にならないだろうし、また、ヒットを打ってなかったら、勝とうって気にもならない。」

“People say this guy worries about his numbers,” Cano said of himself. “That's not true. I know I have to succeed to help us win games. Jeter is a guy who gets on base a lot. Alex drives in runs. We miss those guys.”
カノーは自分自身についてこんなふうに言う。
「よく『ロビンソン・カノーは、数字のことばかり気にしてる』って言う人がいる。でも、それは真実じゃない。僕は、自分が(ジーターやAロッドがこれまでやってきたような)多くのゲームに勝利するのを支える立場を継承すべきだということを、よくわかってる。ジーターは、たくさん出塁する選手であり、アレックスはたくさん点を入れる選手だ。僕らは、彼らのような選手を欠いたままゲームしてる。(だから自分カノーは、出塁もして、打点も稼がなくちゃならない)」

“They are like family to me. It's like your own family. If they are not around you miss them. It's tough. You want to have them back as soon as possible.”
「ジーターやアレックスは僕にとって家族みたいなもんなんだ。自分自身のほんとの家族みたいな、って意味でね。もし家族が周りにいなかったら、寂しく思うだろ? そりゃ、こたえるよ。可能な限り早く戻ってきてもらいたいと思う。」

That is why he appreciates having Ichiro around.
いまカノーが自分の周りにイチローがいてくれることに感謝しているのは、それが理由だ。

“He’s always laughing, he’s having fun,”Cano said. “He really knows the game and knows how to play. I mean over 200 hits for 10 seasons, who does that? I love that he never wants to come out of a game. He is just like me in that way.”
「彼はいつも笑ってて、野球を楽しんでる」とカノー。「彼は野球を本当によく知ってて、どうプレーすべきかも、よくわかってる。10年連続200安打だよ? 誰も真似なんてできない。彼がゲームをけして諦めないことのもいいね。彼はその点で僕と似てる。」

Ichiro was on base three times last night with two singles and an RBI.
イチローは昨夜、2本のシングルヒットで3度出塁し、打点もあげた。

“He understands his swing and does not try to do too much,”Cano said. “He goes with the pitch and that has helped me, watching what he does. You have to understand what kind of player you are to succeed.”
カノーは言う。「イチローは自分のスイングってものがよくわかってて、無理にあらゆることをやろうとはしない。彼は様々な投球にあわせてスイングしてくれるから、僕は、彼が投球にどういうふうに対処したか観察して(そのあとで打席に入れるから)、とても助かってる。成功したければ、自分がいったいどんなタイプのプレーヤーなのか理解してなきゃって思う。」

Cano, 30, understands who he is as a player. Same goes for Ichiro, 39.
ロビンソン・カノー、30歳。自分がどういうプレーヤーなのか、彼はよく理解している。同じことが、39歳イチローにも言える。


蛇足だが、文中でロビンソン・カノーは何度もSucceed、あるいは、Successという単語を使っている。めんどくさいので「成功する」と直訳した箇所もあるが、彼が言いたいのはどちらかというと「継承する」「後を継ぐ」という意味だろう。もちろんそれは、彼の兄貴分であるジーターやAロッドがやってきた仕事や立場を「継承する」、という意味だ。

彼は、基本的には、古巣であるヤンキースを離れる気持ちなど最初から毛頭ないとは思う。ただ、だからといって、カノーの心にまったく迷いがないわけでもないはずだ、とも思う。人間は簡単じゃない。
もし迷いの生じる原因がほんのわずかあるとしたら、それは、「ヤンキースがあまりにも勝てない」とか、「ダグアウトの中に、彼の気持ちを受け止めて、わかってくれるチームメイト、同じ目線で一緒に戦ってくれるチームメイトが、いない」というケースだろう。


最近、ゲーム開始直前のダグアウトで、イチローがいろんな選手にさまざまなアプローチで接触し、士気を高めあっているシーンが目立つ。
あれは、イチローはイチローなりの「空気」の作り方で、寄せ集めのままだったヤンキースを少しづつ「ひとつのチーム」にまとめあげる作業に加わっているのだと思って見ている。
こうしたイチローの地味な作業が、チームを支えるきつい作業に耐えているロビンソン・カノーの心にも間違いなく届いていることが、このインタビューから、とてもよくわかる。


なお、Plate Coverageという単語の意味については、次の記事が参考になる。ミゲル・カブレラはやはり天才だ。マイク・トラウトが彼に追いつくのは、まだまだ先のことだろう。
Miguel Cabrera’s Ridiculous Plate Coverage | FanGraphs Baseball

damejima at 01:56

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